THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2022: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE
1. MEGADETH “The Sick, The Dying…And The Dead!”
「人生は厳しい。勝ち組になるか、そうでないか。人は敗者と呼ばれるべきではないと思う。でもな、2位になろうとすることは、敗者ではないんだよ。常に自分を高めようと努力する限り、完走した者は勝者なんだ。それはとても簡単なこと。人生を1%改善するだけで、3ヶ月ちょっとの短い努力で、仕事ぶりでも、大切な人に対してでも、子供に対してでも、まったく違う人間になることができる」
MEGADETH は復讐と共にある。苦難の度に強くなる。長年 MEGADETH と Dave Mustaine を追い続けたリスナーなら、そうした迷信があながち世迷いごとではないことを肌で感じているはずです。METALLICA からの非情なる追放、薬物やアルコール中毒、Marty Friedman の脱退、バンドの解散、Drover 兄弟を迎えた新体制での不振…実際、厄災が降りかかるたびに、MEGADETH と Dave Mustaine は研ぎ澄ました反骨の牙で苦難の数々をはね退け、倍返しの衝撃をメタル世界にもたらし続けています。
逆に言えば、MEGADETH という船が順風満帆であることは稀なのですが、2016年の “Dystopia” 以降の期間は、彼らの波乱万丈の基準からしても、非常に荒れた展開であったと言えるでしょう。まず、”Dystopia” でドラムを担当し、当初はアルバムをサポートするためにバンドとツアーを行っていた Chris Adler が、2016年半ばに当時は本職であった LAMB OF GOD とのスケジュールの兼ね合いで脱退せざるを得なくなります。後任には元 SOILWORK の Dirk Verbeuren がヘッドハントされました。
そうして2019年、次のアルバムの制作が始まった矢先、Dave Mustaine は咽頭癌と診断され、50回以上の放射線治療と化学療法を余儀なくされます。無事、寛解にはいたったものの、その後 Covid-19 の大流行が起こり、アルバムの進行はさらに遅れます。決定打は2021年春。長年のベーシストで Mustaine の右腕であった David “Junior” Ellefson が、”性的不祥事” を起こしてしまうのです。バンドで最も品行方正、神父にして良い父親と思われていた Ellefson の性的なスキャンダル。その影響は大きく、バンドはすぐに解雇という判断を下します。そうして、TESTAMENT などで活躍を続けるフレットレス・モンスター Steve Di Giorgio が彼のパートの再レコーディングを行うこととなりました。
このアルバムの制作にまつわるトラブルや苦悩の山を考えれば、MEGADETH のリベンジが倍返し以上のものであることは、ファンにとって容易に想像できるでしょう。そうして実際、Dave Mustaine は逆境をものともせず、12曲のスリリングで知的で瑞々しい破壊と衝動の傑作を携え戻ってきました。MEGADETH のリーダーのレジリエンス、驚異的な回復力、反発力を再度証明しながら。
「私はゲイのメンバーだ。性的アイデンティティが何であろうと、見た目がどうであろうと、何を信じていようと信じていまいが、すべてを受け入れるヘヴィ・メタル・コミュニティと呼ばれる場所で。ここでは誰もが歓迎されるんだ!」
メタル・ゴッド、Rob Halford のロックの殿堂入りスピーチです。Rob の言葉通り、ヘヴィ・メタルは抑圧された人たちの、孤独を感じる人たちの、社会から疎外された人たちの美しき、優しき逃避場所に違いありません。ただし、そうしてコンフォート・ゾーンにとどまるだけがメタルではないでしょう?ヘヴィ・メタルは進化し続ける音楽でもあります。冒険する音楽でもあります。
失敗を恐れて、快適さに呑まれて、MESHUGGAH がスラッシュ・メタルにとどまっていたら? ARCH ENEMY が女性ボーカルを起用しなかったとしたら?DEAFHEAVEN がピンクのアルバムを作らなかったとしたら? ZEAL & ARDOR が自分の出自に興味がなかったとしたら? きっと、メタルは今ほど色とりどりな世界ではなかったでしょう。
MEGADETH と David Mustaine が昨年証明した “ヘヴィ・メタルの回復力” は、もっと言えばメタルに宿った失敗をも抱擁してくれる寛容さです。そうやって失敗を重ねて、回復力を養って、前へと進んでいくこと。それはきっと、この暗くて、狭くて、息苦しい2020年代において、心の “ユースアネイジア” を防ぐ仄かな光なのです。
http://sin23ou.heavy.jp/?p=18203
2. FELLOWSHIP “The Saberlight Chronicles”
「僕たちにとってパワーメタルは、人々の気分を高揚させ、やる気を起こさせるのにとても有効な音楽なんだ。スピード感があって、エネルギーがあり、勇気や野心といったテーマも語れるから、世界に僕たちが望む変化を起こすには最適なジャンルだったんだよ」
皆さんはメタルに何を求めるでしょうか?驚速のカタルシス、重さの極限、麻薬のようなメロディー、華麗なテクニック、ファンタジックなストーリー…きっとそれは百人百様、十人十色、リスナーの数だけ理想のメタルが存在するに違いありません。
ただし、パンデミック、戦争、分断といった暗い20年代の始まりに、これまで以上にヘヴィ・メタルの “偉大な逃避場所” としての役割が注目され、必要とされているのはたしかです。MUSE を筆頭に、メタルへのリスペクトを口にする他ジャンルのアーティストも増えてきました。暗い現実から目をそらし、束の間のメタル・ファンタジーに没頭する。そうしてほんの一握りの勇気やモチベーションを得る。これだけ寛容で優しい “異世界” の音楽は、他に存在しないのですから。
「正直なところ、僕たちは自分たちが楽しめて、他の人たちが一番喜んでくれるような音楽を演奏しているだけなんだ。たしかに、パワーメタルには新しいサウンドを求める動きがあるんだけど、僕らの場合、曲作りは何よりもメロディが重要なんだ。結局、技術的なことって、ただミュージシャンとしての自分たちをプッシュしているだけの自己満足だからね」
特に、”逃避場所” として最適にも思えるファンタジックなパワーメタル。UK から彗星のごとく登場した FELLOWSHIP は1枚の EP と1枚のフルアルバムだけで、そのメタル世界の “モチベーター” としての地位を確固たるものとしました。2022年における、パワー・メタルとスラッシュ・メタルの華麗なる “回復劇”。それは、きっと時代に対するモチベーター、反発力としての役割を帯びているのでしょう。
そうして FELLOWSHIP は、このジャンルをただ無鉄砲に覆すのではなく、過去のパワー・メタルと現代のパワー・メタル最良の面を融合させ、未曾有の寛容で親しみのあるポジティブな波動を生み出しているのです。
http://sin23ou.heavy.jp/?p=18148
3. BLOODYWOOD “Rakshak”
「BLOODYWOOD の初日から俺たちは言っているんだが、メタルは楽しいものなんだ。いつも怒っている必要はないんだよ。よく、メタルは人生だと言われている。だから、喜んだり、悲しんだり、冷静になったりしてもいいんだよ。
俺らの曲が好きだという人からメッセージをもらったんだけど、そこには “でも、同性愛嫌悪や女性嫌悪に対するあなたの立場は?”って書いてあったんだ。俺はただ、”好きな人を好きになればいい” と言ったんだ。俺たちは、基本的にとてもオープンなんだよね。そういうメッセージを発信したいんだ」
BLOODYWOOD の広大な多様性の感覚は、”Rakshak” で完璧に捉えられています。ヒンディー語と英語の混じった歌詞、そして常に変化し続けるサウンドで、このバンドを特定することは非常に困難。彼らは亜大陸の民族音楽(といっても北部パンジャブ地方が中心)を使うだけでなく、メタルの様々な要素を取り込んでいるのですから。彼らの曲の多くには明確に Nu-metal のグルーヴが存在しますが、時にはスラッシュやウルトラ・ヘヴィなデスコアの攻撃をも持ち込みます。
「俺らを特定のジャンルに当てはめるのは難しいよ。曲ごとにサウンドが大きく変わるから、インドのフォーク・メタルというタグに固執するのは難しいんだ。ジャンルが多すぎて特定できないけど、インドのグルーヴと伝統的なインドの楽器、そしてもちろんヒップホップを取り入れたモダン・メタルというのが一番わかりやすいかな。ワイルドなアマルガムだよ。俺らは東洋と西洋の影響、その間のスイートスポットを探しているんだ。これは様々な香辛料を配合したマサラ・メタルなんだよ(笑)」
90年代、絶滅が近いとも思われたヘヴィ・メタル。しかし21世紀に入り、そのメタルの生命力、感染力、包容力が世界を圧倒し、拡大し、包み込んでいます。より良い世界へ近づくために。
様々なジャンルを飲み込み、あらゆる場所に進出し、どんな制約をも設けない。一見攻撃的でダークなヘヴィ・メタルに宿る優しさや寛容さが世界中、あらゆる場所のあらゆる人にとっての希望の光となっている。メタルには崇めるべき神も、虐げられる主人も、壁となる国境も存在しない。年齢や人種、宗教や信条を問わずすべての人々と分かち合える。そんな現代の理想郷をメタルは育んでいると、きっと多くの人が感じているはずです。
「より良い世界への希望を象徴する人々、そして信念を守ることを歌っているんだよ。対立する政治をなくすことでも、性的暴行をなくすことでも、腐敗したジャーナリストの責任を追及することでも。何でもいい。大事なのはその希望の感覚を守ることなんだ。俺たちは、プライベートでも仕事でも、より良い世界への希望を与えてくれる多くの人々に出会ってた。俺たちが音楽を作る理由のひとつは、音楽が変化の触媒になり得ると信じているからなんだ」
http://sin23ou.heavy.jp/?p=17302
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