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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WITHIN DESTRUCTION : YOKAI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUKA VEZZOSI OF WITHIN DESTRUCTION !!

“I Believe The Metal Scene Is Slovenia Is Quite Strong But There Are Practically No Bands That Break Through Internationally Cause Nobody Has The Guts To Do That Important Step Of Saying “Fuck My 9-5 Job, I Wanna Do This For My Living”. You Need a Different Mindset If You Want Your Band To Succeed Internationally.”

DISC REVIEW “YOKAI”

「明らかに僕らは将来的にメインストリームにも進出したいと思っているから、トラップの要素を取り入れてよりメジャーな曲作りをすることは、その方向への第一歩だったんだ。もちろん、僕たちのようにやるには肝が座ってなきゃダメだけどね。人がどう思うかなんて気にしない。 自分たちがやっている音楽が好きであればそれで十分なんだ。」
東欧の小国スロベニアからスラミングデスの残忍王へと上り詰めた WITHIN DESTRUCTION は、バンド名が物語るように激烈な破壊衝動をその身に宿したまま、メインストリームの恍惚へと挑戦しています。
「スロベニアのメタルシーンは非常に強力だと思うんだけど、国際的にブレイクするバンドがほとんどいないんだ。それはね、『9時から5時の仕事なんてもうどうでもいい、メタルで生計を立てていくんだ!』ってガッツを誰も持っていないからなんだ。バンドで国際的に成功したいと思うなら、違う考え方、心の持ちようが必要なんだよ。当然、ハードな努力が必要で、経済的にも社会的にも多くの犠牲を払わなければならないんだよ。」
WITHIN DESTRUCTION に備わった無垢なる狼の精神は、人口200万の世界の狭間に生を受けたその運命と深く関連していました。ここから国際的にブレイクを果たすことがいかに難しいか熟知しているからこそ、WITHIN DESTRUCTION はその暴虐な世界を奔放に拡大していくのです。
「”Yokai” は大部分が日本の幽霊/悪魔である妖怪についてだね。平安末期に鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人物、狐の化身 “玉藻の前” についての楽曲なんだ。彼女の美しさ、知性、そして狡猾さに焦点を当てているよ。あと、”Alone” はファイナルファンタジーの世界をベースにした楽曲なんだ。」
Unique Leader を離れ自らのレーベルを設立し、POLARIS のブレークにも一役買ったプロデューサー Lance Prenc を招聘したのは決意の現れでしょうか。メインストリームなデスコアサウンドやエレクトロニカ、トラップ、プログなどを加えスラミングデスメタルの領域を拡大する一方で、日本やアジアの伝統文化、アニメ、ゲーム, “Kawaii” からの影響を調合することにより、最新作 “Yokai” は邪悪と奇妙を両立させる文字通りエクストリームメタルの妖怪として魑魅魍魎の魅了を手にすることとなりました。
エレクトロニックでジャポネスクな “Yomi” は完璧なる冥府への入り口。そうして続くタイトルトラック “Yokai” で、メタルコアのリフにデスコアのヴァース、残忍なスクリームのコーラス、オリエンタルなメロディーと電子音の洪水を纏って新生 WITHIN DESTRUCTION に漂う妖気を存分に見せつけます。
ラッパーを起用した自殺志願のデスコアパーティー “Harakiri”、ニューメタリックな和の舞踏 “Hate Me” と、任天堂化した WITHIN DESTRUCTION のトラップメタルは彷徨う荒魂が浄化されるが如くバンドの狂骨へと浸透していきます。
そうしてアートの域まで高められたトラップメタルの百鬼夜行は、日本のヒップホップクルー Tyosin, Kamiyada+ が参加する “B4NGB4NG!!!” を皮切りに怪奇映画の終幕へ向けて進軍を始めます。インストゥルメンタルの “Sakura “では、プログメタルのイマジネーションで日本への憧憬を煽り、エレクトロニクスがアンビエントに鳴り響く “Tokoyo-No-Kuni “で文字通りリスナーは古代日本で信仰された不老不死の理想郷 “常世の国” へと導かれました。
今回弊誌では、バンドの心臓でドラマー Luka Vezzosi にインタビューを行うことが出来ました。「僕はゲームやアニメが大好きだから、ツアーで日本にいるときはいつも出来るだけ多くのオタクショップに行っているよ。日本には知られていないような小さなお店がたくさんあって、存在すら知らなかったようなものを見つけることができるからね。唯一の問題は、買ったものをどうやって飛行機で家に持ち帰るかということなんだ。」 どうぞ!!

WITHIN DESTRUCTION “YOKAI” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AVATAR : HUNTER GATHERER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHANNES ECKERSTROM OF AVATAR !!

“On One Hand It Is Obviously True We Do Things In a Very Theatrical And Bombastic Manner. On The Other The Most ipmportant Asset to Any Stage Performer Is His Eyes. We Never Want To Lose Focus On The Humanity On Stage And In The Interaction With The Audience.”

DISC REVIEW “HUNTER GATHERER”

「僕たちがやっていることにはある種の二面性があるということじゃないかな。一方では、非常に芝居がかっていて、大げさなやり方でやっている。それは明らかな事実だよ。 でもその一方で、舞台のパフォーマーにとって最も重要な財産は自分の目なんだ。舞台上においても、人間性にフォーカスすることや、観客との対話を決して失いたくはないからね。」
RAMMSTEIN からリック・フレアー、果てはスタンリー・キューブリックまで、芸術における “シアトリカル” を濃縮したメタルのライジングスター AVATAR は、そのエピックを敷き詰めたステージにおいても人間を見つめる “目” の価値を忘れることはありません。
70年代に Alice Cooper がロックと演劇を一体化させて以来、KING DIAMOND, MARILYN MANSON とそのシアトリカルな血脈は絶えることなく受け継がれ続けています。20年近くに及ぶキャリアの中で、ゆっくりと、しかし確実にメタル世界で最も創造的かつ興味深く、予測不可能な集団の一つに成長した5人のクラウンは、そのショックロックの遺伝子にジョーカーの狂気を継ぎ足して北欧からジャンルや境界線の予定調和を打ち破ってきました。
「”Mad Max” は、たしかに僕たちが今向かっている道の一つかもしれないね。だけど “スタートレック” のシナリオだって存在するはずなんだ。強い意志があって、一時的な犠牲を払う覚悟があれば、この問題を解決できる可能性はある。僕たちの歌に描かれる、世界全体を通して繰り返し起こる大きな問題は、僕たちの道に立ちふさがっている。でも最終的には、誰も僕たちの正しい行動を止めることはできないんだよ。」
確かな “目” を備えた AVATAR にとって、この呪われた2020年に “Black Waltz” のサーカスや、”Avatar Country” の幻想的な旅路を再現することは不可能でした。かつて完全に想像の産物であった世界の終末、ディストピアを肌で感じた現代のアバターは、そうして破滅のシナリオを回避するためのレコード “Hunter Gatherer” を世に送り出したのです。
たしかに、虹やドラゴン、聖剣の妄想で現実から逃れることは難しくありません。しかし、マッチの炎が消えた暗闇には冷徹な現実が残されます。AVATAR はそれよりも、闇に直面し、闇を受け入れ、世界をあるがままに受け入れる道を選びました。彼らのトレードマークでもある毒舌家で生意気なアティテュードも、ダークで怒りに満ちた人間性をシニカルに表現するレコードとピッタリ符号しました。
「この不確かな時は、僕たちが近年の自分たちよりも (闇や権力との) 対決姿勢を深めた理由にも繋がるんだよね。その対決姿勢は過去から現在までのメタルアルバムたちにも言えることだと思うんだ。僕たちメタルバンドはみんな、様々な方法で闇を探求し、闇に立ち向かう傾向があるから、暗い時代において僕たちの音楽は重要な役割を果たすわけさ。」
つまり、2020年の呪いはメタルが解くべきなのでしょう。Devin Townsend の “Deconstruction” の邪悪なグルーヴと THE HAUNTED の暴走がシンクロするオープナー “Silence in the Age of Apes” でテクノロジーの盲信に唾を吐き、GOJIRA のグルーヴにシンガロングを誘うビッグなコーラスを織り込んだ “Colossus” でディストピアの悪夢を描く “Hunter Gatherer” のワンツーパンチはいかにもシニカルです。
マカロニウエスタンな Corey Tayler の口笛からパンキッシュに疾走する “A Secret Door” はまさに AVATAR を象徴するような楽曲でしょう。ステージにおいてシアトリカルであることを指標する彼らにとって、物語りの豊かさは切っても切り離せない能力です。60年代のストーリーテラー Leonard Cohen, Willie Nelson のカントリーフォークとダイナミックなメタルはそうして AVATAR の胎内で出会いました。もちろん、インタビューに答えてくれた Johannes が敬愛する BLIND GUARDIAN にしても、ストーリーを大仰に伝える才能は群を抜いていましたね。
かつてデスメタルの本質は凶暴なリフやスピードよりもグルーヴと語った Johannes の本領が発揮された “God of Sick Dreams” はパワーメタルと結びついてバンドの新たなアンセムとなり、一方で “Justice” の叙情と哀愁は日本のファンにも大いにアピールするセレナーデでしょう。
極め付けはレコードで最も多様な “Child” で、マーチングバンドから激烈なメタル、求心的なコーラスにカオティックなジャムとアコースティックなアウトロそのすべては、ロボトミー手術が正当だと信じられていた時代の悲哀と愚かさを演じるためだけに存在します。時を経た2020年、常識と情報、そのすべては盲目に信じられるものなのでしょうか?
今回弊誌では、稀代の演者にしてボーカリスト Johannes Eckerström にインタビューを行うことが出来ました。「鳥山明から黒澤明、村上春樹からタイガーマスク、上原ひろみから tricot まで、日本からの多くの創造的な衝動が、僕の個人的でクリエイティブな旅を形作ってきたんだ。」Babymetal との US ツアーでも話題に。ギター隊の常軌を逸したハイテクニックも見逃せませんね。どうぞ!!

AVATAR “HUNTER GATHERER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IMPERIAL TRIUMPHANT : ALPHAVILLE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVE BLANCO OF IMPERIAL TRIUMPHANT !!

©Alex Krauss Photography | http://alexkrauss.com

“The Masks Are Very Connected To The Art Deco Movement That Grew Up In NYC In The First Part Of The Twentieth Century. That Movement Also Has Many Esoteric Connections That Harken Back Thousands Of Years And Goes Beyond Our Wildest Dreams Of How We May Imagine The Thing We’re Part Of Is Here.”

DISC REVIEW “ALPHAVILLE”

「あのマスクは20世紀前半のニューヨークで育まれたアールデコ運動と密接に関係しているんだ。そのムーブメントは数千年前にさかのぼり、過去と深遠で神秘的な多くのつながりを持っている。そしてそれは、かつて僕たちの一部であったものがここにあると悠久に想いを馳せる、時を超えた夢の形でもあるんだよ。つまり歴史的意義のある魅力的な美学なんだ。」
政治的な対立、忌まわしい暴力、世界恐慌と終末のムードが世界を覆った1920年代。アールヌーボーの華美な装飾は機能的なアールデコへと移り変わり、混沌に触発された前衛的なジャズや実験音楽の先駆けは遂に芽吹きました。
100年の後、現代ニューヨークの多様な喧騒をノイジーなジャズや20世紀の前衛クラシックで再構築したエクストリームメタルで体現する仮面の三銃士 IMPERIAL TRIUMPHANT は、奇しくも1世紀前と等しい創造的な大胆不敵を宿す空想都市 “Alphaville” を世に放ちます。
「”Alphaville” は現在のような状況になる前から構想・制作されていたんだ。だけど社会的な枠組みの中における文明文化や個人の葛藤といった大きなテーマや題材は、今も昔も、そして人類が存在する限り未来においても存在しているのではないだろうか?そうは思わないかい?僕たちはいつも NYC のサウンドを演奏しているんだ。文化的にも僕たちの音楽世界には現在のアメリカの状況が反映されていると思う。」
コロナ禍や気候変動、反知性主義と分断が渦巻く2020年に、IMPERIAL TRIUMPHANT が複雑怪奇なブラック/デスメタルの迷宮で1920年代の復活と再構築を告げたのは決して偶然ではないはずです。そんな非業の “再構築” を象徴するのが、VOIVOD と THE RESIDENTS のカバーでしょう。彼らの手にかかれば、80年代後半のプログスラッシュも、奇妙極まるシンセティックなループも、暴走するブラストビートと混沌としたリズムブレイク、そしてバンド生来の不協和音で現代の闇を生きる不可解な狂気へと引きずりこまれてしまうのです。
もちろん、そんな彼らの歴史を咀嚼した慣習の破壊とも言えるエクレクティックな機能美は、”制限のない作曲プロセス” としてアルバム全編を貫いています。例えば、ドローンから聖歌隊、オルガンまで入り乱れるオープナー “Rotted Futures” はカオスの花園ですし、”Excelcior” では黒の暴走やインダストリアルの嘆きを内包しながら、螺旋を描くベーススケール、エイリアンのコードボイシング、進化したリズムのタペストリーでその本質をジャズ/フュージョンへと設定しています。
「まあ確実に僕たちは、メタル、ロック、ヘヴィーミュージックの複数のカテゴリーに当てはまる多様な音楽的影響を持っているよね。いつかは他のカテゴリーに入るかもしれないね。それが何になるかは分からないけどね!」
つまり、Steve が “グローバルなインテグレーション (分け隔てのない) の時代には、多様な視点がより実りある言説やコミュニケーションを生み出す” と語ったように、IMPERIAL TRIUMPHANT が破壊するのは過去の慣習だけではなく、ジャンルの壁や偏見、凝り固まった思想そのものだったのです。
即興のジャミングと緻密なオーケストレーションを並置した “City Swine” は、そんな彼らのクリエイティブな自由が完全に謳歌された楽曲です。MESHUGGAH の Tomas Haake を従えて、和太鼓とピアノがスラッジの枠組みでジャムセッションを開始する無法の街並は、アヴァンギャルドを熟知する MR. BUNGLE の Trey Spruance, KRALLICE の Colin Marston という共同プロデューサーの手を借りてすべての柵を取り払っていくのです。
そうしてアルバムの後半には、Duke Ellington から Miles Davis のクロスオーバーまでジャズの歴史を横断します。
さて、それではなぜ IMPERIAL TRIUMPHANT はゴダールの SF ノワールをそのタイトルへと選んだのでしょうか。きっとそれは、ニューヨークの文化と歴史を映画のフィルターを通して伝え、”昔ながらの魅力” を容赦のない過激さで歪めるためなのかもしれません。このフランケンシュタインのようなダークジャズと狂気のメタルの下には、階級主義、ファシズム、工業化を中心とした批判的な物語が横たわり、タイトルの由来となった60年代の映画を再現しているのですから。
今回弊誌では、ベース/ピアノ/ボーカルを担当する Steve Blanco にインタビューを行うことができました。「ブルックリンにある道場を見つけて、和太鼓奏者でありオーナーでもある倉島ヒロ先生がレコーディングを許可してくれたんだよ。あの美しい音色は、このアルバムの目的にぴったりと合致していたね。」 どうぞ!!

IMPERIAL TRIUMPHANT “ALPHAVILLE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KEKAL : QUANTUM RESOLUTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEFF ARWADI OF KEKAL !!

“We Don’t Consider Record Labels To Be “Above The Band” Who Can Micro-Manage The Band Down To Artistic Choices, But Also On The Other Hand We Don’t Want To Put The Band’s Needs “Above The Record Labels” And Dictate Them How To Operate, Because They Already Operate The Way They Are.”

DISC REVIEW “QUANTUM RESOLUTION”

「インドネシアにはメタルやエクストリームな音楽に特化した多くのファンがいて、特に最近はメタルをやっているバンドが非常に多いんだよ。中には地元ではとても人気があるバンドもいて、メタル系の音楽を演奏するだけで “セレブ” の域に達しているバンドさえあるんだから。」
インドネシアの音楽に対する探究心はアジアでもトップクラスでしょう。MoonJune レーベルが提供するジャズやプログレッシブのレコードは須らく知性と冒険心に富んでいますし、ヘヴィーメタル大統領 Joko Widodo が象徴するメタルワールドも当然多彩で実力派を揃えています。デスメタルはもちろん、ブラックメタルに着目しても PURE WRATH のような奇跡を生み出す場所ですから、もはやメタルの第三世界と呼ぶには些か無理があるはずです。
KEKAL はインドネシアにおけるブラックメタルの先駆者ですが、もはやブラックメタルの一言でかたずけることは完全に不可能な、多様なモダンメタルの怪物へと進化しています。
エレクトロニカ、ポップス、ジャズ、トリップホップ、インダストリアル、アンビエント、サイケデリック。仮にエクストリームメタルをジャワ島だとすれば、APHEX TWIN, Miles Davis, PORTISHEAD, THE PRODIGY, MASSIVE ATTACK, ULVER といった島々で多文化多島美を形成するインドネシアのミニチュアこそ KEKAL の真の姿ではないでしょうか。特に、フィールドレコーディングまで敢行する電子音とノイズの実験は、フランスの IGORRR と並んでメタル世界の最先端に位置するはずです。
「2009年に全員がバンドを脱退しKEKAL は正式にインドネシアのバンドとして残ることになったんだ。つまり、僕たちは “メンバーレスバンド “という道を選ぶことにしたんだよ。その後、僕たちは “KEKAL として “ではなく、”KEKAL のために” 活動している。コントリビューターとして完全にボランティアベースで、スケジュールも締め切りもなく、いくつかのアルバムでは他のミュージシャンが参加するようなやり方でね。自由なアソシエーションを採用して、完全にアナーキストになったんだ。」
驚くべきことに、KEKAL にはオフィシャルメンバーが存在しません。レコーディングにおいても、より良い音楽のため楽器も歌も最も適した人物がこなすという徹底ぶり。バンドではなく自由結社と呼ぶべきでしょうか。その特殊極まる背景は、彼らの土台であり源泉であるアナキズムに起因しています。
「僕たちはレコード会社を “バンドの上に立つもの” だとは思っていないし、バンドの芸術的な選択まで細かく管理できるとは思っていないけど、一方でバンドのニーズも “レコード会社の上に立つもの” だとは思っていないし、バンドの運営方法をレコード会社に指示もしたくない。」
KEKAL の指標するアナキズムとは決して無責任であることではありません。非階層、反権威こそ彼らの魂。支配者のいない世界を実現するため、すべてにおいて責任を束ねる自己管理、自己統治のアプローチを研ぎ澄まし、突き詰めていくのです。
「それは2015年に僕が “スピリチュアルな目覚め “と呼ばれるものを体験し始めた時から始まったんだ。詳しく説明するのは難しんだけど、食生活、睡眠パターン、感情、他人に対する見方や感じ方、世界観などの劇的な変化があったんだ。何らかの形で僕自身、僕たちが住んでいる世界、宇宙に関する新しい知識を受信することで “導き” の奇妙な啓示を受けてきたんだ。 これは、人々が一般的にグノーシスや “明かされた知識” と呼ぶものだね。」
さらに、結社の首謀者 Jeff Arwadi は自らが受けた掲示、スピリチュアルな目覚めをレコードのコンセプトやリリックに反映することを新たな生き甲斐として見出しました。つまり、最新作 “Quantum Resolution” は Jeff の伝道師としての役割が花開いた作品でもあるのです。
ハモンドのプログメタルと軽快なダブステップ、そしてブラックメタルのメイルストロームが入り乱れる “Quite Eye” は “Schizo-metal” への入り口として完璧でしょう。インダストリアルな瞑想と JOY DIVISION の複合体 “Inward Journey” では、天使の声が鳴り響き内なる旅路を導きます。
アナーキーの申し子たる自由結社は、両極に振れることさえも絶対的に自由。”The Sleep System” で RUSH や KING CRIMSON への敬意をメロディーの彼方に見出せば、ダブとヒップホップで踊り狂うブラックメタルの THE PRODIGY “Testimony” ですぐさま混沌を呼び寄せます。
極め付けはタイトルトラック “Quantum Resolution” でしょう。グノーシス主義に傾倒した Jeff から生まれくるに相応しい量子の黙示録。DURAN DURAN とブラックメタルの許されざる婚姻を祝福する厳かな教会の聖歌。これはきっと伝道師が奏でる異端者の讃美歌です。
今回弊誌では、Jeff Arwadi にインタビューを行うことができました。「KEKAL はインドネシア出身のバンドとしてヨーロッパと北米で同時にアルバムを出した最初のバンドで、ヨーロッパツアーを行った最初のバンドでもある。そういう意味では、地元や母国だけでアピールしようとしない若いバンドのお手本にはなるかもしれないね。」 どうぞ!!

KEKAL “QUANTUM RESOLUTION” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BELL WITCH & AERIAL RUIN : STYGIAN BOUGH VOL.1】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DYLAN DESMOND OF BELL WITCH & AERIAL RUIN !!

“Playing With a Guitar Was an Interesting Experience Because It Had Been So Long! Often Times I Try To Write Guitar And Bass Parts To Play At The Same Time On The Bass, But Having an Actual Guitar Allowed Room For Harmonies In The Upper Registers.”

DISC REVIEW “STYGIAN BOUGH VOL.1”

「今回は AERIAL RUIN とのスプリットではなく、完全なコラボレーションをしようと決めたんだ。Erik はこれまで僕たちのフルレングスアルバムの全てに参加していて、彼が加わった曲にはほとんどバンドそのものとしての魅力があると感じたからね。彼が最初に歌った曲が土台になっているという考えで、新しいバンドを作ってみてはどうだろうか?と思ったのさ。」
型破りなベース/ドラムスのデュオで、型破りな83分に及ぶ生と死の合わせ鏡 “Mirror Reaper” をリリースした BELL WITCH。沈鬱で思索を伴う葬送のドゥームメタルにおいて、参列者を陶酔の嘆きに誘うその呪われたスケール感は異端の域さえ遥かに超えています。
ただし、ベル家の魔女の重く厳粛なポルターガイストにとって、AERIAL RUIN こと Erik Moggridge がこれまで果たした役割は決して少なくはありませんでした。すべてのレコード、特に “Mirror Reaper” において Erik の仄暗きフォークの灯火は、バンドの神秘に厳かな微睡みをさえもたらしていたのですから。
そうして遂にフューネラルドゥームの極北とダークフォークの異彩が完全に調和する闇の蜜月 “Stygian Bough Vol.1” は世界にその孤影をあらわしました。
「Erik が BELL WITCH にはじめて参加したのは2012年の “Longing” からで、彼は “Rows (of Endless Waves)” の最後のパートを歌っているんだ。そしてあの楽曲のテーマは、世界に現れ破壊しようとしている、海に宿る幽霊や霊のようなものを扱っていたんだよ。Erik はこのテーマを “Stygian Bough” の歌詞でも継続していて、それがアートワークにも反映されているんだ。」
アルバムタイトルの “Stygian Bough” とは、英国の社会人類学者ジェームス・フレイザーの著書 “The Golden Bough” “金枝篇” に端を発しています。
人間の王殺し、権力の移譲を社会的、宗教的、神話的観点から比較研究した長編は、コロナ危機を反映していないとはいえ、現在のアメリカにこれほど問題意識を重ねる Dylan とバンドの深層心理を当然ながら投影しているはずです。語られるのは権力を巡り世界を破壊しかねない、王の亡霊と司祭、そして人類の強欲の物語。
「このアルバムの制作をはじめた時、僕たちは ULVER の “Kveldssanger” を参照して引き合いに出したんだ。あとは ASUNDER の “Clarion Call”、そして CANDLEMASS の “Nightfall” だね。」
ギター/ボーカルの Erik が全面的に加わることで、BELL WITCH の “ノーマルな” 作品群とは明らかにその出発点が変わりました。”The Bastard Wind”, “Heaven Torn Low”, “The Unbodied Air”。20分づつ3つの楽章に分かれたアルバムは、普段の葬送曲よりもテンポは増し、旋律は色彩を帯びて、確実に感傷的でエモーショナルな海風を運びます。
「ギターと演奏するのは久しぶりで、面白い経験だったよ。というのも、僕はギターとベースのパートを書いてそれをベースで同時に演奏しようとすることが多いからね。だけど今回は、実物のギターをバンドに組み込むことで高音域のハーモニーにも余裕が生まれたわけさ。」
ギター、和声との邂逅は、すべての音域を司る Dylan のベースラボラトリーにも変化をもたらしました。6弦から7弦へスイッチし奈落のような低音と深々たる残響を引きずりながら、高音域ではより自由にメロディアスな演奏を許されています。フレットに叩きつける右手と左手のタップダンスは、一層熱を帯びて激しさを増す一方でしょう。
Jesse Shriebman は、スペースが狭まった分だけ普段よりも手数を抑え、リズム楽器本来の役割を忠実に果たしながら、一方で荘厳なピアノとオルガンのアレンジメントに心血を注ぎ、煉獄のテクスチャーに多様性を導きました。そしてもちろん、Erik が紡ぐダークフォークの仄暗き幽玄はアルバムの真理です。
生と死の境界、権力の腐敗、人類による地球支配。光と陰が交差する新たなドゥーム世界は、BELL WITCH と AERIAL RUIN によって描かれます。この寂寞の叙情詩は、PALLBEARER が持つプログレッシブな革新性とはまた異なるベクトルの進化でしょう。
今回弊誌では Dylan Desmond にインタビューを行うことができました。「PRIMITIVE MAN との日本ツアーは素晴らしかったよ!COFFINS とプレイできたこともね。彼らはレジェンドさ!」2度目の登場。どうぞ!!

BELL WITCH & AERIAL RUIN “SATYGIAN BOUGH VOL.1” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【I BUILT THE SKY : THE ZENITH RISE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROHAN “RO HAN” STEVENSON OF I BUILT THE SKY !!

PHOTO BY Huang Jiale

“To Me It Expresses The Nature Of The Project, Being Free To Create Your Reality I Built The Sky = I Create My World/My Art.”

DISC REVIEW “THE ZENITH RISE”

「僕にとってこの名前は、プロジェクトの本質を表現しているんだ。現実から自由になって、”空を構築する”。つまり、それって自分の世界/芸術を創造するって意味なんだ。
このプロジェクトは、以前僕の考え方だった “努力して作る” よりも、純粋に創造するため始めたものなんだけど、皮肉なことに、今ではフルタイムで取り組んでいるよ。」
“空には限界がないでしょ?” 南半球オーストラリアの天つ空は Rohan “Ro Han” Stevenson の牙城です。そうして大気圏から成層圏、東西南北を所狭しと吹き抜けるギターの風は、流動の旋律を後方へと置き去りにしていきます。
「僕は、空がどれだけ芸術的であるかにもとても惹かれているんだ。様々な色合い、要素、バリエーションがあって、全く同じような空模様になることは2度とない。だからこそ、その一期一会な偶発性を心から楽しんでいるのさ。」
Tosin Abasi, Plini, David Maxim Micic, Misha Mansoor。ある者は衝撃のテクニックを、ある者はリズムの迷宮を、ある者は斬新なトーンを携えて登場したモダンギターの精鋭たちは、弦の誉を別次元へと誘っています。
そんなニッチなインストゥルメンタルワールドにおいて、Ro Han は空という蒼のキャンバスにカラフルな虹音を誰よりも美しく描いていきます。テクニックや複雑性よりもリスナーを惹きつける魔法とは、きっとストーリーを語り景色を投影する能力。彼にはそんな音の詩才や画力が備わっているのです。
「僕は Tosin や Misha と対照的に多くの部分でロックやパンクのヴァイブを保っていると思うんだ。間違いなく、彼らほどギターは上手くないんだけど、それはきっとユニークなセールスポイントだろう。」
BLINK 182, GREENDAY といったポップパンクの遺伝子を色濃く宿したハイテクニックの申し子。”Journey to Aurora” は象徴的ですが、確かに Ro Han の空にはいつだって明快なメロディーが映し出されています。そして、djent のリズミックアクセントを、さながら流れる雲のごとく疾走感へ巧みに結びつけていくのです。
100万回の視聴を記録した “Up Into The Ether” は Ro Han の決意をアップリフティングな旋律に込めた希望の轍。2019年の夏に仕事を辞して I BUILT THE SKY で生きていくと誓った Ro Han。成功しようと失敗しようと後悔を残して生きるよりはましだと訴えます。
一方で、KARNIVOOL, DEAD LETTER CIRCUS を手がけた名プロデューサー、Forrester Savell との共闘、オーストラリアンセンセーションはアルバムによりアトモスフェリックで感傷的な空模様ももたらしました。
ダークで激しい雷鳴のようなタイトルトラック “The Zenith Rise” が晴れ渡ると、レコードはクリーンギターとアコースティックのデリケートでメロウ、時に優しくチャーミングな鮮やかな3つの音風景を残してその幕を閉じます。実際、この偶発性、予想不可能性から生まれるダイナミズムこそ Ro Han の音楽がクラウドコア、天気予報のインストミュージックと例えられる由縁なのでしょう。
今回弊誌では、Rohan “Ro Han” Stevenson にインタビューを行うことができました。「僕は自分でやらなきゃ気が済まないタイプで(コントロールフリークと言う人もいるかもしれないけど)、これが他の人との共同作業から遠ざかっていた原因の一部なんだ。
それはたぶん、僕が強い芸術的なビジョンを持っているからだと思う。自分が何を達成したいのか分かっているような気がするし、外から他の要素を加えても結局最終的な目標から遠ざかるだけだろうから、主に一人で音楽を作っているんだ。」8/5には P-Vine から日本盤もリリース決定!どうぞ!

I BUILT THE SKY “THE ZENITH RISE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ULTHAR : PROVIDENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SHELBY LERMO OF ULTHAR !!

“None Of Our Lyrics Are Actually About H.P. Lovecraft, To Call The Album That Too. I Think There’s a Little Bit Of Lovecraft Influence In The Patterns Of Our Lyrics, But At This Point, I Think People Kind Of Assume We Are This “Lovecraft Band”, When Really, We Don’t Have That Much Attachment.”

DISC REVIEW “PROVIDENCE”

「ある意味面白いよね。だって僕たちの歌詞は、アルバムにしたって Lovecraft についてのものはないんだから。歌詞のパターンに少し Lovecraft の影響があるかもしれないけど、みんなが僕らを “ラブクラフトバンド” と確信しているのは驚きだよ。」
名状し難きアートワーク、著作 “The Cats of Ulthar”, 出身地 “Providence”。点と点を結び合せ、誰もが “ラヴクラフトメタル” の新境地と心躍らせた ULTHAR。しかし、ギタリスト Shelby Lermo はバンドとラヴクラフトの密接な繋がりを否定してみせました。それは、文豪が心に秘めた真なるホラー、人間の偏見や差別こそが狂気の最高峰という想いに奇しくもシンクロした結果なのかもしれません。
MASTERY, VASTUM, MUTILATION RITES。カルトでカオスなブラック/デスメタルの異能が集結した ULTHAR が、シーンの注目を集めたのはある種の必然と言えました。何より、2018年のデビュー作 “Cosmovore” には、野生的で生々しく、しかしメロディックかつテクニカルな “ブラッケンドデスメタル” の魅力が存分に注入されていましたから。
特筆すべきは、伝統と実験性の巧みなバランスが彼らの異端を現実という鏡に映し出している点でしょう。複雑怪奇を極めながら耳に馴染む絶佳の宇宙。さながら百鬼夜行のような 20 Back Spin レーベルにおいても、ULTHAR の奇妙は現実に根ざしていて、じわじわと冷や汗が吹き出すようなサイコホラーを演出しています。
「審美的に、僕たちの音楽にとてもマッチしているのは確かだよ。グロテスクで、煩雑で、複雑で、奇妙だよね。」
そうしてカオスとアトモスフィアをより深く探求し、ホラー映画のメタルを突き詰めた進化の一枚こそ最新作 “Providence” でしょう。一切妥協を許さない成功緻密な凶美のカバーアートは、アルバムの音の葉を厳かに暗示しています。
ULTHAR の三者がシンセやエフェクト、エレクトロニックなアプローチに障壁を築かなかったことも、メタルのホラー映画をよりシネマティックでドラマティックな狂気へと近づけました。不吉極まるアンビエンスとエイリアンの蠢きに端を発する “Through Downward Dynasties” を聴けば、ANAAL NATHRAKH のクロスオーバーな遺伝子を着実に受け継いだ地獄の蜃気楼を目にするはずです。
“Undying Spear” はより鮮明にラブクラフトの情景を宿します。得体の知れないグロテスクな毒ほど人の心を惹きつけます。仏教的な諸行無常の響きを忍ばせたアルバムで、中央アジアの喉歌をイントロに抱く楽曲は、神秘と怪奇を壮大なエピックとして描き出していきます。
テクニカルかつプログレッシブなアコースティックの死の舞踏、おどろおどろしいファンファーレ、ブラッケンドデスメタルの猛攻、ドゥームの奈落。あまりに絶対的な不死の武具は、絶え間なくその姿を変えながらただリスナーの胸を貫いて不吉な場所に制止し続けるのです。
GORGUTS から DEATH へと病巣が移り行くリフマッドネスの中、シアトリカルなボーカルの奔放で狂った天啓を導く “Providence”、CELTIC FROST と MAYHEM の凶暴なキメラ “Furnace Hibernation” と、混沌や残虐、変拍子に不協和音さえ魂を揺さぶり記憶に残る ULTHAR の台本はすでに “真なるホラー” の領域に達しているはずです。
今回弊誌では、Shelby Lermo にインタビューを行うことが出来ました。「明らかにブラックメタルやデスメタルのサウンドは多いから、それが関連しているんだろうな。でも、他にもたくさんの要素があるんだ。 全体として、僕らは ULTHAR のように聞こえるだけだと思うんだけど、人々はラベルを付ける必要があるし、”ブラッケンドデスメタル “というのは一定の効果があると思うよ。」 どうぞ!!

ULTHAR “PROVIDENCE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PYRRHON : ABSCESS TIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DOUG MOORE OF PYRRHON !!

“A Good First Step In Driving Bad Actors Out Of Metal Would Be To Foster a Stronger Appreciation Of Lyrics. It’s Still Very Common To See Metal Fans With Broadly Progressive Values Accepting Truly Vile Ideologies From Bands They Like Because “You Can’t Understand The Lyrics Anyway” And “The Riffs Are Sick, So Who Cares,” And So Forth. Perhaps It’s Worth Paying More Attention To What Your Favorite Band Is Screaming At You.”

PYRRHON “ABSCESS TIME”

「NYC のバンドに透徹する哲学は、ジャンルをミックスしたり、音楽的な分野を融合させたりすることに意欲的であること。 この特徴は、ニューヨークが “メルティングポット” “坩堝” としての地位を築いてきたことの賜物で、様々なバックグラウンドを持つ人々やアイデアが混ざり合っているからね。」
分裂と流動の時代極まるエクストリームメタル。革命的なアイデア、脳髄を溶かすサウンド、野生的な実験の黄金三角形は、ニューヨークが震源地です。IMPERIAL TRIUMPHANT, LITURGY, ANCION, DYSRHYTHMIA。ジャンルを開拓再定義するような異能が蠢く中で、ブラックメタルの冒険を牽引する KRALLICE の平行線に位置する、大胆不敵なデスメタルの探窟家こそ PYRRHON でしょう。
「古いバンドのサウンドを真似するだけでは時間の無駄だと思えるね。デスメタルをプレイするのは難しいんだ。そんな難しい音楽をプレイするのに、なぜ自己表現をしないんだい? 」
OSDM リバイバルで活況を見せている昨今のデスメタルシーン。しかし、PYRRHON はその動きから一定の距離を置いています。もちろん、MORBID ANGEL や GORGUTS, CYNIC といった巨人の実験精神、創造性とたしかにチャネリングしながら、エクストリームミュージックの自己実現にむけてただ真摯に邪悪と哲学を磨きあげていくのです。
「デスメタルは、限界まで自分を追い込みたい、今までにないことに挑戦したいと思っているミュージシャンを惹きつける特別な音楽の形だと思うからね。」
TODAY IS THE DAY のアヴァンギャルドノイズ、CAR BOMB のマスコアミューテーション、GORGUTS のプログレッシブアグレッシブ。たしかに、PYRRHON の音風景をジクソーパズルのように分解して掘り下げることも可能でしょう。ただし、彼らの真髄は決してモザイクタイルを貼り合わせて創り上げる、高尚で機械的な壁画のアートにはありません。
なぜなら、時に不自然で突拍子もないように思える異端のピースが、PYRRHON の音楽をむしろ自然で有機的な太古の海へと誘っているからです。ゆえに、人工的で機械化されたテックメタルの不協和も、彼らの手にかかれば狂骨から溶け出す原始のスープへとその姿を変えていきます。
ある意味、PYRRHON が醸し出す奇妙の原点はジャズのインプロビゼーションなのかもしれませんね。言ってみれば、物理学の実験のために複雑な数学の方程式を解くことが一般的なプログレッシブデスメタルの常識だとすれば、彼らはそれをアシッドトリップの最中にやり遂げることを本懐としているのです。
「現在アメリカを飲み込んでいるこの複雑な危機は、約10年前から避けられないように僕には見えていたんだよ。それは単純に、皮膚の下で化膿している病気がいつ表に出てくるかという問題だったのさ。それがアルバムタイトルの由来だよ。」
最新作 “Abscess Time” “化膿の時” に反映されたのは、システムが朽ち果て国の程さえなさなくなった今のアメリカひいては世界です。インタビューに答えてくれたボーカリスト Doug Moore は、そんな潜伏していた膿を反映した偏見渦巻くメタル世界だからこそ、歌詞を深く理解して自分の頭で考えてほしいと訴えます。
もはや、リフがよければ別にとか、どうせ何叫んでるかわかんねーしで許される時代は過ぎ去ったとも言えるでしょう。それはある意味、誰がなっても同じと選挙権を放棄する行動に似ているのかもしれません。結局は因果応報、すべては自身に返ってくるのですから。
そうして完成した最高傑作は、Doug の言葉を借りれば “忍耐と反復” のカオス。スピーカーから不気味な膿が溢れ出すようなミニマルな混乱の中で、獰猛さと重圧を保ちながらしかし構成の妙を一層極めたアルバムは、過去の3作と比較してより直線的なリスニング体験を可能としています。
我々はただ、作曲と即興、残虐と窒息、可解と不可解、混沌と解放、血液と膿の境もわからず立ち尽くすのみ。KRALLICE の鬼才 Colin Marston がプロデュースを行ったことも、決して偶然ではないでしょう。
ピュロンとは古代ギリシャ初の懐疑論者。すべてを吟味しあらゆる独断を排除する者。今回弊誌では、エクストリームシーンきっての語り部 Doug Moore にインタビューを行うことができました。「僕の考えだけど、”悪い役者” をメタルから追い出すためのより良い第一歩は、歌詞への理解を深めることだと思うんだ。幅広く進歩的な価値観を持つメタルファンでも、好きなバンドの本当に下劣なイデオロギーを “どうせ歌詞なんて何叫んでるかわかんねーから” とか “リフが最高なら気にしない” などと受け入れてしまうのは、今でもよく見かける光景だよね。自分の好きなバンドが何を叫んでいるのか、もっと注意を払う必要や価値があるのかもしれないよ。」 どうぞ!!

PYRRHON “ABSCESS TIME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NILI BROSH : SPECTRUM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NILI BROSH !!

“There Are So Many More Professional Women Guitarists Kicking Ass Out There. I’d Rather Think Of It As “Everyone’s Era”, Where Gender, Race, Ethnicity (Or Genre!) Doesn’t Matter…I Hope The Era I Live In Is The One Where The Music Is What Matters.”

DISC REVIEW “SPECTRUM”

「プロフェッショナルの女性ギタリストがどんどん増えてきているわよね。だけどむしろ私は、性別、人種、民族、そしてジャンルでさえ関係ない “みんなの時代” だと思っているのよ…私の生きている時代は、音楽が大事な時代であってほしいわね。」
ある時は Tony MacAlpine の頼れる相棒、ある時は Ethan Brosh の美しき妹、ある時はシルクドソレイユのファイヤーギター、ある時は DETHKLOK の怪物、ある時は IRON MAIDENS のマーレイポジション。
多様性が特別ではなくなった “みんなの時代” において、イスラエルの血をひくギタープリマ Nili Brosh は培った音の百面相をソロキャリアへと集約し、性別、人種、民族、そしてジャンルの壁さえ取り払うのです。
「アルバムのジャンルに関係なく、それが音楽であるならば一つになって機能することを証明したかったのよ。だから文字通りスペクトラム (あいまいな境界を持ちながら連続している現象) というタイトルにしたの。私たちがまったくかけ離れていると思っている音楽でも、実際はいつも何かしら繋がっているのよ。」
地中海のバージンビーチからセーヌの流れ、日本の寺社仏閣、そしてマンハッタンの夜景を1日で堪能することは不可能でしょうが、Nili の “Spectrum” は時間も空間も歪ませてそのすべてを44分に凝縮した音の旅行記です。プログレッシブな音の葉はもちろん、R&B にジャズ、ワールドミュージックにエレクトロニカなダンスまで描き出す Nili のスペクトラムは万華鏡の色彩と超次元を纏います。
特筆すべきは、テクニックのためのインストアルバムが横行する中、”Spectrum” が音楽のためのインストアルバムを貫いている点でしょう。オープナー “Cartagena” から大きな驚きを伴って眼前に広がる南欧のエスニックな風景も、Nili にしてみればキャンパスを完成へ導くための美しき当然の手法。幼少時にクラッシックギターを習得した彼女が奏でれば、鳴り響くスパニッシュギターの情熱も感傷も一層際立ちますね。
“Andalusian Fantasy” では Al Di Meora のファンタジアに匹敵する南欧の熱き風を運んでくれますし、さらにそこからアコーディオン、ジプシーヴァイオリンでたたみ掛けるエスノダンスは Nili にしか作り得ないドラマティック極まる幻想に違いありません。
Larry Carlton のブルージーな表現力とエレクトロニカを抱きしめた “Solace” はアルバムの分岐点。日本音階をスリリングなハードフュージョンに組み込んだ “Retractable Intent”, プログとダンスビートのシネマティックなワルツ “Djentrification” とレコードは、彼女の出自である中東のオリエンタルな響きを織り込みながら幾重にもそのスペクトラムを拡大していきます。
EDM や ヒップホップといったギターミュージックから遠いと思われる場所でさえ、Nili は平等に優しく抱擁します。ただ、その無限に広がる地平は音楽であるという一点でのみ強固に優雅に繋がっているのです。それにしても彼女のシーケンシャルな音の階段には夢がありますね。鬼才 Alex Argento のプログラミングも見事。
今回弊誌では、Nili Brosh にインタビューを行うことができました。「音楽は音楽自身で語るべきだと信じてきたから、私にできることはお手本になって最善の努力をすることだけなの。もし私が女性だからという理由で私と私の音楽を尊重してくれない人がいるとしたら、それはその人の責任よ。」 どうぞ!!

NILI BROSH “SPECTRUM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CRYPTIC SHIFT : VISITATIONS FROM ENCELADUS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RYAN SHEPERSON OF CRYPTIC SHIFT !!

“We Love Voivod, Especially The Records “Killing Technology” And “Dimension Hatross”. Those Records, Along Side Nocturnus “Thresholds” Really Showed Us How It Was Possible To Write a Massive Sci-Fi Tale Within a Metal Record.”

DISC REVIEW “VISITATIONS FROM ENCELADUS”

「僕たちは VOIVOD を愛していて、特に “Killing Technology” と “Dimension Hatross” がお気に入りなんだ。NOCTURNUS の “Thresholds”と並んで、この2枚はメタルレコードの中に大規模なSFの物語を書くことが可能であることを教えてくれたんだ。」
英国で最も奇妙かつ革新的な “フェノメナルテクノロジカルアストロデスアーティスト” CRYPTIC SHIFT。VOIVOD や VEKTOR のコズミックな SF スラッシュメタルと、MORBID ANGEL や GORGUTS のおどろおどろしい猟奇的デスメタルを完膚なきまでに融合させる彼らのやり方は、メタルの仄暗いファンタジーをさらにまた一歩推し進めます。
「CRYPTIC SHIFT はスラッシュ/デスメタルの境界を押し広げることを目指している一方で、広義のメタルシーンにおけるソングライティングと創造的なコンセプトのストーリーライティングの境界線をも押し広げることも目指していると言えるだろうな。2020年にスラッシュとデスメタルを推進している素晴らしいバンドはたくさんあるけど、プログレッシヴでテクニカルなSFソングライティングを推し進めているバンドはそれほど多くはないからね。」
BLOOD INCANTATION, TOMB MOLD が昨年放った2枚のレコードは、20年代のメタルが向かう先をある種予見するような作品でした。オールドスクールデスメタルの遺伝子を濃密に受け継ぎながら、奇々怪界なサイエンスフィクションをテーマに仰ぎ、サイケデリックにストーナー、プログレッシブと多様な音の葉を纏う異次元の世界線。
CRYPTIC SHIFT のデビュー作 “Visitations from Enceladus” は彼らの異形とシンクロしながら、スラッシュメタルのメカニカルな衝動と長編の空想宇宙小説を衝突させ、メタルの核融合を誘発しているのです。
「”Moonbelt Immolator” は歌詞の中にストーリーがあるから長い曲になることはわかっていたんだけど、トラックをまとめるうちに、どんどん長くなっていったんだ。ただそれを恐れてはいなかったよ。」
その華々しき化学反応の証明こそ、26分の宇宙譚、オープナー “Moonbelt Immolator” でしょう。Away の正当後継者 Ryan の言葉通り、恐れを知らない SF メタルの開拓者は、26分を6つの独立した楽章に分割してスリリングで摩訶不思議な空の物語を描き切ってみせました。そのオペラ的な手法は、ただメタルのエピックというよりも、RUSH の “2112” や “Hemispheres” と同等の性質を持つ叙事詩という方が適切なのかもしれませんね。
重要なのは、CRYPTIC SHIFT がプログレッシブなデスメタルやテクニカルなスラッシュメタルが切望する音符の密度、激しいダンスを少しも損なうことなく、全体をホログラフィックに見渡せる抜きん出た俯瞰の構成力を身につけている点でしょう。
ゆえに、デス/スラッシュの単純な枠を超え、ドゥーム、ジャズ、ノイズ、アンビエントのタトゥーが音肌の上に絶え間なく露出を続ける不浄のオベリスクでありながら、決して彼らの宇宙譚は量子力学レベルの理解不能な方程式に収まってはいないのです。
つまり、宇宙的な和音、歪んだAI言語、洗練と粗野のバランスが絶妙なd-beatとブラスト、多面的なキャラクターを宿すデスボイス、不協和を恐れないギターに絡みつく蛇のようなフレットレスベース、その全てがメタル世界の大衆を観客に迎えた舞台 “エンセラドゥスからの来訪者” を彩る小道具にすぎないと言えるのかもしれませんね。
逆にいえば、耳障りになりかねない不協和音、ノイズ、グロウルにブラストビートも、CRYPTIC SHIFT の手にかかれば生命力に満ち溢れたキャッチーな舞台装置へと変化を遂げるのです。
ある意味、エレクトロニカを大胆に咀嚼した NOCTURNUS を VOIVOD と並んで崇拝する理由もそこにあるのかもしれません。ATHEIST, PESTILENCE, MARTYR に SADUS。全ての奇妙は物語のために。
今回弊誌では、ドラムス Ryan Sheperson にインタビューを行うことができました。「僕とXanderは信じられないほどのスター・ウォーズの大ファンで、その全てが大好きなんだよ。 おそらく夕食を食べた回数よりも多く、スター・ウォーズの最初の6作品を観ているだろうな。好きな順番をつけるなら、I、VI、V、IV、III、IIかな。 “ファントム・メナス” が一番好きだと嫌われるかもしれないけど、それはきっと世代の問題だろう。」 どうぞ。

CRYPTIC SHIFT “VISITATIONS FROM ENCELADUS” : 10/10

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