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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOODYWOOD : NU DELHI】 JAPAN TOUR 25′


COVER STORY : BLOODYWOOD “NU DELHI”

“It’s True For Babymetal As Well. Like Wasabi, It’s an Acquired Taste. Once You Understand It, You Cannot Get Enough!”

NU DELHI

「BLOODYWOOD はメタルなんだけど、たくさんのスパイスが効いていて、五感を圧倒するんだ。 誰もがヘドバンして、最後は僕らと一緒に踊ることになるよ」
これは、メタル界で最も独創的なバンドのひとつである BLOODYWOOD のミッション・ステートメントです。 2016年に結成された BLOODYWOOD は、伝統的なインド楽器を用いてメタルの常識を覆しました。彼らの曲にはクランチング・リフと同じくらいのバーンスリーやドールがフィーチャーされています。 ステージでは6人編成になる彼らは、オリジナル曲を作る前にYouTubeでポップ・ソングやオルタナティブ・ヒットをカバーし、バイラル・センセーションを巻き起こしました。そこから彼らの人気に火がつきました。
最初のギグは、2019年のドイツのメタル・フェスティバル、ヴァッケン・オープン・エア。その4年後、彼らはイギリスのダウンロード・フェスティバルで、日曜日の早い時間にメイン・ステージにおいて大勢の観客を集めました。 フジロックでの好演も記憶に新しいところ。
2022年のデビュー・アルバム “Rakshak” がUKロック&メタル・チャートとUSデジタル・チャートでトップ10入りを果たしたとき、国際的な好意は確信に変わりました。さらに、彼らの楽曲 “Dana Dan” がアクション超大作 “Monkey Man” のワンシーンのサウンドトラックに採用されると、その人気はさらに高まっていきました。BLOODYWOOD はインド史上最大のメタル輸出品となったのです。
「インドのメタル・シーンなんて誰も気にしてなかったんだ。そこで僕らが考えたのは、インターネットで自分たちを全世界に発信することだった。 その土地の言葉でヒップホップやポップスをやっていれば、その土地のアーティストになれる。 でも、メタルでそれをやっても、少なくともインドでは通用しなかった。だから世界を目指したんだ」

ローカルをすっ飛ばして世界へ。BLOODYWOOD は当初インドのシーンではなく、FacebookやYouTubeにカバー曲を投稿してファンを増やしていきました。バイラルを叩き出すために、インドのサウンドスケープが欠かせないもの。彼らの曲は、8弦ギターのリフで鼓膜をへし折るかのような、脈打つような Nu-metal を核にしていますが、ヒンディー語の歌詞を英語に混ぜ、ドールのような民族楽器も使っています。
「ヤギの皮でできていて、どの種類の木かもわからないんだ」
しかし、彼らはただアイデアと遊び心のある奇抜な人気者というわけではありません。ギタリストの Karan Katiyar はソーシャルメディア上で 「ここ2、3年はこれまで以上に多くのいじめや憎悪を目にする。 また、その多くがエスニシティに向けられたものであり、だからこそ自分たちのストーリーを伝えることがより重要になった」と語っています。
ボーカリストの Jayant Bhadula は年上のいとこを通じてヘヴィ・メタルに出会い、ヴァイキング・メタル AMON AMARTH の音楽を教示され、SLIPKNOT から SYSTEM OF A DOWN までモダン・クラシックの詰まったCDを焼いてもらいました。その両者からの影響は、まさに BLOODYWOOD の音楽に滲み出ています。「誰かが僕をモッシュピットに放り込んでくれて、人生で最高の時間を過ごしたよ」
ただ、最初から順風満帆だった訳ではありません。
「最初にレコーディングしたのは、本当のスタジオではなかったんだ。 狭くて、夜はとても寒かった。 毛布がなかったから、カーテンを下ろして代わりに使っていた。 貧乏だったわけじゃない。両親には自分の活動を隠すのが一番だと考えていたからね。
インドでは、親が認める職業は3つしかない。医者、弁護士、役人だ。 当時なら親はきっと賛成してくれなかっただろうけど、今は賛成してくれて嬉しいよ」

Katiyar の最初のギターは “Givson” でした。
「インドの偽ギター業界を紹介するよ!最初のギターは、”Givson” というブランドのエレクトロアコースティックだった。そのアンプのひとつにオーバードライブのセッティングがあって、もちろんノブなんだけど、ノブをゼロから0.01でも何でもいいから少し回した瞬間に、信号が完全に歪んでしまうんだ (笑)」
ラップを担当する Raoul Kerr に出会った時のことを、Katiyar は今でも覚えています。善のための力になろうというバンドの意欲をアピールする Kerr は、強いメッセージで性的暴力を非難しています。 今日、彼はほとんどいつも “No Flag” の文字が入ったマッスルベストを着て、BLOODYWOOD が分断ではなく団結を望んでいることを一貫して証明しているのです。
「彼に会った瞬間から、僕たちが同じビジョンを共有していることは明らかだった。最初はレスラーのようだと思ったけどね! 彼のライムとフロウは、まさに僕たちがまだ探していたピースだった。 僕たちは何を探しているのか正確には知らなかったが、とにかくそれを見つけたんだ」
ラッパー Kerr にとっての神様は、多面的でした。
「Mike Shinoda が僕の最初のインスピレーションで、Nu-metal 的な要素もあった。LINKIN PARK は僕の最初の音楽的な神だ。 昔は他の人と同じように、ラジオから流れている音楽は何でも聴いていた。でも、LINKIN PARK は初めて好きになったバンドで、積極的に追いかけた。その後、ヒップホップの入り口が開かれ、Eminem に入ったんだ。彼は、一世代前のラッパーたちにとって誰もが認めるインスピレーションの源だから、多くの人が彼を1位にする。 彼について好きになれるものはたくさんある。 嫌いなところもたくさんある。でも、ひとつだけ反論できないのは、彼が正直で、自分をさらけ出しているということだ。 彼のテクニックは手がつけられないほどだけど、正直なところ、テクニックとかよりも、彼は正直なんだ。 だから僕はこう言いたい。Mike, Eminem, RAGE AGAINST THE MACHINE は、僕が大人になってからの神だった。 彼らが音楽と政治の融合で社会変革の境界線をどこまで押し広げ、社会的インパクトを与えることができたかという点で、影響は大きいね」

Bhadula によれば、彼らの出身地であるデリーでは音楽教育が盛んで、ギターやドラムのクラスがあるところがたくさんあるといいます。
「学校では音楽を演奏している人の中でも、いつもメタルを演奏している人がみんなの度肝を抜いていた」
と Katiyar は回顧します。 しかし、そうした状況がインドのメタル・シーンに広く浸透しているとはまだいえません。
「インドはとても大きな国だから、メタルのリスナーが少ないという事実をつきつけられるのは不思議なことだよ」
インドのメタルはライブだけでなく、音楽のプロモーションというインフラも欠けていると Bhadula はいいます。
「インドでは、音楽の仕事といえば基本的にボリウッドで働くことであり、メタルは仕事になるわけじゃない」
つまり、BLOODYWOOD は多くのローカルなアンダーグラウンドのバンドを背負って、世界でほぼ一人でインドの旗を振っているのです。
「自分たちの音楽で国や文化を表現するのが大好きなんだ」と Katiyar はいいます。 「プレッシャーは全くないけれど、時々頭を悩ませるのは、インドという国全体を代表することが難しいということだ。 文化も言語もたくさんあるし、楽器の数も数えきれない。それでも、可能な限り、みんなを代表したいんだ」

BLOODYWOOD が2023年のダウンロードのメインステージのオープニングを飾ったとき、6月の日差しを浴びる観客の多さは、このインドのメタル・アクトが本物であることを証明していました。デビュー・アルバム “Rakshak” をリリースしたばかりの彼らは、ドールやタブラといったインドの伝統楽器と怪物的なリフを融合させ、インド・メタルを世界地図にしっかりと刻み込んだのです。
「大盛況だった! 僕たちは決して期待しないで臨む。なぜなら、期待値を低く抑えれば、いつもそれを上回ることができるからね。 でも、あれは子供の頃に夢見た瞬間のひとつだった。ヨーロッパの人々が僕たちのところにやってきて、僕たちの曲が彼らにとってどれほど重要かを話してくれたとき、自分たちが到達したレベルを理解し始めた。 僕たちの曲のいくつかは、世界中で困難な時期を乗り越える人々を助けてきた。 天職を見つけたという意味での “made it “だね」
2019年のドキュメンタリーを “Raj Against the Machine” と命名し、ナン色のレコードを販売するなど自分たちの文化に遊び心を加えて紹介する一方で、彼らはシングル “Gaddaar” で憎悪に満ちたレトリックを使って分断を図ろうとする政治家たちに反撃し、レイプ・カルチャーに反対するために音楽を使ってステイトメント、連帯の意思表示を発してきました。「これは世界的な問題であり、僕たちが強く主張ていることだよ」と Katiyar は言います。 「愛する人のために立ち上がること以上にメタルなことはあまりないと思う」
彼らのニューアルバム “Nu Delhi” は、2022年のデビュー作 “Rakshak” に比べて政治色が抑えられています。Katiyar は、ロシアがウクライナに侵攻したのと同じ週に “Rakshak” がリリースされ、それ以来、世界は絶え間なく毒のような敵意に渦巻いていると指摘します。
「人々はどちらか一方を選び、もう一方と戦うことに熱心だ」

だからこそバンドは、自分たちの祖国と歴史の物語を祝うことで、毒性、ステレオタイプ、いじめに対抗することを選んだのです。 「音楽を通して、世界を生きやすい場所にしようとしているんだ。音楽のポジティブな面をできるだけ多くの人に届けたいんだよ」
BLOODYWOOD のニュー・アルバムのタイトルは “Nu Delhi” ニュー・メタルとインドの影響を融合させたダジャレのようなもの。しかしその歌詞は、音楽と同様に彼らの国の文化への敬意に満ちています。タイトル曲は、人口3,400万人の大都市、インドの首都の過密な通りへとリスナーを引きずり込みます。
「ここでは誰もが試されている。聖人も罪人もいる、街ではなくチェスのゲームだ」
彼らにとっての目標は、より広い世界に、正真正銘のインド観を提供すること。同時に英語とヒンディー語の両方で精神疾患に光を当て、性的虐待を告発し、愛と喪失の両方を探求することが彼らのヘヴィ・メタル。そう Bhadula は主張します。
「僕たちはいつも、自分たちの身近にあるものをテーマにしようとしているんだ。”Nu Delhi” では、インドにはメタルだけでなく、世界に匹敵するような盛んな音楽シーンがあることを知らせたかったんだ。ファースト・シングルの “Nu Delhi” そのものが、僕たちからこの街へのラブレターなんだ」
“Tadka” ではインド料理に対する不滅の愛を表現しました。
「”Tadka” の正確な意味は、”スパイスや調味料のエッセンスを引き出し、料理を爆発的な味に変える技術” なんだ。料理の味を引き立てるために使うんだよ。”Tadka” を使うと赤唐辛子、マスタードオイル、マスタードシードなど、その料理の味がまるで別物のようになる。南インドから北インドまで、東インドから西インドまで、同じ食材でも使い方は人それぞれだ。味の大爆発なんだ!」
料理について熱く語ったメタルはそうそうないでしょう。
「僕たちが書くトピックはすべて、僕たちの心に近いものなんだ。ツアー中、僕らはヨーロッパ料理を食べていて、それは数日間はいいんだけど、最終的にはインド料理が食べたくなった。じゃあインド料理の素晴らしさについて書けばいいじゃないか。インド料理は芸術なんだ。スパイスのバランスを保たなければならないからね。
Karan がインストゥルメンタル・パートを考えてくれたんだけど、サビに入るリフが何か言っているような感じがしたんだ。”Tadka” は素晴らしい言葉だし、それが雪だるま式に広がっていった。料理だけに使われる言葉ではないから、人生に味をつける、人生にスパイスを加えるという比喩として使うことができる。とはいえ、僕たちは皆、本当に食べ物に対する情熱を持っているんだ」

“Bekhauf” では、BABYMETAL とアジアン・メタルの新たな歴史を作りました。
「以前から BABYMETAL のファンだったんだ。彼女たちを知ったのは “ギミチョコ!!” で、”メギツネ” も聴いたんだけど、あれはアレンジの点で、今まで聴いた中で最高のメタル・トラックのひとつだよ。”ド・キ・ド・キ⭐︎モーニング” がとても好きだし、”KARATE” も大好きだ。 実は BABYMETAL の曲も何曲かカバーしてみたんだけど、歌詞がめちゃくちゃでね(笑)。
最初は興味本位でビデオを見ていたんだけど、甲高いボーカルで歌い始めて、その間にバンドが全力疾走しているんだ。 最初は不思議だと思ったんだけど、一緒に聴くとすごくいいんだ。わさびと同じで、後天的な味覚だ。 一度理解したら、それなしでは満足できない。
ある時、BABYMETALのプロデューサーである KOBAMETALがライブに来てくれたんだ。それからずっと後になって、Karan が “Bekhauf” のためにインストゥルメンタルを作っていたんだけど、偶然にも同じ頃にKOBAから “一緒に何かやろう”というメッセージを受け取ったんだ。
僕たちはすでに BABYMETAL のためにパートを書いていて、それを気に入れば先に進めようということになっていた。僕たちは音節をどのようにヒットさせたいかというアイディアを持っていて、3人はそれを実現してくれた。すべてが相乗効果でうまくいったね」
BLOODYWOOD はバンドとして、日本の文化にゾッコンです。
「日本のマーケットはメタルを本当に受け入れているんだ。 僕はずっとアニメを見てきた。 例えば、”Death Note” の主題歌、MAXIMUM THE HORMONE の “What’s Up People?!!!” はとてもヘヴィだ。 こういう曲が日本のテレビで放送されていることにいつも衝撃を受ける。 インドでは、生まれてこのかた、テレビでメタルの曲を見たのは1曲だけだよ。メタルファンは100%素晴らしいコミュニティだ。 世界中のメタルヘッズは、どこの出身であろうと共通の特徴を持っているからね」

アニメとメタルは世界をつなぐ架け橋だと彼らは考えています。
「バンド全員が “ドラゴンボールZ” と “進撃の巨人” のアニメシリーズを見ていて、大好きなんだ。音楽だけでなく、キャラクターやストーリーも楽しめる。”ドラゴンボールZ” の界王拳を引用した “Aaj” という曲は、自分の限界に挑戦し、より良い自分になることを歌った曲なので、ぴったりだったよね。
曲を書いているときに、この言葉を使えると思ったんだ。 簡単なディスカッションをして、たとえみんながその言葉を知らなくても、耳にはとてもいい響きに聞こえると判断したんだ。 驚いたのは、僕たちの支持基盤の多くが即座にその言葉を理解したことだ!
僕たちのファンの多くがアニメも見ていることに気づいたよ。だから今、僕らはソーシャルメディア上でアニメの推薦を受け入れるようになり、最新の情報を得るようになった。 最近、映画 “呪術廻戦0” を観に行ったんだ。友達は誰もアニメを観ないから、ひとりで。 リクライニング・チェアがあり、ポップコーンがあり、幸せだった! 」
そうして世界中とコラボしてツアーすることで、ニューデリーの良さを再認識できたと Bhadula は考えています。
「このアルバムは、ニューデリーが “やあ、僕らもメタル世界にちゃんと入ったよ” と言っているんだ。もちろん、ニューデリーにいるときはもっと好感が持てる。家にいて、周りに友達がいて、ある種の安心感がある。でもツアーに出ているときも、故郷のように感じるよ。だってヒンドゥー語を知らない人たちが、一緒に歌っているのを見ることができるからね。グラスポップ・メタル・ミーティングでは、ヨーロッパに住むパキスタン人(インド国旗を掲げていた)がいて、 “君たちのおかげでメタル世界の一員になれた気がする” と言っていた。この感謝の気持ちが、ホームシックなんて吹き飛ばしてくれるんだ…料理は別としてね!」
最近のドキュメンタリー “Expect A Riot” で彼らは、このアルバムで “インドに対する認識を変えたい” と語っていました。
「どのようなソーシャルメディア上でも、あるレベルのインド嫌いが蔓延している。”BABYMETALよ、なぜこんなP******とコラボしたんだ?” みたいなね。僕たちは常に平和な場所にいるわけではない。それは SNS 上で取り組まなければならないことで、僕たちのためだけでなく、世界中のすべての人のためでもある。僕たちができる最初の一歩は、そうした人たちの偏見、インドに対する認識を変えることだ。
僕たちは、世界で最も古い文明のひとつから生まれた。インドの文化は非常に多様で、一生かけてもインド全土を巡り、そのすべてを理解することはできないだろうね。そして伝統や文化だけでなく、科学にも多くのものを提供してきた国なんだ。他の誰かを攻撃することで、この認識を変えることはできない。このアルバムは、僕たちの一部分と、僕たちの出身地であるこの街への愛を分かち合うものだ。願わくば、人々が理解し、巷にはびこるインド人嫌いのフィルターを越えて見てくれることを願っているよ」

インドに対する偏見は、TikTok の影響だとも。
「インドに対する人々の印象は、実際とはかなり違っていて、その多くはTikTokに関係している。TikTokでは、インドの偏ったバージョンが常に描かれているんだ。汚い食べ物、汚い道路、汚い人々。 でも、実際にはそういうもは、探さなければ見つからない。 もしインドに来て、まずい店を探すなら、まずい街のまずいところに行くしかない。 この国はそういう国じゃないんだ。もしそうだとしたら、美味しい物が好きな僕たちみんな死んでるよ (笑)」
“Bekhauf” でのシンセサイザーの多用は、より純粋なフォーク・メタル・スタイルからの逸脱を予言しているのでしょうか?
「危険な要素もあるんだ。僕らのフィルターを通さない意見からだけでなく、このアルバムで実験した方法からもね。実験のひとつは “Bekhauf” で、次のアルバムで何をすべきかについて、誰もがそれぞれの意見を持っていた。でも、僕たちは最初からそうしてきたように、最も正直な気持ちを吐き出し、それを聴いてもらうことで、好きか嫌いかを決めてもらうことにしたんだ」
歌詞をすべて追えなくても、彼らの曲がいかに心からのものであるか、その情熱が伝わるはずです。そしてこの “Nu Delhi” は政治色よりもアットホームな要素を全面に押し出しました。例えば、”Halla Bol” では歴史的に重要な事件を扱い、”Hutt” では自己承認や否定的な雑音に立ち向かうという考え、あるいは “Tadka” ではインド料理の楽しさなど、ポジティブな意思を発信しています。
「音楽が世界に与える影響の限界を押し広げようとしているんだ。それが内なる戦いであれ、より良い世界のための戦いであれ、僕らのサウンドはみんなをひとつにして勝利に導くためのものなんだ」
常に “謙虚” だからこそ、BLOODYWOOD のメッセージは多くの人の心に届きます。
「実は…この成功は夢のようなものなんだ。インドでは、海外に出て、世界最大の舞台で国際的な観客のためにプレーする人はあまりいないんだ。つまり、50%は夢のようなもので、現実であるには素晴らしすぎる。 でも、あとの50%はとても信じられる。 なぜなら、インドだけでなく、世界中には、24時間365日、音楽が好きで働いているミュージシャンのように、懸命に努力している人たちがたくさんいることを知っているから。どんなに才能があっても、運という要素は必要だ。僕たちはそれを手に入れた。 でも同時に、自分たちの仕事を必死でやっていたから、幸運が訪れた。だから、このバンドはみんな謙虚でいられるんだと思う」


参考文献: JAPAN FORWARD :INTERVIEW | India’s Bloodywood Are Babymetal Fans and Out to Inspire Change in the World

KERRANG! :Bloodywood: “This album is New Delhi saying, ‘Hi, we’ve entered the metal world chat’”

THE GUARDIAN :Indian rock sensations Bloodywood: ‘What’s more metal than standing up for people you love?

GUITAR.COM :https://guitar.com/features/interviews/bloodywood-interview-karan-katiyar-nu-delhi/

来日公演の詳細はこちら。SMASH JAPAN

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZYGNEMA : ICONIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SIDHARTH KADADI OF ZYGNEMA !!

“I Was Deeply Connected And Impressed With a Steve Vai Track Titled Blood And Tears Since I Was a Teenager. It Has Carnatic Vocals With Electric Guitar And It Still Gives Me Goosebumps Whenever I Hear It.”

DISC REVIEW “ICONIC”

「地元の音とメタル音楽をブレンドして、この都市と州の人々にとってよりパーソナルなものにするという非常に効果的なアイデアを思いついた。だから、僕らが取り入れようとしている伝統的な音楽のブレンドは、パンジャブ音楽のようにポピュラーなものではない。正直なところ、西と南のミックスなんだ。”Iconic”, “Rise Again”, “To reach the Gods” を聴いてもらえば、その装飾がはっきりわかるはずだ。歌詞はムンバイの鼓動(人々)を語っていて、できるだけ多くの顔を見せることにした。ムンバイは喧騒に満ちているんだ」
想いや思い出、共感、怒りに願い。ヘヴィ・メタルがただの “音楽” ではなく、共に歩むうちいつしか人生になるように、ZYGNEMA の “Grind” も単なる “歌” ではありません。それは、彼らが生まれ育った故郷、ムンバイの精神と人々に捧げられた力強いアンセムです。
「音楽を通して表現することを可能にし、ライブに熱心に通い、メタル音楽に耳を傾ける人々は、その経験をより個人的なものにする。そうやって自分らしくいられること、個人的な感情を自由に表現できることは、誰もが望んでいることなのだろう。そこに、それぞれの文化や意味のある歌詞を融合させることで、より絆が深まるのだと思う」
インドの伝統的なリズムとモダン・メタルのアグレッションの極上のブレンドによって生まれたこの曲は、ムンバイの喧騒、混沌、疲れ知らずのエナジーを的確に捉え鮮やかに讃えるメタル讃歌。第三世界に根を広げるメタルの生命力、包容力、感染力を完膚なきまでに実現した、絆と人生の音楽。ハードなグルーヴと大胆不敵なテーマで知られる ZYGNEMA は、心に宿るローカルな文化とメタルの獰猛さの融合がいかに魅力的であるかを再び証明しました。
「”Grind” のインスピレーションは、ヘヴィなサウンドとリフ、そして PRODIGY の “Smack my bitch up” のようなエレクトロニックでインダストリアルなサウンドをブレンドすることだった。僕が10代の頃親しみ、感銘を受けた Steve Vai の “Blood & Tears” のようにね。エレクトリック・ギターにカルナティックなボーカルが入っていて、今でも聴くたびに鳥肌が立つよ。もうひとつのインスピレーションは、偉大なる Mattias Eklundh なんだ」
ムンバイの落ち着きのない鼓動を完璧に反映した轟音リフと複雑なグルーヴによって、”Grind” は台頭するインド・メタルの、そしてムンバイの新たなアンセムとなりました。コナッコルの複雑怪奇なパーカッションと歌で従来のメタルとは一線を画す印象的なリズムの質感を生み出していますが、そのルーツが欧米でこの奏法に早くから目をつけていた Steve Vai と Mattias Eklundh にあるのも興味深いところ。そうしてこの革新的な組み合わせは、ムンバイの活気に満ちた多様な雰囲気を映し出しながら、西洋と東洋の融合を祝います。
さらに “Grind” のミュージック・ビデオは、この曲のテーマに力強く命を吹き込んでいます。ムンバイの賑やかな通りを背景にしたこのビデオは、露天商、会社員、学生など、実際この地に生きる人々の日常をとらえています。彼らは皆、撮影時に話しかけて出演を快諾してくれたムンバイの人々。だからこそ、ムンバイの鼓動を伝えるこのビデオ、そして音楽には紛れもない信憑性があります。
「ムンバイの人々はたくましく、日々の生活を楽しく切り詰めている。ムンバイで苦難は誰も惜しまない。どんな階層や階級に属していようと、誰も文句を言わない。一日の終わりに、彼らは楽しみ、自分の功績を祝う。それが、僕たちがこのミュージック・ビデオで表現したいこと」
テクノロジーとSNSによって人類は退化しているのではないか。そう訝しむ ZYGNEMA のギタリスト Sidharth Kadadi。懸命に働く人々と、喜びや祝福を分かち合う瞬間がシームレスに織り込まれるこのビデオは、人間の回復力と精神力の証であり、困難にもかかわらず、揺るぎない決意で努力し、乗り越え、繁栄を勝ち取ったムンバイとメタルの記念碑でもあるのです。
今回弊誌では、Sidharth Kadadi にインタビューを行うことができました。「ストリート・ファイターは子供の頃にプレイしたことがあり、リュウの師匠の弟 (豪鬼) が “殺意の波動”という暗黒の修行に没頭してアクマになってしまうというバックストーリーがとても面白かった。剛柔流空手を学ぶことに間違いなく興味があるし、音楽と一緒にもうひとつ芸術を学ぶ時間を作るつもりだよ」どうぞ!!

ZYGNEMA “ICONIC” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOHINI DEY : MOHINI DEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOHINI DEY !!

“People Can Steal Everything But Not Your Art”

DISC REVIEW “MOHINI DEY”

「私はインド人で、カルナティック・ミュージックで多くのコナッコルを学んだわ。それをスラップ・ベースに取り入れ始めたら、みんなとても楽しんでくれたし、それがみんなにとってとても新鮮で新しかったのだと思うわ。私は様々に異なるスタイルやヴァイブをベースで表現するのが好きだから」
ムンバイ出身のかわいいとおいしいを愛する26歳のベーシスト、Mohini Dey は、Forbes Indiaによって “30歳未満で最も成功したミュージシャン” と評されています。9歳で世界への扉をこじ開けた Mohini は、それから18年間、類稀なる才能と努力で Steve Vai, Simon Phillips, Stanley Clarke, Jordan Rudess、Quincy Jones, Mike Stern, Marco Minneman, Gary Willis, Dave Weckl, Tony Macalpine, Stu Hamm, Plini, Guthrie Govan, Chad Wackerman, Chad Smith, Gergo Borlai, Victor Wooten など、本当にそうそうたるアーティストと共演を果たしてきました。日本のファンには、B’z との共演が記憶に新しいところでしょう。
インドは今や、ロックやメタル、プログレッシブにフュージョンの新たな聖地となりつつありますが、確実にその波を牽引したのは Mohini でした。そして音楽の第三世界がまだ眠りについていた当時、彼女がムンバイから世界への特急券を手に入れられたのには確固たる理由があったのです。
「並外れた存在になりたければ、並外れた時間を費やし、才能を磨く必要がある。才能は報酬ではない。報酬とは、才能を磨くために懸命に努力した結果、実りを得ることだから。人は何でも盗めるけど、あなたの芸術までは盗めないの」
アルバムには “Introverted Soul” “内向的な魂” という、Mohini が10年間にわたって温め続けた楽曲が収録されています。友達と遊ぶことも許されず、父の夢を背負いひたすらベースだけに打ち込んだ学生時代。そもそもがとても恥ずかしがり屋で、内向的だった彼女はしかし、音楽で抜きん出ることによってその世界を広げ、今では率直で社交的で経験が大好きな人として成長を遂げました。
才能は誰にでも与えられているが、磨かなければ意味がない。そんな父の教えと、彼女自身の弛まぬ努力が、いつしか彼女の世界を広げるだけでなく、インドの音楽シーン全体をも拡大する大きなうねりとなっていったのです。
「私のライブが終わると、たくさんの子供たちや若い女性ミュージシャンが私のところにやってきて、”Mohini は私のアイドルよ。あなたは私のインスピレーションの源で、私がベースを弾けるようになったのもあなたのおかげ” って伝えてくれるのよ。世界は変わりつつある。今の私の目標は、インドからもっと多くの女性奏者を輩出することなの」
同時に、性別や宗教、人種の壁に対する “反抗心” も Mohini の原動力となりました。インドを含む世界の多くの地域では、白い肌は依然として最も望ましいまたは美しいものとして祝われています。特にインドでは、女性は今でも肌の色について多くの差別を受けているのです。だからこそ、音楽を通して世界を旅した彼女は、あらゆる人種、宗教、文化の人々に会い、すべての文化の美しさを目にし、さまざなま壁を取り払いたいと願うようになりました。”Coloured Goddess” はそうした差別に苦しむ美の女神たちすべてに捧げた楽曲。
一方で、”Emotion” は Mohini 自身が受けてきた、女性であることに対する過小評価への反発です。”女性である私がどんな男性よりも上手にベースを弾くことが可能であることを世界に示したかった” と語る彼女は、幼い頃から、女性はベースを極めるのに力が足りない、強さがないという批判を浴び続けていたのです。
世界で羽ばたいた彼女は今や、そうした姿の見えない “批判者” たちに感謝の “感情“ さえ持っています。そうした批判がなければ、これほど練習することはなかっただろうと。怒りと感謝の入り混じった感情の噴火はすさまじく、ベースを弾き狂う中で彼女は後進たちに、語るよりも行動で示せとメッセージを放ちました。
「18年半の仕事を通じて、私は信じられないほど才能のある伝説的なミュージシャンに会ってきた。彼らと仕事をするとき、実は私は彼らに自分のアルバムに参加してもらうことを念頭に置いていたのよ。それぞれが自分の経験、声、旅を私の曲にもたらしてくれたの。だから、そうね!私は自分の多様な選択を非常に意識していて、各曲ごとに慎重に各ミュージシャンを選んでいったの」
そうした背景を湛え、彼女自身の名を冠したデビュー・フル “Mohini Dey”。この作品で Mohini は、まるで人種や性別、文化や宗教の壁を壊すかのごとく、世界のあらゆる場所に散らばるトップ・アーティストを集めて、前代未聞のカラフルな音の融合を生み出しました。Simon Phillips、Guthrie Govan、Marco Minneman、Steve Vai, Jordan Rudess, Gergo Borlai、Bumblefoot、Scott Kinsey、Narada Michael Walden、Gino Banks、Mark Hartsuch、Mike Gotthard…すべての名手たちは団結し、Mohini の音楽を通して愛と物語を表現していきました。
ここには、かつて WEATHER REPORT や MAHAVISHNU, Chick Corea が培った名人芸とエモーションの超一流二刀流がたしかに存在しています。ただし、彼女の夢は一番になることではなく、自分自身であり続けること。新たな世代を育てること。寛容と反発、そしてムンバイの匂いをあまりに濃くまとった “Mohini Dey” は彼女の決意を体現する完璧な意思表明でしょう。
今回弊誌では、Mohini Dey にインタビューを行うことができました。「B’z と活動した後、私は日本で多くの名声を得て、日本のファンから私の音楽性、ミュージシャン・シップをたくさん愛してもらえるようになった。それに、B’z のおかげでヘヴィなロック・ミュージックも大好きになったのよ」肉への愛を綴った “Meat Eater” や、カリフォルニアのダブルチーズバーガーと恋に落ちる “In-N-Out” など彼女の真摯な食欲もパワーの源だそう。どうぞ!!

MOHINI DEY “MOHINI DEY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIFTH NOTE : HERE WE ARE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FIFTH NOTE !!

“We Don’t Know If We Can, But We Try To At Least Make Rock Scene Enjoyable Without The Use Of Alcohol Or Drugs, Or Even Sex.”

DISC REVIEW “HERE WE ARE”

「僕たちは、州内だけでなく、世界的に知られるバンドになりたいんだ。僕たちは西洋のスタイルにとても影響を受けているけれど、自分たち独自のプレイも創り出そうとしている。アルバム・タイトルの “Here We Are” “僕らはここにいる” は、そうした僕たちのモチベーションを端的に表しているんだよ。僕たちは、魂に平和や癒しをもたらすような良い音楽を作りたいと思っているんだ。そして、僕たちの音楽で世界にインパクトを与えたいと願っているんだよ」
インターネットや SNS の登場、進化によって、音楽は世界中のものとなりました。これまで、決してスポットライトが当たらなかったような僻地からも発信が可能となり、人種、文化、宗教の壁を超えて多くの人の耳に届けることが叶う世の中になったのです。特に、メタルの生命力、感染力、包容力は桁外れで、思わぬ場所から思わぬ傑作が登場するようになりました。
「FIFTH NOTE と ABOUT US は、お互い西洋音楽の影響を多く受けているのは同じだね。その上で、僕たちナガ族は美しいメロディーを作るのが好きなんだ。また、トニック・ソルファ (相対音感) のような独自の音楽アレンジもあるからね。そうした美しいメロディやアレンジは、きっと深く僕らのルーツに刻まれているんだろうな」
近年、そうしたメタルの “第三世界” で特に注目を浴びているのがインドです。いや、もはや国力的にも、人口的にも、文化的にも第三世界と呼ぶのも憚られる国ですが、ここ最近、メタルの伸張は並々ならぬものがあります。ボリウッドを抱きしめた BLOODYWOOD の大成功は記憶に新しいところですが、それ以外にも様々なジャンル、様々な地域でまさに百花繚乱の輝きを放っているのです。中でも注目したいのが、インド北東部のナガランド。かつては首狩りの慣習もあったというナガ族が住むこの地域は、文化的にも民族的にも音楽的にも、インドのメジャーな地域とは異なっていて、だからこそ、この場所のメタルは独自の進化を遂げることができたのかもしれませんね。
昨年紹介した ABOUT US にも言えますが、ナガ族のメタルはメロディが飛び抜けて強力。さらに、かつて天空の村に住む天空族と謳われたその二つ名を字でいくように、彼らは舞い降りたメロディをその際限なきハイトーンの翼で天へと送り返していきます。
「一般的にロックというと、ハードコアでワイルドで暴力的な人たちや、道に迷っているような人たちが、エクストリームな音を通して怒りを表現し、怒りで痛みを解消しようとするものだ。そのような中で、僕たちは、道に迷ったり、君が挙げたような問題を抱えた人々に、自分たちは孤独ではないということを伝えたいんだよ。僕たちの前向きな音楽が彼らの痛みや問題を和らげてくれることを願っているんだ」
そこには、ナガ族の90%が敬虔なクリスチャンであるという事実も関係しているのかもしれませんね。インドの多くの新鋭がエクストリームなサウンドで人気を博す中で、FIFTH NOTE はプログレッシブ・ハードという半ば死に絶えたジャンルで世界に挑んでいます。ただし、このジャンルでは、暴力も、ドラッグも、セックスも、決して幅を利かせてはいません。必要なのは、ポジティブな光と知性、そして複数のジャンルを抱きしめる寛容さ。つまり、洗礼を浴びた FIFTH NOTE にとっては追求すべくして追求したジャンルでした。
「僕らがクリスチャンであるという事実、クリスチャンとしての倫理観は、僕らにもっと良いことをしようというモチベーションを与えてくれるんだ。できるかどうかはわからないけど、少なくともロックシーンをアルコールやドラッグ、あるいはセックスを使わずに楽しめるものにしようと努力しているよ」
理想は追求しなければ実現しない。インドに、そして世界に不公平や抑圧、犯罪に暴力が蔓延っていることは、当然彼らも知っています。しかし、暴力は暴力では解決せず、怒りに怒りをぶつけることがいかに愚かであるかも彼らは知っています。だからこそ、FIFTH NOTE はセックス、ドラッグ、ロックンロールという乱暴なステレオ・タイプを破壊して、メタルは “ストレート・エッジ” でも存分に楽しいことを伝えようとしています。それが世界を前向きに変える第一歩だと信じながら。
そしてその野心は、TNT, CIRCUS MAXIMUS, STRYPER, TOTO といった一癖も二癖もあるような英雄を、旋律や知性、そして耳を惹くキャッチーなサウンドで今にも凌駕しそうな彼らの音楽なら、 実現可能なのかもしれませんね。
今回弊誌では、FIFTH NOTE にインタビューを行うことができました。「ナガランドは丘陵地帯が多く、部族が多く住んでいる。そのため、音楽はほとんどが民族音楽なんだ。しかし、西洋の侵略が進むにつれて、そうした音楽はかなりポピュラーになっていった。だから伝統音楽と同様に、ロックやメタルも僕たちに大きな影響を与えることになったんだ」 どうぞ!!

FIFTH NOTE “HERE WE ARE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AROGYA : SUPERNATURAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AROGYA !!

“Visual Kei Bands Have This Incredible Ability To Seamlessly Blend Various Genres And Styles Within Their Music.”

DISC REVIEW “SUPERNATURAL”

「BLOODYWOOD は典型的なインドの要素をうまく音楽に取り入れているけれど、すべてのインドのバンドが同じ道をたどる必要はないということを認識することが重要だ。それぞれのバンドには独自の芸術的ビジョンと音楽スタイルがあり、誰かの成功を真似たり複製したりするのではなく、自分たちのビジョンに忠実であることが不可欠なんだ」
ヘヴィ・メタルは今や文字通り “みんなのもの”。その生命力、感染力、包容力で、様々な民族、文化、人種、宗教の壁を乗り越え世界各地に根を張っています。中でも、世界で2番目に多い13億の人口を誇るインドのエネルギッシュな多様性は、現代のメタル・スピリットと圧倒的にマッチしているようです。
「AROGYA の全体的なコンセプトは、当初ヴィジュアル系バンド(インド初、そしておそらく唯一のバンド)としてスタートしたんだよ。ヴィジュアル系が体現する自由な表現に影響され、様々なジャンルを探求し、様々なサウンドを試し、伝統的な制約にとらわれない音楽体験を創り出すことが目的だったんだ」
かつてインドの音楽業界は、ボリウッドや古典音楽が象徴でありすべてでした。しかし、この10年でインターネット、SNS やストリーミング・サービスが普及し、多様なジャンルの音楽が人気を集めるようになっています。今では、インド全土で年間約20の音楽フェスティバルが開催され、その3分の1では海外国内問わず様々なロックやメタルのバンドが喝采を浴びているのです。
特に、インド北東部はカラフルなメタルのメッカ。もちろん、BLOODYWOOD の極めてインド的なコンセプト、”メタル・ボリウッド” は見事なもので、海外における躍進の原動力となり、後続に門戸を開きました。ただし、文化や人種、宗教のるつぼであるインドにルールやステレオタイプは存在しません。そして、ネパールにルーツを持つ AROGYA が目指し焦がれたのは、日本のヴィジュアル系に宿る “自由” でした。
「the GazettE のようなヴィジュアル系バンドには予測不可能な音楽的多様性がある。様々なジャンルやスタイルをシームレスに融合させる素晴らしい能力を持っている。クレイジーなデスメタルのリフから始まり、エレクトロニックやインダストリアルな要素に移行し、美しくハートフルなラヴバラードへと発展する曲も珍しくない。この多才さと、異なるサウンドやジャンルを試す意欲は、ヴィジュアル系バンドを真に際立たせ、アーティストとして僕たちを魅了するものだ。さらにヴィジュアル系は、バンドやアーティストが自由に探求し、多様な方法で表現することを可能にする、ユニークな芸術的自由を提供している」
AROGYA が言うように、日本で生まれたヴィジュアル系はおそらく、特定のサウンドよりも世界観を重視したジャンルで、ゆえにロック、パンク、メタル、ポップ、グラム、ゴシック、ニューウェィヴ、クラシック、インダストリアルにプログと何でもござれな音世界を構築してきた自由な場所なのかもしれませんね。
それを “まがいもの” と受け取るか、”実験” と受け取るかで、リスナーのV系に対する評価は180°変わるのでしょうが、少なくとも日本よりは遥かに剣呑なネパールとインドの交差点でいくつもの “壁” と悪しき伝統を壊そうと尽力する AROGYA にとって、V系の音楽的な奔放さや 華々しい “メディア・ミックス” の可能性はあまりにも魅力的な挑戦でした。
「文化的アイデンティティという点では、僕たちはネパールとインドの両方を、自分自身を構成する重要な部分として捉えている。僕たちは、両国の文化遺産と、共有する人間性を認め祝福したいんだ。僕たちの文化的背景の多様性と豊かさが、AROGYA の音楽を形成し、その独特の風味と共鳴に寄与している」
つまり AROGYA は、民族音楽やボリウッドよりも、多様で豊かな自らの背景を音楽的、詩的なアイデンティティとすることに決めたのです。だからこそ、the GazettE から LINKIN PARK, RAMMSTEIN, IN FLAMES に GHOST, 果ては EUROPE まで、世界中の “アリーナ・ロック” を融合した強烈無比なメロディック・メタルを生み出すことができました。
彼らの究極的な目標は、音楽で世界を一つにつなげること。互いを許し合い、認め合うこと。そのために、シンセでダークなアリーナ・ロックほど格好のツールは存在しませんでした。そうして “癒やし手” の名を冠する5人の音楽家は、日々、痛み、失恋、孤独、憂鬱、精神的な問題、はかなさ、内なる悪魔と戦う人たちに、一筋の光をもたらすのです。
今回弊誌では、AROGYA にインタビューを行うことができました。「MIYAVI、Crystal Lake、BABYMETAL、Hyde、Ryujin(旧Gyze)といったアーティストたちは、その独特な音楽スタイル、パワフルなパフォーマンス、芸術的なビジョンで僕たちの注目を集めてきたんだ。これらのバンドはそれぞれが独特のユニークなものをもたらし、日本の音楽シーンで可能なことの限界を押し広げ続けている」 どうぞ!!

AROGYA “SUPERNATURAL” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEMONSTEALER : THE PROPAGANDA MACHINE】


COVER STORY : DEMONSTEALER “THE PROPAGANDA MACHINE”

“Make The Minority The Big Villain That The Majority Should Fear In Any Country, And You’ve Suddenly Got Control. It’s All The Same Tactics; It’s Just That The Country Changes.”

THE PROPAGANDA MACHINE

“The Propaganda Machine” は、エクストリーム・メタルの言葉で叫ばれる戦いの鬨。Sahil Makhija 4枚目のソロ・アルバム “Demonstealer” は、母国インドをはじめ世界中の大衆を操り搾取する右翼政治家、人種差別主義者、偽情報の拡散者、宗教過激派を狙い撃ちしています。Sahil が言葉を濁すことなく、このアルバムに収録されている歌詞はすべて、抑圧に対する抗議の看板となり得るもの。ただし Sahil は、20年前、彼の先駆的バンド DEMONIC RESURRECTION でインドにデスメタルを紹介していた頃には、まだ “The Propaganda Machine” を作ることはできなかったと認めています。
「俺はボンベイ・シティに住む、かなり恵まれた子供だった。そして、ほとんどの子供がそうであるように、俺は政治に興味がなかったんだ」と Sahil は自身の音楽活動の初期を振り返って言います。SEPULTURA の “Refuse/Resist” のような政治的なメタルを聴いていたにもかかわらず、政治を意識することはなかったのです。
Sahil の覚醒は緩やかでした。彼は2015年のシングル “Genocidal Leaders” で遂に DEMONSTEALER に社会的な歌詞を取り入れ始め、前2作 “This Burden Is Mine” と “The Last Reptilian Warrior” では現実世界の問題がより浸透するようになりました。しかし、”The Propaganda Machine” は、彼がこれまで制作した中で、圧倒的に政治色が強いレコードだと言えます。その理由は、周囲を見渡せばわかるでしょう。トランプ、Brexit、目に余る警察の残虐行為、復活したネオナチズム、世界的なパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、その暗闇のリストは身近で気が滅入るものばかり。

「このアルバムは、プロパガンダ・マシーンというタイトル通り、ここ数年の世界のあり方に完全にインスパイアされているんだ。特に、ヒンドゥー教の右翼過激派政権が誕生してからのインドでの出来事に触発されているよ。”The Fear Campaign” では、多数派が少数派を恐れるように仕向けることで、政府が大衆をコントロールすることについて。”Monolith of Hate” は、憎しみの政治と、恐怖のキャンペーンを通じて多数派が少数派を憎むように仕向ける方法について歌っているよ。正直なところ、世界中でこうしたことが起こっているよな。インドではヒンドゥー教徒が大多数で、ヒンドゥーの政府はイスラム教徒に関する悪いプロパガンダを流し続け、ヒンドゥー教徒がイスラム教徒に恐怖を抱くようにしようとしている。イギリスやアメリカ、ヨーロッパでも同じように、移民を恐れさせるキャンペーンが行われているし、アメリカでは、人種や宗教などでも同じことが行われている。世界的な “戦術” なんだよな。”恐怖を与え続け、従順にさせる” という歌詞は、まさにすべてを要約しているよ。
“The Art of Disinformation” は、テクノロジーがいかに武器になるかについて。インドでは、WhatsApp の偽ビデオが、この憎しみを広めるために使われ、最終的には少数民族への暴力や殺害さえも扇動しているんだ。”Screams Of Those Dying” は、ここ数年、リンチや暴動、警察の横暴、殺人、基本的人権のために戦う人々の暗殺によって失われた実際の命について歌った。”The Great Dictator” は、自分たちの利益のために憎悪と暴力を推進・宣伝する右派の指導者について。”‘The Anti-National” “反国家” は、インドや自国の政府に疑問を持つ人々が、いかに “反国家” と呼ばれているかについて。そして最後に “Crushing the Iron Fist” は、俺たちが力を合わせれば、私腹を肥やし、宗教、カースト、人種によって人々を分断するのではなく、生活の質を向上させるために働く、より良い政府を見つけることができるかもしれないという希望をアルバムに残している。国民のために働くという、本来あるべき姿の政府をね」

世界のリスナーにとってあまり馴染みがないのは、2014年にナレンドラ・モディが首相に就任して以来、インドで起きている混乱かもしれません。NRC(全国市民登録制度)とCAA(市民権修正法)という大規模な政治問題です。CAA では、トランプの人種差別的なムスリム禁止令とは異なり、インドに入ってくるイスラム教徒の移民を制限する一方で、他の宗教のメンバーがより自由に入国できるようにしようとしていました。
「多くの抗議があり、俺もそうした抗議に出向いていた。そして、その抗議は、右翼過激派グループが大学の子供たちを攻撃したり、抗議者に発砲したりすることで頂点に達したんだ。その結果、ニューデリーで大規模な暴動が起こり、ヒンドゥー教の過激派によって多くのイスラム教徒が殺されてしまった。その後、パンデミックが始まった。すると政府は突然、人々の移動を制限するようになった。出稼ぎ労働者は出身地でない都市に取り残され、飛行機で帰ることもできず、結局、何百キロも歩いて村まで帰ることになった。その途中で亡くなった人も少なくないんだよ。社会として、俺たちはより憎しみに満ちた生き物へと変化していってしまう。幼い頃から憎むことを教え込まれ、宗教、肌の色、性的嗜好など、異なる誰かを憎むことを強いられ、憎しみは押し付けられ、憎しみのモノリスを築いている。それは俺たちを蝕んでいくものだ。特にインドでは、現在の右派の政府関係者自身が、憎しみのスローガンを唱え、暴力行為や犯罪を呼びかけるデモを行い、彼らのすべてのアジェンダが憎しみで構築されている。なんとかしなければ」
そんな暗闇が重くのしかかる中、Sahil は自宅のスタジオに入り、”The Propaganda Machine”となる曲を書き始めました。歌詞には、自分がインドで体験したことを反映させたかったのですが、同時にリスナーが世界の他の地域とも簡単に結びつけられるようにもしたかったのです。
「どこの国でも同じようなことが起きているのを見た。どの国でも、少数派を多数派が恐れるべき大悪党に仕立て上げれば、突然コントロールが可能になる。国が変わるだけで、すべて同じ手口なんだ。俺たちがいかにプロパガンダに対して盲目的になりがちであるかを伝えたい。宗教であれ、政治であれ、俺たちはある特定の “信者” になるよう条件付けされてきた。宗教もまた、最大のプロパガンダ・マシンのひとつで、世界中のほとんどの人が信じるように仕向けられ、現実が見えなくなる」

プロパガンダによる洗脳に惑わされないために、教育レベルの向上は必須でしょう。
「ただ、インドは巨大な国で、極度の貧困と社会的不平等が存在するから、効果が出るまでには長い時間がかかる。インドには巨大な国土があり、極度の貧困と社会的不平等が存在するんだ。時間が経てばその地点に到達できるかもしれないという希望はあるけど、ほとんどの場合、堂々巡りになってしまう。インドの生活の質、政府が運営する学校や病院の状況を見れば、その状況がわかると思うよ。本当に、宗教的な洗脳や政府による洗脳、時代遅れの習慣や伝統にしがみつく人々など、長い道のりが待っているんだ」
SNS も今や権力の “武器” と化しています。
「俺たちは、ソーシャルメディアによって物語がコントロールされる世界に住んでいる。インドでは、世界の他の地域と同様にフェイクニュースの大きなな問題があって、SNS のほとんどは、右派の与党政府によってコントロールされている。右派政権に対抗できる政党やまともな野党がほとんどない状態でね。この国で最大の誤報拡散者である Whatsapp を使ってプロパガンダや誤報を拡散するためだけに人が雇われているよ。Whatsapp が原因で、リンチされたり殺されたりした人も。物議をかもした市民権法に対する抗議デモの際も、IT部門はフル回転していた。彼らの最大の自慢は、Twitter で何でも流行らせることができること。どんな話題でも、コピーペーストしたようなツイートが表示されるのは悪夢のようなものだ。ウクライナへの攻撃の際にも、このようなことが起こっていたよな」
“レッテル貼り” も権力お得意の分断の手法。
「特にインドにおける右翼の戦術のひとつは、人々に “反国家” の烙印を押すこと。政府に疑問を持てば反国家、あるイデオロギーを推進しなければ反国家というわけさ。最悪なのは、政治とヒンドゥー教を結びつけてしまったことだ。だから今日、牛肉を食べると、憲法で権利が認められているにもかかわらず、反国民とみなされる。現政権は非常に攻撃的で、親ヒンドゥー的でファシスト的な性格を持ち、非常に暴力的なグループを支持している。現首相を批判する人がいれば、ネット上の荒らしの軍団や、実際のチンピラまで現れて問題を起こし、反国民の烙印を押されてしまうんだ。俺は、批判的で、宗教的・政治的な駆け引きではなく、国民の向上のために政府を後押ししようとする人たちこそ、真の愛国者であると信じている」

Sahil は声を上げるためには、ある程度の人気が必要だと考えています。
「音楽にはたくさんの力がある。音楽がもたらす癒しやポジティブな変化はたくさんあるんだ。だけど、ニッチなジャンルの音楽を、ニッチな国で、しかも人気のないアーティストが演奏するとなると、そんな変化も期待できない。もしかしたら、一部の人に影響を与えるかもしれないけど、本当に影響を与えるためには、もっと多くの人に聴いてもらう必要があるんだよ。だから、今のところは、DEMONSTEALER は俺が目にした世界の間違ったことに対して発言するためのただの道具だ。でも、もしそれが人々に語りかけられ、共感され、音楽が人生の困難な時期を乗り越える助けになるなら、それは俺にとっても世界にとっても意味のあることとなる」
音楽的には、Sahil は DEMONSTEALER を実験室として使用し、頭に浮かんだあらゆるアイデアを探求する傾向があります。”The Propaganda Machine” では、彼のキャリアの中で最も緻密なレイヤーを持つ楽曲を作曲していることに気づくでしょう。もし、Sahil の威厳と自信に満ちたクリーン・ボーカルと、元 CRADLE OF FILTH キーボード奏者の Annabelle Iratni が醸し出すシンフォニックな華やかさがなければ、アルバムはもっとデスラッシュの閉塞空間にあったでしょう。Sahil は、自分の直感を信じることで、荘厳と凶暴の適切なバランスを見つけているのです。
「”次のアルバムは、今までで一番ブルータルなアルバムにしよう、ブラストビートと、最も重厚なリフ、そしてうなり声を出すだけだ” なんて思っていても、実際に曲を書き始めると、突然美しいメロディーを思いつき、”これはこの曲にピッタリだ!” なんて思うんだ」

DEMONSTEALER は厳密には Sahil のソロプロジェクトですが、NILE の George Kollias が “This Burden Is Mine” でドラムを叩いて以来、ゲスト・ミュージシャンはそのサウンドに欠かせない要素となっています。DEMONSTEALER のサポート・キャストは着実に増えており、”The Propaganda Machine” は総勢12人のプレイヤーによって命を吹き込まれているのです。クレジットには、鍵盤の Iratni、Hannes Grossmann を含む4人のドラマー、さらに4人のベーシスト、3人のリード・ギタリストの名前があります。James Payne (Kataklysm, Hiss From The Moat), Ken Bedene (Aborted), Sebastian Lanser (Obsidious/Panzerballett), Dominic ‘Forest’ Lapointe (First Fragment, Augury, BARF), Stian Gundersen (Blood Red Throne, You Suffer, Son of a Shotgun), Martino Garattoni (Ne Obliviscaris, Ancient Bards), Kilian Duarte (Abiotic, Scale The Summit), Alex Baillie (Cognizance), Dean Paul Arnold (Primalfrost), Sanjay Kumar (Equipoise, Wormhole, Greylotus)。Sahil は、彼らの役割について厳格に規定することはありません。ここでは、それぞれのミュージシャンが、それぞれの長所を発揮しているのです。
「各ミュージシャンは、それぞれの個性を生かす。これほど多才なミュージシャンと仕事をするのであれば、俺がプログラミングをしたり、これとこれを演奏しろなんて厳しく指示する意味はない。もちろん、ドラムのパートをすべてサンプルで置き換えるのはとても簡単だが、すべて全く同じ音になってしまう。それに何の意味があるのだろう?だから、ドラムの音はアルバムの曲によって変化するし、ベースのダイナミズムも当然変わってくるさ」
このアルバムは、Sahil の独特なソングライティングだけでなく、彼の思想によっても一貫性を保ちます。右翼のポピュリストが支配する不安定な国で活動することは簡単ではありません。最近、ニューデリーとムンバイにあるBBCのオフィスが、インド特集を放送した後に家宅捜索を受けました。”モディ・クエスチョン”(2023年)は、2002年にグジャラート州で起きた一連の暴動で首相が果たした役割を探るドキュメンタリー。ボリウッドの作品は、過激派の脅迫によって定期的に中断、破壊、閉鎖され、Sahil 自身も、風刺ロックバンド WORKSHOP で政治家と悪徳警官を罵倒した際、検閲に直面しました。Sahil が “偉大なる独裁者” や “鉄拳を砕く” のような曲を書くことの結果を恐れているとしても、彼はそれを表に出すことはありません。恐れよりも、彼は何度も自分の特権と、それを使って抑圧と闘う責任について言及します。
「俺のような人間は、アパートでくつろぎながら、こう言うこともできる。これは俺の戦いではないんだ。普通の平穏な暮らしを送ればいいってね。俺は何気ない生活を送れるのだから。だけど、踏みつけにされそうになっている人たちが大勢いる。いずれは反撃に出るべき人たちが。抗議の力、情報の力によって、俺たちは実際に変化を起こすことができるはずだ。どんな形であれ、善戦する人たちはたくさんいる。そして、願わくば、より多くの人々が目を開き、自分たちが持っている特権や、声を上げる必要があるという事実に気づくことを期待しているんだ。そして、この先、より良い日々が待っていることもね。俺たちは、自分たちが見つけた世界よりも良い世界を残すことができる、すべての人々にとってより公正で平等な世界に住むことができると信じたい。他人を親切に扱い、専制や抑圧に負けることはないとね。しかし、実際には、これは長い戦いで、変化は一夜にして起こるものではない。だからこそ俺は、より良い世界を作るために、時間、エネルギー、努力、時には命さえも犠牲にしてきたすべての人々に敬意を表したいんだ」

実際、Sahil 自身もより良いインドのメタル世界のために戦い続けてきました。
「俺たちも DEMONIC RESURRECTION でオリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。インド・メタルシーンの柱としての Sahil の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし俺がやらなくても、おそらく他の誰かがやってきて、いつか俺の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」

Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」
幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」

オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。
彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。そして、ニューデリーのBLOODYWOOD。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
つまり、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

参考文献:Bandcamp Daily: Demonstealer Fights For a Better India Through Death Metal

No Clean Singing:AN NCS INTERVIEW: DEMONSTEALER

Demonstealer’s Incendiary Metal Assaults “The Propaganda Machine” (Track-by-Track Rundown)

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ABOUT US : ABOUT US】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ABOUT US !!

“India Is a Vast Country, And Every Region Is Unique For Its Own Religion, Tradition, Culture And Identity. The Strength Of India Is Its ‘Unity In Diversity.”

DISC REVIEW “ABOUT US”

「インド北東部の丘陵地帯。そこに位置するナガランドには、誇り高きナガ族が住んでいる。過去には、両者の間に紛争があったけど、時代は変わりつつあるよ。和平プロセスは進行中で、正しい方向に向かっていると思う。誰もが平和と調和の中で暮らしたいと思っているんだから。インドは広大な国で、どの地域にも独自の宗教、伝統、文化、アイデンティティが存在する。つまり、インドの強さは “多様性の中の統一” なんだよ」
インドがヘヴィ・メタルやハードロックの新たなエルドラド、黄金郷であることはもはや疑う余地もありません。フジロックの活躍も記憶に新しい BLOODYWOOD を筆頭に、DYMBUR, KRYPTOS, DEMONIC RESURRECTION, SKYHARBOR, GRISH & THE CHRONICLES など、彼の地には才能溢れるバンドがひしめいています。
重要なのは、それぞれがそれぞれの個性を大切に羽ばたいていること。広大なインドの多様なアイデンティティーは、カラフルな万華鏡のごとく、そのままメタル世界にも投影されているのです。
一方で、どこかユニークで、絢爛で、大仰なスタイルやサウンドは彼らの共通項にも思えます。それこそが、ABOUT US 語るところの、”多様性の中の統一” なのかもしれません。そう、インド北東部、ナガランドに住むナガ族 ABOUT US は非常にインドらしくなく、そしてインドらしいバンドなのです。
「僕たちナガ族の社会は、腐敗や犯罪の多いインドとはまったく違うんだ。ナガ族は、家族が何よりも優先され、誰もが尊敬される緊密な社会なんだよ。男性、女性、老いも若きも、お互いに気を配って生きている。汚職や腐敗がまったくないわけではないけれど、ナガ族の社会は基本的に寛容な社会なのさ。そうして、僕たちはシンプルな人間に育ったから、さまざまな希望や夢、願いを持って生きていて、それが僕たちの歌詞にも反映されているわけだよ」
バンドの言葉を借りれば、謎に包まれ、文化や伝統を守りながら生きるナガ族。その暮らしは、エネルギッシュで活気に満ち、一方で犯罪や人権の蹂躙、汚職が蔓延る都市部のインドとは大きく異なります。自然と人の優しさに育まれた ABOUT US は、そうして夢や希望をのせた美しくも爽快なメロディック・ハードロックに行き着きました。
彼らのメッセージはシンプルです。”決してあきらめるな”。自分を信じて、夢を持ち続け、チャンスをつかみ、自分だけの美しい物語を作って欲しい。その言葉はバンドを後押しする人たち、ナガ族、インド人、世界中のファン、そしてもちろん、自分たちにも投げかけられています。
ナガ族にとって欠かせないコミュニケーションの手段、愛と音楽を世界と共有するという夢を持ち、ABOUT US は “若い世代にロックの遺産を残す”、そのためにここにいます。まだ何も始まってはいませんが、セルフタイトルのデビュー作、”About Us” には、遺産を残すだけでなく、メロディック・ハード復権の予感、期待、原動力、その結晶がこれでもかと詰め込まれています。
「僕たちは実験的なメロディック・ハードロックバンドだと思っているよ。僕たちは常に様々な芸術的スタイルを実験しているから、そこからの影響を注入し、融合させたハードなメロディックロック、そんなスタイルやサウンドでありたいんだよね。僕たちは実験や変化に対してオープンだけど、メロディック・ハードロックが僕たちの音楽のコンセプトのベースとなることはたしかだよ」
定型化を極め、ある意味固定ファンのためだけの音楽となった感もあるメロディック・ハード。その功罪は別として、SMASH INTO PIECES, DYNAZTY のような “殻を破る” バンドが近年増えて来ています。再びメロハーの大きな波を、うねりを、濁流を呼ぶために必要なのはきっとそうしたブレイクスルー。ABOUT US はそのための切り札でしょう。
オランダの衝撃 TERRA NOVA を、より瑞々しく、挑戦的で、モダンに磨き上げたような彼らの音楽は、変化をもたらすに十分な “喜び” “楽しさ”、そして爆発には欠かせない “驚き” を備えています。TNT の Tony Harnell も舌を巻く天空へのハイトーンに、HAREM SCAREM の Pete Lesperance を想起させる奔放とストーリーのギターワーク。ナガ族の色を世界に発信したい。そんな野望も心強く、ABOUT US の名に込められたメロハーの “一体感と帰属意識”、その種を彼らは世界中にばら撒いていくのです。
今回弊誌では、ABOUT US にインタビューを行うことができました。「バンドメンバーは、なかなか面白い個性の集まりのアンサンブルなんだよね。この絆がうまく作用しているよ。みんなが自分の持っているものを少しづつ犠牲にし、活用していく。それが僕たちの強みなんだ」 日中の仕事と音楽のバランスを心がける、持続可能なメロハー・ベンチャー。衝撃のデビュー作は来月。どうぞ!!

ABOUT US “ABOUT US” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DYMBUR : CHILD ABUSE / RAPE CULTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DYMBUR !!

“We Cannot Expect To Change The World. We Are Just a Small Band From a Remote Corner Of The World So If Our Music Can Touch Just a Few Hearts And Bring About Just a Small Change Then We Would Consider Our Duties Fulfilled.”

CHILD ABUSE, RAPE CULTURE

「バンド名の DYMBUR はカシ語源で、英語では “Fig Tree” “イチジクの木” と訳される。カシ族は、インド北東部のメーガーラヤ州に住む先住民族なんだ。イチジクの木とは、古い枝から新しい葉が新しい形を形成する事、乾燥した期間の後に再生し新たに成長する能力から、再生、進歩、闘争の後の勝利への進化を象徴しているんだよ」
インド北東部の高地シロンを拠点とする DYMBUR。雨と雲に愛され、神の庭とも称される熱帯雨林を守るカシ族の申し子は、この10年でそのバンド名イチジクの木のように再生、進歩、そして勝利を手にしてきました。そもそもは、Djent とプログレッシブ・メタルに専念するバンドとして、国内のメタル・シーンで存在感を示していた彼ら。しかし、2020年になり、バンドは自分たちの音楽スタイルを一歩進めることを決め、その場所にカシ族の伝統音楽を融合させるようになったのです。
「僕たちは Djent/Metal とカシ族の伝統楽器を融合させ、独自のサウンドを作り上げることを決意し、ジャンルに “THRAAT” という言葉を加え、”Khasi Thraat Indian Folk Metal” と名づけることになった。例えば、デュイタラ(カシの小型ギター)は、8弦ギターと調和するように改造しなければならない。伝統的なデュイタラには4本の弦が張られているけど、僕たちは6本の弦に変更し、ナイロン弦を使うようにした」
今では、”Khasi Thraat Folk Metal” というアイデンティティで活動している DYMBUR。”Thraat” という新鮮な言葉は、長い年月をかけて、伝えるべきメッセージによってさまざまな形をとりながら熟成されてきました。”3連符の連鎖からの突然の停止”。DYMBUR 特有の音やグルーヴを見事に表現するその語感は、Djent における Thall と近い部分もあるのかもしれません。とにかく、今インドで “Thraat” とタグ付けすれば、それは即ち DYMBUR のこと。”Thraat” の最新形は、イントロにシンセウェーブのフィーリングを加えつつ、民族楽器のデュイタラやボムと融合させ、よりアグレッシブにラップまでをも取り入れています。LINKIN PARK や NU-METAL に対する憧憬を込めながら。
「インドではレイプが “文化” に変わり、人々は被害者に対して何の反省も同情もなく、日常生活を送ってしまっているんだ。場合によっては、被害者さえも、レイプされたのは自分のせいだと思い込んでしまうほど。だからどうしても、DYMBUR はこの曲を書き、制作しなければならなかったんだ」
2019年にリリースしたアルバム “The Legend of Thraat” に続き、2021年11月に社会派の新曲 “Rape Culture” を携え帰ってきた DYMBUR。彼らにとって “Rape Culture” とは、犯罪を矮小化したり常態化したりする行為が当たり前となっているインド社会を、少しでも変えたいという気持ちの現れでした。あまりにも犯罪が多すぎて、犯罪が “文化” となってしまう現実。DYMBUR はその “不都合な免疫” をメタルで洗い流そうとしているのです。
「僕たちは、変化をもたらすために少しでも努力しているだけなんだよ。インドにおける児童虐待は深刻だ。この曲の歌詞には、正確な事実が書かれている。1,000万人の子どもたちが児童労働に従事していて、毎日100人以上の子どもたちが何らかの形で虐待を受けている」
“Rape Culture” のリリース直後から、DYMBUR はインドの社会問題をさらに掘り下げ、”Child Abuse” を完成させます。児童労働、児童婚、児童虐待が蔓延するインドにおいても、特に彼らの出身地シロンは、炭鉱における限界を超えた劣悪な児童労働というデリケートなテーマに直面しています。
必要なのは、きっと国内以上に海外からの反響でしょう。もし BLOODYWOOD のようにこの曲が世界から大きな注目を集めることができれば、きっと世界は黙ってはいないでしょうから。さらに、社会に変化をもたらしたいという願望にとどまらず、DYMBUR はシロンを拠点とする非営利団体 SPARK のため資金集めも行っています。この団体は、社会から疎外された人々、特に女性や子どもたちの権利向上と福祉に力を注いでいます。
今回弊誌では、DYMBUR にインタビューを行うことができました。「僕たちは世界を変えようとは思っていない。僕たちは世界の片隅に住む小さなバンドに過ぎないから。でもだからこそ、僕たちの音楽がほんの少しでも人の心に触れ、ほんの少しの変化をもたらすことができれば、僕たちの任務は果たされたと考えられるんだ」 どうぞ!!

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOODYWOOD : RAKSHAK】


COVER STORY : BLOODYWOOD “RAKSHAK”

“This Has Been Our Direction From Day One — Metal Can Be Fun. You Don’t Have To Be Angry All The Time. People Say Metal Is a Way Of Life, So You Do Get Happy, You Get Sad, You Are In a Chilled-out Mode.”


RAKSHAK

今世紀初頭。ムンバイのメタルヘッド、Sahil Makhija、通称 “The Demonstealer” が、シンフォニック・デスメタルの先駆者 DEMONIC RESURRECTION と共に登場したとき、彼らは必ずしもインドで諸手を挙げて歓迎されたわけではありませんでした。
インドでは80年代後半から POST MARK のようなメタルバンドが活動してはいましたが、00年代に入っても依然として地元のメタルはニッチな存在であり、ファンはヨーロッパやアメリカから来たお気に入りのアーティストを聴きたがっていたのです。そんな中で、IRON MAIDEN だけがインドを準定期的にツアーしており、地元のバンドのほとんどはカバー曲を中心に演奏するにとどまっていました。
「私たちはその頃、オリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。

インド・メタルシーンの柱としての Demonstealer の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし私がやらなかったら、おそらく他の誰かがやってきて、いつか私の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」
Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」

幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。
THE DOWN TRODDENCE は、地元のケララ州の民族音楽の要素をスラッシュとグルーヴ・メタル・アタックに融合させたバンドです。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」
オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。

しかし、彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。
その “Dashavatar” のリリースから発売から4年以上が経ちました。Sahil が詳述したロジスティックとファイナンシャルの問題により、バンドは過度に多作することができませんが、シンガー/ギタリストの彼自身はその限りではありません。WORKSHOP というコメディロックバンドや、REPTILIAN DEATH というオールドスクールなデスメタルバンドでも演奏し、現在は SOULS Ex INFERIS という国際的なアンダーグラウンド・スーパーグループでもボーカルを担当しています。その無限のエネルギーと情熱をソロ・プロジェクト Demonstealer に注ぎ込み、最新作のEP “The Holocene Termination” をリリースしました。この作品は、タイトルが示すように黙示録的であり、The Demonstealer 自身は、自分のネガティブな感情を全て注ぎ込んだと語っています。
「みんな今日起きて、パソコンを開いて最新の恐ろしいニュースを見るのが怖いくらいだと思うんだ。世界がどこに向かっているのか、自分がどう感じているのかを表現するには、音楽が一番だ。COVID にしろ気候変動にしろ、人々はどんどん頭が悪くなり、とんでもない陰謀論にひっかかり、学校で習った最も基本的な科学も忘れている。まるで進化を逆から見ているようだよ」
Demonstealer にはドゥーム系のダークな雰囲気が漂っていますが、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

その筆頭格が、ニューデリーの BLOODYWOOD でしょう。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
Sahil は、彼らがインドのバンドの中で最も国際的にブレイクしそうなバンドであり、3月に4回のイギリス公演を含むヨーロッパ・ツアーと、来年末の Bloodstock への出演が予定されていることに期待を膨らませます。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
BLOODYWOOD が2018年に、”ラジ・アゲインスト・ザ・マシーン” という洒落たタイトルのツアーでヨーロッパを回ったとき、それはギタリスト、プロデューサー、作曲家の Karan Katiyar の言葉を借りれば “人生を変えるような経験” であったといいます。
「あの体験から立ち直れていないまま、もう2年も経ってしまったよ(笑) 俺たちにとっては1ヶ月の映画のようなもので、あらゆる感情が1000倍になっていたからね。友人たちは、俺たちがいつもその話をしていることにうんざりしているくらいでね。なぜなら、パンデミックに襲われる前、俺たちの人生で最後に起こった面白い出来事だったから。アレをもう一度、体験したいんだ」
3月にはヨーロッパに戻り、イギリスでの公演も予定されており、Bloodstook への出演も延期されていることから、彼らはその機会を得ることができそうです。今回は、煽情的なデビュー・アルバム “Rakshak” を携え、バンドを取り巻く興奮は最高潮にまで高まっています。

BLOODYWOOD の広大な多様性の感覚は、”Rakshak” で完璧に捉えられています。ヒンディー語と英語の混じった歌詞、そして常に変化し続けるサウンドで、このバンドを特定することは非常に困難な仕事となります。彼らは亜大陸の民族音楽(といっても北部パンジャブ地方が中心)を使うだけでなく、メタルの様々な要素を取り込んでいるのですから。彼らの曲の多くには明確に Nu-metal のグルーヴが存在しますが、時にはスラッシュやウルトラ・ヘヴィーなデスコアのような攻撃をも持ち込みます。
「俺らを特定のジャンルに当てはめるのは難しいよ。曲ごとにサウンドが大きく変わるから、インドのフォーク・メタルというタグに固執するのは難しいんだ。ジャンルが多すぎて特定できないけど、インドのグルーヴと伝統的なインドの楽器、そしてもちろんヒップホップを取り入れたモダン・メタルというのが一番わかりやすいかな」
そう Karan が分析すると、ラッパーの Raoul Kerr が続けます。
「ワイルドなアマルガムだよ。俺らは東洋と西洋の影響、その間のスイートスポットを探しているんだ」
シンガーの Jayant Bhadula がまとめます。
「これは様々な香辛料を配合したマサラ・メタルなんだよ(笑)」
どように表現しようとも、BLOODYWOOD のサウンドは実にユニークで、しかしそれ故にその開発には時間がかかりました。Raoul が説明します。
「観客の反応を理解し、完璧なバランスを見つけるために、何度も何度も実験を繰り返した結果なんだ。いったんスイート・スポットが見つかると、あらゆる可能性が開けてくる。インドの伝統音楽とメタル、この2つを融合させる新しい方法を見つけるのはまだまだ挑戦だけど、俺たちはこの方向性にとても満足しているんだ。このアルバムでは、そんなサウンドをたくさん聴くことができると思うよ」

2016年にニューデリーで結成されたこのバンドは、まずポップスやフォークソングを “メタライズ” した数々のカバーで、すぐにインターネット上でセンセーションを巻き起こしました。女優の Ileana D’Cruz がバングラ・ポップのヒット曲 “Ari Ari” の彼らのバージョンを何百万人ものインスタグラムのフォロワーと共有したときには、正真正銘のボリウッド・クロスオーバーの瞬間さえ起こしました。Raoul が振り返ります。
「ワイルドな時代だったね! 俺たちは自分たちのサウンドを発見し、オーディエンスを構築するためにカバーを使用したんだよ。それから自分たちの楽曲に集中した。アルバムには自分たちのオリジナルだけを収録したかったからね」
BLOODYWOOD というカレーには、メタル、ヒップホップ、バングラビートに伝統音楽。それ以外にも様々な香辛料が使用されているようです。
「あらゆる種類の音楽を聴いているよ。個人的にはメタル、ヒップホップ、ロックといったジャンルが好きだけど、どこの国の音楽であろうと、良いものは良いというのが俺らの共通認識なんだ。俺たちが作る音楽はそれを体現していて、どんなに異なるジャンルに見えても、全てに共通するものがあることを示している。Karan はThe Snake Charmer(インドで最も有名なバグパイパー)のプロデュースを、Jayant は穏やかな電子音楽とアコースティック音楽に情熱を注ぎ、Raoul は使命感を持って詩的なラップミュージックを作っているからね」
SNS は間違いなく、彼らのような “第三世界” のバンドにとってかけがえのない武器となります。
「間違いなくね。SNS のおかげで、地球上の人々はかつてないほど共感して、俺たちの音楽やメッセージに共鳴してくれるすべての人とつながることができるようになった。SNS は、俺たちが一体となって行動し、音楽の枠を超えてインパクトを与える力を与えてくれるんだ。俺たちのコメント欄をスクロールしてみると、俺たちとともに、インターネット上で最も美しい場所を作り上げている人々がいることがわかる。俺たちの成功は、ソーシャルメディアのポジティブな側面で築かれたものなんだ」

彼らにとって “妊娠期間” とも言えるカバーの時期は、BSB、50 cent、アリアナ・グランデ、そして NIRVANA, LINKIN PARK の曲を残酷にカバーしたアルバム “Anti Pop Vol.1″ で最高潮に達します。しかし、リック・アストリーをリフロールしていないときは(”Never Gonna Give You Up” の見事なヘヴィ・ヴァージョンが収録されている)、彼らは自分たちの楽曲に取り組み、それをよりシリアスなものへとゆっくりと変容させていったのです。
ライブ・セットでは時折騒々しいカヴァーが演奏されることもありますが、バンドは “ポップ・ミュージックを破壊する” という初期の目標よりも、もっと重要な目指すべきものがあることに気づくようになりました。自分たちのサウンドを発展させるだけでなく、自分たちが築いたプラットフォームを使って、自分たちが信じるものについて立ち上がり、発言するようになったのです。
BLOODYWOOD が真のデビュー作と位置づける、ヒンディー語のタイトル “Rakshak” は “保護者” と訳され、彼らの楽曲の多くにこのテーマが宿っています。Jayant が説明します。
「曲を聴いていると、守られているという感覚がある。でも、救世主が助けに来てくれるという意味ではないんだ。アートワークを見ると、子供と象が描かれているよね。象は、人間というこの壊れやすい生き物の中にある強さを表現しているんだ」
Raoul が付け加えます。
「より大きな視点で見ると、より良い世界への希望を象徴する人々、そして信念を守ることを歌っているんだよ。対立する政治をなくすことでも、性的暴行をなくすことでも、腐敗したジャーナリストの責任を追及することでも。何でもいい。大事なのはその希望の感覚を守ることなんだ。俺たちは、プライベートでも仕事でも、より良い世界への希望を与えてくれる多くの人々に出会ってた。俺たちが音楽を作る理由のひとつは、音楽が変化の触媒になり得ると信じているからなんだよ。音楽が俺たちに与えてきたポジティブな影響を考えれば、より良い世界を作る間接的な能力があると信じるに足るからね。
このアルバムは、俺たちが直面しているあらゆる課題から、人と地球全体を守るための共同作業について書いてある。俺たちは、問題を完全に排除することでこれを実現したいと考えているんだ。なぜなら、最善の防御は優れた攻撃であるから。分裂した政治、汚職、有害なニュース、性的暴行、いじめに関するメッセージや、うつ病との闘い、自分の限界への挑戦など、個人的なメッセージも封じながらね」

Karan、Jayant、Raoul の3人が中心となって結成され、ツアー時にはさらにメンバーが加わる BLOODYWOOD は、メンタルヘルスやいじめといった問題についても焦点を当てています。例えば、オンライン・カウンセリングを必要としているファンに無料で提供したり、ツアーの収益を NGO に寄付して、ホームレスの動物を助けるための救急車を提供したり。
例えば “Yaad” は、人間と人間の親友である犬の感動的な物語を通して、愛と喪失という普遍的な人間の経験を祝福するものです。 “Yaad” はヒンディー語で “思い出す”、”記憶の中で” という意味で、Karan の実体験を通して愛する人やペットを失ったことを受け入れて前に進む力について歌っています。
「この歌詞は、彼らが俺たちに与える永久的な影響を祝福し、どんなに離れていても、最高の思い出として彼らを胸に留め続けるという信念を繰り返している。俺は10年前に愛犬を亡くしたけど、今でもその喪失感を感じているんだ。MV では、そのメッセージを強調するために、人間と愛犬の絆を見せたいと思ったんだよ」
この曲とビデオの精神に基づき、BLOODYWOOD は、The Posh Foundationという地元の非営利動物保護施設に動物の救急車を購入する資金を提供しました。同団体が以前使用していた車両は、酷使と故障のために買い替えが必要でした。今後5年間でインドの首都圏にいる27,000匹以上のホームレス動物の命を救うことができるといいます。

一方で、”Machi Bhasad” は、高揚感とエネルギーに満ち、世界を変える声となります。
「元々は Ubisoft のゲーム “Beyond Good and Evil 2” のために作られた曲だ。新しい世代のパワーと、前世代よりも良くなる可能性を称える政治的メッセージのあるトラックなんだよ。ゲームの文脈の外では、この曲はトリビュートと行動への呼びかけ、その両方を意図している。俺たちのような人々に、かつて皆のためになることを考え、行動するようインスピレーションを与えたミュージシャンやリーダーへのトリビュート。同時に、多くの人の犠牲を払って少数のエリートに奉仕する不公平なシステムに疑問を投げかける。俺たちの世代が、先人たちが始めた仕事をやり遂げるための行動への呼びかけでもあるんだよな。世界をより良い方向に変えていくために」
パンジャブ語で “勇者よ生きろ” という意味の “Jee Veerey”は、鬱と戦い、心の健康を提唱するエモーショナルなテーマになっています。また、このシングルに関連して、オンライン・カウンセリングサイト HopeTherapy と提携し、彼らはバンドが負担する50回のカウンセリングセッションを提供しているのです。
「BLOODYWOOD の初日から俺たちは言っているんだが、メタルは楽しいものなんだ。いつも怒っている必要はないんだよ。よく、メタルは人生だと言われている。だから、喜んだり、悲しんだり、冷静になったりしてもいいんだよ。
俺らの曲が好きだという人からメッセージをもらったんだけど、そこには “でも、同性愛嫌悪や女性嫌悪に対するあなたの立場は?”って書いてあったんだ。俺はただ、”好きな人を好きになればいい” と言ったんだ。俺たちは、基本的にとてもオープンなんだよね。そういうメッセージを発信したいんだ」

Raoul にとって、”Raj Against The Machine” のタグ(バンドが最初のヨーロッパ公演の際に撮影したツアードキュメンタリーのタイトルでもある)は、単なるダジャレ以上のものでした。ラッパーである彼は、RAGE AGAINST THE MACHINE から音楽的にも活動面でも最も大きな影響を受けているからです。
「彼らは音楽が政治的、社会政治的な観点からどこまで行けるか、そして理想やアイデアの背後に人々を集結させるという点で、音楽がどれほど強いかを証明したんだよ。ほとんどのアーティストは、自分たちのやっていることで足跡を残したいと思っているし、俺たちも人々の生活にポジティブな影響を与えたいと思っている。それは作曲するときに常に念頭に置いていることで、このバンド全般のテーマは、この世界に価値を与えるものでなければならないということなんだ」
彼らは、そのポジティブさと正義の怒り、そして驚くほどユニークな音楽の組み合わせを、もうすぐ世界を震撼させることになるでしょう。
「どこに行くのか正確にはわからないけど、100パーセント確実に言えるのは、このアルバムにすべてを捧げたということだよ。完璧な嵐のように感じるよ。新しいセットでより高いレベルで戻ってくるし、フェスティバルもあるし、今年は本当に爆発するような、そんな良いポジションにいると思う…..音楽が音楽を超えて現実に影響を与えること、音楽が世界を変えることができることをさらに証明したいんだよ」
最後に、BLOODYWOOD とは結局、何なのでしょう?
「BLOODYWOOD はバンドであると同時にファミリーであり、ムーブメントでもあるんだ。俺らの音楽は、地球に永続的でポジティブなインパクトを与えるためのものなんだよ」

参考文献: KERRANG!:Bloodywood: “The theme of this band is that it has to be something that adds value to this world”

KERRANG!:Meet the man who brought metal to India

REVOLVER:WATCH INDIAN METAL VIRAL STARS BLOODYWOOD’S UPLIFTING NEW VIDEO “JEE VEEREY”

BLOODYWOOD BANDCAMP

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PINEAPPLE EXPRESS : ANTHEM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PINEAPPLE EXPRESS !!

“Bollywood” Just Translates To “Mainstream” For Me. Prog Is a Genre That Is Overlooked By The Mainstream Audience. But We Are Trying To Make It Accessible And Enjoyable For The Regular Listener. “

DISC REVIEW “ANTHEM”

“バーフバリ” やボリウッドの成功が象徴するように、桃源郷のようなインドのエンターテイメントは世界中を席巻しています。そして、モダンプログ/メタルの世界においても、インドはもはや目が離せないニューフロンティアとなっています。
PERIPHERY のキャッチーと TesseracT のアトモスフィアを抱きしめる SKYHARBOR、インドの伝統音楽を複雑怪奇に探求する AMOGH SYMPHONY, Bruce Soord, Steve Kitch の知を導入した PARADIGM SHIFT, ダークでオルタナティヴなピンクフロイド COMA ROSSI, そしてもはやベースワールドのトッププレイヤーとなった Mohini Dei。すでに、インドの活況はプログレッシブユートピアの相を呈していますね。
中でも、PINEAPPLE EXPRESS はそのインドのカラフルで煌びやかな悦楽の園を、見事にモダンメタル/プログの世界へと投影したエルドラドです。
「僕たちの音楽が持つポテンシャルを最大限発揮するためには、より多くの要素が必要だと悟ったんだよ。」バンドの創設者でキーボードプレイヤー YOGEENDRA が語るように、インド音楽シーンのハブ都市バンガロールに端を発する PINEAPPLE EXPRESS は、その壮大かつ多様な音楽性を具現化するために、8人のメンバーを揃えることとなりました。
フルートにヴァイオリン、そしてダブル、時にトリプルボーカルとなる豊かな旋律のアンサンブルは、最新シングル “Anthem” のまさにアンセムたる由縁です。そして、インドの伝統音楽から DREAM THEATER、SKRILLEX まで、通過した全ての音楽を等しく愛すると語る YOGEENDRA の言葉通り、モダンプログ/メタルはもちろん、Nu-metal, EDM, マスロック、ジャズ、エレクトロニカ、ヒップホップと涌き出でるその多様性の泉は、言語的ビッグバンをも伴って、圧倒的なフックと高揚感を孕みながらリスナーのエナジーへと変換されていくのです。
さらに、PVの熱狂的なオーディエンスが物語るように、その音楽とライブパフォーマンスが放つ圧倒的なスペクタクル性は、PINEAPPLE EXPRESS こそプログワールドにおける次世代の旗手である証なのかもしれません。
「僕にとって “ボリウッド” という言葉は “メインストリーム” と同義なんだ。そしてプログというジャンルはメインストリームのリスナーから見落とされていると思うんだ。だからこそ、僕たちはプログをよりアクセシブルに、一般的なリスナーが楽しめるように味付けしようとしているんだよ。」彼らはボリウッド成功の秘訣を理解しています。そしてあのゴージャスな浮世絵巻きを愛するプログの世界へと持ち込み、停滞するシーンに活路を見出そうとしているのかも知れませんね。
ただし、EP “Uplift” の複雑極まるオープナー “Cloud 8.9” を聴けば伝わるように、バンドの創造性、ハイテクニック、コンポジションはすでに名だたるプログロースターにも一切引けを取りません。むしろ従来のプログメソッドでも十分勝負可能なアビリティーを備えながら、メインストリーム、一般リスナーを意識した彼らの舵取りは、それこそが真の意味での “プログレッシブ” を体現しているのかもしれませんね。
今回弊誌では、4人のメンバーにインタビューを行うことが出来ました。公開数日での15万再生突破は伊達ではありません。さらに、旬のサウンドマン ARCH ECHO の Adam Bentley がミキシングを手がけたアンセムをぜひ。どうぞ!!

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