COVER STORY : SPIRITBOX “ETERNAL BLUE”
“This Music Is What I Need To Move On From a Lot Of Feelings And Really Dark, Intrusive Thoughts That I Constantly Have”
ETERNAL BLUE
世界で最もホットなバンドは?少なくとも SPIRITBOX は、現在すべてのロック、メタルのファンが話題にせずにはいられないバンドでしょう。誰もが “ヘヴィー” の意味を問うことになる “Eternal Blue” の感情的な旅とともに。
SPIRITBOX には当初、大げさな指針や計画は存在しませんでした。そこに存在したのは、自分たちの音楽を作りたい、自分たちの物語を書きたい、自分たちの運命を切り開きたい、というシンプルな願望のみ。ゆえに決断は、簡単で迅速なものでした。
2015年末、当時アバンギャルド・エクスペリメンタル・メタルコア Iwrestledabearonce のボーカリストとギタリストであった Courtney LaPlante と Michael Stringer は、自分たちのキャリアが八方塞がりでどこにも到達しない道を歩んでいるという現実に直面したいました。毎晩ステージに立ち、誰かの曲を演奏する毎日。観客の数はどんどん減っていきました。そして、Courtney はある結論に達します。
「ある日、私たちは集まって、将来について話していたの。そして…私が自分自身についていた嘘のすべてが一度に襲ってきたの。このバンドには未来がないってね」
Courtney LaPlanteは、魅力的で、愛想がよく、努力を惜しまないクールな女性。当時の、好きなバンドと一緒に国中をツアーで回るという人生の過ごし方でわかったことは、アーティストの理想と現実でした。
「中堅のバンドに所属するほとんどの人は、現実から逃げているだけだと思うわ。ツアーが長引けば長引くほど、仕事をしたり、親の家の地下以外に住む場所を探したりする必要がなくなるだけなんだから」
当時27歳の Courtney は、時給8ドルのウエイトレスをしていました。Michael も同様に、配達車でピザを運ぶ仕事をしていました。そして現在、2人はデータ入力の会社で一緒に働いています。つまり、理想よりも現実に襲われ怯えていた当時の彼らには、それでも恋愛面でもクリエイティブな面でも、切っても切れない “ソウルメイト” であるお互いがいたのです。彼らにはまだビジョンがありました。そしてすぐに、彼らはプログレッシブでヘヴィーでアトモスフェリックな、TesseracT というバンドに少なからず影響を受けた音楽を “魂の箱” に入れて、自分たちの新しいバンドを結成したのです。そのバンドの名は SPIRITBOX。
20代半ばの Courtney は、Iwrestledabearonce の前ボーカルである Krysta Cameron の後任としてバンドに加入。本業を休むことになりました。後に Michael も加入しますが、結局あのバンドで、夫妻のクリエイティブな夢は叶えられませんでした。
「自分でバンドを始めるのとは違ったのね。私たちは、すでに確立されたもの、つまり、彼らのビジョンの中に入っていったのだから」
Iwrestledabearonce では、生活費を稼ぐこともままなりませんでした。
「文字通り、ズボンを買うお金もなかったわ。パッチを当てることもできなかった。でも、音楽業界にいない人たちは、みんな私たちが家や車などを持っていると思っているでしょうね。自分たちが目指す場所にたどり着くのはとても大変なことだけど、同じように感じているバンドは世界中に何百万といるでしょう。
メタルの世界は、ある意味ではとても遅れているの。このジャンルには、異なる雰囲気があるわ。業界全体が本物を求めているようだけど、メタルの世界では、ツアーを終えてバーで仕事をしていることを人々に知らせるのは、汚い秘密のようなものと考えているの。そのような姿を人に見られたくない、バンド活動の実際の苦労を見られたくない、みたいなね。
私は、正直な人をとても尊敬しているのよ。だから、”あなたたちはミュージシャン以外に普通の仕事をしているのですか?” と聞かれたら、私たちは正直に “そうよ、生きていくためには絶対に働かなければならないから” と答えるの。私たちと同じレベルのバンドで、仕事をしていないと言っているヤツはバカよ。19歳で母親と一緒に暮らしているか、それともバカかどっちかよ。正直なところ、時給8ドルで働きながらミュージシャンとして生きていくのはとても大変なの。」
Iwrestledabearonce が2016年頃に別れの言葉もなく解散したとき、創設メンバーではなかった Courtney と Michael は、Myspace のメタルコア時代に享受した成功を自分たちの言葉で再現しようと決意しました。Iwrestledabearonce が永久に止まってしまってから2年後、2人はカナダの小さな島に移住し、2017年末に SPIRITBOX として再登場し、自作の同名のデビューEPをリリースすることとなります。
バンド名の由来となった装置( “スピリットボックス” はAM と FM の周波数をスキャンし、ホワイト・ノイズの中に幽霊の声を拾うことができるとされている)の音が散りばめられた再登場で、彼らはメタルに対する雑食的でジャンルを共食いするようなアプローチを示し、インダストリアル・エレクトロニカの音が、マスコアのリフやシューゲイザーのようなメロディ、ポップなフックと一緒に鳴り響く唯一無二を提示したのです。
Courtney と Michael は、夢のバンドを結成するための時間と場所がようやく与えられたとき、結婚生活の年数を合わせたよりも多くの意見の食い違いがありました。アートワークはどのようなものにするか?火か花か?黒か青か?それはまるで結婚セラピーのようでもあり、初めての子育てのようでもありました。
「私たちには多くの意見の相違があったわ。例えば、作品のアートワークの色など、些細なことでもすべてにおいてね」
大局的な部分では基本的に一致していたものの、Photoshop のカラー・パレットについて口論する時間が待ち受けているとは、二人とも想像もしていませんでした。しかし、この戦いには価値がありました。30代になったばかりの2人は、音楽業界で20年の経験を積み、ついに自分たちのバンドと呼べるものを手に入れたのですから。
実は Michael と出会う前、Courtney は自分をメタルのシンガーではなく、女優として見ていました。それが変わったのは、俳優を目指す多くの才能ある子供たちが直面する教訓を学んだ日。自分は優秀だが、ベストではないという壁。
「15歳のとき、アラバマ州のクラスに150人しかいない町から、1,500人いるカナダに引っ越したの。私は、自分がやりたい学校劇の役に、自分より上手い人が挑戦していたら、絶対に挑戦しないタイプだったの」
若い頃に曲を作っていましたが、世に出す勇気がなかった彼女は、そうして弟と一緒に音楽を作ることに自分の創造性を向け始めます。
当時、Courtney は “Garden State” のサウンドトラックのような “ダサいヒップスターやインディーの曲” を聴いていましたが、弟は彼女をメタルの世界に引き込もうとしていました。最初に影響を受けたのは RAGE AGAINST THE MACHINE。
「ある日、弟が作曲した曲の中にブレイクダウンが入っていて、私は “これはどうすればいいの?” って聞いたのよ。すると弟は、”RATM のように叫べばいいんだよ” って。そこではじめて、ライオンが吼えたのです。
「この感覚に匹敵するものはないわね。頭蓋骨全体に振動が伝わるの。とてもパワフルな感じがするわ。音から性別を取り除くような感覚」
彼女はその性別を感じさせないサウンドを練習し続け、小さな町で披露するようになりました。それが、彼女の残りの人生だけでなく、最愛の人へと導く道となりました。
Courtney はその同じカナダの小さな田舎町で育った、後に夫となる SPIRITBOX の共同設立者と出会った瞬間を、今でも鮮明に覚えています。Michael は彼女の弟と同い年でしたが、早熟な楽器の才能を発揮する Michael を二人は畏敬の念を持って見守っていました。
若きギタリストだった Michael は、PROTEST THE HERO や A TEXTBOOK TRAGEDY といったカナダのプログメタル・バンドに夢中になっていました。後者は、BAPTISTS, SUMAC, GENGHIS TORN のドラマー Nick Yacyshyn を擁する、バンクーバーを拠点とする狂乱のバンドでした。Michael の最初のバンドである FALL IN ARCHAEA は、そういったグループの頭が回転するようなポリリズムの足跡を忠実に再現しています。
「2008年6月のことだったわ。彼のバンドと私のバンドが、同じアナーキストの本屋で演奏していたの。弟にあなたが彼の年齢になったときには、彼のように上手になれるわよと言い聞かせていたのだけど、Michael もまだ16歳だったのよね。彼はいつも目立っていたわ」
Courtney と Michael は、先鋭的な書店や小さな町の会場を同じように回っていましたが、それぞれが23歳と22歳になるまで、お互いの人生に大きく関わることはありませんでした。しかし、そんな友人関係は徐々に変わっていきます。
「ある時点で、私は彼を愛しているのではなく、彼に恋をしているのだと気づいたの。Michael も同じことを感じていたようね」
二人の関係は恋愛と仕事で共に、すぐに切り離せないものとなり、一緒にいない時間が苦痛に感じるようになりました。お互いが今ではすべてをさらけ出しています。
「私たちは互いのすべてを知っているわ。24時間365日一緒に過ごすことは、普通のことではないのよね。私たちの関係の境界線は非常に曖昧なのだけれど、一緒にバンドをやっていることで、お互いにもっと正直になれたのよね」
上昇志向の強いスーパー・カップルは、生活のほぼすべての面で絡み合っています。毎朝共に起きて、同じヘルス・データ入力の仕事に行き、同じ時間働いた後、家に帰ってきてバンドのために共同作業を行うのですから。
2016年に Courtney と Michael が結婚したとき、結婚式の招待客は新しいトースターを贈るかわりに、2017年にリリースされたデビューEPのミキシングとマスタリングの費用をまかなうために、2人に数ドルを提供するように求められました。現在の Courtney は、Michael と彼女が共有していた駆け出しのバンドに対する信念を、単にナイーブなだけではなく “妄想” とまでに表現しています。
「私は、バンドには2種類の人がいると思っているの。IWABO の最後の頃の私のように、気晴らしとして利用している人。そして、今の私たちのように、”どうしてもこのバンドをやらなければならない、誰にも止められない”という人たちね。私たちのように、バンドに所属していることが、すべての邪魔をする強迫観念となっている人もたくさんいるのよ」
ただし、そういった二人の “妄想” は、実を結んだと言ってもよいでしょう。ベーシストの Bill Crook が加入して完成をみた SPIRITBOX は、見過ごされていた過去とは一変して、今では世界中のロックやメタルのファン、マネージャー、プロモーター、レーベル、ジャーナリストが口にする名前となっています。4年前には”夫婦バンド” だからと一蹴された音楽が、今では7500万回もストリーミングで聴かれているのですから。
そうして届けられた “Eternal Blue” は2021年で最も完成度が高く、魅力的なヘヴィー・アルバムの一つとなりました。世界は、まさに彼らのもの。しかし、”Eternal Blue” の旅路を理解するには、まず Courtney LaPlante を理解する必要があります。
Courtney は、その曲が存在する何年も前から “Eternal Blue” という名前を見つけていました。もっと言えば、彼女は人生の中でずっとこのタイトルを見つけていたのです。
つまり “永遠の青” とは、自分の人生が “うつに悩まされてきた” という Courtney の告白。
「バンクーバー島が存在することさえ知らなかった。何?島なの?私をバカにしているの?私は18歳になったらすぐにここを出て、アラバマに戻るわよと言っていたの。でも叔父は、今はまだ理解できないだろうが、信じてくれ、お前はとても保護された場所で育ってきたが、これからは多くの新しい経験や人々に触れることになる。ここに戻ってくることはないだろう。君はそこを好きになるだろうってね。そして最終的に彼は正しかったわ」
アメリカ南部のアラバマ州で生まれ育った Courtney は、15歳のとき両親の離婚と母親の再婚を機に、北へ2,000マイル離れたカナダ西海岸のバンクーバー島、ビクトリアに引っ越しました。6人兄弟の長女である彼女はその時、”自分の人生のすべてを捨てた” と言います。新しい町の新しい学校で、彼女は居場所と友人を見つけるのに苦労しました。
「当時、私はうつ病というものがどういうものか知らなかったし、物事はそういうものだと思っていたから……私はよく助けを求めて泣いていたけど、周りの人たちがあまりにも多くのことを経験していて忙しかったから、助けてもらえなかったのでしょう。私は人を操るのがうまいので、何もしなくてもいいように、隙間をすり抜けていたの。私が今もここにいるのはとても幸運なことよ。10代の脳は、完全に発達した大人の脳とは大きく異なるのだから」
Michael がパートナーの感情の起伏、つまり “ベッドから起き上がれないほどの自信喪失と不安” が3日間続くことについて、穏やかに話し始めたのは、ちょうど2年前のことでした。Michael は Courtney に “この状況を何とかしなければならない。君はこんな思いをしなくてもいいんだよ” と告げます。
「私が普通ではないこと、それが私に何か問題があるのではなく、私という人間の一部なのだということを理解するには、彼が必要だったのよ。私は他の人と違うけど、それは欠陥のある人間だということではないのよね」
“Eternal Blue” は、今年の初めにカリフォルニア州のジョシュアツリーでレコーディングされましたが、曲作りの多くはこの暗い時期に行われており、結果的にその旅路の傷跡が12曲の中に生々しく残っています。”Eternal Blue” というタイトルは、この12の音楽のコレクションと同様に、Courtney の物語を内包した言葉なのです。
「ヘヴィーな音楽は、自分自身がそういった感情と結びつくための最良の方法のひとつで、それによって、たとえ2、3のステップが必要であっても、乗り越えることができるの。”Eternal Blue” は純粋な利己主義的作品よ。なぜなら、私にとってこの音楽は、私が常に抱いている多くの感情や攻撃性、本当に暗くて私に侵入してくる考えから前に進むため必要なものだから。でもね、私のうつに対する対処法がたまたま市場性のあるものであったことは幸運だったのよ」
歌の中では、彼女のそんな考えが物理的な形で表現され、心の闇を具現化するキャラクターが登場していきます。
「私はイメージやメタファーの後ろに隠れるのが好きなの。それは私が安心できる場所、隠れている場所、そして誰も私を傷つけることができない場所だから」
例えば “Holy Roller” は、2019年のホラー映画 “Midsommar” を彷彿とさせるビデオをになり、昨年、SPIRITBOX を広く世に知らしめました。9歳の少女 Harper がこの曲をカバーしたバイラルビデオが瞬く間に広がり、Courtney の元にまで届いた事実はその証明で、彼女は今でもビデオを見るたび目に涙を溜めます。少なくとも、この9歳の少女は、Courtney の猛烈な音域を正確に捉え、彼女の2倍の体格と長年の経験を持つボーカリストのようなパワーを発揮していました。歌詞の内容まで深く理解しているかはわかりませんが。
「この歌詞は、私が私の中の悪魔として話しているのよ 。それは私の憂鬱であり、私を堕落させようとする悪であり、私を全然良くないからって暗闇に誘惑している声なのよ。私は無宗教だけど教会で育ったから、今でも聖書に書かれているサタンの擬人化の仕方が、いつも心に残っているの。悪魔はモンスターではなく、あなたにささやきかけてくる、最悪の事態を引き起こす人間なの」
Courtney は “Circle With Me” を例に挙げます。
「この曲では、自分自身のことを書いていることもあれば、潜在意識や、目標を阻む憂鬱な気持ちを代弁していることもあるの。自分がまだ十分ではないと言っているの。私の悪魔が私に言っているのよ。あなたが自分らしくあることを妥協すれば、すべてがあなたのものになる… ってね」
これらの声は、Courtney 自身のボーカル・パフォーマンスにも反映されています。クリーンからスクリームへの移行を、Courtney LaPlante のように巧みに、深く、激しくこなすフロントマンはほとんどいないでしょう。それは、バンドが自身の YouTube チャンネルで公開している、スタジオ内のボーカル・ブースでのワンテイク・パフォーマンスのビデオが証明しています。(バンドのシングル “Rule Of Nines” のリリースに合わせて公開されたこのビデオは、これまでに210万回再生され、同じ曲の公式ミュージックビデオよりも人気があるのですから。
Courtney は長年にわたって声帯に深刻な損傷を受け、声域が制限されていましたが、ポリープが奇跡的に消えたことで回復しました。だからこそ、”Eternal Blue” を32歳にしてようやく “自分の本当の声” を実現できた作品だと考えているのです。
天使と悪魔が、コートニーの左右の肩に座っているようにも思える彼女の歌声。表面的には明確なその二面性も、しかし彼女にとっては地続きです。
「私にとって、叫び声と歌声は同じ感情から来ているの。叫ぶことは体に負担がかかるけど、技術的なことはそれほど必要ないわ。私は自分のパフォーマンスに没頭するのが好きで、スクリームは催眠状態のようなもの。でも、歌声はもっと壊れやすいから、考えすぎないようにするのは難しいわね」
そうしてこの対照的な手法は、”Eternal Blue” 全体に、不安定さと脆弱さの感覚を生み出す役割を果たしています。特に後者は、コートニーにとって有益な感情であり、ヘヴィー・ミュージックにはまだまだ大きく欠けているものだと彼女は感じています。
「ヘヴィー・ミュージックはやっぱりまだまだ男性優位の世界だから、男は怒りや強さ以外の特徴を見せてはいけないと教えられているの。誰もが普遍的に弱さを感じることがあるけれど、多くの男性にとって、それを曲の中で表現することを快く思うサポートを得るのはとても難しいことなのよ。
特に、概して “克服” や “立ち上がること”、”戦い” がメッセージになるような攻撃的なタイプの音楽では、そういった状況に陥りやすいわ。だけど、ヘヴィー・ミュージックには周期性があって、その中は弱さが浮かび上がってくることもあるのよ?」
Courtney は、その証拠として “弱さ” を内包していた Nu-metal やエモのムーブメントを挙げ、これらのシーンが、他のサブ・ジャンルでは “ロック” から離れていたかもしれないファンにとって、音楽的なゲートウェイとなったと信じています。同時に彼女は今日、人々がヘヴィー・ミュージックを発見する道は、かつてないほど広く、アクセスしやすくなっていると付け加えました。これは重要なことだと Courtney は感じています。彼女自身の経験がそれを裏打ちしているからです。
「私はこの業界で成功しようと大人になってからずっと過ごしてきたんだけど、一つの定型化した音楽のジャンルにこれほど情熱を傾けるのはとても奇妙なことよね。でも、LOATHE や CODE ORANGE, SLEEP TOKEN のようなバンドが現れたり、ISSUES や BMTH のようなもう少し洗練されたバンドが現れたりすると、また違った感じでとても新鮮なのよ。メタルにおける “ゲート・キーピング” のような旧態依然とした考え方は、古臭くて何か癪に障るのよね。一つのスタイルのメタルしか好きになることができない人たちのようなね。
メタルというジャンルの好きなところの一つは、結局のところ、とても進歩的だということなの。新しい経験に対してオープンであること。奔放で、新しいサウンドを探求したり、ジャンルを試したりすることに寛容なのよ。でも一方では、新しい音楽やアイデアを理解したり受け入れたりすることを全く拒否し、チャンスを与えようともしない閉鎖的な考え方も非常に多いのよね。と言うよりも、多くの点で、メタルというジャンルの “古い” 印象は、境界線を押し広げて新しいことに挑戦している BMTH や ARCHITECTS のような新しいバンドに置き去りにされているからかもしれないわね。
これらのバンドは自分たちに忠実であると同時に、未知の世界へと足を踏み出しながら、昔々、私たちが “クラシック・メタル” と考えていたことをやっているんだけど、結果は違っているのよね。メタルというジャンルにとって、今は別の時代であり、好むと好まざるとにかかわらず、時は進むのよ。だから私たちはそれに合わせて進まなければならないと思うわ」
もちろん、パラダイムが世代によって変わることは、音楽、文学、ファッション、大衆文化などでは当たり前のこと。ヘヴィー・ミュージックは、今後もシフトし続け、劇的に変化していのでしょうか?
「そう思うわ。例えば、私はミレニアル世代だけど今、自分よりも若い世代を見てみると、ジェネレーションZの人たちが見えてくるの。彼らにとっての “ロックスター” のイメージは、現在はヒップホップの世界から来ているのよ。そこでは今、実験的で奇妙なカウンター・カルチャーが起こっていて、彼らは主流のポピュラー・カルチャーと心を通わせようとしているの。私の世代の親は METALLICA に夢中だったけど、今の若い世代はR&Bやヒップホップのアーティストに注目しているわ。
私は、オルタナティブ音楽のジャンルは、これらのアーティストを参考にして、彼らが現在の状況にどのように適応しているか、また、自分の音楽や全体的な影響力をどのように世界に発信し、マーケティングしているかを知ることで、利益を得ることができると考えているのよ。だから私はそういったアーティストから多くのことを学び、インスピレーションを得ているわ。彼ら(ヒップホップ・アーティスト)は、基本的に自分のやりたいように物事を進めていくことで自分の帝国を築き、現代の変化し続ける世界に道筋を作ってきたの」
SNS も現代では成功のための欠かせない要素だと思われています。
「私たちは、Facebook の数字そのものから離れていっていると思うわ。私は、それが音楽と同じくらい重要だった時代を覚えているの。数年前までは、バンドの公式ページにどれだけ多くの人が “いいね!” を押しているかが気になるのが当たり前で、”いいね!” を買っている人もいるくらいでね。
例えば、あるメタルコアバンドの Facebook ページにアクセスすると、ここ10年くらい続いているバンドの場合、Facebook の “いいね!” が15万件もあるのに、何かを投稿すると “いいね!” が6件くらいしかつかないことがあるわ。明らかに何かが間違っている。特定の方法で数字をごまかすことはとても簡単なのよ。幸いなことに、人々はそのような傾向から脱却しつつあり、特にレーベルは、最終的にはそれがとても重要ではないということに気付いているわ。
SPIRITBOX は、ソーシャルメディアの数はたいしたことはないけれど、エンゲージメントには素晴らしいものがあるのよ。私は、オンラインでのエンゲージメントは、音楽への入り口のようなものだと考えていてね。それがある人にとって興味深いものであれば、その人が音楽をチェックする可能性は非常に高くなるのだから。
でも、最近の人々は、まず音楽を聴いて、それからソーシャルメディアの美学をチェックする傾向にあると思いうわ。私が所属していたバンド (IWABO) は、50万以上の “いいね!” を獲得していたけど、ライブになると12人しか来なかった(笑)。つまり、私が言いたいのは、ソーシャルメディアは今日の業界のすべてではないということなのよね」
10代後半に弟を介してヘヴィー・ミュージックに出会った彼女は、幅広い趣味を持つ音楽ファンとして、ヒップホップや R&B、ポップスの世界でソング・ライティングのお手本を挙げる傾向が多いのですが、彼らのやり方はヘヴィー・ミュージックのそれとは相反すると感じています。
「ヘヴィー・ミュージックでは、ボーカリストが、曲の後ろを走ってついて行こうとしているように感じることがよくあるわ。他の多くのジャンルでは、楽曲はボーカリストをサポートするためにあるのであって、その逆ではないのよね。だけど、重要なのは、方法ではなく、何が語られているかということでしょ?
最近の若い世代は、とても勇敢だと思うわ。臆することなく自分自身を表現し、ヘヴィー・ミュージックの文脈の中で自分が何者であるかを探求しているわ。ヘヴィー・ミュージックの世界に入ってきている多様な声、人生の様々な場面で得たユニークな経験を表現することに前向きな声は、ヘヴィー・ミュージックをエキサイティングなものにするだけでなく、このジャンルが必要としているものでもあるのよね」
そもそも “ヘヴィー” とはいったい何でしょうか? “Eternal Blue” の最も重大な成果は、基本的なこの言葉の定義にとらわれることを拒否していることでしょう。確かにこのアルバムは、バンドのルーツであるポスト・メタルコアから生まれたもの。THE ACACIA STRAIN や ARCHITECTS(ボーカルの Sam Carter は、激しい “Yellowjacket” にゲスト参加している)などが、このアルバムの最もヘヴィーな瞬間に使われているトーンやチューニングに対して影響を与えているのは明らかです。テクニカルなリフ、挑戦的なリフ、そしてブレイクダウンも豊富。
しかしそれだけでなく、”Eternal Blue” は、異なる次元と色を持つレコードです。ジャンルの慣習は少なくとも参考にはなりますが、制限にはなるべきではないでしょう。ジョシュアツリーの20エーカーの孤立した土地で “Eternal Blue” をレコーディングしたことも一つの “掟破り” であり、この砂漠の環境がアルバムに幽霊のような雰囲気を与えています。Michael が説明します。
「パンデミックもあって、人里離れた場所での作業を希望していたんだ。そして、カリフォルニアの砂漠の真ん中にその場所を見つけたんだよ。外に出ても何も聞こえない、純粋な静けさだったね。まるで防音室の中にいるようだった。遠くに車が見えるくらいで、それだけさ。そんな生活を30日間続けたことで、このレコードは奇妙な雰囲気を醸し出していると思う」
同時にMichael は SPIRITBOX を立ち上げるにあたって、その作曲法を大きく転換させました。
「俺の最初のバンドは、とてもテクニカルで不協和音を多用していた。Iwrestledabearonce は、それ以上だったな。だから、これまでの俺は、どれだけ速く演奏できるか、どれだけ極端に楽器を演奏できるかといった、衝撃性に夢中だった。でも、SPIRITBOX を始めた頃は、同じような姿勢で、どれだけキャッチーなものを作れるだろうかという感じになっていたね」
Courtney は、”Michael から流れ出る” ギターワークを、”非常にアグレッシブだけど、悲しさもある” と表現しています。彼女は “sorrowful” や “mournful” という言葉を使って、彼のギターを人の声が聞こえてくるようなサウンドスケープを表現しました。Courtney の耳にとってそれは、まるで誰かが泣いている音のように聞こえてくるのです。
「私はいつも、衝撃的なテクニックよりもアトモスフィアに惹かれてきたの。テクニカルな音楽は、演奏しているときはとても楽しいのだけど、感動を時間が経っても持続させる力がないのよね。私の心に響くヘヴィネスの好例は、DEFTONES のようなバンド。ヘヴィネスとは、私にとっては圧縮感なの。ヘヴィーとは、あなたの心を重たくして、萎縮させるもの。自由になって叫ぶことができるような解放感ではなく、それこそがヘヴィーの定義なの」
ゆえに、彼女は友人と喧嘩した後に世界から閉ざされた気分になることを歌ったアルバムのタイトル・トラックを、アルバムの中で最も好きな曲であるだけでなく、アルバムを決定的にする瞬間であると指摘します。EVANESCENCE の影響を受けたオープニングの”Sun Killer” や、アルバムを締めくくる “Constance” では、メロディーの感情的な響きが、アルバムの中で最も激しい3分間 “Silk In The Strings” に匹敵する “重さ” を生み出しています。また、前述のCircle With Meでは、コートニーが “When birds of prey invade my thoughts, they promise I will feel the pain” と優しく歌うと、楽曲最後のノイズのクレッシェンドと同じくらいの衝撃が走ります。
「この音楽はとてもこころを動かすものよ。だから、私と一緒に完全に感情移入してもらいたいの」
このような色とりどりのスタイルは、感情の不安定で変化し続ける形を伝えたいという想いと、SPIRITBOX 独自の流動的で柔軟なサウンドを作りたいという二つの想いから生まれたものでした。 結局、”Eternal Blue” は、簡単に分類できるようなレコードではありませんが、それが重要なポイントなのです。感情や人間は、単純に一つのもので成り立っているわけではないのですから。
「ロックやメタルのリスナーとして、私たちはすべてのボリュームが常に “11” に上げられていることを期待するような耳を鍛えてきたのよね…」
Courtney は、この言葉がメタル界の鼻持ちならない人たちの眉間にしわを寄せるかもしれないことを知っています。そのような人たちに対して、あるいは誰に対しても、彼女は “Eternal Blue” への期待値や SPIRITBOX のサウンドが次にどこに向かうかについて、何の約束もしません。忘れてはならないのは、このバンドはまだ自分たちの足場を見つけたばかりであり、1年前でさえ、このようなスポットライトの下で期待を浴びいるとは思ってさえいなかったということ。
例えば、ライブが復活したら “Eternal Blue” の世界はどうなるのでしょうか?これまでにわずか15回のライブしか行っていないバンドにとって、それを考慮することがいかに難しいかを表現しながら、それは独特の、そして間違いなく歓迎されるべきプレッシャーであると Courtney は認めています。だからこそ、今 Courtney LaPlante は、最も落ち込んでいた2年前の、”Eternal Blue” を書いたときの自分とは少し距離があると感じているのです。
「これからの数年間は、時間に追われている Courtney ではなく、ミュージシャンとしての Courtney という本来の自分を取り戻すことができるでしょうね」
ただし、形は違えど、根っこにある感情は変わりません。
「今は、他の新しい不安を抱えているわ。私は失敗するのかしら?このアルバムは私の夢を叶えてくれるのかしら?それとも世界の笑いものになってしまうのかしら?でも、”Eternal Blue” の曲はすべて、今の私の心に一層響いているのよ。このアルバムの中で最も古い曲は、なりたい自分になれないもどかしさを歌ったものだから」
そして今、そのチャンスを手に入れたのでしょうか?
「今、私は自分の物語の中で自虐的な敵役になれるかもしれないわね。私は警戒心を捨てて、自分が必死であることに気づいているの。そう、私はこのバンドに必死なのよ」
Courtney は最近、Billie Eilish の “Same Interview” のビデオを見ました。その中でポップスターは、前回のインタビューからちょうど365日後にまったく同じ質問に答え、自分の人生の変化を振り返っています。2020年10月18日版では、それも4年目を迎えました。
「私たちは彼女が一人の女性として成長し、昔の自分を笑うのを見ているのよ。でも、彼女が言っていたことの中で、とても心に響いたのは、大スターになった今、誰かと話をしていると、自分ではないような、Billie Eilish の役を演じている自分を見ているような、そんな体外離脱の体験をすることがあるということね。そして、それはとても悲しいことなのよ。でも、私が自己認識を持ち続け、自分が説くことを実践し、自分の音楽の中で弱さを保つことができれば、私たちは大丈夫だと思うのよ」
参考文献:KERRANG!:Believe The Hype: Spiritbox are the hottest band in the world
REVOLVER:10 THINGS WE LEARNED FROM OUR SPIRITBOX
SPIRITBOX:SPIRITBOX: RISING CANUCK METAL TRIO IS A TRUE LABOR OF LOVE
OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – SPIRITBOX