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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AZURE : FYM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AZURE !!

“I Was Introducing Chris To Hunter X Hunter While We Were Writing The Storyline For The Album, So I’m Sure There Was Some Sort Of Indirect Inspiration Going On There.”

DISC REVIEW “FYM”

「物語や音楽、芸術、文化のない世界は実に退屈だろう。僕たちがやっていることは単なるエンターテインメントかもしれないけど、喜びや美的体験には価値があるし、プログレッシブ・ミュージックやパワー・メタルが持つ力、現実からの逃避力と回復力はとても意味がある。利益のため、AIの助けを借りて芸術という名の心なきまがいものが冷笑的に生み出される世界では、本物の人間による創造性と魂がさらに必要とされているんだ」
みなさんはメタルやプログレッシブ・ミュージックに何を求めるでしょうか?驚速のカタルシス、重さの極限、麻薬のようなメロディー、複雑怪奇な楽曲、華麗なテクニック、ファンタジックなストーリー…きっとそれは百人百様、十人十色、リスナーの数だけ理想のメタルが存在するに違いありません。
ただし、パンデミック、戦争、分断といった暗澹たる20年代において、これまで以上にヘヴィ・メタルの“偉大な逃避場所”としての役割が注目され、必要とされているのはたしかです。暗い現実から目をそらし、束の間のメタル・ファンタジーに没頭する。そうしてほんの一握りの勇気やモチベーション、”回復力”を得る。これだけ寛容で優しい“異世界”の音楽は、他に存在しないのですから。そして、英国の超新星AZUREは、その2020年代のメタルとプログレッシブ・ミュージックのあり方を完璧に体現するバンドです。
「自分たちを“アドベンチャー・ロック”、”アート・ロック”、”ファンタジー・プログ”と呼ぶこともあるし、友人たちから“フェアリー・プログ”と呼ばれることもある。全て良い感じだよ! 僕たちは冒険に行くための音楽を作っている。そこにはたくさんの魔法が関わっているし、それでも現代的で個人的な内容もあるんだよね」
ヴァイやペトルーシも真っ青の驚嘆のギター・ワーク、デッキンソンとクラウディオ・サンチェスの中道を行く表情豊かなボーカル、チック・コリアを思わせる綿密な楽曲構成、そして大量のポップなメロディーと豊かなシンセが組み合わされ、彼らの冒険的で幻想的なプログ・メタルは完成します。まさに冒険を聴く体験。
AZUREの音のアドベンチャーは、まるで日本のRPGゲームさながらの魅力的なプロットで、リスナーの好奇心をくすぐり、ファンタジー世界へと誘います。それもそのはず。彼らのインスピレーション、その源には日本の文化が深く根づいているのですから。
「このアルバムの最初のコンセプトは、”ダンジョン・クローリングRPG”をアルバムにしたものだった。そこからコンセプトが進んでいったのは明らかだけど、僕らが幼少期にプレイした日本のRPGゲームは、このアルバムの音楽構成や美学に大きな影響を与えている」
影響を受けたのは、ゲーム本体からだけではありません。
「日本のゲーム作曲家もこのアルバムに大きな影響を与えた。ファイナル・ファンタジーの植松伸夫、ゼルダの近藤浩治、そしてダークソウルの桜庭統。彼のプログ・バンドDEJA-VUも大好きだよ」
そうして AZURE の日本に対する憧憬は、サブカルチャー全般にまで拡大していきます。
「日本にはクールなサブカルチャーがたくさんあるから、影響を受けないのは難しいよ!僕たちはJ-Rockバンドや、そのシーンの多くのプロジェクトに大きな愛着を持っているんだよね。高中正義やIchikoroは素晴らしいし、ゲスの極み乙女や Indigo La End など、僕たちが好きな他のバンドともリンクしている。あと、日本のメタル・シーンにも入れ込んでいて、MONO、SIGH、GALNERYUS、Doll$Boxx、UNLUCKY MORPHEUSが大好きなんだ!」
そうしたAZUREの好奇心にあふれた眼差しこそ、21世紀のメタルやプログを紐解く鍵。寛容で多様、生命力と感染力、そして包容力を手にしたこのジャンルは、国や文化、人種、性別、宗教、そして音楽の檻に閉じこもることはありません。
音楽ならつながれる。だからこそ、AZUREの音楽は多くのパワー・メタルやプログレッシブ・ミュージックのステレオタイプな楽観主義とは一線を画しているのです。だからこそ、人間的で、憂鬱に閉ざされたリスナーの心に寄り添えるのです。ここでは、想像上の脅威に対する輝かしい勝利について歌うだけでなく、登場人物たちがクエストに奮闘している音楽、寄り道で一喜一憂する音楽、パーティー内の人間関係の感情を投影した音楽まで描かれます。
そうした情景描写に多くの時間を費やしているのは、リスナーに”Fym”の世界へとより没入してほしいから。ひと時だけでも浮世の痛みを忘れ、逃避場所で回復力を養ってほしいから。今を生きるメタルやプログの多様さに抱かれてほしいから。さあ旅に出よう。まだだれも聴いたことのない冒険が君を待っている!

1.The Azdinist // Den of Dawns
2.Fym
3.Mount, Mettle, and Key
4.Sky Sailing / Beyond the Bloom / Wilt 11:07
5.Weight of the Blade
6.Kingdom of Ice and Light
7.The Lavender Fox
8.Agentic State
9.Doppelgänger
10.The Portent
11.Trench of Nalu
12.Moonrise
Bonus Track
13.Spark Madrigal
14.Demon Returns
Chris Sampson – Vocals, Electric Guitar, Mandolin
Galen Stapley – Electric Guitar, Nylon String, Theremin
Alex Miles – Bass
Shaz D – Keyboards, Grand Piano
Andrew Scott – Drums
Adam Hayes – Bongos, Congas, Fish Guiro on tracks 1, 7, and 11
Nina Doornenstroom – Trumpets on track 3
Camille De Carvalho – Oboe D’amore, Clarinet, and Basson on tracks 4 and 6

日本盤は5/22にMarquee/Avalonからリリース!私、夏目進平によるライナーノーツ完全版とともにぜひ!!

前作リリース時のインタビュー!

AZURE “FYM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OU : Ⅱ: FRAILTY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANTHONY VANACORE OF OU !!

“Yoko Kanno Is a Prolific Composer In That Area And She Is One Of My Favorite Composers, And Definitely Has an Influence In The Music Of OU.”

DISC REVIEW “Ⅱ: FRAILTY”

「最終曲の “Recall” でジェゴグを使うアイディアがあった。だからそのパートのレコーディングを手伝ってもらえないかと芸能山城組に連絡を取ったんだよ。彼らはとても親切に対応してくれたけど、残念ながら実現はしなかったね。そこで、僕の恩師のひとりであるマイケル・リプシーに連絡を取ったところ、彼がジェゴグの故郷であるインドネシア・バリ島の知り合いに連絡を取ってくれて、そこの偉大なミュージシャン、 Ida Bagus Made Widnyana がそのパートを録音してくれることになったんだ」
デビュー作で世界を驚かせた中国のプログ・メタル・アクト OU から連絡があったのは、彼らがセカンド・アルバムを制作している最中のことでした。あの芸能山城組とコンタクトを取りたい。デビュー作でインタビューを行ってくれた君に何かツテはないだろうか?と。
AKIRA のサウンド・トラックを手がけたビッグネームにツテなどあるはずがありません。しかし、なんとか彼らの期待に応えようと、コンタクト・フォームや電話などでアプローチを試みました。ありがたいことに、芸能山城組からはとても丁寧で親切な返信 (リモートではなく実際に同じ場所で演奏をしたいという哲学) をいただき、残念ながら今回のコラボレートは実現しないことになりました。
「日本のアニメの音楽には以前から興味があったよ。AKIRA の音楽は、これまでに作られたサウンドトラックの中で最も興味深いもののひとつだと思う!菅野よう子はこの分野で多作な作曲家であり、僕の好きな作曲家の一人で、間違いなく OU の音楽に影響を与えているよ」
実現こそしませんでしたがそれでも、私は OU の情熱と包容力と見識の高さに一層魅了されてしまいました。まず、AKIRA や菅野よう子、芸能山城組という日本が誇る革新的な文化に大きく影響を受けている見識の高さ。そして、中国という伝統文化の結晶から、さらにインドネシアのジェゴグ、日本文化にアプローチを試みるその情熱と包容力。まさに、多様性と寛容さが花開く現代のメタル世界、その象徴的存在でしょう。
「音楽全体のテーマとして共通しているのは、”Fragility” 脆さ。そして人間の状態というものが本当にどれほどか弱いものなのか、どれほど簡単に流されてしまうものなのかということを扱っているんだ」
実際、彼らが扱うテーマやその音楽自体も現代のメタルを体現し、今の世界を反映したもの。この暗い世界で私たちは、人間があまりに脆く弱い存在であることを再確認しています。より良き場所へ向かうはずだった世界は、人間の脆さにより挫折し、弱い人間を抑圧し排除するかつての短絡的で “簡単な” 生きづらいレールへと舞い戻ってしまいました。OU は、中国という奇妙にバランスとのれたしかし危うい国から、人間の弱さを見つめ直しています。そして同時に彼らは、かつて強さや勝利に重きを置いていたヘヴィ・メタルの世界線に、弱さや儚さの音の葉を注ぎ込んでメタルの現在地をも更新して見せました。
「STRAPPING YOUNG LAD 時代からずっと、彼の作品はほとんど全部好きだよ。特に彼のアルバムで好きなのは、”Ghost”, “Deconstruction”, Empath”, “Lightwork”, あとはすべてのライブ・アルバムだね。特に “Order of Magnitude” は素晴らしいよ」
そんな儚くも美しい “II:Frailty” において、最後のピースは Devin Townsend のプロデュースとゲスト参加に違いありません。まさにその身を挺してメタルの多様性を切り開いてきた偉人。プログ、パンク、アンビエント、ジャズ、オーケストラにアコースティックとさまざまな切り口でメタルの進化を促した Devin は、”Frailty” にミニマルで繊細な音の織物をマキシムにレイヤーしていきました。ミニマリズムとマキシマイズこそ Devin の真骨頂。爆発的なバンドの力と幽玄絶後なボーカル、そして煌びやかなシンセの海は、まさに狂おしく、夢のように波打ちます。
今回弊誌では、Anthony Vanacore にインタビューを行うことができました。21世紀の “Mandalyon” of THE GATHERING。 二度目の登場。どうぞ!!

OU “Ⅱ: FRAILTY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DARWIN : FIVE STEPS ON THE SUN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DARWIN !!

“I Think Where We Differ From Toto Though Is Sometimes We Can Get Pretty Heavy, Sometimes You Need To Feel The Crunch Or Chugg. But Again, Similar To Toto, We’d Also Like To Reach a Wide Audience.”

DISC REVIEW “FIVE STEPS ON THE SUN”

「僕たちにとって非常に重要なのは、自分たち自身、そしてリスナー全員に、音楽の中で大きな問いを投げかけるよう促すこと。自分たちを取り巻く世界、宇宙、テクノロジー、科学、時事問題について、音楽の “問いかける” 力を感じてもらいたい。僕たちは音楽を通して大きな問いを立てることができる。音楽は、僕たちがこの世界についてどう感じているのか、もっと考える機会を与えてくれるんだ」
音楽やアートは何のために存在するのでしょうか?もちろん、純粋に気持ちよくなるため、感動を味わうためにアートを享受する人も多いでしょう。そうした一方通行で受け身のアートももちろん素晴らしいものです。一方で、アートを受け取って投げ返す対面通行の楽しみ方も、悪くはないものです。アイスランドを拠点とするギタリスト DarWin は、自らの音楽でリスナーに、世界に対して何かしらの “問い” を立ててほしいと願っています。
「僕たちの多くは、ひいひいおじいちゃんおばあちゃんがネアンデルタール人だったのだよ。いずれにせよ、ネアンデルタール人は種として消滅した。 それから1万数千年が経った今、僕たちはここにいる。 僕は、ホモ・サピエンス、つまり現代の “人類” の最後の一族になるとはどういうことなのだろうかとずっと考えていた。 そして “次世代の人類” はどのような姿をしているのだろうか? ホモ・サピエンスの後には何が来るのだろう? 彼らはどのように出現するのだろうか? …ってね。僕はときどき、次世代の人類はいかにテクノロジーに適応し、あるいは融合して、より高度な能力を獲得する必要があるのだろうかと考えることがあるのだよ」
2015年に産声をあげた DARWIN は、克明に暗雲が増えていく世の中でいつしか、人類 “ホモ・サピエンス” の終焉を夢想するようになります。そのプロジェクト名が示すように、DarWin は種の起源と終焉について掘り下げながら、滅びゆく世界で人類の進化、その正当性と妥当性に問いを投げかけるのです。
「エアポッドでバッハを脳内に流しながら外をランニングするほど素晴らしいことはないよ。何百年も前の作曲が、まったく異なる世界情勢に直面しながら、モバイルネットワーク通信、何百ものマイクロプロセッサー、バッテリーエネルギー、その他さまざまな現代の技術革新によって、僕らの脳にストリーミングされているのだから。 古代と未来の衝突はとても魅力的だ」
それでも DARWIN は、人類の可能性を諦めたわけではありません。人類はとても脆いけど、個々の人間には内省があり、希望があり、回復力と大きな可能性を秘めている。その左相がこれまでの素晴らしき音楽の歴史と、未来を見据えたテクノロジーの進化、その融合でしょう。道程と道筋の邂逅。
DARWIN は長い音楽とロックの歴史を抱きしめながら、今を生き、未来を創造しようとしています。ここに参加するアーティストは、ほとんどが百戦錬磨。かつてはあの Billy Sheehan, Guthrie Govan も名を連ねていた DARWIN のラインナップ。今回の “Five Steps on the Sun” では、Simon Phillips, Matt Bissonette, Derek Sherinian, Greg Howe のレギュラー・メンバーに加えて、Andy Timmons も降臨。一方で、新進気鋭のベーシスト Mohini Dey も起用して、まさにロックのロード・ムービーを完成させました。
「たとえプレイヤーたちがみんな狂ったようにシュレッドできるとしても、メンバーの真の貢献は本当に素晴らしい曲にあると思う。 彼らは幅広い聴衆のためにポップなロック・ソングを作ったけど、曲作りには洗練さと思慮深さもあった。 でも、僕らが TOTO と違うところは、時にはかなりヘヴィになったり、クランチやチャグを感じることがあるところだと思う。でも TOTO と同じように、幅広いオーディエンスに音楽を届けたいと思っているんだ」
そんな DARWIN によるロックの “進化論” を探求する試みは、もちろんその楽曲にも及んでいます。プログレッシブでシュレッドを織り交ぜながらも、あくまでメロディとフック、そして構成の妙で勝負する DARWIN の楽曲は、あの TOTO と肩を並べるほどの楽曲派です。
しかし、それだけでなく、ここには Plini や PERIPHERY を思わせる Fu-djent, 近未来的なシュレッドやチャグチャグしたリズムまで存在しています。”ロックの起源” からその道のりを余さず投影した彼らの音楽は、そうしてアートと人類の可能性を指し示しているのです。
今回弊誌では、DarWin にインタビューを行うことができました。P-Vine から日本盤の発売も決定!どうぞ!!

DarWin (g)
Simon Phillips (d, p)
+
Matt Bissonette (v)
Greg Howe (Lg)
Mohini Dey (b)
Derek Sherinian (key)
Julian Pollack (key)
Chariya Bissonette (bv)
Jesse Siebenberg (Ag, bv)
Andy Timmons (Lg)

DARWIN “FIVE STEPS ON THE SUN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OMERTA : CHARADE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OMERTA !!

“Even Many Of The Biggest Japanese Mainstream Hits Tout Musical Penmanship With Such Finesse That It Makes Western Music Look Amateur And Incompetent By Comparison.”

DISC REVIEW “CHARADE”

「日本のメディアは欧米のメディアよりも常にエッジが効いているんだ。だから、オルタナティブな文化に憧れを抱いて育った子供時代には、当然その方が魅力的だった。題材がより成熟していたのか、アートスタイルがそうだったのか、何にせよ、欧米で普通に見られるものよりも奥深さや意図があるように思えた。また、僕たちはインターネットとともに成長し、日本のメディアは多くのオンライン・コミュニティに信じられないほど強い影響力を持っている。日本の技術力は言うまでもないしね。だから自然と、今日のインターネット文化は、日本にルーツがあるだろうものの下流にある作品が多くなったんだよ」
先日、来日を果たし大盛況のうちにツアーを終えた BLIND EQUATION が最も影響を受けた音楽が、ZUN による東方サウンド・トラックでした。そう、現代ほど日本のサブカルチャーやアンダー・グラウンドの文化が世界中に “飛び火” し、花開いた時代はなかったはずです。なぜそんな状況が訪れたのか。今、日本のネット音楽界隈で最も “バズって” いるアメリカのバンド OMERTA は、その理由を日本のアートが異質で尖っていたから、そうした日本文化を敬愛するオンライン・コミュニティで育ったから、そしてそんなファンタジーの世界が、メタルと同様に暗い世界で増えつつある心を病んだ “メンヘラ” な人たちの逃避場所となっているからだと説明します。つまり、同時多発的な日本文化礼賛バンドのバイラルは、決して偶然ではなく必然なのでしょう。
「アメリカで育ってきた僕にとって、アメリカのメインストリーム音楽はとても “安全” な傾向があるんだよ。西洋音楽と非西洋音楽の断絶は驚くほど明白だよ。平均して、西洋の曲は不協和音、調の変化、半音階的表現、ポリリズムなどを避け、非常に無難な旋律とリズムの慣習に従っている。これとは対照的に、日本の音楽は曲作りやプロダクションのデフォルト・モードとして複雑さやテクニックを用いることが多い。日本ではメインストリームの大ヒット曲の多くでさえ、西洋音楽が素人や無能に見えるほど精巧な音楽的巧妙さを売り物にしている」
さらに、ラテン系やアジア系をルーツに持つ OMERTA にとって、欧米のメインストリーム・ミュージックはあまりに安全で、耳に馴染まず、冒険心のない音楽に聴こえました。移民の国アメリカのメインストリームは、すでに誰からも愛される音楽ではありません。
一方で、吸収と研究が得意な日本。様々な場所から無節操に思えるほど多くの影響を取り入れ、コード感や変調、リズムの豊かさを強調し、それでいて日本らしいポップなメロディを備える  J-Rock やアニメ、ゲームの音楽こそ、OMERTA にとってはよほど魅力的な挑戦に見えたのでしょう。
「メタルコアや Nu-metal、あるいは僕たちより前に存在していたかもしれない他のジャンルの既存の基盤の上に、僕たちの音楽を構築することではない。これらのジャンルにはそれぞれ理論的な天井があり、それを突破することはできないから。僕たちの作曲に対するアプローチは、ラベルを無視して、最も適切と思われるものをただ書くというもの。僕たちは、アーティストとは神のインスピレーションを直感し、解釈し、伝える媒介物に過ぎないと固く信じている。ジャンルの枠に自分を縛ることは、唯一無二の美しさを歪めてしまう危険性があるからだ」
そんな、BLIND EQUATION や OMERTA といった日本文化の “下流“ にある Z世代のアーティストが口を揃えて主張するのが “ジャンルの破壊” です。実際、OMERTA の音楽にジャンルのラベルを貼ることは決して簡単ではないでしょう。巨大なバイラルを得た最新シングル “Charade” を聴けば、メタルコアや Nu-metal はもちろん、プログレッシブ、J-Rock, K-Pop, ボカロやアニメ、ヒップホップなど実に多様な音のパレットが反発することもなく耳下に広がっていきます。
そう、ネット世代の若さは壁をたやすく突き破りました。彼らの使命は、芸術とはこうあるべきだという期待やステレオタイプに挑戦すること。結局、暴力的な芸術とは慣例の破壊。粉々に吹き飛ばされた瓦礫の上に、何か美しいもの、何か新しいものを構築することこそ “Hyperviolence” なのです。
今回弊誌では、OMERTA にインタビューを行うことができました。メタル魔法少年オメルたん。薄い本にも期待です。Vincente Void が生んだ、アメリカで “一番嫌われている” ボーイズ・バンドだそうですよ。どうぞ!!

OMERTA “CHARADE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【EXIST : HIJACKING THE ZEITGEIST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MAX PHELPS OF EXIST !!

“I’d Say I Acquired Language From Listening To Cynic And Death Which Seeped Its Way Into Many Of My Musical Tendencies, I Listened To That Stuff a Ton Because It Spoke To Me On a Deep Level.”

DISC REVIEW “HIJACKING THE ZEITGEIST”

「Paul Masvidal はまさに師匠のような存在で、僕が初めて行ったツアーは CYNIC と一緒だったし、彼や Sean Reinert と関わるようになって、僕の世界は大きく広がった。そして僕は CYNIC と DEATH を聴くことで、今自分の音楽的傾向の多くに染み込んでいる “言語” を身につけたと言える。本当に何度も何度も聴いたからね。それは、深いレベルで彼らの音楽が僕に語りかけてきたからなんだ」
Max Phelps は今や、プログレッシブ・デスメタルの宇宙にとってなくてはならぬ存在です。それはもちろん、DEATH TO ALL の声として亡き Chuck Schuldiner の影を追い、CYNIC では Paul Masvidal をメンターとしてその師事を受けているからだけではありません。Max はその二大巨頭から受け継いだ哲学やスピリットを、自らのやり方で羽ばたかせようとしています。
「ヘヴィーとキャッチー、テクニカルとシンプル。本当にそれ自体が目的だったのかどうかはわからない。なぜなら、それが僕たちの書き方にとってごく自然なことだと思うからね。でも、そういった要素を、より伝統的な曲構成で、よりタイトで短いアレンジに落とし込むというのは、ひとつの目標だったと言えるかもしれないね」
Max はカルト・ヒーローたちの遺伝子を色濃くその身に宿しながらも、より幅広い層にアピールしたいと願っています。そしてその願いは、EXIST の最新作 “Hijacking the Zeitgeist” で成就するはずです。濃縮還元されよりコンパクトとなった曲構成、耳を惹くメロディとフックの応酬、それでいてジャンルの門番をも唸らせるテクニックと複雑性を兼ね備えたアルバムはまさに、プログレッシブ・デスメタルの前代未聞。
実は、その EXIST の新たな冒険は Max もうひとつのヒーロー RUSH の影響で幕を開けました。プログ・デスと同じくらいに RUSH を愛し、RUSH オタクと公言する Max は、このアルバムは彼らにとっての “Permanent Waves” であり、”Moving Pictures”、さらにいえば “Power Windows” であると明言しています。それらは、RUSH にとっての “プログレッシブ” が変化した瞬間。そして、RUSH により幅広いリスナーへの “窓” が開いた瞬間。
「メリーランド州出身ということで、PERIPHERY や ANIMALS AS LEADERS がスタートするのを見ることができたし(昔、地元で一緒にライヴをやったこともある)、それは本当にクールで刺激的だった。Djent という言葉は、コピー商品ばかりで過飽和になり、軽蔑的な言葉になってしまったと思う。でも、そのムーブメントを牽引していたバンドは本当に素晴らしくて、みんな自分の声を持っていた。好むと好まざるとにかかわらず、現代のギター・プレイにも非常に大きな影響を与えたと思う」
アルバムに収録された “Window to the All” が仄めかす通り、この作品はすべての人への窓となりえます。それは、プログ・デスはもちろん、RUSH のようなキャッチーなプログ・ロック、PINK FLOYD や TOOL のような浮遊するサイケデリア、そして THE CONTORTIONIST や PERIPHERY のようなポリリズミックで現代的な Djent の流れまで組み込んだ膨大なる窓。
そこで歌われるのは、人類の新たな “窓” となったインターネット、SNS への執着とそこにある欺瞞。
「多くの人が、SNS で自分と関係のない物事の状況について非常に落ち込んだり、怒ったりしているのは、それが常に自分の目の前にあるからだと思う。自分の身の回りのことや、自分が実際にコントロールできることにもっと集中した方がいいこともあるし、少なくともそこでバランスを取る方がいいのかもしれないよね」
我々はあまりにも、無関係なものごとに左右されすぎるようになりました。それはきっと、ネットという窓が常に覗きすぎているからでしょう。ヘヴィ・メタルという窓は常に開いていますが、覗こうが覗くまいがそれはリスナーの自由。楽器だって、真摯に深く取り組もうが、ネットに動画をアップするだけだろうがそれはプレイヤーの自由。そんな今の寛容なメタルのあり方を Max Phelps はきっと、世界の理想としているのです。
今回弊誌では、Max Phelps にインタビューを行うことができました。「昨年末、CYNIC で来日したとき、僕は初めて日本に行ったんだ。妻も一緒に来てくれて、東京と京都で過ごしたんだけど、本当に楽しかった。正直、今までで一番好きな旅行体験のひとつで、今はいつも日本に引っ越したいと冗談を言っているくらいだよ。日本文化が本当に好きで、僕たちが慣れ親しんでいるカオスと比べて、みんなが親切で礼儀正しく、すべてがスムーズに進んでいることが信じられなかった。また何度も訪れたいよ!」OBSCURA, EQUIPOISE, そしてエンジニアに Anup Sastry という最強の布陣。どうぞ!!

EXIST “HIJACKING THE ZEITGEIST” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INDUCTION : MEDUSA】JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TIM HANSEN OF INDUCTION !!

“Power Metal, Or Heavy Metal Just Seems Like The Most Versatile Metal Genre To Me. I Love The Focus On Great Melodies And The Freedom To Go Slow And Heavy, Or Fast And Hard. Power Metal To Me Is a Feeling, Not a Genre. And I Try To Embody That With Induction.”

DISC REVIEW “MEDUSA”

「パワー・メタル、あるいはクラシックなヘヴィ・メタルは、僕にとって最も汎用性の高いメタル・ジャンルに思えるんだ。素晴らしいメロディーを重視し、スローでヘヴィーな曲も、速くてハードな曲も自由自在なところが好きなんだよ。僕にとってのパワー・メタルは、ジャンルではなくフィーリングなんだ。そして、僕は INDUCTION でそれを体現しようとしているんだよ」
かつて、ヘヴィ・メタル、そのステレオタイプの象徴だったパワー・メタルを、”柔軟で汎用性の高い自由なジャンル” と言い切るジェネレーションが遂にあらわれました。それだけでももう隔世の感がありますが、その言葉があのミスター・パワー・メタル Kai Hansen の息子 Tim Hansen から発せられたのですから、時代と価値観の変化はたしかなものに違いありません。
「音楽的には父の世代より間違いなく一歩進んでいるし、いわゆるジャーマン・メタルのバンドたちとはサウンドは違う。でも、もしかしたら僕たちは “ジャーマン・メタルのニューウェーブ” と言えるかもしれないね。僕はそのサウンドが好きだ」
実際、Tim は自身のバンド INDUCTION で “ジャーマン・メタルのニューウェーブ”、そのアンバサダーに就任しました。INDUCTION がその称号に相応しいのには確固たる理由があります。Tim が “ディズニー・メタル” と称賛する TWILIGHT FORCE の完璧にオーケストレートされたシンフォニー、BEAST IN BLACK のダンス・パーティー、POLYPHIA や PERIPHERY まで想起させるモダンなギター・テクニック、硬軟取り揃えた曲調の妙。そんな現代的なアップデートを、80、90年代のクラシックなジャーマン・メタルに落とし込む。
「たしかに父がいなかったら、音楽とギターにのめり込むことはなかったと思う。でも、ギターを手にしたいと思わせる要素はもっとたくさんあったんだ。特定のギター・ヒーローがいたわけではないんだけど、お気に入りのギタリストは、Guthrie Govan, Teemu Mäntysaari, Kasperi Heikkinen。僕は人生の困難な時期に、自分自身に新しい使命が必要だと思った。そして、そのときから僕は完全に音楽にコミットし始め、自分の道を歩むようになった。でも、何かヒントが必要なときに、父のように側に助けてくれる人がいるのはいつもありがたかったよ!」
パワー・メタルを自由の土地とみなし、明日を見据えて狂気と才気を発電する。楽しい音楽を作ること。もちろん、その偉業の達成は Hansen 家の血が後押ししていますが、それだけではないでしょう。そもそも、メタル世界は政治や会社のように世襲制ではありません。継ぐべき地盤も資産もないのですから。それでも、Tim Hansen は父と同じパワー・メタルという夢の国で反乱を起こすと決めたのです。それは、パワー・メタルが好きだから。パワー・メタルへの情熱があふれるから。パワー・メタルが使命だから。ジャーマン・メタル。その過去へのトリビュートと未来への才狂を実現できるのは、Tim Hansen しかいないのですから。
今回弊誌では、Tim Hansen にインタビューを行うことができました。「とにかく楽しい音楽を書きたい。ライヴに来て、日常や普段の生活をすべて忘れて、ただ一晩放心状態になれる。そんな音楽をね。そういう意味で、僕はリスナーに逃避を提供しようとしているんだ。でもそれだけじゃなく、音楽をもっと深く掘り下げると、寓話やファンタジーだけでなく、曲の中にたくさんの実体と意味があることに気づくはずだよ」 親子での来日も決定!あの Ralf Scheepers も GAMMA RAY に帯同します。どうぞ!!

INDUCTION “MEDUSA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AURO CONTROL : THE HARP】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUCAS DE OURO OF AURO CONTROL !!

“You Feel Thrilled To Bang Your Head Because There’s a Force In Some Songs That Push You To It. It’s The Same Idea With The Brazilian Percussive Style, Specifically Here In Our Hometown Bahia.”

DISC REVIEW “THE HARP”

「メタルの曲の中には、リズムのおかげでとても素晴らしくなったものがある。ヘッド・バンギングしたくなるようなゾクゾク感があるのは、曲によってはリズムにそれを後押ししてくれる力があるからだ。ブラジルのパーカッシブなスタイルも同じで、特にここバイーアには有名なパーカッシブ・アーティストがたくさんいる。ヘッド・バンギングは、パーカッションで踊っているようなものなんだ。体が音楽に反応しているんだ。だからブラジリアン・パーカッションはメタルによく合うんだと思う」
西欧から旅立ち世界各地で芽吹いたメタルの種は、その土地土地における文化や個性を吸収しながらスクスクと育ち、今、実りの時を迎えています。そんなメタルの生命力、感染力、包容力が最も根付いた場所のひとつが、南米、ブラジルでしょう。
思い返せば、ブラジルはメタル多様化のきっかけともなった場所。ANGRA が多少強引でも、アマゾンの伝統音楽をメタルに引き込んだ “Holy Land” のやり方はあまりに革命的でしたし、SEPULTURA が “CHAOS A.D.” や “Roots” でメタルにブラジルの鼓動を持ち込んだその手法は、世界各地のメタル・アーティストに勇気ときっかけを与えたのです。そんなブラジルからまた超新星が現れました。AURO CONTROL。黄金を意味する Auro と “Out of Control” がかけられたバンド名が示す通り、彼らのヘドバン・パーカッションは黄金の制御不能です。
「僕らの曲には ANGRA の影響が大きいけど、バイーア・パーカッションのアプローチは ANGRA のアイデアとは少し違うんだ。だけど、”Holy land” はブラジリアン・ヘッドバンガーのプレイリストに必ず入っているアルバムだ。僕はアルバム “Rebirth” がとても好きで、彼らがもうライブでは演奏しないこのアルバムの曲を聴いて、とてもノスタルジックな思い出に浸っている。”Unholy Wars” だよ」
AURO CONTROL が黄金である理由。それは、まさに偉大な先人である ANGRA と SEPULTURA 両者の遺伝子を深く受け継いでいるところにあります。パワー・メタルのスペクタクルとプログ・メタルの深み、バイーア・ブラジリアン・パーカッションの躍動的なリズムが見事に融合した圧巻のデビュー・アルバム “The Harp” は、制御不能を制御したブラジル・パワー・メタル、そしてブラジル北東部の誇り。
「Andre Matos は、ユニークな声と比類なき音域を持つマエストロだった。そして Edu Falaschi は、僕が人生で最も聴いたブラジリアン・メタル・ボーカリストだ。彼も僕と同じでロー・トーンだから、僕は Edu に共感することが多いね。彼は感情を込めて歌う達人だよ」
何よりも、AURO CONTROL の制御不能には、魂とエモーション、そしてサウダージが深々と刻み込まれています。Andre Matos の驚異と、Edu Falaschi の感情に薫陶を受けた Lucas de Ouro の歌唱は、暗い時代の困難、抑圧、孤独との戦いを複雑に響かせながら、パワー・メタルのファンタジーとパーカッションのダンスを従え、暗黒を勇気と鋼の意志、そして光へと変容させていきます。そのレジリエンス、メタルの回復力はまさにアートワークに描かれた不死鳥。そうして力を得たパワー・メタルのフェニックスは、ブラジルから炎とともに大きく羽ばたいていくのです。
今回弊誌では、Lucas de Ouro にインタビューを行うことができました。「日本のコントラストが大好きになった。奈良の自然と文化の美しさに惚れ込み、秋葉原や渋谷の喧騒に夢中になった。巨匠鳥山明の作品が大好きで、漫画を描いて育ったからね。ギターの Lucas Barnery も日本文化に夢中だ。彼は、巨匠・三浦健太郎の漫画 “ベルセルク” のタトゥーを入れているし、尾田栄一郎先生と岸本斉史先生の “ONE PIECE” と “NARUTO” が大好きなんだ。アルバムのブックレットにある彼の “Thanks session” には、ファイナル・ファンタジーのビデオゲームに対するスクウェア・エニックスへの愛が綴られている!GALNERYUS, X JAPAN, Babymetal, Crossfaith のようなバンドの曲も大好きだしね。スーパー戦隊や特撮シリーズも大好きさ」
HIBRIA の Thiago “Bonga” を正式メンバーに、Aquiles Priester, Felipe Andreoli の ANGRA組、Jeff Scott Soto をゲストに迎え、ex-SHAMAN の Thiago Bianchi がプロデュース。オールスター・キャストで贈るメタル・カーニバル。ANGRA の “Angels and Demons” を彷彿とさせる “Rise of the Phoenix” の威容に思わず感涙。どうぞ!!

AURO CONTROL “THE HARP” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALBION : LAKESONGS OF ELBID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOE PARRISH OF ALBION !!

“I Prefer To Go Back To The Source Itself, As In The Original Folk Songs And Melodies Themselves, Rather Than The Versions Of That Sound Found In Rock Or Metal Music.”

DISC REVIEW “LAKESONGS OF ELBID”

「僕が ALBION のために書こうとしている音楽は、基本的には精巧でありながら、できれば本物のフォーク・ミュージックをモダンな楽器で演奏し、アレンジにクラシックのアプローチを取り入れたものにしたい。最近のロックやメタルによくあるバージョンではなく、オリジナルの民謡やメロディーのように、起源そのものに立ち返ることを好んでいるんだ」
ある時点で、メタルのトレンドに躍り出た欧州のフォーク・メタルが、徐々にその輝きを失っていったのは、明らかに飽和と画一化が理由でした。それもそのはず。先達のフォーク・メタルから拝借したようなフレーズを満載したフォーク・メタルは、すでに伝統音楽の色香さえ失っていたのですから。その間に、インドや中東、アフリカ、アジア、南米、南太平洋の各地で、メタルの感染力は猛威をふるい、その生命力と包容力で世界中の日常を捉えた “フォーク・ミュージック” と融合を果たしていきました。
では、欧州のフォーク・メタルは消えゆく運命にあるのでしょうか?否。あの JETHRO TULL で薫陶を受け、完全復活の立役者となったギタリスト Joe Parrish 率いる ALBION がその流れを変えつつあります。彼らの音楽は、まがいものではなく、真のフォーク・ミュージックと当時の風景、日常、神話、そしてリュートやフルートのような楽器に根ざしているのですから。
「60年代や70年代のロック・ミュージシャンの多くは、細部まで考えすぎるのではなく、直感的な情熱のようなもので、短期間に多くのこと(ライヴ、アルバム、曲)をやり遂げ、アイデアにコミットする…そんな自信のようなものを持っていたと思う。Ian と一緒に仕事をし、彼とレコーディングをしたことで、僕はただアイデアにコミットし、物事を本当にやり遂げることができるようになったんだ。準備しすぎたり、細かなことで自分を苦しめて最終的な完成を遅らせるのではなく、もう少し自分の直感を信じることができるようになった。芸術の世界では、クリエイティブで多くのアイデアを持っている人の割合が高いが、そのアイデアにコミットし、実現までやり遂げる人の割合はかなり少ないからね」
さらに、ALBION にはかつての偉大なミュージシャンに備わっていた直感力を兼ね備えています。Joe が JETHRO TULL を離れたのも、まさにそれが理由。狂気のフラミンゴこと Ian Anderson と仕事をする中で学んだ、直感のアイデアを具現化する力。そうして彼はビッグ・バンドを離脱して、アーサー王伝説とその時代をプログ・メタル、フォーク・メタルに投影するアイデアを、完成させる道を選んだのです。
「逃避という側面は極めて重要なものだ。すべての素晴らしい芸術は、何らかの形で “トランスポート” する能力を持っている。よく、つらい時や状況を乗り切るために、特定の曲や音楽のことを口にする人がいるけど、それはよくわかるよね。ある曲や作品に惚れ込んだとき、その曲や作品によって日々の感情や経験が大きく変わることがある。それがアートや音楽の “変容力” なんだ!」
そうして完成を見た “Lakesongs of Elbid” には、アートに込められた “変容力” が備わっています。JETHRO TULL に傾倒した OPETH のような、現代的なリフワークに目覚めた BLIND GUARDIAN のような、その新鮮なフォーク・メタルの息吹は、リスナーの憂鬱や喪失を抱きしめながら、その感情をポジティブに変容させ、そして歴史上のめぐるめくファンタジーへと誘います。ALBION にとっての “聖杯” とは、リスナーの心を変容させる音の葉のこと。そうして彼らは、プログレッシブでフォーキーなメタルの王位継承を目指し、邁進していくのです。
今回弊誌では、Joe Parrish にインタビューを行うことができました。「自分たちが聴きたくなるような音楽を作っているだけさ。それがアーティストとしての誠実さを保つ唯一の方法なんだ。他人をなだめたり、アピールしたり、迎合したりするようなことを始めた時点で、アーティストではない。いやまあ、アーティストなんだろうけど、不誠実極まりない人間になる。それは、作品にあらわれるよね」 どうぞ!!

ALBION “LAKESONGS OF ELBID” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND CHANNEL : EXIT EMOTIONS】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKO MOILANEN OF BLIND CHANNEL !!

“We’ve Never Been Afraid Of Pop Music And We Believe Hit Songs Are Hit Songs For a Reason. We Have No Shame In Being Musically Inspired By Everything Cool That’s Happening In The Mainstream Music Scene.”

DISC REVIEW “EXIT EMOTIONS”

「アメリカのマーケットは巨大で、独自の世界だ。フィンランドやヨーロッパの多くの人たちは、アメリカを目指す僕たちをクレイジーだと言ったけれど、僕たちにとってそれは最初からの計画だった。
“Wolves in California” は、僕らのアメリカでの経験を歌った曲だけど、北欧のルーツを強さに変えて、アメリカのオーディエンスに僕らのエキゾチックな部分を強調した曲でもあるんだ」
“世界最大のバンドになりたい!”。80年代ならまだしも、人々の趣味嗜好、そして音楽ジャンル自体も枝葉のように細分化された現代において、そんな言葉を吐くバンドがいるとしたら、それは大言壮語の狼男か歌舞伎者でしょう。そう、たしかに BLIND CHANNEL は北欧の狼であり歌舞伎者。しかし、歌舞伎者だからこそ、彼らはアメリカでも “北の狂気” を貫き、冒頭の言葉を達成しようとしているのです。
「僕らは最初から野心的で反抗的だった。ビルボード・メインストリーム・ロック・エアプレイにチャートインしたフィンランドのバンドは、僕らが3組目だと思う。でも、僕らに影響を与えたバンドのほとんどはアメリカ出身だから、それが常に目標だったんだ」
フィンランドには “北の狂気” という言葉があります。”できない” と言われたら、それが間違っていることを証明するために、とにかくやってみる。やりつづける。まさにそれが BLIND CHANNEL の原始的なエネルギー。北欧のメタルといえば、メロデス、ブラック、ドゥーム、プログレッシブのようなカルトで陰鬱なものが多い中で、彼らは最初からアメリカを目指し、メインストリームにこだわりつづけました。
「フィンランド出身の国際的な Nu-metal は僕たちだけだからね。たぶんそれは、僕たちがポップ・ミュージックを恐れたことがなく、ヒット曲にはヒット曲の理由や価値があると信じているからだと思う。メインストリームの音楽シーンで起こっているクールなこと全てに音楽的にインスパイアされている。それを恥じることはないんだ“」
その若さと顔の尊さから、かつては “ボーイズ・バンド” と揶揄されたこともあった BLIND CHANNEL。しかし、彼らはそうした侮蔑でさえも野心のために利用します。人気を得るためなら、衣装も揃え、ダンスも覚える。すべては、メインストリームで勝負するため。なぜなら、彼らは売れる曲、売れるジャンル、トレンドとなる音楽には、それだけの価値や理由が秘められていると信じているから。そして、売れることでより多くの人に、彼らのメッセージを届けることができるから。
「僕たちは、人々が感情を吐き出すためにライブに来ていることに気づき、僕たちのショーでも同じような逃避場所を人々に提供したいと思ったんだ。特にここ数年、世界はクソみたいな場所だった。僕たちは、ガス抜きができて楽しい時間を過ごすための安全な空間を提供したいんだ」
“ここ数年、世界はクソみたいな場所だった”。世界で勝負をつづける彼らは、だからこそ、いかに今の世界で憂鬱や喪失を抱え、孤独で居場所のない人々が多いのかを知っています。そして彼らに寄り添えます。なぜなら、BLIND CHANNEL 自身も、北欧の村社会で自分を貫き居場所を失った過去があるから。ステレオタイプに反抗していじめを受けた心の傷を持つから。
ただし、”ヴァイオレント・ポップ” としてアメリカでこれだけ大きな波となった今、彼らは自らの出自である北欧のエキゾチックな煌めき、そして “Hybrid Theory” よりも “Meteora” を選ぶオルタナティブな感性が成功を後押ししたことに気づきました。メインストリームを目指していても、必要なのは他とは違う可能性。そしていつも “劣勢” から巻き返してきた彼らは、メタルの回復力でカリフォルニアのオオカミたちとして君臨することになったのです。
今回弊誌では、ボーカル Niko Moilanen にインタビューを行うことができました。マンガやアニメは僕の日常生活で大きな役割を果たしているんだ。ナルト、ブリーチ、鋼の錬金術師で育ったからね。デスノートと進撃の巨人は今まで作られたアニメで最高のシリーズだと思うし、今でも年に1回は見ている。いつか自分のマンガを描くのが夢なんだ。ストーリーはもう書いてあるんだけど、絵が下手なんだよね…」初の来日も決定!どうぞ!!

BLIND CHANNEL “EXIT EMOTIONS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREAK KITCHEN : EVERYONE GETS BLOODY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATTIAS IA EKLUNDH OF FREAK KITCHEN !!

“Turn Off Your Phone. Spend Time With Your Instrument. Don’t Be Afraid To Make Mistakes. Mistakes Are Beautiful.”

DISC REVIEW “EVERYONE GETS BLOODY”

「あのころ私たちは若かったから、最高のアルバムを作ろうと必死だった。楽しくてエキサイティングな時代だったよな!いくつかの賞も受賞したと思う。マイケル・イルバートにミキシングしてもらったことで、実際よりもずっと良くなった。彼は本物のプロだ。アルバムのアートワークは、私が持っているジャケット (服) の写真なんだ。あのジャケットを箪笥から取り出して、ほこりを払って、プレゼントか何かをする必要があるね。とにかく、”Appetizer” は私にとってとても大切なアルバムで、30年前のアルバムという古さがまったく感じられないよね。それは間違いないよ」
FREAK KITCHEN がデビュー・アルバム “Appetizer” をリリースして30年。30年経った今でも、あのユニークで、チャレンジングで、ウルトラ・ヘヴィでしかしウルトラ・キャッチーな傑作はまったく色褪せることはありません。そして、その傑作の立役者 Mattias IA Eklundh その人も、30年という月日で色褪せることはありませんでした。
「Caparison Guitarsには賞賛の言葉しかないし、デザイナーの菅野至は私の長年の友人だ。あのギターはあらゆる面で素晴らしい。だからこそ、私が住んでいるところから1時間ほど離れた、ここスウェーデンのトゥルー・テンペラメントの新しい工場でギターを作る機会を与えられてから、自分のブランドを立ち上げることについて長い間頭を悩ませていたんだ。でもね、最初から最後まで全工程に携われるというのは、断るにはあまりに魅力的なオファーだった。実際に自分のブランドを持つことができる。楽器は一流だし、それを作っている素晴らしい人たちは本当に、本当にプロフェッショナル。だからとても満足しているよ」
Mattias といえばキャパリソン。キャパリソンといえば Mattias。そんな常識が浸透していたギター世界。だからこそ、突然の Mattias によるギター・ブランド Freak Guitar Lab の立ち上げは驚天動地でした。しかし、結局あくまでも最後まで “職人” である Mattias にとって、すべてをコントロールできる、全工程に携われるスウェーデンの True Temperament Factory との提携はあまりにも魅力的でした。挑戦と変化を恐れない。Mattias は、ボロボロの Ibanez を弾いていた30年前から何も変わってはいないのです。
ギターの名前はウルフ。それは愛するスウェーデンの自然を投影した名前で、もちろん長年の友人だった愛犬の名を冠したもの。今のところ、8弦と6弦のラインがあり、日本では Zanshin Musical Instrument が代理店となるそうです。大阪サウンドメッセでの久々の来日も決まっています。
「音楽はとても大切だよ。音楽がなければ気が狂ってしまう。音楽はね、生きる力と目的を与えてくれるんだ。正気を保ち、インスピレーションを与えてくれる。世界が狂っているとき、音楽は最高だよ。身を守る盾になる。音楽の力を過小評価してはいけない。そして…そう、このアートワークとタイトルはまさに今日私たちがいる場所を反映している。私はね、両極化、終わりのない対立、プロパガンダ、嘘をつかれることにとても疲れているんだ。そんな世界で、音楽だけは私の魂を浄化してくれる」
そして、”Appetizer” 30年の年に、Mattias は前だけ見据えて新たなプレゼントを用意してくれていました。アルバム “Everyone Gets Bloody”。5月に発売される新作は、これまでとは少し異なる様相。争いや分断、暴力が蔓延る暗い世界に疲れ果てた Mattias は、ついに直接的にこの世界の異様さを音の中に込めました。もちろん、新たな挑戦はそれだけではありません。9弦という超低音域をオクターブ下でハモらせるという、常人には理解し難い試みもその一つ。デビュー30周年に新たなギターと新たな作品、新たなチャレンジで攻め続ける Mattias IA Eklundh と FREAK KITCHEN。来日とアルバムを楽しみに待ちましょう!
今回弊誌では、Mattias IA Eklundh にインタビューを行うことができました。「作曲や練習をするときはインターネットを避けること。気が滅入ってしまうからね。スマホの電源を切るべきなんだよ。ただ楽器と向き合ってね。そして何よりミスを恐れないで。音楽において間違いは美しいものだから。演奏を通して自分が何者であるかを知り、自分自身のアイデンティティを見つけるのは難しい。だからこそ、外部からのインプットが少なければ少ないほど、自分自身のもの、ユニークなものを作り上げることができると思うよ」 3度目の登場! どうぞ!!

FREAK KITCHEN “EVERYONE GETS BLOODY” : 10/10

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