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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FROSTBITT : MACHINE DESTROY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IVAN HANSEN OF FROSTBITT !!

“We Have For As Long As We Have Listened To Metal Been Listening To Japanese Rock Bands Like Dir En Grey, Maximum the Hormone, Moi Dix Mois, Babymetal And a Lot Of Anime Openings!”

DISC REVIEW “MACHINE DESTROY”

「Mana 様の作品はどれも好きだけど、特に Moi Dix Mois で作られた音楽は最高だよね!Dir En Grey は、僕たちの大のお気に入り。”Yokan / 予感” や “Cage” のようなファンキーでアーバンなものから、”Obscure” のような Nu-metal、そして後のデスコアやジャンル・ブレンドのヘヴィなものまで、彼らの全てのスタイルが大好きだよ!特に特定の曲のライブ・バージョンが大好きで、より生々しくエモーショナルに聴こえるんだ。”濤声” のライブ・バージョンのようにね。あれは僕にとって完璧だ!NARUTO は特に130話までが僕にとって特別な場所。Asian Kang-Fu Generation の “カナタハルカ” は、生々しい叫びのようなボーカルで、僕に大きなインスピレーションを与えてくれた!」
日本の音楽は世界では通用しない。そんなしたり顔の文言が通用したのも遥か昔。アニメやゲームのヴァイラル化とともに、日本の音楽は今や海外のナードたちにとって探求すべき黄金の迷宮です。とはいえ、ノルウェーのノイズテロリスト FROSTBITT ほど地下深くまで潜り込み、山ほどの財宝を掘り当てたバンドはいないでしょう。
「特にボーカルとベース・サウンドは、KORN から大きなインスピレーションを受けているよ。”Solbrent” “Frostbitt” では、Johnathan Davis とChino Moreno のヴァイブに深く入り込んでいるんだ。ただ、そのせいで少し非難されたし、一時期ちょっとやりすぎたという事実にも同意しているよ。でも、この新しいレコードでは、彼らのインスピレーションはそのままに、他の多くのものも取り入れて、より味わい深いものになったという気がするね。自分たちを取り戻したような感じさ」
未だ Djent が新しく、勢いのあった10年代初頭に頭角を現した FROSTBITT は、近隣の MESHUGGAH や MNEMIC (素晴らしい!) に薫陶を受け、ローチューンのリズミック・マッドネスに心酔しながらも、同時に Nu-metal, 特に KORN や DEFTONES の陰鬱や酩酊をその身に宿す稀有な存在としてシーンに爪痕を残します。ただし、インタビューに答えてくれた Ivan Hansen の歌唱があまりにも Jonathan Davis に似すぎていたため、あらぬ批判を受けることもあったのです。まさに “Life is Djenty”。
しかし、FROSTBITT の時間旅行は “Machine Destroy” で空も海も飛び越える3Dの冒険へと進化しました。”Machine Destroy” というアルバム・タイトルが示すように、FROSTBITT の目的は常識や次元、時間、既存のメカニズムの破壊。CAR BOMB とのツアーは、FROSTBITT にとってノイズと獰猛さを探求するきっかけとなり、あの英国の破壊王 FRONTIERER をも想起させるアクロバティックなエフェクト・ノイズの数々は、”Frost-Riff” というユニーク・スキルとしてリスナーの脳裏に深く刻まれます。これはもう、ギミックの域を超越したテクニックの領域。
さらに、ここには日本からの影響も伝播しました。”Masked Ghost Host” のシアトリカルで狂気じみた呪文のような言霊の連打からの絶叫は、明らかに Dir en Grey の京をイメージさせますし、作品のテーマは攻殻機動隊。何より、”曲をリフ・サラダではなく、構造や繰り返しのある実際の歌らしい歌にしたい” という彼らの理想は非常に日本的な作曲法ではないでしょうか。タイトル・トラック “Machine Destroy” の致死的な電気の渦の中でも埋もれない、メロディの輝きは日本イズムの何よりの証拠。今作ではさらに、時に RADIOHEAD の知性までも感じさせてくれます。
デスメタルの単調とブラックメタルの飽和が囁かれるこの世界では、新しいアイデアを持ったバンドが必要とされているようです。1996年に片足を突っ込み、もう片足をThallの迷宮に突っ込んで、両腕を遠い東の島国に向けて突き上げる FROSTBITT の3Dな音楽センスは、明らかに前代未聞唯一無二で尊ばれるべき才能でしょう。
今回弊誌では、Ivan Hansen にインタビューを行うことができました。「ノルウェーは、暖かい夏と厳しい寒さの冬と雪の両方がある美しい場所。国土が広く、人々は国土全体に散らばっているから、ノルウェーを旅行するときはかなり遠くまで行くことが多いよね。それに、多くの家庭が森の中に山小屋を持っているから、歩く文化や山越えの文化も盛んなんだ。少なくとも、ブラックメタル・バンドからはそんな雰囲気が伝わってくるし、僕自身も同じようなことを実感しているんだよ」 どうぞ!!

FROSTBITT “MACHINE DESTROY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRST NIGHT : DEEP CONNECTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RENECK SWEET OF FIRST NIGHT !!

“The Good Old AOR Scene Might Even Disappear Completely In About 20 Years. I Would Not Be Surprised By That But The Music Remains. Thanks To The Albums And The Internet.”

DISC REVIEW “DEEP CONNECTION”

「エストニアで生きていると、時間が経つにつれて、たくさんの素晴らしいバンドを発見できて面白かった。情報のない箱の中で生きているような時もあったからね」
時に限定された状況は、強力な好奇心を生み出します。音楽を聴けないから聴きたくなる。ゲームを買えないからやりたくなる。女性が振り向いてくれないから振り向かせたくなる。そんな、不自由の中の自由から、人は進歩とチンポを続けてきたのです。
エストニアはバルト三国で最も北に位置する小さな国。スウェーデンやフィンランドに面しながらもメタルやロックの黄金郷となれなかったのは、多分にソヴィエト連邦に支配された過去があるからでしょう。しかし、かつて激しく抑圧を受けていた美しい国は、独立を回復した後、目覚ましい発展を遂げます。
ITの分野において、エストニアは今や世界の最先端です。電子国家と呼ばれるように、ほとんどの手続きはインターネットで終わります。Skypeを産んだのもエストニア。さらに、国民の教育レベルは非常に高く、マルチリンガルで、報道の自由度も日本とは比べられないほど高いのです。
そんな小国の回復力、”レジリエンス” は、エストニアから世界を驚かせた FIRST NIGHT の音楽にもしっかりと根付いています。
「バッキングトラックのアイデアやミキシングのアイデアは全て Mutt Lunge から影響を受けている。ただ、僕らのバンドは DEF LEPPARD やどんな他の一つのバンドのようになるつもりはないよ。80年代の全体を愛しているからね」
FIRST NIGHT のメイン・コンポーザー Reneck Sweet にとって、情報が制限された世界はむしろプラスに働いたのかもしれません。ストリーミングや”〇〇放題”は確かに簡単で便利で安価ですが、いつでもあることの安心感が自分で探す楽しさ、探究心や好奇心を大きく犠牲にしている可能性はあります。事実、Spotifyのオススメとは無縁の環境で育った Reneck は、今やトレンドやセールスとは程遠いメロディック・ハードの世界を自らの手で探求し、遂にはエストニアが誇るインターネットの分野で大きな話題となるまでに成長を遂げたのです。
実際、デビュー作から4年の月日を経てリリースされた “Deep Connection” には、80年代への愛情、知識、好奇心が溢れんばかりに詰まっています。北欧的なキーボード/シンセのとうめいかと華やかさ、80年代ドイツ風のクリーン・ボーカル、カナダから輸入した清らかなギター・ライン、さらに80年代後半のブリティッシュAORからの影響、そしてもちろんアメリカのビッグ・サウンドがコーラスに組み込まれ、この作品はあらゆる国、あらゆる側面からメロディック・ハードの “美味しいとこどり” を実現しているのです。ウジウジとした女々しいテーマも実にメロディック・ハードしていてたまりませんね。
「AORというジャンルが徐々に衰退していくのも不思議ではないよ。ほとんどのメロディック・ロックバンドは、若い聴衆を獲得するために、よりヘヴィでモダンなサウンドにすり寄っているからね。でも僕はその方向には行きたくないんだ。僕らのアルバムを買ってくれるのは45~60歳くらいの人が多いんだよ。だから、古き良きAORシーンは、20年後には完全に消滅してしまうかもしれない。そうなっても驚かないけど、音楽は残っていくんだ。名作アルバムとインターネットに感謝だね」
Reneck はもはや、メロディック・ハードの消滅を悲観してはいません。というよりも、かつて限られた情報の中でも情熱を失わなかった自らの姿を重ねながら、音楽さえ電子空間に残っていれば誰かが聴いてくれる、語り継いでくれるという確固たる自信が Reneck の中にはあるのでしょう。DEF LEPPARD, Bryan Adams, BLUE TEARS, BOULEVARD, STRANGEWAYS, DA VINCI といった決して消えない名手の名作たちのように。”Deep Connection” で FIRST NIGHT は明らかに音のタイムトラベルをマスターしたようです。残念なのは、実際に80年代へとタイムトラベルが行えないこと。きっとそこには、満員のアリーナが待っていたはずです。
とはいえ、世はTikTok戦国時代。あの場所でメロディック・ハードがバズる確率は、きっとゼロではないでしょう。今回弊誌では、Reneck Sweet にインタビューを行うことができました。「僕は良いメロディーがとても好きなんだ。僕にとって音楽はメロディーが全てと言えるほどにね。そして “Deep Connection” はまさにそんな僕の望んでいたとおりのものとして完成した」 元嫁の顔をジャケにできるのはメロハーだけ。1st AVENUE 好きに悪い人はいない。どうぞ!!

FIRST NIGHT “DEEP CONNECTION” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【THE WORLD IS QUIET HERE : ZON】 VIDEO GAME IS PROG METAL…


COVER STORY : THE WORLD IS QUIET HERE “ZON”

“The Legend of Zelda: Majora’s Mask Is My Favourite Game. I Loved Ocarina of Time, but Majora’s Mask Is On a Different Level”

ZON

プログレッシブ・メタルとは、実験的でしかし感情的で、技術的にも音楽的にも他の人がやらないようなことをやってのけたうえに、そのすべてをうまくまとめるという難攻不落の使命を帯びたジャンルです。ウィスコンシンの新鋭 THE WORLD IS QUIET HERE のニューアルバム “Zon” はその難題をクリアした稀有なレコードでしょう。彼らのプログレッシブ・メタルは実に冒険的で、エモーショナルで、しかしその創造的な自由の中で、エクストリーム・ミュージックのファンなら誰もが魅了されるであろうメタリックな旅へと誘います。
ドラマーの David Lamb はそもそもジャズ畑のプレイヤーですが、驚くべきことにこのバンドは他にも “学位” を持つプレイヤーが二人もいます。
「ギタリストの Isaac Stolzer と僕 (Tyler Dworak) は音楽専攻で、二人ともレコーディング・プログラムを修了している。David も少しだけど、彼はソフトウェアのプログラミングか、コンピュータの何かを勉強したと思うんだ。彼はドラムが得意で、Izaac はジャズ・アンサンブルでギターを弾いていたね。それがきっかけで、ふたりは本当につながったんだ。僕らの何人かはクラシックのトレーニングを経て、音楽の学位を持っているんだよ」
新ボーカル Lou の歌唱は、この分野では非常に独特で、際立っていて、例えるなら SikTh の Mikee のような異彩を放っています。
「Lou が素晴らしいのは、自分が何をやっているのか理解していること。彼の音域はとても広いから、シンガーではない僕らがハーモニーを担当する必要もなかったね。歌の分野でもっと経験豊富な人がいることは、僕たちにとって本当に必要なことだったし、Lou がそれに応えてくれることに本当に感謝しているよ。それに、面白いことに Lou は車の中で全部録音したんだ。彼は基本的に車の中だけで自分を孤立させることができる。だから、僕の知る限り、Lou の音はすべて彼の車の中で録られたものだ」

同時に、”Zon” には元 PAINTED IN EXILE のギタリスト Ivan Chopik、元 NATIVE CONSTRUCT のギタリスト Kee Poh Hock、そしてOTHERS BY NO ONE のシンガー Max Mobarry といったそうそうたるメンバーがゲスト参加していて、界隈における彼らの高まりつつある名声を証明してます。ただ、特別興味深いことに、TWIQH の面々は、プログレッシブ・メタルが要求する高いハードルを越えるため、ストーリーや音楽においてビデオゲームをジャンプの原動力としています。
もちろん、メタル、特にプログレッシブ・メタルの世界では、そのマニアックな音楽性や世界観と共鳴するかのようにゲームやアニメの “オタク” が多いのですが、彼らの “ナー度” はその中でも群を抜いています。ベーシストで中心メンバーの Tyler Dworak が “この世界” にのめり込んだのは、あるゲームがきっかけでした。
「漠然とした記憶だけど、セガの “アラジン” が最初に買ったゲームかな。実際に覚えている最初のゲームは “ドンキーコング64” だね。クリスマスに買ってもらったんだけど、僕の小さな脳みそが吹き飛ぶくらいの衝撃。あのゲームの巨大さは現実離れしていて、ビーバー (ノーティ) を蹴って探検するのが楽しい世界だった。今でも持っていて、ときどき引っ張り出して遊んでいるよ」
最近はどんなゲームにハマっているのでしょうか?
「最近はアクション・アドベンチャーや RPG が好きだね。時間がかかるゲームや、ストーリーのあるゲーム。音楽と一緒だよ。僕は “ゼルダの伝説” シリーズで育ち、今でもほぼ全作品が大好きで、ずっと夢中になっている。ちょうど今は、ゼルダ・スタイルのゲームのルネッサンスのようなもので、とても素晴らしい。新しい “God of War” も最高だよね。”エルデン・リング” は、プレイヤーにとっては時には悲惨な結果になることもあったけど、オープンワールドのゲームの勝利だよ。
最近は JRPG にハマっているんだけど、ちょっと変わったゲームも好きだよ。”マザー” のゲーム、特に “マザー3” が大好きでね。17年前のゲームとは思えないほど、ストーリーの構成が斬新なんだ。影響されるよね。ここ数年は “ペルソナ5″ に夢中で、あのゲームは僕らのバンド以上にスタイルがあるよ。あと、僕と妻が冗談のように話しているのが、”ゼノブレイド・クロニクル” シリーズ。あのゲームはバカバカしくて、脚本も声優もかなりひどいものだけど、それも魅力のひとつだし、大好きなんだ (笑)」

当然、TWIQH のアルバムにも際立ったストーリーが存在します。
「僕らの音楽はすべて1つの連続した物語だから、このアルバムはファースト・アルバムの直後が舞台なんだ。前作 “Prologue” のリリースからもう5年も経っているんだ。歌詞を読んで内容を推測することなく、インパクトのある形で物語を伝える方法を模索しているよ。もっと決定的な表現方法を見つけたいんだ。
ファースト・アルバムの主人公は、1曲目から推測できるように、”Some Call Me Cynical” という曲だけど、自分をとても卑下していて、人生観が良くないんだ。彼は内向きのスパイラルに陥り、アパートの屋上から飛び降りることになり、”Prologue” の最後で死んでしまうん。僕たちは、人が死ぬとどうなるのかを知りたかった。
何年か前に Eithan のアイデアで、死後の世界は天空の宇宙いうことを思いついてね。死後の世界は “Zon” と呼ばれる惑星から始まり、そこで自分の嫌なところや人生で後悔したことを自分なりに受け止めて、折り合いをつけていく。
だからこのアルバムの物語は、人生の終わりにひどい人間だった主人公が、そのことに気づき、どうすれば変われたか、どうすればもっと良くなれたかをゆっくりと受け入れていくというものなんだ。自分を償うことができれば、その先にあるものを手に入れることができる。彼は今は煉獄から抜け出せないでいるようなものだね。
SF的な要素は少なく、どちらかといえば少しファンタジーに傾いているね。宇宙船やディストピアなどは出てこないよ。手遅れかもしれないのに、より良い人間になろうとする自己反省についてのとても個人的な物語なんだ」
ゲームのようにアルバムのストーリーに浸って欲しいとバンドは望んでいます。
「このアルバムは濃密で、たくさんのことが起こっているんだけど、みんなに歌詞に参加してほしいんだ。このアルバムを聴いて、絶対的なヘヴィネスを追求するのではなく、今まで聴いたことのないような、内省的で奇妙な旅を楽しんでもらいたいんだ。アルバムで語られていることはたくさんあって、ちょっと行間を読むと大きなテーマがあるんだ。そういうことを考えてもらいたいね。
さっきも言ったけど、このアルバムは自分を見つめ直すための大きな作品だし、個人的にもそれはより良い人間になるためにとても大切なことだと思う。だから、その旅を始めるのは大変なことだけど、これをその第一歩にしてほしい。だから、このアルバムの内容を楽しんで、歌詞を読んで、僕らが何を言おうとしているのか、よりよく理解してほしいな」

ゲームからは、ストーリーのみならず、音楽的なインスピレーションも受けているようです。
「”Zon” のベースラインは “ペルソナ3” の勝利のテーマにインスパイアされたものなんだ。偶然、初代スーパーマリオブラザーズの “バウアーズキャッスル” を超彷彿とさせるベースラインを書いたんだけど、これは結局使わなかったね。
アルバム中盤にある “Heliacal Vessels II” のパートがお気に入りなんだ。この曲には、他のどのパートとも違う、Lou が伝道師に変わる部分があるんだ。主人公が出会うキャラクターはほとんど預言者のようなもので、彼は信徒に向かって演説している。ジャズの要素がたくさん入っていて、その部分はとても楽しくて、13分もある超ヘビーな曲の真ん中にあるのだから、おそらく最も奇妙である意味ダサいパートだと思う。このユーモアは多くの人に気に入ってもらえたと思うよ。
最近、僕はシンセサイザーを使った音楽をたくさん作っているんだけど、このゲームがミームになっているのと同じくらい、”Undertale” のサウンドトラックにはインスパイアされたな」
最も長時間プレイしたゲームは何でしょう?
「いくつか思い浮かぶな。生涯では、間違いなくポケモンシリーズがナンバーワンだね。フランチャイズ全体で、何千時間もプレイしているだろう。赤・青・黄以降のゲームは、駄作も含めてすべて何度もプレイしている。見たことのないポケモンを見ると、6歳の頃、レベル100のカメックスだけが大事だったことを思い出すんだ。
“シングルゲーム” ということであれば、パンデミックが始まった頃に夢中になった “ペルソナ5″ は、妻とふたりで合わせて300時間以上やり込んでいる。また、”大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL” と “The Binding of Isaac (アイザックの伝説)” はそれぞれ400時間以上やっているね。どちらもとても上手になるにはそれでも時間が足りないけど、電源を入れて物事を深く考えないようにするには最高のゲームなんだ」

“Zon” の美しいアートワークのように、今までプレイした中で最も美しいゲームは何ですか?
「”大神” だね。最近でこそ人気が出てきたけど、2006年に発売された当時、あのゲームは大失敗という認識だった。当時は新しいゲーム機が出始めたばかりで、PS2のゲームには誰も見向きもしなかったのだけど、このゲームは隅から隅まで本当に素晴らしい出来だった。筆で描いたような独特のグラフィックと、セル画のような陰影が、独特の世界観を作り出していたね。日本の民話に根ざしたストーリー、驚くほど面白く心に響く脚本、ゲーム界で最も素晴らしいサウンドトラック(”ワンダと巨像” に次ぐもの…かも)と相まって、ぼくがこれまで経験した中で最も充実したゲーム体験のひとつとなっているよ。いつもリプレイしているけど、その魅力は決して消えることはないね」
TWIQH の音楽のように、今までで一番難解なゲームは何ですか?
「おそらく “エルデン・リング” だろうね。まあ、他のフロムゲーを全くプレイしていない僕が言うのだから、もう信用は失墜しているけど。バンドのメンバーと一緒にプレイするために、”エルデン・リング” を発売と同時に手に入れたんだけど、荒削りだったね。あのゲームをプレイするのは好きだったし、驚異だと思うんだけど、フロムゲーをプレイしていない人間としてのトラウマは強烈なんだ。このゲームはわざと難しくしているのだ!そして時には自分の実力不足もあるのだ!と悟る必要があったね…でも、このゲームは好きなように遊べるから、その仕組みを学ぶにはもってこいだったよ。とはいえ、本当に難しいボスからは全部逃げていて、マレニアは倒せなかった。もう限界なんだ…」
一番良かったゲームは何でしょう?
「最近よく言われることだけど、”ゼルダの伝説 ムジュラの仮面” が一番好きなゲームだね。”時のオカリナ” も好きだけど、”ムジュラの仮面” はレベルが違うね。Nintendo 64の他のゲームのほとんどは、プレイヤーがある場所から別の場所に移動することが重要で、環境は背景に溶け込むようなものだった。しかし “ムジュラの仮面” は、じっくりと世界を探索し、そこに登場するキャラクターたちと交流することで、初めて成立するものなんだよ。
月が落ちてくる3日間で、時計塔の街が変化していく様子には、いつも驚かされる。市民たちのスケジュールが変わり、彼らとの関わり方によってすべてが違ってくる。ゲームって決してゲーム性だけじゃないんだなあと、子供のころに目から鱗だったんだ。それに加えて、超弩級のサウンドトラックとタルミナという舞台が、これ以上ないくらいにマッチしているんだよ」

そうした “良い” ゲームから学んだこともあります。
「可能な限り包括的で寛容で多様でありたいと思っている。僕は FLUMMOX というバンドの大ファンなんだ。そのバンドの僕らの親友 Max Moberry は、OTHERS BY NO ONE という別のバンドにも参加しているんだけど、彼らは…間違ったラベルを付けたくはないんだけど、そのコミュニティの一員なんだ。そして Max は僕らのアルバムにもフィーチャーされているんだ。”Moonlighter” の一番最後にね。
だから、僕たちはどんな生き方も歓迎するし、誰も排除したくはないんだ。むしろ、少数派の人たちにスポットライトを当てたい。OTHERS BY NO ONE は昨年 “Book II: Where Stories Come From” という素晴らしいアルバムを出していて、FLUMMOX は最近たくさんのライブをやっているよ。この2つのバンドとは Max のおかげでつながることができた」
トレカの収集にも余念がありません。
「”ハースストーン” は大学までずっとプレイしていたよ。物を集めるのは好きなんだけど、実際に物を買って集めるお金がなかったから、無料でゲームができるのは痒いところに手が届くというかそんな感じでね。2021年にBlizzard(Entertainment)が何かと物議を醸し、今のままでは応援できないと思い、その年の夏からプレイをやめたんだ。ちょうどその頃、同僚の多くが仕事帰りや昼休みに定期的に “マジック:ザ・ギャザリング” をプレイしていることを知り、僕も飛びついたんだ。
トレカにハマったのは、同年代のみんなと同じで、ポケモンカードが最初だよ。幼少期は絶対的なアイテムだったな。買いものに行くたびに親にカードをせがんだよ。これもみんなと同じように、実際のゲームの遊び方を知らなかったから、友達に見せびらかしたり、弟に自慢したりするためだけに、カードのお金をせびっていたんだ。それがきっかけで収集癖がついたというかね。その後、”遊戯王”、”マジック・ザ・ギャザリング” へと進んだんだ」

トレカの醍醐味とは何でしょう?
「一緒にプレイする仲間さ。コマンダー形式をプレイするので、だいたい4人組になる。確かに勝つために、できるだけ攻撃的になるゲームもあるけど、たいていの場合は、できる限り非常識なやりとりをしようと思っているんだ。テーブルで誰も見たことのないようなクレイジーなことが起こるのであれば、喜んでゲームに負けるよ。職場の Discord では、デッキのアイデアやルール、トレードなどについてみんなで話している。一緒にいて楽しいコミュニティだよ」
これから、ネットゲームやトレカ、テーブルトークRPG を始める人たちにアドバイスは?
「僕はストーリーを語るのが好きで、即興で人を笑わせるのが好きなんだ。僕がプレイを始めたのは、みんなで貢献できる方法で、お金もかからず、友達と面白い話をしたかったから。初めてプレイする人は、恥をかきたくないとか、オタクになるのが心配とか、いろいろな不安を抱えているし、それは理解できる。キャラクターを演じる “ということは、演じたことがない人” にとっては怖いことなんだよね。地元のゲームショップのイベントに行くのは、安全で歓迎される空間である限りオススメだよ。そこにいるほとんどの人は、たいてい新しい人にやり方を教えることにとても熱心で、理解を示してくれるはずさ」
音楽世界も同様に、初心者やバンドに寛容であるべきでしょう。
「人々はレコードを注文するべきだと思うし、好きなバンドから何かを受け取り続けるべきだと思う。音楽業界は今、バンドがツアーに出られなかったり、ツアーに出ても大赤字だったりと、良い状況ではないので、できる限りバンドをサポートし、クールな音楽を聴くべきだと思うよ」

参考文献: Level Up: The World Is Quiet Here’s Tyler Dworak on Video Games, Card Games, and RPGs

Interview with Tyler Dworak of The World Is Quiet Here

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SANGUISUGABOGG : HOMICIDAL ECSTASY】


COVER STORY : SANGUISUGABOGG “HOMICIDAL ECSTASY”

“A Chuck Jones or Tex Avery approach, where we rip out entrails and we’re jumping rope with them.”

HOMICIDAL ECSTASY

Devin Swank は SANGUISUGABOGG が笑われることを気にしてはいません。オハイオ州コロンバスのフロントマン(そして時折スタンダップ・コメディアン)は、デスメタルのピエロ的な側面、道化役を強く意識しています。9月にエリザベス2世が亡くなったとき、彼はファンのお気に入りである “Dead As Shit” をステージ上で彼女に捧げ、SANGUISUGABOGG のミームを煮詰めた自虐的な Instagram アカウントを運営しています。ソーシャルメディアの誰かが、バンドの増え続けるTシャツ・デザインのストックをぼろくそに言ったときには、彼らの Encylopaedia Metallum のジャンルを “マーチ・コア” と変更。血みどろにこだわった歌詞も、怖いというより喜劇の匂いがします。
「俺はこれを面白いことだと思っている。トムとジェリーやロードランナーのチャック・ジョーンズのようなアプローチで、内臓を引きちぎって縄跳びをするんだ」

オハイオの悪名高い、境界を押し広げる、吸血デスメタルの SANGUISUGABOGG は、CANNIBAL CORPSE, MORTICIAN, GWAR, DETHKLOK といったビジュアルやステージにも拘った先達からインスピレーションを得て、90年代初頭のアクションコメディ “Sgt. Kabukiman N.Y.P.D” からカブキマン軍曹を招集し、ホラー・コメディのセンスで、妥協のない、率直で、強烈なデスメタルを作り上げています。
自称ホラー映画の狂信者で、10 歳のときに両親に引きずられて劇場でリングを見に行ってトラウマとなったSwank。トロマ映画とミュージック・ビデオでのコラボレーションは、BOGGブランドを確立することにつながりました。
「トロマと一緒に仕事をするのは本当にクールだったね。それは俺たちの夢のようなものだった。バンドを結成する前から、俺たちは皆巨大なトロマヘッドのようだった。トロマが忙しくしていなかったら、今もトロマと一緒に仕事を続けていただろう。彼らは今、”トキシック・アベンジャー” のリブートに取り組んでいるからね。エクストリーム・ミュージックとホラーの間には間違いなく境界線がほとんどなくて、両者とも視覚的にも音響的にも非常にインパクトがあり、人々に語りかけ、人々を魅了する。そうやって多くの時間を一緒に過ごして、脳が地獄にワープして戻ってくるように笑い合っているんだ」

同時に、Swank と彼のバンドメンバーは、デスメタルのテクニックにも専念しています。「俺たちは自分たちの音楽性、演奏、そしてどれだけ一生懸命に働くかをいつも真剣に考えてるんだ」
つまり、面白いバンドであることとコメディ・バンドであることの間には明確に違いがあって、SANGUISUGABOGG は後者と間違われることを望んでいないのです。”Homicidal Ecstasy” は彼らにとって2枚目のフルアルバムで、ここにはしっかりと彼らの旗が聳え立っています。ニューシングル “Face Ripped Off” には、JESUS PIECE の Aaron Heard がゲスト・ボーカルとして参加していて、その点でも彼らの活動がシーンに認められつつあると伝わるでしょう。
「俺たちには証明したいことがあったんだ。今回はもっと真剣に取り組んだし、その上、何かをまとめるための時間があったから、より多くの心を込めたんだ」
SANGUISUGABOGG は、FROZEN SOUL, UNDEATH, NECROT, TOMB MOLD, SKELTAL REMAINS, GATECREEPER といったレーベルメイトの北米デスメタル・バンドと共に、”NWOOSDM”、オールドスクール・デスメタルの旗手としてリリースを独占しています。
そして Swank は、OSDMを新しい世代の耳へと届けるムーブメントの一部であることを誇りに思っているのです。ちなみに、FROZEN SOUL と SANGUISUGABOGG は過去に、難読バンドロゴ対決で戦ったライバルでもあります。
「若い人たちに受け入れられているこのスタイルのデスメタルの先駆者になるために、全員が同時に成功を収めたのはクールなことだ。FROZEN SOUL と UNDEATH のメンバーは親友のようなものだ。みんなお互いをサポートし合っているんだ。UNDEATH とは2回ツアーをやったし、FROZEN SOUL と自分たちが同じレーベルになったことで、これから一緒にいろいろなことをやっていくことになると思う」

SANGUISUGABOGG が最初にシーンに登場したのは、2019年の “Pornographic Seizures” で、1日で録音、トラッキング、ミックスされたプリミティブ・デスメタルの電撃的作品でした。Bandcamp のジャンル・タグを調べれば誰もが知っているように、そうした何処の馬の骨ともわからない地下作品は毎週何十枚もリリースされています。しかし、”Pornographic Seizures” は、そうした有象無象の頂点に立つことができたのです。
「アンダーグラウンド・サーキットで話題になるだろうと思っていた。もちろん、大きなメディアに、この作品が取り上げられるとは思っていなかった。でも、頭の片隅には、これが話題になるようなクールなものになるかもしれないし、ライヴでもクールなものになるかもしれないと思っていたんだ。EP がリリースされる前にガレージ・ライブをやったんだけど、リリースされた瞬間に NPR に取り上げられたんだ。子供の頃に尊敬していたミュージシャンたちが、この曲について話しているんだ。これは想像していたよりもずっと大きなことだと思ったね。最初からとても感謝していたし、謙虚な気持ちでいたよ」
“Pornographic Seizures” がネットで話題になった直後、SANGUISUGABOGG はツアーを開始します。すると最初のツアーで、メタル界の重鎮 Century Media の社員が、レーベルのA&R担当者にEPを渡すと連絡してきたのです。しかし、少なくとも最初はうまくいきませんでした。
「彼らのA&Rからメールが来て、本当に悪口は言わなかったけど、ちょっと馬鹿にしていて、最初は興味がなかったんだ。それで、無知でふざけた感じで、EP のレコードを出すときに、Century Media の悪口を書いたステッカーを貼り付けたんだ。彼らがメールで言っていたことを引用して、”From The Posers That Brought You Deez Nuts” (君にタマキンをもたらすポーザーより) と書いたんだ。それを売ったら、みんなが大喜びして、いつの間にか彼らのA&Rがそれを知って、”お前たちのことを誤解していた” って言ってきたんだよ」

しかし、Century Media とのレコード契約のインクが乾く前に、バンドには嵐雲が立ちこめはじめます。まず、COVID-19 の大流行でライブハウスが閉鎖され、予定されていた BLACK DAHLIA MURDER, CATTLE DECAPITATION, KNOCKED LOOSE とのツアーが頓挫。その後すぐに、結成当初のギタリスト Cameron Boggs とバンドの他のメンバーとの間に距離ができ始めます。Boggs は Century Media からのデビュー作 “Tortured Whole” には参加しましたが、それが SANGUISUGABOGG への事実上の最後の貢献となりました。
「彼は約7ヶ月間、俺らと一緒に練習することはなかった。パンデミックの後に戻って最初のツアーをしようとした時に、正式に脱退するとメールを送ってきたんだ。その時、彼は額にアルバム名のタトゥーを入れたんだけど、そこからはもう会わなくなったよ」
バンドの創設者 Boggs は高校時代には友達がゼロで、クラスでゲイの子ということで激しくいじめられていました。学校生活は悲惨でしたが、彼と Davison は SUICIDE SILENCE から BLOOD BROTHERS までを楽しみ、最終的には TRAPPED UNDER ICE や COLD WORLD のようなハードコア・バンドまで、その足跡を辿っていきました。Boggs は小学4年生からギターを弾いていて、高校を卒業するとハードコアの中に受け入れるコミュニティーを見つけ、その後、ユースクルーハードコア、スクリーモ、テクデス、ブラックメタルなど、ヘヴィなスペクトルのあらゆるバンドでプレイするようになりました。

彼らが始めたベッドルームのブラックメタル・プロジェクトは、最終的にデスメタル・バンドである SANGUISUGABOGG へと変化していきました。当初は Boggs と Davidson の2人組で活動する予定でしたが、ボーカルが必要だと考えた Boggs が Facebook で Swank と出会い、1週間後にデモを録音しに来るように依頼。すぐに意気投合し、最初のセッションの帰りの車の中でミックスを聴きながら、曲が終わるたびにお互いに顔を見合わせ、「ヘヘヘ、シックだね」と、さながら “Beavis and Butt-Head” のように笑いあっていたのです。
Boggs の短期間のブラックメタル・バンドでのステージネームはSanguisuga(ラテン語で吸血鬼の意味)でしたが、”bog” がイギリスのスラングで “トイレ” を意味することを知り、このプロジェクトでこの2つを組み合わせることにしました。つまり、吸血トイレ。最初から彼らのジョークは冴え渡っていたのです。
Boggs の脱退は短期的には事態を複雑にしましたが、新しく改良された SANGUISUGABOGG への道を開くことにもなりました。ベースを担当するために最近加入した Ced Davis が、ギターにスライド。ベースは MUTILATRED の Drew Arnold が担当することに。そして、バンドの共同創設者であり、”Tortured Whole” のほとんどの曲の作詞者でもあるドラマーの Cody Davidson が存在感を増して、ラインナップはさらに充実しました。Swank によると、SANGUISUGABOGG は2022年に125回という異常な数のライブを行ったそう。それは、大胆な新しい構成から始まりました。
「俺たちはただ、何かバカなことをやろうぜって感じだったんだ。俺の好きなバンドのひとつにAGORAPHOBIC NOSEBLEED がいるんだけど、彼らにはベースがいなかったんだ。彼らはギターをベース・キャブに通すということをやっていた。PIG DESTROYER もそうしていたな。だから、”2人のギタリストを使って、俺らが聴いているデスメタル・バンドが得意とするような泥臭いトーンでやってみよう” ということになったんだ。そして、(2022年初頭の)NILE と INCANTATION のツアーで試してみることにして、そこからは、これにこだわろうということになったんだ」

“Homicidal Ecstasy” でバンドが捉えた腹の底に響くような低音の音色は、その実験の成功を裏付けています。
「ライブのサウンドをできるだけ再現したかったんだ。サブ・ウーファーやローエンドの下にあるベースの音を再現している。でも、これはギターなんだ。一方で、ベース・ソロも入っていて、そのサウンドは “甘い” んだよな」
“Homicidal Ecstasy” の音の病は、そのベース音にとどまりません。Swank は、このアルバムがバンドにとってこれまでで最も協力的な作品であると自負していて、メンバー全員がリフの製造を担当しています。ゆえに、スタジオで制作された前作とは異なり、”Homicidal Ecstasy” は素晴らしいライブバンドの作品のように聴こえるのです。彼らは過去1年半、デスメタルの王道、ハードコアの伝説、そしてハングリーな若手バンドとの共演を果たしています。そのすべてが反映されているようなサウンド。”Homicidal Ecstasy” は、その打撃効果に一途でありながら、グルーヴ、スピード、そしてメロディーと、さまざまな方法で豊かさを実現しているのです。
“Homicidal Ecstasy” は歌詞やテーマの面でも大きな進歩を遂げていますが、これは Swank がようやく歌詞を書くのに十分な時間が取れるようになったため。連続殺人犯のドラマ “デクスター: 警察官は殺人鬼” に触発されたアイデアから始まったこの作品は、デスメタルにおける殺人に対する執着を一種の麻薬のように描いています。
「猟奇殺人はハマってしまうようなもの。多幸感があって安心できるもの。必要で切望するもの。長い目で見れば自分を傷つけるもの。だけど、80年代にティッパー・ゴア(アル・ゴアの元妻で、PMRCを率いて、暴力的あるいは性的に露骨な歌詞が含まれる音楽を批判) に狙われていたらと思うと、フランク・ザッパやディー・スナイダーと一緒に、このテーマがいかに深刻でないかを訴えていただろうからね」

確かに、”Black Market Vasectomy” や “Necrosexual Deviant” といった楽曲は挑発的ではあるものの、基本的に笑いがあって、そこから現実の猟奇的殺人が起こるようには思えません。一方で、シリアスなテーマも存在します。
「アルバム全体のテーマはすべて死に関係していて、そのエクスタシーは多幸感のようなもの。物質やドラッグに関係している可能性もある。死は人を引き込むもの。俺たちが ”A Lesson in Savager” と呼んでいる曲があってこれは、一生殺しをやめられない男のことを皮肉を込めて歌ったもの。まるで中毒のようだ。
同じ中毒でも、現実的なドラッグにも再発のようなものがあるし。自分自身や、自分ををとても愛し、気にかけてくれる人々の周りに大きな影響を及ぼす。俺を育ててくれた祖母を亡くしたとき、俺はドラッグで自分をすり減らし壊すか、彼女のために生きるか選択を迫られた。ありがたいことに、俺は後者を選んだけど、”Mortal Admonishment” “死への戒め” では、そうしなかったらどうなるかという状況を書いた。この曲を書いたのは、いつも俺たちに手を差し伸べてくれる人がいるということを人々に知らせるため。なあ、俺らはいつでも君のそばにいる。何かを乗り越えるためにバンドや音楽が必要な場合は、俺たちがそのバンドになろう。喜んで力を貸すさ」
“Homicidal Ecstasy” が新しいファンを獲得するならば、それはバンドが自分たちの方式を破ってやり直したからではなく、自分たちの方式をより強固にするために一緒になったからであるはずです。
「俺たちは両極端なバンドなんだ。変なロゴと変な名前のバンドだから、みんな俺らのことをどう考えているのかわからない。でも、”Homicidal Ecstasy” を他の作品と比較して聴いてみると、俺らがデスメタルにより多くの愛情を注いでいることがわかる気がするんだ。もっともっと “俺ら” が入っているからな」

参考文献: STEREOGUM:Band To Watch: Sanguisugabogg

REVOLVER: SANGUISUGABOGG

METAL INJECTION:SANGUISUGABOGG: Trauma, Troma Entertainment & The Horrors Of Homicidal Ecstasy

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GGGOLDDD : THIS SHAME SHOULD NOT BE MINE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GGGOLDDD !!

“It’s Something I Need To Remind Myself Of Daily. That It Wasn’t My Fault And That All The Shame And Guilt That I Felt Shouldn’t Be Mine. But Should Be Felt By The Perpetrator.”

DISC REVIEW “THIS SHAME SHOULD NOT BE MINE”

「私たちの歌詞は、いつも現実をテーマにしているの。実際の現実のことを書けるのに、ファンタジー的な暗さや悪のような題材を探す衝動に駆られないんだ。それが、私たちの音楽の、辛辣で時に直接的なサウンドにぴったりだと思うのよ」
辛く抑圧的な現実からの逃避場所。目の前の痛みを忘れられるファンタジー。ヘヴィ・メタルがそうして、多くの人の心を癒し救っているのはまちがいありません。バンドの義務は演奏と作曲で、政治的発言や不快な真実を突きつける必要はないと考える人も多いでしょう。それでも、メッセージのあるバンドは、現実と向き合うアーティストは時に、人の心を激しく揺さぶり、音と言論の組み合わせが超常現象を引き起こすことを証明します。オランダの GGGOLDDD がヘヴィ・メタルに込めたメッセージはただ一つ、”合意のない性交をするな!”
「”この罪悪感は私のものじゃない”。それは私が毎日自分に言い聞かせるべきことでもあるの。レイプの被害を受けたのは私のせいではない。私が感じたすべての恥や罪悪感は、私のものであってはならないということをね。それは加害者が感じるべきものなのよ」
GGGOLDDD のメッセージは、痛々しい実体験に基づいています。バンドのフロントを務める Milena Eva は19歳のときにレイプされ、17年間も羞恥心と罪悪感を持ち続けてきました。
それは、彼女がバンドで作る音楽にも時折反映され、波状的に表面化しながらも、決して沸騰することはありませんでした。しかし、パンデミックの停滞期に時間を持て余し、思考が巡る中で彼女のトラウマは完全に噴出し、それが “This Shame Should Not Be Mine” 制作の原動力となったのです。このアルバムは、ただ被害者意識に浸るのではなく、むしろ背筋を伸ばし、身をもって罪の意識を感じさせるほど激しい怒りと非難を秘めることになりました。
「アルバムを書くことが必ずしもセラピーとは言えないと思うけど、そうすることでカタルシスを感じ、あの出来事と真剣に向かい合うことはできた。どちらもセラピーの説明として使える言葉だとは思うのよ。自分があの出来事をどう感じ、何を経験してきたかを言葉にする助けにはなったのよね」
メタルにおいて歌詞はしばしば後回しにされがちですが、”This Shame Should Not Be Mine” では歌詞を素通りすることはできません。性的暴行。そのトラウマを背負った羞恥と罪の意識の人生にスポットライトを当て、婉曲や比喩で和らげることはありません。”Spring”では、死んだようなモノトーンの目で “臭いを消してほしい/皮膚が剥がれるまでシャワーを浴びたい” とつぶやき、”Strawberry Supper” では “オマエは私を太陽と呼び、私を引き裂いた” とレイプ犯に直接語りかけます。そして、”Notes on How to Trust “では、同じ苦痛を再び経験するリスクを冒さず、どうすれば他人にに心を開くことができるかを考えていきます。
音楽を通してトラウマに対処し、トラウマを曲作りに反映させる。LINGUA IGNOTA は、この点で GGGOLDDD の良き理解者でしょう。しかし、これほどまでに荒々しく、直接的な方法でトラウマを扱っているバンドはほとんどなく、Milena の歌詞は詩というよりも、棘の鞭や鋭いナイフのような物理攻撃に特化した武器にも思えます。
この容赦のない怒りの津波は、オルタナティブ、インダストリアル、ブラック・メタルの境界で嘶くその音楽にも反映されています。そしてこの荒涼としたテーマの完璧な背景となりながら、メロディックなフックと反復の魔法によって、このアルバムは頭にこびりつくような麻薬にも似た中毒性を帯びていきます。
もちろん、”This Shame Should Not Be Mine” は、楽しいアルバムではありません。万人受けするようなアルバムでもないでしょう。ただ GGGOLDDD は、近年のメタルらしい不協和音や異質な曲の構成によってではなく、楽曲を難解にしないことによって、アクセスを容易にすることによって、むしろ意図的に不快感を与えているのです。恥や罪、痛みや長い苦しみを加害者の胸の奥に深く、永遠に刻み込むかのように。
今回弊誌では、GGGOLDDD にインタビューを行うことができました。「鎧のコンセプトは、”This Shame Should Not Be Mine” の内容を可視化することだった。この鎧は、私たちがいつも持ち歩いているもの。そして、自分と他者との間に残る、盾のような境界線」 日本の至宝、MONO とのツアーも決定!どうぞ!!

GGGOLDDD “THIS SHAME SHOULD NOT BE MINE” : 10/10

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COVER STORY 【SLEEP TOKEN: EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW】


COVER STORY : SLEEP TOKEN “EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW”

Enigmatic Collective climbs to the top of the world in just two weeks!

SUMMON. RITUAL. WORSHIP.

時折、ヘヴィ・ミュージックの世界では突如として大化けするバンドがいますが、ニューシングル “Granite” をリリースしたばかりの謎のバンド SLEEP TOKEN の短期間での大化けぶりはこれまでに記憶がないほどの “バイラル” です。しかし、なぜこれほどまでに皆が彼らのことを話題にしているのでしょうか?
最近のリスナーの急増や新しいファン、評論家の流入がどうであれ、SLEEP TOKEN はまったく新しいバンドではありません。しかし今、世界中の音楽コミュニティが彼らの話題でもちきりです。わずか2週間の間にリリースされた4曲で、バンドはSpotifyの月間リスナー数100万人を突破しました。2週間でSpotifyの月間リスナーが4倍に。
4曲がリリースされる以前は、20万人強のリスナーだったことを考えれば、これは明らかに驚異的なジャンプです。さらに、2週間前の楽曲はすでに YouTube で100万回以上再生されており、最新シングル “Graniteも、20万回近く再生されているのです。しかし、この新たな快進撃は蜃気楼のようなものではなく、今や実体を伴った現象だと言えます。

SLEEP TOKEN の成功は、何年もかけて作られたもの。2016/17年にプログレッシブ・メタル/Djent のとポップやR&Bといった多様な影響を融合させたモダン・メタルで初めて登場し、”Fields Of Elation” や “Nazareth” は耳の早いリスナーたちの注目を集め始めます。しかし、このユニークで謎に満ちた集団が本当に軌道に乗り始めたのは、バンドがデビュー・フル・アルバムからの新曲を垂れ流し始めた2019年になってからでした。
SLEEP TOKEN を “ミステリー・バンド” “エニグマティック” と呼ぶのは、彼らに関する情報があまり出回っていないから。メンバーは儀式的な仮面をつけ、服装も隠しているため、その素性は明らかにされてはいません。わかっているのは、バンドのリーダーが Vessel という名前で活動していることと、 “Sundowning”(2019), “This Place Will Become Your Tomb”(2021)という2枚のフルアルバムがあることだけで、後者は、様々な媒体で2021年のベスト・アルバム・リストに選出されています。

SLEEP TOKEN のアイデンティティ、その神秘性と、複数の異なるスタイルの音楽を融合させた非効率性と異常性の両方を利用したことは、成功の助けとなりました。なぜなら、そうして複数の市場からの注目を集めることは、新人バンドにとって名声を得るための最も手っ取り早い方法のひとつであり、匿名性はファンによる “詮索” というアミューズメントを生み出します。
デジタル時代には匿名性の美しさがあります。私たちの多くは、知り合いが1~4つの SNS で常につながっていて、恐ろしいほどの勢いで切り替えながら憧れのセレブリティや、架空のヒーローについてあらゆることを学びます。私たちは、消費するために情報をノンストップで消費し、自分の行動を疑うことはありません。
SLEEP TOKEN の信奉者たちは、その手がかりを探し求めています。コヴェントリー在住のファン Chris が立ち上げた Discord サーバーで、彼らはバンドの歌詞、アートワーク、MV、グッズを丹念に調べ、ダ・ヴィンチ・コードのメタル版といった風態で隠れた意味を読み解こうと試みているのです。
「ウェブサイトで Vessel のインタビューを読んで、もっと知りたくなったんだ。Reddit でバンドのコミュニティがないか見てみたんだけど、当時はなかったから作ることにしたんだよ」
現在、そのメンバーは900人を超え、バンドが残した暗号を読み解くことに必死です。Tシャツのデザインに描かれた数字列が、鯨の死骸が海底に落ち、生態系全体の栄養源となる “鯨落ち” の座標であることを発見しました。
「バンドが提示する隠されたアイデンティティと世界観が好きだ。音楽だけでなく、全体的な体験ができるんだ」
アルバム “This Place Will Become Your Tomb” は、腐敗した鯨とそれを餌とする動物たちのヘヴィなイメージを象徴としています。死の中の生、つまり Vessel が頻繁にリリックで取り上げるトピックと永遠の繰り返しを表現しています。
Discord は、バンドがその芸術を通して何を探求しているのか、あるいはしていないのか、魅力的な洞察を与え続けています。
「何事も永遠には続かない。それまで我々は崇拝するのだ」と Chris は淡々と語ります。

神話に関する議論とは別に、Discord は人々を結びつける社交クラブにもなっています。「Discordのコミュニティは素晴らしい」と、ニューヨーク在住のファン、BluKittie ことヴェロニカは言います。
「世界中にファンがいて、バンドに対する同じ愛と情熱を分かち合っている。私たちはいつもお互いに助け合っているの。昨年、私の父が亡くなったんだけど、その辛い時にコミュニティのメンバーが助けてくれたし、今でもそうよ。そこで仲間に出会えたことが、とにかく幸せなの」
つまり、SLEEP TOKEN は、その秘密主義にもかかわらず、というよりも秘密主義であるがゆえに、急速にカルト的なセンセーションを巻き起こしつつあるのです。伝説の中心は Vessel ですが、SLEEP TOKEN は常に自分たちを “集団” と表現し、経験豊富なミュージシャンたちの共同作業を示唆し、全員が芸術に貢献していることを語っています。
SLEEP TOKEN のケースでは、SNS上の反応の大きさも手伝って、新曲は TikTok で爆発的にヒットし(TikTokは彼らが前作をリリースしたときよりも巨大なプラットフォームとなっている)、バンドが SNS で常にトレンドとなることで、見ず知らずの人たちがその騒ぎを目にしてファンとなる雪だるま式の効果もありました。

インターネットと様々なソーシャルメディアの力によって、無名のバンドが一夜にして一般大衆に浸透する時代になったことは間違いないでしょう。SLEEP TOKEN を新しいバンドだと思い込んでいるメディアもあるかもしれません。しかし重要なのは、多くのバンドやミュージシャンがそうであるように、この新たな成功は何年もかけて作られたものなのです。結局、時代がどう変わろうと、バンドをどのように発見するかはあまり重要ではないのかもしれませんね。昔からのファンであろうと、SLEEP TOKEN の活動を初めて知った人であろうと、バンドが成功を収めることは常にクールであり、新しくてユニークな体験とサウンドを提供するバンドであれば、なおさら嬉しいことですから。
バンドへの期待値は、今後も上昇傾向にありそうです。Genius によると、具体的なリリース日は明らかにされていないものの、”Take Me Back to Eden” というタイトルのアルバムが進行中とのこと。
Spinefarm Records のウェブサイトでは、”Chokehold” と “The Summoning” について、「次に何が来るかは時間だけが教えてくれるが、確かなのは、それが慣習に縛られることはないだろう」と書かれています。

では、SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。
「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、アヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語り、このバンドと同じレーベルに所属しています。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」
SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタルファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。

「ブラック・メタルと似ていて、マスクと謎めいた雰囲気が全体を引き締めているんだ」と Ihsahn は説明します。「そうしたシアトリカル、演劇的な要素がなければ、EMPEROR は今のような大きな存在にはならなかっただろうからね。そうやって、芸術とアーティストの間に明確な距離と空間が生まれる。デヴィッド・ボウイのインタビューを見ても、我々は彼を知っているようにはまったく感じられない。彼の作るアートはただ提供されるものであり、我々はそれを理解しようとするだけでよかったのだよ」
謎解きといえば、SLEEP TOKEN が次にどのような方向に進むのか、誰も知らないし、教えてくれようともしない。しかし、それはこのバンドが常にそうであったように、リリースのたび、ファンはその謎を解く楽しみを持つことができるのです。
「2ndアルバムを聴いたとき、彼らがどこへ行こうとしているのか全くわからなかったから、私の中では発展の種がたくさん生まれたんだ」 と Ihsahn は目を細めます。「今はより成熟し、明らかに彼らが目指しているものがある、でもそれが何であるかは言えないんだ……」

ライブでサポートを務めた AA Williams も SLEEP TOKEN に心酔する一人です。SLEEP TOKEN と同様、彼女の音楽はオルタナティブ、ポップ、ソウル、メタルと多岐に渡りますが、メタル世界にも受け入れられています
「私たちはとてもうまく調和していると思うわ。ポップな音楽とヘヴィな音楽の両方を、どちらかに偏ることなく追求できるアーティストを見るのは素晴らしいこと。ライブでは、そのダイナミクスに命が吹き込まれ、観客はまるで教会に行っているような気分になる」
SLEEP TOKEN の正体を明かそうとした人はいるのでしょうか?
「彼らのプライバシーを侵害しないように、また、アートを特定の方法で表現するという選択を尊重するようにしたいもの。もし、誰ですか?と聞かれたら、ロバート・デ・ニーロと答えよう」
Redditでは、このバンドの登場を GHOST に例えている人もいます。
「SLEEP TOKEN は新世代の GHOST のようなものだと思う。GHOST が過ぎ去った世代のメタル・スタイルと今の世代のポップセンスを融合させたように、SLEEP TOKEN は今日のメタル・サウンド(主にメタルコアやDjent)と近年流行しているポップ・サウンドを見事に融合させたんだ。そして、それがとてもクールなんだよ。だって、机の上ではうまくいかないはずなのに、実際にはうまくいくんだもの」

事実、”The Love You Want” や “Alkaline” に封じられた EDM とシンフォニック・メタルコアの婚姻は10代のTikTokユーザーにとってたまらない取り合わせでしょう。 ポップなフックを持つヘヴィ・ミュージックは確かに新しいものではありませんが、SLEEP TOKEN は誰よりも大きな力でジャンルの境界を溶かしています。そして、ヒップホップからプログ・メタルまであらゆるものを取り入れ、すぐに愛されるシングルをサプライズ的に散りばめながら、最も予想外の場所に力を見出す反抗的なメタルの旗をかざしているのです。
Redditの別のユーザーは、”The Summoning” に “衝撃を受けた” と述べ、このリスニング体験を”クソ超越的な経験” と驚きをあらわにします。また、Vessel が少し変わったボーカルアプローチをとっていることを指摘し、彼のスクリームを賞賛する人も多いようです。
「コーラスのバックで鳴っているあのうっすらとしたビープ音は、私を必要以上に幸せにしてくれる」と、別のファンはRedditで “Chokehold” について言及しています。「このバンドの、純粋なヘヴィ・ミュージックも好きだけど、ダークでポップな “ベイビー・ミュージック” を作ったときに本当に輝きを増すんだ」
SLEEP TOKEN を “Worship” “崇拝” するファンにとって、ライブはまさに “Ritual” “儀式” だと言えます。静まり返る会場で、バンドの神秘性の裏にあるメッセージや隠された意味、どんなサインでもいいから受け取りたいと、全員の目が仮面とマントをまとったシンガーに注がれます。Vessel は言葉というゴスペルの代わりに感謝の印に両手を合わせ、何も語らないことで全てを語ろうとし、皆の心を揺さぶります。
かつて Vessel は自分たちの音楽はすべて “スリープ” 、つまり何世紀も前にルーツを持つ眠りについた謎の神への奉仕であると語っています。
「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」


参考文献: LOUDWIRE BLUNT  THE NEW FURY

LOUDERSOUND

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SYMPHONITY : MARCO POLO: THE METAL SOUNDTRACK】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LIBOR KRIVAK OF SYMPHONITY !!

“I Still Had In Mind That Marco Polo Should Be a Strong Power Metal Album At The First Place.”

DISC REVIEW “MALCO POLO: THE METAL SOUNDTRACK”

「GAMMA RAY の “Land of the Free” は、パワー・メタルが沈んでいた時代、トンネルの先に光を与えてくれたんだ」
愛と勇気とファンタジーのパワー・メタルはこれまで、何度か絶滅の危機に瀕してきました。90年代に世界を覆ったダウナーな霧は、チェコの英雄 Libor Křivák が語るようにもちろんこのジャンルを疲弊させました。ただし、後にシンフォニックなオーロラが生き残ったパワー・メタルの勇壮なメロディまでも抱きしめた時、私たちはその美しさの裏で画一化というそこはかとない恐怖もまた、感じていたのです。
「最近、メタル・オペラはたくさんあるけど、本物のパワー・メタルのサウンドトラックは今まで誰も作っていないから、このサウンドトラックのアイデアは気に入っているよ。”Marco Polo” はパワー・メタルとしての力強さを第一に考えていたんだ」
チェコという西洋と東洋の交差点に居を構える SYMPHONITY が、マルコ・ポーロの東方見聞録をアルバムのテーマとして選んだのは、ある意味自然な流れだったのかもしれません。そうして、マルコの足跡を辿ったこのアルバムには、第三世界が勃興した現代のヘヴィ・メタル世界を投影するかのように、様々な国のミュージシャン、伝統音楽、伝統楽器が登場します。当然、バンド名が表す通り、この作品はたしかにオペラのような荘厳な “シンフォニー” を全身に纏っています。
ただし、それでも、このアルバムはワールド・ミュージックにも、シンフォニックなオペラにも、全く飲み込まれてはいません。重要なのは、パワー・メタルとしての雄々しきカタルシス、絶対的な扇情力。かつて、GAMMA RAY が “Land of the Free” で見せつけたパワー・メタルの自由、本物のメタル・オペラを SYMPHONITY はモリコーネに敬意を表しながら受け継いでいきます。Kiske と Kai のダブル・シンガーだったあのアルバムと同様に、2人の歌い手が丁々発止その個性を漲らせながら。
「この物語は、マルコが父や叔父とともに通過した古代の国々。そのエキゾチックな楽器やハーモニー、音階を発見するとてもユニークな機会を与えてくれたんだ。どんな音楽にも、それぞれの魔法があるからね。例えば、中東の音楽にはたくさんの音階がある。他にも様々な音楽が登場する。チベットのホルンは人間の足の骨でできているし、モンゴルの喉歌はとても独創的だよ」
とはいえ、SYMPHONITY が培ったジャーマン・メタルの骨子は、ホーミーや馬頭琴、人骨のチベタン・ホルンにウード、ダルシマーといったシルクロードの民族楽器で巧みに肉付けされ、リスナーを30年の果てしない旅路へと誘います。そうして、シンフォニックであると同時に豊かな質感を備えたこのアルバムは、最終的に重くメタルらしいリフと向き合うことでマルコの苦難を巧みに表現しているのです。
ある意味で、”Malco Polo” はシンフォニックとパワー・メタル真の橋渡しと言えるのかもしれませんね。もちろん、マルコ・ポーロの母国イタリアの至宝 RHAPSODY、そしてエンニオ・モリコーネに対する愛情をも十二分に示しながら。風格と威厳、そして逞しさを備えたメタル・サウンドトラックの堂々たる帰還。
今回弊誌では、ギターマスター Libor Křivák にインタビューを行うことができました。「君が僕たち以外のチェコ共和国のバンドを知らなくても不思議はないんだ。チェコではメタルはとても人気があって、Masters of Rock や Metalfest のような大きなフェスティバルも開催される。だけど、ほとんどすべての国内のバンドの問題は、チェコの歌詞を使っ”ビール・メタル” のような音楽を演奏していて、海外で人気が出るチャンスがないことなんだ」 どうぞ!!

SYMPHONITY “MARCO POLO : THE METAL SOUNDTRACK” : 10/10

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THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2022: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2022: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1. MEGADETH “The Sick, The Dying…And The Dead!”

「人生は厳しい。勝ち組になるか、そうでないか。人は敗者と呼ばれるべきではないと思う。でもな、2位になろうとすることは、敗者ではないんだよ。常に自分を高めようと努力する限り、完走した者は勝者なんだ。それはとても簡単なこと。人生を1%改善するだけで、3ヶ月ちょっとの短い努力で、仕事ぶりでも、大切な人に対してでも、子供に対してでも、まったく違う人間になることができる」
MEGADETH は復讐と共にある。苦難の度に強くなる。長年 MEGADETH と Dave Mustaine を追い続けたリスナーなら、そうした迷信があながち世迷いごとではないことを肌で感じているはずです。METALLICA からの非情なる追放、薬物やアルコール中毒、Marty Friedman の脱退、バンドの解散、Drover 兄弟を迎えた新体制での不振…実際、厄災が降りかかるたびに、MEGADETH と Dave Mustaine は研ぎ澄ました反骨の牙で苦難の数々をはね退け、倍返しの衝撃をメタル世界にもたらし続けています。
逆に言えば、MEGADETH という船が順風満帆であることは稀なのですが、2016年の “Dystopia” 以降の期間は、彼らの波乱万丈の基準からしても、非常に荒れた展開であったと言えるでしょう。まず、”Dystopia” でドラムを担当し、当初はアルバムをサポートするためにバンドとツアーを行っていた Chris Adler が、2016年半ばに当時は本職であった LAMB OF GOD とのスケジュールの兼ね合いで脱退せざるを得なくなります。後任には元 SOILWORK の Dirk Verbeuren がヘッドハントされました。
そうして2019年、次のアルバムの制作が始まった矢先、Dave Mustaine は咽頭癌と診断され、50回以上の放射線治療と化学療法を余儀なくされます。無事、寛解にはいたったものの、その後 Covid-19 の大流行が起こり、アルバムの進行はさらに遅れます。決定打は2021年春。長年のベーシストで Mustaine の右腕であった David “Junior” Ellefson が、”性的不祥事” を起こしてしまうのです。バンドで最も品行方正、神父にして良い父親と思われていた Ellefson の性的なスキャンダル。その影響は大きく、バンドはすぐに解雇という判断を下します。そうして、TESTAMENT などで活躍を続けるフレットレス・モンスター Steve Di Giorgio が彼のパートの再レコーディングを行うこととなりました。
このアルバムの制作にまつわるトラブルや苦悩の山を考えれば、MEGADETH のリベンジが倍返し以上のものであることは、ファンにとって容易に想像できるでしょう。そうして実際、Dave Mustaine は逆境をものともせず、12曲のスリリングで知的で瑞々しい破壊と衝動の傑作を携え戻ってきました。MEGADETH のリーダーのレジリエンス、驚異的な回復力、反発力を再度証明しながら。
「私はゲイのメンバーだ。性的アイデンティティが何であろうと、見た目がどうであろうと、何を信じていようと信じていまいが、すべてを受け入れるヘヴィ・メタル・コミュニティと呼ばれる場所で。ここでは誰もが歓迎されるんだ!」
メタル・ゴッド、Rob Halford のロックの殿堂入りスピーチです。Rob の言葉通り、ヘヴィ・メタルは抑圧された人たちの、孤独を感じる人たちの、社会から疎外された人たちの美しき、優しき逃避場所に違いありません。ただし、そうしてコンフォート・ゾーンにとどまるだけがメタルではないでしょう?ヘヴィ・メタルは進化し続ける音楽でもあります。冒険する音楽でもあります。
失敗を恐れて、快適さに呑まれて、MESHUGGAH がスラッシュ・メタルにとどまっていたら? ARCH ENEMY が女性ボーカルを起用しなかったとしたら?DEAFHEAVEN がピンクのアルバムを作らなかったとしたら? ZEAL & ARDOR が自分の出自に興味がなかったとしたら? きっと、メタルは今ほど色とりどりな世界ではなかったでしょう。
MEGADETH と David Mustaine が昨年証明した “ヘヴィ・メタルの回復力” は、もっと言えばメタルに宿った失敗をも抱擁してくれる寛容さです。そうやって失敗を重ねて、回復力を養って、前へと進んでいくこと。それはきっと、この暗くて、狭くて、息苦しい2020年代において、心の “ユースアネイジア” を防ぐ仄かな光なのです。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18203

2. FELLOWSHIP “The Saberlight Chronicles”

「僕たちにとってパワーメタルは、人々の気分を高揚させ、やる気を起こさせるのにとても有効な音楽なんだ。スピード感があって、エネルギーがあり、勇気や野心といったテーマも語れるから、世界に僕たちが望む変化を起こすには最適なジャンルだったんだよ」
皆さんはメタルに何を求めるでしょうか?驚速のカタルシス、重さの極限、麻薬のようなメロディー、華麗なテクニック、ファンタジックなストーリー…きっとそれは百人百様、十人十色、リスナーの数だけ理想のメタルが存在するに違いありません。
ただし、パンデミック、戦争、分断といった暗い20年代の始まりに、これまで以上にヘヴィ・メタルの “偉大な逃避場所” としての役割が注目され、必要とされているのはたしかです。MUSE を筆頭に、メタルへのリスペクトを口にする他ジャンルのアーティストも増えてきました。暗い現実から目をそらし、束の間のメタル・ファンタジーに没頭する。そうしてほんの一握りの勇気やモチベーションを得る。これだけ寛容で優しい “異世界” の音楽は、他に存在しないのですから。
「正直なところ、僕たちは自分たちが楽しめて、他の人たちが一番喜んでくれるような音楽を演奏しているだけなんだ。たしかに、パワーメタルには新しいサウンドを求める動きがあるんだけど、僕らの場合、曲作りは何よりもメロディが重要なんだ。結局、技術的なことって、ただミュージシャンとしての自分たちをプッシュしているだけの自己満足だからね」
特に、”逃避場所” として最適にも思えるファンタジックなパワーメタル。UK から彗星のごとく登場した FELLOWSHIP は1枚の EP と1枚のフルアルバムだけで、そのメタル世界の “モチベーター” としての地位を確固たるものとしました。2022年における、パワー・メタルとスラッシュ・メタルの華麗なる “回復劇”。それは、きっと時代に対するモチベーター、反発力としての役割を帯びているのでしょう。
そうして FELLOWSHIP は、このジャンルをただ無鉄砲に覆すのではなく、過去のパワー・メタルと現代のパワー・メタル最良の面を融合させ、未曾有の寛容で親しみのあるポジティブな波動を生み出しているのです。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18148

3. BLOODYWOOD “Rakshak”

「BLOODYWOOD の初日から俺たちは言っているんだが、メタルは楽しいものなんだ。いつも怒っている必要はないんだよ。よく、メタルは人生だと言われている。だから、喜んだり、悲しんだり、冷静になったりしてもいいんだよ。
俺らの曲が好きだという人からメッセージをもらったんだけど、そこには “でも、同性愛嫌悪や女性嫌悪に対するあなたの立場は?”って書いてあったんだ。俺はただ、”好きな人を好きになればいい” と言ったんだ。俺たちは、基本的にとてもオープンなんだよね。そういうメッセージを発信したいんだ」
BLOODYWOOD の広大な多様性の感覚は、”Rakshak” で完璧に捉えられています。ヒンディー語と英語の混じった歌詞、そして常に変化し続けるサウンドで、このバンドを特定することは非常に困難。彼らは亜大陸の民族音楽(といっても北部パンジャブ地方が中心)を使うだけでなく、メタルの様々な要素を取り込んでいるのですから。彼らの曲の多くには明確に Nu-metal のグルーヴが存在しますが、時にはスラッシュやウルトラ・ヘヴィなデスコアの攻撃をも持ち込みます。
「俺らを特定のジャンルに当てはめるのは難しいよ。曲ごとにサウンドが大きく変わるから、インドのフォーク・メタルというタグに固執するのは難しいんだ。ジャンルが多すぎて特定できないけど、インドのグルーヴと伝統的なインドの楽器、そしてもちろんヒップホップを取り入れたモダン・メタルというのが一番わかりやすいかな。ワイルドなアマルガムだよ。俺らは東洋と西洋の影響、その間のスイートスポットを探しているんだ。これは様々な香辛料を配合したマサラ・メタルなんだよ(笑)」
90年代、絶滅が近いとも思われたヘヴィ・メタル。しかし21世紀に入り、そのメタルの生命力、感染力、包容力が世界を圧倒し、拡大し、包み込んでいます。より良い世界へ近づくために。
様々なジャンルを飲み込み、あらゆる場所に進出し、どんな制約をも設けない。一見攻撃的でダークなヘヴィ・メタルに宿る優しさや寛容さが世界中、あらゆる場所のあらゆる人にとっての希望の光となっている。メタルには崇めるべき神も、虐げられる主人も、壁となる国境も存在しない。年齢や人種、宗教や信条を問わずすべての人々と分かち合える。そんな現代の理想郷をメタルは育んでいると、きっと多くの人が感じているはずです。
「より良い世界への希望を象徴する人々、そして信念を守ることを歌っているんだよ。対立する政治をなくすことでも、性的暴行をなくすことでも、腐敗したジャーナリストの責任を追及することでも。何でもいい。大事なのはその希望の感覚を守ることなんだ。俺たちは、プライベートでも仕事でも、より良い世界への希望を与えてくれる多くの人々に出会ってた。俺たちが音楽を作る理由のひとつは、音楽が変化の触媒になり得ると信じているからなんだ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=17302

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