COVER STORY 【TURNSTILE : HARDCORE RENAISSANCE】FUJIROCK 2024


COVER STORY : TURNSTILE “HARDCORE RENAISSANCE”

“Hardcore Can Be Whatever Anyone Wants It To Be.”

TURNSTILE LOVE CONNECTION

ボルチモアの TURNSTILE は妥協を許さないエネルギーと伝説的なライブで、ハードコアを全く新しいオーディエンスに紹介しながら、純粋主義者までも納得させる現代のダ・ヴィンチです。
フロントマン Brendan Yates は、たとえその両輪が困難な道だとしても、自分の心に従うべきだと固く信じています。
Yeats のその信念は、2021年のアルバム “GLOW ON” の中心にあり、このアルバムは、シンガーと彼のバンドメイトをスーパースターへと急速に押し上げました。”GLOW ON” は2023年のグラミー賞で3部門にノミネートされ、TURNSTILE は BLINK 182の2023年夏のツアーに参加することになったのです。
そして今や TURNSTILE は、メインストリームの音楽界で起きているハードコア・ルネッサンスの中心にいます。ラッパー、ロッカー、シンガー、プロデューサーたちは皆、このジャンルが築き上げてきた荒々しいエネルギーと獰猛な信憑性の一部を自らの中に取り込もうとしているようです。
今では、どのラッパーもライヴでモッシュピットを起こそうとしているように見えます。他のミュージシャンがハードコアのサウンドを “瓶詰め” にして持ち帰ろうとしている一方で、TURNSTILE は新たなハードコアの栓を抜き、ハードコアの魅力を薄めることなく、より広く、より多様で、より包括的なオーディエンスにハードコアを広めようとしているのです。
ハードコアのルーツは70年代後半まで遡ることができます。そして、BAD BRAINS, MINOR THREAT, BLACK FLAGのようなバンドが、当時流行していたアヴァンギャルドなニューウェーブ・ミュージックとは対照的な存在だったおかげで、このジャンルは80年代に一時代を築きました。それまでのパンク・ロックよりもハードで、より速く、よりアグレッシブなハードコアは、常にスピードと激しさ、そしてそう、”本物” であることを大切にしてきたのです。ギタリストの Pat McCrory はハードコアの自由についてこう語っています。
「ハードコアには自由がある。自分が本当に大切にしていることを歌っている限りね。そうすれば、オーディエンスは耳を傾けてくれるし、内容を理解することができる」

このジャンルの生涯の学習者だと主張する TURNSTILE のメンバーは、その習慣と伝統を尊重しながらも、今までのどのバンドよりもこのジャンルの境界線を押し広げようとしています。”GLOW ON” は、”TLC” や “Don’t Play” を筆頭に、伝統的なハードコア・ミュージックに根づくスラッシュ・ギターとファストなテンポに満ちていますが、同時にアルバム全体を通して外部の要素も貪欲に取り入れています。”HOLIDAY” や “MYSTERY” ではバンドの研ぎ澄まされたグルーヴが際立ち、”BLACKOUT” は複雑なドラム・ソロがエピローグ。”FLY AGAIN” では Yates が荘厳なボーカルを披露し、”NEW HEART DESIGN” や “UNDERWATER BOI” ではラジオ向けのリズムとリフをけれんみなく披露します。
ドラマーの Daniel Fang は TURNSTILE のサウンドの拡大についてこう感じています。
「”伝統的 “という概念がない方が、僕たち全員が人生を楽しめると思うんだ。僕らのバンドは、常に特定のサウンド、文化、コミュニティ、歴史に根ざしている。でも、時には、束縛されず、痒いところに手が届くような、自分たちの感情に従っていくのが好きなんだ。伝統的なものに縛られることは、発見すべき感情を制限するだけだから」
“Glow On” のレコーディングは MASTODON, AVENGED SEVENFOLD から Eminem, Jonas Brothers まであらゆるバンドを手がけたベテラン・プロデューサーのマイク・エリゾンドがおこないました。以前はハードコア・シーンの友人たちとコラボレートしていましたが、マイクの多彩な経験と新鮮な耳によって、彼らは新しいサウンドに挑戦することができたのです。
「マイクはメタル系のアーティストとも仕事をしたことがあるけど、Dr.Dre の下で育ち、フィオナ・アップルのようなアーティストとも仕事をしたことがある。彼がレコーディングしてきたアーティストのスペクトルの広さは、TURNSTILE のような必ずしも簡単にはひとつのカテゴリーに入らないバンドにとって、彼が理にかなっていることを意味していたんだ」
Yates が初めて共同プロデュースにも手を染めたことで、TURNSTILE はソウルやサイケデリア、ラップ・ロックやR&Bに、オルタナティブ・ポップやインディの新しい色合いを重ねることができるようになりました。それは、人間の感情の “複雑で多次元的” な性質を首尾一貫した音の構成に抽出する試み。
「このアルバムは、多くのダンス・ミュージックにインスパイアされている。僕たちは常にリズムを重視している。どの曲も意図的に、いや、意図的ではないのかもしれないが…ダンサブルだ。超高速やグルーヴィーである必要があるという意味ではなく、ミッドペースでもスローでも何でもいい。ラテンのマレンゲのリズム。ジャズ・ミュージック。ハードコアのヘヴィなグルーヴ。興奮が絶えないということなんだ」

ハードコアとジャンルを横断するプログレッシブさが闊達にブレンドされた TURNSTILE の音楽は、資本主義とは遠い場所にあると Yates は語ります。
「音楽を作るという個人的な充実感以外に、何らかの利益を追い求めることはない。その点で、”Time & Space” は可能性を広げてくれた。自分たちがやりたいことを何でもやっていいんだと思えるようになったからね。やりたくないことをやらなければならないというプレッシャーを感じなくなった。もちろん他の人たちが意見を言ったり、何かを参考にしたりすることはできるけど、僕たちは自分たちが大好きで、自分たちにとって特別だと感じる音楽を作ることに集中しているんだ。
僕たちは音楽を仕事として見たことがない。ビジネスや商業的な問題とは常に切り離されている。自分が何をしたいのかわからないまま大学に行ったときでさえ、”音楽は僕の特別なものだから、音楽は仕事にしない” と言ったんだ。
人生は非常に短い。もし、経済的な理由で、気分が乗らないことをするような、犠牲を払わなければならないような状況になったら、生きているとは言えないだろう」
Yates が音楽を愛しているのは、常に経験が加算されていくところ。
「音楽のクールなところは、それが音楽を作ることであれ、インスパイアされることであれ、常に前進する軌跡を持っていることだ。音楽のDNAは、常に追加されていくものなんだ。人生って結局、人、物、出来事など、さまざまな影響やインスピレーションに興奮することだよね。音楽もその影響を入れ替えるのではなく、加えていくんだ」
Yates にとって、執着を無くす、止まらない、新たなものを受け入れるマインドが音楽にプラスに働いています。
「音楽を作ったり、独立したり、旅をしたりするときには、とても流動的であることが重要だと思う。非常に自覚的に変化を受け入れ、新しいことを受け入れるということ。なぜなら、自分のイデオロギーや活動方法、あるいは自分が楽しんでいることの周りに障壁を作れば作るほど、自分自身を制限しているようなものだからだ。バンドに関して言えば、常にオープンマインドを保ち、たとえそれが過去に興奮したり、インスピレーションを受けたりしたものと違っていても、新たな物事の中にある美しさを探そうとすることだと思う。だから、音楽や、ツアーなど、バンドとしてやると決めたことに関しては、常に最も快適で明白な決断を選ばないようにしている。というのも、常に流動的であること、新しい経験やものに対してオープンであることが重要だと思うからだ」

フランク・ザッパ、デヴィッド・ハッセルホフ、エドガー・アラン・ポーなど、さまざまな著名人を育てたボルチモアの小さなコミュニティと多様性も、彼らの万華鏡のようなサウンドに大いに役立っています。「僕はいつも、呼ばれればどこへでも行くという考えをオープンにしてきた。でもボルチモアは特別なんだ。ニューヨークやLAのように、たくさんの人々が音楽を作っていて、自分が大海の中の小さな魚になってしまうような場所ではない。アート、音楽、スケートなど、さまざまな世界の多様な人々が集まる、とても親密な街で、独特の美しさがあるんだ」
TURNSTILE は近年の爆発的な評判を利用して、同じエネルギーと多様性を世界規模で体験しています。
「ヘヴィとかギター・ベースのバンドは僕らしかいないフェスティバルで演奏する機会もあった。自分たちがやっていることとはまったく関係がない人たちともつながることができるんだ」
TURNSTILE は、数え切れないほどの様々なクラブ・ショーに加え、Tyler, The Creator の Camp Flog Gnaw Carnival, Jay-Z の Made In America Fest, そしてあの Coachella にも招待されました。そんな中で Yates は、2019年8月にノルウェーのトロンハイムで開催された Pstereo を、ロンドンのインディー集団 Bloc Party、エセックスのエレクトロニック・アイコン Underworld、フランスのシンセ・ウェイヴの謎Carpenter Brut らと共演した、特に目立ったイベントとして挙げています。
「すべてが美しいバランスなんだ。ある日、あのようなフェスティバルで演奏し、次の日には小さな地下室のDIYショーで演奏する。いつだって自分は自分なんだ。それを受け入れ、誰とでも分かち合おうとすることだ。軌道を選ばず、どんな経験にもオープンであること。成り行きに任せるんだ」
成り行き任せ。それは、彼らのクリエイティブな精神をますます支えています。
「僕たちは、アイデアを持つこと、そして、それが正しいと感じること、そして僕ら5人を適切に反映すること以外に何も心配することなく、それを音楽にすることができる。僕たちがこれまで歩んできた道。今いる場所。これからどうなりたいか..」

そのサウンドに加え、ライブもハードコアの重要な要素です。ハードコアのライブにおいて、バンドと観客の間にある本当の区別は、誰が音楽を演奏しているかということだけ。それはカタルシスであり、感情の美しい共有、解放であり、モッシュピット、ステージ・ダイブ、ヘッドバンギング、超越を追い求める抑制の解放という形のセラピーだと彼らは言います。
「好きなだけ大声で歌ってもいいし、モッシュしてもいいし、ステージダイブしてもいい。バンドがやっていることも、観客がやっていることも、まったく同じことなんだ」
TURNSTILE のライヴに参加することは、ナイフで切れるほど鋭く、濃厚で豊かなエネルギーに身を浸すこと。うねるような群衆の塊に身を委ね、汗と魂を分かち合うこと。ベーシストの Franz Lyons は 「ライブを見なければわからない」と語っていますが、それは決して誇張ではありません。
「目標は、バンドと応援に来てくれる人々との間にできるだけ距離を置かないようにすることなんだ。みんなが何かの一部であることを感じ、ライブで何が起こっても受け入れてほしいんだ。様々な人生を歩んできた人たちと、その経験を分かち合うことは本当に最高にクールなことだからね」
TURNSTILE の強烈な世界とは裏腹に、バンドのメンバーは皆、気取ったり、ステレオタイプのロックスターの態度に似たものは一切なく、実際に会うと、とても親切でオープン。4人のメンバー(と現在のツアー・ギタリスト Meg Mills) の間にある本物の絆は、このバンドが根強い信頼性を持っている証拠。TURNSTILE はそして、名声が高まるにつれて、ファンベースとより心を通わせていきました。
「何かをするときはいつも、その裏にある意図に全エネルギーを注いでいる。僕たちのサウンドもそうであるように、僕たちのオーディエンスはその意図までも感じることができ、個人的に語りかけてくるのだと思う」
TURNSTILE は5枚のEP、3枚のスタジオ・アルバムをリリースしていますが、サウンドが進化したとしても、バンドのプロセスは不変です。
「僕たちは、自分たちにとって良いと感じれば音楽を発表する。シンプルなことだ。僕たちのゴールは、常に個々人が自分自身とつながっていることであり、そうすればグループとして、自分たちがつながることができる音楽を作れる。そしてそうすることで、自然と他の人たちにもつながる機会が生まれると思う。排他的にはなりたくない。それこそがマジカルなんだ」

つながりといえば、友人とのつながりも大事にする TURNSTILE にとって、POWER TRIP のフロントマンでハードコア界の革命児 Riley Gale の死はあまりにも衝撃的でした。”Thank you for let me C myself / Thank you for let me B myself!” と、傑出したT.L.C.(Turnstile Love Connection)で彼らは感謝を込めて吠え、しかし、”Fly Again” の “それでも君が残した穴を埋められない!” という叫びは、彼らのバック・カタログのどれよりも荒々しく、絶望的な感じが伝わります。
「孤独。漂流感。生きる意味。”Glow On” のテーマは自分が人として世界に与える影響や、自分がこの世からいなくなった時に何を残したかについての大局的な考察なんだ…」
TURNSTILE がさらに前進するにつれて、フロントマンは自分たちをハードコア・バンドと呼ぶのはフェアなことだと主張しますが、ジャンルの定義からはますます遠ざかっています。
「レッテルはあまり好きじゃなかった。レッテルは人を分断するものだから。僕はその逆を行くように努力している。カテゴライズは認められるべきだと思うけど、重要で称賛されるべきなのは、音楽を作っている一人ひとりをとてもユニークにしているものなんだ。音楽を作る人たちの精神がね。誰の個性も強調することが重要で、そのようなジャンル定義の中にある真のバンドとは何かということだ。誰かを排除することは決してない」
それは音楽だけにとどまらず、広い世界にも当てはまることだとYates は強調します。個人主義、自己決定、非伝統主義、多様性といった核となる価値観を持つ TURNSTILE は、2021年以降、人類が再び太陽の下へと歩みを進めるためのサウンドトラックにこれ以上ふさわしい存在はいないはずです。
「人々は、すべてが分類されたシステムを構築することに人生を費やしている。それを打ち破り、謎を解き明かし、学び、以前は理解できなかった人々を理解する余地を残しておくことは、大いに意味がある」
そして、この暗い時代が最終的には新しい音楽と芸術、開かれた心、より高い精神の “ルネッサンス” への踏み台になることを彼らは信じているのです。彼らは、今、かつてないほど毎日を楽しく過ごし、それぞれの経験を喜んでいます。
「ハードコアは誰もが望むものになろうとしている。僕らは何かエキサイティングなことの端っこにいるような気がする。未来に約束されたもの、保証されたものなど何もない。でも、同じ目標をもつ人たちとこの世界を共有できることは、とても特別なことなんだ」


参考文献: KERRANG!:Glow With The Flow: How Turnstile shut out the noise to stay true to themselves

HYPEBEAST:Turnstile: The Heart of Hardcore

The Editorial Mag:A Conversation with Turnstile

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