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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ESOCTRILIHUM :DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH】


COVER STORY : ESOCTRILIHUM “DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH”

“It’s a Kantele, a Finnish Instrument. This Stringed Instrument Is Really Incredible, Because There Is Clearly a Mystical Character In The Frequencies Emitted By This Instrument! Actually, I Discovered The Kantele In a Very Surprising Way.”

DEMONS, DESPAIR, AND MADNESS

ESOCTRILIHUM は、今日活動しているブラックメタル・プロジェクトの中でも最も特異で、クリエイティブで、多作なプロジェクトのひとつへと急速に成長を遂げました。6枚のフルアルバムと1枚のEP を4年の間にリリースし、このフランスのワンマン・ユニットは、冷酷でありながらエモーショナルで奇々怪界なメタルの百鬼夜行を続けています。
ESOCTRILIHUM は、Asthâghul の不気味で無限とも思える野心と創造性でメタル・アンダーグラウンド内部で一手に賞賛を集めています。例えば、DIMMU BORGIR や BAL-SAGOTH のような90年代のシンフォニック・ブラックメタルの華やかなゴージャスを、生々しいローファイの攻撃で表現するような、例えば、OPETH に端を発するプログレッシブな知性を多種多様なジャンルとアーティストで細切れにして煮込んだような。そんな唯一無二の音の審美は、奇妙に魅力的なアートワークたちに吸い込まれ、リスナーの後退を許さなくします。
根底にキャッチーさとフックを常に配する Asthâghul の魅力的なリフ・スタイルは、1970年代と1980年代のクラシック・メタルから明らかにヒントを得ています。そんな謎めいたイヤーキャンディーに恐ろしく巨大なドラムとベースのインタープレイが加わり、彼のプロジェクトは堂々たるオーラと強烈な印象を纏うのです。そんな混沌とダイナミズム、 サウンドテクスチャーの申し子 Asthâghul が、はじめて買ったレコードは奇しくも OPETH の “Blackwater Park” でした。
「とても特別なアルバムで、忘れられない思い出があるよ。ある種の苦悩があり、明らかに本物の何かを反映している。子供の頃に最もよく聞いたアルバムは他には、PARADISE LOST の “One Second”, Björkの “Debut”, CATAMENIA の “Halls Of Frozen North” だろうな。この3枚は最高の思い出だよ」
一人ですべてを手がける Asthâghul。音楽制作(ミキシング、プロダクション、パフォーマンス)について最も勉強になったアルバムは何だったのでしょう?
「長年の間に直観的に学んだ技術もある。例えば、私は常に自分の無意識から何かを回収することで、自分自身の宇宙を作り出そうとしてきたからね。ただ、もし、2枚のアルバムを選ぶとしたら、GOJIRA の “The Link” と、SHAPE OF DESPAIR の”Illusion’s Play” だろうな。この2枚のアルバムは、私にとって特別なものだよ。”Illusion’s Play” にはたくさんのメランコリーと悲しみが詰まっている。このアルバムをどれだけ愛しているかを語る言葉はないけれど、全体のアトモスフィアが多くの感情を呼び起こし、その感情は永遠に私の中に刻まれることだろうね。私たちを心の奥底に連れて行き、失われた感情を呼び覚ましてくれる音楽だ。”The Link” については、この明らかに非典型的な側面が私は好きなんだ。GOJIRA は、壮大なアバンギャルド・メタル作品の中に、多くの影響をミックスしている。 非常に実験的であり、テクニカルでもあるよね。メロディーは、時に拷問のようで、時に非常に柔軟だ。 彼らは常に、パワーを失わないギターテクニックを重要視しているからね」
最近最も衝撃を受けたのは T.O.M.B. の “Fury Nocturnus” です。
「非常にパワフルな暗黒の流れを生み出しているアルバムだね。音楽を聴くという単純な事実が、非常に暗い存在を引き寄せ、呼び起こすと言ってもいい。すべての曲は、非常に謎めいていて、しかし非常に明白な何かへの頌歌となっている。私はこういった二面性がとても好きなんだ。こういった音楽が私たちの精神に与える影響を過小評価してはいけないよ。この作品はダーク・ミュージックの傑作だね。この種の傑作は、別の次元への扉を開く。マスターの波動は、複雑でユニークな魔法の音システムを作ることができる」
レビューを気にすることはあるのでしょうか?
「好きなアーティストのレビューを気にしたことはない。アルバムをとても気に入ったときは、インターネット上のネガティブなレビューを気にすることはないし、他人が私の意見を壊すこともない。LEVIATHAN の “Massive Conspiracy Against All Life” のようなアルバムだよ。私にとって、このアルバムは真の宝石で、贈り物。とにかく素晴らしいねこれほどまでに聴き込んだアルバムは他にないよ。プロダクションはこのプロジェクトのメンタリティを反映していて、すべてが本物。憎しみ、痛み、絶望があり、それらがとてもうまく混ざり合っている。このアルバムは過小評価されているね。ある曲が文脈から外れていると言う人もいるけど、私にとっては全くの誤りだね。全ての曲がまとまっていて、非常に特殊な世界に対応しているよ」

メタルを奏でる必然性についてはどう考えているのでしょうか?
「ブラックメタルとの相性については、説明するのが少し難しいんだけど、私が悪魔や密教に惹かれていたことがすべての始まりだったね。私は常に邪悪なものを好んでいたから、ブラックメタルとの出会いで、私の音楽的指向が明らかになったんだ。だけど、今日の私には異なるビジョンがあって、私の人生もこのプロジェクトを始めた頃とは異なっている。ただし、私の嗜好は常に不明瞭なものに向けられているがね。私がこの種の音楽に惹かれたのは、ごく自然なことだよ。というのも、暗闇というのは常に私が経験したい側面だったから。実際、ESOCTRILIHUM の前には、バンドで演奏したことはなかったんだけど、ファーストアルバム “Mystic Echo From A Funeral Dimension”を発表する前には、すでに多くの音楽を作っていたんだ」
様々な楽器をこなす才能は、今や現代的で DIY なブラックメタル・プロジェクトには欠かせない要素にも思えます。それでも、Asthâghul が織り込むする楽器の量は異常です。
「ESOCTRILIHUM のすべての楽器は私が担当している。最初に手にした楽器はギターだったよ。最初はギターで練習していたんだが、すぐにこの楽器との相性の良さに気づいたよ。最初の頃は、自分のアイデアすべてをタブ譜に書き込んでいたんだ。それは、いつか他の楽器をマスターして、組み合わせることができると確信していたからなんだけどね。私はいつも一人で学んでいる。誰も隣にいない方が効率的だからね。
実際、ギターを習ってすぐに、個人の音楽室でドラムを演奏する機会があり、何時間もかけてこの楽器をマスターするためのトレーニングをしたんだ。一つ一つのテクニックを学ぶことは快感で、まだ私には動揺の魔物は現れていなかったからね。ただ、当時の私は録音ソフトを持っていなかった。でも、私は心の底から “いつかプロジェクトを作る” と思っていたんだ。ヴァイオリンとカンテレに興味を持ったのは、数年後のことだよ。この2つの楽器は、音楽の別の次元を探求するために非常に特殊な周波数を探求することができる素晴らしい楽器だ。ギターを弾けるようになると、バイオリンも簡単に弾けるようになるよ。ピアノ、トランペット、オーボエ、オーケストレーションなどの残りの楽器は、MIDIキーボードで作業している。いずれにしても、それぞれの楽器の演奏方法を習得するには時間がかかったけど、新しいサウンドを追加することができて良かったよ」
世界には膨大な数のバンドが存在しています。ストリーミングの普及により山ほどの作品を聴いていると自負していても、それでも世の中にあるメタルの10%さえ私たちは耳にしていません。つまり、アーティストは熾烈な競争を勝ち抜かなければまず一聴を促すことさえままならないのです。その中で、傑出した自分のスタイルを確立することが聴いてもらうことへの近道かもしれません。今では、リスナーが夢中になり、次のリリースにも足を運んでくれる作品を提示するためには、巨大な存在感とユニークな音は必須。

ESOCTRILIHUM にとつて、”Inhüma” から “Eternity of Shaog” への道のりはまさにその巨大な存在感を身につける糸口になったはずです。よりメロディックで、ムーディーで、アトモスフェリックで、エモーショナル。”Eternity of Shaog” には嫌になるほど長いタイトルに加えて、ラヴクラフト的な宇宙、さらにメロディやリフの構造の多くに東洋的、あるいはメソポタミア的な色合いが見られます。 LEVIATHAN メンバーの手によるジンのような怪物がそびえ立つアートワークが示すように。
「古代文明では、例えばファラオの墓のように、世界に偶然開かれた扉を媒介にして、目に見えないものとコンタクトをとっていたという話をよく読むよね。クラーク・アシュトン・スミスも参考にしているんだ。彼はラヴクラフトと同様に、ある種族の秘密を知っていて、その知識を伝えるためにさまざまな形や名前を取ることにした作家さ。あとは、H.P.ブラヴァツキーの著作も参考にしているね。彼女が下層と上層の地球を理解していることは驚くべきことだよ。
意図的に東洋的なものを作ろうと思ったわけではないんだよ。”Telluric Ashes” のように、ベースにカンテレを入れたかっただけなんだけど、よくよく考えてみると、確かに東洋的な方向性を感じさせる音になっているよね。望んでいたものではないんだけど。
テーマとしては、悪魔、絶望、地球の理論、狂気、地獄の盟約など、秘密にしておくべきものから影響を受けている。これは私の考えを反映したものさ」
“Eternity of Shaog” の構成は以前と比べ、もう少し鮮明ですっきりしていて、全体的に明るく広々としているようにも見えます。冒頭の “Exh-Enî Söph” ですぐに確立されたこの雰囲気は、アルバム全体で維持され、壮大を増していきます。研磨された硬質なサウンド、以前のクランチーな雰囲気から一歩引いて、歪みのないメロディーを自由に飛び回らせて、音楽にダイナミズムとインパクトを与えているのです。
“Eternity of Shaog” にはシンフォニックな傾向が顕著に現れていて、シンフォニック・ブラックメタルというレッテルを貼るのもあながち間違いではなさそうにも思えます。 しかし、大げさでドラマチックな、ややサーカスに近いタイプではなく、むしろ1990年代後半のシンフォニック・ブラックメタルに親和性を感じます。 暖かみがあり、広がりがあり、曲の構成にはオーケストラのような雰囲気が存在。
「メロディックな部分は、私のオーケストレーションへの情熱と、ファンタジー文学作品の中のパラレルワールドへの情熱から生まれたものなんだ。昔はシンフォニックなサウンドを作ることができるいくつかのソフトウェアを使って遊んでいたんだけど、プロジェクトが進むにつれて、こういったシンフォニックな要素を自分の音楽に取り入れるようになった。謎めいているように見えるかもしれないけど、カンテレの練習はシンフォニックなサウンドを生み出すためのアプローチにおいて、私を後押ししてくれたんだ。そして、いくつかの楽器やメロディーの層を同時に組み合わせることが、シンフォニックな側面を作り出すことになった。ESOCTRILIHUME は、最初はシンフォニックなものを目指していなかったけど、時間の経過とともに状況が変わっていったんだよね」
実際、カンテレは “Eternity of Shaog” にとって不可欠な楽器となっています。
「カンテレはフィンランドの楽器なんだ。この弦楽器は本当にすごいよ。この楽器が発する周波数は、明らかに神秘的だ。実は、私がカンテレに出会ったのは、とても意外な場所だった。だからある存在に導かれて、必要に迫られて手に入れたのだと思う。ある意味、自分の考えと現実をつなぐ架け橋のようなもの。新しい楽器を手に入れなければならないことはわかっていたんだけど、どれが最初に心に届くのかはまだわかっていなかったからね。今では頻繁に使っているよ。すべての場面で使えるわけではないけど、なるべく直感的に使えるようにしているのさ」

そうしてたどり着いた約80分に及ぶ “Dy’th Requiem for the Serpent Telepath”。ESOCTRILIHUM は長いアルバムを出すことで知られていますが、最新作はこれまでの最長のレコードです。”Xuiotg” のように凶暴なブラックメタルで猛威を振るう瞬間もあれば、”Craanag” のようなアンビエントな曲も存在します。深みを増したシンセの魔法とアヴァンギャルドな哲学に窺えるのは、相互作用と実験への意欲。
“Dy’th Requiem for the Serpent Telepath” は、3曲ずつの4つのセクションで構成され、Serpent Telepath の死、変容、再生という壮大なストーリーを描いています。Serpent Telepath とは ESOCTRILIHUM が描いた恐ろしい世界に生息する強力な存在の1つ。物語は、拷問のようなイメージと精神的な闘争の間で引き裂かれる叙事詩のように展開します。幽体離脱と精神的な不安というテーマは深淵で、レコードに込められた邪悪な呪文にさらなる次元を加えています。エクストリーム・メタルと言うよりも、より正確にはエクストリーム・ミュージックでしょう。ブラック・メタルやデス・メタルのレコードであると同時に、Asthâghul は自信を持ってノイズ、アンビエント、プログレッシブ、ポスト・パンク、ゴシック・ロック、クラシカルの領域へと大胆に踏み込んでおり、曲の中で彼が選択したどの道においても、その道のプロにも匹敵する卓越した能力を発揮しているのです。この美しき混沌は一人のクリエイターが閉所で孤独に作ったものですが、その地平線は遥か彼方まで広がっています。
Asthâghul がその音の葉以上に公表していることはあまりなく、彼の音楽は彼の喚起的で異世界的なサウンド同様謎に包まれています。ブラックメタルの歴史の中には、BLUT AUS NORD のように顔を出さずに挑戦的な作品を作る特異なアーティストは少なくありません。しかし、ESOCTRILIHUM は何か異質で、まるで人間の目には見えない冥界からの超自然的な周波を発しているようにも感じられることがあるのです。そんな密教的創造に反して作品もプロジェクトもその規模を拡大していく中、ESOCTRILIHUM が他の音楽家を加えることはあるのでしょうか?
「私は最後まで一人でいるつもりだよ。正直なところ、誰も私と一緒に演奏することはできないんだ。というのも、私と他の人との間の伝達の流れを何かがブロックしていて、コラボレーションとなると全く上手くいかないんだ。私は一人でいる方が好きだよ。自分の作品をよりコントロールできるからね。それに、人脈を作ることも私にはできないんだ」

ブラックメタルは一人ですべてをこなすアーティストが多い印象です。
「ブラックメタルは、孤独や孤立と完全に調和しているスタイルだからね。なぜなら、孤立しているからこそ、自分の精神状態を完璧に反映したものを作ることができるから。それに孤立することは、目に見えないものと触れ合うための最良の方法でもある。一人で作業をしていると、アイデアが早く浮かび、必要に応じて無意識の力を借りることができるんだ。誰かのために何かをすることを強制されないという事実は、仕事をより興味深いものにしてくれるよ」
フランスは古くから、非常に革新的で先鋭的なブラックメタルを生むことで知られています。
「確かにフランスには様々なグループがあって、オカルト的なテーマを有しているよね。でも ESOCTRILIHUM は誰とも関係していまないんだ。なぜなら、私はコラボレーションを完全に拒否してこのプロジェクトを作ったから。この音楽を作るには一人でなければならないし、正直なところ一緒に音楽を作れる人を知らないんだ。つまり、すべては私の “創造したい” という一心から始まったと考えていいだろうね」
それにしても短期間であまりに膨大なリリースです。創造性は尽きないのでしょうか?
「自分の音楽的な衝動を信じ、その衝動が現れたときに仕事をしているだけなんだ。すべてを同時にリリースすることだって可能だけど、それは賢明ではないよね。私の中にはまだ充分情熱があるので、活動的であり続けていられる。精神が求めるときに、すぐに選ばれた楽器を演奏して自分自身の内面を映し出さなければならない。音楽的な衝動が頻繁に現れることもあれば、何も起こらずに長く待たされることもある。これは非常に暗いテーマだよ。なぜなら、私は物事の進展を説明できないことがあるから。ESOCTRILIHUM を管理することは苦しみであり、苦悩でもあるから、いつかは終止符を打たなければならないと思っている。私はすでにすべてをプログラムしているんだよ」

参考文献: METAL STORM: ESOCTRILIHUM INTERVIEW

THE WAR INSIDE MY HEAD: INTERVIEW ESOCTRILIHUM

ESOCTRILIHUM BANDCAMP

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SUBTERRANEAN MASQUERADE : MOUNTAIN FEVER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOMER PINK OF SUBTERRANEAN MASQUERADE !!

“We Are Rooting For Peace. That’s All We Care And Dream About. Our Music Is Made With Love For Everyone. All We Want Is Peace.”

DISC REVIEW “MOUNTAIN FEVER”

「僕たちはただ平和に根ざしている。それが僕たち全員の関心事であり、夢でもあるんだ。僕たちの音楽は、全員への愛で作られている。僕たちが望むのは平和だけなんだ」
テロと報復の連鎖。中東の火薬庫の中で苦悩するイスラエルは、進化する音楽世界のリーディング・ヒッターであり、その緊張感ゆえに平和を祈る音のピース・メイカーが現れる聖地ともなりました。ORPHANED LAND の功績を語るまでもないでしょう。そうして、地底の多様な仮面舞踏会で舞い踊る SUBTERRANEAN MASQUERADE も彼らの軌跡を追っていきます。
「特にイスラエルのシーンがあまり知られていないからこそ、比較されるのは当然のことだよね。だから僕たちは、世界中で話題になり、より多くの人が話題にしたり聴いたりするような、次のイスラエルのバンドになることを誇りと共に誓っているんだ」
ただし、エルサレムまでの道のりがすべて同じわけではありません。ORPHANED LAND がよりメタリックエスニックな世界を探求し融和を前面に押し出すなら、SUBTERRANEAN MASQUERADE はさながらアンダーグラウンドの雑多から這い出る混沌のエスニックプログレッシブ。
“Mountain Fever” では、エキゾチックなブズーキとフレームドラムの組み合わせで始まり、すぐにメタルの重量感とダブルキックの興奮を共有します。しかし、メタリックな要素は数ある色彩のひとつに過ぎず、SUBTERRANEAN MASQUERADE は混沌の中にプログレッシブな輝きを見出します。管楽器、ストリングス、トライバルドラムを使ったトレードマークとも言えるサウンドに、耳に残るメロディ、グロウル、トリプルギター、女性ゲストシンガー、そしてジャンクなインストルメンタルセクションまで地底の仮面舞踏会は千客万来。
さらに “Inwards” では、レナード・コーエンのメロディで始まり、インドの民族音楽へ危険なまでに接近し、デスメタルのカオスに陥りながら、最後は神々しいホーンセクションとサックスのソロで幕を閉じます。そのすべてを7分に収める芸当こそ、彼らの真骨頂。
「イスラエルにはヘブライ語と英語で歌うロックアーティストがたくさんいるけど、ほとんどのアーティストはガラスの天井 (目に見えない制約) を破ってはいないんだ」
と嘆くバンドのヤハウェ Tomer Pink ですが、常にイスラエルと中東の音楽の伝統に深く根ざしながら、ブラックメタルからゴスペルまでこれまで以上にバラエティに富んだ作品は、ソフトなロックから深みのあるグロウル、ささやきに叫びと刻々と変化を続ける新加入の歌い手 Vidi の歌唱も相まって、完膚なきまでに聖地の天井を突き破っているのです。
「最も重要なのは、それぞれの楽器を最高の音でレコーディングすることだった。10のスタジオを10の楽器で使うようなね」
そして “Mountain Fever” は、楽器や音楽の色彩と同様に感情までも豊富です。ゴラン高原の山中で書かれ部分的には彼の地で録音された作品は、世界を放浪するような前作 “Vagabond” と比較して、むしろ内省的で旅路への憧憬を醸し出しているようにも思えます。
そんな夢幻の祈りは、きっとコロナと隔離に苦しんだイスラエルの抑圧と解放を反映しているのでしょう。世界中すべて難民に捧げられたハモンドとゴスペルの美しき混乱 “Somewhere I Sadly Belong” は、まさに “Mountain Fever” に秘められた悲しみと抑圧を素晴らしく反映しています。
今回弊誌では、Tomer Pink にインタビューを行うことができました。「この国には幅広いスタイルがあり、多様なシーンがあり、ハングリーで努力している多くのバンドがいる。僕たちの観客のほとんどはイスラエルにはいないけど、イスラエル国外で成功すると、母国のみんなが喜んでくれて、僕たちの心も温かくなるのさ」Jens Bogren のプロダクションも見事。PAIN OF SALVATION や DIABLO SWING ORCHESTRA のファンもぜひ。どうぞ!!

SUBTERRANEAN MASQUERADE “MOUNTAIN FEVER” : 10/10

INTERVIEW WITH TOMER PINK

Q1: First of all, you were born in Israel. From jazz, classical music, to metal, recently Israeli artists are leading the music scene. How does your being born and raised in Israel affect your music?

【TOMER】: I’m not sure it affected me very much aside from those middle eastern influences which for me it’s just the soundtrack of everyday life. We are still getting all the worldwide music like everybody else does but I guess that you could say that there are more traditional elements in our music thanks to the place we live.

Q1: ジャズやクラッシック、そしてメタルまで、イスラエルは先進的な音楽世界をリードする国の一つです。
まずは、イスラエルという出自があなたに与えた影響からお話ししていただけますか?

【TOMER】: 僕にとってはただ日常生活のサウンドトラックである中近東の音楽を除けば、イスラエルという出自からあまり影響を受けたとは思えないな。僕も他の人たちと同じように世界中の音楽を聴いているだけなんだ。
ただ、僕たちが住んでいる場所のおかげで、自分たちの音楽にはより伝統的な要素が宿っているとは言えるかもしれないね。

Q2: What is the metal/rock scene like in Israel? Is it hard to keep playing rock music in Israel?

【TOMER】: I think it’s all a matter of how strong your willpower is. There are many rock artists in Israel singing in Hebrew and english but most are not breaking the glass ceiling. We have indie rock festivals mixed with other popular music,Metal is definitely less popular but there has been a solid scene for decades and it is expanding mostly towards Extreme metal. In terms of Audience traction, it can be sometimes difficult but if you really believe in yourself and persevere you can get far. This is the advantage of a small country, when you succeed, everyone hears about you immediately. We have a wide range of styles here and a varied scene, a lot of hungry hard working bands. We are very lucky to be able to play overseas, as it’s difficult in our region to tour. Most of our audience is not in Israel, but when we succeed outside of Israel, everyone back home is happy for us and it warms our hearts.

Q2: イスラエルのメタルやロックシーンはどのような状況ですか?
あなたの国で音楽を続けることは簡単ではないのでしょうか?

【TOMER】: それは、その人の意志の強さの問題だと思うな。イスラエルにはヘブライ語と英語で歌うロックアーティストがたくさんいるけど、ほとんどのアーティストはガラスの天井 (目に見えない制約) を破ってはいないんだ。
メタルは確かに人気がないけれど、何十年も前からしっかりとしたシーンがあり、主にエクストリーム・メタルの方向へと拡大している。オーディエンスの支持という点では、時には困難なこともあるけど、自分を信じて粘り強く頑張れば、海外で成功することも不可能じゃない。
これは小さな国の利点で、成功すると誰もがすぐにそのことを耳にするだろ。この国には幅広いスタイルがあり、多様なシーンがあり、ハングリーで努力している多くのバンドがいる。この地域ではツアーをするのが難しいから、僕たちが海外で演奏できるのはとても幸運なことだよ。
僕たちの観客のほとんどはイスラエルにはいないけど、イスラエル国外で成功すると、母国のみんなが喜んでくれて、僕たちの心も温かくなるのさ。

Q3: Israel is famous for Orphaned Land and Salem, but they are more metal than you are, right? How do you feel about being compared to them?

【TOMER】: First of all, we love these guys to pieces. We have a long relationship with Orphaned Land, from their early days (me and Kobi have been working together in an EDM and Trance music label when we were young) and up until today. Matan Shmuely Played Drums on all of our Albums and Idan Amsalem contributed buzuki and a guitar solo on our track “Mangata”. We have been on the road with them for around 43 shows, we see them as brothers and we are proud of their achievements. Also Salem’s, we appreciate the musical history of our scene. Comparisons are a natural thing, especially when the rest of the Israeli scene is not very much known, so we are actually proud to be that next Israeli band that makes waves around the world and that more and more people start talking about and listening to. There were not a lot of Israeli metal/rock Bands since the 90s that got far and we are determined on being the spearhead of the next rock and metal wave from this country.

Q3: イスラエルといえば、あなたたちの他に ORPHANED LAND と SALEM が有名ですよね。
ただ、彼らはあなたたちよりももっとメタル寄りでしょう。比較されることにはどう感じていますか?

【TOMER】: まず第一に、僕たちは彼らのことを心から愛している。ORPHANED LAND とは、彼らの初期の頃(僕とギタリストの Kobi は若い頃、EDM やトランスの音楽レーベルで一緒に仕事をしていた)から今日まで、長い付き合いがあるんだよね。
Matan Shmuely は僕たちのすべてのアルバムでドラムを演奏してくれたし、Idan Amsalem は僕たちの曲 “Mangata” でブズーキとギターソロを担当してくれた。彼らとは43回の公演を共にしてきた。僕たちは彼らを兄弟のように思っており、その功績を誇りに思っているんだよ。
同じく SALEM も、僕たちのシーンの歴史にとって非常に重要なバンドだ。特にイスラエルのシーンがあまり知られていないからこそ、比較されるのは当然のことだよね。だから僕たちは、世界中で話題になり、より多くの人が話題にしたり聴いたりするような、次のイスラエルのバンドになることを誇りと共に誓っているんだ。
90年代以降、イスラエルのメタル/ロック・バンドはあまり活躍していなかったけど、僕たちはこの国の次のロック/メタル・ウェーブの先鋒になることを決意しているからね。

Q4: I really like the band name Subterranean Masquerade, why did you choose it? It seems to be the opposite of the album title “Mountain Fever”, would you agree? haha.

【TOMER】: Truth be told, I wasn’t thinking about that but you are totally right, haha. I came up with the band name around 25 years ago.. Such a long time, i can’t even remember how I came to this. I did think about changing the name into something more accessible a few times but somehow we decided to stick with this one.

Q4: SUBTERRANEAN MASQUERADE (地下の仮面舞踏会) というバンド名も大好きなんですよ。”Mountain Fever” という今回のアルバムタイトルとは真逆にも思えますが (笑)

【TOMER】: 実を言うと、全然気づいてなかったんだけど、まったくその通りだよね (笑)
このバンド名を思いついたのは、今から25年ほど前のことだよ。どうやってこの名前にしたのか覚えていないほどの大昔のことだね。もっと親しみやすい名前にしようと何度か考えたこともあったけど、まあなんだかんだこの名前でいくことにしたんだよな。

Q5: Green Carnation’s Kjetle Nordhus and Novembers Doom’s Paul Khur were out and Vidi Dolev who handles both the clean vocals, and the growls was in. Why was this change made, and what is good about Vidi?

【TOMER】: Long distance relationships are not easy, especially when everybody got few bands. Kjetle was just recording the new Green Carnation album and Paul is living in the USA, very far away from where we are. We also always knew we are a touring band and that requires dedication and time.. It’s not always working for everybody. Vidi is an old friend and a very respected musician in the Israeli music scene.. He entered those big shoes of Paul and Kjetle and worked his way into our hearts and family.

Q5: 今回は GREEN CARNATION の Kjetle Nordhus, NOVEMBERS DOOM の Paul Khur の参加はなく、Vidi Dolev がクリーンとグロウルの両者を兼任して歌っていますね?

【TOMER】: 遠距離でうまくやるのは簡単じゃないからね。特に、みんながいくつかのバンドを持っているときは。Kjetle はちょうど GREEN CARNATION のニューアルバムをレコーディングしていたし、Paul はアメリカに住んでいて、僕たちがいる場所からとても離れているんだよ。
それに、僕たちは常にツアーバンドで、そのための献身と時間が必要であることを知っていたからね…。誰もがうまくいくわけじゃないんだよ。
Vidi は古い友人で、イスラエルの音楽シーンでとても尊敬されているミュージシャンなんだ。彼は Paul と Kjetle の後任として存分な実力を発揮し、僕たちの心に家族のように入り込んでくれたんだ。

Q6: “Suspended Animation Dreams” was crazy experimental metal. “Vagabond” was more traditionally proggy than earlier albums. I think “Mountain Fever” is a mix of those two, along with your usual dose of jazz, and middle-eastern melodies, Would you agree?

【TOMER】: Yes, I totally agree. I think that Mountain Fever got something more to do with S.A.D then with Vagabond though it’s a lot more focused and mature. It is as risky and varied as that album but so much more focused and well executed.

Q6: “Suspended Animation Dreams” はクレイジーで実験的な作品で、”Vagabond” はよりトラディショナルなプログ的作品でした。
“Mountain Fever” はトレードマークのジャズや中東のメロディーを保ちながら、その両者を巧みにミックスしたようなアルバムですよね?

【TOMER】: 全く同感だよ。”Mountain Fever” は、 “Vagabond” よりも “Suspended Animation Dreams” に通じるものがあると思うんだけど、もっと集中していて成熟しているよね。このアルバムは、”S.A.D.” と同じようにリスキーで多様性に富んでいるけど、よりフォーカスされていて内容も良いよね。

Q7: Percussion and other ethnic instruments are an important part of the album. What are some of the difficulties in combining metal and traditional music?

【TOMER】: It’s all about colors and about how to glue it all together. We have been working very hard on the arrangements for this album, really knit picking every moment of it. Tha main challenge was recording each instrument the best way , meaning, we had to use about 10 different studios to make it the best sounding arrangement possible, for example, the room we recorded the violins at, was not necessarily the best room for percussions, so we went to a different studio to record the percussions and so on. Everything had to be very accurate in the way of recording, otherwise we would be having a lot of trouble mixing into one texture which makes sense. On the other hand, we didn’t want the mix to sound like 10 different rooms, so after recording all the ethnic instruments we actually reamped the guitars to glue it all better. Everything had to work as a macro, but in order to do it, the pre production was full of ants work.

Q7: パーカッションやブズーキなど、エスニックな伝統楽器もアルバムでは重要な役割を果たしていますね。メタルと伝統音楽をミックスする際、気をつけていることはありますか?

【TOMER】: すべては色彩と、それをどうやって接着するかということなんだ。今回のアルバムでは、アレンジに非常に力を入れており、一瞬一瞬を大切にしているんだよ。
最も重要なのは、それぞれの楽器を最高の音でレコーディングすることだった。10のスタジオを10の楽器で使うようなね。例えば、バイオリンを録音した部屋が必ずしもパーカッションに最適な部屋ではなかったら、パーカッションを録音するために別のスタジオに行くというように、すべての録音方法を正確に行う必要があったからね。
その一方で、ミックスが10の異なる部屋のように聞こえるのは避けたかったから、民族楽器をすべて録音した後、ギターを実際にリアンプして、すべてを糊付けしたんだよ。すべてがマクロとして機能しなければならないのだけど、だからこそプリプロダクションは蟻地獄のような作業だったよね。

Q8: Israel and Palestine are on the verge of war. What is the band’s stance on religious and racial tensions?

【TOMER】: We are rooting for peace. That’s all we care and dream about. Our music is made with love for everyone. All we want is peace.

Q8: 最後に、イスラエルとパレスチナは今にも戦端を開きそうな緊迫した状況にあります。あの難しい問題について、バンドのスタンスを教えていただけますか?

【TOMER】: 僕たちはただ平和に根ざしている。それが僕たち全員の関心事であり、夢でもあるんだ。僕たちの音楽は、全員への愛で作られている。僕たちが望むのは平和だけなんだ。

THREE ALBUMS THAT CHANGED TOMER’S LIFE 

JETHRO TULL “AQUALUNG”

PINK FLOYD “DARK SIDE OF THE MOON”

DAVID BOWIE “ZIGGY STARDUST”

MESSAGE FOR JAPAN

We are very grateful to anyone who takes the time to listen to our music. Life is short and it’s not obvious at all you chose to press play. We hope to come to Japan as soon as possible. Until then – we wish you health and happiness Arigatō gozaimashita!

時間をとって僕たちの音楽を聴いてくれるすべての人に感謝を。人生は短く、プレイボタンを押して僕たちの音楽選んだのは全く当たり前のことではないからね。一日も早く日本に行きたいと思っているよ。それまで、みんなの健康と幸せを祈っているよ。ありがとうございます。

TOMER PINK

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SUBTERRANEAN MASQUERADE Official

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WRECHE : ALL MY DREAMS COME TRUE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN OF WRECHE !!

“I Think Within Black Metal, The Piano Opens Up Patterns Of Notes That Appear Like Tremolo Riffs, But Sustain a Greater Wealth Of Musicality – Also, Being That The Piano Notes Immediately Die Off After Being Played Unlike a Guitar That Has Sustain, The Athleticism Is Appealing.”

DISC REVIEW “ALL MY DREAMS COME TRUE”

「ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ」
“もしもブラックメタルで、トレモロ・リフを弾くギターの代わりにピアノを使ったら?” WRECHE の “All My Dreams Come True” は、そんな荒唐無稽でしかし好奇をそそる If の音夢を文字通り実現する物怪の幸いです。それだけではありません。アルバムにはピアノだけでなく、現実的な絶望苦悩に満ちたボーカル、シンセサイザーの神秘的で壮大なレイヤーが敷きつめられて、ブラックメタルでありながらブラックメタルの常識をすべて覆す、ジャンルにとって青天の霹靂ともいえる領域にまで到達しているのです。とはいえ、あくまでも手段は手段。儚さ、苦しみ、怒り、そして神秘的な体験という感情の肝は、たしかにこの場所に同居しています。
「僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ」
WRECHE の中心人物である John Steven Morgan は、Bandcamp ページにおいて、シュールレアリストであり、神秘主義者としても知られるヘンリー・ミラーの言葉を引用しています。”歌うためには、まず口を開かなければならない。肺があって、音楽の知識が少しあればいい。アコーディオンやギターを持っている必要はない。肝心なのは、歌いたいと思うこと。これが歌だ。私は歌っている”。今しかない、今はじめろ、今を生きろ。John がアルバムに込めたポジティブなメッセージは、音楽同様ブラックメタルの典型とは明らかに距離を置いていました。
「すべてが揃っていても、”歌いたい” という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。そしてそこから僕はミラーの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから」
隠喩としてだけではなく、音楽自体も “All My Dreams Come True” はヴォーカルに重きが置かれています。荒々しき “Schrezo” では、不協和なピアノラインに、苦悩に満ちた叫び声が重なります。ピアノの和音は絶えず背後で鳴り響き、ドラムのダーティーなシンバルは緊急事態を表現。この混沌とした状況の中で、トラックの大半をリードするのがスクリームであり、フィードバックとの相互作用が実に面白く、圧迫感のあるものとなっているのです。”肝心なのは歌いたいという気持ち”という言葉が、John の情熱と献身が、ハードコアの獰猛まで抱きしめたこのトラックを通して実によく伝わってきます。
一方で、アルバムの神秘性は、苦しみの裏返しとして、より “美しく” 儚い曲で伝えられていきます。”Mysterium” と名付けられた楽曲は、半音階的でハープにも似たドリーミーなピアノの音で幕を開け、万華鏡のピアノとシンセが楽曲の階段を駆け上がり、ブラックメタルが探求できる経験の底辺から、ブラックメタルが実現できる表現の高みまでを幻想的に描き切ります。
「僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね」
John はそう嘯きますが、醜さ狂気、暴力と同時に彼の鍵盤は神々しき美麗や荘厳、そして現実に残された一握りの希望までを的確に表現しています。暴力の天頂、宇宙の壮大、サイケデリックな夢、孤独、痛み、苦悩、悲しみ。対比というよりも、クラッシック、マスロック、ジャズ、ハードコアを通過したがゆえの多様な感情のスープでしょうか。そうして WRECHE は、ブラックメタルというジャンルの音楽的背景を、目を見張るような方法で変貌させ、拡張し、揺さぶり、前へと進めました。彼の言葉を借りれば、メタルに宿る無限の可能性を引き出したのです。
今回弊誌では、ほぼすべてを一人でこなす John Steven Morgan にインタビューを行うことができました。「クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね」 どうぞ!!

WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE” : 10/10

INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN

Q1: This is the first interview with you. So, at first could you tell us about yourself? What kind of music were you listening to, when you were growing up?

【JOHN】: Yeah! Thanks for having me here. I grew up in a small rural desert town in CA, USA. I really loved Beethoven as a child (well the more popular pieces like Moonlight Sonata), but the bread and butter for me was listening to bands like The Doors, Queen, Boston, ELO, The Beatles, and Led Zeppelin. My dad and I would listen to classic rock on the radio on the way to school or when we were working outside on the property. My first obsession in music was Pink Floyd in high school – especially their psychedelic albums (Piper thru Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother).

Q1: 本誌初登場です!まずはあなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【JOHN】: インタビューをありがとう。僕は、アメリカのカリフォルニア州にある小さな砂漠の田舎町で育ったんだ。子供の頃はベートーヴェンが大好きで(”月光” のような人気の高い曲も) 。僕にとっての糧は DOORS, QUEEN, BOSTON, ELO, BEATLES, LED ZEPPELIN みたいなバンドを聴くことだったね。
僕と父は、学校に行く途中や、外で敷地内の作業をしているときに、ラジオでクラシック・ロックを聴いていたんだよ。最初に音楽に夢中になったのは、高校時代に聴いた PINK FLOYD だったね。特にサイケデリックなアルバム(Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother)が好きだったよ。

Q2: You seem to be able to play a variety of instruments, how did you learn how to play them?

【JOHN】: I started piano at 15 and drums around the same time (playing on pots and pans), over time I just really loved to play and it was a great way to find respite from school or sports – then it became a full on passion by the time I turned 18 and started playing / improvising with Barret Baumgart. I just taught myself how to play the instruments and as time went on, I started self-study of Classical music, especially Beethoven. I both listened and read the scores to learn how they achieved certain effects and moods, and how they propelled the music forward through modulation.

Q2: あなたは様々な楽器を演奏できるようですね?

【JOHN】: 15歳でピアノを始め、同じ頃にドラムも始めたんだ。ドラムは鍋やフライパンで演奏していたんだけど。そのうちに演奏することが本当に好きになって、学校やスポーツの合間の息抜きになっていたね。18歳になって Barret Baumgart と一緒に演奏、即興演奏をするようになってからは、完全に音楽に対して情熱的になったんだよね。
楽器の演奏方法は独学で学んだんだけど、時間が経つにつれ、クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね。

Q3: What inspired you to start Wreche? What’s the meaning behind your band name Wreche?

【JOHN】: Well, Barret Baumgart and I started Wreche with our 2017 self-titled album – it was an extension of our 2008 band Architeuthis (which was also piano & drums, just instrumental). He went off to grad school and I was working on other things, but around 2015 we decided we wanted to do another project more in the metal vein. I also wanted to work in a genre that served my ambitions as a pianist and composer – and metal seemed pretty limitless, and still is in my opinion. The meaning behind the band name is “misery” – Wreche is the middle english spelling of wreak – as in to wreak havoc, or befell with great sadness/misery (from the Oxford English Dictionary). I was sad at the time I came up with it haha.

Q3: WRECHE を始めたきっかけを教えていただけますか?

【JOHN】: Barret Baumgart と僕は2017年のセルフタイトル・アルバムで WRECHE を始めたんだけど、これは2008年に活動していたバンド ARCHITEUTHIS(ピアノ&ドラムのインストゥルメンタル)の延長線上にあったんだ。
彼は大学院に行き、僕は他の仕事をしていたんだけど、2015年頃に、もっとメタルの流れを汲む別のプロジェクトをやりたいと思ってね。僕は、ピアニストや作曲家として自分の野心を満たすようなジャンルで仕事をしたいと思っていたんだけど、メタルはそういう意味でかなり無限の可能性を秘めていると思ってね。
バンド名に込められた意味は “不幸” だよ。 中世で Wreak は Wreche と綴られていて、「大混乱を引き起こす」「大きな悲しみや不幸に見舞われる」という意味を持っていたんだ。オックスフォード英語辞典からの引用だけど。この名前を思いついたとき、僕は悲しかったんだよ。

Q4: One of the unique aspects of Wreche is that you use the piano as your main instrument instead of the guitar, even though it’s black metal. Why did you go for such an idea?

【JOHN】: I really love metal, but I don’t play guitar! However, as Barret and I discovered over the years, my playing style really lends itself more to the metal genre than say jazz or classical. I love banging on the thing and I’m a pretty violent player.

Q4: WRECHE は、なんと言ってもブラックメタルにもかかわらず、ギターの代わりにピアノをメインの楽器として使用しているところが非常にユニークですよね?

【JOHN】: 僕はメタルが大好きなんだけど、ギターが弾けないからね!だけも、Barret と僕が長年にわたって発見してきたように、僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね。

Q5: In fact, guitar tremolo riffs are an iconic part of black metal, are you using the piano as an alternative or something completely new? Within the framework of black metal, is there something that can be expressed only with the piano?

【JOHN】: There’s a few sections in “Les Fleurs mov.2” where I purposefully emulate tremolo guitar riffs (as a sort of homage or quote to black metal). Otherwise, yeah it was difficult in some ways to adapt my playing further into the black metal style – especially in terms of subbing for tremolo riffs. I needed a way to create constant motion on the piano. I did this by implementing arpeggios and various triplet or quadruplet double hand patterns to create a moving base for the music to stand on, and to keep up with blast beats. I hope this hits people as completely new – I have never seen the piano used this way in metal before…usually it’s just for pretty little interludes or ballads. I think within black metal, the piano opens up patterns of notes that appear like tremolo riffs, but sustain a greater wealth of musicality – also, being that the piano notes immediately die off after being played unlike a guitar that has sustain, the athleticism is appealing. You have to keep moving to create vast clouds of energy. This is something the piano does that guitars cannot – each note is like a small shard of glass in a mosaic because of the nature of the instrument’s sustain.

Q5: 実際のところ、ギターのトレモロ・リフはブラックメタルの象徴とも言えますが、あなたはピアノをその代用としているのでしょうか?それともピアノならではの表現を模索しているのでしょうか?

【JOHN】: “Les Fleurs mov.2” では、ブラックメタルへのオマージュや引用として、意図的にトレモロ・ギターのリフを模倣した部分がいくつかあるね。ただ、それ以外の部分では、自分の演奏をさらにブラックメタルのスタイルに合わせるのは難しい面があったのは確かだよね。トレモロ・リフという意味ではね。
だから、ピアノに一定の動きを持たせる方法が必要だったんだ。そこで、アルペジオや3連、4連の両手のパターンを導入して、音楽の土台となる動きを作ったり、ブラストビートに合わせたりしたんだよね。今までメタルでこのようにピアノが使われたことはなかったよね。インタルードやバラード以外では。みんなが完全に新しいと感じてくれればいいな。
ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ。サスティーンがないからこそ、一音一音がモザイクの中の小さなガラスの破片のようになるわけさ。

Q6: The title “All My Dreams Come True” and the artwork of flowers are far from typical Black metal images, and also very impressive. Can you tell us about the concept of the album and the theme of the lyrics?

【JOHN】: Yes! They are distant from standard black metal imagery. I’m not that into the fantasy/escapist side of black metal, even if I did put flowers on the cover. I really wanted to express what was around me in the city (and even the US) on this album – the widespread poverty and despair, people being tricked by their religious leaders and the politicians backing them, all while there’s tent cities everywhere, abject cruelty. It is so sad. The flowers were a gift to me and I took the photo years before the album was finished. However, the more I thought about life, the more I saw it in relation to the flowers. They live and die, they are put on your grave as a final statement, they grow from last year’s dead detritus every spring as a sign of new life. It was a perfect metaphor for the past/present/future – the cycle of life. The title reflects this – rather than waiting for the afterlife, or some invisible future, it is an urge to see what is in front of you, to be present in your surroundings. It is easy these days with social media to feel so isolated, un recognized – as if your dreams and goals are constantly further away from you because of the comparisons you may make to other people’s successes – all right in your face 24hrs/day. It is a call to throw out fantasy/future planning for some distant plain of transcendence, merely existing for the next day, and realize that this earth, this time we have here, is both heaven and hell. There is no afterlife. Only now. All my dreams came true because I am here..

Q6: アルバムのタイトルである “All My Dreams Come True”、それにこのアートワークはブラックメタルの典型的なイメージとは程遠いですよね?

【JOHN】: そうなんだよ!標準的なブラックメタルのイメージとはかけ離れているよね。ジャケットに花をあしらったとしても、僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ。とても悲しいことだよ。
この花は僕がもらったもので、アルバムが完成する何年も前に撮影したんだ。その間に、人生について考えれば考えるほど、この花との関連性が見えてきたんだよね。花は生きて死に、最後の意思表示として墓に供えられ、毎年春になると去年の枯れた残骸から新しい生命の証として成長していく。それは、過去・現在・未来、つまり生命のサイクルを表す完璧なメタファーだったんだ。死後の世界や目に見えない未来を待つのではなく、自分の目の前にあるものを見て、世界の中に存在したいという衝動が、このタイトルには込められているんだよ。
SNS が発達した昨今では、自分が孤立しているように感じたり、認識されていないように感じたりすることがよくあるよね。他人の成功と比較することで、自分の夢や目標が常に遠くにあるように感じてしまうんだ。
これは、空想や将来の計画をどこか遠くの超越した場所に投げ捨て、ただ次の日のために存在するだけで、この地球、この時間が天国でもあり地獄でもあることを理解するように呼びかけるアルバムだ。死後の世界なんてないよ。今しかない。僕がここにいるからこそ、すべての夢が叶うんだ。

Q7: At Bandcamp, you quoted Henry Miller’s words. It seems to imply the importance of vocal and lyrics in your mind, would you agree?

【JOHN】: In a lot of ways yes, but I meant it more in terms of making art. The lyrics are very important to me because they voice best what I want to say about the world and my place in it – my personal experiences and observations. The quote for me (which isn’t the objective meaning of course), puts importance on the will to do something less the requisite materials. You could have everything, but if the “want to sing” isn’t there, it means nothing. Also, I see that quote in terms of how something is to be started, or manifested as a work of art, or anything in life for that matter – you simply begin and then it becomes.

Q7: Bandcamp のページであなたはヘンリー・ミラーの言葉を引用していますよね?あなたの中の、歌や歌詞の重要性を隠喩しているように感じました。

【JOHN】: いろいろな意味でまあそう取れるよね。だけど、僕はアートを作るという意味でより多くのことを考えたんだ。歌詞は僕にとって非常に重要なもので、世界とその中での自分の居場所について言いたいこと、つまり個人的な経験と観察を最もよく表しているからね。
僕にとってミラーのこの言葉はもちろん客観的な意味ではないけれど、必要な材料がなくても何かをしようとする意志を重要視しているんだよ。すべてが揃っていても、「歌いたい」という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。
そしてそこから僕はこの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから。

Q8: With the emergence of Alcest and Deafheaven, black metal has continued to spread and diversify. You are one of such a new generation, what does the first generation of Inner Circle and evil legends mean to you? Have you ever seen the movie “Lord of Chaos” ?

【JOHN】: Definitely haha! The movie was pretty good. The documentary “until the light takes us” is pretty good too. To me, some of the music still holds up and is really good, but ultimately , they were for the most part (with exceptions like that guy Gaahl) a bunch of suburbia kids running around causing mayhem spreading neo polytheistic, and for some – racist, and homophobic ideas; burning down churches to reclaim their heritage from the crusading Jesus pushers back in 1200AD. Not sure if those bloodlines still run, but I do understand how horrific the christian crusades were – erasing entire cultures in order to replace their history with the Bible’s history, and they did it all over the world. Still, the music was great, the atmosphere was great, though I think kids like that are/would have been diametrically opposed to people like me. One thing I do agree with is the anti-capitalist sentiment.

Q8: 映画 “Lord of Chaos” はご覧になりましたか?
ALCEST や DEAFHEAVEN の登場でブラックメタルは多様化と拡散を続け、あなたもそういったアーティストの1人ですが、第1世代のインナーサークルや狂気にかんしてはどう感じていますか?

【JOHN】: もちろん見たよ!ハハハ! 映画はかなり良かった。ドキュメンタリー映画の “Until the Light Take Us” もいいよね。
僕にとっては、いくつかの当時の音楽は今でも残っていてとても良いと思うんだ。だけど結局のところ、Gaahl のような例外はあるにしても彼らは、新多神教を広めて騒乱を起こしながら走り回る郊外のキッズ集団であり、一部の人にとっては人種差別的で同性愛嫌悪的な考えであり、西暦1200年に十字軍に参加したイエスの押し売りから自分たちの伝統を取り戻すために教会を焼き払っていたわけだよね。
もちろん、その血筋が今も続いているかどうかはわからないけど、キリスト教の十字軍がどれほど恐ろしいものだったかは理解しているよ。彼らの歴史を聖書の歴史に置き換えるために、文化全体を消し去り、それを世界中で行ったんだからね。
音楽は素晴らしかったし、雰囲気も良かった。でも、あのようなキッズたちは、僕のような人間とは正反対だったと思うよ。一つだけ同意できるのは、反資本主義的な感情かな。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED JOHN’S LIFE

HELLA “HOLD YOUR HORSE IS”

THE BAD PLUS “SUSPICIOUS ACTIVITY?” “PROG”

PINK FLOYD “MEDDLE”

ULCERATE “VERMIS”

BEETHOVEN “SONATAS”

MESSAGE FOR JAPAN

Thank you so much for reading this! It has been my desire to reach people in Japan ever since 2007 – I was very much into Hella and they toured Japan and made a DVD called Homeboy/Concentration Face. I could not believe the enthusiasm for such a strange band! In America, Hella shows were not packed, but in Japan they were. It made me respect the culture and the open minded approach to life and art. I thought that maybe one day, I can get my music out there because I think people will give it a chance. So, I hope you all enjoy the new record and I hope to get out there to play live one day.

読んでくれて、本当にありがとう。2007年に HELLA に夢中になり、彼らが日本をツアーして “Homeboy/Concentration Face” という DVD を作ったときから、日本の皆さんに僕の音楽を届けたいと思っていたんだ。
ああいった奇妙なバンドが熱狂的な支持を受けるなんて信じられなかった。アメリカでは、HELLA のショーは満員ではなかったけど、日本では満員だった。それを見て、僕は日本の文化や、人生や芸術に対するオープンマインドなアプローチを尊敬したんだよ。いつか自分の音楽を世に出せるかもしれない、そうすれば日本の人々はチャンスを与えてくれるだろうと思ったんだ。
だから、みんなが新譜を楽しんでくれることを願っているし、私もいつか日本でライブをしたいと思っているよ。

JOHN STEVEN MORGAN

WRECHE Official
WRECHE Bandcamp
DIES IRAE WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE”

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW【GOJIRA : FORTITUDE】


COVER STORY : GOJIRA “FORTITUDE”

“The Point Of Fortitude Is To Inspire People To Be The Best Version Of Themselves And To Be Strong No Matter What. It’s Easy To Despair And To Lose Faith. But At Some Point You’ve Got To Figure Out Where You Stand. You’ve Got To Ask What Your Attitude Will Be If This Is The End Of The World As We Know It.”

NATURE IS HURTING

フランスからメタル世界の巨人となった GOJIRA は、そのキャリアにおいて、常に無関心や無知と戦ってきました。そして、待望の7枚目のアルバム “Fortitude” が文字通りゴジラのように地平線の彼方に現れる刻、フロントマンの Joe Duplantier は、人類が自滅へのスパイラルに向かい合う必要性をこれまで以上に強調したのです。
Joe は、子供のころからある記憶が頭から離れません。家族で見ていたテレビ。点滅する画面の前に座ると、静寂の中から理性の声が現れ多くの人が気にも留なかった状況の緊急性を訴えかけていました。フランス系カナダ人の宇宙物理学者であるヒューバート・リーブスは核合成の研究でよく知られていますが、あの運命の夜、彼は人類の自滅は原子の炎の中などではなく、冷たく静かな自己満足の中で起こる可能性が高いと説きました。
GOJIRA のフロントマンは、あのとき驚くほど明快にこう思いました。
「彼はただちにやり方を変える必要があると言っていた。僕たちはゴミやCO2の排出量を減らす必要があるとね。排出量を減らさなければならない、リサイクルをしなければならない。注意を払わないと、50年後には大変なことになってしまう。テレビに出ている人が言っているのだから、状況はすぐに変わるだろうと思ったことを覚えているよ」
しかし残念ながら、30年以上経った今でも状況はほとんど変わっていません。

Joe と弟の Mario は、メタル界で最も率直な暴れん坊の2人にしては意外にも、穏やかで牧歌的な環境で育ちました。スケッチ・アーティストの父とヨガ教師の母の間に生まれた兄弟は、フランスの西海岸にある人里離れたコミューン、オンドルで育ちました。彼らの家はあまりにも田舎だったので、あるジャーナリストが訪れたとき、「庵」と表現したほど。しかし、フォークからマイク・オールドフィールドまで、常に音楽が流れていました。詩人や画家が泊まりに来て、大人たちが国際的な哲学を語り合っているときだけ、音楽は止み子供たちは話に耳を傾けたのです。
兄弟二人はよく浜辺で時間を過ごしました。Joe は木や石を集めていて、家に帰ると手が原油で真っ黒になっていました。一方、Mario はサーフィンをしているときにビニール袋が顔に張り付きました。おとぎ話のような平穏な暮らしにも、現代社会のヒビが入っていたのです。
「自然を傷つけてばかりなんだから、自然に傷つけられるのは当たり前だ」
創造性に囲まれた青春時代を過ごしたにもかかわらず、Joe と Mario はメタル世界の英才教育を受けたわけではありません。彼らの両親がラジオで流さなかったのは、唯一ハードロックだけだったのですから。兄弟のいとこが、当時12歳の Joe に強引に METALLICA を聴かせたことがきっかけで、彼らは METALLICA に夢中になります。
「振動、音色、ドラムの叩き方が神秘的だったんだ。メタルは敏感な人を惹きつけるんだと思うよ。僕は生まれつき敏感で、学校ではいじめられっ子だった。人間が嫌いだったんだ。METALLICA のテーマは非常に感情的で、トラウマになっているような面があり、そこに惹かれたんだよね」
学校での怒りは、2人にヒーローを模倣するエネルギーを与え、Joe はギターを手にしてシンガーになりました。
「僕にとって、音楽は説教やメッセージありきではないんだよね。腹の底から出てきたものを、マイクに向かって叫ぶだけなんだ。叫ぶことで大事な言葉が出てきたんだよ。最後に食べたピザについて叫ぶつもりは毛頭ないけどね」
情熱的で外向的な性格のマリオは、ドラムの虜になりました。
「学校の友達はみんなラグビーをやっていたけど、僕は好きじゃなかった。ドラムが僕のラグビーだったんだ」
兄弟は、そうしてエクストリーム・メタルのカルテット GOJIRA で、その傷を訴えていきました。荒々しく複雑な音楽性だけでなく、環境保護を訴えることも彼らのアイデンティティーとなったのです。

GOJIRA が結成されたのは1996年で、2人が DEATH に影響を受けたミュージシャンを募集する広告を出したのがきっかけでした。そこに2人目のギタリスト、Christian Andreu が加わり、後にベーシストの Jean-Michel Labadie が加わりました。当初、4人は自分たちのことを “GODZILLA” と呼んでいました。火を噴く怪獣ほどメタルなものはないでしょう。
2001年にデビュー作 “Terra Incognita” を自主制作。このタイトルは、兄弟が子供のころに聞いていた会話から生まれたもので、ヒンドゥー教の神話を暗示しています。具体的には、ブラフマーが、その力を乱用した人類から神を隠した未知の場所を意味しているのです。2003年に発表された次作 “The Link” は、同様に形而上学的な内容で、復活、瞑想、苦しみによる悟りについて考察しています。
「最初はもっとスピリチュアルな音楽だった」と Mario は回想します。「2005年に “From Mars to Sirius” をリリースしたときは、詩的な表現を続けていたんだけど、”Global Warming” のような曲は、僕たちの環境に対するメッセージにとって本当に重要なものだったね」
人類が地球を枯渇させ、新たな故郷を探すというSF的なストーリーを持つ “From Mars to Sirius” は、ゴジラにとって初めての気候危機をテーマにした作品で、世界的なブレイクへの第一歩となりました。デスメタルをより大胆に取り入れたこの作品は、ブレイクダウンを多用した “Backbone”(現在でも最もヘヴィーな楽曲のひとつ)のような大作と、穏やかなボーカルで構成されたゆらぎの叙事詩で見事にバランスが取れていました。
「僕たちは世界を征服する準備ができていたんだ!」と、Joe は叫びます。「エネルギーがあり、怖さも疲れも退屈も存在しなかった。10年間の努力と苦労を経て、僕たちは燃えていたし、新しいオーディエンスと出会う期待と飢えがあったんだ」
この野心は、サウンドに磨きをかけた “The Way of All Flesh” と “L’Enfant Sauvage” に反映されていきました。バンドは頻繁にアメリカとヨーロッパをツアーしていましたが、毎晩自分たちのビデオを見返して、細心の注意を払ってライブショーを完成させています。「それってすべてのミュージシャンがやるべきことだろ?」と Mario は嘯きます。

「実は数年前から、人類の未来に悲観的になっていたんだ。真実に目覚めて、多くの人が自分を高めようとしているにもかかわらず、世界は逆行しているような気がするんだよね。テレビで(元)アメリカ大統領が『地球温暖化が本当かどうかわからない』と言っているのを見たり、高校で教えている友人から生徒の中にはヒトラーが映画の中の人物なのか、実在した人物なのかよくわからない子がいるいう話を聞いたりすると、ものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ。だからパンデミックが起こったとき、僕は『いいだろう。燃えてしまえばいい。地球に寄生している僕たち人類にとって、これは実際、終わりなのかもしれない』と思っていたんだよね」
自分の無能さを隠そうと必死になっている政治家や権威が、何ヶ月にもわたってくだらない話をしてきた後で、厳しい真実を語る聡明な頭脳に出くわすのは新鮮なことでしょう。
テレビの前で目を輝かせていた少年時代から、Joe は、年間7,500億トンの氷が海に溶け、毎週2,300平方キロメートルの熱帯雨林が伐採され、毎日150種もの生物が絶滅しているという、数字が物語るはず脅威と、その対局にある人々の無知さに慣れていました。だからこそ、コロナで234万人が亡くなり、数え切れないほどの人々が貧困やうつ病に陥っているという現在のデータに贖いトンネルの先には光があると主張する先導者を信じません。COVID-19の危機が1年を超えた今、人類は大きな灰色の未知の世界に直面しているのというのがまがいの無い現実です。
しかしだからこそ、GOJIRA 7枚目のアルバム “Fortitude” が登場するのに、これ以上のタイミングはないでしょう。世界はかつてリーブス博士が呼びかけていたのと同じように、困難に正面から立ち向かう勇気ある心の強さ、”不屈の精神” を求めているのですから。
「不屈の精神こそ、僕たちが示すべきものだ。抱きしめるべきものだよ。近い将来のことでさえもすべてが不確かな世界の中で、僕たちがどうあるべきかということだよね。僕たちはバンド結成当初から、競争と対峙する思いやり、そして憎しみと対峙する愛情をテーマに活動を続けてきた。”Fortitude” のポイントは、最高の自分であること、そして何があっても強くあることを人々に促すことなんだ。朝起きて、また生活に追われるのはつらいことだけど、僕たちの態度や捉え方、自分や人類の未来をどう描くかによって、変化をもたらすことができる瞬間がたしかにあるんだよ。絶望したり、信念を失ったりするのは簡単だ。だけど、ある時点で自分の立ち位置を把握しなければならないんだよ。これが僕たちの知る世界の終わりであるならば、君はどんな行動を起こすんだい?」

私たちはもはやポイント・オブ・ノー・リターン、帰れないところまですでに到達してしまったのでしょうか?もしかしたら私たちは終末に向かって勇敢に行進しなければならないのでしょうか?
「人類がこの地球上に存在する価値があるのかないのか、という具体的な文脈で考えている。僕は友人とよく哲学的な話をするけど、僕は楽観的なんだ。人間だから、もちろん人類の成功を見たいと思っているよ。だけど同時に、僕はたちはこの惑星や他の種族にとって問題であると考えざるを得ないよね。他の種族が、本を書いたり、美術館に行ったり、コーヒーを飲んだりしないからといって、この地球上で生きていく権利がないわけではないんだよ。僕たちが他の動物を扱う方法には、憤慨し、ショックを受けているよ。人間は『動物だから、動物を食べるのは当たり前だ』と言う。でも、他の動物が工場を持っているかい?考えるべきことだと思うよ。僕の友人たちの中には、『私たちはどうせ消えていくものだ。楽しもうよ。すべてを台無しにしてしまおう。どうせ死ぬんだから、そんなの関係ないよ。40億年後には太陽が地球を破壊するんだから』って人もいる。楽観的な人間になるのが正しいのか、それとも悲観的な人間になって皮肉を言うべきなのか。その中間の存在になることはできないね。それは君が眠っているということだ。人間について何か意見や感じたことはあるかい? 僕は楽観的な人間になり、人々を揺さぶり、自分自身を揺さぶって、もっと思いやりを持ち、もっと与え、大統領や政府に頼るのではなく、この地球の問題にもっと問いかけることを選んだ。そして、たとえ僕たちが滅ぶことを運命づけられていたとしても、たとえ僕たちの文明が消滅することになっていたとしても、少なくとも、消滅する前に意識と美の最後の輝きを放ち、魂を高めることができるんだ」
Joe は捕鯨に反対の立場をとっていますが、というよりも動物全体の痛みを当たり前に受け止めているだけでしょう。
「君は諦める?『世の中が汚染されているから、もっと汚染してやる。みんなが盗みをするから、俺はもっと盗むんだ』。僕たち一人一人が世界を作り、僕たちの環境を作っているんだよ。政府や支配者層の話をするときに、『彼ら』と言う人がいる。しかし、『彼ら』は『僕たち』なんだ。あなたも人々の一員なのだから、もう少し努力すれば、変化をもたらすことができるんだ。僕たちは何の制限もなく環境を強姦し、汚染し、破壊する。そのことに腹を立てない人はいなはずさ。なぜ人は、それが簡単に無視できることだと思うんだい?」
昨年8月5日にリリースされたシングル “Another World” は、ファンにとって初めての “Fortitude” の実質的な予告となりました。”もうひとつの世界、もうひとつの場所” を求めるこの曲は、すでにコロナ禍のはじまりから数ヶ月が経過した地球と見事に共鳴。ただし、マキシム・ティベルギアンとシルヴァン・ファーヴルが制作した素晴らしいアニメーション・ビデオに出てくる「The virus is spreading(ウイルスが蔓延している)」というセリフは、実は COVID が制作者の頭の中をよぎるずっと前に完成していたのです。
「コロナのアルバムになるまでは、コロナのアルバムではなかったんだよ。フランスに戻る前には、レコードのミキシングを終えていたから。クレイジーで、まるで世界的な電波に影響されたような感じだよね。”Another World” は僕たちの癇癪が爆発したものだ。別の世界が欲しい、この世界をファックしたい…ああ、でももちろんこれは僕たちの世界だ、これは手にしている唯一のものだ・・・。 これしかないんだ。動物への接し方は何か間違っている。多くの種が絶滅したことは、僕たちの負の遺産の一つになるだろう。これらの種を作るのに何十億年もかかったのに、40年後には何千、何万という種が僕たちのせいで絶滅してしまうんだから」

アルバムの本格的な制作は、2018年初頭に始まりました。2016年の6枚目のレコード “Magma” は、プログレッシブ・デスメタルの可能性にアクセシブルな高い光沢を飾り付け、GOJIRA の評判を一気に引き上げたレコードでした。これまでの不屈のライフスタイルが、”Magma” を形作ったと言えるのかもしれません。
「ミュージシャンになると、ツアーが人生の90%を占めるんだ 」と Mario は言います。「何週間も、毎晩叫んで、体が元に戻ろうと必死なんだ。世界で最高の仕事であると同時に、最も苦しい仕事でもあるんだよね。それは作曲方法にも大きな影響を与える。狂ったような、暴力的な、やたらと速い演奏は永遠にはできないだろうから」
“Magma” の楽曲は非常にシンプルで、それぞれが1つか2つのリフを中心に構成されていました。Joe の声の繊細な可能性がさらに強調され、より瞑想的なムードが作り出されながら。 制作中には、兄弟の母が亡くなります。
「 “Magma” のすべてが母の死から生まれたわけではないけれど、もちろん深い影響があったよね」と Joe は振り返ります。「僕たちの心の中で、精神的にとても大きな出来事だった。ちょうど曲を書いているときに亡くなったから、影響を投影しないのは不可能だよ。アルバム全体に言えることだけどね。僕たちの母はいつもこう言っていた。死は人生の一部。それを受け入れなければならない』とね。生まれてきて死ぬ、それが人生の輪。だから、誰かが死ぬとみんなが泣いて黒い服を着るのが、子供心にもよくわからなかったんだよね」
その結果、”Magma” は完全な哀歌ではなく、死の先にあるものを同時に探求する作品となりました。冒頭の “The Shooting Star” では、母パトリシアが星座を通して死後の世界への道を示しています。”Between the bear and the scorpion, you’re getting close.”
タイトル曲では、輪廻転生とについて言及し、”Low Lands” は、墓の向こうにあるものについての知識をパトリシアに求めています。
2017年のグラミー賞では、ベスト・ロックアルバムとベスト・メタル・パフォーマンスにノミネートされ、同年末にはメタリカの “WorldWired” ツアーでオープニングを務める栄誉を手にします。自分たちの譲れないものを守りながら、次のステップに進むための基盤が整ったのです。そうして、堅苦しい青写真ではなく、彼らの中のゆるやかな優先順位が形成されていきました。Mario が語ります。
「”Fortitude” の最終的な目標は、自分たちのダークな部分を取り除くことだったと思うけど、それはとても難しいプロセスだった。”Magma” で僕たちは母を亡くして、それがけっこう大きな痛手となっていたんだ。”Fortitude” を書いているときは、星の配置が完璧だった。バンドの成功は最高潮に達していて、ツアーもうまくいっていたから、僕たちはただ曲を書くだけだったんだよ。”Magma” の時のように、感情的に苦しい立場に置かれていたわけではなかったんだ」

Duplantier 兄弟の母、パトリシア・ローザの死を受けて完成した “Magma” は、悲しみと憂いの深い灰色に彩られたレコードで、もちろん悲しみ一辺倒ではないにせよ、ある種居心地の悪さを感じさせた作品でもありました。ゆえに7枚目のアルバムは、より明るく、よりポジティブなものにする必要があったのです。”Magma” が親密で内なるものだったのに対し、”Fortitude” はより外に向かって、パンチの効いた、政治的なアルバムへと意図的に反転させられました。そうして、粗野でブルージーな “Yellow Stone”, 荒涼とした雰囲気の “Liberation” のように、新たな音楽的モチーフを取り入れながらも、彼らの鋭いシグネチャー・サウンドの探求と拡大には、さらに大きな「自由」が必要だったのです。
「ルールはない!」
Joe は、イギリスの過激なオルタナティブ・ロックバンドである PORTISHEAD や RADIOHEAD を引き合いに出し、予想外のサウンドを自由に展開するためのインスピレーションを得たと宣言します。さらに、伝統的なロック、ブルース、アメリカーナの再評価をも提案。これは、MASTODON のギタリスト、Brent Hinds との深い対話によって、子供の頃に受けた影響が再認識されたものでした。
「僕にとっては、いつも不協和で奇妙で攻撃的であることが重要だったんだ。でも、ロック、ブルース、プログレッシブなど、長い間見下していた音楽のエネルギーは、他のメンバーや自分が年を重ねるごとに、その良さがわかってきたんだよね。だからこのアルバムでは、もっと積極的に、もっと派手に、もっと楽しく、何か違うものを表現したいと思うようになった」
“Magma” の “エネルギー” から、バンドのサウンドを前進させたいと語る Joe。アメリカで過ごした10年間で、二重国籍の英雄はその発音も少し変化しました。そして彼の Silver Cord スタジオに流れる作品は、ロングアイランドのマスコア・マニアック CAR BOMB, パリジャン・メタルコアの新星 RISE OF THE NORTH STAR, マサチューセッツのヒップホップ・ロック HIGHLY SUSPECT など、さまざまなバンドへと幅が広がり彩られています。Joe は、2019年にリリースされた HIGHLY SUSPECT のクールなトラック “SOS” にゲスト参加したことが、変化の契機だったと証言しています。
「繊細であったり、”泣き虫 “であったりしてもいいんだということを教えてくれたからね。最初は恥ずかしいと思っていたけど、妻に聴かせたら『あら、セクシーね』と言ってくれたんだよね」

メガ・レーベル Roadrunner Records が、GOJIRA の “独立性と経験” を信頼してくれたことで、Silver Cord は2年間のクリエイティブな「繭」となれました。エンジニアのヨハン・マイヤー(彼らのライブ・サウンドも担当)がすべての段階でバックアップし、同じ空間でデモとレコーディングができるという快適さもあって、これまでにないほど多くのアレンジが試みられ、楽曲が書かれたのです。
「ソロも弾いているんだよ。だけど、アルバムから追い出された2曲にはキラー・ソロが入っていて、”ふざけやがって!”と思ったね」
さらに、SLAYER の “Reign In Blood”, NIRVANA の “Nevermind”, LIMP BIZKIT の “Chocolate Starfish…” などを手がけた伝説のプロデューサー、Andy Wallace がミックスを完成させました。
アルバムの制作は Joe にとって楽しめるものなのでしょうか?
「95%の確率で、惨めな気持ちになる。史上最高の曲を書こうとしているのに、それが実現しない。僕たちは自分の悪魔に直面している。自分のエゴに直面しているんだよ。失望や自己嫌悪にね。人生の中で、アルバムを作ることを選択したその時期には、自分のベストを尽くさなければならないんだ。多くの場合、それは苦痛だけど、正しいリフの組み合わせや良い歌詞を見つけたときには、とても報われることもある」
当初、サプライズ・リリースの時期は、2020年6月とされていました。しかし、ロックダウンが続いたため、9月に延期。ステージへの復帰が差し迫っていないことが明らかになると、さらにそのスケジュールは延期されました。リリースの前提としてツアーを行うという従来の考え方から脱却するには時間がかかりましたが、最終的には、エネルギーと衝動を抑えることができなくなったのです。
「今、僕たちは違った見方ができるようになった。ツアーをしてもしなくても、何があっても作品をリリースするんだ」
“Fortitude” は、まさに自由になることを求めるレコードです。Joe が目標とした解放感が脈々と流れ、完成した作品はポジティブなパワーと肯定的な暖かさに輝いています。GOJIRA のトレードマークであるテクニカルとヘヴィネスの光沢、狂った拍子記号と決定的なシンコペーションはもちろんすべての源流として存在しますが、個々の楽曲はよりオープンに進化を遂げ、時折、推進力のあるエネルギーをポスト・メタルやスタジアム・ロックの領域に向けて走らせることさえあるのですから。
重要なのは、”Flying Whales” の底知れぬグルーヴや、”Born In Winter” の氷のような壮大の中で、”Fortitude” の広範なコンセプトが生と死、自然とスピリチュアリティというテーマに沿って解き明かされ、音楽とテーマとの刺激的な交わりがあるということです。

モダン・メタルの多様性は、何もその音楽のみに範囲を限定するわけではありません。その思索や哲学も実に多様で包容力に満ちています。「消えてしまうことへの原始的な恐怖/虚空で幽霊になること…」実存主義者の亡霊が死の本質を探るオープニング曲 “Born For One Thing” は、完璧な入り口のように感じられます。2008年にリリースされた “The Way Of All Flesh” で徹底的に追求されたテーマは、ブリュッセルにある壮大な中央アフリカ王立博物館で撮影された変幻自在のミュージック・ビデオに匹敵するほどの躍動感をもって進行し、高められていきます。
「僕たちは皆、死ぬんだから、生の手放し方を人生で学ぶ必要がある。死は大きな意味を持ち、誕生と同じように人生の一部だけど、タブーだよね。でも夜が昼になるのと同じように、僕たちは死や衰えの概念とわかり合う必要があるんだよ。自分の体がある日突然機能しなくなるという考えに平安を感じることができれば、より寛大で思いやりのある人間になることができ、”必要のないものを持ち続けない” ことができるだろう。仏教では、7つ以上の物を所有すると苦しみ始めると言われている。これには何か意味があるんだろうな」
印象的なのは、”The Grind” “砕く” というテーマが複数のトラックに浸透していることです。最初の「I’ve been grinding and grinding…」「どんどん砕かれていく」という嘆きは、巨大なクローザーである “Grind” の「surrender to the grind」「俺は砕かれない」という宣言によって反転し、解消されます。この一見逆説的な歌詞の対比は、もちろん冒頭の 「世界にものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ」という発言に通じ、物事を先延ばしにしたり、頭を砂の中に埋めたりしないようにとの戒めともなっています。
「人間としての自分に身を任せる必要があるんだ。規律の中にこそ、自由がある。毎晩、寝る前に皿洗いをしておけば、朝になっても汚れた皿は残っていなだろう?人生には終わりがあるという考えに平安を感じることができれば、より幸せに生きることができるだろうね」
死と折り合いをつけることの重要性。それ以外にも、”Fortitude” には世界を旅するような冒険心が存在しています。”Amazonia” は、SEPULTURA の “Roots” のようなトライヴァルな雰囲気を醸し出していますが、これは Joe が2000年代後半にCAVALERA CONSPIRACY のベーシストとして活動していたことにも関係しています。ただし、森林伐採に対する環境保護のメッセージ(「This fire in the sky… The greatest miracle is burnings to the ground」「空を火が覆う。最高の奇跡が焼け落ちてしまう」)は、まさに GOJIRA そのもの。不屈の精神とは、先住民のコミュニティーにたいする敬意の表れでもあるのです。
“Sphinx” は、エジプトの巨像に敬意を表し、切り出された石灰岩のように重く、デスメタルの伝説である NILE も誇りに思うような野蛮さを誇っています。イギリスからの影響も顕著で、”Hold On” では、後期 IRON MAIDEN のような壮大なプログレッシブ絵巻が意図的に展開されています。一方で、”The Trails” は、ピーク時の DEFTONES のように、不気味で囁くような神秘的な雰囲気を醸し出しています。

しかし、音楽的にもコンセプト的にも、明らかに中心となるのは “The Chant” でしょう。インストゥルメンタルのタイトルトラックと並んで、ブルース、ゴスペル、アメリカーナを組み合わせたこの曲は、リスナーに「自分を取り戻し、上に立つ…強くなるんだ!」とリスナーを励ますシンプルな歌詞の組み合わせがこれまでの GOJIRA とは全く異なるものです。Joe が強調するように、この曲は “Fortitude” のコンセプトを究極に凝縮したものであり、ショーが再開されたときに忘れられない夜になることをファンに約束する誓いの手紙でもあるのです。
「通常、僕たちは観客を破壊するために曲を作る (笑) だけどこれは、彼らを一つにするための試みだったんだ」
アルバムのインスピレーションを得るために、Mario は兄にいくつかの絵画や芸術作品を見せました。その中には、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1898年に描いた “パラス・アテナ” も含まれていました。
「美しい絵だよね。彼はさらに戦士や騎士の例をいくつか見せてくれて、最終的には円卓の騎士と先住民族の文化をミックスしたアートワークになったんだ。アルバムの精神を表しているよ。言葉とビジュアルの相性がとても良いんだ」
ある意味で、”Fortitude” は芸術家の息子としての幼少期への頌歌でもあり、気候危機のトラウマだけでなく、それ以上のものを探求しています。”Born for One Thing” は、両親が愛したタイやチベットの哲学を参照しており、”The Trails” は子供のころ流れていたメランコリックとさえ言えるプログポップにも通じ、故郷のラジオから聞こえてきてもおかしくはないでしょう。
「両親が THE BEATLES や PINK FLOYD を聴いていたとき、僕たち兄弟はとても楽しい時間を過ごしていた。だから、その要素を少し加えたいと思ったんだよね」
“Born for One Thing” で提示されている “集団的昏睡” というアイデアは、現代社会の象徴である消費主義というテーマと結びついています。
「消費する方法を変えることは、物事を変える力につながる。例えば、僕は8年ほど前にヴィーガンになったんだけど、その理由は動物を虐待していることに気づいたから。これを人に言うと、「何を言っているんだ?牛乳の箱には “牛は外で育てられている” と書いてあるだろ?工場で飼われている動物じゃないんだから」と言われたりする。でもね、ミルクを作ってくれるおばあちゃんがいて、名前のある牛を飼っていて、その牛を愛情を込めてペットにしているなら、それはそれでいいと思うよ。でも、市販のミルクはそうじゃない。人は事実から逃れるために物語を語り、責任を感じなくて済むようにしたいものだ。僕たちは、自分の手で責任を取る必要があると思うよ。何かを買うときには、少なくとも自分が世界に与える影響を意識したいものだよね。
物事を変えるためには、正しい人に投票すればいいというのは幻想だよ。まずは、自分から始まる集団的な努力が必要なんだ。個人の目覚めこそが、唯一成功する革命なんだよ。このアルバムには市民的不服従の考えが根底にあるけど、行間を読まなければならないよ。市民的不服従とは、ルールに盲目的に従わないこと。クールになるために法律を破る必要はもちろんない。だけど、僕が言いたいのは “自分で考えろ ” ということなんだ。周りを見渡して、自分が世界に与える影響を考える。これこそが僕たちの持つ大きな武器なんだ。ただ、シンプルな選択と日々の習慣が世界を変えていく」

例えば、OPETH の “Heritage” のような大きな変革をもたらした作品と言えるのかもしれません。
「そう思う。アルバムのセッションを始める前に、僕は2ヶ月間、自分たちの曲の書き方やアレンジの仕方を深く分析したんだよね。”Fortitude” 以前の僕たちは、曲作りの公式を考えたことがなかったんだ。つまり、実際には何の構造もなく、ただ何となく組み合わせていただけなんだよね。例えば、良い曲には最低でも3つのコーラスが必要だし、過去の僕たちの音楽の扱い方は非常に実験的なアプローチだった。まあつねに、明白なパターンを避け、ルールの外にある音楽を作り出そうと努力していたからなんだけど。”Toxic Garbage Island” を例にとると、この曲には構造がないんだよね。コーラスもない…何もない! だから、”Fortitude” では、すべてをもう少しバランスよくしたいという気持ちがあって、Joe にこのアルバムでは、コーラスとヴァースを確立したいと言ったんだよね。これが作品全体に大きな力を与えていると僕は考えているよ」
“The Trails” で Joe の歌声は、グロウル、クリーンを経てさらにもう一つの大きなジャンプ、メロディアスへの移行が感じられます。弟はその変化について敏感に感じ取っていました。
「”Magma” の “Shooting Star” や “Lowlands” から始まった試みだと思うけど、この10年間 Joe は自らのボーカルを向上させることに真剣に取り組んできたんだ。僕たちは、さまざまなタイプの音楽を聴いて育ったからね。メタルから THE BEATLES, MASSIVE ATTACK, PORTISHEAD など…真の音楽好きなんだ。ジャムるときは、ファンク・ロックのようなものを演奏してしまうことだっめあるんだよ。 最近の多くのバンドのように、他にサイドプロジェクトを持っているメンバーもいない。つまり僕たち4人にとって、GOJIRA は唯一の音楽活動の場だから、自分たちの個性の すべての側面を表現する必要があるんだよ。僕たちは皆、”メタル・ヘッズ” ではあるんだけど、音楽を愛する者でもあるんだよ。だから、Joe にとっては、自分が自然にやりたいと思ったこと、必要としたことに向かって進化していくしかなかったんだよね。今、彼はシンガーとしてこれまで以上に自信を持っているよ」

GOJIRA の未来に目を向けるためには、過去の栄光を振り返るべきでしょう。2018年、Bloodstock Open Air のヘッドライン・ショーは、雨に打たれた2万人の観客がダービーシャーの泥の中に叩き込まれただけでなく、2006年の英国でのデビューからフェスティバルでの初のヘッドラインに至るまで長い道のりを歩んできたバンドにとっても画期的な出来事でした。
自分が聴いて育ったバンド CANNIBAL CORPSE がオープニングを務めるというスリル、経験は、これから起こるであろうもっと素晴らしい夜に向けての “食欲” を存分にそそるものでした。
“Fortitude” の完成から、その欲求は高まる一方です。しかし、今後の展望について、Joe は希望に満ちている一方で、大げさな表現には躊躇しています。
「ミュージシャンの人生は必ずしも楽ではない。僕たちは今、副業をしなくてもやっていける状況にある。これは素晴らしいことだけど、それでも金持ちには程遠い。大きな家や莫大な銀行口座を持つロックスターではないんだよ。今は家さえ持っていない」
大きな舞台や多額のギャラへの憧れが、芸術的な目的に影響を与えることはあるのでしょうか?
「答えは、イエスでもありノーでもある。人生では、自分がなぜそうするのか、100%はわからないものだよ。頭の中や心の中で起こっていることを、僕がとやかく言うことはできないんだ。曲を作るとき、もちろん売れることを願っているよ。だけど、それだけじゃなく、僕たちはアーティストであり、人間であり、哲学者であり、多くのことを考えている。僕は、自分が書いた言葉1つでも妥協する必要はないと思いたいし、すべての音楽的なアイデアは心の中からまっすぐに出てくるものだと信じている。それが僕たちのコンパスなんだ。音楽には生きている実感が必要だ。共鳴する必要があるんだよ。たとえ誰かが100万枚売れると言ったとしても、僕たちにとって魅力的な要素がなければ、それはゴミ同然のものなんだ」

サイクルとレガシーというテーマを掘り下げてみましょう。GOJIRA は24年後、そしてブレイクした3rdアルバム “From Mars To Sirius” から約16年後に、より広いメタル・ファミリーの一部として自分たちをどのように見ているのだろうか。新世代のバンドが彼らのアイデアを拾い上げて使用しています。
「人生は短いし、あっという間に過ぎてしまうから、今あるものに集中したほうがいい。僕は、自分たちより速いバンドやクールなバンドのことはあまり気にしない。流行に敏感でありたいと思っているけど、自分たちの芸術的センスは非の打ち所がないと自信を持っているからね。音楽的にもビジュアル的にも、僕たちは自分たちの世界を持っているんだ。長い間、この領域、つまり自分たちが開発しているこの芸術と実体の完全性に取り組んできたんだ。この作品には価値があると確信しているよ。まるで鉱山を見つけて、それをまだ掘り続けているようなものさ。あと数枚のレコードを作るための燃料は確実に残っている。僕たちのビジョンはまだ完全には達成されてはいないからね」
つまり今のところ、 Joe は未来に向かって努力することと、1つ1つの勝利を大切にすることだけを考えています。これまではバンドのために犠牲になっていた家族との “素晴らしい瞬間” を大切にしながら。このアルバムを、長い間待っていてくれた多くのファンに届けることは、重要なこと。そして、GOJIRA が再び脚光を浴びることで、Joe の中にある正義の焔が再び燃え始めるのは必然に違いありません。
「僕は自分を活動家だと思っている。文章やアイデアで誰かを感動させるたびに、誰かが同意するたびに、価値のあるプロジェクトが日の目を見るたびに、僕は活性化されるんだ。僕の中には、決してあきらめない、屈しない、絶望しないというセーフティネットがある。それは、音楽や思考、一体感やコミュニティを通して、人間性の美しさを感じているから。僕たちの中には、とてつもなく大きな力があるよ。僕はそれを信じているし、そのために戦うことを決してやめないんだ。歌を通して、会話を通して、インタビューを通して、芸術を通して」
GOJIRA は最後まで信じられるバンドです。興奮と皮肉を込めて自分たちの未来を見つめています。
「長く愛されるバンドでありたいと思っているけど、同時にそうは思っていない。人類は大きな問題を抱えている。解決しなければならない問題をね」

参考文献: KERRANG!: Inside Gojira’s new metal masterpiece… and their fight for our future 

THE GUARDIAN:‘Nature is hurting’: Gojira, the metal band confronting the climate crisis

SPIN:Gojira on New LP Fortitude, Escaping Our ‘Collective Coma’

OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – GOJIRA “THE ULTIMATE GOAL WAS TO GET RID OF OUR DARKER SIDE!” MARIO DUPLANTIER

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE BEAST OF NOD : MULTIVERSAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE BEAST OF NOD !!

“Some Of Paul’s Favorites Are Yu Yu Hakusho, Hunter x Hunter, And One Piece. He Is Also a Very Big Fan Of Zelda, Final Fantasy, And Castlevania Games, Often Wearing a Zelda Shirt On Stage.”

DISC REVIEW “MULTIVERSAL”

「僕たちの音楽はすべて、同じ多元宇宙と、その中のキャラクターや出来事をテーマにしているんだ。宇宙の運命がかかった銀河間の紛争に備える必要から始まり、その紛争に参加し、悪の存在であるカオスが解き放たれて宇宙を終わらせる。その後、新しい多元宇宙の誕生に移り、多元宇宙の守護者が設立され、次の潜在的な脅威が紹介されていくよ」
ベイエリアの銀河系間デスメタル・バンド THE BEAST OF NOD は、その”多次元宇宙” という壮大なアルバム・タイトルからして無限の可能性を秘めています。戦争とサバイバルをテーマとした銀河系 SF の大作として、いくつもの宇宙にまたがる未曾有のドラマがメタルサウンドで描かれるカタルシス。間違いなく、このインターギャラクシーな獣の野心は、メタル世界を多次元の “目覚め” へと誘うはずです。
「幽遊白書、ハンター×ハンター、ワンピースなどは大のお気に入りだね。また、ゼルダ、ファイナルファンタジー、悪魔城ドラキュラといったゲームの大ファンでもあり、ライブ・ステージではよくゼルダのTシャツを着ているよ」
原子物理学者で MIT の博士号を持つギタリスト Dr. Gore と、バイオテック業界で働いていて、生物学と化学のバックグラウンドを持っている Paul Buckley を中心人物とする THE BEAST OF NOD は、その学問的知識の泉とゲームやアニメへの愛情を自らのメタル作品へと惜しみなく注ぎ込んでいます。
Land of Nod の伝承の敵ヴァンパイアに焦点を当てた、アクション満載の SFメタルデビュー作 “Vampira” には、悪魔城ドラキュラやロックマンに影響を受けたと思われるコミックブックが付属していました。そうしてリスナーは、宇宙の運命がかかった銀河間の紛争、悪の存在であるカオスと宇宙の終焉、新たな多元宇宙の誕生へより深く没頭して理解することが可能となったのです。ある意味、あの素晴らしき DETHKLOK は彼らの雛形でしょう。
「Joe Satriani は、Dr. Gore が本格的にギターを弾き始めた頃に最も影響を受けたミュージシャンの一人なんだ。サッチ以外で影響を受けたのは、Reb Beach、Tosin Abasi、そして Yngwie Malmsteen だろうね。また、バッハをはじめとするバロック音楽の作曲家にも大きな影響を受けているよ」
SFやコミックだけでなく、”Multiversal” はギタリストの天国としても充分に野心的です。Joe Satriani, Michael Angelo Batio, ABIOTIC の John Matos, WORMHOLE の Sanjay Kumar, EQUIPOISE の Nick Padovani, BLEAK FLESH の Matias Quiroz、さらに Michael Angelo Batio, Joe Satriani といった大御所までがゲストとしてシュレッドを繰り広げる作品には、さながらアステロイドベルトのように印象的なシュレッドが所狭しと敷きつめられています。まさにシュレッドの小宇宙。
「”Tech-death” の領域に入ることで、より速く、より複雑な音楽を演奏するというチャレンジを楽しむことができたし、プログの影響を受けることで、よりユニークなサウンドを開発することができたと思う」
何より、宇宙から降りそそぐ聴覚の電磁波は絶対的です。指さばきが音速を超える複雑怪奇なギターリフ、異次元で巨大なグルーヴのスペクトル、地球外のエイリアン・ボーカル、近未来的な空間を演出するシンセサイザー。BETWEEN THE BURIED AND ME のプログレッシブな審美眼、BORN OF OSIRIS のアトモスフェリックな美宇宙、THE HUMAN ABSTRACT のクラシカルな素粒子、ANIMALS AS LEADERS のユニークな星間風、そのすべてはダークマターのようにアグレッシブに結合して、THE BEAST OF NOD という巨大な宇宙船までリスナーをトラクター・ビームで誘導していくのです。
今回弊誌では、THE BEAST OF NOD にインタビューを行うことができました。「僕たちは自分たちをインターギャラクティック・デスメタル・バンドと呼んでいるんだけど、作家や映画だけでなく、アニメやコミックにも大きな影響を受けているんだ」どうぞ!!

THE BEAST OF NOD “MULTIVERSAL” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WHEEL : RESIDENT HUMAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SANTEI SAKSALA OF WHEEL !!

“Tool Is One Of The Greatest Bands Of All Times And Being Compared To Them Doesn’t Feel Bad At All. Being Their Successor Or Not, That Is For The People To Decide, We Will Just Keep Making Music!”

DISC REVIEW “RESIDENT HUMAN”

「WHEEL (車輪) という言葉が僕たちのアート制作のイデオロギー全体を表しているように感じたんだよね。それは、継続的でありながら、常に過去だけでなく未来にも目を向けているという意味でね。音楽においても、人生全般においても、新しい領域やアイデアを探求するムーブメントの象徴だからね。頻繁に出発点に戻ってくるけど、それでも僕たちは常に前に進んでいる」
技術の進歩により、音楽はお手軽に作られ、お手軽に聴かれる時代になりました。制作にもリスニングにも異様な労力を消費するプログレッシブ・ミュージックは、いまや風前の灯火です。
かつて世界を作ったプログ・ロックの巨人たちは次々に鬼籍へと入り、労力以上の見返りなど得られるはずもない現状に新規参入者、新たなリリースは目に見えて減っています。そんな中、フィンランドの4人組 WHEEL には、”車輪の再発明” を通してエンジンを生み出すほどに前向きなエナジーと才能が備わっているようです。
「北欧のプログ・メタルと僕たちに共通しているのは、新しい領域を開拓し、自らの道を見つけようとする意欲があるところだと思う。だから当然だけど、WHEEL にとってインスピレーションの源となっているよ。例え、直接的な影響を受けたわけではないとしてもね。OPETH は独自の道を歩み、期待に屈しないことで音楽的な強さを見出した素晴らしいお手本だよ」
メロデスやヴァイキング・メタルが深く根差した北欧にも、OPETH, PAIN OF SALVATION, SOEN といったプログメタルの孤高は存在します。他とは違う道を歩む確固たる意志を胸に秘めつつ、やはりその背後には北欧の暗く美麗な空気を纏いながら。
TOOL の正当後継者と謳われる WHEEL にも、当然その血脈は受け継がれています。そうして彼らは、自らの “カレリアン・シチュー” に KARNIVOOL の知的なアトモスフィア、さらに青年期に影響を受けた SOUNDGARDEN や ALICE IN CHAINS の闇をふりかけ、コトコトと煮込んで熟成させたのです。
「僕たちは、作曲家として、ミュージシャンとして、そしてバンドとして、自分たちを成長させ続けたいと思っていたし、これまでにやったことのないことを今回もやりたかったんだ。”Moving Backwards” には満足しているけど、同じアルバムを繰り返し作ることはしたくなかったんだよ」
ただし、彼らは成功を収めたデビュー作 “Moving Backwards” の場所に留まり続けてはいません。WHEEL 2度目の旅路 “Resident Human” を聴けば、そのオーガニックで生々しいプロダクションに驚くはずです。そしてその変化は、そのまま Aki & Santeri が構築するリズムのパーカッシブな飛躍へと繋がりました。もちろん、その手法を取ることで彼らは、TOOL, RIVERSIDE, KATATONIA, DEAD SOUL TRIBE といった現代プログ変異種の影響を、より存分に咀嚼し、養分とすることが可能だったはずです。
さらに紐解けば、骨太でダイナミズムを重視したその音像は、RUSSIAN CIRCLES のようなポスト・メタルの鼓動ともシンクロし、奇しくも “プログ” “オルタナ” という同じ根を持つ DIZZY MIZZ LIZZY の最新作 “Alter Echo” の目指す先へと歩みを進めていきます。
「基本的には、何も声を上げないないのが最悪だと思っている。1枚のアルバムや1人のアーティストが、今の世界の仕組みを変えることはできないと思うけど、意見を発信するたびに少しは変化が生まれ、物事を良い方向に変えることができるはずだよ」
陰鬱な雰囲気が漂い、パーカッシブなエッジが際立ち、非常にシリアスなアルバムは、過去12カ月間に起こった出来事に大きな影響を受けています。パンデミック、BLM、気候変動。もう私たちは無関心な幸せのままではいられません。
“Resident Human” に収録されている7曲は、現代社会とそこに巣食う闇、分断に纏わる人の感情を的確に表現しています。”Dissipating” の怒りやフラストレーションも、”Hyperion” の親しみやすさも、”Old Earth” のメランコリーと後悔も。
今回弊誌では、ドラマーで中心人物 Santei Saksala にインタビューを行うことができました。「TOOL の後継者であるかどうか、それは人々が決めることで、僕たちはただ音楽を作り続けるだけだよ」 どうぞ!!

WHEEL “RESIDENT HUMAN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AD NAUSEAM : IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AD NAUSEAM !!

“We Would Like To Contribute Bringing Metal Music Sound Approach To a Different Level In The Future. There Are Many Listeners That, Like Us, Are Deeply Tired By The Fake Plastic Sounding Records That Are Trending Since The Last 20 Years.”

DISC REVIEW “IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE”

「将来的には、メタルのサウンド・アプローチを別のレベルに引き上げることに貢献したいと考えているよ。僕たちと同じように、過去20年間のトレンドである偽のプラスチック・サウンドのレコードに深く疲れている多くのリスナーがいるからね」
機械化されたダンス・ミュージックも、そのバカげた単調さも、そんな音楽を使うクラブも、すべてが100% 大嫌いなんだ。アナログの録音を極めたエンジニア、かの Steve Albini はかつてそう言い放ちました。デジタルに支配された我々は、たしかに繊細で温もりのある生のレコード、その音響を忘れつつあるのかもしれません。それは、耳に鮮やかな添加物にまみれた、メタル世界も同様でしょう。
「ここ数年、メタルの中で音質の平均値が大きく下がっているから、僕たちのようなアルバムは目立ちやすいんだろうな。例えば、ダイナミクスを重要視している作品はほとんどないよね」
近年、その実験精神とこだわり抜いたコンセプトで注目を集めるイタリアのメタルシーン。中でも、”吐き気がするまで追求する” をバンド名に掲げる AD NAUSEAM の献身はもはや狂気の域でしょう。現状に不満があるなら、自ら創造する。ここには、大げさで滑稽な偽物のプロダクションは存在しません。アーティスト本人がエンジニアリングを学び、専用のスタジオ・マシン、キャビネット、アンプ、ドラムキット、さらにはマイクの設計にまで趣向を凝らしたスタジオを建設。すべてはただ、自らが心地良いと感じるサウンドを構築するためだけに、AD NAUSEAM は途方もない労力を注ぎ込んだのです。チューニングも既存のものとはかけ離れています。
「いくつかのオーケストラ・パート( “Sub Specie Aeternitatis” の最後と “Inexorably Ousted Sente” の最初)は、60以上のヴァイオリンを重ねて、彼自身が1つずつ録音したものなんだよ」
6年の歳月をかけて制作された最新作 “Imperative Imperceptible Impulse”。Bandcamp で販売されている “フル・ダイナミック・レンジ” のアルバムを聴けば、この作品が現代のメタル・サウンドとは全く趣を異にする音の葉を響かせることに気づくはずです。
全体の音量は隅々まで見渡せるようにコントロールされ、さながら精巧なタペストリーのごとくすべての楽器が入念に折り重ねられています。ドラムの幽霊音、ギターの息遣い、そしてベースの呪詛まで、生々しく肉感的な三次元の重苦しいオーケストラは、そうしてリスナーの部屋までライブの興奮を運んで来るのです。実際、その録音手法はクラッシックの原理。
「メタルに様々なジャンルのダークな不純物を加えて溶かしたいという本質的な衝動は、最初は不十分な試みだったけど、たしかにそこにあったんだ。新しいものを作るには、自分の限界から一歩踏み出さなければならないことを理解するべきさ」
アルバムは、例えば LITURGY, 例えば KRALLICE, 例えば IMPERIAL TRUMPHANT といった今メタルシーンを牽引する複雑怪奇な NYC の魑魅魍魎とシンクロし、奇しくも同じ方向を向いています。デスメタルやブラックメタルと、ジャズや現代音楽の不協和な錬金術。ただし、NYC の新鋭たちが意図的にラフでアンダーグラウンドなイメージをそのサウンドに残しているのに対し、AD NAUSEAM の合成法は実に緻密で繊細。
テクニックの粋を尽くしながらギターソロさえ存在しないダークな音の不純物は、奇抜に躍動しながらもすべてが正確無比な譜面の中へパズルのように収まります。それは、NEUROSIS とGORGUTS の踊る地獄のの祭典でしょうか。ストラヴィンスキーはひとつのキーワードでしょう。マスコアやテクデスの洗礼も浴びながら、ヌルヌルと蠢く百鬼夜行が奏でる呪詛は、そうしてリスナーを吐き気がするまで何度もリピートへと誘うのです。
彼らにいわせれば、単なるリフの連続ではなく、音が過去を参照したり、未来を予測したりする秩序。不調和によって和声が得られ、不協和音によって旋律が得られるような音楽。真のアヴァンギャルド。
今回弊誌では、AD NAUSEAM にインタビューを行うことができました。「このアルバムは、18年間の研究と実験の結果なんだ。Steve Albini のサウンド哲学は、僕たちの哲学ととても近いものがある。自分よりも優れた人から学ぼうとするのは自然なことだよ。そして、彼はおそらくこの業界で最高の人だ」 どうぞ!!

AD NAUSEAM “IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IOTUNN : ACCESS ALL WORLDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JESPER GRAS OF IOTUNN !!

“The Immense Exploration That Was So Essential To Rock Music In The 60’s And 70’s Are Now an Essential Part Of Big Parts Of Metal Music, I Think That Makes The Coming Years And Decades Of Metal Music Extremely Exciting.”

DISC REVIEW “ACCESS ALL WORLDS”

「このアルバムは僕にとって創造性にフォーカスした作品だ。真に探求し自由であろうとする創造性は、文明や社会、人間の生活に光を当てるもので、逆に言えばそういった場所からこそ創造性は生まれるんだ。つまり、すべては生命で、共に呼吸しているんだからね」
デンマーク、フェロー諸島の雄大な自然、神秘的な伝承、豊かな感情に囲まれて育った IOTUNN のメンバーにとって、音楽とは変化を続ける人生を表現する手段です。その逆もまた真なり。滴り落ちる音の雫には、表現者の絶え間ない営みが宿っているのです。
「デンマークのメタルシーンは非常に良い状態にあり、常に動き続けているから、そこに参加していて本当に楽しいんだよ。MYRKUR は、僕にとってこの波を象徴するアーティストなんだ。彼女は、音楽をこれまでのデンマークのメタルアーティストが到達したことのないような場所までに持っていこうとしたんだよ。そして、音楽と自然、時間軸を超えた物語、感情を結びつけることの重要性を示したと思うね」
Lars Ulrich のルーツにして KING DIAMOND の母国デンマークは、古くから様々なメタルの交差点でした。PRETTY MAIDS, DIZZY MIZZ LIZZY, ARTILLERY, SATURUNAS, MANTICOLA。彼らが纏った、常に変化を誘う自然と空間、時間、感情の多様な繋がりは、今、VOLBEAT, MYRKUR, VOLA, MOL といったデニッシュ・メタル新たな波へと増幅されながら引き継がれているのです。
「IOTUNN とは、古ノルド語で “巨人” を意味する言葉なんだ。僕にとってこの言葉は、絶え間ない変化と変革を強いる自然と宇宙の力を表していて、それによって人間の謙虚さ、好奇心、そして人生や創造性における開放性をも表そうとしているんだよ」
遅れてきたデンマークの巨人は、デビューフル “Access All Worlds” で文字通り、メタルに根差すすべての世界へとアクセスし、変化を恐れず表音力の限界を突破します。巨人に似つかわしい巨大なサウンド。アグレッションの畏敬からアトモスフェリックな没入感まで、グルーヴとメロディーの多彩な感情に彩られたレコードは、壮大と荘厳を極めながらリスナーを宇宙と自然、そして人生の旅路へと誘います。BARREN EARTH や HAMFERD で世代最高の歌い手と評される Jon Aldara が紡ぐ旋律を、美しき星の導きとしながら。
「60年代、70年代のロックに不可欠だった膨大な探求心は、今ではメタルの大部分にとって不可欠な要素となっているよ。だから、多様性はメタルのこれからの数年、数十年を本当にエキサイティングなものにしていくと思う」
62分のレコードの中で、バンドはプログ・メタルの再構築、再発明に挑みました。CYNIC のスペーシーなプログ・デス、KATATONIA の仄暗きアトモスフィア、ENSLAVED の神話のブラック・メタル、INSOMNIUM の知的なメロディック・デスメタル、MASTODON の野生、それに NE OBLIVISCARIS のモダンで扇情的な響き。
重要なのは、心に響くメロディーであれ、流麗なギターソロであれ、重厚なデスメタルの力であれ、IOTUNN は先人の生きた足跡を噛み締めつつ、フェロー諸島という環境、そして自らの人生で養った表現力を遺憾なく発揮して前人未到のスピリチュアルな境地へとメタルを誘った点でしょう。その彼らの創造性という飽くなき好奇心は、アルバムを締めくくる14分、神話とSFが出会う場所 “Safe Across the Endless Night” に凝縮しています。
今回弊誌では、ギタリスト Jesper Gras にインタビューを行うことができました。「創造的に正しいと思うことは何でも行うという自由。この自由の中で僕たちは、世界で常に提示され、強制されているすべての境界線を破ろうという意思表示なんだ」 どうぞ!!

IOTUNN “ACCESS ALL WORLDS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ABIOTIC : IKIGAI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN MATOS OF ABIOTIC !!

“I Was Doing Some Reading And Fell In Love With The Concept Of Ikigai. In These Challenging Times, I Know a Lot Of Us Are Struggling With Finding Our Reason For Being, And I Wanted To Write an Album About That Struggle, Pain, And Perseverance.”

DISC REVIEW “IKIGAI”

「日本についての本を読んでいたら、”Ikigai” というコンセプトに惚れ込んでしまったんだよ。この厳しい時代に、僕たちの多くは自分の存在理由を見つけ出すのに苦労していると思う。僕はそんな苦労や痛み、忍耐についてのアルバムを作りたいと思ったんだよね」
2010年の結成以来、フロリダで最も急速に成長を遂げたデスコア/テクデスのハリケーン、ABIOTIC。5年間の活動休止で彼らは内面的にも音楽的にも遥かな進化と成熟を遂げ、彼らの存在理由、”生き甲斐” を叩きつけてみせました。
「それぞれの楽曲は、生き甲斐というコンセプトを異なるアプローチで表現している。5年の歳月を経て、宇宙やエイリアンについての作品は今でももちろん好きだけど、生き続ける理由を見つけるのに苦労するような時代に、感じられるもの、親近感を持てるものを書きたいと思ったんだ」
コロナ・ウィルスが日常を、社会を、そして音楽業界全体を破壊し続けていることは言うまでもありません。人の心まで侵される現代の恐怖の中で、ABIOTIC が復活を遂げたのは決して偶然ではないでしょう。デビュー作の “Symbiosis” や、プログレッシブ・スペース・オデッセイ “Casuistry” で宇宙や地球外生命体を探求した彼らは、遂に地上へと降り立ち、人類の現状を憂い、人と繋がりながら悲しみ嘆き、共感し、空想的なものよりも優先すべきテーマを見つけました。
「あれほど才能のあるバンドが多数所属するレーベルの一員になれて嬉しいね。アーティスト自身が運営するこのレーベルは、まるで家族のように感じられるんだ」
Metal Blade から Artisan Era へのレーベルの移動、SCALE THE SUMMIT の Killian Duarteとドラマーでありエンジニアでもある Anthony Simone を含む再編成されたラインナップ、さらに THE BLACK DAHLIA MURDER, ARCHSPIRE, ENTHEOS, FALLUJAH といった錚々たるバンドからの錚々たるゲスト陣を見れば、このバンドがメタル世界における “Symbiosis” “共生” を実現していることに気づくでしょう。そして、一欠片の獰猛も損なうことなく、プログレッシブ・ジャジーな奇譚と和の旋律が “共生” する9通りの “Ikigai” は、これまで以上に共感を誘う傑作に違いありません。
和の心、メロディー、情景、情緒を存分に取り入れた開幕の “Natsukashii”, “Ikigai” は、さながらデス・メタルで綴る日本の歴史絵巻。正確無比なテクデスの猛威に浸透する大和の雅は、リスナーの心身に映像を投影する新生 ABIOTIC の哲学を承知しています。
「不寛容さに直面しているトランスジェンダーとしての人生、依存症患者としての人生、メンタルヘルスと闘っている虐待を受けた子供としての人生、気候変動によって住処が破壊されたフクロウとしての人生など、無限の人生は苦悩しながらも、その苦悩に耐えているんだよね。そして、16世紀の日本の野山で息を引き取る前に、彼はその生のつながりに自分の目的を見出すわけさ」
アートワークの侍は、”Ikigai” で切腹を遂げる今際の際に、21世紀におけるさまざまな人生の苦悩を走馬灯のように目撃し、共感します。
トランスフォビアによる虐待と自死をテーマとしたリード・シングル “Souvenir of Skin” のように、侍が目にする苦痛はすべてが21世紀のもの。切腹の果てに訪れるやるせない未来は、重さを極めながら記憶に残る ABIOTIC の哀しみと濃密な二重奏を描いていきます。さながら、Travis Bartosek の重低咆哮と、TBDM の Trevor の雄叫びがシンクロするように。
FALLUJAH の Scott Carstairs が嗚咽と希望を壮大なスケールのギターソロで表現し、バンドがソングライティングの粋を尽くして GORGUTS の異形やメロディーを重ねる “Horadric Cube” は傑出した瞬間ですし、CYNIC の宇宙と諸行無常が ex-THE CONTORTIONIST の Jonathan Carpenter の美声によって無限に広がる “Grief Eater, Tear Drinker” はアルバムの痛みそのものと言えるでしょう。
重厚なストリングスに導かれる “Gyokusai” で侍は生きる意味を見出します。ただし、すべては遅すぎました。死はもう始まっていました。辿り着いたのは永遠の休息。きっとリスナーには、手遅れになる前に、何かを見つけて欲しいと願いながら。
今回弊誌では、ギタリスト John Matos にインタビューを行うことができました。「アルバムの制作とアートワークは “Ghost of Tsushima” が発売される前に完了していたんだけど、人々が僕たちのアートワークと音楽をあの最高のゲームに関連付けてくれるのは素晴らしいことだよね」 どうぞ!!

ABIOTIC “IKIGAI” : 10/10

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【OPETH : BLACKWATER PARK 20TH ANNIVERSARY】PROG MUSIC DISC GUIDE RELEASE SPECIAL !!


OPETH “BLACKWATER PARK” 20TH ANNIVERSARY

WHEN TWO MODERN PROG GIANTS COLLIDE

“Blackwater Park” という言葉は、多様なモダン・プログが話題になる時、さまざまな文脈で必ず出現します。
「 このレコードは、”Blackwater Park” のようにデスメタルとプログを交配しているね?」
「彼らの新作は好きだよ。”Blackwater Park” ではないけど、新しいサウンドで前進している」
Mikael Akerfeldt と Steven Wilson。モダン・プログの二巨星が初めて出会った場所。OPETH にとって5枚目のアルバムが、最も決定的で完璧に構成されたレコードであるという考えに反論するのは困難でしょう。このアルバムが当時のプログレッシブ・メタル界に与えた影響の大きさに反論することも不可能に近いはずです。今日に至るまでこのアルバムは、現代の大半のリリースとの比較対象であり続け、現代のプログレッシブ・ミュージックの重鎮たちが最も高く評価しているレコードでもあるのです。
しかし、21世紀の変わり目にせめぎあったメタルバンドの群れの中で、このアルバムを際立たせたものは何だったのでしょう?なぜこのアルバムはモダン・プログの名盤の一つとして崇められているのでしょう?それを知るためには、千年紀の変わり目、ヨーロッパの重苦しい風景に戻らなければなりません。SNSのナルシスト的な強迫観念や、ブログの前の時代で、新聞が本物のニュースソースであり、CDの売り上げが本物の指標であった時代。

90年代後半、METALLICA がスラッシュのルーツから脱却したことで、メタルの曲作りとイメージ両方に対するアプローチは変化が生じていました。楽曲はより短く、ラジオで流れやすいものに。Nu-metal はMTVを席巻し、ドレッドとトラックパンツがトレンドに。KORN, SLIPKNOT, LIMP BIZKIT, LINKIN PARK といったバンドは、ヒップ・ホップとメタルを融合させたエクストリーム・ミュージックの新たな巨匠となり、テレビやラジオを席巻したのです。
簡単に言えば、プログは完全に過去のものになりました。
1992年に DREAM THEATER が発表した “Images and Words” の成功は、ある種偶然のようなもので、PORCUPINE TREE, SYMPHONY X, MESHUGGAH といったアンダーグラウンド・コミュニティ最高の秘密は、まだ無名のまま。プログは、70年代、80年代の遺産を大事に食い潰しながら生き永らえていたのです。
一方で、厳しい冬のスカンジナビアでは、1990年代半ばに IN FLAMES, AT THE GATES などのメロディックなデスメタルが開花し、80年代半ば、メタルのピーク時から残っていた少数の人々により速く、より重い出口を提供しました。この時期の北欧は、メタルを多様に進化させた鬼才の花園でした。しかし、世紀が変わる頃には、ブラスト・ビート、グロウル、ギター・ソロが時の試練に耐えられず、メロデス自体は世間の目から下降線を辿り始めます。さらに、ダイナミクスの欠如、テーマの同一性、反復性の強調などが相まって、90年代後半にはすでにこのジャンルに対する不満も高まっていたのです。

この逆風ともとれる環境の中で、Mikael Akerfeldt はメロディック・デスメタルとプログレッシブ・ミュージックの実験を始めました。80年代後半から90年代にかけてまずスカンジナビアから勃興した新たなメタルの波。OPETH, MESHUGGAH, AMORPHIS, IN FLAMES, EMPEROR といった傑物を輩出し、WALTARI の Kärtsy Hatakka が “ポストファーストメタルタイム” と呼んだそのムーブメントは、メタルの転換期にして、モダンメタルと現在のメタルシーンにとって架け替えのない重要なピリオドとなりました。
「スカンジナビアのバンドたちは、より幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “クレイジーさ” を加えていったんだ。」
Kärtsy が語るように、ある者は複雑なリズムアプローチを、ある者はグルーヴを、ある者はプログレッシブロックを、ある者はデスメタルを、ある者はエクストリームな残虐性を、ある者はフォルクローレを “ベーシック” なメタルに加えることで、彼らはモダンメタルの礎となる多様性を築き上げていったのです。そして OPETH は最初から、驚きをリスナーに提供していました。
「僕たちは1990年に、IRON MAIDEN に影響を受けたメロディックなスウェディッシュ・メタルバンドとしてスタートしたんだ。デビューアルバム “Orchid” では、確かにそのようなサウンドだった。だけどその後、僕たちはすべてを投げ出し、音楽的な意味で一からやり直したんだ。2枚目のアルバム “Morningrise” では、そのアプローチの変化をはっきりと感じることができた。その頃には、最近僕たちのトレードマークとなっているプログレッシブやサイケデリックの影響が自分たちのものになり、曲もずっと長くなったね。スウェーデンで同じようなことをやっていたのは、EDGE OF SANITY と KATATONIA だけだったと思うな」
1994年の “Orchid” と1996年の “Morningrise”。最初の2枚のアルバムは、ブラック・メタル、デス・メタルとフォークを融合させた不可思議な作品で、Allmusic は後者を「驚くほどユニーク」と評しています。この2枚のアルバムは、獰猛と知性、そして抽象的音楽を愛する人たちに新しいスターを提供し、次のレコード “My Arms, Your Hearse” は、そのスタイルをさらに消化しやすいフォーマットに凝縮していきました。Thinking Man’s Metal などと称され始めたのも、この頃です。
「”Thinking man’s metal”という言葉は大嫌いだ。まるで僕たちが優越的な感じに聞こえる。他のどのメタルバンドよりも知的だみたいにね。この言葉を思いついた人は良かれと思って使うのかもしれないけど、実際には僕たちに害を与え、人々を遠ざけているかもしれないよ。だから、このことは忘れよう!」

1999年、OPETH は “Still Life” をリリース。このアルバムでは、デス・メタルとアコースティックな要素を融合させ、プログレッシブな精神をより深く浸透させています。しかし OPETH にとって4枚目のアルバムは、優れたコンセプト・アルバムであったにもかかわらず、彼らが費やした努力と希望に報いるまでの注目は集めることができませんでした。それでも、Peaceville Records と契約しツアーの機会が増えたことで、マスターマインド Mikael Åkerfeldt とメンバーは、大きなブレークがすぐそこまで来ているという希望を感じていました。
その予感は期待を超えて的中します。2001年に発表された “Blackwater Park” は、このスウェーデンのグループにとって大きなステップストーンとなっただけでなく、エクストリーム・メタル全体にとっても大きな飛躍となったのですから。
「最終的に、音楽を店頭に並べ、より多くの人々に届けてくれるレーベルと関わることができて、とても嬉しかったな。それまで僕たちの存在を知らなかったメディアからも注目されるようになり、ついにはきちんとしたツアーに出て、あちこちで演奏できるようになったからね。僕たちにとって重要な時期だったよ。だから外側から見れば、”Blackwater Park” が僕たちにとって大きな変化をもたらしたという感覚があるのも理解できるよ」
その理由の一つは、OPETH がステップアップとなった Peaceville を離れてさらにビッグな Music for Nations に移籍することとなり、流通やプロモーションの見通しが広がったことにありました。当初、 Åkerfeldt はこの義務的な移動に不満を抱いてい増したが、すぐにそれが最善であることに気付きました。Music for Nationsには、プロとしての態度、豊富なスタッフ、運営のためのロジスティック能力が備わっていました。この新しいパートナーシップにより、OPETH はÅkerfeldt とギタリストの Peter Lindgren が敬愛する PORCUPINE TREE の Steven Wilson をプロデューサーとして迎えることができたのです。

「僕たちが抱えていた問題は、ビジネス上のものだった。最初の10年間で4枚のアルバムをリリースしたけど、ツアーは1回しか行わなかった。10年間でツアーは1回だけ! 僕たちの作品を聴いてくれる人がたくさんいることはわかっていたけど、所属していたレーベルが外に出してくれないことに不満を感じていたんだよ。だけど”Blackwater Park” では、イギリスのMusic For Nationsと契約したことで、その状況が一変したんだ。だけど音楽的には、このアルバムはまったく変化していないと思う。注目されているからそう見えるのかもしれないけど、前のアルバム “Still Life” を聴いても、同じスタイルなんだよ」
Wilson は Åkerfeldt にメールを送り、”Still Life” の巧みなスタイルが彼のメタル愛を再活性化させたと伝えていましたが、それでも Åkerfeldt は当初 Wilson の名声と博識に怖気づいていました。しかし、ロンドンのカムデンにあるタコスバーで出会った二人は意気投合し、Wilson は “Blackwater Park” の制作に参加することになりました。
「僕たちは、”Still Life” “My Arms Your Hearse” の両方で、Fredrik Nordstrom というスウェーデン人エンジニアとコラボレーションしていた。メタルシーンでは有名で、多くのバンドをプロデュースしていて、ヨーテボリに自分のスタジオ(Studio Fredman)を持っていたからね。彼は、僕たちが外部のプロデューサーを起用するならば、自分が第一候補になるだろうと常に考えていたんだろう。しかし、残念ながらそうじゃなかった。
Wilson のことを Nordstrom に伝えたとき、彼は少し傷ついていたね。怒りはしなかったけど、明らかに動揺していた。幸いなことに、彼とスティーブンは一度会うととても仲良くなって、スタジオで問題が起こることはなかったね。お互いに理解し合い、素晴らしいパートナーシップを築くことができた。最終的に、僕たちは Nordstrom にアルバムのミキシングを任せたんだ。みんな彼を信頼していたし、仕事も素晴らしかった」

“Book of Opeth” の中でWilson は「当初は、自分に何ができるかもわからず、メタルのこともよく知らないのに、メタルバンドをプロデュースすることに不安を感じていた」と認めています。
「1995年にリリースされたアルバム “The Sky Moves Sideways” を聴いて以来、Wilson のファンだったんだ。一緒になったのは、ほとんど偶然だったけどね。”Still Life” が発売された頃、僕はようやくインターネットを始めたんだ。驚いたことに、最初に受け取ったメールの1つが Wilson からのもので、僕たちの作品をどれだけ愛しているかを綴っていたんだ。とにかく、彼に会うためにガールフレンドと一緒にイギリスに飛んで行って、食事をして、最後に僕たちをプロデュースしてくれないかと頼んだね。そして彼は、僕と同じように熱心に取り組んでくれたんだ」
OPETHのファンを満足させなければならないというプレッシャーと、バンドが必要とする冒険的スタイルも不安の要因となりました。しかし幸いなことに、Wilson は Åkerfeldt の夢の実現に最適な人物でした。熟練したプロデューサーとしての役割と、真に進化的なパフォーマーとしての役割を併せ持つ Wilson は、 “Blackwater Park” をプログレッシブ・デスメタルの歴史において、驚異的に洗練された、不可欠なパートのみで構成された、時代を超えた作品に仕上げたのです。そしてこの作品においての彼の仕事は、OPETH を後の”Deliverance” や “Damnation”、そして PORCUPINE TREE を2002年の “In Absentia” や2005年の “Deadwing” といった場所へと導くことになりました。
「多くのファンが、僕たちがメタル系のプロデューサーと仕事をしていないことを知って心配したことは知っている。だけど、彼は僕たちのサウンドを変えるのではなく、強化してくれたんだ。メタルの世界で、他の人と同じようなビッグネームを起用しても意味がなかっただろうな。僕たちは、リスクを冒したかったんだ。なぜなら、そうすることで、楽曲から最高のものを引き出すことができるからね」

ドキュメンタリー番組 “Making of Blackwater Park” では、ベーシストのMartin Méndez とドラマー Martin López が、これまで以上に集中してアルバムを作り上げたと語っています。この時点で Åkerfeldt は明らかに OPETH の中心でしたが、それでも López とMéndez と可能な限り共闘しプッシュしました。その結果、リズミカルなデュオは、より”繊細さ” と “自信” を持って演奏することを学びながら、自らの声がいかに重要であるかを感じとっていました。
制作に関して、OPETH はスウェーデンのイエテボリにあるスタジオ・フレッドマン(”Still Life” や “My Arms, Your Hearse” を制作した場所)に戻り、2000年8月から10月にかけてレコーディングを行っています。 Åkerfeldt は、このレコードがそこまで音楽的に劇的な進化を遂げているとは思っていませんでしたが、歌詞の内容は別で、これまでよりかなり自伝的で厭世的な内容になっています。ドキュメンタリー番組の中で彼は「世の中にはおかしな人がたくさんいると思うし、俺だってバカに嫌がらせを受けることもある。そういうことがあって、自分がいかに人を嫌っているかということを歌詞にしたんだ。そして、それをもっと病んだものにするため、さらにスパイスを加えたんだよ!」とコメントしています。
“Blackwater Park” のレコーディングでは、最小限のリハーサルでスタジオに入り、ほとんど歌詞を書いていない状態で制作にとりかかりました。
「”Bleak”, “Blackwater Park”, “Harvest”, “The Leper Affinity” の4曲はほぼ完成していたと思うけど、それらもスタジオで変わっていった。残りの曲は、スタジオで一生懸命、創造的に作業をしながら作ったものさ。ヨーテボリに移動する前に、バンド全体で新曲のリハーサルを3回行ったことを覚えているけどね」

バンドと Wilson はスタジオの狭い部屋に2週間寝泊まりしたあと、DARK TRANQUILLITY の Mikael が所有していたアパートに居を移しました。
「窮屈に見えたかもしれないけど、僕たちの頭の中には音楽のことしかなかったから。気が散るものは何もなく、僕たちは曲で結ばれていたんだよ。それがとても重要だった。家から遠く離れた場所(バンドはストックホルムを拠点としていた)にいると、気が散って仕方がないからね」
アルバムのオープニングを飾る “The Leper Affinity” は、当時 OPETH が得意としていた獰猛で幕を開けますが、楽器の上でボーカルがまさに唸りを上げる姿は、この曲をネクスト・レベルに引き上げています。洗練された激しさの中に、ほろ苦いフォーク・ロックの側面があり、最後には Wilson のアイデアによる哀愁を帯びたピアノのモチーフまで登場。
「Steven Wilson を感動させようとしていたんだ。彼はそれまでメタルバンドをプロデュースしたことがなかった....だから少し緊張していたと思う。俺たちが思いついたアイデアはすべて、彼に使えるかどうか尋ね、修正してもらったね。彼自身も奇妙なアイデアを出してきて、僕たちはそれを気に入り、結局使用することになった」
Akerlfedt は、ウィルソンとの共同作業がバンドのサウンドを「向上」させたと述べ、この決断がもたらしたポジティブな結果についてさらに詳しく説明しています。
「彼は、レコーディングの途中で面白い角度からのアイデアを沢山思いついた。彼のちょっとした仕事が、最も大きな影響を与えたんだ」
そういったアイデアは、Wilson が全曲で演奏したピアノのラインにも見られます。中でも、アルバムの最後に収録されている2分間のアコースティックな小曲 “Patterns In The Ivy” は圧巻です。この曲は、真のデスメタルファンの琴線に触れ、このレコードの奥底に存在する暗く冷たい「ブラック・ウォーター」な感情を象徴しています。

この「暗さ」は OPETH 初期のトレードマークですが、”Blackwater Park” では、リスナーがただ純粋に悲しみを感じられるような形で表現されています。”Benighted” のような温かくも陰鬱なアコースティック・オードが展開される “Harvest”。そのケルト・ダンスは、表面的には陽気に見えますが、痛みと不安が微かに入り混じるノスタルジックな感情へと変わり、物事が単純だった過去の世界を切望する遠い記憶を喚起します。
このレコードのすべての感情と芸術性が生きてくるのは、”The Drapery Falls” でしょう。
最初の2分間で OPETH は、プログレッシブ=変拍子や難解なギターソロという定説を覆します。メロディの力は楽器の技巧をはるかに凌駕し、穏やかなアコースティックの歌声から、心に染み入るようなギターのリード、Akerlfedt のデス・グロウルによるクライマックスまで、この曲は静寂と残忍の見事なバランスを保ち続けます。
実際、静寂と残忍の知的な組み合わせは、OPETH サウンドのバックボーンとなり、”Blackwater Park” の骨子にもなっています。”例えば “The Funeral Portrait” では、滝のように流れるアコースティック・サウンドがいつしか野太いギター・グルーヴへと変化し、葬儀の光景を複雑怪奇に進んでいきます。
Akerlfedt がアルバムで最も気に入っている “Bleak” は、前半のダークな不協和音が、悲痛を極めたアコースティックに変わっていくことで、静寂と残忍の理論が完成されています。中近東の旋律を取り入れながら、悪夢のような怒号とジャズ的な癒しの交錯に魅惑的なリード・メロディーを配し、フィナーレはこのレコードで2回使用したうちの1回、Lopez のダブルキックが炸裂。
OPETH のライブを一度でも経験していれば、タイトル・トラック “Blackwater Park” が解き放たれた刹那、会場内で起こる現象を思い浮かべることができるでしょう。不協和のギターリードから、ヘッドバンギングの波を引き起こす雷鳴のようなマーチへ。曲の中盤には、混沌と残虐を約束する不気味な間奏が訪れ、最後の強烈なダブルキックとデス・グロウルの降臨。レコードで最も速いテンポを刻んでいきます。

OPETH はサウンド・デザインの第一人者です。二人の巨匠がプログ・メタル世界に持ち込んだサウンド・デザインとは、音楽全体をマクロ的に捉え、それぞれの楽器や音が一つのまとまりとなって成立するという概念。”Blackwater Park” や “Damnation” のようなアルバムが、映画のような別世界のようなクオリティを持っているのはそのためでしょう。楽器やサウンドは、細心の注意を払って選択され、ミックスされます。アルバムのクレジットには「苦心して構想した」という一言が添えられていました。
「ちょっとかっこよく見られたかったんだ (笑)。アーティストは、自分の音楽を世に出すのに苦労していると思われたいんだよね。それにもし、このレコードを『簡単に思いついた』と書いていたら、少し傲慢な印象を与えたかもしれないだろ?
まあ実際のところ、どんなレコードも簡単には作れないものさ。常に一定のプレッシャーとストレスがある。とはいえ、2003年に”Damnation” と “Deliverancet’ の2枚のアルバムを同時に制作したときには悪夢のような出来事があったけど、”Blackwater Park” では約6週間でうまく収まったね」
OPETH はこれまでで最大規模のツアーを開始し、NEVERMORE, AMORPHIS, KATATONIA といった時代の戦友とともに、何週間にもわたって世界を廻りました。プレスのレビューは一様に好意的で、The Village Voice、AllMusic、Exclaim! といった非メタル系のメディアでさえ、このアルバムを大きく賞賛していました。”Blackwater Park” は、そのオーガニックで冒険的なプロダクション、展翅とした楽器編成、卓越したソングライティング、そして残忍さと美しさの完璧なハイブリッドによって、特別な作品であり続けています。
以降 OPETHは、このサウンドを3枚のアルバムでさらに追求することになります。破砕機のように重い”Deliverance”、キャッチーで美しい “Ghost Revelries” 、そして暗く実験的な “Watershed”。しかし、”Blackwater Park” で達成した完璧なバランスを超えることは不可能でした。2010年にリリースされた “Heritage” でバンドが突如方向転換したのは、まさにこの感情が一因となっていました。ある意味、この変化はバンドを救ったとも言えます。”Blackwater Park” の完璧な壮大さと美麗は、例えば “Reign In Blood” を発表した SLAYER のように分岐点であり、もうそれ以上探求不可能な領域なのかも知れませんから。

“Blackwater Park” は重さが感激を与えられること、対比の魔法の素晴らしさ、そして混沌の技術嵐に陥ることなく10分の曲を作ることが可能であることをメタル世界に刻みました。”Still Life” でほのめかした理想は、”Blackwater Park” で実現したのです。
純粋なメタルでなければ聴かないというファンはたくさんいるよね。僕はそれって本当に心が狭いと思う。だから、”Blackwater Park” で達成したかったのは、人々の音楽鑑賞の幅を広げること。僕の場合は、Steven Wilson と一緒に仕事をしたことで、作曲やレコーディングの方法に新たなアプローチが生まれ、音楽的な意味で何が可能なのかをより意識することができたんだ。そして、僕たちに刺激を受けて他の音楽をチェックするようになった多くのファンがいると思いたいんだよね。これは僕にとって非常に重要なことだよ。お説教するつもりはないけど、もし君が一つのタイプの音楽に留まっていたら、多くの世界や景色を見逃していると思うんだ。だから、”Blackwater Park” にメッセージがあるとすれば、それなんだよね」
“Blackwater Park” 完全再現のライブ・コンサートを期待するファンも多いでしょう。
「インストゥルメンタルの “Dirge For November” はステージ上でやるにはちょっと奇妙すぎるかもしれないよね。実際にアルバム全体を順番に演奏するのは…とても難しいなあ。ライブでやると、このアルバムを特別なものにしている神秘性が損なわれるかもしれないしね」

さて、その Mikael と Steven が導火線となったモダン・プログを中心に扱った書籍 PROG MUSIC DISC GUIDE が本日発売となりました。Marunouchi Muzik Magazine 編集長 Sin こと私、夏目進平も執筆で参加しております。弊誌読者様にはかならず訴えかける内容だと思います。お手にとっていただければ幸いです。

http://www.ele-king.net/books/008079/

参考文献:Killyourstereo:Remembering The Bleakness & Beauty Of Opeth’s ‘Blackwater Park’

Consequence of Sound: Opeth Blackwater Park Anniversary

LOUDERSOUND: Story Behind Blackwater Park

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