タグ別アーカイブ: Djent

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANIMA TEMPO : CHAOS PARADOX】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANIMA TEMPO !!

“I Started To Write Some Rockman Songs In Metal Versions As a Tribute Of The Videogames I Used To Love.”

DISC REVIEW “CHAOS PARADOX”

「今では日本のようにバンド同士でお互いに会い、自己紹介をし、皆の素材を評価し、消費し、尊敬とミュージシャン・チームを促進することを大切にしているんだ。日本でのツアーは、ANIMA TEMPO のビフォー・アフターだと考えているよ」
ヘヴィ・メタルに国境はなく、その瑞々しき生命力は世界中に根を張って弛まぬ包容力と知と血の音の葉を感染させ続けています。そうして起こったモダン・メタルのパンデミックは、文化と文化のマリアージュも推し進めているのです。メキシコから DREAM THEATER や PERIPHERY の “プログ・メタル” を深化させる ANIMA TEMPO は、日本の文化やメタル・シーンに薫陶を受けて “生き生きと” 自らの才能を奏でています。
「子供の頃から、プレイするビデオゲームのバックグラウンドに流れる音楽に注目してきたし、一番好きなビデオゲームのサウンドトラックは “ロックマンX” だったんだ。16-bit のシンセサイザーの複雑さと、いくつかのゲームに登場する “シュレッダー” のような音楽に影響されて、その曲をギターで弾いてみたくなった。それで、それから何年も経ってから、大好きだったビデオゲームへのオマージュとして、メタル・バージョンのロックマンの曲を書き始めたんだ」
リスペクトと調和の日本らしさを血肉としたメキシコの新鋭は、同時に日本が生んだビデオ・ゲームという新時代のアートからも影響を受けていました。オープナーの “Dijital Heart” を聴けば伝わるように、レトロ・フューチャーなネオンを点滅させる彼らの音楽は、プログ・メタルとビデオゲームの親和性を誰よりも巧みに証明していきます。ただし、両者のマリアージュは何も音楽だけには限りません。
「この新しいアルバム “Chaos Papadox” では、そうしたビデオゲームのシンセサイザーを取り入れたかった。それは、多くのティーンエイジャー、それに大人でさえも、自分のパーソナリティや日々の問題をビデオゲームの中の架空の現実の中に隠してしまうような、そんな現代と未来の生活について語る楽曲のサウンドトラックを作るのに、今が完璧なタイミングだと考えたからなんだ」
メタルとビデオゲーム。ANIMA TEMPO はその両者の共通項を “暗闇からの逃避場所” と定めていました。メタルやゲームの架空世界、ファンタジーに没頭している間は、憂き世の定めを忘れて黒雲から目を逸らすことができる。彼らが “混沌の矛盾” でその境地へとたどり着いたのは、真摯で真面目な彼らでさえも、”暗闇” から逃れることはできないから。ANIMA TEMPO を覆う黒い雲とは、生まれついた場所メキシコの麻薬やマフィアといったステレオタイプなマイナス・イメージ。彼らはそうしてレッテルを貼り、主語を大きくして、すべてのメキシコ人を犯罪と結びつける差別主義者とも戦うことを余儀なくされてきました。
「音楽やあらゆる種類の芸術は、反抗的であるための手段であり、時にはストレートな言葉では難しいことを伝えるための手段でもある。”Chaos Paradox” は、目を覚まし、自分自身と世界全体を見つめなおそう、僕たちはみんなつながっていて、どんな国、宗教、肌の色であろうと、僕たちは一緒なんだということをみんなに呼びかける作品なんだ」
シタールから中東、日本音階、マヤの楽器、ビデオゲームにアンビエントなシンセ・ミュージック、キャッチーを極めたボーカル・メロディ、そして、Sithu Aye や David Maxim Micic も舌を巻くギタリズムを抱きしめたグローバルな ANIMA TEMPO のメタル・シアターは、これからも謂れのない分断や非道の差別に調和とリスペクトで対抗していきます。野心的な音楽や実験性は時に、何よりも雄弁な平和への道標となるのですから。
今回弊誌では、ANIMA TEMPO にインタビューを行うことができました。「麻薬、マフィア、貧困、暴力の問題は、どの国にも例外なくある。幸いなことに、僕たちはメキシコからそのような見方を変えようと、一生懸命働き、正直で謙虚で、プロフェッショナルで非の打ちどころのない音楽で世界中を回ってきた。そうやって、僕たちは成功し、大陸や文化を超えた強い絆と友情を築いてきた」 どうぞ!!

ANIMA TEMPO “CHAOS PARADOX” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANIMA TEMPO : CHAOS PARADOX】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VVON DOGMA I : THE KVLT OF GLITCH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FREDERICK “ChaotH” FILIATRAULT OF VVON DOGMA I !!

“As For Unexpect We Helped Coin The Term ‘Avant-Garde Metal’ Whatever That Meant.”

DISC REVIEW “THE KVLT OF GLITCH”

「2000年代のメタルやハードコアのシーンは、スタイルがまだ探求され、発展していた時期だった。音楽のサブジャンルがまだ生まれていて、中でもケベックのバンドは本当に何かを持っていたんだよ。CRYPTOPSY の前にはテクデスがなかったように、DESPISED ICON の前にはデスコアがなかったように。さらに ION DISSONANCE のようなバンドはエクストリームなマスコアを前進させた…そして UNEXPECT は、その意味がどうあれ、”アヴァンギャルド・メタル” という言葉を生み出す手助けをしたんだよ」
VOIVOD の偉業を振り返るまでもなく、カナダ、特にケベック周辺はメタルの進化に欠かせない異形を生み続ける特異点です。そして振り返れば、まだモダン・メタル=多様の定義もおぼつかなかった90年代後半から00年代にかけて、UNEXPECT ほど混沌と新鮮をメタル世界にもたらしたバンドは多くはありませんでした。
「UNEXPECT が早すぎるということはなかったと思うよ。僕の考えでは、シーン全体を前進させるためには、新しいアイデアを持って、早すぎるくらいに登場する必要があるんだよ」
もはや伝説となった9弦ベースの使い手 Frédérick “ChaotH” Filiatrault はそう嘯きますが、プログレッシブ、デスメタル、ブラックメタル、ジャズ、クラシック、オペラ、フォーク、エレクトロニカが “予想外の” ダンスを踊る UNEXPECT の音楽は、現在の多弦楽器の流行を見るまでもなく、あまりにも “早すぎて” 理解を得られなかった鬼才で奇祭にちがいありません。そして、UNEXPECT や WALTARI がいなければ、アヴァン・メタルの現在地も、今ほど “攻め” やすい場所ではなかったのかもしれませんね。
「このバンドは、90年代のオルタナティブや Nu-metal、2000年代の実験的なハードコアやメタル、2010年代のエレクトロニックの爆発など、僕がこれまで聴いてきたすべてのジャンルの音楽を調和させようとしたものなんだ。James Blake、Bon Iver, DEFTONES, MESHUGGAH, MARS VOLTA, IGORRR…といったアーティストのありえないブレンドを目指していたからね」
一度は夢を諦めた ChaotH が再びメタル世界に降り立ったのは、自身を形成した偉人たちに感謝を捧げ、そこから新たな “ドグマ” “教義” を生み出すため。さながら蛹が蝶になるように、華麗に変身した ChaotH のドグマは、EDM が脈打つインダストリアル・メタルと、欲望に満ちたプログレッシブ・メタルを、七色に輝くオルタナティブな経歴を反映しつつ融合しようと試みているのです。
つまり、VVON DOGMA I は UNEXPECT ではありません。もちろん、彼らのX線写真を見ると、過去の同僚 Blaise Borboën の乱れ打つヴァイオリンや、ChaotH の異世界ベース・パルスなどおなじみの骨格はありますが、機械の心臓は突然変異的な異なる動力で脈打っています。右心室に CYNIC を、左心室に MESHUGGAH を宿した VVON のサイバーパンクな心臓部は、時にタップを、時にスラップを、時に早駆けをを駆使して変幻自在に躍動する ChaotH の9弦ベースによって切り開かれ、緻密で冒険的で、しかし歪んだ哀愁の風景をリスナーの脳へと出力します。Djenty ながら Djent より有機的で、ヒロイックで、しばしば TOOL とも邂逅するギタリズムも白眉。
何より、悪魔城ドラキュラのメタル世界を想起させる “The Great Maze” から、”Triangles and Crosses” のネオンに染まる KING CRIMSON、そして RADIOHEAD の鋼鉄異教徒によるカバーまで、ここにはヘヴィ・メタルの “If” が存分に詰まっています。ノイズを崇拝し、レザーストラップと砂漠のゴーグルを身につけ、奇抜な乗り物に鎮座した VVON DOGMA I のサイバーな “もしも” の世界観は、AI と現実の狭間でリスナーという信者を魅了していくのです。
今回弊誌では、Frédérick “ChaotH” Filiatrault にインタビューを行うことができました。「クリエイティブな面では、アートワークの制作にAIが参加するのはとても興味深いことだと思ったね。つまり、このレコードの自発的な音楽 “合成” の側面は、アートワークによって強調され、とてもふさわしいものとなった。メタルヘッズの間では、シンセティック (人造、合成) なものを受け入れるというのは、あまりポピュラーなコンセプトではないけど、僕はアナログでなければ “メタル” ではないというエリート意識は、まったくもってデタラメだと思うよ」 傑作。どうぞ!!

VVON DOGMA I “THE KVLT OF GLITCH” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VVON DOGMA I : THE KVLT OF GLITCH】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【PERIPHERY : PERIPHERY Ⅴ: DJENT IS NOT A GENRE】


COVER STORY : PERIPHERY “PERIPHERY V: DJENT IS NOT A GENRE”

“They’re All Mad That We Named It That, Because We’re Clearly a Djent Band”

DJENT IS NOT A GENRE

ワシントンDCの “Djent” のパイオニアが7枚目のアルバムの名前を決めようとしたとき、出てきた案はすべて次点でした。結局、タイトルは “Periphery V : Djent Is Not a Genre” に落ち着きます。それは、彼らが自らが作る音楽以外では、まったく何も真剣に考えないバンドである証拠でした。
PERIPHERY の創設者である Misha Mansoor は、Mark Holcomb と Jake Bowen という2人のギタリストと一緒に何も気にしていないことを強調します。
「Djent はジャンルではなく、ライフスタイルなんだ!」Misha は苦笑いと共にタイトルがただのジョークであることを匂わせます。「俺はただ、どこかのデータベースにこう書かれているかもしれないと考えると笑ってしまうんだ。”Periphery V: Djent Is Not a Genre” ジャンル Djent ってね」。そうして幸せそうに笑うのです。「名前なんて人生においては小さなことさ」
「だってそうだろ? KARNIVOOL は昔から大好きなバンドだけど、あれはひどい名前だ!」と、Misha は食人を文字った恐ろしい名前の素晴らしいバンドについて話し続けます。Mark もまけずに笑いを誘うようなパンチラインを交換します。「その最たるものを教えてやろうか?KORN だよ!」
「”Djentはジャンルじゃねぇ!” というタイトルを思いつくのに、アルバム制作期間、つまり3年近くかかったと付け加えておくよ」と Jake も負けずに冗談を飛ばします。「あれは、俺たちが唯一 “うげっ!”てならなかったアイデアなんだ」

それも驚くようなことではありません。PERIPHERY の信奉者であれば、バンドにとってユーモアのセンスは必須条件であることはすでにご存じでしょうから。彼らの前作は “Periphery IV: Hail Stan” というタイトルでしたが、これはタイプミスではありません。それ以前にも、”Ow My Feelings”、”Jetpacks Was Yes”、”Froggin’ Bullfish” という笑いを誘う楽曲を書いているのですから。そして、PERIPHERY がいかに真剣にタイトルを考えていないかというのは、彼らが実際には Djent が今ではジャンルだと考えていることで伝わるのです。
「アルバムを “Djent はジャンルじゃねえ!” と呼ぶ理由は、俺たちが愛情を込めてファンを小馬鹿にするのが好きだからなんだ。愛情を込めて!だよ!」と Mark は主張します。Jake は笑って付け加えます。「俺たちは明らかに Djent バンドだから、みんなそう名付けたことに怒ってるんだ (笑) まあ、Djent については、いろいろな意見があるよね。俺たちの頭の中ではプログレッシブ・メタル・バンドとしてスタートしたのに、そうしたタグに入れられたんだ。俺には、それが奇妙に聞こえたんだよな。そこには、俺が期待していたような美的感覚がなかったというか。でも、何年もかけて、俺はそれを気にしないようになった。グランジを見ればわかるよ。グランジというのは、ジャンル名としては明らかに信じられないほど愚かな名前だと思うけど、それでも、グランジと聞くと、NIRVANA や ALICE IN CHAINS, PEARL JAM, SOUNDGARDEN など、世界的で歴史を変えるようなバンドが思い浮かぶからね」
そもそも、Djent という言葉の誕生に Misha は深く関わっています。
「MESHUGGAH のフォーラムで彼らのサウンドが “Djenty” って形容されてた。だから俺の曲を “Djentyな曲” って紹介してたら、それがジャンルだと思われてしまった。ジョークだったのにね!」

では…実際に “Djent” とは何でしょうか? Wikipedia には “オフビートと複雑なリズムパターンの使用を特徴とするプログレッシブ・メタルのサブジャンル” と書かれていますが、実際にはそれ以上の何かがあります。Djent は2000年代半ばに始まったムーブメントで、MESHUGGAH が使用するポリリズムの多弦低音弦のピッキングに魅了されたギタリストたちが、それを利用したのが始まりです。パーム・ミュートした低音弦が発する音から、このジャンルは “Djent” という擬音で呼ばれるようになり、Misha Mansoor, TesseracTの Acle Kahney, SKYHARBOR の Keshav Dhar などがそのパイオニアとなりました。しかし、それまでのメタルのムーブメントとは異なり、Djent は地理的にも文化的にも固定されておらず、ギター・オタクが世界中の寝室からフォーラムや MySpace, 長じて Bandcamp にリフや楽曲を投稿する良い意味でのカオスが生まれたのです。
Misha は、「ちょうど物事の転換期で、面白い時代だった」と振り返ります。「俺は、”スタジオはもう必要ない” という最初の波に乗った一人なんだ。レコード会社から出る予算は減り、レコードの売り上げはもはや大きな要素ではなく、レコード契約の性質や予算がすべて変わりつつあった。レーベルの若い人たちはみんな “PERIPHERY と契約しろ” って感じだったけど、もう少し年配の、インターネットや MP3 をただの流行と捉えているような上層部の人たちは、俺たちのことをよく理解していなかったんだ。彼らの言葉も、俺たちに出したオファーも、そのことをはっきりと示していたよ。実際、たくさんのオファーがあったけど、どれもひどいものだった。3年くらいは、レコード契約を断ってばかりいたよ」
実際、Misha は大きく変わった今の音楽産業にも前向きです。
「俺は他のメタル・バンドとは考え方が違う。彼らはバンドがお金を産まなくなった事実に対し前向きな変化が勝手に起こる事を期待する。でも俺はメンバーにこのバンドでは稼げないと断言している。そして機材の知識やプロデュース業で収入を確保したんだ。今もしバンドをやっているなら様々な方法で収入を確保しないと生き残れない。でも、正しいアプローチさえすれば、音楽産業には間違いなくまだチャンスはあるよ!」

自らのレーベルも立ち上げました。3DOT Recordings です。
「自分たちのレーベルを作りたいとずっと思っていたんだ。それはいつも冗談みたいなものだった。アルバムを作るたびに、”自分たちのレーベルから出せばいいじゃないか” みたいな感じで。これは俺たち全員の夢がようやく実現したようなもので、実現するとは思ってもみなかったけれど、実現したのだから、これ以上の喜びはない。素晴らしいことさ」
しかし Jake は、決して 3DOT と PERIPHERY で億万長者になりたいわけではないと話します。
「もちろん、何らかの金銭的な補償があることを望んでいるからこそ、これだけの労力を費やしている。でも、現実的に考えて、この仕事で億万長者になることはないだろうとも理解しているよ。俺も音楽試聴には主に Spotify を使っている。これは、今のところ、アーティストにとってタブーな答えだと思うけど。でも、2015年に Spotify を本格的に利用するようになってから、俺の音楽に対する視野が完全に広がったんだ。朝起きると、聴いたことのない曲がたくさん入った新しいプレイリストがあり、それを全部保存している。膨大なプレイリストができあがるからね。そのおかげで、音楽、特にエレクトロニック・ミュージックへの愛情を探求することができたんだ。
同時に俺は、Spotify に登録したアーティストであり、そこから得られる報酬を見なければならないけど、残念で不合理な額だ。問題は、彼らのビジネスモデルがよくわからないことなんだ。もちろん、地球上すべてのアーティストにライセンスを与える権利を支払うには、それなりの費用がかかる。だから、彼らのジレンマはわかるけど、コンテンツにはお金を払うべきだろ? 俺たちはコンテンツ・クリエイターで、彼らは俺たちのコンテンツをライセンスし、サブスクリプションを通じてお金を稼いでいるわけだけど、そのパワーバランスは少しずれているような気がするね。
でも、YouTube がある。Spotify で見つからない曲や、ゲームのサウンドトラックなど、Spotify にはない曲を聴きたいとき、YouTube はとても便利だ。俺は、YouTube にお金を払って、プレミアム…サービスを利用するのが好きなんだ」

PERIPHERY は、2010年にデビュー・アルバムをリリースした Sumerian から、Misha によれと “攻撃的な” レコード契約を結んでもらったおかげで、DIY と寝室を離れることになりました。しかし、皮肉なことに、”Djent Is Not a Genre” は依然として、完全無欠に “Djenty” なアルバムです。オープニングの “Wildfire” は、ドラムロールを合図に、ダウンチューンのチャグにハーモニクスの嘶きが不規則に割り込む、決して穏やかではない、Djent な幕開け。”Atropos”, “Dying Star”, “Zagreus”, Everything Is Fine” も同様に、指板の最も窮屈な場所に夢中になっているようにも思えます。
しかし、PERIPHERY が常に目指している、真のプログレッシブ・ミュージックを示すタッチもここには豊富に存在しています。フロントマンの Spencer Sotelo は、咆哮と歌唱の切り替えで対比の美学を生み出し、両手を広げて “ファック・イット!” と宣言して、シンセウェーブと脈打つ EDM ビートを取り入れます。そうして、”Djent Is Not a Genre” の最後を飾る “Dracul Gras” と “Thanks Nobuo” のデュオロジーでは、プログ、Djent、ポップ、ポストロックのカラフルな饗宴が24分にわたって繰り広げられるのです。
同時に PERIPHERY は自らの栄光の軌跡をもここに織り交ぜています。例えば “Wildfire” は、以前 “The Event” で採用されたメロディを再現したもので、2部構成のロック・オペラ、2015年の “Juggernaut” のインストゥルメンタル・セグエの再来です。
「もともと “Periphery V” は “Juggernaut” の後継作品にしたかったんだけど、それはすぐに廃案になったんだ」 と Mark は明かします。「その後、”関連する部分のいくつかを残すか” という話し合いが行われたんだ”。俺が尊敬するバンド、例えば Devin Townsend のようなミュージシャンは、何の根拠もなく突然18年前に発表した曲に関連させたりする。それって結局、彼の膨大なバック・カタログから感じられる自由さだよね。ミュージシャンとしていつかたどり着きたい、実現不可能な場所のように思えたんだ」

なぜ、”Juggernaut Part 2″ のアイデアは破棄されたのでしょう?
「コンセプト・レコードを作るのは難しいから。レコードの中で有機的に流れるように曲を書くだけでなく、それらを物語に適合させなければならないんだよ。歌詞がすべて一致し、ストーリーを語り、その下に音楽が存在し、そこでも同じようなことをしなければならない。それは長く、拷問のようなプロセスだ」
このコンセプトアルバムを巡る混乱は、”Djent Is Not a Genre” のライティング・プロセスにおける、創造的に息苦しい状況を象徴していたようです。バンド自身によれば、それが彼らをほとんど “壊しかけた” とまで言います。パンデミックが起きたとき、メンバーはリモートで作曲をしようとしましたが、その場でのフィードバックがなく、何も進展しませんでした。Misha が説明します。
「多くのアイデアはあったのだけど、Spencer がそれを気に入ったかどうか、実際に曲としてアレンジできるかどうかを確認する必要があったんだ。それ自体には何の意味もない、曲のセクションばかりがたくさんあったんだよ。パンデミックが核心的な問題であったことは間違いないだろうな。で、結局、重要なのは、批評家やファンの承認ではなく、自分たちの気持ちだとわかった。”Hail Stan” はとても簡単にできたし、あのレコードは俺が本当に誇りに思うものだった。だから、ファンや批評家が “彼らはタッチを失った” と言っても、俺は気にしなかった。自分が誇りに思っていれば無敵になれるんだよ。もし君が何かを信じているなら、もし君が自分の生み出したものを信じているなら、それはきっと君を無敵にしてくれる」
Zoom によるコラボレーションもうまくいかず、その結果、PERIPHERY は孤立した状態で、個々に自分のアルバムを作曲するようになりました。Jake は “The Daily Sun” でエレクトロニカに手を出し、Mark はエクストリーム・メタル・バンド HAUNTED SHORES を復活させ、Misha は伝説的なソロ・プロジェクト Bulb を復活させ、Spencer とドラマーの Matt Halpern はエモプログのチームアップ KING MOTHERSHIP を立ち上げました。しかし、こうした動きも彼らにとっては不利に働きました。曲作りのために、2020年10月にバンドが直接再集結するまでに、PERIPHERY はすでに “燃え尽き症候群” に陥っていたのです。その結果、”Djent Is Not a Genre” は制作に3年近くを要することになります。
Mark は “諸刃の剣だった” と当時を振り返ります。
「このアルバムに長い時間をかけていることは分かっていたし、ファンも不安に思っていた。でも、レコードを作り始めた時を考えると、これが唯一の方法だったと思うんだ。もし、何かの期限に間に合わせるために、急いでレコードを出さなければならなかったら、それは不可能だっただろうね」

そうした停滞を解決したのが、実はビデオ・ゲームでした。ご承知の通り、PERIPHERY はゲーマーのバンドです。ツアー中も、スタジオでも、家でも、ノンストップのガチゲーマー。Mark が解説します。
「2000年代半ばに出会ったとき、PERIPHERY は音楽とファイナル・ファンタジーの2つで結ばれていたんだ。俺は声優(Disco Elysium、Hello Puppets: Midnight Show)に、Misha は作曲(Deus Ex: Mankind Divided、Halo 2 Anniversary)に携わり、ゲームへの親しみはますます強くなっている。そして、ゲームが “Djent Is Not A Genre” の音楽に直接インスピレーションを与えたんだ。いくつかそのタイトルをあげてみよう。
まずは “Hades”。今回のセッションの間、Spencer, Misha, そして俺は、完全にこのゲームに夢中になっていた。仕事の休憩時間には、みんなで Switch に向かって、会話もなくただ黙々とランを繰り返していたくらいでね。この10年で一番好きなゲームのひとつだよ。ゲームプレイのループに酔いしれ、死んだらすぐに、次のランを始めたくなる。”Zagreus” という曲は、このゲームの主人公の名前から取ったもので、最後まで聴いた人なら、この曲の最後の4つのコードが、死んだときに流れるモチーフのなごりであることがわかると思う。死にゲーだから、すぐに脳に焼き付いてしまうんだよな。このゲームはダレン・コルブが全曲を作曲しており、サウンドトラックも素晴らしいんだよ。
次は “Returnal”。Misha が Jake と俺を引き込んだんだけど、どっぷりハマったよ。このゲームもまた、ゲームプレイのループが非常に楽しいローグライク・ゲームで、近年登場したゲームの中で最もフィーリングが良いものの1つだろう。サウンドデザインも素晴らしく、Blue Öyster Cultの “Don’t Fear the Reaper” が繰り返しテーマとしてゲームに使われているのが実に巧い。”Atropos” は、ゲームの舞台となる惑星にちなんで命名されたんだ。
次は、ファイナル・ファンタジー・シリーズ。あまり説明の必要はないだろう。植松伸夫は、このシリーズの主要な作曲家で、俺たちが最も影響を受けた音楽家の一人だからね。初期の PERIPHERY, HAUNTED SHORES, 古い Bulb のデモなど、俺たちの傘下にあるすべての作品に彼の足跡が残っている。最後のトラックは “Thanks Nobuo” というタイトルで、要するに彼への感謝状なんだ。この曲には、FF7のテーマが使われているよ。わかるかな?
そしてもちろん、昨年、俺の人生は Elden Ring に飲み込まれた。あのアート・スタイルがあったからこそ、自分たちの音楽をもっとダークなところに持っていきたいと思ったし、バンドとしてやることすべてが、1/10000でもあのゲームの壮大さを再現できればいいと思っていたんだよな。ラスボス戦になると、メインメニューのテーマがオーケストラで再現されるのも、特にやり込んでいる人なら満足感があったよな。PERIPHERY が過去の作品から様々なテーマやメロディーを引用するのも、その気持ちのほんの一部をリスナーと共有したいからなんだ。
最後は、ブラッドボーン、ダークソウル1~3、デモンズソウル。フロムゲーは俺がこれまでで最も好きな作品群のひとつで、俺が関わるすべての音楽に影響を与えている。HAUNTED SHORES の前作 “Void” では、アルバムアートを “Bloodborne” から切り取ったようなものにしたかったし、音楽もそのゲームと同じくらい敵意を感じるものにすることを目指した。Spencer もこのゲームには深くハマっていて、セッション中、特に作曲の初期は間違いなく2人ともインスパイアされたよ」

実際、”Periphery Ⅱ”の “Muramasa” と “Masamunue” はファイナル・ファンタジーに関連する楽曲でしたし、Misha は “FF7″ のリメイクに真剣に関わりたがっていました。
「植松伸夫は驚異的な才能だよ。彼のメロディーのセンスやテクスチャーの使い方は、俺にとって間違いなく大きな参考になっている。だから一曲でも関わりたいよな…」
苦労したセッションの最終結果は、結局、自分たちの好きなアルバムに落ち着きました。ベタな名前はともかく、”Djent Is Not a Genre” は、バンドが今でも最も折衷的で先鋭的であることを捉えています。そうして、今となってはジャンルのひとつに違いない Djent は、シンセやフック、サックス・ソロにたっぷりのユーモアもあるパイオニアの作品によってやはり牽引されているのです。Spencer はかつてこんな言葉を残しています。
「最高の芸術作品を作りながらユーモアも忘れずいたいね。音楽に個性を反映させないでシリアス一辺倒な奴らは信用できないから。一人の人間でいればいい。どうせ今、メタルで金は稼げないんだから、好きという気持ちだけで音楽を作ろうじゃないか」
ただし、PERIPHERY にとってここは決して全てでもなく、終わりでもありません。
「最終的に、自分たちが満足できなければ、アルバムはリリースしないよ。でも、そうすることで、自分たちが心から誇れるアルバムが完成するんだ。それが、唯一受け入れられる最終目標だった。誇れるアルバムなら、商業的にはどんなものでも手に入れることができるんだ。他の人たちのことは言いたくないけど……俺たちのアルバムを売り尽くしたいんだ。良いと思うなら金をくれ!(笑)」


参考文献:GUITAR.com:“We like to lovingly take the piss out of our fans!” Periphery on why Djent is, actually, a genre

METAL INJECTION:PERIPHERY Names The Video Games They Played While Recording Their New Album

LIVE METAL:INTERVIEW: Jake Bowen of PERIPHERY

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OUT OF NOWHERE : DEJA VU】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AMIN YAHYAZADEH OF OUT OF NOWHERE !!

“Iran Is Very Suppressive And Many Things That Are Normal Anywhere Else In The World Is Forbidden Here. This Includes Most Of Music Genres And The “Most Illegal” Of Them All Is Metal.”

DISC REVIEW “DEJA VU”

「残念ながらイランの政府は非常に抑圧的で、他の国では普通のことでも、ここでは禁じられていることがたくさんあるんだ。音楽もほとんどそうで、その中でも “最も違法” なのがメタルなんだ。刑務所に入れられた友人もいたし、その他にもいろいろなことがあってね…。音楽は僕たちを生かしてくれた唯一のもので、決してやめられない。だから、国を出たんだ」
イランからトルコへ。OUT OF NOWHERE という名前を体現する根無草のメタル集団は、母国の厳しい道徳的ルールと対峙しながら10年以上かけて自分たちのサウンドを磨き上げ、常に脅かされながら演奏し、危険と隣り合わせの夢を追い求めてきました。2021年、バンドは自分たちの創造的な可能性をさらに追求し、音楽を作ることで逮捕される心配のない活動をするためにトルコに移住します。そこで起こったあの大地震。彼らの情熱は今、革命の始まりのように純粋なイランの人々、そして大災害にも負けないトルコの人と共にあります。メタルの回復力、反発力と共に…
「僕たちはこのビデオをイランの女性たちに捧げた。基本的な自由のために戦い、政府によって殺されようとしている人たちに。彼女たちは僕たちの姉妹だから。イランの若い世代は、僕たちに大きく勇敢である方法を教えてくれた。彼らは、自分たちの若さと未来が台無しになることを望んでいない。僕たちイラン人は暴力的な人間ではないよ。どこの国の人でも自由を持つ権利があるけど、僕たちは基本的な自由さえ持っていなかった。言論の自由もない。政権の弾圧のために、僕たちの夢のほとんどは6フィートの深さに埋もれてしまった。でも、イランで兄弟姉妹が毎日殺されているのに、黙っているわけにはいかないじゃないか」
“Wrong Generation” は、抗議活動を悩ませた当局の暴力や、イラン人女性から基本的な自由を奪い続ける抑圧的な支配を非難するプロテスト・ソングで、協調のアンセム。彼らの情熱的な抗議の形であり、もううんざりだと判断した女性や若者の怒りを代弁しています。
昨年、22歳のイラン系クルド人ジナ・マフサ・アミニは、イランのガイダンス・パトロール(この地域の迫害警察をより洗練した言葉で表現したもの)に拘束されました。彼女の罪は、政府の基準に従って伝統的なヒジャブを着用していなかったことです。アミニは逮捕後まもなく、テヘランの病院で不審な死を遂げます。この事件をきっかけに、テヘランの女性や若者たちは伝統的な圧制に終止符を打つために街頭に繰り出しました。
デモに参加したことで約18,055人が拘束され、その結果、437人が死亡したと伝えられています。イランのサッカー代表チームも自国の女性たちとの連帯を示し、ワールドカップ初戦のイングランド戦に向けて、世界中の観客が見守る中で自国の国歌を歌うことを拒否しました。そうして、自由への連帯は “最も違法“ で悪魔の音楽とみなされていたヘヴィ・メタルにも広がっていきました。OUT OF NOWHERE はそうして、自由への障害となる壁を、地理的にも、社会的にも、音楽的にも壊していくことを望んでいるのです。
「サントゥールはイランでとても人気のある楽器で、さまざまなジャンルで広く使われているんだけど、エレキギターやメタル・ミュージックのサウンドと組み合わせることは、これまでになかったこと。僕たちは、それを最高の形で実現し、イランの伝統的な楽器のひとつを世界に紹介することに挑戦したんだ」
抑圧的な社会や法律から逃れるためにイランからトルコに移住した OUT OF NOWHERE は、国を超えた境界線だけでなく、音楽における固定観念も打ち破りました。”Deja Vu” の最初の1分間で、彼らの創造的な遺伝子に ARCHITECTS のダイナミズムと POLYPHIA の野心が眠ることをリスナーはすぐに察知するでしょう。同時に彼らは、飽和し、変身の時を迎えたモダン・メタルコアというサブジャンルに対して、その解決策の一つを提示して見せました。自らのアイデンティティであるサントゥールの使用です。あまりにもドラマティックで劇的なルーツの提示は、自分たちが何者で、どこから来たのか、どこへ進むべきなのかを瞬時に知らしめる音の魔法。そうして彼らは、音楽においても、社会においても、適切な変化と自由の重要性を世界へと訴えかけます。
今回弊誌では、フロントマン Amin Yahyazadeh にインタビューを行うことができました。「これまで僕たちは、常に逆風の中生きて来た。でもね、すべてが自分にとって不利でどうしようもないときでも、僕たちはヘッドホンをつければ別世界に行くことができたから。悲しいときやストレスがあるときだけでなく、楽しいときでも、音楽はいつも君のそばにいて、元気にしてくれる。だからこそ、僕たちは音楽を作ることができることに本当に感謝しているんだよ」どうぞ!!

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OUT OF NOWHERE : DEJA VU】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DUSK : SPECTRUMS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MESHARI SANGORA OF DUSK !!

“Saudi Arabia Is Not Known As Being a Place Where Metal Music Is a Thing, But Music Knows No Boundaries.”

DISC REVIEW “SPECTRUMS”

「たしかにサウジアラビアはメタル・ミュージックが盛んな国としては知られていないけど、音楽には国境がないんだよ。音楽が大好きな僕は、大学進学を機にUAEに移り住み、リスナーとしてだけでなく、音楽に携わりたいと思うようになった。それでまず、DJ としてスタートして、それ以来音楽に対する情熱を燃やし続けている」
プログレッシブ・メタルコアのパンデミックは、北米、南米、ヨーロッパ、そしてもちろんここ日本やアジアの国々にも感染し拡大を続けていますが、さすがにサウジアラビアにまで到達し、これほどの逸材が登場するとは想像もつきませんでした。サウジアラビアの一人プログコア DUSK の首謀者 Meshari Sangora の音楽に対する情熱の焔は、実にユニークかつカラフルなデビュー作 “Spectrums” で国境や困難を燃やし尽くすのです。
「僕の生活は、ヘヴィ・ミュージックとメタルが100%なんだ。そうした音楽は、僕にとってのライフスタイルであり、メタル・ミュージックは、ジャンルとして、あるいは生き方として、僕にとって完璧なものであるといつも感じているんだよ。たしかにサウジアラビアでも本当に長い間、メタルやヘヴィ・ミュージックはタブー視されてきたし、過激なバンドや悪魔的なメタルに傾倒する人もいて、イメージは全く良くなかったんだ。でも人々はゆっくりと、しかし確実にヘヴィ・ミュージックに心を開き、メタルの物語の両面を学んでいるところだよ」
これまでインタビューを行ってきたイスラム教国家のバンドたちは、多かれ少なかれ、何かに不自由を感じていて、時には激しく弾圧を受け国外へと脱出した人たちさえ存在しました。もちろん、文化や伝統を重んじることは重要ですが、それによって生じた歪みで自由や権利が制限され、精神的、肉体的な抑圧や不利益を産むとしたら、きっと変化も必要です。”悪魔の音楽” は少なくともサウジアラビアでは、Meshari のような100%メタル人間の情熱によって、徐々に受け入れられて来ているのかも知れませんね。
実際、CREATIVE WASTED によるサウジ初のメタルライブが行われたところです。バンドのベーシストはこう語っていました。
「当時(2000年)のサウジには、どんな種類の音楽シーンもなかった。本当に何もなかった。アンダーグラウンドの民族音楽ならまだしも、それも家の中で友達に聞かせる程度。基本的に、そういうものだけ。ここには、どんな音楽シーンもなかったんだ。何もない。サウジアラビアのアーティストのほとんどは、レバノンなど、王国の外でレコーディングをしていたよ」
Meshari 息子とも言える “Spectrums” の誕生は、まさに変化の象徴でしょう。
「このアルバムは、メタルヘッズとそうでない人の両方にとっての、入り口になるような作品にしたかった。”Spectrums” は音楽が好きな人なら誰でも興味を持つことができると思うんだ。様々に異なるジャンルをミックスしているからね。このアルバムで僕がやろうとしていることは、すべての人に自分の感情や旅を体験してもらうこと。裏切りや処刑、愛、憎しみ、希望といった現実問題を扱ったテーマもある」
Meshari は、この新作をSide AとSide Bとに分けて制作しました。アルバムの前半、Side A は攻撃的なサウンドで、よりギターに重点を置き、前に進むにつれてさらなる敵意が蓄積されていくような作風。一方、後半 Side B では EDM 的なサウンドを多く取り入れ、DJ として養った現代的なデジタル•サウンドとイヤー・キャンディでメタル以外のリスナーにも広く訴えかけていきます。
「母国語を加えるというアイデアは、ユニークなタッチを加えることができると思ったし、アラビア語は僕のルーツとのつながりを保つ方法でもあるね。だから “Agnes Of Rome” という曲にはアラビア語が使われている」
“Spectrums” というタイトルは伊達ではありません。あの元 SWALLOW THE SUN の偉大な Jaani Peuhu、SOLEMON VISION の Aron Harris をはじめ、英語、ドイツ語、フィンランド語、アラビア語という異なる言語、異なるスタイルを持つボーカリストを集めたアルバムは実に多様で色鮮やか。さらに、EDM、ジャズ、ポップ、インダストリアル、アンビエントの音像が、モダン・プログコアという情熱の炉で溶かされ、再結晶した音楽は独創的でキラキラと耳に残ります。もちろん、オリエンタルな音の葉も存在しますが、それを押し売りのように無理強いしないところも見事。DUSK が蒔いた情熱の種は、この地で芽吹くのでしょうか。
今回弊誌では、Meshasi Sangora にインタビューを行うことができました。「POLYPHIA を聴いてメタルを再発見し、その場で再度メタルに転向したんだ。だから、ギターを弾く人たちに追いつくために、基本的なことをたくさん学ぶ必要があると思ったし、少なくともそうやって自分にハッパをかけて、毎日毎日練習していったんだ」どうぞ!!

DUSK “SPECTRUMS” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DUSK : SPECTRUMS】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FROSTBITT : MACHINE DESTROY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IVAN HANSEN OF FROSTBITT !!

“We Have For As Long As We Have Listened To Metal Been Listening To Japanese Rock Bands Like Dir En Grey, Maximum the Hormone, Moi Dix Mois, Babymetal And a Lot Of Anime Openings!”

DISC REVIEW “MACHINE DESTROY”

「Mana 様の作品はどれも好きだけど、特に Moi Dix Mois で作られた音楽は最高だよね!Dir En Grey は、僕たちの大のお気に入り。”Yokan / 予感” や “Cage” のようなファンキーでアーバンなものから、”Obscure” のような Nu-metal、そして後のデスコアやジャンル・ブレンドのヘヴィなものまで、彼らの全てのスタイルが大好きだよ!特に特定の曲のライブ・バージョンが大好きで、より生々しくエモーショナルに聴こえるんだ。”濤声” のライブ・バージョンのようにね。あれは僕にとって完璧だ!NARUTO は特に130話までが僕にとって特別な場所。Asian Kang-Fu Generation の “カナタハルカ” は、生々しい叫びのようなボーカルで、僕に大きなインスピレーションを与えてくれた!」
日本の音楽は世界では通用しない。そんなしたり顔の文言が通用したのも遥か昔。アニメやゲームのヴァイラル化とともに、日本の音楽は今や海外のナードたちにとって探求すべき黄金の迷宮です。とはいえ、ノルウェーのノイズテロリスト FROSTBITT ほど地下深くまで潜り込み、山ほどの財宝を掘り当てたバンドはいないでしょう。
「特にボーカルとベース・サウンドは、KORN から大きなインスピレーションを受けているよ。”Solbrent” “Frostbitt” では、Johnathan Davis とChino Moreno のヴァイブに深く入り込んでいるんだ。ただ、そのせいで少し非難されたし、一時期ちょっとやりすぎたという事実にも同意しているよ。でも、この新しいレコードでは、彼らのインスピレーションはそのままに、他の多くのものも取り入れて、より味わい深いものになったという気がするね。自分たちを取り戻したような感じさ」
未だ Djent が新しく、勢いのあった10年代初頭に頭角を現した FROSTBITT は、近隣の MESHUGGAH や MNEMIC (素晴らしい!) に薫陶を受け、ローチューンのリズミック・マッドネスに心酔しながらも、同時に Nu-metal, 特に KORN や DEFTONES の陰鬱や酩酊をその身に宿す稀有な存在としてシーンに爪痕を残します。ただし、インタビューに答えてくれた Ivan Hansen の歌唱があまりにも Jonathan Davis に似すぎていたため、あらぬ批判を受けることもあったのです。まさに “Life is Djenty”。
しかし、FROSTBITT の時間旅行は “Machine Destroy” で空も海も飛び越える3Dの冒険へと進化しました。”Machine Destroy” というアルバム・タイトルが示すように、FROSTBITT の目的は常識や次元、時間、既存のメカニズムの破壊。CAR BOMB とのツアーは、FROSTBITT にとってノイズと獰猛さを探求するきっかけとなり、あの英国の破壊王 FRONTIERER をも想起させるアクロバティックなエフェクト・ノイズの数々は、”Frost-Riff” というユニーク・スキルとしてリスナーの脳裏に深く刻まれます。これはもう、ギミックの域を超越したテクニックの領域。
さらに、ここには日本からの影響も伝播しました。”Masked Ghost Host” のシアトリカルで狂気じみた呪文のような言霊の連打からの絶叫は、明らかに Dir en Grey の京をイメージさせますし、作品のテーマは攻殻機動隊。何より、”曲をリフ・サラダではなく、構造や繰り返しのある実際の歌らしい歌にしたい” という彼らの理想は非常に日本的な作曲法ではないでしょうか。タイトル・トラック “Machine Destroy” の致死的な電気の渦の中でも埋もれない、メロディの輝きは日本イズムの何よりの証拠。今作ではさらに、時に RADIOHEAD の知性までも感じさせてくれます。
デスメタルの単調とブラックメタルの飽和が囁かれるこの世界では、新しいアイデアを持ったバンドが必要とされているようです。1996年に片足を突っ込み、もう片足をThallの迷宮に突っ込んで、両腕を遠い東の島国に向けて突き上げる FROSTBITT の3Dな音楽センスは、明らかに前代未聞唯一無二で尊ばれるべき才能でしょう。
今回弊誌では、Ivan Hansen にインタビューを行うことができました。「ノルウェーは、暖かい夏と厳しい寒さの冬と雪の両方がある美しい場所。国土が広く、人々は国土全体に散らばっているから、ノルウェーを旅行するときはかなり遠くまで行くことが多いよね。それに、多くの家庭が森の中に山小屋を持っているから、歩く文化や山越えの文化も盛んなんだ。少なくとも、ブラックメタル・バンドからはそんな雰囲気が伝わってくるし、僕自身も同じようなことを実感しているんだよ」 どうぞ!!

FROSTBITT “MACHINE DESTROY” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FROSTBITT : MACHINE DESTROY】

COVER STORY 【SLEEP TOKEN: EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW】


COVER STORY : SLEEP TOKEN “EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW”

Enigmatic Collective climbs to the top of the world in just two weeks!

SUMMON. RITUAL. WORSHIP.

時折、ヘヴィ・ミュージックの世界では突如として大化けするバンドがいますが、ニューシングル “Granite” をリリースしたばかりの謎のバンド SLEEP TOKEN の短期間での大化けぶりはこれまでに記憶がないほどの “バイラル” です。しかし、なぜこれほどまでに皆が彼らのことを話題にしているのでしょうか?
最近のリスナーの急増や新しいファン、評論家の流入がどうであれ、SLEEP TOKEN はまったく新しいバンドではありません。しかし今、世界中の音楽コミュニティが彼らの話題でもちきりです。わずか2週間の間にリリースされた4曲で、バンドはSpotifyの月間リスナー数100万人を突破しました。2週間でSpotifyの月間リスナーが4倍に。
4曲がリリースされる以前は、20万人強のリスナーだったことを考えれば、これは明らかに驚異的なジャンプです。さらに、2週間前の楽曲はすでに YouTube で100万回以上再生されており、最新シングル “Graniteも、20万回近く再生されているのです。しかし、この新たな快進撃は蜃気楼のようなものではなく、今や実体を伴った現象だと言えます。

SLEEP TOKEN の成功は、何年もかけて作られたもの。2016/17年にプログレッシブ・メタル/Djent のとポップやR&Bといった多様な影響を融合させたモダン・メタルで初めて登場し、”Fields Of Elation” や “Nazareth” は耳の早いリスナーたちの注目を集め始めます。しかし、このユニークで謎に満ちた集団が本当に軌道に乗り始めたのは、バンドがデビュー・フル・アルバムからの新曲を垂れ流し始めた2019年になってからでした。
SLEEP TOKEN を “ミステリー・バンド” “エニグマティック” と呼ぶのは、彼らに関する情報があまり出回っていないから。メンバーは儀式的な仮面をつけ、服装も隠しているため、その素性は明らかにされてはいません。わかっているのは、バンドのリーダーが Vessel という名前で活動していることと、 “Sundowning”(2019), “This Place Will Become Your Tomb”(2021)という2枚のフルアルバムがあることだけで、後者は、様々な媒体で2021年のベスト・アルバム・リストに選出されています。

SLEEP TOKEN のアイデンティティ、その神秘性と、複数の異なるスタイルの音楽を融合させた非効率性と異常性の両方を利用したことは、成功の助けとなりました。なぜなら、そうして複数の市場からの注目を集めることは、新人バンドにとって名声を得るための最も手っ取り早い方法のひとつであり、匿名性はファンによる “詮索” というアミューズメントを生み出します。
デジタル時代には匿名性の美しさがあります。私たちの多くは、知り合いが1~4つの SNS で常につながっていて、恐ろしいほどの勢いで切り替えながら憧れのセレブリティや、架空のヒーローについてあらゆることを学びます。私たちは、消費するために情報をノンストップで消費し、自分の行動を疑うことはありません。
SLEEP TOKEN の信奉者たちは、その手がかりを探し求めています。コヴェントリー在住のファン Chris が立ち上げた Discord サーバーで、彼らはバンドの歌詞、アートワーク、MV、グッズを丹念に調べ、ダ・ヴィンチ・コードのメタル版といった風態で隠れた意味を読み解こうと試みているのです。
「ウェブサイトで Vessel のインタビューを読んで、もっと知りたくなったんだ。Reddit でバンドのコミュニティがないか見てみたんだけど、当時はなかったから作ることにしたんだよ」
現在、そのメンバーは900人を超え、バンドが残した暗号を読み解くことに必死です。Tシャツのデザインに描かれた数字列が、鯨の死骸が海底に落ち、生態系全体の栄養源となる “鯨落ち” の座標であることを発見しました。
「バンドが提示する隠されたアイデンティティと世界観が好きだ。音楽だけでなく、全体的な体験ができるんだ」
アルバム “This Place Will Become Your Tomb” は、腐敗した鯨とそれを餌とする動物たちのヘヴィなイメージを象徴としています。死の中の生、つまり Vessel が頻繁にリリックで取り上げるトピックと永遠の繰り返しを表現しています。
Discord は、バンドがその芸術を通して何を探求しているのか、あるいはしていないのか、魅力的な洞察を与え続けています。
「何事も永遠には続かない。それまで我々は崇拝するのだ」と Chris は淡々と語ります。

神話に関する議論とは別に、Discord は人々を結びつける社交クラブにもなっています。「Discordのコミュニティは素晴らしい」と、ニューヨーク在住のファン、BluKittie ことヴェロニカは言います。
「世界中にファンがいて、バンドに対する同じ愛と情熱を分かち合っている。私たちはいつもお互いに助け合っているの。昨年、私の父が亡くなったんだけど、その辛い時にコミュニティのメンバーが助けてくれたし、今でもそうよ。そこで仲間に出会えたことが、とにかく幸せなの」
つまり、SLEEP TOKEN は、その秘密主義にもかかわらず、というよりも秘密主義であるがゆえに、急速にカルト的なセンセーションを巻き起こしつつあるのです。伝説の中心は Vessel ですが、SLEEP TOKEN は常に自分たちを “集団” と表現し、経験豊富なミュージシャンたちの共同作業を示唆し、全員が芸術に貢献していることを語っています。
SLEEP TOKEN のケースでは、SNS上の反応の大きさも手伝って、新曲は TikTok で爆発的にヒットし(TikTokは彼らが前作をリリースしたときよりも巨大なプラットフォームとなっている)、バンドが SNS で常にトレンドとなることで、見ず知らずの人たちがその騒ぎを目にしてファンとなる雪だるま式の効果もありました。

インターネットと様々なソーシャルメディアの力によって、無名のバンドが一夜にして一般大衆に浸透する時代になったことは間違いないでしょう。SLEEP TOKEN を新しいバンドだと思い込んでいるメディアもあるかもしれません。しかし重要なのは、多くのバンドやミュージシャンがそうであるように、この新たな成功は何年もかけて作られたものなのです。結局、時代がどう変わろうと、バンドをどのように発見するかはあまり重要ではないのかもしれませんね。昔からのファンであろうと、SLEEP TOKEN の活動を初めて知った人であろうと、バンドが成功を収めることは常にクールであり、新しくてユニークな体験とサウンドを提供するバンドであれば、なおさら嬉しいことですから。
バンドへの期待値は、今後も上昇傾向にありそうです。Genius によると、具体的なリリース日は明らかにされていないものの、”Take Me Back to Eden” というタイトルのアルバムが進行中とのこと。
Spinefarm Records のウェブサイトでは、”Chokehold” と “The Summoning” について、「次に何が来るかは時間だけが教えてくれるが、確かなのは、それが慣習に縛られることはないだろう」と書かれています。

では、SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。
「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、アヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語り、このバンドと同じレーベルに所属しています。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」
SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタルファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。

「ブラック・メタルと似ていて、マスクと謎めいた雰囲気が全体を引き締めているんだ」と Ihsahn は説明します。「そうしたシアトリカル、演劇的な要素がなければ、EMPEROR は今のような大きな存在にはならなかっただろうからね。そうやって、芸術とアーティストの間に明確な距離と空間が生まれる。デヴィッド・ボウイのインタビューを見ても、我々は彼を知っているようにはまったく感じられない。彼の作るアートはただ提供されるものであり、我々はそれを理解しようとするだけでよかったのだよ」
謎解きといえば、SLEEP TOKEN が次にどのような方向に進むのか、誰も知らないし、教えてくれようともしない。しかし、それはこのバンドが常にそうであったように、リリースのたび、ファンはその謎を解く楽しみを持つことができるのです。
「2ndアルバムを聴いたとき、彼らがどこへ行こうとしているのか全くわからなかったから、私の中では発展の種がたくさん生まれたんだ」 と Ihsahn は目を細めます。「今はより成熟し、明らかに彼らが目指しているものがある、でもそれが何であるかは言えないんだ……」

ライブでサポートを務めた AA Williams も SLEEP TOKEN に心酔する一人です。SLEEP TOKEN と同様、彼女の音楽はオルタナティブ、ポップ、ソウル、メタルと多岐に渡りますが、メタル世界にも受け入れられています
「私たちはとてもうまく調和していると思うわ。ポップな音楽とヘヴィな音楽の両方を、どちらかに偏ることなく追求できるアーティストを見るのは素晴らしいこと。ライブでは、そのダイナミクスに命が吹き込まれ、観客はまるで教会に行っているような気分になる」
SLEEP TOKEN の正体を明かそうとした人はいるのでしょうか?
「彼らのプライバシーを侵害しないように、また、アートを特定の方法で表現するという選択を尊重するようにしたいもの。もし、誰ですか?と聞かれたら、ロバート・デ・ニーロと答えよう」
Redditでは、このバンドの登場を GHOST に例えている人もいます。
「SLEEP TOKEN は新世代の GHOST のようなものだと思う。GHOST が過ぎ去った世代のメタル・スタイルと今の世代のポップセンスを融合させたように、SLEEP TOKEN は今日のメタル・サウンド(主にメタルコアやDjent)と近年流行しているポップ・サウンドを見事に融合させたんだ。そして、それがとてもクールなんだよ。だって、机の上ではうまくいかないはずなのに、実際にはうまくいくんだもの」

事実、”The Love You Want” や “Alkaline” に封じられた EDM とシンフォニック・メタルコアの婚姻は10代のTikTokユーザーにとってたまらない取り合わせでしょう。 ポップなフックを持つヘヴィ・ミュージックは確かに新しいものではありませんが、SLEEP TOKEN は誰よりも大きな力でジャンルの境界を溶かしています。そして、ヒップホップからプログ・メタルまであらゆるものを取り入れ、すぐに愛されるシングルをサプライズ的に散りばめながら、最も予想外の場所に力を見出す反抗的なメタルの旗をかざしているのです。
Redditの別のユーザーは、”The Summoning” に “衝撃を受けた” と述べ、このリスニング体験を”クソ超越的な経験” と驚きをあらわにします。また、Vessel が少し変わったボーカルアプローチをとっていることを指摘し、彼のスクリームを賞賛する人も多いようです。
「コーラスのバックで鳴っているあのうっすらとしたビープ音は、私を必要以上に幸せにしてくれる」と、別のファンはRedditで “Chokehold” について言及しています。「このバンドの、純粋なヘヴィ・ミュージックも好きだけど、ダークでポップな “ベイビー・ミュージック” を作ったときに本当に輝きを増すんだ」
SLEEP TOKEN を “Worship” “崇拝” するファンにとって、ライブはまさに “Ritual” “儀式” だと言えます。静まり返る会場で、バンドの神秘性の裏にあるメッセージや隠された意味、どんなサインでもいいから受け取りたいと、全員の目が仮面とマントをまとったシンガーに注がれます。Vessel は言葉というゴスペルの代わりに感謝の印に両手を合わせ、何も語らないことで全てを語ろうとし、皆の心を揺さぶります。
かつて Vessel は自分たちの音楽はすべて “スリープ” 、つまり何世紀も前にルーツを持つ眠りについた謎の神への奉仕であると語っています。
「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」


参考文献: LOUDWIRE BLUNT  THE NEW FURY

LOUDERSOUND

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【POLYPHIA : REMEMBER THAT YOU WILL DIE】


COVER STORY : POLYPHIA “REMEMBER THAT YOU WILL DIE

“I’m Gonna Grow Up And Be a Rock Star, And Just Truly Believing That.”

REMEMBER THAT YOU WILL DIE


「中学2年生の時にマリファナを吸い始めた。それが僕の人生の中で大きな意味を持つようになったんだ。テキサスに住んでいたから麻薬所持で逮捕されたけど、それが僕のキャリアに火をつけたようなもの。僕は保護観察中で、1年間、学校に行って、家に帰るだけだったんだ。人を呼ぶことも、友達の家に行くことも許されなかった。それで、ギターを本当に、本当に、本当に上手になろうと思ったんだ」
16歳になった POLYPHIA の Tim Henson は薬物所持で2度、法に触れてしまいました。テキサス州のように薬物犯罪が特に重く処罰される州では、尚更居場所を失います。今、28歳の Tim は、「毎日マリファナを吸える仕事に就いたんだ」と皮肉を込めて話します。「でも、”言霊” ってあるんだよね。小学校6年生のとき、”僕は Tim Hendrix。大きくなってロックスターになるんだ” って、みんなに宣言して、本当にそう思っていたんだ。だからね、意識の顕在化、決意表明。その力が本当に重要だと思うんだよ」

麻薬所持の罪で、Tim は保護観察や外出禁止処分となり、一人でいることが多くなりました。しかし、その時間をすべて使ってギターの練習を続け、貪欲に最高のミュージシャンを目指したのです。中国からの移民である母親は、息子がアメリカで得られるチャンスを最大限に生かすことを決意します。3歳のときから Tim はヴァイオリンのレッスンを受け始め、幼少期に長時間の練習に対する耐性を養いました。間違うと先生に弓で手を叩かれることもあり、決して楽しいものではありませんでしたが、彼はこの経験に感謝しています。
「多くの移民が、アメリカはチャンスの国だと考えている。だから、若いうちから何かを始めさせる親が多いんだ。乱暴な先生で、当時はかなり嫌だったけど、今思えばおかげで規律を学べたし、集中し、鍛錬し、練習することで、何事も上手になることを理解できたんだ」
10歳のある日、Tim は父親がギターを取り出すのを見ます。それまで父親がギターを弾くということを全く知らなかった彼は、その楽曲に興味をそそられました。「父親の BLACK SABBATH のコレクションから曲を選んで、耳コピを始めたんだよね。サバスは耳コピが簡単なんだ。全部Eマイナーのペンタトニックだから。そして、15歳になるころには、ヴァイオリンの気晴らしでギターを始めたのに、完全にヴァイオリンを捨てていたよ」

Tim が中学生の頃は、CHIODOS, TAKING BACK SUNDAY, FROM FIRST TO LASTなどが流行っていて、長い前髪に血行が悪くなるほどきついジーンズをはいた仲間に囲まれていました。
「年上の子たちが夢中になっていたクールなバンドだった。メロディーのいくつかは信じられないし、楽器編成も本当にユニークだと思ったんだ。ビートルズ、ジミヘン、サバスなど、古いロックしか知らなかった僕は、現代のバンドがやっていることを聴いて、特にロック的なソロとより現代的でテクニカルなリフを融合させることに、革命的な感覚を覚えたんだよね」
高校に入ると、ほとんどの同級生がシーンを卒業し、より “普通” の趣味を追求していました。しかし、Tim はまだ WHITECHAPEL を聴くことで満足していました。それでも彼は、”メインストリーム” の音楽と、それがなぜそんなに人気があるのかについて、好奇心を抑えることができなくなったのです。
「僕はメインストリームの曲を聴きに行き、なぜ多くの人々が好きなのかを理解しようとしたんだ。メタルは非常にニッチだから、僕はより多くの人に届く音楽を評価するようになっていった。何が親しみやすいのか、なぜ多くの人が共感するのか、音楽にあまり興味のない人たちでさえも。以来、その理由を分析するようになったんだ。僕自身はメインストリームの音楽に個人的に共感していたわけではなく、ただ馴染もうとしていただけなんだけどね。だけど、好きなもののために仲間はずれにされるのは、いい気分ではないからね。とはいえ、メインストリームの音楽の多くに純粋に感謝するようになったんだ」

こうした影響はやがて、Tim が2010年から活動しているバンド、POLYPHIA で作る音楽にも滲み出るようになりました。新譜 “Remember That You Will Die” は、ポップ、ファンク、EDM、Djent といった多様な絵の具をキャンバスに投影した、カルテットにとって最もカラフルでエクレクティックな作品と言えるでしょう。”オマエはいつか死ぬ。忘れるな” というタイトルは、ラテン語の格言 “Memento Mori” をロックンロールの流儀で翻訳した、羊のメタル皮を着た狼の残虐。
「人間は死が避けられないことを自認しているから、生の限られた時間を使って、永遠に存在し続けることができるものを発明しようとする。芸術家は想像力を駆使して、歴史に残るようなものを創り出すんだ。人工知能が発明され、それがアートやテクノロジーに応用されるようになると、人間の思考とコンピューターの思考のギャップを埋める方法が見つかる。 この2つをつなぐことは、最終的に人間の経験の永続性につながり、それは人間が不老不死になることに最も近いと言えるんだ。アルバムのタイトルは、このアートと結びついているんだ」
つまり、POLYPHIA の発明とはジャンルのステレオタイプを気にかけないこと。それが彼らの成功の礎です。彼らは MySpace でデスコアをイメージさせる10代の若者としてテキサスから現れたましたが、彼らをスターにしたのはそのブレイクダウンではなく、21世紀で最もジャンルを打ち破るリックをいくつも生み出したから。ファンク、マスロック、ヒップホップをミックスしたインストゥルメンタル・ジャムは、YouTube で何百万もの再生と Instagram のフォロワーを獲得しました。
「僕たちは何からでもインスピレーションを受ける。過去数枚のアルバムからギターを取り除き、ドラムとベースだけを聴くとしたら、トラップ・ビートやフューチャー・ベース・ビートが残る。もしギターを外して、演奏しているものにボーカルを加えても、やっぱりそう聴こえるだろう。つまり POLYPHIA でギターっぽいのはギターだけで、あとは人間がプログラムされたパートを演奏しているだけなんだ」

POLYPHIA にとって2013年にリリースしたシングル “Inspire” のプレイスルービデオは、最初のバイラルへの扉を開いた楽曲です。3ヶ月で25万の再生数を獲得。Tim は当時の自分たちが “天狗” になっていたと認めています。ただし、そうした “思い上がり” の顕在化が彼らを上へと押し上げて来たのは明らかな事実です。
「僕たちは間違いなくクソガキだった。子供は子供だ。高校生の頃、生活のためにツアーをするのが夢だったんだ。それから数年後、僕たちは実際にそうしていたんだから。それから、”もっと大きくなれたら、かっこいいな!” と思っていたんだ。だから “自分たちは素晴らしい。僕がキッズだったら、僕らが一番好きなバンドになるだろうね。それくらい僕たちの音楽はクールなんだ” なんてインタビューで普通に答えていたんだよ。今は歳をとって、作品に語らせたいんだ。今はもう言うことがない感じかな。僕たちはまだ自分たちがイケてると思っているけど、そのことについて愚かな雁字搦めになる必要はないってことを学んだんだ。前頭葉が発達しているときは、成長するのに時間がかかるんだよ」
ただし、過去の思い上がりに反省もあるようです。
「今はすごく練習してるよ。以前は “最もプロ意識のないプロフェッショナルなバンド” なんて言っていたけど、今は年齢も上がったし、これは自分たちの生活の一部だから、とても真剣にやっている。僕らの作品は演奏するのがとても難しいし、ファンを失望させたくはないんだ。自分たちのケツくらい自分たちで拭けないと。練習していないなんていうのは、ずいぶん前のクソみたいな発言の一つだよ」

POLYPHIA は、半分プログレッシブ・インストゥルメンタル・バンドで、半分オンライン・インフルエンサーだと言えるのかも知れませんね。バンドが2016年に “Euphoria” のビデオを公開した際、半裸のスーパー・モデルをサムネイル画像として起用したところ、400万人を数える人々にクリックバウトされました。YouTube のトップコメントにはこう書かれています。”彼らはとても賢い。美しい女性の画像を使って、騙して素晴らしいギター・バンドを発見させるなんて。ありがとう”
「POLYPHIA は意識的に2つの非常に異なるオーディエンスを一緒にしようとしたんだ。一つはギター・マニアとオタク。もうひとつは、ジャスティン・ビーバーや ONE DIRECTION のキッズだった僕らと同世代の女の子たちだ。それが目標だったんだけど、何年もかけて、自分たちではない何かになろうとすることを減らして、自分たちでいるようになったんだ。今でも男性中心だけど、ライブでは女の子がたくさんいるんだよ」
Ichika Nito、Mateus Asato、Yvette Youngといった才能あるアーティストを起用した 2018年の3rdアルバム “New Levels New Devils”。彼らのプロモ写真には、メルセデスに腰掛け、まるでクールなキッズのような格好をした4人組の姿が写っていました。テック・メタルを愛する若者たちにとって、それはある意味冒涜的な行動でしたが、Tim は当時、重要なことはクールであることと女の子にモテることだったと胸を張ります。
「2004年の “St Anger” で、METALLICA のプロモを見たんだ。彼らは全員メルセデスでリハーサルスペースに乗り付けたんだ。すげーカッコいいと思ったんだ。その時、自分たちを世界最大かつ最高のメタル・バンドと呼ぶというミームを思いついたんだよ。それに、僕らがもっとビッグになりたいと思っていた頃、ONE DIRECTION はまだ存在感を示していた。僕たちは、”よし、彼らがやっていることをやろう。明らかに女の子が好きなことだ” と思ったんだよな」

“The Most Hated” という明らかにノンギターな EP は、ファンたちの頭を悩ませ、中には逃げ出してしまった人もいました。
「あのリリースで、”俺たちが先にいたから POLYPHIA は俺たちのものだ” みたいな気取った老害的ファンを排除したんだ。彼らは僕たちの以前の作品を気に入っているから、それはそれでよかったんだ。結果として、新しいファンを獲得することができたからね。アマチュアから現在のようなバンドへと成長できたのさ。このアルバムも、半分は既存のファンのため、残りの半分は新しいファンのために作ったよ」
ボーカリストがいないことで、当初は多くのリスナーにとって眉唾ものでしたが、Tim はむしろインストであることがバンドに大きな創造性と可能性をもたらしたと考えています。
「より多才になれるし、より多くのコラボレーションが可能になるんだ。僕が本当に理想としているビジネスモデルは、EDMがすごく流行っていた2015年から16年ごろ、Zedd と Alessia Cara みたいな DJ とポップスターとのコラボも盛んで、同じ DJ があらゆるポップスターとコラボしてスターのキャリアを飛躍させるようなシステム。POLYPHIA のアイデアは DJ なんだよね。どんなシンガー、ラッパー、メタル・ボーカリスト、楽器奏者、DJ、プロデューサーともコラボできるんだ」
Chino Moreno や Steve Vai、ラッパーの Killstation や $not、ポップスターの Sophia Black など、”Remember That You Will Die” の豪華なゲスト陣を見れば、POLYPHIA の生み出したモデル・ケース、その影響力が浮き彫りとなります。

特にあの7弦楽器のパイオニアは、グランド・フィナーレ “Ego Death” の最後に登場し、歪んだソロで POLYPHIA の地平を切り裂きます。POLYPHIA にとってこれは記念碑的な出来事であり、Tim はあっけからんと “興奮している” と主張しますが、ここにも POLYPHIA 座右の銘である “気にかけない” が浸透しています。
「2020年に、Steve が NAMM ショーでオープニングをやってくれと頼んできたんだ。その後、僕らは DiMarzio のパーティに行って酔っ払って、彼に “ねぇ、僕らの曲で弾いてくれない?” って頼んだんだよ。そしたら、彼は “もちろん!” って感じだった。数年後、曲ができて、彼にメールを送ったんだ。そして “Ego Death” が完成したんだ」
例え Steve Vaiのような有名人であっても、POLYPHIA はアンチソロ、メロディ優先のビジョンを維持するためにその演奏に手を加えています。最近のインタビューで Vai は切り刻まれたギターソロに驚いたと語っています。
「通常、俺が誰かのために何かを弾くとき、依頼者はそのままの形で受け取るんだ。でも POLYPHIA はとてもクリエイティブで、何かを操作するのが好きなヤツらだ。ただ、最初に聴いたときはあまりに違っていたから、もしかしたら、俺のやったことが気に入らないのかもしれない!と思ったんだ (笑)」
このアルバムでの限界を超えたギター・プレイに対して、Tim は指板のコミュニティで使われているある言葉に異議を唱えています。
「僕たちがやっていることを “シュレッド” とは呼ばないよ。だって、それぞれの曲で1つか2つのモチーフがって、それがたくさんの音符に広がってから、メインのモチーフに戻ることに気づくでしょ?みんな、シュレッド “という言葉の周りで踊っているんだよ。80年代にスーパー・クールだったものを、今の時代にそのまま再現したってクールな訳ないよ。だって時代が違うから。大半のギターインストには緩やかな死を与えるべきかもね。僕たちはたくさんの音を弾くためのシュレッドではなく、音楽を補完するための正しい音を弾いているんだ。しかも、より速くね。メタル・バンドは儲からないからクールじゃない。ギターが中心になっているものは、文字通りソロにソロを重ねただけのものばかりだ。僕たちは確かにソロにソロを重ねたレコードを作ったけど、その間にフックもあったんだ」

“Playing God” では初めてナイロン弦のギターを使い、トラップ・ビートと溶け合わせました。
「フラメンコやボサノバをよく聴くわけじゃない。この曲をアル・ディ・メオラやパコ・デ・ルシアと比較する人もいるけど、僕は聴いたことがないからね。ただ、最近、ハーモニック・マイナーを再発見してね。このギターで弾くとそんな感じになるんだよ。それに、作曲する時は、最も”裸”の状態で完璧な音を出すべきだ。ナイロン弦で良いサウンドなら、どんな楽器に移行しても良いものになる。ただし、エレキより正確に弾かなければならないし、指の肉は安定してあるべき場所に正確に置かなければならないんだ」
Chino Moreno が参加した “Bloodbath” では、オールドスクールなギターソロを Scott が披露しています。
「Scott のソロの中では一番好きなんだ。彼は Dimebag や Wes Hauch、そして FACELESS “Planetary Duality” を少しチャネリングしたと思う。ALLUVIAL のアルバム “Sarcoma” での彼のギター・ワークはすごいよ。めちゃくちゃ聴いたよ」
TikTok やボカロが元となった “ABC” も POLYPHIA のアンテナの敏感さを証明しています。
「今、TikTok にアクセスすると、AC/DCの”Thunderstruck”をプレイする子供がいたりする。それにみんなが狂喜乱舞しているんだ。長い間、ラジオには存在しなかったギターソロを子供たちが発見したんだよ!それは素晴らしいことだ」
つまり、POLYPHIA のアンテナが倒れることはありません。
「先日、BRING ME THE HORIZON のライブを観に行ったんだけど、すごく衝撃的だったよ。僕たちはずっとメモを取りながら見ていたんだ。その前の週は MESHUGGAH を観たんだ。僕はあらゆる種類の音楽を純粋に評価しているからね。僕はポジティブなエネルギーしか持っていないんだ。自分がポジティブに感じた音楽を聴いた時と同じように、子供たちが僕たちの音楽を聴いてくれることを願っているよ。そして、その子供たちが成長して、ドープなことをするようになればいいな」


参考文献: KERRANG!: “The power of manifestation is really important”: How Polyphia’s Tim Henson became the guitar hero metal needs

GUITAR.com: “We were little pieces of shit”: Polyphia on teenage fame and making music with Steve Vai

GUITAR WORLD: Tim Henson and Scott LePage on how Polyphia made the wildest guitar album of 2022: “We were like, ‘F**k. Did we just blow out Steve Vai’s speakers?’”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YAWN : MATERIALISM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TORFINN LYSNE OF YAWN !!

“We Are Also Obviously Very Into Metal, And We Often See a Lot Of «Standardized» Ways Of Producing And Composing This Kind Of Music Today. We Try To Challenge These Ways By Including More Inspiration From Jazz And Contemporary music.”

DISC REVIEW “MATERIALISM”

「YAWN (あくび) というバンド名は、ある意味、音楽業界の “モダン・スタンダード” に対する反動なんだよ。長年音楽教育を受けてきた僕たちは、音楽的に “こっち” や “あっち” の方向に進みたい場合、ジャンルの慣習に基づいたすべてのルールに従ってきていて、かなり疲れていたんだよね。それで、一般的なレシピに従うことなく、何か新しいものを提供したいと心から思っていたんだ」
あらゆる音楽ジャンルには、すべて “規範” “標準” “ルール” が存在します。当然でしょう。ある種の雛形がなければ、ジャンルという概念それ自体が崩壊してしまうのですから。もちろん、現代のインストゥルメンタル、エクストリーム・ミュージック、プログレッシブというジャンルにもその雛形は存在します。MESHUGGAH はそのすべてに多大な影響を与えた巨人にちがいありません。
「ハイゲインの8弦ギター、ローチューンのドラム、そしてプロダクションの考え方など、MESHUGGAH は僕らのバンドにとって圧倒的に重要な音楽的影響を与えた存在だよ。彼らは間違いなく僕たちのヒーローで、もし彼らと一緒にツアーをする機会があれば、おそらく僕たちは心臓発作を起こすだろうね」
YAWN はしかし、その場所からさらに進んで新しいダイナミックな振動をもたらしてくれます。同じような、すこし奇妙な美的関心を持つ人々ならば、このバンドが現代のプログ・メタル世界にモダンなジャズの即興やノイズを導入し、地獄より重いリフ、複雑怪奇なリズムのパズルに新鮮な息吹を吹き込む開拓者であることを即座に認めるはずです。このポリリズムの両輪は次にいつ出会うのだろう、この不思議な響きはどこの伝統音楽だろう、少しづつ、ほんの少しづつ速度を変える肉感的なリズム、そして半音階さえ超えていく四分音の衝撃。
「Djent における共通のモラルは、とても刺激的で高揚感を与えてくれるものだと思うな。”ロックスターなんて論外、みんなでとにかく残虐で奇妙なリフを作ってインターネットにアップしよう” という考えを共有しているように思えるね。このような考え方が、クールな新しいバンドを生み出しただけでなく、現代の “ジェント・ベッドルーム・ミュージシャン” という文脈が、毎日出てくる素晴らしいソフトウェア、ギター・ギア、ドラム・サンプルなどのきっかけになったのだと思っている」
興味深いことに、多くの “MESHUGGAH 崇拝者” とは異なり、YAWN は Djent というムーブメントを抱擁し、すんなりと肯定しています。もちろん、彼らの目指す即興性、音の肉感と Djent の “定型”、機械化は同じ MESHUGGAH の申し子でありながら180度異なる考え方。それでも、”ロックスター” から遠く離れた場所にいるというある種の疎外感、反逆性、DIY の精神は共通していて、エレクトロニカや新機材という文脈からも多大な恩恵を受けていることに違いはないのです。
「どの曲もエンディングがあり、でもそれが次の曲の始まりになっていて、最初から最後まで通して聴くことができるように構成されているよ。このアルバムを制作しながら、僕たちの音楽世界のすべてがこのアルバムに込められているような気がしたんだよね。自分たちの音楽を表現するときに、物質の4つの状態 “固体、液体、気体、プラズマ” と多くの類似点があることに気づいたんだ」
37分のデビューアルバム “Materialism” は、アンビエントなサウンドスケープ、即興のギターソロとブルータルなブレイクダウン、感染性のグルーヴと心を溶かすリズム、実験的なエレクトロニクスを並列繋ぎで並び立て、これらすべての要素を論理的かつ音楽的な快適さを併せ持つ驚きのルービック・キューブとして組み合わせているのです。凍りついた永久凍土の即興音楽は、北欧で噴火するメタルの火山によって見事に溶解をみました。”唯物論” とはすなわち、スタイルやサブジャンルに巣食う特定のルールを破ることを意味していて、彼らは MESHUGGAH を “マトリックス” の世界へと引き込むのに十分な “仮想現実” とハッキングの技術を備えているのです。
今回弊誌では、ギタリスト Torfinn Lysne にインタビューを行うことができました。「僕たちは明らかにメタルが大好きなんだけど、今日、この種の音楽の制作や作曲はある意味 “標準化” された方法だと感じていたんだよね。僕たちは、ジャズや現代音楽からより多くのインスピレーションを得ることで、こうした方法に挑戦しようとしているんだよ。だから、一般的な “モダン・メタル” サウンドを再現しようとするのではなく、自分たちの方向性に沿って音楽を制作しているんだ」 どうぞ!!

YAWN “MATERIALISM” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YAWN : MATERIALISM】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MESHUGGAH : IMMUTABLE】


COVER STORY : MESHUGGAH “IMMUTABLE”

“We Always Wanted To Have This Lateral Move Away From What You Might Construe Or See As Mainstream Metal.”

IMMUTABLE

30年以上にわたり、ヘヴィ・メタルはスウェーデンの最も重要な輸出品のひとつで、その品々は伝統的なメタルの慣習を粉々に打ち砕いてきました。
1970年代、KING CRIMSON の創設者でギタリストの Robert Fripp は、ドラマーの Bill Bruford とベーシストの John Wetton を “空飛ぶレンガの壁” と呼んでいました。Fripp は当時、バンドの角ばった不協和音を完成させる際、リズムセクションに対してギターの音量とパワーを競わせることに苦労していたのです。35年前にスウェーデン北部のウメオで結成された MESHUGGAH は、その特異で巨大な “空飛ぶレンガの壁” をバンドとして作り上げました。そうして、1995年の “Destroy Erase Improve” で彼らはメタルの慣習を粉々に “破壊し、消し去り、改善” したのです。
MESHUGGAH は、その非正統的なドラムパターン、テンションが張り巡らされた半音階のギター・メロディー、そして邪心の咆哮で、”冷酷で機械的”な数学的メタルのフロンティアを切り開きました。ドラマーの Tomas Haake が「このバンドは常に、主流であると解釈されるようなメタルから、あるいはそう見えるようなものから離れることを望んでいた」と証言するように。
デビュー・アルバム “Contradictions Collapse” のリリースから31年が経過しましたが、新譜 “Immutable” が物語るようにその決意は “不変” であり、衰えることなく続いています。この30年の間にメタルというジャンルは何度か、かつての伝統に寄りかかり、進歩の潮流を塞きとめたのかもしれません。しかし、そんな中でも MESHUGGAH はその歩みをいささかも止めることなく、巨大で、アンタッチャブルな存在であり続けています。変われないのか、変わらないのか。とにかく、おそらく、地球上で最も重要なメタル・バンドのひとつでしょう。

“Immutable” で MESHUGGAH は、自分たちのサウンドを調整することにしました。”イージーリスニング” とまではいかないまでも、 “よりファット” で “よりストレート” なサウンドに仕上げることを目標に据えたのです。ギターサウンドは、凄まじい高音域が明らかに減退しています。ただし、このバンドに特徴的な音色を与え、何十人、何百人もの模倣者が真似をした、あの際立った中低音は厚みを増しながら残っているのです。そうして彼らのギターの壁は、まるでクトゥルフが深海のケーブルをかき鳴らすかのようにダイレクトに響くこととなりました。
Tomas Haake はメタル世界で最も才能のあるドラマーの一人でしょう。かつて MESHUGGAH はロック王道の4/4拍子、その改革を生き様としていました。彼らは4/4拍子が自分たちの曲の基本であると主張しますが、その周辺に複雑なポリリズムを織り込むようになったのです。Haake のオフタイムのスネアヒット、そしてゴースト・ノートの使用は、彼らのリズムをメタル世界唯一無二のものへと羽ばたかせました。
2016年の “The Violent Sleep of Reason” で Haake は、特に “Clockworks” と “Nostrum” を怪物的な楽曲へと仕立て上げました。双方とも、ドラムソロを延長して音楽に合わせたような印象を与えるもの。バンドのソングライター全員がドラムをプログラムしていますが、この2曲はベーシストの Dick Lövgren との共作から生まれたものでした。
MESHUGGAH の “空飛ぶレンガの壁” は、ある雰囲気に従ってジャムを始め、作曲を “延々と続ける” 傾向があると Haake は語り、”Immutable” の秘密を説明します。
「”Immutable” では、僕と Dick が書いた曲と、ギタリストの Mårten Hagström が書いた曲がほぼ交互に演奏される。Marten の曲は、よりがっしりとして、よりビートの周りをスイングするような傾向がある。俺は、自分と Dick の作曲を頭脳的で “青” であると見ているのに対し、Marten の作曲は “赤”、つまり “木の実と内臓” で構成されている曲だと感じてるんだ」

Haake は、このアルバムが他のどのアルバムよりも、2012年の巨大でグルーヴに満ちた “Koloss” に近いとし、”Immutable” 全体のリズムの固定化をその理由に挙げています。
「”Immutable” は全曲にバックビートがあるはじめてのアルバムなんだ。前作の “The Violent Sleep of Reason” を見ると、”Clockworks” のような曲から始まる。スネアのヒットはすべて、小節線上の変拍子上にあるリフの一部になっているからね。だから、何が起こっているのかを把握するのが少し難しくなっていたんだと思う。一方、このアルバムはバックビートがあることで、ノリノリになれるし、僕らが目指しているものをもっと身近に感じてもらえるような気がするんだ」
ただし、MESHUGGAH が “機械” や “方程式” をないがしろにするようなことはあり得ません。
「実際には、両方の要素があると思うんだ。自分たちが感じたものしか書けないという意味ではオーガニックだし…他の多くのバンドのやり方とは違うと思うのは、僕らがすべてを “コンピューターの世界” で作っているということ。Cube Base に座って、僕がドラムのプログラミングをする。例えば、”The Violent Sleep Of Reason” からの “Clockworks” や、このアルバムからの “Phantoms” のように、リズムの面から来るパートもあるからね。ドラムが曲の基礎になって、それに対してリフを書く…まあ多くの場合は、リフから来るけどね。
だけど、オーガニックな面は確かにあるね。でも、リハーサルでジャムったり、いろいろ試したりすることはないんだ。僕らは作曲を完全にコンピュータの世界でやっているし、ほとんどずっとそうだった。僕がバンドに参加した1989年には、誰もがコンピューターを手に入れ始め、使えるソフトウェアが登場してきた…そういうツールがなかったら、バンドとして同じようなものにはならなかったに違いないんだ。僕らにとっては非常に重要なことで、好ましい方法というだけでなく、今ではすっかり慣れてしまっているからね。
だから、機械やコンピューターに頼っている部分も多いし、オーガニックとマシナリーの両方があると思う。でも、実際のアイデアそのものは、オーガニックでなければならないんだ。それは内面からしか生まれないものだから」

複雑怪奇な音楽を作るという命題も、ある意味 MESHUGGAH にとって “不変” です。
「ある意味、僕たちはとても早くから、僕がバンドに入ったときから、すでにテクニカルでヘヴィな音楽を作る道を歩んでいたと思うんだ…。ただ、僕らが育った音楽や10代後半にハマった音楽も、僕らが求める “融合” に大きな影響を及ぼしている。メタルが好きなのは変わらないけど、それとは違うことをやりたかったんだ。そしてその道を進んできた。基本的に僕たちは皆、大人になってからもこの仕事を続けていて、僕は32年間バンドをやっているんだけど、何がきっかけでこの道に進んだのか、それとも別の道に進んだのかを特定するのは難しいことがあるね。
初期の頃は、ある種の工夫が必要だったかもしれないけど、時間が経つにつれて、自然に出てくるようになった。僕たちは難しい音楽を作ろうとしているわけではないんだよ。ただ、自分たちにとって面白く聞こえるものを書こうとしているだけなんだ。だから、計算したりとか、こんなクレイジーなことをすれば、みんなを熱狂させられるだろうと決めたりするようなことはないんだ。決してそんなことはないんだよ。たぶん、年齢を重ねれば重ねるほど、成熟していくんだろうけど、アルバムごとに何を成し遂げようとしているのか、その感覚も成長していくんだろうね」
自身でも驚きを感じる瞬間は、今でもあるのでしょうか?
「今回のアルバムだと、”Armies of the Preposterous” だね。あの曲はワルツ調で、ハンドワークがすごく遅いのに、フットワークは速いんだ。この曲のサウンドにはとても興味をそそられたし、プログラミングしているときのサウンドもとても気に入ったんだけど、実際に演奏するのは難しいかもしれないと思ったよ。メタルでワルツをやるというのは、あまり一般的ではないしね。でも、リハーサルを始めてみると、アルバムの中でも演奏しやすい曲のひとつだったんだ。そうか、僕は自分のことをよく分かっていないんだと思った瞬間だったね。
もうひとつ、オープニング・トラックの “Broken Cog” だけど、これは3度目の正直。2010年から2011年にかけて書いた曲で、”Koloss” のためにやろうとしたんだけど、結局やらなかった。その後、”Violent Sleep” のためにやってみたんだけど、僕にはとても変な感じだったんだ。ドラマーとして演奏するのは本当に厄介でね。正気の沙汰とは思えないような音になっていたよ。自分が何をやっているのか、まったくわからないんだ。常にタイミングを探っているような感じでで、結局やらなかったんだけど、また戻ってきたんだ。それでも、みんなこの曲が好きだから、もう一度やってみようってね。それでもっとリハーサルをしたら、今度はなぜかずっといい感じだったんだ。結果的にとてもクールなものになったから、ライブでも演奏するつもりだよ。3度目の正直だ。この曲は12年もの間、僕らのドアをノックしていたんだけど、ついにそのかわいそうなやつを中に入れてあげたんだよ」

他のバンドと自分たちの音楽を比較することはあるのでしょうか?
「拍子で 7、9、5とか、そういうのを非常にうまくやるバンドがいるんだ。例えば、TOOL のようなバンドは、フォローするのがとても難しいし、聴いていてとても興味をそそられるんだ。でも、彼らのテクニカルな部分は、僕らのやり方とは全然違う。僕らがやろうとしていることは、テクニカルで難しいバンドが時々欠いてしまう音楽の流れを与えていると思うんだ。僕にとって、ライヴに行って CAR BOMB のようなバンドを聴くと、圧倒される。”ウォー!” って感じ。技術的な面ではとても難しい。まるで戦場にいるような衝撃を受けるんだ。アレは僕らには向いてないよ。一旦それができたら、それを維持しようとする。その点に関しては、あまり磨くつもりはないんだ。それよりも、自分たちの流れを維持しようとすることが大事なんだ」
後続の Djent についてはどのように感じているのでしょうか?Marten が答えます。
「あのシーンから大きくなってきたバンドが現れて、僕らを気に入ってくれているんだ。それはとてもクールなことで、本当に嬉しいことだよ。僕らがインスピレーションの源だと言ってくれる人がいるのは、本当に嬉しいことさ。”あなたたちは Djent” が嫌いで、あれもこれも嫌いなんでしょう?” という質問を受けたことがある。いや、違うよ。そんなことは全然ない。単純な話、僕たちはスウェーデンの年老いた怠け者で、この手の音楽を長いことやってきただけさ。だから、新しいアルバムを作っても、新しい音楽は全く聴かないだけなんだ。
誰であろうと、やりたいことがどんなクリエイティブな側面を持っていようと・・・君が何かにインスパイアされたように、他の人をインスパイアする人間になりたいとは思わないかい?それが最大の褒め言葉なんだ。どんな音であろうとね」
MESHUGGAH を聴いていると、バンド全体が難解なものほど魅力的なものとして捉えているようにも感じられます。しかし、Haake は “Immutable” が “The Violent Sleep of Reason” よりも地に足のついたアルバムで、だからこそ素晴らしいと感じています。たしかに後者では、いくつかの曲が力強く始まり、その後少し奇妙な方向に向かう傾向がありました。
「でも、今回はどの楽曲もそんな感じはしないんだ。演奏も、マテリアルも、曲の一部分さえも、もっとこうしておけばよかったと思うことはないんだよね。そして、それは僕たちにとって珍しいことなんだ。アルバムが完成したときに、こんな気持ちになったのは初めてだよ」

だからといって、いくつかの曲に対して不安がなかったわけではありません。”Kaleidoscope” は、彼と Lövgren が完全に満足していると感じるためには、いつもより “少しロック” な感じがしたことが気がかりでした。しかし、例えバンドが一般リスナーに対して譲歩したと危惧する曲でも、少なくとも98%は MESHUGGAH として識別できるようになっています。そして、”Kaleidoscope” における Jens Kidman の叫びは、バンド全体の気持ちをぐっと高めることにつながりました。
Kidman は、アルバム全曲を自身のホームスタジオでレコーディング。つまり、これまで以上にその歌唱に磨きをかける時間があったのです。通常、バンドがレコーディングで遅くれをだすと、彼のスタジオでの時間は減ってしまう。しかし “Immutable”では、通常の2週間ではなく、8週間を費やすことができました。1曲につき2テイク、時には6テイクまで用意して。そうすることで、彼の異なるヴォーカル・パフォーマンスをミックス全体に反映することができたのです。
Kidman の歌唱はまさに威厳。アルバムを通して、彼は唸り、吠え、叫び、また囁き、威嚇します。”Faultless” では、彼の声はピッチシフトされていますし、シングル “The Abysmal Eye” では、歌詞の一部に登場する古代の神々のような性格を歌に分け与えました。

MESHUGGAH は “Immutable” の制作にこれまでよりも時間をかけました。彼らは昨年10月、3ヶ月遅れでレーベル Atomic Fire にマスターを納品。レコーディングの間、彼らはしばしば自分たちに課せられていた束縛をいくつか解き放ちました。以前は、ライブで再現できないハーモニーやメロディーを重ねることを敬遠していたのですが、その戒めも解きました。Haakeの言葉を借りれば、バンドのソングライターが “メロディーをやり過ぎる” のが好きな場合、これ以上自分を律するのは難しいことだったのです。今回、彼らは音楽に身を任せ、ライブの要素は後で考えることにしました。その結果、よりリッチで動的、そしてシネマティックなサウンドが実現したのです。
「メロディーは、曲を作るときにいつも考えていることなんだ。新しいアルバムを制作するためにデモを聞き返すと、僕たちは常に音楽に対して視覚的な感覚を持っていることがわかる。でももちろん、その上でどんなメロディーを弾いているか、ギターのメロディーにどんな音を使うかによって、視覚的な感覚を強化することができるんだ」

このアルバムで最もシネマティックに仕上がっているのは、Hagstrom が作曲したインストゥルメンタル曲 “They Move Below” でしょう。レイヤーが重ねられたサウンドもさることながら、ギターのスライドと重い足音のキックドラムがストーナー・メタルのようなドロドロとした感触を与えています。Haake は、Hagström が常にストーナー・サウンドに片足を踏み入れており、その種のマテリアルを生み出していることを理解しています。彼はこの曲を “The Violent Sleep of Reason” の中の “Ivory Tower” の6/8フィールと比較しています。つまり、バンドはこういったよりストーナー的な曲を、MESHUGGAH 的に解釈する意図を持って演奏しているのです。
Hagström は、Haake と Lövgren に “Ligature Marks” という曲をスタジオに入るまで聞かせませんでした。
「ああ、この古いやつか、俺はこれがちょっと好きだとヤツに言ったんだ。昔は完成された曲じゃなかったけど、今はずっとちょっとカッコいいと思うとね。このアルバムからこれを遠ざけるなんて、バカげてるって言ったよ」
彼がそう感じたのも無理はありません。”Ligature Marks” は、2008年の “obZen” のタイトルトラックと同じように、無情に踏みつけるように始まります。しかし、それは美しく、超越的なアウトロで終わり、リスナーに悩みのタネを植え付けるのです。
“Immutable” では、創設者のギタリスト Fredrik Thordendal が復帰し、彼独特のジャジーでフリーフォームなソロを4つ披露しています。Thordendal は “The Violent Sleep of Reason” 以来、バンドでのツアーは行っていません。ライブでは SCAR SYMMETRY の Per Nilssen が彼の代役を務めていました。しかし、Thordendal は MESHUGGAH のメンバーであり続けているのです。Haakeは Thordendal(名曲 “Bleed “などを作曲)が近年作曲への貢献度が低いことを気にしていません。
「彼が変に感じたり、僕たちが変に感じたりするようなことではないんだ。実際、作曲の任を解かれて彼の肩の荷が下りたと思うんだ、わかるだろ? 彼はもう少し自分のことができるし、曲作りは僕たちに任せられるから」
Hagstrom も同意します。
「Fredrik の “Immutable” における作曲クレジットは “The Violent Sleep of Reason” とほとんど同じだから…何もないよ。”Koloss” 彼は、『みんな、このアルバムではあまり書かないよ』と言って、実際ほとんど書かなかった。彼は基本的に1曲だけ書いて、あとは僕らと一緒にあちこちで共同作業をしていたんだ。”Violent Sleep” では、彼ははっきりと『この作品では一音も書くつもりはない』と言ったんだ。
Fredrik との約束は、彼が3年半(ソロ作品)を続けて、それがどうなるかを見るというものだった。3年半が過ぎ、僕たちはミーティングをして、彼は『もし戻れるなら、ぜひ戻りたい。あそこは私の居場所であり、私の魂なんだ。3年半やってきて、ソロ作はまだ終わっていない。君たちが望むなら、戻ってもいいな』って。僕たちは『F-k yeah、バンドを再結成してツアーに出ようぜ!』って感じだったんだ。
Fredrik が実際にアルバムで演奏するかどうかということになったとき、僕たちは、”Fredrik Thordendal のリードが必要な曲がたくさんあるんだ”って感じだった。彼のリード・サウンドは不可欠だろう?もし彼がリードを弾かなかったら、真の MESHUGGAH のアルバムにはならないだろう。フレドリックがリードを弾いた4曲については、スタジオ33で彼にステムを送り、そこでレコーディングしたんだ」

Thordendal のソロのひとつは、騒々しい “God He Sees In Mirrors” を見事に飾り立てています。元々この曲には、Haake が “トリッピー” と表現するような歌詞がありました。しかし、この曲の攻撃性に直面し、彼は歌詞を書き直したのです。
「マインド・ファックだよ。この曲を聴いた後は、ほとんど暴力を受けたような気分になる。なぜなら、この曲は聴くものをを打ちのめし、ただ進み続けるから」
クラシックなスラッシュ・メタルに部分的にインスパイアされたアルバムの多くと同様に、この曲の歌詞は社会批判に根ざしています。”The Violent Sleep of Reason” が2016年10月にリリースされて以来、世界中でファシズムやポピュリズムが爆発的に広まりました。トランプ大統領が誕生し、去っていきました。専制君主や独裁者が世界中の国々を掌握しています。
「トランプが大きなインスピレーションを与えたのはまちがいない。ボルソナロなど、偽旗の下で走り出す政治家たち。ついでにプーチンも。トランプが鏡を見るとき、そこに映っているのは100%間違いなく自分以外の何者かだ。神のように純粋で、完璧な人類の標本を見ているのだろう。それが彼の見ているもの。そして、そのすべてが妄想なんだ。トランプだけじゃない。ヨーロッパや極東にもいるだろ?彼らの行動はすべて自己、利益、富のためであり、人々のためではないんだよ」
プーチンのウクライナ侵攻は、”Immutable” の大きなテーマの1つである、暴力的なやり方を変えることのできない人類をある意味証明してしまいました。アーティスト Luminokaya のアートワークのナイフを持った炎のような人型は、新しい現実の脅威を表現しているのです。
「歌詞の中に見られる批判は、今起きている多くのことと密接に関係しているんだ。プーチンがウクライナの人々に仕掛けているデタラメに関しては、今の時代、あるいは実際、人間は変われないと証明しているようなものだ」

人類は変わっていないかもしれませんが、MESHUGGAH は Lövgren を除くメンバー全員が50代になり、年を重ねてきています。アルバムのオープニングを飾る “Broken Cog” は、時間が我々から逃げていくというよりも、死という暗い影を背負った我々を地面に叩きつけるような曲。
「この曲の歌詞は、ここにいる自分たちの時間的性質を考え、残された時間を考え、死と暗い考えを受け入れなければならない人たちが、それを乗り切ろうとすることについて書かれているんだよ」
Hagstrom も加齢とアルバムタイトルの関係性を認めます。
「”不変” って僕らのバンドとしての位置づけにぴったりだ。俺たちは年を取った。ほとんどのメンバーが50代になり、自分たちが何者であるかということに納得している。ずっと実験をしてきたけれど、それは初日から変わらない。物事へのアプローチの仕方や、なぜ今でも新しいアルバムを作るのか、なぜ今でも自分たちの音を出すのか、それは不変のものなんだ。人間性も不変だよ。人類は何度も何度も同じ間違いを犯す。結局僕たちも不変なんだ」
MESHUGGAH には作詞家としての Haake、作曲家演奏家としての Haake、つまり二人の Tomas Haake がいます。
「脳の異なる部分を使っているのは確かだよ。以前は、歌詞は年に1回とか、2年に1回とか、掘り下げて書くようなものだったんだ。でも、ここ2枚のアルバムでは、音楽の雰囲気がわかると、その音楽に合わせて書くことが多くなったかもしれないな。トピックとしては、自分の周りで起こっていることに対する社会的なコメントがほとんどだけど、時には純粋なフィクションで、音楽から感じた雰囲気を強めていこうとすることもある。でも、多くの場合、僕の歌詞は社会的なものだよ」

Haake が現代社会に伝えたいことはたくさんあります。
「ソーシャルメディアがいかに多くの点で馬鹿馬鹿しいツールになっているか、偽情報のツールになっているか、さらには政治的なツールになっているかということだよね。”Light The Shortening Fuse” の歌詞は、まさに “Immutable” のために書かれたもので、より具体的にそのことについて話しているんだ。”Phantoms” のような曲は、人生を歩む上での後悔について歌っている。自分が言ったこと、やったことを後悔して、それがずっと自分の中に残っていてついて回る。幽霊や幻のようなものだよ」
彼の白い手袋は、2年前から手の内側にできてしまった湿疹を治すためのものだといいます。「手の中に湿疹があるんだ。全ての指にテープを貼り手袋をしなければ叩けない。だから1年近くドラムを叩いていないことになる。生活もままならないけど前を向いているし、ツアーではなんとか叩こうと思うよ」
有酸素運動よりも、ソファで Netflix を見るのが好きだという Haake は背中を痛め、右足のコントロールが効かなくなったこともあります。”Bleed” のガトリングガンのようなダブルバスドラムを毎晩ツアーで演奏することを期待されているドラマーにとって、それは理想的なことではないでしょう。Hagström は、バンドのリフを演奏する緊張から、手、前腕、肩に痛みを経験したことがあります。MESHUGGAH の音楽を演奏するための肉体的なピークは、おそらく20代や30代なのでしょう。
「人生も、バンドも、生活のためにやっていることも、永遠に続くものではないことに気づくからこそ、ある種の悲しみがあるんだと思う」
しかし、MESHUGGAH の音楽の背後にある意図は、常に不変です。彼らはいつも通り、不可解で華麗なサウンドを奏でています。”Future Breed Machine” でメタルの未来に警鐘を鳴らした彼らは、今でもメタルの未来を定義する “マシーン” として聳え立っています。それはまだ未完成の仕事。”Nothing” Has Changed.

参考文献: KNOTFEST.COM:THE MORE THINGS CHANGE: MESHUGGAH’S TOMAS HAAKE ON ‘IMMUTABLE’

THE PIT:“We aren’t trying to f*** with you too much…”: Meshuggah Drummer Tomas Haake Talks Immutable, Creating Complex Music, + More

LOUDWIRE: MESHUGGAH ADRESS MISCONCEPTION DJENT

日本盤のご購入はこちら。WARD RECORDS