COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ANGINE DE POITRINE VOL. Ⅱ】 FUJI ROCK 26′


COVER STORY : ANGINE DE POITRINE “VOL. Ⅱ”

“I built the first microtonal guitar we used myself. I added more frets on a guitar with a saw. The moment we started playing it, we just laughed!”

ANGINE DE POITRINE

「ノコギリでフレットを増やしたんだ」 ANGINE DE POITRINE (フランス語で狭心症の意) は “意味不明” なマイクロトーン・ダブルネック・ギターを自作。そうして今、彼らはネット上で爆発的な人気を博しています。
ジャズ、プログ、マスロックを融合させた彼らの濃密なサウンドは、数百万回の再生回数を記録し、Rick Beato や Cory Wong, Dave Grohl といったミュージシャンを驚愕させながら、音楽世界の話題をかっさらっています。
ケベック出身の型破りなデュオは、まるで別次元、別宇宙から来たかのような、見た目も音色も異彩を放つ自作のマイクロトーン・ダブルネック・ギターを手に、不協和音をバイラルな言語へと昇華させ、先月KEXPで行われた彼らのパフォーマンスは、なんと350万回以上の再生回数を記録。FUJI ROCK 26′ への参戦も決定。
2020年から活動を開始し、ケベックを拠点とするこのデュオは、まさに方向感覚を失わせるようなサウンドを奏でています。彼らの黒と白の水玉模様の衣装と張り子の頭部は、そのミステリアスな雰囲気をさらに高め、ただでさえ異質なサウンドに、催眠的でありながら悪夢のような視覚的アイデンティティを与えているのです。しかし、真の物語は彼らの指先に込められています。
異質な存在の始まりは、やはり異質でした。
「初めてお互いの音楽を聴いたのは、初めて一緒にジャムセッションをした時だった。子供の頃、僕たちは音楽を仕事場というより遊び場のように捉えていてね。午後は地下室で過ごしたり、時にはドラムとアンプを野外に持ち出して自由に即興演奏をしたりしていたんだ。僕たちが結束を固め、緊密な共通の芸術的ビジョンを築き上げてきたのは、カバー曲を演奏することに全く興味がなく、自由な即興演奏を通して一緒に演奏することを学んだからだと思う。
常に、グロテスクな即興演奏で笑いを取ったり、自分たちのオリジナル曲のレパートリーを増やしたりすることを目指していた。あるいは、遊びを通して互いに刺激し合うこともあった。例えば、”おい、こっちの友達に無調のウォーキング・ベースを三連符で弾いてもらって、ギターは奇妙な16分音符のラインで切り込みを入れて、ドラムはスウィングと均一なリズムを交互に刻むんだ。まるでビデオゲームのビートみたいにね” といった具合にね」

当時も今も、二人はギタリスト Khn の家をリハーサルスペースとして使っています。彼ら曰く、そこは “混沌としていて、ちょっと崩れかけている” 場所で、アリやネズミがいて、壁にはカビが生え、屋根からは水が漏れているそうです。しかし、その環境には独特の静けさがあり、それが彼らの奇妙な演奏を可能にしているといいます。「森の中の静かな場所だから、いつでも思いっきり騒げるんだ」
ANGINE DE POITRINE の初の公式コンサートは、シクティミで開催されたパフォーマンスアート・イベントで行われました。そこで二人は、好奇心旺盛でオープンマインドな地元の人々からすぐに支持を得ることに成功します。
「あの最初のショーは、もし僕らが活動を続けたらどうなるかという試金石だった。バンドの構想は、ライブ・パフォーマンスに特化していて、最初はちょっとした冗談だった。でも、僕たちがこれまでやってきたことの多くは、そういう瓢箪から駒的なものなんだ」
ふたりは匿名性について語ろうとはしませんが、バンド名とインスピレーションの源については(ユーモラスに)認めています。
「視覚的にも音響的にも、僕たちの主なインスピレーション源はテングザルだ。バンド名は最初は冗談で出したものだったけど、不協和音による心臓機能不全というアイデアと合致していることに気づいた。それと、いくつかの曲に感じられる切迫感もね」
たしかに、”切迫感” という言葉は、ANGINE DE POITRINE の特徴である、力強く、微分音的で、ループを多用したサウンドとその進化を的確に表現しています。
「僕たちは物事を自然に進化させている。音楽の方向性に厳密なスタイルの境界線を設けないでね。僕たちの音楽的嗜好はロック音楽に深く根ざしているので、常に少し “ヘヴィ” な雰囲気があるかもしれないね。でも、曲を通してさまざまな影響を感じ取ることができるだろう。”Vol. II” では、あまり深く考えずに、さまざまな方向へ進んでみた。そういうこともあるんだってね」

作曲における彼らのモットーは何でしょう?
「僕らのモットーは常に、新鮮な音楽的アイデアを世に送り出し、驚きで脳を刺激しつつ、ある程度シンプルさを保つことなんだ。変拍子をできるだけ聴きやすくしようと常に心がけているんだ。タイトで “複雑な” ビートと、すごく踊れるビートの間を行き来するのが好きなんだ。ギターのように、緊張と解放のパターンを作り出すようにしているんだよ」
とはいえ、考えすぎてはいないようです。
「僕たちは、象徴主義にはあまり重きを置いていないんだ。バンド全体として、深い概念的な思考プロセスは存在しなくてね。みんなが耳にする、目にするすべてのものは、常に僕たちの独特なユーモアのセンスの産物であり、それが僕たちの共通の創造空間の根底にあるものだ。つまり、音楽に合わせて体を揺らし、笑い、奇妙で不条理、あるいは驚きに満ちた美的表現(視覚的なものも音楽的なものも)を通して、喜びの状態に到達するのが目的なんだ」
独特の衣装も偶然の産物で、強いていえばリスナーの驚きを誘うため。
「衣装は、初めてのライブのために即興で作ったんだ。アンディ・カウフマンみたいな、地元の観客を驚かせるためのちょっとしたイタズラみたいなもので、ライブを1回や2回、あるいは3000回やるかどうかも分からなかったからね。最初は冗談のつもりだったんだ。僕たちはジョークが大好きで、アイデンティティの一番の源だからね。何事も少し軽快で楽しいものが好きだ。時が経つにつれ、僕たちのバンドがちょっと風変わりだということを受け入れるようになってきた。そして今では、それが別の意味で役に立っている。プライベートとステージ上のペルソナを切り離し、匿名性を保つことができるからね」

彼らのサウンドの中心にあるのは、自作のマイクロトーン楽器。ストラトキャスター型のダブルネックギターで、エレキギターとベースの中間のような形状をしています。このギターは手作業でフレットを追加することで改造されていて、標準的な西洋音階の音程間の音程を奏でることができるのです。
Jack White のギターとベースを融合させた “アグリー・スティック” を彷彿とさせるこのギターは、ギターとベースを兼ねたダブルネック構造で、その特徴はとんでもなく奇妙なフレット間隔にあります。Bumblefoot のフレットレスのように、これまでにも興味深いダブルネック・ギターはいくつか存在しましたが、これは全く異なる存在かもしれません。そうして、実験的に始まったものが、あっという間にバンドの代名詞となりました。
「僕たちが最初に使ったマイクロトーン・ギターは、自分で作ったんだ」と、ドラマーの Klek de Poitrine は告白しています。「ノコギリを使ってギターにフレットを追加したんだよ。でも演奏し始めた瞬間、みんなで笑ってしまったんだ。でも、僕はギタリストじゃないから、楽器のポテンシャルを十分に引き出せていなかった。それで、Khn に持って行って、”これ、絶対試してみて。全く意味不明だけど” って言ったんだ。そしたら、演奏し始めた瞬間、不協和とそれぞれの音の近さに、みんなで大笑いしたよ」
その “不協和” こそが重要でした。インドと日本の音楽伝統からインスピレーションを得たこのデュオは、四分音やマイクロインターバルを装飾としてではなく、楽曲の基盤として活用しているのですから。
プログレッシブ・ロックとモダン・ジャズをバックグラウンドに持つギタリストのKhnは、ギターを異国情緒あふれる目新しい楽器としてではなく、ハーモニー言語の拡張手段として捉えています。
「四分音を使うことで、半音階的なアイデアを拡張し、より緊張感を高めることができる。そうすることで、Frank Zappa のようなフレージングに近いものになるんだけど、僕らはさらにその先へと突き詰めている。結局のところ、僕たちが作る曲のほとんどは、John Scofield の “Überjam” や Miles Davis の “So What” のような曲とハーモニー的に比較できるだろう」

Klek がマイクロトーンに惹かれた理由は何だったのでしょう?
「ドラマーだけど、昔から “東洋音楽” 、つまりインド音楽や日本音楽などが大好きなんだ。音符が増えることで、より複雑な響きが生まれるように感じてね。四分音や三分音がもたらす深みに、いつも魅了されてきたよ。音符間の緊張感や不協和をこよなく愛する僕たちにとって、その方向へ進むのはごく自然な流れだった」
ギタリストの Khn はまず、アラビアの響きに惹かれていました。
「最初は、アラビア風の響きをどうにかして出そうとしていたんだ。でもすぐに、よりモード的なアプローチへと移行し、非常にステレオタイプで、結局は自分の文化ではないものを連想させるようなものに陥ることなく、不協和音の可能性を最大限に活用しようとしたね。それに、僕自身の音楽的背景は、プログレッシブ・ロック、モダン・ジャズ、そして現代音楽に深く根ざしている。僕にとって、四分音をもっとキュビズム的、というか、Frank Zappa 風のフレーズで使うのはごく自然なことなんだ。四分音を使うことで、倍の長さの半音階的なアプローチを探求し、より緊張感を高めることができる」
また、トルコのロックや、日本の伝統音楽、そして KING CRIMSON が “Dicipline” で探求したインドネシアのガムラン音楽も影響を受けていると述べています。しかし、時が経つにつれ、彼らはこの独特な楽器を本当の意味で自分たちのものにしつつあります。
「僕たちは、ロックのグルーヴ美学に深く根ざした、独自の音楽言語を探求しているんだ。まだそれほど長くこの手法に取り組んできたわけじゃない。ギターを弾き始めて20年になるけど、マイクロトーンを探求したのはせいぜい4、5年くらいかな。まさに今、僕たちが開いたばかりの扉なんだ」

Klek のお気に入りのバンドはなかなかに通好み。
「僕の生涯のお気に入りは、70年代のプログレッシブ・ロック・バンド、GENTLE GIANT だ。彼らは本当に変人で、プログレッシブ・ミュージックのオタクだった。BLACK SABBATH の前座を務めたんだけど、あまりにも奇妙だったから観客はブーイングしたんだ。観客は準備ができていなかった。ヘヴィ・メタルのリフを求めていたのに、GENTLE GIANT はバイオリンやトランペット、中世の衣装で現れたんだ(笑)。
あと、DUA LIPA は本当に最高にイカしたグルーヴを生み出すと思う。Calvin Harris の音楽全般も、本当に素晴らしい名曲ばかり。過小評価されているバンドといえば、僕の友人で LE PARC というバンドのメンバーにもエールを送りたいね。彼らは僕たちより少し若いけどとてつもない実力派だよ。彼らは一流のプログレッシブ・ロックを演奏する。彼らが国際的にブレイクすることを願っているんだ。少なくとも、彼らが望むだけの名声を得ることをね。だって、本当に、彼らはブレイクするに値するんだから」

Khn は複雑な音楽に没頭する時期は終わったと考えています。
「ほら、誰しもがもっと凝った、もっと複雑なものに共感しようとする時期を経るじゃない。大学で音楽を勉強した後、その時期は終わったよね。今はポップをたくさん聴いているんだ。実は、僕も Calvin Harrisという名前が頭に浮かんでいて、リアーナや DUA LUPA 、その他 Calvin がプロデュースした大物ポップスターたちのヒット曲はどれも最高なんだよな。
過小評価されているバンドなら LOUNGE LIZARDS かな。有名ではないけれど、世界中のアンダーグラウンドシーンでは認知されているバンドだからね。本当にユニークで、他に類を見ない個性を持ったバンドなんだ。ジャズの美学を取り入れつつも、ポップ・ロックのスタイルで演奏する。そして、そのエネルギーはパンクに近い。初めて彼らの音楽を知った時は、本当に衝撃を受けたよ。ギタリストの Arthur Lindsay のギターの弾き方は、ジャズとは全く関係ないんだ。彼はノイズシーン出身で、意味不明なリフを思いつく。まるで音色や音符の概念を拒否しているかのようだ。彼は明確に定義できる音符やメロディーを演奏しない。だから彼のギター演奏が大好きだ!
僕が最も誇りに思うアーティストは、ケベックのバンド、DEUX POUILLES EN CAVALE で、彼らのライブでのルーパーの使い方に本当に感銘を受けた。彼らは僕たちにデュオで演奏するよう刺激を与えてくれたね。僕は彼らのツアーに同行し、彼らが演奏するほぼすべての場所に行った。彼らを見るためにヒッチハイクまでしたんだ」
Rick Beato によれば、ANGINE DE POITRINE ほど彼の受信箱に大量のメールが殺到したアーティストは他にいないそうです。
「彼らについてのメールが1日に25通届き、コメントは何千件にも上っている。彼らの演奏を聴くと、”一体どうやって演奏しているんだろう?” と驚かされてしまうよね。これが未来の音楽のサウンドだと私は想像しているよ」
4月2日にセカンドアルバム “Vol. II” をリリースした彼らの使命は明確です。マイクロトーン音楽を、単なる珍しい音楽ではなく、完全に確立された音楽のひとつとして、そして Jeff Beck がこれまで探求してきたマイクロトーンの限界を超えて、メジャーへと押し上げることです。
「目標は、マイクロトーンを他の音と同じように使うこと。装飾としてではなく、言語そのものとして使うことだよ」
彼らの奇妙で不協和音に満ちた世界は、2026年を通してさらに拡大していくことでしょう。

参考文献: GUITAR WORLD :microtonal guitar has been the key to their unlikely success

NOISE MAG:ANGINE DE POITRINE: A DISCUSSION WITH THE INFECTIOUS QUEBEC BAND

FLOOD MAG:Angine de Poitrine Put the “Big” in Ambiguous

FUJI ROCK FESTIVAL 26′

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