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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【LAMB OF GOD : LAMB OF GOD】


COVER STORY : LAMB OF GOD “LAMB OF GOD”

“How Did We Get To This Point Where You Think This Asshole Is The Paradigm We Should Aspire To As The Leader Of Our Country? I Think This Shift Started Around The Beginning Of The Anthropocene When Humans Really Started Affecting The Environment In Big Ways.”

LAMB OF GOD

80年代後半から90年代にかけてまずスカンジナビアから勃興した新たなメタルの波。MESHUGGAH, AMORPHIS, OPETH, IN FLAMES, EMPEROR といった傑物を輩出し、WALTARI の Kärtsy Hatakka が “ポストファーストメタルタイム” と呼んだそのムーブメントは、メタルの転換期にして、モダンメタルと現在のメタルシーンにとって架け替えのない重要なピリオドとなりました。
「スカンジナビアのバンドたちは、より幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “クレイジーさ” を加えていったんだ。」
Kärtsy が語るように、ある者は複雑なリズムアプローチを、ある者はグルーヴを、ある者はプログレッシブロックを、ある者はデスメタルを、ある者はエクストリームな残虐性を、ある者はフォルクローレを “ベーシック” なメタルに加えることで、彼らはモダンメタルの礎となる多様性を築き上げていったのです。
もちろん、ベーシックメタルからモダンメタルへの進化に寄与したのはヨーロッパのバンドだけではありません。特にテキサス州ダラス出身の PANTERA がメタル世界に与えた衝撃、グルーヴメタルの誕生は一つのビッグバンでした。特徴的すぎるギタートーンやドラムサウンドを差し引いても、獰猛さと重さ、そして独創性を更新した彼らの俗悪に悩殺する鎌首はあまりに異端でした。その “グルーヴ” の源は BLACK SABBATH でしょうか?ハードコアでしょうか?それ以上にむしろ、”南部” という出自が大きく影響を及ぼしているようにも思えます。

実際、Phil が特別敬愛し、インスピレーションを得ていた隣州ニューオリンズが誇る EXHORDER の Kyle は弊誌のインタビューで、「俺たちみたいに、THE METERS, Dr. John, THE NEVILLE BROTHERS, Allen Toussaint みたいなクラッシックなニューオリンズのバンドを聴いて育てば、血や魂までその色に染まることになる。ニューオリンズには偽りなき本物のスウィングとグルーヴが存在するんだ。とは言えそれは沢山のバンドによって真似されているんだけど。そうやってルイジアナ南東部のリラックスしたアティテュードに浸れば、君も南部の男になれるさ。」と語っています。
そして PANTERA の遺志を引き継ぎ、南部の音魂を現代へと繋げるバンド LAMB OF GOD がバージニア州リッチモンドから登場します。かつてアメリカ連合国の首都が置かれた歴史の街は、ブルーグラス、カントリー、オールドタイムストリング、ブルース、ジャズとまさに音魂の坩堝です。そして明らかに、LAMB OF GOD の音の葉はより鮮明にその南部の風とグルーヴにそよいでいるのです。

仮にここ日本において、LAMB OF GOD が PANTERA ほどのネームバリューを得られていないとするならば、おそらくそれは Dimebag のような凄まじいアイコニックなシュレッダーが存在しないからかも知れませんね。とはいえ、それは Mark Morton と Willie Adler の技量が少しでも劣ることを意味しません。いやむしろ、彼ら2人こそがモダンメタルのリフワークを決定づけたと言えるのではないでしょうか。
パワーコードや開放弦のダウンピックが主体であったベーシックメタルのリフはある意味演奏が単調で、シュレッドに比べれば易しいものが多かったと言えるでしょう。彼らはそのギターリフを、ギターソロ並みに難解かつ複雑しかしエキサイティングかつインタレスティングな領域へと昇華した最初のバンドの一つでした。
BETWEEN THE BURIED AND ME, PROTEST THE HERO, MASTODON, PERIPHERY。今でこそ、当たり前となったリズムとシュレッドを複雑に突き詰めた千変万化変幻自在な現代的リフワーク。もちろん、北欧のメロディックデスメタルも遠縁の一つでしょう。ただし、より創造的な雛形は EXTREME の “Cupid’s Dead” だったのかも知れません。Nuno Bettencourt がファンカデリックにしかしプログレッシブにテクニカル極まるリフをつなぎ合わせ、ギターソロと同等もしくはそれ以上のカタルシスを生み出した楽曲は間違いなく多くの後続に影響を及ぼしました。そして次にその試みをより現実的に体現したのが Mark と Willie だったのです。

LAMB OF GOD といえば、Randy Blythe の張り裂けんばかりの咆哮を想起するのは当然ですが、仮にそれがなくても彼らの楽曲は充分に機能します。実際に演奏してみればわかりますが、彼らのリフワークはギタリストにとって手癖のような運指が極力排除されていて、熟練者でも何度かトレースしないと馴染まないような構成になっています。リズムやグルーヴも刻々と変化するなかで、プリングのオンオフや三連符が組み込まれ、さらにダブルギターの魔法を宿しながらモチーフやパターンをいくつも用意して単調さを一分も感じさせないよう非常に計算されて作り込まれているのです。
特筆すべきは高音弦やハイフレットをリフに組み込んで低音とのコントラスト、さらにはメロディーまでも補完している点でしょう。そうして、リズム隊との完璧なコンビネーションでグルーヴという総合芸術を製作していくのです。
さらに言えば、Randy Blythe は “Omerta” のスロウでマスマティカルなグルーヴこそが最もリッチモンドらしい音魂だと語っています。
「リッチモンドは、少なくとも80年代後半から90年代前半にかけては、マスロックと呼ばれていたものの拠点だった。今のマスロックとはだいぶ異なって、それはリッチモンドのハードコア・シーンにまで遡るんだ。 HONOR ROLE というバンドがあって、奇妙な変拍子を得意としていたね。特に伝説のギタリスト、Pen Rollings は BUTTERGLOVE というバンドに転向してヘヴィになったんだ。 その後、彼らは BREADWINNER というインストゥルメンタルバンドになった。スティーヴ・アルビニは彼らのEPをいくつかプロデュースしているんだけど、インストゥルメンタルでありながら、俺も含めて、全員に大きな影響を与えているんだよ。」
LAMB OF GOD の硬質で数学的なインテリジェンスは、古のマスロックが起源でした。そこに先述のブルースやジャズ、ブルーグラスにカントリーといった多様な南部の魂が透けて見えるのですから、LAMB OF GOD こそがモダンメタルの帝王、グルーヴメタルマスターと称されるのも当然でしょう。

Mark Morton に言わせれば、「まず自分たちを驚かせなきゃ。結局、何度も何度も何度も何度も演奏するのは自分たちなんだから、俺らがワクワクしなきゃ。」
つまり、予測可能なことを回避することで LAMB OF GOD はその地位を築き上げてきたのです。NWOAHM などと下らない場所に括られていた時でさえ、彼らはスラッシュとハードコアのルーツを強調していましたし、スクリームとグロウルが武器だと思われていた Randy にしても、徐々にムーディーなクリーンヴォーカルを取り入れていくようになりました。
実際、”Memento Mori” の冒頭には SISTERS OF MERCY の Andrew を彷彿とさせるメランコリックなボーカルと不気味なギターの回廊が刻まれていますし、”Bloodshoot Eyes” にはゴシックと狂気の狭間でさらなる高みを目指す Randy の姿が映し出されています。
「エクストリームメタルの世界で最も滑稽なのは、クリーンボーカルが聴こえた瞬間、誰かが突然家に入ってきて高価な絨毯を台無しにしたかのように気が狂うような人がいることだよ。でも俺は歌えと言われれば歌うんだ。」 Randy の言葉には皮肉が宿ります。

新たなアンセム “Checkmate” の一方で、スタンディング・ロック保留地における石油パイプライン建設に抗議するため TESTAMENT の Chuck Billy を起用し、ネイティブアメリカンの血を汲むそのリアルこそ彼らのやり方。同時に、サイケデリックなベースラインと推進力を宿すギターワークの不思議なダンスが魅力的な “Reality Bath” も、心を揺さぶるレコードのハイライトです。8歳の少女が銃乱射の犯人が闊歩するビルに取り残された描写は息を呑みます。
「高校時代、俺のバージニア州の田舎じゃ子供たちは森の中で狩りをしていたから、そのまま学校に来ていたよ。時には鹿の死体をピックアップトラックの荷台にぶら下げて、銃とガンラックを持って学校に来ることもあったくらいさ。大したことじゃない。誰もがそう考えていた。だけどそんな古き良き少年の一人が銃を持って学校に入り生徒を吹き飛ばし始めるんだ。それが現実だよ。」
LAMB OF GOD とは神の子羊、転じてキリストを指す言葉でもあります。そのバンド名を冠したセルフタイトル “Lamb of God” は文字通り、全てが破綻した欺瞞と分断、そして試練の2020年に様々な意味で福音をもたらすレコードに違いありません。

RANDY BLYTHE

「俺らはみんな死ぬんだ!」COVID-19ウイルスが蔓延し、死者数が増加し続けるアメリカで、人々の日常生活は深刻な混乱に陥っています。LAMB OF GOD の大統領 Randy Blythe はその加熱する報道、恐怖から真実を読み解こうとしています。
「俺らは今コロナウイルスを経験しているけど、数年前はエボラだった。たしかに今はクレイジーだけど、世界には常にそんな理不尽が存在してきたんだ。ただ、現代に生きる俺らはスマホやPCを持っていて、この終わりのない残虐性と恐怖のサイクルを24時間常に受け取り続けることになる。」
新たなグルーヴメタルの金字塔 “Lamb of God” で Randy は、大量殺人、外国人恐怖症、オピオイドの流行から、空虚な消費文化、差し迫った生態系の破壊まで、現代社会を悩ませている様々な問題を掘り下げていきます。
オープナー “Memento Mori” は、コロナに端を発する真偽不明な情報の飽和をテーマとしています。彼自身、ニュースフィードを監視することに夢中になりすぎ、そこから適度な情報の断捨離が精神的、肉体的な健康に不可欠であると気付いたことから生まれた楽曲。
「メディアの中では生きていけないんだ。”Memento Mori” は、目を覚ますことをテーマにしている。目覚めろ!目覚めろ!目覚めろ!と、自分に言い聞かせているんだよ。人に説教しているわけじゃない。Randy に話してるんだ 。気が狂いそうだったからね。」

時事問題に取り組み、人間の本性の暗部に立ち向かうことは、LAMB OF GOD にとって決して新しいことではありません。2000年のデビュー作 “New American Gospel” からずっと、リッチモンドの刃は、その獰猛で技術的にも衝撃的なメタルと、社会的政治的な問題、歪みに対する痛烈な意思表示、そして深い内省を組み合わせてきたのです。
警官による暴力 (“D.H.G.A.B.F.E “) やイラク戦争(”Ashes of the Wake”)、音楽業界のエゴ(”Redneck”)、そして Randy 自身が2012年にプラハで過失致死罪で投獄、裁判、無罪判決を受けた試練(”512″)に至るまで、テーマは多岐に渡ります。そうして彼らの社会を鋭く切り取るナイフは、モダンメタルの先頭に立ちながらグラミー賞へのノミネート、ゴールドディスクの獲得という結果に繋がったのです。
遂にセルフタイトルを冠した新作において、バンドは初の出来事をいくつか経験することになりました。最も重大な出来事は、創設ドラマーの Chris Adler の脱退でしょう。Chris は過去7作すべてで演奏していて、バンドの前身 BURN THE PRIEST としても2枚のアルバム(1999年のセルフタイトル盤と2018年のカバーアルバム “Legion: XX”)を残しています。
2018年、LAMB OF GOD はオートバイ事故で負った怪我のリハビリを続ける Chris のライブにおける代打として、Art Cruz(WINDS OF PLAGUE)をスカウトしました。そして翌年の7月、Randy, ギタリストの Mark Morton と Willie Adler (Chris の弟), ベーシスト John Campbell は声明を発表し、Art が Chris のパーマネントな後任となることを発表したのです。Chris の脱退をめぐる状況については、関係者全員が沈黙を守っています。唯一 Chris が残したのは、「俺はライフワークである音楽を辞めるという決断をしたわけではない。真実は、独創性に欠ける塗り絵を描きたくないだけなんだ。」という言葉でした。

ただし Randy は、Art Cruz を含むバンドの現在の状態がいかに素晴らしいか語ります。
「5人全員が部屋にいる時の共同作業はとても良い雰囲気になっていたよ。俺もこのアルバムでリフを一つか二つ提供したんだ。演奏したんじゃなく、Mark にハミングして聞かせたんだよ。そんな風にお互いの素材を盗むことがたくさんあった。Willie の曲を Mark がハイジャックし、時には Mark がその逆をするんだ。そうやって過去最高の LAMB OF GOD の楽曲たちが生まれたのさ。」
新加入Art について、Randy はどう感じているのでしょう。
「新人だから、やっぱり最初は少し腰が引けていたと思う。しばらく一緒にツアーをしていたけど、俺らは成功していて、高校時代に彼のお気に入りのバンドだったんだ…だから、最初は少し緊張していたと思うけど、すぐに発言するようになったんだよ。それが俺たちが望んでいることだよ。イエスマンは要らないから。その時点でドラムをプログラムした方がいいかもしれないね。でも俺らは彼にChris Adler になって欲しくなかったんだ…彼は Chris とは違うドラマーだから、彼自身の味を出して欲しかったんだ。実際、違うことをたくさんやっている…ドラムオタクは彼はこんなことをやってる…彼は “クリス・アドラー” じゃないと言うだろうけどね。」
とはいえ、Randy はレコードの製作があまり好きではないと告白します。
「俺たちは SLAYER と18ヶ月もツアーをしていたんだ…その合間にMark と Willie はプロデューサーとライティングセッションを重ねていた。それから何ヶ月も休んでいたよ。 戻ってきて、ある程度の距離ができて、それはいいことだと思うんだけど…俺はレコードを作るのが好きじゃないんだ。頭の中が混乱して、消耗してしまうんだ。レコーディングに行くと、体力が消耗して、喉が張り裂けそうになる。歌詞を書くのは楽しいけどね … だから、”Lamb of God” の製作が楽しかったとは絶対に言わないと思うけど、作曲セッションの時の雰囲気は、おそらくバンドの中で最高のものだったと言うことにするよ。」

“Lamb of God” は、Randy が曲を書く前に歌詞の全体的なコンセプトをチャート化した初めての作品でもあります。Randy は政治的な発言をしたいと思っていましたが、特定の個人や政権に自分の歌詞をフォーカスしたくはなかったのです。そこで彼は、友人である 世界的に有名なアルペンクライマーであり、パンクロックマニアでもある Mark Twight の助けを借りて、社会悪の原因や歪みの状況を深く掘り下げていきました。
そうして、”New Colossal Hate “では所得の不平等と差別を、”On the Hook “では大手製薬会社が大衆に中毒性のある薬を飲ませていることを取り上げ、”Poison Dream “では環境を汚染する企業に立ち向かっていきました。
「ドナルド・トランプはもっと大きな問題に巣食う一つの症状に過ぎない。友人の Mark Twight と話していて、『現政権についてのセンセーショナルなレコードは書きたくない』と思ったんだ。彼は王様のように振舞っているから、やることなすこと毎日非難を続けるなんてバカげてる。それよりも俺は、なぜこうなってしまったのか、なぜあんなアホをリーダーに求める国になってしまったのか、こうなることを許した俺たちの意識、現在の環境について掘り下げたかった。」
リードシングル “Checkmate” も強烈ですが個人を対象としたプロテストソングではありませんでした。
「このアルバムには、個人をテーマにした曲は一つもないんだ。 2004年のアルバム “Ashes Of The Wake” の時代、ジョージ・W・ブッシュがいた時は、イラク戦争や大量破壊兵器の神話があったから、彼のことを具体的に書くのは簡単だったけどね。全ては表裏一体なんだ。今人々は政党を政策のためではなく、スポーツチームのように支持しているから。歌詞にはそれが反映されているよ。こんなシステムはまさに詐欺だ。ドナルド・トランプをバッシングするようなレコードを書くのは、むしろ無駄なことだと思うんだ。だから “Checkmate” は共和党のことではないんだよ。むしろ今の両政党がいかに表裏一体の関係にあるかを描いているのさ。」

Randy の中に、歌詞を通して人々を啓蒙したいという思いはあるのでしょうか?
「というよりも、自分で考えてもらいたいんだよ。今、アメリカや他の国でも大きな問題になっているのは、政治的分裂が世界的に広がっていること。誰も個人単位で話をしていないだろ?今の政治の世界には群集心理が強く存在して、それはインターネットにも波及しているんだ。リベラル派は「お前らはネオナチで保守的すぎる」 保守派は「お前らはリベターだ」。俺には小学3年生のように思えるね。大人がオープンな会話をしているようには聞こえない。俺はあんな感じの大規模な集団思考のアイデンティティーが苦手なんだ。でもそれが国民の精神を支配している。」
一つの意見、一つの思想だけでその人物の全て、人格まで憎んでしまう世の中です。
「親しい友人にもトランプに投票したやつがいるけど、彼らはナチスでも人種差別主義者でもない。だから今でも親しいままさ。だけど、グループ思考、群集心理で人を一つのグループにまとめまるから、自分たちが他のグループを非難できるかのように感じてしまう。それが今、大規模に起こっているんだ。意見の合わない人とコミュニケーションをとるのは難しいよ。コンピュータの画面の後ろから、お互いに叫ぶ方が簡単じゃないか?勇気を持って直接会って話をする方がよっぽど心がこもっている。 そうしないと死んじゃうよ…」
誰に向けて歌詞を書いているのでしょう?
「自分のために歌詞を書いているんだ。これは俺の表現で、ファンが好むかどうかは考えていない。ファンを喜ばせるために書き始めたり、ファンが望むことをし始めたら、ボーイズバンドになってしまう。ハリウッドからプロデューサーがきて、適当に受けるソングライターを雇ってね。そうなってしまったら、音楽は偽りになってしまう。」

Randy は “リアリティTV” プレジデントと消費者主義の賛美から、産業革命とその環境への影響までの線を辿り始めました。そのエクセサイズとして、Randy は”社会で問題となっている様々なこと、そして人々がそれらのことに対して声を上げる様々な方法” を取り上げた約17曲の楽曲トピックのリストを作り上げたのです。
ではトランプから産業革命まで遡る、その思考の鍵はどこにあったのでしょう?
「俺は他の皆と同じように、現代文化の中に罪悪感を持っている。なぜならアメリカに住んでいるからだよ。ここには消費文化があり、物質的な所有物、富と名声がある種の満足感と内なる幸福感をもたらすことになるという考えがある。そこへの盲目的な固執だよね。それが今の問題だと思うんだ。普通に考えて、金持ちで金のトイレを持ってるからと言ってクソ野朗が大統領になるべきではないだろう?
なぜこんなクソ野郎がリーダーに望まれる世の中になった?シフトしはじめたのは、人類が環境に大きな影響を与え始めた産業革命の頃からだと思う。人類は大量生産を始め、消費者階級が生まれた。大量販売の広告も発明された。だから、俺は産業革命から振り返る必要があると思う。消費文化のアイデアが生まれ計画された場所からね。」

このアルバムにおけるテーマの核となっているのは、アンセム的な”Memento Mori” で、Randy は恐怖を煽るようなニュースに対抗し、希望、力強さ、そして昔ながらのカルペディエムの精神をメッセージとしています。
「メメント・モリとは、僧侶たちがかつてお互いに言いあっていた言葉なんだ。君はいつかは死ぬよってね。俺の知る限り人生は一度きり。たとえ複数の人生があったとしても、この一度の人生を最大限に活かしたいと思わないかい?」
ここ数年、Randy に注目してきた人なら誰でも知っていることですが、この言葉は抽象的な概念や空虚な決まり文句ではありません。なぜなら彼は明らかに地上での限られた時間を有効に使っているからです。
LAMB OF GOD での音楽活動はもちろん、GOJIRA, BODY COUNT, BAD BRAINS, PIGFACE といったアーティストとのコラボレーション、自伝 “Dark Days” や TESTAMENT の Alex との共著 “Unbuilt” の出版 、サーフィン、写真、草の根の活動の支援と休む暇もありません。
「ファンからもらった最高の贈り物は?って聞かれたんだけど、”あなたの音楽は人生で本当につらい時期を救ってくれた” って言葉だね。最高に気持ちがいい。”ゴールドディスクを手に入れた!”よりも全然いい気分だ。ゴールドディスクなんてどうでもいい。2枚持ってたけど、慈善事業のためにオークションに出したよ。乳がんのチャリティなんかにに小切手を送ると、すごく興奮するんだ。自分勝手な感情かもしれないけど “あなたはいい人だ “って思えるね。気分が良くなるから。」
いつか世界は滅びるかもしれないし、みんなが死に絶えるかもしれません。しかし Randy の中では、まだ全てが燃えるのを見届ける準備はできていません。
「100パーセントが皮肉のレコードじゃない。希望の瞬間もあるよ。俺はただ立ち止まって、全てがクソだなんて言っていたくはないからね。我々にあるのは今この瞬間だけだ。今までの人生は こうした瞬間の連続だった… だから、この一瞬を最高のものにしたいんだ。」

参考文献: REVOLVER: LAMB OF GOD: RANDY BLYTHE ON UNITED NEW LINEUP, BITING NEW ALBUM, STRANGE NEW WORLD

LOUDWIRE:Lamb of God’s Randy Blythe: You’re a Boy Band If You Write Music to Appease Others Read More: Blythe: You’re a ‘Boy Band’ If You Write Music to Appease Others

SPIN:Q&A: Randy Blythe on Lamb of God’s New LP, Punk, Politics and CBGB’s Legendary ‘Throne’

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COVER STORY 【MARIUSZ LEWANDOWSKI: GUIDE TO MODERN METAL ARTWORK】


COVER STORY: MARIUSZ LEWANDOWSKI

“Capturing Emotions In a Painting Is Similar To Showing Depth And Light. If It Is Not There, If It Is Missing, The Art Is Simply Flat And It Does Not Look Good”

「絵画で感情を捉えることは、奥行きと光を示すことに似ているね。それらが存在しない場合、欠落している場合、芸術は単純に平面的で見栄えが悪くなってしまう。」
BLACK SABBATH, LED ZEPPELIN, DEEP PURPLE といったクラッシックロックの伝説は、Klaus Schulze, Jean-Michel Jarre, VANGELIS など電子音楽の先駆者たちと同様に若き Mariusz Lewandowski にとって音の灯台となりました。
現在59歳、ポーランド生まれのペインターはそうして初期 GENESIS, PINK FLOYD, TRANSATLANTIC、さらには YES, DREAM THEATER, TANGERIN DREAM までプログレッシブロックの音の葉まで創造という航海の波しるべとしたのです。音楽は常に Mariusz の情熱の炎であり、筆を導くインスピレーションの源でもありました。
「私はワイドで独創的、境界のない音楽を愛している。息を呑むような音楽さ。そして私の探している芸術世界へ誘ってくれるようなね。」
Mariusz の言葉はそのまま自身のボーダレスかつイマジネーティブなアートの樹を具現化しています。
「メタルへ導いてくれたのは BELL WITCH だった。2017年にリリースされた彼らの最新作 “Mirror Reaper” でグラフィックを描いてくれないかとオファーをくれてね。興奮したよ!それまでミュージシャンのために絵を描いたことがなかったからね。私にとって転機であり、大きな挑戦となったね。音楽的に素晴らしいアルバムだよ。しばしば聴き返すんだけど、今でも鳥肌が立つね。音楽とそのアートワークの間に生じるケミストリーを心底感じるね。
後に音楽業界も “Mirror Reaper” を非常に高く評価することになった。私もこういったメタルのスタイルについて再度学び始めたんだ。そうして PSYCROPTIC, EREMIT, FALASE といった他のチームからもオファーが届くこととなったんだ。」
メタル世界に住む多くの住人にとっても、BELL WITCH の作品が Mariusz とのファーストコンタクトだったはずです。そうして瞬時に、彼の放つ創造的な悪夢はバンドのみならず多くのファンを魅了していったのです。2018年 Mariusz にとって文字通りビッグイヤーとなりました。

ドゥームスラッジャー SHRINE OF THE SERPENT, スラッシュタイタン SEPULCHER, デスメタルの新鋭 ROGGA JOHANSSON に CARDIAC RAPTURE。Marusz の情熱は様々なサブジャンルから津波のようなオファーへと繋がりました。
「バンドは直接メールで、Facebook で、ウェブサイトで連絡を取ることが可能だよ。特定のバンドのためにアートを製作する場合、言葉よりも芸術家同士のテレパシーでコミュニケーションを取るんだ。もちろん、バンドが主役だよ。素晴らしい音楽を作っているのは彼らだからね。私はそれを色でドレスアップするだけだよ。それでも、賛辞を受ければ嬉しいけどね。彼らの知的で刺激的なテーマにはとてもインスパイアされるよ。
SHRINE OF THE SERPENTS, ROGGA JOHANSSON の場合は私の膨大なギャラリーから彼らがアートを選んでくれたんだ。このシチュエーションならばすぐにプロジェクトを完成させることが出来るから、便利なソリューションではあるよね。
基本的にはデジタルでライセンスを販売している。オリジナルの絵は僕の手元にとどまるけど、バンドは自由にCD, ヴァイナル、ポスターへと使用することが出来るんだ。だけど、 PSYCROPTIC のようにオリジナルまで購入してくれる人たちもいる。たしかによりコストはかかるけど、フィジカルに特別な価値を見出してくれているんだろうね。」
ただし、絵画の制作中流れる音楽はメタルだけとは限りません。
「メタルは出来る限りラウドに聴かれるべきだ。だから絵画の制作中に聴くには少し疲れすぎるんだ。ペイントの最中は心の平穏が必要だからね。だからエレクトロニカを聴くんだ。このスタイルの音楽なら大音量で聴く必要はないよ。そうして脳の想像を司る領域を活発にしてくれる。要は最高の作品を完成させられれば良いわけだからね。」
制作は静寂な夜に行われます。バンドの要望に没頭する時間と空間をもたらしてくれるから。
「私は夜しか絵を描かないんだ。誰にも邪魔されない確信と平穏が必要だからね。そしてバンドが託してくれた音楽で心を満たすだけではなく、哲学にも没頭しなければならないから。その2つを分けて考えることはできないから。」
Mariusz のほぼ全ての作品は超現実的で、幻想的で、シュールなホラーも入り混じります。その特徴は彼の代名詞とも言えるでしょう。ダークなキャラクター、遍在する死、退廃に大火。しかしそういった仄暗い絶望は Mariusz の人間性と世界観を反映しているわけではありません。
「実を言うと私は人生が大好きなんだ!決して私は黙示録の天使がラッパを鳴らすのを待っている苦難の生を歩んできたわけじゃないしね。ただ、死は人生にとって不可分だというメッセージには言及している。何千年もの間、教え込まれてきたネガティブな考え、自由を制限するバラストを投げ捨てることはとても難しいけどね。どのように生きるか、何を信じるかを伝えたくはないんだ。ただ鑑賞する人の自らの思考をあきらめないようにしたいだけなんだ。
例えば私は絵画に宗教のイメージを使用している。だけどそれは宗教的なメッセージを込めている訳じゃないんだよ。宗教がいかに私たちを追い詰め、人生を困難にしているのか示しているだけなんだ。」

Mariusz が命を吹き込んだ油絵を観察すれば、黙示録と宇宙の恐怖、不毛の世界、大変動、死神および単なる人間の理解を完全に超えた存在に焦点を当てていることに気づきます。さらに深く掘り下げればほぼすべての作品で、絵の下半分に孤独な人物が見つかります。何か恐ろしい存在、そびえ立つ一枚岩、または壊滅的な出来事を目撃する、寂しい人間の目撃者。
「私は未知の世界に魅了されている。まるで悪夢のように迫り来る遠い世界の厳しい風景さ。ただし死を切望する訳じゃなく、飼いならしているんだ。怖がってはいないよ。私の絵は、暗闇だけど、多くの楽観主義と希望があると言われたこともあるからね。」
絵画は Mariusz の生涯にわたる情熱であるだけでなく、彼の職業で生計のための手段でもあります。彼を駆り立て、満たしているもの。
「絵画は私の情熱を注ぐものであり、愛する妻と一緒に仕事としているものだけど、それはオフィスワークとはまったく異なる性質を持っている。まったく異なる2つの世界だよ。
私の次の情熱は、村の土地に夢の家を建てること。私が大好きな自然に囲まれた場所。最終的にワークショップと無数の樹木、鳥、野生動物、魚、そして美しく歌うカエルが溢れることになる。」
それぞれの作品には苦労と膨大な時間が注がれていますが、筆を握るまさにその人には報われるべき個人的な満足と楽しみが存在します。それが得られない場合は?
「自由に創作できなければ絵を描くべきじゃないよ。」
バンドと折り合わず契約を解消したこともありました。
ただし Mariusz は非常に謙虚なクリエイターです。彼の言葉を借りれば有名人の魂を持つ人ではありません。言葉ではなく絵で物語を語るのです。また、彼は自分のアートを他人に押し付けることも好みません。
「Zdzislaw Beksinski がかつて言ったように、隅に座っていても、実力があれば世界はあなたを見つけることになる、だよ。傲慢に自分のアートを押し付けてはいけないよ。」
作品を押し付けないという精神。つまり Mariusz からアーティストにアプローチすることはありません。彼は彼の芸術を使いたいバンドと人々からのオファーを受けるだけです。
「敬愛する DREAM THEATER や RIVERSIDE にだって手紙を書いたことはないよ。でもいつか、成長して彼らと話し、自分のアートを見てもらう日が来るかもね。」
Hipgnosis, Roger Dean, H.R.Giger。その音楽の時代を象徴するアートワークの創造主はいつの時代も存在していました。そして、2010年代後半に芽吹いた Mariusz とメタルの融合は間違いなく2020年代を牽引していくはずです。

BELL WITCH “MIRROR REAPER”

全てはこの傑作から始まりました。アートワークはある意味このレコードの全てです。BELL WITCH は2015年に、Adrien Guerra を36歳の若さで悲劇的に失いました。
「Adrian は何年間も僕の親友だったんだけど、お互いに意見を違えて喧嘩をしてしまっていたんだ。同様に、新メンバーの Jesse と Adrian も仲の良い友達だったんだ。だから、Jesse と僕は彼の死の後、気持ちを整理する時間が必要だったのさ。
何ヶ月か経って、僕たちはレコードを完成させるため、新たな決意と共にライティングプロセスへ戻ったね。僕は二人共、Adrian と僕たち自身にとってこのレコードを本当に特別なものにしたいと思っていたと信じているよ。一生に一度のアルバムさ。」
フードを被った死の前兆は、滅びのように行進している人々の上へと不気味に迫っています。地獄の風景を映し出す鏡の中から覗き込みながら。鏡は背景の崖よりも高く聳え、蜘蛛の巣のような不気味な糸に支えられています。鏡を覗くと何が見えますか?自分?それとも地獄?
そうして Mariusz の絵画と BELL WITCH の音楽は、悲しみを完璧に封じ込めました。怒りという地獄の炎、恐怖という大死神、自己反射の鏡。悲しみの煙、孤独な炎、無気力な群衆。
一方では裏面に、愛する人が穏やか(月明かりの海)で、平和(白い旗)で自由(高翔する鳥)であれという希望を配しています。
それは愛する人の喪失に対処する魔法の芸術作品。ベース/ドラムスのドゥームデュオが投じた1曲83分の暗重なる叙事詩 “Mirror Reaper” は生と死を投影する難解なるあわせ鏡。Adrien Guerra へ捧げるトリビュートとしてその崇高なるメランコリー、哀しみの影を増しています。

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FALSE “PORTENT”

手前には、切り立った崖に集まる人々。その下には、溶岩、地獄の炎、硫黄煙の悪魔的な風景が広がります。まるでロードオブザリングのモルドール。しかし、この破滅の場面はモノリシックな死神によって支配されています。炉を覗きながら新たな力を引き出しているのか、新鮮な犠牲者を預けているのか。左手は鋭き鎌を握り、その刃の端は犠牲者の血で赤く染まっています。
死神の背後には巨大な暗闇の崖。霧に包まれながら巨大な白い旗を振る人間は、呪われた運命を受け入れると身を委ねます。目はくぼんでいて暗く、苦悶の表情を浮かべています。
アートワークは “Portent” に宿るヘヴィネスの象徴。レコードの包括的なテーマと感情を視覚的に表現します。暗闇を強調するだけでなく、焼け付くような赤や従順な白は軽薄さよりも、絶望、運命の必然性、破壊の感覚をもたらします。
そんな悲劇に直面して、創造性は痛みを和らげるでしょうか。悲しみに似た慰めは様々な形状を取るでしょう。そしてミネソタのブラックメタル FALSE の場合、その慰めはメロディックな構成の妙となりました。凶暴なリフとシンセ重視のアレンジはリリックの巧妙と相まって深みのあるブラックメタル世界を創造しました。

PSYCROPTIC “AS THE KINGDOM DROWNS”

ドゥームを思い起こさせる惨めな風景。巨大な割れ目が大地を分かち、炎の中に孤独な人影が残されました。燃えるような赤とオレンジ、息苦しいほど厚いグレーと黒の4色は作品に命を吹き込みます。
最も目を引くのは壮大な人型の苦痛です。腕は広く引き伸ばされ、肩からひどく引き裂かれ、骨から筋線維が引き裂かれています。その間、荒れ狂う業火は生き生きと燃え続け、人の顔が目の前で溶け出し、加えて融解した金がバンドのロゴから頭蓋骨に注がれ、骨を貫通しているようにも見えます。
“As the Kingdom Drowns”、王国が沈む時。アルバムタイトルはそのアートワーク、音楽性、そして “Deadlands”, “Beyond the Black” といった楽曲タイトルに裏付けられています。そのエピカルな風景は、無機質でストレートなテクニカルデスメタルから、GOJIRA のグルーヴやプログレッシブなサウンドスケープを組み込み始めたタスマニアデビルの変化の証なのかも知れませんね。

ATLANTEAN KODEX “THE COURSE OF EMPIRE”

ドイツのエピックドゥーム ATLANTEAN KODEX に提供したアートワークは、他の絵画とは少々異なりゴージャスです。実際、トラディショナルなメタルにしっかりと根付いた彼らの “壮大な” 瞬間は、これまでの悲嘆や苦痛の絵画にはフィットしなかったかもしれませんね。たしかに暗闇は存在し、仄暗い戦争の霧はアートを覆いますが、鮮烈なギターのハーモニーと同様に、最も注目を集める色はブライトに輝く金色です。
武器を抱え、誇らしげに掲げた旗で、Mariusz はかつての偉大な帝国を象徴しています。ストーリーが語るようにその栄光は輝かしいように見えますが、真実のイメージを覆い隠しています。帝国の本質。それは暴力、奴隷制、死。描かれた戦士たちには名前も顔もありませんし彼らが遭遇する恐怖、死傷者の姿もありません。つまり本来戦いの炎は決して美しくはありませんが、このアートは間違いなく美しいと言えます。

MIZMOR “CAIRN”

ポートランドに彷徨う独りブラック/ドゥームメタル MIZMOR の “Cairn” は2019年の秘宝でした。燃えさかるマントを纒い割れ目の前に鎮座する死神。対照的に崖の間際に立つ人の姿は絶望的に小さく見えます。対比の描写は強力なニヒリズムの感覚を引き出しますが、死神の手の中にある構造物はその感覚をより複雑に導きます。
電気のピラミッドは、知識、芸術、創造性を象徴するルーブル美術館のアートにも似ています。それは瓶の中の稲妻。努力する、保護する、そしておそらく苦しむ価値さえあるでしょう。
事実 “Cairn” は MIZMOR にとってニヒルな道標であるだけでなく、BELL WITCH の “Mirror Reaper” の合わせ鏡としてフューネラルドゥームというジャンルにおいて最高の芸術性と審美を湛えます。4曲57分の分離は不可能。神のいない孤独で荒れ果てた現実において無神論者の精神的目覚めから、喜びではなく人生の責任や重荷を受け入れることまで、リスナーは “Cairn” を自分自身の真の延長として完全に所有し受け入れなければならないのです。

ABIGAIL WILLIAMS “WALK BEYOND THE DARK”

ABIGAIL WILLIAMS の “Walk Beyond the Dark” はアートワーク、音楽の両方で2019年ベストブラックメタルの一つだと言えました。白きフードの死神は他のアートワークとは一線を画しています。炎もたしかに存在しますが、もっと暖かな輝きが溢れています。きっと人が佇む死神の洞窟は暖かさと休息の場所、勇気が安全で報われる場所。今回の “孤独な人” はこれまでほど弱々しくは見えません。ライオンの巣穴に入り、死神の中を慎重かつ勇敢に移動します。それはまるでABIGAIL WILLIAMS がリスナーに、彼らの素晴らしく壮大なレコードへと参加することを望んでいるように。
Sorceron は THE FACELESS を去りこの作品に没頭しました。彼の献身と努力も同時にアートワークのイメージに重なります。 アンビエンスとブラックメタルを組み合わせ、プログサイドも完璧に機能。そのオーラは神々しいまでに美しく花開きました。

ASTRAL ALTAR “A:.A:.”

苦悩の感覚は明白です。地獄のキノコ雲とその下に広がる火の雨は、憤怒、苦痛を強調しています。 荒廃は大きく、それでも全てのカオスと破壊の中、空飛ぶ残り火と荒れ果てた燃える大地の中には、落ち着き悠然としたシルエットの人物が見えます。 仕事に取り掛かる死神でしょうか? 静かに死者をふるいにかけているのでしょうか?何故だか不安感じさせる存在です。

ROGGA JOHANSSON “ENTRANCE TO THE OTHERWHERE”

この作品のアートワークは ATLANTEAN KODEX の状況に似ています。孤独な船、厳かな水流、そして帝国の建築物。まるで世界の末端を見ているかのようですが、船は徐々にそこから遠ざかっていきます。 どこから来て、どこにたどり着いたのでしょう?
アーチは強さの象徴で、グレコローマンの柱とそびえ立つ崖によってさらにモチーフは強力になりました。アーチの頂上には、角を吹くのを待つ大天使ガブリエルを連想させる大きな像がありますね。 旅と探検。 未知なるもの。 失われ忘れられた文明。思考を刺激する作品であり、方法は異なりますが、スタイルやコンセプトは他の Mariusz アートと共通しています。

XENOBIOTIC “MORDRAKE”

ABIGAIL WILLIAMS とは対照的に、苦痛の中に囚われた人影は暁に肩を落とします。本来太陽がある場所には、苦悶の表情が世界を照らし、剣を手にした苦痛の化身は顔を糸で覆われて全てを封じられ、まるで化身の血の涙が背景から流れ出しているようにも思えます。
2020年、まず名乗りを上げ節目の年のイメージを設定したのは彼ら。オーストラリアのデスディーラー XENOBIOTIC は、デスメタルとデスコアの方法論を組み合わせ、メロディー的に豊かでテクニカルでありながら、最上級に苦悶のサウンドを生み出すことに成功しました。エピックの灯火は非常にクリアなプロダクションを誘いメタルの未来を照らし出しているのです。

参考文献: KILLYOURSTEREO:Mariusz Lewandowski: the man behind the art

BANDCAMPHow Mariusz Lewandowski’s Epic, Emotive Paintings Made Him Metal’s Most In-Demand Artist

HEAVY BLOG IS HEAVY:A Gift To Artwork – Mariusz Lewandowski

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【POPPY : I DISAGREE】


COVER STORY: POPPY “I DISAGREE”

ALL PHOTO BY ERIKA ASTRID

“I Think I Just Get Bored Really Easily And Also I View Things In Eras,David Bowie Is a Big Influence And Inspiration To Me, And I Know That He’s Very Famous For His Different Eras And Stages And Evolutions. I Think It’s Kind Of An Artist’s Responsibility To Evolve Constantly.”

EVEN IF GENRE IS DEAD, POPPY IS DANCING ON IT’S GRAVE

「美は痛みであり、痛みはキャラクターを構築する。」 Poppy が毎朝目覚めてまず自分に語りかける言葉です。それこそが Poppy の持つミステリアスな部分でしょう。実際、その日その日に生まれる審美の痛みにより、彼女のルックスや役割、それに音楽性は猫の目のように豹変を続けます。
ポップスター、俳優、監督、アンビエント音楽の作曲家、宗教指導者、DJ、コミックキャラクター、YouTuber、パフォーマンスアーティスト…Poppy の天職はいったいいくつ存在するのでしょうか?
さらに Poppy の YouTube チャンネルは彼女のキャッツアイを見事に伝えています。まるで隣の女の子のように Gwen Stefani の流儀で陽気なポップソングを歌ったかと思えば、Diplo のダンスビートでロボティックなバービーを演じてみせ、さらにはメタルリフのハンマーでリスナーの精神を打ちつける死の天使にさえ変化するのですから。
ほぼ全てのMVが100万視聴を超え、”デジタルラビットホール” の中枢に位置し、”ASMR 人間” とまで称される Poppy。なるほど、音楽を作り始める前にその人気とペルソナをオンラインで確立したという点で彼女はまさに21世紀の “現象” そのものでしょう。

現在20代半ばの Poppy こと Moriah Pereira は、2010年代中盤に Titanic Sinclair 監督がタクトを振るう奇妙な一連のビデオ作品で世界に登場しました。Poppy が “I’m Poppy” と繰り返すだけのクリップや、Charlotte というマネキンにインタビューされ植物にインタビューするシュールな世界観は大きな波をポップカルチャーにもたらす予感を植えつけました。
そうして Sinclair、カナダのヒットメーカー Simon Wilcox との創作を始めると MV の予算は劇的に増加し、オートクチュールのワードローブからおとぎ話の衣装に、日本の “Kawaii” 美少女スタイルまでその音楽性同様色とりどりのファッションで世界を魅了し始めたのです。ただしオンラインのスターダム、そして完璧なポップスターのイメージは彼女が目指す場所ではありませんでした。
「自分自身をポップスターとしてではなく、単なるアーティストやクリエーターだと思っていたの。永遠に同じでいるなんてつまらないわ。私はすぐに退屈してしまうし、物事を時代を通して見てしまうのよ。David Bowie には大きく影響されているし、とてもインスピレーションを受けているわ。何より彼は時代ごとに大きく異なることで有名だし、ステージ共々常に進化を遂げていたわ。常に進化を続けることはアーティストの義務だと思っているの。」

もちろん、David Bowie は1973年に自らの幻想、別人格である Ziggy Stardust をハマースミスオデオンのステージ上で葬りました。メタルへと舵を切った Poppy も、以前のバージョンの Poppy を意図的に葬ったと言えるのでしょうか?
「間違いないわね。Poppy ver.0、Poppy ver.1 は Poppy ver. X によってアップデートされているわ。私が “X” をリリースした時、みんなとても気に入っているように思えたわ。そして始めて私は自分の音楽を聴いて再度インスパイアされたの。」
“Poppy.Computer” と “Am I a Girl?” が日本の “Kawaii” 文化と未来派をクールとする新世代をターゲットに制作されたことは明らかでした。”I Disagree” には一方で悪魔の角が備わっています。時にスラッシー、時にチャギーなリフアタックはキュートでポップな Poppy のイヤーキャンディーとプログレッシブに溶け合います。きっとアメリカの特定の層にとって、今や日本の “Kawaii”, “Otaku” そしてメタルはヒップなカルチャーなのでしょう。

カルトフォークとヘヴィーな音の葉をミックスした “Am I a Girl?” のクローサー “X” によって Poppy がメタルに移行したと決めつけるのは簡単です。ただし、Poppy 自身は自らをメタルアーティストだとは思っていないようです。
「メタルに傾倒しているかって? 答えは #Idisagree よ (笑)。もちろん、間違いなくメタルからの影響は存在するわよ。だってアルバムを作っている時、私たちが聴いていた音楽こそメタルなんだから。ただ、アルバム全体を聴けば、よりプログに傾倒している場所もあるはずよ。当然、未だにポップな部分もあるわ。だけどもう一番の要素じゃないわね。三番目ね。」
法的な闘争や Grimes とのいざこざ、悪質なレコード契約によって溜まった鬱憤を晴らすカタルシスがメタルだったという側面もあるようです。
「全ての怒りを私のアートに注ごうとしたのよ。だけど自然なことよ。”Am I a Girl?” を書いている時、私はスタジオまで運転する車でヘヴィーな音楽ばかり聴いていたのよ。蝶々や虹の曲を書きながらね。全然繋がってないって思ったわ。」

メタルに目覚めたのはごく最近のことなのでしょうか?
「いいえ。私はメタルを聴いて育ったから、またちょうど戻ってきたって感じね。聴く音楽は日によって違うんだけど、NINE INCH NAILS と Gary Numan はずっと好きだったわ。だけど同時に、ダンスのバックグラウンドも持っているし、ポップミュージックも愛しているの。だから当時、自分の音楽でダンスやポップを探求するのは理にかなっていたのよ。逆に今は自分の感情を発信するのにメタルが適してるって感じかな。」
Poppy にとってエクストリームミュージックへの入り口は MARILYN MANSON でした。
「幼い私の目を引いたのは、MARILYN MANSON 全ての衝撃値だったわ。キッズが彼のTシャツを着ていると、道行く人は二度見をしていたわ。最初はそれがとても魅力的だったの。それから音楽にハマっていったの。だけど私は結局、彼の創造した文化こそがマジカルだったと思うの。素晴らしかったわ。そしてある種彼はその魔法を利用していたと思う。」
Poppy が目指すのもまさにその魔法。つまり、カルチャーの想像力を長期的に捉える能力。Trent Reznor もその能力に秀でていると Poppy は考えています。もちろん Beck も。いつか Poppy がコラボレートを果したい偉人たちです。
「自分の成長を通して、リスナーも共に成長してくれることを望んでいるのよ。」

ただし、彼女の路線変更は既存のファンを犠牲にする可能性を孕んだギアチェンジでもあります。実際、”I Disagree” のオープナー “Concrete” には、”快適と不快を行き来する” “よく分からない” “双極性障害の曲” といった批判的なコメントも寄せられてています。
「SLIPKNOT, BABYMETAL, QUEEN, THE BEACH BOYS が一緒に作曲したみたいなんてコメントもあったわね。嫌いじゃないわ。」
Poppy の進化には今のところ、確かにメタルが含まれます。ただしそれ以上に重要なのは、”I Disagree” が彼女が音楽を作り始める以前に YouTube で構築した自身のペルソナから一歩踏み出したことでしょう。
「”I Disagree” は私のファーストアルバムのように感じているの。以前リリースした2枚のアルバムは、私の YouTube チャンネルのストーリーラインに沿っていたから。だから自分の足で立つことが出来たこの新たな音楽はまるで旅立ちね。他のアルバムは YouTube のコンテクストにある Poppy だったのよ。」

以前の作品と “I Disagree” の違いはそれだけではありません。初期の彼女のリリックは、間違いなく現代を覆う倦怠感を中心に展開されていました。SNS によって引き起こされる不安と、容赦のない情報の攻勢。彼女のペルソナ同様、そのリリックが音楽より先行していた一面は確かにあるはずです。”I Have Ideas” と題された YouTube 動画でかつて彼女はこうマントラを繰り返していました。
「携帯を充電するたび、新たな命を吹き込むわ。そして携帯が私を定義するようになるの。携帯が死ぬ時、私も死ぬわ。」
ダブステップで魂を吸い上げる “Bloodmoney” で宗教的な抑圧を、Madonna と Manson の落とし胤 “Fill the Crown” で個人主義とエンパワーメントをフォーカスした Poppy の旅路は以前よりも確実に多様です。
“Sit / Stay” は90年代の PRODIGY? 緊張と緩和を突き詰めたオペラティックなプログメタルエピック “Don’t Go Outside” での幕引きも完璧。JELLYFISH までふわふわと漂うアルバムにおいて、もちろん、トリップホップと Nu-metal の狭間で「私はあなたに同意しません」と大衆が共有しない予想外の世界を望むタイトルトラック “I Disagree” は進化の象徴。
「歌詞のテーマは間違いなく制作中に感じたことよ。他人や自分に根ざしたフラストレーションによってね。”Nothing I Need” は一番大切な曲よ。初めて、欲しいものは全てここにあるけどそれでも前へ進んで大丈夫だって感じられたの。今が十分幸せでも何かを追求して構わないんだって楽曲なのよ。」

同時に、英国のポップ感覚、Billie Eilish のビート、メタルリフの猛攻に NINE INCH NAILS のダークリアルムを内包するアルバムは近年のチルなポップミュージック、さらに自らのヒットシングル “Lowlife” とも何光年もの隔たりがあるようにも思えます。
「私が愛してきた全てを注ぐことができたわ。完全に自由になって、アルバムが完成するまで他人に意見を述べることを許さなかったから。例え意見を受けたって、実際に考慮したりはしなかったわ。自分にとって幸せで誇りに思うものを作ったばかりだけど、ツアーでアルバムの曲を聴いてみたいともう思っているの。全てが正しいと感じているから。」
クリエイティブパートナー、Titanic Sinclair との別れはまさに破壊からの自己再生。その回復力と新たな自由を享受する Poppy の生命力には目を見張ります。
「私を封じようとする、押さえ込もうとする人たちに対抗する力を再び取り戻したのよ。」

ロボットよりもカウボーイとカントリーミュージック、田舎の仕来たりが未だ根強いナッシュビルで生まれ育った Poppy がアウトサイダーとして見られたことは容易に想像出来るでしょう。ダンサーを目指しながら彼女は幼少期の大半をベッドルームで過ごしています。公立学校に馴染めず、ホームスクールで勉強を続けました。
「意図的に様々なことから距離を置いていたのよ。公立学校に良い思い出はないわね。ほとんど喋らなかったから、からかいの対象になっていたの。痩せっぽっちで静かなヤツだってね。」
故にある程度オンラインの世界で育ったことは Poppy も認めています。
「インターネットが先生だったの。それにファーストアルバム “Poppy.Computer” の中で、”私はあなたのインターネットガール” って歌っているしね。だけど自分の人生全てをオンラインに委ねている若い子たちと比較すれば、私は自分自身をどのように提示して、何をオンラインにするか賢明に選択していたわ。それは幸運だったと思うの。インターネットだって永遠ではないわ。そのことを真剣に受け止めている人が少なすぎると思うのよ。」

実際 Poppy は “I Disagree” でオンライン世界についてよりも、個人的な経験を多く語っています。SNS に費やす時間も過去に比べて大きく減少しているのです。
「前とは違うやり方でやっているわね。基本的に Instagram を使っているの。Twitter は全く使わないから Instagram がファンと交流する場所になっているのよ。だけどファンのコメントを読むのは最初にポストした時だけ。時間をおいて考えすぎた人のコメントを読むのは危険だわ。タフな世界だけど、私はそれを認識して敬意を払うようにしているわ。もちろん、スーパーコンピューターにもね。」
SNS 自体の在り方も変化していると Poppy は考えています。
「SNS も最初は良かったのよ。でも最近では、悪意と怒りとモブと誤情報に溢れている。振り子のようなもので、きっと良い時もあれば悪い時もあるのね。できればその中間で落ち着いて欲しいのだけれど。そうでなければ、新たなインターネットを作るしかないわね。きっと出来るわ。」

かつて AI アンドロイドを気取った彼女の主張にはテクノロジーへの恐れも含まれています。FEVER 333 をフィーチャーした “Scary Mask” は AI についての楽曲。
「もうちょっとみんなに考えて欲しいのよ。だって最終的に AI は人類を凌駕し、きっと滅ぼしてしまうわ。だから毎日 AI に餌をやる前に少し考えてみて欲しいの。そうすれば、そのプロセスを遅らせることは出来るはずよ。」
新たなステージへと到達した Poppy ver. X はジェンダーの観点からも変化を見せ始めています。”Am I a Girl?” で少女でいることを楽しんでいた Poppy の姿はもうそこにはありません。
「作品をシネマティックで美しく、怒っていてエモーショナルにしたかったの。ジェンダーに関係ない方法で力を受け取って欲しいのよ。」
きっと、2020年の “名声” には2つの層が存在しています。1つは、伝統的な俳優、テレビスター、ポップスター。もう1つ、世界が無視出来なくなっている新たな名声こそ、フォロワー数百万を誇る SNS スターや YouTube セレブでしょう。もちろん、これまでと異なる出自の後者の実力には懐柔的な見方も存在するのは確かです。しかし、そのポスターガールと言える Poppy の成長、多様性、アーティストとしてのクリエイティブなビジョンを見れば、20年代さらにインターネットからトップスターが飛び出すことは決定的と言えるでしょう。

参考文献:REVOLVER MAG:POPPY: INSIDE THE SHAPE-SHIFTING, METAL-EMBRACING WORLD OF “YOUR INTERNET GIRL”

NME:The Big Read – Poppy: Human After All

DIY: JUST A GIRL: POPPY

KERRANG!:POPPY: “I’VE NEVER SAID MY MUSIC IS METAL… WE’RE TURNING A NEW PAGE”

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SUMERIAN RECORDS

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WILDERUN : VEIL OF IMAGINATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAN MULLER OF WILDERUN !!

“Epic Is Probably The Most Encapsulating Word You Could Use But I Feel Like It Still Leaves Out Some Of The More Progressive And Experimental Sides Of Our Music.”

DISC REVIEW “VEIL OF IMAGINATION”

「”エピック” はおそらく最も僕たちの音楽を要約した言葉だけど、ただ僕たちの音楽にあるいくつかのより進歩的で実験的な側面をそれでもまだ除外しているように感じるね。」
虚空に七色の音華を咲かせるフォーク-デス-ブラック-アトモスフェリック-シンフォニック-プログレッシブ-エピックメタル WILDERUN は、ジャンルという色彩のリミットを完全に排除してリスナーに名作映画、もしくは高貴なオペラにも似て胸踊るスペクタクルとドラマティシズムをもたらします。
「OPETH の音楽には特に昔の音源でダークな傾向があるんだけど、WILDERUN には常に見過ごされがちな明るく豊かな側面があったと思うんだ。」
時にアートワークから傑作を確信させるレコードが存在しますが、WILDERUNの最新作 “Veil of Imagination” はまさにその類でしょう。アートワークに咲き誇る百花繚乱はそのまま万華鏡のレコードを象徴し、”陽の”OPETHとも表現されるブライトでシンフォニックに舞い上がる華のモダンメタルは、シーンにおける “壮大” の概念さえ変えてしまうほど鮮烈なオーパスに仕上がりました。
「僕たちが様々な種類の音楽をブレンドする際に使用した最も重要なテクニックとは、単にストレートなフォークセクションをプレイしてから、お決まりのブラックメタルパートを始めるって感じじゃないんだよ。その代わりに、メタルと非常に異なるスタイルの音楽にしか存在しないと思われる特定の作曲テクニックを分析し、それをどうメタルの文脈に適応させるのか探っていったんだ。」
ベーシスト/オーケストレーター Dan Muller が語る通り、WILDERUN の多様性は単純な足し算ではなく複雑な掛け算により無限の可能性を見出しています。様々なジャンルの本質を抜き取り、その膨大なコンポーネントを最適に繋ぎネットワークを構築する彼らのやり方は、さながら人間の神経系統のように神々しくも難解な神秘です。
中でも、シンフォニックなアレンジメントは作品を通じて情炎と感奮、そして陶酔をもたらす WILDERUN のシナプスと言えるのかも知れませんね。メタルをはじめとした豊かな音の細胞は、優美でドラマティックなオーケストレーションにより有機的に結合し、思慮深くシームレスに互いを行き来することが可能となるのです。
オープナー “The Unimaginable Zero Summer” はその進化を裏付ける確固たる道標に違いありませんね。語りに端を発する抽象的かつファンタジックな15分の規格外に、目的のない誘惑など1秒たりとも存在していません。
オーケストラの名の下に、無慈悲なデスメタルからメランコリックアコースティック、浮遊するエレクトロニカ、オリエンタルな重量感、絶佳なワルツの大円団、そしてエセリアルなピアノのコーダまで、秩序と無秩序の間で悠々と整列した音の綺羅星はいつしか夜空にプログレッシブな夏の星座を映し出しているのです。WILDERUN に宿る平穏と焦燥の対比を完膚なきまでに描き象徴する Evanのボーカルレンジも白眉。
クライマックスは中盤に。”Scentless Core (Budding)” に蒔かれたエピックの種は、”Far From Where Dreams Unfurl” の青葉としてエアリーかつメランコリックな大合唱で天高く舞い上がり、”Scentless Core (Fading)” で老獪な叙情の花を咲かせるのです。まるでアルバムのテーマである無邪気から退廃へ、人の歩みを代弁するかのように。
例えばプログレッシブデスメタルなら “Blackwater Park”、シンフォニックエピックメタルなら “Imaginations From The Other Side”、オリエンタルフォークメタルなら “Mabool”。ファンタジックで知的なメタルには各方面に絶対のマイルストーンが存在します。しかし “Veil of Imagination” はOPETH よりも華やかに、BLIND GUARDIAN よりも多様に、ORPHANED LAND よりもシンフォニックに、数ある傑作の交差点として空想力に創造性、好奇心、そして多様性のモダンメタル新時代を切り開くのです。
今回弊誌では Dan Muller にインタビューを行うことが出来ました。「少なくとも僕にとってこのレコードの歌詞のゴールは、世界を実際あるがままに見せることなんだ。みんなの心の目を再度トレーニングしてね。」2度目の登場。どうぞ!!

WILDERUN “VEIL OF IMAGINATION” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JINJER : MACRO】


COVER STORY : JINJER “MACRO”

“I Was Too Young To Remember Life In Soviet Union, But The Spirit Of Soviet Union Is Still Here. I’m Living In An Apartment Built Maybe 40 Years Ago, And My Parents Live In Such An Apartment, As Well. All Our Shops And Supermarkets Are Situated In Buildings Built Then. So It Is Still Sike Soviet Union. And There Are a Lot Of People Who Still Have Soviet Union In Their Heads And Their Minds.”

HOW JINJER SINGER TATIANA CROSSES MUSICAL, LYRICAL, AND UKRANIAN BORDER 

「時に穏やかで平穏。だけど時に人々は何かが起こるのをただ待っている。今現在、少なくとも爆撃はされていないわ。それは良い事ね。」
JINJER のボーカリスト Tatiana Shmailyuk はウクライナのドネツクにある故郷ゴルロフカについてそう話します。彼女とバンドメイト、ベーシストの Eugene Abdiukhanov、ギタリスト Roman Ibramkhalilov、そしてドラマー Vladislav Ulasevich が最初にドネツクから逃れたのは2014年のことでした。それから程なくして、ウクライナの内戦を装った現在も続くウクライナとロシアの衝突、クリミア危機が勃発したのです。
「良い時期に脱出したと思うわ。だって数ヶ月後には国境地域を跨ぐことさえ本当に不可能となっていたんだから。」
戦場から逃れる中で、JINJER は東部から西部へと800マイルを移動してポーランドとの国境に近いリヴィウに立ち寄りました。
「だけどすぐに退屈してしまったわ。旅行者のための街だったから。家も借りたんだけど、水道、電気、暖房設備に問題があって住むことは難しかった。だからもっと文明化された場所へ移ることにしたの。」そうして Tatiana 達はウクライナの首都キエフへと移り住んだのです。

では、ウクライナの風土や国民性は JINJER にどういった特徴をもたらしているのでしょうか?
「JINJER は優しさと弱さが等しい土地から生まれたの。ウクライナは経済的には厳しい国よ。特に90年代前半、私たちの親の世代は大変だった。父と母は最低の賃金を得るためでさえ一生懸命働かなければならなかったの。兄と私を養うために。学校や家の近くにもいつも犯罪があったしね。そこから私たちは人生の教訓を多く学んだわ。
だからウクライナ人は精神的にタフなのよ。例えば少々痛くても、医者には行かないわよ。最後まで我慢する。 だからショウもキャンセルなんてしないわ。ジュネーブの灼熱で喉が腫れ上がっても、私はセットを完遂したわ。根性ね。」
ただし、素顔の Tatiana はシャイな一人の女性です。「みんな私を鉄の女か何かだと思っているようだけど、私だって人生全てを恐れているわ。だから演じているようなものよ。みんなと同じようにセンシティブで傷つきやすいの。いつもスクリームしている訳じゃないしね。まあ毎晩叫んでいるけど、朝は叫ばないわ (笑)。」

Tatiana は JINJER を始めるずっと以前から歌い、そしてその咆哮を響かせていました。
「母に言わせれば、とても幼い頃からスクリームしていたそうよ。叫びすぎておなかにヘルニアができたくらいにね。」
稀に叫んでいない時には、ラジオで聴いたロシアやウクライナのポップソングを歌っていました。1989年のヒットソング “Lambada” も彼女のお気に入りです。「ポルトガル語は分からないけど、シンガロングしていれば楽しいわよね。」
シリアスにボーカルへ取り組み始めたのは8歳の時。レッスンを受け、コンサートホールで合唱隊としてコンサートを行いましたが、ダンスの振り付けに悩まされてしまいます。
「二度とやらないわ!ダンスを誰かとシンクロさせるなんて苦行。一人でなら全てをコントロール出来るんだけどね。」
しかしすぐに兄によってロシアンメタルの世界へと誘われ人生が変わりました。中でも、ロシアの IRON MAIDEN と称される ARIA の存在は別格。
「ドネツク、特に私の故郷ゴルロフカの人間は音楽的なのよ。メタルが大好きだしね。偉大なバンドも沢山あったわ。兄もミュージシャンでダークなドゥームバンドでギターを弾いていたの。」

1991年、ソヴィエト連邦が崩壊すると変化は猛烈な勢いで押し寄せました。MTVはウクライナにも NIRVANA や OFFSPRING のウイルスを運びます。
「NIRVANA を聴いてすぐにロシアのロックを忘れたわ (笑)。MTV は最高だった。すぐに OFFSPRING にハマったわ。私たちの街で私は一番の OFFSPRING ファンに違いなかったの。父がテレビの音をカセットに録音する方法を教えてくれてね。友人やクラスメイトとテープの交換を始めたのよ。そうしてリスナーとして音楽体験を共有していたのね。」
OTEP の Otep Shamaya は Tatiana の感性に衝撃を与えました。「この男の人は最高にクールね!って言ったら友人が女の子よって。OMGって感じよ!こんな女の子は初めてだったわ。そうやって私も彼女みたいに衝撃を与えたいって思うようになったの。
私も9歳からずっと男物の服を着ているわ。それって結局、性別で世の男性を虜にしたくないからなんでしょうね。それよりも中身や心で惹きつけたいのよ。去年ツアーで会えたんだけど、酔っ払っていてずっと彼女を賞賛していたことしか覚えていないの。」
2009年、キエフに訪れた SOULFLY が初めてのメタルコンサート。「めったにない機会だったのに、彼氏が誰かと喧嘩をはじめて途中でセキュリティーに追い出されたのよ。その夜はずっと彼を責め続けたわ。」

近年、ツアーで家を開けることも多い Tatiana ですが、それでも継続中の紛争は彼女をウクライナから完全に切り離すことはありませんでした。ただしソヴィエトのアティテュードに魅力を感じることはありません。ソ連が崩壊した時 Tatiana はわずか4歳でしたが、それでも強硬な共産主義の残影は彼女を未だに訶みます。
「ソビエト連邦での生活を思い出すには幼すぎたけど、それでもソ連の精神はまだここにあるの。私はおそらく40年前に建てられたアパートに住んでいて、両親も同様にそんな感じのアパートに住んでいるわ。お店だってスーパーマーケットだって当時建てられたもの。だからここは今でもまるでソ連よ。それにまだ多くの人々が頭や心にソ連を宿しているの。
古い人間をマトリョーシカって呼んでるわ。私の容姿はバスの中でもジロジロ見られるし。ウクライナでは男性でもタトゥーは受け入れられていないの。まだ U.S.S.R の考え方でいるから、異なる人間が気にくわないのよ。そういった年配の人たちはテレビばかり見ているけど、そこに現実は映っていないわ。タトゥー?あなた60歳になったらどうするの?って感じよ。」

青春期を東欧の貧困家庭で過ごした Tatiana の人間に対するダークな見方は、彼女の故郷に限りません。「私は人類が好きじゃないの (笑)。進化で何かがおかしくなったのよ。今では神様や自然を蔑ろにしている。それが私の内なる怒りを呼び起こすのよ。」
母なる自然への愛情は Tatiana をヴィーガンに変えようとしています。「私はまだビーガンになろうとしているところなの。子供の頃あまり裕福じゃない家庭で育ったから、肉を食べる余裕があまりなくてね。だから最近肉をやめて、肉が大好きだって気づいたの。肉の匂いがすると、気が狂いそうよ。でも動物の苦しみや環境を思うとね…。」
幸いなことに、Tatiana はヴィーガンへの願望と肉食への渇望を両立させる解決策を持っています。「人間の肉を食べることが許されるならそうするわ (笑)。そんなに食に貪欲なら、お互いを食べてみない?」

DISC REVIEW “MACRO”

Facebook に次いで世界で2番目に人気のあるソーシャルメディアプラットフォーム YouTube。JINJER が公開した “Pisces” のライブビデオはすでに2800万回の視聴数を誇ります。
当然そこには、ウクライナという出自、さらにジキルとハイドを行き来する女性ボーカル Tatiana の希少性、話題性が要因の一つとして存在するはずです。
ただし、JINJER の音楽がオンラインによくある、短命のインスタントなエンターテインメントでないこともまた事実でしょう。ベーシスト Eugene にとっては音楽が全てです。
「ウクライナ出身だから政治性を求められるのも分かるんだけど、僕らの音楽にかんしては何物にも左右されないんだ。仮にロシア出身だろうと、イタリア出身だろうと同じだよ。音楽と僕たち。全てはそれだけさ。」
つまり、JINJER は同時代の若者に表層から衝撃を与えつつ、実のところその裏側では幾度ものリスニング体験に耐えうる好奇心と思考の奥深きトンネルを掘り進めているのです。
実際、Tatiana は JINJER がスポットライトを燦々とその身に浴びるような集団ではないと語ります。
「有名になりたいって訳じゃないの。今でも私は車ももっていないし築40年のアパートに住んでいるわ。だから第2の “Pisces” を作ろうなんて思わない。JINJER は大人気になるようなバンドじゃないわ。」

とは言え、PROTEST THE HERO の精子と KILLSWITCH ENGAGE の卵子が受精し生まれたようにも思える2012年の “Inhale, Don’t Breath” から JINJER は異次元の進化を遂げています。比較するべきはもはやメタル世界最大の恐竜 GOJIRA でしょうか。それとも MESHUGGAH?
テクニカルなグルーヴメタルに Nu-metal と djent の DNA を配合し、R&B からジャズ、レゲエ、ウクライナの伝統音楽まで多様な音の葉を吸収した JINJER のユニークな個性は全てを変えた “King of Everything” から本格化へ転じたと言えるでしょう。
2019年に届けられた EP “Micro” とフルアルバム “Macro” は双子のような存在で、創造性のオーバーフローの結果でした。
「もともとフルアルバムの予定はなかったんだ。”Micro” は次の作品までの繋ぎって感じだったんだけど、完成が近づくともっともっと楽曲を書きたくなってね。クリエイティブなエナジーが溢れていたんだ。」

無慈悲なデスメタルから東欧のメランコリー、そしてレゲエの躍動までを描く“Judgement (& Punishment)” はJINJER の持つプログのダイナミズムを代弁する楽曲でしょう。
「僕たちの音楽に境界は存在しない。いいかい?ここにあるのは、多様性、多様性、そして多様性だ。」そう Eugene が語れば Tatiana は 「JINJER に加わる前、私はレゲエ、スカ、ファンクをプレイするバンドにいたの。だからレゲエの大ファンなのよ。頭はドレッドにしていたし、ラスタファリに全て捧げていたわ。葉っぱはやらないけど。苦手なの。JINJER は以前 “Who Is Gonna Be the One” でもレゲエを取り入れたのよ。レゲエをメタルにもっともっと挿入したいわ。クールだから。」と幅広い音楽の嗜好を明かします。
判決を下し罰するというタイトルは SNS に闊歩する魑魅魍魎を揶揄しています。「気に入らなければ放って置けばいい。私ならそうするわ。なぜ一々批判的なコメントを残すのかしら?それって例えばスーパーに行って質の悪いバナナを見る度、おいクソバナナ!お前が大嫌いだ!さっさと木に戻りやがれ!って叫び始めるようなものでしょ?(笑) 私は他にやるべきことが沢山あるの。そんなことに割くエナジーはないわ。」

“On The Top” は2020年代の幕開けを告げる新たなプログアンセム。SOULFLY を想わせるトライバルパーカッシブと djent の小気味よいスタッカートシンコペートは Tatiana のフレキシブルな歌呪術へと怪しく絡みつき融けあいます。
「ラットレースのラットを演じてるって感じることはある?世界はどんどんそのスピードを増し、誰もが成功と呼ばれるあやふやなものに夢中よね。”On The Top” で訴えたのは、名声や成功に伴う孤独と満たされない心。”トップ” に到達するため犠牲にするものは多いわ。その梯子は本当に登る価値があるの?犠牲を払うのは自分自信なんだから。」
ウクライナの陰影を抱きしめたコケティッシュな “Retrospective”、ポルトガルのライター José Saramago の著作にインスピレーションを受け、死を地球を闊歩するクリーチャーになぞらえた “Pausing Death”、大胆にも聖書を再創造したと語る “Noah” など、Tatiana の扱う題材は多岐に富み、世界をマクロ、そしてミクロ、両方の視点から観察して切り取るのです。
「ウクライナでは決してメタルは歓迎されていないの。にもかかわらず素晴らしいバンドは沢山存在するわ。ただ、チャンスを把み国境を超えることは本当に難しいの。」
アイコニックな女性をフロントに抱き、多様性を音楽のアイデンティティーとして奉納し、ウクライナという第三世界から登場した JINJER は、実はその存在自体が越境、拡散するモダンメタルの理念を体現しています。音楽、リリックのボーダーはもちろん、メタファーではなく実際に険しい国境を超えた勇者 JINJER の冒険はまだ始まったばかりです。

参考文献: FROM WARZONES TO MOSH PITS: THE EVOLUTION OF JINJER’S TATIANA SHMAILYUK: REVOLVERMAG

Jinjer Singer Didn’t Want ‘Pisces’ to Become So Popular [Exclusive Interview] Read More: Jinjer Singer Didn’t Want ‘Pisces’ to Become So Popular | LOUDWIRE

Ukrainian Metal Band Jinjer Delivers on Its Promise With New Album ‘Macro’

METAL INJECTION “JINJER”

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JINJER Official
NAPALM RECORDS

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE HU : THE GEREG】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE HU !!

“Our Message To The World Via Our Music Is Reminding The Importance Of Showing Gratitude To Your Parents, Loving Your Homeland, Protecting The Nature, Loving And Respecting Women, Respecting Your Country History And a’ncestors, And Finally Giving Individuals An Inner Power And Belief For Their Future.”

DISC REVIEW “THE GEREG”

「僕たちの音楽を通して送る世界へのメッセージ。それは両親への感謝、生まれ育った地を愛する心、自然の保護、女性への愛と敬意、母国の歴史や祖先への愛などの重要性を思い起こさせることなんだよ。そうして最終的には、リスナーそれぞれの内なる力を目覚めさせ、未来を信じられるようにしたいんだ。」
モンゴルの大草原に示現したロックの蒼き狼は、遊牧民のプライドと自然に根差す深い愛情、そして西洋文明に挑む冒険心全てを併合する誇り高き現代のハーンです。
80年代後半から90年代にかけて、ソヴィエト連邦の崩壊と共にそのサテライトであったモンゴルにも、西側からの影響が津波のように押し寄せました。そうしてモンゴルの音楽家たちは、伝統を保護しつつ否応無しに新たな波への適応を迫られたのです。
エスニックなプライドと冒険のダンス。社会的、政治的、そしてもちろん音楽的にもモンゴリアンミュージックはその両極を自らの舞踏に組み込み進化を続けて来ました。それは西欧音楽のコピペではなく、ルーツを大樹に影響の枝葉を伸ばすアジアの審美。
「”Hu” という言葉をバンド名に選んだのは、それが包括的には自然を意味するからなんだ。誰も除外することなく、世界中全ての “人間” に僕たちの音楽をシェアしたかったからね。」
まるで英雄チンギスハーンのように、登場から僅かな時間で西洋を飲み込んだ THE HU は間違いなく現代モンゴル音楽の最高傑作と言えるでしょう。
東洋と西洋、伝統と革新の過激なコントラストが世界を惹きつけたのは確かです。一つ “Yuve Yuve Yu” (“What’s Going On?)” のMV は象徴的でしょう。「偉大なモンゴルの祖先の名を抱きながら、長い間無意味に暴飲暴食を貪るだけ。裏切り者よ、跪け!」現代文明とモンゴルの大自然は皮肉と共に相対し、モンゴルの伝統楽器や彼ら自身は意図的にロックの煌びやかなイメージに彩られています。もちろん、かつてのモンゴル帝国がアジアとヨーロッパの大半を支配下に置いていたのはご存知の通り。
そう、THE HU は西洋に端を発するロック/メタルのフォーマットにありながら、ドラムス以外のクラッシックなロックインストゥルメントを極力廃しています。
官能的な西洋のアピアランスを与えられたモリンホールやトップシュールは、ギターの嗎をアグレッシブに、フォーキーに、美麗にモンゴルの流儀で世界に響かせ、さらに伝統的な喉歌ホーミーはハーモニーの恩恵を与えながらメタルのグロウルを代弁してアジアの歴史、底力を伝えるのです。そうして生まれるは異国情緒のダイナミズム。
「ホーミーとは、僕たちが誰なのか、僕たちが何を知っているのか、僕たちがどこから来たのか指し示すものさ。ホーミーは “正直な人間の地” から来ていて、それこそが僕たちにとって心地よく誇れるものなんだ。」
THE HU が提示する “Hunnu Rock” “匈奴ロック” の中で主役にも思えるホーミーは、もしかすると西洋文明に潜む欺瞞や差別を暴く “正直な” メッセージなのかも知れませんね。なぜなら彼らは、”誰も除くことなく世界中全ての人間に” 自らの音楽、モンゴルの魂を届けたいのですから。
デビューアルバムのタイトル “The Gereg” とは、モンゴル帝国のパスポートを意味しています。多くのモンゴル人にとって、ロマンチックに美化された騎馬の遊牧民や自由を謳歌するモンゴル帝国のヒーローは西洋のストーリーテラーによって描かれた征服者のフィクションなのかも知れません。
しかし、ステレオタイプなメタルファンを惹きつけるそのイメージを入り口に、THE HU は “The Gereg” をパスポートとして、モンゴル本来のスピリチュアルで愛と敬意に満ちた美しき文化、景色、音の葉を少しづつでも伝えていきたいと願っているのです。
今回弊誌では THE HU にインタビューを行うことが出来ました。「祖先から受け継がれるホーミーを僕たちは真にリスペクトしていて、このテクニックをマスターする時は光栄な気持ちになるんだよ。」一人ではなく、メンバー全員からの回答と表記して欲しいとのこと。YouTube 動画再生数は3000万を軽くオーバーするモンスター。どうぞ!!

THE HU “THE GEREG” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + COVER STORY 【TOOL : FEAR INOCULUM】


COVER STORY: TOOL “FEAR INOCULUM”

“After 13 Years Wait, Tool’s Fearless Return “Fear Inoculum” Is Not a Reformation But a Reinvention, Not Only a Look Back At The Past, But Also a Go Forward, Towards The Future.”

BIG READ: TIMELINE OF TOOL

1992: “OPIATE”

あの時点では、バンドのヴァイブは異なるものだった。音楽的に、俺らはただバンドとして自分たちの個性、パーソナリティーを見つけ出そうとしていたんだよ。あの頃のドラミングを聴くとやり過ぎだと思うこともある。」 そう Danny Carey が語れば、「L.A. に住むことで溜まった鬱憤を音楽で晴らそうとしていたね。だからあの頃の音楽は、感情的で解き放たれたプライマルスクリームなんだよ。俺は Joni Mitchell と SWANS の大ファンだったから、よりパーソナルで心に響く歌詞を目指していたんだ。」と Maynard James Keenan は語ります。
宗教や因果応報を描いた Maynard のリリックは異端の証。若さに牽引されたアグレッション、清新な表現力の躍動と、未だシンプルな設計にもかかわらずプログレッシブなヒントを覗かせるアレンジメント。”アートメタル” と謳われたデビュー EP “Opiate” には原始的な TOOL のスタンダードが確かに散りばめられていたのです。
面白い事に、Adam の担任教師は Tom Morello の母親で、Maynard と Tom は一時期バンドをやっていました。さらに Danny は Tom の紹介で TOOL に加入しています。確かにカリフォルニアから新たな何かが始まる予感はあったのです。NIRVANA のビッグセールスが後押ししたのは間違いありません。業界のハイエナたちは次の “ビッグシング” を血眼で探していました。そうして全てはこの27分から始まりました。


1993: “UNDERTOW”

デビューフル “Undertow” で、TOOL はアートメタルから “マルチディメンショナル”メタル、多次元の蜃気楼へ向けて、同時に巨大なロックスターへ向けても歩み始めました。
“Sober” や “Prison Sex” の脆くナイーブな音像はオルタナティブロックの信奉者を虜にしましたし、一方でアルバムを覆うダークな重量感は新時代のメタルを期待するキッズの新約聖書に相応しい威厳をも放っていたのです。
「彼らはメタルなのか?インダストリアルなのか?プログレッシブなのか?グランジなのか?」整然と流動、憤怒と制約、そして非言語的知性。Adam が手がけた、大手マーケットチェーンから販売を拒否された危険なアートワークも刺激的。世間は必死で TOOL の “タグ” を見つけようとしましたが、実際彼らはそのどれをも捕食したしかし全く別の何かでした。新進気鋭のプロデューサー Sylvia Massey との再タッグも功を奏したでしょうか。

“Intolerance” で自らの南部バプティスト教会の出自を、そして “Prison Sex” で幼少時に受けた性的虐待を書き殴った Maynard の情熱的で時に独白的な感情の五月雨は、JANE’S ADDICTION のアーティスティックな小宇宙、BLACK SABBATH の邪悪な中毒性、RUSH の複雑怪奇と見事に溶け合い、深みの縦糸と雄大の横糸でアルバムを織り上げていきます。
音楽的な最高到達点とは言えないでしょうが、間違いなく TOOL にとって最も反抗的でエモーショナルかつパワフルなアルバム、そしてロックの “顔” を永遠に変えたアルバムに違いありません。

1996: “Ænima”

ダイナミックな Paul D’Amour がバンドを離れてはじめてのアルバム “AEnima” は、ダークサイケデリックな音の葉で拡張する TOOL 細胞を包み込んだ芸術性の極み。進化した TOOL の宇宙空間では無数のアトモスフェリックな魂がふわふわと漂い、待ち構える鋭き棘に触れては弾け、触れては弾けを繰り返すのです。
タイトルの “AEnima” こそが最大のヒントでしょう。カール・ユングが提唱した、男性の中に存在する無意識の女性 “Anima” とアナル洗浄機 “Enema” のキメラは完全にその音楽とフィットしています。
遂に完全に見開かれた “サードアイ”。新たなベースマン Justin Chancellor はバンドに即興性とシュールでエアリーなムードをもたらしました。自虐と怒りのカタルシスを内包しつつ、広大なサウンドスケープを解き放つ “Eulogy”、Maynard の瞑想的でソウルフルなパフォーマンスが印象的な “H.” は新たなサウンドへの架け橋でした。

そうしてバンドは自らの進化を人間の進化へとなぞらえます。”Forty Six & 2″ は脳に刺激を与えるオデッセイ。現在人のDNAには、44個の常染色体と2個の性染色体が含まれています。つまり人間の次なる進化、46個の常染色体への進行は TOOL の突然変異と通じているのでしょう?
「これは変化のアルバムだ。家を掃除して、改築してやり直すためのね。」96年に Maynard はそう語っています。振り返ってみると “AEnima” はインスタントに “Nu-metal” の波へと加担したモッシュのパートタイマーを “パージ” “追放” する作品だったのかも知れませんね。言葉を変えれば、Kurt Cobain が破壊した後のポスト・ロック世界で、TOOL が “再生” を担う次の王座に座ることは多くの “ジェネレーション X” たちにとって約束されたストーリーに思えたのです。

2001: LATERALUS”

5年ののち、2001年にリリースされた “Lateralus” はミレニアムへの変遷と時代の変遷を重ねたレコードでした。当時 TOOL のファンと LIMP BIZKIT のファンの違いを尋ねられた Maynard はこう答えています。「TOOL のファンは読書ができる。より人生に精通している傾向があるね。」
そこにかつての怒れる男の姿はもうありません。ステップアップを遂げる時が訪れました。「俺たちは間違いなくパンクロックの産物だよ。ただし、ただ反抗するんじゃなく、大義のために反抗しなきゃならない。つまりこのぶっ壊れた音楽産業にだよ。俺らのゴールは、みんなが自分自身のために価値のある何かをするよう促すことなんだ。」
足の筋肉 “vastus lateralis” と外的思考 “lateral thinking” のキメラ “Lateralus” は融和と前進のアルバムです。
Alex Gray のアートワークには、脳に “神” が宿り、より深い人間の気質を仄めかします。つまり TOOL は憎悪、精神性、制限された信念といった後ろ向きなイメージを手放すよう人々に新たな詔を下したのです。
Nathaniel Hawthorne の古典 “緋文字” で David Letterman の皮肉を皮肉った “The Grudge”、人生の価値を投げかける “The Patient”、そしてコミュニケーション崩壊の危険を訴える “Schism”。「コミュニケーションを再発見しよう!」シンガーはそう懇願します。

「Robert Fripp のギタープレイが俺を目覚めさせてくれたんだ。」先ごろ Adam Jones の自らを形作ったギタリスト10人が発表されましたが、1位が Robert Fripp、2位が Adrian Belew、3位が Trey Gunn でした。つまりベスト3を KING CRIMSON のメンバーが独占するほど Adam はクリムゾンの影響下にあるわけですが、とりわけ “Lateralus” は70年代の “クリムゾンゴースト” が最も潜んだアルバムと言えるかも知れませんね。つまり決して耳に優しいレコードとは言えません。しかしその分深くワイドでもあります。
“Parabol” と “Parabola” は作品のセンターに据えられた二本柱。実験的で不気味なサウンドスケープから、アドレナリンラッシュを伴い人間の闘争と解放の驚異的なまでに動的な解釈を提示する彼らのダイナミズムは圧倒的です。
そして何よりタイトルトラック “Lateralus” は自然と芸術を駆け抜けるあのフィボナッチ数列に準じています。9/8、8/8、7/8と下降する美しき変拍子の階段は、フィボナッチ数16番目の数字987を意識して構築されました。「無限の可能性を見ろよ」と歌い紡ぐ Maynard。数学者としての TOOL と実証主義者としての TOOL は遂にここにポジティブな融和を果たしたのです。

2006: “10,000 DAYS”

さらに TOOL は “10,000 Days” で魂までをも抱きしめます。10,000日、27年とは土星の公転周期であり、Maynard の母 Judith Marie が脳卒中を患ってから死を迎えるまでの期間でもありました。
“Wings Pt 1” と “Pt 2” で、異なる巨大な概念である悲しみと信仰を同時に内包し音像へと投影する TOOL のスピリチュアルな作曲術は驚異的です。ただ、それ以上に Maynard が初期の「fuuuuuuuck you、buddy!」 といった毒づきや、中期の知的な創意工夫を超越して到達した “崇高” の領域に触れないわけにはいかないでしょう。
「10,000日とは あまりに過酷で長すぎるよ。どうか精霊と子よ、神様をこちらへ連れてきて。彼に伝えて欲しい、信仰の狼煙がいま立ち昇ったと。」
実に崇高かつパーソナルな感情は TOOL が魂の領域まで達した証明。”10,000 Days” はバンド史上最もオープンで、優しく脆く人間的で、それ故に最も感情へと喚起するアルバムに仕上がりました。そうしてその崇高は13年後の成熟へと引き継がれていくのです。

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NEW DISC REVIEW + COVER STORY 【SLIPKNOT : WE ARE NOT YOUR KIND】


COVER STORY: SLIPKNOT “WE ARE NOT YOUR KIND”

“We Are Not Your Kind” Is The Most Artsy Mainstream Metal Record So Far.

DISC REVIEW “WE ARE NOT YOUR KIND”

2019年は SLIPKNOT にとってビッグイヤーに定められた年でした。セルフタイトルのデビューアルバム “Slipknot” のリリースから20年、メタル史に残る金字塔 “Vol. 3: The Subliminal Verses” のリリースから15年。しかし、襲い来るトラウマや悲劇を乗り越えたアイオワの怪奇集団にとっては、その不死身の記念碑ですら通過儀礼に過ぎないことを最新作 “We Are Not Your Kind” が如実に証明しています。
ベーシスト Paul Grey の急逝、中心メンバー Joey Jordison の離脱、Corey Taylor の離婚、Clown 愛娘の逝去、Chris Fehn の解雇劇。並みのバンドならば歩みを止めざるを得ないような状況におかれても、SLIPKNOT は諦めることなく前進を続けています。アニバーサリーの追憶に浸る代わりに、バンドは長くソリッドなライティングプロセスを過ごし新たなマイルストーンを完成へと導きました。


「歩み続けるうち、俺らはまた自由を手にしたんだ。やりたいことは何でもできる。この作品は “Vol. 3: The Subliminal Verses” と同じヴァイブ、エナジーだったね。俺らが満足している限り、どこへでも行けるのさ。」
SLIPKNOT がこれほど大きな支持を得ているのは、その過激な外観、実験性、エクストリームな音楽性の内面に陰鬱美麗なメロディーと芳醇なフックを備えていることが理由でしょう。そして、Corey Taylor は “We Are Not Your Kind” が、かつて自らが生み出したそのダイナミズムの怪物と同様のイメージで制作されたことを認めています。
“Iowa” でインテンスとアグレッションの圧倒的な狂演を見せつけた後、バンドが辿り着いた自由な創造性と対比の美学こそ “Vol.3” の哲学でした。故に、切迫した暗がりでそのスピリットを引き継いだ “We Are Not Your Kind” には、あの重音の実験室に加えて、旋律と戦慄のコントラストが遥かな進化を遂げながら確かに宿っているのです。言い換えれば、Billboard 200 で No.1を獲得した驚異の最新作は最もアーティスティックな “大衆のためのメタル” と言えるのかも知れませんね。

もちろん、メタル、ハードコア、ヒップホップのトライアングルは SLIPKNOT のコアとして存在し続けてきましたが、”Vol.3″ のトリッピーなチェンバーポップ “Circle” が示すように、3つのフラスコのみで化学反応を起こすほど彼らの実験室は限定的ではありません。
「このアルバムで、また俺らが変わったことをやれていると感じた最初の楽曲が “Spiders” だった。コアの部分をまず録音して、そこからシチューを煮込むみたいに適切な要素を加えていったのさ。ギターソロは Adrian Belew に大きなヒントを得ているよ。David Bowie が “Fasion” でやったようなことさ。」
Corey の言葉通り、”Spiders” は David Bowie が残したニューウェーブの煌めき、カメレオンの音魂を彼らの流儀でダークに抱きしめた SLIPKNOT の新たな惑星でしょう。NINE INCH NAILS の音景も封入されているでしょうか。David をインスピレーションとした火星にも似たその新境地は1曲にとどまりません。”Space Oddity” のイメージをドゥーミーに、SWANS ライクに宿す “A Liar’s Funeral” は Corey のフェイバリットです。
「David Bowie がブラックメタルをやったような楽曲だね。大量のアトモスフィアと鋭さ、そして衝撃が混ざり合っている。」


実験という意味では、TANGERINE DREAM を想起させるコズミックなイントロダクション “Insert Coin” から連なる “Unsainted” の壮大なケミストリーを見逃すわけにはいきません。
「アルバムで最後に完成した楽曲なんだ。そして、アルバムの以降の方向性を告げる最高のランドマークとなったね。」
THE ROLLING STONES の “You Can’t Always Get What You Want”、もしくは PINK FLOYD の “The Wall” にも似たコーラスマジックを携えた楽曲は、メタル、インダストリアル、サウンドトラック、クラッシックロックのキャッチーかつ完璧なキメラです。
一方で、HEALTH や GOJIRA の波動を滲ませる “Birth of the Cruel” の狡猾さもアーティスティックな “大衆のためのメタル” に真実味を加えていきます。さらに “My Pain” のエレクトロなパルスを Stanley Kubrick の映画と評する Corey。事実、アルバムは Clown の子供とも言える “Death Because of Death”, “What’s Next” といったセグエによって映画のようなドラマ性を帯びています。それは、緩と急、静と動を織り込んだエモーションのローラーコースター。実は当初 Shawn “Clown” Crahan が目指していたのは、”The Wall” のようなコンセプチュアルで二枚組の壮大な音楽劇でした。

Jim Root が 「俺らと進化してこのアルバムを気にいっても良いし、そうじゃなくても良い。ただ俺らはいつもいきたい場所へ行くだけさ。」と嘯けば、Mick Thomson は 「アルバムが好かれようが嫌われようがどうでも良い。どの道俺らは全員にアピールするような音楽じゃないから。全員に気に入られるような音楽には興味がないよ。俺らはただ自分に正直でいたいんだ。」 と主張します。
つまり、SLIPKNOT はきっと永遠に “We Are Not Your Kind” 誰の言いなりにもならず自らの百鬼夜行を続けるはずです。ただし、心から望んで、正直に表現した音楽が、これほど多くの支持を得られる危険でエクストリームな “メインストリーム” メタルバンドも、きっと永遠に SLIPKNOT だけなのかも知れません。

SLIPKNOT “WE ARE NOT YOUR KIND” : 9.9/10

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COVER STORY + FUJI ROCK FESTIVAL 19′ 【KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD】


COVER STORY : KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD

“What Is Psych? Is It Psyche? Is It Psychedelic? If It’s An Exploratory Approach To Music Then Perhaps We Are. If It’s About Creating Huge Walls Of Glistening, Phased-Out Guitars Then We Are Not. I’ve Always Felt More Like a Garage Band Than Anything. We Don’t Write Songs About Space, Either.”

WHAT IS PSYCH? WHAT IS KING GIZZ?

「ロックは死んだ。」もう何十年も議論され続けるクリシェです。インターネットやストリーミングサービスの普及によって、今日ではより容易く多様なジャンルへとアクセス可能で、例えば iTunes を開けばロック/メタルのみならず、クラッシック、ジャズ、ポップ、ワールドミュージック、エレクトロニカ、オルタナティブ、R&B、ヒップホップなど様々な世界への入り口が並んでいます。
もちろん、そのストリーミングサービスにおいてエレクトロニカやヒップホップがロック/メタルを大きく凌駕している事実も今や常識と言えるでしょう。
とはいえ、70年代、80年代には及ばないものの、ロック/メタルはライブの分野では善戦していますし “死んだ” と判断するには早計にも思えます。ただ、ジャンルを定義した巨人たちに代わる新たなビッグアクトが望まれているのもまた事実でしょう。
しかし、新世代にとってロック/メタルという形式を取りながら、新たな領域を開拓し世界に衝撃を与える仕事は決して簡単ではありません。なぜならこのフィールドでは、何十年もかけて数えきれないほど多くのバンドが様々な実験を試みてきたからです。さらにネットの登場で過飽和となったシーンには両方の意味で、新星に残されたスペースはほぼないも同然だと言えるでしょう。
ただし、それでもその難題を解決する救世主、キング、もしくはウィザードがオーストラリアに君臨しています。KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD です。

あの TAME IMPALA との繋がりも深く、風変わりな名 (多大な影響を受けた Jim Morrison の呼称 “The Lizard King” が関係している) を持つメルボルンのバンドは真なるジャムセッションへの愛から誕生しました。ほぼ10年のキャリアですでに14枚のフルアルバムと2枚の EP を制作。ギター、キーボード、サックス、フルート、クラリネット、シタールなどその他様々な楽器を操るフロントマン Stu Mackenzie を中心に、ギター、キーボード、ハーモニカ、ボーカル担当の Ambrose Kenny-Smith、さらにCook Craig & Joey Walker 2人のギタリストを加え、ベーシスト Lucas Skinner、そして Michael Cavanagh と Eric Moore のダブルドラマーという異様な編成も、ジャムセッションへの執心、ライブバンドとしての矜持を考慮すれば実に自然な流れだと言えます。
バンドの音楽性を定義するなら、サイケデリックロック、プログレッシブロックが最も近いラベルなのかも知れません。ただし、むしろそれは建前とでも言うべきで、実際はカラフルな虹色の多様性をキャンパスに描くエクレクティックな音画家です。そしてそのアティテュードは、モダン=多様性の進化した音楽シーンに完璧にフィットしそこからさながら流動体のごとくさらに限界を超えていきます。実際、Stu Mackenzie は根本的な疑問を口にします。「ところで、サイケって何なんだい?もしそれが音楽への探索的なアプローチを意味するならば確かに俺たちはサイケだよ。だけど、歪んだギターの壁を作ったり、宇宙についての歌詞を意味するなら俺たちはサイケとは言えないね。」
事実、サイケ-ソウル-サーフ-ファズ-ガレージ-ジャズ-スペースロックなどと称される彼らの音とスタイルは年月とアルバムによって変化を続けています。2011年にリリースした4曲入りの EP “Anglesea” はかつてのニューウェーブ/ポストパンクのようにも聴こえましたし、典型的なリバイバルのようにも思えましたが、振り返ってみればそれは始まりに過ぎませんでした。

劇的な化学反応は2015年の “Quarters!” で発生しました。タイトル通りアートワークも4区分、楽曲も10分10秒ピッタリの4つで40分40秒のランニングタイムとクオーターに拘った作品はジャズロックの実験室を解放した初のアルバムでした。
Stu は当時、”Quarters!” について、「俺らは叫んじゃいけないレコードを作りたかった。長くてミニマル、反復を多用した構造の中でね。だから普段のようなブルータルなギターペダルも封印したんた。」と語り PINK FLOYD への敬意も覗かせています。
進化は止まりません。”Paper Mâché Dream Balloon” でフォークロックへ接近した後、アルバム最後の音と最初の音が見事に繋がりエンドレスにループする2016年の “Nonagon Infinity” から基盤となるサイケデリックロックに様々な刺激を注入し “King Gizz のサイケ” を創造し始めます。マイクロトーナル (微分音) もその刺激の一つ。


2017年にはそうしてアルバム全編をマイクロトーナルで統一した “Flying Microtonal Banana” を製作します。アルバムタイトルは Stu ご自慢のマイクロトーナルギターの名前。作品に収録された “Sleep Drifter” は今でも最大の人気曲の一つとなっています。
2017年は KING GIZZ にとって実に重要な一年でした。リリックに環境問題を取り上げ始めたのもこの年から。さらに、2月から12月にかけてバンドは5枚のフルアルバムをリリースします。ほぼ2ヶ月に1枚のデスマーチによって、しかし彼らは多くのファンを獲得し自らの価値を証明しました。

前述の異端 “Flying Microtonal Banana”、ナレーションを配した本格コンセプト作 “Murder of the Universe”, 奇妙でしかしキャッチーな “Skunsches of Brunswick East”、サイケデリックでポリリズミック TOOL の遺伝子を配合する “Polygondwanaland”、そして環境問題とプログロックのシリアスな融合 “Gumboot Soup”。
特に “Polygondwanaland” は KING GIZZ の最重要作と言えるのかもしれませんね。オープナー “Crumbling Castle” はまさしくバンド進化の歴史を11分に詰め込んだ濃密な楽曲ですし、何より彼らは作品を自らのウェブサイトで無料公開し、驚くべきことにその著作権さえ主張しなかったのですから。
バンドのメッセージは明瞭でした。「レコードレーベルを始めたいと思ったことはあるかい?さあやってみよう!友人を雇ってフィジカルを制作して出荷するんだ。僕たちはこのレコードの権利を主張しない。楽しんでシェアしてくれよ!」
そうして KING GIZZ は、ファンやインディーレーベルにオーディオファイルやアートワークもフリーで公開してそれぞれにフィジカルのディストリビュートを促したのです。それは衰退したレコード、CD文化を保護し復権を願うバンドが取った驚天動地の奇策でした。彼らほどのビッグネームの、しかも最高傑作のフィジカルをマージンなしで配給出来るチャンスなどなかなか飛び込んでくるはずもありません。作品は世界中88のレーベル、188のフォーマットで販売されることとなりました。

そういった大胆な行動は、彼らが全ての作品を自身のインディペンデントレーベルからリリースしていることにより可能となっています。レーベルはドラマー Eric Moore によってスタートし、彼が全てのマネージメントスタッフを仕切っているのです。もはやレーベルとのビッグディールを目指す時代は終焉を迎えました。若く意欲的なバンドにとって KING GIZZ のやり方は理想的なモデルケースでしょう。なぜなら、彼らはクリエイテビィティー、レコードの権利、リリースの計画、バンドの未来まで全てを完全に掌握しているのですから。

さすがに1年に5枚リリースの反動が訪れたのか、新作 “Fishing for Fishies” のリリースには2019年まで時間がかかりました。アルバムについて Stu は、「俺たちはブルースのレコードを作りたかったんだ。ブルースやブギー、シャッフルとかそんな感じのね。だけど楽曲はそのテーマと戦って、自らのパーソナリティーを獲得している。」と語っています。
実際、荒々しきブルーグラスのタイトルトラックを筆頭に、類稀なるグルーヴと RUSH の影響を宿す “The Cruel Millennial”、さらにエレクトロニカに満たされながらミツバチの重要性を語り継ぐ”Acarine” などアルバムは千変万化で充実を極めています。

驚くべきことに、そうして KING GIZZ は8月にリリースされる新作 “Infest the Rat’s Nest” で次の標的をメタルへと定めました。
公開された “Planet B” は誰も想像だにしなかったスラッシュメタルチューン。さらに “Self-Immolate” は初期の METALLICA, SLAYER と MUSE や ROYAL BLOOD を変拍子の海でミックスした奇々怪界。彼らが新たな領域で披露するエクレクティックな獰猛性が待ちきれませんね。

KING GIZZ の持つ多様性、プログ/メタルの新聖地オーストラリアというグローバルな出自はモダンなロック世界の原則を見事に内包しています。Stu はそのバンドの多様性について、「音楽は探検なんだ。僕がまだ探索していない音楽の作り方、レコードの作り方が何百万も残っている。言うまでもなく、学んでいない楽器、聴いていない音楽、探求していない文化もね。」と語っていますが、それでも父に Neil Young を歌い聞かされ、60年代のガレージコンピレーションから、敬愛する FLOWER TRAVELLIN’ BAND 含む70年代に勃興した東洋のサイケロックまで、Stu の知識と好奇心に際限はありません。驚くべきことに、彼は毎年一つ新たな楽器の習得を自らに課しています。

もちろん、彼らの特異なサウンドや”健全な” 4/4の錯覚を誘うポリリズムの魔法、そしてカメレオンの美学は、古くからのリスナーが慣れ親しんだプログロックやメタルの法則には乗っ取っていないかもしれません。一方で、故に革新的で創造性溢れ、前時代へのカウンターとして新たなビッグアクトの資格を得ているとも言えるはずです。バンドは自由自在に自己表現を繰り出すアートの極意を恐れてはいませんし、それでもなお、ロック/プログ/メタルの領域を住処としているのですから。遂に FUJI ROCK FESTIVAL 19′ で初来日を飾る KING GIZZ のモットーは、”No Slowing Down”。サイケ、プログ、ジャズ、エレクトロ、フォークにスラッシュとその境界を破壊し自由に泳ぐ魔法の王様は、きっとこれから何十年もロックミュージックの進化を担っていくはずです。

参考文献: The Guardian:King Gizzard & The Lizard Wizard: can the psych band release five albums in one year?
The Quietus:No Slowing Down: King Gizzard & The Lizard Wizard Interviewed
Ultimate Guitar :Why King Gizzard & the Lizard Wizard Are the Future of Rock Music We’ve Been Waiting for

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FUJI ROCK FESTIVAL 19′

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