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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND CHANNEL : EXIT EMOTIONS】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKO MOILANEN OF BLIND CHANNEL !!

“We’ve Never Been Afraid Of Pop Music And We Believe Hit Songs Are Hit Songs For a Reason. We Have No Shame In Being Musically Inspired By Everything Cool That’s Happening In The Mainstream Music Scene.”

DISC REVIEW “EXIT EMOTIONS”

「アメリカのマーケットは巨大で、独自の世界だ。フィンランドやヨーロッパの多くの人たちは、アメリカを目指す僕たちをクレイジーだと言ったけれど、僕たちにとってそれは最初からの計画だった。
“Wolves in California” は、僕らのアメリカでの経験を歌った曲だけど、北欧のルーツを強さに変えて、アメリカのオーディエンスに僕らのエキゾチックな部分を強調した曲でもあるんだ」
“世界最大のバンドになりたい!”。80年代ならまだしも、人々の趣味嗜好、そして音楽ジャンル自体も枝葉のように細分化された現代において、そんな言葉を吐くバンドがいるとしたら、それは大言壮語の狼男か歌舞伎者でしょう。そう、たしかに BLIND CHANNEL は北欧の狼であり歌舞伎者。しかし、歌舞伎者だからこそ、彼らはアメリカでも “北の狂気” を貫き、冒頭の言葉を達成しようとしているのです。
「僕らは最初から野心的で反抗的だった。ビルボード・メインストリーム・ロック・エアプレイにチャートインしたフィンランドのバンドは、僕らが3組目だと思う。でも、僕らに影響を与えたバンドのほとんどはアメリカ出身だから、それが常に目標だったんだ」
フィンランドには “北の狂気” という言葉があります。”できない” と言われたら、それが間違っていることを証明するために、とにかくやってみる。やりつづける。まさにそれが BLIND CHANNEL の原始的なエネルギー。北欧のメタルといえば、メロデス、ブラック、ドゥーム、プログレッシブのようなカルトで陰鬱なものが多い中で、彼らは最初からアメリカを目指し、メインストリームにこだわりつづけました。
「フィンランド出身の国際的な Nu-metal は僕たちだけだからね。たぶんそれは、僕たちがポップ・ミュージックを恐れたことがなく、ヒット曲にはヒット曲の理由や価値があると信じているからだと思う。メインストリームの音楽シーンで起こっているクールなこと全てに音楽的にインスパイアされている。それを恥じることはないんだ“」
その若さと顔の尊さから、かつては “ボーイズ・バンド” と揶揄されたこともあった BLIND CHANNEL。しかし、彼らはそうした侮蔑でさえも野心のために利用します。人気を得るためなら、衣装も揃え、ダンスも覚える。すべては、メインストリームで勝負するため。なぜなら、彼らは売れる曲、売れるジャンル、トレンドとなる音楽には、それだけの価値や理由が秘められていると信じているから。そして、売れることでより多くの人に、彼らのメッセージを届けることができるから。
「僕たちは、人々が感情を吐き出すためにライブに来ていることに気づき、僕たちのショーでも同じような逃避場所を人々に提供したいと思ったんだ。特にここ数年、世界はクソみたいな場所だった。僕たちは、ガス抜きができて楽しい時間を過ごすための安全な空間を提供したいんだ」
“ここ数年、世界はクソみたいな場所だった”。世界で勝負をつづける彼らは、だからこそ、いかに今の世界で憂鬱や喪失を抱え、孤独で居場所のない人々が多いのかを知っています。そして彼らに寄り添えます。なぜなら、BLIND CHANNEL 自身も、北欧の村社会で自分を貫き居場所を失った過去があるから。ステレオタイプに反抗していじめを受けた心の傷を持つから。
ただし、”ヴァイオレント・ポップ” としてアメリカでこれだけ大きな波となった今、彼らは自らの出自である北欧のエキゾチックな煌めき、そして “Hybrid Theory” よりも “Meteora” を選ぶオルタナティブな感性が成功を後押ししたことに気づきました。メインストリームを目指していても、必要なのは他とは違う可能性。そしていつも “劣勢” から巻き返してきた彼らは、メタルの回復力でカリフォルニアのオオカミたちとして君臨することになったのです。
今回弊誌では、ボーカル Niko Moilanen にインタビューを行うことができました。マンガやアニメは僕の日常生活で大きな役割を果たしているんだ。ナルト、ブリーチ、鋼の錬金術師で育ったからね。デスノートと進撃の巨人は今まで作られたアニメで最高のシリーズだと思うし、今でも年に1回は見ている。いつか自分のマンガを描くのが夢なんだ。ストーリーはもう書いてあるんだけど、絵が下手なんだよね…」初の来日も決定!どうぞ!!

BLIND CHANNEL “EXIT EMOTIONS” : 9.9/10

INTERVIEW WITH NIKO MOILANEN

Q1: Most Scandinavian bands play brooding music such as melodic death metal, doom and progressive. It’s rare for us to play rock and metal in the middle of the mainstream like you guys do, would you agree?

【NIKO】: It’s definitely rare. As far as we’re concerned we’re the only international nu metal act from Finland ever. Maybe it’s because we’ve never been afraid of pop music and we believe hit songs are hit songs for a reason. We have no shame in being musically inspired by everything cool that’s happening in the mainstream music scene.

Q1: スカンジナビアのバンドの多くは、メロディック・デスメタルやドゥーム、プログレッシブといった陰鬱で複雑な音楽を演奏する傾向がありますよね。あなたたちのようにメインストリームのど真ん中でロックやメタルを演奏するのは珍しい気がしますが?

【NIKO】: 間違いなく珍しいね。知る限り、フィンランド出身の国際的な Nu-metal は僕たちだけだからね。たぶんそれは、僕たちがポップ・ミュージックを恐れたことがなく、ヒット曲にはヒット曲の理由や価値があると信じているからだと思う。メインストリームの音楽シーンで起こっているクールなこと全てに音楽的にインスパイアされている。それを恥じることはないんだ。

Q2: In fact, there are so many popular or cult bands coming out of Mother Nature’s Scandinavia, but very few of them have swept the American Billboard? If you guys are going for it, that’s very ambitious, right?

【NIKO】: Yes. We’ve been ambitious and defiant since the very beginning. I think we’re the third Finnish band to ever chart Billboard Mainstream Rock Airplay. But that was always the goal, since most of the bands that influenced us come from America.

Q2: 実際、北欧の大自然からは多くの人気バンドやカルト・バンドが誕生していますが、アメリカのビルボードを席巻しているバンドはほとんどいませんよね。それを目指しているとしたら、とても野心的なことですよね?

【NIKO】: そうだね。僕らは最初から野心的で反抗的だった。ビルボード・メインストリーム・ロック・エアプレイにチャートインしたフィンランドのバンドは、僕らが3組目だと思う。でも、僕らに影響を与えたバンドのほとんどはアメリカ出身だから、それが常に目標だったんだ。

Q3: The song “Wolves in California” seems to refer to you in just such a situation. In fact, is there any difference at all between continuing to make music in Scandinavia and having a hit in the U.S.?

【NIKO】: Not much! Of course the US market is a huge market, a world of its own. A lot of people in Finland and Europe called us crazy for aiming to US, but to us it was the plan since day one. ”Wolves in California” is a song about our experiences in America, but it’s also about turning our nordic roots to our strenght and underlining the things that make us exotic to the US audience.

Q3: “Wolves in California” という曲は、まさにそうした状況にいるあなたたちを描いているようです。実際、スカンジナビアで音楽を作り続けることと、アメリカでヒットを飛ばすことに違いはあるのでしょうか?

【NIKO】: そんなに多くはないよ!もちろん、アメリカのマーケットは巨大で、独自の世界だ。フィンランドやヨーロッパの多くの人たちは、アメリカを目指す僕たちをクレイジーだと言ったけれど、僕たちにとってそれは最初からの計画だった。
“Wolves in California” は、僕らのアメリカでの経験を歌った曲だけど、北欧のルーツを強さに変えて、アメリカのオーディエンスに僕らのエキゾチックな部分を強調した曲でもあるんだ 。

Q4: What is interesting is that you guys used to be about 16 years old and you didn’t mind being called a boy band. You had the ambition to use your youth and looks if you could escape the Scandinavian stereotypes and old conventions, How about that?

【NIKO】: When the metalheads started calling us a boyband, it was meant as an insult. But we turned that into our strenght and got matching outfits and booked a mirror hall to practice choreographies. It helped us stand out from other rock bands. Plus, we’ve always loved to provoke audiences, they either love us or hate us. There’s no in-between, and that’s how we want it.

Q4: 興味深いのは、あなたたちはかつて16歳くらいのころ、ボーイズ・バンドと呼ばれることに抵抗がなかったということです。スカンジナビアのステレオタイプや古い慣習から逃れられるなら、その若さとルックスも利用しようという野心があったわけですよね?

【NIKO】: メタル・ヘッズが僕らをボーイズ・バンドと呼び始めたのは、侮辱の意味でだった。でも、僕らはそれを自分たちの強みに変えて、おそろいの衣装を用意したり、振り付けを練習するために鏡のホールを予約したりしたんだよ。そのおかげで他のロックバンドと差をつけることができた。
それに、僕たちはいつも観客を挑発するのが大好きで、観客は僕たちを好きになるか嫌いになるかのどちらかなんだ。その中間はないし、それが僕たちの望みでもある。

Q5: “Exit Emotions” is also a great title! In fact, the world is full of people with depression and loss due to wars, pandemics, and divisions. For those people, this music is the perfect escape and outlet, isn’t it?

【NIKO】: Yes, and that’s where the album title comes from. We were touring in Germany and saw this club full of red lights, spikeballs hanging from the ceiling and people dancing. It looked beautiful and fun, but there was also a sense of darkness and danger. We realized that the people came to that place to exit emotions, and decided we wanted to offer people a similar kind of escape at our shows. The world’s been a shit place for the past few years. We wanna offer a safe space to blow off steam and have a good time.

Q5: “Exit Emotions” というタイトルも素晴らしいですね!実際、世界には戦争やパンデミック、分断によって憂鬱な気分や喪失感を抱えた人々がたくさんいます。そんな人たちにとって、この音楽は最高の逃避先であり、感情のはけ口なのではないでしょうか?

【NIKO】: そう、それがアルバム・タイトルの由来なんだ。ドイツでツアーをしていたとき、天井からスパイク・ボールがぶら下がっていて、人々が踊っている赤いライトに満たされたクラブを見たんだ。美しくて楽しそうだったけど、暗くて危険な感じもした。
僕たちは、人々が感情を吐き出すためにその場所に来ていることに気づき、僕たちのショーでも同じような逃避場所を人々に提供したいと思ったんだ。特にここ数年、世界はクソみたいな場所だった。僕たちは、ガス抜きができて楽しい時間を過ごすための安全な空間を提供したいんだ。

Q6: More specifically, it is an album that embraces the listener’s “pain” very well, isn’t it? I heard that you guys have experienced bullying, so I guess that makes you understand the feelings of those who have pain, right?

【NIKO】: We’ve had our share of pain and darkness. We’ve always been very emotional and artistic, and it wasn’t always easy. Now we’re using pain and darkness as inspiration to our songs, and the best feedback we’ve got is when people say our music has helped them through difficult times. That’s always heartwarming to hear and keeps us going.

Q6: さらにに言うと、リスナーの “痛み” を抱きしめたアルバムとも言えますよね?お二人はいじめられた経験もあるそうですが、痛みを持つからこそリスナーの痛みを代弁できるのでしょうか?

【NIKO】: そうだね、僕らにも痛みや闇はあった。僕たちはいつも感情的で芸術的に生きてきて、簡単なことばかりではなかった。今、僕たちは痛みや暗闇をインスピレーションにしている。だから僕たちが得た最高のフィードバックは、僕たちの音楽が困難な時期を乗り越える助けになったと言ってくれる人たちだ。それを聞くだけでいつも心が温まり、僕たちは前進し続けることができるんだ。

Q7: Speaking of escapism, Japan is a mecca for fantasy of escape such as games and anime, music, are you interested in Japanese sub-culture?

【NIKO】: A big fan, actually. Manga and anime play a huge part in my everyday life. I grew up with Naruto, Bleach and Fullmetal Alchemist. I think Death Note and Attack on Titan are among the best series’ ever made and I still watch them both at least once a year. It’s a dream of mine to one day have a manga of my own. The story’s is already written, I’m just not good enough at drawing.

Q7: 逃避といえば、日本はゲームやアニメ、音楽など現実から逃避できるファンタジーの宝庫です。日本のサブカルチャーに興味はありますか?

【NIKO】: 実は大ファンなんだよ!マンガやアニメは僕の日常生活で大きな役割を果たしているんだ。ナルト、ブリーチ、鋼の錬金術師で育ったからね。デスノートと進撃の巨人は今まで作られたアニメで最高のシリーズだと思うし、今でも年に1回は見ている。いつか自分のマンガを描くのが夢なんだ。ストーリーはもう書いてあるんだけど、絵が下手なんだよね…。

Q8: I understand you guys are influenced by Linkin Park, specifically “Meteora”?” Many artists seem to cite “Hybrid Theory” as a favorite, but why “Meteora” for you?

【NIKO】: Both albums are amazing and it’s impossible to choose which one is better. The production and songwriting are so well done that to this say, no one has topped it. The first Linkin Park song I ever heard was ”Numb” so maybe that’s why ”Meteora” feels so important.

Q8: LINKIN PARKの、特に “Meteora”に影響を受けているそうですね?多くのアーティストが “Hybrid Theory” をお気に入りとして挙げているようですが、あなたはなぜ “Meteora” なのでしょうか?

【NIKO】: どちらのアルバムも素晴らしくて、どちらが優れているか選ぶのは不可能だよね。プロダクションもソングライティングもとてもよくできていて、今に至るまで誰もこれを超えるものはいない。ただ LINKIN PARK の曲を初めて聴いたのが “Numb” だったから、だから “Meteora” がより重要な作品だと感じるのかもしれないね。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED NIKO’S LIFE!!

Linkin Park “Meteora”

keeps inspiring me to this day.

Bring Me The Horizon “Amo”

helped me through a bad breakup and showed me how powerful relief music can be.

My Chemical Romance “The Black Parade”

the soundtrack of my teenage years and an ever-growing artistic inspiration.

Enter Shikari “A Flash Flood of Colour”

my path to heavier music and a live-show inspiration.

Twenty One Pilots “Blurryface”

encouraged me to be my own weird self, and make a career out of it.

MESSAGE FOR JAPAN

Thank you so much for your support and patience, can’t wait to visit your beaufitul country for the first time. Get your tickets and see you at Duo Music Exchange in Tokyo, 3rd of June.

サポートと忍耐に感謝を。はじめて君たちの美しい国に行くことができるんだ!チケットを入手して、6月3日、東京のduo MUSIC EXCHANGEで会おうね!

NIKO MOILANEN

来日公演の詳細はこちら!CREATIVEMAN

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HEMLYN : WARS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AL JAZIRI OF HEMLYN !!

“Ultimately, The Future Of Metal In Africa Depends On Nurturing Local Talent, Improving Infrastructure, And Fostering a Supportive Environment For Metal Enthusiasts, And Fusing The Genres.”

DISC REVIEW “WARS”

「アフリカにおけるメタルの未来は、地元の才能を育て、インフラを改善し、メタル愛好家を支援する環境を育み、ジャンルを融合させることにかかっている。僕は、メタルは現地の音楽のルーツを借りてこそ受け入れられるものだと心から信じている…つまり、フュージョンが鍵なんだ。そして決意と投資をしさえすれば、アフリカは多様性を謳歌し、このジャンルの世界的景観に貢献する活気あるメタル・コミュニティを育成する可能性を秘めているんだ」
メタルの生命力、感染力、包容力は、文化や人種、国、大陸、宗教、性別の壁をのりこえて、今や世界各地で芽吹いています。それでも、アフリカへ到達し、その場所で花開くためにはおそらく、世界のどの場所よりも時間が必要でした。それはまず、貧困や治安の悪化からくるインフラの不足、機材の不足。そして何より、現地のルーツとかけ離れた音楽性もその理由でしょう。
「HEMLYN の創作過程では、地元のパーカッションと僕たちの青春時代のギター・ヒーロー、両方の世界の要素を融合させている。僕たちの音楽はロックとスフィの要素を融合させたもので、だからこそチュニジアの文化遺産と音楽の旅を反映したユニークなサウンドを作り出せたんだ」
チュニジアの神秘的な音楽集団 HEMLYN のリーダー Al Jaziri は、アフリカにおけるメタルの未来を見据えて、自身のルーツである SYSTEM OF A DOWN のようなグルーヴ・ギターと、自らの血である北アフリカのパーカッションや旋律を見事に融合させました。あまりにユニークでエキゾチック、アフリカとメタルがシームレスにつながったその音楽は、砂漠に浮かぶ蜃気楼、シティ・ブ・サイドのように驚きと感嘆、現実からの逃避場所をリスナーに届けるのです。
「僕にとって、日本のアニメやビデオゲーム、そしてヘヴィ・メタルは、とどまるところを知らない想像力と、日常生活の制限を超越することができる幻想的な世界を提供してくれる。スーパーマンや悟空のように空を飛んだり、宇宙を股にかけた壮大な冒険に乗り出したり、不正義に立ち向かったりすることを夢見たり。こうした芸術形態は、現実の苦難に必要な休息を与えてくれる」
HEMLYN の音楽が、現実からの逃避場所となり得たのは、Ali がメタルと同じくらい、日本の文化を愛していたからでした。地中海に面した美しい国チュニジアにしても、やはり貧困や病気、抑圧に暴力といったアフリカの苦難は存在します。新曲 “Mafia 52” も、革命後の政府の抑圧、自由の搾取に対するプロテスト・ソング。そんな日常で Al の心が休まる時間が、メタルと日本のゲームやアニメだったのです。
「マンガもメタルも、従来の常識に挑戦し、より明るく希望に満ちた未来を垣間見せてくれるオルタナティブな視点を表現しているんだ。そうした文化は、人間の精神の回復力と、現実の枠を超越する創造性の力を体現し、疎外され、抑圧されていると感じている人々に慰めとインスピレーションを与えてくれるのさ」
HEMLYN の音楽は情景音写と感情豊かなリリックで、リスナーを音の旅へと誘います。パワフルなギター・リフ、プリミティブなリズム、魂を揺さぶるヴォーカルで、リスナーの心を非日常へと連れ出すのです。そう、アニメもマンガもゲームもメタルも、現実のくだらない常識や慣習を打ち破り、抑圧から解放された未来をもたらす希望のアート。そして、HEMLYN ほどそのアートを世界にもたらすに適したバンドは他にいないはずです。
今回弊誌では、Al Jaziri にインタビューを行うことができました。「アニメ、ゲーム、音楽を含む日本文化は、常に僕を魅了してきた。思いやり、寛大さ、友情、忍耐力、ユーモアなど、人生の貴重な教訓を教えてくれたんだ。ゼルダやソニック、マリオやストリートファイターなどの日本のビデオゲームのサウンドトラックは、僕の作曲へのアプローチに影響を与え、永続的な影響を残した…菊池俊輔の作曲は、何十年もの間、僕の中で共鳴し続けた。いつもメタルを聴きながらマンガを読んでいたのを覚えているよ。だからこそ今、僕の中でノリタカのようなマンガは、STRATOVARIUS のようなバンドと永遠に結びついているんだ」 どうぞ!!

HEMLYN “WARS” : 10/10

INTERVIEW WITH AL JAZIRI

Q1: When I think of metal and rock in Tunisia, I first think of MYRATH. Is metal/rock music actually popular in Tunisia? Are you influenced by them?

【AL】: MYRATH is indeed one of the most respected metal bands that originated from Tunisia. Even though metal music faced challenges after the revolution of 2011, it was quite popular, loved by many Tunisians. Metal concerts, including bands like Dark Tranquility, were well-received. After a decade of absence, metal is making a comeback in Tunisia, and I personally aim to promote this genre further. While MYRATH are friends of HEMLYN, our styles differ significantly, and we don’t consider ourselves directly influenced by them. However, we may share common influences in rock music. Personally, my music is influenced by Soufi music, Californian metal, and English rock music. Since I was five years old, I was roaming in my father’s soufi and pop mega shows (Hadhra – Nouba, etc.

Q1: チュニジアのメタルやロックといえば、まず MYRATH を思い浮かべる人が多いかもしれませんね。チュニジアではメタルやロックはポピュラーなのでしょうか?MYRATH からは影響を受けていますか?

【AL】: MYRATH は、チュニジアから生まれた最も尊敬されるメタル・バンドのひとつだよ。2011年の革命後、メタル・ミュージックは困難に直面したんだけど、それでもメタルは多くのチュニジア人に愛され、かなり人気があった。DARK TRANQUILLITY のようなバンドを含むメタルのコンサートは好評だったしね。
10年の後、チュニジアではメタルがカムバックしつつあり、僕は個人的にこのジャンルをさらに促進することを目指しているんだ。MYRATH は HEMLYN の友人だけど、僕たちのスタイルは大きく異なり、彼らから直接影響を受けたとは考えていないよ。ただ、ロック・ミュージックにおいては共通の影響を受けているかもしれない。個人的には、僕の音楽はスフィー・ミュージック、カリフォルニアのメタル、イギリスのロックに影響を受けている。5歳の頃から、父のスフィやポップ・メガ・ショー(Hadhra – Noubaなど)の中を聴き歩いていたからね。

Q2: I think you differ from MYRATH and ORPHANED LAND in that you are more primitive and based on traditional North African music, whereas they are more oriental in melody. These differences give you a great personality, would you agree?

【AL】: The traditional North African, specifically Tunisian, popular music is in my blood, having been born into it. I grew up on stage, and learned the job alongside great artists. Hemlyn’s creation process blends elements from both worlds, to local percussion and the guitar heroes of my/ our youth. Our music is a fusion of rock and Soufi elements, creating a unique sound that reflects our cultural heritage and musical journey. After two years of Covid, we composed a total of 21 tracks divided into two parts. “Mafia 52” being the second song released from Part 1 of the “WARS” album.

Q2: MYRATH や ORPHANED LAND とあなたたちの違いは、彼らがよりオリエンタルなメロディーを主軸としているのに対して、あなたたちはよりプリミティブで伝統的な北アフリカの音楽をベースにしている点だと思います。この違いが HEMLYN に素晴らしい個性を与えていますね?

【AL】: 北アフリカ、特にチュニジアの伝統的なポピュラー音楽は、生まれながらにして僕の血の中に流れている。僕はステージで育ち、偉大なアーティストたちとともに仕事を学んだ。
HEMLYN の創作過程では、地元のパーカッションと僕たちの青春時代のギター・ヒーロー、両方の世界の要素を融合させている。僕たちの音楽はロックとスフィの要素を融合させたもので、だからこそチュニジアの文化遺産と音楽の旅を反映したユニークなサウンドを作り出せたんだ。
パンデミックの2年間を経て、僕たちは2つのパートに分かれた全21曲を作曲した。”Mafia 52 ” は、アルバム “WARS” のパート1からリリースされた2曲目にあたる。

Q3: How did Hemlyn start and where did the name Hemlyn come from?

【AL】: In 2013, when I came back from from Los Angeles where I studied music, I realized that I needed to form a band that had a very distinct signature. We know already that the world is full of awesome musicians, so instead of imitating existing styles, I wanted to create something authentic and unique through the fusion process, very much like fusing ingredients into a new recipe to create a new dish. After recruiting talented musicians in my city and brainstorming band names, I came up with the name, and HEMLYN was born. The name reflects our journey as music wanderers, seeking our own path beyond conventional norms, HEMLYN could be translated to RONIN in Japanese.

Q3: HEMLYN はどのように始まり、その名前はどこから来たのでしょう?

【AL】: 2013年、音楽の勉強をしていたロサンゼルスから戻ってきたとき、とても特徴的なバンドを結成する必要があると気づいたんだ。世界中に素晴らしいミュージシャンがたくさんいることはもう知っているから、既存のスタイルを真似するのではなく、フュージョンのプロセスを通して、何か本物のユニークなものを作りたかった。
そうして僕の住む街で才能あるミュージシャンを募り、バンド名をブレインストーミングした結果、HEMLYN が誕生した。この名前は、音楽の放浪者としての僕たちの旅を反映している。だから、HEMLYN は日本語に訳すと “浪人” なんだよ。

Q4: Seplutura’s “Roots” was a record that changed the world of metal, bringing third world traditions, vitality and diversity to a predominantly western metal scene. Were you influenced by them and the Nu-metal movement?

【AL】: While many people make comparisons to Sepultura, personally, I wasn’t influenced by them. My primary fusion inspiration comes from System Of A Down. Their socially and politically engaged music resonated with me deeply. Combining Armenian melodies and rhythms with powerful riffs, and Serj Tankian’s powerful vocals left a lasting impression on me as a singer and songwriter. System Of A Down’s music remains relevant even today, almost two decades later….

Q4: SEPLUTURA の “Roots” はメタル世界を変えたレコードで、西洋のメタル・シーンに第三世界の伝統、活力、多様性をもたらしました。彼らの哲学や Nu-metal のムーブメントに影響を受けましたか?

【AL】: 多くの人が僕らと SEPLUTURA を比較しているけど、個人的には彼らから影響を受けたわけではないんだよ。僕のフュージョンのインスピレーションの源は、SYSTEM OF A DOWN だ。彼らの社会的、政治的に関与した音楽は、僕の心に深く響いた。アルメニア語のメロディーとリズムにパワフルなリフを組み合わせ、Serji Tankian のパワフルなボーカルは、シンガー・ソングライターとしての僕に強烈な印象を残したね。SOAD の音楽は、20年近く経った今日でも僕らと大きな関連性があるんだ…。

Q5: In recent years, metal bands that incorporate traditional music, such as Bloodywood, have given the impression that they are rebelling against the power and government of their country with their music.” The title “Mafia 52” is a strong title, what is the theme or meaning behind it?

【AL】: “Mafia 52” is a commentary on Law 52 in Tunisia, which imposes severe restrictions on personal freedoms, particularly regarding drug offenses. The song critiques the abuse of power enabled by such laws, symbolized by the title “Mafia 52.” It reflects a rebellion against oppressive legal frameworks and the authorities enforcing them. Themes of resistance, defiance, and the pursuit of freedom resonate strongly with the context of Law 52 in Tunisia, highlighting broader societal issues through the lens of metal music. The upcoming album “WARS” is in fact a collection of critiques about everything that is wrong with society, and each song is a battle against any form of injustice or struggle.

Q5: 近年、BLOODYWOOD のような伝統音楽を取り入れたメタル・バンドは、その音楽で自国の権力や政府に反抗することが多いように思えます。”Mafia 52″ という強烈なタイトルには、どんな意味が込められていますか?

【AL】: “Mafia 52″ はチュニジアの法律52号に対するコメントで、個人の自由、特に麻薬犯罪に関して厳しい制限を課している。この曲は、”マフィア52” というタイトルに象徴されるように、このような法律が可能にする権力の乱用を批判している。抑圧的な法的枠組みとそれを執行する当局への反抗を反映しているんだよ。
抵抗、反抗、自由の追求というテーマは、チュニジアの法律52号の背景と強く共鳴し、メタル音楽のレンズを通してより広い社会問題を浮き彫りにしている。今度のアルバム “WARS” は、実際、社会のあらゆる問題についての批評集であり、それぞれの曲は、あらゆる形の不正や闘争に対する “戦い” なんだ。

Q6: I was surprised to know that you love Japanese culture, anime, games and music, including Akira Toriyama. What works of art do you particularly enjoy? Do you draw inspiration from them?

【AL】: Ah now we are talking!
I am a fan of the 80’s / 90’s manga era. From Gunnm to GTO, Noritaka to Ruroni Kenshin, ARMS, Yuyu Hakusho & Hunter X Hunter , Bleach, Ranma 1/2, Death Note and of course Dragon ball Z.. Japanese culture, including anime, games, and music, has always fascinated me. It taught me valuable life lessons about compassion, generosity, friendship, perseverance, and humor. Japanese video game soundtracks, such as those from Zelda and Sonic, Mario and Street fighter have left a lasting impact on me, influencing my approach to music composition… the compositions of Shunsuke Kikuchi resonated in me for decades. And I remember always having metal music in my ears when I was reading mangas, and now mangas such as Noritaka are bound forever with bands like like Stratovarius.

Q6: あなたが鳥山明をはじめ、日本の文化、アニメ、ゲーム、音楽が好きだと知って驚きました。特に好きな作品は何ですか?また、日本の文化からインスピレーションを受けることはありますか?

【AL】: 話が盛り上がってきたね!僕は80年代、90年代の漫画のファンなんだ!ガンダムからGTO、破壊王ノリタカ!、るろうに剣心、ARMS、幽遊白書、ハンターXハンター、BLEACH、らんま1/2、デスノート、そしてもちろんドラゴンボールZまでね。
アニメ、ゲーム、音楽を含む日本文化は、常に僕を魅了してきた。思いやり、寛大さ、友情、忍耐力、ユーモアなど、人生の貴重な教訓を教えてくれたんだ。ゼルダやソニック、マリオやストリートファイターなどの日本のビデオゲームのサウンドトラックは、僕の作曲へのアプローチに影響を与え、永続的な影響を残した…菊池俊輔の作曲は、何十年もの間、僕の中で共鳴し続けた。いつもメタルを聴きながらマンガを読んでいたのを覚えているよ。だからこそ今、僕の中でノリタカのようなマンガは、STRATOVARIUS のようなバンドと永遠に結びついているんだ。

Q7: The world has changed dramatically in 2020’s with pandemics, divisions, and wars. The world is full of lonely or oppressed people, Both of the fantasy of Japanese anime and video games and heavy metal are perfect escapes and recoveries from such dark realities. Is that part of what made you fall in love with both?

【AL】: The world is indeed in a state of constant flux, marked by pandemics, divisions, and conflicts that leave many people feeling lonely or oppressed. Throughout history, this struggle between the powerful and the marginalized has persisted, and art has always played a cathartic role and offering emotional comfort in the face of adversity.
For me, Japanese anime and video games, as well as heavy metal, offer fantastical realms where imagination knows no bounds and where one can transcend the limitations of everyday life. Whether it’s dreaming of flying like Superman or Goku, embarking on epic adventures across the universe, or standing up against injustice, these art forms provide a much-needed respite from the struggles of reality.
In my journey, Michael Jackson’s visit to Tunisia in ’98 left a profound impact on me. Sharing the stage with him ignited a passion within me to pursue music as a career. His music, along with the world of mangas, shaped my worldview as a ’90s kid. Additionally, bands like Metallica, Marilyn Manson, Korn, Muse, and System of a Down became pillars of inspiration for me. Their music served as a beacon of hope, reminding me that I am not alone in navigating the challenges of this oppressive world.
In essence, both mangas and metal represent alternative perspectives that challenge conventional norms and offer glimpses of a brighter, more hopeful future. They embody the resilience of the human spirit and the power of creativity to transcend the confines of reality, providing comfort and inspiration to those who feel marginalized or oppressed.

Q7: パンデミック、分断、戦争など、2020年代の世界は劇的に変化しました。世界は孤独や抑圧された人々で溢れ、日本のアニメやビデオゲーム、そしてヘヴィ・メタルのファンタジーは、そうした暗い現実からの逃避や回復に最適だと感じます。あなたがその両方を好きになったのは、そうした理由もあるのでしょうか?

【AL】: パンデミックや分断、紛争によって、多くの人々が孤独や抑圧を感じている。歴史を通じて、権力者と疎外された人々との間のこの闘争は続いてきた。そして芸術は常に、逆境に直面したときに感情的な安らぎを与え、カタルシスをもたらす役割を果たしてきたんだ。
僕にとって、日本のアニメやビデオゲーム、そしてヘヴィ・メタルは、とどまるところを知らない想像力と、日常生活の制限を超越することができる幻想的な世界を提供してくれる。スーパーマンや悟空のように空を飛んだり、宇宙を股にかけた壮大な冒険に乗り出したり、不正義に立ち向かったりすることを夢見たり。こうした芸術形態は、現実の苦難に必要な休息を与えてくれる。
僕の旅では、98年のマイケル・ジャクソンのチュニジア訪問が大きな衝撃を残したんだ。彼とステージを共にしたことで、音楽を職業にしたいという情熱に火がついた。彼の音楽は、マンガの世界とともに、90年代の子供だった僕の世界観を形作った。さらに、METALLICA, Marilyn Manson, KORN, MUSE, SYSTEM OF A DOWN といったバンドは、僕にとってインスピレーションの柱となった。彼らの音楽は希望の光となり、この抑圧的な世界の困難を乗り越えようとしているのは自分ひとりではないことを思い出させてくれた。
要するに、マンガもメタルも、従来の常識に挑戦し、より明るく希望に満ちた未来を垣間見せてくれるオルタナティブな視点を表現しているんだ。そうした文化は、人間の精神の回復力と、現実の枠を超越する創造性の力を体現し、疎外され、抑圧されていると感じている人々に慰めとインスピレーションを与えてくれるのさ。

Q8: I believe that metal has the power to transcend religious, racial, gender, and cultural barriers. Still, it took a long time for metal to flourish in Africa. Do you think metal will gain more vitality in Africa in the future?

【AL】: Honestly, it’s going to depend on people. The flourishing of metal in Africa hinges largely on the support and promotion of local emerging bands. Historically, metal has been predominantly associated with Western civilizations, with notable contributions from England and the United States.
In contrast, Africa has faced challenges in establishing a thriving metal scene, largely due to infrastructural limitations and a lack of support for local artists. Unlike genres like blues and rap, which have deep roots in African culture, metal has taken longer to gain traction. Nevertheless, there is potential for growth and vitality in the African metal scene with concerted efforts to support emerging talent and improve infrastructure. However, I truly believe that Metal music can only be accepted if it borrows the roots of the local music… Fusion is the key.
Japan serves as a prime example of how dedication to promoting metal bands can lead to international success. With a robust metal scene and effective promotion strategies, Japanese bands have gained recognition on the global stage. However, in the third world, where production quality may be limited and infrastructure lacking, the path to prosperity is more challenging.
Ultimately, the future of metal in Africa depends on nurturing local talent, improving infrastructure, and fostering a supportive environment for metal enthusiasts, and fusing the genres. With determination and investment, Africa has the potential to cultivate a vibrant metal community that celebrates diversity and contributes to the genre’s global landscape.

Q8: メタルには宗教、人種、性別、文化の壁を超える力があると信じています。それでも、アフリカでメタルが花開くには長い時間がかかりました。今後、アフリカでメタルはもっと活性化すると思いますか?

【AL】: 正直なところ、それは人によるだろう。アフリカにおけるメタルの繁栄は、地元の新興バンドのサポートとプロモーションに大きく依存している。歴史的に、メタルは主に西洋文明と結びついていて、イギリスやアメリカの貢献が顕著だ。これとは対照的に、アフリカではメタル・シーンの繁栄が困難で、その主な原因はインフラ面での制約と地元アーティストへの支援不足だ。アフリカ文化に深く根付いているブルースやラップのようなジャンルとは異なり、メタルは人気を得るまでに時間がかかった。とはいえ、新たな才能を支援し、インフラを改善するための協調的な努力によって、アフリカのメタル・シーンには成長と活力の可能性を得た。僕は、メタルは現地の音楽のルーツを借りてこそ受け入れられるものだと心から信じている……つまり、フュージョンが鍵なんだ。
日本は、メタル・バンドのプロモーションへの献身が国際的な成功につながるという典型的な例だよね。強固なメタル・シーンと効果的なプロモーション戦略によって、日本のバンドは世界の舞台で認知されるようになった。しかし、生産の質が限られ、インフラが不足している可能性のある第三世界では、繁栄への道はより困難となる。
結局のところ、アフリカにおけるメタルの未来は、地元の才能を育て、インフラを改善し、メタル愛好家を支援する環境を育み、ジャンルを融合させることにかかっている。決意と投資をしさえすれば、アフリカは多様性を謳歌し、このジャンルの世界的景観に貢献する活気あるメタル・コミュニティを育成する可能性を秘めている。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED AL’S LIFE!!

METALLICA “Black Album”

Turning point in my life, a Hit packed album, that turned me into a metal believer.

SILVERCHAIR “Neon Ballroom”

The orchestral composition of Emotion Sickness and the vocal performance changed my perception of what is possible to do with rock, and broke boundaries.

MUSE “Origin of Symmetry”

The specific rock and classical piano approach along with Mathew Bellamy’s vocal performance comforted my taste of fusing genres. Being a piano player that used to love Chopin, a found this album refreshing. So much that I called Chris Rock , the engineer who mixed and mastered this album to work one my first album.

SYSTEM OF A DOWN “Toxicity”

A true slap in the face, powerful, inspired, angry, engaged, fused with unconventional instruments and melodies. My true inspiration as a fusion artist, leading me to create a Tunisian Tribal Metal genre.

METALLICA “Reload”

Metallica again, because their evolution, and the emotion around their art. Metallica is not a music genre, it’s a world. Besides, Hetfield was my greatest vocal teacher with Tankian.

MESSAGE FOR JAPAN

First of all, one of my goals in life is to travel to Japan! Try delicious meals, from sushi platters to yakisobas and ramens, Yattaa!! !!
And I AM going to attend to the 2025 universal expo in OSAKA, and I WILL one day perform in Japan in front of Metal fans! To Japanese people I say this: Your sensitivity, friendship, hard work and creativity force respect!
Keep being amazing at what you do JAPAN, you are a very special country.
Thank you Sin for your interest in Hemlyn. Be Safe and Keep Head Banging!
PS: I am enthusiastic about an opportunity to meet you in Japan and discuss our shared passion for music and culture, should you be available. Additionally, I am proud of the project at Le Centre Des Arts Jerba (https://centre-arts-jerba.com/fr/), founded by my father, Fadhel Jaziri. The center aims to promote artistic and cultural exchange, offering a platform for diverse performances and exhibitions. I believe it contributes to the enrichment and promotion of the region’s cultural heritage and is deeply intertwined with my day-to-day involvement with music and arts. Looking forward to chatting more!

まず、僕の人生の目標のひとつは、日本を旅行することだ!寿司の盛り合わせから焼きそば、ラーメンまで、美味しいものを食べて、ヤッタァ!!
そして、2025年に大阪で開催される万国博覧会に参加し、いつか日本のメタル・ファンの前でライブをするつもりだよ!日本の皆さんに言いたい。君たちの感性、友情、努力、創造性は尊敬に値する!日本は特別な国だよ。HEMLYN に興味を持ってくれてありがとう。安全第一で、ヘッドバンギングを続けてほしい!
PS:僕の父、ファデル・ジャジリが設立したLe Centre Des Arts Jerba (https://centre-arts-jerba.com/fr/)のプロジェクトを誇りに思っているんだ。このセンターは、芸術的・文化的交流を促進することを目的としており、多様なパフォーマンスや展示のためのプラットフォームを提供している。僕は、このセンターがこの地域の文化遺産の充実と振興に貢献し、私の日々の音楽や芸術との関わりと深く結びついていると信じているんだ。また話せるのを楽しみにしているよ!

AL JAZIRI

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MANAPART : ROOMBAYA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MANAPART !!

“Maybe Melancholy Is In Our DNA That’s Been Also Formed By Quite a Tough Historical Path Our Country Is Taking”

DISC REVIEW “ROOMBAYA”

「アルメニアの若い世代の嗜好には、SYSTEM OF A DOWN が大きな影響を与えているということだね。正直に言おう、アルメニア人は他のアルメニア人が有名になるのが好きなんだよ。だから僕たちは、単純に彼らのことを無視できなかったんだ」
2023年が終わろうとしている現在に至っても、アルメニアの英雄 SYSTEM OF A DOWN が新しいアルバムを出す気配はありません。もちろん、ライブでのケミストリーは十分という彼らの言葉通りしばしばツアーは行なっています。アルツェフとアルメニアで起きた紛争や虐殺に際しては、実に15年ぶりとなる新曲で世界に訴えかけもしました。とはいえ、非常に残念ですが、おそらく2005年以来となるアルバムは、来年も、再来年も、届くことはないでしょう。しかし、案ずることはありません。私たちには同じアルメニアの血を引く MANAPART がいます。
「たとえ音楽が世界を変えることができなくても、ある特定のグループの人々がこの世界について感じていることを反映することはできる。だから、より良い未来への希望があると感じたら、僕たちはそれを歌で伝えるんだ。音楽は命を救うことはできないけど、少なくとも気分を良くさせることができる。そうすれば、この世界に小さくても良い変化を与えることになるんだよ」
SYSTEM OF A DOWN と違って、MANAPART はアメリカに拠点を置いてはいませんし、伝説的プロデューサーのリック・ルービンも共にはいません。しかし、彼らには誠実さと野心、創造性が無尽蔵に備わっています。常に紛争と隣り合わせの場所で生まれ育ったからこそ、身に染みて感じる命と平和、希望の大切さ、そして悲しみ。
「僕たちの音楽にある哀愁は、僕たちの国が歩んできた厳しい歴史的な道によって形成され、僕たちのDNAの中にあるものだと思う。正直に言うと、人々を幸せな場所に届けるような本当に良い曲を書くのはとても難しいんだよ」
MANAPART は2020年の結成以来、世紀末の Nu-metal と東洋音楽、アルメニアのフォーク・ミュージックのユニークな婚姻を成功させ、SYSTEM OF A DOWN のフロントマン Serji Tankian その人からも賞賛されるまでに頭角を現してきました。MANAPART が母国の英雄と比較されるのは、彼らが SOAD のカバー・バンドから始まったことはもちろん、それ以上に同じアルメニアの悲哀を抱きしめているからでしょう。
大国をバックとした係争地、ナゴルノ=カラバフを巡るアゼルバイジャンとの血で血を洗う紛争は、彼の地に生きる人々の心を、体を疲弊させていきました。だからこそ MANAPART は、表現力豊かな音楽で社会的不公正、抑圧や心の憂鬱など感情をとらえた力強いメロディーを通して、人生の不条理と複雑さを探求していきました。そうして彼らは、リスナーをメランコリーに満ちたアジアと欧州、そして中東の交差点へと誘いますが、その一方で、作品全体の根底にあるテーマはより良い未来と開放のための希望と光が溢れているのです。
今回弊誌では、MANAPART にインタビューを行うことができました。「Roombaya とはアルメニアの儀式の踊り。僕たちの魂が解放される儀式のようなもので、神聖な火の周りで踊るブードゥー教のダンスのようなものだ。この炎は僕たちの魂を時空を超えて高揚させ、本当の自由を感じさせてくれるんだ」 どうぞ!!

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【VOICE OF BACEPROT : RETAS】


COVER STORY : VOICE OF BACEPROT “RETAS”

“When I Pray To My God, It Gives Me The Strength To Believe That I Can Achieve My Dreams.”

CARRYING OUT OUR DREAMS WITHOUT FORGETTING OUR ROOTS

ヒジャブのメタル戦士 VOICE OF BACEPROT の3人組、Sitti, Widi, Marsya は歩くときは腕を組み、三つ子と間違えられるほど似た姿で笑顔を振りまきます。3人は決して笑いを止めません。その笑いはさながらヘヴィ・メタルのごとく周りに伝染し、3人が母国語のスンダ語で話しているにもかかわらず、誰もが笑顔を纏うようになるのです。VOICE OF BACEPROT は、お互いの皿から食べ物を食べ、疲れたときにはお互いを支え合い、昼寝をするときにはそれぞれが腕や足、頭を他の誰かの上に置いて眠る。まるで、互いに手を離すとどこかへ飛んで行くのではないかと心配しているかのように。
スンダ語でうるさい声の意味を持つ VOICE OF BACEPROT は、インドネシアの西ジャワにある小さな村、シンガジャヤの出身です。シンガジャヤには 無線LAN もレコーディング・スタジオもなく、5人家族が月30ポンドで暮らしています。VoB の3人は学校の進路指導カウンセラーのPCを覗いているときに、SYSTEM OF A DOWN のアルバム “Toxicity” を偶然発見し、2014年バンドを始めることを決意します。
当時14歳だった Sitti は、学校にあった申し訳程度のドラムセットで1ヶ月の大半を譜面を覚えることに費やしました。Marsya はギターを、Widi はベースで同じことをやって、1ヵ月後には最初のカバーを完成させます。そうして、バンド結成のきっかけとなったコンピュータの教師、アーバ・エルザは3人の情熱と才能に驚き、彼がうっかり蒔いた種を育てることに専念しようと決意するのです。

今ではインスタのフォロワー数20万を誇る VOICE OF BACEPROT ですが、3人はスンダ語と英語を織り交ぜながら、いかに自分たちに友達がいないのかを説明します。
「私の村では、誰かが私を見ると、こうやって背中を向けるのよ!」と、21歳のリード・ボーカル兼ギタリスト、Firdda Marsya Kurnia は言います。彼女はヒジャブの黒いひだだけが見えるように振り返り、明るくはにかみます「本当よ!」
ドラムの Euis Siti Aisyah も21歳。ベーシストの Widi Rahmawati は22歳でバンドの年長者ですが、同様に不服そうに首を横に振ります。残念ながら地元に友だちはいませんが、それでも VOB のフォロワーは爆増中なのです。
インドネシアはイスラム教徒が大多数を占める国で、西ジャワは特に保守的。そのコミュニティにおいて、音楽はハラーム(イスラム法で禁じられている)だと信じられているため、3人がメタルの世界に飛び込んだときも彼らはあまり良い反応を示さなかったのです。Marsya は、『悪魔の音楽を作るな』と書かれたメモに包まれた石で頭を殴られ、さらにはオートバイにわざとぶつけられたり、母親の店の窓ガラスを割られたりと散々な目にあいました。VOB がステージに上がる直前に宗教指導者が電源を抜いたこともあり、マネージャーはバンド解散を迫る脅迫電話を受けたこともあります。言うまでもなく、VOB はふざけているわけでも、何かをバカにしているわけでもありません。彼女たちはただ、夢を実現するためにすべてを犠牲にしてきたのです。

デビューから9年、世界各地をツアーする忙しい日々を送っていながら3人は、観客から脅迫を受けたり、石を投げつけられたりしたことは、今でも昨日のことのように覚えているといいます。ただし、大人としての知恵と成熟を得たメンバーは、今ではそれを笑い飛ばすこともできるようになりました。「あの投石は、彼らがわたしたちを気にかけている証拠だったのよ」と Widi は笑っていいます。
暴力は時間とともにおさまりましたが、ソーシャルメディア上の憎悪に満ちた下品な発言はいまだに後を断ちません。Sitti は、ドラムを叩いているときに半袖のシャツを着ていただけで、イスラムの教義に反すると糾弾されたことを思い出しました。
「彼らは、わたしが長い緩い袖でドラムを叩いて嫌な思いをしたことを知らないのよ。叩いていると引っかかるの!わたしににとっては危険なことなの。あの嫌われ者たちは、わたしにとって何がベストかを考えず、ただ自分の好きなことを言いたいだけなんだ」
「人々は私たちを天使だと思っているの。わたしたちは決してミスを犯してはいけない、誰かの理想でなければならないと思われているの…」と Marsya も嘆きます。

では、VOICE OF BACEPROT はイスラム教を憎んでいるのでしょうか?初のヨーロッパ・ツアーで、3人はヒジャブについて多くの質問を受けました。なぜなら、欧州においてベールを被った女性は抑圧の象徴だったから。
「ベールじゃないわ。これはヒジャブよ」
Marsya は、宗教がいかに自分に喜びと強さをもたらしてくれるかを説明し、ヒジャブは自分の意思でかぶるものであり、平和と美の象徴であると語りました。
バンドはこうした質問に驚いてはいませんが、少し疲労しています。ヨーロッパのイスラム教に対する認識は3人にとって想像を超えていて、押し寄せるステレオタイプの波に呑まれそうになっていたのです。「もしわたしが爆弾を持っていると言って広場の真ん中に走り出し、バッグの中を濡れて臭くなった靴下でいっぱいにしたらどうなるかな?」と皮肉を言う Sitti の気持ちもわからなくはありません。
結局、彼女たちにとってヒジャブを着用することは、朝デオドラントをつけたり、家を出る前にズボンを履いたりするのと同じくらいありふれたことなのです。
「わたしたちが聞かれたいことのリストがあるとしたら、ヒジャブはそのリストの100番目くらい後ろになるでしょうね。そこに注目されることを望んでいないの。それよりも、自分たちの技術について話したいのよ。わたしたちは昼も夜も訓練してテクニックを磨き、素晴らしい曲を作ってきた。その話をしようよ!わたしたちが有名なのは、着ている服のおかげだと思っている人たちがいるの。うんざりだわ!」と Marsya は訴えます。

そうした騒音と嘲笑は、3人に “God, Allow Me (Please) To Play Music” “神様、お願いだからわたしたちに音楽を演奏させて!” という楽曲を書かせました。”わたしは憎しみの深い穴に落ちていくような気がする/わたしは犯罪者じゃない/わたしは敵じゃない/ただ魂を見せるために歌を歌いたいんだ”。しかし、そうした周囲のノイズはトリオに寛容と敬意についての貴重な教訓をも与えました。大切なのは、ルーツを忘れずに夢を追うこと。
「女性だけのメタルバンドがヒジャブを着ているのは、それほど一般的ではないのは事実よ。でも、わたしたちの国はそれほど厳格ではないのも事実。わたしたちは村では、(イスラム教徒として)多数派である自分たちの特権に安住しすぎていたの。でもメタル・シーンに入ると、ヒジャブをかぶった女性はメタル・シーンの一部とは見なされず、わたしたちは少数派になってしまった。だからこそ、許し合うこと、平和と寛容のメッセージがとても重要だとわかるのよ」
自分たちの身体や服の選択についてのコメントにうんざりしていた若きロックスターたちは、 “Not Public Property” という曲を思いつきました。3人は家庭内暴力やジェンダーに基づく暴力の被害者を支援するためにこの曲を捧げました。また、ウーマン・オブ・ザ・ワールド(WOW)財団と協力して、被害者を支援するために資金を集めています。
「この曲は家庭内暴力の被害者へのラブレター。そのほとんどは子供と女性なの。彼女たちは一生トラウマを抱えて生きていかなければならないの。彼女たちは常に責められている。そして人々は、女性が人前でどのように振る舞うべきかを取り締まり始める。まるで女性の体が公共物であるかのような気分にさせられるわ。誰もそんな扱いを受けたくはない!わたしたちは、この問題の支持者が増えていることを実感しているの。ステレオタイプではない環境に生きていることを嬉しく思うわ。異なる視点が必要よ」と Marsya は付け加えました。

3人の成長は、”Retas” 収録の新曲のひとつで、バンド初のインストゥルメンタル・ナンバーである “Kawani” を聴けば明らかです。スリリングなスンダ語で “勇気” の意をも持つ楽曲は、グルーヴィでヘヴィなセクションとスンダ風味のベース・ソロが4分足らずの長さで展開されていきます。この曲は、VOICE OF BACEPROT がスンダ音楽を探求するきっかけになるかもしれない。「将来的には、スンダの伝統楽器を演奏できる人とコラボレーションできるかもしれない」と Marsya はつぶやきます。
インドネシアではメタルが盛んです。61歳のジョコ・ウィドド大統領まで、自らをメタル・ヘッドだと語っています。シーンは密度が高く、Hellprint, Hammersonic, Rock In Solo といった巨大なフェスティバルが毎年何十万人もの観衆を魅了しています。バンドのマネージャー Nadia は何十年もの間、男性中心のシーンでマネージメントしてきましたが、2017年にアーバ・エルザから VOB のマネージメントを手伝ってほしいという電話を受けたとき、ひどく興味をそそられました。彼女はジャカルタから11時間かけて3人のの村まで会いに行き、2時間かけて音楽業界の落とし穴、上下関係、政治、そして名声についての説明を行いました。そして、何か質問はないかと尋ねました。
Marsya が手を挙げます。「食べ物が飛んでいる飛行機の中で、どうやって食事をとるの?」 Widi が重々しく付け加えます。 「あと、オシッコも」
その時、Nadia は3人の旅にどうしても参加しなければならないと思いました。

2017年、VOB はインドネシア全土で公演を行い、全国放送のテレビに出演し、あの Guardian 紙にも取り上げられました。翌年、デビュー・シングル “School Revolution” をリリースし、この複雑かつ奔放なスラッシュ・メタルは、3人の卓越した技術力と巧みなソングライティング・スキルを存分に見せつけました。このシングルは、ニューヨーク・タイムズ紙や BBC、アメリカの公共ラジオ・ネットワーク NPR、ドイツの国営放送 DW などのメディアに掲載され、バンドを国際的な存在へと押し上げました。しかしその後、パンデミックが発生し、すべてが停止しまったのです。
しかし Nadia は、この中断をバンドのスキルを磨く絶好の機会と捉え、3人の若い女性が首都ジャカルタに引っ越すべき理由を家族に説明するために彼女たちの村まで長距離ドライブを敢行しました。現在 VOB はジャカルタでアパートをシェアしていますが、バンドの練習の合間には Nadia の家でプールの水しぶきを浴びて過ごすことも。トリオは過去1年間、インドネシアのロックバンド Musikimia と Deadsquad のメンバー、そしてジャズベース奏者のバリー・リクマフワの指導を受けてきました。しかし、すべてが順風満帆だったわけではありません。村のコミュニティ内での苦闘と同様、インドネシアのメタル・シーンに受け入れられるためにも3人は戦わなければならなかったのです。
「進歩はしているけど、インドネシアのメタル・シーンにいる女性の数はごくわずかで、未だにわたしたちにとって安全な空間ではない。性的暴行はいまでもコンサートで起きているし、ソーシャルメディアは明らかに有害。”どうして VOB が選ばれるの?もっとメタルなバンドがいるじゃない” とか、わたしたちの身体や肉体的なことに関する発言は、いまだによくあることなの。ヨーロッパ・ツアーを2度行い、現在アメリカ・ツアーを行っていることは問題ではない。地元に帰ると、”いつ結婚して子供を産むの?”と聞かれるのが現実よ!」

地元のバンドの中には、3人の若い女性がやってきてショーを “盗む” ことを良しとしない人たちも少なくありませんでした。彼女たちは陰口をたたかれ、VOB がフェスティバルに出演するために金を払っているとデマを振りまかれました。Nadia はそれにもめげず、大人の男たち全員に文句を言ってまわりました。そして今、5年間の努力の末、VOB はインドネシアのメタルシーンの全面的な支持を得ました。2021年のシングル “God Allow Me (Please) to Make Music” は、インドネシアのすべての主要放送局でオンエアされ、シーンすべてのメタル・ヘッドからリポストされるようになったのです。
VOICE OF BACEPROT は、当初から自分たちの音楽を用いて重要な社会問題に関心を寄せてきました。初期の曲のひとつである “The Enemy of Earth is You” は、環境汚染と気候変動を嘆く楽曲で、VOB の出身地である西ジャワ州ガルトの鉄砲水など、インドネシアで記録的な自然災害が発生した2016年にリリースされています。さらに高校生だった3人は、硬直した教育システムを批判する “School Revolution” を書いた。そしてアルバム “Retas” は2017年に書いた反戦賛歌 “What’s the Holy (Nobel) Today?” で幕を開けます。
VOICE OF BACEPROT の楽曲は、宗教的寛容、気候変動、女性差別、戦争といった “問題” を取り上げていて、Nadia は彼らの肩にかかる重すぎる責任に罪悪感を感じることがあると認めています。「インドネシアにおけるイスラム教の意味を世界に示すのは、3人次第なのよ」

ゆえに Nadia は、3人の若いバンド・メンバーの精神的な健康を心配しています。Marsya はパニック障害に苦しみ、Sitti は母親を脳卒中で亡くして以来、時々手が震えてしまいます。しかし、宗教がバンドを支えているのです。
「神はわたしの話や悲しみを聞いてくれる。人にそれを話すと、予想外の反応が返ってくるかもしれないからね」そう語る Sitti に Marsya も同意します。
「何か心配なことや怖いことがあると、神に相談するの。他の人のようにわたしを責めることはないし、わたしが言うことは何でも聞いてくれるから。神に祈ると、夢を実現できる、そう信じる力が湧いてくるの」
コンサート・ホールが満席になると、VOBの軽やかな笑い声は緊張した沈黙へと消えていきました。バンドは西ジャワの伝統的な素材を使った黒い衣装を着ています。Sitti はアンプの上に座り目を閉じてエア・ドラムを叩き、Marsya は黙々と歌詞を朗読し、Widi はエア・ベースを弾いて待ちます。
「ステージにいるとき、私たちはひとりぼっちのように感じるの。だからステージにいないときは、いつも近くにいようと約束してるんだ」

照明が落ちる。時間だ。最後の音が鳴り終わると、Marsya がマイクに向かいます。彼女の緊張は消え去り、ベテランのカリスマ性に変わっていました。
「このライヴの前にインタビューがあって、みんなわたしたちのヒジャブについて聞いてきたの。まるでファッション・ショーのためにここに来たような気分よ。わたしたちは夢を叶えるために、そしてヒジャブが平和と愛と美の象徴であることを示すためにここに来たのに!」
観客は賛同の声を上げます。
「もし誰かがわたしたちのヒジャブについて尋ねたら、どうするか知っている? もし誰かがわたしたちに憎しみを込めた言葉を使ったら、どうするか知ってる?ヒジャブはわたしたちの選択なのかと聞かれら、どうするかわかる?こうするんだ!」
間髪を入れず、Marsya がマイクに向かって叫び、Sitti がドラムを叩き、Widi がベースをかき鳴らす。VOICE OF BACEPROT には世界を変える力があるのです。
3人のヒジャブの戦士は、現在 “テレビゲームのラスボス” と彼女たちが例えるアメリカをツアー中。US ツアーのニュースはバンドの地元にも届き、Marsya の家族にシュールで愉快な出会いをもたらしました。
「今朝、ママから電話がかかってきて、誰かが土地を売りに来たって。”あなたの娘がテレビに出たんだから、きっと大金持ちに違いない!”ってね!」
2021年、ヨーロッパ・ツアーの直前、トリオは永遠のヒーローのひとり、Tom Morello と話す機会を得ました。「俺は君たちのの大ファンだ。君たちのバンドとしての存在そのものが、世界中の人々にインスピレーションを与えているんだ」と Tom は3人に言ったのです。
つまり、もう誰も VOICE OF BACEPROT 止めることはできません。村の名前であるシンガジャヤ、つまり “栄光のライオン” である彼女たちの雄叫びが止むことはありません。


参考文献: REDBULL:LIVING ON A PRAYER WITH INDONESIAN ROCK BAND VOICE OF BACEPROT

The ASEAN:Voice of Baceprot: Breaking Barriers with Heavy Metal

NME:Hard as rocks: Indonesian metal trio Voice of Baceprot keep breaking boundaries

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE KOREA : VORRATOKON】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YURI LAMPOCHKIN OF THE KOREA !!

“Right Now, We Are Feeling Like Musicians On Titanic, Who Continued To Play For The People In Their Darkest Hour, But We Want To Let Our Music Speak For Us.”

DISC REVIEW “VORRATOKON”

「僕たちのような音楽が流行りはじめたのは、00年代にローカルなバンドがメタルコアや Nu-metal に影響されたヘヴィな音楽を演奏し始めたのが最初だったと思う。ただ、国境を越えて音楽を届けるには常に問題があったんだけど、ストリーミング産業、特に Spotify や Apple Music といった大手が登場すると、それがずっと簡単になったね」
古くは ARIA や GORKY PARK、長じて EPIDEMIA や ABOMINABLE PUTRIDITY など、ロシアにはメタルの血脈が途切れることなく流れ続けています。ただし、その血管が大動脈となり脈打ちはじめたのは、00年代の後半、メタルコアや djent の影響を受けたテクニカルで現代的なメタルが根付いてからでした。モダン・メタルの多様な創造性は、ギタリスト Yuri Lampochkin 曰く “あらゆる音楽を聴く” ロシアの人たちの心にも感染して、瑞々しい生命力を滾らせていったのです。
仮面のデスコア怪人 SLAUGHTER TO PREVAIL のワールド・ワイドな活躍はもちろん、ギターヒーローとして揺るぎない地位を獲得した Sergey Gorvin、独自のオリエンタル・メタルコアでプログレッシブのモーゼとなった SHOKRAN、複雑怪奇と美麗のマトリョーシカ ABSTRACT DEVIATION など、10年代初頭、我々は芸術的 “おそロシア” の虜となっていきました。THE KOREA もそんな文脈の中で光を放つバンドの1つ。当時、Bandcamp で “Djent” タグを熱心に漁っていた人なら知らない者はいないでしょう。
「音楽で最も感動的なことのひとつは、常に新しい方法を探して、美しいもの、本当にパワフルなものを作り、自分の音や自分の音楽の感じ方を常に進化させることなんだ。僕たちは当時からその感覚を持っていて、今もそれが THE KOREA の原動力になっているんだよ。個人的に影響を受けたのは、これでもだいぶ絞っているんだけど、Jim Root, Jaco Pastorius, Ian Paice, Chester Bennington, Misha Mansoor といったところだね」
THE KOREA が唯一無二なのは、djent と Nu-metal という台風並みの瞬間風速を記録したメタル世界の徒花を、包括的なグルーヴ・メタルと捉え両者の垣根を取り払ったところでしょう。Jaco Pastosius や Ian Paice といったロックやジャズの教科書をしっかりと学びながら、まさにパワフルで美しい “新しい方法” をサンクトペテルブルクで創造しました。
莫大な情報と自由が存在する “西側” の国々でさえ、ハイパーテクニカルな LIMP BIZKIT や 拍子記号に狂った SLIPKNOT、やたらと暴力的な LINKIN PAPK なる “もしも” は考えもしなかったにもかかわらず。そんな “If” の世界を彩るは、雪に政府に閉ざされたロシアの哀しき旋律、それにトリップホップの無垢なる実験。
「僕たちの楽曲 “モノクローム(Монохром)”では、世界における暴力、特に戦争に終止符を打つことについて話している。戦争はもう、僕たちの生活の中にあってはならないことで、世界中の人々がそれに気づき、互いに争うことをやめるべきなんだよね。この曲は1年以上前に書かれたものなんだけど、まさか最近の出来事とこうして結びついていくなんて、僕たちには想像もつかなかったよ」
ロシア語で “耳を傾ける” を意味する最新作 “Vorratokon” はそんな彼らの集大成。戦争を引き起こしたロシアの中にも平和と反戦を願う “優しい” 人たちが存在すること。我々はそんな小さな声にもしっかりと傾聴すべき。奇しくもそんな祈りがタイトルから伝わってくるようです。
「僕たちの国にとって、残酷と不正のトピックは特に重要なんだよ。だけどロシアの社会は、明らかな問題を認識して解決し始めるレベルにもまだ達していないんだ…」
かつて、弊誌のインタビューで同じくロシア出身のチェンバー・デュオ IAMTHEMORNING はこう語ってくれました。もしかしたら、ロシアの中には戦争賛同者が想像以上に多く存在しているのかもしれません。しかし、その一つの意見を切り取ってロシアの総意のように発信するのは明らかに間違いです。
「俺たちは残忍な音楽を演奏しビデオには武器も出る。だけどどんな戦争にも反対だ。ウクライナで起こっていることにとても傷ついている。どうかロシア国民全体を共犯者だと思わないで欲しい。皆の頭上に美しい、平和な空が広がりますように」
SLAUGHTER TO PREVAIL、Alex Terrible の言葉です。こんな考えのロシア人もまた少なくないはずです。政治はともかく、少なくとも音楽の、芸術の世界では Yuri の願い通り私たちは “壁” を作るべきではないでしょう。
今回弊誌では、Yuri Lampochkin にインタビューを行うことができました。「今、僕たちはタイタニック号のミュージシャンのように、最も暗い時にいる人々のために演奏を続けているような気分なんだ…僕たちの音楽が僕たちの心を代弁してくれたらいいんだけどね」こんな時期に、こんな状況で本当によくここまで語ってくれたと思います。どうぞ!!

THE KOREA “VORRATOKON” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【VOICE OF BACEPROT : THE OTHER SIDE OF METALISM】


COVER STORY : VOICE OF BACEPROT “THE OTHER SIDE OF METALISM”

“To Slander Is Easier Than To Create, Which Is Why It Is Not Surprising To See Many Choosing To Sneer And Mock Instead”

METALISM FIGHTS TO THE STEREOTYPE

2014年、インドネシアの田舎の教室で、3人の女子学生がメタルと恋に落ちました。当時14歳だった彼女たちは、西ジャワ州ガルートにある学校の課外芸術プログラムの中で、学校のガイダンス・カウンセラー Ahba Erza にメタルを “習い” ます。
すぐに3人は、SYSTEM OF A DOWN のユニークで美しいリリシズムや、RAGE AGAINST THE MACHINE, LAMB OF GOD の “反骨精神” に惹かれていきました。やがて、3人は VOICE OF BACEPROT を結成し(”Baceprot” はスンダ語で “うるさい” という意味)、独自の扇情的な騒動を巻き起こしています。
「うるさい声ってバンド名が象徴するように、私たちは独立した人間であることの重要性を叫び続けるわ」
7月下旬、VOICE OF BACEPROT の3人は、2004年にリリースされた SLIPKNOT の名曲 “Before I Forget” をライブでカバーしました。このバンドの熱のこもった、気負いのない演奏を見ていると、かつてこの若い女性たちが定期的に殺害の脅迫を受けていたことを想像するのは難しいかもしれません。

VOICE OF BACEPROT は、シンガー・ギタリストのFirdda Marsya Kurnia、ベーシストの Widi Rahmawati、ドラマーの Euis Siti Aisyah の3人で構成されていて、荒波の中を台風のように台頭し勢力を増しています。イスラム教の信仰に基づいてヒジャブを着用して演奏する彼女たちは、2017年に RAGE AGAINST THE MACHINE, SLIPKNOT, PEAPL JAM のカバーをネット上で公開して話題になりました。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙の記事では、音楽の話よりもまず、彼女たちのヒジャブと柔和な表情が最初に紹介されています。そのため、彼女たちは頻繁に暴力的な嫌がらせの対象となっていました。ある夜には、スタジオから車で帰る途中、悪口を書いた石を投げつけられたり、殺害の脅迫を受けたり、バンドの解散を迫る電話を受けたり。しかし、Kurnia、Rahmawati、Aisyah の3人は、自分たちのその知名度に臆するのではなく利用して、勇気を持って活動しています。
「中傷は結局、SNS 上のコメントにしか過ぎないのよ。最初は少し怖かったけれど、自分たちの音楽に集中したわ。最も困難だったのは、私たちのような女性(特にヒジャブをかぶった女性)は音楽をするべきではないという偏見との戦いだった。彼らは私たちのことを、学校で勉強して高い点数を取ることに集中すべき子供だと思っているの。呪いの言葉や、演奏をやめるべきだという言葉をたくさん受け取った。彼らは私たちに音楽をやめさせようとしているの。ほとんどの場合、私たちが女性だからそういうことを言われるのだと思うけど、私たちは自分の心の中にあるものを言うことを恐れない。多くの人はそれも好まないのよね。もし私たちが男性だったら、こんなに苦労しなかったかもしれないわね。でも音楽は私たちに大きな喜びを与えてくれるから、演奏し続けたいと思っているわ。音楽に集中しているから、他のことはどうでもいいの!」

実際、シングル “God Allow Me (Please) to Play Music” は、彼女たちを罪深い異端者とする批評家たちへの直接的な反撃です。”神様、私に音楽を演奏させてください” というタイトルのこの曲は、いまだに女性を男性と同等に見ようとしない人々と直接対決する強い意志。その意志を込めて書き歌う必要が彼女たちにはありました。タイトルの “祈り” が文字通りの意味であるかどうか、バンドがロックを演奏するために神に許可を求める必要があるかどうかについては、3人は言及していません。しかしメンバーは皆、敬虔でありながら進歩的な考えを持っており、信仰のために誤った判断をされたり、嘲笑されたりすることは許されないと明言しています。そしてこの曲は “女性の抑圧” と “私たちが共通して物や二流の人間として扱われていること” に対するプロテスト・ソングだと Kurnia は語ります。
「もし、私たちが女性でなかったら、自由に音楽を演奏することを神に許可してもらう曲を書く必要性を感じなかったかもしれないわ。もし私たちが女性でなかったら、ここでは悪魔崇拝の音楽祭とみなされる巨大なメタル・フェスティバルに出演することになったからといって、私たちが自分たちの宗教にとって恥ずかしい存在だと言われることはないでしょう。 私たちは、芸術作品が性別によって分類される可能性があることを知って、少し悲しくなったのよ。だからメッセージはシンプルよ。私たちは犯罪者じゃない。ただ自由に音楽を作りたいだけだし、神様もきっと私たちをお許しになるわ。というよりも、メタルがむしろ私たちを神様に近づけてくれているの。」
ただし、彼女たちは3人のイスラム教徒の女性がヒジャブをかぶり、メタルを演奏することで、自分たちが強い話題を提供できることを知っています。それでも、彼女たちは自らの音楽と社会意識の高い歌詞で自分たちを証明しようとしています。そうして VOICE OF BACEPROT は、女性イスラム教徒でメタル教徒というアイデンティティーを取り戻し、その過程で、NIRVANA, RAGE AGAINST THE MACHINE, RED HOT CHILI PEPPERS の新旧メンバーを含む世界中のファンを獲得し、刺激を与えています。
そういった彼女たちのメンターは、技術的なスキルやステージ上での存在感をトリオに教えるだけでなく、特に SNS で自分たちを宣伝する方法も教えています。もちろん、バンドが最初に有名になったのもソーシャル・メディアでした。初期の頃、彼らのライブ・パフォーマンスのビデオは、Twitter, Facebook, Instagram などで広く拡散され、国外に広まっていきました。昨年、Tom Mollero は、彼女たちが RATM の “Guerrilla Radio” を演奏している動画を “ROCKING” とリツイートし、熱狂的な支持者である Flea は、”VOICE OF BACEPROT に賛同する” とツイートしています。
「私たちの音楽が地元の人々だけでなく、海外の人々にも聴いてもらえる大きなチャンスを与えられたわ。いつか彼らとのコラボレーションも実現したいと思っているの」

新しいEP “The Other Side of Metalism (Live Session)” で VOICE OF BACEPROT は、カバーとオリジナル曲を織り交ぜながら、自分たちに影響を与えたグループに対する敬意を表しています。RATMの “Testify”、SYSTEM OF A DOWN の “I-E-A-I-A-I-O”、ONE MINUTE SILENCE の “I Wear My Skin”、そして前述の “Before I Forget” という5曲のカバーを選んだのは、「過去7年間の音楽の旅を通して、大きなインパクトを与えてくれた曲だから」そう Kurnia は語ります。Rahmawati は、「メタルは、私たちが自分たちを表現するのに最適のジャンルなの。とてもパワフルで、私たちに自由を与えてくれるの。最近は AUDIOSLAVE, GOJIRA, JINJER をよく聴いているわ」と続けます。
VOICE OF BACEPROT の初期のオリジナル曲に影響を与えた激情的な Nu-metal、SLIPKNOT に対する彼女たちの愛は、アイオワ出身の覆面バンドが持つ願望にも通じていました。彼女たちは、”Before I Forget” のカバーを発表した際、「私たちは、 SLIPKNOT がこんなに人気があるのに、どうして顔を隠して音楽を作り続けているのか不思議に思っていたの」と述べています。ヒジャブを纏う VOICE OF BACEPROT にとって、個人的な外見を超えることは明らかに重要なテーマなのです。
「私たちは何よりも音楽性を重視して前進し続けたいの。外見にこだわらず、自分たちのアイデンティティーを捨てずにね」
さらに、VOICE OF BACEPROT は RATM や SOAD といったヒーローたちのように、臆することなく政治的なアジェンダを持ち、次の世代の危機のために戦っています。オリジナルの “The Enemy of Earth Is You” は、若いバンドにとって特に関心の高いテーマである気候変動に対する激しいリアクションでした。地下水の違法な枯渇、雨季の短縮、海面の上昇など、彼女たちの故郷であるインドネシアでこの問題は特に深刻です。Kurnia が地元である西ジャワ州ガルートを例に挙げて説明します。
「私たちは、環境意識の欠如がもたらす影響を、すでに感じ始めているわ。村ではきれいな水を手に入れるのがとても難しいの。環境への配慮は、今だけではなく、将来のためにも必要なことだと思う」

女性イスラム教徒という抑圧の出自に対するバンドの挫折感は、オリジナル曲 “School Revolution” にも表れています。2018年にシングルとして発表されたこの曲は、彼らが10代の頃に感じた保守的なマドラス(地元のイスラム教の学校)での判断を痛烈に批判したもので、校長でさえ彼らの音楽を “ハラム”(宗教上の法律で禁止されていること)と呼んだことがありました。英語と彼らの母国語であるスンダ語を織り交ぜて歌われた “School Revolution” の絶望と反抗のメッセージは、強烈に心に響きます。学校での制限された勉強に囚われて、自分の情熱を表現できないことを歌った情熱の楽曲。学校を “牢獄” と比喩し、英語の詩では Kurnia がこう叫びます。「私の魂は空っぽで、私の夢は死にかかっていて、私の魂はダークサイドに落ちて、私は自分の人生を失う」。
ドラマチックなリリックですが、「より身近なテーマを前面に押し出してみたの」と Kurnia は言います。「厳格な校則を守るために、生徒たちが自分の希望や夢から遠ざかり、自分を見失っているとしたら、私たちはそれが単なる従属の一形態であると思うわ。これは、私たち自身が感じたこと、Abah と話したこと、そして多くの本で読んだことに基づいているの。当時、私たちの生活の中で、学校は大きな役割を果たしていた。多くのティーンエイジャーが思春期を過ごす場所でもあるしね。学校は、生徒の希望や夢を受け入れることができる、公正で公平な空間であるべきだと思うのよ」
この曲は、Flea や Krist Novoselic の推薦を得て、グループの画期的なヒット曲となりました。
さらに VOICE OF BACEPROT は、現地のインドネシア音楽シーンのメンバーからも支持を集めます。”School Revolution” を制作したのは、メタル・バンド MUSIKIMIA で活動するギタリスト、Stephen Santoso。後にガルートからジャカルタに移った3人は、テクニカル・デスメタルのヒーロー、DEATHSQUAD のギタリスト、Stevie Item や、全米で有名なジャズ・ベース奏者でプロデューサーでもある Barry Likumahuwa と知り合うことになります。タイミングも良かったのでしょう。3人が一緒に暮らすことで、パンデミックが発生しても練習を続けることができるようになりました。
そういった様々な支援者の指導のもとで、VOICE OF BACEPROT はその才能を磨いてきました。3人とも音楽の専門教育を受けていない状態でのスタートでしたが、驚異的な器用さと完璧なリズム感が先天的に備わっていました。Kurnia が語ります。
「私たちはまず独学で学んだの。それから、基本的な技術や理論は師匠たちからたくさん学んだわ。彼らは私たちの基本的なスキルを完璧にして、音楽理論を教えてくれたの」

皮肉なことに VOICE OF BACEPROT が直面したハードルとは対照的に、インドネシアにはアジアで最も活気のあるメタル・シーンがあり、同国の大統領 Joko Widodo でさえメタル・ヘッドを公言しています。ただ、彼女たちはインドネシアで唯一の女性メタル・グループではありますが、地元のメタル・シーンに参加する女性の数が増えていることに励まされているようです。自分たちの性別が成功の障害になっていないかと聞かれると、Kurnia はこう答えました。
「いいえ、そうじゃないの。なぜ不利なの? 私たちには、否定的な意見から力を得るという不思議な力があるのよ。否定的な意見は私たちの精神を高め、私たちをより強くしているの」
批判者からパワーを得て、熱狂的なファンからもパワーを得て、VOICE OF BACEPROT のスター性は間違いなく高まっています。最近、Tom Morello が3人の RATM のカバーを賞賛し、オリジナル曲も増え、海外ツアーにも目を向けています。「私たちはコーチェラに出演したいの」とAisyah は熱弁を振るいます。
31年前に始まったドイツの大規模な音楽祭、Wacken Open Air のステージに立ったインドネシアのバンドは、これまでにたった5組。しかし、来年9月には、VOICE OF BACEPROT がそこに加わり、その数はさらに増えることになります。
多くのインドネシアのメタル・ヘッズにとって、これは間違いなく誇らしいことであり、自国ではまだ有名になっていないに3人とっては夢のような出来事でしょう。しかし、この発表は、2014年の結成以来、ヒジャブを被ったイスラム教徒の女性がロックを演奏するのはふさわしくないとバンドに否定的な意見を投げかけてきた評論家たちの勢いを加速させました。彼女たちの技術やステージでの経験が不足しているために、世界的な WACKEN のステージに立つ資格がないと指摘する人もいれば、バンドが裏で取引をして、お金を払ってフェスティバルに出演しているとほのめかす人もいます。
探偵ではなくても、このような嘲笑や憶測には、昔ながらの性差別や保守主義、ロックは男の子(しかも悪魔崇拝者)だけの遊び場だという古臭い考えが染み付いていると推察することができるでしょう。
VOICE OF BACEPROT がフェスティバルで演奏するためにお金を払ったという噂については、Wacken Open Air が声明の中でしっかりと否定しています。
「ブッキング・チームのメンバーがテレビで彼女たちを見てヨーロッパのエージェントと知り合いになり、私たちのフェスティバルにおけるスロットを提供することにした。もちろん、W:O:A 2022での彼女たちのショーをとても楽しみにしているよ!」

VOICE OF BACEPROT が Wacken のステージに立つまでには、まだ1年以上の時間があります。それまでの間、トリオは技術を磨き、性差別主義者や保守的な嫌われ者に対する怒りを音楽にぶつけていきます。
「この問題には性差別がしっかりと根付いているわ。なぜなら、このような中傷者のほとんどは無知であるか、自分の発言がいかに性差別的であるかを知らないからね。でも、私たちはリラックスして、彼らを気にせず、音楽を作り続けることにしたのよ」
インドネシアには女性のロッカーは少なからず存在しますが、現在メインストリームで活躍している人はほとんどいません。当然、宗教的なスカーフをかぶってヘッドバンキングをするような人も。VOICE OF BACEPROT は、このような状況の中で “避雷針” となり、あらゆることの矢面に立ってきました。
Kurnia は、「中傷することは創造することよりも簡単で、だからこそ、多くの人が創造の代わりに嘲笑することを選ぶの。驚くことじゃないわ」と語ります。
ただし、幸いなことに彼女たちの本気度を目の当たりにした両親たちは、西ジャワ各地の音楽フェスティバルにブッキングされた後、やっと3人をサポートするようになりました。
「最初の演奏は学校のイベントで、お別れコンサートだったんだけど、両親が私たちの演奏を初めて見たの。私たちが通っていた学校は、かなり宗教色の強いイスラム教の学校で、みんなかなりショックを受けていたわね。それまで両親は、私たちがメタルをやることを明確に支持したり、禁止したりしなかったの。心の中では、私たちのことを誇りに思ってくれていると思っていたわ。少し心配だったかもしれないけど。でも、最初のライブの後、両親は私たちがメタルを演奏することを禁止したの。でも私たちは続けたし、あまり深く考えなかったわね。一年秘密に練習していたわ。辞めようとか、一歩退こうとか、そんなことは考えなかった。時が経つにつれ、両親やコミュニティからのサポートがないことが、むしろ私たちの精神的な強さや、悪影響を与えないことを証明するための決意を固めるのに、大きな役割を果たしていることに気づいたのよ」
彼女たちの限りない情熱は、歌詞やインタビューで語られる人生哲学の自然な延長線上にあるのかもしれません。Kurnia は、意欲的な女性メタル・ミュージシャンへのアドバイスを求められると、「勇気を持って、強くなること」と淡々と答えます。Aisyah は、田舎の小学生から世界的なメタル・アーティストになるまでの7年間の道のりを表す言葉として、「大きな夢を持つことを恐れないで」と目を輝かせました。
「私たちの音楽のメッセージは、自由について。女性としての自立、人間としての自立、そして人間の価値観や人間性についても多く書いているわ。私たちがやろうとしているのは、伝統を継承し、自分の意見を述べ、自分たちの音楽を他の人々と共有することなの」

参考文献: NME: Voice of Baceprot: Indonesian metal trio forge ahead to Wacken Open Air in defiance of sexist mudslinging

LOUDERSOUND: VoP Are The Metal Band That World Need Right Now

REVOLVER: How Indonesian Muslim Trio Found

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MELTED BODIES : ENJOY YOURSELF】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MELTED BODIES !!

“I Have Used Raw Meat In a Lot Of Pieces For a Number Of Years. It Seems To Evoke Both a Beautiful Yet Uncomfortable Reaction Which I Am Attracted To. I Think Its a Wonderful Medium To Work With.”

DISC REVIEW “ENJOY YOURSELF”

「俺は何年もの間、多くの作品に生肉を使用してきた。美しいけれど不快な反応も、両方を呼び起こすようだ。だからこそ魅了されているんだが。この作品はその2つが共に喚起される、素晴らしい触媒だと思う」
かつては固体だった肉の塊が、次にドロドロの液体になり、それから再びほとんど固体になったものが合体して、床の上で蠢き、目が皮膚の表面に浮かんで動き回る、そんなジョン・カーペンター 「遊星からの物体X」 のように気が遠くなるようなイメージを喚起させる「溶けた死体」のインパクト。
そのバンド名を体現するように、彼らは自らを「多様なアートを徐々にブレンドしたり、一つの塊にまとめたりすること。」と定義しました。
「David Lynch を挙げてくれて嬉しいね。意図的ではないにせよ、リンチの視覚的なテーマをいくつか活用していると思いたいね。無意識のうちに忍び込んでいるように思えるね。」
ただ、ミュージシャンと記すだけでは、MELTED BODIES のすべてを表すことは不可能です。生肉の造形でアートワークを描きグロテスクの中に美しさを挿入しながら、当たり前のように資本主義の文化に染み付いた大量消費の意味を問い、”Ad People” の MV では、インターネットの力を蒸留し、毎日提供されるSNSの自我と自己嫌悪をスクリーンでリスナーに反射させてみせるのですから。猟奇集団の目的は “魅せること” と “混乱させること”。
「思うに俺たちがいかに一般的で表面的なプラスチックになりつつあるかということだよね。特にソーシャルメディアを介して、同僚や知人、さらには家族に自分自身を提示するときはね。」
あるべき姿を失ったドロドロの死体にとって、世界に根付く陳腐で愚かなな常識を疑うことなど造作もありません。女性が警官たちを次々と家に招き入れ食べてしまう “Eat Cops” で、マイノリティの人々に対する国家による絶え間ない暴力をジョークに隠喩し、”Funny Commercials (And the Five Week Migraine) ではポップなパーティーキャノンで医療保険の欺瞞を叫び、さらに “The Abbot Kinney Pedophiles” では笑い話の中で 「金持ちや甘やかされた奴らの喉を切り裂け!」と目まぐるしい歌唱でアジテート。
すべての営利目的で表面的で偽善的な地獄絵図を、皮肉りながら笑い飛ばすのが彼らのやり方。そうしてキャッチーな罠でリスナーの心に疑念を抱かせるのです。
「1つ言えるのは、消費主義、後期資本主義といった表面的なものをテーマにした作品の多くは、カリフォルニアを中心とした、少なくともアメリカを中心としたものであることは間違いないと思う。」
その噛みつくようなしかし明るさを内包した音楽の塊には、世界で最も多様でエリートとサブカルチャーが蔓延るカリフォルニアという出自が少なからず影響しています。音楽的に、同郷の SYSTEM OF A DOWN や FAITH NO MORE の Mike Patton と比較されることの多い彼らですが、皮肉の中にパーティーを織り込む “Enjoy Yourself” の精神は特別LAの風景を投影しているようにも思えます。
“The Rat” が象徴するように、シンセサイザーのカラフルを武器にカリフォルニアの先達を咀嚼したオルタナティブとノイズの化け物は、そうして偽の幸福や不条理をパーティーで一つ一つ破壊していくのです。時に、シンセウェーブにポストパンク、LAメタルまで想起させるレトロフューチャーな世界観が映像を脳内まで誘う不思議。
結局、”Enjoy Yourself” とは、様々な困難を乗り越えながら、それでも自分自身を楽しむこと。ユニークな個性を曝け出し、本音を臆さず語ること。そうして彼らはその哲学を、視覚的、聴覚的な真の芸術家としてリスナーに訴えかけるのです。その姿はもはやミュージシャンというよりも、メディアでありインフルエンサーなのかもしれませんね。
今回弊誌では、MELTED BODIES にインタビューを行うことができました。「俺たちの曲の中にあるシニカルなテーマを少しでも楽しく感じさせるために、カオスなパーティーのエネルギーを好む傾向があるんだろうな。パーティーも大好きだし、いろんなところから影響を受けているから、楽しい音楽を作ろうとしているんだと思う。」 どうぞ!!

MELTED BODIES “ENJOY YOURSELF” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + COVER STOEY 【DEFTONES : OHMS】


COVER STORY : DEFTONES “OHMS”

“I Set Up a Record Player In The Media Room, Which Has Forced Me And My Family To Listen To Records And Start Them From The Beginning And Listen To The Whole Thing, Through The Experience. I’m Trying To Get My Daughter, Who’s 15, Into That Mindset Of Listening To Records. Everybody Right Now Is Spoon-fed Singles, But Listening To Records Is an Experience.”

VOLT = 1 AMPERE × 1 OHM

「MESHUGGAH のように聴こえるかって?いやそこまでヘヴィーじゃないよ。ツーバス祭りかって?そんなの俺たちがやったことあるかい? 怒ってるかって?ああ、怒っている部分もあるよ。だけど、俺たちが全編怒っているだけのレコードを出したことがあったかい?」
ヘヴィーな音楽に繊細で色とりどりのテクスチャーを織り込むのが DEFTONES 不変のやり方です。
「俺は大のヘヴィーメタルファンとは言えない。良い音楽が好きなんだ。どんな音楽でも好きだよ。良い曲があればジャンルは問わないね。俺たちはオープンマインドなんだ。何か一つのジャンルに収まる必要はない。むしろそうであるべきではないと思う。人それぞれでいいんじゃないかな。CANNIVAL CORPSE を聴きたければ聴けばいい。でも俺たちは皆色々な音楽を聴いているから、ある日突然ニッチなものに当てはまらなければならないと決めてしまうと、自分自身を壁に閉じ込めることになってしまうと思うんだ。」
実際、Twitch の DJ 配信で Chino は、N.W.A, Toro y Moi, Brian Eno, BLUT AUS NORD など自らのエクレクティックな趣向を明かしています。
「電子音楽、実験的なもが好きで、何年もヴァイナルを集めているんだ。新しい家でメディアルームにレコードプレーヤーを設置したんだけど、そのおかげで俺も家族もレコードを最初から聴き始めて、通して全部聴くことを余儀なくされているんだ。15歳になる娘に、レコードを聴くというマインドセットを身につけさせようとしているんだよ。今の人はみんなシングルばかり聴いているけど、レコードを聴くのは経験なんだよね。
年寄りの説教みたいに聞こえるかもしれないけど、俺にとってはとても意味のあることなんだ。娘を部屋に呼び、”何のレコードかわからなくてもいいから、一枚選んでみてよ” ってね。この間彼女は TORTOISE というバンドを選んだ。ドラマー2人の6人組で、全てインストゥルメンタルだった。”なぜそれを選んだの?”と聞いたら 彼女は “カバーが気に入ったから” と答えたね。それからそのアルバムを聴いたんだ。
昔はそういう風に音楽を選んでいたんだよ。レコード屋に行って、レコードを見て、かっこよさそうなものがあれば手に入れていた。そして、自分で稼いだお金を使って、レコードを好きになっていったんだ。その精神を自分の中に持ち続けて、若い人たちに伝えようとしているのさ。」

時にヘヴィーで、時に怒り、時にファストで、時にカモメが鳴くレコード。
「カモメの鳴き声を入れたいと思ってたんだ。Don Henley の “Boys of Summer” にはカモメの鳴き声が聴こえるセクションがあって、不気味な気持ちになったものさ。」
カモメの鳴き声を入れようと決めた時、すでに “Pompeji” は完成した後でした。しかし、ビーチの捕食者から12分の音声を入手した彼らは、波の音と鳴き声のサウンドスケープを忍ばせることにまんまと成功したのです。
「こうすれば楽曲の設定が変えられるし、どこかへ連れて行ってくれるよね。俺らのレコードにはいつだって小さな動物や昆虫が隠れているから (笑)」
DEFTONES 9枚目のアルバム “Ohms” に戻ってきたのは、動物の鳴き声だけではありません。”Adrenaline”, “Around The Fur”, “White Pony”, “Deftones” のプロデューサーである Terry Date も久々の帰還を果たしました。
「彼はとても忍耐強い人だけど、挑戦するスペースを与えてくれるんだ。たぶん、一緒に仕事をしていて心地よく感じない人とやっていると、スタジオに入って何かをしなければならないって感じになってしまうんだろうね。Terry と一緒なら何かをやり遂げることができる。うまくいかないかもしれないことをやってみても、俺が立ち止まって「よし、今度は別の視点から見てみよう」と言うまでは、その道を歩ませてくれるんだ。 」
Terry と製作したうちの1枚、”White Pony” は今年20周年を迎えました。昨今、2000年にリリースされたレコードを当時見下していたメディアやライターが Nu-metal について再評価の言葉を投げかけています。
「彼らは常に見下していたと思う。聴くことに罪悪感すら感じていたよね。僕らのことではないと思うけど、間違いなく LIMP BIZKIT とかはそうだよね。当時のリスナーはそれが馬鹿げていることを知っていた。振り返ってみると “あんな音楽を聞いていたなんて信じられない” とかじゃなくて “あの頃はバカだと分かっていても好きだった”ってことさ。それでいいんだよ。ダサいと思って恥ずかしがっちゃだめだよ。好きなものを好きになればいい。誰が気にするんだ?偉そうにするなよ。何の問題もないよ。」

Google によると、”Ohms” とは “導体の2点間の電気抵抗” と定義されています。Chino にとってこの言葉はどのような意味を持つのでしょう?
「ものごとのバランスと極性のことだよ。俺はいつも DEFTONES を陰と陽のバンドだと表現してきた。俺らが作る音楽、歌詞にはいつもそれが並列されていて、そこから美しさが生まれるんだよ。」
美しさといえば、ドラマーの Abe Cunningham は以前、アルバム “White Pony” を自由に走る美しい馬のイメージだと語っていました。”Ohms” のイメージは何なんでしょう?
「サマースカッシュかレモンキューカンバーだな。まあ動物で言えば仔馬だな。新しい野生の仔馬さ。」
タイトルソング “Ohms” を語る時、Chino は興奮を隠せません。
「最初に書かれたものの一つさ。Stephen が3年前にデモを送ってくれてね。彼のメールを開くのが大好きなんだよ。いつも興奮させられるからね。他のメンバーは、この曲の陽気な響きに少し困惑していたけれど。」
そうしてリスナーは、ノイズの嵐から Chino Moreno の言葉を受け取ります。”俺たちは過去というデブリに囲まれて生きている”。それはフロントマンがレコードにおいて、そしてレコード以外でも最近よく口にする言葉です。
とは言え、エクストリームシーンで最もリスペクトを受ける言葉の達人は、しかし歌詞を書くことにそれほど拘りがありません。
「まあ歌詞は、日記のかわりに、より詩的な方法で考えを書き留めているって感じかな。恥ずかしいとまでは言わないけど、簡単じゃないよ。一番好きじゃないことかな。(笑) 言いたいことがどれだけあるのかわからず、止めることもよくあるね。あとはより匿名性の高いものに置き換えてプレッシャーを和らげたりとか。」
Chino にとって、曖昧であることはソングライティングにおいて重要な要素です。常に見えていながら、手の届かない場所にいる、自分自身をカモフラージュする能力。それこそが長年に渡り、Chino にミステリアスな雰囲気を付与してきました。メンバーの Abe にしても自分の人生をかけて演奏してきた楽曲が何についてなのか、分かっていないこともあります。
「歌詞の意味を時々彼に尋ねるんだ。彼はうーん、どうだろう。わからないけどそうなのかな?ってはぐらかすんだ。まあでも、長い間一緒にいるからね。Chino はいつも人生に起こったことを共有したいと思っているんだよ。歌詞は自分から出てきたものだ。内省的というか。だから、最悪な出来事でも、毎晩それを歌えるのはとても幸せなことなんだよ。そうやって悪魔を追い払うことができるんだから。」

たしかに、Abe の内省的という指摘は今回のレコードに強く当てはまるのかもしれませんね。”Koi No Yokan” のコズミックなイメージは近かったにしても、DEFTONES はコンセプトアルバムを作りません。それでも、”Ohms” の楽曲を分解すれば、特定の言葉たちが何度か登場することに気づくはずです。
「自分自身と向き合いながら多くの経験をした。これまで生きたいように生きてきたから、内省的なことをする必要があったんだ。セラピーを受けたんだ。俺はいつも、自分の個人的な感情を他人に話す必要があるのかと感じていた。でも、自分やバンドのことを知らない人と話すのは全く異なる経験になったね。子供の頃からの自分をさらけ出して、なぜ、どうやって今の自分になったのか理解することが出来たからね。」
Chino は毎日朝になるとセラピーに向かい、何週間もかけて自分の人生の物語を辿って行きました。時折疲労も感じましたが、価値のある疲れだったようです。
「良い結果でも悪い結果でも、なぜ自分が人生でその決断を下してきたのか気がついたんだ。解明するのはクールなことだったよ。怖いことでもあるけど、間違いなく健全なことさ。だからこのアルバムのテーマのうちいくつかは、人生で行った選択を認識して、満足いかない状況をどうやって変えていくのか考えられるようになることなんだ。」
恵まれた人生に思えますが、Chino の不満とは何だったのでしょう?
「まあ多くの人が対処していることだと思うけど、ある時に不幸になったり、悲しかったり、寂しかったり、怒ったりすると、どこかしら頭が変になることがあってね。これまでに書いてきた曲を見てもらえればわかると思うけど、僕の感情はいつもどこにだってありえるんだ(笑)。冷静さを保てないことが多くて、親しい友人や家族には嫌な顔をすることもある。だけどそれは彼らに怒っているのではなく、もっとうまくやれるとわかっている自分に怒っているのかもしれないよね。あまり具体的には言いたくないけど、決断を下しても気分が良くならないとしたら、それをどうやって変えるの? 自分に責任を持って、自分を見つめ直すんだよ。多くの人がそうする必要があるけれど、簡単なことじゃないよね。だけどそうやって少しずつ学んでいくんだ。そうすれば少しずつ調整ができるようになる。次の日には少し幸せな気分で 目が覚めるかもしれないよ。」

オープニング曲 “Genesis” で Chino は、”I finally achieve balance” “ついに心のバランスを保つことに成功した” と言っています。もちろん、Chino の歌詞は必ずしも文字通りの意味ではないですし、解釈の余地はありますが。
「あの歌詞はかなり文字通りの表現だった。正直に言うと、完全なバランスが取れたわけではないんだ。だけどバランスを感じる瞬間があるんだよ。それに近い日もあれば、そうでない日もある。 ある日はそれから何マイルも離れていたりしてね。でも、それは時代に不満を感じているということでもあるんだ。すべてが二極化しすぎているよね。誰もが意見を持っていて、フェンス越しに互いに吠え合っていている。頭がおかしくなるよ。どちらか一方を選びたくない、バランスを取りたい。何が言いたいかわかる? この曲もそれを表していると思う。」
“Ohms” とは Chino Moreno の再生なのでしょうか?
「文字通りそうだとは言わないよ。今の自分を以前とは全くの別人だなんて思っていないからね。未だにかなり以前の Chino Moreno を感じているよ。だけど同時に、ある種の変容も感じるんだ。」
たしかに、2020年の DEFTONES のレコードには、変わったものもあれば変わらないものもあります。PANTER や SLAYER を手がけた Terry Date もかつて若き DEFTONES にはすっかり手を焼いていました。有名なスタジオでの映像には、もしゃもしゃナッツを食べてニヤニヤする Chino Moreno, ドミノで遊びながらニヤニヤする Stephen Carpenter, 雑誌を読みながらニヤニヤする Frank Delgado を前に、憔悴しきって言葉を発する Terry の姿が残っています。
「オマエら、あと2,3テイクやれたら、ナッツを食べてドミノをやって雑誌を読んだらいいさ。だけど俺たちはいくつか問題を解決しなきゃならないよ…」
彼らの “遅れることに長けている” 能力は現在も変わっていません。Abe は今回も Terry を悩ませたことを認めます。
「毎回 Terry を辞めさせるんだ。それが俺たちのやり方なんだ。(笑) 以前の3枚でも辞めているし、今回も辞めそうになった。怒らせたくはないんだけどね。唇を噛んで、眼鏡が曇り出すからわかるんだよ (笑)。いつも目標はTDを辞めさせよう!さ。」

そんなジョークとは裏腹に、DEFTONES は “Ohms” に並々ならぬ情熱を注いでいます。LA の Henson と Trainwreck Studios でレコーディングされた作品には “コーヒー、ジュース、ビール、テキーラ、小便、笑い” を少なめに12曲を制作して10曲が収録されたのです。Abe は嘯きます。
「よく、このアルバムのために6000曲書いたなんて言うバンドがいるけど、ウソばっかりだ (笑)。12曲で充分だよ。」
“Gore” リリース時に、Stephen が「このアルバムで誇れるのは、ただギターを弾いていることだけだ。」と語り論争を引き起こしたことは記憶に新しいはずです。そこから DEFTONES は文字通り学んでいます。Chino が説明します。
「過去に誰かが楽しめなかったレコードが存在するのは確かさ。でも同じメンバーで何枚もアルバムを作るなら全員が参加するべきだよ。俺たちは厳しい過去の経験から学んだんだ。”Gore” で Stephen はあまりレコードにかかわっていないと認めていた。だけどそれは俺たちが彼を必要としていなかったからではない。俺の好きな DEFTONES の楽曲のアイデアは彼が率先して作ったものだしね。誤解のないように言うけど、Stephen は “Gore” にかかわっていたよ。”Phantom Bride” は歌詞とドラム以外すべて彼が書いている。ただ、アルバムに完全に関与していなかっただけで、俺らの曲の方がいいとか思ったわけじゃないんだよ。そうじゃなくて、彼はあの頃何かを乗り越えようとしていたんだ。レコードが完成したあと、少しだけそのことについて話してくれたんだけどね。お前は俺の兄弟だ。全部分かってるからと伝えたけどね。とにかく、重要なのは全員がかかわって、全員がエキサイトすることなんだ。」
“Ohms” は全員がかかわって、全員がエキサイトするレコードなのでしょうか?
「まちがいなくね。Stephen が送ってきた最初のタイトルソングのデモなんて12分もあったんだから(笑)。」
一方で、Abe はすでに次のレコードについて考えるほどこのバンドに夢中です。
「俺はまだ小さな子供なんだよ。また次のレコードを作れることに興奮してるんだから。」
次のレコードを作れること。Abe が常に胸に秘める感謝の理由は想像に難くありません。”Ohms” は正式には DEFTONES 9枚目のアルバムですが、実際は10枚目の作品とも言えます。2013年、ベーシストの Chi Cheng が交通事故で昏睡状態に陥り、命を落とすという悲劇に見舞われたため、製作を断念した歴史があるからです。DEFTONES は再び Terry Date の部屋へと帰ってきました。Chi を除いて…
「彼はいつも俺らと共にある。毎日考えているよ。インスピレーションの源だ。彼はいつもそばにいる。」

メタル、ハードコア、ヒップホップ。ターンテーブルやプログラミングを得意とする Frank Delgado, パンクバンドでプレイしていた Sergio Vega とメンバーの得意分野が分かれることも DEFTONES の強みでしょう。
「レコードを作ろうと思うのは、一人一人が個別に、そして全体的にインスピレーションを受けられるかどうかなんだ。何年もかけてわかったことだけど、それが本当に大切な瞬間なんだよね。 みんなで集まって、誰かが何か音を出し、他のメンバーがそれに反応してさらに何か音を出し、1分後にはその音が1時間前には存在していなかった曲に変わっていくんだよ。そうやって有機的に起こるのが一番いいんだけどね。いつもそうなるとは限らないけどね。 たまに集まって何時間も話し合っても何も出てこないこともあるし、出てきても何も浮かばないこともある。レコードを作るために集まって、30曲書いて10曲に絞るなんてことはしない。文字通り10曲書くんだ。アイデアを出して、途中でスチームが切れたら、”よし、やり直そう “ということになる。それが僕らのやり方なんだよ。」
DEFTONES にとって唯一音楽よりも大事なものは、それを作っているメンバーたちの絆です。
「バカバカしくて子供じみているかもしれないけど、俺たちにとってはハングアップすることがすべてなんだ。一日中くだらない話ばかりしているよ。レコードを作るためだけにレコードを作ることはないね。好きだから作っているんだ。遊びたいし、騒ぐのが好きだ。そのノイズの中から楽曲が生まれるんだよ。」
以前からそうだったように、これからもきっとそうでしょう。

参考文献: KERRANG!THE SECRETS BEHIND DEFTONES’ NEW ALBUM, OHMS: INSIDE THE STUDIO FOR THE FIRST TIME

VULTURE : Deftones Have (Almost) Found Balance

日本盤のご購入はこちら。WARNER MUSIC JAPAN

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CONFESS : EAT WHAT YOU KILL】BLOOD & PRIDE OF IRANIAN METAL


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKAN KHOSRAVI OF CONFESS !!

ALL PICS BY Camilla Therese

“Of Course Harsh Sentences Weren’t Convenient But I Took Pride For That! Cause It Meant That My Music And My Lyrics Are So Strong And Truthful That They Could Scare a Whole Regime. But At The Same Time It Was Stepping To The World Of Unknowns.”

GIVE BLOOD FOR THE MUSIC

「ポジティブな話をしようじゃないか。もちろん、過去も重要だけど新たなアルバム、新たなツアー、未来について話したいんだ。」
イランで不敬罪に問われノルウェーへと亡命したメタルソルジャー。CONFESS の魂 Nikan Khosravi とのコンタクトはそうして始まりました。Nikan と同様の状況に立たされた時、それでもあなたは過去よりも未来を見つめ、希望を捨てずにいられるでしょうか?
「被告を懲役12年、鞭打ち74回の刑に処す。」2017年、テヘランの裁判官は、冒涜的な音楽を作ったとして政権に起訴されたイランの有名メタルデュオ、CONFESS 2人のメンバーに判決を言い渡しました。特にシンガーでリードギタリスト Nikan “Siyanor” Khosravi(27歳)は、”最高指導者と大統領を侮辱した”、”反体制的な歌詞と侮辱的な内容を含む音楽を制作し世論を混乱させた”、”野党メディアのインタビューに参加した” として非常に重い量刑を受けることとなったのです。
“告白” と題されたデュオの “違法” なレパートリーは、イラン政府の反体制派に対する極端な不寛容さを狙撃する “Encase Your Gun “や、”ファック” をリベラルに使用した “Painter of Pain”、刑務所での地獄を綴る “Evin”など。
2014年、”In Pursuit of Dreams” をリリースした彼らはアルバムが出た数日後、イスラム革命防衛隊(IRGC)のエージェントに逮捕されました。罪状は? “冒涜、悪魔崇拝的なメタルやロックを扱う違法なアンダーグラウンドレーベルの結成と運営、反宗教的、無神論的、政治的、無政府主義的な歌詞を書いたこと”。
2人はイラン最凶の刑務所エヴィンに送還され、10日間独房で過ごした後、一般棟に移されました。解放されたのはそれから数ヶ月後、Nikan の両親が2人の保釈金として自宅を担保に差し出したのです。そして数年後、彼らは裁判にかけられ冒頭の判決が読み上げられました。
「実は最初は強制的に出国させられたんだ!そしてもう一つの理由は、目を覚まさせる率直な暴言というか意見を吐いたアーティストという理由だけで、10年以上も刑務所にいるのはフェアではないと感じたからだよ。どんなやり方でも、僕は刑務所の外にいた方が多くの人の役に立つことができると感じていたしね。」
しかし、センセーショナルな判決を受けたメタル世界の心配はある意味杞憂に終わりました。イランの政権も世界が監視する中で、この言論信教の自由に対する侵害をこれ以上大ごとにする気はなく、政権に牙を剥く狼への抑止力として象徴的な量刑を得られればそれでよかったのかもしれません。
そもそも、Nikan も語っているように、イランではたしかにヘヴィーメタルは禁止された違法な音楽ですが、それでもライブの許可が降りるバンドは存在しているのです。つまり、背教的で違法なメタル代表として迫害を受けたように思われた CONFESS ですが、その実は判決の通り政権への反抗と批判こそが真の迫害理由だったのでしょう。政権に擦り寄るか否かで決定される天国と地獄は、たしかに神の所業ではありません。
ただ、どちらにしても、イランが国民の表現の自由を厳しく制限していることは明らかです。ジャーナリストは今でも逮捕され続けていますし、公共の場で踊ったり顔を隠さなかっただけの女性も酷い罰を受けているのですから。つまり、抑圧的なイランの現政権にとって、芸術を通して自己や思想を表現する CONFESS のようなアーティストは格好の標的だったのです。
「僕は逮捕されたことを誇りに思っていたんだよ! なぜならそれは、僕の音楽と歌詞が非常に強力で真実味があることを意味していたからね。政権全体を脅かすことができたんだから。でも同時に、それは未知の世界に足を踏み入れることでもあったんだ。 」
そんなある種のスケープゴートとされた Nikan ですが、自らのアートが真実で政権に脅威を与えたことをむしろ誇りに思っていました。人生は常にポジティブであれ。そんな Nikan の哲学は、偶然にも彼を迫害されるアーティストの移住を支援する ICORN によってメタルの聖地ノルウェーへと導くことになったのです。
「僕らは今までスラッシュ、グルーヴ、デス、メタルコア、ニューメタル、ハードコアなどと呼ばれてきたけど、すべてを書いている僕自身でも自分たちが何者なのかよくわからないし、正直なところ何のレッテルを貼るべきなのかもわかっていないんだ。今でも新たな場所に行くための新たな要素を探しているからね!どんな楽曲でも、自分をより良く表現するための新しい “追加の” サウンドを今も探しているんだよ。」
ノルウェーで新たなメンバーを加えた Nikan は各メタル誌にて絶賛を受けた新曲 “Eat What You Kill” をリリース。激動のストーリーだけでなく、楽曲にもこれほど説得力を持たせられるのが CONFESS の凄みでしょう。SLIPKNOT も HATEBREED も PANTERA もすべてぶちこんだこの激音の黒溜まりはあまりに強烈。常に前を向き、新たな光を追い求める無神論者。血と誇り、そして文字通り人生すべてをかけたニューアルバム “Revenge At All Costs” の登場は目前です。すべてを賭けた復讐は、きっと過去を完全に断ち切る決意の叫び。
「僕が人間として2015年から今日まで経験してきた全てのことを書いていると言えるね。その期間に起こった全てのこと、会った全ての人について語っているんだ。このアルバムは間違いなく物語を語るアルバムであり、もちろん政治的なアルバムでもあるよ。」独占インタビュー。どうぞ!!

CONFESS “EAT WHAT YOU KILL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STATIC-X : PROJECT REGENERATION VOL.1】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Xer0 OF STATIC-X !!

“I Don’t Want My Face To Be The Face Of Static-X. That Seems Very Wrong. I Don’t Want My Name To Be At The Center. Xer0 Is a Figure, a Character, An Entity. I Believe That This Serves Static-X The Best. My Goal Has Always Been To Do What Is Best For Static-X.”

DISC REVIEW “PROJECT REGENERATION VOL.1”

「このアルバムが実際に出るまで、誰も STATIC-X を2020年に蘇らせることが可能だなんて思ってもいなかったよね。だけど実際、その不可能が実現したんだよ。」
悲劇の灰から立ち昇る再生の紫煙。予期せぬ喪失に吹き込まれる新たな生命。インダストリアルメタルに革命をもたらした20年の後、STATIC-X は Wayne Static の悲劇的な死とともに、永遠の沈黙に包まれる運命だと誰もが思っていました。
しかし、傑作 “Wisconsin Death Trip” を創成したオリジナルメンバーの団結、Wayne Static の遺した遺産、そして Xer0 という Wayne の魂を宿す亡霊によって、STATIC-X は Nu-metal/インダストリアルメタルの象徴に恥じない新たな一歩を踏み出したのです。
「僕の顔が STATIC-X の顔になるのは嫌だったからね。それは途方もなく間違ったことに思えたよ。自分の名前を中心にしたくないんだ。Xer0 は姿であり、キャラクターであり、存在である。 それが一番 STATIC-X のためになると思っているんだよ。僕の目標は常に STATIC-X にベストなことをすることなんだ。」
この世から姿を消したにもかかわらず、STATIC-X は今でも Wayne Static のプロジェクトであることは明らかです。それほどまでに、彼のビッグロックボイスとインダストリアルエナジー、そして重力に逆らったヘアスタイルのカリスマ性は際立っていました。
実際、SLIPKNOT, SYSTEM OF A DOWN, KORN, COAL CHAMBER といったメタルの新たな波が台頭し花開いた90年代後半、インダストリアルを基調にヘヴィーなディスコトリップを展開する STATIC-X の “Evil Disco” は完膚なきまでにあの時流へ符号していました。
そして、個性際立つ Nu-metal サーカスの中でも、フレディー・クルーガーの出で立ちで逆重力ヘアを纏い、映画と漫画のキャラクターを行き来しながら、共産主義から薬物乱用まで吐き綴る Wayne の存在感は遂に “Wisconsin Death Trip” のセールスをミリオンにまで導いたのです。
ゆえに、プロデューサー、パフォーマー、そして伝説の声を補う存在としてバンドに加わった Xer0 は文字通り、自らの存在感をゼロとして Wayne のマスクを被り STATIC-X の一部分に成りきりました。
「1999年の、STATIC-X お馴染みのビジュアル的な存在感を表現したかったんだよ。だからこそ毎晩スパイクヘアにしたんだ。ファンには、1999年に戻ったかのような、邪悪で斬新なタイムワープをしているような気分になってもらいたかったんだよ。そのためには、僕の “顔がない” ことがどうしても必要だったんだ。」
傑作の20周年を祝う旅路を終えた後、STATIC-X は “Project Regeneration Vol.1” と名付けられたプロジェクトに着手し、万難を排して新たなアルバムを世界へと放ちました。それはまさしく “再生” の道程。
Wayne の遺したデモテープを発掘し、Xer0 の声と手術でボーカルラインを繋ぎ、Tony, Ken, Koichi の偉大なトライアングラーは新たにレコーディングを行い楽曲に命を吹き込みます。完成したレコードは、当然ながらパッチワークの域を超えたノスタルジーとエナジーのダイナミックな泉でした。
チャンキーでメソジカルなビート、不気味なダウンチューンに近年再評価を受けつつあるアグロテック。MINISTRY の Al Jourgensen まで巻き込んで、これほどダンスとヘッドバンキングを両立させる音世界は彼らにしか作り得ない魔窟でしょう。Nu-Metal のダークサイドを投影した邪悪で斬新なディスコの復活です。
「多くの人が知っていると思っていると思うけど、実際には誰も何も「知っている」人はいないんだよ。憶測はたくさんあるけど、僕はそのどれにも興味は無いよ。もし僕が自分の正体を明かすことに決めたら、自分のやり方でそうするだろうね。自分がその権利を得たと信じているから。」
今回弊誌では、Xer0 にインタビューを行うことができました。一部では DOPE の鬼才 Edsel Dope ではないかとも囁かれていますが、どうなんでしょう。「Wayne は僕の友人だった。そして何より、アーティストとして、僕が信じられないほどのリスペクトを捧げている人物さ。」 どうぞ!!

STATIC-X “PROJECT REGENERATION VOL.1”: 9.9/10

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