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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WATCHTOWER : CONCEPTS OF MATH: BOOK ONE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RON JARZOMBEK OF WATCHTOWER !!

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Finally, Legendary Prog/Math Metal Titan, WATCHTOWER Returns For The First Time In 27 Years With Amazing New EP “Concepts of Math: Book One” !!

DISC REVIEW “CONCEPTS OF MATH: BOOK ONE”

メタルに数学的要素を取り込んだ、インテレクチュアルな Math-Metal のパイオニア、WATCHTOWER が何と27年ぶりに新作 EP “Concepts of Math: Book One” をリリースしました!!バンドが1990年から制作を続けている3rdアルバム “Mathematics” から5曲を収録し、EPとした作品は、Ron がインタビューでも語っているように、確かに完成品ではありません。しかし長く長く待たせたファンを満足、歓喜させるだけの高いクオリティー、彼らならではのオリジナリティを充分に備えている作品です。
メタルが初めて音楽的な拡散を経験した80年代後期、WATCHTOWER は FATES WARNING, DREAM THEATER, DEATH, CYNIC などと共に Heavy Metal という音楽のフレキシブルな部分にフォーカスし、その豊かな可能性を実証して見せました。脈々と受け継がれる Prog-Metal の源流はここにあります。
中でも WATCHTOWER は、勇壮、過激、ヘヴィー、メロディアスといったエモーションの領域よりも、数学的な考え方でメタルにアプローチを行った革新的な集団なのです。
インタビューにもあるように、”音楽”は一般的には感情的な領域で語られることが多いと思いますが、音の配列、選択、拍子、速度、リズムなど実は”数”と数学が大部分を占めるアートです。勿論、そこに加わるプラスαがリスナーを動かすことも事実ですが、例えば偉大な TOOL や MASTODON を “Math-Metal” と呼ぶならば、数学性を突き詰めた WATCHTOWER は現代の重要バンドたちの始祖的存在であるとも言えるでしょう。そしてそれは、当然 MESHUGGAH から連なる Djent ムーブメントにも通じます。
長い年月を超えて遂にリリースされた “Concepts of Math: Book One” には、タイトルにもあるように、勿論その複雑さ、数学性を維持しながらも、よりタイトで、ほんの少しの聴きやすさと多彩なフックが加味された出色の楽曲が並びます。あの狂気のエナジーはそのままに、成熟したバンドの現在を表しているようにも感じます。少なくとも過去作の、聴き手を頭ごなしに拒むかのような無慈悲な感触はありませんね。
アルバムオープナー “M Theory Overture” ではまさに WATCHTOWER の真髄を聴くことが出来ます。バンドのコアメンバー、Ron Jarzombek, Doug Keyser, Rick Colaluca のトリオが繰り出す Instru-metal は圧巻の一言。SPASTIC INK や BLOTTED SCIENCE でも披露している、Ron 独特のリードともリフともつかないような複雑怪奇で無機質とも言えるギターワークは、2ndアルバムからの参加とは言えやはりバンドの顔ですね。
そのピッキングの正確性、選択する音の意外性、奇抜なタイム感、そして独特のギターハーモニーはまさに唯一無二で、あの DREAM THEATER の John Petrucci や Mike Portnoy が強く敬愛し、CYNIC の Sean Malone やマーティーさんに必要とされたのも頷けます。
インタビューで Ron はその豊富なアイデアについて”音楽とは関係のない”数字やパターンから得ることを明かしていますが、話に上がった以外にも、既存のアニメにあわせて楽曲を作ってみたり、モデム回線の音を再現してみたりと、常人には計り知れないような挑戦を行ってきており、現代の Frank Zappa と言えるかもしれませんね。
“Arguments Against Design” でもその特異な Ron のギタープレイに対する、ベーシスト Doug の印象的なカウンターメロディー、シンコペーションの嵐にも顔色1つ変えず、真っ向から弦楽器隊に挑む正確無比な Rick のドラムスと三位一体でインテレクチュアルなダイナミズムが生まれていますが、インストとしても充分に成立するように思えるスリリングな楽曲に謎のボーカルを加えるのが WATCHTOWER’S WAY。
いかにも Shrapnel のレコードで10万円くらいで雇われて歌っていそうな Alan Tecchio のボーカルには正直あまり期待はしていませんでしたが、以前よりは確実に上手くなっていますし、キャッチーでフックのあるメロディーも散見出来ますし、意外に引き出しも多く、何よりほぼ絶滅してしまったグロウルもハイトーンも使用しない彼のようなパワーボーカルが1周回って新しく感じられ、さらにあのインテレクチュアルトリオの演奏に対するミスマッチ具合が2周回って新しく感じられ、悪くないようにも思えました。本当に新鮮で悪くないです。本当です。
とにかく、極限までプログレッシブな10分の大曲 “Mathematica Calculis” で幕を閉じるまで、とても30分足らずのランニングタイムとは思えないほど濃厚でエキサイティングな数学の授業は続きます。
今回弊誌では Ron Jarzombek にインタビューを行うことが出来ました。SPASTIC INK で共演も果たした兄 Bobby Jarzombek は RIOT や FATES WARNING で活躍する名手。さらに BLOTTED SCIENCE ではこちらもシーンの有名人 CANNIBAL CORPSE の奇才 Alex Webstar とも共演しています。ここまで Ron に迫ったインタビューは世界初だと自負しています。どうぞ!!

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WATCHTOWER “CONCEPT OF MATH: BOOK ONE” : 9.0/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INSOMNIUM : WINTER’S GATE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIILO SEVANEN OF INSOMNIUM !!

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One Of The Greatest Scandinavian Metal Outfit, INSOMNIUM Has Just Released Ambitious New Epic “Winter’s Gate” !! The Best Metal Album of The Year Is Here !

DISC REVIEW “WINTER’S GATE”

フィンランドが誇る Melodic Death Metal の牽引者、INSOMNIUM がシーンのマイルストーンとなるような傑作 “Winter’s Gate” をリリースしました!!Scandinavian Metal の結晶、究極形とも言えるアルバムは、間違いなく世界中のメタルファンの心を動かし、長く愛される作品となるでしょう。
インタビューにもあるように、”Winter’s Gate” はバンドのフロントマン Niilo Sevanen が10年ほど前に書き上げ、フィンランドの短編小説コンテストで受賞まで果たした “Talven Portti” 英語で “Winter’s Gate” という物語を基としたレコードです。1曲42分のエピックのみを収録するという挑戦的な作品は、見事にその音楽も Niilo が創造したヴァイキングのファンタジーに寄り添っているのです。
INSOMNIUM は決して Melodic Death Metal のオリジネーターという訳ではありません。しかしながら、IN FLAMES, DARK TRANQUILLITY といったパイオニアが、こぞって異なる地平を目指す中、彼らはしっかりと地に足をつけかけがえのない伝統と叙情性を継承しつつ、自らの色であるインテリジェンスやアトモスフィアをバランス良く作品に持ち込み、ファンの信頼を得て来たと言えるでしょう。
そして彼らが今回提示したのは、Melodic Death Metal から Scandinavian Metal へとその領域を広げる野心的な試みでした。インタビューで Niilo はアルバムを “Cold and Dark” と表現し、Doom Metal や Black Metal への接近を明言してくれました。勿論、これまでの作品にも、EMPEROR の凍てつくようなトレモロリフや、OPETH の知的で美麗なプログセンスを想起させる場面は存在した訳ですが、”Winter’s Gate” ではより明確に奥深く幅広く、スカンジナビアの血をアピールしているような気がします。
“Winter’s Gate” を紐解く時に、EDGE OF SANITY について言及しない訳にはいかないでしょう。インタビューで Niilo が語ってくれた通り、EDGE OF SANITY のこちらも1曲40分の大作 “Crimson” が彼らをインスパイアしたことは、”Winter’s Gate” のミキシング&マスタリングを EoS の首謀者 Dan Swano が手がけていることからも明らかです。
“Crimson” はしばしば問題作と言われるように、確かに名作 “Purgatory Afterglow” などと比較すると、即効性は薄いかもしれません。しかしながら、多様性に富んでいて、プログレッシブで、静と動のコントラストも見事。むしろ、その多様性が評価される現代だからこそ見つめ直すべき作品かもしれませんし、そこに目をつけた INSOMNIUM もさすがだと思います。
実際、”Winter’s Gate” は彼らのアルバムでも最もエクレクティックで、静と動、重と美、ファストとスロウ、つまりは様々なコントラストが際立った作品に仕上がったのです。
また、壮大な大曲、エピックという観点、Doom への接近という意味では同郷の SWALLOW THE SUN もアルバムのキーとなる存在でしょう。事実、”Winter’s Gate” のキーボードパートは StS の Aleksi Munter がアレンジを行っています。彼らの持つダークでメランコリック、そして美麗な Doom Metal という特徴的な音像は間違いなく作品に注入されていますし、勿論 StS の最新作 “Songs From The North I, II & III” が3枚組の超大作だったことを忘れてはいけませんね。
ストーリー、スカンジナビア、多様性、プログレッシブ、そして “Cold and Dark” というコンセプトの軸が固まった “Winter’s Gate” にとって、ギターチームの貢献は非常に重要でした。メインソングライターである Ville Friman はさらにプログレッシブでより美しいアトモスフィアという命題をこなすばかりではなく、その澄み切ったクリーンボイスでアルバムに彩を加えていますし、前作から加入した Markus Vanhala が “Shadows of the Dying Sun” で発揮し切れなかった創造性を遺憾無く注ぎ込んでいる点にも注目するべきでしょう。自身のバンド OMNIUM GATHERUM では勿論メインソングライターである彼のメロディアスなフレージング、より Black Metal 的なリフワーク、ANATHEMA を想起させる荘厳にレイヤーされたサウンドは間違いなく INSOMNIUM の新しい武器となっていますね。
特筆すべきは、これまで少し数学的、機械的すぎたきらいもあったギターリフが人間味とエモーションに溢れていること。生ピアノやアコースティックギターの効果的な使用も相まって、Niilo の時に勇壮で、時に叙情的で、時には囁くようなデスボイスの表現力がより際立っているのです。
様々なバンドの名を挙げましたが、実際、北欧、スカンジナビアンメタルの宝石箱のような作品だと思います。それは勿論、彼らならではの知性と構成力があってこそ。ぜひ今年ベストとも思えるメタルレコードをチェックしてみてくださいね!
今回弊誌では、バンドのフロントマン、ボーカル/ベースを担当する Niilo Sevanen にインタビューを行うことが出来ました。バンド以外の経歴も華々しいインテリ集団の頭領。どうぞ!!

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INSOMNIUM “WINTER’S GATE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DESTRAGE : A MEANS TO NO END】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAOLO COLAVOLPE OF DESTRAGE !!

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Bandiera Di Tech-Metal From Italy, Destrage Has Just Released Genre-Breaking, Sensible, Matured New Record “A Means to No End” !!

DISC REVIEW “A MEANS TO NO END”

イタリアが誇る Bandiera di Tech-Metal、DESTRAGE が新作 “A Means to No End” をリリースしました!!非常にクリエイティブで、ジャンルの境界を押し広げるようなゲームチェンジングなレコードは、”Math-Core” などという狭義のタームをやすやすと飛び越え、シーンに大きな衝撃を与えることでしょう。
前作 “Are You Kidding Me? No.” は、バンドの全てを注ぎ込み、無慈悲なまでのエナジーと、独特のセンスが見事に調和した、まさに新世代 Tech-Metal の旗手としての地位を確立したレコードでした。もし、”Are You Kidding Me? No” が DESTRAGE を体現したアルバムだとするならば、新作 “A Means to No End” はバンド史上最も野心的な作品と言えるでしょう。
インタビューで Paolo は「今回は曲を書きたかったんだよ。花火のようなものじゃなくてね。サーカスの日々は終わりさ。」 と述べています。勿論、これまでも楽曲は多く残してきた訳ですが、彼が意味するところは、思慮深く、成熟した、ギミックなしの、オーガニックでナチュラルな”曲”にフォーカスしたかったということでしょう。
具体的には、DESTRAGE の代名詞とも言える、カオティックなパートや、スラッシーなボーカル、アンセミックなコーラスは後退。ボーカル Paolo はそのダイナミックなレンジを生かして、よりシリアスで内省的な怒りと優しさを歌に込めています。溢れ出る、反逆的な情念と慈愛に満ちた情愛が実にリアルで、表現力の高まりを感じますね。インストゥルメンタルパートでもその変化は明らかで、よりシンプルかつオーガニック。空間、音の隙間を増やし、洗練されたサウンドへと進化を遂げています。リフがしっかりと整理されたことで、さらに印象的かつスリリングになった気がしますね。
勿論、楽曲にはヘヴィーなパートも用意されていますが、そのダークなエナジー、1音の重みは以前とは異質で、ほぼ必ず”対”となるようなプログレッシブ、アトモスフェリックなパートが存在するため、その対比がアルバムに新たな深みを加えています。
アルバムオープナー、タイトルトラックの “A Means to No End” はバンドの変化を伝える”手段”なのかも知れません。アコースティック楽器と、哀愁すら感じさせる深みのあるボーカルで構築されたワルツは、フォーク/トラッドの影響すら感じさせる穏やかで美しい楽曲。
続く “Don’t Stare at the Edge” がアルバムでも最も DESTRAGE らしいアグレッシブで直情的なヘヴィーアンセムであるため、より鮮明に彼らのチャレンジが際立ちます。「崖を眺めるな。崖の下を見渡せ」。冒険のない人生なんてつまらないというメッセージは、冒険を行った彼らだからこそ伝わるメッセージかもしれませんね。
“Symphony of the Ego” はバンドの新たな代表曲となるはずです。テクニカルかつキャッチーなタッピングで幕を開け、得意のタイムチェンジとポリリズミックなリフでしっかりと自らの出自を示しながら、スーパーキャッチーで噛み付くようなシンガロングパートでキッズのハートを掴みます。前半部分では、PROTEST THE HERO を想起するファンも多いでしょう。一転、楽曲の後半は、Post-Rock さえイメージさせるような穏やかで優美な時間が訪れます。何という作曲術、対比の妙でしょう!!”Ending to a Means” に至っては PINK FLOYD にも通じるようなセンスを見せつけているのですから恐れ入ります。
アルバムを締めくくる “A Promise, a Debt” から7分のエピック “Abondon to Randam” への流れもバンドの成熟を伝えます。またしてもフォーキッシュで美しいワルツから、バンド史上最もプログレッシブな楽曲への流れは圧巻で、内省的な狂気と安寧を孕んで作品を締めくくります。今作では、アルバムを通して、PANTERA, KORN を思わせる90年代を彩った印象的なリフワークが効果的に使用されていることも付け加えておきましょう。
今回弊誌では、2度目の登場となる Paolo Colavolpe にインタビューを行うことが出来ました!!12/3、12/4には Realising Media の招聘で、3度目の来日、DispersE との共演が決定しています。弊誌に Paolo が “Destrage VS Marunouchi Muzik Magazine” と宣言してきただけのことはある非常に観念的な回答の数々。どうぞ!!

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DESTRAGE “A MEANS TO NO END” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FATES WARNING : THEORIES OF FLIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RAY ALDER OF FATES WARNING !!

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The Pioneer Of Prog-Metal, Fates Warning Returns With Modern & Emotional New Records “Theories Of Flight !!

DISC REVIEW “THEORIES OF FLIGHT”

Prog-Metal のパイオニアとして歴史に名を刻む、US 出身の4人組 FATES WARNING が新たな名作 “Theories of Flight” をリリースしました!!1986年に “Awaken The Guardian” でジャンルを確立して以降、常に進化を続けてきたバンドの凄みがここにはあります。
2004年からしばしの休息の後、前作 “Darkness in a Different Light” で強靭な新ラインナップと共に素晴らしい帰還を遂げた FATES WARNING。”Theories of Flight” でも “Darkness” で提示した、経験とモダンの融合は見事に生きています。インタビューにもあるように、Jens Bogren を起用したことからも、彼らの現役感、モダンなサウンドに対する拘りが伝わりますね。
実際、アルバムは “From The Rooftops” の RIVERSIDE を思わせるエモーショナルなギター、ボーカルと、アトモスフェリックで空間を意識した現代的なサウンドで幕を開けますし、”SOS” で強調されている陰鬱で、ダイナミズムと浮遊感を感じさせるオルタナティブなアプローチはモダンプログの巨匠 Steven Wilson が PORCUPINE TREE で行っていたチャレンジと通じます。
DREAM THEATER や QUEENSRYCHE といった Prog-Metal の先駆者たちが、その最新作でどちらかと言えばコンサバティブで “Back-to-Roots” な音楽を提示している事実を考慮すれば、FATES WARNING が実に挑戦的でタフなバンドであることが伝わりますね。
また、勿論、アルバムは彼らのトレードマークである、テクニカルなパッセージ、タイムチェンジ、スキルフルな演奏でも満たされていますが、それは作品を彩る一要素でしかないような気がします。中心に据えられたのはあくまでも、”Seven Stars” “White Flag” に象徴されるような、メランコリックでメロディアスなボーカルライン、耳を惹くフック、そしてキャッチーなコーラス。そしてその部分こそ、この偉大なバンドが新ラインナップを得て遂に達成した課題なのかも知れませんね。
アルバムのハイライトは、元々は作品のタイトルだったという、”The Ghost of Home” でしょう。Jim Matheos の手による10分間の大曲は、彼の幼少期の体験を元にしています。9年間で8回の転校を経験し、”Home” と呼べる場所の無かった Jim のノスタルジアとリグレットが楽曲に込められているのです。
ラジオのノイズに導かれ、Ray の優しいボーカルと Jim の暖かなアルペジオが過去への扉を緩やかに開くも雰囲気は一転。奇数拍子をタイトにグルーヴィーに刻むベテラン Joey Vera と Bobby Jarzombek の際立った仕事がアグレッシブなヘヴィネスを創出すると、バンドはリスナーたちをもそれぞれの過去へと連れ去り、それぞれの “Ghost” と対峙させるのです。ノスタルジックなタイトルトラックをポストスクリプトとしてアルバムも締めくくる FATES WARNING 史上最も野心的な1曲は、波打つような音楽のバラエティーと豊かなエモーションをリスナーへと届けるでしょう。
今回弊誌では、さらに表現力を増したようにも思えるボーカル Ray Alder にインタビューを行うことが出来ました。バンドは今年、名作 “Awaken The Guardian” リリース時のラインナップでリユニオンショーも行っています。どうぞ!!

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FATES WARNING “THEORIES OF FLIGHT” 9.5/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALCEST : KODAMA】JAPAN TOUR 2017 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NEIGE OF ALCEST !!

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The Pioneer Of Post-Black Metal From France, ALCEST Returns To Roots And Opens Up The New Chapter With Their Newest Album “Kodama” Influenced By Japanese Folklore !!

DISC REVIEW “KODAMA”

今や世界規模で注目を集める、儚くも美しいフランスの Post-Black Metal デュオ ALCEST が Neige の幼少期、そして宮崎駿さんの名作”もののけ姫”にインスピレーションを得たという新作 “Kodama” をリリースしました!!これまでも、寺院でプレイしたり、”Souvenirs d’un Autre Monde” 収録 “Tir Nan Og” でゲーム”クロノトリガー”に対するオマージュを行うことにより日本に対するリスペクトを表していた ALCEST ですが、彼らのその想いが本格的に詰まった作品は、さらにこの地でのファンを増やすことでしょう。
ALCEST は所謂 “Blackgaze”、Black Metal と Shoegaze を融合させたパイオニア的存在です。幻想的で内省的。メランコリックな繊細さと悲痛な激しさが生み出す圧倒的なダイナミズム、神々しいまでの美しさはシーンに衝撃を与え、DEAFHEAVEN などに続く Post-Black のうねりを創出したのです。
一つの潮流を生み出した ALCEST が発表した前作 “Shelter” は “Sun-Kissed” などとも表現される、言わば”光”のアルバムでした。メタルらしさを極力排し、多幸感溢れる Shoegaze / Indie サウンドを前面に押し出した作品は、確かに彼らの特徴であるダイナミズムが失われたという点では物議を醸しましたが、それ以上に極上の Post-Rock へと進化し、溢れ出る目も眩むような光の渦、SIGUR ROS にも似たアトモスフィアが 「やはり ALCEST は凄い!」 と世の中を納得させたように思います。
“Kodama” は “Shelter” と対になるカウンターパーツ的な作品と言えるかもしれません。インタビューにあるように、もののけ姫と通じる自然を食い物にする現代社会、そしてその闇の部分でもあるテロリズムが ALCEST を動かしました。ある意味メタルのルーツに戻り、よりダークな1面にフォーカスした”最も怒れる”作品は、それでもやはり徹頭徹尾 ALCEST です。そして同時に、彼らの新しいチャレンジである POP センスが花開いたアルバムであるとも言えるでしょう。
アルバムオープナー、タイトルトラックの “Kodama” はレコードを象徴するような楽曲です。確かにここには ALCEST のシグニチャーサウンドである、 Black Metal の冷たいギターや、Shoegaze のドリーミーなメロディーがレイヤーされていますが、同時にアリーナポップに由来する要素も存在します。COCTEAU TWINS や DEAD CAN DANCE に触発されたというボーカルは何と全てがインプロヴァイズされたもの。非常にキャッチーかつ神秘的なそのメロディーラインはリスナーをもののけの森へと誘い、楽曲をよりスピリチュアルな高みへと押し上げています。この手法は、”Je suis d’ailleurs” の冒頭などでも聴くことが出来ますね。
加えて、インタビューで語ってくれた通り、グランジやインディーロックからの影響も新たな可能性を提示します。楽曲後半に見せる Neige のギターワークは群を抜いていて、シンプルかつ少ない音数で空間を意識した印象的なフレーズを奏で、故意にラフなプロダクション、サウンドで NIRVANA のようにコードをのみ激しくストロークすることで、楽曲の幅を広げることに成功していますね。Neige のコンポジションスタイルである、光と影のバランスを完璧なまでに復活させながら、さらに進化を遂げた凄みがここにはあります。
ファーストシングル、”Oiseaux de Proire” は王者がメタルへの帰還を高々と告げるアルバムのハイライトでしょう。TOOL や SMASHING PUNPKINS さえ想起させるオルタナティブな感覚を備えたギターリフと、ノスタルジックで郷愁を誘う珠玉のボーカルメロディーで幕を開ける楽曲は、Neige の咆哮を合図に突如としてその怒りの牙を剥きます。Winterhalter の鬼気迫るブラストビートに乗って疾走する、メランコリックなトレモロリフはまさしく ALCEST のアイデンティティー。挿入されるキャッチーなアコースティックパートは進化の証。溢れるようなそのエナジーは、もののけ姫終盤にししがみが首を落とす場面をイメージさせますね。インタビューで言及している通り、”二面性” “対比” “進化” に拘るアートの開拓者らしい完璧な展開美を持ったシネマティックな楽曲だと思います。
タイトル、山本タカトさんをオマージュしたアートワークからコンセプト、”対比”の妙まで強く日本を意識した “Kodama”。今回弊誌では、Neige にインタビューを行うことが出来ました。音楽、歌詞、コンセプト、演奏、全てを司るまさに ALCEST の心臓が非常に深く丁寧に語ってくれました。日本の雑誌だからこそ行えた価値あるインタビュー。どうぞ!!

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ALCEST “KODAMA” : 9.7/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ENSLAVED : IN TIMES】LOUD PARK 2016 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Ivar Bjørnson OF ENSLAVED !!

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Finally, Enslaved Are Going To Play For Japan For The First Time! Don’t Miss Their Amazing Performance At Loud Park 16 !!

DISC REVIEW “IN TIMES”

ノルウェーを代表する Viking / Progressive Black Metal バンド, ENSLAVED が Loud Park 16 で遂に日本初上陸を果たします!!ライブバンドとしても名高い彼らのパフォーマンスは、日本のメタルファンを確実にノックアウトすることでしょう。
初期にはプリミティブな Black Metal 色の濃い Extreme Metal を追求していたENSLAVED ですが、近年はプログレッシブな要素を多分に取り入れた、荘厳で唯一無二の Progressive-Black サウンドを指標しています。
最も頻繁に比較されるのは OPETH でしょうが、PINK FLOYD を思わせるサイケデリックな瞬間も存在し、Herbrand Larsen の美麗なクリーンボイスは KATATONIA をも想起させる、実にフレキシブルで才能豊かななバンドです。同時に Herbrand のオルガンからメロトロン、シンセサイザーまで自在に操るエピカルなキーボードサウンドが、他の Extreme Metal との大きな差異を生んでいるとも言えますね。
特に、”Axioma Ethica Odini” でシーンの売れっ子プロデューサー Jens Bogren を起用してからは神がかっており、前作 “Riitiir” ではもはや Extreme Metal の枠にさえ収まり切らない、完璧な構成美を誇る神々しいまでに進化したエピックサウンドを完成させていました。
昨年リリースした “In Times” は、”Riitiir” という一つの完成形を経て、現在の成熟したバンドが新たに勇壮でプリミティブな原点に立ち返ったレコードと言えるでしょう。
アルバムオープナー、”Thurisaz Dreaming” はバンドの過去と現在が溶け合った “In Times” を象徴するような楽曲です。ノルウェーが誇る強烈なブラストビートを元にした、怒りに満ちた Blackend のブリザードで幕を開ける巨人の夢は、確かに初期の ENSLAVED を彷彿とさせます。Grutle Kjellson の邪悪で無慈悲な叫びは、彼らが今でも”古い価値観”を守り続けていることの証です。しかし、楽曲はスムーズに、違和感もなく、バンドのメロディック、プログサイドへと移行し、彼らの武器であるクリーンボーカルを伴った優雅でアンビエントなサウンドを響かせるのです。
ブリットロック的な感覚さえ存在する、キャッチーで美しく、オーガニックな “Building With Fire” にしても、残虐なオーラを纏ったスクリームと共に、ダークなパッセージが用意されていますし、”One Thousand Years of Rain” ではメロディックに疾走するエクストリームパートに呼応する、彼ら独特の浮遊感溢れるコーラスが白眉です。この振れ幅の大きさを自然に感じさせる、見事なバランス感覚こそが、アルバムの肝だと言えるのではないでしょうか。
同時に、前作に比べて、良い意味でラフで空間が目立つ “In Times” は、ドラマー Cato Bekkevold の強靭なタイム感、バラエティー豊かで個性的なフィルインの数々がリスナーを惹き付ける重要なランドマークとなっていることは記して置くべきでしょう。
特筆すべきは、タイトルトラック “In Times”。ENSLAVED の先進的で型にはまらないドラマ性を集約したかのような楽曲は、虚無なる宇宙を漂うかのようなサイケデリックなイントロから、バンドの光と影を反映するかのように、幻想的な神秘性と無慈悲な残忍さが交差します。ブラック、サイケ、プログ、アグレッション、アトモスフィア、ハーモニー、そして至高の構成美。ENSLAVED を形作る全ての要素が内包されたかのような10分間の大曲は、間違いなく彼らの新たなシンボルとなるはずです。
今回弊誌では、バンドの創立メンバーでギタリスト、Ivar Bjørnson にインタビューを行うことが出来ました。90年代からシーンを牽引し続けてきた人間の言葉はやはり重いです。どうぞ!!

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ENSLAVED “IN TIMES” : 9.5/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MARILLION : F.E.A.R.】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PETE TREWAVAS OF MARILLION!!

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One Of The Greatest Prog Legend From England, Marillion Has Just Released Their Best Album In Two Decades, “F.E.A.R.” !!

DISC REVIEW “F.E.A.R.”

イングランドを代表する Prog アクト、MARILLION が、ここ20年における彼らの最高傑作とも評される新作 “F.E.A.R.” をリリースしました!!
コンセプト、リリック、ミュージック、全てが異次元のクオリティーで深く冷厳に溶け合ったアルバムは、キャリア38年にしてバンドの新たなマイルストーンとなるでしょう。
Prog Rock がコマーシャリズム、POP の波に飲まれた80年代に、GENESIS 譲りのドラマ性とシンフォニーを携えて颯爽とシーンに登場した MARILLION は、ボーカル Fish のカリスマ性、シアトリカルなパフォーマンスとも相俟って Neo-Prog と呼ばれる新たなムーブメントの主役となって行きます。とは言え、彼らの音楽は決して70年代の回顧のみに収まるものではありませんでした。
New Wave, Heavy Metal の風を受けて、巧みにトレンドを反映し、実験性を孕んだそのサウンドはバンドの多彩な一面を見せつけます。初期の作品群からは、U2 や POLICE といった正統派ブリットロックから、IRON MAIDEN のハードなエッジまでを血肉として、Prog Rock を一つ先のステージに進めようと試みていたことが伝わりますね。
ボーカルが Fish から Steve Hogarth にチェンジし、1994年に制作したコンセプトアルバム “Brave” は Pomp Rock バンドとしての MARILLION が結実した瞬間でした。
インタビューにもある通り、Prog Rock 特有のファンタジー性と距離を置き、ダークかつリアリズムに拘ったテーマで勝負した作品は、ダイナミックで強く空間を意識し、アンビエントさえ取り入れながら、際立った音楽的表現力、センスと共に、音楽史に新たな章を書き加えたのです。
そしてその試みは勿論、現在 Modern Prog, Post-Prog シーンの Guru として尊敬を集める Steven Wilson と、彼が率いて来た PORCUPINE TREE とも強く共鳴していたことは明らかでしょう。
それから22年の月日を経て、リスナーの元に届けられた彼らの新しいマスターピースは、”F.E.A.R.” と名付けられました。”F*** Everyone And Run” を略して “F.E.A.R”。この実にセンセーショナルなタイトルは、やはり現実的で、社会問題に目を向けた、現在の MARILLION らしい極めてリアルなコンセプトを表現しているのです。具体的には銀行や政治の汚職、Brexit、欧州議会の腐敗、世界的資本主義の崩壊など、まさに英国が抱える現代社会のダークサイドを投影した濃密な68分に仕上がっています。
アルバムオープナー、”El Dorado” は悲観的な未来を予測した楽曲。PINK FLOYD の “The Division Bell” を想起させる大曲は、インタビューで Pete が “ヨーロッパ周辺には、大きな変化が起こりつつあり、それを通して誰かが僕たちをコントロールする計画を立てているような予感、予兆が存在するんだよ” と語った通り、MARILLION が抱く未来に対する “Fear” の前兆を表現しているようにも感じます。前作のオープナーで、奇しくも同じ17分の大曲 “Gaza” と対となる存在と言えるかも知れませんね。
同時に “El Dorado” は Mike Kelly のエレクトリックピアノからオルガンまで自在に操る見事なキーボードサウンドと、まさにトップフォームな Steve Rothery の物語を紡ぐギターソロがアルバムを通して重要な鍵となることも伝えています。
そしてやはり、特筆すべきは H こと Steve Hogarth のキャラクターになりきった壮絶な歌唱でしょう。作品を象徴するテーマである、持つ者と持たざる者、世界的資本主義の拡大による”エリート”の出現と彼らの保身についての組曲 “The New Kings” において、H は全身の感情を振り絞り、アルバムタイトルともなった “F*** Everyone And Run” と歌い紡ぎます。その瞬間、センセーショナルでともすればチープにさえ思えたその一節は、悲しみの感情を掻き立て、世界の状況を真摯に考えるきっかけを与える魔法の言葉へと変化するのです。RADIOHEAD を想起させるコンテンポラリーなセンチメンタリズムを見事にコンセプトと融合させ、MARILLION が現代にプロテストソングを蘇らせたと捉えることも可能でしょう。
THE BEATLES から脈々と繋がる UK の血を受け継ぎながら、
真の意味での Progressive を体現したアルバム “F.E.A.R.” 。今回弊誌では、1982年からバンドを支え続ける、フレキシブルなベーシスト Pete Trewavas にインタビューを行うことが出来ました。ヨーロッパで絶大な支持を得ている MARILLION ですが、メッセージにもある通り、今度こそは日本のファンにもアピールすると信じます。どうぞ!!

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MARILLION “F.E.A.R.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SUBROSA : FOR THIS WE FOUGHT THE BATTLE OF AGES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH REBECCA VERNON OF SUBROSA !!

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Minnesota Based Dramatic-Doom Quartet, SubRosa Has Just Released Beautiful, Magnificent Masterpiece “For This We Fought the Battle of Ages”!!

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DISC REVIEW “FOR THIS WE FOUGHT THE BATTLE OF AGES”

ソルトレイクシティの Dramatic-Doom マスター、SubRosa が自身の最高到達点 “For This We Fought the Battle of Ages” をリリースしました!!一世紀も前に書かれた SF ディストピア小説にインスピレーションを得て制作されたアルバムは、バンドのアイデンティティーである Dramatic-Doom のスケールを一層高めた、様々な音楽ファンに愛されるマイルストーンとなるでしょう。
SubRosa は Doom Metal バンドには珍しく、女性ボーカル Rebecca Vernon のミスティックな歌唱を中心に据えています。加えて、Sarah Pendleton と Kim Pack のダブルヴァイオリンとアディショナルボーカルが唯一無二の美麗な Doom を創出しているのです。
ALCEST や DEAFHEAVEN を見れば分かる通り、近年、メタルに “Beauty”, “Atmosphere” を持ち込む、才気溢れるバンドが注目を集め、シーンの限界を押し広げていますが、SubRosa のユニークなラインナップが生み出す手法、冒険、マジックは中でも際立っていると言えるでしょう。
インタビューにもある通り、”For This We Fought the Battle of Ages” はロシアの反体制活動家 Yevgeny Zamayatin の著書 “We” に触発された作品です。当時のソヴィエト初期社会主義時代の、閉塞された状況を描き揶揄したディストピア小説は、しかし、政府による管理、監視、支配という、実は現代社会が抱える問題に読み解くことも可能です。SubRosa はその命題を、人生、死、自由、愛といったテーマを与えた楽曲を通して、エピカルに、ドラマティックに、そしてドゥーミーに描いているのです。
アルバムオープナー、15分半のエピック、”Despair Is a Siren” は深化したバンドを象徴するような1曲です。Doom という特性上、勿論、長くなりがちな楽曲ですが、しっかりとストーリーやシーンを描写する彼女たちにとって、この長さは意図してデザインされた SubRosa’s Way。
静寂が支配するイントロとラウドで実験的なパートの対比が生むボリューム、テンポのダイナミクス、見事にレイヤーされたトリプルボーカルの魔術、そしてデュエットの如くメロディーとカウンターメロディーを行き来する、複雑で美麗なボーカルとヴァイオリン。バンドのトレードマークとも言える要素が、寄せてはは引く波のように揺らぎつつ、リスナーへと届きます。同時に、六拍子とリズムにフォーカスしたディストーションギターが交わり流れ出すカオスの潮流は、SubRosa が NEUROSIS 以来脈々と繋がる Experimental Metal の落胤であることを主張していますね。
アルバムの中心に据えられた “Black Majesty” も同様に15分を超える大曲。東洋的とも感じられるエスニックでエモーショナルなヴァイオリンが先導する、プログレッシブで極上の展開美を誇るこのエピックにおいて、Rebecca は “Isn’t it beautiful?” とリスナーに問いかけます。その1節、歌声からは “Doom Metal だけど美しいでしょ?” という自負心、アイデンティティーが強烈に伝わりますね。
後半の BLACK SABBATH meets GODSPEED YOU! BLACK EMPEROR とでも形容したくなるパートでは、リズム隊を中心に、群を抜いたバンドアンサンブルを聴かせることも記して置くべきでしょう。
また、”Il Cappio” では Rebecca の多彩な一面を覗かせます。バンジョーと共に紡がれるリリックは何とイタリア語。囁くようにスイートなトーンで歌う新しいアプローチにより、陰影を帯びた切なくもフォーキッシュな楽曲は、続く “Killing Rapture” の完璧なプレリュードとして機能していると共に、作品の素晴らしいアクセントとして色を添えています。
ドラマティックでプログレッシブ。”美”にとことんまで拘り、”戦い”抜いた野心的な “For This We Fought the Battle of Ages” は、まさにモダンメタル、Experimental Metal, Post-Doom / Sludge の最新型、金字塔として、凛然と輝く名作に仕上がりました。今回弊誌では、バンドの創立メンバーで、ボーカル/ギター、無数の声を使い分ける才女 Rebecca Vernon にインタビューを行うことが出来ました。日本初取材です!どうぞ!!

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SUBROSA “FOR THIS WE FOUGHT THE BATTLE OF AGES” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【downy : 第六作品集『無題』】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROBIN AOKI OF downy!!

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One Of The Greatest Post-Rock, Dark Electronic Outfit From Japan, downy Has Just Released Deep And Cold New Masterpiece “Mudai Ⅵ” !!

DISC REVIEW “第六作品集『無題』”

日本の至宝、5人組ロックバンド downy が新作 “第六作品集『無題』” をリリースしました !!
日本における Post-Rock の先駆けとも評される downy は、映像担当のメンバーが存在する特異な形態のバンドです。当初から、映像と音楽の融合を掲げて来たバンドは、同時に現在フェスやクラブシーンに根付きつつある VJ の先駆者とも言えるでしょう。また、音楽担当以外のメンバーを擁するという点では、勿論初期の KING CRIMSON と通じるフレキシブルな集団でもあるのです。
Post-Rock と一言で語られることも多い downy の音楽ですが、一つのジャンルで括ってしまうには、彼らの才能は多彩で、先鋭的で、オリジナル過ぎると感じます。
静と動を巧みに行き来する独特のダイナミズム、ナチュラルな変拍子の使用が創出する緊張感、儚くも美しいメランコリー、文学的なリリックにレイヤーされた豊かなエモーションが、Hardcore, Post-Hardcore, Psychedelic Rock, Prog Rock, Metal, Jazz, Hip Hop, Electronica, Trip Hop など多様なフィルターを通して downy の世界観、芸術として昇華し、リスナーの元に届けられるのです。
9年の活動休止の後、リリースされた前作 “第五作品集『無題』” は、休止以前と同様、チャレンジングでストイックな作品でしたが、同時に以前、アルバムを覆っていたどこか無機質なムードに仄かな光が射し込んだような、暖かな変化も感じられましたね。
それから3年の間に、downy は休止以前よりも、シーンの軸としてある種の責任感を背負いながら動いてきたようにも思われます。
2014年のフジロック初出演、クラムボントリビュートアルバムへの参加、THE NOVEMBERS への楽曲提供、そして、何と言っても同世代で日本が誇るオルタナティブの雄、envy, Mono と共に Synchronicity” とのコラボレーションから “After Hours” というフェスを立ち上げるなど、実に積極的に活動を続けて来ています。
そういった成果が結実したのが新作 “第六作品集『無題』” であると言えるかも知れませんね。演奏にはさらに人間味を加え、青木ロビン氏のボーカルにはエモーション以上のスピリチュアルな何かが宿っているようにも感じます。
アルバムオープナー、”凍る花” はこの新たな傑作を象徴するような楽曲です。レコードの幕開けを告げるシンセサウンドが鳴り響くと、リスナーは驚きと共に急速に downy ワールドへと誘われます。前作で仄かに射し込んだ暖かな光は、実はこのアルバムでは感じられません。7拍子が導くヒリヒリとした緊張感、さらに説得力を増したメランコリックな歌唱が伝える冷たく蒼い世界観は、まさしく downy 唯一無二のもの。初期の感覚、原点を、現在の成熟した downy が奏でるといったイメージも少なからず存在するようにも思います。
続く”檸檬” はウッドベースとツッコミ気味のハイハットがジリジリとした焦燥感を生み出す壮絶な5拍子。”海の静寂” は R&B 的な黒い歌唱と、静寂を切り裂くギターのうねりが印象的。プレイ自体は人間らしい感情の熱を帯びているにもかかわらず、殺伐とした冷ややかな雰囲気を保ち続けるアルバムは、やはり異形なまでに特殊です。
同時に、”色彩は夜に降る”, “親切な球体” にも言えますが、リズム隊の究極に研ぎ澄まされた、ミニマルかつインプレッシブなリフアプローチが冴え渡った作品とも言えますね。
今回弊誌では、青木ロビン氏にインタビューを行うことが出来ました。内容にもある通り、メタル、プログロックのファンにも強く聴いていただきたいバンドです。どうぞ!!

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downy “第六作品集『無題』” : 10/10

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