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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MY DYING BRIDE : THE GHOST OF ORION】


COVER STORY : MY DYING BRIDE “THE GHOST OF THE ORION”

“Tired Of Tears Was Exactly How I Felt. They Had Been Flowing Freely From Me For Months And I Was a Shadow Of My Former Self. It Is Sad That This Will Continue For Many Others. Innocent People. So Very Tired Of Tears.”

HOW GOTHIC DOOM LEGEND TURNS DARKNESS INTO LIGHT

PARADISE LOST の “Gothic” こそがゴシックメタルの幕開けを告げたレコードであることに異論の余地はないでしょう。
以来、ミルトンの失楽園に啓示を受けた荘厳耽美の象徴は、”Icon”, “Draconian Times” とメランコリーの金字塔を重ねることとなりました。そうして、90年代というメタルの実験室は多種多様なゴシックの重音楽を創造することになるのです。
ゴシックメタルの総本山 Peaceville Records は、その PARADISE LOST, ANATHEMA, そして MY DYING BRIDE の通称 “Peaceville Three” を世紀末の世界へと送り出しました。さらにデスメタルから分岐した SENTENCED や TIAMAT、しめやかな女声をメインに据えた THEATER OF TRAGEDY, THE GATHERING と漆黒に広がる色彩の中でも、ヴァイオリンとクラシカルに沈む暗海 MY DYING BRIDE のゴシックメタルは飛び抜けてドゥーミーな陰鬱だったと言えるでしょう。

30年のキャリアで12枚の仄暗くしかし豊潤な旅路を歩んできた死にゆく花嫁が、自らの音の葉を超える悲劇に見舞われたのは、”Feel the Misery” リリース後2017年のことでした。中心人物 Aaron Stainthorpe の5歳の娘が癌と診断されたのです。Aaron は愛娘を襲った病を 「神の最も残酷な、愛のない創造物の1つ」 と断じ嘆きました。
「2017年9月、5歳になった美しい娘が癌と診断された。心配と混乱のブラックホールが目の前に広がったよ。この恐ろしい病気を取り巻く恐怖は、現実的で残忍で容赦ないものだった。化学療法と二度の手術をくぐり抜け、幸運にも娘は癌を克服した。それでも彼女は、残りの人生を再発と潜在的合併症の恐怖と戦いながら過ごさなければならない。だから私はただ自分が墓に向かう時、彼女が強く率直な女性として生きていて欲しいとそればかり願っているよ。」
娘の罹患は Aaron の人生観、そして未来を大きく変えました。
「彼女が病気になる前は単純で愚かなことにイライラしていたけど、本当に深刻な何かに対処しているとそれが非常に取るに足らないものに思える。例えば昔ならプリンターが上手く働かなければばらばらに叩き壊しただろう。だけど今の私はただ、新しいのを買おうと言うだけさ。私を苦しめ、ストレスを与えるだろう愚かな些細なことは、もはや存在しない。人生に変化があったんだよ。私は変わった。もっとリラックスして落ち着いた人になったのさ。」

創立メンバーで出戻りの Calvin Robertshaw とドラマー Shaun Taylor-Steels がレコーディングの直前にバンドを離れました。
「もっと重要なこと、娘の治療に気を取られていたから、メンバーの離脱を気にかけている暇はなかったね。だから Andrew が Calvin がまた辞めたと言ってきても正直どうでも良かったんだ。幸運にも早めに出て行ってくれたから “The Ghost of Orion” のための彼の素材はそんなに残っていなかったんだけど、後からお金を請求されても嫌だから Andrew が全て書き直したよ。ギタリストなら自分のリフが全て採用されるほうが幸せってもんだ。前のアルバム “Feel the Misery” も Hamish Glencross がレコーディング前に辞めたから同じ状況だった。あのアルバムのレビューはこれまでよりポジティブだったから、Andrew が素晴らしいソングライターであることはすでに証明されているからね。
Shawn の場合、エンジニアの Mark が ex-PARADISE LOST の Jeff Singer を知っていて、僅か2週間で全てを覚えて素晴らしいドラミングを披露してくれたんだ。
もちろん、過去にメンバーが去った時は少しイラついたかもしれない。だけど今回私は別の次元にいたからね。ある意味 MY DYING BRIDE との繋がり自体、少し希少になっていたから Andrew はストレスが溜まっただろうな。メンバーが去ったと慌てても、私は肩をすくめて知らないよと言うだけだったから。」

レコードで最も荘厳にエモーショナルに織り上げられた “Tired Of Tears” は文字通り娘の罹患に枯れ果てた涙の結晶。
「この楽曲は僕の人生で、最も恐ろしくストレスが溜まった時期を扱っている。唯一の子供が死に近づいたんだから。これまでも落ち込んだことはあったけど、これほどではなかったよ。真の暗闇でどう対処して良いのか全くわからなかった。それでも全力を尽くして戦おうと決めたんだ。涙が枯れ果てたとはまさに私が感じていた気持ちだ。何ヶ月も涙が自然と溢れ続けたんだ。」
結局、MY DYING BRIDE のあまりに長く、思索を誘う悲嘆のセレナーデは現実という葬儀の行進を彩る葬送曲です。Andrew によると、「悲惨な楽曲は現実の生活に対処するための準備でありカモフラージュ」なのですから。
MY DYING BRIDE は Peaceville Records と最も長く契約したバンドでしたが、”The Ghost of Orion” で袂を分かち Nuclear Blast と新たに絆を結びました。
「Peaceville を離れたのは時間が理由だったと思う。彼らは私たちのために出来得る限り全てをしてくれたし、完全なる芸術的自由を与えてくれたね。だけど私たちはもっと多くのものを提供したかったし、コミュニティーにおける存在感もさらに高められると感じていたんだ。Peaceville はその渇望を満たすことが出来なかった。Nuclear Blast ほどの巨大なレーベルなら実現が可能だからね。
新たなレーベルと契約し、新たなメンバーを加えて、私は MY DYING BRIDE が蘇ったように感じているんだ。新鮮な空気を吸い込みセカンドチャンスが与えられたようにね。”The Ghost of Orion” は最高傑作に仕上がったと思うし、再びエネルギーを充填して、より大きく、より素晴らしい音楽を生み出すバンドを目指していくんだよ。」

“The Ghost of Orion” は MY DYING BRIDE 史上最もキャッチーでアクセシブルだとメンバー、リスナー、評論家全てが評しています。その変化は存在感を高めるため?それともレーベルの影響?もしくは娘の回復が理由でしょうか?
「全ては意図的に行われた変化だよ。Peaceville 時代の後期からすでによりレイドバックした “イージーリスニング” なアプローチは検討されていたんだ。過去の私たちがそうであったように、若いころは強い印象を与えようとするからね。私たちも4回リフを繰り返して自然に他のパートへ移行する代わりに、ただ驚かせるためだけに同じリフを7回半ひたすらプレイしたりしていた。技術的に優れていることも証明したかったんだと思う。だけど、それはもう過去にやったことだ。今は何も証明する必要もない。
だからこのアルバムにはギターとボーカルのハーモニーがたっぷり含まれているんだ。ダブル、トリプル、時には4重にも重ねてね。さらにコーラスも存分に取り入れて聖歌隊の雰囲気を与えたよ。
ただ、あくまで MY DYING BRIDE 流のコマーシャルさ。だってシングル曲 “The Old Earth” にしたって10分あるんだからね。一般的なコマーシャルとはかけ離れている。それでも、耳に優しいのは確かなようだ。メタルに詳しくない友人が “Your Broken Shore” を褒めてくれたのは嬉しかったよ。つまり新たなファンを獲得しているってことさ。
もちろん、リッチなコーラスに不満を言うファンはいるだろう。でも私たちは新たなチャレンジを楽しみ、前へと進んでいるんだからね。」

新たな挑戦と言えば、チェロ奏者 Jo Quail と WARDRUNA の女性ボーカル Lindy-Fay Hella がゲスト参加しています。チェロはバンド史上初、女声も “34.788%…Complete” 以来初の試みです。
「アルバムを制作していくうち、特別な作品へ発展していることに気づいたんだ。それで私たちだけで仕上げるよりも、他の質の高いミュージシャンを加えて最高のアルバムに仕上げるべきだと思ったのさ。真に際立った2人の女性が、その才能で素晴らしいパートを加えてくれたんだよ。」
今や様々な分野のアーティストに影響を与える立場となった MY DYING BRIDE。では Aaron Stainthorpe その人はどういった芸術家からインスピレーションを受けているのでしょうか? CANDLEMASS と CELTIC FROST は彼にとっての二大メタルバンドです。
「”Nightfall” の暗闇は私の中で生き続けるだろうね!実に巧みに設計されていて、最初から最後まで過失のないレコードだよ。特にボーカルがね。CELTIC FROST なら “Into The Pandemonium” だよ。このバンドが支配するアンビエンスと真の狂気は私にとって純粋に詩的なんだよ。アートワークも素晴らしいよね。」
同時に DEPECHE MODE と DEAD CAN DANCE も当然彼の一部です。
「DEPECHE MODE を愛するメタルヘッドは決して少なくないよ。だって終わりのない落胆と陰鬱が存在するからね。私はアルバムだけじゃなく、12インチ7インチを出来る限り購入していたね。ファンクラブのメンバーにも入っていたくらいだから。
DEAD CAN DANCE で私が最初に聴いた CD は “The Serpents Egg” で、これは長年にわたって個人的なお気に入りなんだ。新しい歌詞や詩を書きたい時に聴きたくなるね。 モダンで厳格な心持ちから、望んでいる温かく創造的な雰囲気に変化させてくれる。このLPは、そうして “言葉の食欲” が落ち着くまで繰り返されるわけさ。」
さらには SWANS まで。「Michael Gira の心は複雑で、その創造的な成果は特に SWANSに現れている。Michael の提供する複雑なリリックと楽曲は、時に不快だけど喜びで価値があるものだ。何が起こっているのかわからないけど、魅力的で戸惑うほど美しい。」

そうした Aaron の才能はいつか小説や映画を生み出すのかもしれません。
「いつか映画を撮るかもしれないね。大きな映画館じゃ上映されないような作品さ。2020年のベストフィルムは “The Lighthouse” だよ。4K やフルカラーで撮影されなければ映画じゃないように思われているかもしれないけど、実際はそうじゃない。」
今年はバンドにとって3枚目のアルバム、マイルストーン “The Angel and The Dark River” の25周年です。興味深いことに、名曲 “The Cry of Mankind” は僅か2時間半で全てが完成した楽曲です。
「Calvin が適当にギターを触っていて、残りのメンバーは無駄話をしていた。でも彼のフレーズの何かが私たちの耳を捉えたんだ。そこから全員で一気呵成に仕上げていったね。こうやって自然と出てくる曲はそれほど多くはないよ。通常は誰かが「私に3つのリフがある。さあここから他の楽器で装飾し楽曲を作ろう」って感じだから、何もないところから作られて絶対的なリスナーのお気に入りになったのは最高だよ。ファンがその曲を愛しているんだから、すべてのギグで演奏しなければならないと思う。」
Aaron と Andrew は唯一のオリジナルメンバーで、その付き合いは30年を超えています。
「私たちは老夫婦のようなものさ。 両方とも同じものを望んでいる。それに私だけがオリジナルメンバーではないのが嬉しいんだよ。親愛なる人生のために、他の誰かがまだそこに留まっているのは素晴らしいことだからね。 もし Andrew が辞めたら、私もタオルを投げるだろうな。彼も同様のことを言っているがね。なぜなら私たちは自分からは辞めると言いたくないんだよ。だから長く続くかもしれないね!私はまだもう10年は続けられると思う。」

PERFECT GUIDE TO MY DYING BRIDE

“AS THE FLOWERS WITHERS” (1992)

MY DYING BRIDE 初のフルレングスは、シンフォニックなイントロダクションでその幕を開けます。たしかに、”Sear Me” で披露するシンセサイザーとヴァイオリンの響きはギターと仄暗きバロックのポリフォニーを形成し、後の耽美なゴシックサウンドを予感させますが、それでもアルバムを通して登場する性急な場面転換や破壊的な突進、響き渡る Aaron のグロウルを聴けば、枯花が最もオールドスクールデスメタルの影響下にあるレコードで未だサウンドを模索中のようにも思えます。
バンドのアイデンティティーを司るヴァイオリン/キーボードの Martin Powell もセッションミュージシャン扱い。それでも、実験性やメロディーに輝きは散りばめられ、疾走する “The Forever People” は今でもファンから愛される佳曲です。

“TURN LOOSE THE SWANS” (1993)

プレイボタンをおして9分30秒間、ディストーションギターが登場しないメタルレコードがいったい何枚存在するでしょうか? しかし、その事実こそ MY DYING BRIDE が自らの陰鬱耽美なゴシックドームを確立した証でした。
“Sear Me” の再考と “Black God” は、魂のナレーション、ピアノとヴァイオリンで構築されたゴシックアンビエントのブックエンドとして、漆黒の迷宮に残された微かなセーブポイント。
残りの楽曲は深い森に潜む底なしの洞窟、絶望のダンジョン。ただし、リスナーは何度も探索を重ねるうちその立ち昇る死の妖気、重鬱なギターの責め苦にさながらマゾヒストの出で立ちで魅了されていくのです。
中でも、”Your River” の協和と不協和、旋律と非旋律、奇数と偶数で組み立てられたゴシック建築のドゥームは圧倒的に不気味を極めた狂気でしょう。
ゴシックエレメントが勃興し、ノンメタルな Martin Powell の存在感、プログレッシブとも表現可能な実験性が増したにもかかわらず、”TURN LOOSE THE SWANS” は死と運命に両足を埋めてています。

“THE ANGEL AND THE DARK RIVER” (1995)

ゴシックドゥームの最高到達点。Aaron がデスグロウルを棄て去り、Martin のヴァイオリンと鍵盤のアレンジが際立つ作品で MY DYING BRIDE はその陰鬱な美の皮肉を完成させました。
インスピレーションの源は、地元ノースイングランドの城、霧、冷気。バンドにとって最も重要な楽曲の一つ、”The Cry of Mankind” はまさにそのサウンドスケープを体現します。
Aaron はこの楽曲について、「宗教に疑問を呈する楽曲。より高次元な精神的存在について歌っている。忘れられないメロディーが楽曲のほぼ全体を支配して、君たちの魂を誘う。君たちを迎えに行き、熟考と誠実な考えの場所に運ぶんだ。 」と語ります。
曇天に鳴り響く孤独なフォグホーン、反復の中毒的ギターリフ、バリトンボイスの洗脳。一方で、”A Sea to Suffer In” の重厚なリフと劇的なテンポチェンジは、ヴァイオリンの美麗と重なり英国のロマンを運びます。
イングランドのトラッドフォークを苦痛と寒さで歪ませた “Two Winters Only” は全ディスコグラフィー中でも Aaron のフェイバリットソングですが、驚くべきことにこの楽曲は彼がいつか子供を持ち難病で失うという当時の予感をしたためたものでした。ライブでは歌わないと決めているそう。

“LIKE GODS OF THE SUN” (1996)

“For My Fallen Angel” の哀れで落胆したシェイクスピアのスポークンワード、青々として美しいマイナーなコード進行、悲しげなバイオリン。実存的な恐怖、憂鬱、孤独を運ぶレクイエムは、アクセシブルな音の葉を増し、後の量産的なゴシックメタルに接近する危険を打ち払う救世曲でした。
この楽曲について Aaron は、「恋人を失うことは悲劇の中でも群を抜いて悲愴だ。だからこそ、私たちは MY DYING BRIDE と名乗っているんだろうな。人生の残りを一緒に過ごしたかったという希望は冷酷に彼らの人生から永遠に取り除かれようとしている。願わくば涙を流すために肩を貸せる友人や家族がいればいいんだけど。」 とバンドのアイデンティティーであることを表明しています。
Martin と Rick にとって最後のレコードとなった事実はある種の啓示でしょうか。実際、アポロンの恩恵を受けたアクセシブルでキャッチーなレコードは、以前のめくるめく壮大さや狂気の実験性をいささか欠いているようにも思えます。
それでも、今でもセットに不可欠な “A Kiss To Remember” は象徴的ですが、アルバムのテーマである罪、官能、罪悪感、抑圧された欲望を物語る美しく、暗く、悲しく、ヘヴィーな MY DYING BRIDE イズムは、単調な反復の中にも蠢いています。Aaron のフェイバリットレコードの一つだそう。

“34.788%…COMPLETE” (1998)

KORN の “Follow the Leader” と同年にリリースされた MY DYING BRIDE のレコードは、ヴァイオリンの不在も相まっておそらく多くのファンにとって悪夢でした。悪名高い “Heroin Chic” を筆頭に、Nu-metal や Aaron が敬愛する PORTISHEAD がしたためた耽美とは程遠い無節操な世界観が広がります。
ブレードランナーにインスパイアされたオープナー “The Whore、The Cook and the Mother” や “Under Your Wings and Into Your Arms” といった楽曲は以前のファンにもアピールする可能性を秘めますが、それでも以前の悪夢とは一線を画す、このガラスを引っ掻くようなリアルな不快の波、無機質な電子の攻勢に魅了されるリスナーは多くはないでしょう。ただし、実験>停滞を掲げる向きにとっては必ず一聴の価値はあるはずです。

“THE LIGHT AT THE END OF THE WORLD” (1999)

34.778%の無残な実験失敗の後、ギタリスト Calvin Robertshow を “追放” したバンドは世紀末に灯す仄かな光で “帰還” を果たします。ヴァイオリンの欠如は別として、6年ぶりにグロウルを復活させた Aaron の目的は白鳥の魔法を取り戻すことだったのかも知れませんね。
実際、全ての魔法を思い出した訳ではないでしょうが、”Heroin Chic” を大惨事と捉えた向きには歓迎の方針転換だったはずです。
幻想的でアンビエントな “She is the Dark” は今でもファンのトップ10リストに入る佳曲ですし、オリエンタルなエピック “Edenbeast” もリスナーのインスピレーションを刺激します。
孤独な生涯に一筋の愛を見出すタイトルトラックは安っぽい感動とは無縁の壮大なモノクロームフィルム。そうしてバンドは “Sear Me III” でゴシックの古典を再訪しトリロジーを終わらせました。「”Sear Me” で探求したのは生涯において純粋で完全に征服される愛を見つけること。そうやってソウルメイトが見つかり、運命と永遠が綴られていることを知ると、涙が自然に零れ落ちるんだよ。」
キーボードは BAL-SAGOTH の Johnny Maudling が担当。

“THE DREADFUL HOURS” (2001)

“The Return of the Beautiful” で古美への再訪が実現したように、”As the Flower Withers” 以来最もヘヴィーな楽曲が収録されたレコードかも知れません。特に、オープニングの三連撃は強烈です。
緩やかに幕を開けるタイトルトラックのクリーンギターはいつしか濃密なグルーヴを携えたドゥームの神殿へと到達します。
Aaron の激情と静謐が最も際立つアルバムにおいて、”The Raven and The Roses” の流麗なピアノセクションから “My fucking god is my want” と全ての感情を解放するクライマックスの対比は群を抜いています。そうして印象的なメロディーの残り香は “My Hope The Destroyer” へと引き継がれるのです。ポストパンキッシュなリズムセクションと重厚なメロディーの調和が意味深な “La Figlie Della Tempesta” も白眉。

“SONGS OF DARKNESS, WORDS OF LIGHT” (2004)

キーボード奏者の Sarah Stanton, ギタリスト Hamish Glencross が加入し再度バンドとしての足固めが行われた作品です。
不気味に迫り来る闘いのリズムと Aaron の鬼気迫る唸り声でスタートする “Wreckage of My Flesh” の絶望感、魂の喪失は圧倒的。Sarah の加入を告げながら鳴り響く教会のオルガンがメランコリーなギターの旋律へと浸透を始めると、リスナーの背筋は悪寒に震えるでしょう。抑鬱された審美と重量感のバランスは際立ち、荘厳の丘で黒の信徒は届かぬ祈りを捧げます。
メロトロンの導入で不気味なムードを加速させる “The Scalet Garden”、さながらドゥーム版月下の夜想曲 “The Prize of Beauty” など新たな鍵盤奏者が魔法をもたらしたレコードでしょう。

“A LINE OF DEATHLESS KINGS” (2006)

シンプル&アクセシブルという観点で見れば、時に “Like Gods of the Sun” を想起させる作品かもしれません。アルバムは実に力強く始まります。ダークでヘヴィなリフの応酬、クリーンとグロウルを股にかけるボーカリゼーション、そしてコーラスを携えた美麗なメロディーモチーフ。感情と音楽スタイルの両方を多分に網羅しながら、わずか6分で簡潔に描写した “To Remain Tombless”はアルバムの明らかなハイライトです。
トレードマークのハーモナイズされたギターと、暗い叙情的なシンセサウンドが交差する “Thy Raven Wings” も傑出しています。

“FOR LIES I SIRE” (2009)

ファンの望む MY DYING BRIDE が完全に帰還したレコードかも知れません。13年ぶりにヴァイオリン奏者が戻り、耽美の設計図は再び完成をみます。
Katie Stone はそのストリングだけでなく、鍵盤でも Martin Powell の幻影を追いかけます。事実、荒廃した音世界に降り注ぐ耽美なギターハーモニー、シンプルでしかし耳を惹くボーカルライン、そして流麗なヴァイオリンのアクセントと MY DYING BRIDE に求める全てを内包したオープナー “My Body, A Funeral” は絶佳のオープナーにしてハイライトでしょう。
Aaron はこの作品について 「おそらく確かなことだが、我々がこれまで作った作品で最も陰鬱だろう。」 と語っています。その判断は各リスナーに委ねられるはずですが、呪詛とデスメタルの不穏で構成された “A Chapter in Loathing” の漆黒は明らかにもう一つのハイライトです。

“A MAP OF ALL OUR FAILURES” (2012)

本編にも記した通り、Aaron は意外なほどに野心家です。ヴァイオリンを取り戻したことも、ある程度はより大きな成功を見据えた結果であるはずです。そうして、彼の野心はデビュー作から20年を経て新たなマイルストーンを打ち立てました。デスメタルの邪悪、ゴシック様式の耽美、Aaron の反復する虚無声、そして新たに加わった Shawn Macgowan のヴァイオリン。ここには死にゆく花嫁の旅路全てが詰まっているのですから。さらに、名作 “The Angel&The Dark River” で多少フラットに思えた鍵盤の響きはより立体感を増して、現代的なサウンドを提供しています。
「昔ながらのやり方で新たなライティングスタイルを模索した。」と前作から加入したベーシスト Lena Abe は語っていますがまさに言い得て妙なのかも知れませんね。
タイトルトラックは実に陰鬱。「肉体的にも精神的にも崩壊を迎える楽曲。私たちのほとんどが経験するだろうことだからこそ、チャレンジングだ。つまり “苦い終わり” だよ。どこかでベッドに一人横たわり、もう何も理解することさえできないかもしれないね。 大きな鎌を持った黒い男が角を曲がり近づいてくる。しばらく一緒に座って…」

“FEEL THE MISERY” (2015)

“34.778%” 以来初めて Calvin Robertshow がバンドに復帰。ただし Hamish が去った世界線でメインソングライターは Andrew が務めます。奇しくも “The Light at the End of the World” とは逆の状況となりましたが、当時よりも Andrew は随分上手く対応したように思えます。
リフドライブとギターハーモニーの狭間で Aaron の原始的なボーカルが映えるオープナー “And My Father Left Forever” は典型的な MDB のやり方。ピアノとオルガンでヴィンテージな色合いを醸し出すタイトルトラックでは Shawn の存在感が際立ちます。
もちろん、”Within a Sleeping Forest” で聴くことのできるヴァイオリンとギターの相互作用はバンドのトレードマーク。”I Almost Loved You” では失われた恋愛を歌います。「ちょっとした誤解と勇気のなさで別々の道を歩んでしまうことは、誰にだって起こり得る。時には不器用な純朴さよりも、大胆に抱き寄せてキスを奪うことだって必要かもね。」近年でも彼らは佳作を連発しています。

“THE GHOST OF ORION” (2020)

新たなクラッシックにして新たな時代の幕開け。チェロとヴァイオリンの二重奏を携えながらアルバムは芸術に振れすぎず、非常に洗練されたサウンドを誇ります。
娘の闘病に着きそう Aaron。突然説明もなしにバンドを再度辞めた Calvin、ドラマー Shaun Taylor-Steelsもスタジオに入る直前離脱。ベーシストの Lena Abe は産休。故にギタリスト Andrew にアイデアを相談する相手はおらず、アルバムはほぼ彼単独で書かれました。にもかかわらず、結果は驚くべきものでした。ただしいつもとは若干その音景色が異なります。
もちろん、バンドはまだ悲惨なドゥームを演奏していますが、Aaron が語ったようにアクセシブルで “耳に優しい” 音の葉を目標としたのは確かです。とはいえ、メインストリームに接近したわけでは当然なく、アルバムはそれでも地獄のように重く、ブラックホールのように暗く、ドゥームの憂鬱に浸っています。
緩やかな楽曲は耳を惹く音の葉の宝庫です。”The Solace” は、WARDRUNA のゲストスター Lindy-Fay Hella の風変わりで抑圧的で、しかし印象的なフォークインスパイアなボーカルが牽引します。”Tired of Tears” の肉感的でシャープな Jeff Singer の現代的ドラムパフォーマンスも聴きどころの一つでしょう。
タイトルトラック “The Ghost Of Orion” から “The Old Earth” の15分でバンドはゴシックドゥームの真髄を語ります。クリーンギターのプレリュードに始まり、巧妙で耽美なリード、アーロンの落ち着いた低音が散りばめられていきます。そうしてクラッシックな MDBのリフワークは Aaron の肺を引き裂く悲鳴とともに重厚なミドルセクションへと誘います。そうしてエンディングでは、ヴァイオリンとギターがせめぎ合うクレッシェンドの魔法を古の地球に描くのです。
悲劇とストレスの鎮座する制作環境はむしろ悲劇を描くバンドにとっては正の要素だったのかも知れません。これは死にゆく花嫁の新たな旅立ちであり、新たな金字塔です。

参考文献:INVISIBLE ORANGE:Pressing Forward: My Dying Bride’s Aaron Stainthorpe Talks “The Ghost of Orion” and the Trials of Life 

METAL INJECTION:MY DYING BRIDE’s Aaron Stainthorpe: The Artists That Made Me

STEREOBOARD:Tired Of Tears: How My Dying Bride Overcame Adversity To Make ‘The Ghost Of Orion’

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