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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCH ECHO: YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM BENTLEY OF ARCH ECHO !!

“We Felt It Would Be Fun To Go Against The Typical Trends And Have Something More Comical. We Have Fun And Don’t Take Things Too Seriously, And The Artwork Reflects That.”

DISC REVIEW “YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!”

2010年代の幕開けを前に ANIMALS AS LEADERS が放ったセルフタイトルの煌きは、”Instru-metal” シーンに劇的な転調をもたらしました。
ネクストレベルのテクニック、グルーヴ、創造性、そして多弦の魔法は、Djent ムーブメントの追い風も受けて同世代を激しく刺激し、さらに綺羅星のごとき後続を生み出すこととなったのです。
鬼才のマイルストーンを道しるべに、自らのインスト道を極める俊英たち。彼らはあたかも大樹から自在に伸長する枝葉のように、モダンプログレッシブの世界を細分化し多様に彩りました。
日本が誇る ichika や THE SURREALIST のアンビエントな冒険は出色ですし、同じく日本人 Yas Nomura が所属する THRAILKILL や THE RESONANCE PROJECT の知性と際立った完成度、さらに王道をひた走る主役 POLYPHIA, CHON のチルアウトしたマスライド、Felix Martin の踊る蜘蛛指、Sarah Longfield の眩いエレクトリックパレード、そしてもちろん素晴らしきマスコット、ヒキニート先輩とまさに多士済済、群雄割拠のインストシーン。
ただし、楽器のディズニーランドへと舞い降りた万華鏡の新世代は、トレンドを恐れず喰らい、ジャンルに巣食うマニアの呪縛をも意に介さない点で共闘し、よりマスリスナーへとワイドなアピールを続けているのです。
中でも、あの Steve Vai をして最も先進的なギタープレイヤーの一人と言わしめた Plini の出現を境として、”Fu-djent” の華麗な波が存在感を増しています。Djent のグルーヴを受け継ぎながら、より明確なメロディーとハーモニーを軸に据え、フュージョンの複雑性とキラキラ感をコーティングしたカラフルなイヤーキャンディーとでも言語化すべきでしょうか。隠し味は、音の隅から隅へと込められた類まれなるメジャー感なのかも知れませんね。
INTERVALS, OWANE, Jakub Zytecki, Sithu Aye, Stephen Taranto といったアーティストが “Fu-djent” の魅力を追求する中でも、あのバークリー音楽院から登場した ARCH ECHO の風格とオーラはデビュー作から群を抜いていたようにも思えます。
違いを生んだのは、彼らがより “バンド” だった点でしょうか。名だたるプレイヤーを起用しながら確固とした主役が存在する他のアーティストと比較して、ARCH ECHO はダブルギター、キーボード、ベース、ドラムス全員が主役でした。故に、プログからの DIRTY LOOPS への返答とも称されたコレクティブでファンキー、ウルトラキャッチーな “Hip Dipper” が誕生し得たのでしょう。
最新作 “You Won’t Believe What Happens Next!” は、さらにバンドとしてのシンクロ率を高め熟成を深めた作品です。
「僕たちはバンドを楽しんでやっているし、シリアスに物事を捉え過ぎてはいないんだよ。アートワークはそのアティテュードを反映しているんだ。」
プロデューサーとしてもシーンに一石を投じる Adam Bentley は、”次に何が起こるかきっと君は信じられないだろう!” というタイトル、プログらしさの真逆を行くコミカルなアートワーク、そしてもちろんその音楽も、全てが “楽しさ” に由来する創造性や意外性であると語ってくれました。そして確かに、彼らの新たな旅は意外性に満ちています。
「このアルバムではよりフュージョンを目指した方向性をとったんだ。それに、よりテクニカルにもなっているね。」
一見 “Hip Dipper” 同様メジャー感を前面に押し出した “Immediate Results!” でさえ、その実予測不能のポリリズム、緩急のダイナミズム、スピードの暴力、デュエルの激しさなど総合的な複雑性、テクニカルメーターは前作を大きく凌いでいます。
加えて、”Stella” が象徴するように Djeny な重量感は一層深くバンドの音の葉へと馴染み、一方で “Bocksuvfun” や “Iris” に浸透した RETURN TO FOREVER 譲りのトラディショナルなフュージョンサウンドもそのリアルを増しているのです。
すなわち、バンド全員のインストゥルメタルスーパーパワーを集結し、リラックスしたフュージョンマインドとテンション極まるチャグアタックを渾然一体に導く蜃気楼のパラドックスこそ ARCH ECHO の天性。
今回弊誌では、Adam Bentley にインタビューを行うことが出来ました。「ジャクソンのギターを使っているのは、僕のメタルとプログメタルに対する愛が故なんだよ。」名曲 “Color Wheel” を追加収録した日本盤は、7/17に P-VINE からリリース。どうやら待望の初来日も期待できそうですね。どうぞ!!

ARCH ECHO “YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PAUL MASVIDAL (CYNIC) : MYTHICAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL OF CYNIC !!

“Chuck Gave His Life To Music And Was Always Interested In Learning New Things And Expanding His Art. I Think That Is Where We Connected As Artists. He Found In Me a Creative Young Spirit Looking To Try New Things.”

DISC REVIEW “MYTHICAL”

テクニカル/プログレッシブデスメタルの祖 DEATH がジャンルのリミットを解除したトリガーにして、CYNIC がメタルに宇宙とアトモスフィアをもたらした根源。Paul Masvidal は現代メタル史の筆頭に記載されるべき偉人です。
「Chuck はその人生を音楽に捧げ、いつも新たなことを学ぶ意欲を持ち、自身のアートを広げていったんだ。そういう点が、アーティストとしての僕たちを結びつけたんだと思う。きっと彼は僕の中にも、新たなことに挑戦する若きクリエイティブなスピリットを見つけていたんだろうな。」今は亡きデスメタルのゴッドファーザー Chuck Schuldiner の眼差しには、自身と同様に既成概念という亡霊に囚われない眩いばかりの才能が映っていたはずです。
実際、DEATH の “Human” でメタルとプログレッシブ、ジャズの垣根をやすやすと取り払った後、Paul は CYNIC をはじめ GORDIAN KNOT, ÆON SPOKE といった “器” を使い分けながら野心的な音旅を続けて来たのです。
咆哮と SF のスペーシーな融合 “Focus”、幽玄でアンビエントなアートメタルの極地 “Traced in Air” “Carbon-Based Anatomy”、そして THE BEATLES の精神を受け継ぐアビーロードメタル “Kindly Bent to Free Us”。そうしてもちろん、Paul がメスを握り執刀する音楽の臨床実験は、ソロ作品においても同様に先鋭と神秘の宇宙でした。
「分かっていたことが2つあってね。1つはアコースティックのレコードを作りたかったこと。もう1つは、ヒーリング体験を伴う新たなサウンドテクノロジーに深く興味を惹かれていたこと。」
サウンドスケープを探求するスペシャリストが “MYTHICAL” で到達したのは、音楽と治療の未知なる融合でした。
もちろん、これまでもロックとエレクトロニカを掛け合わせる実験は幾度も行われて来ましたし、ヒーリングを目的とした環境音楽も当然存在しています。
しかし Paul Masvidal が遂に発想した、シンガーソングライター的アコースティックな空間に、集中やくつろぎ、そして癒しを得るためのアイソクロニック音やバイノーラルビートを注入する試みは前代未聞でしょう。
「Lennon/McCartney を愛しているからね。彼ら二人はソングライティングにおいて、最大のインスピレーションなんだ!」
Paul が語るように、シンガーソングライターというルーツ、”家” に回帰した MASVIDAL の音楽は、THE BEATLES への愛情に満ち溢れています。仄かに RADIOHEAD も存在するでしょうか。
コード進行、旋律や歌い回しは “Fab Four” の魔法を深々と継承し、”Kindly Bent to Free Us” からメタリックな外観を取り払ったオーガニックな木造建築は居心地の良い自由で快適な空間を謳歌します。特に CYNIC のメランコリーまで濃密に反映した “Parasite” の美しさは筆舌に尽くしがたいですね。
そして、このアーティスティックな建造物にはスピリチュアルな癒しの効果も付与されています。表となり、裏となり、アルバムを通して耳に届くアイソクロニック音やバイノーラルビートは、不思議と Paul の演奏に調和し、音の治療という奇跡を実現するのです。”メタルが癌に効く” より先に、心と体に “効く” 音楽を作り上げてしまった鬼才の凄み。
「そういった “治療用トーン” や “脳を楽しませるトーン” を音楽に組み込むことができれば、音楽の効果と治癒力を高めることができると思った訳だよ。」音の葉と感情の相互作用を追求し続けるマエストロはそうして最後に大きなサプライズを用意していました。
“Isochronic Tone-Bath”。音浴、つまり音のお風呂体験。EPに用意された5曲から、Paul の演奏を剥ぎ取りヒーリングのトーンのみをレコードの最後に据えたマエストロの真の目的は、”聴く” と “感じる” の同時体験を瞑想と共にリスナーへ提供すること。そうして 「信念を曲げず、信念の元に」 進み続ける冒音者は、再度真に常識に逆らう道を進み、革命的な作品を完成へと導いたのです。
今回弊誌では、Paul Masvidal にインタビューを行うことが出来ました。「Chuck とは素晴らしい思い出が沢山あるよ。その思い出の大半は、僕を笑顔にしてくれるんだよ。僕は彼が充実した作品とインスピレーションを、これからミュージシャンとなる世代に残してくれたことが嬉しいんだ。」 きっと真の音楽は時の荒波にも色褪せません。どうぞ!!

MASVIDAL “MYTHICAL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BELZEBUBS : PANTHEON OF THE NIGHTSIDE GODS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Sløth & Hubbath OF BELZEBUBS !!

ALL PICTURES BY JP AHONEN

“I’m a Comic Nerd Myself, So I’d Have To Namedrop Katsushiro Otomo, Masamune Shirow, Osamu Tezuka And Kenichi Sonoda As Personal Favorites, For Example.”

DISC REVIEW “PANTHEON OF THE NIGHTSIDE GOD”

“漫画” の世界に居を構える “カートゥーンブラックメタル” BELZEBUBS は、DETHKLOK に対するブラックメタルからの返答です。
フィンランドのコミックアーティスト、JP Ahonen の創造する漫画の世界から産声を上げた仮想のカルトバンドは、いつしか現実を超える真なるブラックメタルへと到達していました。
Ahonen が描いたのは、”シリアスな” ブラックメタルバンドの “ステレオタイプな” 日常。結婚の重圧、子供怪獣、そして BELZEBUBS と家庭のバランス、さらに MV 撮影のための不気味な場所の確保にまで苦悩し奔走するコープスペイントのバンドマン Sløth の毎日は、実に多くの共感を生みました。
謎に包まれたカルトメタルスターも、実際は自分たちと同様に些細なことや生活の一部で悩み、何とか乗り越えている。巻き起こったシンパシーの渦は、そうして現実世界にまで彼らの音を轟かせる原動力となったのです。
「もちろん、俺らのルーツはブラックメタルにあるよ。けど、クラッシックからデスメタル、プログロックに映画音楽まで全てを消化しているのさ。」
Hubbath が語るように、レイヤーにレイヤーを重ね、彼らの言葉を借りれば “満載の” 61分 “Pantheon Of The Nightside Gods” は、奇跡のデビューフルだと言えるでしょう。同時に、北欧エクストリームの重鎮 Dan Swano の仕事においても、最高傑作の一つとして語り継がれるはずです。
実際、DETHKLOK がそうであったように、コミックから生まれた BELZEBUBS の “Pantheon Of The Nightside Gods” も、ただシリアスにジャンルに対する愛に満ちています。メロディックかつシンフォニック、絢爛豪華なブラックメタル劇場は、プログレッシブな筋書きと演技で完膚なきまでに濃密な神話の荘厳、古から伝わる闇の力を伝えるのです。
EMPEROR の “In The Nightside Eclipse”, BRUZUM の “Hyvis Lyset Tar Oss”, CRADLE OF FILTH の “Principle Of Evil Made Flesh”、そして EDGE OF SANITY の “Purgatory Afterglow”。1994年の魔法を全て封じ込め、さらに DISSECTION や OPETH, CHILDREN OF BODOM の理念までも吸収したアルバムは、よりコマーシャルに、よりコンテンポラリーにマスリスナーへと訴求するある種北欧エクストリーム、北欧ドラマチシズムの集大成と言えるのかもしれませんね。
コンパクトとエピック、両極が封じられていることもバンドのワイドな背景を描写しています。獰猛で、トラディショナルなブラックメタルの刃を宿す “Blackened Call” が前者の代表だとすれば、オーケストラと実験性の海に溺れる耽美地獄のサウンドトラック “Pantheon Of The Nightside Gods” はまさしく後者の筆頭だと言えるでしょう。そうして広がるクワイアとオーケストレーション、そしてシンセサイザーの審美空間。
もちろん、コミックブラックメタルという BELZEBUBS の出自とコンセプト、そしてあざとさも垣間見えるコマーシャリズムは、20年、25年前のサークルでは憎悪の対象となったのかも知れません。
ただし、映画 “Lords of Chaos” の制作が象徴するように、近年ブラックメタルのシーン全体が狂気と暴力のサタニズムから、多様なエンターテイメントの領域へと移行しつつあるようにも思えます。そうした背景を踏まえれば、むしろ BELZEBUBS の登場と音楽的総括は必然だったのかも知れませんね。
もちろん、コープスペイントを纏う Obesyx, Sløth, Hubbath, Samaël  のキャラクターが実際に演奏をしているのか、それとも中の人が演奏をしているのかは悪魔のみぞ知るですが、特にリードギタリスト Obesyx のプラッシーで流暢なソロワークには目を見張るものがありますね。誰なんでしょうか。
今回弊誌では、漫画の中から飛び出したボーカル/ギターの Sløth、ベース/ボーカルの Hubbath にインタビューを行うことが出来ました。「俺自身はマンガオタクだからな。だから、大友克洋、士郎正宗、手塚治虫、園田健一をフェイバリットとして挙げない訳にはいかないだろう。」シーン随一のシンガー ICS Vortex もゲスト参加を果たしています。どうぞ!!

BELZEBUBS “PANTHEON OF THE NIGHTSIDE GODS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SPIRIT ADRIFT : DIVIDED BY DARKNESS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NATE GARRETT OF SPIRIT ADRIFT !!

“There Is Nothing New Under The Sun. Pretty Much Everything In Rock Music Has Already Been Done. BUT I’m Providing My Own Interpretation Of The Things That I Love, So In That Way It Is New!”

DISC REVIEW “DIVIDED BY DARKNESS”

「SPIRIT ADRIFT は僕が音楽を書いている。GATECREEPER の音楽を書いているのは Chase と Eric だよ。つまり、僕が SPIRIT ADRIFT を運営し、Chase が GATECREEPER を運営しているんだ。」
2015年から、Nate Garrett は GATECREEPER と SPIRIT ADRIFT、二隻の船に乗船しています。そして、GATECREEPER がデスメタルの新たな地平を目的地とするのに対して、SPIRIT ADRIFT は Nate のカタルシス、すなわち、培った音楽的背景、溢れる感情、現代社会への想い、自らの成長、全てに舵を切っているのです。
「政府やメディアは僕ら全員にくだらないことで互いに争わせようとしているんだ。真の問題や崩壊したシステムから目を逸らさせるためにね。だから僕たちはヘイトや恐れ、分断を与えられている訳さ。”Divided By Darkness” はそういった策謀を、愛、知識、結愛、しかし必要ならば暴力的な革命で克服するストーリーなのさ。」
闇に分断される世界の分水嶺 “Divided By Darkness” に光明というコントラストを与えたのは、Nate 自らの内なる進化でした。現代社会の悪習、悪癖から距離を置き達成された4年間のソブライエティー、しらふ状態は Nate の自信と創造力を活性化し、皮肉にも近年世界を覆う不信感がテーマのレコードに光を注ぐ結果となったのです。
「ドゥームはいつも僕の血管に存在するよ。」総帥 BLACK SABBATH を筆頭に、SAINT VITUS, TROUBLE, PENTAGRAM, そして同郷ニューオリンズの誇り CROWBER まで、禍々しくも鈍重なドゥームの遺伝子は SPIRIT ADRIFT の根幹にして “Divided By Darkness” の文字通りダークサイドを司ります。
一方で、アリーナメタルの高揚感、メロディックメタルの旋律美、そしてプログロックの知性はアルバムの “愛、知識、結愛” を象徴しているのです。
「もはや新たに白日の下に晒されることはないよ。ロック音楽の本当に大部分はもう成されてしまっているからね。だけど僕は、自身の解釈を愛する音楽に加えているからね。だからある意味では新しいと言えるんだ!」
そう、Nate が SPIRIT ADRIFT において追求し、そのミステリアスな音の葉を斬新たらしめるものはクロスオーバーの個性と美学です。沈鬱で陰気な “Abyss” “深淵” に端を発し、Ozzy Osbourn のアリーナメタルや Tony Martin 時代の様式美サバスをイメージさせる “Angel” を呼び込む “Angel & Abyss” のコントラストには、Nate が解釈するロックの光と影が如実に投影されています。
それはロックやメタルに残された仄かな可能性なのかもしれません。賛美歌にも似た “Living Light” の荘厳は人生を照らす煌めき。さらにアルバムを締めくくるエピック “The Way of Return” では、BLACK SABBATH と PINK FLOYD, CROWBER と TANGERINE DREAM, そして MEGADETH と Roky Erickson といった、禁断でしかし魅惑の異種族間の交配が Nate の “パーソナリティーやスタイル” を基盤として行われ、”死んだ” と謳われるロックの先行きを灯台のような暖かい光で照らしているようにも思えるのです。
今回弊誌では、Nate Garrett にインタビューを行うことが出来ました。「僕は、過去に利用されてきた音楽の要素を取り入れ、それらを今までにない個性的な方法で組み合わせることによって、ユニークな何かが出来上がると感じているんだ。」その航路はきっと HAUNT や KHEMMIS とも交わるはずです。どうぞ!!

SPIRIT ADRIFT “DIVIDED BY DARKNESS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TENGGER CAVALRY : NORTHERN MEMORY, VOL.1】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NATURE G. OF TENGGER CAVALRY !!

“The Whole World Know About The Mongol Invasion To Asia. But They Don’t Know That Long Before Mongolia, Countless Nomads Has Been Doing That, Meaning Invading And Immigrating To Northern China for Centuries. We Would Like To Bring Some Light To This Forgotten History To People.”

DISC REVIEW “NORTHERN MEMORY, VOL.1”

2017年の12月。遊牧民のメタルを世界に誇示する TENGGER CAVALRY の “ハン” Nature G. は、ニューヨークにそびえ立つ摩天楼の屋上に佇んでいました。
「実は元所属していたレーベルから法的な脅しのメールを受け取っていたんだ。まるで独裁者のような態度で、僕たちの10枚のアルバムの権利全てを彼らのものにしようとしてね。クソッタレさ。」
酒に酔い、惨めな気持ちでスマートフォンを眺めていた Nature G. は、自然に溢れ慣れ親しんだ内モンゴルから、現代的で雑然としたニューヨークへと居を移した憂鬱、そしてレーベルの過度な要求によるストレスが重なり自殺を試みようとしたのです。
現れた警官たちは、真摯に彼を心配していました。少しだけ救われたような気持ちで自殺を思い直した Nature G. は、そうして SNS に事の顛末をポストしたのです。
その投稿は大きな反響を呼びました。何より、Nature G. 宛に送られた300通を超えるメッセージは、その全てが同様に自殺を考えたり試みた経験のある友人やファンからだったのですから。
当時のインタビューで Nature G. は大きなショックを受けたことを明かしています。「みんな表面上は口にしないんだよ。完璧な人間であるかのように振舞ってね。だけど実際は、誰もが苦しんでいる。」
変化の必要性を痛感した Nature G. は決断を下します。現所属の老舗レーベル Napalm Records の助力とアドバイスを得て、問題を引きずっていたバンドを一旦解散すると、彼はオースティンへと旅立ちます。オースティンの優しいムードは Nature G. を惹き付け、風薫る草原は故郷モンゴルを思い起こさせました。そうして彼は里帰りの旅を決意するのです。
故郷で出会った力強い馬と人との営みは、Nature G. が TENGGER CAVALRY を結成した原点を見つめ直し、創造性の復活に大きな役割を果たしました。
「結局、馬を中心とした文化にインスパイアされているんだ。それがルーツなんだよ。動物と自然を愛する人達のための音楽さ。それが僕が音楽を書いている理由なんだからね。」
故に復活を遂げた TENGGER CAVALRY にとって、モンゴルへの報恩は当然、最優先事項となりました。実際、Nature G. はヴァイキングメタルの英雄たちが、祖国の遺産を誇りを持ってメタルと融合させていることにインスピレーションを受け、そのメンタリティーに賛辞を惜しみません。
「全世界が、モンゴル帝国のアジアへの侵攻を知っているよね。だけど、それ以前のモンゴルについてはよく知られていない訳だよ。無数の遊牧民族が何世紀にも渡って跋扈し、侵略し、中国北部に移住していったんだ。だから僕たちは、この忘れられた歴史に光を当て、みんなに知ってもらいたかったんだよ。」 そうして届けられた最新作 “Northern Memory, Vol.1” は、誇り高き遊牧民のレガシーを現代へと伝える高潔な絵巻物。
モンゴル帝国かつての栄華を誇示するように、繰り広げられるエピックはバンドのトレードマークであるモンゴル、中国の伝統音楽のみならず、中央アジアのフォークミュージックまでをも抱きしめています。
“砂漠のサウンド” と Nature G. が語るように、これまでのフォーキーなメロデスサウンドにマシナリーで無慈悲なイメージを加えた新生 TENGGER CAVALRY のサウンドスケープは、まさしく、広大なアジアが湛える荒涼と哀愁の一面まで素晴らしくカバーしているのです。
それは RAMMSTEIN の復活にも呼応する、伝統音楽とメタル、アジアと欧米、優雅と獰猛、自然と科学技術、古と現代、そして人の心、魂を巡る旅。時おり耳を捉える、ホーミーの響きも胸を抉ります。
今回弊誌では、Nature G. にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちはいつも、ヘヴィーメタルと僕たちの文化を融合させたいと思っていたんだ。北京と内モンゴルは深く成熟した文化と遊牧民の歴史をシェアしているからね。」 どうぞ!!

TENGGER CAVALRY “NORTHERN MEMORY, VOL.1” : 9.7/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【POSSESSED : REVELATIONS OF OBLIVION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EMILIO MARQUEZ OF POSSESSED !!

“Seven Churches” Was The Creation Of Death Metal In My Opinion. There Was Never a Band Who Used The Words “DEATH METAL” In Any Song Title Or Claiming That Category When “Seven Churches” Was Released. “Seven Churches” Was Very Raw And Wierd In Structure And Lyrics. Just So Dark For Its Time. Very Unique!”

DISC REVIEW “REVELATIONS OF OBLIVION”

先日、かの Rick Rubin が SLAYER をしてブラックメタルの創案者と呼んだように、ジャンルの朝未きはいつも朧げで、故にそのミステリアスなアルカイックパズルの最適解は常に議論の的となってきました。
1983年に降誕した POSSESSED は “ゴッドファーザー・オブ・デスメタル” の称号を贈られる邪悪の根源。85年にリリースしたデビュー作 “Seven Churches” が、DEATH の “Scream Bloody Gore” をはじめ CANNIBAL CORPSE, DEICIDE, OBITUARY, MORBID ANGEL といったフロリダの魑魅魍魎に少なからず影響を与えたことは想像に難くありません。
実際、今は亡き Chuck Schuldiner は、DEATH の前身バンド MANTAS が当初 VENOM/MOTORHEAD 的な方向性を志向していながら、POSSESSED の登場で全てが変わったことを認めています。
「POSSESSED は当時登場したどんなバンドとも異なっていた。その音楽は純粋なノイズではなく、様々な要素、アイデアを作曲に取り入れていたんだ。彼らの進化は、他のバンドの挑戦や拡大の下敷きとなったんだよ。」
しかし、例え楽曲やデモのタイトルに “デスメタル” の文言を掲げようとも、”Seven Churches” の音楽性は決してデスメタルの完璧な “模範解答” であった訳ではありません。むしろ、スラッシュメタルとデスメタルのダークな架け橋との評価が一般的だと言えるかも知れませんね。ただし、POSSESSED の理念は完璧なまでにデスメタルでした。
「スラッシュはクリーンボーカルで歌われる生々しくファストな音楽だ。決して難しいソングライティングのスタイルではないよ。ブラックメタルも好きだけど、限られた少しのバンドだけだ。なぜならブラックメタルバンドの大半は、サタニックでさえなく、トレンドに追従しているだけだからね。デスメタルはもっともっとチャレンジングな音楽だよ。そしてコンセプチュアルでもある。バラエティー豊かだしね。」
新生 POSSESSED の栄誉あるドラマー職に任命された Emilio Marquez は、ジャンルの交差点に対して鋭い観察眼を発揮します。
確かに、クロスオーバーの禁忌を発動せずとも、デスメタルはスラッシュやブラックメタルと比較してより猟奇でカオスで挑戦的なジャンルであるように思えます。そして、その美学を主導したバンドこそ POSSESSED だったのです。
新生。そう、POSSESSED は不死鳥の如く蘇ったバンドです。後に BLIND ILLUSION, そして PRIMUS を結成する Joe Satriani が一番弟子 Larry LaLonde の絶妙に捻くれ絶妙に知的なギターワークを軸に据え、今では心理学の学位を取得しカウンセラーとなった Mike Sus の奔放で奇々怪界なドラムダンス、Jeff Becerra の狂猛なる咆哮を三位一体の阿鼻叫喚とした10代の POSSESSED は、さながら奇想画のごとくジャンルの脱俗と自我意識を備えた異端でした。
2枚のアルバムと1枚のEPを遺して解散したバンドの復活は2007年。トリビュートアルバムから実現した再起のオリジナルメンバーは Jeff Becerra のみでしたが、それでも車椅子の Jeff が牽引するパフォーマンスはファンの熱狂を呼びました。
そして、それから12年の後に届けられた最新作 “Revelations of Oblivion” には、Emilio の言葉を借りれば “POSSESSED のレガシーをしっかりと受け継いだ” ネクストレベルの無慈悲な倒錯が封じられていたのです。
“Seven Churches” と同様に荘厳な SE で幕を開ける伏魔殿には、確かにあの POSSESSED の背徳が投影されています。GRUESOME や ex-DRAGONLORD でならすシュレッダーをリクルートした効果は絶大で、当時のリフの迷宮はドラマ性とエキサイトメントを充填し迫ります。
もちろんチープだったプロダクションも大きく改善され、Emilio の正確無比なドラムアタックは Sus の異様を懐かしむ暇さえ与えませんし、何より Jeff の鬼気はその迫真を増しています。
特に、スラッシュの疾風とデスメタルの迅雷を共存させた “Demon” の刻々と移りゆくペースチェンジの妙、”Abandoned” や “Shadowcult” の絶妙に捻くれながらもギターハーモニーまで披露するリフドラマは、アップデートされた POSSESSED 2.0 の脅威を見せつけるに充分の攻撃でしょう。
今回弊誌では、Emilio Marquez にインタビューを行うことが出来ました。「僕の考えでは、”Seven Churches” こそがデスメタルを創造したと思うね。実に生々しく、構成や歌詞も風変わりだったよね。あの時代にしてはただ本当にダークだった。とてもユニークだよ!」 偶然にも、近年の KREATOR と非常に近い場所へと着地した可能性もありますね。どうぞ!!

POSSESSED “REVELATIONS OF OBLIVION” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AVANDRA : DESCENDER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTIAN AYALA OF AVANDRA !!

“The Kevin Moore-era Dream Theater Has Had The Biggest Impact On Me, Since It’s When They Really Elevated My Soul To a Whole Different Level Of Emotion And Taught Me What Music Can Do To Really Transform You As a Person. “

DISC REVIEW “DESCENDER”

喪失、戦争、そして天災。時に芸術は悲劇の灰から降誕します。2017年に襲来した髑髏のハリケーン、マリアはプエルトリコに壊滅的な被害をもたらしました。しかしその神の所業は、皮肉にも AVANDRA のボーカリスト/ギタリスト Christian Ayala に至芸 “Descender” の偶成をも促すこととなったのです。
ハリケーンの爪痕、長期停電の困難はしかし Christian に音楽と詩歌へ没頭する常闇と情念をあてがうことにもなりました。そうして、銀灰色の憂鬱とアンビエンスに彩られた “Descender” の凛々しき純潔は、その荘厳を極めることとなったのです。
「DREAM THEATER と CYNIC の理想的な婚姻」 “Descender” を評する際、プログメタルの二傑について触れない訳にはいかないでしょう。
「Kevin Moore 時代の DREAM THEATER は僕に最も大きなインパクトを与えたんだ。僕の魂を完全に異なる感情域まで高め、人として真に変革するため音楽に出来ることを教えてくれたんだよ。だから Kevin とは何とかして音楽人生の中で共演したかったんだ。まさに彼にしか作り得ない満載の感情とアンビエンスを持ち込んでくれたね。」
Christian が語るように、Kevin Moore こそが初期の DREAM THEATER に類稀なる陰影と叙情、そして唯一無二のアトモスフィアとアンビエンスをもたらしていたことは明らかです。Kevin の脱退以降 “Lifting Shadows Off a Dream” のような冷厳でしかしどこか温もりのある暗紫色の景色を垣間見ることは叶いませんし、”Space-Dye Vest” の幽玄については語るまでもないでしょう。
AVANDRA の音楽には Kevin の天性が確かに存在しています。そしてそれ故に半ば隠棲状態の Kevin も “Derelict Minds” へのゲスト参加を決めたのでしょう。
興味深いことに、多くのリスナーが “Cynic-y” だと感じた “Derelict Minds” の印象的なリフワークは、実際は DREAM THEATER のデビュー作 “When Dream and Day Unite” がインスピレーションの源でした。CYNIC のトレードマークとなっている連続した2音、3音を繋げていくシンメトリーな音数学は、実は DREAM THEATER のデビュー作にも多数使用されています。
音質や Charlie Dominici の繊細すぎるボーカルパフォーマンスには評価が分かれるところでしょうが、”When Dream and Day Unite” に漂う蒼の叙情は比類なきロマンでもありました。そしてもちろん、CYNIC の SF を由来とするエアリーなアトモスフィア、アンビエンス。
二大巨頭の共通点と天稟をレガシーして受け継いだ AVANDRA の方程式は、プログメタルの軌跡においてむしろ遅すぎたと言えるほどに必然だったのかも知れませんね。
「DREAM THEATER, OPETH, PORCUPINE TREE を僕の “ホーリートリニティー” (聖三者) と呼ぶことにしたんだよ。」
加えて、AVANDRA の運命的な旅路は、モダンプログレッシブの領域に不可欠なコントラスト、ダイナミズムをしっかりと伴っています。DREAM THEATER の “Breaking All Illusions” を思わせるイントロが耳を惹く2部構成のエピック “Beyond the Threshold” を聴けば、温和で情感豊かな鍵盤の響きに Kevin Moore を夢想し、その起伏を帯びたシネマティックな世界線に圧倒されるでしょう。
“The Narrowing of Meaning” に漂うメランコリーとアグレッションの鍔迫り合い、ポストロックの洗礼を浴びた “Even You”、さらに “Adder’s Bite” に流れるダーククリーンとプログヘヴィーの対峙はまさに OPETH の錬金術で、現代を闊歩する女神の矜持を見せつけていますね。CULT OF LUNA の Magnus がマスタリングを担当した事実にも頷けます。
きっと、10年、20年の後、DALI’S DILEMMA の “Manifesto for Futurism” のような評価を得るアルバムなのかも知れませんね。
今回弊誌では、Christian Ayala にインタビューを行うことが出来ました。「もし僕が死んでしまっても何かを残しておきたいという気持ちからだったね。作品を作っておけば、世界に僕の “創造性” を残しておくことが出来る。バカげているかもしれないけどね。(笑) だけどそれがレコーディングやヴァーチャルスタジオテクノロジーを学ぶモチベーションになったんだ。」 どうぞ!!

AVANDRA “DESCENDER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JORDAN RUDESS : WIRED FOR MADNESS】【DREAM THEATER : DISTANCE OVER TIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JORDAN RUDESS OF DREAM THEATER !!

“I Believe The Keyboard World Can Move To Higher Level Much Like The World Of The Electric Guitar In The Last 50 Years. The Keyboard And The Keyboardist Have Incredible Potential For Music Making. “

DISC REVIEW “WIRED FOR MADNESS”

「僕は “Jordan Rudess” が経験してきたこと全てをこの作品に注ぎたかったんだ。完全に自由になって、ロックのフォーマットで僕の音楽精神全てを表現することが重要だったんだよ。」
現代キーボードヒーローの代名詞。そして巨人 DREAM THEATER にとって心臓にして中枢となった鍵盤の魔術師は、それでもなお音の自己証明をソロアルバムに求めます。
アーティストにとってソロ作品の利点は、所属する集団から隔離された天性のスペース、実験のラボラトリー、”完全なる自由”。
「”The Astonishing” は素晴らしい音楽的なチャレンジで、僕は本当に楽しめたんだ。一方で、新しい DREAM THEATER のアルバムは、ファンの愛する要素を全て取り入れた作品だと感じているよ。まさにプログとメタルのクールなミックスさ!!」
Jordan は “Distance Over Time” の即効性、穿った言い方をすれば素晴らしき “ファンへの贈物” を完全にポジティブに捉えています。しかし一方で “人生を変えたアルバム” を見れば伝わるように、彼のエクレクティックな影響の海原において原点、精髄があくまでもプログレッシブロック、”The Astonishing” に集約された挑戦の美学にあることは明らかでしょう。
コンテンポリーなクラシカルミュージック、ソロピアノ作品、奇想天外なカバーアルバムとその多様なバックボーンをソロアルバムとして昇華してきたマエストロ。そうして到達した個性の極み “Wired For Madness” は、”自分を完全に表現” した “本当にプログレッシブな作品” となったのです。
35分の組曲で、2つの楽章がさらに10のパートに分かれる一大エピック “Wired For Madness” は、Jordan にとっての “Tarkus” であり “Karn Evil 9” ではないでしょうか。それは、人生をより良くするため自己の一部をコンピューター化する男の物語。
もちろん、彼の Keith Emerson に対する心酔はよく知られるところですが、音楽のみならず楽曲の題材、テーマまでSF狂 EMERSON LAKE & PALMER へのリスペクトに溢れたエピック “Wired For Madness” のプログレッシブスピリットは圧倒的です。
加速するテクノロジーへの依存、現実世界との分断。コンピューターボイスとデジタルワールドをプロローグに、オッドタイムと鍵盤のパラダイムで近未来の特異点を描く Jordan は現代の吟遊詩人なのかも知れませんね。
興味深いことに、Jordan 自らが歌い紡ぐテクノロジーの詩は時に親交のあった David Bowie をも想起させます。ジギー・スターダストの方法論で警鐘を鳴らす鬼才の声と慧眼は、ロックの庭内でジャズやオーケストラ、エスノ、エレクトロをクロスオーバーさせながら “楽曲によりスペーシーでメロウな感覚を持たせる” ことに成功しています。
故に、例えば THE BEATLES と LIQUID TENSION EXPERIMENT, GENTLE GIANT と APHEX TWIN が入り乱れるこのレトロフューチャーな実験を奏功へと導いたのも、演者を自由に選択可能なソロ作品のアドバンテージであったと言えるのかも知れません。そして事実、彼のSFオペラには、自らのマルチプレイを含め適材適所なキャスティングがなされています。
DREAM THEATER の同僚 John Petrucci, James LaBrie、さらに Marco Minnemann, Guthrie Govan, Vinnie Moore, Joe Bonamassa, Rod Morgenstein, Elijah Wood, Jonas Reingold, Alek Darson, Marjana Semkina。ベテランから新鋭まで、ロックワールドの要人をこれほど巧みに配した作品は決して多くはないでしょう。
組曲を離れても、DIRTY LOOPS にインスパイアされた “Perpetual Shine”、意外性のヘヴィーブルーズ “Just Can’t Win”、さらに絶佳の叙情を湛えた珠玉のバラード “Just For Today” と聴きどころは満載。そうして壮大なプログ劇場は、5/8 と 6/8 を往来するコズミックなプログチューン “When I Dream” でその幕を閉じるのです。
今回弊誌では、Jordan Rudess にインタビューを行うことが出来ました。「僕はキーボードの世界は、エレキギターがこの50年で作り上げた世界に匹敵する高いレベルへ移行することが可能だと信じているんだよ。キーボード、そしてキーボーディストは、音楽制作において驚異的なポテンシャルを秘めているんだ。」 どうぞ!!

JORDAN RUDESS “WIRED FOR MADNESS” : 9.9/10

DISC REVIEW “DISTANCE OVER TIME”

DREAM THEATER がいなければ今日のプログメタルは存在しなかったでしょう。
メタルの転換期にして、モダンメタルにとって架け替えのない重要なピリオドとなった80年代後半から90年代前半の “ポストファーストメタルタイム”。ある者は複雑なリズムアプローチを、ある者はプログレッシブロックを、ある者はデスメタルを、ある者はエクストリームな残虐性を、ある者はフォルクローレを “ベーシック” なメタルに加えることで、彼らはモダンメタルの礎となる多様性を築き上げていきました。
様々なバンドがより幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “意外性” を加えていった変革の時代に、DREAM THEATER は別世界のテクニック、精密繊細なコンポジション、洗練されたデザイン、静謐と激重のダイナミズムでプログメタルの雛形を作り上げたのです。
特筆すべきは、QUEENSRYCHE を除いて、商業的なアピールに乏しかったそれまでのプログメタルワールドに、コマーシャルな新風を吹き込んだ点でしょう。複雑で思慮深くありながら、幅広いオーディエンスにアピールするフック、メロディー、テンションの黄金比は確実にプログメタルのあり方を変えました。
30年を経て、現在も DREAM THEATER はプログメタルの顔であり続けています。ただし、30年前のように崇高なる革命家であるかどうかについては議論が分かれるのかも知れませんね。
もちろん、DREAM THEATER に駄作は存在しません。Mike Portnoy の離脱、Mike Mangini の加入は、テクニック的には寧ろ向上にも思えますし、マスターマインド John Petrucci が聴く価値のない楽曲を制作するはずもないでしょう。ただし一方で、Mangini の加入以降、バンドの行先が “ロボティック” でアートよりもサイエンスに向いているという指摘が存在したのも確かです。
だからこそ、誤解を恐れずに言えば、前作 “The Astonishing” は傑作になり損ねたレコードでした。メロディーやエモーション、インストゥルメンタルなアプローチに関しては、群を抜いていたとさえ言えるでしょう。壮大なロックオペラというコンセプトも実にチャレンジングでしたが、故に引き算の美学を行使できず、結果として冗長な2時間超のアルバムに着地してしまったようにも思えます。
言いかえれば、プロデューサー John Petrucci 一頭体制の限界だったのかも知れませんね。少なくとも、Mike Portnoy は取捨選択のエキスパートでした。
対照的に、バンド全員でライティング&レコーディングを行った一体化と有機性の最新作 “Distance Over Time” は、Jordan の言葉を借りれば、「ファンの愛する要素を全て取り入れた作品だと感じているよ。まさにプログとメタルのクールなミックス」のレコード。
“Images & Words” のようにコンパクトでキャッチー、そして “Train of Thought” のようにダークでヘヴィーなアルバムは、RUSH と METALLICA の婚姻という原点をコンテンポラリーに再構築した快作です。
エセリアルな天使が鍵盤と弦上を華麗に踊る “Untethered Angel”、TOOL ライクなグルーヴの海に LaBrie の技巧が映える “Paralyzed”、”Black Album” meets カントリーな “Fall into the Light”、”Barstool Warrior” に開花する Petrucci の溢れるエモーション、”S2N” で炸裂する John Myung のアタッキーな妙技、そして “At Wit’s End” の LIQUID TENSION EXPERIMENT を彷彿とさせるトリッキーなシーケンシャルロマン。聴きどころに不足することは間違いなくないでしょう。
そうして、アルバムは DREAM THEATER らしいリリックの巧妙でその幕を閉じます。”Pale Blue Dot”。カール・セーガンへのオマージュで彼らは、殺戮や憎悪まで生命の営み全てが詰め込まれた碧き “点” への再考とリスペクトを促すのです。
“Distance Over Time” には、プログメタル革命の新たな旗が描かれているわけではないかも知れません。ただし、バンドの秘めたる野心の牙はきっとその鋭さを増しています。革命家の DREAM THEATER を求めるのか、政治家の DREAM THEATER を求めるのか。リスナーの需要や願望によってその評価が分かれる作品なのかも知れませんが、クオリティーは最高峰です。

DREAM THEATER “DISTANCE OVER TIME” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VLTIMAS : SOMETHING WICKED MARCHES IN】CRYPTOPSY JAPAN TOUR SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLO MOUNIER OF VLTIMAS / CRYPTOPSY !!

2018 © Tina Korhonen/ www.tina-k.com

“Things Are a Bit Different Then When I Began. But It All Comes Down To The Same Thing, How To Go Fast And Make It As Easy And Natural As Possible.”

DISC REVIEW “SOMETHING WICKED MARCHES IN”

VLTIMAS の履歴書は、雄弁に “究極” をバンド名に冠したメタルコレクティブの偉大さを物語ります。
15年にも渡り、MAYHEM のポスト “De Mysteriis Dom Sathanas” 時代に使役し、AURA NOIR でもその名を轟かす Rune “Blasphemer” Eriksen。デスメタルのゴッドファーザー MORBID ANGEL のまさに顔で、現在は I AM MORBID を束ねる David Vincent。そして革命的なテクデスレジェンド CRYPTOPSY 唯一のオリジナルメンバー、ドラムマスター Flo Mounier。
そうして個性極まる三邪神の悪魔合体が実現したデビューフル “Something Wicked Marches In” は、エクストリームミュージックのさらなる可能性を提示する未知なる魔道書となりました。
大西洋を挟むノルウェーとアメリカ大陸の地理的困難は、むしろバンドの魅力を際立たせるアクセントです。オープナー “Something Wicked Marches In” に訪れる厄災、威風堂々のデスメタルは混沌と共に教会を包む紅蓮のリフワークへ変容し、瞬時にリスナーをスカンジナビアの凍てつく不吉へと誘います。
燃え盛る業火には、Flo の無慈悲なドラムアタック、David の “病的な” 咆哮が焚べられ、いつしか名状しがたき魑魅魍魎を生み出してしまうのです。
「俺の考えでは、VLTIMAS はよりロックに根差していると思うんだ。グルーヴィーでもっとフィーリングを重視したアイデアでね。」
特筆すべきは、VLTIMAS の設計図にロックの躍動感、グルーヴ、空間の魔法が織り込まれている点です。時にその鎌首をもたげる PANTERA を思わせるデスロールは、カオスと冷徹の荒野に絶妙のオアシスを配置します。そして刹那の静謐、アトモスフィアの蜃気楼は David の禍々しき囁き。
「Rune のヴァイブには慣れ親しんでいるんだ。だから彼の望むものは分かっているんだよ。つまり、とてもキャッチーで、いくらかはテクニカルなプレイだよ。David は楽曲により構成を求めるんだ。」
残忍でしかしキャッチー、起伏とダイナミズム溢れる “Blackend” のデスメタルは、三神の個性を攪拌しながら “Praevalidus”, “Total Destroy!” とその独自の牙を研ぎ澄ましていきます。
そうして辿り着く “Monolilith” の “究極” に禍々しく、”究極” に艶美なブルータルドラマは確かにアルバムのハイライトです。”彼女は唯一の、私が使える唯一無二の、悪魔の女王” と David が宗教的に歌い紡ぐ儀式のクリーンボーカルは、”病的な天使” の “Covenant/Domination” 時代をも想起させ、凛然荘厳の楽曲において “究極” の野心と対比の美学でリスナーを魅了するのです。
BPM の限界に挑む “Diabolus Est Sanguis” にも言えますが、不思議と耳を惹く呪術のメロディー、アトモスフィア、テンポチェンジやリズムの実験など、レコードに織り込まれた意外性とフックの数々こそが、古強者が古強者である確かな証ではないでしょうか。
自身のバンド CRYPTOPSY で来日が決定し、絶佳の EP “The Book of Suffering: TomeⅡ” をリリース。さらにもう一つのスーパーグループ TRIBE OF PAZUZU にも参加。今こそキャリアのピークを迎えるドラムマスター Flo Mounier に弊誌は二度目のインタビューを行うことが出来ました。
「まずはグルーヴとフィーリングさ!! それから、自分を変えるような練習をするんだ。つまり、自分にとって快適でないような課題だよ (笑) そういった苦手な分野にも慣れて、快適になるようにね。」 どうぞ!!

VLTIMAS “SOMETHING WICKED MARCHES IN” : 10/10

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