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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DRAGONCORPSE : THE DRAKKETH SAGA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARDY LEITH OF DRAGONCORPSE !!

“We Expressed That Clean Vocals Being Underutilised And Even Ridiculed In Heavier Music In General Was Missing Out On a Whole World Of Possibilities.”

DISC REVIEW “THE DRAKKETH SAGA”

「僕たちは、自分たちが影響を受けたものをしっかりとその名に刻んでいるんだよ。DRAGONFORCE をはじめとしたパワーメタルからの多大な影響。そして WHITECHAPEL や CANNIBAL CORPSE をはじめとするデスメタルやデスコアからの影響。だから、両方の名前を統合するべきだと思ったんだ」
DRAGONFORCE の名を挙げるまでもなく、天翔るドラゴンはファンタジックなパワー・メタルの代名詞であり象徴です。一方で、”Corpse” “死体” は、CANNIBAL CORPSE を引き合いに出すまでもなく、デスメタルの根幹であり原点。その2つの単語を安直なまでに大胆に繋ぎ合わせたオーストラリアの新鋭 DRAGONCORPSE の登場は、A7X が語るようにヘヴィ・メタルが “大胆な” 進化を厭わなくなる予兆なのかもしれません。
「パワー・メタルとデスコア。この一見相容れない2つのジャンルを融合させたきっかけは、僕と BEYOND DEVIATION の Kris Chayer との単純なやり取りから生まれたんだ。そこで僕らは、ヘヴィな音楽全般においてクリーン・ボーカルが十分に活用されていない、そして馬鹿にされていることは、あらゆる可能性を失っていることになると話したんだよ」
そもそも、ヘヴィ・メタルの世界はクリーン・ボーカルが花形で主流でした。しかし、スラッシュ、デスメタル、メタルコアと時を重ねるうちに、重さこそ正義、グロウルやスクリームであらずんばメタルにあらずといった空気が醸し出されてきたような気もします。そんな中で、DRAGONCORPSE はメタルにおけるクリーン・ボーカルの重要性に再度焦点を当て、デスコアの現代的な重力の中にパワー・メタルのファンタジーを組み込む事でメタルの新たな可能性を見出して見せました。
「どのようなスタイルの音楽にも、おそらく永遠に “純粋な人” たち、ピュアリストはいるものだろう。僕たちが取り込みたいのは、ヘヴィな音楽もファンタジックな音楽も両方楽しめる、オープンマインドな人たちだよ。僕たちのようなバンドが現れて、実際に活動するのを長い間待っていたと言ってくれる人がたくさんいることは、正しい道を歩んでいることを意味しているんだ」
と言うよりも、そもそもパワー・メタルとデスコアは、それほど遠い場所にいたのでしょうか? 例えば、BLIND GUARDIAN の “I’m Alive” や “Mirror Mirror”、もしくは HELLOWEEN の ”Escaltion 666″ や ”Push” を聴けば、その実、パワー・メタルにも重さを許容する素養が十分にあったことに気づくはずです。DRAGONCORPSE はただし、その陳腐になりがちなジャンルの手術を、スタイルの良いところを合成し、それぞれの脂肪をカットすることで、両者の総和を超越するカタルシスを作り出すことに成功したのです。
そして、彼らのサウンドの中心、パワーとデスコアが重なる部分は、SOILWORK や SCAR SYMMETRY を想起させるスウェーデンの基盤が実は支えています。このコアから音楽の要求に応じて、壮大なパワーメタルのコーラスや、デスコアのブレイクダウンへと、より柔軟に、大胆に、シームレスに楽曲はその枝葉を巡らせていきます。
もちろん、デスコアとパワー・メタルという、おそらくサウンド的にも審美的にも最も異なると思われてきた2つのサブジャンルを組み合わせることで、DRAGONCORPSE はデスコアのファンがパワー・メタルの世界を探求するための、パワー・メタルのファンがデスコアの世界を探求するための橋渡しを行い、この壮大な “The Drakketh Saga” の最大の功績としたことは記しておくべきでしょう。
今回弊誌では、多才なボーカリスト Mardy Leith にインタビューを行うことができました。「J-ロックやJ-メタルにとても影響を受けているし、日本の影響も浸透している。X-Japan, D’espairsRay, The GazettE, Maximum the Hormone のようなバンドからの影響だね。高校時代は D’espairsRay の大ファンだったよ!僕の記憶が正しければ、彼らは実際に Soundwave フェスティバルの1つでオーストラリアに来たことがあるんだ!それからもちろん、DEVILOOF のようなヘヴィなものも大好きさ!」オーストラリア、アメリカ、カナダの混成バンド。どうぞ!!

DRAGONCORPSE “THE DRAKKETH SAGA” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【AVENGED SEVENFOLD : LIFE IS BUT A DREAM…】


COVER STORY : AVENGED SEVENFOLD “LIFE IS BUT A DREAM…”

“We Kind Of Know The Rules Of Music, And This Record, We Were Able To Just Go Break All The Rules”

LIFE IS BUT A DREAM…

AVENGED SEVENFOLD は、常に自分たち独自の方法で物事を進めることで、モダン・メタル最大のバンドのひとつとなりました。それでも、フロントマン M. Shadows にとって最新作 “Life Is But A Dream…” の変化は我ながら衝撃でした。
「ショックだった!プログレッシブなザッパのようなものから、突然ファンク、DAFT PUNK、そしてフランク・シナトラやオズの魔法使いのようなものへと変化していく。こんなの初めてだよ。よし、これはすごいぞ!という感じだった。最近では、100 gecs とかと同じ衝撃。彼らの曲を聴いたら、”脳みそが花火になったみたいだ” って思ったんだ。でも、とてもうまくできている。音楽を作る人間として、”これは表面上のものではない” と思ったんだ」
しかし、彼は常にそう確信していたわけではありません。ギタリストの Synyster Gates と一緒に車に乗っていたとき、Shadows はバンドメンバーに向かってこう尋ねたのです。
「このアルバムはそんなに突拍子もないのか?」 と。Shadows はあまりに長い間、このアルバムとともに生きてきたため、衝撃はいくらか薄れて “普通” に感じられていたのです。
しかし、Synyster は友人の心配とは違う解釈をしていました。
「このアルバムは、アレンジやプロダクションの観点から、奇妙でクレイジーでファックな作品だよ。そして多分、Shadows が言いたかったのは、ソングライティングの構造。今までは考えもしなかったんだけど、このアルバムは僕らの中で最も子守唄的で親しみやすいアルバムかもしれないということなんだ。ソングライティングは、私たちのベストだと思う。40歳が18歳の道具を使っているような音にならないように、どれだけめちゃくちゃにできるか試してみたかったんだ!」
Shadows と Synyster は、以前 “論争的” なレコーディング過程を経験しているため、今ではほとんどすべてにおいて意見が一致するようになりました。むしろ、お互いのことを “いい人” とさえ思っていると、Synyster は笑います。つまり、AVENGED SEVENFOLD は、”Life Is But A Dream…” で極限まで自分たちを追い込みましたが、全員が同じ方向を向いているのです。
最近の彼らは、可能な限り “小さなことは気にしない” というアプローチをとっており、新曲は絶対的な真剣さで扱われたものの、人生とキャリアに対しては常にポジティブな意思が貫かれています。

人工知能やビッグバンといったテーマに思慮深く取り組んだ2016年のプログ大作 “The Stage” のあと、パンデミックで深い実存的危機を経験したフロントマンは、”人間の完全な経験” について思いを巡らせはじめました。
「AIのオーバーロードの可能性について語るよりも、ずっとエモーショナルなレコードだよ。いつか必ず起こるであろう “自分が存在しない世界” について考え始めると、その衝撃が心に響いて、フリーズするんだよね」
今作はより心に響く内省的な作品だと、Synyster も同意します。
「実存主義。この言葉を知っている人も知らない人も、みんなそれを経験している。ある時点になると、”人はみんな死ぬんだな…待てよ…みんな死ぬのか!” って思うでしょ。そして、子供ができて、”子供もいつか死ぬんだ…” と思う。そして、それはあまりにショッキングな事実だ。人生で感じる “平凡” は、実は人生の報酬なんだよな。子供たちと映画鑑賞を楽しんだり、練習に連れて行ったり、感謝祭に両親を訪ねたり。めんどくさくてつまらないことが実は、人生をより楽しいものにするための鍵になる。だって、長生きすれば、愛する人を全員失うか、自分が死ぬか、どちらかになるからね。その覚悟が必要だし、その意味を知る必要がある」

Shadows は、このアルバムの実存的な歌詞のテーマを十分に生かすために、5-MeO-DMT(ガマの毒として知られる)というサイケデリックドラッグに手を出しました。その高揚感は、信じられないほど洞察力に富ませ、目を見開かせるものでしたが、自我を破壊するような体験は、彼を精神的な危機に陥れることにもなりました。
「あの体験は、俺が必要としていた “転機” だった。だけどおかげで、6~8ヶ月間、実存的な危機に陥ったんだ。家から出られず、スポーツもできず、ジムにも行けず、何もできない、今までで一番深い鬱状態になったよ」
フロントマンはそこから、重要な意味を持つ啓示を受けました。
「俺たちは短い間しか生きられないんだ。だから、大胆に音楽を作らなきゃ!俺たちは、人生においても、芸術においても、映画においても、本当に大胆な瞬間を探し求めていたんだよ。究極的には、人生に目的なんてない。そのことに気づけば、あとは好きなことをすればいい。すべての扉を開けたようなものだよ。道徳は崇高な存在から与えられるものじゃない。人は本来、善良な存在で、何が正しくて何が間違っているのか、誰かに教えてもらう必要はないんだよ」
Synyster は、良い曲ばかりを集めたアルバムは地球上に存在しないと考えています。彼のお気に入りのレコードでさえ、”完璧なものではない” と。その理由はインストゥルメンタル・トラックが含まれているから。
「インストは、気に入りのアルバムをAプラスからBにする。俺はいつも完璧なレコードを書きたいと思っていたんだ。4,000万枚売れるようなレコードではなく、2、3年後に振り返って、”無駄な脂肪がある” と言われないようなレコードをね。インストは脂肪だよ。だから、”The Stage” の15分のほとんどインストな “Exist” にもボーカルパートがあるんだ!」

ただ皮肉にも、A7Xのニューアルバムにはインストゥルメンタル・トラックが収録されています。4分半の見事なエンディング・タイトル・トラックで、Synyster は武器のギター・アックスではなく、ピアノでその音楽的才能を披露しています。彼はクラシック音楽の教育を受けていないため、1日2時間以上練習し、数年かけてこれを完成させました。それだけでも大変なことですが、そこにはさらに複雑な問題がありました。Synyster は自分のピアノでしか演奏ができなかったので、プロデューサーのジョー・バレッシが彼の家に来て、そのピアノを録音するためのスタジオを作らなければならなかったのです。Shadows は、なぜ A7X が7年間もアルバムの間隔を空けなければならなかったのか伝わるだろ?と笑います。
「あれは、Synyster が長男の出産の影響で MIDI(プログラム)で書いていた時だから、10年前、ほぼ11年前だ。そして、彼は俺と妻にそのデモを送ってくれたんだ。毎晩、ヘッドフォンで MIDI バージョンを聴いていたよ。このレコードはとても重く、感情的で、最後の方は、ジャック・ニコルソンの “シャイニング” を想像していたね。最後のシーンを思い浮かべながら、このシンプルなピアノ、つまり生のむき出しのピアノを聴いたんだ。そして、この曲をレコードの最後に入れる必要があると Synyster を説得したんだ」
Synyster は Shadows の気持ちを受け止めました。
「とても光栄に思うと同時に、とても心配になったよ!最近はあまり恥ずかしさを感じないだけど(笑)、これはさすがに “俺を見て” という感じだから、ちょっと恥ずかしかったな。自分が書いて弾いたクソみたいな蛇行したピアノ曲を AVENGED SEVENFOLD のレコードに入れるというサポートがあったことに、とても感謝しているんだ。つまり、これ以上の友人、これ以上のバンドメイトを求めることができるだろうか?そういうサポートがあることにどれだけ感謝しているか、言葉にできないよ。だから、このアルバムは完璧じゃない。でも、俺はそれを冷静に受け止めているし、心から誇りに思っている」

バンドが “Life Is But A Dream…” が “完璧” でないことを指摘する理由は他にもあります。例えば、Shadows がアルバムの中で最も感動的なリサイタルを披露する壮大な “Cosmic”。
「あれは俺の最高のボーカル・パフォーマンスではない。でも、リアルに感じられるだろ?こういう作品を作る上で、それは重要な側面だと思うんだ。完璧でなければならないとか、パワフルでなければならないとか、そういう昔の、昔の、昔の作品とは全く違う哲学があるんだ。完璧ではない真のパフォーマンスをすることの方が、長期的には愛着が湧くし、クールだと思うんだ。俺は今、完璧さがまったく気にならない場所にいて、それがとても気に入っている。技術的に優れているかもしれない完璧なテイクよりも、今あるものを映し出せたらなって」
Synyster にバンドメイトの “リアル” なボーカルについて尋ねると、彼は文字通り鳥肌が立つような表情を見せます。
「彼の歌唱は、とても信じられるものだ。そして、彼の歌詞はとてもフリーキーだ。このレコードで彼が言っていること全てに感動したんだ。彼が触れている様々な事柄は、すべて心と魂から伝わってくるものだ。ある意味、昔の彼のような音にはならないように意識的に努力した部分もある。あの時代に入り込んでしまい、自分たちがどこから来たのかを思い知らされるような気がするからね。俺たちは、この作品を自分たちのものにして、一から作り直したいと思っていたんだ」
しかし、このバンドのルーツが無視されているわけではありません。実際、”Life Is But A Dream…” は、パンク、メタル、フラメンコ、スラッシュ、ハードコアの融合である “Game Over” で幕を開けるのですから。しかし Shadows は、次の50分間も同じことが続くとは限らないと嘯きます。
「紆余曲折の末に完成した作品だ。俺らが影響を受けたのは、アビーロードみたいなもので、途中まではビートルズっぽいんだけど、そこからまたカオスに追い込まれる。そこが俺らのマインドセットだった。騙したわけじゃないよ (笑)!いかに人生が短く速いものなのかを示したかった。ある日、瞬きをしたら、80歳の死に際で、”どうしてこうなった?自分が望んでいたことができたのだろうか?” ってね。

アルベール・カミュの1942年の小説 “異邦人” やアウトサイダー・アーティストのウェス・ラングの作品にもインスパイアされています。
「”Mattel” のコンセプトは、マッシュルームを少しやって、犬を散歩させていたときに思いついたんだ。”他の国ではそれが普通なのかどうかわからないが、南カリフォルニアでは水を節約するためにみんなフェイクグラスを使う。家は完璧に見えるけど、外にいる人たちはまるでトゥルーマン・ショーみたいだ」
インダストリアルなリフから、オーケストラやオペラのような要素、そして曲の後半にあるプログレッシブなソロのブレイクまで、”Nobody” は生まれ変わった A7X を象徴するような楽曲。
「俺にとって、”Nobody” はアルバムのちょうど中心に位置していると思う。歌詞の中にとても深みがある。この曲は、俺たちがどんなコンセプトで、どんな精神状態から作ったかを完全に表現しているね。
俺たちはこの惑星に生まれ、成功とはお金であり、成功とは素敵なもの、金の鎖などであると教えられてきたということがよく描かれている。そして現実は、”もっと勉強を、もっと仕事を、もっと金を!” みたいな苦行の中に置かれる。家族や教師は、”あなたは素晴らしい!” と言い続ける。そしてある日、目が覚めると56歳で、”俺は人生をかけて働いてきた…それで?” と思うんだ。
つまり、人生は旅なんだ。目的地なんてないんだよ。”We Love You” は、俺たちが生きているこの世界の窮屈さ、何を成功と受け止め、何を勝者と受け止めるかを、とても皮肉に表現しているね。”Nobody” はリフがとてもキラーで、まるで虫のよう頭に穴を開けると思うんだ。プログレを意識することなく、とても面白いアレンジになっているし、シリアスな雰囲気が漂っている。意味のある、重みのあるものを提供しようとしているんだ。とても重みがあるんだよ」

アルバムのフィナーレを飾る “GOD” の3曲は、Shadows にとっても “攻め” た組曲です。
「”Life Is but a Dream…” は、”G”, “(O)rdinary”, “(D)eath” の3曲からなるめくるめく組曲で締めくくられる。これは A7X の全作品の中で最も野心的だと言えるかもしれない。このアルバムのジャンルを超えた折衷主義を象徴するというかね。この3曲は1つの曲として作ったんだけど、横になって続けてボリュームを下げて聴いていたら、突然心臓発作を起こしそうになったんだ。OK、これはあまりに変だと思った。STEELY DAN と Zappa から、Stevie Wonderと DAFT PUNK, そしてシナトラへあっという間に変わってしまう。自分の音楽で自分をビビらせたことは今までなかったんだ」
完璧ではないと言いながらも、”Life Is But A Dream…” のすべては100%意図的に作られています。信じられないほどの緻密さは、今も昔もA7X のやり方であり、特に Synyster はそれを気に入っています。
「俺は世界一偉大なソングライターではないけれど、自分には容赦がないんだ。心の底から好きで、アレンジして、作るのが待ちきれないようなものに出くわすまでは止めないよ。そしてそれは、膨大な時間と、エネルギーと、執念と、少しでもアレルギーのあるものに対するクソみたいな態度が必要なんだ!今日ここに座って、純粋に “自分たちが作ったアートが大好きだ” と言えるくらいにはね。ロックは少し型にはまった音楽になってしまったと思う。このアルバムが、その限界を超えるためのインスピレーションになればいいなと思っているんだ」
LINKIN PARK の Mike Shinoda もこの壮大でガッツ溢れる作品を気に入っていると Shadows は興奮します。
「”4歳児がキャンバスに絵の具を投げつけているのとは違うんだ。君らは何をやっているのか理解しているんだから。君らは今まで美しい絵を描いてきたけど、今、キャンバスに絵を描くと、それは芸術になっている” と言ってくれた。つまり、音楽のルールを知りながらすべてのルールを破ったから、より意味があるんだとね」

Mike の言葉はまったくもって的確です。8枚のアルバムをリリースした AVENGED SEVENFOLD。Synyster は同じメタル作品を何度も何度も焼き直すよりも、芸術を追求することを望み、この場所にたどり着いたことに喜びを感じています。
「俺たちはこんなにも奇抜でイカれたアイディアを持っているのに、”なぁ、Johnny、これを演奏してくれないか?” と言えるんだから、このバンドは本当にすごいよ。Zacky Vengeance のような男のところに行って “クレイジーなコードなら何がある?” あるいは Brooks のところに行って “モダンなグルーヴのザッパが必要なんだが、どうだ? DAFT PUNK が欲しいんだ。初期の METALLICA が欲しい” とかね。パートをこなすだけでなく、革新的で新鮮な空気を吹き込むことができる男たちがいるんだ」
しかし、ファンのすべてが Mike Shinoda の波長に合わせられるというわけではありません。実際、Twitter で定期的にファンと交流している Shadows は、SNS の陰鬱な面を見るのに慣れていて、時々投げかけられるくだらない言葉を受け流すことができます。
「コメント欄で、”こいつら、もう曲の作り方を知らないんだな” とかね。”Bat Country みたいな曲をもっと作ってほしい” とかもある。あるいは、”彼らは(故ドラマーの)The Rev と一緒に死んでしまった” と言う人さえいる。そして、俺が書いた曲の数々まで、The Rev が作ったことになる。それは誰かが死んだときに起こることで、 “彼がこれとこれとこれを書いたから…” と言われて、”いや、本当は俺が書いたんだけど、まあいいか” みたいなことになる。でも、Rev はこのアルバムに興奮すると思うよ。ヤツはいつも新しいことに挑戦する先導者だったから。”Mattel” には Rev が昔書いたパートも使われていれる。だから、この先、新しいことをやっていく中で、ネガティブなものばかりが目につくようになることはないだろう」

つまり、Synyster に言わせれば、A7X は自分たちや自分たちのヒーローを “再利用” することをもうやめたのです。
「新しい領域、新しいアプローチ、新しいテクニックを探求する時期だったんだ。バンドの誰もアンプに繋いで、音を大きくして、俺たちのリフ、PANTERA のリフ、METALLICA のリフの焼き直しを書きたくなかったんだ。でも、だからといって、ギター中心であってはいけないというわけではないよ。今回、オーケストラ以外のもの、シンセパートまで全部ギターなんだ」
Shadows はまた、バンドの特定の時代のファンが新曲にどう反応するか、様々なアルバムへの愛着が今のA7X の活動を受け入れるか拒むかをよく考えています。例えば、2003年の “Waking The Fallen” や2005年の “City Of Evil” にしか興味がない場合、それは場合によっては “妨げ” になるのではないかと彼は考えています。
「俺らのやることはすべてメイクアップとデュエル・ギターとスピード・ドラムだと思っている人たちがいるけれど、俺たちは12年間それをやめているよね? だけど、人々はまだ俺たちをその箱に入れたがる!
もちろん、純粋なメタルシーンは常に存在すると思う。常に脈を打っている。ただ、革新性はないと思うし、ファンが革新的なものに対してオープンマインドでいられる能力もないと思う。素晴らしいソングライティングも少し失われてしまったように思うね。同じようなアルバムを出すだけというのは、ファンに対して失礼だと思う。再利用というか。レコードを聴き、AIを装着して “こんなレコードが欲しい” と言えば、それはおそらく作ることができる。
だから、バンドが同じものを何度も提供しようとするのは罪だよ。彼らは創造的でないだけでなく、リスナーを馬鹿にしているのだから。レコードを作らなければならないからアルバムを作っているだけかもしれないね。俺はバンドが “言いたいことがあるとき” にアルバムをリリースすることを望んでいる。メタル以外にも世の中には素晴らしいアートがたくさんあって、素晴らしいポップス、素晴らしいヒップホップ、素晴らしいR&B、そして本当にエキセントリックなことをやっているアーティストもいるんだよ」

ただし、このアルバムの背景、人生の壮大な計画の中で、そんなことはどうでもいいということを、Shadows は理解しています。コメント欄、ソーシャルメディア、速いペースで進む世界…しかし M.Shadows はそれよりももっと大きなことを抱えています。
「今の世の中、俺は不安でいっぱいで、注目を浴びることができず、何らかの牽引力を得ることができないかもしれない。でも俺はそれを美しいと思うし、選択肢がたくさんあることを面白いと思う。だから、自分のメッセージを言って、アートを出すだけでいい。アーティストが自分のやりたいことをやり続け、より深く掘り下げることができるのは、自由なことだよ。なぜなら、今は80年代でも90年代でも2000年初頭でもないのだから、自分が思っていたようなフィードバックやトラクションを得ることはできないよ。大丈夫」
しかし、最終的には、”Life Is But A Dream…” は、意図した場所に届くはずです。
「”メイクアップとデュエルギター” の枠に入れられたら、その枠が好きでない人たちがこのアルバムを気に入るチャンスがなくなってしまう。昔の作品を求めている人も大勢いる。で、どうするんだ?(笑) また昔のような曲を書くのか?それとも、他の人たちに聴いてくれるように頼むのか?結局、何もすることはできないんだ。だけど、ただ存在していれば、きっとみんな見つけてくれる」

日本盤のご購入はこちら。WARNER MUSIC JAPAN
参考文献: KERRANG! Avenged Sevenfold: “Just say your message and put the art out there. Artists should do what they want and explore deeper rabbit-holes”

REVOLVER: 5 THINGS WE LEARNED FROM OUR AVENGED SEVENFOLD INTERVIEW

Avenged Sevenfold’s Synyster Gates Explains One Thing That’s Wrong With Rock Music Today

M. SHADOWS: AVENGED SEVENFOLD Was Able To ‘Break All The Rules’ Of Music On ‘Life Is But A Dream…’ Album

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【KING’S X : THREE SIDES OF ONE】


COVER STORY : KING’S X “THREE SIDES OF ONE”

“I wrote lyrics with my age in mind, so it has become sort of my mantra for what I’m doing for the rest of my life”

THREE SIDES OF ONE

これまで、KING’S X ほど見過ごされてきたバンドはいないかもしれません。ただし、dUg Pinnick, Ty Tabor, Jerry Gaskill の3人は、チャートのトップに立つことはなかったかもしれませんが、熱心なファンの心には深く刻まれ続けています。
80年代半ば、このトリオはテキサス州ヒューストンに渡り、メガフォース・レコードと契約。”Out of the Silent Planet”(1988)、”Gretchen Goes to Nebraska”(1989)、”Faith Hope Love”(1990)と、口紅とロングヘアのゴージャスな時代において、あらゆるジャンルの規範を無視した伝説のアルバムを3枚録音しました。
だからこそ、90年代初頭には、多くの仲間のロックバンドを虐殺したグランジの猛攻撃から免れることができたのかもしれません。音楽界の寵児として、また “次の大物” として、KING’S X はアトランティック・レコードに移籍し、セルフタイトルのアルバム(1992)を録音しましたが、残念ながらビルボードに並ぶほどの成功は得られませんでした。それでも彼らは、90年代から2000年代にかけて、感情を揺さぶる、音楽的に豊かなアルバムを次々と発表し続けました。
そうしてロックミュージックで最も露出の少ないバンドは、2008年に突然沈黙するまで、自らの道を歩み続けたのです。
休止中も、dUg は KXM や GRINDER BLUES で音楽を作り続け、自身の名義でレコードをリリースするなど、ゲリラ戦士として戦いを続けていました。クリエイティビティに溢れるベーシストは KING’S X の終焉を考えることはありませんでしたが、一方で、次のアルバムも必ずしも期待しているわけではありませんでした。こうして14年という長い間、KING’S X はただ沈黙を守り続けました。世界は変遷し、新しい現状が形成され、KING’S X はもはや時代の一員ではなくなったかに思われました。
しかし、14年という長い年月を経て、その門戸は開かれます。ついに彼らは再び一緒に作曲し、レコーディングすることを決断したのです。その経緯を dUg が語ります。
「72歳になるんだけど、歳を重ねた実感があるんだ。自分の年齢を意識して歌詞を書いたから、アルバムは残りの人生をどうするかという詩的なマントラのようなものになった。基本的に、私は人生が終わるまでなんとか乗り切るつもりだ。世の中が見えてきてね。友達のこと、Chris Cornell, Chester Benington, Layne Staley…死んだり自殺したりした人たちのことを考えると、ただただ痛くて、”自分は絶対にそんなことはしない” といつも思っている。人生を乗り切るためには、麻酔をかけられなければならないだろう。けど、あの世で何が起こっているのかわからないし、この世で惨めで痛い思いをしてまで、何も知らないあの世に移りたいなんて馬鹿げてる…それが私の論理なんだ。だから、アルバムはそういうところから生まれたものなんだ」

たしかに、”Three Sides of One” は、一見すると瞑想的な作品に見えます。
「まあ、メンバーはレコードを作りたくなかったんだ。なぜなら、作るなら今まで作ったどの作品よりも良いものでなければならなかったから。これまでは、自分たちがやったアルバムのレパートリーに加えるべきものがあるとは感じていなかったんだ。だから、14年かかってようやく “よし、これはいけるぞ” と思えたんだ。私自身は、初日から準備万端だった。14年の間に、いくつかのサイド・プロジェクトを立ち上げたり、いろいろなことをやっていたからね。私が持ち込んだ曲は27曲で、全部新曲だし、Jerry と Tyも何曲か持ち込んでいて、それも全部新曲だ。それで、リストに載っているものを全部、十分な量になるまで実際に覚えていったんだ」
アルバムのタイトル、”Three Sides of One” は3人が共有する生来のケミストリーを表現しています。
「いつもは、アルバムの名前は決まっているんだけど、今回は誰も思いつかなかったんだよね。それで、マネージャーが “Three Sides of Truth” と言ったんだけど、私は、なら “Three Sides of One” はどうだろうと思って、みんなが、ああ、それならいいと言って。そして、そこから出発したんだよ。しばらくすると、子供を持つのと同じで、名前はそれほど重要ではなくなるものだ (笑)」
アルバムには、歳を重ねた3人の自然な姿がさながら年輪のごとく刻まれています。
「Jerry は、基本的に臨死体験から多くの曲を書いている。そして Ty は、今の生活を観察して曲を書いた。私も同じで、72歳になるんだけど、世界が今までの人生とは違って見えてきたんだ。だって、今まで生きてきた距離に比べたら、もうそんなに長くは生きられないんだとやっとわかったからね。そして、そのことについて話したり歌ったりしたかったんだよね。70歳を迎えて、私にとって一番大きなことは、今の世界をどう見ているかを詩的に歌詞にすること、そして同時に自分の周りで起こっていることを書くことだった。政治や人々が憎しみ合う様子など、でたらめなことが起きていることは分かっていたんだ。それを歌うんだけど、ただ説教しているように聞こえたり、すでに聞いたことのあるようなことを言ったりしないように、工夫しているつもりなんだ。
今は、言葉に気をつけないと、アメリカでは自動的に批判される。私は問題を解決するのが好きなんだ。私の問題は、直せないものを直そうとすること。私はいつも、なぜ世界がうまくいかないのかを論理的に解明しようとしてきた。ある意味、人は全員とは分かり合えないというのが結論なのかもしれない。だから、年齢は私たち全員に影響を与えたと思うんだ。また、Jerry はバンドに曲を提出することはあまりない。でも実際は、彼の曲が全員の中で一番いい曲だと思うこともあるんだ。だから曲を持ってきてと言ったんだ。自分たちのアルバムにするために、本当に頭を使ったんだよ」

dUg は今回、”慣れ親しんだバンドでありながら、新しいバンドにいるような気がする” という言葉を残しています。
「新しいバンドに入ったという感じではなく、自分たちを再発見したという感じだと思う。なんというか、”自分は実はいいやつなんだ” と気づくような感覚なんだ。わかるかな?結局、スタジオからずっと離れていて、演奏し始めると、疑心暗鬼になるんだよね。つまり、私たちはいつも自分たちのやることなすこと全部が嫌で、本当のアーティストらしく、自分の芸術に対して否定的なんだ。でも今回は、最初に作った曲のとき、スタジオに行ってベーシックなトラックを聴いたら、生まれて初めて “おお、すごいな!” 思ったのを覚えているよ。やっとわかったよ…と。私たちの演奏には、欠点ばかりに気を取られていて気づかなかった何かがあるんだよな。だから、とてもエキサイティングで、もっともっと探求したくなったんだ」
その新たなマインドは、アルバムの歌詞の内容にも表れています。
「絶望的に見える世界の状況も、人類に何らかの救済や和解があることを願いつつ、それが歌詞に深く刻み込まれている。まあ、自分の周りで起こっていることを考えただけなんだけど。”Give It Up” は、私の気持ちを代弁してくれているような気がするね。私はライトが消えるまで、絶対に諦めない。Layne, Chris, Chester…友達が自殺していくのを見てきたんだ。クリスが死んだ頃にこの歌詞を書いていて、思ったんだよ。”ライトが消えるまで、絶対にあきらめないぞ” と。だって、死後の世界に何があるのかわからないし、そこを好きになれないかもしれないから。だから死ぬことは考えないよ。今できることを精一杯やりたい。最後に麻酔をかけられるまで、ずっとここにいたい。これが私の知っているすべてで、終わるまで乗り切るつもり。それが私にとっての知恵だから。それ以外のことは、他の人が決めることだけどね」

“Swipe Up” は時代を反映した楽曲。
「この曲は Jerry がジョン・ボーナムのスイッチを入れているね。インターネットや iPhone を利用しているときの体験がテーマになっているんだ。私たちはただスワイプし続けるだけで、アルゴリズムが自分だけの小さな世界の中で欲しいものを与えてくれる。だから、この曲は全部それについて歌っているんだ。iPhoneの小さな世界で生きていることについて」
テクノロジーの進歩は、音楽全般に対して悪影響を及ぼしているのでしょうか?
「進歩が起これば芸術も変わる。そういう観点では考えていないよ。例えば、最初のドラムマシンが登場した時、多くのドラマーが職を失った。しかし、突然、ドラムマシンのような安定性とタイミングを持った機械が登場したことで、私たちは皆変わり、クリックトラックで演奏するようになり、ドラマーはより良くなったんだ。オールドスクールはまだ存在して、まだレコードを買い、CDを買っている人もいるけど、新しい世界では音楽の見方や聴き方が違うよね? 彼らは iPhone で音楽を聴くし、彼らが好きな音楽も全然違う。それが “彼ら” の音楽なんだよ。
私が若い頃、THE ALLMAN BROTHERS を聴いていたら、親が “そんなのブルースじゃない” と言うようなものさ。よく、”BB KING を聴きなさい” と言われたものだよ。つまり、進歩とは、そこから何を学ぶか、そして自分の芸術をどのように変化させるかということなんだ。私は、すべてのことをポジティブにとらえるようにしている。難しいけどね。ナップスターが登場したとき、みんなが我々の音楽を配り始めて、それは最悪だった。それで、私たちはひどい目に遭ったよ。でもね、それでどうなったか?私たちは、人々が買ってくれるような素晴らしい商品を作る方法を学ばなければならなかったし、人々が私たちのライブを見に来るような良いコンサートをやらなければならなくなった。自分に起こることはすべて、自分なりの方法で適応していくしかないんだ。あの出来事で泣く人がいるなんて、そんなの戯言だ。泣いてばかりじゃダメだ。立ち上がって、やり遂げるんだ」

ネットがもたらしたものとその弊害にも言及します。
「人との関係において私が常に念頭に置いているのは、相手の行動を理解し、自分の気持ちを明確にして、争いのない方法でお互いに共存できるようにすることなんだ。私はいつも、平和を作るための新しい方法を探している。昔、このことを歌にしたことがあってね。私の人生は、どうやって人と良い友達になるかの積み重ねだった。彼らを知り、彼らを理解し、彼らを愛するようになることのね。
私は、人と一緒にいて、同意したり、反対したりして、みんながうまくやっていけることに心地よさを感じていたし、そのことに満足していた。だけど突然、アルゴリズムが入ってきて、みんながYouTube やスマホなどを見ていると、ビッグブラザーが私たちの行動をすべて見ていて、私たちの好みをフィード、与えてくるようになった。それが始まって10年ほど経ったよね。遂に私たちは、スマホの向こうに同じ現実を持っている人は一人もいないというところまで導かれてしまった。一人もね。一つの信念に溺れるまでとことん与えられる。そして、突然、誰も信用できなくなり、それぞれが快適で同じ意見を持つ人だけが集まる洞穴の”部族”に戻ってしまうんだ。
インターネットがもたらしたもの、それは私たちが原始人だった頃のような “部族”を生み出したということなんだ。
私には出口がわからない。今のところ、出口は見えないよ。たとえコンピュータを全部止められても、私たちにはすでに強固な”部族”がある。そのどれもが外部からの影響を受けないようになっているんだよ。変えることができる唯一のものは、洪水や宇宙人の侵路で、全員が警戒心を捨てて人類のために戦い、何か統一的な危機が訪れることしかないよね」
アルバムのクローサー “Everything Everywhere” はまさに完璧なエンディングです。
「ビートルズのようなサウンドの曲を書きたかったんだ (笑)。観客たちが叫びながら歌っているような感じで、私のアンセムという感じ。大勢の人が手を挙げて歌っているのを見れたらいいなと思うんだ。そうしたら気持ちいいからね。この曲には真実の要素が含まれていると思う。なぜなら、私たちは皆、愛を探しているから。愛には、たわごとをかき分け、すべてを癒し、すべてを乗り越える力がある。この曲は私の家路であり、私の癒しだから」

他の作品よりも優れていなければ、必ずしもアルバムを作る必要はないということは、14年経った今、この作品はこれまでやってきたことをすべて上回るということなのでしょうか?
「ああ、そうだね、このアルバムは今までのどの作品よりも優れているね。というのも、私たちは43年間バンドとして活動してきたわけだから、何をするにしても、すでにやったことよりも良くなければならない。あらゆる意味でそう思っているよ。例えば、子供にマーカーを持たせて、 “毎日、壁に直線を引きなさい” と言うと、50歳か60歳になる頃には、その直線があまりにもまっすぐで、びっくりするくらいになるはずだ。だから、私が考えるに、自分のやっていることを続けていれば、必ず良くなる。それは当たり前のことなんだよ。
ZZ TOP や MESHUGGAH など、私たちと同じくらい長く活動しているバンドを観に行って、20年、30年前に書かれたものを今聴くと、”ああ、同じ曲なのに、どうしてこんなに素晴らしく良く聞こえるんだろう” と思うことがある。だから、私たちも同様に良くなっていると思う。曲作りに関しては、とにかく曲を作り続けて、みんながそれを気に入ってくれることを祈るしかないけどね。でも、シンプルな曲の書き方や、複雑な曲の書き方を学び、それを成功させるために、あらゆる方法で限界に挑戦し続けているんだ。それでも、誰かがつまらないと文句を言うかもしれない。だから、結局は、自分の頭の中に何があるのか、そして、世界中が納得するような曲を書きたいと思ったときに何をやり遂げることができるのか、ということなんだ。たとえそれが、おそらく実現することのない盲目的なファンタジーであっても、それは私の目標であり、実行するだけでもやりがいがあるんだ。つまり、人に伝わろうが伝わらなかろうが、音楽をやり続けること、それが僕にとって最も意味のあることなんだ」
心の中で、KING’S Xはもう二度とレコードを作らないかもしれないと思ったことはあるのでしょうか?
「本当に考えなかったよ。唯一、もう二度とレコードを作らないかもと考えたのは、Jerry が初めて心臓発作を起こしたとき。彼の奥さんからメールが来て、”Jerry が心臓発作を起こした。生きられる確率は50/50″ と。それを見て、私はベッドから飛び起き、”ああ、大変だ…私たちはもう終わってしまうのか” と思ったよ。”全世界で最高の親友の一人がいなくなるのか?バンドができなくなるのか?私が持っているもの、私たちが持っているもの、すべてを失ってしまうのか?” とね。その時に書いたのが “Ain’t That The Truth” で、これはソロアルバムの “Naked” に収録された。1週間後くらいに書いたんだけど、1行目に50/50の可能性みたいなのがあって、すごく影響を受けたんだよね。それ以外は、KING’S X の終わりを意識することはないね。だから、考えたこともないんだと思う。すごい。そう考えると、ちょっとクレイジーだよね!」

2022年はバンドが1992年にリリースしたセルフタイトルのレコードから30周年にあたりました。
「まあ、Sam Taylor との最後のレコードだったわけで、それはそれで意味があった。それまでは、KING’S Xのサウンドを最大限に追求していたと思うんだ。最初の3枚は、インスピレーションを受けたものを何でも書いて、自分自身を見つけようとしていたし、自分自身のサウンドを見つけようとしていたから、いろんな意味で実験的だったと思うんだ。でも、4枚目のアルバムになると、ある程度定まってきたよね。曲作りに関して言えば、”The World Around Me” のような曲は、私が “バックス・バニーのリフ” と呼んでいるもので、ああいうカートゥーンのサウンドが好きなんだ。あのレコードが完成したとき、私たちは気に入っていたし、サウンド的にも良かったと思うんだけど、バンドにとってはひとつの終わりであり、ある種のサウンドの終わりでもあったんだ。Sam Taylor が抜けた後、次のアルバムは “Dogman” で、Brendan O’braien は “このアルバムに何を求めているんだ” と言ったんだ…”ライブで鳴っているような音を出したいんだ。ロックバンドのようなサウンドにしたいんだ” と答えたね。だから “Dogman” では、Brendan はすべてのレイヤーを取り払って、ただひたすらレコードを作らせてくれたんだ」
KING’S X はメジャーレーベルであるアトランティック・レコードから初めて作品をリリースしたバンドでもあります。
「我々はレコード会社からプレッシャーを感じたことはない。なぜなら、我々はレコード会社に “勝手にしろ” と言えるくらい反抗的だから (笑)。私たちはいつもそうだったんだ。アトランティックの子会社だったメガフォースに所属していたんだけど、”Over My Head” が出たときに、彼らが我々に電話してきて言ったんだ。”ラジオで流れてヒットしそうな曲を書くと、いつもその真ん中に何かを入れて、すべてを台無しにするのはなぜだ?”って。こう答えたよ。 “それが私たちの音楽の書き方だからな。ピクニックの真ん中に列車の事故を置いたり、その逆が好きなんだ” ってね。だから、私たちのことを説明したり、カテゴリーに入れたりするのは苦労したよ。ある時期、私たちは音楽業界の寵児で、誰もが私たちが大成することを応援していた。でも、要するに、世の中は茶色いコーラを飲み続けるということなんだ。透明なコーラの味がまったく同じであっても、未知の味に乗り換えることはないでしょう。茶色のコーラを飲み続けるんだ。私に言わせれば、何百万も売り上げているバンドのほとんどは、自分のやりたいことをやっていない。そのようなバンドは、もう一度、本当のことをやりたいと願っているんだ」

反抗的といえば、dUg はかつてキリスト教という “権威” にも牙を剥いています。”Let It Rain” の歌詞はまさにそんな dUg の心情を反映した楽曲。”世界の終わりか新しい始まりか?救世主は?神々は? 今こそ私たちを救ってはくれないのか? 誰もが権利を主張し誰もが戦いたがっている 誰もが自分を正当化して だから雨を降らせよう 恐れを洗い流すために”
「ゲイであることを公表したとき、ハードロック・コミュニティからの反発はなかったんだ。私は声明を出したり、プレス発表をしたことはなくてね。ただ、メジャーなクリスチャン雑誌のインタビューを受けたんだ。彼らが延々と話すから、私はただ思ったんだ。”クリスチャンの偽善にはうんざりだ。私はゲイだと言って、それで終わりにしよう” とね。
今日、それは問題ではない。誰からも反発されたこともないしね。ただし、あの記事が出たときは別だった。KING’S Xのレコードがキリスト教系の店で販売禁止になったんだ。その時、私たちは “素晴らしい!これでキリスト教の汚名から逃れられる”と思った。なぜか、KING’S Xはクリスチャン・バンドと思われていたからね。当時の私たちの信仰がそうだったからかもしれないけど、今はもう誰もそうではない。イエス・キリストは救世主ではないからね。70歳になったとき、世界を見渡してみたんだ。人々にはもっと思いやりと愛が必要だと思った。”雨を降らせて恐怖を洗い流せ” というのは、いい例えだよ。つまり、私たちが問題を抱えているのは、私たちが恐怖を恐れているから。立ち上がり、”怖がるのをやめよう!” と歌う、それが私の仕事なんだ」
しかし、dUg が3歳の時、連れ去られた宇宙人はキリストのようだったとも。
「3歳だって記憶しているのは、母がまだ一緒に住んでいたから。母は私が3歳のとき去ったからね。私が寝ていると、その人が部屋に入ってきたんだ。長いブロンドの髪の毛でローブを着て、それに銀色のベルトを巻いていた。すごく背が高かったのを覚えてる。足に巻き付けるサンダルを履いていたよ。裏口から外に出て、舞い上がったのを覚えてる。私は目が覚めたばかりだったが、外はとても明るかった。その時点で何かおかしいって思って、その人物から離れようとあばれたんだ。ようやく、彼は私の手を放した。次に覚えているのは、母の膝の上にいたこと。それって、ずっと、クレイジーで馬鹿げたことだと考えていた。でも40を過ぎたとき、”Ancient Aliens” を見ていて、わかったんだ。彼らは、人間がコミュニケーションを取ったり、拉致されたという4つのエイリアンのタイプについて話していた。その一つ、Nordic と呼ばれているエイリアンが、まさに彼だった。それまでは、夢を見てたんだって思ってた。でも、40年が経ち、理解したよ。私は拉致されたんだ」

宗教は dUg にとっていつしか虐待へと変わっていました。
「ゲイは忌み嫌われる存在で、神はそれを聖霊への冒涜以外の何ものでもないと嫌ってる。聖書によれば、男は他の男と寝てはならない。私はずっとそう言われてきたけど、でも同性愛者だ。
だから、誰にも言えなかったんだよ。ある時、”じゃあ、イエスがしたようにやってみよう” と決心したね。3日間断食して、自分を”ストレート”に変えてくれるよう神様にお願いしようと思ったんだ。田舎のトレーラーに座って、2日間断食して、食べずに水だけ飲んでたよ。祈って、祈って、泣いて、神が私を変えてくれるように懇願したけど、私は何も変化を感じなかった。そして、私は立ち止まって、”あきらめます” と言ったんだ。心の奥底にあったのは、人々が言う『神をあきらめるな』『神はまだ終わっていない』『神を待たねばならない』『神のタイミングで物事を得ることはできない』という聖句のことだった。だからその時は、何をやってもうまくいかないのは、すべて自分のせいだと思った。
ほら、私にとって宗教は抑圧的なものでしかなかったから。宗教は私に何もさせてくれなかった。4、5歳の頃、教会で曾祖母と一緒に最前列に座って、牧師が “踊ったり、酒を飲んだり、夕バコを吸ったりしたら、地獄に落ちるぞ。悪魔がお前を捕まえるぞ” と叫んでいるのを聞いたのを憶えている。悪魔がやってきて私を苦しめるんじゃないかと、子どもの私は毎晩死ぬほど怖くてベッドに入った。悪夢にうなされ、叫びながら目を覚ましたものだよ。
つまり私にとっては、宗教は虐待だった。他の人はそうではないし、私はそれでいいと思う。でも、私にとっては、そうなんだ。誰かが、”ああ、神はあなたを愛し、あなたの罪のために死んだ” と言ってきたら、心の中で “くたばれ” と言いたくなる。でもその代わりに、他のみんなにそうであってほしいと思うように、その人が誰で、何を信じているかを受け入れて、その人を愛するだけだよ。
私は、多くの、多くの、多くの、多くの、真の信者がいると信じているし、彼らを賞賛し、拍手を送るよ。だけどね、宗教でお金を要求する人たちはみんな、デタラメで、うそつきさ。彼らは、人からお金を搾り取る方法を見つけた、ナルシストの集団だ。私は彼らに嫌悪感を抱いている。そして、それを信じていた人たち、今も信じている人たちに対して、悲しみを覚えるんだ。嫌悪感ではなく、悲しみなんだよね。さらに悲しいことに、私は彼らが受け入れないようなタイプの人間だから、離れていなければならないんだよね。それが悲しいんだ。でも、それが人生なんだよね」

自身では、KING’S X のサウンドをどのように “カテゴライズ” しているのでしょうか?
「私たちはスリーピースのロック・バンド。ただそれだけだよ。パンクの曲も、ロックの曲も、ファンクの曲も、同じように演奏できるんだ。ドラム、ギター、ベースさえあれば、どんな曲でも演奏できる。私たちは本当に良いリズムセクションが根底にあって、それが KING’S Xのマジックだと思う。お互いのニュアンスの中で演奏する。音楽だけではなくてね。実際、KING’S Xは、私がこれまで演奏してきたバンドの中で唯一、みんながお互いの話をよく聞いているバンドなんだ。今まで一緒に演奏した他のバンドでは、周りを見渡すとみんな話を聞いていない。お互いの言うことを聞かないし、私の言うことも聞かない。でも私たちは皆、自分たちのやっていることに耳を傾けていて、その結果、違いを見分けることができるんだ」
最近では、”ロックは死んだ” というミームも使い古されてきたようです。
「ロックは死んでいない。ただ、怠け者が外に出て音楽を探さなくなっただけだ。GRETA VAN FLEETの曲は最低だけど、でも、ああした音楽を再現している子供たちがいる。20代の若者たちがサバスや BON JOVI を同時に吸収して、本物の何かを作り出しているんだ。問題は、それをやるための場所がないことだ。彼らを拾ってくれるレコード会社もない。MTVもない。新しいロックを聴かせるFMラジオもない。誰も彼らにチャンスを与えようとしないから、みんなツアーに出ている。そういうバンドを見に行くと、会場は満員になるんだけど、誰もそのことを知らない。”ロックは死んだ” 論者たちに言いたいのは、”おい、泣くなよ。彼らはそこにいるんだ。決して変わっていない。YouTube や Tik-Tok で見るような天才たちが素晴らしい音楽をやっているんだから、そこにいるんだよ” とね。私たちが子供だったころは、MTV はあったけど、Tik-Tok や YouTube がない時代だった。だから、まったく新しい世界、新しい世代の子供たちがいて、世界に対して違う見方をしていて、私が経験することのない違う経験をしている。才能はこれからも変わらず現れるだろう。ロックは決して止まらない」

dUg は世界的に名の知れたロックスターですが、決して裕福な暮らしを送っているわけではありません。
「金がなければサイドプロジェクトをやるだけだ。レコード契約を結んで、2、3ヶ月の間、支払いをするんだ。私たちは誰も9時から5時までの仕事には就いていない。でも、私たちにできることは何なのか。私たちは市場において価値があるから、クリニックとかそういうことができる。手書きの歌詞を作ることもできる。黒い紙に銀色のインクで書き出し、サインと日付を入れるんだ。何百枚も書いたよ…それでうまくいく。それに、この歳になると、ソーシャル・セキュリティーを受けることができる。3年ほど前に社会保障を受け始めたんだ。社会保険で家賃が払えるから、心配することはなくなった。それ以外のことは、自分でできる。街角でギターを弾けば、5ドルが手に入る。友だちに電話して、”お金がないんだ。今日、ご飯を食べさせてくれないか?” と言えば、OK! となる。それに、私にはシグネチャー・ペダルと、シグネチャー・ベースがあって、みんな買ってくれるんだ。だから、時々、6ヶ月分の小切手をもらって、助かっているよ」
ロックの精神は健在でも、同時代の多くのアーティストが降参したり撤退する中で、KING’S Xが長生きできたのはなぜでしょう?
「バカだからだよ (笑)。どんな困難にも負けず、自分たちのやるべきことをやり続けたし、今もそうだ。そして、ステージに上がると、世界に対して私たちが立ち向かうことになる。このバンドは誰も解散するつもりがない。私はこのバンドを辞めないし、Ty も Jerry も辞めない。誰も辞めないよ、だってバンドを解散させる責任を取るつもりはないんだから。私たちはそんなことするつもりはない。そんな愚かなことをするには私たちは優秀すぎるんだ。だから、誰かが死ぬしかないんだ、それでおしまい。この3人のいない KING’S Xは存在しない。それはあり得ないよ。もちろん、KING’S Xのトリビュート作品は常に存在しうるし、もし私が生きていれば、それに出演することもあるかもしれない。でも、私と Ty と Jerry のいない KING’S Xは存在しないだろうし、それは私の心の中で感じていることなんだ。他の人は違う意見を持っているかもしれないけど、これが私の気持ちなんだ」

参考文献: VW MUSIC:An Interview with dUg Pinnick of King’s X

DEFENDER OF THE FAITH:dUg Pinnick (King’s X) Interview

BLABBERMOUTH:DOUG PINNICK Says KING’S X Has ‘Never Been Profitable’: ‘We All Have To Do Outside Things To Make Ends Meet’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WINGER : SEVEN】 JAPAN TOUR 23′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KIP WINGER OF WINGER !!

“I Do Feel Overall SEVEN Has All The Hallmarks Of Classic WINGER.”

DISC REVIEW “SEVEN”

「全体的に “SEVEN” はクラシックな WINGER の特徴を備えていると感じているんだ。それは、Paul Taylor の復帰とオリジナル・ロゴの復活でより強調されているね」
WINGER は巨大な才能を持ちながら、同時に “二刀流” というジレンマに悩まされてきたバンドです。華やかなロックやメタルには知性が強すぎ、プログレッシブの宮殿に入るには騒がしすぎる。この、実は非常にユニークな並列の魔法は、爆発的なヒットとなったデビュー2作のあと、局所的なリスペクトを得ることを生贄に、バンドの足枷として長く活躍の妨げともなってきたのです。
「僕たちは決して “解散” していないんだよ。グランジ・ミュージックに支配され、その間に “Beavis and Butthead” と METALLICA の騒動が起こって、当時僕たちは続けることが不可能になったから、長い間休んでいただけなんだ。アーティストとして、僕なら他のアーティストを公然と侮辱するようなことは絶対にしないよ。”Pull” に関しては、あのレコードは僕らのベスト盤のひとつだと今でも信じているんだ」
生贄といえば、WINGER はまさに90年代の “生贄” となったバンドなのかも知れませんね。ヘアメタルと呼ぶには、あまりに高度なオーケストレーションに演奏技術を纏いながら、売れてしまったがゆえに祭り上げられた不可解なシンボルの座。Reb Beach は最近、当時を振り返ってこう語っています。
「90年代に入って、グランジが台頭して、ギター20本と家を売った。アニメに WINGER のTシャツを着たキャラが登場してね。家に帰ると両親も WINGER、犬まで WINGER のTシャツを着てる(笑)。全員オタクなんだ。ダサくなったヘアメタルの象徴というかね。翌週からチケットが全く売れなくなったよ…」
METALLICA は “Black Album” のレコーディング・セッションで、Lars Ulrich が Kip Winger のポスターにダーツを投げつける映像を公開しました。今思えば、非常に愚かな行為ですが、当時ライブ会場で投影された時には、観客から大きな笑いが起こっていたそう。最近、James Hetfield が直接 Kip に謝罪の電話をかけたそうですが、時すでに遅し。やはり “時代” のスケープゴートとなった感は拭えません。非常にオーガニックかつ、ALICE IN CHAINS のような暗がりの知を宿した名品 “Pull” のリリースも焼け石に水。1994年にバンドは沈黙を余儀なくされたのです。(これまで、”解散” だと言われていましたが、Kip によると “活動休止” だったとのこと)
「僕は自分の人生や周りの人々の人生について、個人的な視点から歌詞を書いているんだ。だから、ある意味、世相を反映していると受け取ってもらっても構わないと思う。僕や周りの人はこの暗い状況で生きているんだから、このアルバムはよりシリアスなトーンになったんだろう」
00年代初頭の短期的な復帰を経て、2006年、WINGER は海外に駐留する米兵の現実を描いた “Ⅳ” でついに完全復活を遂げます。以前よりも社会性を全面に押し出し、よりプログレッシブに躍動するこのアルバムが、以降の WINGER の指針となりました。
バンドが経験してきた浮き沈みを “業” として書き綴った “Karma”、ポジティブなトーンでより良い世界の実現を願った “Better Days Comin” と、彼らは80年代のイメージを払拭するような等身大で現実的な高品質のアルバムを残していきます。ただ一つ、WINGER が WINGER である所以、”キャッチー” な一面をどう扱うのか…常にその命題と向き合いながら。
9年ぶりとなる最新作 “Seven” は、そんな WINGER の社会性、プログレッシブでシリアスな一面と、出自であるハードロックのロマンチシズムが完璧に噛み合ったアルバムと言えるでしょう。
“Resurrect Me” はそんな最高傑作の中でも、特に WINGER ここに極まれりという名曲。シリアスでダークなスタートから一転、コーラスではロマンチシズムが雷鳴のように響き渡り、フックの嵐の中を Kip のキャッチーな雄叫びがこだまします。Reb のギターが炎を吹き、Rod の尋常ならざるフィルインが轟けば、WINGER はその翼を大きく広げて自らの “復活” を宣言します。
QUEEN への憧憬を織り込んだ “Voodoo Fire” を経て到達する “Broken Glass” は、復活 WINGER のもう一つの翼。Paul Taylor の復帰をしみじみと実感させるエモーショナルな音絵巻。WINGER 屈指のメランコリー・オーケストラ “Rainbow in the Rose” を、Kip のソロキャリアで熟成したかのような内省的な審美感は、96年に初めての妻を突然の事故で失って以来、彼の命題となった痛みと優しさの色彩を完璧に投影しているのです。
ヘヴィで繊細。ラウドでソフト。知的で野蛮。痛みで優しさ。ダークでロマン。WINGER の二刀流はいつしか、何 “マイル” も先で多様に花開いています。今回弊誌では、Kip Winger にインタビューを行うことができました。「かつてより世界は悪くなっているよね。金持ちはより金持ちになり、貧乏人はより貧乏になったように感じる。権力闘争の政治家、過激なイデオロギーのインフルエンサー、宗教的狂信者たちは、わざわざ力を尽くして世界の人々を分断しようとしている。とても悲しいことだよね」 どうぞ!!

WINGER “SEVEN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VVON DOGMA I : THE KVLT OF GLITCH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FREDERICK “ChaotH” FILIATRAULT OF VVON DOGMA I !!

“As For Unexpect We Helped Coin The Term ‘Avant-Garde Metal’ Whatever That Meant.”

DISC REVIEW “THE KVLT OF GLITCH”

「2000年代のメタルやハードコアのシーンは、スタイルがまだ探求され、発展していた時期だった。音楽のサブジャンルがまだ生まれていて、中でもケベックのバンドは本当に何かを持っていたんだよ。CRYPTOPSY の前にはテクデスがなかったように、DESPISED ICON の前にはデスコアがなかったように。さらに ION DISSONANCE のようなバンドはエクストリームなマスコアを前進させた…そして UNEXPECT は、その意味がどうあれ、”アヴァンギャルド・メタル” という言葉を生み出す手助けをしたんだよ」
VOIVOD の偉業を振り返るまでもなく、カナダ、特にケベック周辺はメタルの進化に欠かせない異形を生み続ける特異点です。そして振り返れば、まだモダン・メタル=多様の定義もおぼつかなかった90年代後半から00年代にかけて、UNEXPECT ほど混沌と新鮮をメタル世界にもたらしたバンドは多くはありませんでした。
「UNEXPECT が早すぎるということはなかったと思うよ。僕の考えでは、シーン全体を前進させるためには、新しいアイデアを持って、早すぎるくらいに登場する必要があるんだよ」
もはや伝説となった9弦ベースの使い手 Frédérick “ChaotH” Filiatrault はそう嘯きますが、プログレッシブ、デスメタル、ブラックメタル、ジャズ、クラシック、オペラ、フォーク、エレクトロニカが “予想外の” ダンスを踊る UNEXPECT の音楽は、現在の多弦楽器の流行を見るまでもなく、あまりにも “早すぎて” 理解を得られなかった鬼才で奇祭にちがいありません。そして、UNEXPECT や WALTARI がいなければ、アヴァン・メタルの現在地も、今ほど “攻め” やすい場所ではなかったのかもしれませんね。
「このバンドは、90年代のオルタナティブや Nu-metal、2000年代の実験的なハードコアやメタル、2010年代のエレクトロニックの爆発など、僕がこれまで聴いてきたすべてのジャンルの音楽を調和させようとしたものなんだ。James Blake、Bon Iver, DEFTONES, MESHUGGAH, MARS VOLTA, IGORRR…といったアーティストのありえないブレンドを目指していたからね」
一度は夢を諦めた ChaotH が再びメタル世界に降り立ったのは、自身を形成した偉人たちに感謝を捧げ、そこから新たな “ドグマ” “教義” を生み出すため。さながら蛹が蝶になるように、華麗に変身した ChaotH のドグマは、EDM が脈打つインダストリアル・メタルと、欲望に満ちたプログレッシブ・メタルを、七色に輝くオルタナティブな経歴を反映しつつ融合しようと試みているのです。
つまり、VVON DOGMA I は UNEXPECT ではありません。もちろん、彼らのX線写真を見ると、過去の同僚 Blaise Borboën の乱れ打つヴァイオリンや、ChaotH の異世界ベース・パルスなどおなじみの骨格はありますが、機械の心臓は突然変異的な異なる動力で脈打っています。右心室に CYNIC を、左心室に MESHUGGAH を宿した VVON のサイバーパンクな心臓部は、時にタップを、時にスラップを、時に早駆けをを駆使して変幻自在に躍動する ChaotH の9弦ベースによって切り開かれ、緻密で冒険的で、しかし歪んだ哀愁の風景をリスナーの脳へと出力します。Djenty ながら Djent より有機的で、ヒロイックで、しばしば TOOL とも邂逅するギタリズムも白眉。
何より、悪魔城ドラキュラのメタル世界を想起させる “The Great Maze” から、”Triangles and Crosses” のネオンに染まる KING CRIMSON、そして RADIOHEAD の鋼鉄異教徒によるカバーまで、ここにはヘヴィ・メタルの “If” が存分に詰まっています。ノイズを崇拝し、レザーストラップと砂漠のゴーグルを身につけ、奇抜な乗り物に鎮座した VVON DOGMA I のサイバーな “もしも” の世界観は、AI と現実の狭間でリスナーという信者を魅了していくのです。
今回弊誌では、Frédérick “ChaotH” Filiatrault にインタビューを行うことができました。「クリエイティブな面では、アートワークの制作にAIが参加するのはとても興味深いことだと思ったね。つまり、このレコードの自発的な音楽 “合成” の側面は、アートワークによって強調され、とてもふさわしいものとなった。メタルヘッズの間では、シンセティック (人造、合成) なものを受け入れるというのは、あまりポピュラーなコンセプトではないけど、僕はアナログでなければ “メタル” ではないというエリート意識は、まったくもってデタラメだと思うよ」 傑作。どうぞ!!

VVON DOGMA I “THE KVLT OF GLITCH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IGNEA : DREAMS OF LANDS UNSEEN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HELLE BOHDANOVA OF IGNEA !!

“I’d Say Music Can Definitely Change People’s Mood And Mind. But Changing The World… I’m Afraid, I Cannot Be So Naive Because Of Everything Happened To Me And My Country.”

DISC REVIEW “DREAMS OF LANDS UNSEEN”

「もちろん、音楽は非常に重要なもので、この1年間、ウクライナでもそのことが示された。塹壕の中や負傷したときに歌う兵士、防空壕の中で歌う人々、音楽は人々をより落ち着かせることができたわ。だから、音楽は人の気分や心を変えることはできると思う。でも、世界を変えるなんて……自分や自分の国に起こったことを考えると、そんなにナイーブにはなれないわ」
ロシアとプーチンの侵攻から1年経った今、ウクライナのモダン・メタル旅団 IGNEA はアルバムという自らの分身を世に放つことを決意します。当然、彼らのドッペルゲンガー “Dreams of Lands Unseen” が怒りに満ちた作品でも、暴虐に向けた鋭き矛先でも、リスナーが驚くことはないでしょう。もちろん、音楽は世界を変えられない。音楽で身を守ることはできない。それでも、IGNEA はより芸術家らしい方法で、不条理に抗することを決めたのです。
「Sofia はどこを旅しても、必ずウクライナ文化の一部を持ち込んでいて、自分がウクライナ人であることを強調していたのよ。また、彼女は言葉の使い方が巧みで、歌詞の中のフレーズもそのまま彼女の言葉をウクライナ語で残したかったんだ。最後に、私たちはウクライナ人で、自分たちの言葉を愛しているから、自分たちのルーツへのトリビュートとしてもウクライナ語を使ったのよ」
IGNEA は、暴力に暴力で立ち向かうよりも、見過ごされてきた歴史的な人物の粘り強さと功績に焦点を当て、ウクライナの誇りと強さを描き出しました。”Dreams of Lands Unseen” の主人公、旅行写真家/文筆家の Sofia Yablonska は、祖国ウクライナから世界を旅し、初の女性ドキュメンタリー映画監督となり、ヨーロッパの植民地主義がもたらした悪影響にしっかりと目を向けた偉大な人物。彼女をウクライナの象徴的な女性像として、そして帝国主義の批判者として光を当てるというコンセプトは、最近のロシアの不当な侵略や行き過ぎた暴力と闘うための、より文化的なアプローチであると言えるでしょう。
「戦争が始まって最初の数カ月は、私たちにとって生き残ることだけが重要だったわ。あらゆる音が怖くなって、音楽を聴くことすらできなかった。それでも私たちの地域が占領解除され、この戦時下の状況に慣れたとき(ひどい言い方だけど)、私たちはアルバムを作り続けようと強く思ったの」
ウクライナ人としての誇り。ウクライナが真に戦っている相手。そしてウクライナが今、必要としているものを浮き彫りとしたアルバムは、恐怖であった “音” をいつしか勇気へと変えていました。そしてその IGNEA が手にした勇気は、しっかりとその冒険的な音楽にも反映されています。
シンフォニックなオーケストレーションと伝統音楽が、メタルを介して結びつくその絶景はまさにトンネル・オブ・ラブ。Sofia がモロッコ、中国、スリランカなどを旅したように、東洋や中近東の光景が巡る実に多様で自由なモダン・メタルは、かつての帝国主義や権威主義とは正反対の場所にいます。
そうして、抑圧に抗う可能性と力は、Helle Bohdanova の声を通して世界へと伝播していきます。光と陰を宿した Helle の美女と野獣なボーカルは、大戦中に女性一人で世界を旅することの逞しさと恐怖、その両面を実に巧みに表現しています。そしてその逞しさや恐怖は、そのまま現在の Helle の中に横たわる光と陰でもあるのでしょう。メタル・バンドには珍しい異端楽器の数々はきっと彼らの軍備。ただ一つ、確かなことは、ウクライナの勝利が、IGNEA の冒険と Helle の勇気によって一足早くもたらされたという事実。未到の地の夢は、愛する地があればこそ映えるのです。
今回弊誌では、Helle Bohdanova にインタビューを行うことができました。「アルバムの発売日である4月28日の夜中に、大規模なミサイル攻撃があったわ。そして、その1週間後には、私が住んでいる家のすぐ隣の5つのアパートをドローンが直撃した。もちろん、最前線に近ければ近いほど、状況は悪化するわ。それでも、ウクライナに住む人は皆、翌日が来ることに確信が持てないのよ」 どうぞ!!

IGNEA “DREAMS OF LANDS UNSEEN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ENFORCED : WAR REMAINS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KNOX COLBY OF ENFORCED !!

“Humans Are Violent By Design. That’s How We’ve Survived.”

DISC REVIEW “WAR REMAINS”

「俺たちは古い伝統に思いを馳せながら、新しいリスナーには新鮮に映るように工夫してやってるんだ」
2010年代後半。スラッシュという容赦のない獣は、爆発的な人気を誇る新進気鋭の POWER TRIP の力によって、ハードコアの衝動を多分に受けた新たなスタイルで世界に再びその威光を轟かせました。2020年、POWER TRIP の象徴的なフロントマン Riley Gale の急逝は明らかにメタル世界の大きな損失でしたが、それでも彼らに続くアメリカのニュー・エクストリーム、その激しい波はとどまることを知りません。いや、むしろ、現代こそが “クロスオーバー・スラッシュ” の黄金時代なのかもしれませんね。
「Arthur は、自分のやっていること、作っていることを正確に理解していて、特定のスタイルやサウンドのバンドがどのように表現されるべきかをしっかりと理解しているんだ」
自らも SUMERLANDS, ETERNAL CHAMPION という温故知新のニュー・エクストリームを率いる Arthur Rizk こそが、この新たなアメリカの波の牽引者です。若い世代にとって、インターネットを通して知る80年代の音楽は、ある意味驚きで、新発見なのでしょう。そうして彼の地のメタル・ナードたちは、好奇心の赴くままに古きを温めすぎて、当時を過ごした実体験組のような知識と思い入れを持つようになりました。そこに現代の文脈を織り込めばどうなるのだろう?そんなタイムトリップのような実験こそが、Arthur の真骨頂。
POWER TRIP, CODE ORANGE, TURNSTILE といった Arthur が手がけたニュー・エクストリームの綺羅星たちは、そうやって様々な “If” の掛け算を具現化していったのです。今回インタビューを行った、東海岸から登場した ENFORCED は “暴力装置” という点で、”Arthur’s Children” の中でも群を抜いた存在でしょう。
「俺は暴力的な人間ではないけど、暴力行為の因果関係や思想や概念としての暴力を理解できるほどには成熟している。俺たちが暴力と完全に縁を切るということは、自分のDNAを無視するってことなんだ」
ENFORCED は、否定したくても否定できない人間の “暴力性” に一貫して焦点を当てています。戦争の時代に戻りつつある現代。ENFORCED の魂 Knox Colby は、机上の平和論者に現実を突きつけます。オマエは暴力の恩恵を受けていないのか?戦争は時代を進めて来たんじゃないのか?人類は本当に暴力と縁を切れるのか? “War Remains”…と。
「SLAYER が成してきたことを、俺たちも実現できると思いたいね」
前作 “Kill Grid” のスラッシュへのグルーヴィかつ多彩なアプローチが “South of Heaven” だとすれば、”War Remains” は彼らの “Reign in Blood” に違いありません。このアルバムが走り出したが最後、33分後には死体確定。跡形もなく踏みつけられたリスナーの骸以外、何も残りません。Knox が Tom Araya のひり付くシャウトとデスメタルの凶悪なうなりの完璧なキメラで血の雨を降らせ、殺伐としたギターの戦車が世界を焦土に変えるのに3分以上の時間は必要ないのです。今回、彼らが所望するのは電撃戦。
ただしバンドは、古いスラッシュのルールブックに基づいて演奏しながら、MORBID ANGEL や OBITUARY の伏魔殿から、”Nation of Fear” のような “ハードコアISH” のグルーヴまで暴力の規範を変幻自在に解釈して、人が背負った “業” を、現実を、リスナーに叩きつけていくのです。私たちはそれでも、”ウルトラ・ヴァイオレンス” な世界を塗り替えることができるのでしょうか?
今回弊誌では Knox Colby にインタビューを行うことができました。「人間はそもそも、暴力的にデザインされているんだ。そうやって俺たちはこれまで生き延びてきたんだよ」 どうぞ!!

ENFORCED “WAR REMAINS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PERFECT VIEW : BUSHIDO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FRANCESCO “JOE” CATALDO OF PERFECT VIEW !!

“We Think Bushido Is Very Important Values That Are Somewhat Lacking Today, Especially In Some Western Cultures.”

DISC REVIEW “BUSHIDO”

「僕たちは、武士道の原則が、今日、特に一部の西洋文化において、やや欠けている非常に重要な価値観だと考えているんだ。おそらく、武士道のこうした原則は部分的に回復されていき、今日の世界に適応されるべきだと思うんだ」
武士道で最も尊ばれる義と誉。侍は、例え主君が滅びる運命にあろうとも、義を捨て、誉を捨てて他家に支えることはありません。もちろん時代は変わりましたが、エゴよりも、財産よりも大事なものがあった男たちの生き様は、物質的な現代社会においてある種の教訓とすべきなのかもしれません。”Bushido” の名を冠した作品を完成させた PERFECT VIEW は、決してメロハーを裏切りません。名声や金銭、時の流れに左右されることもありません。ただ愛する音楽を作り続ける。その姿勢はまさにイタリアの侍です。
「僕たちの目標は、映画のような音楽体験ができるアルバムを作ることだった。だから、小さなことでも細部に至るまで細心の注意を払って作ったんだ。この作品は、障害を持って生まれながら、祖父のような偉大な侍になることを夢見る少年の物語だ」
PERFECT VIEW の “Bushido” は、侍の世界に捧げられたロック・オペラです。彼らは、武士という義と誉の戦士をテーマにしたコンセプト・アルバムで、メロハーに義と誉を尽くしてきた日本のリスナーに敬意を表したかったのです。もちろん、メロハーによるコンセプト・アルバムは想像以上に簡単ではないでしょう。メタルやプログレッシブ・ロックのように曲の長さを自由自在に操るわけにもいきません。様々な楽器によるゴージャスなスコアでストーリーを彩ることにも限度があります。しかし、異国の侍たちはこの難題をやってのけました。
「祖父は、お守りを通じて夢の中で彼に語りかけ、彼が自分の道を歩き、運命に出会うよう駆り立てていく。このプロットの中で武士道は、常に自分の夢を信じ、目標を達成するために自分の限界を克服するために戦うということを教えてくれると思うよ」
PERFECT VIEW にとっての武士道とは、夢を貫き、自身の限界を突破すること。武士道とは生きることとみつけたり。アルバムの冒頭を飾る “Bushido Theme” の和の響きで、リスナーは音楽と歴史が神秘の魔法を感じさせてくれる古の日本へと足を踏み入れます。ただし、そこから始まるのは、倭の国の住人たちが心酔した “メロハー” の桃源郷。例えば JOURNEY。例えば WHITESNAKE。例えば DOKKEN。例えば WINGER。あの時代のメロディの花鳥風月が、グレードアップしたプロダクションとテクニックで怒涛の如く繰り広げられていきます。
実に千変万化、変幻自在な5分間のドラマが続く中で、しかし我々は、いつしか “Bushido” の世界観に映画のように没頭していきます。それはきっと、PERFECT VIEW の中に TOTO の遺伝子が組み込まれているから。”ヒドラに立いを挑む騎士” というコンセプトが盛り込まれた “Hydra” はカラフルな楽曲の中にも不思議な統一性のあるアルバムでした。PERFECT VIEW は彼らの曲順や音色を操るテクニックを、インタルードとメインテーマの二本柱でつなげながら、メロハーのメロハーによる、メロハーのための完璧なコンセプト作品を作り上げたのです。
今回弊誌では、イタリアのルークこと、Francesco “Joe” Cataldo にインタビューを行うことができました。「若い世代にもこうした音楽を知る機会があれば、きっと評価されると確信しているからね。だけど問題はいつも同じ。知らないものを評価することはできないし、今日、最大のネットワークやプロモーション・チャンネルは、僕たちに選ぶ機会を与えず、いつも同じようなコンテンツを押し付けることが多いからね」 武士道を語る者ほど武士道から程遠い侍の母国は、異国の侍をどう受け止めるでしょうか。達人どもが夢の跡。どうそ!!

PERFECT VIEW “BUSHIDO” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IER : 物の怪】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IER !!

“Impossible Not To Mention Ryuichi Sakamoto. He left Us This Year, But His Legacy Is Infinite.”

DISC REVIEW “物の怪”

「僕が初めて陰陽師を知ったのは “X/1999″。このアニメや漫画は僕の大好きな作品のひとつで、”御霊信仰” にも影響を与えているんだ。その後、君の指摘の通り、プレイステーション2時代に大好きだったゲーム “九怨” で再び陰陽師を知ったんだ。僕は小さい頃からサバイバル・ホラーゲームが大好きなんだけど、このゲームは平安時代というその種のゲームではあまりない設定なので、とても面白かったんだ。それに、本当に怖かった!!もうずっとプレイしていないんだけど、いつかまたプレイしなおしてみたいね。もうひとつのインスピレーションは、陰陽師を主軸に据えた “帝都物語”。残念ながら、英語版もスペイン語版もないので、まだ原作は読めていないんだ。ただ、1988年の映画を見て、これはすごいと思ったんだよ!」
近年、日本とその文化にインスピレーションを得たメタルは世界中で確実に増殖していますが、アルゼンチンの IER ほどこの国に精通したメタルヘッドは他にいないでしょう。むしろ、日本人よりも日本人なブラックメタルの改革者。平安の都から現代の大都市東京まで、時を駆け抜ける IER のブラックメタルには、呪いと雅と戦慄が渦巻いています。
「”犬神佐清” では、家族、争い、無邪気さの喪失を扱っているから、そうしたテーマを説明するために、1976年の映画 “犬神家の一族” は最適だったんだ。原作は大好きなんだけど、2006年のリメイク版はまだ見ていないんだよ…市川崑監督の作品ということで、さぞかし面白い作品なのだろうね。アーティストが過去の作品を再演する (監督、主演が同じ) のは好きなので、近いうちに見てみようと思う!」
西洋の刹那的でド派手なホラーではなく、日本の真綿で首を絞めるような持続性怪奇譚に取り憑かれた IER の首謀者 Ignacio Elias Rosner は、J-Horror をテーマとした連作の制作にとりかかります。”怪談” で怒り、”うずまき” で恐怖、”妖怪” で孤独について扱った彼が今回たどり着いたのが集団の狂気でした。
パンデミックやロシアによるウクライナへの侵略、極右の台頭。2020年代の初頭に私たちが見たくすんだ景色には、まさに集団狂気、マス・ヒステリアが色濃く反映されていました。正気を保つ人間がむしろ狂人となる。Ignacio はそうした群衆時代の “うずまき” に敏感に反応して、家族という “集団” の怨念と狂気を見事に描いた “犬神家の一族” をメインテーマに現代の “物の怪” を映し出してみせたのです。
「”By The Way” の引用を発見してくれて、本当にうれしいよ!君の言葉通り、僕は自分の心をオープンにして、できるだけ自由な音楽を作るように心がけているんだ。そういった要素が音楽全体の中でフィットしているのを、とても誇らしく思っているんだ。最近はファンクやヒップホップ、コンテンポラリー・R&Bを聴くことが多いから、”物の怪” ではぜひそうした影響を披露したいと思ったんだ。プログレッシブ・ロック/メタルに関しては何でも許される(のかな?)けど、ブラックメタル・シーンはずっと保守的な気がするんだよね。そうした影響は決して強引なものではなく、アルバムの表現方法として理にかなっていると思うのだけどメタルファンを遠ざけてしまう気持ちもまあわかるよ」
Ignacio が放つ狂気は、当然その音楽にも反映されています。レッチリを黒くコーティングした “日本の都市伝説 Vol.1″、KORN と Nu-metal の遺産を黒く受け継ぐ般若の面、そしてゲーム音楽の巨匠山岡晃への敬意で満たされた黒いサイレントヒル “最後の詩”。弊誌では、ブラックメタルこそが今最も寛容かつ先鋭であると主張し続けていますが、Ignacio にとってはそれでもまだ足りなかったのでしょう。ここにあるのは、まさにジリジリとひりつくように持続する和の戦慄と瀬踏みの共鳴。その逢魔時から忌み夜に続くゾゾゾな階段は、sukekiyo の怪談にも似て変幻自在の百鬼夜行をリスナーに突きつけるのです。”犬神佐清” で聴けるような、南米特有の “トリステーザ” がアルバムを通して絶妙のアクセントとなっていて実に素晴らしいですね。
今回弊誌では、IER にインタビューを行うことができました。「アートワークは、佐清の仮面と同じように、この映画を象徴するショットだからね。このショットは、日本の大衆文化の中でかなり参照されているよね? テレビ番組や映画で佐清の脚がたくさんオマージュされているという投稿を、どこかの掲示板で見た覚えがある。”新世紀エヴァンゲリオン” でも使われたくらいにね」  二度目の登場。どうぞ!!

IER “物の怪” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LUNAR CHAMBER : SHAMBHALLIC VIBRATIONS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRANDON IACOVELLA OF LUNAR CHAMBER !!

“日本はね…私にとって信じられないぐらい夢みたいなところなんですよ。人生と考え方に大影響を受けて、美しい思い出も出来ました…本当に本当に言葉で表現出来ません。今までで一番お気に入りの場所です!”

DISC REVIEW “SHAMBHALLIC VIBRATIONS”

「Tomarumは普通に Progressive Black Metal をしてて、したことないもっとヘヴィな Progressive Death Metal をしたかったんです。お気に入りの Death Metal バンドを尊敬しながら自分のサウンドを作りたかったんです!」
“Shambhallic Vibrations” はプログレッシブでテクニカルなデスメタルのファンにとって、まさに天啓です。ブルータルでありながら静謐、エピックでありながら親密、難解でしかしスピリチュアルなデスメタルが、煌めきとヘヴィネスを伴って届けられる涅槃。
新進気鋭、アトランタのプログ・ブラック集団 Tómarúm の中心メンバー Brandon Iacovella と Kyle Warburn が Timeworn Nexus と They, Who May Not Be Perceived というペンネームで始めたバンドには、フレットレス・モンスターThomas Campbell、BENIGHTED のドラム・マシン Kévin Paradis という異才が加入して LUNAR CHAMBER の名乗りをあげました。
彼らのスピリチュアルな広がりと深みのあるブルータリティーは、現代のシーンに真の類似品がなく、その豊かできめ細かな質感は、フレットレス・ベースとスペーシーなシュレッドの綺羅星によって殊更際立つものとなっています。そのアプローチ、テクニック、トーン、そして影響の数々はあまりにも無数で、むしろすべてが一体となっていることさえ不思議なくらいですが、そこには、日本や仏教、東洋哲学に由来する調和の精神が大きく作用していました。
「若いころからヒンズー教と仏教に興味があって、歌詞とテーマを作りたかった時にその興味を思い出して、日本に住んでいた時とどのぐらい人生が変われたのかも思い出して、そのテーマについて書きたくなったんです」
実はコロナ禍以前、Brandon は日本が好きすぎて来日し、翻訳家を目指し学生として台東区で2年ほど暮らしていました。そこで日本の人たちと触れ合い、価値観や生き方を理解し、日本文化を受け入れることで彼の人生は大きく変わっていきました。争いよりも調和を、欲望よりも悟りを求める生き方は、そうしていつしか Brandon の創造する音楽へと憑依していったのです。
「日本のメタルシーンはめっちゃ凄くて、大好きです。Lunar Chamber の元々のドラマーは Temma Takahata なんですよ! Strangulation, 死んだ細胞の塊、Fecundation、等々のドラマーです!本当に凄いドラマーなんで、彼のバンドと他の友達のバンドも何回も見に行って、本当に大光栄でした。日本のシーンにも大影響を受けました。Desecravity, Viscera Infest, Anatomia, 等々も見ることが出来て、あれもかなりインパクトがありましたね。日本の音楽と言えば確かに Desecravity, Viscera Infest, Strangulation, 死んだ細胞の塊, Crystal Lake, Disconformity, 明日の叙景とかを考えますよね」
アルバムのフィナーレを飾る12分の “Crystalline Blessed Light Flows… From Violet Mountains into Lunar Chambers” は、今年のメタル界で最も注目すべき成果の1つかもしれません。シンセを多用した神秘的なオープニングから、巨大なフューネラル・ドゥームの睥睨、荘厳でマントラのようなメロディ、地響きのブラストと鋭く研ぎ澄まされたギター、瞑想的な静けさと地を這う重量の邂逅、そして到達する涅槃まで、すべては “菩提樹” で見せた印象的なモチーフとハーモニーをさながら経のように貫徹して、絶妙な結束を保持しているのです。
さらに言えば、LUNAR CHAMBER の体には、日本のメタル・シーンの “細胞” が組み込まれています。死んだ細胞の塊、明日の叙景、CRYSTAL LAKE といった現代日本のメタル世界を象徴するような多様性をその身に宿した LUNAR CHAMBER の “調和” は、その東洋思想と相まって、すべてが祇園精舎の菩提樹へと収束していきます。
今回弊誌では、Brandon Iacovella にインタビューを行うことができました。ほとんどの回答を日本語で答えてくれました。「仏教のメタルは、ある人にとっては間違いなく逃避の手段になり得ると思う。自分の音楽で物語を作るのが好きだし、この作品には内省的なところもあるから、誰かが自分の現実や心を探求し、私たちの物語に共感し、慰めを得ることができたら、それは私にとって大きな意味があるんだよ」 どうぞ!!

LUNAR CHAMBER “SHAMBHALLIC VIBRATIONS” : 10/10

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