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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AZURE : OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTOPHER SAMPSON OF AZURE !!

“We See ‘Prog’ As a Genre Where Anything Can Happen, Whether It Be The Dramatic Fantasy Storytelling And Guitar Harmonies Of Iron Maiden, Or The Slithering Shred Melodies Of Steve Vai, Or Even The Sugary And Bouncy Energy Of The 1975.”

DISC REVIEW “OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS”

「IRON MAIDEN と GENESIS を聴いて育ったから、プログレッシブ・ミュージックがすぐに好きになり、ギタリストの Galen Stapley と出会う頃には、キャッチーなコーラスがたくさん入ったクレイジーでハイエナジーなプログを作る準備がお互いに整っていたんだよね」
プログレッシブ・メタルは、興味深い二面性を持っています。その血統からサウンドもテーマもダークであることが要求され、荒々しく、千変万化の野獣を召喚していく一方で、かつてプログの巨人たちが纏っていた光、希望、平和、喜びのファンタジーをも当然しなやかに受け継いでいます。この二面性を今、最も巧みに表現するのが、昨年の英 Prog Magazine 読者投票で最優秀 “未契約” バンドの座を勝ち取った英国の蒼、AZURE です。
「自分たちを “アドベンチャー・ロック”、”アート・ロック”、”ファンタジー・プログ” と呼ぶこともあるし、友人たちからは “フェアリー・プログ” と呼ばれることもある。これらのレッテルは全て良い感じだよ! 僕たちは冒険に行くための音楽を作っていて、そこにはたくさんの魔法が関わっているし、それでも現代的で個人的なものもあるんだよね」
Steve Vai や John Petrucci も真っ青の驚嘆のギター・ワーク、Bruce Dickinson と Claudio Sanchez の中道を行く表情豊かなボーカル、そして大量のポップなメロディーと豊かなシンセが組み合わされ、彼らの冒険的で幻想的なプログ・メタルは完成します。冒険に付き物の闘い、呪い、毒殺など、時に暗い物語、ダークなトーンを扱っているにもかかわらず、彼らの音楽には、ドラマと芝居が重なるブライトで煌めくような個性が宿っています。そして、その二面性は彼らにとって “プログ” の定義である多様性、音の正十二面体によって構成されているのです。
「僕たちは “プログ” を、IRON MAIDEN のドラマチックなファンタジーの物語とギター・ハーモニーであろうと、Steve Vai のそそり立つシュレッドのメロディであろうと、The 1975 の甘く弾けるエネルギーでさえ、何でも起こりうるジャンルとして捉えているんだよね」
“Self-Crucifixion” はその象徴でしょう。CHON を想起させるアップビートな数学的愉悦を前面に押し出しながら、重い十字架を背負う曲名と歌詞は著しくダークなテーマを表現。同時に、モダンな中に80年代の光彩や美技を織り込むのも彼らのやり方。Vai から Yngwie に豹変するような Galen の妙技は、楽曲に歓びを伴うタイム・パラドックスをもたらしています。加えて、時に Kate Bush や Andre Matos さえ思わせる表情豊かな Chris の歌声は、リスナーに中毒性を植え付けながらリピートを加速させるのです。
一方で、鍵盤奏者 Shaz Dudhia は、 “A Sailor Will Learn” や “Outrun God” で 8bit の異世界を創造し、AZURE のプログを大海原へと解き放っていきます。そしてとどまることを知らない 彼らの青い海は “The Jellyfish” で The 1975のようなインディーポップを、”Ameotoko I – The Curse” で敬愛する J-Rock や JRPG までをも飲み込みプログの新たな波を発生させていくのです。押し寄せるは、DREAM THEATER や PAIN OF SALVATION に初めて出会った時を思い出させる圧倒的な陶酔感。
ミキシングとマスタリングは、SLICE THE CAKE の Gareth Mason と Jonas Johansson が担当。何層もの楽器と様々なダイナミクスを一つもかき消すことなく、インパクトのあるプロダクションを実現しています。
今回、弊誌では、シンガー Christopher Sampson にインタビューを行うことができました。「J-Rock バンドや、そのシーンの多くのプロジェクトに大きな愛着を持っているんだよね。
Ichikoro は素晴らしいし、ゲスの極み乙女や Indigo La End など、僕たちが好きな他のバンドともリンクしている。あと、僕たちは日本のメタルやパワーメタル・シーンも大好きで、GALNERYUS、Doll$Boxx、UNLUCKY MORPHEUS といったバンドを定期的に聴いているんだよ」 どうぞ!!

AZURE “OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW【PUSSY RIOT : PUNISH】


COVER STORY : PUSSY RIOT

“I Honestly Think Putin Is Digging His Own Grave Now”

I’LL PUNISH YOU

ニューヨークの会場Terminal 5で、PUSSY RIOT の Nadya Tolokonnikova は自由を謳歌しています。クラブ風のエレクトロポップをセクシーに、SM的なセンスで演奏し、またしても10年前と同様に、まだロシアの大統領である男に対して声を上げました。
「私は戦争が嫌い。平和を愛しているの。私はウクライナを支持するわ。プーチンはクソだ!早く死んでほしい!」

Nadya は何年も前から培った自身の美学を大切にしています。
「この美学は何年も前から、本当に自分のためだけに培ってきたもの。キュートなものと危険なものを組み合わせるのが好きなの。音楽ではメタルとポップを組み合わせているのよ。私は、この厳しいけれど明るいという組み合わせにとても惹かれるのよね。
服もお手製よ。今は、自分がやっていることを他の人にも伝えたいと思っているわ。刑務所で警察官の制服を縫わされていなかったら、服を作ろうとは思わなかったでしょう。幼いころは自分がデザイナーになるなんて考えもしなかった。ロシアは現代の奴隷制度だから、政治的抑圧、性差別、家父長制、監獄制度に反対する服を作る必要があるわ。アナーキストとして育った私は、服にこれほど意味があるとなんて思ってもいなかった」
Nadya は「プーチンと仲良くなることは絶対に無理。彼は狂っている。彼は自分の国民にさえ発砲するかもしれないの」と訴え続けてきました。
かつて反プーチンの “パンクの祈り” を歌ったためにシベリアの刑務所で2年間を過ごしたロシアのアーティストは、独裁者と戦うために NFT を利用し、5日間で700万ドルを集めました。このような時、正気を保てるのはアクティビズムだけだと彼女は主張します。
Nadya Tolokonnikova は非公開の場所で、PUSSY RIOT のTシャツを着用し、目的意識と意欲と一途さをもって活動を続けています。2011年に PUSSY RIOT を結成して以来、彼女のフェミニスト・プロテスト・アートは、真剣そのものです。無許可のゲリラライブ、そして彼女が追訴されたイベント、モスクワの救世主ハリストス大聖堂で “母なる神よ: プーチンを追い払いたまえ” を歌うまで、その遊び心に世界は酔いしれていました。そうちょうど10年前、PUSSY RIOT の5人のメンバーは、モスクワの大聖堂でカラフルな目出し帽をかぶり、聖母マリアに “パンクの祈り” を捧げ、ロシアのプーチン大統領を “追い払って” ほしいと懇願したのです。
しかし、その結果は常に厳しいものでした。Nadya は、PUSSY RIOT の他の2人のメンバーとともに、2012年にフーリガン行為で2年の刑を宣告され、幼い子どもたちと引き離され、ハンストを行い、想像を絶する過酷な状況に耐え、最終的にアムネスティ・インターナショナルから良心の囚人に指名されたのです。

Nadya は自分は “生まれつきの遊牧民” だと語ります。
「この惑星が私の家。私はいつも無政府主義者なの。国境や国家はあまり好きではないのよね」
しかし、その抽象的な言葉の下には、具体的な危険が潜んでいました。彼女は12月にクレムリンから “外国人工作員” と認定され、出所後に設立した独立系報道機関 Mediazone も同様に危険視されています。
「プーチンは、ウクライナの戦争について議論しただけでも15年の懲役を科すという法律にサインしたばかりよ。あれを戦争とさえ呼べない。特別軍事作戦と呼ばなければならないの」
ロシア反体制派として認知されることの危険性は、ここ数十年で最も大きくなっています。そして、1989年生まれでペレストロイカを覚えていない Nadya は、そのことを誰よりも痛感しているのです。
しかし、彼女の関心は、決して自己防衛ではありません。2月24日にプーチンがウクライナに侵攻したとき、彼女と暗号通貨世界の協力者は、ウクライナDAO(分散型自治組織)を立ち上げました。それはウクライナの国旗の1/1非可溶性トークン(NFT)で、この画像の集団所有のために入札を募り、5日間で710万ドルを調達したのです。
「私や暗号通貨の友人たちは、あの侵略に何とかして反応しなければならないと感じていたの。私は個人的に、このような状況では、アクティビズムが正気を保つことができる唯一のものであると確信しているわ。侵略、災害、悲劇をただ見て、それに対して何もしないことは、世界にとって本当に有害であるだけでなく、徐々に自分を破壊し、無力感を与えることになるのだから。このお金は、2014年からウクライナ軍に医療、弾薬、訓練、防衛分析などの支援を動員している組織 “Come Back Alive” にすでに分配されているの。プーチンのような独裁者と戦うなら、死ぬ覚悟があることを示さなければならない…そして、私はそうしたわ」

なぜ、”Come Back Alive” と共にウクライナの人たちにお金を届けようと思ったのでしょうか?
「私はウクライナに友人がたくさんいるの。ウクライナ人は非常に勇敢で、美しく、アグレッシブで、インスピレーションを与えてくれる人たちだと思っている。アナーキストから大臣まで、街角の人々から国会議員まで、たくさんの人々を知っているのよ。だからお金を入れるのに最も適した財団が何なのか、かなりよく理解できているの。私や DAO の他の人たちと連絡を取っているウクライナ人のほとんどは、”Come Back Alive” が今貢献するのに最適な財団だと言っているわ。暗号の利点は、国境がなく、無許可であること。たとえ戦場であっても、誰も止めることができないの。インターネットにアクセスできれば、資金にアクセスできるのだから」
ウクライナの友人とはどんな話をしているのでしょう?
「ウクライナの人々は、侵略という災害に直面しても、実にポジティブ。2014年にプーチンがクリミアを併合したとき、プーチンがウクライナ東部で戦争を始めたとき、私が見たのはそういう人たちよ。戦争を経験した人たちをたくさん知っているけれど、明らかにトラウマを抱えていながらも、彼らは普通の生活を送っている。私が会った人たちは、非常に回復力があるの。そして、彼らはプーチンに対して本当に怒っているのだと思うわ。ロシア人全員がプーチンを支持しているわけではないことを理解してくれている。なぜなら、多くのロシア人が自分たちの自由と生活を取り戻すために抗議し、街頭に立っているのだから。
ウクライナ人の最も魅力的な部分は、決してあきらめないというところ。多くのウクライナ人が、プーチンはウクライナの支配を自分に譲ることを期待していたと言っている。しかし、そうはならなかった。彼らはただ、”ここは我々の国だ” という精神を持っているの。ウクライナのゼレンスキー大統領は、本当によくやっていると思う。彼はキエフを離れることを拒否し、”私たちはキエフを守るだけだ “と言った。そして、驚くべき成果を上げている」
Nadya はウクライナへの侵攻に心が打ちのめされています。
「パニック状態で、毎日泣いているわ。ある意味、必要なことでも、論理的なことでもなかったと思う。起こるべくして起こったことではないのに、何千人もの人々の人生を終わらせる大惨事を起こしてしまった。パニックになったわ」

彼女には、そらみたことか、プーチンは何をしでかすかわからないと言ったじゃない?と自己満足する余裕はなかったのです。
「国際社会は極めて矛盾していたわ。その理由は2つある。プーチンの政治、野党への弾圧、プーチンが始めた戦争(これは決して最初の戦争ではない)を支持しないと表明する人たちがいた。しかし、同時に、彼らはプーチンのビジネスを続けていたわ。ロシアからやってきた “オリガルヒ” (ロシアの新興財閥) が、ヨーロッパやマイアミでどのようにして莫大な富を手に入れたのか、誰も金の流れを追おうとはしなかった。
もう一つはね、バカだから。これが2つ目の理由。人々は独裁者がどれほど危険かを過小評価しているの。2014年、私たちはイギリスの議会で演説し、アメリカの上院で演説し、多くの人からプーチンとどう話すべきか、どう会話を組み立てるべきかと聞かれたんだけど、私はいつも “できる限り厳しくするべきだ” とアドバイスしたものよ。”プーチンと仲良くすることはできない” と。この知恵は、薄情な指導者を怒らせて逮捕されたことよりも、獄中で勝ち得たもの。独裁者は刑務所の看守とよく似た行動をとるの。優しさを弱さとみなしてしまうのよ。
プーチンは自分の墓穴を掘っていると、正直そう思うわ」
Nadya は服役中、そして2014年の釈放後、歴史上の政治犯のような方法でキャンペーンを行いました。まず、ハンガー・ストライキ。
「ハンガー・ストライキを始めたとき、私は死を覚悟していた。独裁者と戦うなら、最後まで戦う覚悟があることを示さなければならない。ウクライナは、いくつかの都市を失うかもしれないが、最後まで戦う意志がある」
彼女は、マドンナやヒラリー・クリントンといった著名人から、世界的な支持を得るようになりました。スロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクとの手紙のやり取りが始まり、それが “同志の挨拶” という本になりました。

彼女が今思い出すのは、刑務所の状況に具体的な影響を与えたこと。ハンガーストライキを始めて1週間後、プーチンの人権担当の右腕が獄中の彼女に直接電話をかけてきて、彼女が抗議している残酷な状況について話し合ったのです。18時間労働、6週間に1日しか休みがない、睡眠時間が短い、看守や他の受刑者からひどい暴力を受ける。
「これはかなり非常識なことだったのよ。私は社会的地位の最も低い人間だったけど、彼は私を呼び出さなければならなかったのだから」
その後、この奴隷労働システムの構築者である刑務所長ユーリー・クプリヤノフは、この件で有罪判決を受け、執行猶予付きの2年の刑に服しました。
「ロシアの矯正本部は声明を出さなければならなかった。彼らは私を名指しして、私が正しかったと言ったのよ。私がやっていることはすべて、プーチンにとってより大きな痛手となることなの」
しかし、Nadya の受けた刑は、今でも彼女に酷い痕跡を残しています。
「私は刑務所がトラウマになってしまった。出所したときには、人としてほとんど機能していなかった。2014年には本当にひどいうつ病にかかったの。PTSD によるうつ病で、今も薬を飲んでいるわ」。
服役中に引き離された娘は、現在14歳。「彼女は社会民主主義者よ」 と Nadya は皮肉を込めつつも、承認するように話します。「彼女の世代では、人々はより大きな平等を望んでいるの」

その彼女の娘の友人も、反戦のデモで危険な目にあっています。
「今、ロシアで反戦を訴えるのは極めて危険なの。この4日間で何千人もの人々が逮捕、しかも残忍な方法で逮捕されている。殴られたりしてね。
例えば、私の娘には14歳の友人がいるんだけど、見た目は10歳くらいに見える。彼女は父親と一緒に抗議に行ったけど、警官が彼女を殴って逮捕しようとしたのよ!彼女の父親は、”何をするんだ?私の娘だ。まだ子供なんだ!” と。警察は彼女に外傷を負わせ、彼女は包帯を巻いているわ。病院に行って治療しなければならないほどの酷いトラウマよ。警察は少女を逮捕する代わりに、彼女の父親をターゲットにして、彼を地面に投げつけたわ。彼は殴られ、2、3日前から逮捕されている。だから、本当に難しいの…
北米とは、抗議することの代償がまったく違うわ。ここでは、抗議しても、たいていの場合、1日か2日で解放されるけど、私の国ではそうはいかない。抗議活動に参加するだけで、あるいはツイッターでつぶやくだけで、簡単に5年間は刑務所行きになってしまう。私はソーシャルメディアの投稿で2件の刑事事件を起こしている。抗議活動に行かなくても、YouTubeやTwitter、Instagram で口を開くだけで捕まってしまう。彼らは私たちのInstagramのストーリーでさえ追っているの」

プーチンは、ナショナリズムの高まりを期待しているのでしょうか?
「ナショナリズムというより、帝国主義でしょうね。帝国というより、一つの大きな国家を築き上げるということ。彼はそれを望んでいるんだけど、人々が戦争に飢えていないため、それを達成できるとは思えない。
2014年には、人々はもっと飢えていた。そしてプーチンは本当にすぐに成功を収めたのよ。だけど、プーチンの対外的な軍事的冒険が、制裁を引き起こし普通のロシア市民にさらなる問題をもたらすことに気づいたとき、戦争へ欲求は本当にすぐに消えてなくなったのよ。彼らは苦しんでいる。プーチンは苦しまない。彼は大金持ちよ。だから、彼の生活の質には影響しないけど、一般人には影響するわけで、それは本当に悲しいことよ。
第二に、私たちは世界で良い顔をされていない。ロシアのパスポートで旅行すると、人から見下されるの。私はロシアのパスポートで旅行しているんだけど、嫌な思いをするわ。侵略者代表なんだから」
ウクライナ侵攻に関して、アメリカ政府やEU諸国に望むことは何でしょう?
「度胸を決めて、何かしてくれればいい。プーチンが危険な独裁者でしかないのは明らかで、止めなければならない。彼は自国の人々にとって危険なだけでなく、世界の平和にとっても危険な存在よ。多くの人が冗談半分で、この侵略が第三次世界大戦の引き金となると話している。だけど、これはヨーロッパでの戦争なの。冗談では済まされない。本格的な戦争なのよ
アメリカ政府やEUはこの事態を十分に深刻に受け止めていないと思う。この戦争は、プーチンのクリミア併合に対する国際的な反応の結果でもあると思っているの。彼は、基本的にヨーロッパの一部である隣国で簡単に戦争を始めることができ、それによってそれほど大きな被害を受けないということを学んだのだから。
だから、何か行動を起こすべき時だと思うのよ。制裁の対象はクレムリンであるべきで、一般のロシア市民はすでに苦境に立たされている」

これまでの様々な経験は彼女の活動を鈍らせることなく、今やテクノロジーの可能性、その最前線に集約されています。彼女は当初、暗号通貨は金持ちの技術者のおもちゃに過ぎないと考えていました。しかし、中央銀行や政府から独立し、企業の買収を受けないという暗号通貨のその活動家としての可能性に2021年初めに気づき、それ以来、資金調達を行ってきました。
「それ以来、さまざまな慈善活動のためにかなりの金額を集めているわ。家庭内暴力の被害者のためのシェルターのために資金を集めたし、ロシア国内の本当に危険な場所から、何十人もの女性をロシア国外に移動させることができたの。昨年の8月には、ロシアの政治犯のために募金を行ったしね」
それ以外にも、今日彼女は、女性や LGBTQ+ のアーティストの作品を購入することをミッションとした暗号基金 “UnicornDAO” の立ち上げに協力しています。
「単に彼らの作品を買い上げるだけでなく、彼らと共に働き、安定した持続可能なキャリアを持つために様々な支援をする予定なの」
ユニコーンの最初の買い取り作品は、ロシア出身でニューヨーク在住のアーティスト、オリーブ・アレン。
「NFT の世界はお金の再分配には最適だと感じているわ。だけどこの世界でも、古いパターンが繰り返されているのを目の当たりにしているの。女性差別は結局、デジタル作品にも移行するだけ。NFT の売上に占める女性の割合はわずか5%なの。あなたがたまたま女性だった場合、あなたの言葉に価値があることを証明するのはとても難しいのよ…」

NFT の探求は、文化的な変化を促進し、資金を集め、次は国家から独立した民主的な機関を作ろうとするものです。それがどのようなものかは決して明らかではないものの、Nadya のロシア政治に対する読みと、変化を強いるために必要なことは、今でも完全に現実的なものでしょう。
「大規模な反乱。何百万人もの人々が街頭に出て、プーチンがいなくなるまで立ち去らないこと。それは明らかに、非常に危険なことよ。プーチンは正気ではないから、自国民にさえ発砲するかもしれない。だからなぜ皆が街頭に出てこないのか、私にはよく理解できるのよ。
それと並行して、プーチンのクローズド・サークルから、もう一つの変革の力が生まれるかもしれないわね。正直言って、プーチンは今、自分の墓穴を掘っていると思う。彼と親しいオリガルヒのうち、公にウクライナを支持し、プーチンに立ち向かっている人の数は相当なもので、そんなことは20年来なかったことだから」
彼女は、野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイが、プーチンの後継者にふさわしい人物と見ています。
「社会保障の充実、再分配、これらはすべて彼のプログラムの一部よ。私は2007年から彼を知っているんだけど、彼のプラットフォームがどんどん社会民主主義的になっていくのを目撃するのは本当に興味深いことよね。彼はレッテルを貼らないの。それは賢明なことだと思うわ。彼は人々を分裂させたくないのよ」
Nadya は、ナワリヌイが今も牢獄に閉じ込められていることを忘れてはいけないと訴えます。 彼はYouTubeで1億回以上再生された調査ドキュメンタリー番組を発表しています。プーチンの腐敗した取り巻きや宮殿を暴いたもので、驚くべきスパイ映像や彼が黒海に建設した10億ドルの秘密の宮殿についてのレポートが公開されたのです。
「そう、ナワリヌイといえば、彼のチーム全体を指していることを忘れてはいけないわ。素晴らしい活動家や才能ある人々のネットワークがあり、女性政治家もいます。彼の妻であるユリアとか彼のチームでプロデューサーとして働いている素晴らしい弁護士とかね。ナワリヌイと彼の調査チームは、絶えずビデオをリリースし、ニュースを配信している。率直に言って、彼はすごいわ。なぜなら、毎年、彼はどうにかして、あらゆる場面でプーチンを出し抜いているから。彼は毒まで飲まされたけど、生き延びたのだから。私は、彼をモスクワから医療専用機で移送するのを手伝った一人なの。残念ながら、私は夫が毒殺された経験があり、だからこそ同じルート、同じ人たちを通じて迅速にナワリヌイを移送できたのよ。そして、彼は生き延びただけではなかったの。ナワリヌイはその後、調査団体 “ベリングキャット” とともに、自らの暗殺について驚くべき調査を行い、彼の殺人未遂を担当した人物を指摘したの。自分の殺人犯となる人物に電話をかけ、電話で話をしたのよ!そして、計画すべてを認めさせたの! 」

結局、クレムリンが最も恐れているのは、優れた指導者に率いられた民衆の蜂起です。
「政府は、それを阻止するためにあらゆる手段を講じているの。集会に行く予定があると疑われたら、事前に逮捕して、疫学衛生犯のようなもので告発するのよ。コロナウイルスを理由に、家から出てはいけない、家から出たら刑事罰を受けることになると言われるの。この法律は普通の人が家を出るときには使われないわ。活動家だけよ。しかし、政府はいわゆる一般人の機関を本当に見くびっている。彼らは本当に怒っていて、政府がいくら逮捕しても無駄なのよね。私の友人のマーシャは、PUSSY RIOT の活動家で、私と一緒に2年間刑務所で過ごしたけど、今まさに刑務所にいて、さらに2年の刑期が待ちうけている。ナワリヌイの妻のユリアと、私の大親友である弟のオレグも牢屋に入っているわ。彼女の場合は逮捕されたので出馬できないの。犯罪歴があると、ロシアでは10年間は政治家になれないから」
プーチンのやり方は、いつも暴力と恐怖です。
「政府の主な手法は恐怖心。国民の意識にできるだけ恐怖心を植え付けようとしてきたの。活動家の予防的逮捕は別として、彼らは匿名のブロガーを使って、集会で大量殺戮が予想されるという偽情報をたくさんばらまいている。ロシアの機動隊が全員を射殺する命令を受けたという偽情報を流しているけと、正気の沙汰ではないわ!そんなことをしたら、プーチンは数時間以内に失脚するだろうね。人々はもう暴力を容認していない。だから、そう、彼らは恐怖を利用しようとしている。しかし、それはきっとうまくいかないの」
あまりに高いリスクを負いながらも、恐怖や暴力に負けず彼女たちは戦いを続けます。
「ロシアでも芸術を続けてもいいのよ。特にあなたの芸術が本質的に政治的であるならね。今日歌ったのは、警察国家はいらないとか、多くの曲は警察の弾圧や独裁政治に捧げられたものなの。メッセージから目をそらしてはいけないと思う。そうやって、反戦、反権威主義に貢献しているのよ」

参考文献: THE GUARDIAN :Pussy Riot’s Nadya Tolokonnikova: ‘You cannot play nice with Putin. He is insane. He might open fire on his own people’

ROLLING STONE :Pussy Riot’s Nadya Tolokonnikova: ‘Fuck Putin. I Hope He Dies Soon’

VOUGE :Pussy Riot’s Nadya Tolokonnikova On The Protests in Russia – And Why the Opposition Isn’t Going Anywhere

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STAR ONE : REVEL IN TIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ARJEN ANTHONY LUCASSEN OF STAR ONE !!

“I See It As My Role As a Musician To Offer Escapism”

DISC REVIEW “REVEL IN TIME”

「STAR ONE は AYREON とは逆で、ギターリフをベースとしている。そして STAR ONE はもっとストレートな音楽なんだ。クラシカルでもないし、アコースティックもない。ストレス発散の時間だよ!」
自称、長身痩躯のヒッピー。オランダが生んだプログ・メタルの巨匠 Arjen Anthony Lucassen は GENTLE STORM, STREAM OF PASSION, GUILT MACHINE など数多のプロジェクトで、そのつど自身の様々な音楽的宇宙を探求し、知的欲求を満たしてきました。それが可能になるのも、ほとんどが壮大な2枚組で複雑にストーリーが絡み合う、さながらメタル世界の “スターウォーズ”、AYREON という母船が存在しているから。
「Bruce Dickinson は AYREON のアルバム “Universal Migrator” での私たちの共同作業をとても気に入ってくれて、私と一緒にアルバムを書いてレコーディングしたいと言ってくれたんだ。それで曲作りを始めたんだけど、その時、私は素直にこのことをインターネットに書いてしまったんだ。そのニュースはすぐに広がり、Bruce のマネージャーである Rod Smallwood にも伝わってね。彼は、私がそんな早い段階でこのプロジェクトの話をしたことを面白く思わず、プロジェクトをキャンセルしてしまったんだよ」
Bruce Dickinson との蜜月からはじまった “Space Metal” STAR ONE とは、AYREON のハイエナジーなプログ・メタル、その側面にフォーカスし、より掘り下げて表現したプロジェクト。映画を愛する Arjen は、自分の好きな映画、それもSFやファンタジーについての感想や感情を表現する場として STAR ONE に乗り込んでいます。ただし、これまでの “Space Metal” では、”スターゲイツ” や “スターウォーズ” といった遥か彼方の宇宙を探索したのに対して、今回はもう少し地球に寄りそい、”時間旅行” に端を発するディストピアや近未来的な映画をテーマとしているのです。
これまで STAR ONE では、Russell Allen や Floor Jansen のような才能あるメンバーが中心となってハーモニーを奏でてきましたが、今作では “One Song, Two Singers” を掲げた二枚組のアルバムとなり、さらに Arjen の世界中の最高のギタリストと仕事がしたいという野望を叶えるため乗組員の数は大幅に増加。多様な才能と名人芸を味わえる、ボリューム満点の壮大な宇宙メタルがここに完成をみたのです。
オープナー “Fate of Man” は、”Universal Migrator” サーガ第2弾で私たちが愛した要素をそのまま抽出したような、速く、重く、メロディックな幕開け。カナダのメタルバンド UNLEASH THE ARCHERS の Brittney Slayes が STAR ONE の世界に新鮮な声をもたらし、映画 “ターミネーター” の残像を伝えます。同時に、SYMPHONY X の Michiel Romeo は、壮絶なギターリードで T-800 の残忍な道を切り開いていきました。
次のトラック “28 Days” は、同じく SYMPHONY Xの Russell Allen が “ドニー・ダーコ” の複雑な物語を語るために歌詞を提供し、楽曲に説得力を付与します。ジェットエンジン、タイムトンネル、バニースーツのドロドロとしたカオスはドロドロとした楽曲に移行して、ドニーの奇妙な人生の最後の28日間を十分に表現しています。
3曲目の “Prescient” は、AYREON らしい伝統的なシンセと半ケルト的なメロディーで始まった後、映画 “プライマー” の物語となり、2人の主人公、エイブとアーロン を Michael Mills (TOEHIDER) と Ross Jennings (HAKEN) が見事に演じきりました。この曲のデュエットは、かつての “Human Equation” を想起させ、二人のアカペラパートが何層にも重なっていて、リスナーの脳内を駆け巡ります。
次の “Back From The Past” では、Jeff Scott Soto と Ron Thall の SONS OF APOLLO 組が暗躍し、1985年にタイムトラベル。若き日のマクフライの様に、デロリアンが午後10時4分に線を越えなければならないと訴えます。素晴らしいアレンジに素晴らしいミュージシャンシップ。
Steve Vai がメタルを弾く、今となっては珍しいタイトル曲の冒険の後訪れる “The Year of 41” はアルバムのハイライトでしょう。1941年、真珠湾攻撃を阻止するため、米海軍の乗組員がわずかな可能性に賭ける映画 “ファイナル・カウントダウン” にインスピレーションを得た楽曲。Joe Lynn Turner が Jens Johannson と再びタッグを組み、WHITESNAKE の偉大なる Joel Hoekstra を引き連れ軍艦に乗り込みました。AYREON 世界が素晴らしいのは、魔法のようにスペシャルな組み合わせが実現するファンタジー・ワールドであるところ。”41″ のミュージシャンシップは並外れていて、アルバムの中でも本当に傑出しています。特に Joe Lynn Turner の変わらぬ歌声、変わらぬメロディー。Arjen の RAINBOW に対するリスペクトが詰まった楽曲で、70の老兵は老いてますます盛んです。
まさに10年待った甲斐がある傑作。Arjen ならではの完成された作品であり、アグレッション、多様なボーカル、リリックと名人芸のイマジネーションに溢れた、中毒性の高い時間旅行。今回弊誌では、Arjen Anthony Lucassen にインタビューを行うことができました。「何というか、私はひどい反社会的な引きこもりなんだよね。恥ずかしながら、私は砂の中に頭を突っ込んでいるようなものでね。世の中で何が起こっているのか、まったくわからないし、知りたくもないんだよ。人間の言動が腹立たしいからだよ。そして、私は結局、人のひどい行動に対して何もできないんだ…」 それでも我々は、ディストピアをテーマとした彼の真意を汲み、行間を読むべきでしょう。二度目の登場。 どうぞ!!

STAR ONE “REVEL IN TIME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE KOREA : VORRATOKON】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YURI LAMPOCHKIN OF THE KOREA !!

“Right Now, We Are Feeling Like Musicians On Titanic, Who Continued To Play For The People In Their Darkest Hour, But We Want To Let Our Music Speak For Us.”

DISC REVIEW “VORRATOKON”

「僕たちのような音楽が流行りはじめたのは、00年代にローカルなバンドがメタルコアや Nu-metal に影響されたヘヴィな音楽を演奏し始めたのが最初だったと思う。ただ、国境を越えて音楽を届けるには常に問題があったんだけど、ストリーミング産業、特に Spotify や Apple Music といった大手が登場すると、それがずっと簡単になったね」
古くは ARIA や GORKY PARK、長じて EPIDEMIA や ABOMINABLE PUTRIDITY など、ロシアにはメタルの血脈が途切れることなく流れ続けています。ただし、その血管が大動脈となり脈打ちはじめたのは、00年代の後半、メタルコアや djent の影響を受けたテクニカルで現代的なメタルが根付いてからでした。モダン・メタルの多様な創造性は、ギタリスト Yuri Lampochkin 曰く “あらゆる音楽を聴く” ロシアの人たちの心にも感染して、瑞々しい生命力を滾らせていったのです。
仮面のデスコア怪人 SLAUGHTER TO PREVAIL のワールド・ワイドな活躍はもちろん、ギターヒーローとして揺るぎない地位を獲得した Sergey Gorvin、独自のオリエンタル・メタルコアでプログレッシブのモーゼとなった SHOKRAN、複雑怪奇と美麗のマトリョーシカ ABSTRACT DEVIATION など、10年代初頭、我々は芸術的 “おそロシア” の虜となっていきました。THE KOREA もそんな文脈の中で光を放つバンドの1つ。当時、Bandcamp で “Djent” タグを熱心に漁っていた人なら知らない者はいないでしょう。
「音楽で最も感動的なことのひとつは、常に新しい方法を探して、美しいもの、本当にパワフルなものを作り、自分の音や自分の音楽の感じ方を常に進化させることなんだ。僕たちは当時からその感覚を持っていて、今もそれが THE KOREA の原動力になっているんだよ。個人的に影響を受けたのは、これでもだいぶ絞っているんだけど、Jim Root, Jaco Pastorius, Ian Paice, Chester Bennington, Misha Mansoor といったところだね」
THE KOREA が唯一無二なのは、djent と Nu-metal という台風並みの瞬間風速を記録したメタル世界の徒花を、包括的なグルーヴ・メタルと捉え両者の垣根を取り払ったところでしょう。Jaco Pastosius や Ian Paice といったロックやジャズの教科書をしっかりと学びながら、まさにパワフルで美しい “新しい方法” をサンクトペテルブルクで創造しました。
莫大な情報と自由が存在する “西側” の国々でさえ、ハイパーテクニカルな LIMP BIZKIT や 拍子記号に狂った SLIPKNOT、やたらと暴力的な LINKIN PAPK なる “もしも” は考えもしなかったにもかかわらず。そんな “If” の世界を彩るは、雪に政府に閉ざされたロシアの哀しき旋律、それにトリップホップの無垢なる実験。
「僕たちの楽曲 “モノクローム(Монохром)”では、世界における暴力、特に戦争に終止符を打つことについて話している。戦争はもう、僕たちの生活の中にあってはならないことで、世界中の人々がそれに気づき、互いに争うことをやめるべきなんだよね。この曲は1年以上前に書かれたものなんだけど、まさか最近の出来事とこうして結びついていくなんて、僕たちには想像もつかなかったよ」
ロシア語で “耳を傾ける” を意味する最新作 “Vorratokon” はそんな彼らの集大成。戦争を引き起こしたロシアの中にも平和と反戦を願う “優しい” 人たちが存在すること。我々はそんな小さな声にもしっかりと傾聴すべき。奇しくもそんな祈りがタイトルから伝わってくるようです。
「僕たちの国にとって、残酷と不正のトピックは特に重要なんだよ。だけどロシアの社会は、明らかな問題を認識して解決し始めるレベルにもまだ達していないんだ…」
かつて、弊誌のインタビューで同じくロシア出身のチェンバー・デュオ IAMTHEMORNING はこう語ってくれました。もしかしたら、ロシアの中には戦争賛同者が想像以上に多く存在しているのかもしれません。しかし、その一つの意見を切り取ってロシアの総意のように発信するのは明らかに間違いです。
「俺たちは残忍な音楽を演奏しビデオには武器も出る。だけどどんな戦争にも反対だ。ウクライナで起こっていることにとても傷ついている。どうかロシア国民全体を共犯者だと思わないで欲しい。皆の頭上に美しい、平和な空が広がりますように」
SLAUGHTER TO PREVAIL、Alex Terrible の言葉です。こんな考えのロシア人もまた少なくないはずです。政治はともかく、少なくとも音楽の、芸術の世界では Yuri の願い通り私たちは “壁” を作るべきではないでしょう。
今回弊誌では、Yuri Lampochkin にインタビューを行うことができました。「今、僕たちはタイタニック号のミュージシャンのように、最も暗い時にいる人々のために演奏を続けているような気分なんだ…僕たちの音楽が僕たちの心を代弁してくれたらいいんだけどね」こんな時期に、こんな状況で本当によくここまで語ってくれたと思います。どうぞ!!

THE KOREA “VORRATOKON” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIVERWOOD : SHADOWS AND FLAMES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MAHMOUD NADER OF RIVERWOOD !!

“Egypt Has a Lot To Offer. Egypt Has More Than Just Pop/Rap/Hiphop And The True Sound Of The Deserts Of Egypt Can’t Be More Clear Than In Metal Music.”

DISC REVIEW “SHADOWS AND FLAMES”

「オリエンタルなメロディーが世界中を魅了する理由。それはやはり、魔法のように西洋のメロディーと異なっているからだと思うよ。オリエンタルなメロディーは常に貴重なもので、西洋人の耳にはとても珍しいものだ。だからこそ、メタルとのミックスは、中近東の文化を紹介するとてもユニークで重要な方法なんだよね」
メタルの生命力、感染力を語るとき、中近東の魔法のようなバンドたちはその完璧なる象徴だと言えるでしょう。モダン・メタルの深遠なる世界がいかに寛容で多様であるかは、イスラエルの ORPHANED LAND とチュニジアの MYRATH、さらに BLAAKYUM, SCARAB のカラフルかつエキゾチックな冒険を見れば自ずと伝わるはずです。そしてもう一つ、エジプトのアレキサンドリアを拠点とする RIVERWOOD の名前を我々はそのリストに加えなければなりません。
「故郷アレクサンドリアと同様に、僕たちの音楽も様々な文化を融合することに力点を置いている。僕たちの音楽には、アラビア文化、西洋の近代文化、スカンジナビア、北欧、そして多くの民族楽器が登場する。これこそが RIVERWOOD のメインテーマでもあるんだよね。ヘッドフォンやスピーカーから遠く離れた場所へ、リスナーの想像力をかきたてるような作品にしたいね」
人口520万人が暮らすエジプト第二の都市アレクサンドリア。地中海の真珠と呼ばれる美しき港湾都市は、ギリシア・ローマ文明、エジプト文明、そしてイスラーム文明が時と共に融合した文化の交差点でもあります。RIVERWOOD の音楽は、そんな彼らの故郷にも似てまさに “世界の結び目” のような色彩豊かな寛容さを誇っているのです。
「基本的に、エジプトには様々な音楽が存在する。ポップ、ラップ、ヒップホップ…だけどエジプトの砂漠、その真のサウンドを伝えるのにメタル以上のものはないんだよ」
砂漠の音を伝えるのにメタル以上のものはない。おそらく、彼らの言葉は真実でしょう。メタルには、砂漠の雄大、過酷、孤独、無情、そして絶景と神秘を伝えるだけの音の葉が備わっています。
RIVERWOOD の場合、彼らが愛する KAMELOT に似てシンフォニックなプログレッシブ・メタルを演じながら、劇中に伝統楽器やフォークミュージック、そして中近東のオリエンタルなメロディーを織り交ぜて砂漠の声を代弁していきます。主役を務める歌い手は素晴らしき Mahmoud Nader その人。彼の熱砂の歌声は、メタルのエクストリーム・サイドからシネマティックな情景描写まで、舞台を多様で情熱的な劇場へと導いていくのです。
「メタル・シーンは長い間、体制に悩まされてきたけど、今は正直言ってそうじゃない。今の唯一の課題は観客の文化で、観客の好みが何十年もかけてロック/メタルからモダン・ポップにシフトしてきたことが、僕にとっては常に奇妙で脅威に思えるんだ。誤解しないでほしいんだけど、例えば Spotify のトレンドを見てほしいんだ…まあでも結局のところ、誰もが自分の好きなものを愛する自由を持っているんだよ」
二枚組のアルバムとも言える75分の壮大な “Shadows and Flames” で語られるのは、新バビロニア興亡の物語。さながら、ネブカドネザル2世のバビロン捕囚のようにメインストリームな音楽世界に淘汰されつつあるハードロック/メタルの民ですが、RIVERWOOD はそんな音楽におけるバビロンの横暴も長くは続かないことを砂漠のメタルで熱く証明してくれます。
最も長い楽曲は12分半の “Blood and Wine” で、リスナーの時間、場所、ムードを刻々と変化させるアラジンの壺。荘厳壮大、絢爛豪華。シンフォニックで、アグレッシブで、エキゾチックで、シアトリカル。”The Shadow” というダークでミステリアスな小曲を挟み、10分超の “Sands of Time” は砂漠の中の異形、ピラミッドへとリスナーを惹き込んでいきます。ハーディー・ガーディーを前面に押し出した7分のロマン “Queen of the Dark” のプログレッシブでフォーキーな面持ちはアルバムの絶妙なアクセント。
“Shadows and Flames” に収録されている楽曲はそれぞれ長さが非常に独特で、1分をやっと超えるような非常に短い作品もあれば10分の作品も存在し、中間がありません。これは非常に挑戦的なやり方で、バンドが作曲能力に大きな自信を持ったエジプトの宝石であることを、ルールのない常識越えのアルバム全体でしっかりと証明していますね。
今回弊誌では、Mahmoud Nader にインタビューを行うことができました。「インスピレーションは中世のビデオゲームから得ている。バンド名の “Riverwood” は、Helgen のドラゴンの攻撃から逃れて、最初に行く村。Skyrim ファンなら共感してくれるはずだよ (笑)」どうぞ!!

RIVERWOOD “SHADOWS AND FLAMES” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZEAL & ARDOR : ZEAL & ARDOR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MANUEL GAGNEUX OF ZEAL & ARDOR !!

ALL PHOTOS BY GEORGE GATSAS

“For The Moment I Just Make Music That I Personally Enjoy. There Was No Intention Of Revitalising a Genre Or The Hubris Of Thinking I Can Rebirth Anything. Only Time Will Tell If It Has Any Impact. Until Then I’ll Just Keep Making Music.”

DISC REVIEW “ZEAL & ARDOR”

「すべてクロスオーバーしているんだ。全く違う分野での経験や視点が、別の分野での新しいアプローチにつながることも多いんだよね。それは私のクリエイティビティにとても役立っているよ」
Manuel Gagneux は、あまり考えることが好きではありません。というより、考えすぎることが嫌いなのです。物事の仕組みに興味を持ち、一時期は物理学を専攻し現在は VR の開発に携わるほど知的な人物であるにもかかわらず。ただし、異なる視点や異なる考え方を受け入れることが創造性をふくらませ、人が “傲慢” になることの抑止力であることを知っています。Manuel はすべてにおいて、傲慢が人類の敵であることを本能的に知っているのです。
「これほどの人気になるとは思ってもみなかったよ。見ていて楽しいバンドと一緒にツアーができたことは、この上ない成果なんだ。すべてが私たちにとって驚きなんだよ」
Manuel は、ZEAL & ARDOR の成功が “滑稽” だと語っています。なぜなら、成功は彼が求めていたものではなかったから。バンドを始めようさえとしたわけでもありません。というのも、このバンドは、ウェブ・フォーラムで、一緒になるはずのないジャンルをミックスするという奇抜なアイデアを募集したのがきっかけだったから。ZEAL & ARDOR は、抑圧された黒人奴隷の歌とブラックメタルを混ぜようという提案から生まれたものです。しかし、それは彼にとって多くの音楽的実験のひとつでした。
「”成功 “が定義される限り、音楽はポピュラリティに過ぎない。そして、人気というのは永久に続くものではないんだ。それが、私がずっと前に理解したこと。だから、私はそれを考えないことにしている。そして、人気はいつ崩れ落ちるかもしれないし、長い時間をかけて消えていくかもしれないことも承知している」
それでも、マニュエルはこの成功にとても感謝をしています。それは、芸術的に解放され、重荷にならないものである限り。MESHUGGAH, OPETH といったビッグネームとの共演や、今年のArcTanGent フェスティバルのトップを飾るなど、もはや Manuel の進撃をとめるものはどこにもないように思えます。
「今のところ、私は個人的に楽しめる音楽を作っているだけなんだよ。ジャンルを活性化させようという意図も、何かを再生させることができるという傲慢さもないんだ。インパクトがあるかどうかは、時間が経ってみないとわからない。それまでは、ただ音楽を作り続けるよ」
1989年、スイスで音楽家の両親のもとに生まれた Manuel の家では、音楽はある種の象徴でした。彼の母親はソウルとジャズのシンガーで父親はパーカッショニスト。「サルサ・パーカッションね。変なポリリズムで、音楽を聴きたくない人には迷惑な話だよ。両親は私にサックスを吹くことを強要したんだ。大嫌いだった。子供の頃の話だけど。 そしてパンクに出会った。想像以上に醜いBCリッチを買って、それから数年間、部屋に閉じこもったんだ」
バーゼルには巨大で活発なパンク・シーンがあることを知った彼は、10代でそこに参加し、メタルやグラインドコアのより過激なサウンドにすぐに耳を傾けるようになりました。子供の頃、Manuelと彼の仲間は毎週末ライブハウスに行き、ドイツのグラインドバンド Japanische Kampfhörspiele のようなショーを見てぶらぶらしていたのです。Manuel が最初のバンドを結成したのはその頃で、ブラックメタル系のバンド名で、”Ateraxie Austere Assumptionのようなもの” でした。
「他のメンバーの一人がその名前に固執していたんだ。ライブは一切やらなかった。基本的には、リハーサル室で一番安いビールを飲んで、クソみたいなマイクで叫んでいただけなんだ。それは素晴らしいことだったけど」
学問的には、Manuel は「全く教育を受けていない」と言います。彼は頭が良く、文学にとても貪欲でしたが、16歳の時に学校を辞めます。ただし、物理を勉強したいという思いがあり、そのために軍隊に入隊し、その軍隊を通じて大学に入るという道を選んだのです。
「軍に入隊した時、自分のやりたいことを言えるようになっていて、それが核防衛研究所で、そこから大学へ行けるかもしれないと思ったんだよな。でも、ただただ拘束され、怪しげなことをやらされるだけ。楽しかったかって?いやいや、ひどいもんだよ。怒鳴られるし。あそこで何をしたかなんて、本当は話すことも許されないんだ。辞めたくて仕方なかったんだよ」

結局、”祖国への別れも告げずに脱走” し、ニューヨークへと Manuel は急行します。ここで、彼は音楽に専念しました。
偶然にも、年配のブルース・ミュージシャンと一緒に暮らすことになり、スイス人の下宿人がミキシングの仕事をする代わりに、彼が所有する家に家賃なしで住めるように計らってくれました。この頃から、彼はインターネットでアイデアを募集するようになったのです。トライバル・メロディック・ハードコア、グレゴリアン・ポストロック、ナッシュヴィル・パワーエレクトロニクス、バロック・ブローステップなど計47枚の作品が作られましたが、その中で定着したのが ZEAL & ARDOR だったのです。
「初めてインタビューを受けることになったんだけど、”なんでこんなことしなきゃいけないんだ “って思ったんだ。とても馬鹿げていたんだけど、その時点では、本当に突飛な提案の嵐の中で、こういうことに無感覚だった。そして、ロードバーンの質問が来る頃には、信じられないという気持ちで、ただただ笑っていた。それが、今も続いているような感じさ。つまり唖然としてる」
セルフタイトルのニューアルバム。その制作状況は、デビュー作”Devil Is Fine” や、その次の”Stranger Fruit” とは少々異なるかもしれません。Manuel は今や有名人であり、車輪はよりしっかりと道を進み、好奇心よりもむしろ期待が大きい状況ですが、ただし彼はそれでもまだ初期のシンプルさからそれほど離れていないのです。つまり、重要なのは閃きとそれに従うこと。
「アルバムは私の愚かなアイデアをただ凝縮したもの。つまり、何かを得て、試してみて、脚光を浴びたらそれを完成させ、そして、あまりいじりすぎないようにするだけさ。クリエイティブな面では、”ああ、これをやったらどうなるんだろう “と考えることに夢中なんだ。こういう風にアレンジしたらどうだろう?とか鍵盤を入れたらどうだろう?とか。夢中になる子供みたいなものさ。そういう喜びはあるよね」
ZEAL & ARDOR は、アフリカ系アメリカ人のスピリチュアル・ミュージックとブラックメタルを融合させるというコンセプトに本質的に忠実でありながら、いまだに挑戦的であると感じられるバンドであることをセルフタイトルで証明します。
インダストリアルなリズム、優しく奏でられるギター、シンセサイザーのサウンドスケープを新たに纏いながら、歴史の暗い回廊に響く血と炎の濃度は不変。彼らの音楽的特異性はクロスオーバーの魅力を発揮しながらも、これまでで最もヘヴィーなサウンドをまざまざと見せつけました。
“Death To The Holy” や “Church Burns” といった曲名は、ブラックメタルの伝統を意識したものですが、奴隷時代の労働歌のようなスタイルも携え、過去の恐怖をより深く再現します。一部で使用されるドイツ語は、ワーグナーのオペラ、その恐ろしい大災害さえ思い起こさせます。
“Emersion” の美しいエレクトロニクスは、ブラックゲイズの猛風によって容赦なく遮られ、一方で “Golden Liar” はメタリックな重さを湿度の高いアトモスフィアに変換する度量を見せます。ブルースと同様にヒップホップを思わせるリズムとリリックが特徴的な “Bow” を聴けば、Run The Jewels のスリーブに似たアートワークにも納得。”A-H-I-L” のドローンがこの野心的なアルバムを曖昧に終わらせるまで、クリエイターは風変わりで鋭いまま凛としてその才を発揮し続けます。

「例えば、”Death To The Holy” の、あの奇妙でうるさい音が、このアルバムから最初に出てきたものの一つだったんだ。この音はとても迷惑で不愉快だから、これを中心に曲を作らないといけないと思ったんだ。それでこうなったんだよ。私がひとつの音を中心に曲を作り、何千人もの人々がその迷惑なものを聴かなければならないということを考えると、笑わずにはいられないよね。そして、それを楽しまずにはいられない。そのクスッと笑える感覚がない曲を頑なに作ろうとすると、十中八九、悪い音になっちゃうんだよな」
これらすべてをまとめているのが、ZEAL & ARDOR に欠かせない2つの要素です。1つ目は、これらの奇妙な枝が広がる音楽の幹で、何にもまして重要なこと。そうでなければ、全体が機能しないもの。
「私にとって、アトモスフィアは最も重要なもの。その雰囲気が半永久的に続いている限り、不快なノイズやジャンルの変更も許容されるんだ。このアルバムでは、カットされたり、合わなかったりした曲をたくさん書いた。何がこのアルバムの一部となり得るか、何が耳障りでなく面白いリスニング体験になるかを選んだんだよ。それがタイトロックなんだ」
このバンドのもうひとつの重要な部分は、物語性です。奴隷制と解放という概念は見た目よりも緩やかですが、それでも ZEAL & ARDOR を生き生きとしたものにするために非常に重要な役割を果たしています。
「”Devil Is Fine” のテーマは “奴隷のような生活” で、Stranger Fruitは “脱出、脱獄” だったんだ。このアルバムは、実際に逃亡生活を送りながら、あるいはある程度自由になりながら、”これからどうすればいいんだ?”と考えるものなんだよ。新しいフロンティアなんだ」
新しいフロンティア。つまり、くだらない古い概念や常識、権威を疑いブラックメタルのように “燃やしてしまう” こと。ただし Manuel はそれを暴力的なやり方ではなく、同調者を増やしながら達成したいと考えています。破壊というよりも創造で。
「古い権威を燃やす。その意図は大いにあったね。だけどね、ここでも私は、それでオーソリティの見解や権力者のやり方が変わることはないと自覚しているんだよ。だから何かを変えたいというよりは、むしろこれは私自身と、すでに私に同意している人たちの、過去に決別を告げる “宣言” なんだよね」
ZEAL & ARDOR がより直接的で完全に明確な態度を示したのは、2020年にリリースした “Wake Of A Nation EP” の時だけでした。警察官によるジョージ・フロイド殺害事件後の反人種差別デモをきっかけに書かれ、リリースされたこの作品のアートワークは、2本の警棒でできた逆十字であり、6曲は意図的に “ここ数ヶ月で私の仲間に起こったことに対する反応” でした。
「まさにあの事件が原点だった。当時はアメリカにいる家族のことがとても心配で、基本的には自分へのセラピーとしてあの EP を書いたんだ。あのような不確かな時代にいることは本当に恐ろしいことで、他の方法で対応する方法を知らなかったんだ」
ただし、便乗や売名とは程遠い、静かな抵抗でしたが。
「BLM 運動の理念は正しくて当然だと思うよ。どこでもそうだけど、一番悪い人が一番うるさいことが多いよね。私も職業柄、よく叫ぶ人という皮肉があるんだけど (笑)」
Manuel の音楽に対する動機は今も純粋で、他人が喜ぶものを作れば嘘くさくなる。まずは自分が楽しみ、満足するものを作るという方針はいささかもブレることはありません。だからこそ、メタルのリスナーだけでなく、様々なジャンルの信奉者がこの音楽に惹かれるのでしょう。多様性を掲げた多様な音楽で、人々はさらに予想外のこと、驚きを期待するようになりました。そんな上がりきったハードルの上を飛び越えていくのが ZEAL & ARDOR のやり方です。地に足をつけ、傲慢とは程遠い謙虚で寛容なやり方で。
「音楽を作ることは、私にとってとても地に足がついた経験なんだよ。派手なことは何もないし、気張ってもいない。ただ幸運なことに、それに対して人々が感情移入してくれることはあるんだよね。だけど、彼らの経験は私とは異なるもので、異なるけれどそれは両方とも同じように意味があることなんだよね。それが私の音楽が潜在的にできることのすべて。私が世界を変えられると言うのは傲慢で、率直に言って事実ではないよ」

参考文献: KERRANG!:Zeal & Ardor: “I just want to take people by surprise”

ZEAL & ARDOR “ZEAL & ARDOR” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOODYWOOD : RAKSHAK】


COVER STORY : BLOODYWOOD “RAKSHAK”

“This Has Been Our Direction From Day One — Metal Can Be Fun. You Don’t Have To Be Angry All The Time. People Say Metal Is a Way Of Life, So You Do Get Happy, You Get Sad, You Are In a Chilled-out Mode.”


RAKSHAK

今世紀初頭。ムンバイのメタルヘッド、Sahil Makhija、通称 “The Demonstealer” が、シンフォニック・デスメタルの先駆者 DEMONIC RESURRECTION と共に登場したとき、彼らは必ずしもインドで諸手を挙げて歓迎されたわけではありませんでした。
インドでは80年代後半から POST MARK のようなメタルバンドが活動してはいましたが、00年代に入っても依然として地元のメタルはニッチな存在であり、ファンはヨーロッパやアメリカから来たお気に入りのアーティストを聴きたがっていたのです。そんな中で、IRON MAIDEN だけがインドを準定期的にツアーしており、地元のバンドのほとんどはカバー曲を中心に演奏するにとどまっていました。
「私たちはその頃、オリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。

インド・メタルシーンの柱としての Demonstealer の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし私がやらなかったら、おそらく他の誰かがやってきて、いつか私の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」
Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」

幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。
THE DOWN TRODDENCE は、地元のケララ州の民族音楽の要素をスラッシュとグルーヴ・メタル・アタックに融合させたバンドです。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」
オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。

しかし、彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。
その “Dashavatar” のリリースから発売から4年以上が経ちました。Sahil が詳述したロジスティックとファイナンシャルの問題により、バンドは過度に多作することができませんが、シンガー/ギタリストの彼自身はその限りではありません。WORKSHOP というコメディロックバンドや、REPTILIAN DEATH というオールドスクールなデスメタルバンドでも演奏し、現在は SOULS Ex INFERIS という国際的なアンダーグラウンド・スーパーグループでもボーカルを担当しています。その無限のエネルギーと情熱をソロ・プロジェクト Demonstealer に注ぎ込み、最新作のEP “The Holocene Termination” をリリースしました。この作品は、タイトルが示すように黙示録的であり、The Demonstealer 自身は、自分のネガティブな感情を全て注ぎ込んだと語っています。
「みんな今日起きて、パソコンを開いて最新の恐ろしいニュースを見るのが怖いくらいだと思うんだ。世界がどこに向かっているのか、自分がどう感じているのかを表現するには、音楽が一番だ。COVID にしろ気候変動にしろ、人々はどんどん頭が悪くなり、とんでもない陰謀論にひっかかり、学校で習った最も基本的な科学も忘れている。まるで進化を逆から見ているようだよ」
Demonstealer にはドゥーム系のダークな雰囲気が漂っていますが、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

その筆頭格が、ニューデリーの BLOODYWOOD でしょう。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
Sahil は、彼らがインドのバンドの中で最も国際的にブレイクしそうなバンドであり、3月に4回のイギリス公演を含むヨーロッパ・ツアーと、来年末の Bloodstock への出演が予定されていることに期待を膨らませます。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
BLOODYWOOD が2018年に、”ラジ・アゲインスト・ザ・マシーン” という洒落たタイトルのツアーでヨーロッパを回ったとき、それはギタリスト、プロデューサー、作曲家の Karan Katiyar の言葉を借りれば “人生を変えるような経験” であったといいます。
「あの体験から立ち直れていないまま、もう2年も経ってしまったよ(笑) 俺たちにとっては1ヶ月の映画のようなもので、あらゆる感情が1000倍になっていたからね。友人たちは、俺たちがいつもその話をしていることにうんざりしているくらいでね。なぜなら、パンデミックに襲われる前、俺たちの人生で最後に起こった面白い出来事だったから。アレをもう一度、体験したいんだ」
3月にはヨーロッパに戻り、イギリスでの公演も予定されており、Bloodstook への出演も延期されていることから、彼らはその機会を得ることができそうです。今回は、煽情的なデビュー・アルバム “Rakshak” を携え、バンドを取り巻く興奮は最高潮にまで高まっています。

BLOODYWOOD の広大な多様性の感覚は、”Rakshak” で完璧に捉えられています。ヒンディー語と英語の混じった歌詞、そして常に変化し続けるサウンドで、このバンドを特定することは非常に困難な仕事となります。彼らは亜大陸の民族音楽(といっても北部パンジャブ地方が中心)を使うだけでなく、メタルの様々な要素を取り込んでいるのですから。彼らの曲の多くには明確に Nu-metal のグルーヴが存在しますが、時にはスラッシュやウルトラ・ヘヴィーなデスコアのような攻撃をも持ち込みます。
「俺らを特定のジャンルに当てはめるのは難しいよ。曲ごとにサウンドが大きく変わるから、インドのフォーク・メタルというタグに固執するのは難しいんだ。ジャンルが多すぎて特定できないけど、インドのグルーヴと伝統的なインドの楽器、そしてもちろんヒップホップを取り入れたモダン・メタルというのが一番わかりやすいかな」
そう Karan が分析すると、ラッパーの Raoul Kerr が続けます。
「ワイルドなアマルガムだよ。俺らは東洋と西洋の影響、その間のスイートスポットを探しているんだ」
シンガーの Jayant Bhadula がまとめます。
「これは様々な香辛料を配合したマサラ・メタルなんだよ(笑)」
どように表現しようとも、BLOODYWOOD のサウンドは実にユニークで、しかしそれ故にその開発には時間がかかりました。Raoul が説明します。
「観客の反応を理解し、完璧なバランスを見つけるために、何度も何度も実験を繰り返した結果なんだ。いったんスイート・スポットが見つかると、あらゆる可能性が開けてくる。インドの伝統音楽とメタル、この2つを融合させる新しい方法を見つけるのはまだまだ挑戦だけど、俺たちはこの方向性にとても満足しているんだ。このアルバムでは、そんなサウンドをたくさん聴くことができると思うよ」

2016年にニューデリーで結成されたこのバンドは、まずポップスやフォークソングを “メタライズ” した数々のカバーで、すぐにインターネット上でセンセーションを巻き起こしました。女優の Ileana D’Cruz がバングラ・ポップのヒット曲 “Ari Ari” の彼らのバージョンを何百万人ものインスタグラムのフォロワーと共有したときには、正真正銘のボリウッド・クロスオーバーの瞬間さえ起こしました。Raoul が振り返ります。
「ワイルドな時代だったね! 俺たちは自分たちのサウンドを発見し、オーディエンスを構築するためにカバーを使用したんだよ。それから自分たちの楽曲に集中した。アルバムには自分たちのオリジナルだけを収録したかったからね」
BLOODYWOOD というカレーには、メタル、ヒップホップ、バングラビートに伝統音楽。それ以外にも様々な香辛料が使用されているようです。
「あらゆる種類の音楽を聴いているよ。個人的にはメタル、ヒップホップ、ロックといったジャンルが好きだけど、どこの国の音楽であろうと、良いものは良いというのが俺らの共通認識なんだ。俺たちが作る音楽はそれを体現していて、どんなに異なるジャンルに見えても、全てに共通するものがあることを示している。Karan はThe Snake Charmer(インドで最も有名なバグパイパー)のプロデュースを、Jayant は穏やかな電子音楽とアコースティック音楽に情熱を注ぎ、Raoul は使命感を持って詩的なラップミュージックを作っているからね」
SNS は間違いなく、彼らのような “第三世界” のバンドにとってかけがえのない武器となります。
「間違いなくね。SNS のおかげで、地球上の人々はかつてないほど共感して、俺たちの音楽やメッセージに共鳴してくれるすべての人とつながることができるようになった。SNS は、俺たちが一体となって行動し、音楽の枠を超えてインパクトを与える力を与えてくれるんだ。俺たちのコメント欄をスクロールしてみると、俺たちとともに、インターネット上で最も美しい場所を作り上げている人々がいることがわかる。俺たちの成功は、ソーシャルメディアのポジティブな側面で築かれたものなんだ」

彼らにとって “妊娠期間” とも言えるカバーの時期は、BSB、50 cent、アリアナ・グランデ、そして NIRVANA, LINKIN PARK の曲を残酷にカバーしたアルバム “Anti Pop Vol.1″ で最高潮に達します。しかし、リック・アストリーをリフロールしていないときは(”Never Gonna Give You Up” の見事なヘヴィ・ヴァージョンが収録されている)、彼らは自分たちの楽曲に取り組み、それをよりシリアスなものへとゆっくりと変容させていったのです。
ライブ・セットでは時折騒々しいカヴァーが演奏されることもありますが、バンドは “ポップ・ミュージックを破壊する” という初期の目標よりも、もっと重要な目指すべきものがあることに気づくようになりました。自分たちのサウンドを発展させるだけでなく、自分たちが築いたプラットフォームを使って、自分たちが信じるものについて立ち上がり、発言するようになったのです。
BLOODYWOOD が真のデビュー作と位置づける、ヒンディー語のタイトル “Rakshak” は “保護者” と訳され、彼らの楽曲の多くにこのテーマが宿っています。Jayant が説明します。
「曲を聴いていると、守られているという感覚がある。でも、救世主が助けに来てくれるという意味ではないんだ。アートワークを見ると、子供と象が描かれているよね。象は、人間というこの壊れやすい生き物の中にある強さを表現しているんだ」
Raoul が付け加えます。
「より大きな視点で見ると、より良い世界への希望を象徴する人々、そして信念を守ることを歌っているんだよ。対立する政治をなくすことでも、性的暴行をなくすことでも、腐敗したジャーナリストの責任を追及することでも。何でもいい。大事なのはその希望の感覚を守ることなんだ。俺たちは、プライベートでも仕事でも、より良い世界への希望を与えてくれる多くの人々に出会ってた。俺たちが音楽を作る理由のひとつは、音楽が変化の触媒になり得ると信じているからなんだよ。音楽が俺たちに与えてきたポジティブな影響を考えれば、より良い世界を作る間接的な能力があると信じるに足るからね。
このアルバムは、俺たちが直面しているあらゆる課題から、人と地球全体を守るための共同作業について書いてある。俺たちは、問題を完全に排除することでこれを実現したいと考えているんだ。なぜなら、最善の防御は優れた攻撃であるから。分裂した政治、汚職、有害なニュース、性的暴行、いじめに関するメッセージや、うつ病との闘い、自分の限界への挑戦など、個人的なメッセージも封じながらね」

Karan、Jayant、Raoul の3人が中心となって結成され、ツアー時にはさらにメンバーが加わる BLOODYWOOD は、メンタルヘルスやいじめといった問題についても焦点を当てています。例えば、オンライン・カウンセリングを必要としているファンに無料で提供したり、ツアーの収益を NGO に寄付して、ホームレスの動物を助けるための救急車を提供したり。
例えば “Yaad” は、人間と人間の親友である犬の感動的な物語を通して、愛と喪失という普遍的な人間の経験を祝福するものです。 “Yaad” はヒンディー語で “思い出す”、”記憶の中で” という意味で、Karan の実体験を通して愛する人やペットを失ったことを受け入れて前に進む力について歌っています。
「この歌詞は、彼らが俺たちに与える永久的な影響を祝福し、どんなに離れていても、最高の思い出として彼らを胸に留め続けるという信念を繰り返している。俺は10年前に愛犬を亡くしたけど、今でもその喪失感を感じているんだ。MV では、そのメッセージを強調するために、人間と愛犬の絆を見せたいと思ったんだよ」
この曲とビデオの精神に基づき、BLOODYWOOD は、The Posh Foundationという地元の非営利動物保護施設に動物の救急車を購入する資金を提供しました。同団体が以前使用していた車両は、酷使と故障のために買い替えが必要でした。今後5年間でインドの首都圏にいる27,000匹以上のホームレス動物の命を救うことができるといいます。

一方で、”Machi Bhasad” は、高揚感とエネルギーに満ち、世界を変える声となります。
「元々は Ubisoft のゲーム “Beyond Good and Evil 2” のために作られた曲だ。新しい世代のパワーと、前世代よりも良くなる可能性を称える政治的メッセージのあるトラックなんだよ。ゲームの文脈の外では、この曲はトリビュートと行動への呼びかけ、その両方を意図している。俺たちのような人々に、かつて皆のためになることを考え、行動するようインスピレーションを与えたミュージシャンやリーダーへのトリビュート。同時に、多くの人の犠牲を払って少数のエリートに奉仕する不公平なシステムに疑問を投げかける。俺たちの世代が、先人たちが始めた仕事をやり遂げるための行動への呼びかけでもあるんだよな。世界をより良い方向に変えていくために」
パンジャブ語で “勇者よ生きろ” という意味の “Jee Veerey”は、鬱と戦い、心の健康を提唱するエモーショナルなテーマになっています。また、このシングルに関連して、オンライン・カウンセリングサイト HopeTherapy と提携し、彼らはバンドが負担する50回のカウンセリングセッションを提供しているのです。
「BLOODYWOOD の初日から俺たちは言っているんだが、メタルは楽しいものなんだ。いつも怒っている必要はないんだよ。よく、メタルは人生だと言われている。だから、喜んだり、悲しんだり、冷静になったりしてもいいんだよ。
俺らの曲が好きだという人からメッセージをもらったんだけど、そこには “でも、同性愛嫌悪や女性嫌悪に対するあなたの立場は?”って書いてあったんだ。俺はただ、”好きな人を好きになればいい” と言ったんだ。俺たちは、基本的にとてもオープンなんだよね。そういうメッセージを発信したいんだ」

Raoul にとって、”Raj Against The Machine” のタグ(バンドが最初のヨーロッパ公演の際に撮影したツアードキュメンタリーのタイトルでもある)は、単なるダジャレ以上のものでした。ラッパーである彼は、RAGE AGAINST THE MACHINE から音楽的にも活動面でも最も大きな影響を受けているからです。
「彼らは音楽が政治的、社会政治的な観点からどこまで行けるか、そして理想やアイデアの背後に人々を集結させるという点で、音楽がどれほど強いかを証明したんだよ。ほとんどのアーティストは、自分たちのやっていることで足跡を残したいと思っているし、俺たちも人々の生活にポジティブな影響を与えたいと思っている。それは作曲するときに常に念頭に置いていることで、このバンド全般のテーマは、この世界に価値を与えるものでなければならないということなんだ」
彼らは、そのポジティブさと正義の怒り、そして驚くほどユニークな音楽の組み合わせを、もうすぐ世界を震撼させることになるでしょう。
「どこに行くのか正確にはわからないけど、100パーセント確実に言えるのは、このアルバムにすべてを捧げたということだよ。完璧な嵐のように感じるよ。新しいセットでより高いレベルで戻ってくるし、フェスティバルもあるし、今年は本当に爆発するような、そんな良いポジションにいると思う…..音楽が音楽を超えて現実に影響を与えること、音楽が世界を変えることができることをさらに証明したいんだよ」
最後に、BLOODYWOOD とは結局、何なのでしょう?
「BLOODYWOOD はバンドであると同時にファミリーであり、ムーブメントでもあるんだ。俺らの音楽は、地球に永続的でポジティブなインパクトを与えるためのものなんだよ」

参考文献: KERRANG!:Bloodywood: “The theme of this band is that it has to be something that adds value to this world”

KERRANG!:Meet the man who brought metal to India

REVOLVER:WATCH INDIAN METAL VIRAL STARS BLOODYWOOD’S UPLIFTING NEW VIDEO “JEE VEEREY”

BLOODYWOOD BANDCAMP

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TONY MARTIN : THORNS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TONY MARTIN !!

“My Voice Isn’t Same As It Was When I Was In Black Sabbath. It’s Actually Five Notes Down From Where I Was With Black Sabbath. That’s an Age Thing As It Happens The Singers, But What You Have To Do Is Try And Work With a Voice You’ve Got.”

DISC REVIEW “THORNS”

「もし、私のバージョンの “Heaven and Hell” と、Dio のバージョンを並べて演奏して同じように聞こえなかったとしたら、それは2つの異なる声だから当たり前のことだ。だけど、良い方法でそれを表現することならできる。私はそうしようとしたんだ」
伝説的なバンドが象徴的なボーカリストを新たなフロントマンに交代するとき、不安は必ずつきまとうものです。JUDAS PRIEST, IRON MAIDEN, VAN HALEN, ALICE IN CHAINS。様々なバンドが様々な理由でバンドの顔をすげ替えてきました。その結果はもちろん千差万別。ただし、多くの場合、後任の新たな顔は前任者の呪いに苦しむこととなります。
「私の声は BLACK SABBATH にいたときと同じではないんだ。サバスにいたときよりも5音下がっているんだよ。これはどんなシンガーにも起こり得る年齢的なもので、しかたがないことだよ。だけど、シンガーならその今ある声で仕事をこなしていくべきなんだ。どうやら上手くいっているようだし、満足しているよ。自分の声の “キャラクター” を保てているし、それが一番大事なことだから」
BLACK SABBATH に関するフロントマンの議論は、一般的に Ozzy Osbourne と Ronni James Dio に二分されていて、Ian Gillan や Glenn Hughes はもちろん、バンドで二番目に長くフロントを務めた Tony Martin でさえ、その議論の机上にあがることはほとんどありません。Tony の BLACK SABBATH に対する貢献は多くの人に見過ごされ、否定されてきましたが、彼のパフォーマンスや楽曲は必ずしも公正に評価されてきませんでした。神話を語り、ドラマ性を極めた美しき “エピック・サバス” の首謀者であったにもかかわらず。
しかし、例えば TYR のような後続が Tony Martin 時代の素晴らしさを語り、さらには “エピック・サバス” のリイシュー、ボックスセットのリリース決定により潮目は確実に変わりつつあります。そうして、2005年の “Scream” 以来17年ぶりにリリースされた Tony のソロアルバム “Thorns” は、その再評価の兆しを声という “キャラクター” で確かなものへと変える茨の硬綱。
「BLACK SABBATH のことは考えていなかったし、このアルバムはすべて Tony Martin だけのものなんだ。私の頭の中では、それはそれは呪いのような、悪夢のような、様々な種類の音楽が様々な音や楽器で鳴っている。それを具現化するのが私のやるべきことなんだ。だから、これは私が何の制約もなく自分らしくいられるように許された作品なんだよ」
かつて5オクターブを誇ると謳われたその歌唱の輝きはいささかも鈍ることはありません。年齢の影響で5音を失ったとは信じられない表現力とパワー、そして声域が Tony Martin その人の華麗なる帰還を告げます。サバスは関係ないと言うものの、これも呪いでしょうか。アルバムは Cozy Powell や Neil Murray を擁した伝説の “Tyr” と Geezer Butler が復帰して骨太のドラマを聴かせた “Cross Purposes”、その中間にあるようなエピック・メタルを展開していきます。”When Death Call” の雷鳴轟く “As the World Burns” に涙し、”Book of Shadows” の呪術的な荘厳に歓喜するファンは少なくないでしょう。
ただし、”なんの制約もなく” という言葉を裏付けるように、作品は “エピック・サバス” よりも現代的かつ実に多様です。PANTERA を崇拝する Scott McClellan のギタリズムは非常にアグレッシブかつメタリック。62歳になる Tony のエンジンとなり、アルバムのアグレッションを司ります。元 HAMMERFALL のベーシスト Magnus Rosen のテクニカルなボトムエンドは “Black Widow Angel” が象徴するように秀逸で、VENOM の Danny Needham と結合して SABBATH の影を振り払っていきます。
“Crying Wolfe” における叙情とマカロニウエスタン、”Damned By You” におけるカタルシスとヴァイオリン、”Nowhere to Fly” における哀愁とドゥーム、そして “This is Your Dammnation” から “Thorns” に貫かれるアコースティックとブルースとメタルの混沌は、明らかに Iommi の世界ではなく、1971年にプログに人生を変えられた Tony Martin の多様です。
ある意味、これまでずっと重い十字架を背負い続けてきた歌聖。”Cross of Thorns” からその十字架を取り去った “Thorns” は、まさに Tony Martin 本来の情熱と存在感を際立たせるアルバムとなるはずです。「Iommi に、バンドにいるんだから自分が歌いたいようには歌うなよとよく言われていたから、そうしようとしたんだ (笑)。それは上手くいったし、別に嫌じゃなかったよ。とても楽しかった。だからそんなにプレッシャーを感じてたわけじゃないんだ。私は大丈夫だったよ」Tony Martin です。どうぞ!!

TONY MARTIN “THORNS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GREEN LUNG : BLACK HARVEST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOM TEMPLAR OF GREEN LUNG !!

“We Wanted To Create Something That Harked Back To The Foundations Of The Genre, Something That Tried To Tap Into The Magic Of The Days When You Could Hear a Tony Iommi Riff Or a Halford Scream On Mainstream Radio.”

DISC REVIEW “BLACK HARVEST”

「自分たちですべてを行うことで得られる創造的な独立性と経済的報酬、その観点からすると、これまで受けたオファーは意味をなさないということなんだよね。大手レーベルと契約する理由の多くは、足がかりやオーディエンスを見つける手助けなんだ。僕たちは主に Bandcamp から有機的にファンを増やすことができたから、今僕たちの権利を手放すことは意味がないと思うんだよ」
英国の陰鬱な伝承を描くドゥームの新鋭 GREEN LUNG は、その音楽だけでなく、この時代におけるバンドのあり方についても革命を起こそうとしています。独立志向の強いバンドは、メジャーレーベルとの契約を断り、代わりにフィンランドのカルト・レーベル Svart Records から最新作 “Black Harvest” をリリースすることを選びました。そうして、Bandcamp のアルバム・チャートで首位を獲得したのです。
「Spotify は僕たちのようなアルバム・アーティストにとっては最悪のプラットフォームだよ。アルバムよりもシングル曲が優遇され、プレイリストをコントロールするために多くの資金が投入され、無機質で、そして僕たちはほとんどお金を得ることができないんだ。Bandcamp はその逆で、80年代や90年代の口コミやジン・カルチャーに相当するようなオンラインのプラットホームなんだよ。僕たちの最大の収入源のひとつさ。インディペンデントな音楽文化をたった一つのサイトが救っているのだから、いくら高く評価しても言い足りないくらいだよ」
GREEN LUNG のフロントマン Tom Templar は Bandcamp について “音楽業界における最後の砦” と表現します。唯一の倫理的な音楽配信・販売サービスだと。メジャーから提示される前金よりも Bandcamp の方が利益が出る現実。実際、現代の音楽産業において Bandcamp は、インディペンデントのアーティストにとって文字通り命綱です。特に、”メインストリームの大きなロックバンドになろうとはしていない” GREEN LUNG のようなバンドにとっては。
彼らがメジャーからの支援を必要としないのは、今を生きるバンドらしいその成長過程にも理由があります。2019年のデビュー作 “Woodland Rites” は、70年代後半の NWOBHM 的郷愁のサウンドと BLACK SABBATH のオカルト・ドゥーム、そして1968年の “ウィッチファインダー・ジェネラル” といった心をかき乱す映画の感覚を融合し、アンダーグラウンドのメタル世界を沸かせました。
「パブで5人くらいを相手にライブをしていたんだけど、ネットの世界から熱狂的なファンが現れたんだ。今では、バンドのマスコット、悪魔のようなヤギのタトゥーを入れている人は20人以上いるんだよ」
ただし、バンドが大量の新しいファンを獲得できたのは Instagram の投稿がバズったからで、特に、伝統的な木版画のデザインでレコードを覆う、彼らの不吉でありながらエレガントな美学が音楽的にも視覚的にも “無料で” 潜在的なリスナーたちの元へと届いたから。もはや、20年代のバンドたちにとって、大きな音楽レーベルの養ってきたノウハウや豊富な資金力は必要のないものなのかもしれません。それよりも、真に必要なのはクリエイティブな自由。
「僕たちは一つのジャンルにとどまるようなバントでいたくはないんだ。ドゥームやストーナーの構成要素を取り入れ、それを使ってモダンなものを作りたいと思っているんだよ。例えば、TURNSTILE がハードコアで、POWER TRIP がクロスオーバー・スラッシュ でやったようにね」
GREEN LUNG が “現代的” なのは、その野心です。面白いものならば、創造的になれるのであれば、ドゥームという地底の音楽に STEELY DAN の羽を纏わせることも、MADBALL の跳ねを植え付けることも厭いません。そうして、”Black Harvest” はその哲学と “Woodland Rites” の基盤すべてを、よりビッグで、よりクラシックで、より壮大なものへと増幅させていました。
そうして、プロデューサー Wayne Adams のタッチ、オルガニスト John Wright のハモンドを前面に押し出しアルバムに思慮深くダークな雰囲気を与えつつ、Tom のキャッチーで世界を包むこむようなオジーの歌唱に、 Scott Black のリフが幾重にも活力と華を添えて “Black Harvest” は完璧なバランスを得ることになりました。つまり、”Black Harvest” は、DEEP PURPLE や BLACK SABBATH, QUEEN といったメタルの祖先が誇りに思うような、壮大な70年代のリバイバルでありながら、深い層を持った進化するアルバムであり、クラシックとなり得る強烈なインパクトと現代らしい奔放さを十二分に兼ね備えているのです。荘厳な”カテドラル” に灯る紫の炎、そして宿る女王の気品。
今回弊誌では、Tom Templar にインタビューを行うことができました。「僕たちは皆、若い頃にエクストリーム・メタル・バンドでプレイしていた。それがあったから、GREEN LUNG を始めたとき、逆にこのジャンルの基礎に立ち返るようなものを作りたかったし、Tony Iommi のリフや Rob Halford の叫びをメインストリーム・ラジオで聞くことができた時代のマジックに触れようと思ったんだ」 どうぞ!!

GREEN LUNG “BLACK HARVEST” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PERSEFONE : METANOIA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARLOS LOZANO OF PERSEFONE !!

“I Remember I Read “Hagakure”, “Dokkodo”, “The Book Of Five Rings” And Works From Mishima Yukio. There Was Something On Those Books That Resonated With Me Since a Very Young Age And Made Me Look To Japan In a Very Personal And Respectful Way.”

DISC REVIEW “METANOIA”

「僕にとって日本は、幼少の頃から大きな存在だった。もちろん、アニメやゲームも入り口だったけど、やがて武道を嗜み、”葉隠”, “独行道”, “五輪書”、そして三島由紀夫の作品を読んだと記憶している。これらの本には、幼い頃から心に響くものがあって、とても個人的かつ尊敬の念を持って日本を見つめさせてくれたんだよね」
欧州のメタル侍。そう称したくなるほどに、PERSEFONE の生き様は彼らが深く薫陶を受けた日本の武士道を喚起させます。世界でも最小の国の一つアンドラから始まって、ビッグレーベルとの契約、Metal Hammer の表紙を飾るといったサクセスストーリーも、すべてはただ、 音楽的な”より善く” の探究を “潔く”、脇目も振らず続けた結果でしょう。
「どこの国でも2022年はストリーミングが主流だから、コンセプト・アルバムを作ることはマーケティング的に最も賢いやり方ではないかもしれないよね。でも、僕たちはただ音楽が好きなんだよ。最初から最後までリスナーに本物の音楽体験を提供したい。それが、僕たちにとっての PERSEFONE の音楽だから」
ストリーミング全盛の世の中において、壮大なコンセプト・アルバムにこだわり続ける。実際、主流に贖い自らの “正義” を通すそんな彼らの武士道こそ、PERSEFONE が世界に認められた理由の一つ。さらに彼らは、現代のプログ・メタル界において、おそらく他のどのバンドよりも破壊的で残忍なテック・デスメタルと、荘厳さ、スピリチュアルな詩歌を巧みに組み合わせることによって、その存在を際立たせているのです。心が洗われるような荘厳美麗の刹那、襲い来る津波のようなテクニカルの牙。その対比の魔法は中毒になるほど鮮烈で、PERSEFONE だけに備わった一撃必殺の抜刀術に違いありません。
「”Metanoia” は、人間の中の深い変化、痛みと意思よる変化についての作品で、個人の闇の奥深くに潜り、もはや役に立たないもの全てを手放し(”Katabasis”)、新しい存在として再び立ち上がる(”Anabasis”)ためのアルバムなんだ」
“悔い改める” というギリシャ語のタイトルが示すように、”Metanoia” は、主人公が精神的なメルトダウンに陥り、そこから抜け出すまでの道のりを辿る壮大な物語。地獄から抜け出すための第一歩は、そこに問題があることを認めること。つまりそれは、心からの内省なのかもしれませんね。前作 “Aathma” では、CYNIC の Paul Masvidal が物語の案内人を担当しましたが、今回は LEPROUS の Einar Solberg が担当。”Pitsfall” という “落とし穴” から蜘蛛の糸をたどって抜け出した Einar ほど、その大役に相応しい人はいないでしょう。
新たなプログレッシブの声による精神世界の対話が終わると、現実という地獄が突然解き放たれます。”Katabasis” の根幹を成すのまさには灼熱のリフワーク、地獄の業火。この曲の優美で繊細な瞬間は、強引に、しかし巧みに、残忍さや複雑さと対になっています。こうした繊細と破壊の戦いは、レコードに類い稀なるダイナミズムと流動性をもたらし、気が遠くなるような主人公の精神的苦痛を伝えるのみならず、リスナー自身の体に直感的な苦痛を植え付けていきます。
燠火に彩られた牧歌的なピアノの旋律がリスナーを迎え入れる “Leap of Faith” は、驚くべきサウンド体験だと言えます。彼らはもはや、心をゆさぶる音楽を演奏するだけではなく、芸術を通してカタルシスや超感覚までをも生み出せることを示した異能のインスト作品。それでも、PERSEFONE は PERSEFONE にしか飼いならすことのできない内なる神獣を宿していて、その発火を待ち焦がれる召喚獣の嗎が、複雑さと凶暴性をすぐさま呼び寄せていくのです。
「僕にとっては “Spiritual Migration” の時代は個人的に難しい時代だった。だからライブで楽しく演奏していても、多くの人が好きなアルバムだとわかっていても、あのアルバムを聴くのは結構キツいものがあるんだよ。だから、”Consciousness pt3 “を作るために “Spiritual Migration” のリフを再利用することは、ある種のセラピーだったんだ」
作品の後半で、 Spiritual Migration” を歌詞や楽曲の引用という形で数多く取り上げたのは、Carlos にとっても地獄から舞い戻るためのセラピーでした。トラウマを乗り越え、生まれ変わるために再訪した過去こそが “Consciousness Part 3″。もしかするとこの楽曲は、DREAM THEATER が20年以上も前に “The Dance of Eternity” で成し遂げたプログとインストの魔法を現代に蘇らせるタイム・マシンなのかもしれませんね。”Spiritual Migration” のオープニングを飾る独特のリズムパターンと、PINK FLOYD のセグメント、そしてあの “Flying Sea Dragons” で登場した海龍の如きタッピングで締めくくられる楽曲はあまりにも秀逸な復活の音の葉。
そうしてこの長い精神の旅路は、前作を彷彿とさせる組曲で終焉を迎えます。”Anabasis” 三部作において彼らは、ジャンルの壁や先入観をいとも簡単になぎ倒し、技術的な複雑さと感情的なサウンドスケープの奇跡的な婚姻によって映画のような没入感を生み出すことに成功しました。いつかの ANATHEMA のように、長く暗い内なる夜は永遠にも思えるが、太陽は確かに昇るのだと語りかけながら。優しく、静謐に。
今回弊誌では、Carlos Lozano にインタビューを行うことができました。「音楽は、僕たちの周りで起こるすべての狂気から、僕たちを逃れさせてくれるよね。僕たちは、世の中で起こっているすべてのことから、できる限り音楽を遠ざけておこうとしているんだ」どうぞ!!

PERSEFONE “METANOIA” : 10/10

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