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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【Metsatöll : Katk kutsariks】JAPAN TOUR 23′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LAURI OUNAPUU OF Metsatöll !!

“By Respecting Our Own Culture, We Also Learn To Respect The Stranger, Even If We Cannot Agree With Them And Don’t Share The Same Values.”

DISC REVIEW “Katk kutsariks”

「私はあらゆる文化に敬意を抱いている。特に、自分たちのルーツや先祖に誇りを持ち、自分たちの民族文化に偽りの羞恥心を抱くことなく、あえて自分たちらしくいようとする人々には敬意を抱いている。過激な民族運動に見られるような民族中心主義や、人種中心主義について言っているのではない。自国の文化を尊重することで、たとえ意見が合わなかったり、同じ価値観を共有できなかったりしても、見知らぬ人を尊重することを学ぶのだ」
例えば、私たちはヘヴィ・メタルを愛しているからこそ、メタル以外の音楽も尊重し、リスペクトすることができるのかもしれません。それは、ジャンルこそ違えど、音楽やその文化を愛することがいかに尊く、純粋であるかを知っているから。それはきっと、国籍や人種、宗教においても同じなのではないでしょうか?自らのルーツを愛し、ルーツの尊さを知るからこそ、他者のルーツを尊重できる。自国は常に “正義” で、他国は “悪” なのでしょうか? そんなはずはないでしょう? 他者やそのルーツに対する “寛容さ” があまりにも必要とされている現代社会において、フォーク・メタルは、自身はもちろん、他者の文化や民族を尊重するための完璧なツールなのかも知れませんね。
「エストニア人も日本人も、多くの同じものを見ていることは確かだ。小国に対する西洋文化の圧力がますます強まっているにもかかわらず、私たちの文化にはかなり古い世界観が残されていて、それは “非二元的” な世界観に反映されている。すべては観察者の視点と現象の解釈次第であり、その本質は果てしない否定主義や肯定主義に囚われることなく、ヒーローもアンチヒーローもなく、完全な善も悪も、白も黒もない。非二元的な世界観、伝統や神話を愛し、物語を語ることは、間違いなくエストニアと日本の文化を結びつけるものだよ」
そもそも、江戸時代、日本で “勧善懲悪” が好まれるようになったのは、幕府が物事を単純化して人民を統治しやすくためだったという説もありますが、たしかに古事記を紐解けばイザナキとイザナミの兄妹婚や神なのにやたらと人間臭いスサノヲノミコト、コノハナサクヤビメの一夜孕みなど、タブーを積極的に扱うことで、世界は白か黒か、善か悪かに単純には割り切れないことを示していたような節があります。そして、世界中の神話の中には、そうしてタブーを扱った話が決して少なくはないのです。エストニアの伝承や神話、伝統音楽をメタルに結んだ Metsatöll は、かくしてフォーク・メタルを哲学していきます。
「ここでいうフォーク・メタルとは民族の音楽言語を使うフォーク・メタルで、民族楽器、民謡、母語を使う。中世的なロマンチックな衣装を身にまとい、ギター・リフの合間に映画音楽にインスパイアされたメロディーを奏でる “フォーク・メタル” もクールで良い音楽であることは間違いないが、あれはただのメタル・ミュージックだ。 自分の民族のルーツが何なのか、先祖の文化や音楽が何だったのかを知ることは重要だ。ルーツにはすごい力がある。少なくとも私にとっては、民族楽器を演奏するときに重要なのは、その楽器を演奏することだけでなく、その楽器の歴史、その楽器の音色、歴史的にどのように演奏されてきたのか、そしてその楽器がおそらくどこから来たのかを知ることだと思う」
フォーク・メタルの哲学者、森の賢人 “狼” の異名を持つ Metsatöll は、90年代から活動を続け、シーンの酸いも甘いも噛み締めてきた歴戦の勇者。だからこそ、BLOODYWOOD や THE HU の大ブレイクで活気付くフォーク・メタルの台頭にも、一つの願いを覗かせます。それはルーツを愛すること。ルーツを愛し、文化を愛し、歴史を愛し、言語を愛した真の “フォーク・メタル” だからこそ、強く、寛容になれる。
エストニアは、長年の占領と抑圧、ソ連崩壊とそれに続くグローバリゼーション、資本主義、物質主義がもたらした価値観の変化によって引き起こされた文化的トラウマを抱えてそれでも、ITや学問の分野で台頭し、力強く生き延びてきました。強いだけでも、優しいだけでもない、非二元論の “誇り” が彼らを支えたとすれば、Metsatöll の音楽にはまさしくその誇りが見事に宿っています。呪術的で重苦しく、リズムの迷宮にあって、しかしどこか牧歌的で、歌える生命力にみちた秘宝。それはきっと、”側” だけをドラマティックに仕立てた偽のフォーク・メタルにはないものなのかもしれませんね。
今回弊誌では、Lauri “Varulven” Õunapuu にインタビューを行うことができました。「私はスタジオジブリ、特に宮崎駿の作品に感銘を受けてきた。”猫の恩返し”、”千と千尋の神隠し”、”紅の豚” が子供向けか大人向けかは議論の余地があるが、彼らが扱うテーマや世界を反映する方法は時代を超越していて、典型的なハリウッドの世界よりも人間の本質をより明確に表現していることは間違いない。芸術は問いを投げかけ、問いは人々に考えさせるものでなければならない」エストニア大統領にも賞賛させる国民的バンドの来日が決定。どうぞ!!

Metsatöll “Katk kutsariks” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRST NIGHT : DEEP CONNECTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RENECK SWEET OF FIRST NIGHT !!

“The Good Old AOR Scene Might Even Disappear Completely In About 20 Years. I Would Not Be Surprised By That But The Music Remains. Thanks To The Albums And The Internet.”

DISC REVIEW “DEEP CONNECTION”

「エストニアで生きていると、時間が経つにつれて、たくさんの素晴らしいバンドを発見できて面白かった。情報のない箱の中で生きているような時もあったからね」
時に限定された状況は、強力な好奇心を生み出します。音楽を聴けないから聴きたくなる。ゲームを買えないからやりたくなる。女性が振り向いてくれないから振り向かせたくなる。そんな、不自由の中の自由から、人は進歩とチンポを続けてきたのです。
エストニアはバルト三国で最も北に位置する小さな国。スウェーデンやフィンランドに面しながらもメタルやロックの黄金郷となれなかったのは、多分にソヴィエト連邦に支配された過去があるからでしょう。しかし、かつて激しく抑圧を受けていた美しい国は、独立を回復した後、目覚ましい発展を遂げます。
ITの分野において、エストニアは今や世界の最先端です。電子国家と呼ばれるように、ほとんどの手続きはインターネットで終わります。Skypeを産んだのもエストニア。さらに、国民の教育レベルは非常に高く、マルチリンガルで、報道の自由度も日本とは比べられないほど高いのです。
そんな小国の回復力、”レジリエンス” は、エストニアから世界を驚かせた FIRST NIGHT の音楽にもしっかりと根付いています。
「バッキングトラックのアイデアやミキシングのアイデアは全て Mutt Lunge から影響を受けている。ただ、僕らのバンドは DEF LEPPARD やどんな他の一つのバンドのようになるつもりはないよ。80年代の全体を愛しているからね」
FIRST NIGHT のメイン・コンポーザー Reneck Sweet にとって、情報が制限された世界はむしろプラスに働いたのかもしれません。ストリーミングや”〇〇放題”は確かに簡単で便利で安価ですが、いつでもあることの安心感が自分で探す楽しさ、探究心や好奇心を大きく犠牲にしている可能性はあります。事実、Spotifyのオススメとは無縁の環境で育った Reneck は、今やトレンドやセールスとは程遠いメロディック・ハードの世界を自らの手で探求し、遂にはエストニアが誇るインターネットの分野で大きな話題となるまでに成長を遂げたのです。
実際、デビュー作から4年の月日を経てリリースされた “Deep Connection” には、80年代への愛情、知識、好奇心が溢れんばかりに詰まっています。北欧的なキーボード/シンセのとうめいかと華やかさ、80年代ドイツ風のクリーン・ボーカル、カナダから輸入した清らかなギター・ライン、さらに80年代後半のブリティッシュAORからの影響、そしてもちろんアメリカのビッグ・サウンドがコーラスに組み込まれ、この作品はあらゆる国、あらゆる側面からメロディック・ハードの “美味しいとこどり” を実現しているのです。ウジウジとした女々しいテーマも実にメロディック・ハードしていてたまりませんね。
「AORというジャンルが徐々に衰退していくのも不思議ではないよ。ほとんどのメロディック・ロックバンドは、若い聴衆を獲得するために、よりヘヴィでモダンなサウンドにすり寄っているからね。でも僕はその方向には行きたくないんだ。僕らのアルバムを買ってくれるのは45~60歳くらいの人が多いんだよ。だから、古き良きAORシーンは、20年後には完全に消滅してしまうかもしれない。そうなっても驚かないけど、音楽は残っていくんだ。名作アルバムとインターネットに感謝だね」
Reneck はもはや、メロディック・ハードの消滅を悲観してはいません。というよりも、かつて限られた情報の中でも情熱を失わなかった自らの姿を重ねながら、音楽さえ電子空間に残っていれば誰かが聴いてくれる、語り継いでくれるという確固たる自信が Reneck の中にはあるのでしょう。DEF LEPPARD, Bryan Adams, BLUE TEARS, BOULEVARD, STRANGEWAYS, DA VINCI といった決して消えない名手の名作たちのように。”Deep Connection” で FIRST NIGHT は明らかに音のタイムトラベルをマスターしたようです。残念なのは、実際に80年代へとタイムトラベルが行えないこと。きっとそこには、満員のアリーナが待っていたはずです。
とはいえ、世はTikTok戦国時代。あの場所でメロディック・ハードがバズる確率は、きっとゼロではないでしょう。今回弊誌では、Reneck Sweet にインタビューを行うことができました。「僕は良いメロディーがとても好きなんだ。僕にとって音楽はメロディーが全てと言えるほどにね。そして “Deep Connection” はまさにそんな僕の望んでいたとおりのものとして完成した」 元嫁の顔をジャケにできるのはメロハーだけ。1st AVENUE 好きに悪い人はいない。どうぞ!!

FIRST NIGHT “DEEP CONNECTION” : 9.9/10

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