NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TEMIC : TERROR MANAGEMENT THEORY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DIEGO TEJEIDA OF TEMIC !!

“I Think There Is a New Generation Of Bands That Are Focusing On The Emotional Content Rather Than The Technical. I Think That This Is Real Prog.”

DISC REVIEW “TERROR MANAGEMENT THEORY”

「制度化され、ほとんど強制的な変拍子、速いソロ、意図的に作られた支離滅裂な構成など、一部の “プログレ” はとんでもないところまで行ってしまっていると思う。このジャンルは感情やインパクトのある実際の曲よりも、テクニックや名人芸の誇示を求めるミュージシャン、それにアカデミックに酔った音楽になってしまうことが多い。音楽とは何かという根本的な原則、つまり人間の魂の直感的な表現をないがしろにしてしまうんだよね。そうした “プログレ” は結局、予測可能なものとなってしまった」
従来の “ロック” に、アカデミックな知性、予想不能な展開、多様なジャンルの婚姻を加えて “進化” を試みたプログレッシブ・ロック。70年代には革命的で、新しかったジャンルは、しかし今や形骸化しています。
「ある時点で、僕たちは間違った方向に進み、プログレの “プロセス” を誤って解釈してしまったのだと思う。例えば、1970年代の PINK FLOYD のようなバンドを思い浮かべてほしい。彼らの曲は3分のときもあれば、10分のときもあった。それは、その曲は10分である必要があり、他の曲は3分である必要があったからだ。彼らは従来のルールを破って、ただ音楽のために、音楽にまかせて、曲の長さや複雑さを決めていたんだ。 でも幸いなことに、技術的なことよりもエモーショナルな内容に重点を置く新しい世代のバンドが出てきたと思う。これこそが真の “プログレ” だと思う。なぜなら、彼らはこのジャンルのために設定され制度化された期待や慣習を破ろうとしているからね」
難解な変拍子、テクニックのためのテクニック、そしてお約束の長尺のランニング・タイム。きっと、そうした “規範” ができた時点で、プログレはプログレの役目を終えたのでしょう。それでも、ジャンルの初期にあった好奇心や知性、挑戦の炎を受け継いでいきたいと望むアーティストは存在します。そうして、英国の希望 HAKEN で長く鍵盤とサウンド・メイキングを手がけた奇才 Diego Tejeida は、むしろ若い世代にこそ真の “プログ魂” が宿っていると力説します。
「2020年に Eric と最初に電話をしたとき、僕たちは TEMIC の音楽的ビジョンについて合意したんだ。力強いボーカルのメロディ・ライン、誠実でインパクトのある歌詞、色彩豊かなハーモニー、そしてハートビートのような絶え間ない鼓動。僕たちは、自分たちの技術的な能力を誇示するために大げさな音楽を書くことには興味がないということで意見が一致したんだよ。それどころか、音楽そのもののエモーショナルな内容に奉仕するための曲を書きたかった」
そして Diego の出自であるメキシコ、アステカ文明の言葉で “夢” を意味する TEMIC をバンド名に抱いたこのバンドもまた、真のプログの追求者でしょう。実際、このバンドはプログのドリーム・チームでしょう。Diego にしても、Neal Morse のもとでマルチな才能と天才的なギタリズムを披露した Eric Gillette にしても、そのテクニックや音楽的素養は世代でも飛び抜けたものがあります。他のメンバーも、SHINING, INTERVALS, 22 とそうそうたるバンドの出身。しかし、彼らは決してそのテクニックを誇示することはありません。すべては楽曲のために。すべてはエモーションのために。
「このアルバム “Terror Management Theory” でも、メタルギア・ソリッドのサウンド・トラックの影響を実際に聴くことができる。あのゲームのサウンド・トラックとセリフの組み合わせは、幼い頃から僕に大きな影響を与えたよ。僕の人生の目標のひとつは、ビデオゲームのために音楽を書くことなんだ。そのためには日本に引っ越す必要があるかもしれないね!」
実際、メメントモリ、この人生の有限を知る旅において、Diego の音楽と言葉のシンクロニシティは最高潮を極めます。そして、ゲームから受け継いだ旋律の妙とエレクトロニクスの波は、Eric の滑らかなギターワークと融合して絶妙なタペストリーを織り上げていきます。
2人の仲人となった賢人 Mike Portnoy の教え。テクニックよりも野心とアドレナリン、直感に細部までの拘り。TEMIC の音楽は、そうして確実に、プログレッシブの次章を切り開いていくのです。
今回弊誌では、Diego Tejeida にインタビューを行うことができました。「メキシコ・シティで行われた DREAM THEATER のライブ。僕は最前列で、歌い、叫び、飛び跳ね、ヘッドバンギングをしていた。 言うまでもなく、DREAM THEATER は僕のミュージシャンとしての初期において非常に重要な役割を果たしたんだ。例えば、”Awake” は、中学校に通う途中、毎日聴いていたアルバムだからね」 どうぞ!!

TEMIC “TERROR MANAGEMRNT THEORY” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【PLINI : MIRAGE】


COVER STORY : PLINI “MIRAGE”

“I Guess I’m Trying To Change The Weather In My Songs.”

MIRAGE

オーストラリアのギター・マジシャン Plini は、これまでもドリーミーでエセリアルなその音楽と、際立ったトーンに華麗なハイテクニックでその名を轟かせてきました。そして最新EP “Mirage” では、蜃気楼の名の通り、これまで以上に常識と典型を破壊しています。Plini は決して一つの場所に留まるようなギタリストではなく、新しい領域を探求する生来の欲求が、この作品ではこれまで以上に直感的に表現されているのです。
「あるひとつの方向に進むのであれば、可能な限りその方向に進みたい」と、Plini はその情熱をのぞかせます。「EPに収録されている奇妙な曲については、純粋に奇妙であることを理解していた。HUNAN ABSTRACT のギタリストだったA.J. Minette と一緒に仕事をしたんだけど、彼は物事が奇妙で間違っていることにすごく抵抗がないんだ。だから、ギターや弦楽器のチューニングは微妙にずれているし、演奏される音は必ずしも直接的なキーではないし、ギターの音色は擦れている。でもそれが興味をそそるんだ」
彼のトレードマークである明るいサウンド・テクスチャーと美学を歪めたいという願望は、オープニング・トラックの “The Red Fox” で明らかとなります。スキップするようなリズムとしなやかなフュージョン・リードを土台に、陰影とリバーブのかかったリード・トーンと繊細だが不穏なストリングスの色合いを経て、曲はよりダークな展開を見せます。
「ÓlafurArnaldsというアイスランドの作曲家がいるんだけど、彼は弦楽器が普通のオーケストラではやらないようなアレンジをたくさんしているんだ。ミュージシャン全員が同じ音をランダムなタイミングで演奏することで、群がるようなサウンドを生み出しているんだよ。ストリングスは、ハリウッド映画のような超甘美なアレンジにする必要はないんだ」
“Mirage” は、10月のサプライズ・シングル “11 Nights” を除けば、2020年のアルバム “Impulse Voices” 以来の新作となります。このアルバムで、彼はフォーマットの自由を受け入れました。EPはインスト向きのフォーマットだと Plini は気づきました。
「20分以上のインストゥルメンタル・ミュージックを書くのは難しいんだ。歪んだギターが歌詞になるんだから、まったく違うことを言うのは当然難しくなる。
でも、EPというフォーマットはインストを探求するのにとても楽しい方法だと思う。アルバムよりも敷居が低いように思える。いろいろなことを試してみて、何が有意義で楽しいと感じるかを知るチャンスなんだ。音楽ファンとして、バンドが同じことを繰り返し始めると、僕は興味を失う。一方で、バンドが思い切った新しいことをするのを見ると、必ずしもその新しい方向性のすべてが好きでなくても、興奮するんだ」

インストゥルメンタル・ミュージックがリスナーの注意を引きつけるには限界があることを自覚しているPlini は、だからこそ、リスナーの期待を裏切るようなひねりや驚きを常に探していることを認めています。
「それが僕の作曲の大きな原動力なんだ。”Red Fox” では、アレンジの色は変わらない。ドラム、ベース、リズム、クリーン・ギター、リード・ギターも同じで、ギターのトーンも変わらない。でも、あの曲は甘いハーモニーから、より半音階的でダークなサウンドになる。視覚的な例で言えば、座って広大な景色を眺めていて、とても明るかったとしたら、突然雲が流れてきて雨が降り始める。同じ景色を見ているのに、天気が変わってしまったような音楽。僕は自分の曲で天気を変えようとしているんだと思う」
曲がりくねった7/4の唸り “Still Life” から、狂ったチューニングの迫り来る雷が鳴り響く “Five Days of Rain” の曇天まで、EPの5曲は悪意という名の意外性と奇抜な創造性で彩られています。しかし、彼が愛するリディアン・スケールの夢想的な響きは健在で、それが喧噪の中に光を散りばめているのです。リディアン・スケールは、彼が “クレイジーなエレクトリック・ギター・ミュージック” と呼ぶ音楽にのめり込み始めた頃、Steve Vai や Joe Satriani を夢中になって聴いているうちに好きになった魔法で、そのシュールな美学こそがリディアン・スケールの魔法だと Plini は疑いません。
「なぜだかわからないけど、(スケールで) 4番目の音を半音上げるとファンタジーのように聞こえるんだ。普通の4番目の音が僕たちの住む世界だとしたら、半音上げた4番目の音は、すべてがもう少しカラフルになった世界。それが僕が時間の大半をかけて喚起したいムードなんだよ。
アートワークもそう。現実的ではないけど、認識できるものが含まれているジャケットはたくさんある。でも、”Mirage” はもっと抽象的で、それは音楽でもやろうとしていることだと思う。ピカソの絵を見て、それが音楽としてどう聞こえるかを考えるようなものだ。どうすれば抽象的になれるのか?ってね」
典型の破壊といえば、前述の “Still Life” では、Plini が中東の弦楽器ウードを演奏しています。
「ロックダウン中に覚えたら楽しいと思ったんだけど、クッソ難しかった」

さらに重要なのは、この曲には ANIMALS AS LEADERS の Tosin Abasi がコラボレートしていること。彼もまた、このEPの捻くれた性格に拍車をかけています。
「彼は、僕とは全く違う、とても独特なひねくれた、エッジのある声を持っている。ソロを分け合う時、それは重要なことなんだ。
Tosin と一緒に仕事をするのは、必然的なことだった。彼は僕らの世代のギタリストの最前線にいる。なぜなら、彼は可能な限りクレイジーなことをやってきたし、前の世代と比べて新しいことをたくさんやってきたからだ。もちろん、僕は最高のギタリストとコラボレーションしたいからね」
Steve Vai が Plini を “卓越したギター・プレイの未来” と称賛したのは記憶に新しいところ。しかし、そのような “十字架” が、のんびりとしたオージーにプレッシャーを与えることはないのでしょうか?
「それはとても非現実的な出来事だった。でもね、僕にとって彼の言葉は、心配するよりも、今やっていることを続けろというサインだった。
ヴァーチュオーゾ的に演奏しなければならないというプレッシャーを感じることもあるかもしれない。でもね、結局人々がそれを期待するというよりも、僕が無意識のうちにギターの狂ったような演奏を聴くのが好きだから、そうなるんだ」
Vai と同様、Joe Satriani も Plini にとっては “師匠” の1人。2人とも、ギターをまるでボーカルのように扱います。
「サッチの演奏の好きなところはそこなんだ。彼は最もシンプルなメロディーを弾くし、フレージングも完璧だ。ビートに対する音の置き方が、いつも完璧で、ビブラートもいつも素晴らしい。
彼は本当に音を選んでいるのではなく、レモンのようにギターをジュースにして音を絞り出しているような気がする。彼は私に大きなインスピレーションを与えてくれた。だから、比較されるのはとてもうれしいよ」

もっといえば、Plini にとってギターとは声そのもの。
「僕はリード・ギターはボーカルだと思っているんだ。もちろん、テクニカルな音楽も好きだけど、シンプルな音楽も好きだ。ギタリストが何か派手でクールなことをするまでに数分かかる方が、ノンストップでクレイジーなことをするよりもエキサイティングだと思うんだ。だから、シンプルな部分と複雑な部分をミックスさせるのが好きなんだ」
メタルが背景にあることも、Plini の強みです。
「普通の人はライブに行ってまずはシンガーの歌を聴くだろう。だから、そのシンガーが突然叫んだらかなり耳障りだろう。でも、僕のような人間にはそれがまったく普通で、ただそこに立って微笑んで楽しむだけだ。僕は音楽全般に対して同じような態度を持っていると思う。不協和音的なソロやコードも、本当にシンプルなものや高揚感のあるポップなメロディに劣らず心地よいと思えるほど、いろいろな種類のものを聴いているんだ」
インスピレーションの源は、音楽だけではありません。Plini は音楽家になる前は、建築家になるために勉強を続けていました。
「あらゆる種類の芸術を見て、それが音楽であるかのように分析してみるのはいつも興味深い。素晴らしい教会なら、小さなドアから巨大な部屋に入り、静かなイントロから100の楽器のコーラスが広がるような、そんな感じかもしれない。多くの素晴らしい建築物には、2つか3つの素材が使われているかもしれないけれど、曲の中では2つか3つの楽器がその能力をフルに発揮しているかもしれない。
そうしたアートの類似性を作るのは非常に漠然としている。でも、偉大な画家が偉大な絵を描くように、あるいは偉大なシェフが偉大な料理を作るように、自分が曲を作っているかどうかを確認する方法として、少なくとも相互参照するのは面白いと思う」

以前、”Ko Ki” という楽曲では、NGO と提携して寄付を募りました。
「僕は大学で建築を学んだんだけど、その授業のひとつにロー・インパクトとの提携があった。その授業では、カンボジアの貧しい村のためのコミュニティ・シェルターをデザインしたんだけど、その授業の最後に優勝したデザインには、そのクラスの誰もがカンボジアに行って建設を手伝えるというオプションがあったんだ。僕はどんなチャンスにも “イエス” と言うのが好きな人間になったんだと思う。だからそうして、素晴らしい時間を過ごした。人生を変えるような経験だった。
このプロジェクトは、政府によって買い取られようとしている土地を買い戻すというものだった。なぜか覚えていないんだけど、たぶんNAMMに行ってオタクになってギターを弾くのに忙しかったんだと思う。それで、資金集めのために曲を書こうと思ったんだ。音楽で面白いことをする、それが音楽でできる最も価値のあることだと思う。ボートに乗って、なんとなく知っている人たちと一緒にビールを飲むのは、寝室でギターを弾いていた僕にとって、本当に楽しいことなんだ。僕が寄付したお金で建てられた家に、世界中の家族が住んでいるのを見ることができるのは、真剣にビブラートに取り組んだことの素晴らしい成果なんだよ!」
そうやって、Plini はプログ世界の価値観や活動のサイクルさえも壊していきます。
「現代のプログレッシブ・メタル・バンドというのは、バンドをやっていて、自分の楽器がすごく上手で、気持ちの悪い曲を書いて、それがアルバムになってレコード会社からリリースされ、母国をツアーして、それから世界中をツアーして、また母国をツアーして、2ヶ月後とかにミュージックビデオをリリースして、疲れ果てて家に帰って、しばらく待ってからまたやる、というようなことになりがちだと思う。現代のプログ・メタル・バンドというのは、そういうものだと思う。それに対して僕は、それとは正反対の状況に自分を追い込もうとしているんだと思う。ボートの上で演奏したり、慈善活動をしたりね。
プログという言葉自体、価値観や主義主張というよりも、特定のサウンドを表現するための言葉になってしまっている。”djent” という言葉と同じでね。僕にとっては、サウンドやバンドなどの説明を伝えるための手っ取り早い方法ってだけ。でも、僕は自分の楽しみのために音楽を書いているし、ただ楽しくて奇妙な人生を自分のために作ろうとしているから、アルバムとツアーのサイクルだけにならないように、できることは何でもしているんだと思う。新しい車を買うための、ベストな方法じゃないけどね (笑)」

現代のインストゥルメンタル・ギター界は想像力と独創性に溢れています。Tim Henson, Tosin Abasi, Ichika, Manuel Gardner Fernandes, Jakub Zytecki, David Maxim Micic, Aaron Marshall, Yvette Young のようなミュージシャンは、アクロバティックな演奏だけではなく、技術性と音楽性が共存できることを証明しています。Plini がその一員であることを誇りに思うシーン。
「多くの進化と才能に囲まれているのは素晴らしいことだ。ANIMALS AS LEADERS にしても、UNPROCESSED の曲にしても、テクニカルでありながら、シンプルなメロディのようにエモーショナルでキャッチーなんだ」
このシーンは、DIYが主流であり、ビジネスやレーベルを重視していないことも Plini は気に入っています。
「ビジネスにかんして、僕はできるだけ人を避けるようにしているんだ。僕にはレコード会社もマネージャーもいない。そうすることで、僕と同じ目標を持っていないような人たちと話す時間を無駄にしなくてすむからね。ツアーに出るときも、一緒にいるのはみんな友達だから、何か問題があってもすぐに話せる。一緒に仕事をする人たちはみんな、自分の仕事を愛し、本当にいい仕事をしたいという同じ姿勢を持っている。
僕は幸運なことに、典型的な音楽業界のしきたりやならわしの多くを避けてきた。でも、特にこのシーンやジャンルでは、観客がそれでもアーティストのハードワークを評価してくれるから良いよね。生半可なプログ・バンドが有名になっても、ギター・オタクの人たちはみんなわかっていて、”そんなに良くないよ。聴く気にならない” ってなるからね。だから、このシーンで活動するのはとても正直なことなんだ」

つまり、Plini にとっては音楽業界の “しきたり” も破壊すべき壁の一つ。
「僕は知識や人脈はおろか、特定の目標や計画を持って音楽業界に入ったとは言えない。だけど今振り返ってみると、それがレコード会社やマネージメントに頼らずに自分のオーディエンスを開拓する上で最も役に立ったことがわかる。
約10年前、僕は制作中の曲のクリップやデモをアップロードし、音楽フォーラム(DREAMTHEATER のファン・フォーラムなど)で共有するようになった。Misha が自分のバンド PERIPHERY を立ち上げたのを見たことがきっかけだったし、DREAM THEATER は間違いなく僕が初期の頃最も影響を受けたバンドの一つだ。
DREAM THEATER の大ファンになったのは、Mike Portnoy が彼のフォーラムを通じてファンと連絡を取り合っていたこと、アルバムとツアーの合間に”公式”のブートレグをリリースしたり、アルバムのアートワークやビデオに謎を隠したり、バンドの舞台裏の映像を大量に共有したりと、ほぼカルト的なレベルの関心を維持していたことが理由なんだ。
それは PERIPHERY も同様で、常に制作中の作品を共有し、SNSでファンと交流していたからね。SNSでのプレゼンスを維持し、ファンベースと連絡を取り合うことは、2020年のミュージシャンにとってはかなり一般的な活動だけど、2010年頃の僕にとって、フォーラムに何かを投稿したりメッセージを送ったりして、自分の音楽的アイドルに直接メッセージを送ることができ、彼らが実際に反応してくれる可能性がかなり高いというのは、かなりの衝撃だったんだ。
ここで学ぶべき教訓は、オーディエンスを見つけるために、独自のマーケティング部門を持つレーベルは必要としないということだと思う。ただ自分の好きなアーティストに注意を払い、分析するだけで良いんだ。なぜ彼らが人気なのかをね。それが、YouTubeにもっと舞台裏の映像を投稿したり、Instagram でQ&Aをしたり、毎週メーリングリストを作ったりするきっかけになるかもしれないからね。
僕が駆け出しの頃は、音楽フォーラムでアクティブな状態を維持し、一貫してFacebookのメッセージやコメントに返することが、今日の僕のオーディエンスを構築するのにとても役立っていたね。プラットフォームからプラットフォームへとオーディエンスの注目を集め、維持し、フォローしていくことは、駆け出しのアーティストにとって多かれ少なかれ必須であると思うよ。
2015年までに3枚のEPをリリースして、オンラインで十分なオーディエンスを築き上たことでやっと、バンドを組んでライブをするのもクールだと思った。過去数十年の間、ライブをすることはバンドが”ブレイグするための重要な方法の一つだったけど、最近では音楽をリリースしてオンラインで話題になるまではライブをしない方が理にかなっていると思う。
初めてのショーで観客を沸かせたことが初のオーストラリアツアーにつながり、全国各地のショーで安定した観客動員を得たことで、より大きなブッキング・エージェンシーと仕事をするようになり、より大きな会場やより良いサポート枠への道をゆっくりと歩むことができるようになった」

では、彼は今現在、ギターシーンのどのような位置にいるのでしょうか?
「僕たちは皆、自分自身のベストを尽くそうとしていると思う。僕は特に練習に打ち込んだことはないから、テクニックを押し付けることが自分の居場所だとは思っていない。でも同時に、僕の周りにはあらゆるテクニックに長けた人たちがいるから、もっとうまくなりたいと思うし、彼らとは違う新しいことに挑戦したくなる。僕は、クレイジーなアイデアをすべて自分の音楽に取り入れて、意味のある面白いものを作りたいんだよ」
Plini は常に謙虚な向上心を持っていますが、それでもモダン・ギター・シーンにおける彼の地位は議論の余地がありません。Abasi の革新性や Jakub Zytecki の “超ワイド・ヴィブラート” はたしかに魅力的ですが、色彩と感情に満ちたメロディーに対する Plini の耳は他の追随を許しません。”Mirage” で彼は、音楽情景が奇抜で荒々しく波乱に満ちたものになったとしても、彼の音楽は相変わらずカラフルで美しいままであることを証明したのです。
「作曲に “正解” などはなく、頭の中のスナップショットとして存在するだけだと信じている。完璧なんてとんでもないことだと受け入れることが、何をするにも楽しいことだと思うんだ」


参考文献: GUITAR.COM:Plini on new EP ‘Mirage’ and writing his most out-there music yet

GUITAR. COM:“My fanbase was amazingly angry”: Plini on his new album, signature guitars and ‘that’ Doja Cat controversy

NUSKULL:„Perfection is kind of ridiculous” – an interview with Plini

MUSIC RADER:Plini: “Satch has been hugely inspirational to me so it’s very cool when I’m told people can hear that in there”

PLINI 来日公演の詳細はこちら!SMASH

COVER STORY + INTERVIEW 【STEVEN ANDERSON : GIPSY POWER 30TH ANNIVERSARY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVEN ANDERSON !!

“I Founded My Inspiration In The Sounds Of The Swedish Mysterious And Enchanting Forest And The Nordic Light And Through My Journeys In Eastern Europe.”

DISC REVIEW “GIPSY POWER”

「私は伝統的なギター・ヒーローの典型的なタイプではなく、自分の音楽を前進させ、新しい音楽表現の方法を探求することに重点を置いていたんだと思う。スウェーデンの神秘的で魅惑的な森の音や北欧の光、そして東欧の旅を通してインスピレーションを得ていたんだ。東欧の音楽には、速いテクニカルな部分への挑戦がある一方で、挑戦的でプログレッシブな部分も非常に多いからね」
トルコとフランスを結ぶ豪華寝台列車、オリエント急行。アガサ・クリスティのミステリーの舞台にもなったこの列車の風景は、エジプトから中東、インド、そしてヨーロッパをまたにかけたジプシーの足跡をたどる旅路にも似ています。
ジプシーの文化はその渡り鳥的な生き方を反映して、実に自由かつ多様でした。言語はもちろん、風習、食事、そして音楽。ジプシーであるロマ族に生まれ、放浪生活の中でスウィング・ジャズとジプシー民謡を天才的に融合させた巨匠、ジャンゴ・ラインハルトのオリエンタルな音楽はその象徴でしょう。
1990年代前半、そんなジプシーのエスニックでオリエンタルな音楽をメタルで復活させた若者が存在しました。スティーヴン・アンダーソン。美しく長いブロンドをなびかせたスウェーデンの若きギタリストは、デビュー作 “Gipsy Power” で当時の日本を震撼させました。紺碧の背景に、真紅の薔薇と無垢なる天使を描いたアートワークの審美性。それはまさに彼の音楽、彼のギタリズムを投影していました。
重要なのは、スティーヴンのギター哲学が、あの頃ギター世界の主役であったシュラプネルのやり方とは一線を画していた点でしょう。決して技巧が劣るわけではなく、むしろ達人の域にありながら (イングヴェイがギターを始めたきっかけ) 、ひけらかすためのド派手なシュレッド、テクニックのためのテクニックは “Gipsy Power” には存在しません。いや、もはやこの作品にそんな飛び道具は相応しくないとさえいえます。楽曲と感情がすべて。スティーヴンのそのギタリズムは、当時のギター世界において非常に稀有なものでした。
では、スティーヴンが発揮した “ジプシー・パワー” とはいったい何だったのでしょうか?その答えはきっと、ギターで乗車する “オリエント・エクスプレス”。
スティーヴンのギターは、ジミ・ヘンドリックスの精神を受け継いだハイ・エナジーなサイケデリック・ギターと、当時の最先端のギター・テクニックが衝突したビッグバン。ただし、そのビッグバンは、ブルース、ロック、フォーク、プログレッシブ、クラシックの影響に北欧から中東まで駆け抜けるオリエンタルな旅路を散りばめた万華鏡のような小宇宙。
“The Child Within” の迸る感情に何度涙を流したでしょう。”Gipsy Fly” の澄み切った高揚感に何度助けられたでしょう。”Orient Express” の挑戦と冒険心に何度心躍ったことでしょう。”‘The Scarlet Slapstick” の限りない想像力に何度想いを馳せたでしょう。
その雄弁なギター・トーンは明らかに歌声。”Gipsy Power” は少なくとも、日本に住むメタル・ファンのインスト音楽に対する考え方を変えてくれました。私たちは、まだ見ぬ北欧の空に向かって毎晩拝礼し、スティーヴンを日本に迎え入れてくれた今はなきゼロ・コーポレーションを2礼2拍手1礼で崇め奉ったものでした。
しかし、より瞑想的で神秘的でプログレッシブなセカンド・アルバム “Missa Magica” を出したあと、スティーヴンは音楽シーンから忽然と姿を消してしまいました。”Gipsy Power” の虜となった私たちは、それ以来スティーヴンをいつでも探していました。向かいのホーム、路地裏の窓、明け方の桜木町…こんなとこにいるはずもないのに。言えなかった好きという言葉も…
私たちが血眼でスティーヴンを探している間、不運なことに、彼は事故で腕を損傷していました。その後炎症を起こし、何度も結石除去術、コルチゾン注射、さまざまな鍼治療法を受けましたが状況は改善せず、スティーヴンのギターは悲しみと共に棚にしまわれていたのです。
しかし、それから10年近く経って、彼は再びギターを弾いてみようと決心し、愛機レスポールを手に取りました。それはまさに、メタルのレジリエンス、反発力で回復力。スティーヴンの新しいバンドElectric Religions は、初めての中国、珠海国際ビーチ音楽祭で3万人以上の観客の前で演奏し、中国の映画チームによってドキュメンタリーまで制作され、その作品 “The Golden Awakening Tour in China” がマカオ国際映画祭で金賞を受賞しました。
マカオでの授賞式の模様は中国とアジアで放送され、推定視聴者数は18億人(!)に上りました。スティーヴンは現地に赴き、”文化的表現によって民主主義の感覚を高める” というマニフェストに基づいて心を込めて演奏しました。そして数年の成功と3度のツアーの後、彼は GIPSY POWER をバンドとして復活させるために、Electric Religions を脱退することを選んだのです。
長年の友人であり、音楽仲間でもあるミカエル・ノルドマルクとともに、スティーヴンは GIPSY POWER をバンドとして再結成。アルバム ”Electric Threads” は、2021年11月19日、ヨーロッパの独立系音楽・エンターテインメント企業 Tempo Digital の新しいデジタル・プラットフォームにより、全世界でリリースされました。新たな相棒となったミカエル・ノルドマルクは、MIT で学んだことはもとより、あのマルセル・ヤコブにレッスンを受けた天才の一番弟子。期待が高まります。ついに、大事にしまっていた宝石箱を開ける日が訪れました。奇しくも来年は、”Gipsy Power” の30周年。私たちは、ジプシーの夢の続きを、きっと目にすることができるでしょう。「日本は私のプロとしてのキャリアの始まりでもあった。日本にはたくさんの恩があるし、今でも日本という美しく歓迎に満ちた国に行って、クラブ・ツアーをしたいと思っているんだよ」 Steven Anderson です。どうぞ!!

STEVEN ANDERSON “GIPSY POWER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SADUS : THE SHADOW INSIDE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JON ALLEN OF SADUS !!

“We Didn’t Want To Get Board Playing The Same Songs So We Challenged Ourselves To Learn Stuff That Was Hard To Play To Keep Us Interested.”

DISC REVIEW “THE SHADOW INSIDE”

「当時はマスタード (テクニック) をデリ (メタル) に持ち込むバンドはあまりいなかったよね!(笑) 僕たちは、当時流行していた平凡なメタルのスタイルから自分たちのスタイルを切り離したかったんだ。それで、いわば限界に挑んだわけさ」
今でこそ、メタルといえばテクニカル、ストイックな技術の修練と自己研鑽が生み出す音楽というイメージが定着していますが、かつては必ずしもそうではありませんでした。もちろん、華やかなギターソロや、リズミックな瞬間はありましたが、楽曲を通して知性と異端を貫いたバンドはそう多くはありませんでした。
「”Swallowed in Black” は、練習に練習を重ねた全盛期に作ったからね。週7日、1日4~6時間練習していたよ。だけど、同じ曲ばかり演奏するのは嫌だったから、自分たちを飽きさせないために難しい曲に挑戦していたんだ」
ではなぜ、メタルはテクニカルで、知的で、異端な道に進んで行ったのでしょうか?あの百花繚乱なベイエリアでも、抜群のテクニックと推進力を誇った SADUS のドラマー Jon Allen はその答えを知っていました。
まず第一に、90年代に入って既存のメタルが時代遅れとなり、売れなくなったこと。売れなければもちろん、知名度を上げるために典型を脱出しなければなりませんし、平凡なままではジリ貧です。SADUS は当時、より限界を極め、テクニカルで複雑怪奇になることで、終焉を迎えつつあったメタル・パーティーからの差別化と進化を目指したのです。
同時に、同じリフや同じリズム・パターンを繰り返すことが多かった既存のメタルは、何度も演奏していると飽きてしまうと Jon は語っています。これは実に興味深い証言で、90年代初頭に枝分かれし、複雑化し多様化したメタル・ツリーの原動力が、ただリスナーへ向けてだけではなく、アーティスト自らの表現や挑戦のためだったことを示しています。
「プログ・スラッシュやテクデスを意図的にやろうとしていたわけじゃないんだ。僕たちはただ、70年代と80年代のアイドルから影響を受けたものを、自分たちの音楽で輝かせるためにそうしたヘヴィな枠組みを使っていただけなんだよ。有名どころだと、メイデン、ラッシュ、サバス、ジェスロ・タル、プリーストみたいなバンドの影響をね」
DEATH, CYNIC, ATHEIST といったバンドと並んで、テクニカル・メタルの開拓者となった SADUS にとって、奔放で自由な枠組みであったスラッシュやデスメタルは、特別都合の良い乗り物でした。悲鳴を上げるボーカルの狂気、プログレッシブな暴走、フレットレスのうねり、限界を突破したドラム、拍子記号の乱発。
規格外のメンバーが集まった SADUS は当時、前述のバンドたちほど人気を得ることはありませんでしたが、前述のバンドたちよりも奇々怪々でした。だからこそ、その壁を壊す “黒い衝動” が徐々に認められて、今では伝説の名に相応しい存在となりました。
「Steve Di Giorgio は他のプロジェクトで超多忙だったんだけど、僕たちはボールを転がし続け、サダス・マシーンを起動させなければならなかった。それでも、Steve を作曲とレコーディングのために招いたんだけど、今回はうまくいかなかったんだよね。それで、Darren と僕は前進し続けることにしたんだ」
2006 年以来となる新作 “The Shadow Inside” には、バンドの顔であったベーシスト、フレットレス・モンスター Steve Di Giorgio は参加していません。それでも、彼らは今でもスラッシュのやり方、メタルの壁の壊し方をしっかりと覚えています。
SADUS がかつてのような高みに到達する力があるのかという疑問符は、オープナーの怒涛なる一撃 “First Blood” から一掃されます。猫の目のリズム・チェンジこそ減りましたが、それを補ってあまりある洗練と強度。”The Shadow Inside” は年齢が単なる数字に過ぎず、好きと挑戦を続けることの強みを再度、力強く証明しました。
この作品には、Darren と Jon がなぜ “Tech-metal” の先陣を切ったのかを再確認させる大量のエネルギーと興奮が詰まっています。リフの饗宴、リズムの混沌、冷徹な知性に激しさの渦。スラッシュとデスメタル、2つの祭壇を崇拝する者にとって、SADUS は今も揺るぎない司教に違いありません。
今回弊誌では、Jon Allen にインタビューを行うことができました。「大事なのは、人生の決断の一点において、ソーシャルメディアを気にしないことだ。君の中にある影は、人生において何が真実なのかを見抜き、指摘することができるのだから」 どうぞ!!

SADUS “THE SHADOW INSIDE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOHINI DEY : MOHINI DEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOHINI DEY !!

“People Can Steal Everything But Not Your Art”

DISC REVIEW “MOHINI DEY”

「私はインド人で、カルナティック・ミュージックで多くのコナッコルを学んだわ。それをスラップ・ベースに取り入れ始めたら、みんなとても楽しんでくれたし、それがみんなにとってとても新鮮で新しかったのだと思うわ。私は様々に異なるスタイルやヴァイブをベースで表現するのが好きだから」
ムンバイ出身のかわいいとおいしいを愛する26歳のベーシスト、Mohini Dey は、Forbes Indiaによって “30歳未満で最も成功したミュージシャン” と評されています。9歳で世界への扉をこじ開けた Mohini は、それから18年間、類稀なる才能と努力で Steve Vai, Simon Phillips, Stanley Clarke, Jordan Rudess、Quincy Jones, Mike Stern, Marco Minneman, Gary Willis, Dave Weckl, Tony Macalpine, Stu Hamm, Plini, Guthrie Govan, Chad Wackerman, Chad Smith, Gergo Borlai, Victor Wooten など、本当にそうそうたるアーティストと共演を果たしてきました。日本のファンには、B’z との共演が記憶に新しいところでしょう。
インドは今や、ロックやメタル、プログレッシブにフュージョンの新たな聖地となりつつありますが、確実にその波を牽引したのは Mohini でした。そして音楽の第三世界がまだ眠りについていた当時、彼女がムンバイから世界への特急券を手に入れられたのには確固たる理由があったのです。
「並外れた存在になりたければ、並外れた時間を費やし、才能を磨く必要がある。才能は報酬ではない。報酬とは、才能を磨くために懸命に努力した結果、実りを得ることだから。人は何でも盗めるけど、あなたの芸術までは盗めないの」
アルバムには “Introverted Soul” “内向的な魂” という、Mohini が10年間にわたって温め続けた楽曲が収録されています。友達と遊ぶことも許されず、父の夢を背負いひたすらベースだけに打ち込んだ学生時代。そもそもがとても恥ずかしがり屋で、内向的だった彼女はしかし、音楽で抜きん出ることによってその世界を広げ、今では率直で社交的で経験が大好きな人として成長を遂げました。
才能は誰にでも与えられているが、磨かなければ意味がない。そんな父の教えと、彼女自身の弛まぬ努力が、いつしか彼女の世界を広げるだけでなく、インドの音楽シーン全体をも拡大する大きなうねりとなっていったのです。
「私のライブが終わると、たくさんの子供たちや若い女性ミュージシャンが私のところにやってきて、”Mohini は私のアイドルよ。あなたは私のインスピレーションの源で、私がベースを弾けるようになったのもあなたのおかげ” って伝えてくれるのよ。世界は変わりつつある。今の私の目標は、インドからもっと多くの女性奏者を輩出することなの」
同時に、性別や宗教、人種の壁に対する “反抗心” も Mohini の原動力となりました。インドを含む世界の多くの地域では、白い肌は依然として最も望ましいまたは美しいものとして祝われています。特にインドでは、女性は今でも肌の色について多くの差別を受けているのです。だからこそ、音楽を通して世界を旅した彼女は、あらゆる人種、宗教、文化の人々に会い、すべての文化の美しさを目にし、さまざなま壁を取り払いたいと願うようになりました。”Coloured Goddess” はそうした差別に苦しむ美の女神たちすべてに捧げた楽曲。
一方で、”Emotion” は Mohini 自身が受けてきた、女性であることに対する過小評価への反発です。”女性である私がどんな男性よりも上手にベースを弾くことが可能であることを世界に示したかった” と語る彼女は、幼い頃から、女性はベースを極めるのに力が足りない、強さがないという批判を浴び続けていたのです。
世界で羽ばたいた彼女は今や、そうした姿の見えない “批判者” たちに感謝の “感情“ さえ持っています。そうした批判がなければ、これほど練習することはなかっただろうと。怒りと感謝の入り混じった感情の噴火はすさまじく、ベースを弾き狂う中で彼女は後進たちに、語るよりも行動で示せとメッセージを放ちました。
「18年半の仕事を通じて、私は信じられないほど才能のある伝説的なミュージシャンに会ってきた。彼らと仕事をするとき、実は私は彼らに自分のアルバムに参加してもらうことを念頭に置いていたのよ。それぞれが自分の経験、声、旅を私の曲にもたらしてくれたの。だから、そうね!私は自分の多様な選択を非常に意識していて、各曲ごとに慎重に各ミュージシャンを選んでいったの」
そうした背景を湛え、彼女自身の名を冠したデビュー・フル “Mohini Dey”。この作品で Mohini は、まるで人種や性別、文化や宗教の壁を壊すかのごとく、世界のあらゆる場所に散らばるトップ・アーティストを集めて、前代未聞のカラフルな音の融合を生み出しました。Simon Phillips、Guthrie Govan、Marco Minneman、Steve Vai, Jordan Rudess, Gergo Borlai、Bumblefoot、Scott Kinsey、Narada Michael Walden、Gino Banks、Mark Hartsuch、Mike Gotthard…すべての名手たちは団結し、Mohini の音楽を通して愛と物語を表現していきました。
ここには、かつて WEATHER REPORT や MAHAVISHNU, Chick Corea が培った名人芸とエモーションの超一流二刀流がたしかに存在しています。ただし、彼女の夢は一番になることではなく、自分自身であり続けること。新たな世代を育てること。寛容と反発、そしてムンバイの匂いをあまりに濃くまとった “Mohini Dey” は彼女の決意を体現する完璧な意思表明でしょう。
今回弊誌では、Mohini Dey にインタビューを行うことができました。「B’z と活動した後、私は日本で多くの名声を得て、日本のファンから私の音楽性、ミュージシャン・シップをたくさん愛してもらえるようになった。それに、B’z のおかげでヘヴィなロック・ミュージックも大好きになったのよ」肉への愛を綴った “Meat Eater” や、カリフォルニアのダブルチーズバーガーと恋に落ちる “In-N-Out” など彼女の真摯な食欲もパワーの源だそう。どうぞ!!

MOHINI DEY “MOHINI DEY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIXATION : MORE SUBTLE THAN DEATH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS W HANSEN !!

“We Wanted Something To Reflect The Title «More Subtle Than Death» Which Was Derived From The Quote «Society Knows Perfectly Well How To Kill a Person And Has Methods More Subtle Than Death»”

DISC REVIEW “MORE SUBTLE THAN DEATH”

「タイトルの “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” は、”社会は人を殺す方法を熟知しており、死よりも巧妙な方法がある” という名言に由来している。
僕にとってこの言葉は、社会が人間らしさを奪い去り、殻に閉じこもらせてしまうということを指しているんだ。それは僕たちがアートワークに込めた思いでもある。この花は人間のメタファーでもあるんだ」
正邪混沌の時代。事実と虚構の境界線は日ごとに曖昧となり、貪欲、腐敗、抑圧が横行した世界で、ノルウェーの FIXATION はデビュー・アルバムからそうした社会の経年劣化をメタル・コアの叫びで再生したいと願います。
アルバム “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” において彼らは、社会の無慈悲な盲目さを大胆に取り上げました。肉体的な死よりも残酷なのは精神的な死。誰からも認められない孤独な尊厳の死こそ最も恐ろしいことを、社会が時に途方もなく欲望に忠実で残酷なことを FIXATION は知っています。それは、自分たちもここまで来るのに、認められるのに多くの時間と孤独を費やしたから。だからこそ彼らは世界中に絶望と恐怖をもたらす対立や分断の溝を埋めながら、希望を持ち続け、自分に忠実であり続け、名声よりも自分自身の中に強さを見出そうとメッセージを放っているのです。その言葉はアルバムを通して真実味を帯びています。
「あれでもない、これでもないと言われたこともあるよ。でも正直に言うと、僕たちはただ自分たちが好きな音楽を作っているだけで、人々がそれを何と呼ぼうと勝手なんだ。門番なんて本当にバカバカしいよ。みんなが好きな音楽を楽しめばいいんだ」
自分に忠実であり続けるというメッセージは、その音楽にも貫かれています。通常、メタル・コアといえば、ヘヴィネス、クリーンとグロウルのダイナミズム、モンスターのようなブレイクダウンが重視されるものですが、FIXATION のメタル・コアではそれ以上に質感、ニュアンス、アンビエンスがサウンドの骨格を担います。だからこそ、ヘヴィなギター・リフ、エレクトロニックな装飾、幻想的なイメージ、フックのあるコーラスがシームレスに流動し、感情が生まれ、聴く者を魅了し、活力を与えるのです。加えてここには、ポップな曲もあれば、アグレッシブな曲もあり、さらにオペラも顔負けの壮大なスケールの曲まで降臨して、実にバラエティにも富んでいます。”メタルコア、ポスト・ハードコア、スタジアム・ロックを取り入れたハイテンションでしかしよく練られたモダン・ロック” とはよく言ったもので、BRING ME THE HORIZON からメールを受け取ったという逸話にも納得がいきます。
「世界が暗い方向に向かっていても、トンネルの先に光があることをもちろん願っているよ。もしその希望の光がなかったら、僕たちは何のために戦っているのだろう?」
欲望や名声を追い求めることに警告を発したアルバムにおいて、エンディング・トラックの “Dystopia” は特別オペラティックに明快なメッセージを贈ります。天使のような純粋さで歌い上げる歌詞には、支配と抑圧の色合いが兆し、しばらくの沈黙の後、沸き起こるコーラスにおいて、次世代の未来に対する警告のメッセージが叫ばれます。最後のメッセージ “俺たちは寄生虫” という言葉は、示唆に富み、激しく心を揺さぶります。そう、このアルバムには何か美しく心を揺さぶるものがあるのです。おそらくそれは、欲にまみれた人間の手による世界の終焉を我々みなが予感しているからかもしれませんね。
今回弊誌では、シーンきっての美声の持ち主 Jonas Wesetrud Hansen にインタビューを行うことができました。「日本のゲームとともに育ったことは、僕たちの子供時代を決定づけたし、大人になった今でも僕たちを決定づけ続けている。全員が任天堂、ポケモン、マリオ、ゼルダとともに育ったんだから。もちろんキングダム・ハーツもね!」 どうぞ!!

FIXATION “MORE SUBTLE THAN DEATH” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIFTH NOTE : HERE WE ARE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FIFTH NOTE !!

“We Don’t Know If We Can, But We Try To At Least Make Rock Scene Enjoyable Without The Use Of Alcohol Or Drugs, Or Even Sex.”

DISC REVIEW “HERE WE ARE”

「僕たちは、州内だけでなく、世界的に知られるバンドになりたいんだ。僕たちは西洋のスタイルにとても影響を受けているけれど、自分たち独自のプレイも創り出そうとしている。アルバム・タイトルの “Here We Are” “僕らはここにいる” は、そうした僕たちのモチベーションを端的に表しているんだよ。僕たちは、魂に平和や癒しをもたらすような良い音楽を作りたいと思っているんだ。そして、僕たちの音楽で世界にインパクトを与えたいと願っているんだよ」
インターネットや SNS の登場、進化によって、音楽は世界中のものとなりました。これまで、決してスポットライトが当たらなかったような僻地からも発信が可能となり、人種、文化、宗教の壁を超えて多くの人の耳に届けることが叶う世の中になったのです。特に、メタルの生命力、感染力、包容力は桁外れで、思わぬ場所から思わぬ傑作が登場するようになりました。
「FIFTH NOTE と ABOUT US は、お互い西洋音楽の影響を多く受けているのは同じだね。その上で、僕たちナガ族は美しいメロディーを作るのが好きなんだ。また、トニック・ソルファ (相対音感) のような独自の音楽アレンジもあるからね。そうした美しいメロディやアレンジは、きっと深く僕らのルーツに刻まれているんだろうな」
近年、そうしたメタルの “第三世界” で特に注目を浴びているのがインドです。いや、もはや国力的にも、人口的にも、文化的にも第三世界と呼ぶのも憚られる国ですが、ここ最近、メタルの伸張は並々ならぬものがあります。ボリウッドを抱きしめた BLOODYWOOD の大成功は記憶に新しいところですが、それ以外にも様々なジャンル、様々な地域でまさに百花繚乱の輝きを放っているのです。中でも注目したいのが、インド北東部のナガランド。かつては首狩りの慣習もあったというナガ族が住むこの地域は、文化的にも民族的にも音楽的にも、インドのメジャーな地域とは異なっていて、だからこそ、この場所のメタルは独自の進化を遂げることができたのかもしれませんね。
昨年紹介した ABOUT US にも言えますが、ナガ族のメタルはメロディが飛び抜けて強力。さらに、かつて天空の村に住む天空族と謳われたその二つ名を字でいくように、彼らは舞い降りたメロディをその際限なきハイトーンの翼で天へと送り返していきます。
「一般的にロックというと、ハードコアでワイルドで暴力的な人たちや、道に迷っているような人たちが、エクストリームな音を通して怒りを表現し、怒りで痛みを解消しようとするものだ。そのような中で、僕たちは、道に迷ったり、君が挙げたような問題を抱えた人々に、自分たちは孤独ではないということを伝えたいんだよ。僕たちの前向きな音楽が彼らの痛みや問題を和らげてくれることを願っているんだ」
そこには、ナガ族の90%が敬虔なクリスチャンであるという事実も関係しているのかもしれませんね。インドの多くの新鋭がエクストリームなサウンドで人気を博す中で、FIFTH NOTE はプログレッシブ・ハードという半ば死に絶えたジャンルで世界に挑んでいます。ただし、このジャンルでは、暴力も、ドラッグも、セックスも、決して幅を利かせてはいません。必要なのは、ポジティブな光と知性、そして複数のジャンルを抱きしめる寛容さ。つまり、洗礼を浴びた FIFTH NOTE にとっては追求すべくして追求したジャンルでした。
「僕らがクリスチャンであるという事実、クリスチャンとしての倫理観は、僕らにもっと良いことをしようというモチベーションを与えてくれるんだ。できるかどうかはわからないけど、少なくともロックシーンをアルコールやドラッグ、あるいはセックスを使わずに楽しめるものにしようと努力しているよ」
理想は追求しなければ実現しない。インドに、そして世界に不公平や抑圧、犯罪に暴力が蔓延っていることは、当然彼らも知っています。しかし、暴力は暴力では解決せず、怒りに怒りをぶつけることがいかに愚かであるかも彼らは知っています。だからこそ、FIFTH NOTE はセックス、ドラッグ、ロックンロールという乱暴なステレオ・タイプを破壊して、メタルは “ストレート・エッジ” でも存分に楽しいことを伝えようとしています。それが世界を前向きに変える第一歩だと信じながら。
そしてその野心は、TNT, CIRCUS MAXIMUS, STRYPER, TOTO といった一癖も二癖もあるような英雄を、旋律や知性、そして耳を惹くキャッチーなサウンドで今にも凌駕しそうな彼らの音楽なら、 実現可能なのかもしれませんね。
今回弊誌では、FIFTH NOTE にインタビューを行うことができました。「ナガランドは丘陵地帯が多く、部族が多く住んでいる。そのため、音楽はほとんどが民族音楽なんだ。しかし、西洋の侵略が進むにつれて、そうした音楽はかなりポピュラーになっていった。だから伝統音楽と同様に、ロックやメタルも僕たちに大きな影響を与えることになったんだ」 どうぞ!!

FIFTH NOTE “HERE WE ARE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ROBBY VALENTINE : EMBRACE THE UNKNOWN】 “MAGIC INFINITY” 30TH ANNIVERSARY


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROBBY VALENTINE !!

“What Will It Take To Make The Younger Generation Understand That Life Is Not About Views And Likes. That The Only Way For Fulfilment, Love And Reality Is That You Follow Your Own Path, And Do The Things Your Deepest-self Wants You To Do And Go For.”

DISC REVIEW “EMBRACE THE UNKNOWN”

「僕にとっての成功とは、商業的な成功や売り上げで測られるものではなく、もっと芸術的なもの。若い世代に、人生は再生回数や “いいね!” の数ではないことを理解させるには何が必要だろうか。充実感、愛、そして現実を手に入れる唯一の方法は、自分自身の道を歩み、心の奥底にある自分の望みを実現することなんだ。つまり、自己実現だね。だけど今は、携帯電話やソーシャルメディア、スマートデバイスが普及し、自分の内なる声を聞くことはほとんど不可能になってしまっているんだ」
Robby Valentine。オランダの貴公子、旋律の魔術師の二つ名を持つ眉目秀麗の美男子は、しかしその端麗なルックスからは想像もつかないほどの芯の強さと回復力を兼ね備えています。思えば、今年30周年を迎えたプログ・ハードの傑作 “The Magic Infinity” は、あと数年早ければ彼をロックスターの座に押し上げたはずですし、そのゴージャスな出立ちも時代が時代ならば世界中に信者を増やしたに違いありません。しかし、世はスマホもネットもないグランジが席巻した90年代初頭。Robby の音楽や容姿、言葉は、世界中からダサい、クサい、時代遅れだと切って捨てられてしまったのです。真の音楽とは、タイムレスで、内なる自己実現の賜物であるにもかかわらず。
「日本は僕にとってオアシスだった。長髪、化粧、その他もろもろのせいで、オランダでは信じられないほど苦労した。でも、日本のバンドと比べると、まったく着飾っていないほうだったよ。X Japan のようなバンドのルックスは大好きだった」
そんな苦境にあって、日本だけは Robby Valentine を抱きしめました。”No Turning Back” のドラマに熱狂し、”The Magic Infinity” の幻想美に唸り、”Over and Over Again” の旋律に涙する。ただ、天才的なメロディ・メイカーであるだけでなく、彼は卓越したマルチ・プレイヤーで、挑戦的な作曲者で、日本が発掘した QUEEN の崇拝者でもありました。そして幸運なことに、世界のトレンドや他人の趣向にそれほど左右されなかった当時の日本には、Robby を受け止める土壌がありました。
まだ、日本が “いいね!” に支配されていなかった時代。そうして、もしかすると消えていたかもしれない才能は、遠く離れた島国との蜜月によって力強く生き残りました。Robby は持ち前の諦めない芯の強さと、メタルの回復力、反発力によって自らの “成功” を勝ち取ったのです。
「僕の視覚は今はもう2%くらいしかないんだ。片目でぼんやりと見える程度だね。この視覚的なハンディキャップによって、僕はより内面的な世界に入ることを余儀なくされている。技術的には多くのものを失ったよ。でもね、そのおかげで演奏に深みが出てきたんだ」
数奇な運命によって多くの苦境や壁にぶち当たる天才が、近年襲われたのが目の病です。コロナ禍で診察ができず、ほとんど失明に近い状態に陥ったプリンスは、しかし今回も諦めてはいません。神がかったテクニックを失い、レコーディングに以前の5倍の時間を要するようになった今でも、Robby は音楽を愛していて、ライブにワクワクして、演奏に深みが出たとまで言い切ります。”Embrace The Unknown” “未知を抱きしめよう”。新作のタイトルは、Robby とメタルのそうしたレジリエンスを如実に反映しています。そして、苦境を力に変える Robby の “魔法” は、かつて日本が彼を “抱きしめた” のと同じように、未知の “暗闇” をも抱きしめ、光と色彩に変えたのです。
「音楽と芸術一般は常に逃避場所で救いであるべきだよ。ただ、僕がやっているのは、音楽において自分の最も内側にある感情に従うことだけだ。聴く価値のある音楽は、精神ではなく心から来るものだけだと、僕は感じているからね」
そうして Robby は、この寛容で、優しく、多彩で、色彩豊かなアルバムにおいて、未知なる他者、未知なる文化をも抱きしめようと呼びかけます。もちろんここには、QUEEN, BEATLES, ELO, THE BABYS, スウィング、クラシックにブロードウェイ、そして渦を巻く鍵盤と壮大なコーラスが認められています。ただし、それはあくまで旅の道標。貴公子が触れればそれらはすべて、Robby の色に染まります。私たちは、このシアトリカルでドラマティックなヴァレンタイン劇場を待っていました。同時に、視力を失ってもよい夫でいられるだろうか、よい父でいられるだろうか、よい音楽家でいられるだろうか…そうした不安をすべて曝け出した “伝記的” アルバムで、彼は真の感情を見つけ、苦悩し、表現し、それでも寛容な未来に光を見出すのです。
今回弊誌では、Robby Valentine にインタビューを行うことができました。「この25年間、ラジオから流れてくるレコードの中で、音声補正やオートチューンによって台無しにされていないものはほとんどない。僕らはみんな、クソロボットたちの音楽を聴いているだけなんだよ。だから、僕はそこから手を引いて、自分のやるべきことをやっているんだ」 ヘヴィ・ロックとプログ、そしてポップスの境界線を破壊した天才の新たなる傑作。どうぞ!!

ROBBY VALENTINE “EMBRACE THE UNKNOWN” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SOPHIE LLOYD : IMPOSTER SYNDROME】


COVER STORY : SOPHIE LLOYD “IMPOSTER SYNDROME”

“It Was The Classic Sob Story In School – I Was a Bit Of An Outcast And Didn’t Make Friends. The Guitar Was My Release And My Escape.”

IMPOSTER SYNDROME

Sophie Lloyd のギター人生は、すべてがうまくいっていました。27歳のイギリス人ギタリストは、Machine Gun Kelly のバンドの一員として、アメリカとヨーロッパでのビッグ・ツアーを終えたばかり。2022年春にケリーのメインストリーム・セルアウト・ツアーに参加するまでは、YouTube や Instagram で多くのフォロワーを獲得していたにもかかわらず、イギリス国内ではクラブやパブでのギグにしか出演していなかった Lloyd にとって、そこはまさに夢の舞台。
今では、マディソン・スクエア・ガーデン、ウェンブリー・アリーナ、スタジアムなど大舞台で演奏し、”大成功” を収めています。まさに、ギターを抱えたシンデレラ。
すべてが少しおかしくなったのは今年の2月でした。Lloyd の名前は突如としてメディアの見出しを飾りましたが、その理由は彼女の天才的なシュレッド・スキルとはまったくの無関係。事の発端は、Kelly の婚約者で女優のミーガン・フォックスがネット上で破局の噂を流したことで、あるファンがフォックスのポストに “彼はおそらくソフィーと一緒になった” と書き込んだこと。それがすべてのはじまりでした。
瞬く間に、Lloyd はクリックバイトの餌食となり、タブロイド・サイトは彼女に “Kelly のもう一人の女” の烙印を押しました。この憶測は Lloyd のマネージメントによってすぐに打ち消され、フォックスもギタリストを擁護し、浮気スキャンダルを否定。インスタグラムに “Sophie、あなたはとても才能がある。ハリウッドへようこそ” と投稿したのです。
その後、騒動は沈静化し、今では彼女もその事件を笑い話にしています。
「あの騒動の渦中にいたことは、私にとってクレイジーな時間だった。明らかに、私たちは真実を知っていて、それは全くのでたらめだったけど、それでも嘘が急速に広まり、皆がその流れに飛び乗るのを見るのは、ワイルドなことだったわ」

それは、たまたま女性であったミュージシャンが直面する、厳しくも予測可能な汚名でした。
「私が特に腹が立ったのは、何かドラマがあるとすぐに指が私に向けられたこと。”ああ、あの女性ミュージシャンね。そうなると思ってたよ” ってね。もし私が男でバンドの新人だったら、誰も何も言わなかったでしょう。メディアの毒性にさらされたのはちょっと不運だったわ」
このエピソードに明るい兆しがあるとすれば、自身の SNS アカウントが劇的にフォロワー数を増やしたことでしょう。
「Instagram のフォロワーが2万人増えたの。みんなが私のプレーを褒めてくれたわ。だからまあ、それはプラスに働いたわね」
Lloyd の YouTube チャンネル登録者数は100万を超え、Instagram のフォロワー数もそれに肉薄しています。その場所に、お気に入りの曲(GREEN DAY から IRON MAIDEN まで)のギター・カバーを投稿し始めて以来、彼女は数千万回もの再生回数を叩き出し、メロディックなレガート・ソロからターボ・チャージされたタッピングまで、その息をのむようなシュレッドでアックス・ファンを魅了してきました。
その成功を受けて、Lloyd は最近、クラシック・ロックの楽曲を “シュレッド” ビデオ・シリーズに再構築し始めました。PINK FLOYD の “Comfortably Numb” のオペラティックな演奏は、思慮深いブルージーなリックと超音速のシュレッド・ロケットの対比が素晴らしく、すでに500万回近く再生されています。そこで彼女はパートナーの Christopher Painter と共にビデオを制作しています。
「私がギターとベースを担当し、それからすべてのレイヤーを聴くの。作曲の勉強になるわ。演奏に関しては、ギタリストを研究して、彼らがやっていることの内側に入り込もうとする。例えば “Comfortably Numb” の時は、David Gilmour のスケールとトーンを理解しようとした。あれはクールだったね。シュレッドしなくても、いかにパワフルなサウンドを出せるかを学んだよ。”天国への階段” のビデオも同じ。ビブラートとフレージングがすべてなんだ」

“オンライン・クリエイター” として成功した Lloyd が、アリーナ・ロックの第一人者へと転身するまでの見事な軌跡は、すべて周到に練られた計画の結果だと思われるかもしれませんが、彼女はすぐにその考えを否定します。
「なんの計画もなかったわ!(笑) 本当のところ、私はオンライン・コンテンツ・クリエーターになろうと思ったことはないの。昔、YouTubeに参加したのは、私が育ったところには本物の音楽シーンがなかったから。だからもっと型破りな道を歩まなければならなかった。ツアー・ミュージシャンになるつもりもなかったし、実際、家にいて家族と一緒にいるのが好きなのよね。でも、MGK に誘われて、結局やってみたら、ツアーも本当に楽しいことがわかった。私は音楽を作ることが大好きだし、どんなエキサイティングなことがやってきても受け入れるよ」
これまで Lloyd がリリースしたオリジナル曲はインストゥルメンタルばかりで、特に2018年に発表したデビューEP “Delusions” が有名でしたが、最近では、ゲスト・ヴォーカリストが多数参加するフル・アルバム “Imposter Syndrome” を完成させ、よりメジャーな世界に挑戦するつもりです。
「このアルバムは、15歳の自分にオマージュを捧げるものだといつも言っていたわ。このアルバムは、あの子 (15歳の Sophie) のために書いたアルバムなの。このアルバムに参加している素晴らしいシンガーたちと一緒に仕事ができて本当に幸運だわ。
私が曲を書いて、それを送って、シンガーたちから返事が来る。彼らはみんな、”ああ、これは本当に気に入った!” いう感じだった。私が想像していたよりも、すべてがうまくいったよ」

Lloyd がギターを始めたのは、しかし以外な理由でした。
「恥ずかしい話なんだけど。実は “スポンジ・ボブ” を観てギターを始めたの。いい番組だよね。映画を観たんだけど、TWISTED SISTER の “I Wanna Rock” をボブがやるんだけど、ビッグバンドを従えていて、とてもすごいと思った。”うわーこれやりたい!”って思ったんだ」
実際、スポンジ・ボブは時にかなりロックしています。あるエピソードでは、彼がシンガーで、パトリックがギターを弾いて、彼らはスタジアムをロックして、ライトとレーザーを使って……
「(笑)!それが始まりだった。そして、LED ZEPPELIN、Joe Bonamassa, Rory Gallagher のような素晴らしいブルース・ギタリストたち。父はギターを弾かなかったけど、父のおかげで私は音楽に囲まれていた。10歳くらいのときにクラシック・ギターのレッスンを少し受けたけど、”いやだ、コレはちがう!” って感じだった。
それから、ヤマハのパシフィカというエレキギターを手に入れた。本当に夢中になったね。よくある話だけど、学校では典型的な陰キャで友達も作れなかったから、ギターは私の解放であり、逃避だった。ロックを演奏することで、とても安らぎを得たんだよ。学校から帰ってきて、5時間も6時間も弾いていたね」
まさに、メタルのレジリエンス、反発力と回復力。そして Lloyd もまた、グリップマスター教の信者でした。
「子供の頃、グリップマスターのハンドエクササイザーを買って、スクールバスの中でニギニギしている自分がカッコイイと思っていたの!でも、演奏には何の変化もなかったと思う!ギターを手に取り、指の下で弦を感じ、タコを作ることに代わるものはないわ。
また、各指の強度を高めることも本当に重要ね。多くのプレーヤーは、第1指と中指の間でハンマーを打ち込んだり引き抜いたりすることには自信があっても、中指と小指で同じことをすることには自信がないから。
中指や薬指から小指に向かう速いトリルを練習するのはとてもいいことだよ。レガート・ランではいつも小指を使うから、私にとってはとても貴重なんだ。3本の指しか使わない奏者もいるけど、小指を軽視することで、可能性の大きな部分を逃しているように感じるね」

Lloyd には、ギターの先生から学んだ練習の極意があります。
「私の昔の先生は、練習は三角形のようなものだと言っていたわ。そして、学ぶときはいつでも、そのうちの2つに集中し、もう1つは無視する必要があるとね。例えば、メトロノームを使って練習している場合、おそらく最初はゆっくり始めることになるだろう。そういう状況では、きれいさと正確さのためにスピードを犠牲にすることになる。
この段階でミュート・テクニックを身につけることは常に重要で、フレットを弾く手の指で使っていない弦をカバーするのか、ピッキング・ハンドを使うのか、あるいはその両方なのか!一度に数本の弦だけをカバーするために手のひらの一部を持ち上げたり、ピッキング・ハンドの手のひらの側面を使って他の弦をミュートしたりすることをいつも気にするべきよ。
それができたら、スピードを上げて正確さを保つ練習を始めることができる。最後に、三角形を完成させるために、すべてを足し合わせる!」
とはいえ、学び方は人それぞれだと Lloyd は言います。
「学び方は人それぞれだと思うから、自分ならどう学ぶのがよいかを知ることが大切。誰かとジャムることで自信がつくから、ギターの先生との実践的な経験は本当に貴重だと思う。私はYouTube でたくさんのことをやっていたから、演奏に対する不安が少しあったんだ。すべてが孤立していたからね。でも、YouTube は便利でいいよね。ベッドで、パジャマで、無心になって練習できる。だから、正直なところ、一番いいのは両方の組み合わせだと思うわ。
ただ、私は、耳で学ぶことが常に最良の方法であるとアドバイスしたいね。というのも、相手のやっていることをそれでより理解できるようになるから。その方が耳も鍛えられるし、物事を素早く習得するコツもつかめる。
時間はかかるけど、使えるアプリはたくさんある。私は大学時代、毎日30分電車に乗っていたから、そういう時間を使っていたのよ」

当時はどんな曲がお気に入りだったのでしょうか?
「最初の曲は “Wild Thing” だった。Mike Hurst よ。彼は Dusty Springfield のギタリストだった。私にとって第二のおじいちゃんみたいなものなのよ。彼から多くのことを学んだ。そうしてギターのフィーリングは自然に身についたけど、曲作りも大好きだったわ。
コードにハマると、私の中の作曲が解き放たれた。IRON MAIDEN, METALLICA, AVENGED SEVENFOLD と一緒に演奏したわ。すぐに全部できるようになったよ。最初に覚えたフル・ソロは “天国への階段” だった。
父が、もし私がそれを弾けるようになったら、 PRS の Mark Tremonti のシグネチャー・ギターを買ってくれるって言ったんだ。私は必死に練習して、父はその約束を果たしたわ。それがFacebookにアップした最初の動画のひとつだよ。14歳かそこらだったかな。ソロに挑戦するのが楽しかった。パターンやシェイプにこだわることはなかった。ただ、耳が良かっただけなんだ」
そのころから、ギターを職業にしようと考えていたんでしょうか?
「いや。遠い夢のように感じていたよ。周りにギターを弾く人はいなかったし、音楽業界の知り合いもいなかった。現実の世界では、孤立感を感じていたね。学校で “大学で音楽を学びたい” と言ったら、”ダメだ” と言われた。私は奨学金をもらって、大学で法医学を学ぶことになっていたの。少しオタクだったから。でも、大学進学の1週間前に、”どうしても音楽をやってみたい” と言ったんだ。幸運なことに両親も応援してくれて、ロンドンの音楽大学に合格したのよ」

この時点で、どんなギタリストに夢中になっていたのでしょう?
「Joe Satriani ね。”Surfing With The Alien” は、最初から最後まで学ぶべきレコードだった。Angel Vivaldi も好きだったわね。それから、Andy James, Sinister Gates, そしてもちろん Slash も大好きだった。彼らのことを深く掘り下げたよ。大学では、Eddie Van Halen に出会って、彼に夢中になったのよ!」
そうして Lloyd は英国およびアイルランド現代音楽研究所を卒業しました。
「音楽大学については賛否両論あるわね。最終的には、出会った人たちのおかげで、行って正解だったと思うけど、全体的には、彼らは私にセッション・ギタリストになることを強要し、他の人たちのカーボン・コピーにしようとした。1年後、私は自分が本当に好きな曲を弾いていないことに気づいたの。
あそこでジプシー・ジャズなども学んだけど、私の心はそこになかった。大学から帰ってきて、好きだったエモの曲を覚えたんだけど、そのとき、”自分の創造性を、自分が楽しめるものに成形する必要がある” と思ったんだ。それで、最初のEP “Delusions” を書き始めたんだ」
YouTube の撮影に慣れるのも簡単ではありません。
「だいぶかかったわ。カメラを向けられることに100パーセント慣れたと感じることなんてないでしょ? (笑) でも、ビデオを振り返って進歩を見るのはいいことだよ。あのころは、YouTube でお金を稼げるなんて知らなかった。最初に作った動画のひとつは、AVENGED SEVENFOLD の “Nightmare” だったね。
去年、バンドのベーシスト、ジョニー・クライストと一緒に見たんだけど、本当にナイトメアよ。大笑いしたよ (笑)。そうやって、ビデオの中にはちょっとぞっとするようなものもあるけど、それでもいいんだ。古いものを削除するつもりはない。参考になるものがあるのは大事なことだと思うし」

自分のプレイを撮影してネットにアップすることは、敷居が高いと思う人も多いでしょう。
「一番難しいのは、最初のビデオを投稿することだと思う。自分をさらけ出すんだから、怖いしとても難しい。でもね、そんなことは忘れて、とにかくやってみること!
また、機材を揃えることを心配する必要もないわ。多くの人は機材を理由に後回しにして、”新しいカメラを手に入れたら撮影しよう” とか思ってしまう。永遠に待つことになるから待ってはいけない!私の最初のビデオはジャガイモで撮ったみたいだし、音質も最悪だった。だから、できる限りやって、楽しんで。
とにかく、自分独自のものを開発するの。市場の空白を探して、それを埋めようとするんだ。Tim Henson は、両手を使うという新しいプレー方法を開発した。あるいは、ミセス・スミスのように、おばあさんの格好をしたギタリストのようなバカげたものもある。でも、とにかく何かをやればバイラルな瞬間が生まれるかもしれないし、他の誰よりも目立つかもしれない」
オンラインで成功するためには、プレイヤーとしてだけでなく、ブランドとして考えることが重要だと Lloyd は言います。
「それはとても重要なこと。プレーだけでなく、提供するもの全体が重要なんだ。だからこそ、私はシュレッド・バージョンを開発したの。市場に隙間があると思ったから、そこに飛び込んで埋めたんだ。くだらないことだけど、インスタグラムで色を揃えることは、アルゴリズムが君を押し上げることになる。
YouTubeのタグを間違えないようにしたり、タイトルの書き方を間違えないようにしたり。バンド名は常に最初に書くべきよ。それが一番検索されやすいから。
ある意味、自分自身をブランドや商品として考えることで、オーディエンスが何を見たいのか、何に興味があるのかを知ることができる。観客が好むようなことをするために、観客のことを知らなければならない。うまくいくこともあれば、失敗することもあるわ」

少し前に、Lloyd はアウトテイクのビデオを投稿しました。何度も何度も演奏して、なかなかうまくいかず、気が狂いそうになっている人のに、Lloyd がどれだけの努力を積んでいたのか伝わったかもしれません。
「とても多いよ!SNS では、最終的なテイク、つまり完璧なテイク、私がいいところで笑っているテイクしか見られない。でも、何度も失敗している部分がたくさんある。4分の作品を撮るために3時間くらい撮影しているんだから。だから、あのビデオを作ったんだ。インスタでプレイヤーたちを見ると、”あぁ、この人たちはすごいな。ああ、彼らは私よりずっとうまいんだ” と思って、自責の念に駆られてしまう。だから、そういう面も見せることが大事だと思うんだ。
今は、ライブ・ストリーミングで、私がシュレッドを習得して練習していく過程をみんなに見てもらえる。失敗したときとか、そういうのも全部見られるよ。ソーシャル・メディアは本当にすべてが “フォトショップ加工” されていると思うから。ぜんぶ完璧だから、失敗も見てもらえるのはいいことだと思うんだ」
ギターや機材についても、Lloyd は YouTube で学びました。
「YouTubeでたくさんのビデオを見たよ。長い間 PRS が好きだったんだけど、VOLBEAT の Rob Caggiano が Kisel を紹介してくれたんだ。とてもカスタマイズしやすくて、気に入っているよ。ペダルやアンプも同じような感じだった。
スタジオで仕事をすることで、自分の好きなサウンドが見えてきたんだ。自分のビデオを見ているうちに、ギター・ソフトウェアにのめり込んでいったわ。今は、Nolly を使っている。ネットでいろいろ調べたり、人と話したりしたのがきっかけなんだ」

MGK との共演も、そもそもはネットが始まりでした。
「実はドラマーの父親が YouTube で私を見つけてくれたんだ。それから Kelly が連絡をくれて、FaceTime で話したの。すべてがうまくいった。ライブのビデオを送ったんだよ。ツアーに出る数週間前のことで、彼らはすぐに決断しなければならなかった。オーディションを受けたりする必要はなかったんだ。
最初の数日は Kelly がいなかったから、少しプレッシャーがあった。とはいえ、初日はかなりストレスがたまった。偽者症候群から抜け出さなければならなかったからね。偽者症候群というのは…今はそこから抜け出せた気がする。私はここにいる理由がある。私には十分な力があるって信じられるから」
この “偽者症候群 “という言葉は、Lloyd のアルバム・タイトルにもなりました。
「”偽者症候群” は音楽に限らず、どんな分野でも多くの人が経験する現象だけど、基本的に自分が偽者だと感じるんだ。自分が今いる場所にふさわしくないし、いつ何時、人に正体を暴かれるかわからないってね」
つまり、Lloydはこれまで、スクリーンの向こうで生きざるを得なかったとも言えます。
「ずっとそれで苦労してきた。パフォーマンス不安や偽者症候群がひどくてね。だから Twitch を始めたんだ。私の人生はずっと YouTube の中で、スクリーンの向こうで、編集できる場所で生きてきたからね。編集できないライブ・ストリーミングに挑戦しておきたかった。
ライブで演奏するとなると、テイクが1回しかないから全然違うし、それが怖いんだ。いつもは40テイクもある。だから、ライブではもっといろいろなことをやって、不完全な面を見せるようにしているんだ」

MGK は Lloyd に音楽的な自由を与えています。
「彼は最初から超オープンだった。彼はライブでの経験や、何かを変えるというアイディアが大好きだから。自分のバンドの才能を披露するのもね。もう一人のギタリスト、Justin Lyons は、私が今まで見た中で最も素晴らしいギタリストの一人だよ!」
小さな観衆の前で演奏していたのが、突然スタジアムやアリーナで演奏するようになるのも恐ろしいことでしょう。
「それは究極の挑戦だったし、自分の悪魔と戦いながら、それに取り組まなければならなかったわ。最初のギグの前に、すごく練習したよ。ナーバスになることを想定していたんだ。でも、ステージに立った瞬間、すべてが溶けて、そこにいることが運命だったように感じたわ。
すべての人の顔やサインを見た。自分でも驚いたよ。みんながクレイジーになるのを見るのが好きなんだ。楽しかった!」
夢を叶えるといえば、大ファンだった TRIVIUM の Matt Heafy も Lloyd のアルバムに参加しました。
「彼はとてもいい人よ!正直、信じられない!このアルバムに参加している人たちも、みんなとてもいい人たちばかり。ああ、Matt はクレイジーだったよ。アルバム “Delusions” のレコーディング初日に撮った、自作のトリヴィアムTシャツを着た写真があるんだ。彼と一緒に仕事ができるなんて、なんだか怖いような感じだよ。フロリダに行って、彼と一緒にビデオを撮影したのも楽しかった。彼はすぐにビジョンを理解してくれたわ。
それに、この曲は Twitch でレコーディングしたんだ。何が好きか、何が嫌いか、歌詞が良いか悪いか、ファンからのフィードバックがすぐに得られたから。”あの叫び声はやり直したほうがいい?” というようなライブのフィードバックがあったのはクールだった。そうそう、あれは本当に楽しいやり方だったよ」
Chris Robertson との “Let It Hurt” はリフが実に強力です。
「リフを書くのは大好きなんだ。たくさんの音楽を聴いて、いろいろといじったり、コードを逆にしたり、コードを変えてみたり。曲を最初から最後まで作り上げるのが本当に楽しいんだ」

一人の専属シンガーとバンドを作ることも選択肢の一つです。
「それを考えているんだけどね。どうやってツアーをするか。いくつかアイデアがあるんだ。専属のボーカリストを雇うかどうかはわからないけど、自分に合っていて、インスピレーションを与えてくれるボーカリストを見つけることが大切だと思う。大きなスクリーンを用意して、ボーカリストに演奏を録音してもらって投影するようなこともやってみるかもしれない。バイオリニストのリンゼイ・スターリングがそうしている。視覚的にもかなり素晴らしいよ」
Kisel のシグネチャー・モデルも重要な彼女の相棒です。
「シュレッド・ギターにしたかったんだ。このギターで、すべてが思い通りになったよ。Kisel の “Aries” というギター・シェイプが大好きで、それに似たものが欲しいと思っていたんだ。
このギターは超軽量で、ステージでスイングすることもできる。カラーはパープルだけど、自分で好きな色を選べるよ。
それに女の子だから、おっぱいの位置もちょっと考えないとね。おっぱいの下にうまく収まらないギターもあるからね (笑)」
Lloyd はネット上の存在からメジャー・バンドの一員になることで、革命の一端を担っているように感じているのでしょうか?
「そうだと思うけど、わからない。数歩飛ばしちゃった感じかな。私にとっては、それは祝福でもあり呪いでもある。もし私が音楽シーンやバンドがたくさんある地域で育っていたら、それを利用していただろうけどね。こんなに高いレベルでツアーに参加できるようになったのは興味深いわ。いつもみんなは “君は苦労してない” って言うけれど、私は違う形で苦労もしてきたのよ。
でも、私の旅がすべて記録されていることはクールだと思う。特に TikTok とかで。以前はいつも心配していたんだ。音楽業界に知り合いはいなかったし。自分の居場所もなかった。インターネットがなかったら、どうなっていたかわからないよね。
ソーシャルメディアは、すべての扉を開き、誰にでも閲覧できることは驚くべきことだと思う。同時に、物事は飽和状態になり、明らかにその弊害もある。しかし、全体的に見れば、SNS は音楽にとって新しい方向性であり、私たちは皆、それに適応する必要があると思う。素晴らしい音楽がたくさんあるし、みんな信じられないようなことをやっている。本当にエキサイティングだと思うわ!」


参考文献: GUITAR WORLD:Sophie Lloyd went from filming YouTube covers to touring arenas with Machine Gun Kelly – she recounts her meteoric rise

MUSIC RADER:Sophie Lloyd shares her advice for future guitar YouTubers:

SPIN:Artist to Watch: Guitarist Sophie Lloyd

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CROW BLACK SKY : SIDEREAL LIGHT VOL.2】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CROW BLACK SKY !!

“We Sadly Still Have a Very Divided Country, And a Lot Of Problems That We Live With, But We Have Just Proven During The Rugby World Cup How The Whole Country Can Pull Together In Unity. Music Can Have The Same Effect.”

DISC REVIEW “SIDEREAL LIGHT VOL.2”

「悲しいことに、僕たちの国はいまだに非常に分断されていて、多くの問題を抱えながら生きているんだ。だけどね、ラグビーのワールドカップで、僕らは国全体が団結して力を合わせることができることを証明したばかり。音楽も同じような効果をもたらすことができるよ。南アフリカではスポーツのような規模にはまだなっていないかもしれないけど、いつかそうなることを願っているよ」
南アフリカの立法府がおかれるケープタウン。テーブル・マウンテンや希望峰、テーブル湾が望める風光明媚なこの街にも、やはりアパルトヘイトの暗い影は残っています。白人が多く住む高級住宅街シーポイントの一方で、誇りと砂のケープ・フラッツには低所得者層が溢れています。そこは、かつてアパルトヘイトで強制移住させられたカラード (有色人種) たちの居住区。南アフリカで白人の入植が始まった “マザー・シティ” は、すべての人種にとって母なる街ではありません。暴動、窃盗、レイプ…それでもこの街とアフリカの壮大を愛するブラックメタル・バンド CROW BLACK SKY は音楽で憎しみや差別の壁を壊したいと焦がれます。
「僕たちは将来、間違いなくまた “黒い” ブラックメタルを作るだろう。でも今はもっと明るく、宇宙の威厳をたたえたサウンドを作りたかったんだ」
ゆえに CROW BLACK SKY は、絶望と狂気のブラックメタルにおける希望峰になりたいと望みます。テーブル・マウンテンから臨める漆黒の夜と降り注ぐ星々。それは、彼らに混沌とした宇宙の起源、星々のサガ、そして文明の不吉な未来を感じさせるに十分な壮観でした。歪んだ憎しみと差別がたどり着く世界は破滅。だからこそ、彼らはかつてアパルトヘイトを終わらせた音楽プロジェクト “サンシティ” のように、音楽で世界を変えたいのです。
「僕が聴く日本の音楽では、SIGH が最高の前衛ブラックメタルのアルバムをいくつか作っているし、素晴らしい日本のメタルバンドはたくさんある。去年の、IMPERIAL CIRCUS DEAD DECADENCE はぶっ飛んでいたよね!メタル以外では、MONO、特に “Hymn to the Immortal Wind” は僕にとって特別な存在だ」
そうして、CROW BLACK SKY が到達した場所こそ、コズミック・ブラックメタルでした。あまりに荘厳でメロディック。”Sidereal Light Vol.2″ はブラックメタルのルーツと豊かなアンビエンスが超次元で共存し、多層的な楽器編成、オーケストレーション、そしてプログレッシブなアイデアが両者の婚姻を祝福しています。伝統と革新、ルーツと先鋭、轟音と繊細、黒と白、絶望と希望。彼らの音楽は、そんな二律背反と混沌の中からワームホールを示現させ、光を見出します。MONO へのリスペクトも納得。
また、すべてが長尺の全4曲は非常に複雑でプログレッシブ。ブラックメタルでこれほど卓越したリード・ギターを聴くことはあまりありません。技術的にも可動域が広がった彼らの音楽は、そうしてスペイシーなシンフォニーから、超越的なトランスまで、文字通りブラックメタルの宇宙を拡大していくのです。
今回弊誌では、CROW BLACK SKY のコアメンバー2人、ギターの Gideon Lamprecht とボーカルの Ryan Higgo にインタビューを行うことができました。「BURZUM の “Filosofem” と DARKTHRONE の “A Blaze in the Northern Sky” を初めて聴いたときの感動は、今でも忘れられないよ。この感覚は僕の中にずっと残っていて、今でもいつも追いかけているものなんだ」 Devin Townsend のファンにもアピールしそうですね。どうぞ!!

CROW BLACK SKY “SIDEREAL LIGHT VOL.2” : 10/10

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