THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2024: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE
1. LOWEN “DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN”
「このアルバムは、それを聴く人々への警告なの。戦争には絶対に勝者などいないし、戦争で利益を得る人間が最大の悪党となる。私はいつも、ウィリアム・ブレイクのような予言的人物に魅了されてきた。彼らは詩や芸術を使って、近未来の可能性について人々に警告を発している。このアルバムが歴史を変えることはないとわかっているけど、私たちの周りで起こっていることの愚かさを鮮やかな色彩で浮き彫りにせざるを得ないと感じている自分がいるのよ」
これほど、メタルの寛容さと回復力、そして多様性を象徴した作品はないでしょう。明らかに、世界は多くの人の意思に反して “勝手に”、暴力と強欲の時代に進んでいます。”声” を上げなければより大きな怒声に引っ張られる。そんな感覚を覚える恐怖の時代に、メタルの情熱、優しさ、包容力以上に信頼できるものがあるでしょうか。イラン革命の亡命者の血を引く Nina Saeidi は、イスラム世界で虐げられる女性であり、ヘヴィ・メタルと自由の信奉者。だからこそ、”声” をあげます。
このアルバムは戦争をけしかける愚かなる王、支配者、権力者たちへの芸術的な反抗であり、英雄に引っ張られる市民たちへの警告でもあります。いつの時代においても、戦争に真の勝者はなく、そこにはただ抑圧や痛みから利益を貪るものが存在するのみ。ただし、彼女には、そうした考えに至る正当な理由がありました。
「中東の最近の歴史は、100年以上にわたる不安定化と植民地化によって、悲劇的で心が痛むものになってしまった。今のイラン政府はイランの人々や文化を代表するものではなく、芸術の弾圧や女性への抑圧はイラン文化のすべてに反するものだと思っているわ。私たちの文化は、独裁政権以前の何千年もの間、女性と芸術を祝福してきたのだから」
Nina にとって、現在のイランのあり方、独裁と芸術や女性に対する抑圧は、本来イランやペルシャが培ってきた文化とは遠く離れたもの。本来、女性や芸術は祝福されるべき場所。そんな Nina の祖国に対する強い想いは、モダン・メタルの多様性と結びついてこのアルバムを超越的な輝きへと導きました。
何よりその音楽的ルーツは、彼女の祖先の土地に今も深く刻み込まれていて、ゴージャスで飛翔するような魅惑的な歌唱は、パートナーのセム・ルーカスの重戦車なリフの間を飛び回り、大渦の周りに蜃気楼を織り成していきます。”クリーン” な歌声が、これほどまでにヘヴィな音楽と一体化するのは珍しく、また、奈落の底への冒険をエキゾチシズムと知性で表現しているのも実に神秘的で魅力的。多くのメタル・バンドがアラブ世界のメロディを駆使してきましたが、LOWEN のプログレッシブ・ドゥームほど “本物” で、真摯に古代と今をまたにかけるバンドは他にいないでしょう。そして、この荒廃した時代に、荒廃した時代だからこそ、メタルは彼女たちを旗手として、芳醇なメロディや鍵盤の復権へと進むのです。
2. BLOOD INCANTATION “ABSOLUTE ELSEWHERE”
「”Absolute Elsewhere” のサウンドは断固としてブルータルで、これまでのどの作品よりも飛躍的にテクニカルでプログレッシブだ。ただ、その過激さとは裏腹に、よりメロディアスでキャッチーで親しみやすい。この巨大で残酷なものの泥沼の中で、キャッチーな部分があればそれでいい。BLOOD INCANTATION の影響範囲は常に外に向かっているのだから。だから、僕たちが最初の範囲から外れたのものから学び始めることは避けられないし、常にそれらを大きな血の呪文のピラミッドに組み込んでいくんだよ」
“Absolute Elsewhere” の核心には、BLOOD INCANTATION の核心と同じように二律背反が存在します。一見、このアルバムは近寄りがたく、謎めいた作品でしょう。曲は2曲だけで、両者とも3つの楽章に分かれており、そのそれぞれが20分を超えています。そして BLOOD INCANTATION の過去のどのリリースよりも、デスメタルの攻撃性にクラウト・ロック、ダーク・アンビエント、70年代プログからの大胆なアイデアを加えており、作品の最も密度の高い部分では、アイデアからアイデアへと奔放に自由気ままに飛躍していきます。
その一方で、ギター・パートは、エクストリームであっても豊かなメロディーを奏で、かつてはミックスの奥深くに埋もれていた Paul Riedl のボーカルは鮮明。そのフレージングとアーティキュレーションを重視した彼の歌は、間違いなく BLOOD INCANTATRON 史上初めて、キャッチーを極めています。さらに Riedl はクリーン・ボーカルを多く披露もしています。そして広がる鍵盤の海。つまり、”Hidden History” が、ほとんど偶然に広く一般的なファン層を見出したとすれば、”Absolute Elsewhere” は、より多くの人々に届く態勢をしっかりと整えているのです。コズミックな旋律と鍵盤で、人の欲では届かない宇宙の壮大を伝えるために。
「多くの人が、”私はメタルをまったく聴かないのに、このレコードはなぜか聴いてしまう” と言うんだ」
3. MOISSON LIVIDE “SENT EMPERI GASCON”
MOISSON LIVIDEの音楽は、ブラックメタルやヘヴィ・メタル、さらにはパワー・メタルを基調としながら、伝統的な中世の楽器やフォーク的な部分も持ち込んだ実に多様な農夫のメタル。
「”We don’t care” はアルバムの雰囲気をよく表しているね(笑)。私を突き動かしている哲学であることは間違いない。反商業的な精神が大好きなんだ。自分たちの好きなことをやって、誰がそれを好きなのか見る。既成のジャンルの基準に100%固執して自分たちを芸術的に制限することは考えられないし、それは無意味だからだ。きれいなコーラスを思いつくたびに、私はこの言葉を口にしてきた。誰が気にするんだ?!ってね。ブラック・メタル純血主義者に嫌われる?ああ、でも私は気にしない!」
Lavenne が恐ろしいのは、農家であることをメタルに活用しているところでしょう。まさに農家とメタルの二刀流。
「私は頭を使ってよく書く。本当にほとんど楽曲は頭で書いている。アイデアは何の前触れもなく浮かんでくるので、ボイスレコーダーアプリを取り出し、赤いボタンを押してラララと歌う。夕方家に帰ると、自分が書いたものを聴いて、アコースティックギターかピアノでコードを練る。ほとんどすべて仕事中に書いている。私はワイン生産者なので、多くの時間をブドウ畑で手作業に費やしている。ブドウの木は1本1本違うが、やるべきことを覚えたら、他のすべてのブドウの木で同じ作業を繰り返す。これを疎外感と捉える人もいるかもしれないが、私は脳の時間を解放する素晴らしい機会だと考えている。
数年のノウハウとブドウ畑の知識があれば、ある種の自動操縦モードに入ることもある。楽器を手にして座り、何か書かなければと自分に言い聞かせることは、本当にめったにない。だから同時に2つのことができる。そのおかげで膨大な時間を節約できる。さまざまな影響について話を戻すと、このようにたくさんの曲をミックスするときに一番難しいのは、”コラージュ” 的な嫌味を出さずに、すべての曲を調和させる一貫性、共通の糸を保つことだ。
だから私は、長尺にもかかわらずかなりシンプルな構成に特に注意を払っている。フック、節、繰り返されるテーマ、コーラス……私はビッグなコーラスが大好きなんだ!パワー・メタル派は、メタルにあまりにも深い足跡を残しすぎた!ありがとう、トビアス・サメット!」
歌詞はガスコーニュ地方の昔話、寓話と現代の出来事に対する批判、さらには未来的な推測の間で揺れ動きます。
「いつもメロディーが先に作られる。それからコード。歌詞はその連鎖の最後のリンクにすぎない。実際、デモを作るときは、曲を完成させるために、何でも歌ったり、思いつきで書いたりすることがよくあるんだ。本当の歌詞は、曲がアルバムの選考段階を通過してから、後で書く。これが一番難しい作業で、なかなか進まないこともある。それでも、美しく、よく書かれた文章を最終的に完成させるのはとても満足感がある……少なくとも形としてはね、内容がくだらないこともあるから(笑)。
ただ、テーマを最初に思いつくということはよくあるんだ。それが曲の内容に大きく影響する。実際、最も非定型的な作曲はそうやって生まれることが多い。主題に変化をつけるのに役立つからだ。また、あらかじめテーマがあると、イメージを思い浮かべることができ、とても刺激になる。最終的には、それをメモに書き写すだけ」
これだけ潤沢なメロディが、田舎と農家の反抗精神、個性的なアイデアから生まれる。これもまた、実にヘヴィ・メタルなのです。
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