タグ別アーカイブ: prog-metal

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【A.C.T : FALLING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HERMAN SAMING OF A.C.T !!

“Hopefully More Will Understand Our Music In The Future. They Will Get It In Time.”

DISC REVIEW “FALLING”

「最近の人たちは音楽の聴き方が変わってきているからね。いつか、長いエピック・アルバムが戻ってくるかもしれないけど、今はファンがバンドにもっと頻繁に音楽をリリースすることを望んでいるんだよ。将来的にはフルレングスのアルバムをリリースするかもしれないけど、今のところ、今やっているEPのコンセプトに満足しているよ」
SNS で30秒の演奏動画がもてはやされ、音楽視聴もストリーミング全盛の時代。時短、合理性、簡潔が価値とされるインスタントな文化において、プログレッシブ・ミュージックは逆風の中にいます。だからこそ、複雑かつ長編のプログ絵巻で世界に抗するアーティストもいますが、スウェーデン、マルメからプログ・ポップを牽引した A.C.T は時代と調和する道を選びました。
「僕たちは、リスナーに “一巡する聴き方” をしてもらいたいと思っているんだよ。1stEP “Rebirth”(春)から聴き始め、”Heatwave”(夏)、 “Falling”(秋)、そして最後のEP(冬)を聴き終えたら、また最初から聴き始める。リスナーには、1年の季節を何度も感じてもらいたいんだ」
近年のパンデミックや戦争、気候変動を見ていると、人はもしかすると歴史から学ぶことなく、何度も何度も滅亡と再生を繰り返しているのではないか?そんな疑念も生じますが、A.C.T が時代と調和する際に選んだのがまさに人類の栄枯盛衰のディストピア。彼らは滅亡の原因を “ヒートウェーブ” と定めました。ただし、熱波は我々のエゴから生まれるのではなく、小惑星の衝突で起こってしまいます。そう、この4部作は6600万年前の再現であり、恐竜と人類の違いが試されているのです。
「僕たちだってより多くの人に A.C.T.を聴いてもらいたいという気持ちはあるんだけど、同時に自分たちのファンベースをとても誇りに思っているんだ。僕たちは世界で最高のファンを持っている!将来、もっと多くの人が僕たちの音楽を理解してくれることを願っているよ。うん、そのうち理解されるだろう」
恐竜と同じように、ごく近い将来、人類は絶滅に直面し、小惑星が最大速度で地球に向かって突進する。この筋書きは、逆境に直面した際、いかに対応し、いかに再生し、いかに人間らしさを保てるかというこれまで人類が養ってきた寛容さや回復力の踏み絵ともなっています。ただし、そうした陰鬱なストーリーにもかかわらず、バンドの活気あるサウンドとアップビートなテンポ、そして澄み渡った旋律の魔法が、EP群をうまく連動して人の光をつないでいます。複雑なプログレッシブ・ロックとエルトン・ジョンやビリー・ジョエルのメジャー感を混ぜ合わせた感染力の強いプログ・ポップはそうしてこの連続リリースにおいて、感情を高めるエフェクトやサウンドクリップを用いることで映画のような一大スペクタクルに昇華されました。A.C.T は決して確立した地位に甘んじるような “役者” ではないのですから。そうして地球は暗闇に飲み込まれます。フォール・アウト。審判の日はすぐそこです。
今回弊誌では、類稀なるフロントマン Herman Saming にインタビューを行うことができました。「新しいバンドが良いメロディーを優先しているのを見るのは素晴らしいことだよ。実はこの秋、MOON SAFARI と一緒にライブをする予定なんだ。彼らは素晴らしいミュージシャンを擁する、とても有能なバンドだ。彼らに会うのが本当に楽しみだよ」 二度目の登場。どうぞ!!

A.C.T “FALLING” : 9.9/10

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COVER STORY 【RETURN OF SAVATAGE】 INTERVIEW WITH ZAK STEVENS


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZAK STEVENS OF ARCHON ANGEL & SAVATAGE !!

“Criss Treated Everyone With Total Love And Respect. He Had a Really Angelic Spirit.”

復活のSAVATAGE

「タイトルは”カーテン・コール”になるだろう。来年の4月、Criss の誕生日にリリースしたい。そうしてツアーでファンに愛と感謝とさよならを伝えるんだ。これまでのメンバー全員に関わってもらい、10点満点の最高傑作で幕を閉じる」
US プログ・パワーの伝説、SAVATAGE の首領 Jon Oliva の言葉です。復活の SAVATAGE。アメリカにプログ・メタルとパワー・メタルの種をまいたドラマティックな反乱軍が、ついにメタル世界へと帰還します。
「僕が92年に初めて SAVATAGE に参加したとき、Criss が “今まで一緒にいられなかった時間を取り戻し、一緒に遊んで、もっとお互いを知る必要がある。だから一緒に暮らそう” と言ってくれたんだ。それが彼のやり方なんだよ。彼は誰に対しても完全な愛と敬意を持って接していた。本当に天使のような精神を持っていたんだ。僕たちは一緒に音楽を作り、失われた時間を取り戻していった。だからこそ、数年というより、10年以上一緒に仕事をしていたような気がしているんだ」
SAVATAGE を語るとき、避けては通れない2つの魂こそ、Criss Oliva と Paul O’Neill。両者とも、この世を去って何年も経ちますが、未だに彼らに対するスタンディング・オベーションと “カーテン・コール” は鳴り止みません。
Jon Oliva の弟、Criss Oliva は天賦の才に恵まれたギタリストでした。Eddie Van Halen の技量を宿しながら、エモーションとカタルシスに全振りした Criss の流麗なソロイズムはまさに天国への階段で、バンドのドラマ性を飛躍的に向上させていました。Zak Stevens が証言するように、誰が評しても “天使” となるその本質は、むしろ Randy Rhoads に近かったのかもしれません。とにかく、Criss のギターと Jon のピアノ、そして後に Zak が受け継ぐ旋律の魔法を軸とし、Paul O’Neill の荘厳華麗なシンフォニーと変幻自在なリズム、そこに考え抜かれたコンセプトが加わって、SAVATAGE の唯一無二は実現していました。
ただし、Criss と Paul が召されてもなお、SAVATAGE-Ismは脈々と受け継がれ、途絶えることはありません。Chris Caffery, Alex Skolnick, Al Pitrelli といった超一流がギターの芸術を繋ぎ、Paul O’Neill のシンフォニーは TRANS-SIBERIAN ORCHERSTRA として多くの SAVATAGE メンバーと共に夢のような成果を残しました。後続への影響も並々ならぬものがあったはずです。そして、Jon Oliva が SAVATAGE の声であるのと同様に、Zak が歌った4枚の名作、その驚異的な完成度を鑑みれば彼もまた、SAVATAGE の声に違いありません。
「僕はいつも QUEENSRYCHE と FATES WARNING の大ファンだったんだ。ARCHON ANGEL とその2つのバンドを比較することは、間違いなく正しいよ。Aldo も QUEENSRYCHE の大ファンであることは知っているので、その比較は完全に理にかなっているね」
Jon Oliva とボーカルを分け合う Zak Stevens による新たなバンド ARCHON ANGEL も、そうした SAVATAGE-Ism の継承者であり、同時に SAVATAGE の復活を祝う天使の啓示でもあるでしょう。これほどドラマティックかつ知的なプログ・パワーは近年稀に見ると言わざるをえません。素晴らしいのは、SAVATAGE のシンフォニーやドラマを基軸としながらも、QUEENSRYCHE が見せたコンパクト&キャッチーなプログ劇場、FATES WARNING の濃密なプログ・エキスをしっかりと抽出して、アーコン・エンジェルの物語へと落とし込んでいるところでしょう。アーコンとは、神々の宣託を地上に伝える選ばれた天使のこと。その天使がもし、Criss Oliva だったとしたら、我々は USプログ・メタルの始祖が三位一体となった ARCHON ANGEL の作品で、SAVATAGE の雄々しき復活を今まさに天から告げられているのでしょう。
今回弊誌では、Zak Stevens にインタビューを行うことができました。「特に2020年以降、世界で起きているネガティブな出来事については、とても残念に思っている。 復活した SAVATAGE は、今まで通り、人々の人生のタイムラインになるような曲、人生の辛い時期を乗り越えるような曲、そして感動を与えるような曲を届けることができると思っているよ。 それは、ファンのみんなからいつも聞いている話で、僕たちの音楽を通じて、そうした素晴らしい出来事が継続することを期待しているんだ」 どうぞ!!

ARCHON ANGEL “Ⅱ” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CRESCENT LAMENT :花殤 & 噤夢】 JAPAN TOUR 23!!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CRESCENT LAMENT !!

“Recently, There Are More And More Taiwanese Artists Presenting Notable Creations That Attract Foreigners To Take Notice Of Taiwan. As Long As We Can Keep Showing The Uniqueness Of Taiwan’s Culture And The Good Nature Of Taiwanese People, We Shall Get Positive Support From The World.”

DISC REVIEW “花殤 & 噤夢”

「私たち台湾人にも故郷を語り継ぐ義務がある。二.二八事件や白色テロでは、数え切れないほどの勇敢な台湾人、その多くは若いエリートが、残忍な独裁政権と戦うために命を犠牲にした。しかし、彼らの生涯を記した記録は、白色テロ時代の厳しい検閲のため、ほとんど残っていないんだ。
あと10年もしないうちに、二.二八事件の虐殺と拷問から生き延びた台湾の長老たちは、おそらくもう存在しなくなる。私たちの祖父母は、どのような不幸を目の当たりにしてきたのだろうか。彼らはどんな悲劇を記憶に封印してきたのだろうか。なぜ彼らは、第二次世界大戦中の日々を、第二次世界大戦後よりもまだ良かったと言うのだろうか。掘り下げれば掘り下げるほど、私たちは悲しい気持ちになる。
阿香と明風の物語は、私たちの祖父母の世代に属するもの。かつて台湾を窒息させた権威主義的な前政権によって、彼らは何十年も黙殺されてきた。今、私たちはそれを声高に語る義務があるのだよ」
東洋きっての悲劇の語り部。CRESCENT LAMENT の来日が決定しました。台湾という政治や国の争いに翻弄され続ける場所で、彼らは二胡と台湾語、そしてノスタルジックなアジアのメロディを用いて、メタルで抑圧や搾取に抗い続けています。その旋律は物語で、その物語は旋律。切っても切れない迫真の “オーディオ・ムービー” に、私たちは今こそ目と耳を傾ける時なのかもしれません。
時は昭和初期。阿香と明風の悲劇の物語は、台湾の日本統治時代に幕を開けます。日本人の松子と台湾人ビジネスマン清田が恋に落ち、産まれたのが阿香でした。しかし、当然のように松子と清田は共に両親からの猛反対を受けて別離。阿香は父清田のもとで育てられますが、心の傷を負った清田は自死を選び、阿香は置屋に売られてしまいます。
昭和15年。芸者として働き始めた阿香ですが、その心には将来への不安や仕事への葛藤が渦巻いていました。そんな折、一つの希望が湧き上がります。実業家、明風との出会いです。混沌とした時代に、若い2人は通じ合い、互いを運命の人だと信じます。
帰ってきたら結婚しよう。そんな言葉を残して明風は仕事で1年間、日本へと渡ることになります。しかしみるみるうちに戦況は悪化。何年も連絡のないままに、阿香は女将によって別の人と結婚を決められてしまうのです。
結婚式の当日。突然、明風があらわれます。そして、阿香に終戦まで出国が不可能だったことを涙ながらに告げるのです。すべては遅すぎたのでしょうか。来世での幸せを誓い合って2人は別の道を歩むことになってしまいます。
終戦を期に、日本による台湾統治は終わり、代わりに中国国民党がやってきます。「よく吠える犬が去って豚が来た」 などと言われるように、腐敗し抑圧的な中国国民党の支配は日本以上に台湾の人たちから嫌われるようになります。強姦、略奪、殺人など国民党が起こした事件は日本統治時代の30倍とも言われました。
そうした時代の変化は、裕福な家庭に嫁いだ阿香にとっても無縁ではありませんでした。軍人に強盗に入られ、夫を警官に殴り殺される。妾であった阿香は結局、もとの無一文、宿無し生活に逆戻りしてしまいました。
そんな窮状を再び救ったのが明風でした。新聞で事件の詳細を知り、すぐに阿香のもとへと駆けつけて、彼女を自分の商店へと連れ帰ります。ついに再会を果たした運命の2人。やっと幸せで平穏な時が流れるかに思ましたが、物価の大幅な上昇、搾取、そしてコレラの蔓延で台湾人の怒りが爆発。抗議行動を開始した彼らに浴びせられる機銃掃射。鬱憤は爆発し、二.二八の騒乱が巻き起こります。遂に結婚した若き2人でしたが、明風は台湾人としての誇りを胸に、阿香を残して抗議活動へとその身を投じます。帰らぬ愛しき人。移り変わるは季節だけ。しかし、阿香はいつまでも、いつまでも、明風の帰りを待ち続けるのです。中国国民党は92年までの白色テロで14万人もの知識人を惨殺したと言われています。
今回弊誌では、CRESCENT LAMENT にインタビューを行うことができました。「物理的な国防強化に加え、台湾の色彩豊かな文化を世界に輸出することは、我々普通の台湾人ができる簡単で効果的な方法だ。最近、台湾のアーティストが注目すべき作品を発表し、外国人が台湾に注目することが多くなっている。台湾の文化のユニークさと、台湾の人柄の良さをアピールし続ければ、世界から積極的に支持されるはずだからね」 どうぞ!!

CRESCENT LAMENT “噤夢” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【ELEGY : REUNION 2023】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IAN PARRY OF ELEGY !!

“Henk Was Ahead Of His Time With His Unique Song Writing Style And Phenomenal Technique On Guitar.”

ELEGY REUNION 2023

「やはり Henk の功績は大きいよ。彼は、DREAM THEATER などの偉大なバンドが存在するプログ・シーンよりも何年も前に、ELEGY の曲を書いていたんだからね。だから、Henk はそのユニークな曲作りのスタイルとギターの驚異的なテクニックで、時代の先端を走っていたと言える」
日本ほど ELEGY を愛し、ELEGY に愛された国は他にありません。おそらく、この国のリスナーは世界のどの国よりもメタルに知を求め、美を求めていました。だからこそ、早すぎたオランダの至宝に恋焦がれ、挽歌が眠りについた際にはいつまでも、いつまでもその目覚めを待ち続けていたのです。今でこそ、当たり前になったファンタジーとテクニカルの饗宴、”プログ・パワー” ですが、明らかに ELEGY はその源流です。そうして、DREAM THEATER よりもファンタジックで、HELLOWEEN よりもテクニカルかつ知的な失われし夢の迷宮がついに長き眠りから覚める時が訪れました。
「あの頃、Henk の母親が悲しいことに他界してしまい、想像できるように、それは彼にとって本当にものすごい打撃となってしまったんだ。彼は2人の子供を育てていたから、家族のために音楽から手を引くことにしたんだよ。でも ELEGY は、Henk と常に連絡を取り合っていたんだ」
ELEGY と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?明らかに、前ボーカリスト Eduard Hovinga の月まで突き抜けるような甲高いハイトーンとドラマティックなメロディは、初期 ELEGY の象徴でした。そしてもちろん、Henk van der Laars と Arno van Brussel / Gilbert Pot が織りなすあまりに劇的なギター・ハーモニーの疾駆は、ELEGY の代名詞と言えるでしょう。
その美しき両翼が完全に噛み合った “Lost” において、私たちはメタル・カタルシスの最高到達点を経験しました。逆に言えば、”Spanish Inquisition” の身を捩るような音スタシーを知ってしまった我々は、生半可なプログ・パワーでは満足しない体に調教されてしまったのです。いやー、”Supremacy” も良いんですよね…”Lust For Life” みたいな壮大荘厳なバラードを書けるバンドが他にどれほどいることか。
そうした絶頂期に、なぜかギター・スイープのテクニックまでずば抜けていた Eduard がバンドを去り、VENGENCE, Misha Calvin, そして TAMAS などで活躍した “Zero” の申し子ともいえる Ian Parry が ELEGY に加入します。Ian は Eduard のような天空のシンガーではありませんが、例えば Ronni James Dio のような力強く、エモーショナルな歌唱を得意としていました。だからこそ、少しスピードを抑えて、内省的で狂おしいほどにエモーショナルな “State of Mind” には適任でした。
嘘のような話ですが、当時の中高生は皆、カラオケで名曲 “Shadow Dancer” を歌いながら踊り狂ったものでした。それほど、あの頃の ELEGY は人気があったのです。本当です。Ian Parry はあの年、BURRN! 誌のベスト・シンガーに選ばれたんじゃなかったかな…とにかく、だからこそ、突然の Henk の脱退は青天の霹靂、あまりにも衝撃的で絶望的なニュースだったのです。
「ELEGY は2000年から、Jean Michel Jarre/Consortium Project の Patrik Rondat と2枚のアルバム “Forbidden Fruit”, “Principle of Pain” をレコーディングしていた。しかし、ファンが Henk を欲していることは明らかで、Patrik がやめると決めた時、Martin と私はバンドを繭の中に入れて、いつか Henk が戻ってくることを願うことにしたんだよ。その日がついに訪れたんだ!」
バンドは名手 Patrik Rondat を勧誘し活動を続けますが、非常にユニークなソングライターと、本当にユニークなサウンドを持つギタリストという二足の草鞋を履いていた天才の抜けた穴を埋めることは難しく、ELEGY は長い眠りにつくことになりました。たしかに Patrik はクラシック・ギターも縦横無尽に使いこなすフランスでも屈指のプレイヤーでしたが、ヴァイオリンから始まっている Henk が司るキーボードまで含めたゴージャス&カルフルなオーケストレーションの色彩こそ、ELEGY の真骨頂だったのかもしれませんね。
結局、ファンだけでなく、Ian も Martin も Dirk も Henk van dar Laars という偉人の帰りを待っていたのです。”Lost” のアートワークに描かれた月のように、時は満ちました。全作の再発、日本も含む?!リユニオン・ツアー、そしてその道の先には、私たちが焦がれ続けた新作が待っているようです。
今回弊誌では、Ian Parry にインタビューを行うことができました。「素晴らしい未来への希望を歌うことだよ。メディアでよく見聞きするような怖い話ではなく、もっとおとぎ話を書きたいんだ。魔法にかかったようなファンタジーの世界をね。そうだね、それで、1997年の “State of Mind” の時のように、ファンの皆に再び幸せな気持ちになってもらえたらうれしいね」 弊誌独占世界初インタビュー。どうぞ!!

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEMONSTEALER : THE PROPAGANDA MACHINE】


COVER STORY : DEMONSTEALER “THE PROPAGANDA MACHINE”

“Make The Minority The Big Villain That The Majority Should Fear In Any Country, And You’ve Suddenly Got Control. It’s All The Same Tactics; It’s Just That The Country Changes.”

THE PROPAGANDA MACHINE

“The Propaganda Machine” は、エクストリーム・メタルの言葉で叫ばれる戦いの鬨。Sahil Makhija 4枚目のソロ・アルバム “Demonstealer” は、母国インドをはじめ世界中の大衆を操り搾取する右翼政治家、人種差別主義者、偽情報の拡散者、宗教過激派を狙い撃ちしています。Sahil が言葉を濁すことなく、このアルバムに収録されている歌詞はすべて、抑圧に対する抗議の看板となり得るもの。ただし Sahil は、20年前、彼の先駆的バンド DEMONIC RESURRECTION でインドにデスメタルを紹介していた頃には、まだ “The Propaganda Machine” を作ることはできなかったと認めています。
「俺はボンベイ・シティに住む、かなり恵まれた子供だった。そして、ほとんどの子供がそうであるように、俺は政治に興味がなかったんだ」と Sahil は自身の音楽活動の初期を振り返って言います。SEPULTURA の “Refuse/Resist” のような政治的なメタルを聴いていたにもかかわらず、政治を意識することはなかったのです。
Sahil の覚醒は緩やかでした。彼は2015年のシングル “Genocidal Leaders” で遂に DEMONSTEALER に社会的な歌詞を取り入れ始め、前2作 “This Burden Is Mine” と “The Last Reptilian Warrior” では現実世界の問題がより浸透するようになりました。しかし、”The Propaganda Machine” は、彼がこれまで制作した中で、圧倒的に政治色が強いレコードだと言えます。その理由は、周囲を見渡せばわかるでしょう。トランプ、Brexit、目に余る警察の残虐行為、復活したネオナチズム、世界的なパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、その暗闇のリストは身近で気が滅入るものばかり。

「このアルバムは、プロパガンダ・マシーンというタイトル通り、ここ数年の世界のあり方に完全にインスパイアされているんだ。特に、ヒンドゥー教の右翼過激派政権が誕生してからのインドでの出来事に触発されているよ。”The Fear Campaign” では、多数派が少数派を恐れるように仕向けることで、政府が大衆をコントロールすることについて。”Monolith of Hate” は、憎しみの政治と、恐怖のキャンペーンを通じて多数派が少数派を憎むように仕向ける方法について歌っているよ。正直なところ、世界中でこうしたことが起こっているよな。インドではヒンドゥー教徒が大多数で、ヒンドゥーの政府はイスラム教徒に関する悪いプロパガンダを流し続け、ヒンドゥー教徒がイスラム教徒に恐怖を抱くようにしようとしている。イギリスやアメリカ、ヨーロッパでも同じように、移民を恐れさせるキャンペーンが行われているし、アメリカでは、人種や宗教などでも同じことが行われている。世界的な “戦術” なんだよな。”恐怖を与え続け、従順にさせる” という歌詞は、まさにすべてを要約しているよ。
“The Art of Disinformation” は、テクノロジーがいかに武器になるかについて。インドでは、WhatsApp の偽ビデオが、この憎しみを広めるために使われ、最終的には少数民族への暴力や殺害さえも扇動しているんだ。”Screams Of Those Dying” は、ここ数年、リンチや暴動、警察の横暴、殺人、基本的人権のために戦う人々の暗殺によって失われた実際の命について歌った。”The Great Dictator” は、自分たちの利益のために憎悪と暴力を推進・宣伝する右派の指導者について。”‘The Anti-National” “反国家” は、インドや自国の政府に疑問を持つ人々が、いかに “反国家” と呼ばれているかについて。そして最後に “Crushing the Iron Fist” は、俺たちが力を合わせれば、私腹を肥やし、宗教、カースト、人種によって人々を分断するのではなく、生活の質を向上させるために働く、より良い政府を見つけることができるかもしれないという希望をアルバムに残している。国民のために働くという、本来あるべき姿の政府をね」

世界のリスナーにとってあまり馴染みがないのは、2014年にナレンドラ・モディが首相に就任して以来、インドで起きている混乱かもしれません。NRC(全国市民登録制度)とCAA(市民権修正法)という大規模な政治問題です。CAA では、トランプの人種差別的なムスリム禁止令とは異なり、インドに入ってくるイスラム教徒の移民を制限する一方で、他の宗教のメンバーがより自由に入国できるようにしようとしていました。
「多くの抗議があり、俺もそうした抗議に出向いていた。そして、その抗議は、右翼過激派グループが大学の子供たちを攻撃したり、抗議者に発砲したりすることで頂点に達したんだ。その結果、ニューデリーで大規模な暴動が起こり、ヒンドゥー教の過激派によって多くのイスラム教徒が殺されてしまった。その後、パンデミックが始まった。すると政府は突然、人々の移動を制限するようになった。出稼ぎ労働者は出身地でない都市に取り残され、飛行機で帰ることもできず、結局、何百キロも歩いて村まで帰ることになった。その途中で亡くなった人も少なくないんだよ。社会として、俺たちはより憎しみに満ちた生き物へと変化していってしまう。幼い頃から憎むことを教え込まれ、宗教、肌の色、性的嗜好など、異なる誰かを憎むことを強いられ、憎しみは押し付けられ、憎しみのモノリスを築いている。それは俺たちを蝕んでいくものだ。特にインドでは、現在の右派の政府関係者自身が、憎しみのスローガンを唱え、暴力行為や犯罪を呼びかけるデモを行い、彼らのすべてのアジェンダが憎しみで構築されている。なんとかしなければ」
そんな暗闇が重くのしかかる中、Sahil は自宅のスタジオに入り、”The Propaganda Machine”となる曲を書き始めました。歌詞には、自分がインドで体験したことを反映させたかったのですが、同時にリスナーが世界の他の地域とも簡単に結びつけられるようにもしたかったのです。
「どこの国でも同じようなことが起きているのを見た。どの国でも、少数派を多数派が恐れるべき大悪党に仕立て上げれば、突然コントロールが可能になる。国が変わるだけで、すべて同じ手口なんだ。俺たちがいかにプロパガンダに対して盲目的になりがちであるかを伝えたい。宗教であれ、政治であれ、俺たちはある特定の “信者” になるよう条件付けされてきた。宗教もまた、最大のプロパガンダ・マシンのひとつで、世界中のほとんどの人が信じるように仕向けられ、現実が見えなくなる」

プロパガンダによる洗脳に惑わされないために、教育レベルの向上は必須でしょう。
「ただ、インドは巨大な国で、極度の貧困と社会的不平等が存在するから、効果が出るまでには長い時間がかかる。インドには巨大な国土があり、極度の貧困と社会的不平等が存在するんだ。時間が経てばその地点に到達できるかもしれないという希望はあるけど、ほとんどの場合、堂々巡りになってしまう。インドの生活の質、政府が運営する学校や病院の状況を見れば、その状況がわかると思うよ。本当に、宗教的な洗脳や政府による洗脳、時代遅れの習慣や伝統にしがみつく人々など、長い道のりが待っているんだ」
SNS も今や権力の “武器” と化しています。
「俺たちは、ソーシャルメディアによって物語がコントロールされる世界に住んでいる。インドでは、世界の他の地域と同様にフェイクニュースの大きなな問題があって、SNS のほとんどは、右派の与党政府によってコントロールされている。右派政権に対抗できる政党やまともな野党がほとんどない状態でね。この国で最大の誤報拡散者である Whatsapp を使ってプロパガンダや誤報を拡散するためだけに人が雇われているよ。Whatsapp が原因で、リンチされたり殺されたりした人も。物議をかもした市民権法に対する抗議デモの際も、IT部門はフル回転していた。彼らの最大の自慢は、Twitter で何でも流行らせることができること。どんな話題でも、コピーペーストしたようなツイートが表示されるのは悪夢のようなものだ。ウクライナへの攻撃の際にも、このようなことが起こっていたよな」
“レッテル貼り” も権力お得意の分断の手法。
「特にインドにおける右翼の戦術のひとつは、人々に “反国家” の烙印を押すこと。政府に疑問を持てば反国家、あるイデオロギーを推進しなければ反国家というわけさ。最悪なのは、政治とヒンドゥー教を結びつけてしまったことだ。だから今日、牛肉を食べると、憲法で権利が認められているにもかかわらず、反国民とみなされる。現政権は非常に攻撃的で、親ヒンドゥー的でファシスト的な性格を持ち、非常に暴力的なグループを支持している。現首相を批判する人がいれば、ネット上の荒らしの軍団や、実際のチンピラまで現れて問題を起こし、反国民の烙印を押されてしまうんだ。俺は、批判的で、宗教的・政治的な駆け引きではなく、国民の向上のために政府を後押ししようとする人たちこそ、真の愛国者であると信じている」

Sahil は声を上げるためには、ある程度の人気が必要だと考えています。
「音楽にはたくさんの力がある。音楽がもたらす癒しやポジティブな変化はたくさんあるんだ。だけど、ニッチなジャンルの音楽を、ニッチな国で、しかも人気のないアーティストが演奏するとなると、そんな変化も期待できない。もしかしたら、一部の人に影響を与えるかもしれないけど、本当に影響を与えるためには、もっと多くの人に聴いてもらう必要があるんだよ。だから、今のところは、DEMONSTEALER は俺が目にした世界の間違ったことに対して発言するためのただの道具だ。でも、もしそれが人々に語りかけられ、共感され、音楽が人生の困難な時期を乗り越える助けになるなら、それは俺にとっても世界にとっても意味のあることとなる」
音楽的には、Sahil は DEMONSTEALER を実験室として使用し、頭に浮かんだあらゆるアイデアを探求する傾向があります。”The Propaganda Machine” では、彼のキャリアの中で最も緻密なレイヤーを持つ楽曲を作曲していることに気づくでしょう。もし、Sahil の威厳と自信に満ちたクリーン・ボーカルと、元 CRADLE OF FILTH キーボード奏者の Annabelle Iratni が醸し出すシンフォニックな華やかさがなければ、アルバムはもっとデスラッシュの閉塞空間にあったでしょう。Sahil は、自分の直感を信じることで、荘厳と凶暴の適切なバランスを見つけているのです。
「”次のアルバムは、今までで一番ブルータルなアルバムにしよう、ブラストビートと、最も重厚なリフ、そしてうなり声を出すだけだ” なんて思っていても、実際に曲を書き始めると、突然美しいメロディーを思いつき、”これはこの曲にピッタリだ!” なんて思うんだ」

DEMONSTEALER は厳密には Sahil のソロプロジェクトですが、NILE の George Kollias が “This Burden Is Mine” でドラムを叩いて以来、ゲスト・ミュージシャンはそのサウンドに欠かせない要素となっています。DEMONSTEALER のサポート・キャストは着実に増えており、”The Propaganda Machine” は総勢12人のプレイヤーによって命を吹き込まれているのです。クレジットには、鍵盤の Iratni、Hannes Grossmann を含む4人のドラマー、さらに4人のベーシスト、3人のリード・ギタリストの名前があります。James Payne (Kataklysm, Hiss From The Moat), Ken Bedene (Aborted), Sebastian Lanser (Obsidious/Panzerballett), Dominic ‘Forest’ Lapointe (First Fragment, Augury, BARF), Stian Gundersen (Blood Red Throne, You Suffer, Son of a Shotgun), Martino Garattoni (Ne Obliviscaris, Ancient Bards), Kilian Duarte (Abiotic, Scale The Summit), Alex Baillie (Cognizance), Dean Paul Arnold (Primalfrost), Sanjay Kumar (Equipoise, Wormhole, Greylotus)。Sahil は、彼らの役割について厳格に規定することはありません。ここでは、それぞれのミュージシャンが、それぞれの長所を発揮しているのです。
「各ミュージシャンは、それぞれの個性を生かす。これほど多才なミュージシャンと仕事をするのであれば、俺がプログラミングをしたり、これとこれを演奏しろなんて厳しく指示する意味はない。もちろん、ドラムのパートをすべてサンプルで置き換えるのはとても簡単だが、すべて全く同じ音になってしまう。それに何の意味があるのだろう?だから、ドラムの音はアルバムの曲によって変化するし、ベースのダイナミズムも当然変わってくるさ」
このアルバムは、Sahil の独特なソングライティングだけでなく、彼の思想によっても一貫性を保ちます。右翼のポピュリストが支配する不安定な国で活動することは簡単ではありません。最近、ニューデリーとムンバイにあるBBCのオフィスが、インド特集を放送した後に家宅捜索を受けました。”モディ・クエスチョン”(2023年)は、2002年にグジャラート州で起きた一連の暴動で首相が果たした役割を探るドキュメンタリー。ボリウッドの作品は、過激派の脅迫によって定期的に中断、破壊、閉鎖され、Sahil 自身も、風刺ロックバンド WORKSHOP で政治家と悪徳警官を罵倒した際、検閲に直面しました。Sahil が “偉大なる独裁者” や “鉄拳を砕く” のような曲を書くことの結果を恐れているとしても、彼はそれを表に出すことはありません。恐れよりも、彼は何度も自分の特権と、それを使って抑圧と闘う責任について言及します。
「俺のような人間は、アパートでくつろぎながら、こう言うこともできる。これは俺の戦いではないんだ。普通の平穏な暮らしを送ればいいってね。俺は何気ない生活を送れるのだから。だけど、踏みつけにされそうになっている人たちが大勢いる。いずれは反撃に出るべき人たちが。抗議の力、情報の力によって、俺たちは実際に変化を起こすことができるはずだ。どんな形であれ、善戦する人たちはたくさんいる。そして、願わくば、より多くの人々が目を開き、自分たちが持っている特権や、声を上げる必要があるという事実に気づくことを期待しているんだ。そして、この先、より良い日々が待っていることもね。俺たちは、自分たちが見つけた世界よりも良い世界を残すことができる、すべての人々にとってより公正で平等な世界に住むことができると信じたい。他人を親切に扱い、専制や抑圧に負けることはないとね。しかし、実際には、これは長い戦いで、変化は一夜にして起こるものではない。だからこそ俺は、より良い世界を作るために、時間、エネルギー、努力、時には命さえも犠牲にしてきたすべての人々に敬意を表したいんだ」

実際、Sahil 自身もより良いインドのメタル世界のために戦い続けてきました。
「俺たちも DEMONIC RESURRECTION でオリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。インド・メタルシーンの柱としての Sahil の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし俺がやらなくても、おそらく他の誰かがやってきて、いつか俺の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」

Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」
幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」

オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。
彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。そして、ニューデリーのBLOODYWOOD。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
つまり、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

参考文献:Bandcamp Daily: Demonstealer Fights For a Better India Through Death Metal

No Clean Singing:AN NCS INTERVIEW: DEMONSTEALER

Demonstealer’s Incendiary Metal Assaults “The Propaganda Machine” (Track-by-Track Rundown)

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE ONGOING CONCEPT : AGAIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAWSON SCHOLZ OF THE ONGOING CONCEPT !!

“When I Do Listen To Music Though It’s Not Heavy Music, I Tend To Listen To More Groovy/funk Style Bands Like Cory Wong And Dirty Loops.”

DISC REVIEW “AGAIN”

「音楽を聴くときは、ヘヴィ・ミュージックではなく、Cory Wong や Dirty Loops のようなグルーヴィーでファンクなスタイルのバンドを聴くことが多いね。で、ヘヴィとファンク、この2つの要素が、僕らの音楽がしばしば異なるジャンルに溶け込む理由だと思うんだ」
THE ONGOING CONCEPT はメタルコア/ポスト・ハードコアシーンにおいて常に謎の存在であり続けています。多くの人は、バンジョーによるカオスな冒険 “Cover Girl” と、それに合わせた愉快なミュージック・ビデオでまず彼らに気づいたはずです。メタルコア、ファンク、ブルース、サザンロック、ポスト・ハードコア、プログレッシブ・メタル、アコースティックなど、様々なスタイルから影響を受けながら、魅力的なブレンドと奇抜な発想でサウンドを形成してきた THE ONGOING CONCEPT のコンセプトはまさに “Ongoing” “進行中”。ワイルド・ウェストをテーマにした “Saloon” や、全ての楽器を一から作り上げた “Handmade” など、彼らのアルバムは常に興味深いコンセプトを携えて、刻々と冒険という名の変化を続けているのです。
「14歳のときに DREAM THEATER に出会って、音楽に対する考え方が変わったよ。プログレッシブ・ロックや DREAM THEATER がやっていた奇妙なことに夢中になった。それが、THE ONGOING CONCEPT の音楽に様々な要素を取り入れたり、アルバムにコンセプトを取り入れたりする理由になっていると思う」
バンドのファンなら、6年ぶりの新作 “Again” の曲名に見覚えがあるはずです。なぜなら、すべてが新曲でありながら “Again” の枕詞はすべてバンドの過去の曲名であり、そうすることでバンドは、過去の作品への言及やイースターエッグを取り入れつつ、過去と現在を融合させた新しい楽曲を作りたかったのです。こうした、遊び心やコンセプト・イズム、過去との邂逅は、まさに DREAM THEATER の優秀な門下生であることの証明でしょう。
どのみち、”Amends Again” ですぐにリスナーは曲名の謎を理解します。オリジナル曲のキャッチーなフックへのコールバックが曲中にちりばめられ、彼らの特徴的なリフはまるで旧友が戻ってきたかのような弾むようなグルーヴでアルバムをスタートさせます。オリジナル・スクリーマーでキーボーディスト Kyle Scholz の象徴的な、高音で混沌とした叫び声は、間違いなく “Swancore” リスナーに歓迎され、バンドのサウンドに再度命を吹き込んでいます。
一方で、”Unwanted Again” では、Dawson Scholz と Andy Crateau のボーカルが前面に出て、インディーズ・スタイルのメロウなロックソングを標榜。Kyle が奏でる複雑なクリーントーンのギターとシンセが、グルーヴィーでヴィヴィッドなこの曲は、アルバムの中でも際立ち、最後は味わい深いクラシックなソロで締めくくられていきます。
「僕らが音楽を作るときは、できるだけ純粋でありたいと思っているからね。周りの世界で何が起ころうとも、僕らの音楽に反映させる必要はないし、僕らの目には重要ではない。重要なのは、その曲がどんな時でもどのような気持ちにさせるかなんだ。10年後、100年後、僕たちの曲は時代を超越したものでありたいと思っているから。僕らが曲を書くときは、携帯電話やテレビ、コンピュータの電源を切って、自分たちがハッピーになれるような曲を書くことを心がけているんだ」
前作に続き、このアルバムもバラエティに富んでいるのが魅力。エレクトロニックな要素を含んだよりチルな雰囲気の曲もあれば、メタルコアとサザンロックのハイブリッドを披露しより激しい顔を生み出す曲もあり、ジャジーなブレイクやファンキーなグルーヴなど予想不可能な瞬間の目まぐるしき目白押しでジャンルに縛られないこと、自らの音楽に正直であることの楽しさを実証していきます。好きこそ物の上手なれ。結局、好きに勝てるモチベーションはないのですから。
今回弊誌では、Dawson Scholz にインタビューを行うことができました。「僕たちはたくさんの “Swancore” のバンドとツアーを行ってきたんだ。その中には、僕たちの大切な友人であるバンドもいる。特に EIDOLA は、一緒にツアーを回った中で最も好きなバンドのひとつだね」 どうぞ!!

THE ONGOING CONCEPT “AGAIN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SERMON : OF GOLDEN VERSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HIM OF SERMON !!

“I Am Braced For a Fair Amount Of Eye-rolling To ‘Another Masked Band’, Which Is Fair Comment. But Also, Is It Really So Different To The Legions Of Corpsepaint Coated Black Metal Bands?”

DISC REVIEW “OF GOLDEN VERSE”

「ニュートラルで “小さい” 響きを持つ名前がよかったんだ。そこで、一般的な男性代名詞にしたのだけど、Him には聖書で頻繁に言及される神という意味合いもあって、二重の意味で使うことにしたんだ。それに、讃美歌はキリスト教の説教 (Sermon) で歌われるもの。言葉の響きという点でもつながっているよね」
Him を神として崇める仮面の匿名バンド SERMON は、2019年のデビュー・アルバム “Birth of the Marvellous” で、どこからともなく現れ喝采を浴びました。強烈でエモーショナルなプログレッシブ・メタルの驚異的な完成度は、スタートにしてすでに洗練された宝石で、謎の一団はシーンに凄まじい衝撃を与えたのです。そのメロディックな核心、巧妙な複雑さ、緊張感とメランコリーは、KATATONIA, TOOL, 後期の PORCUPINE TREE, RIVERSIDE に OPETH といったモダン・プログの語り部たちと美的な類似性を持っていました。
ただし、SERMON の鋭くユニークなエッジと巧妙なリズム細工は、プログ・メタルに魅了されていないリスナーにも間違いなくアピールする魅力を備え、群を抜いていました。デビュー作から4年。そうして SERMON 2枚目のLP、”Of Golden Verse” は深紅に染まる世界の奥底へとさらに足を踏み入れます。
「最近は、メタル以外のアーティストに影響を受けることが多いんだ。このアルバムでは、Michael Jackson, WOVENHAND, KILLERS, THE MACCABEES, CAMEL から影響を受けている。このアルバムに影響を与えたと思われるメタル・バンドを考えてみたんだ。SOILWORK は間違いなくそのひとつで、彼らのアルバム “Verkligheten” は僕らのデビューと同じ頃に発売されたんだけど、どの曲も最高の曲ばかりで、圧倒されたのを覚えているよ」
衝撃的なデビュー作で見せたクオリティとポテンシャルは、刺激と説得力を加えながらその洗練を拡大させています。SERMON が作り出す陰鬱で不吉な雰囲気は、血と知に染まりながら肌に染み込んできます。前作同様、”Of Golden Verse” は沸点に達するような緊張感に包まれ、その不吉でほとんど儀式的なムードは、威嚇と不安を誘う序章から高鳴るメロディーと変幻自在のフックへと巧みにシフトしながら、カタルシスの領域まで到達します。つまり、SERMON のユニークで複雑、かつ感情的にパワフルなサウンドはプログレッシブ・メタルの領域をすでに超越しているのです。
ロック、ドゥーム、ブラック、ゴシックの連なるドラマのが、安っぽさやメロドラマ的な場所に陥ることなく、プログレッシブな筋肉にに浸透。プログレッシブ・メタルの特徴を強く持ちながら、メロディック・ドゥームを筆頭に地下音楽の暗がりへと螺旋状に降下する彼らの音楽は、精神的、神学的なバランスの概念を “Sermon”、説くことに捧げられました。この匿名集団は、その音楽と同様に、あらゆる信念の思慮深い交差を作ることに重きを置いています。極論、群集心理、分裂した意見、無謀な信仰に囲まれた世界の中で、すべての信念を等しく受け入れるバランスのとれた中心地を見つけること。世界を取り巻く残虐行為に関するテーマを軸に、”Of Golden Verse” は人類の歴史をたどりつつ、人間本来のあり様を世に問うのです。
今回弊誌では、Him にインタビューを行うことができました。「もちろん、”また仮面バンドか” と言われるのは覚悟の上で、それはそれで正しい意見だよ。しかし、コープスペイントのブラックメタル・バンドの軍団と、本当にそんなに違うのだろうか?」 どうぞ!!

SERMON “OF GOLDEN VERSE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TWILIGHT FORCE : AT THE HEART OF WINTERVALE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BLACKWALD OF TWILIGHT FORCE !!

“The Last Few Years Of Hardships Have Affected Us All One Way Or Another, And If Our Music Was Able To Bring Just a Sliver Of Joy For Someone To Help Them Get Through Those Hard Times, We Have Truly Accomplished Greatness.”

DISC REVIEW “AT THE HEART OF WINTERVALE”

「現代のメタル音楽は、曲作りが合理的になってしまっている。パワー・メタルにおいて、面白い変化や予想外の変化を見出すことは、最近ではほとんどないんだよね。つまり、”最も抵抗の少ない道” を歩むことが、迅速かつ安定したペースで音楽やアルバムを作り上げることにつながってしまっているんだ。実験や創意工夫には時間がかかるからね。でも、そのためにメタルから多様性や実験への意欲が削がれてしまっているのかもしれないね」
10年代、そして20年代のパワー・メタルを牽引する北欧の黄昏は、彼の地の大自然と伝承、そしてファンタジーを刻み込んだ “At The Heart of Wintervale” において、王者の王者たる由縁を見せつけました。バンドの鍵盤奏者で黒魔法の使い手 Blackwald にとって、現代パワー・メタルの大半はステレオタイプで驚きのないもの。手間と時間をかけずに生み出したインスタントな創作物。しかし、魔道士はよく知っています。詠唱は長ければ長いほど、強力な呪文が発動するのです。
「ジョン・ウィリアムズやハワード・ショアといった映画音楽の作曲家に大きな影響を受けたし、彼らこそが僕にとっての “ヒーロー” だと思う。ハンス・ジマーのような人物も、シンセサイザー(ダークナイト)やパイプオルガン(インターステラー)など、非常にミニマルなツールや音で、喚起力と説得力のあるサウンドスケープを作り出し、大きな進歩を遂げている。印象的なモチーフやテーマを創り出す能力とスキルは、僕が賞賛し、憧れるもののひとつなんだ」
Blackwald が語る通り、”At The Heart of Wintervale” はパワー・メタルの定型を超越しています。もちろん、バンドの共同設立者 Lynd のフラッシーでテクニカルなギター・マジックは、アルバムの大きな見せ場であり、華。しかし、楽曲を前に進める原動力、設計図の原盤は、Blackwald が天塩にかけたシンフォニック・アレンジやシンセサイザー、ピアノやチェンバロにヴァイオリンの洪水です。なぜなら、Blackwald はこのトワイライト・キングダムに、壮大な映画音楽のメタルを築こうとしているから。
例えば、ハンス・ジマーが手がけたSF大作や、例えばアラン・メンケンが手がけた夢の国ディズニーのメタル盤があるとすれば、間違いなくそれはこの作品でしょう。それほど、Blackwald が手がけるオーケストレーションは完成度が高く、複雑怪奇でありながら耳にのこる印象力を備えています。数十年前の RHAPSODY の名作群と比べれば、時を超えていかに彼らのシンフォニック・アレンジや構成力、音の色彩が進化したかに気づくでしょう。
「”逃避” という行為は、人類の歴史の中で常に重要だったけど、おそらく今はかつてないほどその必要性が高まっている。常に相互接続され、即座に情報が飛び交い、錯乱するという過酷な現実は、人間の心に負担を与えているよ。僕は、音楽と芸術によるひとときの休息は、精神の幸福のために必ず必要な “安全な避難所” であると信じているんだ。だから、僕たちの音楽とそれに付随する物語を通して、リスナーが現実の束縛から解放されたり、現実の苦悩や苦難から解放された空想の世界に没入できればと願っているんだよ。ほんのひとときだけでもね」
そうして完成した “At The Heart of Wintervale” には、これもジマーやメンケンが手がけた空想の音楽と同様に、人々の “避難所” となるように真摯な祈りが込められています。D&Dのファンタジックなイメージで構成された8章からなるメタル・シネマは、磨きたての鎖帷子や重厚な鎧、黒のマントを身にまとい、ドワーフの鉱山やドラゴンの山、クリスタルの森など未到の地を未曾有の音楽で縦横無尽に駆け巡ります。SNS やインターネットが常に “オンライン” で、心の休まる暇のない現代。押し寄せる情報と暗い出来事をほんのひとときシャットダウンして、”オフライン” になるために、TWILIGHT FORCE の描き出す音景色やストーリーほど適した避難所はないでしょう。
TRICK OR TREAT でも知られるボーカル、Allyon こと Alessandro Conti の高らかなマイケル・キスク的威容に浸るもよし。エクストリーム・メタルの間合に潜むコミカルでプリティなセンスに酔うもよし。ただリスナーは、すべてを忘れてひとときの異世界転生をすればよいのです。アドヴェンチャー・メタルはまだまだ続いていきます。
今回弊誌では、Blackwald にインタビューを行うことができました。「ハイ・ファンタジーのエンターテインメントの多くは、僕たちの音楽や伝承に何らかの影響を及ぼしている。日本の多作なメディアの作品が、長年にわたってその一翼を担ってきたことは間違いないよ。”ベルセルク”, “ワンピース”, “デスノート”, “スタジオ・ジブリ”, “ファイナル・ファンタジー” など、想像力を刺激する日本の創作物の中には、僕たちのインスピレーションを形成してきた素晴らしい作品が数多くあるわけさ」2度目の登場。どうぞ!!

TWILIGHT FORCE “AT THE HEART OF WINTERVALE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HAXPROCESS : THE CAVERNS OF DUAT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LOTHAR MALLEA OF HAXPROCESS !!

“Ghost Reveries Really Opened My Eyes To a Lot Of Advanced Song Writing Skills”

DISC REVIEW “THE CAVERNS OF DUAT”

「僕たちのドラマーは、Mike Portnoy の大ファンなんだよ。その好き具合は想像を絶するものだ。僕は彼のようなスタイルのドラムでデスメタルのリフを演奏するのがとても好きなんだよ。通常のブラストビートやDビートなど、とても効果的なドラムパターンだけど現在のメタルの多くのバンドが使いすぎている傾向があるものよりも、プログレッシブなリズムは曲をよりダイナミックで面白いものにすると思っているんだ」
様々なデスメタルがフロリダから発信された古き良き時代を覚えているでしょうか? 時代は変わりましたが、HAXPROCESS はかつての “メッカ” からプログレッシブなデスメタルの進化形を生み出そうとしています。敬愛する RUSH と同じトリオの形態 (ベースがいるときもある) を選択したジャクソンビルの新鋭たちは、デビュー作 “The Caverns of Duat” で BLOOD INCANTATION や FACELESS BURIAL を手がけた有名エンジニア Pete DeBoer をミックス&マスターに起用。強力なパフォーマーと同じ舞台に上がり、緻密なプログレッシブと残虐なデスメタルの新たな架け橋になろうと目論んでいるのです。
「僕が初めて聴いた OPETH の曲は “Isolation Years” だったと記憶している。このバンドについては、デスメタルとアコースティックな音楽のコントラストがどうのこうのという話はよく聞いていたのだけど、”Isolation Years” では、その美しいアレンジと構成に意表を突かれたんだ。”Ghost Reveries” で、僕は多くの高度なソングライティング・スキルに目を見開かされたんだよ」
そのバンド名から伝わるように、HAXPROCESS は明らかにスウェーデンの知と血の革命者の伝統を受け継いでいます。しかし、その場に留まるだけではありません。プログレッシブな筋肉を駆使し、サイケデリックなインパルス、ワイルドなリード、無骨なオールドスクールのセンスで、ATHEIST から BLOOD INCANTATION, 時には RUSH と MORBID ANGEL のキメラまで、縦横無尽にメタルのエピックを更新していきます。
「僕は昔から、フリジアン・ドミナント、ハーモニック・マイナー、理論を知らない人には “エジプト・スケール” とでも言おうか、とにかくあのメロディが好きだったんだ。この傾向は、RAINBOW の “Gates of Babylon” や IRON MAIDEN の “Powerslave” など、トラディショナル・メタルに傾倒していた頃に好きだった曲からきていると思うんだよ」
加えて、HAXPROCESS には NILE のようなエジプトへの深い造詣が存在します。古代エジプトの地下世界、ドゥアト。ヒエログリフでは川、山、そして洞窟を含む変化に富んだ地形で描かれたこの未知の場所の探索を、HAXPROCESS は音楽で買って出たのです。フロリダ出身のサウンドを生かした邪悪なリフ、複雑な音楽的パッセージ、そして砂漠とピラミッドの旋律によって、彼らはオシリスの領域へと降りていきます。時に、IRON MAIDEN のインスト曲を思わせるクラシックで華やかなアレンジも見事。
今回弊誌では、フロントマン Lothar Mallea にインタビューを行うことができました。「多くの人が BLOOD INCANTATION の先駆けだと言っていたので、TIMEGHOUL をチェックすることにしたのだけど、とても驚いたよ。BLOOD INCANTATION が影響を受けたのは間違いないが、TIMEGHOUL の音楽は多くの人が思っているよりもずっとユニークだ」 どうぞ!!

HAXPROCESS “THE CAVERNS OF DUAT” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LITURGY : 93696】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RAVENNA HUNT-HENDRIX OF LITURGY !!

“Life Has Been Unbelievably Better Since My Transition. Unfortunately The Politics Of Gender Are Becoming Increasingly Scary In the United States, But It’s Still Much Better To Be Living Out In The Open.”

DISC REVIEW “93696”

「男性から女性に移行してからの生活は信じられないほど良くなっているわ。 残念ながら、アメリカではジェンダーに対する政治的な圧力はますます恐ろしいものになってきているけど、それでも、オープンに生きている方が私はずっといいんだよ」
ブラック・メタルを哲学する革新者、LITURGYのハンター・ハント・ヘンドリクスは現在、ラヴェンナ・ハント・ヘンドリクスへとその名を変えています。
「私は女性よ。ずっとそうだった。様々な拒絶を恐れて明かせなかったの。私は女性として音楽家、神学者、詩人で、生まれるものは全て女性の心から。同時に男性として生まれたことを否定したくもないのよね」
長い間、女性の心を持つ男性として生きてきたラヴェンナにとって、トランスジェンダーの告白は非常に勇気のいるものでした。周りの目や差別、弾圧といった現実のプレッシャーをはねのけて、それでも彼女がカミング・アウトした理由は、自分の人生を、そして世界をより良くしたいから。彼女の理想とする天国であり想像の未来都市”Haelegen”実現のため、ラヴェンナの音楽は、魂は、いつしか抑圧を受ける少数派の祈りとなったブラック・メタルと共に、もう立ち止まることも、変化を恐れることもありません。
「ブラック・メタルはロックという枠組みとその楽器を使ってクラシックを作るものだと考えていたんだ。 みんながそう思っているわけではないけど、私にとってはそこが大きな魅力だから」
21世紀に入ってから、ブラック・メタルはメタルの多様性と寛容さを象徴するようなジャンルへと成長を遂げてきました。DEAFHEAVENの光、ALCESTの自然、SVALBARDの闘志、VIOLET COLDの願い、KRALLICEの異形、ZEAL&ARDORのルーツなど、ブラック・メタルが探求する世界は、新世紀の20年で膨大な広がりと深みを備えることになったのです。
そうしたブラック・メタルの領域においてラヴェンナは、作曲、芸術、哲学を共有する組織LITURGYを設立します。”トランセンデンタル・ブラック・メタル”、”超越的ブラック・メタル”と呼ばれるようになったLITURGYのアートはまさに超越的で、バンドに備わる審美と多様性を純粋に統合。神学、宗教、宇宙的な愛、終末論、性について探求しながら、息を呑むような壮大さで恍惚感を表現していきます。
ラヴェンナはこの場所でブラック・メタルの暗黒から歩みを進め、管楽器、アンサンブル、グリッチ、オペラ、時には日本の雅楽まで統合した唯一無二の音楽性を追求し、変化を恐れない彼女のポジティブな哲学を体現しています。その知性の煌めきと実験性は、”ヘヴィネスの再定義”につながっていきました。つまりラヴェンナは、”重さ”を神聖なもの、物語や哲学への触媒として使用することにしたのです。その方法論として彼女は、メタルと前衛的なクラシック音楽の間のスペース、危険な境界線を常に探っています。
「”93696″は”Origin of the Alimonies”のようにオペラやクラシックを想起させる緻密な構成だけど、どちらかというとロックのような安定したグルーヴがある。だから、両方のジャンルが持つすべてを提供できるような作品になればいい」
神の実在について瞑想し、LITURGYのメタル・サイドにフォーカスした”H.A.Q.Q.”と、世界の創造と人類の堕落をクラシック/オペラの音楽言語で表現した”Origin of the Alimonies”。そして、謎の数字を冠した本作”93696″は、その2枚のアルバムのまさにハイブリッドにも思える現行LITURGYの表裏一体。驚くべきことに、ハードコア・パンクの衝動まで帯電した2枚組の巨編は、LITURGYの集大成でありながら、未来をも見つめています。
「バンドの一体感が欲しかったのよ。だから、今回はよりライブに近い音で録りたいと思ったの。もともとこのバンドのバック・グラウンドがパンクだったということもあるんだけど、アルバム自体がこうしたライブ感で作られることが最近非常に少なくなってきているからね」
そうしてラヴェンナによる”ヘヴィネスの再定義”はここに一つの完成を見ます。”93696″には、おそらくこれまでのLITURGYに欠けていた最後のピース、”人間味”、バンドらしさが溢れています。ただ実験を繰り返すだけでは、ただメタルとクラシックをかけあわせるだけではたどり着けない境地がここにはあります。逆に言えば、だからこそラヴェンナは今回、ハードコア・パンクの衝動を必要とし、デジタルからあのスティーヴ・アルビニの手によるアナログの録音に戻したのかもしれません。
例えば、タイトル・トラック”93696″は、LITURGYのトレードマークである複雑かつプログレッシブなリズムとは対極にあって、ダイナミクスの揺らぎや反復の美学で神聖と恍惚を表現。レオ・ディドコフスキーの叩き出す千変万化で獰猛なグルーヴは、ティア・ヴィンセント・クラークの轟音ベースへと感染し、ラヴェンナのメロディズムと雄弁なハーモニーを奏でます。”ポスト・アポカリプス”を紡ぐLITURGYのサウンドは、あるいはもう、ブラック・メタルというよりもISISやCULT OF LUNAの指標する”ポスト・メタル”に近い音像と言えるのかもしれませんね。そしてその一体感は、さながら人の”和”こそが人類の未来であることを示しているようにも思えます。
とはいえ、もちろんこれはLITURGYの作品です。緻密で細部まで作り込まれたニュアンス豊かな楽曲と、想像力豊かなリリックには驚きが満ち溢れています。弦楽器、聖歌隊、フルート、ホルン、ベルを用いて崇高さの高みへと舞い上がる前衛的グリッチ・メタリック・クラシック”Djennaration”を筆頭に、あらゆる楽器、あらゆるジャンルから心に響く美しさを抽出するラヴェンナの才能は健在。そうして彼女は、探求の先にある未知なるものへの寛容さと未来への希望を、自らの作品で祝福してみせたのです。表裏一体から三位一体への大きな進歩。さて、人類はラヴェンナとLITURGYが想望する”天国”へとたどり着くことはできるのでしょうか?
「これは終末的なアルバムよ。そのほとんどは2020年に構築されたものだから、あの年に起こったことすべてがこの作品に影響を与えている。でもね、最終的には希望があるの。最近の世界を見ているとありえないことかもしれないけど…人類の歴史に対するポジティブな未来への憧れがね」

LITURGY H.A.Q.Q. 弊誌インタビュー

LITURGY ORIGIN OF THE ALIMONIES 弊誌インタビュー

“93696”の解説、4000字完全版は DAYMARE RECORDINGS から発売された日本盤のライナー・ノーツをぜひ!

LITURGY “93696” : 10/10

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