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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEEYOUSPACECOWBOY : THE ROMANCE OF AFFLICTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CONNIE SGARBOSSA OF SEEYOUSPACECOWBOY !!

“The Romance of Affliction” Is The Satirical Side As a Call Out To The Romanticization Of Things Like Mentel Health Struggles And Addiction That I Feel Aren’t Things To Be Romanticized Cause I Live With It And Its Not Something Anyone Should Look At Positively.”

DISC REVIEW “THE ROMANCE OF AFFLICTION”

「このアルバムでは、バンドを始めたばかりの頃に持っていたカオスや奇妙さ、それに生意気さや皮肉を取り戻したいと思っていたの。その予測不能な奇妙さにメロディと美しさを融合させられるかどうか、自分たちに挑戦したかったのよね」
混沌と厳しさと審美の中で生きる宇宙のカウボーイが放った最新作 “The Romance of Affliction”。EVERY TIME I DIE の Keith Buckley、UNDEROATH の Aaron Gillespie、If I Die First、そしてラッパー Shaolin G といった幅広いゲストが象徴するように、この苦悩のロマンスではデビューLP “The Correlation Between Entrance and Exit Wounds” で欠落していた初期の混沌と拡散、そして予測不可能性が再燃し、見事に彼らの美意識の中へと収束しています。ドロドロと渦巻くマスコアの衝動と、ポスト・ハードコアの甘くエモーショナルな旋律との間で、両者の軌道交わる最高到達点を目指した野心の塊。
初期のEPと数曲の新曲を集めた “生意気” に躍動するコンプ作品 “Songs for the Firing Squad” と比較して “Correlation” は暗く、悲しく、感情的に重い作品だったと言えるでしょう。それはおそらく、ボーカル Connie Sgarbossa の当時の状況を反映したものでした。重度の薬物依存性、体と心の不調、そしてそこに端を発する人間関係の悪化。大げさではなく、オーバードーズで死にかけたことさえありましたし、友人は亡くなりました。
「多くの依存症者は、社会的な汚名を被ることを恐れてそれを口にすることができず、一人で苦しみ、不幸にも人生を壊してしまうか、ひどい時は死んでしまう。私は、この汚名を少しでも払拭し、人々が一人で負担を背負う必要がないと感じられるように、この問題について話し助けを与えることができるようにしたいのよ。誰かがオーバードーズで亡くなった後にはじめて、その人が薬物の問題を抱えていたと知ることがないようにね」
Connie は今も依存症と戦い続けています。最近では、SNS で自身が重度の依存症であることを明かしました。それは、依存症が一人で抱えるには重すぎる荷物だから。同時に自らが悲劇と地獄を経験したことで、薬物依存が映画の中の、テレビの中の、クールなイメージとはかけ離れていることを改めて認識したからでした。
「メンタルヘルスや依存症といったものがロマンチックに語られることに警鐘を鳴らす意味があるの。私はそれを抱えて生きているからこそ、肯定的に捉えてはならないものだと感じているのよ」
自分のようにならないで欲しい。そんな願いとともに、”The Romance of Affliction” は Connie にとってある種セラピーのような役割も果たしました。音楽に救われるなんて人生はそれほど単純じゃないと嘯きながらも彼女がこれほど前向きになれたのは、弟の Ethan 以外不安定だったバンドの顔ぶれが、オリジナル・メンバー Taylor Allen の復帰と共に固まったことも大きく影響したはずです。そしてそこには、KNOCKED LOOSE の Isaac Aaron のプロデューサーとしての尽力、貢献も含まれています。
依存症者が依存症者に恋をするという、三文オペラのような筋書きの、それでいて興味を示さずにはいられないオープナー “Life as a Soap Opera Plot, 26 Years Running”。Connie はこの曲で、ドラッグやセックスに溺れる依存症の実態を描き、「みんなは結局こういう話が好きなんでしょ?でもそんなに良いものじゃない」 と皮肉を込めてまだまだ緩い、炎の中で燃えたいと叫び倒します。まるでパニックのような激しいギターとスクリームの混沌乱舞は、あの FALL OF TROY でさえ凌いでいるようにも思えますね。
“Misinterpreting Constellations” や “With Arms That Bind and Lips That Lock” では、今回バンドが追い求めた予測不能と予定調和の美しき融合が具現化されています。狂気の暗闇を縦糸に、メロディックな光彩を横糸に織り上げたカオティック・ハードコアのタペストリーはダイナミックを極め、3人のボーカリストがそれぞれ個性を活かしながら自由にダンスを踊ります。もちろん、ジャズ、メタルコアのブレイク・ダウン、唐突のクリーン・トーン、本物のスクリーム、そしてデチューンされたギター・ラインが混在する “Anything To Take Me Anywhere But Here” を聴けば、彼らのアイデアが無尽蔵であることも伝わるでしょう。
重要なのは、宇宙のカウボーイが、往年のポスト・ハードコア、メタルコア、マスコアのサッシーなスリル、不協和音、エモポップのコーラス、メロディックな展開に影響を受けつつ、人間らしさを失わずに洗練されている点でしょう。Connie の想いが注がれたおかげで。
今回弊誌では、Connie Sgarbossa にインタビューを行うことができました。「カウボーイ・ビバップ” のエンドカードとフレーズは私にとって常に印象的で、私はずっとあのアニメのファンでもあったから名前をとったのよ」 どうぞ!!

SEEYOUSPACECOWBOY “THE ROMANCE OF AFFLICTION” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SO HIDEOUS : NONE BUT A PURE HEART CAN SING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRANDON CRUZ OF SO HIDEOUS !!

“Why Waste Opportunity Trying To Do Laurestine or Last Poem Part 2 The Sequel To Please a Small But Loud Subset Of Closed Minded Internet Message Board Music “purists” Clinging To The Past? That’s a Terrible Way To Live.”

DISC REVIEW “NONE BUT A PURE HEART CAN SING”

「アルバムをリリースするのは、自己表現という意味では一生に数回しかないチャンスだ。なぜ “Laurestine” や “Last Poem” の Part 2 みたいな “続編” を作って、インターネット掲示板で少数だけど喧しい “音楽純粋主義” 集団を喜ばせなきゃならないのか?それはひどい生き方だよ」
例えば政治であれ、例えば社会であれ、例えば音楽であれ、純粋さが失われた現代において、真っ直ぐに愛する音楽を奏で、正直に言葉を紡ぐ SO HIDEOUS がいなければ、世界はさらに “とても醜い” ものになってしまうでしょう。
「このバンドは基本的に “エクストリーム・ミュージック・コミュニティ” に向けて売り出されていて、彼らは実際に “極端な” 音楽と呼ばれる音楽を掲げているにもかかわらず、最も保守的なリスナーであることが多いんだよね。どのジャンルやレーベルの下で活動すべきかということに非常に固執し、それを武器にバンドに牙をむいたりね。そんなのクソくらえだよ」
SO HIDEOUS が長い休止期間を経て戻ってきたのは、ポストブラックやブラックゲイズといったジャンルの掟を踏襲するためでも、プライドだけが肥大化したファンという名の何かを満たすためでもなく、ただ自由に望んだ音楽を追求するため。前回のインタビューで Brandon 自らが “コンサート・ホールでシンフォニーが奏でるような完全で妨げる余地のないリスニング体験” と呼んだ、きらびやかで感情的、そしてオーケストレーションを極めた傑作 “Laurestine” さえ過去にする最新作 “None But A Pure Heart Can Sing” には、メタル世界で最も想像力に富んだバンドの野心と矜持と反骨が詰まっているのです。
「叙情的なオーケストレーションではなく、リズムに根差した曲を演奏するのがとても自由なことに思えたんだ。Mike、DJ、Kevin が活動してきたバンドやプロデュースしたバンドに人々はこだわると思うんだけど、実際のところ、彼らはマス/ポストカオティック・ハードコアとか、そういうジャーナリストによって入れられた箱よりもずっと多様なミュージシャンなんだよ」
ポスト・ハードコアの混沌をリードする THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU のリズム・セクション Mike Kadnar と DJ Scully の参加、そして THE DILLINGER ESCASE PLAN の Kevin Antreassian のサウンドメイクは、結果として SO HIDEOUS の宇宙を果てしなく拡げる重要な鍵となりました。獰猛と静寂の邂逅。整合と混沌の融合。
「このバンドのメンバーは、LITURGY と Hunter Hendrix の作品をとても楽しんでいて、絶大な敬意を払っているんだ」
オーケストラやシンフォニックな要素を取り入れている点で SO HIDEOUS は同じニューヨーク出身の LITURGY にも似ています。さらに今回、彼らはより多くのリズムを求めて、フェラ・クティやトニー・アレンのアフロビート、ジェームス・ブラウンのホーン・セクション、オーティス・レディングやサム・クックのバラードなど色彩を多様に吸収して、雅楽までをも抱きしめる LITURGY の哲学に一層近づきました。ただし大きな違いもあります。LITURGY が “超越したブラックメタル” を追求するのに対して、SO HIDEOUS はもはやブラックメタルのようにはほとんど聞こえません。
「以前は、”Screaming VS Orchestra” というシンプルなバンドの “アイデア” にこだわっていたように思うんだよね」
アルバムは、CONVERGE, CAVE IN, ENVY あるいは THE DILLINGER ESCAPE PLANE のようなポスト・ハードコア、メタルコア、マスコアのスタイルにはるかに近く、ブラックゲイズの慣れ親しんだ荘厳とは明らかにかけ離れています。重要なのは、彼らがネオクラシカルなサウンドとこの新しいポスト・ハードコア/メタルコアのスタイル、そして中近東からアフリカに西部劇まで駆け巡るワールド・ミュージックとの間に絶妙な交差点を見つけ出した点で、ストリングスとホーンの組み合わせがヘヴィーなリフと無尽蔵のリズムを際立たせ、苦悩から熱狂を創造する “The Emerald Pearl” の緊張感と即興性はアルバムを象徴する一曲だと言えるでしょう。
今回弊誌では、Brandon Cruz にインタビューを行うことができました。「僕がギターを弾いているのは、Envy の 河合信賢と MONO の Taka Goto のおかげなんだよ。僕は彼らを恩師だと思っていて、彼らの音楽には人生で永遠に感謝し続けるだろうね」  ニ度目の登場。どうぞ!!

SO HIDEOUS “NONE BUT A PURE HEART CAN SING” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CYNIC : ASCENSION CODES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL OF CYNIC !!

“Truly Unlimited Potential With The New Talent Out There. If Cynic Were To Continue I Could See It Acting More As a Collective In This Sense.”

DISC REVIEW “ASCENSION CODES”

「ショーン・マローンは2018年に母親を、2020年1月にはショーン・レイナートを失った。喪失感のダブルパンチで、マローンは大打撃を受けてしまったんだ。その後、パンデミックが起こった。すべてが閉鎖され、マローンの世界も閉ざされてしまった。痛みと苦しみが再び現れ、彼は光を失った…」
長年二人のショーンと人生を共にしたポール・マスヴィダルの言葉です。もちろん、2020年は人類全体にとって途方もなく困難な年として歴史に残るでしょう。しかし CYNIC の音楽を愛する人たちにとってはさらに困難な年となりました。1月に元ドラマーのショーン・レイナートが48歳で、12月にベーシストのショーン・マローンが50歳で早世。それはファンにとってまさに青天の霹靂でした。私たちでも激しいショックを受けたのです。公私ともに近しい関係にあったマスヴィダルの苦悩、そして喪失感はいかほどのものでしょう。
「神秘的な人生に身を任せることは、魂が成長するための偉大な “降伏” であり、そうすることで外界が自身に流れ込み、自分も外界に流れ込むことができるんだ。宇宙とつながるとでもいうのかな。つまり、人生に自然と起こることこそ、私たちの歩むべき道なんだ。起こることすべてが、与えられたギフトなんだよ」
しかし一人残されたマスヴィダルは、果てしない悲しみの中でも前へと進み続けます。喪失や悲劇でさえ成長のための贈り物と捉え、人生の流れに身を委ねる。死とは肉体の終わりであり魂の終わりではない。結局、人は皆量子レベルで互いにつながっているのだから。そんな彼の特殊な人生観、死生観、宇宙観は、マスヴィダルの心を泰然自若に保ち、CYNIC の新たな啓示 “Ascension Codes” をより崇高でスピリチュアルな世界へと導くことになったのです。
CYNIC とはメタル世界において、真の意味でのプログレッシブを指す言葉。トップレベルのパフォーマンス、大脳皮質に直接語りかけるような宇宙的哲学、そして実験と増殖を続ける音のエントロピー。デスメタル、プログ、エクスペリメンタル、ニューエイジ、ジャズ・フュージョンなど、CYNIC の世界は年を重ねるごとに音彩を加えながら、その色を交錯させていきました。しかし、4枚目のフル・アルバムの制作で CYNIC は、未曾有の困難に直面することになります。
「本来ならこのレコードは、”Kindly Bent to Free Us” の直後に作りたかったんだ。だけどすべてが崩壊してしまった…」
楽曲の一部は、2014年の時点で構想が練られていました。マスヴィダルによると、レイナートとマローンは、ここに収録されることになった楽曲の要素を聴いていたそうです。だからこそ彼は、亡くなった同志の思い出に敬意を表し、”Ascension Codes” “魂を昇天させるコード” というタイトルのアルバムを、ゆっくりと、慎重に、そしてマスヴィダルの言葉を借りるなら “愛と勇気を持って” 完成させたのです。
2015年にレイナートが CYNIC を脱退した後、マスヴィダルとマローンは彼の後任としてマット・リンチを起用。彼は”完璧な代役” 以上のものをバンドへともたらします。マスヴィダルはリンチのドラミングを “ハイブリッド・モダン・スタイル” と称しました。つまり、エレクトロニカなドラムン・ベースと、プログレッシブなアプローチの融合。繊細で多様な “Ascension Codes” に適役であるばかりか、絶妙な質感とリズムの地図を加えていきます。
「楽器としてのベースの役割を変える必要があったんだ。マローンのようなサウンドを期待して他の誰かを連れてくるのはフェアじゃなかったからね。私にとって彼はは現存する最も偉大なベーシストの一人であり、このレコードにおいてかけがえのない存在だった。アレンジを変えて、新しいサウンドにするしかなかったんだ」
では、マローンのベースを誰が置き換えるのか?マスヴィダルの答えは、”その必要はない” でした。”Ascension Codes” の中で聞こえるベース・ラインは、キーボード奏者のデイヴ・マッケイがシンセサイザーで演奏しています。彼はマローンの敏感なタッチを再現しつつ、CYNIC にドロドロとしたローエンドの可能性をもたらすことになります。そうしてここに、マスヴィダル曰く、”未来のリズム・セクション” が完成をみます。
「新しい才能を持った人たちは本当に無限の可能性を秘めているよ。仮に CYNIC がこれからも続いていくのであれば、そういう人たちを集めて、バンドというよりはより集合体としての役割を担うのかもしれないね」
“Ascension Codes” のビジョンを達成するために、マスヴィダルは新メンバー、アートワークやプロデュースだけでなく様々な若く才能に満ち溢れた音楽家をも多数起用しました。THE SURREALIST や DARKの活動で知られるルーパン・ガーグは、”コード・ワーカー”として、ハープのような天上のギター・テクスチャーを、EXIST のマックス・フェルペスは “ホログラフィック・レプティリアンボイス” を、オーストラリアの天才プリニは”The Winged Ones” にソロを提供しています。核となる二人のショーンを失った今、CYNIC の魂は新たな才能たちの宿り木として、死を迎えるのではなく形状を変えることにしたのかもしれません。
「コードのタイトルは、奏でられるべきサウンドを意味していてね。これらはそれぞれ、私たちの DNA に存在する、対応するコードを起動させる役割があるんだ」
様々な “仕掛け” を配し、その音の葉自体も野心的な”Ascension Codes” ですが、メインとなる9曲には爆発的な色彩とエネルギーが注ぎ込まれており、これらの楽曲には “アセンション” のための “コード” が埋め込まれているのです。”Mu-54*”、”A’va432″…だからこそ当然このレコードは全体を通して聴くべき作品です。それでも、推進力と冒険に満ち、刺激的な起伏が心を揺さぶり、数学的な配列と目まぐるしいダイナミズムが頭を悩ます “Mythical Serpents” のように、万華鏡のような激しさと折り目正しい規律の二律背反を背負った CYNIC の哲学はたしかに受け継がれています。
一方で、アルバムを締めくくるヘヴィでエセリアルな”Diamond Light Body” はリンチの非人間的なパターンを用いた非常に密度の高い楽曲で、彼らにとって新たな領域のように感じられる不可思議でメロディックなシーケンスが印象的。この曲の美しい緊迫感は否が応でも “形を変えた” CYNIC の未来を期待させてくれるでしょう。
“Ascension Codes” は、これまでの CYNIC のアルバムの中で最も謎を秘めたレコードであると同時に、前作よりもプログレッシブで重量感を伴ったサウンドが封じられています。そして失われたものを慈しみ補うかのように作品に携わるアーティストが増えたことで、アルバムの地平は広大にひろがっていきました。
多くの探求と喪失の後、CYNIC はあらゆる魂との一体感を獲得しました。それは神秘的で聖なる悟りの境地。これが最後の旅路となるのかどうかは “宇宙” のみぞ知るといったところですが、CYNIC の物語は “Ascension Codes” でひとまず完結をみます。「二人の肉体は姿を変えたけど、そのエネルギー体は永遠に宇宙を旅するような超越的音楽を私たちに与えてくれている。苦しみに直面しながらも、多くを与えてくれる創造的な存在と人生の一部を共有できた。感謝してるよ」Paul Masvidal インタビュー。日本盤は DAYMARE RECORDINGS から。ライナーは私、夏目進平が執筆。ニ度目の登場。どうぞ!!

CYNIC “ASCENSION CODES” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PAPANGU : HOLOCENO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAPANGU !!

“Northeastern Brazilian Music Made a Huge Impact On Me Ever Since I Was a Kid. Being Influenced By This Kind of Music Is One Of The Main Aspects Of Our Music, Because I Think There Aren’t That Many Rock Or Metal Bands With That Sort Of Influence.”

DISC REVIEW “HOLOCENO”

「ブラジル北東部の音楽は、子供の頃から僕に大きな影響を与えてきた。そうした音楽に影響を受けたことは、僕たちの音楽の大きな特徴の一つなんだよね。だって、そこから影響を受けたロックやメタルのバンドはそれほど多くはないと思うから。ただ、ブラジルの文化には音楽だけでなく、詩や文学、映画それらすべてから大きな影響を受けているよ」
メタルの生存能力、感染力はコロナウィルスをも上回っているのではないか。そしてこのパンデミックで荒廃した地球に光をもたらすのはメタルなのではないか。そう思わざるを得ないほど、ヘヴィ・メタルは21世紀において世界のあらゆる場所に根付き、人種、宗教、文化を乗り越えあらゆる人たちの希望としてその輝きを増しています。
「ANGRA や SEPULTURA が巨大すぎて、自分たちの違いというか個性を捨ててまでその音を追求しようとするバンドが出てきてしまうんだよね。それ自体は悪いことではないし、結局人は自分がやりたいと思うことをやるべきだと思うんだけど、それでもせっかくの音の多様性が損なわれてしまっているように感じるね」
メタルが世界に拡散したことで受ける恩恵は様々ですが、リスナーにとって未知の文化や言語、個性といった “違い” を楽しめることは大きな喜びの一つでしょう。そして、ブラジルから登場した PAPANGU は、その “違い” を何よりも大切にしています。もちろん、ブラジルは世界でも最もメタルの人気が高い場所の一つで、ANGRA, SEPULTURA といった巨大なバンドをいくつか生み出してはいますが、ペルナンブーコの伝統的モンスターの名を冠した PAPANGU はブラジル北東部のリアルな音や声を如実に反映することで、メタルの感染力をこれまでより格段に高めることに成功しました。
「スラッジ、プログ、ブラジル北東部の音楽をミックスしたものが、今のところ僕たちのサウンドのDNAになっている」
プログ世界の問題児 MAGMA が率いた無骨でメタリックな Zeuhl。そのウルトラ・ジャジーで壮大なリズムは間違いなく “Holoceno” の根幹となっています。もちろん、KING CRIMSON の変幻自在でアグレッシブな音選びの妙、スタッカートと休符の呼吸も。ただし、このアルバムの全体的なサウンドは非常に暗く、怒りに満ちていて、時には嘆きさえ溢れています。悲しみと怒りの音楽を表現するのに、あの分厚くてファジーでスラッジーな MASTODON の実験性以上に適した方法があるでしょうか? 例えば、MASTODON と MAHAVISHNU ORCHESTRA が全力でせめぎ合うジャム・セッションが実現したとすれば PAPANGU のようなサウンドかもしれませんね。そうして彼らは、そこにブラジル北東部、ノルデスチの風を運びます。
アルバムでも最もカオティックでアヴァンギャルドな “São Francisco” は現在の PAPANGU を象徴するような楽曲。ファンキーで強烈なラテンのグルーヴから、身体を噛み砕くようなプログ・メタルの妙技、そしてサウダーヂにも通じるダークで美しいメロディアスなセクションへとシームレスにつながり、”プログレ” らしい構築美とは遠く離れた MARS VOLTA 以降の官能性とリビドーを全面に押し出していきます。それは “恐れのないプログ” の鼓動。
「僕たちがノルウェーのロック/メタル/プログのアーティストをたくさん聴いて楽しんでいるから、このつながりが生まれたんだよね」
PAPANGU の “恐れのなさ” は、現在メタル世界で最も革新的な場所の一つ、ノルウェーとのつながりをも生み出しました。LEPROUS, Ihsahn, ENSLAVED, SHINING, ULVER など挙げればキリがありませんが、”違い” を何より重んじるノルウェーの水は PAPANGU のやり方とあったのでしょう。SHINING の Torstein がドラムを叩き、SEVEN IMPALE の Benjamin がサックスを吹き、実力派エンジニアの Jorgen がミキシングを施した “Holoceno” は最先端のモダン・メタルとして完璧なサウンドと野心までをも宿すことになりました。
「右翼政治の現状を厳しく批判しているんだ。ボルソナロと彼の政府は、憎しみと破壊と無謀な愚かさという、最悪の政治の最も身近な代表者と言えるね。人類はすでに多くの問題を抱えていて、世界は有害な気候変動とその自然や社会への影響で下り坂になっている。ボルソナロやトランプ、トルコのエルドアンのような人物は、終末を必要以上に近づけようとしているように見えるんだ」
ポルトガル語で歌われる歌詞は多くの人が理解できないかもしれませんが、それでも彼らはポルトガル語で歌う必要がどうしてもありました。自分たちの言葉で歌わなければ、”真実” も “ウソ” になってしまう可能性を彼らは知っていたからです。失われるアマゾンの自然、パンデミックの脅威に対して手をこまねくばかりか悪化させ続け、私腹を肥やす大企業や政治家。ブラジル北東部の悲しみや怒りは、ポルトガル語でなければ表現不能なサウダーヂなのですから。
今回弊誌では、PAPANGU にインタビューを行うことができました。「PAPANGU という名前は、最初の曲を作り始めたときに思いついたもので、僕たちの地域、人々、住む人の苦悩、そして僕たちの物語について語りたいと思ったのがきっかけだよ」どうぞ!!

PAPANGU “HOLOCENO” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SOUND STRUGGLE : THE BRIDGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CAMERON RASMUSSEN OF SOUND STRUGGLE !!

“I Think We Are Actually Still Seeing The Djent Scene Decline. It Has Become This Heavily Meme’d Culture That Seems To Realize Its Own Stupidity And Simplemindedness Where Guitar Riffs And Song Structure Are Concerned.”

DISC REVIEW “THE BRIDGE”

「SOUND STRUGGLE で注目すべき元メンバーは、Joey Izzo、Adam Rafowitz、Joe Calderone で、現在彼らは ARCH ECHO でフルタイムで演奏しているよ。彼らは、バンドを今のような形にする上で非常に重要な存在だったんだよね」
音楽は大きな海のようなもの。そこには無数の色があり、無数の命が宿り、無数の音が蠢いています。ただし、陽の当たる海面は大洋のほんの一部で、大部分はとても複雑で、暗く、冷たい深海。しかし、実はこの深海にこそ宝物が隠されているのです。
SOUND STRUGGLE もそんな音海の底で輝く財宝の一つ。3人の元メンバーが立ち上げた ARCH ECHO が水面で脚光をあびる一方で、取り残された Cameron Rasmussen はバンド名が示すように海底で苦闘を続けてきました。それでも、たった一人で長い時間をかけ、脚本、演出、構成のすべてを書き上げた二枚組1時間55分の超大作 “The Bridge” は、沈没船で朽ちさせるにはあまりに惜しいモダン・プログ・メタルの至宝に違いありません。
「ファンクや Prince からの影響は、SOUND STRUGGLE の初期の頃に多く見られたよね。だけどこのバンドが発展していくにつれて、ジャズやファンクのテイストをソロ・セクションやハーモニック・チョイスに加えた、よりモダンなプログレッシブ・メタル・バンドになっていったんだ」
MESHUGGAH meets Prince。10年代初頭、そんな奇抜な触れ込みで djent 世界に登場した SOUND STRUGGLE は、明らかにシーンの他のバンドたちとは一線を画していました。djent の創始者 PERIPHERY の血を引きながらも、その数学的で重々しい雛形にファンクのグルーヴ、ジャズの色彩、プログらしい旋律を配合し、サックスの嗎をも取り込みながら、特別な何かを生み出そうという意欲と野心に満ち溢れていたのですから。
「僕は、今もちょうど djent ・シーンの衰退を目の当たりにしていると思うよ。ギターのリフや曲の構成に関して、自分たちの愚かさや単純さに気づいていないような、ある意味ミーム化した文化になってしまっているよね」
10年代初頭から半ばにかけて、あれだけ雨後の筍のように乱立した djent の模倣者たちはそのほとんどが姿を消してしまいました。それはきっと、あの多弦ギター、近未来的音作り、0000の魔法にポリリズムといった djent のスタイル自体に魅せられすぎたから。一方で、SOUND STRUGGLE の半身ともいえる ARCH ECHO や、あの Steve Vai に見染められた Plini は早々にそのスタイルを武器の一つと割り切ってインストに特化し、より音楽的に、よりカラフルに、よりキャッチーに、”Fu-djent” の世界観を構築してギター世界のスターダムに登り詰めたのです。
「今の djent シーンがどうであろうと、djent はメタル音楽におけるギター・サウンドの基準としては、最もヘヴィーなものだと思っているんだ。だから djent のギターのテクニックとサウンドが、より高度で洗練されたハーモニーのアイデア、そして優れたソング・ライティングと共に適切に使用されるとしたら、きっとそこにメタルの未来があると僕は思う」
SOUND STRUGGLE、いや Cameron Rasmussen は彼らとは異なりあくまでも “メタル” であることにこだわりました。だからこそ、深海での潜伏を余儀なくされたとも言えるのかも知れませんが。もちろん、ブロードウェイ版 “ミセス・ダウト” や、ディズニーの音楽を任されるほどの才能ですから、ARCH ECHO や Plini になるのもそう難しい話ではなかったでしょう。しかし彼は、ギターを教えてくれたメタルを真のプログレッシブへと誘うことに情熱を傾けました。そうして完成した “The Bridge” は、まさにモダン・プログ・メタルの金字塔、深海に眠る宝石として眩いばかりの輝きを放ち始めたのです。
例えば Miles Davis の “Bitches Brew” とメタルがサックスを媒介に自然と溶け合う “Decisions”、例えば ストリングスを交え古のプログとメタルを絶妙に交差させた20分 “The Bridge”、例えば djent Crimson な “The Pursuit of Happiness”、例えばファンクやスウィングが MESHUGGAH と渾然一体で襲い来る “Where is She?”、例えば KORN とジャズが摩訶不思議にダンスを踊る “No Way Out”。あまりに多様で、あまりに混沌で、しかしあまりに審美な2時間は、まさに Cameron が理想とする “djent の適切な使用” を貫きながら壮絶なインテンスで息つく間もなく駆け抜けていきます。
それにしても、流暢を極めながら、突拍子もないアイデアと途方もない表現力でメタルらしく圧倒する Cameron のギタリズム、さらには Tre Watson (彼も長く djent シーンをフォローしている人にとっては懐かし名前) の紡ぐメタルらしい歌心満載の旋律に悪魔の囁きは、SOUND STRUGGLE が文字通り苦闘を重ねながらも “プログ・メタル” をマジマジと追求してきたその理由としてはあまりに出来すぎではないでしょうか。
今回弊誌では、Cameron Rasmussen にインタビューを行うことができました。「Dimebag Darrell はギターの腕前に加えて純粋な思いやりのある人で、人のために尽くしていた。だから僕にとっては、ギタリストとして尊敬できる人の条件をすべて満たしているんだよ」 ARCH ECHO の旧友たちもゲスト参加。どうぞ!!

SOUND STRUGGLE “THE BRIDGE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PLUSH : PLUSH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MORIAH FORMICA OF PLUSH !!

“I Taught Myself How To Play Guitar By Taking My Dad’s Aerosmith CD’s And Not Coming Out Of My Room Until I Learned a Song.”

DISC REVIEW “PLUSH”

「父の AEROSMITH の CD でギターを学んでいったわ。曲を覚えるまで、自分の部屋から出ないくらいのめりこんだのよ」
ロックは死んだ。そんなクリシェが囁かれるようになって、どれ程の時が過ぎたでしょうか。今のところロックは息をしていますし、メタルに至ってはより生命力をみなぎらせながらその重い鼓動を刻んでいるようにも思えます。それでも、黎明期、全盛期を支えてきたレジェンドたちが次々と病に倒れる中、私たちロック・ファンは潜在的にロックが消え去る日の恐怖を抱えながら生きているのかもしれません。ただし、そんな心配は結局、杞憂となるはずです。PLUSH の登場によって。
「6歳からギターを始め、10歳からライブ活動をしているの。16歳のときには NBC の “The Voice” シーズン13に出演したわ」
世界を変えるようなファースト・アルバムをリリースすることができるバンドは決して多くはありません。古くは LED ZEPPELIN, THE DOORS, BLACK SABBATH, 時が満ちて VAN HALEN のファーストはロック・ギターに革命を起こしましたし、GUNS N’ ROSES のデビューは文字通り破壊衝動を封じられていた若者たちの “食欲” を解放しました。さらに、SLIPKNOT や KORN の登場はメタルの在り様を変え、EVANESCENCE は女性がメタル世界に進出するきっかけとなりました。そして、PLUSH のセルフ・タイトルも同様に、世界を変えるようなファースト・アルバムとなるはずです。
「性別は関係なく、誰でもいいから探してみようと思ったんだけど、そんな時に Lzzy Hale がSNS でシェアしてくれて、Bella に出会うことができた。だから、最初の目標は女性だけのバンドを作ることではなかったんだけど、結果的にはそうなってよかったわね」
EVANESCENCE がメタルの門を女性に大きく解放してから18年の月日が経ちました。少しづつ、少しづつ、ボーイズ・クラブだったメタル世界も変化を遂げ、ついに21歳以下の女性4人が世界を震わせる時が訪れたのです。
もちろん、セクシーであること、キュートであること、”女性らしく” あることを求める人たちは今でも少なからず存在し、SNS で場違いなコメントを振りかざしています。ただし、PLUSH が勝負している土俵は、女性として “ホット” であるかどうかではなく、音楽が “ホット” であるかどうか。「女の子ばかりなのにあんなに上手いとは思わなかった、みたいな無邪気なコメントもあるわね」 という Moriah の言葉通り、ただロック/メタル・バンドとして、PLUSH は最高峰の実力と楽曲を兼ね備えているのです。
「Brooke は GODSMACK や TOOL みたいなヘヴィなバンドに大きな影響を受けている。一方、私はクラシック・ロックやメタルが好きなんだけど、同時に最近のポップスも大好きなのよ。レディー・ガガが大好き!Ashley は独自の雰囲気を持っていて、幅広いジャンルの音楽を愛しているんだけど、ALICE IN CHAINS は大好きみたいね。Bella はクラシック・ロックだけじゃなく、Joe Satriani をはじめとする伝説的なギタープレイヤーも愛しているわ。そうやって、私たちは皆、自分が影響を受けたものを演奏や作曲に取り入れているんだと思う」
重要なのは、PLUSH が AEROSMITH に端を発するアメリカ的なアリーナ・ロックを受け継ぎながら、70年代から現代に連なる様々なロックの色彩を野心的に、大胆に調合している点でしょう。例えば、オープナーの “Athena” には HEART の壮大さ、HALESTORM の熱量、LED ZEPPELIN の野心が混ざり合い存分に五感を刺激しますし、”傷つけられた。幸せでいて欲しくない。でもそんなあなたをまだ欲しがる私が大嫌い” と負の感情をぶちまける “Hate” にはたしかに ALICE IN CHAINS の暗がりが宿ります。
“Better off Alone” のダイナミックなリフワークには TOOL や GODSMACK のインテンスが封入され、一方で “Sober” や “Sorry” には Alanis Morrisette の知的で内省的な面影が見え隠れ。”Bring Me Down” で Gaga や Pink のモダンなポップスに接近したかと思えば、”Don’t Say That” では AEROSMITH 仕込みのパワー・バラードを披露。
PLUSH はロックの教科書を熟読しつつ、強烈な個性を誇る Moriah の絶唱と、バークリー仕込みの Bella のシュレッド、そして DISTURBED や ALTER BRIDGE, MAMMOTH WVH にも通じるダークでスタイリッシュなアメリカン・モダン・ハードを三本柱に、強力で未知なるアリーナ・ロックを完成させたのです。DISTURBED や STAIND を手がけた Johnny K の仕事も見事ですね。NWOAHR だけでなく、ENUFF Z’NUFF や MEGADETH もプロデュースしているだけあって、メロディーや曲想の陰陽が立体的。そうして “ぬいぐるみ” と名付けられたバンドには命が吹き込まれ、敬愛する EVANESCENCE, HALESTORM とツアーに出ます。
それにしても、ドーピングした Ann Willson の表現が完璧にハマるほど、Moriah の歌唱は絶対的。James Durbin にも圧倒されましたが、それ以上の逸材かもしれません。アメリカのオーディション番組恐るべし。
今回弊誌では、Moriah Formica にインタビューを行うことができました。「私たちがよく経験するセクシズムは、ソーシャルメディアでのコメントよ。正直なところ、ライブでは経験したことがないのよね。だけど、SNS は無知や愚かな行為がチェックされず、まかり通る場所でもあるのよね」どうぞ!!

PLUSH “PLUSH” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONVERGE : BLOODMOON I】


COVER STORY : CONVERGE “BLOODMOON I”

I Asked If We Could Do a Telepathic Meeting, Where We All Stopped And Closed Our Eyes At The Same Moment — No Matter Where We Were Doing — And Channeled Our Energies Into The Center Of This Project

BLOOD MOON

パンデミックにより、バンド・メンバーがアメリカの両端で隔離されている場合、どのようにコラボレートするのがベストでしょうか? インターネットは互いの距離を縮める強力なツールですが、コラボレーターの一人が Chelsea Wolfe のようにゴシックな要素を抱えている場合は、より形而上的な方法で意味のあるつながりを見いだすことになります。
「私は、テレパシー会議ができないかと尋ねたの。アメリカのどこで何をしていようと、全員が同じ瞬間に立ち止まって目を閉じ、エネルギーをこのプロジェクトの中心に注ぎ込むというものよ。私たちはそれを “テレパシー・ズームコール “と呼ぶことにしたのだけも、これはとても面白いと思うわ」
そのプロジェクトとは “Bloodmoon”。ハードコアの先駆者 CONVERGE の4人、Jacob Bannon, Kurt Ballou, Nate Newton, Ben Koller, マルチ奏者 の Ben Chisholm、CAVE IN のフロントマン Stephen Brodsky、そして Wolfe のジョイント・プロジェクト。
「テレパシーでそれぞれが異なる経験をしたわ。Ben Koller は、ステージで曲を演奏している私たちを想像していた。Stephen Brodsky は、ニューヨークの街を歩きながら曲を聴き、立ち止まって私たち全員の努力に感謝していた。私は瞑想をして、私たちが円になって座っているところを想像していたわね…。それはちょうど、心の中の甘い出会いのようなものだったわ」
CONVERGE のヴォーカリスト、Jacob Bannon は、”スピリチュアルでソウルフルな” Wolfeについて、「彼女は、世界の物事が白か黒かだけではないことをとてもよく理解している人だ」と語っています。
「彼女の軽やかなアプローチは、CONVERGE が慣れ親しんできたものとは全く異なるものだ。俺たちはそういったものを嫌っているわけではないけど、パンクのバブルの中で生きているから、肉や骨ではないもの、目の前にないすべてのものを拒絶している。だから、そういったスピリチュアルなものに触れることもあまりないんだよね」
一方の Wolfe は CONVERGE との融合をどう捉えているのでしょうか?
「CONVERGE は、音楽的に自分たちの道を切り開く、そんな世界に存在しているわ。もちろん、ハードコアに根ざしていることは確かだけど、彼らはそれを使って独自の道を歩んで、自分たちの領域のリーダーになったの。私自身のプロジェクトは、常にさまざまなジャンルでやっぱり独自の道を歩んできたように思うわ。ロックの世界が基本だけど、エレクトロニクスを試したり、フォークミュージックを取り入れたりしてきた。つまり、私たちは自分たちのやり方を試すことに前向きで、ある意味、音楽的な感性がうまく融合したんだと思うの。2016年のショーのために初めて集まってセットを作り始めたとき、その相性の良さは明らかだった。いとも簡単に融合したの」
Wolfe は自身の歌声と Bannon の叫びを陰と陽に例えます。
「最終的な結果という意味では、陰と陽の関係になったわね。それが面白いところよ。というのも、私たちは CONVERGE の確立されたサウンドと存在感を知っているから。それは私にとって魅力的で、その逆もまた然り。この二つの世界を融合させたいと思ったわ。でも同時に、私たちがやっていることをもっと浄化したり、少なくとも深みやダイナミクスを加えたりしたいとも願ったの」

哲学的にも、音楽的にも、あるいはラインナップの充実からも、”Bloodmoon: I” は、CONVERGE にとって、ユニークで、大きな変化をもたらすアルバムとなりました。まさにブラッド・ムーンを仰ぐ部分月食の11月19日に発売されたこの作品は、90年代初頭からバンドが磨き上げてきた、メタリック・ハードコアの唸りや地響きをバイブルに、スパゲッティ・ウエスタン・ゴス(”Scorpion’s Sting”)、コーラルでメランコリックなプログレッシブ(”Coil”)、空想的なサバティアン・スラッジ(”Flower Moon”)といった “部外者” との多様なケミストリーも頻繁に顔をのぞかせます。LED ZEPPELIN の遺伝子をひく “Lord of Liars”のようなクラシック・ロック回帰も含めて。CONVERGE 本体とコラボレーターとの間の相乗効果はシームレスで、作品をビーストモードでアップ・グレードしています。もちろんCONVERGE の幅広いディスコグラフィーは常にハードコア以上のものを示唆してきましたが、”Bloodmoon.I” で赤の月の軌道は拡張され、最もその異変を如実に知らしめます。つまりこのアルバムは、CONVERGE の “何でもあり” のアプローチを、最も贅沢に表現した作品なのです。
「俺たちはダイナミックなバンドで、そのサウンドには様々なものがあるんだが、主に、翼竜をバックにしたチェーンソーのようなサウンドで知られている(笑)」
Bannon の言葉通り、このフロントマンは作品の中で最も人間離れした悲痛な遠吠えを持っているに違いありません。Wolfe も Bannon に対して同様に原始的な印象を持っており、彼のボーカルを「虚空に向かって叫ぶ朽ち果てた頭蓋骨」と表現していますが、これは二人の共同ボーカルに対する完璧なメタル的表現でしょう。しかし、何十年にもわたってその力強さを維持することは、Bannon 自身も認めるように、肉体的な犠牲を伴います。
「この30年間、叫び続けてきたことで自分自身に大きなダメージを与えてきたんだけど、今でもやってきたことはやれるぜ。喉に瘢痕組織がたくさんあるから、気持ちよく歌える音やコントロールできる音はほんの一握りしかないし、混乱しているけどな。俺には広い声域はないし、長い時間をかけて研ぎ澄まされ、調整された筋肉でもないだけど、全く別のものがあるから、俺はそれで満足しているんだ。俺はラウドなボーカリストだけど、ラウド・ボーカルは他のスタイルに比べてインパクトやパーカッションとの関係が深いんだよな。というのも、一般的にはビートに合わせて歌うことになるし、音声的にも、自分の中から何かを引き出すために強く押し出さなければならないから硬くなってしまう。だから、伝統的なボーカリストのように、コミュニケーション・ツールというよりは楽器になってしまう。まあ、Chelsea も、やりたいときには残忍なことをやっているし、Stephen はもちろん、Kurt も Ben も時には歌っている。俺たちはこのダイナミクスに賭けていて、レコードの中でいろいろなところを行ったり来たりしているわけさ」
Bannon は “Bloodmoon.I” での自らのパフォーマンスを過小評価しているようです。しかし、自分の限界を知ることには強さにつながります。Bannon がこの作品を “全員が自らのエゴを封印した” と語るように、限界を知り、自分一人では到達できなかったであろうメロディーを、コラボレーターである Wolfe と Brodsky に委ね、彼らが具現化してくれたことに感謝しているのです。
「俺の頭の中では、いつも Ronnie James Dio のためにボーカル・メロディーを書いているんだけど、俺は彼のように歌うことはできないからな。Ronnie James Dio の知り合いでもなかったし、彼は死んでしまった。だから、Stephen Brodsky に任せたんだ」

“Bloodmoon” プロジェクトが本格的に始動したのは2016年のこと。当時、CONVERGE は Wolfe、Chisholm、Brodsky の3人に声をかけ、ハードコア・グループのカタログの中で、よりムードのある、あまり知られていない部分を強調するため短期間のヨーロッパ・ツアーを行い、オランダの Roadburn Festival で今では伝説となっているセットを披露しました。Bannon が Wolfe との出会いを振り返ります。
「彼女のセカンド・アルバム “Apolaklypsis” を手にしたのは2009年くらいだったと思うけど、すっかり魅了されてしまったね。すばらしいレコードだと思った。その後、俺たちがツアーに出ているときに会うことになったんだが、シアトルか、少なくともシアトルの近くで Chelsea も Ben もそのあたりにいて、ライブに来てくれたんだ。それ以来、さまざまな形で連絡を取り合っていた。Ben とはいくつかのプロジェクトで一緒に仕事をしたし… CONVERGE でもっと広がりのあるダイナミックな活動をして自分たちの世界を広げていくには、他の創造的な声を持ったミュージシャンと一緒に演奏することが必要だと常に考えていたんだ。そんな話をしていたら、二人と一緒に仕事をするというアイデアが頻繁に出るようになった。2009年から今まで、ずいぶん長い時間が経ったように感じるけど、人を集めるにはスロー・バーンが必要なんだよな。2016年にはヨーロッパでいくつかのショーを行ったけど、そのうちの1つがイギリスのロンドンで “Converge Bloodmoon” として行ったもの、これが本質だ。CONVERGE の曲をベースにアイデアを膨らませたもので、幸運にも Ben と Chelsea 、そして Stephen Brodsky がその最初のライブに同行してくれたんだ。相性はとても良くて、みんなとても仲良くなれた。だから、その後も続けていきたいと思えたんだ」
Brodsky をメンバーに加えたのは、彼がすでに CONVERGE ファミリーの一員であったことから、自然な流れでした。Brodsky は、1998年に発表された CONVERGE のアルバム “When Forever Comes Crashing” でベースを担当しており、さらに2009年に発表された “Axe to Fall “では、CAVE IN と CONVERGE のメンバーが合体して大規模なレッキングクルーとなり2曲を演奏しています。さらに Brodsky は、CONVERGE のメンバーと他にも2つのバンドで共演しています。Koller との MUTOID MAN と、CAVE IN。長年ベーシストであった Caleb Scofield の死後、2018年に Newton を招き入れたのです。Bannon が回想します。
「Stephen とは10代の頃からの付き合いだよ。俺の意見では、彼は俺が知っている中で最も才能のある、自然なプレーヤーの一人だと思う。それは、彼が技術的なスキルを磨いてきたからで、一見すると何の苦労もないように見えるけど、実際には10代の頃にベッドルームで100万時間も練習を重ねていたから。 実は彼は、90年代後半に CAVE IN が活動を休止していたときに、初期の段階で俺たちのバンドにベースで参加していたんだ。彼が CAVE IN の活動を再開したことで、俺たちは別々の方向に進んだよ。でもずっと仲が良くて、彼は俺たちのドラマー Ben Koller とも親しくしていた。それに彼は、Kurt の昔のルームメイトでもあり、Nate と一緒にバンド活動をしているんだ。Stephen はこのプロジェクトにとてもパワフルな音楽的感性をもたらしてくれた。彼のリフやメロディのアイデアは、とてもパワフルだよ。このバンドでも、彼の他のすべての活動でも、特別な線で俺とつながっている。まあ俺は彼のただのファンだから、彼と一緒に仕事ができたことは本当に特別なことだったよ」
Chisholm も同様に、数年前から CONVERGE の近くにいて、”Revelator” という名前で、Bannon のポストロック・プロジェクト WEAR YOUR WOUNDS とのスプリット7インチをリリースしています。また、Chisholm は過去10年間に Wolfe と共演したり、アルバムを制作したりもしていて、彼女に CONVERGE の音楽を紹介した人物でもあるのです。
さらに、Wolfe と MUTOID MAN がともに Sargent House Records と契約していたこともあり、Wolfe はパーティーやフェスティバルで何度も Brodsky と遭遇していて、プラハの街を歩き回っている時、彼と意気投合したこともありました。
「ビートルズが演奏したこともあるアリーナに忍び込んで、Stephen に METALLICA の曲か何かを歌ってもらったの。あの時の音は最高だったわ」

Bloodmoon の最初のライブはステージ上のエネルギーがあまりに強烈で、ライブが無事に終わった後、7人のミュージシャンはオリジナルのアルバムを録音することに合意します。以降何年にもわたって、さまざまなデモや曲のアイデアが彼らの間を行き来していましたが、2020年初頭にマサチューセッツ州セーラムにある Kurt Ballou の GodCity レコーディング・スタジオに集結する時間がようやく全員にできたとき、パンデミックが発生しました。ゆえに東海岸のプレイヤーたちには集まる機会があった一方で、Wolfe は北カリフォルニアの自宅スタジオで大部分の楽曲をレコーディングしました。
ソロアルバムではロック、ドゥーム、フォークなど幅広いジャンルのテクスチャーを使用してきた Wolfe にとって、2016年最初に CONVERGE とリンクしたことは、他人の技術を創造的に熟考する良い機会となりました。
「それまでにかなりの数のツアーを経験していたけど、それは常に自分のバンドで、私が指揮をとり、ほとんどを決定していたわ。だから Bloodmoon は、一歩下がってバンドの一員となり、他の人が書いたパートを学ぶチャンスだったの。ミュージシャンとしての成長には役立ったと思うんだけど当時の私はもっとシャイで…ただ背景に消えて、CONVERGE を輝かせようとしていたのよね。私にとって長くてゆっくりとした旅のようなものだったわ。始めたばかりの頃は、人に顔を見られたくなかったから、ビクトリア朝の喪服のようなベールをステージ上で被っていたくらいで。でも今では、そこに自分がいても構わないと思えるようになったのよ」
Wolfe の自宅スタジオは、2019年に発売された “Birth of Violence” をレコーディングするために、パンデミック前にすでに設置されていました。ゆえに自宅で歌い、ギターを弾いているときは、完全に本領を発揮しています。ただし、そのセッション中に予期せぬ個人的な変化が起こりました。インフラが整い、新しい曲を歌えるようになった彼女は、Bloodmoon の曲を、断酒への道を歩み始める “精神的・霊的な調整” を行うための道標として活用したのです。
「禁酒を始めたばかりの頃は、当然ちょっとした苦労があったわ。このプロジェクトは、そんな時期の私にとって、アルコールの影響を受けずに得られた考え方を表現する、とても素晴らしいはけ口になったの。起きてから何時間も楽曲に取り組み、没頭しながらも、とてもクリアな気分になれるという、最高のグルーヴ感を得ることができたのよ。パンデミックがはじまって最初のうちは、クリエイティブでなければならないというプレッシャーがあったと思うの。ヨーロッパでのツアーが中止になり、ショーもせずに飛行機で帰国しなければならなかったし…その後、1月初旬に禁酒を決意したんだけど、ちょうどその頃、CONVERGE の曲を掘り下げ始めたの。私の場合、今の新たな明晰な精神状態が楽曲に反映されていると思うわ。同時に、このボーカルや曲をみんなと一緒に作ったことで、自分の創造性を取り戻すことができた。このプロジェクトの中で、私は本当に自由になれたと感じているの。みんながお互いのアイデアを受け入れていったから。これは本当に楽しい経験だったわ。パンデミックの闇の中の喜びと言ってもいいかもしれないわね。そして、夏にみんなで集まったときに、本当に命が吹き込まれたの」

CONVERGE のメンバーにとって、”Bloodmoon.I” への長き道のりは数十年に及びます。Ballou と Bannon は10代でバンドを結成し、90年代前半に活動していたメタルコア・シーンの硬直した攻撃性に、SLAYER を愛しながら難解なひねりを加えていきました。特筆すべきは今年20周年を迎えた、あの時代を象徴するような “Jane Doe”。その混沌の中に、ピックアップを腐食させるようなノイズ、破壊的な爆音、そして奇妙なフックが詰め込まれたゲーム・チェンジャー。Bannon が女性のストイックな顔を描いた ハイコントラストなジャケットイメージは、最近ではフランス人モデルのオードリー・マルネイの写真を部分的に使用していることが確認されていますが、MISFITS の “Crimson Ghost” と並んで、パンクやメタルのパンテオンに数えられています。
“Bloodmoon: I” では、そんな CONVERGE の定石に数多くの変化が加えられ、万華鏡のように華麗な体験が可能となりました。Bannon の叫び声は、Wolfe の陰鬱でメランコリックなビブラートと溶け合い、Brodsky の生々しいメタリックな叫びに巻き付いていきます。Wolfe も過去に、”Apopkalypsis” の “Primal/Carnal” でエクストリームなボーカルを試したことがありますが、”Bloodmoon: I” のタイトル・トラックは、彼女のヴォーカル・トーンをさらに極端なものにするチャンスでした。
「この1年間、ホラー映画の音楽制作に取り組んできたんだけど、その多くは非常に悪魔的な音を出していたの。Bloodmoon の曲と同じ時期に取り組んでいたから、ちょっとしたクロス・オーバーみたいな感じでね。”Blood Moon” という曲で私は、うなり声のような新しいボーカルに近づいたんだけど、それに触発された Jacob がその部分を引き継いでさらに発展させたのよ」
3人のキー・ボーカリスト以外では、Newton がオークのような悲鳴を上げて、アルバム全体に頻繁に登場します。しかし、Bloodmoon のメンバー全員をその没入感のある重厚なサウンドに導いたと Wolfe と Bannon が認めたのが Ballou で、彼は特に衝撃的な “Viscera of Men” の歌詞を書きました。この曲は、何年にもわたる人間同士の争いが “散らばり、飛び散る” 様子を表現しています。Wolfe はこの曲に、暴力についての彼女自身の “時に戦争がまったく理解できないことがある” という考えを付け加えています。構造的には、CONVERGE が何十年にもわたって必要としてきた武器化された D-Beatに向かって進んでいきますが、すぐにChisholm のシンセ・ブラスのファンファーレに支えられて、恐ろしく、憂鬱な雰囲気に変わります。しかし、この変化に富んだ道のりも、Bannon にとっては CONVERGE らしさの一つ。
「俺がリスナーとして好きなレコードは、LED ZEPPELIN の “Houses of the Holy” だよ。バラエティに富んでいるけど、それでも ZEP らしさは失われていない。俺は自分のバンドを MELVINS や ZEP、METALLICA のカタログと比較したことはない。自分たちの領域を知っているから、俺はそれで構わないんだ。でも、比較とかではなく、このレコードには、彼らのような興味深いサウンド・ボイスが幅広くすべて含まれている。それが俺にとってとてもクールなことなんだ」

ビジュアル・アーティストとしての Bannon は、このプロジェクトのグラフィック・デザインにも同様に幅を持たせています。CONVERGE らしい傷ついた顔が真紅とコバルトの色調でアートワークの左上に描かれていますが、バンドの最も象徴的なイメージを使用しながらここには顔の半分しか描かれていません。これは、CONVERGE のクラシックなラインナップが、”Bloodmoon: I” の全体像の一部にしか過ぎないことを暗示しています。そして中央には、輝くような、統一された陰陽のシンボルが月のようにぶら下がっています。Bannon は “前進することを重視” して、自分のバンドのレガシーについて深く考えることを躊躇していますが、2004年の “You Fail Me” は罰当たりな “Hanging Moon” で締めくくられ、2012年の “All We Love We Leave Behind” のアートワークでは月の周期の位相を表現するなど、その作品群に月のイメージが浸透していることを認めています。
「このアートワークを “トロピカル” と呼ぶ人がいるかもしれないけど、俺にとっては視覚的にも比喩的にも共感できるものだ。人間は皆、さまざまな形でそれぞれの暗闇をかかえている。ある人にとっては月がその象徴となるだろうし、別の人にとっては、月が真っ暗な時間の中で輝く光の象徴になるだろう。この比喩をどう捉えるかは君次第なんだ。それに、この作品の歌詞には蛇のイメージが多く含まれているから、それを取り入れたいと思った。CONVERGE のレコードのような雰囲気を出しつつ、異世界のような雰囲気を出したかったんだ。その構成やアイデアを構築するのに時間がかかったけどね」
音楽とビジュアル・アート、そして私生活の関係についてはどう考えているのでしょうか?
「俺にとって、音楽とアートは同じ芸術空間から生まれてくる。とはいえ、これは俺の仕事でもあるから、本当に好きな面もあれば、疲れてしまう面もある。音楽やアート以外では、海の近くで過ごしたり、家族や子供たちと過ごしたりすることが多いね。先週末、2人の息子を連れて森の中の小道を歩いていたら、偶然にも鹿に出会ったんだよ!あと、俺は子供の頃、1988年か1989年頃まで大のプロレスファンでね。俺がプロレスに夢中になったのは、1983年、7歳か8歳のとき。ロード・ウォリアーズがテレビに出てきて、”Iron Man” に合わせて登場したのを初めて見たときは、圧倒されたよ。思春期の少年にとっては、最高にタフでクールなものだったんだ。今でもサバスの “Iron Man” を聴くと滾るよね」
Wolfe はこの月食の到来を過酷な戦いの終わりになぞらえています。残酷なパンデミックの中でのレコーディング、断酒への道、そして、5年という長い時間をかけた共同創作。
「このアルバムには、赤いエネルギーがたくさん詰まっているの。私にとって “Blood Dawn” という曲は、この旅の終わりのようなもの。血の月から日の出まで続く戦いで、あなたは自分の手に残った血を見ているのよ。私は、戦いの後、太陽が昇る浜辺に座っている全員の姿を想像しているわ。アルバムの曲ができあがってくると、神話的な雰囲気を感じるようになったのよ。大きなテーマ、巻きついた蛇のような古代のシンボル、戦いの後の血まみれの日の出。曲を作りながら、頭の中でそんな神話的なテーマをイメージするようになっていったわ」

この作品はほとんどが別の場所で録音されましたが、今年の6月にミュージシャン全員が GodCity に集まり、最終ミックスと最後の調整を行いました。パンデミックが始まって以降、全員が同じ部屋に集まったのは初めてのことです。Bannon は隔離され音楽に打ち込めるロックダウンが、必ずしも創造性にはつながらないと感じていました。
「Chelsea も同じかどうかはわからないが、パンデミックの影響でクリエイティブな人たちが変な方向に行ってしまったんだよな。誰もがクリエイティブでなければならないと思っていて、俺はそれをかなり息苦しく感じていた。俺はそんな仕事はしたくない。何かを作りたいと思えるようになるまでには、しばらく時間がかかったんだよ。そんな俺にとって、Bloodmoon にはとても素晴らしいサポート体制があった。俺たちは仲間で、互いを思いやり、アーティストとして尊敬し合っている。だから、こんなに大きくて手の込んだことをする自信はなかったけれど、7人の仲間が安心してサポートしてくれるから、誰もが何かを作るときに抱く芸術的な疑問を払拭することができたんだ。そのために俺は、自分のアイデアをもっと自由にしなければならないと感じていた。ひとつひとつのアイデアを延々と練るのではなく、とにかく出してみる。普通のレコードでは考えられないような方法でね。
バンドを続けていると、焼き直しとは言わないまでも、自分たちに合ったやり方を見つけることになる。内面的な力関係とか、どんな曲を作るかとか、そういったことも含めてね。 俺たちはこれまでも、そしてこれからも、さまざまなサイド・プロジェクトをやるんだけど、つまりそれは CONVERGE のサウンドを成長させたいと常に思っているから。その思いは90年代後半にさかのぼる。Kurt と俺は、自分たちがより良いプレイヤーになり、より大きくて幅広い音楽的アイデアを持つようになったら、異なる楽器を取り入れてみてはどうだろうかと話し始めていたんだ。最終的には、このバンドの延長線上にある、ルールがなく、やりたいことが何でもできるようなコラボレーションができたら、すごくいいんじゃないかと思っていたよ」
そもそも、Bloodmoon は CONVERGE の作品と言えるのでしょうか?
「これはバンドの延長線上にあるものだ。CONVERGE は木のようなもので、これはその木の大きな枝のようなものなんだ。俺たちが中心となる4人という意味では関連性があり、CONVERGE と同じ精神を持っているが、新たな協力者を得て、7人組の大きなバンドとして一緒にサウンドを広げているんだ。このアルバムでは、全員が歌詞を書き、曲を作り、レコーディングや編集の過程で全員が何らかの形で発言し、それがとてもポジティブな経験となった。だから、俺たちは CONVERGE のレコードだと、そう考えているよ。バンドの延長線上にあるものとしてね」
CONVERGE の4人のメンバー、ボーカルのJacob Bannon、ベースの Nate Newton、ドラマーの Ben Koller、ギタリストの Kurt Ballou、メタル/フォークの歌姫 Chelsea Wolfe、彼女のバンドメンバーであり作曲家でもある Ben Chisholm、そしてニューイングランドの伝説 CAVE IN の Stephen Brodsky。まさにマグニフィセント・セブン。そして、このアルバム・タイトルは、いずれ “Bloodmoon.II” が作られることを示唆しています。しかし、Bannon と彼のバンドがこれからどこに向かおうとも、ヴォーカリストは CONVERGE の次の進路にいつも興奮しています。
「他の多くのバンドは、大抵、練りに練ったアルバムを作った後、次のレコードではコアな部分に戻っていく。俺は、特に10代で築いたものに柔軟性を持たせるという考え方が好きなんだ。とにかく、これまでにやったことのない、まったく奇妙なことをやってみよう……そして、また次のレコードを作ろう!」

参考文献:REVOLVER:TELEPATHY, SOBRIETY, WARFARE: HOW CONVERGE AND CHELSEA WOLFE ECLIPSED EXPECTATIONS WITH BLOODMOON

KERRANG!:Jacob Bannon and Chelsea Wolfe take you inside Bloodmoon

MANIACS:INTERVIEW – JACOB BANNON OF CONVERGE GOES DEEP ON ‘BLOOD MOON: I’

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY ROW : UNCHAINED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKAEL SALO OF THY ROW !!

“What Always Drew Me Into Japanese Music Was The Melodies – I Feel That Japanese Metal Bands Always Keep The Focus On The Melody, Like a Redline Running Through The Song. This Is Extremely Important To Me Also In My Own Music.”

DISC REVIEW “UNCHAINED”

「僕が日本の音楽に惹かれたのは、メロディーなんだ。日本のメタル・バンドは、曲の中を走る赤い線のように、常にメロディーに焦点を当てていると感じるよ。これは、僕自身の音楽においても非常に重要なことなんだ」
才能溢れる多くのバンドを抱えながら、さながら鎖国のように世界への輸出を拒んできた日本の音楽世界。イメージや言語、そして理解されない珠玉メロディーなどその理由はさまざまでしたが、近年はそんな負の連鎖から解き放たれつつあります。アニメやゲームといった日本のコンテンツが抱擁されるにつれて、永久凍土に見えた音の壁が緩やかに溶け始めたのかもしれません。そして、フィンランドの THY ROW は衝撃のデビュー・アルバム “Unchained” において、日本の音楽が持つクリエイティブな可能性とその影響を惜しみなく解放しています。
「歌を録音することはとても負担が大きく、感情的なプロセスで、歌い終えた後はいつも疲れてしまう。でも、もし誰かの心をどこかに動かし、その曲の意味やストーリーを感じてもらうことができたら、ボーカリストとしての目標は達成できたと思うんだよ」
枚方に一年間留学し、日本語や日本文化、そして感情の機微を胸いっぱいに吸い込んだボーカリスト Mikael Salo は、THY ROW の音楽へと日本の空気を思い切り吐き出しました。
坂本英三、森川之雄。こぶしの効いた浪花節を思わせる、すべてが熱く “Too Much” な二人の歌声は Mikael の心を動かし、憑依し、アルバムに感情の津波を引き起こすことになりました。おそらくは、ANTHEM がこれまで世界にあまり受けいれられなかったのも二人の歌唱が、メロディーが、きっとあまりに “日本的” だったからで、その部分が雪解けとなった20年代では、Mika のようなユーロと日本のハイブリッドの登場もある意味では当然でしょう。ANTHEM は何十年も、ただ最高のメタルを作り続けているのですから。
「”Burn My Heart” や “Destiny” は完璧なパワー・メタルだけど、”Still Loving You” や “Destinations”のような曲は、彼らのスタイルの多様性を示していて、息を呑むような音楽性によってパワー・メタルの曲作りのルールを曲げているよね。驚きだよ!」
THY ROW に影響を与えた日本の音楽は ANTHEM だけではありません。GALNERYUS や X JAPAN の “パワー・メタル” の枠だけには収まらない千変万化の作曲術も、THY ROW にとって不可欠な養音となりました。そうして彼らは、ロックとメタルの境界線の間でバランスを取りながら、メロディーに重点を置き、時折ラジカルなギターソロとマジカルな展開を交え、ビッグなコーラスによって感染力の高い楽曲を完成させてきたのです。
「制作面では、ミキシング・エンジニアの Jussi Kraft(Starkraft Studio)と一緒に、AVENGED SEVENFOLD のアルバム “Hail To The King” を参考にしたんだよね。音楽的には、モダンな影響ならブラジルのバンド ALMAH や、アメリカのバンド ADRENALINE MOB みたいなバンドが思い浮かぶね」
重要なのは、彼らが過去の亡霊に囚われてはいないこと。手数の多いドラムの騒然は MASTODON の嗎に似て、耳を惹くオルタナティブなフレーズは INCUBUS の異端にも似て、クランチーなリフワークとサウンドは QOTSA のエナジーにも似て、THY ROW の音楽を80年代と20年代の狭間に力強く漂わせるのです。冒頭、”Road Goes On” や “The Round” といった真のアンセムを誇示する一方で、アルツハイマーをテーマとしたダークでプログレッシブな “The Downfall” 三部作でアルバムを閉める構成力も素晴らしいですね。
今回弊誌では、Mikael Salo にインタビューを行うことができました。「当時、間抜けなティーン・エイジャーだった僕は、兄にかなり失礼な質問をしてしまったんだよね。”ヘヴィ・メタルって、ドラッグをやったり、タトゥーを入れたりしている人たちのものじゃないの?”って。でも賢明な兄はこう答えたんだ。”そんなことはないよ、美しくて情熱的な音楽だから、ぜひチェックしてみて!”」THY ROW の音楽も十二分に美しく、そして情熱的です。どうぞ!!

THY ROW “UNCHAINED” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRST FRAGMENT : GLOIRE ETERNELLE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PHIL TOUGAS OF FIRST FRAGMENT !!

“Japanese Power Metal Bands Like Saber Tiger, Galneryus, Versailles, etc Sing In Their Own Language And It Fits Their Music Much Like Quebec French Fits Our Own Music Best. We Will Continue To Do So.”

DISC REVIEW “GLOIRE ETERNELLE”

「ARCHSPIRE の音楽は、正確で、数学的で、冷たく、残忍で、容赦なく、人間離れした速さで、怒りに満ちていて、極めてよく計算されている。対して FIRST FRAGMENT の音楽は、折衷的で、有機的で、時に緻密で、時に即興的で、陽気で、時に楽しくて痛快で、時に悲劇的でメランコリックなんだ。だから私は FIRST FRAGMENT を “エクストリーム・ネオクラシカル・メタル” と呼び、ARCHSPIRE を”テクニカル・デスメタル” と呼んでいる」
現在、メタル世界で最高峰のテクニック、そしてシュレッド・ファンタジーをもたらす場所がカナダであることは疑う余地もありません。先日インタビューを行った ARCHSPIRE がメカニカルな技術革新の最先端にいるとすれば、FIRST FRAGMENT はシュレッドのロマンを今に伝える黄金の化石なのかもしれませんね。奇しくも同日にリリースされた “Bleed The Future” と “Gloire Éternelle” は、正反対の特性を掲げながら、テクニカルなエクストリーム・メタルの歩みを何十歩、何百歩と進めた点でやはり同じ未来を見つめています。
「2007年のことを思い出してほしい。ケベック州のモントリオール地域では、デスメタル、ブラック・メタル、デスコアが主流だった。今でもそうだけど、その時期はさらにその傾向が強かったんだよね。だから私のようなエッジの効いた矛盾した人間にとっては、フラストレーションの溜まる時代だったよ」
VOIDCEREMONY, EQUIPOISE, ETERNITY’S END, FUNEBRARUM, ATRAMENTUS…。おそらくメタル世界でも最も多忙なギタリストとして知られる Phil Tougas は、MARTYR, CRYPTOPSY, AUGURY などが闊歩するテクデスの聖地ケベックに生まれ、だからこそ別の道を進むことを決意します。91年生まれ、まだ30歳にもかかわらず、Yngwie Malmsteen, RACER X, CACOPHONY, Tony Macalpine, Joey Tafolla (!!) といったシュラプネルの綺羅星にどっぷりと浸かりながらそのギターの鋭利を研ぎ澄ませていきました。
一方で、同世代に同じ趣味のプレイヤーがいなかったことから、MORBID ANGEL や NECROPHAGIST といったエクストリームの涅槃にも開眼し、FATES WARNING や ELEGY (!!) のプログ・パワーまで吸収した Phil は、FIRST FRAGMENT で “エクストリーム・ネオクラシカル・メタル” を創造するに至ります。グロウルを使えばデスメタルなのかい?という問いかけとともに。
「私たちのリフはすべて、ネオクラシカルなパワーメタルのコード進行で構成されている。デスメタルは砕け散り、重く、邪悪で残忍だ。FIRST FRAGMENT はインテンスの高い音楽だけど、これらの特徴はどれも持っていないし、その気もないんだよね。ゆえに、デスメタルではない」
バロックやロマン派のクラシック音楽から、フラメンコ、ジャズ、スウィングやファンク、ネオクラシカルなパワーメタル、デスメタル、プログレッシブ・メタル.。ジャンルを踊るように融合させ、大きなうねりを呼び起こすという点で、FIRST FRAGMENT の右に出るバンドはいないでしょう。そしてその華麗な舞踏会を彩るのが、Phil Tougas, Nick Miller, Dominic “Forest” Lapointe のシュレッド三銃士。
「ソロ・セクション自体は、通常のツイン・ギターではなく、私が “トリプル・リード・アタック” と呼んでいるものなんだ。このアルバムでは、ベースがギターの役割を果たし、ベースがギタリストと同じ数のソロを演奏し、合計30のベース・ソロを演奏するという、メタル・バンドの中でも珍しいことを成し遂げている」 の言葉通り、すべての弦楽器が平等に、鮮やかに、驚異的な指板のタップダンスを踊り尽くします。特筆すべきはリードが放つ揺らぎやエモーション、そしてサプライズで、近年大半を占めるレールの上を滑らかに進むようなソロイズムとは明らかに一線を画しています。例えば、RACER X や CACOPHONY が絶対的な楽曲、リード、プロダクションばかりを誇っていたかと言えば答えは否かもしれません。しかし、あの時代のギタリズムには予測不能のびっくり箱が無数に用意されていました。FIRST FRAGMENT にも宿る同様のシュレッド・ファンタジーは、アルバムのテーマと同じく音の輪廻転成を信じさせるに十分でしょう。
「SABER TIGER, GALNERYUS, VERSAILLES といった日本のパワーメタル・バンドは日本語で歌っていて、それはケベックのフランス語が私たちの音楽に一番合っているように、彼らの音楽にも合っているよね」
アルバム全編をフランス語で歌うエクストリーム・メタルという意味でも、FIRST FRAGMENT は文字通り “はじめてのカケラ” だと言えます。彼らの母語に潜む哀愁とラテンの響きは、アルバムの根幹をなすフラメンコとクラシカルな響きと絶妙に混ざり合い、ELEGY が “Spanish Inquisition” で成し遂げた夢幻回廊の奇跡を現代のメタル世界へと呼び戻すのです。
今回弊誌では、Phil Tougas にインタビューを行うことができました。「Tony MacAlpine, Joey Tafolla, ELEGY の Henk Van Der Laars。この3人のギタリストは今でも私の最大のヒーローだと思う」まさにメタル温故知新の最高峰。エルドラドならぬシュレッドラド。どうぞ!!

FIRST FRAGMENT “GLOIRE ETERNELLE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KAYO DOT : MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOBY DRIVER OF KAYO DOT !!

“It Was Mindblowing To Me When I Discovered That There Were Bands That Blended Death Metal With Sludge And Atmospheric Keyboards, Such As Tiamat, Disembowelment, My Dying Bride, Anathema, And Many Others. That Became My Favorite Style Of Music.”

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE”

「パンデミックの影響で、私は街から離れ、友人や他のミュージシャンとも離れて孤立せざるを得なかった。すべての作品を孤独の中で作らなければならなかったんだよ。当時は精神的にかなり参っていたけど、振り返ってみると、あれは私にとってまさに必要な休暇だったと思えるね。都会の喧騒や過酷な生存競争に巻き込まれることなく、自分自身で大きく成長することができたからね」
メタル/プログレッシブの世界で異端の道を歩み続ける修道僧、KAYO DOT の Toby Driver。彼は、パンデミックの影響により都会から離れ、自然豊かな地元コネチカットの田舎の暮らしで自身を見つめ直すことになりました。そこで再訪したのが、高校時代に愛した Toby のルーツとも言えるレコードたちでした。
「TIAMAT, DISEMBOWELMENT, MY DYING BRIDE, ANATHEMA みたいに、デスメタルにスラッジやアトモスフェリックなキーボードを加えた音楽を知ったときは、驚かされたよね。そして、それが私のお気に入りの音楽スタイルになったんだ」
当時、アメリカの田舎町でヨーロッパのゴシック・ドゥームメタルを愛聴していた若者がいったい何人いたでしょう?さらに、それを聴きながら幽体離脱の瞑想をしていたというのですから、Toby Driver という人物の超越性、異端児ぶりには恐れ入ります。
時は90年代初頭。メタルが遂に “多様性” を手に入れ始めたカラフルな時代の息吹は、青年だった Toby の音楽形成、境界を破壊する才能に大きく寄与することとなります。そうして、MAUDLIN OF THE WELL というプログレッシブ・メタルから始まった彼の音旅は、KAYO DOT でのアヴァンギャルド、ポスト・メタル、アトモスフェリック、チェンバー、エレクトロニカの寄港地を経て再びゴシック・ドゥームの地へと舞い戻りました。
「90年代に活躍したバンドを思い浮かべると、たしかにあの頃のミュージシャンたちは皆とても若くて、音楽に成熟したものを期待することはできなかったよね。私は、あのゴシック・ドゥームという音楽が、成熟していて、経験を積んでいて、しかもまったく新しいもののようにエキサイティングだとしたら、どのように聞こえるだろうかと自問したんだ」
しかし、Toby のその長旅は、すべて最新作 “Moss Grew on the Swords and Plowshares Alike” の養分となり、未成熟で不器用だったあのころのゴシック・ドゥームを完成させるパズルのピースとなりました。言ってみればこのアルバムは、過去への感謝の念を抱いた自由意志の結晶。
「今回は、アーティストとして意味のある音楽を演奏するだけでなく、私たちが所属している Prophecy Productions というレーベルにマッチした音楽を演奏して、お互いに成長できるようにしたいと思っているんだ」
レーベルに合わせて音楽を書く。そんな試みもまさしく前代未聞ですが、それを実現できるのが日本ツアーであの平沢進までカバーした音楽の図書館こと Toby Driver。”The Knight Errant” はそんな KAYO DOT の “錬金術” を象徴する絶景。欧州に根差すブラック・メタルの激しい敵意とゴシックの耽美、さらに LYCIA のようなアメリカのシューゲイズ、そして ULVER や THE CURE といった Toby の “お気に入り” が調合された謎めいたアンチマターは、非常に “Prophecy 的” でありながら純粋で、驚きを秘め、感情を雷鳴のように揺さぶります。KAYO DOT の哲学には明らかに、野蛮とエレガントの巧妙な天秤が設置されていて、どちらか一方に傾くことはありません。
“Eternity” 時代の ANATHEMA を想起させる “Void in Virgo (The Nature of Sacrifice)” を聴けば、よりメタルだったころの Toby を喚起した MAUDLIN OF THE WELL のメンバーを招集した意味も伝わるはずです。シンコペーションとギターのアルペジオが彩る “Necklace” はまさにあのころのゴシックの申し子でしょうが、それよりも自由と伝統の共存、まさに90年代のゴシック・ドゥームの美学を KAYO DOT の豊富な “スペクトル” で調理した “Spectrum of One Colour” にこそこの作品の本質があるのかもしれませんね。
北欧神話や一神教を表のテーマとしながら、実際は世界に蔓延するヒーロー気取りの愚か者を断罪する。それもまた自由と伝統の共存なのでしょう。
今回弊誌では、Toby Driver にインタビューを行うことができました。「私は彼の音楽がとても好きで、東京にある “Shop Mecano” (中野ブロードウェイ) というプログレのレコード店にも足を運んだんだよね。ここは都内でも平沢さんの音楽を扱う主要な業者のひとつなんだろうか?沢山あったからDVDを何枚も買ってしまったよ (笑)」4度目の登場。もはやレギュラーですね。どうぞ!!

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE” : 10/10

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