EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SARAH PENDLETON OF THE OTOLITH !!
“It Is Worrisome And Frightening How Easily We Seem To Slip Back Into The Grave Mistakes Of The Past And Allow Ugliness And Hatred And Aggression To Poison Us. Vigilance And Memory Are Vital. Love Is Vital”
DISC REVIEW “FOLIUM LIMINA”
「”Bone Dust” はウクライナ侵攻の前に書かれたものだけど、自分の家を守るための歌。私たちは簡単に過去の重大な過ちに戻り、醜さと憎しみと侵略に毒されることを許してしまうようね。心配だし恐ろしいわ。警戒心と記憶力は不可欠だと思う。何よりも、愛は不可欠よ」
世界は多くの場所、様々な理由で燃えているように思えます。だからこそ、”過去” という灰の中から生まれた THE OTOLITH の “Bone Dust” は2022年に必要なアンセムにも感じられるのです。見事にサンプリングされた “独裁者” におけるチャップリンの演説と同様に、この楽曲は徐々に強度と熱を増し、燃え盛る世界の醜さ、憎しみ、不条理に対して教訓という愛を注いでいきます。
THE OTOLITH 63分のデビュー作 “Folium Limina” は、”Sing no Coda “に聞こえる遠い教会の鐘から、TOOL のような陶酔感の “Andromeda’s Wing”, ISIS を思わせるドラマティックなクローザー “Dispirit” の最後の音までリスナーは絶句し、静寂と轟音、美麗と醜悪の狭間で人間の業を知り、それでも希望という名の光を胸に秘めて生を見つめます。
「SUBROSA の終焉は、私たちにとって胸が張り裂けるような出来事だったわ。予期せぬ出来事で、私たちは何ヶ月も悲しみと混乱と嘆きに包まれていたの。でもね、グループのメンバーの一人がその一員であることを望まなくなったとき、最終的にはそれを受け入れて前に進まなければならないの」
THE OTOLITH は、ソルトレイク・シティで愛された SUBROSA の灰の中から生まれたバンド。元 SUBROSA のメンバー Sarah Pendleton、Kim Cordray、Andy Patterson、Levi Hanna と、VISIGOTH のベーシスト Matt Brotherton で新たな生を受けました。THE OTOLITH は不死鳥のように蘇るのか。それとも、イカロスのように燃え尽きるのか。求めよ、さらば与えられん。5人のデビュー作 “Folium Limina” は明らかに SUBROSA の遺品をさえ凌ぐフェニックスに違いありません。
「”Otolith” とは、ギリシャ語で “耳の石” を意味する言葉。内耳にある小さな水晶の構造物なのよ。バランス、動きの検出、音の検出を助けるの。アルバム・タイトルのフォリアとは、脳の中にある葉っぱのような構造物で、電気や電磁波のエネルギーを伝導させる働きをする。木の枝のように見えるわ。そして、リミナという言葉は、覚醒と夢想の間、シラフと陶酔の間、生と死の間などの心の辺境状態に由来している」
耳の石の名を冠した THE OTOLITH は、SUBROSA の残したものをある程度は受け継いでいると言って良いでしょう。巨大でアヴァンギャルドなドゥームを得意とし、情景を映し出すモノリシックなメランコリーが彼らの命題。氷河のようなリフがドゥーミーな海に突き刺さり、幽霊のようなヴァイオリンがその表面を悲しみの色に染め上げます。
美と破滅の間に境界線を引かず、幽玄なストリングスとダイナミックなベース、ギター、パーカッションを織り込んだ闇のタペストリー。現実と夢想、生と死の狭間で輝くのは Sarah と仲間の千変万化な歌唱。深く掠れた咆哮、礼拝的な詠唱、合唱のような澄んだ歌声は、SUBROSA の影をなぎ払い、キャッチーで、ダイレクトで、ドラマティックな THE OTOLITH の現在地を内耳の水晶へと刻みます。
「誠実さ、純粋な感情こそが、音楽を作る上で最も重要なピースだと信じているわ。だから、私たちにとって、それは今も変わっていない。その感情がネガティブなものであろうとポジティブなものであろうと、誠実である限り、すべての楽曲に含まれるべき唯一の要素なのよ」
誠実、純粋、愛。THE OTOLITH のスロウ・バーンはそうした感情の大切さと共に、過去の過ちから学ぶべき知恵の輝きを再確認させてくれます。残虐で冷酷な悲壮から切ない美しさまで、音のスペクトラムを横断する6曲は、近年稀に見る “アルバム” 志向の作品。つまり、これはタペストリーであり、美しく説得力のあるしかし欠点に満ちた人生の教科書なのでしょう。メタルを通して生命を吹き込まれた人間の経験は、暗く、美しく、思慮深く、超越的なものとなるはずですから。
今回弊誌では、Sarah Pendleton にインタビューを行うことができました。「ヘヴィ・メタルはバラエティに富んだ多元的な世界なの。木星サイズの抽象画のように、より多様になり、渦を巻き続けているのよ。私たちは、どんなサブジャンルに分類されようが、そこからこぼれ落ちようが、その世界の一部であることに恍惚としているの」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANIEL DROSTE OF AHAB !!
“Listening To The Repetitive And Gloomy Atmosphere Of Funeral Doom Immediately Created Pictures In My Mind.”
DISC REVIEW “THE CORAL TOMBS”
「ジュール・ヴェルヌの “ノーチラス号” の小説は、”白鯨” に次いで、航海小説の中で最も人気のある物語。僕は60年代のディズニー映画で初めてこの物語に触れ、子供の頃本当に大好きだったんだ」
ドイツが生んだフューネラル・ドゥームの巨神 AHAB は常に深海に魅せられてきました。ハーマン・メルヴィルの “白鯨” に登場する狂気の船長を名乗る彼らの作品は、未知の世界への航海と、未知に隠された恐怖という名のカタルシスをいつも表現しているのです。
さながら IRON MAIDEN の大作 “Rime Of The Ancient Mariner” を深く暗い海底へと沈めるかのように、深海のフューネラル・ドゥーム集団は2006年の “The Call Of The Wretched Sea” で白鯨を語り、そこから2009年の “The Divinity of Oceans” でマッコウクジラによるエセックス捕鯨船沈没を舞台とした海の脚本を演じ続けました。
さらに、エドガー・アラン・ポーの “ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語”(2012年 “The Giant”)や、ウィリアム・H・ホジソンの “The Boats Of The Glen Carrig”(2015年の同名アルバム)においても、深海の神秘性とアトモスフィア、そして “自由” を、その深みを持った重くて広がりのある葬送曲で見事に表現してきたのです。
「強硬派に言わせれば、ドゥーム・メタルがドゥーム・メタルであるためには特定の様式美が必要だと主張するだろうが、ここには自由がある。これまで AHAB のために作曲している間、限界を感じたことは一度もないからね。ドゥーム・メタルというと、まずそのスロー・テンポや独特のハーモニーを思い浮かべるだろうけど、それ以外にも、ほとんどすべてのジャンルの要素を取り入れることができる自由があるんだ」
なぜ AHAB がこれほどまでに深海へと魅了されるのか。それはきっと、ドゥームと同様に海の底にも “不自由の中の自由” が存在するから。たしかに、光の届かない高圧の海底と同様に、ドゥームには重くて遅い反復の美学という確固とした不文律が存在します。しかし AHAB は、その不自由という音の檻を神秘性やエニグマという魅力へと変えながら、ドゥーム・メタルの長所を引き立てていきます。
つまり、”フューネラル・ドゥームのダークなムードとモノトーンな雰囲気においては、メロディやリズムのシンプルな変化で大きなインパクトを与えることができる” という Daniel の言葉通り、AHAB は屍が降り積もる真っ暗な海底でなお、音楽的な実験と冒険を繰り広げているのです。
「小説という雛形にとって、その物語の解釈に間違いや正解はない。目的ははアートであり、制限やルールは存在しないはずだからね。そして、それこそが僕が作曲をする上で好きな部分なんだ」
深海の語り部が “The Coral Tombs” で挑んだのは、ジュール・ヴェルヌの名著 “海底二万里”。オープニングから、物語のため彼らがはるか海面下に降りていくのが伝わります。”Prof. Arronax’ Descent Into The Vast Oceans” は、不協和音の予期せぬ爆発で始まり、ブラストビートと悲鳴で真っ暗な海道へと突入。スロウでドゥーミーなものを想像していた人には衝撃的な導入部。
一方、”The Sea as a Desert” は、海の砂漠が漂う即興的でサイケデリアを帯びた楽曲。そして、このアルバムの美しくミニマルな瞬間は、主にポストロックに由来していることが明らかとなっていきます。そう、AHAB の新たな冒険は、明らかに以前よりも多様化し、語り口が増幅されているのです。
特筆すべきは Daniel の歌声で、スクリームは魂の奥底まで浸透し、彼のクリーンな歌声は今までのどのアルバムよりも力強くエモーショナル。新たな武器を得た船長は、テンポ、テンション、メロディ、楽器編成をダイナミックに変化させ、レイヤーを緩やかに行いながら、重厚なメランコリーで彼らが熟練の船乗りであることを証明していきます。穏やかなアンビエンスから死のドゥームまで巧みに変容する音楽は、未曾有の音楽体験だと言えます。
それでも、”The Coral Tombs” の大半がドゥームであることに間違いはありません。外部からの影響はこれまで以上に大きいかもしれませんが、AHAB サウンド骨子となる、噛み応えのあるリード、引きずるようなリフワーク、そして沈むようなリズムの波は、未だに海の神秘を尊さまで備えながらリスナーの鼓膜をさながら海底地震のごとく揺らすのです。
今回弊誌では、Daniel Droste にインタビューを行うことができました。「AMORPHIS の “Tales From The Thousand Lakes” と HYPOCRISY の “The Fourth Dimension” を見つけたとき、10代の僕は本当に感動したんだ。アグレッシブな音楽は聴いていたけど、アグレッシブな音楽とダークなアトモスフィア、そして AMORPHIS の曲で使われているオリエンタルなメロディーの組み合わせは、僕を強く惹きつけるものがあったんだ」 どうぞ!!
SLEEP TOKEN の成功は、何年もかけて作られたもの。2016/17年にプログレッシブ・メタル/Djent のとポップやR&Bといった多様な影響を融合させたモダン・メタルで初めて登場し、”Fields Of Elation” や “Nazareth” は耳の早いリスナーたちの注目を集め始めます。しかし、このユニークで謎に満ちた集団が本当に軌道に乗り始めたのは、バンドがデビュー・フル・アルバムからの新曲を垂れ流し始めた2019年になってからでした。
SLEEP TOKEN を “ミステリー・バンド” “エニグマティック” と呼ぶのは、彼らに関する情報があまり出回っていないから。メンバーは儀式的な仮面をつけ、服装も隠しているため、その素性は明らかにされてはいません。わかっているのは、バンドのリーダーが Vessel という名前で活動していることと、 “Sundowning”(2019), “This Place Will Become Your Tomb”(2021)という2枚のフルアルバムがあることだけで、後者は、様々な媒体で2021年のベスト・アルバム・リストに選出されています。
SLEEP TOKEN のアイデンティティ、その神秘性と、複数の異なるスタイルの音楽を融合させた非効率性と異常性の両方を利用したことは、成功の助けとなりました。なぜなら、そうして複数の市場からの注目を集めることは、新人バンドにとって名声を得るための最も手っ取り早い方法のひとつであり、匿名性はファンによる “詮索” というアミューズメントを生み出します。
デジタル時代には匿名性の美しさがあります。私たちの多くは、知り合いが1~4つの SNS で常につながっていて、恐ろしいほどの勢いで切り替えながら憧れのセレブリティや、架空のヒーローについてあらゆることを学びます。私たちは、消費するために情報をノンストップで消費し、自分の行動を疑うことはありません。
SLEEP TOKEN の信奉者たちは、その手がかりを探し求めています。コヴェントリー在住のファン Chris が立ち上げた Discord サーバーで、彼らはバンドの歌詞、アートワーク、MV、グッズを丹念に調べ、ダ・ヴィンチ・コードのメタル版といった風態で隠れた意味を読み解こうと試みているのです。
「ウェブサイトで Vessel のインタビューを読んで、もっと知りたくなったんだ。Reddit でバンドのコミュニティがないか見てみたんだけど、当時はなかったから作ることにしたんだよ」
現在、そのメンバーは900人を超え、バンドが残した暗号を読み解くことに必死です。Tシャツのデザインに描かれた数字列が、鯨の死骸が海底に落ち、生態系全体の栄養源となる “鯨落ち” の座標であることを発見しました。
「バンドが提示する隠されたアイデンティティと世界観が好きだ。音楽だけでなく、全体的な体験ができるんだ」
アルバム “This Place Will Become Your Tomb” は、腐敗した鯨とそれを餌とする動物たちのヘヴィなイメージを象徴としています。死の中の生、つまり Vessel が頻繁にリリックで取り上げるトピックと永遠の繰り返しを表現しています。
Discord は、バンドがその芸術を通して何を探求しているのか、あるいはしていないのか、魅力的な洞察を与え続けています。
「何事も永遠には続かない。それまで我々は崇拝するのだ」と Chris は淡々と語ります。
インターネットと様々なソーシャルメディアの力によって、無名のバンドが一夜にして一般大衆に浸透する時代になったことは間違いないでしょう。SLEEP TOKEN を新しいバンドだと思い込んでいるメディアもあるかもしれません。しかし重要なのは、多くのバンドやミュージシャンがそうであるように、この新たな成功は何年もかけて作られたものなのです。結局、時代がどう変わろうと、バンドをどのように発見するかはあまり重要ではないのかもしれませんね。昔からのファンであろうと、SLEEP TOKEN の活動を初めて知った人であろうと、バンドが成功を収めることは常にクールであり、新しくてユニークな体験とサウンドを提供するバンドであれば、なおさら嬉しいことですから。
バンドへの期待値は、今後も上昇傾向にありそうです。Genius によると、具体的なリリース日は明らかにされていないものの、”Take Me Back to Eden” というタイトルのアルバムが進行中とのこと。
Spinefarm Records のウェブサイトでは、”Chokehold” と “The Summoning” について、「次に何が来るかは時間だけが教えてくれるが、確かなのは、それが慣習に縛られることはないだろう」と書かれています。
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STU NICHOLSON OF GALAHAD !!
“I Think We Moved On From What You Would Call ‘Neo-Prog’ In Terms Of The ‘Sound’ Many Years Ago. I Think That These Days We Have Found Our Own ‘Sound’ Which Is Far More Diverse And Varied Than In The Early Days.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN COBBETT FROM HAMMERS OF MISFORTUNE !!
“Let’s Boil It Down To “Illusions” By Sadus And “Nursery Cryme” By Genesis; This Pair Of Albums Are Kind Of i Ideal In Thrash On One Hand, And Prog On The Other, To Me Anyway.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KRISTIAN HAVARD OF XENTRIX !!
“Thrash Metal Could Be Down To Age And Experience. When You’re a Younger Band You Play Together In a Different Way Than When You’ve Been Around The Block a Few Times.”
DISC REVIEW “Seven Words”
「イギリスのスラッシュ・シーンは盛り上がるのが遅くて、アメリカやドイツのようなインパクトはなかったと思う。XENTRIX も同様に現れるのが遅かったから、シーンの興隆の助けにはならなかった。
つまり、レコード会社はイギリスのバンドに投資する前に、アメリカのバンドがどれだけ大きくなれるのか見たかったんだと思う。そして、彼らが僕らのようなバンドを欲しがった時には、もうシーンは次に向けて動き出していたんだ」
XENTRIX ほど “徒花” という言葉が似合うスラッシュの英雄はいないでしょう。生まれた場所や時間さえ違っていれば、今ごろは華々しいレジェンドと肩を並べる存在であったかもしれません。80年代半ばに英国で誕生した XENTRIX はまさに遅れてきたスラッシュ・エキセントリック。バンドの大作 “For Whose Advantage?” が、スラッシュの当たり年 1990年に発売されたのも不運だったのでしょうか。”Rust in Peace” ほどテクニカルではなく、”Twisted into Form” ほど熱くもなく、”Spectrum of Death” ほど凶暴でもなく、”By Inheritance” ほど知的でもなく、”Slaughter in the Vatican” ほど革命的ではありませんでしたが、それでも、”For Whose Advantage?” はメタルの伝統と野望を宿した凶暴なリフの刃でまっすぐ頸動脈に向かってきます。
「ベイエリアのバンドは古いバンドよりもモダンでエキサイティングな感じがしたけど、僕たちは自分たちのメタルのルーツも残したかった。だから、XENTRIX ではその二つの融合を聴くことができると思う。いつも言っていることだけど、僕らはメタルに重点を置いたスラッシュ・メタル・バンドなんだ」
一度は “徒花” として埋葬される運命にあった XENTRIX ですが、墓所の石棺は半ば強引に内側からこじ開けられることになります。”Bury The Pain”。痛みとともに葬られていた才能と野心は、2019年に再度世界へと解き放たれました。バンドの顔であったシンガー Chris Astley こそ欠いていますが、Jay Walsh はその穴を埋めてあまりある逸材。
今振り返ってみると、当時の英国スラッシュ勢、ACID REIGN にしろ、ONSLAUGHT にしろ、SABBAT にしろ、何かしら独特の “エグ味” “異端感” を伴っていたような気がします。その “エグ味” を世界が珍重する前に、ムーブメント自体が終焉してしまった。だからこそ、XENTRIX は再び地上に這い出でる必要があったのです。
「僕たちはベイエリアのバンド、TESTAMENT, VIO-LENCE, EXODUS, FORBIDDEN(これでも少し挙げただけだけど)が大好きだったんだ。
でも、彼らのようになろうとしたわけではなく、メタルという鍋に自分たちの味を持ち込みたかったんだよな」
復活第二弾となる “Seven Words” は、文字通りスラッシュ・メタルの “7つの系譜” を融合させたものと言えるのかもしれませんね。XENTRIX 初期の作品には、ベイエリアの躍動を受け継ぎながらも、ブリティッシュ・ハードの伝統と、CORONER のような暗知的な色合いを備えていました。そうした下地に、 初期の SEPULTURA を思わせるクランチーな圧迫感、さらにメロディアスなリフと高揚感のあるギターでメタル世界の各階層へとアピールしながら、確実に音の進化を刻んでいるのです。
“Seven Words” というリフの迷宮と”Anything but the Truth”” のシンプル・イズ・ベストが交互に現れるリフ・ダイナミズムもアルバムの魅力。そもそもメロディックな色合いは XENTRIX の本分ではないにもかかわらず、巨大なコーラスが破砕的なギタリズムと衝撃的にキャッチーな歌心をさながら溶かして融合させるスラッシュとメタルのハンダ付けはあまりに印象的でエネルギッシュ。そうして彼らは、テクニカルで好戦的でメロディックなヘヴィ・メタルの理想像を老獪に描き出すのです。
今回弊誌では、バンドの心臓 Kristian Havard にインタビューを行うことができました。「スラッシュ・メタルは年齢と経験を重ねる必要があるのかもしれないよな。若いバンドは、経験豊富で何度かバンドを組んだことがある人とは違った方法で一緒に演奏するからな」
“I Do Love Dark Music, But To Me My Music Just Sounds Like Rainbows. Jagged Piercing Ones At Times, But Still Rainbows.”
DISC REVIEW “I WILL NOT USE THE BODY’S EYES TODAY”
「私は自分の音楽を、天使と悪魔の融合とは思っていない。私にとってはすべて天使的なものなんだ。悪魔的なものは、私自身の悪魔について論じるときに題材として登場するだけでね。意図的にダークな音楽を作ろうとはしていないんだ。ダークな音楽は好きだけど、私にとって自分の音楽は虹のように聞こえるだけ。時にはギザギザに突き刺さるような虹もあるんだけど、それでも虹なんだよ」
ご存知の通り、ヘヴィ・ミュージックが無味乾燥で一義的な場所であるというのは、完全なる誤解です。とはいえ、殺風景で無彩色なスタイルの持ち主がたしかに多いのも事実。しかし、そういったアーティストと同じくらい、ヘヴィ・ミュージックを色鮮やかなアートの爆発として扱う人たちも同様に多いのです。シカゴの Fire-Toolz は、ヘヴィネスに宿る無限の色彩を提案するインターネットの虹。Fire-Toolz A.KA. Angel Marcloid は、プログレッシブ、ブラックメタル、ジャズ・フュージョン、インダストリアル、AOR, グラインドコア、さらには日本のシティー・ポップの要素までスリリングなプロキシを通して屈折させ、スタイルの境界を創造のピクセルで消してしまうのです。
「どんなジャンルの音楽にも、男っぽいとか、女っぽいとか、固有のジェンダー・アイデンティティや表現があるとは思えないよ。ここアメリカの私たちにしても、他の文化にしても、そうした関連付けや決めつけをしてしまうのは残念なことだよ。ただ、私はそうしたレッテル貼りが一般的であることも理解しているんだ。私がそんな風に物事を見たことがないたけでね。境界が曖昧になることは、ほとんどの場合、良いことだと思うんだ。制限を取り払い、規範を解体し、自由を活用することは、とても重要なことだから」
ここ数十年にわたるポスト・モダニズム思想の定着は、ステレオタイプを曖昧で不安定なものとし、ジャンルや形式といった制約を過去の遺物と見なす新しい文化を精製しました。Fire-Toolz の最新作、”I will not use the body’s eyes today” は、この新世界の芸術的アプローチをある意味で体現しているのです。その主眼は、音楽の “脱構築” にあります。
「他の人が私のカオスをどう捉えているかは、よくわかるんだよ。私にとってこの混沌は、とてもコントロールされ、組織化されているように感じられるんだけど、外から見ると、混乱しているように見えるかもしれないね」
私たちが毎秒何千ものピクセルを自然とスクロールするように、この7曲はリスナーを容赦なく説得し、時に幻惑します。一つのテクスチャーやモチーフに落ち着くことはほとんどなく、さながらグリッチを含んだデジタル・コラージュのように機能していきます。最もオーソドックスな “Soda Lake With Game Genie” にしても、6分半という長尺の中にサックスやブラスト・ビート、80年代のポップなど、予期せぬ展開が濁流のように押し寄せる非常に流動的な仕上がり。
“A Moon In The Morning” では、Angel Marcloid のパレットは全体を覆い尽くす焼けるようなディストーションへと変化し、悪魔の遠吠えとオーケストラのMIDIストリングスの厳しいせめぎ合いが対消滅の危機感を抱かせます。イタロ・ディスコ、テクノ、EBM のテイストを取り入れたビートも、アコースティック・ギターのサスティーンを強調したブレイクダウンも、この構築を逃れたしかし意図的なカオスの中にあります。
重要なのは “仕切り” がないこと。ここはブラックメタル、ここは AOR、ここはプログレッシブなどという構築された混沌は、結局のところステレオタイプで、興ざめです。
こうして、従来の構成や動きといった概念を完全に捨て去ろうとする姿勢が “I will not use the body’s eyes today” をユニークで挑戦的作品にしているのです。それはまさに、体の目を使わず、心の目で作品を作ること。心を開き、未来を見据えることのできるリスナーにとって、この計算された混沌はすべての芸術と文化が境界線を失ってもまだ機能する世界の予兆とまで言えるでしょう。そう、私たちは Fire-Toolz によってまんまとハッキングされているのです。
「”I will not use the body’s eyes today” というフレーズは、多かれ少なかれ、私がエゴ (肉体的な目) からではなく、高次の自己の目 (心の目) から見ることを肯定しているんだよね。つまりこれは、超越のための嘆願なんだよ」
ヴェーダ哲学、キリスト教神秘主義、見捨てられることへの恐れ、感情の断絶、愛着の不安、自己破壊、意識の霊的傾向、トラウマの治癒、恥。Angel は永遠に拡張される音のツールボックスと同様に、世界とその神秘に対する多様な哲学と神学のインデックスをもその作品に注ぎ込んでいます。そうして、Fire-Toolz というプログラムは自己実現によって既存の器がさらに拡大可能であることを証明しているのです。
今回弊誌では、Angel Marcloid にインタビューを行うことができました。「カシオペア、角松敏生、木村恵子、杏里、Hiroshima、堀井勝美、鈴木良雄、菊池桃子を生んでくれてありがとう!」 どうぞ!!
Fire-Toolz “I WILL NOT USE THE BODY’S EYES TODAY” : 10/10
COVER STORY : POLYPHIA “REMEMBER THAT YOU WILL DIE
“I’m Gonna Grow Up And Be a Rock Star, And Just Truly Believing That.”
REMEMBER THAT YOU WILL DIE
「中学2年生の時にマリファナを吸い始めた。それが僕の人生の中で大きな意味を持つようになったんだ。テキサスに住んでいたから麻薬所持で逮捕されたけど、それが僕のキャリアに火をつけたようなもの。僕は保護観察中で、1年間、学校に行って、家に帰るだけだったんだ。人を呼ぶことも、友達の家に行くことも許されなかった。それで、ギターを本当に、本当に、本当に上手になろうと思ったんだ」
16歳になった POLYPHIA の Tim Henson は薬物所持で2度、法に触れてしまいました。テキサス州のように薬物犯罪が特に重く処罰される州では、尚更居場所を失います。今、28歳の Tim は、「毎日マリファナを吸える仕事に就いたんだ」と皮肉を込めて話します。「でも、”言霊” ってあるんだよね。小学校6年生のとき、”僕は Tim Hendrix。大きくなってロックスターになるんだ” って、みんなに宣言して、本当にそう思っていたんだ。だからね、意識の顕在化、決意表明。その力が本当に重要だと思うんだよ」
麻薬所持の罪で、Tim は保護観察や外出禁止処分となり、一人でいることが多くなりました。しかし、その時間をすべて使ってギターの練習を続け、貪欲に最高のミュージシャンを目指したのです。中国からの移民である母親は、息子がアメリカで得られるチャンスを最大限に生かすことを決意します。3歳のときから Tim はヴァイオリンのレッスンを受け始め、幼少期に長時間の練習に対する耐性を養いました。間違うと先生に弓で手を叩かれることもあり、決して楽しいものではありませんでしたが、彼はこの経験に感謝しています。
「多くの移民が、アメリカはチャンスの国だと考えている。だから、若いうちから何かを始めさせる親が多いんだ。乱暴な先生で、当時はかなり嫌だったけど、今思えばおかげで規律を学べたし、集中し、鍛錬し、練習することで、何事も上手になることを理解できたんだ」
10歳のある日、Tim は父親がギターを取り出すのを見ます。それまで父親がギターを弾くということを全く知らなかった彼は、その楽曲に興味をそそられました。「父親の BLACK SABBATH のコレクションから曲を選んで、耳コピを始めたんだよね。サバスは耳コピが簡単なんだ。全部Eマイナーのペンタトニックだから。そして、15歳になるころには、ヴァイオリンの気晴らしでギターを始めたのに、完全にヴァイオリンを捨てていたよ」
Tim が中学生の頃は、CHIODOS, TAKING BACK SUNDAY, FROM FIRST TO LASTなどが流行っていて、長い前髪に血行が悪くなるほどきついジーンズをはいた仲間に囲まれていました。
「年上の子たちが夢中になっていたクールなバンドだった。メロディーのいくつかは信じられないし、楽器編成も本当にユニークだと思ったんだ。ビートルズ、ジミヘン、サバスなど、古いロックしか知らなかった僕は、現代のバンドがやっていることを聴いて、特にロック的なソロとより現代的でテクニカルなリフを融合させることに、革命的な感覚を覚えたんだよね」
高校に入ると、ほとんどの同級生がシーンを卒業し、より “普通” の趣味を追求していました。しかし、Tim はまだ WHITECHAPEL を聴くことで満足していました。それでも彼は、”メインストリーム” の音楽と、それがなぜそんなに人気があるのかについて、好奇心を抑えることができなくなったのです。
「僕はメインストリームの曲を聴きに行き、なぜ多くの人々が好きなのかを理解しようとしたんだ。メタルは非常にニッチだから、僕はより多くの人に届く音楽を評価するようになっていった。何が親しみやすいのか、なぜ多くの人が共感するのか、音楽にあまり興味のない人たちでさえも。以来、その理由を分析するようになったんだ。僕自身はメインストリームの音楽に個人的に共感していたわけではなく、ただ馴染もうとしていただけなんだけどね。だけど、好きなもののために仲間はずれにされるのは、いい気分ではないからね。とはいえ、メインストリームの音楽の多くに純粋に感謝するようになったんだ」
こうした影響はやがて、Tim が2010年から活動しているバンド、POLYPHIA で作る音楽にも滲み出るようになりました。新譜 “Remember That You Will Die” は、ポップ、ファンク、EDM、Djent といった多様な絵の具をキャンバスに投影した、カルテットにとって最もカラフルでエクレクティックな作品と言えるでしょう。”オマエはいつか死ぬ。忘れるな” というタイトルは、ラテン語の格言 “Memento Mori” をロックンロールの流儀で翻訳した、羊のメタル皮を着た狼の残虐。
「人間は死が避けられないことを自認しているから、生の限られた時間を使って、永遠に存在し続けることができるものを発明しようとする。芸術家は想像力を駆使して、歴史に残るようなものを創り出すんだ。人工知能が発明され、それがアートやテクノロジーに応用されるようになると、人間の思考とコンピューターの思考のギャップを埋める方法が見つかる。 この2つをつなぐことは、最終的に人間の経験の永続性につながり、それは人間が不老不死になることに最も近いと言えるんだ。アルバムのタイトルは、このアートと結びついているんだ」
つまり、POLYPHIA の発明とはジャンルのステレオタイプを気にかけないこと。それが彼らの成功の礎です。彼らは MySpace でデスコアをイメージさせる10代の若者としてテキサスから現れたましたが、彼らをスターにしたのはそのブレイクダウンではなく、21世紀で最もジャンルを打ち破るリックをいくつも生み出したから。ファンク、マスロック、ヒップホップをミックスしたインストゥルメンタル・ジャムは、YouTube で何百万もの再生と Instagram のフォロワーを獲得しました。
「僕たちは何からでもインスピレーションを受ける。過去数枚のアルバムからギターを取り除き、ドラムとベースだけを聴くとしたら、トラップ・ビートやフューチャー・ベース・ビートが残る。もしギターを外して、演奏しているものにボーカルを加えても、やっぱりそう聴こえるだろう。つまり POLYPHIA でギターっぽいのはギターだけで、あとは人間がプログラムされたパートを演奏しているだけなんだ」
POLYPHIA は、半分プログレッシブ・インストゥルメンタル・バンドで、半分オンライン・インフルエンサーだと言えるのかも知れませんね。バンドが2016年に “Euphoria” のビデオを公開した際、半裸のスーパー・モデルをサムネイル画像として起用したところ、400万人を数える人々にクリックバウトされました。YouTube のトップコメントにはこう書かれています。”彼らはとても賢い。美しい女性の画像を使って、騙して素晴らしいギター・バンドを発見させるなんて。ありがとう”
「POLYPHIA は意識的に2つの非常に異なるオーディエンスを一緒にしようとしたんだ。一つはギター・マニアとオタク。もうひとつは、ジャスティン・ビーバーや ONE DIRECTION のキッズだった僕らと同世代の女の子たちだ。それが目標だったんだけど、何年もかけて、自分たちではない何かになろうとすることを減らして、自分たちでいるようになったんだ。今でも男性中心だけど、ライブでは女の子がたくさんいるんだよ」
Ichika Nito、Mateus Asato、Yvette Youngといった才能あるアーティストを起用した 2018年の3rdアルバム “New Levels New Devils”。彼らのプロモ写真には、メルセデスに腰掛け、まるでクールなキッズのような格好をした4人組の姿が写っていました。テック・メタルを愛する若者たちにとって、それはある意味冒涜的な行動でしたが、Tim は当時、重要なことはクールであることと女の子にモテることだったと胸を張ります。
「2004年の “St Anger” で、METALLICA のプロモを見たんだ。彼らは全員メルセデスでリハーサルスペースに乗り付けたんだ。すげーカッコいいと思ったんだ。その時、自分たちを世界最大かつ最高のメタル・バンドと呼ぶというミームを思いついたんだよ。それに、僕らがもっとビッグになりたいと思っていた頃、ONE DIRECTION はまだ存在感を示していた。僕たちは、”よし、彼らがやっていることをやろう。明らかに女の子が好きなことだ” と思ったんだよな」
“The Most Hated” という明らかにノンギターな EP は、ファンたちの頭を悩ませ、中には逃げ出してしまった人もいました。
「あのリリースで、”俺たちが先にいたから POLYPHIA は俺たちのものだ” みたいな気取った老害的ファンを排除したんだ。彼らは僕たちの以前の作品を気に入っているから、それはそれでよかったんだ。結果として、新しいファンを獲得することができたからね。アマチュアから現在のようなバンドへと成長できたのさ。このアルバムも、半分は既存のファンのため、残りの半分は新しいファンのために作ったよ」
ボーカリストがいないことで、当初は多くのリスナーにとって眉唾ものでしたが、Tim はむしろインストであることがバンドに大きな創造性と可能性をもたらしたと考えています。
「より多才になれるし、より多くのコラボレーションが可能になるんだ。僕が本当に理想としているビジネスモデルは、EDMがすごく流行っていた2015年から16年ごろ、Zedd と Alessia Cara みたいな DJ とポップスターとのコラボも盛んで、同じ DJ があらゆるポップスターとコラボしてスターのキャリアを飛躍させるようなシステム。POLYPHIA のアイデアは DJ なんだよね。どんなシンガー、ラッパー、メタル・ボーカリスト、楽器奏者、DJ、プロデューサーともコラボできるんだ」
Chino Moreno や Steve Vai、ラッパーの Killstation や $not、ポップスターの Sophia Black など、”Remember That You Will Die” の豪華なゲスト陣を見れば、POLYPHIA の生み出したモデル・ケース、その影響力が浮き彫りとなります。