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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DRAGONCORPSE : THE DRAKKETH SAGA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARDY LEITH OF DRAGONCORPSE !!

“We Expressed That Clean Vocals Being Underutilised And Even Ridiculed In Heavier Music In General Was Missing Out On a Whole World Of Possibilities.”

DISC REVIEW “THE DRAKKETH SAGA”

「僕たちは、自分たちが影響を受けたものをしっかりとその名に刻んでいるんだよ。DRAGONFORCE をはじめとしたパワーメタルからの多大な影響。そして WHITECHAPEL や CANNIBAL CORPSE をはじめとするデスメタルやデスコアからの影響。だから、両方の名前を統合するべきだと思ったんだ」
DRAGONFORCE の名を挙げるまでもなく、天翔るドラゴンはファンタジックなパワー・メタルの代名詞であり象徴です。一方で、”Corpse” “死体” は、CANNIBAL CORPSE を引き合いに出すまでもなく、デスメタルの根幹であり原点。その2つの単語を安直なまでに大胆に繋ぎ合わせたオーストラリアの新鋭 DRAGONCORPSE の登場は、A7X が語るようにヘヴィ・メタルが “大胆な” 進化を厭わなくなる予兆なのかもしれません。
「パワー・メタルとデスコア。この一見相容れない2つのジャンルを融合させたきっかけは、僕と BEYOND DEVIATION の Kris Chayer との単純なやり取りから生まれたんだ。そこで僕らは、ヘヴィな音楽全般においてクリーン・ボーカルが十分に活用されていない、そして馬鹿にされていることは、あらゆる可能性を失っていることになると話したんだよ」
そもそも、ヘヴィ・メタルの世界はクリーン・ボーカルが花形で主流でした。しかし、スラッシュ、デスメタル、メタルコアと時を重ねるうちに、重さこそ正義、グロウルやスクリームであらずんばメタルにあらずといった空気が醸し出されてきたような気もします。そんな中で、DRAGONCORPSE はメタルにおけるクリーン・ボーカルの重要性に再度焦点を当て、デスコアの現代的な重力の中にパワー・メタルのファンタジーを組み込む事でメタルの新たな可能性を見出して見せました。
「どのようなスタイルの音楽にも、おそらく永遠に “純粋な人” たち、ピュアリストはいるものだろう。僕たちが取り込みたいのは、ヘヴィな音楽もファンタジックな音楽も両方楽しめる、オープンマインドな人たちだよ。僕たちのようなバンドが現れて、実際に活動するのを長い間待っていたと言ってくれる人がたくさんいることは、正しい道を歩んでいることを意味しているんだ」
と言うよりも、そもそもパワー・メタルとデスコアは、それほど遠い場所にいたのでしょうか? 例えば、BLIND GUARDIAN の “I’m Alive” や “Mirror Mirror”、もしくは HELLOWEEN の ”Escaltion 666″ や ”Push” を聴けば、その実、パワー・メタルにも重さを許容する素養が十分にあったことに気づくはずです。DRAGONCORPSE はただし、その陳腐になりがちなジャンルの手術を、スタイルの良いところを合成し、それぞれの脂肪をカットすることで、両者の総和を超越するカタルシスを作り出すことに成功したのです。
そして、彼らのサウンドの中心、パワーとデスコアが重なる部分は、SOILWORK や SCAR SYMMETRY を想起させるスウェーデンの基盤が実は支えています。このコアから音楽の要求に応じて、壮大なパワーメタルのコーラスや、デスコアのブレイクダウンへと、より柔軟に、大胆に、シームレスに楽曲はその枝葉を巡らせていきます。
もちろん、デスコアとパワー・メタルという、おそらくサウンド的にも審美的にも最も異なると思われてきた2つのサブジャンルを組み合わせることで、DRAGONCORPSE はデスコアのファンがパワー・メタルの世界を探求するための、パワー・メタルのファンがデスコアの世界を探求するための橋渡しを行い、この壮大な “The Drakketh Saga” の最大の功績としたことは記しておくべきでしょう。
今回弊誌では、多才なボーカリスト Mardy Leith にインタビューを行うことができました。「J-ロックやJ-メタルにとても影響を受けているし、日本の影響も浸透している。X-Japan, D’espairsRay, The GazettE, Maximum the Hormone のようなバンドからの影響だね。高校時代は D’espairsRay の大ファンだったよ!僕の記憶が正しければ、彼らは実際に Soundwave フェスティバルの1つでオーストラリアに来たことがあるんだ!それからもちろん、DEVILOOF のようなヘヴィなものも大好きさ!」オーストラリア、アメリカ、カナダの混成バンド。どうぞ!!

DRAGONCORPSE “THE DRAKKETH SAGA” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【LORNA SHORE : PAIN REMAINS】


COVER STORY : LORNA SHORE “PAIN REMAINS”

“This Kind Of Music Can Be Very Punch-you-in-the-face All The Time. But I Love Stuff Like In Flames Where There’s a Lot Of Inner Conflict.”

PAIN REMAINS

かつてデスコアは、マイスペースでブレイクした JOB FOR A COWBOY と ALL SHALL PERISH を旗頭に、エクストリーム・ミュージックの最新かつ最も賛否両論を浴びる若い音楽として登場しました。彼らは、デスメタルの悪魔的な強さとメタルコアの乱暴なブレイクダウン、そしてニュースクールのプロダクションを組み合わせていたのです。その後数年の間に、2008年 WHITECHAPEL の代表作 “This Is Exile” や 2009年 SUICIDE SILENCE のヒット作 “No Time to Bleed” といった画期的なレコードが、デスコアをワープ・ツアーのステージや若いメタルヘッズのTシャツの棚へ導きました。
しかし、2010年代半ばになると、このジャンルの新時代的な魅力は頭打ちになり、このスタイルは再びアンダーグラウンドに戻りました。ただし、ニッチではありますが熱狂的なファンベースによって育まれ、最近では、15秒間のクリップを共有できる Tik-Tok を中心としたプラットフォームのおかげで再び外界に広がりはじめています。今現在、LORNA SHORE はこのデスコアの新しい波の中で最も大きく、目立つ存在であり、モダンなプロダクションと10年分のジャンルの歴史のおかげで、”Pain Remains” は10年前のどのレコードよりも重く、スマートで、音楽的にダイナミックなサウンドを実現しているのです。
実際、LORNA SHORE の快進撃は、近年 “デスコアは死んだ” と嘯くリスナーを黙らせるに十分な衝撃、これまで以上にハードでヘヴィでパワフルな死の予感を叩きつけます。TikTokで Will Ramos の気の遠くなるようなピッグ・スクイールに何百万人もの人々が我を忘れて熱狂して以来、今では最大級の観客を召喚する、メタルの最も注目すべきバンドとなったのです。

1時間強のアルバムでこの獰猛な5人組は、その黒々とした魂の奥底から、地獄のサウンドを次から次へと引き出していきます。機械仕掛けのテクニックと抑えきれないカオスが交錯し、ブルータリズムの不協和音にリスナーは息つく暇もありません。ギターソロとパーカッションが頭蓋骨に風穴を開ける一方で、Will のボーカルは終始主役を張っています。彼の喉仏をカメラで撮影し、声帯を変形させながら呻き声や悲鳴を上げる映像は誰もが目にしたことがあるでしょうが、”Pain Remains” ではそれ以上に喉仏が酷使されているのです。
ちなみに、実はこの “喉仏カメラ” がきっかけで、LORNA SHORE に対する教育・医学的な関心も高まっています。
「実は僕の声帯が科学の本に載ることがわかったんだ。世界のどこかで、誰かが声の解剖学の授業を受け、そして僕の声帯を研究する。 いいね、僕は本の中にいるよ!」

一方で、この “痛み” には合唱のモチーフや温かみのあるストリングス・セクションが随所に盛り込まれ、圧倒的なカタルシスと陶酔感が内包されています。さらには、”Into The Earth” の勝利の高揚感、”Apotheosis” の血管を流れる生き生きとしたアドレナリン、”Pain Remains I” のワイルドな奔放さ。そうして彼らは、デスコアのルーツを “Dancing Like Flames” でより大きく、ポジティブな翼で羽ばたかせます。
LORNA SHORE の2021年のシングル “To the Hellfire” は、YouTube でマエストロと評判だった Will Ramos を新しいフロントマンとして紹介した楽曲です。この曲が予想外のバイラル・ヒットとなったのは、Will の動物的な咆哮と、撲殺的なブレイクダウンでにおける鬼気迫る叫び声によるところが大きく、このグループが持つデスコアのナット&ボルト、つまりブレイクダウンとねじれたメロデスのリフ、そしてシンフォニックなブラックメタルのアトモスフィアに痛々しい感情が混ざり合うユニークなスタイルにさらなる新鮮味が加わったからでしょう。Will Ramos は言います。
「僕は多くのボーカリストとは全く異なるサウンドを持っている。たくさんの感情があるけれど、それは怒りに満ちた感情じゃないんだ。悲しいんだ。このジャンルではあまり感じないことだし、だから多くの人が僕らの新しいアルバムを気に入ってくれると思うんだ」
3年前、LORNA SHORE は自分たちに未来があるかどうかさえ分かりませんでしたが、”Pain Remains” でその運命を封印しました。そんな彼らの命の咆哮は、いかにして生まれたのでしょう。
今、地球上で最も沸騰するエクストリーム・バンドの一つ LORNA SHORE は、意外にも、2010年の結成以来、この場所までにかなりの長い道のりを歩んできました。そんなバンドにとって、不運や困難、悲しみは決して遠い存在ではありません。むしろ、ずば抜けた “反発力” でマイナスをプラスにかえながら、ここまで進んできたのです。

ニュージャージーという狭い地域出身の彼らにとって、LORNA SHORE は人生の成功か失敗かの分岐点とも言えました。しかし、初期の EP “Maleficium” で特徴的なブラック・デスコアの感覚を加えた後、彼らはプロデューサーからミックスを受け取るのに1年も待つこととなり、リリース日を延期し続けなければなりませんでした。同時に、バンドは地元のプロモーターの間で “煩い奴ら” と評判になり、地元での演奏が難しくなり、誰も彼らのことを知らない州外で演奏することを余儀なくされました。
ライブで演奏することの難しさと、新曲を後回しにしなければならないことの狭間で、2つの仕事を掛け持ちしてバンドに資金を提供していた Adam は、”Maleficium” が伝わらないなら、バンドを辞めて次の学期からバークリーの学校に行こうと決心していました。
「このままでは LORNA SHORE が終わってしまうというストレスの多い時期だったな」
しかし、2013年12月に “Maleficium” がドロップされると、リード・シングル “Godmaker” のビデオはYouTubeの塹壕の中で猛烈なヒットとなり、突然バンドには数ヶ月前に彼らを無視した同じマネージャー、予約エージェント、レーベルからメールが押し寄せるようになったのです。
かつては、あの CHELSEA GRIN にボーカルを “寝取られ” たこともあります。
“Flesh Coffin” と Summer Slaughter の成功で LORNA SHORE の状況がかつてないほど明るく見えたとき、暗雲が立ち込めます。2017年末、バンドはジャンルの巨頭である CHELSEA GRIN とヨーロッパ・ツアーを行いましたが、CG ボーカルの Alex Koehler は健康上の問題に苦しみ演奏することができなかったため、LORNA SHORE のボーカル Tom Barber を含む他のシンガーに、様々なセットで代役を務めてもらっていました。帰国すると、Barber はその後まもなくLORNA SHORE を脱退し、Alex の後任のボーカリストとして静かに求婚していた CHELSEA GRIN に加入したのです。
「女の子とデートしているときに、その子が “この人、ずっと私を口説いてるけど、私は興味ないわ” って言ってるようなもんだよ。そしたら結局、隠れて不倫してたみたいなね!」と Adam は笑います。
二人はその後、仲直りしたといいます。しかし、当時の彼の突然の脱退は、LORNA SHORE の高揚感を破壊し、すでに予約していたスタジオ・セッションを前に、ボーカリスト不在のまま空回りすることにもなりました。バンドは先行きの見通しが立ちませんでしたが、それでも彼らは Barber の脱退を、バンドを続けるための原動力としたのです。
Adam は、”このままではいけない” と思ったといいます。実際、Barber が脱退しなければ、彼らは今、”バンドとして成立していなかった” と考えています。
「残されたメンバーの心に火がつき、世間が間違っていることを証明することになったんだ」

今年の8月は Bloodstock への出演が大幅に遅れました。彼らはその週末で最も期待されたアクトの一つで、彼らを見るために非常に多くの観客が集まっていたにもかかわらず…
「”プライベート・ライアン” で、ノルマンディーでボートが開いて、みんなが急いで外に出るシーンがあっただろ?あれは、まさに俺たちがバスから降りて、すべての荷物を抱えてステージに駆け上がったのと同じだよ。地獄のように暑かったから、何が起こっているのかまったくわからなかった」
2021年には、新シンガー、Will Ramos がライブデビューのベルリンで、アメリカのコンセントと電圧が違うことを理解せずイヤモニをヨーロッパのコンセントに差し込み、壊してしまったこともありました。ステージ上ではマイクも壊れ、大変な1日になりました。
PARKWAY DRIVE とのツアーでは、不幸は少なくとも、何らかの警告を与えるという礼儀を備えていた。ドラムの Austin Archey が、背中の病気を抱え、ニュージャージーの自宅で療養中。そのため、ベーシストの Michael Yager が代わりにドラムを演奏しています。
しかし彼らは、そんな不運の数々を生贄にするかのように、今現在、最も爆発的な飛躍を遂げているメタルバンドとなりました。ニュージャージーのデスコア・バンドがこれほの成功を収めると想像した人はいないはずです。ロンドンでは、250人収容の Boston Music Room からカムデンの Electric Ballroom まで、3回以上大きな会場に変更されていきました。当初の予定より1,250枚も多いチケットを売り上げることとなったのです。バンドの首謀者 Adam De Micco は、PARKWAY DRIVE のサポート・バンドである自分たちには、20人くらいの観客しか集まらないと予想していました。しかし実際は、LORNA SHORE のシャツを着たファンは寒さの中、長い列を作って4時間もの間辛抱強く待っていたのです。

この急成長中のバンドを取り巻くエネルギー、熱意、そして注目度を考慮すれば、LORNA SHORE を駆け出しのバンドと勘違いしてしまう人は多いでしょう。しかし、この衝撃的な瞬間は、2010年の結成以来、ニュージャージーのクルーが経験してきたいくつかの再出発のうちのひとつに過ぎないのです。過去10年以上にわたって、LORNA SHORE は弱小バンドなら潰れてしまうような存亡の危機を何度も乗り越えてきました。2年前にも、彼らはボーカリスト不在のまま無情にも解散し(2度目)、デスコアの “コメンテーター” たちからは一様に、彼らの時代は終わったと見なされていたのです。しかし、今、彼らは新たに再生し、これまでで最も強固なラインアップで生まれ変わり、このジャンルの新しい顔となるべく邁進しています。そのブレイクに何よりも驚いているのは、実はバンド自身なのかもしれませんが。
「ネット上の憎悪が渦巻く中で、虐待疑惑の CJ と別れた瞬間、みんなのシナリオは “このバンドはもう終わりだ。このバンドはもうだめだ、最悪だ” だったからな」
しかし、2020年に虐待疑惑が発覚してバンドを脱退した CJ McReery の後任として Will が加入して以来、LORNA SHORE のストリーミング配信数は爆発的な伸びを見せています。昨年の “And I Return To Nothingness EP” に収録されている “To The Hellfire” は、現在 Spotify で2,500万回近く再生されているのですから。公開からまだ短い期間しか経っていない “Pain Remains” からのシングル曲 “Dancing Like Flames” でさえ、すでに約300万の再生回数を記録しています。
「10年経って、何かが起きているんだ」と Adam は笑います。「始めて10年も経てば多くの人が成功を諦めてしまうかもしれないけど、俺は諦めない。俺たちのために集まってくれる人たちを見ていると、毎日、”よし、彼らが来てくれるのには理由があるんだ”と思うから」
ただし、Adam De Micco は、LORNA SHORE の大成功を夢見て始めたわけではありません。
「単なるローカル・バンド以上の存在になりたいとはずっと思っていたんだ。だけど、”大物” みたいになりたいとか、そういう目標ではなかったんだ。いつでもツアー中のバンドになりたかった。そのために必要なことは何でもするつもりだった」
もちろん、同時に若者らしい理由もありましたが。
「もっとクールな話があればいいんだけどね!16歳のとき、あることがきっかけで彼女と別れたんだけど、再会したとき、彼女は別のバンドをやっている男に夢中だったんだ。それで、”よし、Adam、お前もバンドを始めなきゃ” と思ったんだ」
最初の問題は、彼が楽器を弾けないことでした。
「ボーカルなりたかったんだ。だけど、叫ぶことも、歌詞を書くこともできなかった。ドラムに挑戦してみたけど、すぐに自分はドラムを叩く人生には向いていないことに気づいた。それから、ギターを手にし、食料品店で働いた最初の給料でついに自分のギターを買ったんだ」

残念なことに、Adam の恋は実りませんでした。しかし、音楽を始めたことで、UNEARTH, LAMB OF GOD, KILLSWITCH ENGAGE など、自分と同じようなバンドに夢中になっている人たちに “出会う” ことができたのです。そうして、地元のハードコア・シーン(メタルはそれほどメジャーじゃない)でショーを行うことが Adam の新たな目標となりました。
「ニュージャージーは小さな州だから、小さな場所で演奏するのが普通で、ニューヨークやペンシルヴァニアでも演奏するんだけど、すごく大変だった。とにかく、小さなホールなどで演奏することが多かったね。ありがたいことに、インターネットがツールとして使われるようになったから、そこから抜け出すことができたんだ。というのも、もし地元での小さなライヴに頼るしかなかったら、こうした形でブレイクできたかどうかわからないからね。20~30人規模のライブに慣れていたから、そこから外に出るのは大変だったんだ」
そうして、Batman のコミックに出てくるマイナー・キャラの名を冠した LORNA SHORE は、米国デスコアの王 CARNIFEX のツアーに招待されます。やっとパーティーに招待されたような感じだったと Adam は回想します。
「地元のライブで毎日誰もいないところで演奏していると、”本物” だと感じるのは難しいんだ。でも、あのツアーでは、本物の会場で、本物の人たちの前で演奏していた。そのとき初めて、俺らが本物だと感じた瞬間だった。あのような本物のツアーをすることは、常に俺の頭の中にあった。これが俺のやりたかったことなんだとね」
Adam の中には、目標に負けることなく物事をやり遂げようとする粘り強さがあります。しかし、薄気味悪い信念や、世界征服の大義名分を口にすることはありません。むしろ、この親しみやすく、集中力のある34歳を一言で表すとしたら、”現実主義者” でしょう。つまり、人生には何が起こるかわからないが、その解決策を見つけ、立ち上がるのは結局自分自身であるということを Adam は理解しているのです。
「ロッキーの見すぎかもしれないね (笑) このバンドは殴られることには慣れているんだ。ロッキーの前提は、彼が最後まで殴られ続けること。もしそれで、”これは最悪な状況だ、何もできない、荷物をまとめて家に帰ろう” と彼が思っていたら、この作品は存在しなかっただろう。顎で受け止め、自分を奮い立たせ、”何とかしよう” と言うからロッキーは凄かったんだ!」
Will Ramos の加入は、そうした問題の解決策の一つでした。LORNA SHORE のマイクを握るのは、実は Will が4人目。当初は一時的な代役としてツアーを行っていましたが、2020年に COVID がすべてをひっくり返します。新たなラインナップの探求が難しくなったバンドは、慎重に、新しい若者との水際を試すように、Will Ramos と一緒にEPを作ります。”And I Return To Nothingness” “そして私は無に帰る”。
「俺が心配していたのは、バンドが外部から信頼されていないことだった。ボーカリストを交代してから1年経っていたけど、情報も出てこないし、本当に何も出てこない感じだったから。みんな喪失感を感じていたと思うし、そんな中で、このバンドはどこにも行かないんだという何かを発信したかった。一度 EP をレコーディングしたら、そうした不安はそれほど影響しなくなったよ」
リードトラックの爆発的なストリーミングを経て、Adam が興奮するのも無理はない、濃密なフルアルバムがここに完成しました。どんな困難や不幸に見舞われても、必ずそれ以上の成果を掴み取る、まさにロッキーのようなレジリエンス。偉大なる回復力と反発力。一方、PARKWAY DRIVE とヨーロッパのアリーナやメガホールを回るこのツアーは、Adam の言葉を借りれば “ビッグで本物のアーティスト、ポップやロックのレジェンド” が演奏する場所を自らが体験する別の “興奮” の機会となります。
「クラブでは、俺たちはもう天井に到達している。だからこのツアーは PARKWAY DRIVE のような本物のバンドが巨大な会場で本格的なプロダクションを行うのを見ることができる、全く別の世界があるんだ、という感じだ。別の次元にいるようで、俺にとってはエキサイティングなことなんだ。同じようなルーツを持つメタル・バンドがこうしたレベルに到達するのを見るのは、俺たちにとっても新たな可能性を示しているから。そう言いながらも、俺は物事が少しうまく行きすぎていると思っている。俺はいつも疑っているんだ。次の不幸はどこから来るんだろう?とね」

ギタリストが自分の運が尽きないように警戒しているとすれば、Will Ramos は自分の運を信じることしかできない様子です。誰もが Will をすぐに好きになり、ほとんど無邪気な熱意とエネルギーにあふれ、彼は、思慮深いアダムの陰に対して自由奔放でその場しのぎの陽のような存在。
バンドの他のメンバーからそれほど離れていないところで育った彼は、ギターを弾くことで音楽の世界に入り、クラシック・ロックに夢中になりました。
「Ozzyの “Crazy Train” を初めて聴いたとき、”これは世界で一番クールな曲だ!”と思ったのを覚えているよ」
友人たちが彼に LAMB OF GOD, CRADLE OF FILTH, ESCAPE THE FATE といったヘヴィなサウンドを聴かせようとしましたが、当初はうまくいかなかったようです。
「ああ、WHITECHAPEL を聴いて ”こんなの好きじゃない!” って思ったのを覚えてるよ (笑)。でも、聴き続けているうちに、だんだん好きになるんだ。今、そのことを考えるととても面白いね。だって僕らがやっていることは、そういったバンドよりもずっとダークでヘヴィーなんだから!」
Will の好みは、彼が言うところの “悲しくて歌心のある音楽” で、初期のお気に入りは AFI、最近のお気に入りは SLEEP TOKEN です。
「僕は “シーン・キッド” だったんだ。毎日、髪をストレートにしていたよ。髪を超黒く染めて、顔にピアスもした。唇に4つのピアス…昔はそうだった。最高だったよ!」
音楽的にも、やがて何かが見えてきました。
「それからボーカルに夢中になって、世界で最もハードなボーカルを聴きたくなったんだ。”誰が一番クレイジーなことができるんだろう?” と思い、バンドに参加したかった」
その代わり、彼はニューヨークで映画の仕事に就きます。
「勤務時間が非常識で、クールじゃなかった。自分のために何かをする時間なんてない。プロダクションのオフィスで、電話をかけ、10億通のメールを送り、撮影現場をよく手伝った。でも、それはとても疲れることでね。自分の中では、嫌でも、給料がいいから続けようと思っていたんだ」

LORNA SHORE のシンガーに空席ができたとき、実際、同じ時期、同じ州で、Will は同じような音楽的危機を迎えていました。彼は、過去10年間、いくつかのバンドで経験を積んだものの、いずれも上手くはいかず、彼が望むようなキャリアを積むことはありませんでした。うまくいかないバンドを追って工学部を3年生の時に退学した Will は、”これは最後の砦だ” と自分に言い聞かせたのを覚えています。同時に彼はこの空席を手に入れるのは “15,000人に1人” の倍率で厳しいだろうと考えました。しかし、バンドは Will の人気となった演奏動画をチェックしていて、彼にチャンスを与えました。早速、Will は映画の仕事を辞め、LORNA SHORE に加入します。
「でも、バンドは、ただ代役を募集していただけで、長続きするとは思っていなかった。だから、大好きなバンドと何かクールなことをちょっとだけやって、それから何が起こるか見ようと準備してたんだ」
ツアー、EP、その他すべてがコミットメントなしに行われたにもかかわらず、Will は明らかに適任でした。しかし、完全に “固まった” と感じたのは、新しいアルバムの完成まで待たなければなりませんでした。Will はここで、LORNA SHORE に自分のスタイルを持ち込み、可能な限り悲しい歌詞を書こうとしたのです。そこから、悲しみをテーマにした3部構成の組曲 “Pain Remains” が生まれました。そう、彼らが目指す場所は “ロマンティック・デスコア” の頂き。
「車の中で一人でいるときに一緒に歌ったり泣いたりできる音楽が大好きなんだ!僕は悲しい曲が好きなんだ。悲しい曲は二度と聞きたくないと思うようなことは、人生にはないだろう。でも、それってすごく病んでいるよね。その自分なりのバージョンを書く必要があったんだ。この種の音楽は、基本的に常に顔面を殴るようなものだ。怒りが根っこにある。でも、僕は IN FLAMES のような、内面的な葛藤がある音楽が好きなんだ。痛みがあるけど、圧倒的な喜びも享受できるようなね。この3部作を作るきっかけになったのは、スタジオでアルバムを書いているときに、マリファナをやめることを強く意識したことかな。大麻を吸うと、あまり夢を見なくなる。レム睡眠が止まってしまうんだ。でも、お茶を飲んで休憩すると、すぐに夢を見るようになった。夢の中で恋に落ち、目が覚めたときに、それが現実ではなかったという感覚を歌にしようとしたんだよね。君がそういう夢を見たことがあるかどうかはわからないけど、僕は間違いなくある。目が覚めたら悲しくなっていて、夢ではなく現実だったらいいのに、と思うような夢を見たことがあるよ。もっと眠っていればよかった…って」
偽りの場所にある願い、幸せ。それが手に入らない悲しみ。
「そんなところかな。僕は “ああ、君は最高だ。愛してる。君が誰なのかさえ知らないのに……” って夢をよく見る。その人が誰なのかわからないこともあるよ。知っている人なのか、知らない人なのか、わからない。そして、もう二度と会うことはない。でも僕は、そのシルエットの背後にある顔を見たいんだ。だって、”君が誰だかわからないけど、この感じはわかる。君をもっと知りたい” って思うから。でも、それ以上知ることはないんだよ…」

“Pain Remains” の “夢” を軸としたコンセプトは、あのバンドの新作にも通じています。
「このアルバムはコンセプト・アルバムだ。MACHINE HEAD の Robb Flynn が新譜 “Øf Kingdøm And Crøwn” のインスピレーション源として同じようなことを話していたよね。彼とはポッドキャストで共演もしているんだ。今いる場所が好きではない人、他の場所に行きたい人…とにかく彼らにとって自由になれる場所は夢の中なんだ。すべての曲は、この人物が夢を見、明晰になり、夢をコントロールできるようになり、やがてどんなことにも意味がないことに気づき、ほとんど全能の人物のようになるまでを描いている。物語のクライマックスは、さながら船を作り、その船が自分と共に沈んでいくのを見たい” そんな観念なんだ」
Will は哲学が好きで、”人はそれぞれ違った考えやイデオロギーを持っている” というコンセプトを愛しています。
「だから、この作品は循環するんだ。あるところから始まって、この世界の現実から逃れたいと思い、そして、最終的に現実から逃避し、別の場所に行き着いたところでこのアルバムは終了する。でもそれは始まりでもあるんだ。結局、夢想家は、神のような全能感に飽きる。疲れて、飽きる。全能の神では充実感を得られないんだ。そして、その世界は終わる。誰かが、世界の終わりのサウンドトラックのようなものだと言っていたけど、その通りかもね」
Adam と Will は完全に違う人間ですが、共通の目標を持っています。そのシンクロニシティでついに事態は好転し、LORNA SHORE がすべてを完璧に同期させ、上昇が始まりました。Adam は今のバンドを誇らしく思っています。
「今の状況は信じられないほど素晴らしい。パンデミックの時は、戻ってきても同じようにはいかないんじゃないか、バンドが地盤沈下しているんじゃないか、と思ったこともあった。でも今は、何か素晴らしいことをするチャンスがあると、とても刺激を受けているんだよ。今、俺たちは小さな魚のようなもので、完全に巨大な池の中にいる。メタル・バンドが通常演奏しないような場所で演奏している。ここの階段の壁には、俺らのジャンルとは全く関係のない様々なアーティストが同じ場所で演奏している写真がある。それで、どこまでやれるかワクワクしてきたんだ」
Will にも同じような信念があります。
「2年半前、2022年に僕はどこにいるだろう?聞かれたら、こことは言えなかっただろうね。いや、きっと残りの人生、ずっとパソコンの前で働くんだ “と思っていただろうね。でも今は、もっと上に行きたいんだ」

参考文献: KERRANG!:Lorna Shore: “Things are unbelievable right now… we’re excited to see how far we can take this”

REVOLVER:HOW LORNA SHORE BEAT THE ODDS TO BECOME THE NEW FACES OF DEATHCORE

WALL OF SOUND: Virtual Hangs: Will Ramos of Lorna Shore ‘Writing Lorna Shore’s Romantic Deathcore Ballad’

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLAUGHTER TO PREVAIL : 1984】


COVER STORY : SLAUGHTER TO PREVAIL “1984”

“If You Say You Are Against The War, If You Do Something Like You’re Protesting, And All This Shit, You Can Probably Go To Jail.”

1984

世界で最も危険なデスコアバンドのひとつ、SLAUGHTER TO PREVAIL。彼らが昨年発表したミュージック・ビデオには、バズーカ砲の発射、戦車での巡航、命がけのロシアンルーレット、フロントマン Alex Terrible が熊と格闘するなど、母国ロシアのステレオタイプを大々的に取り入れた姿が映し出されていました。
メタルヘッズにとっては、この仮面をかぶったバンドの大げさな MV は、古き良きデスコアの過激さとバカバカしさを限界まで引き出したものに過ぎませんが、ロシア政府の目に彼らは脅威の悪魔崇拝者集団と映り、彼らの母国公演は、暴力と悪魔賛美のプロパガンダであるという理由で頻繁に警察によって閉鎖されました。
Alex Terrible は現在、フロリダ州オーランドに移住し、デスコアが最も盛んななアメリカに住むことを計画中。2021年のアルバム “Kostolom” 以来の新曲 “1984” は、ハリウッド映画のような空想上の暴力から、ウクライナでの流血を止めろ!というロシアへの鋭い政治的批判に向かってそのテーマを大きく転換した破砕的なシングル。この紛争は Terrible にとっての優先順位を完全に方向転換させ、バンドの今後の創造性にも鋭く影響を与えました。
今年2月にロシアがウクライナに侵攻し、現在も続く流血の紛争が始まったことで、ロシアにも、多くの変化がありましたが、ロシアの侵略が始まってすぐに、Alex Terrible はソーシャルメディア上でこの戦争に対し声高に反対の声をあげました。
「俺たちは残忍な音楽を演奏しビデオには武器も出る。だけどどんな戦争にも反対だ。ウクライナで起こっていることにとても傷ついている。どうかロシア国民全体を共犯者だと思わないで欲しい。皆の頭上に美しい、平和な空が広がりますように」
先日、同じロシア出身のプログ・チェンバー・デュオ、IAMTHEMORNING の Gleb と会話をした際、彼は今のロシア、そしてその国民を “ゾンビ” と呼びましたが、全員が全員 “噛み付かれて” ゾンビになっているわけではありません。ロシアが突き進む全体主義、差別主義、帝国主義に疑問を呈するアーティストやスポーツ選手、資産家が少なからず声を上げています。逮捕や暗殺の危険もかえりみず。
我々個人にできることは決して多くはないでしょう。しかし、まず恐ろしい戦争が今も続いていることを忘れないこと。戦争や弾圧、人の死に慣れないこと。そしてロシアとロシア人すべてを憎み切り捨ててしまわないこと。ロシアの全てを完全否定してしまうことは、そうした “自浄作用” の芽までも潰してしまいかねない危険な行為かもしれませんし、そもそもロシアがやっていることと何ら変わりがありません。
SLAUGHTER TO PREVAIL は昨日、戦争を止めるための第二の矢を放ちました。彼らが最も得意な方法で戦争と流血、そして全体主義について強く発言することを決めたのです。”1984″というタイトルの、強烈なエクストリーム・メタルによって。


1984

もし、あの場所で起きていることがすべて自分のことだったら?
あの涙が自分の家でも流れたとしたら?
お前はあんなクソを白い壁に塗りたくれるか?
自分の家で家族と一緒に
良心は死に絶えた!
行進する軍隊が見える
痛みが走る…だがそこにいる友にはもはや顔も運命もない
死と痛みが群衆の後ろに続く
一体何なんだ?何が起きている?
暴力を止めろ
地球上の流血を止めるんだ
怖がる子供たちの目を見て自分を取り戻せ
暴力を止めろ
地球上の流血を止めるんだ
なあ、兄弟たち
怒りは記憶の中で生き続ける! 怒りは生き続け、そしてはびこってしまうんだ!
罪のないふりをする
見ないふりをする
自分の戦争ではないふりをする
戦争反対のふりをする…そうじゃねえだろ?
ヤツらの目は呪われている
ヤツらの信仰は磔にされている
戦争によって!
ヤツらの舌は石だ
ヤツらの舌は死んでいる
戦争によって!
あのクソ野郎はいつかお前の背中にもナイフを突き刺すだろう

“どうか暴力を止めてくれ、地球上の流血を止めてくれ” という心からの率直な呼びかけを続けながらも、ジョージ・オーウェルの名作小説 “1984” を背景として “抗議” に奥行きを持たせているところはさすがとしか言いようがありません。オーウェルが1949年に執筆した、全体主義国家によって分割統治される近未来の恐怖。70年以上も前の空想が今、リアリティーを持って襲い来るなどと誰が想像したでしょうか。そうして彼らは戦争のみならず、政府による監視、検閲、権威主義の暴走に対しても抗議の声をあげているのです。”1984″ の仮のタイトルが “ヨーロッパ最後の人間” だったというのも、今となっては皮肉な話。オーウェルの言葉を置いておきましょう。
「この小説は社会主義に対する攻撃ではなく、倒錯を暴露することを意図したもの。小説の舞台はイギリスに置かれているが、これは英語を話す民族が生来的に他より優れているわけではないこと、全体主義はもし戦わなければどこにおいても勝利しうることを強調するためだった」
これほど直線的に暴力の嵐を叩きつけてくるバンドが、悪魔の顔を被ったバンドが、実は誰よりも平和を願っている。彼らの存在だけで、仮面の裏の素顔をしっかりと見極めることがいかに重要か伝わります。オーウェルと握手をかわし、ロシアの純血主義のため自分のアートを捨て去ることを拒否し、600ポンドの熊と戦い、顔の傷跡の凄みを明かし、デスコアに飽きたと宣言する。SLAUGHTER TO PREVAIL の野望と狂気と真実と未来はすでに約束されているのかもしれません。まずは、ロシアを離れた理由から話してもらいましょう。

「ロシアのメタル・シーンはアメリカに比べてそれほど大きくないからだ。でも、俺は自分の国が好きなんだ。家族も友達もまだそこにいるからね。俺はロシアで育った。自分の国のことは何でも知っている。ロシアにいる方がずっと楽なんだ。でも、戦争が始まると、ビジネスのコネクションなど、すべてを失ってしまう…制裁で何もできない。そこで、アメリカに移り住むことを即決し、ビジネスもアメリカに移したのさ」
Terrible が手がけているビジネスとは何なのでしょう?
「自分の商品、マスク、その他もろもろを売っているんだ。うまくいってるからビジネスみたいなもんだ。たくさん売れて儲かってるんぜ。俺のバンドにとってもいい金だ。PayPal はロシアと手を切った。Visa と MasterCard も閉鎖した。ロシアから他の国への送金ができないんだ。今は難しい。移住にはヨーロッパの国々や、おそらくメキシコ、アメリカなど、いくつかの選択肢があったな。でも、一番いいのはアメリカだと思った」
戦争によって物理的な危険もあったのでしょうか、それとも制裁によって去ることになったのでしょうか?
「それはちょっと危険な話だ…。戦争に反対だと言って、抗議するようなことをすれば、おそらく刑務所に入るか、3万ルーブル(約500ドル)か5万ルーブル(約800ドル)の切符を切られるかもしれないんだ。それほど高くはないが、それでもとんでもないことだよ。戦争に反対しているだけで、政府からただ “オマエには問題がある。黙れ。黙ってろ” と言われるのさ。特に音楽をやっていて、戦争に反対していたら、おそらく政府はショーを行わせないだろうし、シャットダウンする…… 俺は芸術のためなら何でもする。そうだよ、俺たちは少し問題を起こした。政府は俺たちが悪魔崇拝者だと考えている」
具体的に何があったのでしょう?
「暴力、暴力のプロパガンダ、悪魔崇拝、その他もろもろの理由で、俺らのショーはキャンセルされたんだ。俺や他のバンドにとって、それは非常に危険なことだ。ロシアでは何もしなくても刑務所に入れられるからな。ロシアは今、政府がかなり強くて、すべてをコントロールしているんだ。ヤツらが気に入らなければ、簡単に刑務所に入れられるんだよ」
Terrible はロシアで刑務所に入れられたことがあるのでしょうか?
「俺はないよ。ありがたいことにね。でも、俺の友人には、何もしていないのに刑務所に入れられた人がたくさんいる。ロシアではよく言われる言葉がある。”刑務所に行くかもしれないから、準備しておけ”。今はまさにそんな感じさ」
ライブが政府によってキャンセルされるときは、軍が踏み込むのでしょうか?
「警察が来て、”貴様らは演奏はできない”と言われるだけ。音楽も何もかも消されるんだ。あるいは、その前にショーを主催している人たちに電話して、ヤツらは演奏はできないと言うんだ。問題を起こしたくなければ、キャンセルしろとね」

新曲 “1984” は、かなり政治的に踏み込んだ内容です。
「俺はこれまで政治的なことには無頓着だった。でもな、歳をとると、自分の国で起こっていることをしっかり見なければならないことに気づくんだよ。そこで生きているんだから。政治的でなければならないんだ。この状況について歌ったこの曲。とても感情的だ。俺はとても感情的な男なんだ。だって音楽をやっているんだから。すべてのアーティストが感情的だと思う。それだけ、この状況は本当に心にキタんだよな…自分の仲間が他の国、つまりウクライナに行って、お互いに殺し合っているんだから。たしかに、今のような状況になる前にも、誰もがそのような話をしていた。ロシアがウクライナに侵攻するってね。でも俺はそんなことは信じていなかった。冗談のように思っていた。一体どうなっているんだ?何を言っているんだ?だけど、実際に起こった」
驚きましたか?
「気が狂いそうだったよ。”1984″ という本の中で言われていた、嘘は真実であり、暴力は愛であるといった状況が、ロシア政府にもはっきりと見て取れるからね。実に愚かで強力なプロパガンダが行われ、戦争に反対する人たちを刑務所に入れるという政府の本当に愚かな行動がね。刑務所ではなく、国自体がもう牢屋よ。切符を切られるんだからな。”そんなことはやめなさい。あなたは間違っている” もうね、イかれてるよ」
ロシア政府に従うという選択肢も存在したはずです。
「この曲では “暴力はやめろ” と歌ってる。”なぜこんなことをする?” 間違ってると思うからさ。俺は多くのことを知らないよ。でも俺はクソじゃない…俺は政治家ではないし、ドンバスの紛争もよく知らないし、こんなクソみたいな戦争の理由も知らない。でも、無学な俺にとって、今起きていることは好ましくないんだ。だって人が死んでいるんだから。民間人が苦しんでいる。マリウポルは破壊された。街全体が破壊されている。俺は無学だが、他人の立場に立って考えることはできる。例えば、マリウポリに住んでいて、こんなことが起こったと想像してみるんだ。家族を失い、家も失い、そしてこのような事態になる。ロシア政府を憎むだろう。ロシアが憎くてたまらなくなる。俺はただ… 何て言えばいいんだろう…本当に感情的な人間なんだ。ロシアでは、心の中ですべての人が戦争に反対していると思うよ」
あなたように政治的な問題に言及するロシア人が増えることで、今後、ウクライナにおける殺戮が沈静化することはあるのでしょうか?
「そう願うよ。誰もが、ただ黙っていることはできないからね。なぜなら、ロシア人はロシアに住んでいて、家族もロシアにに住んでいるから。自分の子どもたちも、この国で生きていく。今は俺に起きていることだけど、明日は自分子供や親に起きることなんだ。俺たちはこんなこと望んでいないよ。ロシア人にできる最も小さなことは、ただ何かを言うことだ。そして俺は幸運にも、自分のバンドや音楽を通して、何かを言うためのツールを持っている」

“1984” とそのミュージック・ビデオは、ロシア以外の国で録音されたのですよね?
「いや、もしロシアにいたとしても、俺はこのビデオを公開しただろう。このクソが始まったとき、戦争が始まったとき、俺はいつも自分のインスタで “政府なんてクソだ。戦争なんてクソだ。俺はアイツらなんて怖くねーから” と言ってきた。親には “気をつけなさい。黙っていてくれ” と言われたけどな。ダチはそうしてる。でも俺は嫌だな。俺は言いたいことは何でも言う」
あの曲をロシアで作ったことが政府に知れたら、どれだけの問題になるのでしょう?
「わからない。たぶん、誰かが俺らに興味を持って、敵対するようなことがあれば、トラブルになる可能性はあるけど、それはわからない。わからないけど…でも、常にリスクはあるよ。もし俺がロシアに戻り、そこに留まり、今のような言動を続けたなら、おそらく問題になるだろう…。たぶん、切符を切られ、2枚目の切符を切られ、そして刑務所に行くことになるのだろう」
ネット上では、”デスコアバンドで、暴力的なイメージの音楽を作っているのに、反戦だと言っている偽善者” と揶揄されることもあります。
「彼らは愚かだ。俺は感情的な人間なんだ。戦いは好きだし、武器やライフルも好きだけど、戦争が好きなわけではないんだよ。人々が苦しむのを見たいわけがない。人殺しが好きとか、そういうことじゃないんだ。奴らはただのバカだ。まあ、多くの人はバカだ。それはそれでいい。俺はそれを無視してるんだ。だって、デスコアってのは、蝶々や愛について歌うんじゃなくて、攻撃的な音楽なんだから。でも、いざ戦争になったら、何か言わなきゃいけないと思うし、俺は自分の歌で自分の思いを歌うんだ」
ロシアのおとぎ話をテーマとした “Baba Yaga” のビデオも強烈でした。
「戦車、バズーカ、熊など、かなりロシア的なテーマだったよね。ロシア的なものを1つのビデオにまとめただけというか。Baba Yaga は、小さな子供を怖がらせて食べようとするとても醜い女性の物語。ロシアではとても一般的なおとぎ話だよ。俺たちは、それをとてもシリアスで、とてもアグレッシブなものにしようとしただけなんだ。ロシアで戦車を走らせ、毎日熊と格闘しているわけではないよ。あれはただのアートだから。まず第一に、見ていて楽しい。第二に… 俺は武器や戦いが好きだ。だが常に一線を画している。それを理解する必要があるんだよ。大人の男なら分かるはずだ。一線は必ずある。多くの人がこう言う。なぜ戦車やバズーカのことを歌うのに戦争には反対なのか?その通りだよ。ただ、俺にはバカバカしいとしか思えない。一線を越えるか越えないかだよ。俺は人間で、常に人間でいようと思っているだけだ。何が起ころうとも、俺はいつも物事を落ち着かせようとしているんだ。たくさん分析しようとする。俺は人が苦しむのが好きじゃない。動物の苦しみも好きじゃない。だから6年間ヴィーガンだったんだ…よくわからないけど。世界はもっと優しくなるべきだと思う」
実際に熊と戦ったんですよね?
「もちろん、訓練されたクマだけど。でも、まあ訓練されていようがいまいが関係ないよ。だってあれは本物の熊なんだから。クマの本性は野性的で、何を考えているかわからない。数秒のうちに、もしかしたら突発的に食べられてしまうかもしれない。銃がないから止められないし… 俺たちの周りは棒だけを持っていた。トレーナーやコーチが “やめろ”と言いながらバン バン。それでおしまい。え?マジで?棒で熊を止めるのか?みたいな。クマの体重は200キロか300キロくらい。トレーナーは “何も問題ない。このクマは何度も人間とやりあってる” と言ってたな」

実際に武器を持っているのでしょうか?
「ロシアでは AK をたくさん持っている。ショットガンのAK、ごく普通の AK-47、スナイパーのもの、VSS など。俺たちはヴィントレスと呼んでいます。ロシアでもかなり一般的なライフルだね。アメリカではもうAKとAR、それに狙撃銃も買ったよ。50BMGとか。俺は射撃がかなり好きなんだ。子供のころはずっと “カウンターストライク” をプレイしていたから、武器の見た目がとても好きなんだよな(笑)」
プロの格闘家としても活躍しているんですよね?
「プロフェッショナルではなく、あくまで趣味だよ。本当に好きなんだ。6歳の時に親に連れられて、プロレスのフリーコーナーみたいなところに行って、それから一度辞めた。17歳か18歳のとき、ジムに行ってリフトを始めて、ガリガリだったから筋肉をつけたんだ。ガリガリが嫌だったんだよ。特にロシアに住んでいると、かなりポピュラーなのがゴプニク。ゴプニクというのは、強盗とか喧嘩とか、そういう悪いヤンキーたちのこと。本当に痩せていると狙われて困るんだよね。いつも銃を持っているわけにもいかないし、ね」
格闘技もステージに役立っているようですね?
「そうだね。確かにね。特にデスコアのボーカリストならね。ステージでは、叫びながらヘッドバンキングして、同時に動くのは本当に大変なことなんだ。エネルギーを費やして、呼吸をして……。MMAと似ているよね」
その顔の傷は…格闘でできたのですか?
「ただの傷跡だよ。わざとやったんだ。自分で顔を切っただけだ。タトゥーや体の模様替えが 好きなだけだよ。女の子がメスを持っていて、それで切っただけ。痛みは苦手なんだけど、タトゥーやその他もろもろが好きなんだ」

SLAUGHTER TO PREVAIL の新作のサウンドはどうなるのでしょう?
「”Kostolom” の良いところを取り入れ、それと同じかそれ以上のものを作ろうと思っている。おそらくデスコアにはならないだろうね、デスコアには飽きたから。正直に言うと、スラミングとかデスコアとか、そういう本当にヘヴィなものには飽きたんだ。デスメタルも好きだ。デスコアも好きだ。だけど、何か新しいものを作りたいんだ。何か巨大なものを作りたいんだ。例えば、RAMMSTEIN 。彼らはかなりクソ重いギターリフを持ってる。クソ重いけど、シンガーが歌っている。彼はクリーン・ボーカルをとる。でも、同時に、人々が(歌詞を)理解することができるから、かなり巨大なバンドなんだ。みんながあの雰囲気を感じ取ることができるんだ。俺たちはそういうものを作り出さなければならない。例えば、SLIPKNOT。90年代、彼らはデスメタルとヘヴィメタル、そしてニューメタル、これらすべてをミックスした。俺も同じことをしたい。SLAUGHTER TO PREVAIL と Alex Terrible の名前を音楽史に刻みたい。俺は普通のデスコアやデスメタルバンドにはなりたくない。何かクレイジーなことをしたいんだ」

参考文献:  “OUR GOVERNMENT THINKS WE’RE SATANISTS”: SLAUGHTER TO PREVAIL TALK RUSSIA, WAR, FIGHTING BEARS, NEW MUSIC

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ABIOTIC : IKIGAI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN MATOS OF ABIOTIC !!

“I Was Doing Some Reading And Fell In Love With The Concept Of Ikigai. In These Challenging Times, I Know a Lot Of Us Are Struggling With Finding Our Reason For Being, And I Wanted To Write an Album About That Struggle, Pain, And Perseverance.”

DISC REVIEW “IKIGAI”

「日本についての本を読んでいたら、”Ikigai” というコンセプトに惚れ込んでしまったんだよ。この厳しい時代に、僕たちの多くは自分の存在理由を見つけ出すのに苦労していると思う。僕はそんな苦労や痛み、忍耐についてのアルバムを作りたいと思ったんだよね」
2010年の結成以来、フロリダで最も急速に成長を遂げたデスコア/テクデスのハリケーン、ABIOTIC。5年間の活動休止で彼らは内面的にも音楽的にも遥かな進化と成熟を遂げ、彼らの存在理由、”生き甲斐” を叩きつけてみせました。
「それぞれの楽曲は、生き甲斐というコンセプトを異なるアプローチで表現している。5年の歳月を経て、宇宙やエイリアンについての作品は今でももちろん好きだけど、生き続ける理由を見つけるのに苦労するような時代に、感じられるもの、親近感を持てるものを書きたいと思ったんだ」
コロナ・ウィルスが日常を、社会を、そして音楽業界全体を破壊し続けていることは言うまでもありません。人の心まで侵される現代の恐怖の中で、ABIOTIC が復活を遂げたのは決して偶然ではないでしょう。デビュー作の “Symbiosis” や、プログレッシブ・スペース・オデッセイ “Casuistry” で宇宙や地球外生命体を探求した彼らは、遂に地上へと降り立ち、人類の現状を憂い、人と繋がりながら悲しみ嘆き、共感し、空想的なものよりも優先すべきテーマを見つけました。
「あれほど才能のあるバンドが多数所属するレーベルの一員になれて嬉しいね。アーティスト自身が運営するこのレーベルは、まるで家族のように感じられるんだ」
Metal Blade から Artisan Era へのレーベルの移動、SCALE THE SUMMIT の Killian Duarteとドラマーでありエンジニアでもある Anthony Simone を含む再編成されたラインナップ、さらに THE BLACK DAHLIA MURDER, ARCHSPIRE, ENTHEOS, FALLUJAH といった錚々たるバンドからの錚々たるゲスト陣を見れば、このバンドがメタル世界における “Symbiosis” “共生” を実現していることに気づくでしょう。そして、一欠片の獰猛も損なうことなく、プログレッシブ・ジャジーな奇譚と和の旋律が “共生” する9通りの “Ikigai” は、これまで以上に共感を誘う傑作に違いありません。
和の心、メロディー、情景、情緒を存分に取り入れた開幕の “Natsukashii”, “Ikigai” は、さながらデス・メタルで綴る日本の歴史絵巻。正確無比なテクデスの猛威に浸透する大和の雅は、リスナーの心身に映像を投影する新生 ABIOTIC の哲学を承知しています。
「不寛容さに直面しているトランスジェンダーとしての人生、依存症患者としての人生、メンタルヘルスと闘っている虐待を受けた子供としての人生、気候変動によって住処が破壊されたフクロウとしての人生など、無限の人生は苦悩しながらも、その苦悩に耐えているんだよね。そして、16世紀の日本の野山で息を引き取る前に、彼はその生のつながりに自分の目的を見出すわけさ」
アートワークの侍は、”Ikigai” で切腹を遂げる今際の際に、21世紀におけるさまざまな人生の苦悩を走馬灯のように目撃し、共感します。
トランスフォビアによる虐待と自死をテーマとしたリード・シングル “Souvenir of Skin” のように、侍が目にする苦痛はすべてが21世紀のもの。切腹の果てに訪れるやるせない未来は、重さを極めながら記憶に残る ABIOTIC の哀しみと濃密な二重奏を描いていきます。さながら、Travis Bartosek の重低咆哮と、TBDM の Trevor の雄叫びがシンクロするように。
FALLUJAH の Scott Carstairs が嗚咽と希望を壮大なスケールのギターソロで表現し、バンドがソングライティングの粋を尽くして GORGUTS の異形やメロディーを重ねる “Horadric Cube” は傑出した瞬間ですし、CYNIC の宇宙と諸行無常が ex-THE CONTORTIONIST の Jonathan Carpenter の美声によって無限に広がる “Grief Eater, Tear Drinker” はアルバムの痛みそのものと言えるでしょう。
重厚なストリングスに導かれる “Gyokusai” で侍は生きる意味を見出します。ただし、すべては遅すぎました。死はもう始まっていました。辿り着いたのは永遠の休息。きっとリスナーには、手遅れになる前に、何かを見つけて欲しいと願いながら。
今回弊誌では、ギタリスト John Matos にインタビューを行うことができました。「アルバムの制作とアートワークは “Ghost of Tsushima” が発売される前に完了していたんだけど、人々が僕たちのアートワークと音楽をあの最高のゲームに関連付けてくれるのは素晴らしいことだよね」 どうぞ!!

ABIOTIC “IKIGAI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WITHIN DESTRUCTION : YOKAI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUKA VEZZOSI OF WITHIN DESTRUCTION !!

“I Believe The Metal Scene Is Slovenia Is Quite Strong But There Are Practically No Bands That Break Through Internationally Cause Nobody Has The Guts To Do That Important Step Of Saying “Fuck My 9-5 Job, I Wanna Do This For My Living”. You Need a Different Mindset If You Want Your Band To Succeed Internationally.”

DISC REVIEW “YOKAI”

「明らかに僕らは将来的にメインストリームにも進出したいと思っているから、トラップの要素を取り入れてよりメジャーな曲作りをすることは、その方向への第一歩だったんだ。もちろん、僕たちのようにやるには肝が座ってなきゃダメだけどね。人がどう思うかなんて気にしない。 自分たちがやっている音楽が好きであればそれで十分なんだ。」
東欧の小国スロベニアからスラミングデスの残忍王へと上り詰めた WITHIN DESTRUCTION は、バンド名が物語るように激烈な破壊衝動をその身に宿したまま、メインストリームの恍惚へと挑戦しています。
「スロベニアのメタルシーンは非常に強力だと思うんだけど、国際的にブレイクするバンドがほとんどいないんだ。それはね、『9時から5時の仕事なんてもうどうでもいい、メタルで生計を立てていくんだ!』ってガッツを誰も持っていないからなんだ。バンドで国際的に成功したいと思うなら、違う考え方、心の持ちようが必要なんだよ。当然、ハードな努力が必要で、経済的にも社会的にも多くの犠牲を払わなければならないんだよ。」
WITHIN DESTRUCTION に備わった無垢なる狼の精神は、人口200万の世界の狭間に生を受けたその運命と深く関連していました。ここから国際的にブレイクを果たすことがいかに難しいか熟知しているからこそ、WITHIN DESTRUCTION はその暴虐な世界を奔放に拡大していくのです。
「”Yokai” は大部分が日本の幽霊/悪魔である妖怪についてだね。平安末期に鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人物、狐の化身 “玉藻の前” についての楽曲なんだ。彼女の美しさ、知性、そして狡猾さに焦点を当てているよ。あと、”Alone” はファイナルファンタジーの世界をベースにした楽曲なんだ。」
Unique Leader を離れ自らのレーベルを設立し、POLARIS のブレークにも一役買ったプロデューサー Lance Prenc を招聘したのは決意の現れでしょうか。メインストリームなデスコアサウンドやエレクトロニカ、トラップ、プログなどを加えスラミングデスメタルの領域を拡大する一方で、日本やアジアの伝統文化、アニメ、ゲーム, “Kawaii” からの影響を調合することにより、最新作 “Yokai” は邪悪と奇妙を両立させる文字通りエクストリームメタルの妖怪として魑魅魍魎の魅了を手にすることとなりました。
エレクトロニックでジャポネスクな “Yomi” は完璧なる冥府への入り口。そうして続くタイトルトラック “Yokai” で、メタルコアのリフにデスコアのヴァース、残忍なスクリームのコーラス、オリエンタルなメロディーと電子音の洪水を纏って新生 WITHIN DESTRUCTION に漂う妖気を存分に見せつけます。
ラッパーを起用した自殺志願のデスコアパーティー “Harakiri”、ニューメタリックな和の舞踏 “Hate Me” と、任天堂化した WITHIN DESTRUCTION のトラップメタルは彷徨う荒魂が浄化されるが如くバンドの狂骨へと浸透していきます。
そうしてアートの域まで高められたトラップメタルの百鬼夜行は、日本のヒップホップクルー Tyosin, Kamiyada+ が参加する “B4NGB4NG!!!” を皮切りに怪奇映画の終幕へ向けて進軍を始めます。インストゥルメンタルの “Sakura “では、プログメタルのイマジネーションで日本への憧憬を煽り、エレクトロニクスがアンビエントに鳴り響く “Tokoyo-No-Kuni “で文字通りリスナーは古代日本で信仰された不老不死の理想郷 “常世の国” へと導かれました。
今回弊誌では、バンドの心臓でドラマー Luka Vezzosi にインタビューを行うことが出来ました。「僕はゲームやアニメが大好きだから、ツアーで日本にいるときはいつも出来るだけ多くのオタクショップに行っているよ。日本には知られていないような小さなお店がたくさんあって、存在すら知らなかったようなものを見つけることができるからね。唯一の問題は、買ったものをどうやって飛行機で家に持ち帰るかということなんだ。」 どうぞ!!

WITHIN DESTRUCTION “YOKAI” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INGESTED : WHERE ONLY GODS MAY TREAD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JASON EVANS OF INGESTED !!

“The Problem Before Is That a Lot Of The Bands That Were Around When Ingested Started Just Didn’t Stick It Out Through The Bad Times, The Years When Metal Wasn’t Quite As Popular. It’s Nice To See The Scene Flourishing Again, When The UK Metal Scene Is In Full Swing, It’s One Of The Best In The World.”

DISC REVIEW “WHERE ONLY GODS MAY TREAD”

「今の UK シーンには本当に才能があって努力しているバンドがたくさんいるからね。英国において問題だったのは、INGESTED が始まった頃にいたバンドの多くが、メタルがそれほど人気がなかった悪い時代を乗り越えようと頑張らなかったことなんだ。」
LOATHE, VENOM PRISON, EMPLOYED TO SERVE, SVALBARD。2020年。デスメタルの強烈なカムバックを支え、デスコアの鋭き毒牙を研ぎ澄ますのは、疑問の余地もなく英国の若武者たちです。そうして様々な手法で音楽のリミットを解除し、境界線を排除する重音革命を最前線で牽引するのが INGESTED だと言えるでしょう。
「”デスコア” でも “スラム” でも何でもいいんだけど、僕たちはもう自分たちを狭いジャンルに押し込めたいとは思わないんだ。ただ、僕たちのアルバムがデスメタルのジャンルの多さを物語っているのは間違いないと思う。このアルバムにあるのはどんなエクストリームメタルのファンでも何かしら愛せる部分を見つけられる影響ばかりなんだから。」
たしかに、かつて “UK のスラムキング” と謳われた4銃士がここ数年で遂げたメタモルフォーゼの華麗さには、眼を見張るものがありました。特に、アトモスフィア、ブラッケンド、そしてメロディーのロマンチシズムを吸収したEP “Call of the Void” には次なる傑作の予感が存分に封じられていたのです。
「子供時代は完全に SLIPKNOT キッズだったんだ。”Iowa” は僕の時代で、僕の子供時代全てなんだ。FEAR FACTORY や LAMB OF GOD, PANTERA, CHIMAIRA なんかが大好きだったけど、中でも SLIPKNOT は僕の人生を変えてくれたバンドで、”Iowa” を聴いてからずっとメタルバンドになりたいと思っていたのさ。」
完成した最新作 “Where Only Gods May Tread” は予感通り、メタル世界の誰もが認めざるを得ない凄みを放っています。結局、INGESTED がメタルに再び人気を取り戻し進化へ導くための努力、多様性の実現、言いかえれば彼らの底なしの野心は、自らの心臓が送り出す凶暴な血潮をより赤々と彩るドーピングの素材にしかすぎませんでした。まさに摂取。まさに消費。真実は、根幹である暴力と狂気に対する圧倒的心酔、ルーツへの忠誠こそ、バンドの信頼性を極限まで高めているのです。
実際、オープナー “Follow the Deciever” からその無慈悲な残虐性はなんの躊躇いもなくリスナーへと襲い掛かります。ただし、INGESTED の拷問方法、地獄の責め苦は非常に多岐に渡り周到。知性際立つグルーヴの氾濫、唸り吸い叫ぶ声色の脅威、アコースティックやオリエンタルで演出するダイナミズムの落とし穴。つまりリスナーは、全身に猛攻を浴びながらも、常に新たな被虐の快楽に身を委ねることができるのです。
それでも、CROWBER/DOWN の Kirk Windstein が歌心の結晶を届ける “Another Breath” に対流するメロディーのきらめきは INGESTED にとって新たな出発点の一つでしょうし、なによりプログレッシヴで紆余曲折に満ち、ビートダウンの猛攻が蠢く過去とより思慮深くメロディックにアトモスフェリックに翼を広げる未来とのギャップを見事に埋める9分のエピック “Leap of the Faithless” はモダンメタルの可能性を完璧なまでに証明する一曲となりました。
今回弊誌では、七色のボーカル Jason Evans にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちは、音楽であれ、メディアであれ、映画であれ、人生経験であれ、周りのあらゆるものに影響を受けているよね。これらのものは、人としての自分、バンドとしての僕ら、そして自分たちが作る音楽そのものを形作っているんだ。だけど、これらのものはまず消費されなければならなくて、”摂取” されなければならないんだよ。」 どうぞ!!

INGESTED “WHERE ONLY GODS MAY TREAD” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HUMANITY’S LAST BREATH : ABYSSAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BUSTER ODEHOLM OF HUMANITY’S LAST BREATH !!

“Djent Was a Continuation Of What Meshuggah Started. Everyone Added Their Own Flavour To The Sound For Better Or For Worse. Thall Is Just a Word That Sounds Funny In Swedish.”

DISC REVIEW “ABYSSAL”

「MESHUGGAH はあの本当にユニークなサウンドの先駆者なんだ。演奏の面でも、作曲の面でもね。僕たちも含めて多くのバンドが彼らの直接的な子孫だと言えるだろうな。」
そのジャンル名は “EVIL”。MESHUGGAH の血を引くスウェーデンの猛威 HUMANITY’S LAST BREATH は、シーンに内在する愚かな “ヘヴィネス” の競争を横目に、純粋で無慈悲なまでに冷徹な恐怖と狂気を世界へと叩きつけます。
Calle Thomer と Buster Odeholm。”Thall” 生みの親にして Djent の神、VILDHJARTA のメンバー2人を擁する HUMANITY’S LAST BREATH に大きな注目が集まるのはある意味必然だったと言えるでしょう。何より、VILDHJARTA 本体は長らく隠遁状態にあったのですから。
ただし、HLB は決して VILDHJARTA のインスタントな代役というわけではありません。「Djent のムーブメントは MESHUGGAH が始めたことの継続だったんだ。良しにつけ悪しきにつけ、みんながその下地に独自のフレイバーを加えていったよね。」Buster の言葉が裏付けるように、HLB が追求し個性としたのは Djent を通過した “重” と “激” の究極形でした。
2012年のデビューフル “Humanity’s Last Breath” から7年。実際、唯一のオリジナルメンバー Buster がバンドを一度解体し、再構築して作り上げた最新作 “Abyssal” は彼の愛する MORBID ANGEL のように重量以上の畏怖や威厳を伝える音の “深淵” だと言えるでしょう。
「ヘヴィーな音楽において、コントラストは非常に軽視されていると思うんだ。だけど僕はソングライティングのアプローチにおいて、最も重要な要素の1つだと考えているよ。」モダンメタルコアの新星 POLARIS はヘヴィネスの定義についてそう語ってくれましたが、HLB の威容にも奇しくも同様の哲学を垣間見ることが可能です。
オープナー “Bursting Bowel Of Tellus” は HLB が描く “激重” の理想なのかも知れませんね。威風堂々、デスメタルの重戦車で幕を開け、ピッチシフターの雄叫びと高速シンコペーションで djenty なカオスを創出。ブラストの悪魔を召喚しつつ呪術的なクリーンボイスでさらなる中毒性を醸し出すバンドの方程式は、まさしくヘヴィネスの坩堝と対比の美学に彩られています。
事実、新ボーカル Filip Danielsson の豊かな表現力は HLB にとって進化のトリガーだったのかも知れません。獰猛な咆哮はもちろん、時にエセリアルに、時に邪悪に、時に囁き、時に静寂まで呼び寄せる Filip のワイドな魔声により、仄かな北欧の風を伴ってバンドは多様に真の “激重” の探求へとその身を委ねることになりました。
さらに “Born Dust”, “Fradga”, “Abyssal Mouth” と聴き進めるうち、そこには STRAPPING YOUNG LAD, FEAR FACTORY と交差する、近未来感を軸としたシンクロニシティーがまざまざと浮かんで来るはずです。それはブラッケンドで djenty な最高級のテクニックを、惜しげも無く純粋にヘヴィネスへと注ぎ込み昇華した桃源郷のディストピア。
もちろん、アルバムの第二幕、全楽曲のインストバージョンは建築士としての自信と DIY の矜持であることを付け加えておきましょう。彼らのデスコアマッドネスに知性は不可欠です。
今回弊誌では、ドラムスとギターを自在に操る鬼才 Buster Odeholm にインタビューを行うことが出来ました。「”Thall” とはスウェーデン語で面白く聴こえるようなただの言葉なんだ。」今、世界で最も重力を集めるブラックホール。どうぞ!!

HUMANITY’S LAST BREATH “ABYSSAL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LEE MCKINNEY (BORN OF OSIRIS) : INFINITE MIND】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LEE MCKINNEY FROM BORN OF OSIRIS !!

“I Love Metal Just Like The Rest Of Us, But It’s SUCH a Shame When I See “Metal Heads” Talk Shit On Things That Aren’t Metal Or a Band Changing Their Sound. How Sad Of a World It Must Be To Only Love ONE Style Of Music.

DISC REVIEW “INFINITE MIND”

「全てはシカゴの小さなシーンから始まったんだ。僕たちは本当に才能とインスピレーションに溢れたミュージシャン、グループに囲まれていただけなんだよ。僕は MESHUGGAH さえ聴いていなかったんだから。僕が聴いていたのは友人の VEIL OF MAYA と AFTER THE BURIAL だったんだ。」
例えば VEIL OF MAYA の “The Common Man’s Collapse” が、例えば AFTER THE BURIAL の “Rareform” が、そして例えば BORN OF OSIRIS の “The New Reign” が、後のプログレッシブデスコア/メタルコア、Djent シーンに与えた影響は計り知れないものがあります。
シカゴ周辺に兆したプログレッシブでポリリズミックなグルーヴの胎動。中でも、オリエンタルなテーマと荘厳なシンセサウンドを背景に紡がれる BORN OF OSIRIS のドラマティックな宇宙観は、新時代の神秘と野心に満ちていました。
BORN OF OSIRIS のギタリスト Lee McKinney は、一時期バンドに参加していた Jason Richardson や Tosin Abasi ほどの英名や声価を得ている訳ではないのかも知れません。しかし遂に完成を見たソロデビュー作 “Infinite Mind” で、Lee に備わった多彩なエモーショナルジャーニー、シュレッドロマンが証明されるはずです。
実際、メインストリームのロックフィールドへと接近した IN MOTIVE の結成を皮切りに、Lee はここ数年 “クリエイティブモード” の最中にあります。BORN OF OSIRIS では、初期の鼓動と傑作 “The Discovery” 以降培った多様性を周到にミックスした最新作 “The Simulation” を1月にリリースし、さらにその仮想現実へと警鐘を鳴らすビッグテーマを引継いだ作品が今年中に完成予定。そして3月にはソロレコード “Infinite Mind” が到着。
実は、Lee のその旺盛な創作意欲は以前のハードなツアー生活がもたらした “不安感” に対処するある種のセラピーで、薬物中毒から抜け出す平穏への道こそ “Infinite Mind” のテーマとなりました。
「僕はあらゆるジャンルを取り入れたいのさ。なぜかって? 僕はジャンルの意味さえ見出せないんだよ。ジャンルの役割って、リスナーが中にとどまるための箱を提供することだけだと思うからね。」
BORN OF OSIRIS で否が応にも期待されるメタルコア/デスコアサウンドは、Lee のカラフルな音の絵の具の一色にしか過ぎません。オープナー “Clock Without A Craftsmen” を聴けば、Lee のシグニチャーサウンドであるシンメトリーな旋律に悠久のサクスフォンが溶け合って、有機と無機の絶妙なバランスを描き出していることに気づくでしょう。
実際、サクスフォンが醸し出す官能の音色は、”Rising Tide” や “A Neverending Explosion” においてもアンビエントなサウンドスケープを創出し、メカニカルメタリックなパレットの中でダイナミズムのダンスを踊ります。
ジャズやアンビエントの絵の具以外にも、”The Sun and The Wind” ではトレンドでもある Fu-djent のイメージを追求し難解なリズムをキャッチーに因数分解し、”Astrolabe” ではエスニックでクラシカルな描写が情緒の陰影をより色濃く時の回廊へと刻みます。
「一つの音楽スタイルしか愛せない世界なんて間違いなく悲しいじゃないか!」
Lee の率直な叫びは平穏を実現するアルバムクローサー “Infinite Mind” “制限のない心” へと収束して行きます。カントリーをも想起させるオールドスタイルのリックを芽生えとして、近未来感溢れるシンセサイザーとギターの狂想曲へと展開する楽曲で Lee が提示したのは、ジャンルも時間も超越したまさに無限の可能性でした。
今回弊誌では、Lee Mckinney にインタビューを行うことが出来ました。「”メタルヘッズ” を自称する野郎が、これはメタルじゃないとか、メタルじゃなくなったなんてクソみたいな批判をしているのを見ると、本当に残念すぎるって感じるね。」どうぞ!!

LEE MCKINNEY “INFINITE MIND” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VEIL OF MAYA : FALSE IDOL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARC OKUBO OF VEIL OF MAYA !!

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Sumerian Giant, Chicago Based Tech-Metal Quartet, Veil Of Maya Opens New Chapter Of Metal With Their Game-Changing New Record “False Idol” !!

DISC REVIEW “FALSE IDOL”

スメリアンの巨人、プログレッシブデスコアの先導者 VEIL OF MAYA が、メタルの領域を拡大しエクレクティックに羽ばたく新作 “False Idol” をリリースしました!!オーガニックかつ複雑な、アートロックやアヴァンギャルドの世界へとより接近した真なるメタルアイドルは、その偉大なる変革を推し進めて行きます。
00年代の中盤から、モダンプログメタル革命の中核に Sumerian Records が存在し続けることは明らかです。BORN OF OSIRIS, ANIMALS AS LEADERS, PERIPHERY, そして VEIL OF MAYA。”スメリアンロースター” は常にシーンの最前線に立ち、多様でコンテンポラリーなメタルの革新を色鮮やかに後押しし続けて来たのです。
中でもこのシカゴのカルテットが2008年に残した “The Common Man’s Collapse” の印象は鮮烈です。重圧のブレイクにビートダウン。デスコアサウンドを要としつつ、変幻自在なテンポと拍子、カオティックなデザインとトリッキーなアイデア全てを共存させて、コンテンポラリーかつ不可思議な独自のプログレッシブワールドでリスナーを魅了したのです。
シュメール帝国の拡大と歩調を合わせるかの如く、アステカの名を冠したバンドはそのサウンドを磨き上げ、ワイドに進化を続けています。グロウルとクリーンを併用する新ボーカル Lukas Magyar が加入し、ポップでキャッチーなイメージを開拓した前作 “Matriarch” は確かに驚きでしたが、決してその大変革は彼らの創造性を損なうものではありませんでした。
Marc が “Survive” と語るように、”Mikasa” という名曲とともに、バンドは自由な翼を手にしたようにも思えます。そしてよりダークでミステリアス、複雑性とダイナミズムを増した “False Idol” はポップとアートの枠を超えダイハードなファンをも唸らせるはずです。
「力に目覚めた男がダークサイドへと落ちていくフィクションなんだ。」 Marc は “False Idol” のテーマについてそう語ります。このアイデアが Lukas のものであることも、バンドの現在の一体感を物語りますが、”False Idol” が大統領ドナルド・トランプを隠喩していることは想像に難くありませんね。そしておそらくは、アルバムを支配する緊張の陰はそこに起因しているのでしょう。
電子の海で揺蕩うコズミックなイントロ “Lull” に導かれ幕を開けるオープナー “Fructure” はバンドのクリエイティブな進化の象徴です。”Unbreakable” を再訪するかのようなクリケットを活かしたマスマティカルでグリッチーなギターリフと、アトモスフェリックなシンセサウンドの奇想天外な融合は、メタルからの Kendrick Lamar や Flying Lotus への回答とも言えるほどに瑞々しく創造的です。
「実際、僕は最近はあまりメタルを聴いていないんだよ。だから君がコンテンポラリーなジャズや、Hip Hop、エレクトロニカなんかの影響を発見して言及してくれたことは嬉しいね。」 Marc はそう語ります。「少なくとも僕は、新たな要素を加えることは、メタルの進化を促す良い方法だと感じているよ。」 とも。
確かにアルバムには、現代的なジャンルのクロスオーバー、音楽のモダニズムを感じる場面が多く存在します。アグレッシブで複雑怪奇な Marc のリフワークと、光のシンセに映えるLukas のソフトでメランコリックなウィスパーは、”Doublespeak”, “Overthrow” と聴き進めるに従って、より絶妙なコントラストとインテンスを描き始めるのです。
そしてアルバムのハイライト、ダイナミズムの洪水は “Whistleblower” で訪れます。近年、Tigran Hamasyan へのリスペクトを公言してはばからない Marc のコンポジションは、遂にデスコアの猛進とジャズの優美な響きを同時に抱き締めました。Lukas の激情とメランコリーを行き来するボーカリゼーションも相俟って、イマジネーションを激しく刺激するアヴァンギャルドな楽曲はメタルの新たな可能性を指し示す期待感に満ち溢れてています。
また、インタビューにもある通り、Marc のゲームミュージックへの傾倒ぶりを見れば、初期の VEIL OF MAYA が究極にメカニカルでチップチューンライクな構成やリフを有していたことにも納得がいきます。つまり “False Idol” はバンドのオーガニックな変化の証。
伸びやかでキャッチーなクリーンボーカルのみで設計したポジティブな “Manichee”、Jacob Collier を思わせるコーラスのタペストリーが印象的な “Citadel”、そしてアルバムを締めくくるアンセミックな “Livestream”。全てはアンビエントなストリングスがバンドのデザイン、エモーションへナチュラルに溶け込んだ新機軸。同時にそれは、すでに “Djentrain” を降りたバンドの新たなる目的地なのかも知れませんね。
今回弊誌では、バンドのマスターマインド Marc Okubo にインタビューを行うことが出来ました。今年の2月には、Realising Media の劇的な招聘で来日公演を成功させています。「いつか Djent が死ぬその時も、きっと僕たちは VEIL OF MAYA らしいサウンドの音楽を作っているだろうね。」 どうぞ!!

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VEIL OF MAYA “FALSE IDOL” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RINGS OF SATURN : ULTU ULLA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AARON STECHAUNER & MILES BAKER FROM RINGS OF SATURN !!

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MA Based “Alien Core” Act, Rings Of Saturn Shows The Positive Possibility Of DeathCore, With Spacey Melodies And Galactic Chaos Of Their Newest Record “Ultu Ulla” !!

DISC REVIEW “ULTU ULLA”

メタルワールドの UMA、人知を超えたテクニカルデスコアアクト RINGS OF SATURN が、バンドの円熟を知らしめる神秘 “Ultu Ulla” をリリースしました!!シュメール語で “記録に残らないほど太古の昔” をアルバムタイトルへと冠した作品は、しかし厳然とアカシックレコードにその造化の妙を刻みつけます。
「もし宇宙に音楽が存在するならば、それは RINGS OF SATURN のようなサウンドだろう。」
予測不能なまでにカオティック、無慈悲なまでにテクニカル。カリフォルニアの超常的カルテットが創造する音宇宙は、 “エイリアンコア” と称されるほどに異次元で別世界。故に、複雑でメカニカルなその “非人間的” サウンドストラクチャーは、常に賛美と批判を等しく内包して来ました。
しかし、テクニカルデスコアシーンの盟主 Unique Leader Records から、メタルシーンの総本山 Nuclear Blast Records へと移籍を果たし、「全てがより意図を持ち、目的にフォーカスして行われている」 状況でリリースされた最新作 “Ultu Ulla” は、バンドに対するインヒューマンでデジタルという難詰を須らく沈黙させるに充分なクオリティーとディレクションを誇ります。
「このレコードで僕たちは、間違いなくより成熟し、構築されたサウンドの方向に進んだね。僕は音楽が究極にスムースに流れることを常に意識しているんだよ。」 と Miles が語るように、”Ultu Ulla” でバンドは自らのストロングポイントを保ちつつ、以前より確実にキャッチーなメロディーやナチュラルなストラクチャーへフォーカスしていると言えますね。つまり、RINGS OF SATURN は “法則” と “混沌” から成り立つ大宇宙のように、その音楽性を拡大させているのです。
アルバムオープナー “Servant of this Sentience” はバンドのイノベーションを象徴する楽曲です。極限にテクニカルなタッピングのイントロダクションは、同時に溢れ出るコズミックな旋律の銀河を創造しアルバムのムードを伝えます。
新加入、Aaron Stechauner の正確で硬質なドラミングは確かにマシナリーですが、切れ込むリフワークはメロディックデスメタルを想起させるほどエナジーに満ちてメズマライズな SF の世界を流麗に構築しているのです。グロウルとスクリームをフレキシブルに行き来する Ian の咆哮を伴って、作品にある種のキャッチーさ、普遍的なダイナミズムが生まれているのは明らかですね。
「デスコアそれ自体の影響より、全く異なるジャンルからの影響の方が僕たちの音楽、アイデアをより興味深く、新鮮にしていると思うんだ。」 Aaron が語るように、多様なインフルエンスもアルバムのテクスチャーを深く、魅力的にしています。
デスコアのチャグ感とシンフォニックなストリングス、さらに NECROPHAGIST のような難解さが渾然一体となる “Parallel Shift”。フォーキーなワルツとブラストビートが煌めきと獰猛を包含する “The Relic。さらに、”Unhallowed” や “The Macrocosm” で見せるアコースティックなアイデア、ジェントルなムードが象徴するように、バンドがデスコアというジャンルのポジティブな可能性へ変貌を遂げたのは確かです。
アルバムは、ピアノとクラッシックギターで古代インカの宇宙への交信を再現する “Inadequate” で幕を閉じました。
今回弊誌では、ドラマー Aaron Stechauner, ギタリスト Miles Baker の2人にインタビューを行うことが出来ました。「僕は”デスコア”のファンだったことは1度もないんだ。」 どうぞ!!

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RINGS OF SATURN “ULTU ULLA” 9.5/10

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