EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Fire-Toolz !!
“I Do Love Dark Music, But To Me My Music Just Sounds Like Rainbows. Jagged Piercing Ones At Times, But Still Rainbows.”
DISC REVIEW “I WILL NOT USE THE BODY’S EYES TODAY”
「私は自分の音楽を、天使と悪魔の融合とは思っていない。私にとってはすべて天使的なものなんだ。悪魔的なものは、私自身の悪魔について論じるときに題材として登場するだけでね。意図的にダークな音楽を作ろうとはしていないんだ。ダークな音楽は好きだけど、私にとって自分の音楽は虹のように聞こえるだけ。時にはギザギザに突き刺さるような虹もあるんだけど、それでも虹なんだよ」
ご存知の通り、ヘヴィ・ミュージックが無味乾燥で一義的な場所であるというのは、完全なる誤解です。とはいえ、殺風景で無彩色なスタイルの持ち主がたしかに多いのも事実。しかし、そういったアーティストと同じくらい、ヘヴィ・ミュージックを色鮮やかなアートの爆発として扱う人たちも同様に多いのです。シカゴの Fire-Toolz は、ヘヴィネスに宿る無限の色彩を提案するインターネットの虹。Fire-Toolz A.KA. Angel Marcloid は、プログレッシブ、ブラックメタル、ジャズ・フュージョン、インダストリアル、AOR, グラインドコア、さらには日本のシティー・ポップの要素までスリリングなプロキシを通して屈折させ、スタイルの境界を創造のピクセルで消してしまうのです。
「どんなジャンルの音楽にも、男っぽいとか、女っぽいとか、固有のジェンダー・アイデンティティや表現があるとは思えないよ。ここアメリカの私たちにしても、他の文化にしても、そうした関連付けや決めつけをしてしまうのは残念なことだよ。ただ、私はそうしたレッテル貼りが一般的であることも理解しているんだ。私がそんな風に物事を見たことがないたけでね。境界が曖昧になることは、ほとんどの場合、良いことだと思うんだ。制限を取り払い、規範を解体し、自由を活用することは、とても重要なことだから」
ここ数十年にわたるポスト・モダニズム思想の定着は、ステレオタイプを曖昧で不安定なものとし、ジャンルや形式といった制約を過去の遺物と見なす新しい文化を精製しました。Fire-Toolz の最新作、”I will not use the body’s eyes today” は、この新世界の芸術的アプローチをある意味で体現しているのです。その主眼は、音楽の “脱構築” にあります。
「他の人が私のカオスをどう捉えているかは、よくわかるんだよ。私にとってこの混沌は、とてもコントロールされ、組織化されているように感じられるんだけど、外から見ると、混乱しているように見えるかもしれないね」
私たちが毎秒何千ものピクセルを自然とスクロールするように、この7曲はリスナーを容赦なく説得し、時に幻惑します。一つのテクスチャーやモチーフに落ち着くことはほとんどなく、さながらグリッチを含んだデジタル・コラージュのように機能していきます。最もオーソドックスな “Soda Lake With Game Genie” にしても、6分半という長尺の中にサックスやブラスト・ビート、80年代のポップなど、予期せぬ展開が濁流のように押し寄せる非常に流動的な仕上がり。
“A Moon In The Morning” では、Angel Marcloid のパレットは全体を覆い尽くす焼けるようなディストーションへと変化し、悪魔の遠吠えとオーケストラのMIDIストリングスの厳しいせめぎ合いが対消滅の危機感を抱かせます。イタロ・ディスコ、テクノ、EBM のテイストを取り入れたビートも、アコースティック・ギターのサスティーンを強調したブレイクダウンも、この構築を逃れたしかし意図的なカオスの中にあります。
重要なのは “仕切り” がないこと。ここはブラックメタル、ここは AOR、ここはプログレッシブなどという構築された混沌は、結局のところステレオタイプで、興ざめです。
こうして、従来の構成や動きといった概念を完全に捨て去ろうとする姿勢が “I will not use the body’s eyes today” をユニークで挑戦的作品にしているのです。それはまさに、体の目を使わず、心の目で作品を作ること。心を開き、未来を見据えることのできるリスナーにとって、この計算された混沌はすべての芸術と文化が境界線を失ってもまだ機能する世界の予兆とまで言えるでしょう。そう、私たちは Fire-Toolz によってまんまとハッキングされているのです。
「”I will not use the body’s eyes today” というフレーズは、多かれ少なかれ、私がエゴ (肉体的な目) からではなく、高次の自己の目 (心の目) から見ることを肯定しているんだよね。つまりこれは、超越のための嘆願なんだよ」
ヴェーダ哲学、キリスト教神秘主義、見捨てられることへの恐れ、感情の断絶、愛着の不安、自己破壊、意識の霊的傾向、トラウマの治癒、恥。Angel は永遠に拡張される音のツールボックスと同様に、世界とその神秘に対する多様な哲学と神学のインデックスをもその作品に注ぎ込んでいます。そうして、Fire-Toolz というプログラムは自己実現によって既存の器がさらに拡大可能であることを証明しているのです。
今回弊誌では、Angel Marcloid にインタビューを行うことができました。「カシオペア、角松敏生、木村恵子、杏里、Hiroshima、堀井勝美、鈴木良雄、菊池桃子を生んでくれてありがとう!」 どうぞ!!
Fire-Toolz “I WILL NOT USE THE BODY’S EYES TODAY” : 10/10
INTERVIEW WITH ANGEL MARCLOID
Q1: First, could you please talk about why you chose the name Fire-Toolz?
【ANGEL】: The name comes from software program a young independent software developer/hacker who went by Rj2 came up with in the mid 90s. It was called Fire Toolz, without the hyphen. It existed alongside AOHell, Area51 Punter, Fate Ultra, etc. It was made to wreak havoc on other users of the internet, though it didn’t really cause much damage. As far as I remember you could just “punt” people out of chatrooms, flood instant messages, mailbomb people (which meant flooding/clogging their inbox with emails), etc. I don’t really endorse sociopathic behavior like that without an intelligent purpose, but I adore early internet and hacker aesthetics. I was very inspired by them as a young teen/preteen.
Q1: まずは、Fire-Toolz という名前について伺いたいのですが?
【ANGEL】: この名前は、90年代半ばに Rj2 と名乗る若い独立系ソフトウェア開発者/ハッカーが考え出したソフトウェア・プログラムに由来しているんだ。ハイフンなしで Fire Toolz と呼ばれていたね。AOHell、Area51 Punter、Fate Ultra などとともに存在していたんだ。
インターネットの他のユーザーに大損害を与えるために作られたものだけど、実際には大した損害は与えなかった。私の記憶では、チャットルームから人を “突き落とす”、インスタントメッセージを殺到させる、メールボム(相手の受信箱にメールを殺到させたり詰まらせたりすること)、などができたと思う。
私は、知的な目的のない社会病質的な行動はあまり支持しないんだけど、初期のインターネットとハッカーの美学には憧れるね。10代から20代の若い頃、彼らにとても影響されたんだよ。
Q2: I love your visual imagery and your beautiful and outlandish album artwork, how did you develop such a sense of style?
【ANGEL】: I didn’t develop anything really. It just comes natural. These are the things I think of. A style seems to arise out of that I guess, but it only looks that way from the outside. From the inside, I am just following my intuition with these ideas. I experience it as a lack of any active development. Nature takes its course.
Q2: あなたのヴィジュアル・イメージや、奇想天外で美しいアートワークが大好きですよ。そうしたスタイルの原点もインターネットなんでしょうか?
【ANGEL】: 本当に私は何も開発していないんだ。ただ、自然にそうなっただけなんだよ。これが私の考えていることと言うかね。そこからスタイルが生まれると思うのだけど、結局それは外側からそう見えるだけなんだよね。
外から見ているだけで、内面的には直感的にそう思っているだけなんだよ。積極的に何かを生み出そうとはしていないというのが私の経験。自然とこうなったんだ。
Q3: Morbid Angel and Obituary changed your life, right? Were they your gateway to metal? What attracted you to them?
【ANGEL】: Yes, I got into old death metal at a very early age. They weren’t my gateway to metal as I was already listening to Metallica in my single digits. Also Skid Row, RATT, and other stuff like that. It is hard to say what attracted me. I don’t think it was the aggression as you might assume. And it certainly wasn’t the violence or the darkness. I think it was just the emotional quality I got through the sheer intensity of the sound. I think I would differentiate intensity from aggression in this case.
Q3: MORBID ANGEL と OBITUARY があなたの人生を変えたと聞きましたが、彼らがあなたにとってのメタルのゲートウェイだったんですか?
【ANGEL】: そうだね、オールドスクールなデスメタルにハマったのはかなり幼い頃だった。ただ、一桁の頃にはすでに METALLICA を聴いていたから、彼らがメタルへの入り口というわけではないんだよ。あと SKID ROW とか RATT とか、そういうのも聴いていたね。
メタルの何に惹かれたかというと、難しいね。みんなが思っているようなアグレッシブさではないと思う。暴力や暗さでもない。ただ、音の激しさを通して得られる感情のクオリティーだったのだと思う。何というか、強さと攻撃性は別物だと思っているから。
Q4: You used to be in a band like Candlebox meets Dream Theater, and you have always been interested in progressive and alternative music?
【ANGEL】: When I was really young I was in a band that would cover Candlebox, Dream Theater, Rage Against The Machine, Rush, Nirvana, all kinds of alternative and progressive music. I was raised on rock music, so whatever was popular at the time that my parents took an interest in would end up rubbing off on me.
Q4: その頃ですかね、あなたが CANDLEBOX と DREAM THEATER が出会ったようなバンドをやっていたのは?
【ANGEL】: 若い頃は、CANDLEBOX, DREAM THEATER, RAGE AGAINST THE MACHINE, RUSH, NIRVANA など、あらゆるオルタナティブ・ミュージックやプログレッシブ・ミュージックをカバーするバンドに所属していたんだ。
私はロックミュージックで育った。だから、当時流行っていたもので、両親が興味を持ったものは何でも結局は私に影響を及ぼしてしまうんだよね。
Q5: Many years have passed, and no other heavy artist is making music as diverse as yours now, mixing AOR, jazz fusion, and progressive with black metal, death metal, grindcore, and breakcore. How did you arrive at this kind of style?
【ANGEL】: I just play the music I like to listen to, but assembled and channeled in my own ways. Whatever comes naturally. I don’t think much about it, I just make music.
Q5: そこから何年か経ちました。AOR, ジャズ/フュージョンをブラックメタル、デスメタル、グラインドコア、ブレイクコアととミックスしている今、あなたほど多様なヘヴィ・ミュージックを生み出しているアーティストは他にいないでしょうね。
【ANGEL】: 私はただ、自分が好きな音楽を、自分なりに組み立てて、チャンネルを合わせて演奏しているだけ。自然に出てくるものなら何でも。あまり考えず、ただ音楽を作るだけなんだ。
Q6: Your music is often likened to chaos, but in a way it is very human, isn’t it? People have many sides to them, and angels and demons are a mixture, would you agree?
【ANGEL】: I can see how others would perceive chaos. To me it feels very controlled and organized, but from an outside perspective it may appear to be a mess. I don’t think of my music as some fusion of angelic and demonic. It’s all angelic to me. Anything demonic appears in the subject matter when I discuss my own demons. But I do not intentionally try to make music that is dark. I do love dark music, but to me my music just sounds like rainbows. Jagged piercing ones at times, but still rainbows.
Q6: そうした両極が交わるあなたの音楽はしばしば “カオス” “混沌” と形容されています。
ただ、それってある意味非常に人間らしいですよね?人には様々な側面がありますし、天使と悪魔が共存しているものですから。
【ANGEL】: 他の人が私のカオスをどう捉えているかは、よくわかるんだよ。私にとってこの混沌は、とてもコントロールされ、組織化されているように感じられるんだけど、外から見ると、混乱しているように見えるかもしれないね。これもスタイルの話と同じなんだけどね。
私は自分の音楽を、天使と悪魔の融合とは思っていない。私にとってはすべて天使的なものなんだ。悪魔的なものは、私自身の悪魔について論じるときに題材として登場するだけでね。意図的にダークな音楽を作ろうとはしていないんだ。ダークな音楽は好きだけど、私にとって自分の音楽は虹のように聞こえるだけ。時にはギザギザに突き刺さるような虹もあるんだけど、それでも虹なんだよ。
Q7: Musically, for example, I feel that in Japan there is a perception that light music like pop music is feminine and heavy music like metal music is masculine. It is very interesting that you, as a transfeminine, blur the boundaries between the two, would you agree?
【ANGEL】: To me, I don’t hear any types of music as having any inherent gender identity or presentation. It is a shame that in some cultures, even ours here in America, would make associations like that. But I understand that they are common. I’ve just never looked at things in that way. If any boundaries are being blurred, it’s not intentional. But I would say blurring boundaries is almost always a good thing. Removing limitations, deconstructing norms, and utilizing freedom is very important.
Q7: 日本では、例えば “軽くて” ポップな音楽は女性的、”重くて” ヘヴィな音楽は男性的といったステレオタイプが今でも少なからず存在するわけですが、トランスフェミニンのあなたがそうした境界を音楽的にも除去しているのはとても興味深いですね。
【ANGEL】: 私には、どんなジャンルの音楽にも、男っぽいとか、女っぽいとか、固有のジェンダー・アイデンティティや表現があるとは思えないよ。ここアメリカの私たちにしても、他の文化にしても、そうした関連付けや決めつけをしてしまうのは残念なことだよ。ただ、私はそうしたレッテル貼りが一般的であることも理解しているんだ。私がそんな風に物事を見たことがないたけでね。
もし、私の音楽によってその境界が曖昧になっているとしたら、それは意図的なものではない。でもね、境界が曖昧になることは、ほとんどの場合、良いことだと思うんだ。制限を取り払い、規範を解体し、自由を活用することは、とても重要なことだから。
Q8: So, why did you decide on the title “I will not use the body’s eyes today”?
【ANGEL】: It is the name of a chapter in a book called A Course In Miracles. Though the book uses overt Christian terminology, the phrase is more or less an affirmation that I will see from the eyes of my higher self rather than from the ego. It is a plea for transcendence.
Q8: 最後に、”I will not use the body’s eyes today” というタイトルについて話していただけますか?
【ANGEL】: これは、”A Course In Miracles” という本の中の章の名前なんだよ。この本では、あからさまなキリスト教用語が使われているんだ。
このフレーズは、多かれ少なかれ、私がエゴ (肉体的な目) からではなく、高次の自己の目 (心の目) から見ることを肯定しているんだよね。つまりこれは、超越のための嘆願なんだよ。