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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DORDEDUH : HAR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EDMOND “HUPPOGIAMMOS” KARBAN OF DORDEDUH !!

“We Like To Experiment With Traditional Instruments. We Use Them In an Unconventional Way, With Changed Tunings, Intentionally Playing Them In a “Wrong” Way”

DISC REVIEW “HAR”

「当初は NEGURA BUNGET を解散させて、全員が新しい名前でそれぞれの新しいプロジェクトをはじめるつもりだったんだ。だけど元ドラマーの Negru はこの合意を破り、全く新しいメンバーで NEGURA BUNGET という名前を使い続けた。一方で、Sol Faur と私は DORDEDUH という新しいバンドを結成したわけだよ」
メタル・バンドに内紛はつきものです。私たちは通常、こうした出来事をネガティブに捉えますが、必ずしもそうでしょうか? 失意と義憤から生まれる宝物も少なくありません。DORDEDUH そのひとつ。
「私たちの間には緊張感があったんだけど、やはり彼の死を聞くのはつらいことだったよ。少なくとも別れるまで、私たちは良いところも悪いところも含めて彼を友達だと思っていたからね。過去の友人に失望させられ、強い恨みを抱いたこともあったけど、それでも彼が亡くなったと知るのは辛いことだよ。15年間一緒に過ごしたんだから。それはとても、とても長い時間だ」
DORDEDUH とは、彼らの母語であるルーマニア語で “精神への憧れ” を意味する三語から成り立つバンド名。2009年にアトモスフェリック・ブラックメタルの伝説 NEGURA BUNGET 内部の緊張が高まり、弾け、憎しみとその超越のために生を受けたソウル・トライブ。Huppogrammos と Sol Faur” が DORDEDUH でスピリチュアルな音魂を追求する一方で、裏切りのすえ継続された NEGURA BUNGET は中心人物だったドラマー Negru の死により終焉を迎えます。つまり、私たちにはまだルーマニアの伝説を継ぐ男たちの、魂の賛歌が遺されているのです。
「ジャンルに合わせて曲を作ろうとはあまり思わないんだよ。仮にそうしたとしても、結果的にはまったく違うものになるからね。プログレッシブのようになればプログレッシブ、ブラックメタルのようになればブラックメタル。次のアルバムがエレクトロニカになるかもしれないし、それは誰にもわからない」
9年ぶりの帰還となる “Har” の音楽的風景を雄弁に要約することは簡単ではありません。ブラック・メタルを中核に、東欧風の伝統音楽、映画のサウンドトラック、ゴシック、エレクトロニカ、プログレッシブが加わり、結果としてそのすべての総和よりもさらに大きな何かを生み出しているのですから。ブラック・メタルの核でさえ、しばしばうまく隠されるか、完全に欠落してしまう抽象的で奥深い音楽の多層世界。ゆえに単純なリスニング体験ではありませんが、それに見合うだけの時間と注意を払えば得られるものは無限大。
「私たちはこれらの楽器で実験するのが好きなんだよね。チューニングを変えたり、わざと “間違った” 方法で演奏したり、型にはまらない方法で伝統楽器を使用するんだ。例えば、私たちはこれらの楽器を用いて儀式的な音楽的背景を作り出すことに興味があってね」
ハンマード・ダルシマー、マンドリア、セマントロン、ブシウム。DORDEDUH の音を語る上で、中世からの伝統楽器は重要なトピックの一つです。もちろん、ELVEITIE をはじめとして、メタル世界に伝統楽器を持ち込んだバンドは少なからず存在します。ただし、彼らの多くが伝統楽器を “フォーク・メタル” の一環として過去を再現するために活用しているのに対し、DORDEDUH は伝統楽器でさえ実験の材料として未来を紡ぎ出しているのです。言い換えればそれは、楽器の効果を音楽以外の何かにまで波及させる未知のメタル・ラボラトリー。
例えば、トライバル・パーカッションを主体とした魅力的な間奏曲 “Calea Magilor” に続く”Timpul Intilor”。リード・ギターと民族楽器の音に、電子音が混ざり合い、ダークで好奇心をくすぐるオープニング。少し不吉で閉所恐怖症のような感覚から、徐々にメロディーが頭角を現すもブルータルなドゥーム・メタルへと変化し、遂には美しく心に残る旋律へと帰結します。様々な要素が盛り込まれその大胆な過去と未来の融合は、さながら未知の映画の壮大なサウンドトラック。
“De Neam Vergur” では、ハンマード・ダルシマーの揺さぶるような響きが、うねり続けるシンフォニック・エレクトロニカによって別次元の魅力を解き放ちます。荘厳無比な楽曲には、緊張と緩和、束縛と解放が常に同居して、天使のようなギターの美麗、デス/ブラックメタル的な過激さ、繊細なメランコリー、プログレッシブな知性で、儚くも強く楽曲を貫いていくのです。まさにこれは音楽を超越した儀式であり、未曾有の体験。
「ブラック・メタルにおいて、人は重要ではないよね。重要なのは、”超越” とのコンタクトを作り出し、それを自分の中に流し込むことができるかどうかだから」
スピリチュアルな事象や密教、神秘的体験について歌われたアルバムで、ルーマニア語の歌詞は完璧な役割を果たしています。言葉の意味は伝わらなくとも、魂に直接語りかけるようはリスニング体験。さらに電子や現代楽器の狭間を伝統楽器が泳ぐことで、アルバムは時の不可逆性をも超越し、えもいわれぬ不可思議と、夢のサウンドスケープを手に入れることに成功しました。不吉な予感と美しき荘厳を同居させながら。
今回弊誌では、Edmond “Huppogrammos” Karban にインタビューを行うことができました。「ルーマニアでは、ロックの会場と呼べるようなものは全国でも数えるほどしかなく、パンデミックの後はそのほとんどが閉鎖されてしまった。主要なメディアでは、くだらない商業音楽ばかりが宣伝されている。ラジオ局でロックを流しているのは数局、メタルを流しているのは1, 2局だろうな」どうぞ!!

DORDEDUH “HAR” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WHITE WALLS : GRANDEUR】RISE OF THE ROMANIAN METAL


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ȘERBAN-LONUT GEORGESCU OF WHITE WALLS !!

“I Think That If Progressive Metal Wants To Keep The Name, It Has To Stay Curious And It Has To Keep Exploring Other Genres. That’s Why I Really Appreciate Bands Like Polyphia – That Kinda Stuff Sounds Very Modern And “State Of The Art”, Precisely Because The Guys Writing It Are Super Open To Genres That You Wouldn’t Expect To Be Associated With More Traditional “Prog”

DISC REVIEW “GRANDEUR”

「ルーマニアのライブツアーに同行していたノルウェーやルクセンブルクの友人たちは、母国の文化省からお金をもらってやっていると言っていたのを覚えているよ。文化を輸出しているのだからね。もしこんな提案をルーマニアの政府にしたら、無視されるか、笑われて銀行に失業手当を取りに行くことになるね (笑)。」
ドラキュラと魔女伝説の神秘を湛える東欧の孤高、ルーマニア。そのメタルじみた伝承にもかかわらず、鋼鉄の炎が決して赤々と燃え上がってはいなかった彼の地において、WHITE WALLS が放つ斬新なプログメタルの魔法はさながらドラキュラのようにリスナーを虜にしていきます。
「WHITE WALLS のメンバー全員がニッチなプログにハマっていったのは、ルーマニアが過去30年間、インターネットアクセスやスピードに関して常に世界のトップ国にランクインしているからなんだろう。若くて、好奇心旺盛で、インターネット接続がスムーズなら、幅広い音楽教育を享受するのはそれほど難しくはないんだよ。」
Șerban-Ionuț Georgescu が語るように、インターネットの普及によって、もはや世界のどこにいてもメタルやプログレッシブの奥深い世界を探求することが可能です。実際、隠れたインターネット大国ルーマニアには、アンダーグラウンドな人気を集める E-AN-NA, BUCOVINA, DIRTY SHIRTS, MAGICA, SCARLET AURA といった優れたバンドが実は乱立しています。それでも WHITE WALLS の最新作 “Grandeur” は、その洗練、完成度、独自性において新たなルーマニアンメタルの道標を刻むようなインパクトを備えているのです。
彼らの洗練を支えた一つの要因が、KARNIVOOL, ANIMALS AS LEADERS, SKYHARBOR を手がけたモダンメタルの仕掛け人、プロデューサー Forrester Savell の起用でしょう。立体感のある音作りを得て、WHITE WALLS の物憂げかつアトモスフェリックな影、攻撃的でダイナミックな光、そして変動を続けるリズミックてグルーヴィーな大地の三原素はより躍動感をもってリスナーの元へと届けられるのです。仄かに感じられるは東欧の風。
「プログレッシブメタルという名前を維持したいのであれば、好奇心を持ち続け、他のジャンルを探求し続けなければならないと思うんだ。それが POLYPHIA のようなバンドを高く評価している理由なんだけどね。とてもモダンでまさに芸術だ。彼らは伝統的な “プログレ” に関連しているとは思えないようなジャンルにも非常にオープンに取り組んでいるからね。」
何より WHITE WALLS が真の “プログレッシブ” を体現しているのは、ノンメタル、ノンプログなテリトリーまで貪欲に咀嚼している点でしょう。ターンテーブルも電子の海も、ミニマリズムの方法論さえ、彼らにとっては捕食の対象でしかありません。RUN THE JEWELS から音節やアクセントの魔法を学んだという Șerban の言葉は、繊細にアーティキュレートされた表情豊かなレコードがしっかりと証明しています。
中でも、日本のアニメーション、Akira や 今敏に影響を受けた MV が秀逸なオープナー “False Beliefs” から “Eye For an I” の流れはモダンプログメタルの到達した一つの金字塔かもしれませんね。LEPROUS や CALIGULA’S HORSE が認める胸を抉るような恍惚のメロディーは、祈りのようなギターの荘厳と交わりながら暗闇と重力へのドアを開けます。Eugen Brudaru の時に縋るような、時に神々しく、時に悪魔にもなる歌声は WHITE WALLS、無垢な白壁を千変万化、カラフルに描き導くのです。
常にシンコペーションとグルーヴの妙を提示しながら、シャープな演奏で裏方に徹するリズム隊の働きも見事。そうしてメロウな高揚感、浮遊するヘヴィネスといった両極が不思議に交わるアルバムは、ブカレストのゲオルゲ・ザンフィルが奏でるパンフルートのように表情豊かなクローザー “The Slaughter (Marche Funèbre)” で絶頂に達するのです。
今回弊誌では、バンドのスポークスマン、ベーシスト Șerban-Ionuț Georgescu にインタビューを行うことが出来ました。「バンド名の由来は、BTBAMのアルバム “Colors” の素晴らしきクローザーから来ているんだ。言葉自体は意味の範囲が広いんだけど、僕らが特に惹かれたのは、生まれた時には世界は白い壁のある部屋のようなもので、人生で残すものがその壁に描かれていくという解釈だったんだ。」 どうぞ!!

WHITE WALLS “GRANDEUR” : 9.9/10

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