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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BERRIED ALIVE : BERRIED TREASURE】


COVER STORY : BERRIED ALIVE “BERRIED TRASURE”

“Balenciaga Or Moschino Are Great Examples In Fashion For Being Incredibly Technical Clothing That Doesn’t Take Itself Too Seriously. That’s Really What We Want The Most In Music, To Connect With People.”

BERRIED TREASURE

「Charles Caswell というギタリストがいる。彼は奥さんと BERRIED ALIVE というデュオをやっている。彼は、私が今まで聴いた中で最もクレイジーなギターを弾いている。彼のプレイスタイルは、私がこれまで聴いた中で最も速いプレイヤーなんだ」
ギターレジェンド Joe Satriani がこれほど興奮して紹介するギタリスト。その人物が凡庸なはずはありません。そして当然、世界中が注目します。そのギタリストとは、BERRIED ALIVE というデュオでの活動で知られる Charles Caswell です。
BERRIED ALIVE は、Charles と妻の Kaylie Caswell によるデュオ。彼らのジャンルを説明するのは少し難しいかもしれません。一応、彼らのウェブサイトには、”トラップ、ハードロック、メタル、ヒップホップ、アバンギャルドの要素を取り入れたEDMポップ” のようなものだと書かれています。
Satriani は興味深い比較をしながら、こう付け加えました。
「BERRIED ALIVE の音楽は、Tosin Abasi とかと同じくらい複雑だ。しかし、彼が何を選択し、どのように作曲するのか…それは他の誰とも違っている。人生は挑戦だ。そうして若いギタリストたちは、今この現代を生きることがどういうことなのか、私たちに教えてくれているんだ。美しいことだよ。インスタグラムを見に行って、スマホの前で誰かが僕が弾けないものを弾いているのを見るたびに、”やったー!” って思うんだ。誰かがギターを前に進めているんだからね!」
Satriani の賛辞に、Charles も応えます。
「Joe Satriani は偉大なレジェンドだ。僕が初めてギターを手にして “Surfing With The Alien” を弾いて以来、多大なインスピレーションを受けてきた人物からこんな優しい言葉をかけてもらえるなんて、信じられないほどうれしくて勇気づけられるよ!」

BERRIED ALIVE の芸術的な活動は、2012年に “音楽ベンチャー” という冒険的な形態で始まりました。それ以来、2人はレコードやシングルを精力的にリリースしています。現在までに、BERRIED ALIVE のカタログは、7枚のスタジオ・アルバムと30枚以上のシングルにまで及んでいるのです。その音楽はたしかに、トラップ、ハードロック、メタル、ヒップホップ、アヴァンギャルドの要素を取り入れたEDMポップという表現がぴったりなのかもしれません。バンドの大胆不敵で感染力のある楽曲、まばゆいばかりの音楽性、そしてシアトリカルなセンスは、YouTubeの総再生回数950万回、Spotifyのリスナー数12万人以上という数字に直結し、多くのリスナーを魅了しています。そして、Satriani のみならず、RAGE AGAINST THE MACHINE の Tom Morello, AVENGED SEVENFOLD の Synyster Gates, MOTLEY CRUE の Tommy Lee といったアイコンたちからの喝采までも集めているのです。
「僕たちは普段、いつもギターを弾いているわけでもなく、ただ好きな音を見つけているだけなんだ。ギターで音を模倣する方法を学んだから、音を見つけたら、それがどんな音なのか、たとえクレイジーな音のドラムか何かであっても、それを自分なりに再現することができる。
自分自身や自分たちに対して批判的になるのは好きではないんだ。厳しいやり方は健康的じゃない。僕はギターに3時間、ボーカルに3時間、作曲に2、3時間、マーチャンダイズやソーシャルメディアに2、3時間といった具合に。グッズの注文もすべてこなさなければならない。ギターを弾いているだけじゃなく、何かを作り、リハーサルをし、人々とつながる。運動などで心身の健康に気を配りながらね。1日の中で少しずつでもすべてのことをやっていれば、終わる頃にはかなり満足感があるし、自分を過小評価しなかったように感じる」

重要なのは、彼らがただ驚異的で “リディキュラス” なバンドであるだけでなく、”音楽ベンチャー” という形態をとっている点でしょう。BERRIED ALIVE は、冒険的な音楽と多感覚的なグッズの厳選された世界を構築していて、最近ではビール会社との提携までも行っています。
「空港のレンタカーで、カウンターのお姉さんにおすすめのお店を聞いたんだ。彼女は Heathen Brewing を勧めてくれた。料理も雰囲気もビールも気に入った。数年後、彼らから連絡があり、ビールのコラボをしないかと誘われた。僕たちは彼らの醸造所で会い、数ヶ月かけてすべてのロジスティクスを考え、ビールを造った。かなりクレイジーだったよ!
乳糖を混ぜて、ろ過した後の穀物をすくい取って…僕たちがワインやシャンパンが好きだと知っていたので、自家ぶどう園のぶどうを収穫してくれて、自家栽培のぶどうを使うことができた!醸造所の文化にも本当に感化されたね。みんな協力し合い、助け合うことを厭わないから、僕が音楽の世界で経験してきたことと比べると新鮮だ。Heathen とも将来的にもっとコラボできる可能性がある。そこから生まれたビールの名前が、アルバム “The Mixgrape” にちなんでいるんだ」
マーケティング用語で言えば、BERRIED ALIVE 社は気まぐれでカラフルなライフスタイル・ブランドであり、彼らが提供する商品メニューは拡大し続けているのです。ただし、創業者である Caswell 夫妻は、それほど計算高くはありません。ジャンルにとらわれない音楽、遊び心がありながらも高級感のある服、巧みなマーケティングのアイデアの裏には、自由奔放な芸術的対話がつねにあります。
「僕たちは聴かれて、着られて、berry だけに味あわれるものなんだ (笑) 。すべての感覚にクリエイティブなものを提供したいんだよ!最近、友人が DEFTONES のコンサートに行ったとき、少なくとも10人以上の人が BERRIED ALIVE のグッズを身に着けていて、とても目立つから気づいたと言われてね。たしかに目立つ!僕たちはあまり外に出ないから、反響を知るのはとても楽しいよ」

BERRIED ALIVE の服は明るくポップで遊び心があり、常に人気のあるイチゴと十字架のデザインがトレードマークです。Supreme を彷彿とさせる高級ストリートウェア・ラインとして作られていますが、それは夫妻の甘く歪んだ心と密接に結びついているのです。
2人は、曲作り、服のデザイン、商品ラインにそれぞれ意見を出しながら、流れるようにいつも一緒に創作しています。Charles は、BERRIED ALIVE の楽曲のプロデュース、ミックス、マスタリングを担当し、ブランドとバンドの予算を洋服や没入型ビデオ、将来の作品に充て、Kaylie が歌詞、服のデザイン、ベースラインを担当し、一緒にマーケティング・コンセプトを考えています。実は、そうした阿吽の呼吸には確固たる理由がありました。
BERRIED ALIVE の幻想的な世界のはじまりは、おとぎ話のような出会いにまでさかのぼります。2人が出会ったのは中学1年生のときでしたが、付き合い始めたのは高校に入ってからでした。付き合い始めて早々、Charles は Kaylie がファッションの溢れんばかりの才能と適性を持っていることに気づいたのです。
当時、Charles はバンドやツアーで演奏するテック・メタル・ギターの魔術師 (あの REFLECTIONS にも在籍していた) でしたが、バンドでのドラマや苦労から離れ、孤独なアーティストへと進化していきました。そんな中で、BERRIED ALIVE という音楽団体は当初、Kaylie が提案したサイドプロジェクトのようなものだったのです。
「名前は当時のメタル界にあったダークな名前をもじったダジャレのようなものだったわ。私は芸術としての服がずっと好きだったの。私たちは本当に小さな町の出身で、そこではみんな同じような服を着ていた。そこで私が着ている服について人々が話しているのを耳にすることがあって、それは必ずしも良いことばかりではなかったのよね。でも、服装は自己表現で、人と話す前にその人について知ることができる大事なアイデンティティ。同時に、いつでも脱ぐことができる、表面的なものでもある」

2人の美学はやがて融合し、既存のバンドTシャツを超えたユニークな商品ラインを開発しようと試みます。これが BERRIED ALIVE のアパレル・ラインとなっていきました。彼らがこだわるのは、”深刻になりすぎないこと”。
「僕たちがやっていることはとても深い要素を持っているけど、決して深刻に考えすぎることはない。深刻になりすぎると、どんなメッセージや音楽からも命が吸い取られてしまうと思うからね。それをうまくやっている芸術は他にもあるよ。ドラマを見ても笑える瞬間があるし、漫画を見ても絵が美しいと思う一方で笑ってしまう。
バレンシアガやモスキーノは、ファッションの世界では信じられないほどテクニカルな服でありながら、深刻になりすぎず、時には派手であることに感動するという素晴らしい例だね。派手でありたいときもあれば、ソフトでありたいときもある。それが僕たちが一番望んでいることで、結局は人々とつながりたいんだよ」
そうして今日に至るまで、BERRIED ALIVE は、ビジョンを持ち、それを追求するために努力した2人のマーケティング能力によって、自立したビジネスとなっています。彼らの成功はすべて、直感と芸術的ビジョンに基づくもの。
「レコード・レーベルを持ち、ツアーをするという伝統的な道を歩むことなく、自分たちの夢を叶えることができたのは、大きな成果だと思っているよ。僕たちが一緒にこの仕事をできるのはとても意義深いことだし、フルタイムの仕事になったのはとても特別なこと。とても感謝しているんだ」

実際、Charles がかつてのようにツアーとレコーディングで疲弊するメインストリームの音楽業界にまだいたとしたら、彼らの夢は叶わなかったでしょう。
「あのころ僕はツアー生活をしていて、いつも大事なものから離れていて、自分のベッドで寝たことがなかった。”Melon-choly” は、”スマホを見ながら、君に電話できたらいいなと思う” という一節から始まったんだけど、この曲を書いたとき、その生活の大変な部分をたくさん思い出していたんだ。
今はインターネットがあるから、内向的な人や、何らかの理由で家族と家にいなければならない人でも、アートを作ったり音楽を作ったりできる方法がある。ある意味 DIY でパンクだよね。Kaylie はヴィヴィアン・ウエストウッドが大好きなんだ (笑)。
僕もパンク・ロックがきっかけでギターを弾くようになった。そうやって楽器を愛するようになったし、ルールなんてクソくらえで、みんながやれと言うことの反対をやればいいんだと学んだ。それが BERRIED ALIVE の本質なんだ!僕たちがツアーやライブをやらないことは、ギター界の門番たちを怒らせた。でも僕たちは気にしていないし、それは何の問題にもなっていない」
結局、彼らが求めるのは好きな人たちとつながること。
「ギター世界を敵に回してもかまわないさ。僕らがレコーディングしたものをスピードアップしてるなんていう陰謀論者のいる世界なんだから (笑) 。ボブ・ディランじゃないけど “Go Where They’re Not”。年々、それが身に染みていると思う。僕はただ、歌がうまくなること、より強力な曲を書くこと、そして人々とつながることに集中するようにしている。目標のひとつは、音楽が上手になることとは関係ないレベルで、もっと多くの人とつながろうとすることだ。以前はCNCの機械工で、調剤薬局でも働いていたんだけど音楽とはまったく関係のない、信じられないほどクールな人たちによく会ったよ。音楽の趣味よりも、性格が一致する方が話したいと思うんだよな」

とはいえ、Charles はギターに対する情熱をなくしたわけではありません。
「スタイルは本当に様々。とてもアバンギャルドなんだ。頭の中にアイデアが浮かんだら、それを演奏できるようにするためにまったく新しいテクニックを編み出さなければならないこともある。ある日は超クレイジーなテクニックを駆使した曲を書き、次の日はアコースティックで伝統的な構成のシンガーソングライターの曲を演奏する。完全に自由な表現なんだよ。
ギターや音楽に何か新しいものをもたらすことは、僕にとって本当に重要なことなので、作曲や練習をするときは、今まであまり見たり聴いたりしたことのないようなものになるよう最善を尽くす。そうすることで、より多くの人に聴いてもらえるから。僕は自分の音楽にできる限りの価値を込めたいと思っている。そのためには、楽器をいじったり、練習したり、プロデュース・スキルを磨いたりすることが必要なんだ」
そして、音楽世界を改革し続けることにも熱心です。
「僕たちはエルトン・ジョンが大好きで、マーチャンダイジングをしながらよく聴いているよ。それから SPARKS!僕が彼らにインスパイアされたのは、80年代、もしかしたら70年代後半かもしれないけれど、彼らが自分でレコーディングする方法を学んだからなんだ。当時は前代未聞だった。今では誰でもできる。でも、そんな前例がなかった時代に努力を重ねたことは先進的だし、今もそれを続けているのは超クールだよ!
彼らは自分たちを改革し続けている。何年もかけて、いろんなフェーズやスタイルを作り上げてきた。Jimi Hendrix もそう。彼がギターで話すことに興味を持たせてくれた。それかOzzy Osbourne, PANTERA, BLACK SABBATH でメタルにのめり込んだ。今はあまり音楽を聴いていなくて、オーディオブックや瞑想的なものを聴いている。友人の曲がリリースされたときなどはチェックするけど、ほとんどは頭の中でクレイジーなものを作っているだけだよ!(笑)」

彼らの理想の音楽世界には、エゴも嫉妬も憂鬱もありません。
「僕たちは自分たちが世界最高のギタリストであることを証明したいわけじゃない。もし普通の仕事に戻らなくてはならなくなったとしても、僕らが作る音楽に十二分に満足しているし、お金を稼ぐためにそれを変えようとは思わないから、全然平気だよ。お金儲けのために自分たちの音楽を変えようとは思わない。
自分たちがやっていることにとてもポジティブなメッセージを持つようにしている。そしてみんなにも、自分たちがやっていることが何であれ、自分たちの芸術性や創造性だけで十分だと感じてほしいんだ。メタル世界では、ポジティブであることは一般的ではないけれど、それが僕たちの気持ちなんだよ」
では、BERRIED ALIVE にとっての “成功” とは?
「”ヒーローが友達になったとき、お前は到達したんだ “って父が言っていた。それは究極の成功だ。そもそも自分がやっていることをやりたいと思わせてくれた誰かに認められることがね。
そうしたサポートは、誰かにひどいことを言われたとしても、それを帳消しにしてくれる。最小限のストレスの中で、アートを通して自分たちを維持できることだけが望んでいたことなんだ。誰が見ているかわからないし、誰とつながるかもわからない。数年前には、こんな人生になるとは想像もしていなかったからね!」

BERRIED ALIVE Bandcamp

参考文献: CURIOSITY SHOT:Berried Alive | Feature Interview

OUTBURN:BERRIED ALIVE: In Praise

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHAOS OVER COSMOS : A DREAM IF EVER THERE WAS ONE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RAFAL BOWMAN OF CHAOS OVER COSMOS !!

“As a Musician, I Am Definitely In The “More is More” Camp – For Me, It’s a More Exciting Approach, And It Appeals To Me More In Terms Of The Energy It Gives, The Emotions It Evokes.”

DISC REVIEW “A DREAM IF EVER THERE WAS ONE”

「ミュージシャンとしての僕は、間違いなく “More is More”派だよね。 僕にとってはそれが、よりエキサイティングなアプローチだし、エネルギーや感情を呼び起こすという点で、より魅力的なんだ。時々、テクニカルな演奏には感情が欠けているという意見を耳にすることがあるけど、僕はそうした意見には強く反対だよ。もっと広い視野で、ベートーヴェンやショパンの曲の音符の多さを聴いてみてほしいね!”More is More” タイプの音楽は、時に難易度が高くなるけど、それはそれでいいことだと僕は思う。だからこそ、時間をかけて聴く価値があるし、注意深く何度も聴けば新たな発見がある」
“Ridiculous”。近年、海外のメタル批評においてよく使用される言葉です。直訳すると、馬鹿げたとか馬鹿らしいでしょうか。しかし、ほとんどの場合、彼らの “リディキュラス” とは褒め言葉で、むしろ絶賛です。つまりそこには、常識を超えた、今までになかった、未曾有のという付加価値が込められているのです。
ポーランドのテクニカル・メタル CHAOS OVER COSMOS も、そうした “リディキュラス” なバンドの一つ。音符と音符の間の空白をすべて埋め尽くす、宇宙空間の無酸素状態にも似たテクニックの混沌。曲の中にどれだけの音符を詰め込むことができるのか?そんなギターの宇宙実験室からリフは無限に湧き出します。ペトルーシ、ロメオ、アバシ、ホールズワース…そう、インタビューに答えてくれた Rafał Bowman のギタリズムは、確実にそうした “More is More” 派においても新世代の嗎を感じさせてくれます。
ギターから噴出する、宇宙船が天体を飛び交うイメージや、ホバークラフトがブレードランナーのような超巨大都市を疾走するイメージが、シンセサイザーの大海に溺れることでSFメタルの最新形態をアップデート。ここにあるのは、例えば ARCHSPIRE や LORNA SHORE のような、”リディキュラス” なモダン・メタル。
「インスタントな文化やSNSは僕には絶対に合わない。君が言うような30秒のクリップは知っているし、時には面白いものでさえある。だけどね、僕の知る限り、切り抜き動画は複雑な形の全編の作品、特にプログレッシブなもの、多くの異なるパートで構成され、思慮深く、技術的に高度なものには決してかなわないし、近づくことさえできないよ。なぜなら、まだ世界には、複雑な形式を求めるリスナーや、曲だけでなくアルバム全般を注意深く聴きたいリスナーが常に存在することを知っているからね」
実は、Rafał のギター・テクニックが圧倒的すぎることで、海外の掲示板などではかつてのイングヴェイよろしく、 “フェイクでは?” “スピードを下げて録音しているのでは?” という疑念まで生じています。それは、このご時世に Rafał が演奏動画をアップしないことにも起因しています。
ただし、Rafał が SNS や切り取り動画と距離を置いているのは、そうした “インスタント” な世界が肌に合わないから。動画を撮り、SNSにアップし、いいねをもらい、その場限りの無意味なやりとりを交わす。そんな時間こそが、Rafał にとっては悪い意味での “リディキュラス” そのもの。それよりも彼は、テクニックと創造性に満ちた、昔ながらの壮大な “プログ・メタル”、その複雑でしかし好奇心に溢れた宇宙を探索したいと願うのです。
今回弊誌では、Rafał Bowman にインタビューを行うことができました。「僕は音楽以外のインスピレーションも重要視しているんだ。だから、村上春樹は僕にとって重要な作家なんだよ。彼はゲームやアニメ、SFとは全く関係ないけれど、彼の美学や作品から喚起される感情は僕の心に強く響くんだ」どうぞ!!

CHAOS OVER COSMOS “A DREAM IF EVER THERE WAS ONE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SADUS : THE SHADOW INSIDE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JON ALLEN OF SADUS !!

“We Didn’t Want To Get Board Playing The Same Songs So We Challenged Ourselves To Learn Stuff That Was Hard To Play To Keep Us Interested.”

DISC REVIEW “THE SHADOW INSIDE”

「当時はマスタード (テクニック) をデリ (メタル) に持ち込むバンドはあまりいなかったよね!(笑) 僕たちは、当時流行していた平凡なメタルのスタイルから自分たちのスタイルを切り離したかったんだ。それで、いわば限界に挑んだわけさ」
今でこそ、メタルといえばテクニカル、ストイックな技術の修練と自己研鑽が生み出す音楽というイメージが定着していますが、かつては必ずしもそうではありませんでした。もちろん、華やかなギターソロや、リズミックな瞬間はありましたが、楽曲を通して知性と異端を貫いたバンドはそう多くはありませんでした。
「”Swallowed in Black” は、練習に練習を重ねた全盛期に作ったからね。週7日、1日4~6時間練習していたよ。だけど、同じ曲ばかり演奏するのは嫌だったから、自分たちを飽きさせないために難しい曲に挑戦していたんだ」
ではなぜ、メタルはテクニカルで、知的で、異端な道に進んで行ったのでしょうか?あの百花繚乱なベイエリアでも、抜群のテクニックと推進力を誇った SADUS のドラマー Jon Allen はその答えを知っていました。
まず第一に、90年代に入って既存のメタルが時代遅れとなり、売れなくなったこと。売れなければもちろん、知名度を上げるために典型を脱出しなければなりませんし、平凡なままではジリ貧です。SADUS は当時、より限界を極め、テクニカルで複雑怪奇になることで、終焉を迎えつつあったメタル・パーティーからの差別化と進化を目指したのです。
同時に、同じリフや同じリズム・パターンを繰り返すことが多かった既存のメタルは、何度も演奏していると飽きてしまうと Jon は語っています。これは実に興味深い証言で、90年代初頭に枝分かれし、複雑化し多様化したメタル・ツリーの原動力が、ただリスナーへ向けてだけではなく、アーティスト自らの表現や挑戦のためだったことを示しています。
「プログ・スラッシュやテクデスを意図的にやろうとしていたわけじゃないんだ。僕たちはただ、70年代と80年代のアイドルから影響を受けたものを、自分たちの音楽で輝かせるためにそうしたヘヴィな枠組みを使っていただけなんだよ。有名どころだと、メイデン、ラッシュ、サバス、ジェスロ・タル、プリーストみたいなバンドの影響をね」
DEATH, CYNIC, ATHEIST といったバンドと並んで、テクニカル・メタルの開拓者となった SADUS にとって、奔放で自由な枠組みであったスラッシュやデスメタルは、特別都合の良い乗り物でした。悲鳴を上げるボーカルの狂気、プログレッシブな暴走、フレットレスのうねり、限界を突破したドラム、拍子記号の乱発。
規格外のメンバーが集まった SADUS は当時、前述のバンドたちほど人気を得ることはありませんでしたが、前述のバンドたちよりも奇々怪々でした。だからこそ、その壁を壊す “黒い衝動” が徐々に認められて、今では伝説の名に相応しい存在となりました。
「Steve Di Giorgio は他のプロジェクトで超多忙だったんだけど、僕たちはボールを転がし続け、サダス・マシーンを起動させなければならなかった。それでも、Steve を作曲とレコーディングのために招いたんだけど、今回はうまくいかなかったんだよね。それで、Darren と僕は前進し続けることにしたんだ」
2006 年以来となる新作 “The Shadow Inside” には、バンドの顔であったベーシスト、フレットレス・モンスター Steve Di Giorgio は参加していません。それでも、彼らは今でもスラッシュのやり方、メタルの壁の壊し方をしっかりと覚えています。
SADUS がかつてのような高みに到達する力があるのかという疑問符は、オープナーの怒涛なる一撃 “First Blood” から一掃されます。猫の目のリズム・チェンジこそ減りましたが、それを補ってあまりある洗練と強度。”The Shadow Inside” は年齢が単なる数字に過ぎず、好きと挑戦を続けることの強みを再度、力強く証明しました。
この作品には、Darren と Jon がなぜ “Tech-metal” の先陣を切ったのかを再確認させる大量のエネルギーと興奮が詰まっています。リフの饗宴、リズムの混沌、冷徹な知性に激しさの渦。スラッシュとデスメタル、2つの祭壇を崇拝する者にとって、SADUS は今も揺るぎない司教に違いありません。
今回弊誌では、Jon Allen にインタビューを行うことができました。「大事なのは、人生の決断の一点において、ソーシャルメディアを気にしないことだ。君の中にある影は、人生において何が真実なのかを見抜き、指摘することができるのだから」 どうぞ!!

SADUS “THE SHADOW INSIDE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COSMIC JAGUAR : THE LEGACY OF THE AZTECS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SERGIO LUNATICO OF COSMIC JAGUAR !!

“We Didn’t Want To Be Another Primitive And Dull Thrash Band That Sings About Booze, Sex, Zombies, Partying, Social Problems And Other Hackneyed Topics.”

DISC REVIEW “THE LEGACY OF THE AZTECS”

「明日何が起こるかわからない、とても危険な状況だったからこそ、できる限りリハーサルを重ねた。結局、4ヶ月でフルアルバムをゼロから作曲し、レコーディングしたんだ!目的が見えていれば、障害は見えなくなるものだよ」
ウクライナへ向けたロシアの非道な侵略が始まって、すでに一年半の月日が経ちました。戦火はおさまることなく混迷と拡大を続け、ウクライナの人々にとって当たり前にあった平和や安全という当たり前の生活は遠のくばかり。しかし、逆境にあってこそ、ヘヴィ・メタルのレジリエンス、反発力や回復力は輝きます。明日全てが失われてしまうかもしれない。そんな限界の非日常において、ウクライナの COSMIC JAGUAR は自らの生きた証をここに残しました。
「音楽の制作は、たとえ平和な時代であっても難しいものだ。なぜなら、たいていは自分の作品が聴衆からの反応やフィードバックをほとんど得られず、また自分の目標を実現するための手段を見つけることも難しいからね」
逆境を跳ね返す力こそ、ヘヴィ・メタルの真骨頂。長年、BESTIAL INVASION で活動してきた Sergio Lunatico はカルト的な人気を得るものの、世界的な名声までは程遠い状況でした。しかし、戦争の勃発と同時に一念発起し結成した COSMIC JAGUAR は、第三世界のメタル、伝統音楽を抱きしめたメタル侵攻の波に乗り、見事に世界的な注目を集めつつあります。DEATH, ATHEIST, VOIVOD, CYNIC, SADIST, CORONER, PESTILENCE といった “あの時代” の特別なテクニカル・メタル、その神秘性が見事にアステカの神話と噛み合った祭壇のメタル・サウンドは、ウクライナから海も山も大陸も超えて、遥かテノチティトランにまで鳴り響くのです。
「僕たちは、酒やセックス、ゾンビ、パーティー、社会問題など、陳腐なテーマを歌う原始的で退屈なスラッシュ・バンドにはなりたくなかった。古代世界の歴史が好きな僕が選んだのは、アステカの文化と神話だった。僕の記憶では、メキシコの地元バンドを除いて、このテーマを使うスラッシュ・バンドはほとんどなかったからね。面白いのは、多くの人が僕らをメキシコのバンドだと思っていることで、彼らに言わせれば、僕らがアステカの精神と雰囲気を非常にうまく伝えているからなんだ。そして、僕らがウクライナ出身だと知ると、彼らはいい意味で認知的不協和を感じるんだ!」
そう、あのメタル・エジプト神 NILE の名を挙げるまでもなく、ヘヴィ・メタルに国境はありません。メタルの世界でアーティストは、好きな題材を好きなだけ深堀りすることが許されています。日本人にとってのオオカミのような存在である、ジャガーをバンド名に冠するのも彼らのメキシコ愛がゆえ。アヴァンギャルド/テクニカル・スラッシュと表現するのが最適なその多彩さは、ラテン、ファンク、ジャズ、デスメタル、ブラックメタル、ワールド・ミュージックとまさにコズミックな拡がりを見せながら、アステカの民族楽器と女性ボーカルでリスナーをアステカの神殿へと誘います。そうして、かの文明の独特な死生観や終末信仰は、未だなお争いを続ける人類への警告として語り継がれるべきなのかもしれませんね。
今回弊誌では、Sergio Lunatico にインタビューを行うことができました。「ウクライナにおける戦争において、今は安全な場所などなく、いつでもミサイルやドローンに捕捉される可能性があるため、毎日が自分や愛する人にとっての最後の日となりうる、そう思って生きているよ。だからこそ僕たちは生き残るためにあらゆる方法を試しているんだ」 どうぞ!!

COSMIC JAGUAR “THE LEGACY OF THE AZTECS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PERSEFONE : METANOIA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARLOS LOZANO OF PERSEFONE !!

“I Remember I Read “Hagakure”, “Dokkodo”, “The Book Of Five Rings” And Works From Mishima Yukio. There Was Something On Those Books That Resonated With Me Since a Very Young Age And Made Me Look To Japan In a Very Personal And Respectful Way.”

DISC REVIEW “METANOIA”

「僕にとって日本は、幼少の頃から大きな存在だった。もちろん、アニメやゲームも入り口だったけど、やがて武道を嗜み、”葉隠”, “独行道”, “五輪書”、そして三島由紀夫の作品を読んだと記憶している。これらの本には、幼い頃から心に響くものがあって、とても個人的かつ尊敬の念を持って日本を見つめさせてくれたんだよね」
欧州のメタル侍。そう称したくなるほどに、PERSEFONE の生き様は彼らが深く薫陶を受けた日本の武士道を喚起させます。世界でも最小の国の一つアンドラから始まって、ビッグレーベルとの契約、Metal Hammer の表紙を飾るといったサクセスストーリーも、すべてはただ、 音楽的な”より善く” の探究を “潔く”、脇目も振らず続けた結果でしょう。
「どこの国でも2022年はストリーミングが主流だから、コンセプト・アルバムを作ることはマーケティング的に最も賢いやり方ではないかもしれないよね。でも、僕たちはただ音楽が好きなんだよ。最初から最後までリスナーに本物の音楽体験を提供したい。それが、僕たちにとっての PERSEFONE の音楽だから」
ストリーミング全盛の世の中において、壮大なコンセプト・アルバムにこだわり続ける。実際、主流に贖い自らの “正義” を通すそんな彼らの武士道こそ、PERSEFONE が世界に認められた理由の一つ。さらに彼らは、現代のプログ・メタル界において、おそらく他のどのバンドよりも破壊的で残忍なテック・デスメタルと、荘厳さ、スピリチュアルな詩歌を巧みに組み合わせることによって、その存在を際立たせているのです。心が洗われるような荘厳美麗の刹那、襲い来る津波のようなテクニカルの牙。その対比の魔法は中毒になるほど鮮烈で、PERSEFONE だけに備わった一撃必殺の抜刀術に違いありません。
「”Metanoia” は、人間の中の深い変化、痛みと意思よる変化についての作品で、個人の闇の奥深くに潜り、もはや役に立たないもの全てを手放し(”Katabasis”)、新しい存在として再び立ち上がる(”Anabasis”)ためのアルバムなんだ」
“悔い改める” というギリシャ語のタイトルが示すように、”Metanoia” は、主人公が精神的なメルトダウンに陥り、そこから抜け出すまでの道のりを辿る壮大な物語。地獄から抜け出すための第一歩は、そこに問題があることを認めること。つまりそれは、心からの内省なのかもしれませんね。前作 “Aathma” では、CYNIC の Paul Masvidal が物語の案内人を担当しましたが、今回は LEPROUS の Einar Solberg が担当。”Pitsfall” という “落とし穴” から蜘蛛の糸をたどって抜け出した Einar ほど、その大役に相応しい人はいないでしょう。
新たなプログレッシブの声による精神世界の対話が終わると、現実という地獄が突然解き放たれます。”Katabasis” の根幹を成すのまさには灼熱のリフワーク、地獄の業火。この曲の優美で繊細な瞬間は、強引に、しかし巧みに、残忍さや複雑さと対になっています。こうした繊細と破壊の戦いは、レコードに類い稀なるダイナミズムと流動性をもたらし、気が遠くなるような主人公の精神的苦痛を伝えるのみならず、リスナー自身の体に直感的な苦痛を植え付けていきます。
燠火に彩られた牧歌的なピアノの旋律がリスナーを迎え入れる “Leap of Faith” は、驚くべきサウンド体験だと言えます。彼らはもはや、心をゆさぶる音楽を演奏するだけではなく、芸術を通してカタルシスや超感覚までをも生み出せることを示した異能のインスト作品。それでも、PERSEFONE は PERSEFONE にしか飼いならすことのできない内なる神獣を宿していて、その発火を待ち焦がれる召喚獣の嗎が、複雑さと凶暴性をすぐさま呼び寄せていくのです。
「僕にとっては “Spiritual Migration” の時代は個人的に難しい時代だった。だからライブで楽しく演奏していても、多くの人が好きなアルバムだとわかっていても、あのアルバムを聴くのは結構キツいものがあるんだよ。だから、”Consciousness pt3 “を作るために “Spiritual Migration” のリフを再利用することは、ある種のセラピーだったんだ」
作品の後半で、 Spiritual Migration” を歌詞や楽曲の引用という形で数多く取り上げたのは、Carlos にとっても地獄から舞い戻るためのセラピーでした。トラウマを乗り越え、生まれ変わるために再訪した過去こそが “Consciousness Part 3″。もしかするとこの楽曲は、DREAM THEATER が20年以上も前に “The Dance of Eternity” で成し遂げたプログとインストの魔法を現代に蘇らせるタイム・マシンなのかもしれませんね。”Spiritual Migration” のオープニングを飾る独特のリズムパターンと、PINK FLOYD のセグメント、そしてあの “Flying Sea Dragons” で登場した海龍の如きタッピングで締めくくられる楽曲はあまりにも秀逸な復活の音の葉。
そうしてこの長い精神の旅路は、前作を彷彿とさせる組曲で終焉を迎えます。”Anabasis” 三部作において彼らは、ジャンルの壁や先入観をいとも簡単になぎ倒し、技術的な複雑さと感情的なサウンドスケープの奇跡的な婚姻によって映画のような没入感を生み出すことに成功しました。いつかの ANATHEMA のように、長く暗い内なる夜は永遠にも思えるが、太陽は確かに昇るのだと語りかけながら。優しく、静謐に。
今回弊誌では、Carlos Lozano にインタビューを行うことができました。「音楽は、僕たちの周りで起こるすべての狂気から、僕たちを逃れさせてくれるよね。僕たちは、世の中で起こっているすべてのことから、できる限り音楽を遠ざけておこうとしているんだ」どうぞ!!

PERSEFONE “METANOIA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCHSPIRE : BLEED THE FUTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN LAMB OF ARCHSPIRE !!

“As a Band We Always Try To Write Music That Is About 10% Above Our Abilities, So That Means Everyone Is Constantly Pushing Themselves To Improve.”

DISC REVIEW “BLEED THE FUTURE”

「”Stay Tech” という言葉は、僕たちのバンドが目指すものをすべて体現している。だから、”Stay Tech industries” という想像上の会社名からこの言葉を残して、クールなロゴを作ってもらったんだよ。今ではバンド全員がこの言葉をタトゥーにしているし、同じタトゥーを入れている人にもあちこちで会うんだよ!」
STAY TECH!テクニカルでいようぜ!をモットーとするカナダのテクデス機械神 ARCHSPIRE。世界で最も速く、世界で最もテクニカルで、世界で最も正確無比なこの “メタル” の怪物をシーンのリーダーに変えたのは2017年の “Relentless Mutation” でした。アルバムのリリースを終え、OBSCURA の日本ツアーに帯同した ARCHSPIRE。口をあんぐり開けて立ち尽くし、彼らを見つめていた多くの観客を筆者は目撃しています。それはまさに、新時代の到来を告げる啓示といった類のライブ・パフォーマンスでした。
「バンドとして、僕たちは常に自分たちの能力の10%くらい上のレベルの音楽を書こうとしているんだ。つまり、このバンドでは誰もが常に自分を高めようとしているんだよ」
そうして、名優ジェイソン・モモアを含む何万もの新たなファンを獲得し、地球上をツアーしてきた ARCHSPIRE は、あの画期的なアルバムをさらに先鋭に研ぎ澄まし、別の次元へと到達させました。”Bleed The Future”。文字通り、血反吐を吐くようにして紡ぎ出した彼らの未来は、目のくらむようなテクニックと、複雑怪奇をキャッチーに聴かせるバンドの能力が光の速さで新たなレベルへと達しています。
「僕にとって8弦ギターはほとんど6弦と同じにしか見えないから、コード・シェイプやスケールはすべて10代の頃に学んだものを流用している。相棒の Tobi も8弦を弾くようになったから、僕たちは完全に “音域の広い” バンドになったんだ」
“Bleed The Future” という無慈悲な殺戮マシンの心臓部は、Tom Morelli と Dean Lamb の8弦ギター。雪崩のように押し寄せるブラスト・ビートと、ワープ・スピードで飛び交うテクニカル・エクスタシーを背に、5足と5足の超速スパイダーはアクロバティックにメロディックに指板の宇宙を踊り狂います。二人にとって、きっと6弦の指板は窮屈すぎるのでしょう。一方で、趣向を凝らしたクリーンなパッセージも秀逸。ともかく、他のバンドが2つの音を出す間に、彼らは少なくとも5つの音を繰り出します。
「デスメタルは非常に過激な音楽だから、リスナーが疲れずに “多くのもの” を聴くことは難しいと考えているんだ。だから僕たちの意見では、32分くらいがちょうどいいんだよね」
32分という短さに、想像を絶するスピードで、長い歌詞を含めて様々なものが詰め込まれた “Bleed The Future”。Tech-metal の世界では非人間的なテンポで演奏するバンドも少なくありませんが、さすがにこれは別物です。クラシックの美麗美技と獰猛超速のメタロイドを行き来する “Drone Corpse Aviator” がアルバムの招待状。BPM360 のタイトルトラック “Bleed The Future” で、ボーカリスト Oli Peters がさながら Busta Rhymes のように重たい言葉の弾丸を正確に連射すれば、モダン・メタルメタル界最速ドラマーの一人として知られる Spencer Prewett は、”A.U.M” で BPM を400まで到達させるだけでなく、千手観音の威光を纏いながら Gene Hoglan や Tomas Haake と同等の才能を証明します。
“A.U.M”, “Reverie on the Onyx” といった楽曲の、サンプリングやクラシカルなマテリアルをメインストリームやヒップホップのやり方で吸収し、デスメタルに昇華させる ARCHSPIRE の哲学は実に新鮮で傑出していますね。”Abandon The Linear’ で炸裂する Jared Smith のクラシカルかつグルーヴィーなベースソロも極上。そうやって彼らはフックやキャッチーな音の葉を多種多様に盛り込んでいくのです。
カナダはこれまでにも優れたテクデスの綺羅星を産み落としてきました。CRYPTOPSY, GORGUTS, BEANEATH THE MASSACRE, BEYOND CREATION…その中でも APCHSPIRE は最高傑作にして、テクデス・ルネサンスの最先端に位置しているように思えます。現時点で、彼ら以上のリーダーは存在しないでしょう。威風堂々、この威厳。この異次元。
今回弊誌では、ギター・マスター Dean Lamb にインタビューを行うことができました。「僕たちのスタイルにラップを加えることは、最初からの計画だったんだ。僕たちは皆、Tech N9ne をはじめとするスピード系ラッパーが大好きだから、2009年に Oli をバンドに誘ったときにラップに影響を受けたデスメタルというスタイルにしたいという話をしたんだよね」 Dave Otero のプロダクションも完璧な一枚。”メロディックなボーカルなんて絶対にやらない”。どうぞ!!

ARCHSPIRE “BLEED THE FUTURE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OPHIDIAN I : DESOLATE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Daníel Máni Konráðsson OF OPHIDIAN I !!

“Icelandic Music All Shares a Similar Undertone That Probably Has Everything To Do With The Influence Of The Country Being Essentially All-consuming. There Are Feelings That Our Country Evokes Within Everyone That Experiences It, And Those Feelings Are Very Easily Translated Into Art Of All Sorts.”

DISC REVIEW “DESOLATE”

「ここでの生活には苦難や浮き沈みがつきものなんだ。アイスランドの音楽はどれも同じようなトーンを持っているんだけど、それはおそらく、この国がもたらす影響が本質的にすべてを包み込んでいることと関係しているんだ。この国を体験した人たちの中には、この国が呼び起こす感情があって、その感情はさまざまな芸術に変換されているよ」
アイスランドほど自然の恩恵と脅威を等しく享受する場所は世界中でもほとんどないでしょう。火山活動が活発で、大部分が凍りついた不毛の島国。しかしその威容は壮観を通り越して荘厳で、馬や羊、新鮮な魚と魅力的な特産品はどれも自然の恩恵を受けています。ゆえに、SIGUR ROS, Bjork, SOLSTAFIR といったアイスランドの音楽家は静謐で、荘厳で、美しく、しかし時にダークで荒涼としたアトモスフェリックな世界を好む傾向にあるのでしょう。OPHIDIAN I はその両極のコントラストを一層際立たせるテクニカル・デスメタルの英俊。
「実はこのアルバムの歌詞は、僕たちが生まれ育った世界とよく似た世界を舞台にしているんだ。風景や厳しい天候という点では似ているんだけど、それでも全く異なるものなんだけどね。
多くの点で、この背景は僕たちがバンドのサウンドについて感じていることでもあるんだよね。非常にアイスランド的でありながら、外国的でもあり、僕たちの世界とほとんど別のパラレル・ワールドを並置したようなサウンドだよ」
OPHIDIAN I がアイスランドの光と陰をことさら強調できるのは、さまざまな影響を並行世界としてその音楽に住まわしているからなのかもしれませんね。もちろん、彼らの根幹にあるのは NECROPHAGIST, OBSCURA, GOROD, PSYCROPTIC, SPAWN OF POSSESSION といったテクニカル・デスメタルの遺伝子ですが、IN FLAMES や DARK TRANQUILLITY の叙情と哀愁、さらに OBITUALY や MORBID ANGEL の地を這うような混沌まで、すべてをその血肉とするからこそ起伏に富んだ故郷の自然を深々と描き出せるのでしょう。
「テクニカルな要素を活用することで、優れたソングライティングの特性をさらに高めることができるんだよね。だから、僕たちは限界を超えることを目標にしていたとも言えるけど、そこにスピードや難易度といった明確な方向性はなかったんだよね。とはいえ、結果的にはとても速く、とてもテクニカルなアルバムになったんだけど」
つまり、OPHIDIAN I の目標は、記憶に残るテクデスの創造でした。NECROPHAGIST の “Epitaph” 以来、もしくは OBSCURA の “Cosmogenesis” 以降、テクデス世界には究極の技巧とスピードを求める有象無象が大量に現れては消えていきました。その中に、記憶に残るリフやメロディーがいったいいくつあったでしょうか?そんなビシャス・サークルの中で、彼らはBPMやテクニックの限界を超えることで、作曲の完成度やリフのインパクトを向上させる離れ業をやってのけたのです。それは、究極の技術で究極のメロディーを引き出す極北の魔法。
氷河期の冬よりも混沌とした白銀に、赤々と燃え狂う噴火、そして穏やかな海と空の青。そう、”Desolate” の10曲はさながらジェットコースターのように、メロディーとフックをたずさえてアイスランドの全貌を描いていきます。
ビデオゲームのような8-bitアタック “Spiral To Oblivion”、フラメンコのアコースティックなイントロが胸を打つ “Captive Infinity”。サプライズや音の洪水から逃れる時間も巧妙に用意、最終的に技術はすべてメロディーへと集約されていきます。”Enslaved In A Desolate Swarm” は顕著ですが、テクデス天国カナダの MARTYR, BEYOND CREATION, ARCHSPIRE 譲りの知の構成力を磨いているのも実に魅力的ですね。
今回弊誌では、ギタリスト Daníel Máni Konráðsson にインタビューを行うことができました。「僕は、このジャンルにおいて演奏家の一面に拘りがあるんだ。僕たちは、プレイヤーや彼らの貢献に多大な敬意を払っているからね。このジャンルには、バンドやミュージシャンが常に向上しようとし、リリースするたびにより良い、より速い音楽を作ろうとする健全な競争意識があるんだから」 どうぞ!!

OPHIDIAN I “DESOLATE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CANVAS SOLARIS : CHROMOSPHERE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HUNTER GINN OF CANVAS SOLARIS !!

“As Far As Djent Goes, I Hate It. I Think It’s a Watered-Down, Trash Version Of Meshuggah That Captures None Of That Band’s Invention, Intensity, Or Imagination. That Whole Scene Can Drift Offer Into Oblivion, For All I Care.”

DISC REVIEW “CHROMOSPHERE”

「Djent に関しては、僕は嫌いだね。MESHUGGAH を水増ししたゴミのようなもので、あのバンドの発明、激しさ、想像力を全く捉えていないと思う。あのシーン全体が忘却の彼方へと流れていっても構わないと思っているよ」
ポリリズム、シンコペーション、変拍子の黄金比で、メロディー以上にリズムによって楽曲のイメージを決定づける Djent の登場は、プログレッシブ・メタルにとってある意味劇薬でした。低音の魔法と0000の麻薬はシーンを席巻し、フレッシュな空気を吹き込むと同時に、音楽やサウンドの定型化をも導いたのです。言いかえれば、一部の奇才が創造した方法論を機械的に当てはめる音楽のオートメーション作業は、それまでランダムに散発的に勃興していたプログ・メタルの奇々怪界を一掃するほどのインパクトと中毒性を秘めていたのです。
「”Chromosphere” は、僕たちがこれまでに制作したアルバムの中で、最もヘヴィーでアグレッシブな作品だよ。僕たちは、かなり具体的なインスピレーションのリストに基づいて作業したからね。MEKONG DELTA, WATCHTOWER, SIEGES EVEN, TARGET, TOXIK, REALM がそのリストに挙がっていた」
ただし近年、あの重苦しく突拍子も無いプログ・メタルの百鬼夜行は少しづつその歩みを再び刻み始めています。四半世紀ぶりに LIQUID TENSRON EXPERIMENT がもたらした鮮烈はまさしくその狼煙でしょうし、MEKONG DELTA, WATCHTOWER, TOXIK, CORONER, CYNIC といった伝説の魔人たちも再び彼らの法律で新たな闇に跳梁跋扈しつつあります。そして11年ぶりとなる新作を携えた歴戦の強者がここにまた一人。CANVAS SOLARIS の復活作、”Chromosphere” は明らかに80年代後半から90年代前半を席巻したプログ・メタルやテクニカル・スラッシュの DNA を色濃く受け継いでいます。
「ボーカルの要素を完全に排除してインストゥルメンタルにすることを決断したんだよ。2002年当時はかなりワイルドなアイデアだったね。今でこそ数多くのインストゥルメンタル・バンドが活躍しているけど、当時はまだ未開の地だったから」
実際、インスト世界でこれほどアグレッシブに、数学的に、それでいて雄弁に語りかけるメタル種族は、BLOTTED SCIENCE, SPASTIC INC, そして CANVAS SOLARIS の三雄くらいのものでしょう。壮大な組曲のような “Chromosphere” の中で最も強烈な楽器の祝祭は、10分以上の “Extrasolar Biosignature” と “Zero Point Field” に違いありません。
リフのしたたかな高揚感は F1 並のスピード感で複雑なリズムのサーキットを疾走し、うねるベースとパーカッシブなドラムのアスファルトにはシュレッドのエキゾーストノートが響き渡ります。ダークな雰囲気を照らし出すシンセサイザーのダンスはさながらナイトレースに差す光。そうして、混沌とした攻撃性とメロディのバランスを巧みにコントロールしながら、彼らはソラリスの陽のもとに緊張感を高め、解放し、シームレスに古のプログに咲いた自由を謳歌していくのです。メロディックを極めたギターハーモニーやコードのボイシングも非 Djent で実に独特。
今回弊誌では、Hunter Ginn にインタビューを行うことができました。「Nathan と僕は、インストゥルメンタル音楽を作り始めた頃、ミニマリズムに影響を受けた80年代のクリムゾンからインスピレーションを得ていたんだ。彼らのそのサウンドへの最も明確な賛辞は、”Cortical Tectonics” に収録されている “Interface” という曲で聴くことができるだろうな」 どうぞ!!

CANVAS SOLARIS “CHROMOSPHERE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INFERI : THE END OF AN ERA: REBIRTH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKE LOW OF INFERI !!

“Don’t Get Me Wrong, A Lot Of Bands Are Putting Out The Same Album Over And Over, And Rehashing Shit That Has Been Done For Years. This Is Really Doing Nothing For The Growth Of The Death Metal Scene. Incorporating Your Own Unique Flavor Is Key In Growing And Sustaining a Healthy Music Genre.”

DISC REVIEW “THE END OF AN ERA: REBIRTH”

ナッシュビルを居とするテクニカルデスメタルの抒情詩人 INFERI は、シンフォニックな情景描写と緻密な音章技巧を融合し、モダンなエクストリームミュージックの可能性とあり方を明示する特異点です。
ネクロマンサーを出自に命名されたバンド名が示すように、当初はゴーセンバーグスタイルとテクニカルな牙を邪悪にミックスしていた INFERI ですが、徐々に壮大なオーケストレーションと流麗なシュレッドをその看板として掲げていきます。その審美のキャンバスに、昂然たる神話の荘厳やダークファンタジーのストーリーを描くことでバンドは、モダンメタルの石碑へと自らの名を深々と刻むこととなったのです。
「ジャンルの限界は毎日のように拡張されている。ミュージシャンが自らのユニークなスタイルで音楽を作り続ける限り、そしてリスナーが飽きてしまわない限りね。」
ギタリスト Mike Low はテクニカルデスメタルに潜む無限の可能性を信じて疑いません。そして、その言葉通り昨年リリースされた “Revenant” は、シーンの絶賛と共にジャンルのリミットを解除する貴重な “鍵” となったのです。
ARSIS の James Malone と THE BLACK DAHLIA MURDER の Trevor Strnad。INFERI のメンバーが長年愛聴し、バンドのサウンドを形成する骨子となった2人の偉人をゲストに迎えたレコードは、故にファンの望むテクデスヘヴンを体現しつつ、一方で自らのユニークスキルであるストリングスやオルガンの崇高神秘とギターロマンを究極まで突き詰めたマイルストーンとなりました。
それは「独自のユニークなフレイバーを加味することが、シーンの成長とヘルシーなジャンルを保つための鍵だと言えるだろうね。」の言葉を己の手で証明する、クロスオーバーの正義だったのです。中でも、RHAPSODYも慄く死のプログレッシブ歌劇 “Thy Menancing Gaze”や、猫の目のアヴァンギャルド “Smolder in the Ash” における開明性、斬新さは圧倒的でした。
バンドのアイデンティティーが具現化したのが、2009年にリリースされたセカンドアルバム “The End of an Era” であることは明らかでしょう。ダンテの “神曲” をモチーフにメロディーと複雑性のダンスを踊る先駆的なレコードは、現在の INFERI にとってまさに基盤となりました。
「僕たちは今回の試みでいくつか新たな要素や機材を持ち込むことが出来たし、オリジナルのレコーディングには現れていなかった新たな息吹を楽曲へ吹き込むことが出来たからね。」
前任ボーカル Sam Schneider の離脱に伴い、新進気鋭 EQUIPOISE の Stevie Boiser をリクルートし新体制で “The End of an Era” のリレコーディングを行なったのは、リリースから10年を経て成熟洗練したバンドの現在でその偉業を語り紡ぐため。
トレモロリフ、デュアルギター、オーケストレーション、アトモスフィアの階層が巧みに交差する偉大なデスメタルの神殿は、”前時代”を終結させるほどのクオリティーを誇りながら、ノウハウの欠如、プロダクションの未熟さ、知名度の低さにより受けるべき賛辞を受けていなかったと言えるでしょう。
そうして全ての弱点が克服された “The End of an Era: Rebirth” を一つの端境に、INFERI は文字通り新たな生を得るはずです。「僕たちはすでに次のアルバムに着手しているんだ。君が言ったような、ファンが望むであろう要素を保ちながら、さらに僕たちのサウンドを拡大するのが本当に楽しみなんだ。」リスナーも新たな叙事詩に封じられる音の葉を待ち侘びます。
最後に、ENFOLD DARKNESS, EQUIPOISE, WARFORGED, FLUB, AUGURY といった Tech-metal の特異点を呼集しシーンを牽引するレーベル The Artisan Era が、INFERI のギターチームによって運営されていることは記して置くべきでしょう。
今回弊誌では、Mike Low にインタビューを行うことが出来ました。「多くのバンドは同じような作品を何度も何度も繰り返し作って、クソみたいな焼き直しを何年も生み出し続けているんだよ。こういった行為は、デスメタルシーンの成長に本当に何も寄与しないんだ。」どうぞ!!

INFERI “THE END OF AN ERA: REBIRTH” : 9.8/10

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