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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCHSPIRE : BLEED THE FUTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN LAMB OF ARCHSPIRE !!

“As a Band We Always Try To Write Music That Is About 10% Above Our Abilities, So That Means Everyone Is Constantly Pushing Themselves To Improve.”

DISC REVIEW “BLEED THE FUTURE”

「”Stay Tech” という言葉は、僕たちのバンドが目指すものをすべて体現している。だから、”Stay Tech industries” という想像上の会社名からこの言葉を残して、クールなロゴを作ってもらったんだよ。今ではバンド全員がこの言葉をタトゥーにしているし、同じタトゥーを入れている人にもあちこちで会うんだよ!」
STAY TECH!テクニカルでいようぜ!をモットーとするカナダのテクデス機械神 ARCHSPIRE。世界で最も速く、世界で最もテクニカルで、世界で最も正確無比なこの “メタル” の怪物をシーンのリーダーに変えたのは2017年の “Relentless Mutation” でした。アルバムのリリースを終え、OBSCURA の日本ツアーに帯同した ARCHSPIRE。口をあんぐり開けて立ち尽くし、彼らを見つめていた多くの観客を筆者は目撃しています。それはまさに、新時代の到来を告げる啓示といった類のライブ・パフォーマンスでした。
「バンドとして、僕たちは常に自分たちの能力の10%くらい上のレベルの音楽を書こうとしているんだ。つまり、このバンドでは誰もが常に自分を高めようとしているんだよ」
そうして、名優ジェイソン・モモアを含む何万もの新たなファンを獲得し、地球上をツアーしてきた ARCHSPIRE は、あの画期的なアルバムをさらに先鋭に研ぎ澄まし、別の次元へと到達させました。”Bleed The Future”。文字通り、血反吐を吐くようにして紡ぎ出した彼らの未来は、目のくらむようなテクニックと、複雑怪奇をキャッチーに聴かせるバンドの能力が光の速さで新たなレベルへと達しています。
「僕にとって8弦ギターはほとんど6弦と同じにしか見えないから、コード・シェイプやスケールはすべて10代の頃に学んだものを流用している。相棒の Tobi も8弦を弾くようになったから、僕たちは完全に “音域の広い” バンドになったんだ」
“Bleed The Future” という無慈悲な殺戮マシンの心臓部は、Tom Morelli と Dean Lamb の8弦ギター。雪崩のように押し寄せるブラスト・ビートと、ワープ・スピードで飛び交うテクニカル・エクスタシーを背に、5足と5足の超速スパイダーはアクロバティックにメロディックに指板の宇宙を踊り狂います。二人にとって、きっと6弦の指板は窮屈すぎるのでしょう。一方で、趣向を凝らしたクリーンなパッセージも秀逸。ともかく、他のバンドが2つの音を出す間に、彼らは少なくとも5つの音を繰り出します。
「デスメタルは非常に過激な音楽だから、リスナーが疲れずに “多くのもの” を聴くことは難しいと考えているんだ。だから僕たちの意見では、32分くらいがちょうどいいんだよね」
32分という短さに、想像を絶するスピードで、長い歌詞を含めて様々なものが詰め込まれた “Bleed The Future”。Tech-metal の世界では非人間的なテンポで演奏するバンドも少なくありませんが、さすがにこれは別物です。クラシックの美麗美技と獰猛超速のメタロイドを行き来する “Drone Corpse Aviator” がアルバムの招待状。BPM360 のタイトルトラック “Bleed The Future” で、ボーカリスト Oli Peters がさながら Busta Rhymes のように重たい言葉の弾丸を正確に連射すれば、モダン・メタルメタル界最速ドラマーの一人として知られる Spencer Prewett は、”A.U.M” で BPM を400まで到達させるだけでなく、千手観音の威光を纏いながら Gene Hoglan や Tomas Haake と同等の才能を証明します。
“A.U.M”, “Reverie on the Onyx” といった楽曲の、サンプリングやクラシカルなマテリアルをメインストリームやヒップホップのやり方で吸収し、デスメタルに昇華させる ARCHSPIRE の哲学は実に新鮮で傑出していますね。”Abandon The Linear’ で炸裂する Jared Smith のクラシカルかつグルーヴィーなベースソロも極上。そうやって彼らはフックやキャッチーな音の葉を多種多様に盛り込んでいくのです。
カナダはこれまでにも優れたテクデスの綺羅星を産み落としてきました。CRYPTOPSY, GORGUTS, BEANEATH THE MASSACRE, BEYOND CREATION…その中でも APCHSPIRE は最高傑作にして、テクデス・ルネサンスの最先端に位置しているように思えます。現時点で、彼ら以上のリーダーは存在しないでしょう。威風堂々、この威厳。この異次元。
今回弊誌では、ギター・マスター Dean Lamb にインタビューを行うことができました。「僕たちのスタイルにラップを加えることは、最初からの計画だったんだ。僕たちは皆、Tech N9ne をはじめとするスピード系ラッパーが大好きだから、2009年に Oli をバンドに誘ったときにラップに影響を受けたデスメタルというスタイルにしたいという話をしたんだよね」 Dave Otero のプロダクションも完璧な一枚。”メロディックなボーカルなんて絶対にやらない”。どうぞ!!

ARCHSPIRE “BLEED THE FUTURE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OPHIDIAN I : DESOLATE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Daníel Máni Konráðsson OF OPHIDIAN I !!

“Icelandic Music All Shares a Similar Undertone That Probably Has Everything To Do With The Influence Of The Country Being Essentially All-consuming. There Are Feelings That Our Country Evokes Within Everyone That Experiences It, And Those Feelings Are Very Easily Translated Into Art Of All Sorts.”

DISC REVIEW “DESOLATE”

「ここでの生活には苦難や浮き沈みがつきものなんだ。アイスランドの音楽はどれも同じようなトーンを持っているんだけど、それはおそらく、この国がもたらす影響が本質的にすべてを包み込んでいることと関係しているんだ。この国を体験した人たちの中には、この国が呼び起こす感情があって、その感情はさまざまな芸術に変換されているよ」
アイスランドほど自然の恩恵と脅威を等しく享受する場所は世界中でもほとんどないでしょう。火山活動が活発で、大部分が凍りついた不毛の島国。しかしその威容は壮観を通り越して荘厳で、馬や羊、新鮮な魚と魅力的な特産品はどれも自然の恩恵を受けています。ゆえに、SIGUR ROS, Bjork, SOLSTAFIR といったアイスランドの音楽家は静謐で、荘厳で、美しく、しかし時にダークで荒涼としたアトモスフェリックな世界を好む傾向にあるのでしょう。OPHIDIAN I はその両極のコントラストを一層際立たせるテクニカル・デスメタルの英俊。
「実はこのアルバムの歌詞は、僕たちが生まれ育った世界とよく似た世界を舞台にしているんだ。風景や厳しい天候という点では似ているんだけど、それでも全く異なるものなんだけどね。
多くの点で、この背景は僕たちがバンドのサウンドについて感じていることでもあるんだよね。非常にアイスランド的でありながら、外国的でもあり、僕たちの世界とほとんど別のパラレル・ワールドを並置したようなサウンドだよ」
OPHIDIAN I がアイスランドの光と陰をことさら強調できるのは、さまざまな影響を並行世界としてその音楽に住まわしているからなのかもしれませんね。もちろん、彼らの根幹にあるのは NECROPHAGIST, OBSCURA, GOROD, PSYCROPTIC, SPAWN OF POSSESSION といったテクニカル・デスメタルの遺伝子ですが、IN FLAMES や DARK TRANQUILLITY の叙情と哀愁、さらに OBITUALY や MORBID ANGEL の地を這うような混沌まで、すべてをその血肉とするからこそ起伏に富んだ故郷の自然を深々と描き出せるのでしょう。
「テクニカルな要素を活用することで、優れたソングライティングの特性をさらに高めることができるんだよね。だから、僕たちは限界を超えることを目標にしていたとも言えるけど、そこにスピードや難易度といった明確な方向性はなかったんだよね。とはいえ、結果的にはとても速く、とてもテクニカルなアルバムになったんだけど」
つまり、OPHIDIAN I の目標は、記憶に残るテクデスの創造でした。NECROPHAGIST の “Epitaph” 以来、もしくは OBSCURA の “Cosmogenesis” 以降、テクデス世界には究極の技巧とスピードを求める有象無象が大量に現れては消えていきました。その中に、記憶に残るリフやメロディーがいったいいくつあったでしょうか?そんなビシャス・サークルの中で、彼らはBPMやテクニックの限界を超えることで、作曲の完成度やリフのインパクトを向上させる離れ業をやってのけたのです。それは、究極の技術で究極のメロディーを引き出す極北の魔法。
氷河期の冬よりも混沌とした白銀に、赤々と燃え狂う噴火、そして穏やかな海と空の青。そう、”Desolate” の10曲はさながらジェットコースターのように、メロディーとフックをたずさえてアイスランドの全貌を描いていきます。
ビデオゲームのような8-bitアタック “Spiral To Oblivion”、フラメンコのアコースティックなイントロが胸を打つ “Captive Infinity”。サプライズや音の洪水から逃れる時間も巧妙に用意、最終的に技術はすべてメロディーへと集約されていきます。”Enslaved In A Desolate Swarm” は顕著ですが、テクデス天国カナダの MARTYR, BEYOND CREATION, ARCHSPIRE 譲りの知の構成力を磨いているのも実に魅力的ですね。
今回弊誌では、ギタリスト Daníel Máni Konráðsson にインタビューを行うことができました。「僕は、このジャンルにおいて演奏家の一面に拘りがあるんだ。僕たちは、プレイヤーや彼らの貢献に多大な敬意を払っているからね。このジャンルには、バンドやミュージシャンが常に向上しようとし、リリースするたびにより良い、より速い音楽を作ろうとする健全な競争意識があるんだから」 どうぞ!!

OPHIDIAN I “DESOLATE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PESTILENCE : EXITIVM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PATRICK MAMELI OF PESTILENCE !!

“It Is Not a Secret I love Allan Holdsworth, Tribal Tech, Chick Corea And Steve Coleman. They Opened Up My Musical Horizons.”

DISC REVIEW “EXITIVM”

「私はどのカテゴリーにも属したくなかった。ありとあらゆるルールで自分を制限してしまうからね。DEATH がテクニカルだったのは、Sean と Paul がバンドに加わった時だけだよね。加えて私たちも、決して “スーパー・テクニカルだとは思われていなかったけど、このジャンルに新しいスタイルを生み出したのはたしかだよ」
DEATH, CYNIC, ATHEIST, NOCTURNUS, ATROCITY, GORGUTS, DEMILICH。80年代後半から90年代初頭にかけて、デスメタルやスラッシュメタルを独自の牙で咀嚼し、突然変異の魔物を生み出す “奇妙な” メタルの波がエクストリーム・ミュージックの歴史を変えました。
POSSESSED に端を発した彼らの異端は、決して現代のいわゆるテクニカル・デスメタル “Tech-metal” のように、レールに乗ったシュレッドが飛び交う狂喜乱舞の硬質な宴ではなく、存在自体が阿鼻叫喚で突拍子も無いアイデアを現実にしてしまう魑魅魍魎の無礼講だったのです。そこにルールは存在しませんでした。
「私が Allan Holdsworth, TRIBAL TECH, Chick Corea, Steve Coleman を愛しているのは秘密でもなんでもないよ。彼らが私の音楽的な地平線を広げてくれたんだ」
オランダから新たなメタルの感染爆発を呼んだ疫病 PESTILENCE の無礼講は、実に粋な演出でした。そして彼らはその “傾奇者” の精神を今に至るまで貫き通しています。ジャズとメタルの蜜月といえば、まず CYNIC を思い浮かべるファンも多いでしょう。しかし、89年にリリースされた PESTILENCE の2ndアルバム “Consuming Impulse” を聴けば、奇抜なリフの発明のそばにジャズや現代音楽の知性が投影されていることに気づくはずです。その場所から、シンセサイザーやインタルードを活用したシアトリカルとも言える傑作 “Testimony of the Ancients”, アトモスフェリックなホールズワース・イズムを継承した “Spheres” と彼らの世界は広がっていきました。
「私が過去に一緒に仕事をしたほとんどの音楽家たちは、他に自分のバンドやプロジェクトなどに専念していることを理解してほしいと思うんだ。彼らは、1枚のアルバムと1回のツアーのためこのバンドに滞在し、その後は自分の仕事をするために去っていくというわけさ」
それでも PESTILENCE をソロプロジェクトではなくバンドであると断言する奇才 Patrick Mameli。実際、流動的なメンバーを利用しながら休止と再開を繰り返すペストの脅威は、時を経るごとに増しているようにも感じられます。15年の眠りから目覚めプログデスの威厳を示した “Resurrection Macabre”、8弦ギターの導入で難解と異端を極めた “Doctrine”、ファンの長年の忠誠に報いた “Hadeon”。ex-CYNIC の Tony Choy, DARKANE の Peter Wildore, 長年の相棒 Patrick Uterwijk といった達人たちの恩恵にも恵まれて、PESTILENCE に聴く価値のない作品など一枚たりとも存在しないのです。
「たしかに、シンセやサウンドスケープの使い方は “Testimony of the Ancients” と似ている部分もあるかもしれない。だからといって同じような音楽だとは言えないだろうな。私が今使っているシンセやコードは、あの時よりより進化していて、音楽的な有効性が高いのだから」
そんな彼らの現在地が “Exitivm”。ラテン語で “破壊” と名づけられたアルバムは、再度過去を破壊して新たな音の葉を紡ぎ出す再創造の楽典。”Testimony of the Ancients” で選択されたギターの歪みとキーボードを多用したアプローチの質感、”Spheres” のアトモスフェリックなコード・ヴォイシングを受け継ぎながら、楽曲をコンパクトでグルーヴィーに保ち、その偏執的でしかし弾力に満ちた不安の塊は、環境破壊、精神の破壊、民主主義の破壊を扱った “Exitivm” なテーマと素晴らしく調和していくのです。ex-GOD DETHRONED のドラマー Michiel van der Plicht によるシャープでブルータルなドラミングが、このソリッドな作品の本質を代弁していますね。
今回弊誌では、Patrick Mameil にインタビューを行うことができました。「ようやく、政府がクリエイティブな人々、音楽家、画家、表現者に対してどれほど無関心であるかを悟ったよ。私たちはかなり長い間、資金援助も何もない状態で監禁されていたんだからね。Chuck (Schuldiner) が言うように、まさに彼ら権力の “Secret Face” (DEATH の楽曲、”Human” 収録) 秘密の顔を示していたと思うよ」 どうぞ!!

PESTILENCE “EXITIVM” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE BEAST OF NOD : MULTIVERSAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE BEAST OF NOD !!

“Some Of Paul’s Favorites Are Yu Yu Hakusho, Hunter x Hunter, And One Piece. He Is Also a Very Big Fan Of Zelda, Final Fantasy, And Castlevania Games, Often Wearing a Zelda Shirt On Stage.”

DISC REVIEW “MULTIVERSAL”

「僕たちの音楽はすべて、同じ多元宇宙と、その中のキャラクターや出来事をテーマにしているんだ。宇宙の運命がかかった銀河間の紛争に備える必要から始まり、その紛争に参加し、悪の存在であるカオスが解き放たれて宇宙を終わらせる。その後、新しい多元宇宙の誕生に移り、多元宇宙の守護者が設立され、次の潜在的な脅威が紹介されていくよ」
ベイエリアの銀河系間デスメタル・バンド THE BEAST OF NOD は、その”多次元宇宙” という壮大なアルバム・タイトルからして無限の可能性を秘めています。戦争とサバイバルをテーマとした銀河系 SF の大作として、いくつもの宇宙にまたがる未曾有のドラマがメタルサウンドで描かれるカタルシス。間違いなく、このインターギャラクシーな獣の野心は、メタル世界を多次元の “目覚め” へと誘うはずです。
「幽遊白書、ハンター×ハンター、ワンピースなどは大のお気に入りだね。また、ゼルダ、ファイナルファンタジー、悪魔城ドラキュラといったゲームの大ファンでもあり、ライブ・ステージではよくゼルダのTシャツを着ているよ」
原子物理学者で MIT の博士号を持つギタリスト Dr. Gore と、バイオテック業界で働いていて、生物学と化学のバックグラウンドを持っている Paul Buckley を中心人物とする THE BEAST OF NOD は、その学問的知識の泉とゲームやアニメへの愛情を自らのメタル作品へと惜しみなく注ぎ込んでいます。
Land of Nod の伝承の敵ヴァンパイアに焦点を当てた、アクション満載の SFメタルデビュー作 “Vampira” には、悪魔城ドラキュラやロックマンに影響を受けたと思われるコミックブックが付属していました。そうしてリスナーは、宇宙の運命がかかった銀河間の紛争、悪の存在であるカオスと宇宙の終焉、新たな多元宇宙の誕生へより深く没頭して理解することが可能となったのです。ある意味、あの素晴らしき DETHKLOK は彼らの雛形でしょう。
「Joe Satriani は、Dr. Gore が本格的にギターを弾き始めた頃に最も影響を受けたミュージシャンの一人なんだ。サッチ以外で影響を受けたのは、Reb Beach、Tosin Abasi、そして Yngwie Malmsteen だろうね。また、バッハをはじめとするバロック音楽の作曲家にも大きな影響を受けているよ」
SFやコミックだけでなく、”Multiversal” はギタリストの天国としても充分に野心的です。Joe Satriani, Michael Angelo Batio, ABIOTIC の John Matos, WORMHOLE の Sanjay Kumar, EQUIPOISE の Nick Padovani, BLEAK FLESH の Matias Quiroz、さらに Michael Angelo Batio, Joe Satriani といった大御所までがゲストとしてシュレッドを繰り広げる作品には、さながらアステロイドベルトのように印象的なシュレッドが所狭しと敷きつめられています。まさにシュレッドの小宇宙。
「”Tech-death” の領域に入ることで、より速く、より複雑な音楽を演奏するというチャレンジを楽しむことができたし、プログの影響を受けることで、よりユニークなサウンドを開発することができたと思う」
何より、宇宙から降りそそぐ聴覚の電磁波は絶対的です。指さばきが音速を超える複雑怪奇なギターリフ、異次元で巨大なグルーヴのスペクトル、地球外のエイリアン・ボーカル、近未来的な空間を演出するシンセサイザー。BETWEEN THE BURIED AND ME のプログレッシブな審美眼、BORN OF OSIRIS のアトモスフェリックな美宇宙、THE HUMAN ABSTRACT のクラシカルな素粒子、ANIMALS AS LEADERS のユニークな星間風、そのすべてはダークマターのようにアグレッシブに結合して、THE BEAST OF NOD という巨大な宇宙船までリスナーをトラクター・ビームで誘導していくのです。
今回弊誌では、THE BEAST OF NOD にインタビューを行うことができました。「僕たちは自分たちをインターギャラクティック・デスメタル・バンドと呼んでいるんだけど、作家や映画だけでなく、アニメやコミックにも大きな影響を受けているんだ」どうぞ!!

THE BEAST OF NOD “MULTIVERSAL” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ABIOTIC : IKIGAI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN MATOS OF ABIOTIC !!

“I Was Doing Some Reading And Fell In Love With The Concept Of Ikigai. In These Challenging Times, I Know a Lot Of Us Are Struggling With Finding Our Reason For Being, And I Wanted To Write an Album About That Struggle, Pain, And Perseverance.”

DISC REVIEW “IKIGAI”

「日本についての本を読んでいたら、”Ikigai” というコンセプトに惚れ込んでしまったんだよ。この厳しい時代に、僕たちの多くは自分の存在理由を見つけ出すのに苦労していると思う。僕はそんな苦労や痛み、忍耐についてのアルバムを作りたいと思ったんだよね」
2010年の結成以来、フロリダで最も急速に成長を遂げたデスコア/テクデスのハリケーン、ABIOTIC。5年間の活動休止で彼らは内面的にも音楽的にも遥かな進化と成熟を遂げ、彼らの存在理由、”生き甲斐” を叩きつけてみせました。
「それぞれの楽曲は、生き甲斐というコンセプトを異なるアプローチで表現している。5年の歳月を経て、宇宙やエイリアンについての作品は今でももちろん好きだけど、生き続ける理由を見つけるのに苦労するような時代に、感じられるもの、親近感を持てるものを書きたいと思ったんだ」
コロナ・ウィルスが日常を、社会を、そして音楽業界全体を破壊し続けていることは言うまでもありません。人の心まで侵される現代の恐怖の中で、ABIOTIC が復活を遂げたのは決して偶然ではないでしょう。デビュー作の “Symbiosis” や、プログレッシブ・スペース・オデッセイ “Casuistry” で宇宙や地球外生命体を探求した彼らは、遂に地上へと降り立ち、人類の現状を憂い、人と繋がりながら悲しみ嘆き、共感し、空想的なものよりも優先すべきテーマを見つけました。
「あれほど才能のあるバンドが多数所属するレーベルの一員になれて嬉しいね。アーティスト自身が運営するこのレーベルは、まるで家族のように感じられるんだ」
Metal Blade から Artisan Era へのレーベルの移動、SCALE THE SUMMIT の Killian Duarteとドラマーでありエンジニアでもある Anthony Simone を含む再編成されたラインナップ、さらに THE BLACK DAHLIA MURDER, ARCHSPIRE, ENTHEOS, FALLUJAH といった錚々たるバンドからの錚々たるゲスト陣を見れば、このバンドがメタル世界における “Symbiosis” “共生” を実現していることに気づくでしょう。そして、一欠片の獰猛も損なうことなく、プログレッシブ・ジャジーな奇譚と和の旋律が “共生” する9通りの “Ikigai” は、これまで以上に共感を誘う傑作に違いありません。
和の心、メロディー、情景、情緒を存分に取り入れた開幕の “Natsukashii”, “Ikigai” は、さながらデス・メタルで綴る日本の歴史絵巻。正確無比なテクデスの猛威に浸透する大和の雅は、リスナーの心身に映像を投影する新生 ABIOTIC の哲学を承知しています。
「不寛容さに直面しているトランスジェンダーとしての人生、依存症患者としての人生、メンタルヘルスと闘っている虐待を受けた子供としての人生、気候変動によって住処が破壊されたフクロウとしての人生など、無限の人生は苦悩しながらも、その苦悩に耐えているんだよね。そして、16世紀の日本の野山で息を引き取る前に、彼はその生のつながりに自分の目的を見出すわけさ」
アートワークの侍は、”Ikigai” で切腹を遂げる今際の際に、21世紀におけるさまざまな人生の苦悩を走馬灯のように目撃し、共感します。
トランスフォビアによる虐待と自死をテーマとしたリード・シングル “Souvenir of Skin” のように、侍が目にする苦痛はすべてが21世紀のもの。切腹の果てに訪れるやるせない未来は、重さを極めながら記憶に残る ABIOTIC の哀しみと濃密な二重奏を描いていきます。さながら、Travis Bartosek の重低咆哮と、TBDM の Trevor の雄叫びがシンクロするように。
FALLUJAH の Scott Carstairs が嗚咽と希望を壮大なスケールのギターソロで表現し、バンドがソングライティングの粋を尽くして GORGUTS の異形やメロディーを重ねる “Horadric Cube” は傑出した瞬間ですし、CYNIC の宇宙と諸行無常が ex-THE CONTORTIONIST の Jonathan Carpenter の美声によって無限に広がる “Grief Eater, Tear Drinker” はアルバムの痛みそのものと言えるでしょう。
重厚なストリングスに導かれる “Gyokusai” で侍は生きる意味を見出します。ただし、すべては遅すぎました。死はもう始まっていました。辿り着いたのは永遠の休息。きっとリスナーには、手遅れになる前に、何かを見つけて欲しいと願いながら。
今回弊誌では、ギタリスト John Matos にインタビューを行うことができました。「アルバムの制作とアートワークは “Ghost of Tsushima” が発売される前に完了していたんだけど、人々が僕たちのアートワークと音楽をあの最高のゲームに関連付けてくれるのは素晴らしいことだよね」 どうぞ!!

ABIOTIC “IKIGAI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【Eximperituserqethhzebibšiptugakkathšulweliarzaxułum: Šahrartu】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Eximperituserqethhzebibšiptugakkathšulweliarzaxułum!!

“When You Can Be Sentenced To 15 Years On a Fictitious Case, Without Any Evidence, Just Because You Think Differently Than They Tell You….Damn It, This Is The Plot For Any Historical Film Or Medieval Novel. But Not The Realities Of The 21st Century!”

DISC REVIEW “SAHRARTU”

「政府と違う考えを持っているだけで、何の証拠もなく、架空の事件で15年の刑を宣告される。取るに足らないことで、傭兵に頼って国民を恐怖に陥れ、法外な恐喝を行う…ちくしょう、これは歴史映画や中世の小説の筋書きだよ。21世紀の現実なわけがない!」
欧米とロシアが出会う場所、ベラルーシはまさに今、混沌の最中にあります。ヨーロッパ最後の独裁者”とも呼ばれるソ連の残り香、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領による圧政と不正選挙、そして人権侵害は、多くの国民の怒りを招き大規模な抗議活動へと発展。治安部隊の激しい応戦、弾圧で死傷者が出る事態となりました。そうして、これまで親ロシアの傾向を持っていた国と国民自体、欧州への憧れを隠さない新派が増え、分断を招いているのです。
「今この偉大な分裂の瞬間に、我々の社会は目覚め、根本的な変化の必要性を認識することになった。躍進のためには、深遠な改革、すべての分野の再構築、そして最も重要なことは、考え方の変化が必要だね。松下幸之助のような思考と倫理観を持った明日のリーダーを育成することはまだできていない」
Eximperituserqethhzebibšiptugakkathšulweliarzaxułum (以下 EXIMPERITUS) は明らかにベラルーシの新たな流れを汲んでいます。そして、デスメタルの松下幸之助を標榜するバンドとも言えるのです。
「僕たちは、どんなジャンルの定義にも執着したくないんだよ。実験し、新しい地平を発見し、あらゆる方向に発展し、改善していくことに興味を持っているんだ。」
EXIMPERITUS は、その最先端の技術とワイルドな美学の両面から、デスメタルシーンで確実にその名を知らしめてきました。最新作 “Šahrartu” では、彼らが築き上げてきたアンダーグラウンドの呪術と謎をより大きな世界へ解き放とうとしています。デスメタルの顔を変えるために。
「簡潔に言って、僕たちの個人世界を作っている宇宙の総称なんだ。これは、初期の文明の消滅した言語からいくつか抽出し、構成した造語と言ってもいいだろう。そうやって永遠に過ぎ去った時代とのつながりを感じているんだ。」
EXIMPERITUS は真の意味での密教でした。ゆえにオカルトや古代東洋の神話、そして宗教に対する彼らの魅力を象徴する長い名前を作り上げました。51文字のフルネームは、ラテン語、古代エジプト語、シュメール語、アカカド語をブレンドしたもので、魔法の呪文にも思えます。そうして、歌詞と曲名すべてをベラルーシの古語で綴ったデビュー作 “Prajecyrujučy sinhuliarnaje wypramieńwańnie daktryny absaliutnaha j usiopahłynaĺnaha zła skroź šaścihrannuju pryzmu Sîn-Ahhī-Erība na hipierpawierchniu zadyjakaĺnaha kaŭčęha zasnawaĺnikaŭ kosmatęchničnaha ordęna palieakantakta, najstaražytnyja ipastasi dawosiewych cywilizacyj, prywodziać u ruch ręzanansny transfarmatar časowapadobnaj biaskoncaści budučyni, u ćwiardyniach absierwatoryi Nwn-Hu-Kek-Amon, uwasabliajučy ŭ ęfirnuju matęryju prach Ałulima na zachad ad ękzapłaniety PSRB 1620-26b” はさらに長い文字の羅列も相まって大きな注目を集めたのです。
「英語に訳すと、”センナケリブの六面体プリズムを通した、絶対的で全てを吸収する悪の教義の特異な放出を、宇宙工学的な秩序を持つ古接触の創始者たちの星座弧の超曲面に投影し、前枢軸文明は外惑星PSRB 1620-26bの西側のエーテル物質にアルリムの灰を具現化したヌンフケクアモンの展望台の塔の中で、未来の時間における無限大の共鳴トランスを作動させる” となる。このアルバムは、ピタゴラス、クラウディウス・プトレマイオス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミコワジ・コペルニク、ジョルダーノ・ブルーノ、フランシス・ベーコン、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートン、そして過去の他の評論家のためのルーツと知識の源に関する論説と言えるだろう。」
重要なのは、これが話題作りの茶番などではなく、すべて魔術、歴史、物理学、神話、哲学といった膨大な知識に裏付けされている点でしょう。同じことは、彼らの音楽にも言えるはずです。巨大な名に恥じない巨大な才能。
EXIMPERITUS のデスメタルは、”テクデス” ラベルの無機質な超技巧バンドというよりは、NILE や ORIGIN, NECROPHAGIST のような怨念と歴史が宿る残忍な英傑との共通点が多いようにも感じられます。リフへの強い拘りがが常にオールドスクールとの繋がりを意識させを感じさせ、東洋的なスケールや中東のイメージでオカルトの神秘や古代のロマンに音及する。予想不可能で広がりのある重音のパルスは、結果として、”テクニカル” でありながら “テクニカル” になりすぎない、舞台劇じみた非常にユニークなデスメタルを創造しています。
そうして2枚目のフルレングス “Šahrartu” で彼らは、残忍さを一切犠牲にすることなく、より多様でメロディックなアプローチへと進化を果たしました。すべては、そのエニグマティックな密教を広く世の中へと解放するため。
リードメロディー、効果的なアコースティックパートで濃密なガテラルとパーカッシヴな重音の魅力を高めた “Utopāda” はその象徴。”Tahâdu” の巨大なグルーヴには不協和とメロディーが同時に散りばめられ、”Anhutu” では伝統からスラムまでデスメタルの壮大を凶暴に抱きしめます。
極めつけは、10分を超える “Inquirad”。ドゥームの遅攻と東洋の神秘を抱きしめながら、アヴァンギャルドなギターの咆哮を交え世界の誕生と死を総括する楽曲は、”Riqûtu” へと続くアンビエントなパッセージで、最早キャッチーともいえる印象的なトランセンドデスメタルの第2章を締めくくるのです。
今回弊誌では EXIMPERITUS にインタビューを行うことができました。「現実としてソ連は崩壊していないし、共産主義者も出て行っていない。だからこそ、この30年の間に、僕たちは以前よりもさらに大きな力で、スターリン主義、全体主義の伝統に立ち返らされてきたんだよ。 」ベラルーシが取り組みはじめた再生とシンクロするかのように、デスメタルを再生するレコード。どうぞ!!

EXIMPERITUS “SAHRARTU” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【XOTH : INTERDIMENSIONAL INVOCATIONS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH XOTH !!

“We All Were Highly Influenced By Video Game Soundtracks Growing Up. Those Are Some Of The Best Compositions Ever Created In My Opinion.”

DISC REVIEW “INTERDIMENSIONAL INVOCATIONS”

「全ての偉大なメタルのサブジャンルは明らかだけど、それ以外にもプログ、映画やゲームのサウンドトラック、古き良きロックンロールにパンク、ジャズフュージョン、カントリーのチキンピッキングでさえね!ただ愛する、様々な音楽をミックスしているんだよ。」
HORRENDOUS, TOMB MOLD, GATECREEPER を中心とする OSDM、オールドスクールデスメタル復興の波。REVOCATION, RIVERS OF NIHIL, VEKTOR が牽引するモダンな Tech-death の潮流。
デスメタルの世界は現在、2つの新興勢力が切磋琢磨を重ねつつネクストステージへとジャンルを誘っています。彼らに共通する理念は、偉大な過去の遺産へユニークな独自のフレイバーを注ぎ込み、創造性のレコンキスタを果たしている点でしょう。
そういった観点からシアトルの新鋭 XOTH を眺めれば、彼らが両軍の長所を御旗に掲げる勇敢な十字軍にも見えてきます。
「DEATH は間違いなく、僕たちに多大な影響をもたらしているね。彼らは耳と精神を等しく惹きつけるバンドの素晴らしい例だと思うんだ。」
オープナー “Casting the Sigil” が示すように、XOTH の最新作 “Interdimensional Invocations” には、知性とテクニック、そしてイヤーキャンディーに残虐性を併せ持った DEATH のレガシーが確かに眠っています。
ウルトラメロディックで、ジャズの波動を享受するエクストリームメタル。同時に VOIVOD や CYNIC にも滞留する “耳と精神を惹きつける” 飽くなき SF への挑戦、音楽のフラスコにしても間違いなく XOTH の血肉であるはずです。
「僕の意見だけど、ゲーム音楽の中には、これまでの音楽でも最高のコンポジションを誇るものがあるよ。全員気に入っているのは、オールドスクールなゲームのサントラさ。例えば、魂斗羅、悪魔城ドラキュラ、ロックマン、忍者龍剣伝、ソニック、マザー、スーパードンキーコング、ゼルダの伝説なんかだね。」
とは言え、XOTH の中にも他の新興勢力と同様に際立ったユニークスキルが備わっています。ゲーム/映画音楽のサウンドトラックからのインスピレーションはその筆頭格でしょう。
“Mountain Machines” のファストでファンタジックな未来志向のギターハーモニーは、”F-Zero metal” と称される XOTH の真骨頂。”Plague Revival 20XX” のディストピアな世界観ももちろん、忍者龍剣伝や魂斗羅のイメージとも繋がります。
同時に、”シュレッド” をバンドの心臓に据えた理由にも思えるミュージシャンシップの最高峰 “Back to the Jungle”、VOIVOD のカオスとメロデスのパトスを抱きしめる宇宙誘拐譚 “Unsenn Abductor”、THIN LIZZY のデスメタル “Haruspex”、トレモロやブラストを引き連れた “The Ghost Hand of God” のブラッケンドなアグレッション、そして7分のプログエピック “Melted Face of the Soul” まで、メタル/ノンメタル入り乱れた配合の妙に構築されるコズミックかつミステリアス、マルチディメンショナルで時をかける SF ワールドは XOTH をデスメタルのニューフロンティアへ導くに充分のインパクトを備えているのです。
SUFFOCATION, OBITUARY から THE BLACK DAHLIA MURDER まで手がける Joe Cincotta のスタジオも、過去と未来を繋ぐデスメタルのタイムリープに相応しき地の利となりました。
今回弊誌では、XOTH のメンバー全員にインタビューを行うことが出来ました。「特定のスタイルにきちんと収まらないバンドは最初、リスナーを見つけるのが難しいんだ。だけどね、その時期を超えれば、ユニークな方法論を創造し多くのリスナーを獲得するチャンスが巡ってくるんだよ。」 この曲者感。次の MASTODON を狙える逸材に違いありません。どうぞ!!

XOTH “INTERDIMENSIONAL INVOCATIONS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSCURA : DILUVIUM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LINUS KLAUSENITZER OF OBSCURA !!

“I Am Missing Innovation a Lot In The Tech Death Scene. When a New Tech Death Album Comes Out, It’s Mostly a Rip Off Of Something That Was There Before. Actually I Prefer The Term Of “Progressive Death Metal” More. “

DISC REVIEW “DILUVIUM”

哲学するプログレッシブデスメタルの巨塔 OBSCURA は、アルバム4枚にも及んだ悠遠かつ考究のコンセプトサイクルを最新作 “Diluvium” で遂に完結へと導きます。Schopenhauer, Goethe, Schelling といった母国ドイツの哲学者にインスピレーションを得た、実存の真理を巡るコスモジャーニーは “Cosmogenesis” のビッグバンから “Diluvium” で迎える終焉まで生命の存在意義を思慮深く追求し描くのです。
或いは、もはや OBSCURA を “Tech-death” という小惑星へと留めることは烏滸の沙汰だと言えるのかも知れませんね。「僕は Tech-death シーンにはイノベーションがとても欠けていると感じていたんだ。実際、僕は Tech-death というタームより “プログレッシブデスメタル” の方を気に入っているからね。」と Linus が語るように、赤と黒が司る終末の物語は皮肉にもバンドに進化を促す未曾有の翼を与えることとなりました。
変化の兆しはオープニングから顕著です。”Clandestine Stars” でバンドは自らのシグニチャーサウンドである複雑にデザインされたポリリズミックなストラクチャー、ハイテクニック、デスメタルのファストなアグレッションと地を這うグルーヴに、エセリアルなメロディーとアトモスフィアを降臨させることに成功しています。
続く “Emergent Evolution” はより顕著にメロディックでキャッチーなバンドの新機軸を投影します。CYNIC のボコーダーをイメージさせる神秘のコーラスワークは、身を捩る狂おしさとひりつく感傷をまとってリスナーの感情へダイレクトに訴えかけるのです。新加入 Rafael Trujillo のロマンティックで時空を架けるリードプレイも作品のテーマやムードと見事にシンクロしていますね。
「今回、僕は本当にバンド全員が同じだけ “Diluvium” の作曲に貢献したと思っているんだよ。だから当然その事実は多様性へと繋がるわけさ。」と Linus が語るように、ある意味バンドのマスターマインド Steffen が一歩引いて民主化を進めることで “Diluvium” の充実度、多様性は飛躍的に上昇したと言えるのかもしれませんね。
Rafael とドラマー Sebastian が共作した “Ethereal Skies” はその確固たる証でしょう。シーケンシャルなクラシカルフレーズが流麗に冒頭を飾る楽曲は、リズムの実験を交えつつテクニカルにエセリアルに深淵から光を放射し、彷徨える空へと救済をもたらすのです。
ブルータルなグロウルと荘厳なるコーラスのコール&レスポンスはすなわち死と生を表現し、Rafael のストリングスアレンジメントはさながら天空へと続く螺旋の階段なのかも知れません。何より OBSCURA のニューフロンティアを切り開くシンフォニックな感覚、鬼才 V.Santura との共同作業は、瑞々しさに満ちています。
さらに終盤、バンドは “The Seventh Aeon” で OPETH の濃密なプログレッシブを、”The Conjuration” でブラックメタルの冷徹なる獰猛を抱きしめ、拡大する可能性をより深く鮮やかに提示して見せました。特に前者で Linus が繰り広げるフレットレスベースの冒険、陰陽の美学は白眉で、アルバムを通してユニークな OBSCURA サウンドを牽引するリードベースマンの存在感を改めて浮き彫りにしていますね。
アルバムは “無限へのエピローグ” でその幕を閉じます。OBSCURA がこの4連作で培った全ての要素はきっとここに集結しているはずです。救済者で破壊者、宇宙の始まりから見守り続けた神と呼ばれた存在は、そうして恒久にも思われた世界が虚無に飲まれるまでを見届けたのでしょうか。一筋の希望、魂の栄光を祈りながら。
今回弊誌では、シーンきってのベースヒーロー Linus Klausenitzer にインタビューを行うことが出来ました!インタビューには弟の話がありますが、実は彼の父は著名なヴァイオリニスト、指揮者の Ulf Klausenitze で今作にもゲスト参加を果たしています。「アドレナリンが身体中を駆け巡り、その感情をオーディエンスとシェアする瞬間は何物にも変えがたいんだよ。」本誌2度目の登場です。どうぞ!!

OBSCURA “DILUVIUM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALKALOID : LIQUID ANATOMY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALKALOID !!

German Extreme Metal Super Group Alkaloid Shows Amazing Musicianship And Creativity With Their Newest Record “Liquid Anatomy” !! Can You Imagine Yes & Rush Mixed With Modern Metal Aggression?

DISC REVIEW “LIQUID ANATOMY”

テクニカルデスメタルの牙城、ドイツに惹起する維新の兆し。千軍万馬の猛者が締盟したプログレッシブの絆 ALKALOID は、最新作 “Liquid Anatomy” で天壌の宇宙から中毒性のマイクロウエーブを発します。
ALKALOID ほどスーパーバンドの表現が相応しい音楽集団はそう多くはないでしょう。これまでメンバー5人がかかわってきたバンドは、DARK FORTRESS, NONEUCLID, SPAWN OF POSSESSION, OBSCURA, NECROPHAGIST, ABORTED, GOD DETHRONED, BLOTTED SCIENCE と文武両道の精鋭ばかり。
中でも、「僕たちが NECROPHAGIST と OBSCURA で始めたことを今では無数のバンドがやっているんだ。」と語る通り、局所性ジストニアによる中指の不遇をも覆す不屈のギターマエストロ Christian Muenzner、新たに HATE ETERNAL にも加入したギターとピアノを操るドラムユーティリティ Hannes Grossmann のかつての音楽的なアイデアが、現在の包括的な Tech-metal への崇高なるインスピレーションとなっていることは明らかですね。
とはいえ、「僕たちは新たなバンド、プロジェクト、アルバムの度に自分たちを”再発明”するようにしているんだよ。特定のスタイルに執着してしまわないようにね。」と Christian が語るように、 ALKALOID は定型化したテクデスの様式、さらには傑出したデビュー作さえ過去の時空へと置き去りにしながら、RIVERS OF NIHIL, IHSAHN, HAKEN, GHOST ともシンクロするクラッシックなプログのスピリットを昇華した新たなメタルの潮流に身を委ねているのです。
アルバムオープナー “Kernel Panic” こそ進化の象徴。ヴィンテージのシンセサウンドに導かれ、滔々と湧出するシーケンシャルなギターフレーズはまさに YES や RUSH の遺伝子を色濃く宿す鮮やかな落胤。DARK FORTRESS 等で残虐な威厳を浴びせる Morean は、驚くことにその歌唱を Jon Anderson のチャンネルへと接続し、神秘的でキャッチーなロックの崇高美を具現化していくのです。
イーヴィルなディストーションサウンドは変調の証。ナチュラルに獰猛なモダンメタルの領域へとシフトする、一体化したバンドの猛攻は衝撃的ですらありますね。一転、再びプログの多幸感が再臨し、時に相反する二つの次元が融解。TOOL と CYNIC、一方で YES と VAN HALEN が楽曲の中で流動し躍動する “In Turmoil’s Swirling Reaches” にも言えますが、ALKALOID の振るう奇想天外なタクト、コントラストの魔法は実際群を抜いています。
そして先述したバンドと同様に、クラッシックとコンテンポラリー、荘厳と嗜虐、ポップと知性の狭間を自由自在に行き来するこのシームレスなアイデアは、確かに多様なモダンプログレッシブの根幹を成しているはずです。ただし、ALKALOID のプログレッシブには特に “90125” や “Signals” など80年代の風を受けた独特の色香も存在しますが。
MORBID ANGEL と MESHUGGAH が同乗する重戦車 “As Decreed by Laws Unwritten”、トライバルで複雑なリズムに呪術と叙情のボーカルが映え GOJIRA の理念ともシンクロする “Azagthoth” でブラックホールの物理現象を追求した後、バンドはタイトルトラック “Liquid Anatomy” でさらに新たな表情を披露します。
実際、これほど感動的で心を揺さぶるバラードと、エクストリームメタルのレコードで出会えるとは僥倖以外何者でもないでしょう。GENESIS や PORCUPINE TREE の叙情、クラッシックや教会音楽のスピリットをダークに消化した荘厳の極みは、感情の波間を悲哀で染め抜きます。
アルバムを通して言えますが、特にこの楽曲で聴くことの出来る Christian のエモーションとテクニック全てを楽曲のためだけに捧げた神々しきソロワークは、最後の “ギターヒーロー” を誇示して余りある激情とスリルに満ちていますね。
アルバムを締めくくるは20分のラブクラフトモンスター、6つの楽章から成るエピック “Rise of the Cephalopods” は ALKALOID 版 “2112” もしくは “Cygnus X-1 Book II: Hemispheres” なのかも知れませんね。プログロックの構成美、モダンメタルの複雑なグルーヴ、モダンプログの多様性にアトモスフィア。全てがここには存在します。現存の南極大陸を葬り、頭足類が進化を遂げる “If” の SF ストーリーは、実はシーンと自らの立ち位置を密かに反映しているのかも知れませんね。
今回弊誌では、Morean, Hannes, Christian の3名にインタビューを行うことが出来ました。 NECROPHAGIST や OBSCURA についても重要な証言が飛び出したと思います。「Hannes がアルバムのいくつかの瞬間で “90125” の時代を超越したサウンドに近づいたという事実は、彼がそれを意図しているのかいないのかに関わらず、エンジニア、プロデューサーとしてのスキルに対する大きな賛辞だよ。 1983年に彼らが成し遂げたサウンドを超えるものは、今日でもほとんどないからね。」どうぞ!!

ALKALOID “LIQUID ANATOMY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIVERS OF NIHIL : WHERE OWLS KNOW MY NAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM BIGGS FROM RIVERS OF NIHIL !!

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Pennsylvania Based Progressive Death Metal Quinted, Rivers Of Nihil Contribute To Re-branding Death Metal Into A Eclectic, Expressive Art-form With Incredible New Record “Where Owls Know My Name” !!

DISC REVIEW “WHERE OWLS KNOW MY NAME”

遂に食物連鎖の頂点へと躍り出たペンシルベニアの梟神 RIVERS OF NIHIL が、深遠かつエクレクティックなプログレッシブデスメタルへとドラスティックな変貌を果たす傑作 “Where Owls Know My Name” をリリースしました!!生と死、そして知性を司る伝承の神明は、猛禽の鋭さと神々しきアトモスフィアでシーンの潮流を支配します。
テクニカル、メロディック、デスコア、ブルータル。雨後の筍のごとく現れるデスメタルアクトの大半は、エモーションのスペクトルを怒りに起因する狭い領域へとフォーカスし、ある意味では檻の中で固定観念と共に囚われているようにも思えます。
「この作品では、僕たちが期待されているようなサウンドを放棄した。」と Adam が語るように、RIVERS OF NIHIL が “Where Owls Know My Name” で達成した偉業は、真にユニークな感性で鋼鉄の慣習から羽ばたいたその勇気にあると言えるでしょう。
多様で創造性に満ち、複雑でしかし凄艶な星の一生を目撃するサイエンスフィクションは、数年前に FALLUJAH がアトモスフィアと共に導入したジャンルのパラダイムシフトをも超越し、さらに時空を行き来するタイムマシンなのかも知れませんね。
アルバムオープナー “Cancer / Moonspeak” は来たるべき運命、旅路のムードを決定づけます。まるで CYNIC のような浮遊するアンビエントは、アコースティックの響き、レトロなシンセ、ムードに満ちたクリーンボイスを伴ってリスナーを深遠なるストーリーへと誘います。
刹那、雷鳴のように鋭利なギターリフが轟くと雰囲気は一変。革命的な “The Silent Life” がスタートします。揺るぎのない無慈悲なアグレッションとインテンスは、徐々に理知的なギターと官能のサクスフォンが支配するスロウなジャズブレイクへと転換していきます。その変化は驚くほどにナチュラルでオーガニック。そうして静と動、混沌と平穏のコントラストは終盤に向けて奇跡の融解を遂げるのです。まるで人生本来の姿を描くかのように。
CANNIBAL CORPSE と KING CRIMSON が果たした未知との遭遇。例えることは容易いですが、実際、獰猛な猟奇性と神々しき英知を寸分も失うことなく一つのサウンドクラフトに収めることがどれほど困難かは想像に難くありません。何より彼らのデザインはあまりに自然で、神々の創造物のように生き生きとした姿を晒しているのですから。
厳かなクリーンボーカルを導入し、モダンなメロディックデスメタルにサイケデリックな夢幻のアトモスフィアを付与した “A Home”、激烈なアサルトに一片の叙情を込めて老衰の無常を伝える “Old Nothing” を経て辿り着く “Subtle Change (Including the Forest of Transition and Dissatisfaction Dance)” はアルバムのハイライトだと言えるでしょう。
“Epitaph” を思わせる悲壮なアコースティックをイントロダクションに据えた8分30秒のエピックは 「KING CRIMSON は僕のオールタイムフェイバリットバンドなんだよ。」と Adam が語る通りクラッシックなプログロックの息吹を全身に宿した濃密な叙情のスロウダンス。ソフトでエレガントな繊麗と、野蛮で蒼然としたアグレッションは、ギターやサクスフォン、オルガンのトラディショナルで大胆ななソロワーク、プログロックのダイナミックな変拍子やシーケンスを抱きしめながら、詩情と偉観そして奇妙なカタルシスを伴って文明の移り変わりを描く壮大なマグナムオパスを形成するのです。
一方でこの大曲には、djenty なリフワークやシンフォブラックの狂騒などコンテンポラリーな一面も散りばめられており、幽玄なクリーンボイスが創出する崇高美とも相俟って、もしかすると NE OBLIVISCARIS が纏う神秘ともシンクロしているのかも知れませんね。
続くインストゥルメンタル “Terrestria III: Wither” では、情景を切り取るポストロックのデザインを導入し、コンテンポラリーなエレクトロニカやアンビエント、インダストリアルノイズのキャンパスに冷徹かつ耽美な絵巻物を描いてみせるのですから、バンドのエクレクティックな感性、タイムラインの混沌には驚かされるばかりです。
アルバムは、バンドの審美を全て詰め込んだタイトルトラックで再度サクスフォン、ヴィンテージシンセ、クリーンボイスの温もりを呼び起こし作品のコアを認識させた後、ダークなギターがメロトロンの海を切り裂く “Capricorn / Agoratopia” で荘厳にリリカルに、一握りの寂寞を胸に秘め星の死を見届けながらその幕を閉じました。
今回弊誌では、ベース/クリーンボーカルを担当する Adam Biggs にインタビューを行うことが出来ました。まさにメタルとプログのタイムラインに交差する異形のランドマーク。モダン=多様性とするならばこの作品ほど “モダン” なスピリットを抱いた奇跡は存在しないでしょう。ex-THE FACELESS の Justin McKinney、BLACK CROWN INITIATE の Andy Thomas もゲストとして素晴らしい仕事を果たしています。どうぞ!!

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RIVERS OF NIHIL “WHERE OWLS KNOW MY NAME” : 10/10

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