NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VICTORIANO : LIVING AN ODYSSEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SERGIO VICTORIANO FROM VICTORIANO !!

“I Fell My Selfattracted By The Originality Of Japanese Music, The Way They Mix Many Styles Into One Piece, That’s Absolutely Outstanding, For Example I Really Like Acid Black Cherry, Cause They Have Songs In Different Styles, From Rock, Jazz, Ballad, Pop. etc…”

DISC REVIEW “LIVING AN ODYSSEY”

「日本の音楽のオリジナリティに惹かれたんだ。いろんなスタイルを1つの作品にミックスするやり方は、本当に素晴らしい。例えば、僕は Acid Black Cherry が大好きなんだけど、彼らはロック、ジャズ、バラード、ポップスなど様々なスタイルの曲を持っている。日本のバンドから受けた影響によって、僕らの心は新しい音楽の地平へと開かれ、日本の音楽によって VICTORIANO は様々な音楽スタイルに挑戦し、自分たちの道を見つけることができた」
かつて、日本の音楽は西欧よりも “遅れている”、テクニックが足りていない、外国では売れない、日本語が壁になるなどと言われていた時代がありましたが、インターネットの進歩によってそうした言説が誤ちであることが証明されつつあります。もちろん、他文化を受け入れる風潮が高まったという時流の変化もあるでしょうが、むしろ日本の音楽は “発見” されていなかっただけで、今ではその独特のコード感やメロディ、日本語の響きを含めて “クール” だと感じる外国人が明らかに増えています。
地球の反対側、チリから現れた VICTORIANO もそんなバンドのひとつ。ただし、彼らの日本に対する愛情はアメリカ大陸においても群を抜いています。
「数年間日本語を勉強していて、日本語はとても美しい言語だと気づいたし、その響きが好きになったから。その頃僕は、何か本当にオリジナルなことをしたいと思い、アメリカ大陸で日本語でフルアルバムをリリースする初めてのバンドになるという挑戦を自分に課したんだ。僕らの音楽を日本のリスナーの心に届けることは、僕にとってとても重要なこと。だからすべての愛を込めて、特に日本の人たちのためにアルバムを作ったんだ」
日本の音楽、その美しいメロディと多様なスタイル、そしてリリックの侘び寂びに魅せられた VICTORIANO。だからこそ、彼らは “日本語で” 歌うことにこだわりました。当然、ラテン系の言語と日本語の間には大きな隔たりがあります。その習得だけでも容易ではありません。ましてや、心を込めて歌うことには相当の鍛錬が必要でしょう。そうして彼らはやりきりました。
「最近日本の音楽でよく聴いているのは、Iron Attack, Imari Tones, 陰陽座, Siam Shade, Acid Black Cherry, Xie, Saluki, Galneryus だね。VICTORIANO のスタイルはかなり実験的で、ロック、ダブステップ、インダストリアル・メタル、プログレッシブ・ロック、ポップ、ジャズの間のミクスチャーだ。僕たちにとって最も重要なことは、他のバンドのスタイルを真似たり、守ったりするのではなく、オリジナルのスタイルを確立することだ」
“Living an Odyssey” を聴けば、その音楽のそこかしこに、古き良き往年のパワー・メタルと共生する日本の息吹を感じるはずです。バンドとして敬愛する Acid Black Cherry を筆頭に、Siam Shade, L’Arc~en~Ciel といったVとメタルの架け橋となったバンドの刹那のメロディ。さらにはボーカルの Sergio が幼少期から愛するアニソンとメタルの架け橋、Make Up や影山ヒロノブの遺伝子。そして Yama-B のゲスト参加が物語るように、日本を代表するパワー・メタルの伝説 GALNERYUS の純真。聖飢魔IIや Daita のシュレッドを思わせる場面も。
チリは敬虔なカトリックの国ですが彼らはプロテスタントで、興味深いことに彼らはそうした日本に対する愛情をキリスト教文化の中に落とし込みました。ルカの福音書にインスピレーションを得た “神の許しがない” を筆頭に、STRYPER も顔負けの穢れなきまっすぐなリリックは、不思議と日本語の響き、日本の音楽に自然に融合し、新たなアマルガムを創造していきます。広がるメタルの世界。その情報過多とも思える彼らの創造こそ、まさに今のメタルが翼を広げて飛翔する姿の象徴でしょう。
今回弊誌では、Sergio Victoriano にインタビューを行うことができました。「間違いなく僕は子供の頃からパワー・メタルが大好きだった。そして、これからもパワー・メタルを、新しい曲を作り続けていきたい。今の時代、パワー・メタルがそれほど人気がなくても構わないんだ。大事なのは、心の中にある音楽を作れるかどうかだから」 二度目の来日にも期待。どうぞ!!

VICTORIANO “LIVING AN ODYSSEY” : 9.9/10

INTERVIEW WITH SERGIO VICTORIANO

Q1: I am glad that you guys have great affection for Japan! First of all, what made you interested in Japan in the first place?

【SERGIO】: Since I was a kid at that age I used to watch many Akira Kurosawa’s movies, I used to practice Karate, so in that sense Japanese culture seems very attractive to me, also I like the Japanese food, as well as Anime and Japanese music such as Rock, Metal, Gospel, Pop, Ballad and New Age music, for example I love Kitaro, all of those things make me feel love for Japanand I have many Japanese friends too.

Q1: あなたたちが日本に大きな愛着を持ってくれて嬉しいですよ!まず、日本に興味を持ったきっかけから教えていただけますか?

【SERGIO】: 子供の頃から黒澤明の映画をよく観ていたし、空手もやっていたから、そういう意味では日本の文化はその頃からとても魅力的に思えたね。
日本食も好きだし、アニメやロック、メタル、ゴスペル、ポップス、バラード、ニューエイジなどの日本の音楽も好きだよ。例えば、僕はは喜多郎が大好きだしね。そうしたすべてが、日本が大好きだと感じさせてくれるんだ。日本人の友達もたくさんいるしね。

Q2: Obviously, your music is heavily influenced by Japanese music, ranging from J-Pop, J-Rock, Metal, V-Kei, and even Johnny’s. What kind of Japanese music have you been listening to?

【SERGIO】: Lately from Japan I’ve been listening a lot to Iron Attack, Imari Tones, Onmyouza, Siam Shade , Acid Black Cherry , Xie, Saluki and Galneryus. Victoriano’s style is quite experimental, it is mixture between Rock, Dubstep, Industrial Metal, Progressive Rock, Pop, Jazz. What really matters most to us is being able to develop an original style, not imitating nor trying to keep other bands’ stlyle.

Q2: あなたの音楽は、J-POP、J-ROCK、メタル、V系、そしてジャニーズまで、明らかに日本の音楽から多大な影響を受けていますね。どんな日本の音楽を聴いてきましたか?

【SERGIO】: 最近日本の音楽でよく聴いているのは、Iron Attack, Imari Tones, 陰陽座, Siam Shade, Acid Black Cherry, Xie, Saluki, Galneryus だね。VICTORIANO のスタイルはかなり実験的で、ロック、ダブステップ、インダストリアル・メタル、プログレッシブ・ロック、ポップ、ジャズの間のミクスチャーだ。
僕たちにとって最も重要なことは、他のバンドのスタイルを真似たり、守ったりするのではなく、オリジナルのスタイルを確立することだ。

Q3: It is not easy to encounter and delve into Japanese music in Chile. After all, did the evolution of streaming service bring you and Japanese music together?

【SERGIO】: Yes of course it did. all of these yearssince YouTube exist I was able to discover a lot of Japanese music that going back in years was very hard to get, in that sense internet and all of that media around they’ve become an extremely important source to make the music flow, either trying to get works from new independent artists and also it is a great way to distribute your own music.

Q3: チリで日本の音楽と出会い、掘り下げるのは容易ではないでしょう。やはりストリーミング・サービスの進化が、あなたと日本の音楽を結びつけたのでしょうか?

【SERGIO】: もちろんそうだよ。YouTubeが存在するようになってから、昔は入手するのがとても難しかった日本の音楽をたくさん発見することができた。そういう意味で、インターネットやその周辺のメディアは、新しいインディペンデント・アーティストの作品を手に入れようとしたり、自分の音楽を配信したりするのに究極に重要な情報源になっているんだ。

Q4: What attracted you to Japanese music compared to Western music or your local music?

【SERGIO】: well, first of all, I fell my selfattracted by the originality of Japanese music, the way they mix many styles into one piece, that’s absolutely outstanding, for example I really like Acid Black Cherry, Cause they have songs in different styles, from Rock, Jazz, Ballad, pop. etc…
All that influence that came from Japanese bands made our minds were open to a new musical horizon, that fact encouraged Victoriano to experiment into several musical styles and find our own way, but at the same time it is a little sad to say that bands in Latin America they are not very original, so you realize that most of them try to sound similar to some other bands, just a little number of them are able to develop an original style, and it is even harder to accept that in Latin America Rock is not very popular, the most of Latin audience they are focus on Salsa, urban music, reggaeton, Latin dance music, and the people seems to spin around in circles into those music styles..

Q4: 西欧の音楽や地元の音楽と比べて、日本の音楽のどこに魅力を感じましたか?

【SERGIO】: まず、日本の音楽のオリジナリティに惹かれたんだ。いろんなスタイルを1つの作品にミックスするやり方は、本当に素晴らしい。例えば、僕はAcid Black Cherry が大好きなんだけど、彼らはロック、ジャズ、バラード、ポップスなど様々なスタイルの曲を持っている。
日本のバンドから受けた影響によって、僕らの心は新しい音楽の地平へと開かれ、日本の音楽によって VICTORIANO は様々な音楽スタイルに挑戦し、自分たちの道を見つけることができた。しかし同時に、ラテン・アメリカのバンドがあまりオリジナリティがないというのは少し悲しいことで、ほとんどのバンドが他のバンドと似たようなサウンドを出そうとしていることに気づく。個性を追求しているバンドはごく少数だ。
ラテン・アメリカではロックはあまり人気がなく、サルサ、アーバン・ミュージック、レゲトン、ラテン・ダンス・ミュージックに人気が集中しているんだ。

Q5: Amazingly, you guys sing most of your songs in Japanese! What made you decide to sing in Japanese?

【SERGIO】: I studied Japanese for a few years, and I realized that Japanese it’s a very beautiful language and I like how it sounds, in that moment I was searching for doing something really original, so I proposed to myself the challenge of being the first band in the Americas to release a full album in Japanese, it is very important to me reaching the hearts of the Japanese audience with our music, we composed it with all of our love especially for people in Japan.

Q5: 驚くべきことに、あなたはほとんどの曲を日本語で歌っています!なぜ日本語で歌おうと思ったのですか?

【SERGIO】: 数年間日本語を勉強していて、日本語はとても美しい言語だと気づいたし、その響きが好きになったから。その頃僕は、何か本当にオリジナルなことをしたいと思い、アメリカ大陸で日本語でフルアルバムをリリースする初めてのバンドになるという挑戦を自分に課したんだ。
僕らの音楽を日本のリスナーの心に届けることは、僕にとってとても重要なこと。だからすべての愛を込めて、特に日本の人たちのためにアルバムを作ったんだ。

Q6: What was difficult about singing in Japanese? How did you write the lyrics?

【SERGIO】: It was quite difficult, the Japanese language is very difficult for us, very different from Spanish, but I have a Japanese friend named Rene Kembo san, who helped me a lot to make a good translation for the lyrics from Spanish to Japanese, and he also was me guide in pronunciation, trying to do it the best as possible, he is a great friend of mine.

Q6: 日本語で歌うことの何が難しかったですか?歌詞はどのように書いたのでしょう?

【SERGIO】: とても難しかったよ。僕らにとって日本語はとても難しいし、スペイン語とは全然違うからね。でも、レネ・ケンボさんという日本人の友達がいて、スペイン語から日本語への歌詞の翻訳をとても助けてくれたし、発音のガイドもしてくれたんだ。彼のおかげでうまくいったし、大親友だよ!

Q7: I see that Yama-B is a guest! Did he and Galneryus stand as heroes for you?

【SERGIO】: Oh Yes, of course they did! in my opinion Yama-B is the best Asian metal singer, he is really talented, he has an incredible voice, and Galneryusis a great band, they’re excellent musicians, I really love them.

Q7: Yama-Bがゲスト参加していますね!彼と GALNERYUS はあなたにとってヒーローなんでしょうか?

【SERGIO】: ああ、もちろんそうだよ!僕の意見では、Yama-B は最高のアジアン・メタル・シンガーで、本当に才能があるし、信じられないような声を持っている。それに GALNERYUS は偉大なバンドで、彼らは並外れたミュージシャンたちだよ!

Q8: Power metal has never been the most popular music today. But in this dark world, power metal fantasy must be a much-needed escape. Can a band singing in Japanese in Chile revive power metal?

【SERGIO】: Well, power metal is the music that all of Vicotriano members we have been listening to since we were teenagers, many bands such as Stratovarius, Sonata Arctica, Nightwish, Rhapsody and Helloween they are very important to us, we really love them, thanks to our friend, the great Japanese guitarist “Iron Chino” from the band Iron Attack, I dared to make power metal, he very kindly invited me to sing a song for his album “Perpetual Nightmare”, the song is called “Fantasma”, after the recording of that song I realized that I could sing into that style and we composed “Living an Odyssey” I was able to return to the early years when we used to compose power metal songs many years ago, and I have to say that I’ve loved power metal since I was a kid practically, we hope to continue composing power metal, creating new songs, it doesn’t matter if in this era it is not so popular, the important thing is to be able to make the music that is inside the heart.

Q8: パワー・メタルは今日、決して最も人気のある音楽ではありません。しかし、この暗い世界で、パワー・メタル・ファンタジーこそ必要とされ、現実からの逃避場所となるべきではないでしょうか。チリで日本語で歌うバンドは、そのパワー・メタルを復活させることができるでしょうか?

【SERGIO】: STRATOVARIUS, SONATA ARCTICA, NIGHTWISH, RHAPSODY, HELLOWEEN など、パワー・メタルの多くのバンドは僕らにとってとても重要で、本当に大好きなんだ。友人の偉大な日本人ギタリスト、IRON ATTACK の “アイアン・チノ “のおかげで、僕はパワー・メタルを作ることを決心した。彼のアルバム “Perpetual Nightmare” のために、彼はとても親切にも僕に曲を歌うよう誘ってくれた。その曲は “Fantasma” という曲で、この曲のレコーディングの後、僕はこのスタイルで歌えることに気づいて “Living an Odyssey” を作曲したんだ。僕は、何年も前にパワーメタルの曲を作曲していた初期の頃に戻ることができたんだよ。
そう、間違いなく僕は子供の頃からパワー・メタルが大好きだった。そして、これからもパワー・メタルを、新しい曲を作り続けていきたい。今の時代、パワー・メタルがそれほど人気がなくても構わないんだ。大事なのは、心の中にある音楽を作れるかどうかだから。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED SERGIO’S LIFE!!

Queen “The Works”

Europe “The Final Countdown”

Bon Jovi “Slippery When Wet”

Stratovarius “Visions”

Helloween “Keeper of the Seven Keys”

MESSAGE FOR JAPAN

Sergio Victoriano: well as you can see I really like a lot of things from Japan, anime, video games, films, food, my message for Japan is:
We are Victoriano and we composed our music with care and affection especially for you all in Japan, we hope that you like and enjoy our music and I hope we can tour throughout Japan into the future, greetings from Santiago de Chile Thanks again!
ありがとう!

見ての通り、僕は日本のいろんなものが大好きなんだ。アニメ、ビデオゲーム、映画、食べもの…僕たちは VICTORIANO で、特に日本のみんなのために心を込めて作曲したんだよ。僕たちの音楽を気に入って楽しんでもらえたらうれしいし、将来日本全国をツアーできることを願っているよ!チリのサンチアゴから愛を込めて。ありがとう!

SERGIO VICTORIANO

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【HARAKIRI FOR THE SKY : SCORCHED EARTH】


COVER STORY : HARAKIRI FOR THE SKY “SCORCHED EARTH”

“Even If I Am Generally Lucky, I Have a Very Cool Band, I Have a Very Cool Wife And All That, But In The Meantime All That Is Happening In The World, Gets Me In a State Of Mind Where I Should Not Be And It May Be The Answer If People Ask How I Get Into This Sad Mood To Write Those Lyrics.”

SCORCHED EARTH

絶望、喪失、愛、そして実存的葛藤は、常にHARAKIRI FOR THE SKY の特徴的なサウンドの基盤。そうして2011年の結成以来、マルチ・インストゥルメンタリストのM.S.とボーカリストのJ.J.は、アトモスフェリックなエクストリーム・メタルとメロディアスなポスト・ロック、グランジ、モダン・ハードコアを融合させたエモーショナルなサウンドで音楽の境界を押し広げ、独自のジャンルを確立してきました。HARAKIRI FOR THE SKY は、ある意味過小評価されているバンドだと言えます。このオーストリアのデュオのメロディに対するこだわりは誰にも引けを取らず、憧憬のアトモスフィアと黒々とした攻撃性、そして瞑想的なテンポを組み合わせながらも、決して “虚弱さ” に陥ることはありません。あくまでもメタルの文脈の中で、筋肉質な重さとメロディックなモチーフにその情熱を注いできました。このスタイルのトレードマークであるゆっくりと燃え上がる “スロウ・バーン” を追求しながら、彼らは常に “ポスト・ブラック” という形容の落とし穴を避け、弱々しくきらびやかでしかし “簡単な” 道を選ぶことはなかったのです。
つまり彼らは小手先の技に頼らず、美しさ、憂鬱さ、残虐さのバランスを保ちながら、その中に光と希望を輝かせる卓越したソングライティングで、音楽の限界を押し広げてきました。感情を揺さぶるという使い古された言葉では言い表せないほどに。
それにしても、日本人としてはこの突拍子もないバンド名が気になります。
「Harakiri とは割腹自殺のこと。そう、経験したくはないことだ。これはボーカル J.J. のアイデアで、彼の夢と関係があるんだ。自殺は彼にとってとても重要なテーマで、彼は崖から落ちるような夢を見たんだけど、自分を刺しそれから飛び始めたんだと思う。僕の知っている限り、彼はそうやってこの名前を思いついたんだと思う。だから、彼の歌詞の中にも、いろいろなことの比喩があると思ったんだ」

2010年代初頭、寝る間も惜しんで Bandcamp を漁っていたメタル・ナードにとっては忘れられない名前でもあります。
「覚えている限りでは、我々は2011年の春か夏頃、古いアパートで HFTS のアイデアを思いついたんだ。夜通し酒を飲みながら、WOODS OF DESOLATION やALCEST、HERETOIR といった初期のポストブラックメタルを聴いていた。2人とも、当時組んでいた他のバンドにあまり満足してなくて、何か新しいもの、違うものを求めていたんだよね。こうして HFTS が誕生した。デビューのための最初のレコーディングをするまでに、そんなに時間はかからなかった。2012年の初めに完成し、その数ヵ月後に僕らが今も所属しているレーベル、AOPレコードからリリースされることになった。そう、それがこのバンドの起源だ」
ちょうど、オーストリア、そしてインターネットから生まれたバンドが飛躍し始めたころ。
「オーストリアは大きな国ではないし、大きなシーンもなかったけど、SUMMONING や ABIGOR、ELLENDE のような新しく、とても有望で影響力のあるバンドがいる。バンドを始めた当初は、Facebook や Bandcamp などを通じて、オーディエンスを見つけることができたのも大きかったな。そのおかげで、オーストリアの外でもすぐに演奏することができたし、ツアーにも出ることができたと思う。当時はポスト・ブラック・メタルはまだ新しかったし、インターネットはそれを “流行らせる” のにとても役に立ったんだ」
ポスト・ロックとブラック・メタルの融合は、最初から目指していたものなのでしょうか?
「もちろん、バンドを始めた頃は雰囲気のあるブラック・メタルのバンドを聴いていたし、同じようなことをやりたかったんだ。メランコリックな雰囲気がありつつもハーシュな音楽で、僕らが好きな音楽、聴いていた音楽からすべて何かしらの影響を受けていたから、頭に浮かんだものをそのまま書いたんだ。それが全体的なサウンドなんだけど、特定のバンドのようなサウンドにしたかったわけでもないし、特定の影響を受けたわけでもない」

HARAKIRI FOR THE SKY を10年以上続けてきたその原動力とはなんだったのでしょう?
「他人やファンとのコミュニケーションのためにやっているとは思わない。でも、僕らの作る歌詞や音楽の中に、同じような心の重荷というか、なんというか……そういうものを感じて、自分自身を見出すことがあるとしたら意義深いことだ。僕らははいつも、ある種のセラピーとして、自分自身を表現するためにやってきた。でも、他の人たちが僕たちの作るアートに共感してくれるのは、いつだって嬉しいことだし、そう、僕たちの曲のすべてに通じる特定のテーマや問題があるんだ」
それはどんなテーマなのでしょう?
「僕らの歌詞は常に自伝的なもので、つまり、書けるのはそれしかない。歌詞のほとんどは、人生のマイナス面、憂鬱、失恋、疎遠、薬物乱用などについてのものだ。でも、それは人間の心の奥底に宿っているもので、僕たちは多かれ少なかれ、そうしたネガティブな感情を処理しなければならない。そこでアートが生まれる。良い芸術や良い音楽は、通常、優雅な時に生まれるのではなく、憂鬱や悲しみから生まれるものだから」
人間嫌いと噂されることも少なくありません。
「人間嫌いかどうかはわからない。なぜなら、人間関係で何か不快なことや嫌な経験をしたとき、それをただ飲み込むのではなく、僕らは吐き出す必要があるからだ。音楽はそのための素晴らしいフィルターであり、そういったことに対処するための個人的なカタルシスなんだ。もちろん、世界でいろいろなことが起きている中で、ポジティブなことを見つけるのは難しいけど、それよりも、個人的に起きた悪いことに対処しているんだ」
彼らの音楽からは明らかに “冬” の景色が聴こえます。
「僕は完全に秋冬派だね。春も好きだけど感動するというわけではない。月並みな言葉だけど、寒くなり、自然が死んで、数ヵ月後の春にまた生まれ変わるとき、いつも何か重要なことが起こるという意味でね。つまり、多くのアルバムや音楽が四季に言及しているのは、それが感動的なものだからだ。僕は個人的には寒い季節が好きだ。僕は山の中腹出身だから、雪や氷が好きだったんだ」
動物を使ったアートワークの数々も、彼らの美学を彩ります。
「最初のアルバムでカラスを使ったときから、それが僕たちのコンセプトであり、意図となった。動物には、メランコリックな音楽にぴったり合う特別な美学があるんだ。こうしたジャケットやイラストは絶対に残していくよ。”Scorched Earth” の新しいアルバム・ジャケットには、過去5枚のアルバムの動物をすべて集めた。これは、新しいアルバムが過去に書いたすべての音楽的なコレクションであることを示すためだ。僕たちの音楽の旅を示しているんだ」

2021年の “Maere”(ドイツの公式チャートで4位を記録)の後、4年の歳月をかけて次なる壮大な章 “Scorched Earth” を作り上げた HARAKIRI FOR THE SKY。このアルバムは、私たちが生きている世界のスナップショットといえます。私たちの社会は根底から分断され、ここ数十年、平和からかつてないほど遠ざかっています。危機が次から次へと押し寄せてくるような、そんな差し迫った破滅の予感が “Scorched Earth” には込められているのです。
4年というインターバルは彼らにとってこれまでなかったことでした。それは、パンデミックが及ぼした影響でした。
「コロナのために多くのコンサートやツアーが延期され続けたことも関係している。結局、この2年半で、2020年の初めからやるべきことをほぼすべてやり遂げた。年間80本ものコンサートを行い、さらに移動とその周辺のすべてをこなすとなると、継続的に新曲に取り組む時間とエネルギーはあまり残されていない。作曲はツアーの休憩時間に限られていた。
それに、あまり外に出ず、家にいる時間が長いと、インプットがなければアウトプットもない。インスピレーションを与えてくれるものがないんだ。だから全体的に時間がかかるんだ。それに6枚目のアルバムでは、物事が迅速に進まないということもある。同時に何千ものアイデアを思いつくことはなくなり、全体的に内省的になる」
一方で、パンデミックのおかげで、初期の “Harakiri For The Sky” と “青木ヶ原” を再録することができました。
「最初のロックダウンは本当にクールだった。でもある時点で、おそらくほとんどの人がそうであるように、ある種の無気力に陥ってしまった。結局、最初の2枚のアルバムを再レコーディングして再リリースすることで、時間を使うことにした。無理に新曲を作るのではなく、このようなプロジェクトに時間を使おうと考えたんだ。
何度もライブで演奏し、現在のサウンドを実感しているからね。Ver. 2.0ではまったく違うサウンドになっている。僕の声色はこの10年で大きく変わった。当時のアルバムは、ドラムをプログラムして自宅でレコーディングしていた。ノスタルジックに言えば、それはそれで魅力的なのだが、これらのアルバムが今の HARAKIRI FOR THE SKY のようなサウンドだったら、どんなにクールだろうと思った。特に本物のドラムで、プロのスタジオで録音され、宅録のクオリティを損なうことなくね。
バンドを始めたとき、僕たちはバンドがどこに行くのかわからなかった。DIYのミュージシャンで、家ですべてを解決していた。でも、ある時点で僕たちは話し合ったんだ。リマスター?いや、それだと本物のドラムをミックスできない。リミックス?だったらアルバムを完全に録り直すことにしたんだ。この決断にはとても満足している。オリジナル・バージョンはYouTube や Spotify などに残っているから、ファンにとって問題はない。だから、どのバージョンが好きかは君たちが決めればいい」

“Scorched Earth” はプレス・リリースによれば、”悲惨なまでに壊れてしまった世界 ” にインスパイアされたものだといいます。それは “内省的” なものから離れているようにも聞こえます。
「このアルバムは政治的なアルバムかとよく聞かれるんだ。でも政治的なアルバムではないんだよ。ただ、ここ数年、特にロシアのウクライナ侵攻以来、そして一昨年の10月7日以降、実は “コロナ” 以降なんだけど、世界の出来事がどれだけ僕らの精神的にネガティブな影響を及ぼしているかに気づいたんだ。朝から晩まで悲惨なヘッドラインにさらされ、そのどれもが自分を落ち込ませる。政治的なアルバムではないけど、このような世界の出来事がアルバムのムードに自然に影響を与えているんだよ。
でも、HARAKIRI FOR THE SKY では、いつも僕ら自身が経験した自伝的なトピックについて書いている。ファンタジーは書けないし、書きたくない。2020年の半ばか終わりに、僕の人生はかなり破綻した。当時のガールフレンドは6年間付き合った僕を捨てたんだ…理由はともかく。コロナがやってきて、ライブもなく、僕は文字通り実存的な危機に陥った。そのすべてがこの作品反映され、だから歌詞には悲痛な思いが強く表れているんだ
アルバムのトラックリストを発表したとき、ある人から “エモい” と言われたんだ。”Without You, I’m Just a Sad Song ” や “Too Late for Goodbyes” のような曲やタイトルは、実際とてもエモく聞こえる。曲目が一緒にリストアップされているのを見たことがなかったから、そのことに気づかなかった。しかし、そう、最初から最後まで失恋ソングなんだよ。それは HARAKIRI FOR THE SKY にとって目新しいことではない。薬物乱用、メンタルヘルス、うつ病、壊れた人間関係といったトピックは、僕たちの音楽の重要な部分だ。そうしたテーマは僕らを夢中にさせるし、おそらくこれからもずっとそうだろう。人生は楽にはならないし、年を取れば取るほど、別れは頻繁に訪れるようになる。今は幸せな恋愛をしているし、結婚して1年になるけれど、そういう経験はいつも心に響く。幸運にも僕はとてもクールなバンドをやっていて、とてもクールな奥さんがいて、いろいろなことに恵まれているんだけど、その間に世界で起こっているすべてのことが、僕を本来あるべきでない精神状態にしてしまう。簡単に言うと、僕は繊細すぎるんだ」

古き良き、もしかしたら今よりも平和で気楽だった過去へのノスタルジーも、彼らの音楽にはタペストリーのように織り込まれています。
「HARAKIRI の音楽はいつも、すべてがより良かった過去への強い憧れの感情、究極のメランコリーを反映している。人類の歴史には常に、すべてが非常に悪いと思われた時代があり、その後、より良い時代がやってくる。個人的にも初めての恋とか、今はもういない人間関係とか、そういうことを思い出すと、メランコリックな気持ちになることは誰にでもあると思う」
また同じプレスリリースには、”Scorched Earth” は、すべてのアルバム、”HARAKIRI” が象徴するもの、音楽的、歌詞的なすべての結論のようなものとも書かれています。
「このアルバムは “HARAKIRI FOR THE SKY” の長所を1枚にまとめたものだと思う。瞑想的なポスト・ブラックのパートに、ブラスト・ビート、トレモロ・ギターといった、僕らがいつもやっているようなサウンドは健在だ。同時に、インディー・ロックやグランジ、ポスト・パンク的なアプローチなど、より実験的な要素も多く含まれている。
基本的に、このアルバムはファースト・アルバム以来の僕たちの音楽的な旅を要約したものであり、これまでのアルバムのベストを総括したものでもある。でも、これからもスタイルを根本的に変えることはないと思う。基本的に自分たちが進みたい方向は決まっている。もちろん、新しい影響は僕たちに影響を与えるけど、例えば “Scorched Earth ” で単なる “Mære 2.0 ” を作りたくはなかった。さらなる発展が僕らにとって重要だったんだ。
ただし、バンドが自分たちのスタイルを見つけるのはいいことだが、同じことを繰り返したくはない。だからこのアルバムを “Conclusio” と呼んでいるんだ。アルバム・ジャケットには、過去に登場した5匹の動物が描かれている。動物たちは燃え盛る森から逃げ惑い、そのうちの何匹かはすでに燃えている。つまり、これは終わりではなく、HARAKIRI FOR THE SKY がこれまでやってきたことの論理的帰結なんだ」

アルバムには多くのゲスト・ボーカルが参加しています。
「時系列で説明しよう。まずは AUSTERE の Tim から。AUSTERE に出会ったのは彼らのファーストアルバムが出たときで、2006年か2007年のことだった。当時18歳か19歳で、ほとんどアンダーグラウンドのブラックメタルばかり聴いていた。AUSTERE, LIFELOVER, NYKTALGIA…憂鬱なブラックメタルばかりだった。ポスト・ブラック・メタルが登場する前は、それが僕のちょっとした宗教だった。その15年後、あるライブで Tim に会った。彼は HARAKIRI のジャンパーを着ていて、僕らのファンだったんだ。彼の歌声は素晴らしかったね!
SVALBARD はもう知ってるよね。少なくとも今は、ALCEST とのツアー以来だけどバンドとの付き合いはかなり長い。2015年にウィーンのコンサートで彼らを見たときからのファンだからね。Serena は美しくクリーンな歌唱もできるし、非常にクールなハーシュ・ヴォーカルもできる。そのコンサート以来、僕はSVALBARD のファンになった。以前からスクリームもできる女性と仕事をしたいと思っていたので、彼女は第一候補だった。M.S.も、クリーン・ボーカルとのコンビネーションという点に惹かれたんだ。それに彼女は超超超素敵な女性だよ!
GROZAのP.G.は、今では親友だ。彼はザルツブルクのすぐ近くに住んでいて、しょっちゅう会っている。一緒にコンサートをしたバンドはとても少ないんだ。P.G.はもともと僕と一緒にスクリーム・ヴォーカルをやるはずだったんだけど、彼は自発的に ALICE IN CHAINS のようなスタイルでやってみたんだ。僕たち全員がかなりのグランジ・ファンであることは周知の事実だ。この曲はとてもいい仕上がりになったと思う。僕らのファンのための曲でもあると思う。
最後の曲についてだけど、M.S.はもう少し KATATONIA の流れを汲む曲を書きたかったようだ。僕も KATATONIA のファンだけど、M.S.は本当にファン・ボーイなんだ。その路線で何か書いてみたいと。僕は歌えないことはないけど、音域は信じられないほど広くはないんだ。この曲でボーカルを務めた Daniel は、実は KARG と自身のバンド BACKWARDS CHARM のギタリスト。かなり古典的なシューゲイザー・バンドだと思うよ」

RADIOHEADのカバー “Street Spirit” をボーナス・トラックに決めたのはなぜだったのでしょう?
「アルバムのボーナス・トラックとして特別盤に収録される曲のカバー・ヴァージョンを毎回制作していたんだ。典型的なブラック・メタルやポスト・メタル、ハードコアなどではなく、常に違うジャンルの曲でなければならない。いわば、僕らのバンドの手袋をはめた原曲のような、新しい解釈であるべきなんだ。僕らは、Placebo や Radiohead のようなバンドの大ファンだった。過去2枚のアルバムでは、それは完全に理にかなっていた。確かに Radiohead は Harakiri のようには聴こえないし、その逆もしかりだけど、この曲の始まり方はHFTSでもあり得たと思う。だから、この曲は僕らにぴったりの曲だと思う」
重苦しさ、痛み、哀しみ、絶望、カタルシス、残虐性など、”Scorched Earth” はあらゆる暗さに触れ、ほんの一握りの光を灯し、エネルギッシュかつ憂鬱な雰囲気を漂わせながら、聴く者を難なく彼らの世界へと導いていきます。このアルバムにおける極端な表現のバランスは、もはや HARAKIRI のサウンドスケープとして唯一無二のトレードマークとなっています。Evoken de Valhall Production による来日公演も大盛況。そんな彼らは今、どんなバンドとの共演を夢見ているのでしょう?
「ALCEST, CONVERGE, そして AMENRA かな。彼らは本当に大きな存在だから」


参考文献: Arrow Lords Metal: Harakiri For The Sky

Disciplin Mag:IN CONVERSATION WITH – Harakiri For The Sky – Interview

Metal Imperium: Interview Harakiri For The Sky

Metal de: Harakiri For The Sky Interview

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MIKAEL ERLANDSSON : THE SECOND 1】 “THE 1” 30TH ANNIVERSARY


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKAEL ERLANDSSON !!

“Melodic Hard Is My ”Backyard” And My Home! I Will Continuing Doing This Til The Day I Die. Doesn’t Matter If It’s Popular Or Not – For Me It’s My Music Lifestyle – Love It !!!”

DISC REVIEW “THE SECOND 1”

「メロディック・ハードロックは私の “バックヤード” であり、私の家なんだ!だから、死ぬまでやり続けるつもりだよ。人気があろうがなかろうが関係ない!私にとって、この音楽はライフスタイルなんだ。ただ、愛しているんだよ!」
“ダサい” 音楽とは何でしょうか?流行や時代にそぐわない音楽のことなのでしょうか?だとしたら、たしかにメロディック・ハードロック、通称メロハーは “ダサい” 音楽なのかもしれません。ただし、もし、”ダサい” が情熱や信念もなくただ時流に乗るだけの、名声、金、モテを欲するポーザーを指すとしたらどうでしょう?明らかにメロハーは “ダサい” から最も遠い場所にいます。なぜなら、大きな名声や金銭は今の時代、メロハーでは得られないものだから。
それでも北欧の貴公子 Mikael Erlandsson がこの音楽をやり続けるのは、メロハーが、美しい旋律がただ好きだから。あの傑作 “The 1” から30年。ついにリリースされる続編 “The Second 1” には、長い月日を経ても枯れることのなかったメロハーに対する愛や情熱が溢れています。
「私は美しいメロディーがただただ大好きなんだ。そしてそれは、私の頭の中で常に鳴っている。メジャー・キーでもマイナー・キーでも、音楽のルールにとらわれず、自分なりのやり方でやるのが好きなんだよ」
1994年、ゼロ・コーポレーションからリリースされた “The 1” はメロハーを定義づけるレコードの一枚となりました。ハードな曲もソフトな曲も、メジャー・キーでもマイナー・キーでも貫かれる旋律の審美。
もちろん、アップテンポでハード、北欧の哀愁が浸透した “It’s Alright” は特にここ日本で爆発的な人気を得ましたが、それだけではありません。例えば “Show me”, “Reason” のようなおおらかなメロディの泉や、”Wish You Were Here”, “Life is a Hard Game to Play” のようなクリスタルで澄み切った北欧の景色に “We Don’t Talk Anymore” のタンゴまで、Mikael のハスキー…ボイスが紡ぎ出すメロディはすべてが珠玉で、ジャンルの醍醐味を心ゆくまで見せつけてくれたのです。
「私は自分をシンガーソングライターとして見ているんだ。そして自分のやっていることを愛している。そうした有名になることについて、ただ興味がないんだよ。だから、人気があろうとなかろうと、これからも音楽を続けていくつもりだよ。自分のため、そして私に興味を持ってくれる人のために」
世界が音楽だけに収束していくような “C’est la vie” を聴けば、メロディがゆっくりと密やかに孤独を癒してくれるような “Paper Moon” を聴けば、Mikael のメロハーに対する情熱が些かも衰えず、むしろ今もなお燃え盛っていることが伝わるはずです。
ここには、LAST AUTUMN’S DREAM, AUTUMN’S CHILD, SALUTE など紆余曲折を経ても守り続けた美旋律の牙城が堂々と鎮座しています。メロハーは今や万人受けでも、時代の万能薬でもありませんが、それでも “Put Some Love In the World”、ほんの一欠片の愛情を、優しさを世界にお裾分けすることならできるはず。暗い時代に Mikael はそう信じて、明日も歌い続けるのです。
今回弊誌では、Mikael Erlandsson にインタビューを行うことができました。「日本は私にとって…本当にすべてなんだ。私の音楽を最初にリリースしてくれた国だから。”The 1” がすべての扉を開けてくれた。このアルバムをとても誇りに思っている。最初からね。もともとはただのデモだったものなんだ。でも、なんとかリリースにこぎつけることができた。その日から、私はほぼ毎年アルバムをリリースしているんだ!」 どうぞ!!

MIKAEL ERLANDSSON “THE SECOND 1” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【UTOPIA : SHAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN BAILEY OF UTOPIA !!

“Allan Holdsworth Is My Biggest Musical Influence By a Long Way. I Studied Allan’s Music Eligious For Many Years. I Actually Had a Tribute Quartet And We Used To Go Out Playing Allans Music Round The UK.”

DISC REVIEW “SHAME”

「SikTh は大好きだったよ。よく聴いていたよ。THE DILLINGER ESCAPE PLAN のほうが中心だったけど。彼らの暴力性と攻撃性は本当に僕に語りかけてきたし、そのヴァイヴと僕のジャズの知識を融合させようとしたんだ」
“実験的” という言葉は、ヘヴィ・ミュージックのテクニカルな側面においてよく使用される言葉です。ただし、ただ速く、複雑なフレーズを乱立することが本当に “実験的” な音楽なのでしょうか?むしろ、ジャンルの殻を破るような破天荒にこそ、実験という言葉は相応しいようにも思えます。そうした意味で、メタル・コア、プログ・メタルの殻を完全に突き破った SikTh は実に実験的なバンドでした。四半世紀の時を経て、SikTh の志を継ぐ UTOPIA は、同じ UK の鬼才 Allan Holdsworth の遺伝子をも取り入れて、世界に再び実験の意味を問います。
デスメタル、グラインドコア、ドゥーム・メタル、ハードコア、プログレッシブ・ロック、ジャズ、そして時には “謎” としか言いようのないものまで、多様性のモダン・メタルを象徴する楽園 UTOPIA は、実際あまりにも前代未聞です。
「Allan Holdsworth は、僕の音楽的な最大の影響者だ。僕は何年も Allan の音楽を熱心に研究した。実際にトリビュート・カルテットを持っていて、イギリス中で彼の音楽を演奏していたんだ。彼のソロを書き写したり、彼の曲を学んだりするのに、文字通り何千時間も費やしたよ。 同時に、Pat Metheny, Mike Morenom Julian Break, Kurt Rosenwinkel, Nelson Veras, Jonathan Kreisberg も僕に大きな影響を与えているんだ」
Allan Holdsworth の影響を受けたメタルといえば、もちろん真っ先に MESHUGGAH が浮かぶはずです。ただし、彼らの場合はどちらかといえば Fredrik Thordental のソロイズムに Allan の影を見ることのほうが多かったような気がします。一方で、プロのジャズ・ギタリストでもあり、Holdsworth 研究に何千時間も費やしてきた UTOPIA のギタリスト John Bailey はソロのみならず、アトモスフィアやリズムの意外性にまで大きく踏み込んでいます。
それは、MESHUGGAH 的なポリリズミック、整合を不整合に見せるテクニックではなく、まさに奇想天外、青天の霹靂なオフキルター、不穏と破綻の一歩手前、ズレたリズムの面白さ。
「最近は、人々が僕らを発見しようがしまいが、本当にどうでもいいんだ。僕個人としては、自分たちのアウトプットにとても満足しているし、みんながそれを気に入ってくれるなら最高だけど、僕にも尊厳があるし、ソーシャルメディアやインスタント・カルチャーに自分の音楽人生をどう構成するかを左右されるようなことはしたくない。君のような人たちが僕らにメールをくれたり、インタビューを申し込んでくれたりするのは、とても個人的なことなんだ。それを聴いて気に入ってくれる人が何人かでもいれば、それは僕にとって素晴らしいことなんだ」
フィレンツェの哲学者マキャベリについて考察したオープナー “Machiavelli” は、そんな破綻寸前のスリルを醸し出す UTOPIA の真骨頂。デスメタルとハードコアで即座に惹きつけ、段階を踏んで展開し、不協和音のギター・ワーク、フレットレスの魔法、様々な拍子、そしてクジラの鳴き声に似たリラックスした不気味なアンビエント・インタールードまで、その破天荒は破綻寸前。だからこそ面白い。
目的のためには手段を選ばない、力の信奉マキャベリズムは、政治から人々の個人的な生活にまで広げることができる興味深い概念です。それはおそらくほとんどの人の中に存在し、権力や影響力のある地位にしがみつくために道徳的な行動や才能を堕落させます。UTOPIA の “実験性” はそんなマキャベリズムとは真逆の場所にいて、自分たちの才能ややりたい音楽だけを信じて邁進し続けるのです。だからこそ尊い。
今回弊誌では、John Bailey にインタビューを行うことができました。「15年間は、ほとんどジャズとクラシック音楽一筋だったんだ。ジャズの修士号を取得し、さまざまなジャズ・アンサンブルを結成した。クラシック・ギターのツアーも何度かやったし、ジャズのライブもたくさんやった」 どうぞ!!

UTOPIA “SHAME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PROFESSOR CAFFEINE & THE INSECURITIES : S.T.】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PROFESSOR CAFFEINE & THE INSECURITIES !!

“Everyone Forgets That Yamcha And Tien Are The Unsung OG Heroes Of Dragon Ball, By The Time You Get Around To Dragon Ball Z Everybody Is So Overpowered You Lose That.”

DISC REVIEW “PROFESSOR CAFFEINE & THE INSECURITIES”

「Thank You Scientist はあまり聴いたことがなかったんだ。2019年に彼らのオープニングを飾ったし、本当に素晴らしい人たちだったからあまり言いたくないけど、彼らにハマったのは僕らがすでに地位を確立したずっと後だったんだ。その時点で、僕たちの2枚目のリリース “The Video Game EP” は少なくとも1年前にリリースされていたからね。でも今聴くと、確かに似ているところがあるね」
2011年、ニュージャージー州モントクレア。Thank You Scientist は “The Perils of Time Travel” でジャジー&サックスを前面に押し出した複雑性と、エモーショナルで人を惹きつけるパワーポップのメロディが同居した革命的で魅力的なデビューEPをリリースしました。彼らはキャリアの道のりでますますジャズ・フュージョンの影響に傾き、ますます複雑なインストゥルメンタルと、メロディアスでありながらより複雑なソングライティングを聴かせてくれています。しかし、もしTYSが複雑なジャズよりも、音楽性をキャッチーでエモいコーラスをシームレスに折り込むという天性の才能に集中していたとしたら?ニューイングランドを拠点とするプログ/ポップ/マス/エモ・アンサンブル、Professor Caffeine & the Insecurities のセルフタイトルはまさにその “IF” を実現します。
「SEVENDUST, ALTER BRIDGE, ANIMALS AS LEADERS といったバンドに出会ったとき、彼らは僕にもっと音楽を追求するよう背中を押してくれたんだ。CALIGULA’S HORSE からビリー・アイリッシュへ、CARBOMB から BOYGENINUS へ、といった具合だ」
印象的なフックや曲作りと、興味深く進歩的な音楽的アイデアのバランスを取る最高で最初のバンドが RUSH だとしたら、Professor Caffeine はこの指標で非常に高いスコアを獲得するはずです。それはきっと、彼らを “プログ” の世界に誘った偉人たち、CALIGULA’S HORSE や ANIMALS AS LEADERS が常に複雑性とメロディの美しさを両立させていたから。
リスナーは、どうしようもなくキャッチーで甘ったるくなりそうなコーラス、”Wolf Fang Fist!” や “Astronaut” を口ずさむ一方で、ほぼすべての曲にまるでクッキーの中のチョコレート・チップのように、トリッキーで小さなアルペジオが隙間なくちりばめられていることに気づくはずです。
“The Spinz” に組み込まれた狂ったようなピアノ・ランや、陽気なサウンド “Dope Shades” のバックボーンを形成する驚くほど複雑なジャズ・ハーモニーのように、時には繊細なものもあれば、”That’s a Chunky” でのクランチーなリフとシンセの爆発的なバーストや、”Make Like a Tree (And Leave)” のコーラスに充満する不条理なほどヌケの良いギター・リードなど、より明白な場合も。リスナーが一瞬でも、このバンドのパワー・ポップの才能に導かれてプログであることを忘れてしまうたびに、彼らはまた複雑なユニゾン・ラン、突然のテンポ・シフトや様々な小道具で絶妙のバランスを構築していきます。
そう
「この曲はヤムチャにちなんでいるんだ!ヤムチャはDBZサーガではあまり活躍しなかったけれど、子供の頃から大好きなキャラクターだった。ヤムチャは悟空に対抗できる最初のキャラクターの一人で、彼が “狼牙風風拳” という拳の技をキックから始めるのがいつもコミカルだと感じていたんだよね (笑)。僕たちはドラゴンボールの世界が大好きだから、Dan もこのネーミングを気に入ってくれると思ったんだ。バンドに見せたオリジナルのデモはBPMが20も速くて、想像するのも乱暴なんだけど、もともと最初のアイデアは、ぶっ飛んだ、容赦のない “Kick You In the Face” なライブ・ソングやアルバムのオープニングを作ることだったんだ」
アルバムのハイライトは、ドラゴンボールのヤムチャをテーマとした “Wolf Fang Fist!” “狼牙風風拳” でしょう。物語が進むにつれてインフレしていくキャラクターの強さと “気”。しかし、私たちは原点を忘れてはいないだろうか?ヤムチャの狼牙風風拳や天津飯の気功砲が、ドラゴンボール初期のコミカルな笑いの中で、シリアスに絶妙なバランスを生み出していました。アルバムはフック対複雑、光と影、ユーモアとシリアスの対立が常に存在していますが、まさにドラゴンボール初期のように絶対にどちらかが勝ちすぎることはないのです。
今回弊誌では、Professor Caffeine & the Insecurities にインタビューを行うことができました。「放課後はDBZのセル編やゾイドを見るために急いで家に帰ってたし、サムライチャンプルーは夜遅くまで見てたよ。植松伸夫は、ダークソウル、メトロイド、バイオハザード、そしてソニーと任天堂のほとんどすべてのゲームとともに、作曲家として僕に大きなインスピレーションを与えてくれた」 どうぞ!!

PROFESSOR CAFFEINE & THE INSECURITIES “S.T.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RETURN TO DUST : RETURN TO DUST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RETURN TO DUST !!

“It’s All Music And It’s All Beautiful In Its Own Way – In Fact, I’d Say It’s More Beautiful When You Can Mix Metal And Grunge In The Right Way.”

DISC REVIEW “RETURN TO DUST”

「Kurt Cobain はたぶん TikTok カルチャーを認めないような気がする。でも、有意義な芸術的選択をしている限り、芸術を共有する媒体は重要ではない気がするね。ソーシャルメディアは瞬間を捉えるための器に過ぎない。だから、今流行っているものではなく、自分が共有したいと思うものを共有するべきなんだ」
ロサンゼルスを拠点とする RETURN TO DUST が今、世界を席巻しています。彼らのシングル “Belly Up” は TikTok で瞬く間に拡散され、複数のプラットフォームで310万回以上のストリーミング、Spotifyの月間リスナー数5万人以上という、世に出たばかりのバンドとしては驚異的な数字を叩き出しました。そして Welcome to Rockville, Sonic Temple といったメジャーなフェスティバルへの切符を手にして、彼らはまさに上昇気流の真っ只中にいるのです。
今や、音楽プロモーションの手段としての TikTok は当たり前のものとなっています。確かに、TikTok は誰も知らない古い曲を掘り起こし新しい聴衆に届けたり、ベッドルームプロデューサーの未熟な作品を届けたりすることにきっと大きな意義があるはずです。つまり、Kurt Cobain が否定しようとも、RETURN TO DUST のシンデレラ・ストーリーが才能を磨けば誰にでも起こりうる幸運な時代なのかもしれませんね。
「僕たちのセルフタイトル・アルバムは、90年代にとても影響を受けている。ノスタルジックなフィーリングを体現しつつ、サウンドを前進させようとしたんだ。これは、レコーディングを重ねるにつれて、バンドの継続的なフィロソフィーになっていると思う」
RETURN TO DUST は、90年代風のグランジのタイムカプセルにファンを誘いながらも、その場所に立ち止まってはいません。LED ZEPPELIN のようなクラシック・ロックから、NOTHING BUT THEIVES のようなモダンなロックまで、足早に時を駆けながら、メタルやハードコア・パンクの哲学、エナジーまで貪欲に吸収していきます。HELMET や NIGHT RIOTS との仕事で知られる Jim Kaufmann のプロデュースも、そんな彼らの “超越性” を引き立てていきました。
「ある時期にはメタルとグランジは反発しあっていたけれど、そんなことはくだらないことだ。実際、適切な方法でメタルとグランジをミックスすることができれば、より美しい音楽ができるんだ」
“もしこれが夢なら、私はいつ目覚めるのだろう?”。誰もが “こんな人生、夢であってほしい” と望む瞬間はありますが、そんな “Black Road” の絶望感に幕を開ける暗い90年代と20年代の架け橋。弊誌でも過去に取材した、SEEDS OF MARY や GARGOYL のように、そのふたつのじだいにシンパシーを感じるメタル・バンドは確実に増えています。
アルバムの前半だけでも充分に素晴らしい “Return to Dust” ですが、後半に入ると RTD クルーはさらに輝き始め、その才能を発揮し始めます。彼らほど、グランジを様々な形に変化させ、操ることに長けているバンドは他にいないでしょう。何より、彼らは反発しあっていたグランジとメタルを同じまな板の上に載せました。もちろん、賢明なリスナーなら、ALICE IN CHAINS や SOUNDGARDEN といったグランジを代表するようなバンドが、実はヘヴィ・メタルを養分としていたことを知っています。グランジの勃興と衰退から30年経って、ようやくその二つの個性的で美しい音楽は “Dust” を触媒として交わることができたのです。
今回弊誌では、RETURN TO DUST にインタビューを行うことができました。「メタルもグランジも、社会、政治、個人的な葛藤など、多くの人々が感じている不満やフラストレーションを代弁してくれる、時代を超越した何かを持っているよね。そうした要素をすべて織り交ぜることで、過去を再訪するだけでなく、それを押し進めるようなものを作ろうと僕らはしているんだ」 High & LOW のツインボーカルがたまりませんね。どうぞ!!

RETURN TO DUST “S.T.” : 10/10

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THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2024: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2024: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1. LOWEN “DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN”

「このアルバムは、それを聴く人々への警告なの。戦争には絶対に勝者などいないし、戦争で利益を得る人間が最大の悪党となる。私はいつも、ウィリアム・ブレイクのような予言的人物に魅了されてきた。彼らは詩や芸術を使って、近未来の可能性について人々に警告を発している。このアルバムが歴史を変えることはないとわかっているけど、私たちの周りで起こっていることの愚かさを鮮やかな色彩で浮き彫りにせざるを得ないと感じている自分がいるのよ」
これほど、メタルの寛容さと回復力、そして多様性を象徴した作品はないでしょう。明らかに、世界は多くの人の意思に反して “勝手に”、暴力と強欲の時代に進んでいます。”声” を上げなければより大きな怒声に引っ張られる。そんな感覚を覚える恐怖の時代に、メタルの情熱、優しさ、包容力以上に信頼できるものがあるでしょうか。イラン革命の亡命者の血を引く Nina Saeidi は、イスラム世界で虐げられる女性であり、ヘヴィ・メタルと自由の信奉者。だからこそ、”声” をあげます。
このアルバムは戦争をけしかける愚かなる王、支配者、権力者たちへの芸術的な反抗であり、英雄に引っ張られる市民たちへの警告でもあります。いつの時代においても、戦争に真の勝者はなく、そこにはただ抑圧や痛みから利益を貪るものが存在するのみ。ただし、彼女には、そうした考えに至る正当な理由がありました。
「中東の最近の歴史は、100年以上にわたる不安定化と植民地化によって、悲劇的で心が痛むものになってしまった。今のイラン政府はイランの人々や文化を代表するものではなく、芸術の弾圧や女性への抑圧はイラン文化のすべてに反するものだと思っているわ。私たちの文化は、独裁政権以前の何千年もの間、女性と芸術を祝福してきたのだから」
Nina にとって、現在のイランのあり方、独裁と芸術や女性に対する抑圧は、本来イランやペルシャが培ってきた文化とは遠く離れたもの。本来、女性や芸術は祝福されるべき場所。そんな Nina の祖国に対する強い想いは、モダン・メタルの多様性と結びついてこのアルバムを超越的な輝きへと導きました。
何よりその音楽的ルーツは、彼女の祖先の土地に今も深く刻み込まれていて、ゴージャスで飛翔するような魅惑的な歌唱は、パートナーのセム・ルーカスの重戦車なリフの間を飛び回り、大渦の周りに蜃気楼を織り成していきます。”クリーン” な歌声が、これほどまでにヘヴィな音楽と一体化するのは珍しく、また、奈落の底への冒険をエキゾチシズムと知性で表現しているのも実に神秘的で魅力的。多くのメタル・バンドがアラブ世界のメロディを駆使してきましたが、LOWEN のプログレッシブ・ドゥームほど “本物” で、真摯に古代と今をまたにかけるバンドは他にいないでしょう。そして、この荒廃した時代に、荒廃した時代だからこそ、メタルは彼女たちを旗手として、芳醇なメロディや鍵盤の復権へと進むのです。

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2. BLOOD INCANTATION “ABSOLUTE ELSEWHERE”

「”Absolute Elsewhere” のサウンドは断固としてブルータルで、これまでのどの作品よりも飛躍的にテクニカルでプログレッシブだ。ただ、その過激さとは裏腹に、よりメロディアスでキャッチーで親しみやすい。この巨大で残酷なものの泥沼の中で、キャッチーな部分があればそれでいい。BLOOD INCANTATION の影響範囲は常に外に向かっているのだから。だから、僕たちが最初の範囲から外れたのものから学び始めることは避けられないし、常にそれらを大きな血の呪文のピラミッドに組み込んでいくんだよ」
“Absolute Elsewhere” の核心には、BLOOD INCANTATION の核心と同じように二律背反が存在します。一見、このアルバムは近寄りがたく、謎めいた作品でしょう。曲は2曲だけで、両者とも3つの楽章に分かれており、そのそれぞれが20分を超えています。そして BLOOD INCANTATION の過去のどのリリースよりも、デスメタルの攻撃性にクラウト・ロック、ダーク・アンビエント、70年代プログからの大胆なアイデアを加えており、作品の最も密度の高い部分では、アイデアからアイデアへと奔放に自由気ままに飛躍していきます。
その一方で、ギター・パートは、エクストリームであっても豊かなメロディーを奏で、かつてはミックスの奥深くに埋もれていた Paul Riedl のボーカルは鮮明。そのフレージングとアーティキュレーションを重視した彼の歌は、間違いなく BLOOD INCANTATRON 史上初めて、キャッチーを極めています。さらに Riedl はクリーン・ボーカルを多く披露もしています。そして広がる鍵盤の海。つまり、”Hidden History” が、ほとんど偶然に広く一般的なファン層を見出したとすれば、”Absolute Elsewhere” は、より多くの人々に届く態勢をしっかりと整えているのです。コズミックな旋律と鍵盤で、人の欲では届かない宇宙の壮大を伝えるために。
「多くの人が、”私はメタルをまったく聴かないのに、このレコードはなぜか聴いてしまう” と言うんだ」

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3. MOISSON LIVIDE “SENT EMPERI GASCON”

MOISSON LIVIDEの音楽は、ブラックメタルやヘヴィ・メタル、さらにはパワー・メタルを基調としながら、伝統的な中世の楽器やフォーク的な部分も持ち込んだ実に多様な農夫のメタル。
「”We don’t care” はアルバムの雰囲気をよく表しているね(笑)。私を突き動かしている哲学であることは間違いない。反商業的な精神が大好きなんだ。自分たちの好きなことをやって、誰がそれを好きなのか見る。既成のジャンルの基準に100%固執して自分たちを芸術的に制限することは考えられないし、それは無意味だからだ。きれいなコーラスを思いつくたびに、私はこの言葉を口にしてきた。誰が気にするんだ?!ってね。ブラック・メタル純血主義者に嫌われる?ああ、でも私は気にしない!」
Lavenne が恐ろしいのは、農家であることをメタルに活用しているところでしょう。まさに農家とメタルの二刀流。
「私は頭を使ってよく書く。本当にほとんど楽曲は頭で書いている。アイデアは何の前触れもなく浮かんでくるので、ボイスレコーダーアプリを取り出し、赤いボタンを押してラララと歌う。夕方家に帰ると、自分が書いたものを聴いて、アコースティックギターかピアノでコードを練る。ほとんどすべて仕事中に書いている。私はワイン生産者なので、多くの時間をブドウ畑で手作業に費やしている。ブドウの木は1本1本違うが、やるべきことを覚えたら、他のすべてのブドウの木で同じ作業を繰り返す。これを疎外感と捉える人もいるかもしれないが、私は脳の時間を解放する素晴らしい機会だと考えている。
数年のノウハウとブドウ畑の知識があれば、ある種の自動操縦モードに入ることもある。楽器を手にして座り、何か書かなければと自分に言い聞かせることは、本当にめったにない。だから同時に2つのことができる。そのおかげで膨大な時間を節約できる。さまざまな影響について話を戻すと、このようにたくさんの曲をミックスするときに一番難しいのは、”コラージュ” 的な嫌味を出さずに、すべての曲を調和させる一貫性、共通の糸を保つことだ。
だから私は、長尺にもかかわらずかなりシンプルな構成に特に注意を払っている。フック、節、繰り返されるテーマ、コーラス……私はビッグなコーラスが大好きなんだ!パワー・メタル派は、メタルにあまりにも深い足跡を残しすぎた!ありがとう、トビアス・サメット!」
歌詞はガスコーニュ地方の昔話、寓話と現代の出来事に対する批判、さらには未来的な推測の間で揺れ動きます。
「いつもメロディーが先に作られる。それからコード。歌詞はその連鎖の最後のリンクにすぎない。実際、デモを作るときは、曲を完成させるために、何でも歌ったり、思いつきで書いたりすることがよくあるんだ。本当の歌詞は、曲がアルバムの選考段階を通過してから、後で書く。これが一番難しい作業で、なかなか進まないこともある。それでも、美しく、よく書かれた文章を最終的に完成させるのはとても満足感がある……少なくとも形としてはね、内容がくだらないこともあるから(笑)。
ただ、テーマを最初に思いつくということはよくあるんだ。それが曲の内容に大きく影響する。実際、最も非定型的な作曲はそうやって生まれることが多い。主題に変化をつけるのに役立つからだ。また、あらかじめテーマがあると、イメージを思い浮かべることができ、とても刺激になる。最終的には、それをメモに書き写すだけ」
これだけ潤沢なメロディが、田舎と農家の反抗精神、個性的なアイデアから生まれる。これもまた、実にヘヴィ・メタルなのです。

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