COVER STORY : ESOCTRILIHUM “DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH”
“It’s a Kantele, a Finnish Instrument. This Stringed Instrument Is Really Incredible, Because There Is Clearly a Mystical Character In The Frequencies Emitted By This Instrument! Actually, I Discovered The Kantele In a Very Surprising Way.”
“The Point Of Fortitude Is To Inspire People To Be The Best Version Of Themselves And To Be Strong No Matter What. It’s Easy To Despair And To Lose Faith. But At Some Point You’ve Got To Figure Out Where You Stand. You’ve Got To Ask What Your Attitude Will Be If This Is The End Of The World As We Know It.”
NATURE IS HURTING
フランスからメタル世界の巨人となった GOJIRA は、そのキャリアにおいて、常に無関心や無知と戦ってきました。そして、待望の7枚目のアルバム “Fortitude” が文字通りゴジラのように地平線の彼方に現れる刻、フロントマンの Joe Duplantier は、人類が自滅へのスパイラルに向かい合う必要性をこれまで以上に強調したのです。
Joe は、子供のころからある記憶が頭から離れません。家族で見ていたテレビ。点滅する画面の前に座ると、静寂の中から理性の声が現れ多くの人が気にも留なかった状況の緊急性を訴えかけていました。フランス系カナダ人の宇宙物理学者であるヒューバート・リーブスは核合成の研究でよく知られていますが、あの運命の夜、彼は人類の自滅は原子の炎の中などではなく、冷たく静かな自己満足の中で起こる可能性が高いと説きました。
GOJIRA のフロントマンは、あのとき驚くほど明快にこう思いました。
「彼はただちにやり方を変える必要があると言っていた。僕たちはゴミやCO2の排出量を減らす必要があるとね。排出量を減らさなければならない、リサイクルをしなければならない。注意を払わないと、50年後には大変なことになってしまう。テレビに出ている人が言っているのだから、状況はすぐに変わるだろうと思ったことを覚えているよ」
しかし残念ながら、30年以上経った今でも状況はほとんど変わっていません。
Joe と弟の Mario は、メタル界で最も率直な暴れん坊の2人にしては意外にも、穏やかで牧歌的な環境で育ちました。スケッチ・アーティストの父とヨガ教師の母の間に生まれた兄弟は、フランスの西海岸にある人里離れたコミューン、オンドルで育ちました。彼らの家はあまりにも田舎だったので、あるジャーナリストが訪れたとき、「庵」と表現したほど。しかし、フォークからマイク・オールドフィールドまで、常に音楽が流れていました。詩人や画家が泊まりに来て、大人たちが国際的な哲学を語り合っているときだけ、音楽は止み子供たちは話に耳を傾けたのです。
兄弟二人はよく浜辺で時間を過ごしました。Joe は木や石を集めていて、家に帰ると手が原油で真っ黒になっていました。一方、Mario はサーフィンをしているときにビニール袋が顔に張り付きました。おとぎ話のような平穏な暮らしにも、現代社会のヒビが入っていたのです。
「自然を傷つけてばかりなんだから、自然に傷つけられるのは当たり前だ」
創造性に囲まれた青春時代を過ごしたにもかかわらず、Joe と Mario はメタル世界の英才教育を受けたわけではありません。彼らの両親がラジオで流さなかったのは、唯一ハードロックだけだったのですから。兄弟のいとこが、当時12歳の Joe に強引に METALLICA を聴かせたことがきっかけで、彼らは METALLICA に夢中になります。
「振動、音色、ドラムの叩き方が神秘的だったんだ。メタルは敏感な人を惹きつけるんだと思うよ。僕は生まれつき敏感で、学校ではいじめられっ子だった。人間が嫌いだったんだ。METALLICA のテーマは非常に感情的で、トラウマになっているような面があり、そこに惹かれたんだよね」
学校での怒りは、2人にヒーローを模倣するエネルギーを与え、Joe はギターを手にしてシンガーになりました。
「僕にとって、音楽は説教やメッセージありきではないんだよね。腹の底から出てきたものを、マイクに向かって叫ぶだけなんだ。叫ぶことで大事な言葉が出てきたんだよ。最後に食べたピザについて叫ぶつもりは毛頭ないけどね」
情熱的で外向的な性格のマリオは、ドラムの虜になりました。
「学校の友達はみんなラグビーをやっていたけど、僕は好きじゃなかった。ドラムが僕のラグビーだったんだ」
兄弟は、そうしてエクストリーム・メタルのカルテット GOJIRA で、その傷を訴えていきました。荒々しく複雑な音楽性だけでなく、環境保護を訴えることも彼らのアイデンティティーとなったのです。
GOJIRA が結成されたのは1996年で、2人が DEATH に影響を受けたミュージシャンを募集する広告を出したのがきっかけでした。そこに2人目のギタリスト、Christian Andreu が加わり、後にベーシストの Jean-Michel Labadie が加わりました。当初、4人は自分たちのことを “GODZILLA” と呼んでいました。火を噴く怪獣ほどメタルなものはないでしょう。
2001年にデビュー作 “Terra Incognita” を自主制作。このタイトルは、兄弟が子供のころに聞いていた会話から生まれたもので、ヒンドゥー教の神話を暗示しています。具体的には、ブラフマーが、その力を乱用した人類から神を隠した未知の場所を意味しているのです。2003年に発表された次作 “The Link” は、同様に形而上学的な内容で、復活、瞑想、苦しみによる悟りについて考察しています。
「最初はもっとスピリチュアルな音楽だった」と Mario は回想します。「2005年に “From Mars to Sirius” をリリースしたときは、詩的な表現を続けていたんだけど、”Global Warming” のような曲は、僕たちの環境に対するメッセージにとって本当に重要なものだったね」
人類が地球を枯渇させ、新たな故郷を探すというSF的なストーリーを持つ “From Mars to Sirius” は、ゴジラにとって初めての気候危機をテーマにした作品で、世界的なブレイクへの第一歩となりました。デスメタルをより大胆に取り入れたこの作品は、ブレイクダウンを多用した “Backbone”(現在でも最もヘヴィーな楽曲のひとつ)のような大作と、穏やかなボーカルで構成されたゆらぎの叙事詩で見事にバランスが取れていました。
「僕たちは世界を征服する準備ができていたんだ!」と、Joe は叫びます。「エネルギーがあり、怖さも疲れも退屈も存在しなかった。10年間の努力と苦労を経て、僕たちは燃えていたし、新しいオーディエンスと出会う期待と飢えがあったんだ」
この野心は、サウンドに磨きをかけた “The Way of All Flesh” と “L’Enfant Sauvage” に反映されていきました。バンドは頻繁にアメリカとヨーロッパをツアーしていましたが、毎晩自分たちのビデオを見返して、細心の注意を払ってライブショーを完成させています。「それってすべてのミュージシャンがやるべきことだろ?」と Mario は嘯きます。
アルバムの本格的な制作は、2018年初頭に始まりました。2016年の6枚目のレコード “Magma” は、プログレッシブ・デスメタルの可能性にアクセシブルな高い光沢を飾り付け、GOJIRA の評判を一気に引き上げたレコードでした。これまでの不屈のライフスタイルが、”Magma” を形作ったと言えるのかもしれません。
「ミュージシャンになると、ツアーが人生の90%を占めるんだ 」と Mario は言います。「何週間も、毎晩叫んで、体が元に戻ろうと必死なんだ。世界で最高の仕事であると同時に、最も苦しい仕事でもあるんだよね。それは作曲方法にも大きな影響を与える。狂ったような、暴力的な、やたらと速い演奏は永遠にはできないだろうから」
“Magma” の楽曲は非常にシンプルで、それぞれが1つか2つのリフを中心に構成されていました。Joe の声の繊細な可能性がさらに強調され、より瞑想的なムードが作り出されながら。 制作中には、兄弟の母が亡くなります。
「 “Magma” のすべてが母の死から生まれたわけではないけれど、もちろん深い影響があったよね」と Joe は振り返ります。「僕たちの心の中で、精神的にとても大きな出来事だった。ちょうど曲を書いているときに亡くなったから、影響を投影しないのは不可能だよ。アルバム全体に言えることだけどね。僕たちの母はいつもこう言っていた。死は人生の一部。それを受け入れなければならない』とね。生まれてきて死ぬ、それが人生の輪。だから、誰かが死ぬとみんなが泣いて黒い服を着るのが、子供心にもよくわからなかったんだよね」
その結果、”Magma” は完全な哀歌ではなく、死の先にあるものを同時に探求する作品となりました。冒頭の “The Shooting Star” では、母パトリシアが星座を通して死後の世界への道を示しています。”Between the bear and the scorpion, you’re getting close.”
タイトル曲では、輪廻転生とについて言及し、”Low Lands” は、墓の向こうにあるものについての知識をパトリシアに求めています。
2017年のグラミー賞では、ベスト・ロックアルバムとベスト・メタル・パフォーマンスにノミネートされ、同年末にはメタリカの “WorldWired” ツアーでオープニングを務める栄誉を手にします。自分たちの譲れないものを守りながら、次のステップに進むための基盤が整ったのです。そうして、堅苦しい青写真ではなく、彼らの中のゆるやかな優先順位が形成されていきました。Mario が語ります。
「”Fortitude” の最終的な目標は、自分たちのダークな部分を取り除くことだったと思うけど、それはとても難しいプロセスだった。”Magma” で僕たちは母を亡くして、それがけっこう大きな痛手となっていたんだ。”Fortitude” を書いているときは、星の配置が完璧だった。バンドの成功は最高潮に達していて、ツアーもうまくいっていたから、僕たちはただ曲を書くだけだったんだよ。”Magma” の時のように、感情的に苦しい立場に置かれていたわけではなかったんだ」
Duplantier 兄弟の母、パトリシア・ローザの死を受けて完成した “Magma” は、悲しみと憂いの深い灰色に彩られたレコードで、もちろん悲しみ一辺倒ではないにせよ、ある種居心地の悪さを感じさせた作品でもありました。ゆえに7枚目のアルバムは、より明るく、よりポジティブなものにする必要があったのです。”Magma” が親密で内なるものだったのに対し、”Fortitude” はより外に向かって、パンチの効いた、政治的なアルバムへと意図的に反転させられました。そうして、粗野でブルージーな “Yellow Stone”, 荒涼とした雰囲気の “Liberation” のように、新たな音楽的モチーフを取り入れながらも、彼らの鋭いシグネチャー・サウンドの探求と拡大には、さらに大きな「自由」が必要だったのです。
「ルールはない!」
Joe は、イギリスの過激なオルタナティブ・ロックバンドである PORTISHEAD や RADIOHEAD を引き合いに出し、予想外のサウンドを自由に展開するためのインスピレーションを得たと宣言します。さらに、伝統的なロック、ブルース、アメリカーナの再評価をも提案。これは、MASTODON のギタリスト、Brent Hinds との深い対話によって、子供の頃に受けた影響が再認識されたものでした。
「僕にとっては、いつも不協和で奇妙で攻撃的であることが重要だったんだ。でも、ロック、ブルース、プログレッシブなど、長い間見下していた音楽のエネルギーは、他のメンバーや自分が年を重ねるごとに、その良さがわかってきたんだよね。だからこのアルバムでは、もっと積極的に、もっと派手に、もっと楽しく、何か違うものを表現したいと思うようになった」
“Magma” の “エネルギー” から、バンドのサウンドを前進させたいと語る Joe。アメリカで過ごした10年間で、二重国籍の英雄はその発音も少し変化しました。そして彼の Silver Cord スタジオに流れる作品は、ロングアイランドのマスコア・マニアック CAR BOMB, パリジャン・メタルコアの新星 RISE OF THE NORTH STAR, マサチューセッツのヒップホップ・ロック HIGHLY SUSPECT など、さまざまなバンドへと幅が広がり彩られています。Joe は、2019年にリリースされた HIGHLY SUSPECT のクールなトラック “SOS” にゲスト参加したことが、変化の契機だったと証言しています。
「繊細であったり、”泣き虫 “であったりしてもいいんだということを教えてくれたからね。最初は恥ずかしいと思っていたけど、妻に聴かせたら『あら、セクシーね』と言ってくれたんだよね」
メガ・レーベル Roadrunner Records が、GOJIRA の “独立性と経験” を信頼してくれたことで、Silver Cord は2年間のクリエイティブな「繭」となれました。エンジニアのヨハン・マイヤー(彼らのライブ・サウンドも担当)がすべての段階でバックアップし、同じ空間でデモとレコーディングができるという快適さもあって、これまでにないほど多くのアレンジが試みられ、楽曲が書かれたのです。
「ソロも弾いているんだよ。だけど、アルバムから追い出された2曲にはキラー・ソロが入っていて、”ふざけやがって!”と思ったね」
さらに、SLAYER の “Reign In Blood”, NIRVANA の “Nevermind”, LIMP BIZKIT の “Chocolate Starfish…” などを手がけた伝説のプロデューサー、Andy Wallace がミックスを完成させました。
アルバムの制作は Joe にとって楽しめるものなのでしょうか?
「95%の確率で、惨めな気持ちになる。史上最高の曲を書こうとしているのに、それが実現しない。僕たちは自分の悪魔に直面している。自分のエゴに直面しているんだよ。失望や自己嫌悪にね。人生の中で、アルバムを作ることを選択したその時期には、自分のベストを尽くさなければならないんだ。多くの場合、それは苦痛だけど、正しいリフの組み合わせや良い歌詞を見つけたときには、とても報われることもある」
当初、サプライズ・リリースの時期は、2020年6月とされていました。しかし、ロックダウンが続いたため、9月に延期。ステージへの復帰が差し迫っていないことが明らかになると、さらにそのスケジュールは延期されました。リリースの前提としてツアーを行うという従来の考え方から脱却するには時間がかかりましたが、最終的には、エネルギーと衝動を抑えることができなくなったのです。
「今、僕たちは違った見方ができるようになった。ツアーをしてもしなくても、何があっても作品をリリースするんだ」
“Fortitude” は、まさに自由になることを求めるレコードです。Joe が目標とした解放感が脈々と流れ、完成した作品はポジティブなパワーと肯定的な暖かさに輝いています。GOJIRA のトレードマークであるテクニカルとヘヴィネスの光沢、狂った拍子記号と決定的なシンコペーションはもちろんすべての源流として存在しますが、個々の楽曲はよりオープンに進化を遂げ、時折、推進力のあるエネルギーをポスト・メタルやスタジアム・ロックの領域に向けて走らせることさえあるのですから。
重要なのは、”Flying Whales” の底知れぬグルーヴや、”Born In Winter” の氷のような壮大の中で、”Fortitude” の広範なコンセプトが生と死、自然とスピリチュアリティというテーマに沿って解き明かされ、音楽とテーマとの刺激的な交わりがあるということです。
モダン・メタルの多様性は、何もその音楽のみに範囲を限定するわけではありません。その思索や哲学も実に多様で包容力に満ちています。「消えてしまうことへの原始的な恐怖/虚空で幽霊になること…」実存主義者の亡霊が死の本質を探るオープニング曲 “Born For One Thing” は、完璧な入り口のように感じられます。2008年にリリースされた “The Way Of All Flesh” で徹底的に追求されたテーマは、ブリュッセルにある壮大な中央アフリカ王立博物館で撮影された変幻自在のミュージック・ビデオに匹敵するほどの躍動感をもって進行し、高められていきます。
「僕たちは皆、死ぬんだから、生の手放し方を人生で学ぶ必要がある。死は大きな意味を持ち、誕生と同じように人生の一部だけど、タブーだよね。でも夜が昼になるのと同じように、僕たちは死や衰えの概念とわかり合う必要があるんだよ。自分の体がある日突然機能しなくなるという考えに平安を感じることができれば、より寛大で思いやりのある人間になることができ、”必要のないものを持ち続けない” ことができるだろう。仏教では、7つ以上の物を所有すると苦しみ始めると言われている。これには何か意味があるんだろうな」
印象的なのは、”The Grind” “砕く” というテーマが複数のトラックに浸透していることです。最初の「I’ve been grinding and grinding…」「どんどん砕かれていく」という嘆きは、巨大なクローザーである “Grind” の「surrender to the grind」「俺は砕かれない」という宣言によって反転し、解消されます。この一見逆説的な歌詞の対比は、もちろん冒頭の 「世界にものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ」という発言に通じ、物事を先延ばしにしたり、頭を砂の中に埋めたりしないようにとの戒めともなっています。
「人間としての自分に身を任せる必要があるんだ。規律の中にこそ、自由がある。毎晩、寝る前に皿洗いをしておけば、朝になっても汚れた皿は残っていなだろう?人生には終わりがあるという考えに平安を感じることができれば、より幸せに生きることができるだろうね」
死と折り合いをつけることの重要性。それ以外にも、”Fortitude” には世界を旅するような冒険心が存在しています。”Amazonia” は、SEPULTURA の “Roots” のようなトライヴァルな雰囲気を醸し出していますが、これは Joe が2000年代後半にCAVALERA CONSPIRACY のベーシストとして活動していたことにも関係しています。ただし、森林伐採に対する環境保護のメッセージ(「This fire in the sky… The greatest miracle is burnings to the ground」「空を火が覆う。最高の奇跡が焼け落ちてしまう」)は、まさに GOJIRA そのもの。不屈の精神とは、先住民のコミュニティーにたいする敬意の表れでもあるのです。
“Sphinx” は、エジプトの巨像に敬意を表し、切り出された石灰岩のように重く、デスメタルの伝説である NILE も誇りに思うような野蛮さを誇っています。イギリスからの影響も顕著で、”Hold On” では、後期 IRON MAIDEN のような壮大なプログレッシブ絵巻が意図的に展開されています。一方で、”The Trails” は、ピーク時の DEFTONES のように、不気味で囁くような神秘的な雰囲気を醸し出しています。
しかし、音楽的にもコンセプト的にも、明らかに中心となるのは “The Chant” でしょう。インストゥルメンタルのタイトルトラックと並んで、ブルース、ゴスペル、アメリカーナを組み合わせたこの曲は、リスナーに「自分を取り戻し、上に立つ…強くなるんだ!」とリスナーを励ますシンプルな歌詞の組み合わせがこれまでの GOJIRA とは全く異なるものです。Joe が強調するように、この曲は “Fortitude” のコンセプトを究極に凝縮したものであり、ショーが再開されたときに忘れられない夜になることをファンに約束する誓いの手紙でもあるのです。
「通常、僕たちは観客を破壊するために曲を作る (笑) だけどこれは、彼らを一つにするための試みだったんだ」
アルバムのインスピレーションを得るために、Mario は兄にいくつかの絵画や芸術作品を見せました。その中には、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1898年に描いた “パラス・アテナ” も含まれていました。
「美しい絵だよね。彼はさらに戦士や騎士の例をいくつか見せてくれて、最終的には円卓の騎士と先住民族の文化をミックスしたアートワークになったんだ。アルバムの精神を表しているよ。言葉とビジュアルの相性がとても良いんだ」
ある意味で、”Fortitude” は芸術家の息子としての幼少期への頌歌でもあり、気候危機のトラウマだけでなく、それ以上のものを探求しています。”Born for One Thing” は、両親が愛したタイやチベットの哲学を参照しており、”The Trails” は子供のころ流れていたメランコリックとさえ言えるプログポップにも通じ、故郷のラジオから聞こえてきてもおかしくはないでしょう。
「両親が THE BEATLES や PINK FLOYD を聴いていたとき、僕たち兄弟はとても楽しい時間を過ごしていた。だから、その要素を少し加えたいと思ったんだよね」
“Born for One Thing” で提示されている “集団的昏睡” というアイデアは、現代社会の象徴である消費主義というテーマと結びついています。
「消費する方法を変えることは、物事を変える力につながる。例えば、僕は8年ほど前にヴィーガンになったんだけど、その理由は動物を虐待していることに気づいたから。これを人に言うと、「何を言っているんだ?牛乳の箱には “牛は外で育てられている” と書いてあるだろ?工場で飼われている動物じゃないんだから」と言われたりする。でもね、ミルクを作ってくれるおばあちゃんがいて、名前のある牛を飼っていて、その牛を愛情を込めてペットにしているなら、それはそれでいいと思うよ。でも、市販のミルクはそうじゃない。人は事実から逃れるために物語を語り、責任を感じなくて済むようにしたいものだ。僕たちは、自分の手で責任を取る必要があると思うよ。何かを買うときには、少なくとも自分が世界に与える影響を意識したいものだよね。
物事を変えるためには、正しい人に投票すればいいというのは幻想だよ。まずは、自分から始まる集団的な努力が必要なんだ。個人の目覚めこそが、唯一成功する革命なんだよ。このアルバムには市民的不服従の考えが根底にあるけど、行間を読まなければならないよ。市民的不服従とは、ルールに盲目的に従わないこと。クールになるために法律を破る必要はもちろんない。だけど、僕が言いたいのは “自分で考えろ ” ということなんだ。周りを見渡して、自分が世界に与える影響を考える。これこそが僕たちの持つ大きな武器なんだ。ただ、シンプルな選択と日々の習慣が世界を変えていく」
例えば、OPETH の “Heritage” のような大きな変革をもたらした作品と言えるのかもしれません。
「そう思う。アルバムのセッションを始める前に、僕は2ヶ月間、自分たちの曲の書き方やアレンジの仕方を深く分析したんだよね。”Fortitude” 以前の僕たちは、曲作りの公式を考えたことがなかったんだ。つまり、実際には何の構造もなく、ただ何となく組み合わせていただけなんだよね。例えば、良い曲には最低でも3つのコーラスが必要だし、過去の僕たちの音楽の扱い方は非常に実験的なアプローチだった。まあつねに、明白なパターンを避け、ルールの外にある音楽を作り出そうと努力していたからなんだけど。”Toxic Garbage Island” を例にとると、この曲には構造がないんだよね。コーラスもない…何もない! だから、”Fortitude” では、すべてをもう少しバランスよくしたいという気持ちがあって、Joe にこのアルバムでは、コーラスとヴァースを確立したいと言ったんだよね。これが作品全体に大きな力を与えていると僕は考えているよ」
“The Trails” で Joe の歌声は、グロウル、クリーンを経てさらにもう一つの大きなジャンプ、メロディアスへの移行が感じられます。弟はその変化について敏感に感じ取っていました。
「”Magma” の “Shooting Star” や “Lowlands” から始まった試みだと思うけど、この10年間 Joe は自らのボーカルを向上させることに真剣に取り組んできたんだ。僕たちは、さまざまなタイプの音楽を聴いて育ったからね。メタルから THE BEATLES, MASSIVE ATTACK, PORTISHEAD など…真の音楽好きなんだ。ジャムるときは、ファンク・ロックのようなものを演奏してしまうことだっめあるんだよ。 最近の多くのバンドのように、他にサイドプロジェクトを持っているメンバーもいない。つまり僕たち4人にとって、GOJIRA は唯一の音楽活動の場だから、自分たちの個性の すべての側面を表現する必要があるんだよ。僕たちは皆、”メタル・ヘッズ” ではあるんだけど、音楽を愛する者でもあるんだよ。だから、Joe にとっては、自分が自然にやりたいと思ったこと、必要としたことに向かって進化していくしかなかったんだよね。今、彼はシンガーとしてこれまで以上に自信を持っているよ」
GOJIRA の未来に目を向けるためには、過去の栄光を振り返るべきでしょう。2018年、Bloodstock Open Air のヘッドライン・ショーは、雨に打たれた2万人の観客がダービーシャーの泥の中に叩き込まれただけでなく、2006年の英国でのデビューからフェスティバルでの初のヘッドラインに至るまで長い道のりを歩んできたバンドにとっても画期的な出来事でした。
自分が聴いて育ったバンド CANNIBAL CORPSE がオープニングを務めるというスリル、経験は、これから起こるであろうもっと素晴らしい夜に向けての “食欲” を存分にそそるものでした。
“Fortitude” の完成から、その欲求は高まる一方です。しかし、今後の展望について、Joe は希望に満ちている一方で、大げさな表現には躊躇しています。
「ミュージシャンの人生は必ずしも楽ではない。僕たちは今、副業をしなくてもやっていける状況にある。これは素晴らしいことだけど、それでも金持ちには程遠い。大きな家や莫大な銀行口座を持つロックスターではないんだよ。今は家さえ持っていない」
大きな舞台や多額のギャラへの憧れが、芸術的な目的に影響を与えることはあるのでしょうか?
「答えは、イエスでもありノーでもある。人生では、自分がなぜそうするのか、100%はわからないものだよ。頭の中や心の中で起こっていることを、僕がとやかく言うことはできないんだ。曲を作るとき、もちろん売れることを願っているよ。だけど、それだけじゃなく、僕たちはアーティストであり、人間であり、哲学者であり、多くのことを考えている。僕は、自分が書いた言葉1つでも妥協する必要はないと思いたいし、すべての音楽的なアイデアは心の中からまっすぐに出てくるものだと信じている。それが僕たちのコンパスなんだ。音楽には生きている実感が必要だ。共鳴する必要があるんだよ。たとえ誰かが100万枚売れると言ったとしても、僕たちにとって魅力的な要素がなければ、それはゴミ同然のものなんだ」
サイクルとレガシーというテーマを掘り下げてみましょう。GOJIRA は24年後、そしてブレイクした3rdアルバム “From Mars To Sirius” から約16年後に、より広いメタル・ファミリーの一部として自分たちをどのように見ているのだろうか。新世代のバンドが彼らのアイデアを拾い上げて使用しています。
「人生は短いし、あっという間に過ぎてしまうから、今あるものに集中したほうがいい。僕は、自分たちより速いバンドやクールなバンドのことはあまり気にしない。流行に敏感でありたいと思っているけど、自分たちの芸術的センスは非の打ち所がないと自信を持っているからね。音楽的にもビジュアル的にも、僕たちは自分たちの世界を持っているんだ。長い間、この領域、つまり自分たちが開発しているこの芸術と実体の完全性に取り組んできたんだ。この作品には価値があると確信しているよ。まるで鉱山を見つけて、それをまだ掘り続けているようなものさ。あと数枚のレコードを作るための燃料は確実に残っている。僕たちのビジョンはまだ完全には達成されてはいないからね」
つまり今のところ、 Joe は未来に向かって努力することと、1つ1つの勝利を大切にすることだけを考えています。これまではバンドのために犠牲になっていた家族との “素晴らしい瞬間” を大切にしながら。このアルバムを、長い間待っていてくれた多くのファンに届けることは、重要なこと。そして、GOJIRA が再び脚光を浴びることで、Joe の中にある正義の焔が再び燃え始めるのは必然に違いありません。
「僕は自分を活動家だと思っている。文章やアイデアで誰かを感動させるたびに、誰かが同意するたびに、価値のあるプロジェクトが日の目を見るたびに、僕は活性化されるんだ。僕の中には、決してあきらめない、屈しない、絶望しないというセーフティネットがある。それは、音楽や思考、一体感やコミュニティを通して、人間性の美しさを感じているから。僕たちの中には、とてつもなく大きな力があるよ。僕はそれを信じているし、そのために戦うことを決してやめないんだ。歌を通して、会話を通して、インタビューを通して、芸術を通して」
GOJIRA は最後まで信じられるバンドです。興奮と皮肉を込めて自分たちの未来を見つめています。
「長く愛されるバンドでありたいと思っているけど、同時にそうは思っていない。人類は大きな問題を抱えている。解決しなければならない問題をね」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTIAN VANDER OF MAGMA !!
“ZËSS Is The Culmination Of a Great Cycle Including All My Previous Compositions. It Opens To a New Space And Other Perspectives. What I Had Sensed For Many Years: Multidirectional Music. It’s Another Way Of Feeling, Of Living Music.”
DISC REVIEW “ZËSS-Le Jour Du Néant”
「”ZËSS” は過去私の全ての作曲の中でも最高到達点と言えるだろうね。新たな場所や別の価値観へのドアを開いたよ。”ZËSS” によって私は “無限” へと歩み始めたんだ。音楽がそうさせたんだよ。」
結成50年。フランスに兆した異端の音楽組織 MAGMA の主宰にして、偉大なるドラマー/コンポーザー Christian Vander は未完の大曲 “ZËSS” が、自らの理想である複数の音楽性を持つ “マルチディレクショナルミュージック” への素晴らしき入り口であったことを認めました。
ジャズとロックの蜜月に、オペラやクラッシック、アヴァンギャルド、そしてミニマリズムの玄妙を封じた邪教 MAGMA は、Christian が天啓を受けたというコバイアの宇宙奇譚と仮想言語によりその禍々しき中毒性を一際増しています。
もちろん、MAGMA がメインストリームに位置することはありませんでしたが、そのカルトな表現方法はハードコアなマニアを生み続けています。ドキュメンタリー “To Life, Death And Beyond: The Music Of Magma” を見れば分かる通り、Trey Gunn, Jello Biafra, Robert Trujillo といった卓越したミュージシャンも実はバンドの熱烈な信徒なのです。
Christian も認めるように、MAGMA が “ズール” と呼ばれるその音楽スタイルを完成させたのは、3rdアルバム “Mekanik Destruktiw Kommandoh” 通称 “M.D.K.” でした。ベーシスト Jannick Top の加入により世界最高峯のスキルと “圧” を備えたリズムセクションを宿したバンドは、さらにコーラスの “圧”、複雑怪奇の “圧”、コバイアの “圧” で圧倒的なパワーとエナジーを纏う独創性を確立したのです。ズール “Zeuhl” とはすなわち “振動する音楽” の意。
Christian は時代を先取っていたと語ってくれましたが、甲高い狂気の叫びと入り乱れる無慈悲な拍子記号、そしてアヴァンギャルドな音楽性のコンビネーションは、もはやクラッシックロックの枠組みに対する破壊からの再創造であったとも言えるでしょう。
Christian が “ZËSS” の発想を得たのは1977年 “Attahk” のセッションにおいてだと言われています。それはファンク/ソウル色を増し、よりキャッチーなボーカリゼーションへと向かい始めた変革の時期でした。故に、Christian の言葉通り多様で自由な世界へのドアを開ける重要な鍵こそが “ZËSS” であったのは確かでしょう。ただし、楽曲はしばしばライブで披露されライブアルバムにも収録されましたが、スタジオアルバムに収録されることはなく故に未完成の伝説と語られるようになったのです。
「スタジオでレコーディングされていない最重要の音楽が “ZËSS” だったね。そして私たちは過去にリリースした “ZËSS” のライブバージョンとは全く異なるスタジオテイクを成し遂げたかったんだ。」
2019年、遂にベールを脱いだ38分のズールエピックは、シンフォニックでとめどなくスピリチュアルな有機的実験でした。序盤、Christian のナレーションが響き渡る反復の呪術を聴けば、彼の敬愛する John Coltrane が “Love Supreme” で世界に届けた深き瞑想と至上の愛を想起するファンも多いでしょう。
ただし、徐々にインテンスを増して、コーラスハーモニーとピアノのコード、シンコペーションのリズムにオーケストラのスペクタクルが複雑な糸のごとく絡まりあうと、カール・オルフやリチャード・ワグナーの虚影と共に様々な情景やエモーションがマグマのように溢れ出していきます。
光と影、天と地、想像と現実、歓喜と悲哀。それは恍惚を誘う魂の精神世界、形而上の峰。そうして、クラッシック、スピリチュアルジャズ、ゴスペルにソウル、そしてミニマルな舞台背景に踊るズールのダンスは、あまりに壮大なスペースオペラとして伝説の伝説たる所以を威風堂々提示するのです。さてこの作品は彼らのスワンソングとなるのでしょうか?少なくとも、信徒はきっとアンコールを望むはずです。
今回弊誌では、Christian Vander にインタビューを行うことが出来ました。「本当に勧めたいのはバンドのライブを見ることなんだ!!!私たちのパワーやエナジーを理解するためには、MAGMA のライブを見に来る必要があるよ!!もちろん、”Magma Live” アルバムもそうやってこのバンドを理解する良い方法だと思うね!」”50年後” と銘打たれた9月の来日も間近。どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IGOR & ARNAUD OF UNEVEN STRUCTURE !!
The Metz-based Intellidjent Sextet, Uneven Structure Have Taken For Six Years To Come Back! Lush, Expansive Their New Record “La Partition” Is Definitely Worth Waiting For!!
DISC REVIEW “LA PARTITION”
フランス、メッツからアンビエンスとポリリズムの神秘的不均衡を創造する UNEVEN STRUCTURE が待望の新作 “La Partition” をリリースしました!!6年という長い月日が五線譜に刻んだアーティスティックで壮大なストーリーは、バンドの劇的な進化、成熟を伝えています。
2011年にUNEVEN STRUCTURE がリリースしたデビューフルレングス “Februus” は、Djent というナードでしかし肝要なムーブメントにおいて、不可欠な存在として揺るぎない地位を築いています。例えば、PERIPHERY のセルフタイトルや ANIMALS AS LEADERS のセルフタイトル がシーンのマイルストーンとなったように、”Februus” のポリリズムが運ぶメッセージと、ポストメタルに通じる幽玄なアトモスフィアが織り成す深秘なる異空間は、後続がデザインする音楽の形に大いなる影響を与えたに違いありませんね。
しかしバンドは、アルバムをリリースして以降6年間、2013年に VILDHJARTA の Robert Luciani が歌っていたデビューEP “8” を、現在のボーカル Matthieu Romarin と共にリレコーディングを行った以外は沈黙を続けることになります。6年という月日は、特に新たなムーブメントにとって実に長い静寂です。事実、この6年間で、PERIPHERY, ANIMALS AS LEADERS, TesseracT といった当時の同胞はメジャーなポジションを掴み取り、何よりその中で Djent というムーブメント自体はシーンと同化の道を辿り、終局を迎えているのですから。
インタビューにもあるように、しかし例えビジネスや時流を犠牲にしたとしても、この6年はバンドにとって絶対的に必要なクリエイティブプロセスでした。
Arnaud が 「例え新作に僕たちのシグニチャーサウンドが盛り込まれているとしても、僕たちの音楽は急激な変化を遂げている」 と語るように、人生やクリエイティビティーの充足が生みだした “La Partition” は、自身のルーツである Djent さえも、深化を遂げた多様で濁流の如きサウンドストラクチャーの一部として軽々と飲み込んでいるのです。
「僕たちのストーリーはアトモスフィアとエモーションが時に融和し時に反発し、二面性、もしくはある程度の双極性を孕んで進んで行くんだ」 と語るように、”La Partition” は鋭利で不均衡なリフワークと、愛おしむようなアンビエンスの波が、絶え間のないハーモニーとコントラストを描きながら “The Little Mermaid on drugs” のストーリーを伝えて行きます。
実際、この壮大なコンセプトアルバムは、ドラッグや性癖、人間に限らず音楽にも強い “依存性” が存在することを身をもって証明しているのです。
“Februus” の続編であることを確信させる陰鬱なピアノの響きがアルバムオープナー、 “Alkaline Throat” を導くと、レイヤーされた6つの異なるストラクチャーはステレオ領域全てを使用し激情の波長を奏で、バンドの厳なる鼓動を放ちます。ただ、巨大な不協和音、混沌のサウンドウォールに差し込む Matt のクリーンボイスのみはは、ダークで熾烈な楽曲において時に異質な存在にも映る一筋の淡い光にさえ思えるでしょう。
そして、インダストリアルなムードを湛えた “Brazen Tongue”、文字通りクリスタルの如き透明なメロディーが秀逸な “Crystal Teeth” を辿るうち、異質だったその淡い光はメランコリーの海へと放射され、アルバム序盤を覆っていた暗闇は徐々に崇高なる神秘へと変貌していきます。 このメランコリックなドリームスケープこそ、インタビューで Matt のインプットが増えたことが最も大きな変化だと語った理由かも知れませんね。
アルバムのハイライトは、バンドの今を余すことなく伝える6年間の結晶 “In Cube”, “Succube” の2曲で訪れます。ALICE IN CHAINS が降臨したかのようなコーラスワークで幕を開ける “In Cube” は実際、あまりにもエクレクティックです。
Djenty かつマスマティカルなリフストラクチャーと同調する、オルタナメタルの憂いを帯びた美麗なるメロディーは、シューゲイズの光を浴びて刹那的に希望のポストメタルへと表情を移します。怒り、悲しみ、憔悴、そして淡い希望。様々な感情のメタファーを通過した楽曲が辿り着く場所は安寧の Ambidjent だったのかも知れません。ここでは確かに、Djent が主役ではなくキャストの一人として素晴らしくサウンドを支えていますね。
レコードのメランコリーが最高潮を迎える “Succube” では、さらに遥かなるシンセウェーブ、クラシカル、ゴシックの境地にまで達します。鳴り響くオルガンサウンドは、同郷の PERTURBATOR をイメージさせるほどに荘厳で、きめ細かく設計された低音8弦ギターと絡み合うモダンな対位法は Matt のベストワークを得て作品のクライマックスへと昇華していくのです。
一度や二度聴いただけで易々と本質に迫れるアルバムではありません。ストーリー、コントラスト、多様性を軸にリピートを重ね思考を巡らせれば、毎回新たな喜びと発見を見出し遂には “La Partition” の依存症となっているはずです。
今回弊誌では、バンドの創立メンバーでギタリスト Igor と、新加入ドラマー Arnaud にインタビューを行うことが出来ました。5アルバムを見れば彼らの絶妙なセンスが分かりますよ。どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AARON MATTS OF BETRAYING THE MARTYRS !!
Paris Heavyweights, Betraying The Martyrs Has Just Released Catchy-Orchestrated New Album “The Resilient” !!
DISC REVIEW “THE RESILIENT”
フランスが生んだモダンメタルの殉教者 BETRAYING THE MARTYRS がバンドのポテンシャル全てを注ぎ込んだ新作 “The Resilient” をリリースしました!!Metalcore, Deathcore, Hardcore をベースにシンフォニックでエレクトロニカな味付けを施したユニークかつ際立った作品は、フレンチメタルレボリューションの中核に位置する重要なレコードとなりました。
“The Resilient” は前作 “Phantom” で提示した、獰猛なヘヴィネスとメロディックなモーメントの華麗な融合をさらに1歩進め、キャッチーとさえ言えるフックをふんだんに使用したチャレンジングなアルバムです。WHITECHAPEL, SUICIDE SILENCE といったデスコアオリジネーターが挙ってオリジナルのジャンルから離れ独自の進化を辿る中で、BETRAYING THE MARTYRS も遂に自らのアイデンティティーを築き上げたと言えるのかも知れませんね。
アルバムオープナー、”Lost for Words” はそのキャッチーな一面を突き詰めたバンドの新たなアンセムであり、アルバムタイトルが示す通り BETRAYING THE MARTYRS がさらなる強さを得て戻って来たことを証明する一曲でもあります。
デスコア由来の激しくクランチするリフワークはバンドの帰還を高らかに告げますが、シンフォニックでキャッチーなコーラスが訪れるとリスナーは、彼らの進化、モダンに拡大する視野を実感することになるでしょう。勿論、シンフォニックな要素は BETRAYING THE MARTYRS に欠かせないものとして存在してきた訳ですが、今作では完全に別次元の劇的な魅力を提示しているのです。
その新たな地平をを象徴するのが “Won’t Back Down” でしょう。ヘヴィーでアンダーグラウンドなルーツを枢要としながらも、美麗で大仰ななオーケストレーションを前面に押し出した楽曲は、バラードとは呼べないまでも明らかにスロウでプログレッシブ。傑出した耽美なドラマ性を誇ります。2015年にフランスで起きたテロに衝撃を受けて書かれたというエモーショナルな一曲は、アルバムに類稀なチェンジオブペースをもたらすと共に、バンドの確かな成長を伝えていますね。
インタビューでも触れているように、この美しくシアトリカルな世界観と獰猛なデスコアサウンドの見事な融合は、クリーンボーカル/キーボード Victor Guillet の果たす役割が飛躍的に増し、その才能が素晴らしく開花したことに由来しています。
オーケストレーション、エレクトロニカだけでなく、シンプルなピアノの響きも効果的に使用する彼の鍵盤捌きは特異かつ至妙。”Take Me Back” を聴けば、ピアノが導く甘美なボーカルメロディーが CREED や LINKIN PARK が持つロマンチシズムと通じることに気づくはずです。
飽和気味で数多のステレオタイプなデスコアアクトと彼らを分かつ無上の武器 Victor の開眼は、同時にアメリカナイズとも呼べるメジャーなポップネスを纏い、アンダーグラウンドなジャンルに革新をもたらす一際印象的なメジャー感を織り込むことに成功していますね。
結果として、BETRAYING THE MARTYRS は共にツアーを行った ASKING ALEXANDRIA の大きな成功をしっかりと目に焼き付け、自らの血肉としながらも、デスコア、Djent という重厚でテクニカルなルーツを忘れることはありませんでした。それは正式メンバーとして加入した CHIMP SPANNER のドラマー Boris Le Gal が繰り出す凄まじきスティック捌き、”Dying to Live” の煽情的なリードプレイ、綿密に構成されタイトに進化したギターリフ、そして猛悪なグロウルとエピカルなクリーンのコントラストが見事に代弁していると言えるでしょう。
今回弊誌ではバンドのフロントマン Aaron Matts にインタビューを行うことが出来ました。アナ雪の “Let It Go” をヘヴィーにカバーしたことでも話題になりましたね。どうぞ!!
The Pioneer Of Post-Black Metal From France, ALCEST Returns To Roots And Opens Up The New Chapter With Their Newest Album “Kodama” Influenced By Japanese Folklore !!
DISC REVIEW “KODAMA”
今や世界規模で注目を集める、儚くも美しいフランスの Post-Black Metal デュオ ALCEST が Neige の幼少期、そして宮崎駿さんの名作”もののけ姫”にインスピレーションを得たという新作 “Kodama” をリリースしました!!これまでも、寺院でプレイしたり、”Souvenirs d’un Autre Monde” 収録 “Tir Nan Og” でゲーム”クロノトリガー”に対するオマージュを行うことにより日本に対するリスペクトを表していた ALCEST ですが、彼らのその想いが本格的に詰まった作品は、さらにこの地でのファンを増やすことでしょう。
ALCEST は所謂 “Blackgaze”、Black Metal と Shoegaze を融合させたパイオニア的存在です。幻想的で内省的。メランコリックな繊細さと悲痛な激しさが生み出す圧倒的なダイナミズム、神々しいまでの美しさはシーンに衝撃を与え、DEAFHEAVEN などに続く Post-Black のうねりを創出したのです。
一つの潮流を生み出した ALCEST が発表した前作 “Shelter” は “Sun-Kissed” などとも表現される、言わば”光”のアルバムでした。メタルらしさを極力排し、多幸感溢れる Shoegaze / Indie サウンドを前面に押し出した作品は、確かに彼らの特徴であるダイナミズムが失われたという点では物議を醸しましたが、それ以上に極上の Post-Rock へと進化し、溢れ出る目も眩むような光の渦、SIGUR ROS にも似たアトモスフィアが 「やはり ALCEST は凄い!」 と世の中を納得させたように思います。
“Kodama” は “Shelter” と対になるカウンターパーツ的な作品と言えるかもしれません。インタビューにあるように、もののけ姫と通じる自然を食い物にする現代社会、そしてその闇の部分でもあるテロリズムが ALCEST を動かしました。ある意味メタルのルーツに戻り、よりダークな1面にフォーカスした”最も怒れる”作品は、それでもやはり徹頭徹尾 ALCEST です。そして同時に、彼らの新しいチャレンジである POP センスが花開いたアルバムであるとも言えるでしょう。
アルバムオープナー、タイトルトラックの “Kodama” はレコードを象徴するような楽曲です。確かにここには ALCEST のシグニチャーサウンドである、 Black Metal の冷たいギターや、Shoegaze のドリーミーなメロディーがレイヤーされていますが、同時にアリーナポップに由来する要素も存在します。COCTEAU TWINS や DEAD CAN DANCE に触発されたというボーカルは何と全てがインプロヴァイズされたもの。非常にキャッチーかつ神秘的なそのメロディーラインはリスナーをもののけの森へと誘い、楽曲をよりスピリチュアルな高みへと押し上げています。この手法は、”Je suis d’ailleurs” の冒頭などでも聴くことが出来ますね。
加えて、インタビューで語ってくれた通り、グランジやインディーロックからの影響も新たな可能性を提示します。楽曲後半に見せる Neige のギターワークは群を抜いていて、シンプルかつ少ない音数で空間を意識した印象的なフレーズを奏で、故意にラフなプロダクション、サウンドで NIRVANA のようにコードをのみ激しくストロークすることで、楽曲の幅を広げることに成功していますね。Neige のコンポジションスタイルである、光と影のバランスを完璧なまでに復活させながら、さらに進化を遂げた凄みがここにはあります。
ファーストシングル、”Oiseaux de Proire” は王者がメタルへの帰還を高々と告げるアルバムのハイライトでしょう。TOOL や SMASHING PUNPKINS さえ想起させるオルタナティブな感覚を備えたギターリフと、ノスタルジックで郷愁を誘う珠玉のボーカルメロディーで幕を開ける楽曲は、Neige の咆哮を合図に突如としてその怒りの牙を剥きます。Winterhalter の鬼気迫るブラストビートに乗って疾走する、メランコリックなトレモロリフはまさしく ALCEST のアイデンティティー。挿入されるキャッチーなアコースティックパートは進化の証。溢れるようなそのエナジーは、もののけ姫終盤にししがみが首を落とす場面をイメージさせますね。インタビューで言及している通り、”二面性” “対比” “進化” に拘るアートの開拓者らしい完璧な展開美を持ったシネマティックな楽曲だと思います。
タイトル、山本タカトさんをオマージュしたアートワークからコンセプト、”対比”の妙まで強く日本を意識した “Kodama”。今回弊誌では、Neige にインタビューを行うことが出来ました。音楽、歌詞、コンセプト、演奏、全てを司るまさに ALCEST の心臓が非常に深く丁寧に語ってくれました。日本の雑誌だからこそ行えた価値あるインタビュー。どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH REMI GALLEGO OF THE ALGORITHM !!
Electronica meets Prog-Metal! One of the originator of “Progtronica” from France, THE ALGORITHM has just released their new masterpiece “Brute Force” !!
Intelligence meets Aggression!! French “Cinematic Metal” outfit, Hypno5e has just released great conceptual album “Shores of the Abstract Line” !!
DISC REVIEW: “SHORES OF THE ABSTRACT LINE”
フランスのモダンプログバンド Hypno5e が長編映画のような素晴らしい大作 “Shores of the Abstract Line” をリリースしました!!自ら “Cinematic Metal” と称する彼らの新作は、人間の心と記憶をテーマとし、それを”島”に投影した一大絵巻です。
静と動、プログレッシブとアトモスフェリックを正弦波のように巧みに使い分ける彼らの音楽は BETWEEN THE BURIED AND ME に例えられることも多いようです。ただ、BTBAM が派手で煌びやかなUS産ハリウッド映画だとしたら、Hypno5e は独特な雰囲気、テンポ、感情表現を持つフランス映画であり、確実に一線を画する部分が存在しますね。
“Shores of the Abstract Line” は East, West, Central, North, South という5つの”Shore”で構成されています。”島”内のその5つの記憶の”海岸”は小道で繋がっており、リスナーはアルバムを通して島を彷徨うことになります。まず驚かされるのは作品を構成する言語です。アルバムの第1、第2パートである “East Shore” “West Shore” で使用されたのは彼らの母国語であるフランス語。加えて次の Central, “Tio” にはスペイン語が使用されているのです。この試みが実に効果的。勿論聴くだけでその意味は分かりませんが、言葉に込められた感情、そして死、憂鬱、孤独といったテーマは、恐らくただ英語で歌われるよりも、より強く伝わって来ます。
また作品を通して、アコースティックギターやキーボードが実に巧みに配置されており、そこから伝わる哀愁や切なさといった情感と、MESHUGGAH や BTBAM を想起させるモダンなヘヴィーでプログレッシブなリフが生み出すアグレッションとの対比がアルバムを特別なものにしていますね。モダンという意味では、アグレッションの中に、彼が影響を受けたアルバムにも挙げている THE DILLINGER ESCAPE PLAN のようなマスメタル的スリルをも実は内包していると思います。
Hypno5e、そして “Shores of the Abstract Line” を語る時、象徴的なのが “Tio” という楽曲の存在だと思います。メタルからかけ離れ、南米の民族音楽のような美しくも激しく哀愁を発する “Tio” は、アルバム、コンセプトの中心に据えられ重要な役割を担います。Emmanuel の独特なボーカルが非常にマッチしていますね。インタビューでも語っている通り、ジャンルに関係なく自らが良いと信じた音楽を貫く姿勢が彼らのアイデンティティー。そしてこの非メタルな “Tio” をアルバムの根幹に据えたことこそ、彼らの強いメッセージだと感じましたね。
今回弊誌では、バンドのベーシスト Gredin Le Fourbe にインタビューを行うことが出来ました。作品同様、インテリジェンスに満ちた回答をいただきましたよ。