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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YAWN : MATERIALISM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TORFINN LYSNE OF YAWN !!

“We Are Also Obviously Very Into Metal, And We Often See a Lot Of «Standardized» Ways Of Producing And Composing This Kind Of Music Today. We Try To Challenge These Ways By Including More Inspiration From Jazz And Contemporary music.”

DISC REVIEW “MATERIALISM”

「YAWN (あくび) というバンド名は、ある意味、音楽業界の “モダン・スタンダード” に対する反動なんだよ。長年音楽教育を受けてきた僕たちは、音楽的に “こっち” や “あっち” の方向に進みたい場合、ジャンルの慣習に基づいたすべてのルールに従ってきていて、かなり疲れていたんだよね。それで、一般的なレシピに従うことなく、何か新しいものを提供したいと心から思っていたんだ」
あらゆる音楽ジャンルには、すべて “規範” “標準” “ルール” が存在します。当然でしょう。ある種の雛形がなければ、ジャンルという概念それ自体が崩壊してしまうのですから。もちろん、現代のインストゥルメンタル、エクストリーム・ミュージック、プログレッシブというジャンルにもその雛形は存在します。MESHUGGAH はそのすべてに多大な影響を与えた巨人にちがいありません。
「ハイゲインの8弦ギター、ローチューンのドラム、そしてプロダクションの考え方など、MESHUGGAH は僕らのバンドにとって圧倒的に重要な音楽的影響を与えた存在だよ。彼らは間違いなく僕たちのヒーローで、もし彼らと一緒にツアーをする機会があれば、おそらく僕たちは心臓発作を起こすだろうね」
YAWN はしかし、その場所からさらに進んで新しいダイナミックな振動をもたらしてくれます。同じような、すこし奇妙な美的関心を持つ人々ならば、このバンドが現代のプログ・メタル世界にモダンなジャズの即興やノイズを導入し、地獄より重いリフ、複雑怪奇なリズムのパズルに新鮮な息吹を吹き込む開拓者であることを即座に認めるはずです。このポリリズムの両輪は次にいつ出会うのだろう、この不思議な響きはどこの伝統音楽だろう、少しづつ、ほんの少しづつ速度を変える肉感的なリズム、そして半音階さえ超えていく四分音の衝撃。
「Djent における共通のモラルは、とても刺激的で高揚感を与えてくれるものだと思うな。”ロックスターなんて論外、みんなでとにかく残虐で奇妙なリフを作ってインターネットにアップしよう” という考えを共有しているように思えるね。このような考え方が、クールな新しいバンドを生み出しただけでなく、現代の “ジェント・ベッドルーム・ミュージシャン” という文脈が、毎日出てくる素晴らしいソフトウェア、ギター・ギア、ドラム・サンプルなどのきっかけになったのだと思っている」
興味深いことに、多くの “MESHUGGAH 崇拝者” とは異なり、YAWN は Djent というムーブメントを抱擁し、すんなりと肯定しています。もちろん、彼らの目指す即興性、音の肉感と Djent の “定型”、機械化は同じ MESHUGGAH の申し子でありながら180度異なる考え方。それでも、”ロックスター” から遠く離れた場所にいるというある種の疎外感、反逆性、DIY の精神は共通していて、エレクトロニカや新機材という文脈からも多大な恩恵を受けていることに違いはないのです。
「どの曲もエンディングがあり、でもそれが次の曲の始まりになっていて、最初から最後まで通して聴くことができるように構成されているよ。このアルバムを制作しながら、僕たちの音楽世界のすべてがこのアルバムに込められているような気がしたんだよね。自分たちの音楽を表現するときに、物質の4つの状態 “固体、液体、気体、プラズマ” と多くの類似点があることに気づいたんだ」
37分のデビューアルバム “Materialism” は、アンビエントなサウンドスケープ、即興のギターソロとブルータルなブレイクダウン、感染性のグルーヴと心を溶かすリズム、実験的なエレクトロニクスを並列繋ぎで並び立て、これらすべての要素を論理的かつ音楽的な快適さを併せ持つ驚きのルービック・キューブとして組み合わせているのです。凍りついた永久凍土の即興音楽は、北欧で噴火するメタルの火山によって見事に溶解をみました。”唯物論” とはすなわち、スタイルやサブジャンルに巣食う特定のルールを破ることを意味していて、彼らは MESHUGGAH を “マトリックス” の世界へと引き込むのに十分な “仮想現実” とハッキングの技術を備えているのです。
今回弊誌では、ギタリスト Torfinn Lysne にインタビューを行うことができました。「僕たちは明らかにメタルが大好きなんだけど、今日、この種の音楽の制作や作曲はある意味 “標準化” された方法だと感じていたんだよね。僕たちは、ジャズや現代音楽からより多くのインスピレーションを得ることで、こうした方法に挑戦しようとしているんだよ。だから、一般的な “モダン・メタル” サウンドを再現しようとするのではなく、自分たちの方向性に沿って音楽を制作しているんだ」 どうぞ!!

YAWN “MATERIALISM” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CARPENTER BRUT : LEATHER TERROR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FRANCK HUESO OF CARPENTER BRUT !!

“Metal Music Was Boring Me, I Thought The Genre Was Going In Circles. Then One Day I Watched a Justice Live Show And It Was The Trigger. Why Not Push Electro To The Point That It Sounds As Powerful As Metal Music? So Carpenter Brut Was Born.”

DISC REVIEW “LEATHER TERROR”

「Bret Halford は、POISON の Bret Michaels と JUDAS PRIEST の Rob Halford を混ぜた名前で、主人公が好きなグラム・ロックとヘヴィ・メタルという二つの音楽ジャンルにオマージュを捧げる私なりのやり方だった」
“若き科学者 Bret Halford は、恋愛が苦手な男。学校のチアリーダーである運命の女性は、すでにいじめっ子のひとりと付き合っている。ロックスターに扮した Bret は、Leather Teeth と名乗り彼女を口説こうとするが、大事故に巻き込まれ大やけどを負ってしまう。同じ頃、ミッドウィッチでは謎の殺人鬼 “ブギーマン” が街をうろついていた。この街では殺人、カニバリズム、暴力が進行中だ”
これは2018年の “Leather Teeth” で、フランスが誇るシンセウェーヴの天才 CARPENTER BRUT が書き起こした、ヘヴィ・メタルとホラーのレトロフューチャーな怪綺譚、3部作のサウンドトラック、その第1幕。CARPENTER BRUT の頭脳である Franck Hueso は、ギターをほとんど持たず、ボーカル曲も数曲のみであるにもかかわらず、”ターミネーター”、”エルム街の悪夢”、”バトルランナー” の完璧にデザインされた電子音楽を、華やかなヘアメタル、ディスコ風味、鋲付き革ジャンの光沢で鮮やかに彩ってみせました。Carpenter の名は伊達ではありません。
「僕はミュージシャンではないから、楽器を演奏するのは難しかった。でも一方で、僕は機械やプラグなどを扱う方法を知っていて、それを扱うのが好きなんだよね。自分が何をしているのか、どんな結果が得られるのか、よくわからないまま何時間もシンセサイザーをいじっていると本当に面白いし、”ハッピー・アクシデント” が発生して、思いがけない結果が得られることもあるんだよ」
第二幕 “Leather Terror” は、Bret が第一幕で受けた屈辱を晴らすため、復讐の鬼となるストーリー。興味深いことに、”Leather Teeth” の4年後にリリースされた “Leather Terror” は、その舞台設定も1987年から1991年、つまり4年後へと移行しています。”Serpence Albus” から “Black Album” へ。奇しくもそのストーリー・ラインと呼応するかのように、CARPENTER BRUT の音楽もまた、ナイフと血とレザーが織りなすダークでアグレッシブな領域へとより深く歩みを進めています。Franck のノスタルジアとは冷たく、硬く、しかしどこか居心地のよい恐怖。
「僕はポップスのフォーマットで、シンプルでキャッチーな曲も好きだし、A点からZ点まで、いろいろなムードを持った伸びていくような楽曲も両方好きなんだ。だから、ロックやポップスの音楽的な構成でありながら、すべてシンセサイザーで行う。人々が慣れ親しんでいる構造を保ちつつ、あまり馴染みのない音を使うという二律背反を多用しているのさ。そうやって様々な音楽をミックスしているよ」
シンセウェーヴ、インダストリアル、ダークウェーヴ、EDM、そしてメタルの境界線を曖昧にした “Leather Terror” は、80年代のホラー映画のような構成の魔法で、過去と現在、そして未来までも曖昧にします。不気味で威嚇的なリズム、反復の美学、重厚なサウンドスケープとアンセミックなメロディー、静謐で暗がりのムードにいたるまで、Franck はその武器化された電子機器でメタルとシンセウェーヴの華麗な “戦争” を “麻薬的” に描いているのです。
「メタルは退屈で、このジャンル自体が堂々巡りだと思っていたんだよ。そんなある日、JUSTICE のライブを観た。あれが引き金となったね。エレクトロもメタルと同じくらいまでパワフルなサウンドにできないか?…エレクトロを最もダンス的な方法で押し出し、メタルのパワーとクロスオーバーさせたいという欲求が生まれたんだ。それで CARPENTER BRUT が誕生したんだよね」
ギターを1本もフィーチャーしていないのに、私たちの望む荒々しいリフやメタリックな音像が生み出される奇跡。実はその根底には、メタルとディスコに共通する “パワー” や “エナジー” の底流がありました。陰と陽の音楽的な掛け算は殺人鬼のダンスホールを産み落とし、クリエイティブな自由を与えられた “ゲスト・ダンサー” ならぬゲスト・シンガーたちは、その場所で思いのままにトラックをハックし、恐怖に独自の色を加えていきます。
GUNSHIP の Alex Westaway、THE DILLINGER ESCAPE PLAN の Greg Puciato、CONVERGE の Ben Koller、TRIBULATION の Johannes Andersson、SYLVAINE の Kathrine Shepard、ULVER など、多数のゲストが踊る死の舞台は、あの時代の空気感を呼び覚ますだけでなく、多様なボーカル体験をも再現しています。つまり CARPENTER BRUT はメタルではない “電子音楽” であるけれど、メタルと同じくらい暗く、豊かで、感情的で、エクレクティックな音楽。ミュージシャンじゃなくてもミュージシャンにはなれる。CARPENTER BRUT のすべては楽しい二律背反が原動力なのです。
今回弊誌では、Franck Hueso にインタビューを行うことができました。「”北斗の拳” や “マッド・マックス” などのように、僕が特に大好きなポスト・アポカリプス的な精神に基づく “AKIRA” の世界観は、もちろん大好きさ。”ポスト・アポカリプティック” (終末論的) は、次のアルバムのテーマにもなっているからね」 GHOST の Tobias によると、Franck はあの DEATHSPELL OMEGA にも関わりがあるとかないとか…それにしても、PERTURBATOR といい、DAN TERMINUS といいフランスのダークウェーヴ恐るべし。どうぞ!!

CARPENTER BRUT “LEATHER TERROR” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STRAY GODS : STORM THE WALLS】GREEK POWER METAL SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BOB KATSIONIS OF STRAY GODS !!

“I Think That It Has To Do That I’m a Good RPG Player. I Can Get Easily In The Shoes Of Every Band Like I’m a Full Member Of It. I Can Pretend To Be Adrian Smith, Jim Matheos, And Joey DeMaio All On The Same Day.”

BOB KATSIONIS “KEEPER OF THE GREEK POWER METAL”

1980年代後半、ヨーロッパでパワーメタルが登場したとき、それは要するに、すべての “つまみ” を最大にした伝統的なヘヴィ・メタルだったのかもしれません。HELLOWEEN や GAMMA RAY といったバンドは、JUDAS PRIEST や IRON MAIDEN が築いた核となるサウンドに、よりビッグで晴れやかなメロディー、より大仰なアレンジ、より華やかなボーカルを吹き込み、創造力を過剰なファンタジー世界へと導くことに成功しました。パワーメタルが発展するにつれ、アーティストたちはサウンドの特定の側面に焦点を当て、よりシンフォニック。プログレッシブな分派や、スラッシュ、スピードメタルとの再会を目論む一派も登場。細分化が加速されていきます。しかし、1990年代後半から2000年代初頭にかけてギリシャで生まれたパワーメタルのシーンは当初、初期のパワーメタルの原則にほぼ忠実だったのです。
その後20年間で、ギリシャはおそらく世界で最も強力なパワーメタル・シーンに発展しました。リリースされた作品の数、全体的なクオリティ、あるいは探求されたサウンドの幅など、どれをとっても、地中海沿岸の国は世界中のパワーメタル・ウォーリアーズから大きな尊敬を集めています。
実際、初期からシーンを見守る SACRED OUTCRY のベーシスト George Apalodimas は、「最近、ギリシャからリリースされる作品のクオリティに人々が注目しているのを見て、とても嬉しく思っている。伝統的なヘヴィ/パワーからプログレッシブやシンフォニックなものまで、幅広いスペクトルをカバーする様々なアーティストが揃っているし、僕らが最初に活動していた(90年代)頃と比べて、シーンは大きく進歩したんだ」と語っています。
ギリシャで Bob Katsionis ほどパワー・メタルの強豪国としての評判を高めている人物はいないでしょう。アテネ出身の Bob は、2000年代前半に CASUS BELLI と FIREWIND のキーボード奏者として有名になりました。この2つのバンドは、ギリシャがモダンなシーンを確立する上で非常に重要なバンド。
「たしかに FIREWIND が現れて、いくつかのドアを開けたことも今の状況に関係していると思う。私たちが現れるまで、ギリシャで成功したバンドは ROTTING CHRIST や SEPTIC FLESH のようなブラックメタル・バンドだけだったんだ」
特に、Gus. G 率いる FIREWIND は、その津波のように押し寄せるメロディーと超絶技巧の炎風で日本でも大きな成功を掴み、グリーク・パワーメタルの存在を世界へと知らしめる原動力となったのです。

「ソロ、OUTLOUD, SERIOUS BLACK, VASS/KATSIONIS, WARRIOR PATH, STRAY GODS, イタリアの WONDERS、あと VALIDOR も。ププッ多すぎて挙げられない!(笑) 実はそれは、私が RPG の良いプレイヤーであることと関係があると思うんだ。どのバンドにも、自分がそのバンドの完全なメンバーであるかのように、簡単に入り込むことができるんだ。Adrian Smith, Jim Matheos, Joey DeMaio に同じ日になりきることができるんだ」
FIREWIND を離れた現在、Bob は世界中の様々なバンドで演奏し、レコーディング・エンジニアやミュージック・ビデオのディレクターとして働き、Symmetric Records を運営し、ギリシャから最もエキサイティングなメタルのレコードを様々な形でリリースしているのです。Bob Katsionis は、かつての Shrapnel Records における Mike Varney のごとく、これらのアルバムの多くを自らプロデュースし、演奏も加えています。
「FIREWIND を辞めてからの2年間で、私は新しいスタジオを作り、素晴らしいアルバムをリリースしながら Symmetric Records をアンダーグラウンドで尊敬されるレーベルにし、プロデューサーとしての地位も確立できた。これは、”バンドでキーボードを演奏している人” ではなく、自分自身でいることの利点だったよね」
Bob の最初の本格的なバンド、SKYWARD は、解散する前にフルレングスを録音することができませんでした。ゆえに、ギリシャをパワー・メタルの地図に乗せたのは、1998年にデビューしたアテネの別のバンドでした。INNERWISH の “Waiting for the Dawn” は、HELLOWEEN の “Keeper of the Seven Keys” のメタル・ファンタジーと STRATOVARIUS のパワー・シンセサウンドの中間にあって、ギリシャで今日まで続いているパワーメタルの連鎖の始まりとなりました。
INNERWISH の “Waiting for the Dawn” からのラインナップはアルバム1枚のみとなりましたが、その後バンドはギタリスト Thimios Krikos と Manolis Tsigos の脇を固めるミュージシャンを交代しながら活動を続けてきました。彼らの最新作は2016年のセルフタイトル作品で、EVERGREY や SYMPHONY X を彷彿とさせるプログレッシブな装飾を施した、より洗練されたパワーメタルへと進化を遂げています。かつて弊誌がインタビューを行ったグリーク・パワーの超新星 WARDRUM, SUNBURST にしても、NEVERMORE, KAMELOT という二大プログパワー・バンドを崇拝していましたし、UNTIL RAIN という才能もいます。プログは一つのキーワードなのかもしれませんね。ともあれ、INNERWISH は、同世代の FIREWIND とともに、20年経った今もなおグリーク・パワーメタルを代表する存在といえます。

1998年にピレウスで結成された SACRED OUTCRY ですが、デビュー・アルバム “Damned for All Time” がリリースされたのはなんと2020年のことでした。バンドは初期にカルト的なデモを2つ発表していて、2003年のデモは実質的に “Damned” のラフな原型でしたが、最終バージョンは待つ価値が十分にあったといえます。壮大なメタル、魅惑的なアコースティック・パッセージ、豊かなメロディー、スラッシーなリズム、そして Yannis Papadopoulos のパワフルなボーカルが融合したこの作品は、ギリシャのシーンのみならず、パワーメタル全体のクラシックとなりました。
バンドのベーシストであり、唯一の創設メンバーである George Apalodimas は、「私はパワーメタルをずっと愛してきた。うまくいけば感情を伝えることができるからね。このジャンルの音楽と歌詞は、日常の生活や葛藤から抜け出すための入り口として機能するんだ。そして、それが私たちの音楽で常に目指しているものなんだ」と語ります。
“Damned for All Time” が提供する逃避は、Apalodimas と彼のバンドメンバーが愛するファンタジー小説に根ざしています。アートワークには、マイケル・ムアコックの代表作である『メルニボネの皇子』のエルリックが、頭上をドラゴンが飛び交う厳かな城を見つめる姿が描かれています。このアートはアルバムの雰囲気と完璧にマッチし、特に14分にも及ぶ見事なセンターピース “Damned for All Time” は圧巻のファンタジー。元 LOST HORIZON のシンガー Daniel Heiman をボーカルに迎えた2ndアルバムもすでに “オーブン” の中にあります。このスウェーデン人は、2000年代初期に最も高く評価されたパワーメタルの声であり、ギリシャのシーンの名誉あるメンバーとしての彼の再登場は喜ばしいことといえるでしょう。

さて、Bob Katsionis 率いる Symmetric Records が真に注目を集め始めたのは、Andreas Sinanoglou が率いるアテネのプロジェクト、WARRIOR PATH と仕事を始めたときでした。ファンタジーをテーマにした勇壮なパワーメタルの2枚のアルバムを通して、Sinanoglou はこのジャンルの最高のソングライターの一人としての地位を確立しました。Bob 自身もその2枚のアルバムで演奏し、プロデュースを手がけていますが、彼は最初から特別なバンドを手に入れたと思っていたそうです。
「当初、Andreas は、自分と友達が楽しめるアルバムを作りたかっただけなんだ。でもね、彼がスタジオで曲を演奏しているのを聞いた瞬間、この素材は世界のパワーメタル・シーンに欠けているものだと気づいたんだ」
Yannis Papadopoulos をセンターに据えたセルフタイトルのデビュー作は素晴らしい出来栄えでしたが、Sinanoglou は想像できる限りのあらゆる点で前作を改善した2作目、”The Mad King” で上がり切ったハードルをさらに超えてきました。楽曲はより野心的で、演奏はよりタイトに、歌詞の物語性はより強く、そして何よりここでも Daniel Heiman が歌っています。WARRIOR PATH はパワーメタルで最も切望されているシンガーを確保し、”The Mad King” に瑞々しき命を吹き込んだのです。
「Daniel Heiman を起用したのはクレイジーなアイデアだったが、そうするのが正しいことだと分かっていたんだ」と Bob Katsionisは振り返り、「非常に大胆な行動が、最終的には実を結んだ。このアルバムには、いまだに信じられないほどの愛と賞賛が寄せられているよ。そんなつもりはなくても、”アンダーグラウンド・クラシック” を作ってしまったと思うし、私たちのアルバムを買ってくれた人たちひとりひとりに感謝しているんだ。我々は感謝しているよ」

Bob Katsionisの最新プロジェクトの一つは、TERRA INCOGNITA のシンガー、Billy Vass とのコラボレーション・アルバムです。そして、Vass/Katsionis とクレジットされたアルバム “Ethical Dilemma” は、WARRIOR PATH の剣を振り回す勇壮なパワーメタルからは遠く離れたもの。その代わりに二人は、DREAM THEATER, QUEENSRYCHE, FATES WARNING の美しくも洗練されたプログ・メタルにインスピレーションを得ることになります。こうしたスタイルの追求は、複雑と甘さのバランスが非常に難しいのですが、”Ethical Dilemma” で彼らは “Images and Words” や “Empire” のような完璧なバランスを見つけ出しました。
「90年代から2000年代にかけてのメランコリックで難解なプログレッシブ・メタルに常に愛着を抱いていた私にとって、これはそれを示すチャンスだったんだ。Billy Vass にソロ・アルバムのプロデュースを頼まれた時、”どんな音にしたい?” と聞いたら、FATES WARNING の “Perfect Symmetry” みたいな音楽を作りたいと言われたんだ。で、それが全てだった。作曲には1ヶ月もかからなかったんだけど、彼がメロディーを考えてくれたときは、とても感激したよ。私が渡した音楽すべてに、完璧なセリフと歌詞を書いてくれたんだ!」

1995年、小さな港町ヴォロスに住んでいた10代の頃、Kiriakos Balanos は友人たちと SILENT WINTER をスタートさせます。そのメンバーで数枚のデモを制作しましたが、仕事や学業で方向性が異なるため、バンドは解散。大人になってヴォロスに戻った Balanos は、SILENT WINTER 名義で新たなラインナップを組み、プロジェクトの復活を決意します。バンド名とはうらはらに激烈な “The Circles of Hell” と “Empire of Sins” は、その決断の正しさを裏付けるもの。Balanos のシュレッド・ギターとフロントマン Mike Livas の高らかなファルセットに導かれた、プログ・パワーのワープスピードは光速を超えます。
「ギリシャがパワー・メタルにおいて非常に強力なシーンを作るれたことは、非常に満足のいくこと。特にこの10年間ギリシャは、他の国から羨まれることが何もなかったからね。とバラノスは言います。「この場所に小さな石を贈ることができてとても幸せだよ」
注目すべきは、SILENT WINTER がグリーク・パワーメタルの非公式な本部であるアテネから遠く離れた場所で活動していることでしょう。バラノスは、アテネに多くのチャンスがあることは認めていますが、強い決意と努力によって地理的なハンディキャップを克服することができたと胸を張ります。
「首都に住まないと、どうしても負担が大きくなってしまう。田舎では知り合いが少ないから、広報の仕事も多くなる。つまり、より多くの努力と作業が必要だという意味だよ」

CRIMSON FIRE 3枚目のLP “Another Dimension” のジャケットには、レーザーの目を持つロボット・ペガサスが宇宙空間を飛行している様子が描かれています。ファンタジーの “おふざけ” を皮肉らずに受け入れることで、パワーメタルを伝統的なヘビーメタルの系譜から少々切り離すことに成功しているのかもしれませんね。”Another Dimension” は、CRIMSON FIRE のクラシックなパワーメタル・サウンドに80年代のAOR的なシンセサイザーとボーカル・ハーモニーを取り入れ、HELLOWEEN と JOURNEY の “別次元” が同時に味わえる作品に仕上がっています。
ギタリストの Stelios Koutelis にとって、ギリシャはメタルを “売る” のに適した場所であり、2004年という結成の時期は完璧だったといいます。
「ギリシャでヘヴィ・メタルが盛んになり始めた時期に、メタルシーンに参入する機会に恵まれたと言うべきだろう。やったりやめたり、時にはやり続けるバンドもいたが、周りにバンドがいない瞬間はなかった。そして、これは現在に至っても同じことだよ」

VALIDOR 唯一の常任メンバーである Odi Thunderer は、自身の音楽を “Blood Metal” と呼んでいます。その理由は簡単。Symmetric Records からリリースされた VALIDOR の最新アルバム “Full Triumphed” からは、マーチング・ドラム、スタッカート・ボーカル、ぎっしり詰まったリフに紛れもない血で血を洗う戦争のにおいがします。Thunderer のパワーメタル解釈は、このジャンルの華やかなヨーロッパスタイルよりも、MANILLA ROAD や CIRITH UNGOL といったエピック・メタルとの共通点が多いといえます。そのため、彼はギリシャでは比較的異質な存在ですが、それでも演奏も受け持った Bob Katsionis をはじめシーンの著名人たちとは深く交流しています。

「私の音楽はすべて、”Seventh Son of a Seventh Son” を中心に発展してきたんだ。音、音符、構造、コンセプト。IRON MAIDEN は皆も知る通り、音楽以外にも多くのことをやっている。アートであり、ロックであり、メタルであり、イメージであり、伝説なんだ。だから偉大なんだよ」
では、Bob Katsionis を中心とした グリーク・パワーメタルの原点はどこにあるのでしょうか。答えはズバリ、IRON MAIDEN です。エディをアイコンとしたメイデンのマーケティング戦略やアート、イメージ作り、伝統的なメタルを突き詰めながら幅をもたせた多様なサウンド、そして練りに練ったストーリーをアルバムに付与するコンセプト。そのすべてが Bob Katsionis の作品群とギリシャのパワーメタルに投影されているのです。
「正直なところ、昔のメイデン・ファンの大半がそうであるように、ここ10~15年の彼らにはかなりついていけてないんだ。しかし、これは彼らではなく、私に問題があるんだよ。私は “Senjutsu” を好きになろうとしたし、最後には好きになった。でもたしかに、曲はとても長くて退屈なんだよね」
STRAY GODS はそんな Bob の “メイデン愛” を形にした新たなプロジェクト。ボーカルも、ギターも、リズム隊も、恐ろしいほどに IRON MAIDEN しています。ただし、重要なのは “Storm the Walls” の楽曲はすべてがオリジナルで、ありそうでなさそうであるかもしれないけどないようなメイデンのリフやサウンドを奏でている点です。さらにいえば、”Somewhere in Time”, “Seventh Son of a Seventh Son” というメイデン史上最もキャッチーで煌びやかだった時代を基盤としているので、現在のメイデンには期待できないカタルシスやシンガロング、スピードアタックが存分に繰り広げられているのです。まさにここは “If” の世界。もしメイデンが、あのころの輝きを取り戻したら…
今回弊誌では、弦と鍵盤の二刀流天才派、Bob Katsionis にインタビューを行うことができました。「例えば、DREAM THEATERのように、曲の長さを正当化することはできない。だから、私は彼らを “プログレッシブ” とは呼ばないんだよ。彼らに今必要なのは、外部のプロデューサーなんだろうな。でも、それをいったい誰が言うんだろうね?我々は最後まで彼らを追いかけ、愛していくつもりだよ」 素晴らしいですね。オリジナルだなんだのいろいろをすっ飛ばして言えるなら、”Senjutsu” の2万倍良い。Bandcamp のメタル部門で発売からずっと一位を守り続けているのも頷けます。オリンパス・メタルの守護者の登場。どうぞ!!

STRAY GODS “STORM THE WALLS” : 10/10

参考文献; BANDCAMP Olympus Rocks: Where to Start with Greek Power Metal

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MESHUGGAH : IMMUTABLE】


COVER STORY : MESHUGGAH “IMMUTABLE”

“We Always Wanted To Have This Lateral Move Away From What You Might Construe Or See As Mainstream Metal.”

IMMUTABLE

30年以上にわたり、ヘヴィ・メタルはスウェーデンの最も重要な輸出品のひとつで、その品々は伝統的なメタルの慣習を粉々に打ち砕いてきました。
1970年代、KING CRIMSON の創設者でギタリストの Robert Fripp は、ドラマーの Bill Bruford とベーシストの John Wetton を “空飛ぶレンガの壁” と呼んでいました。Fripp は当時、バンドの角ばった不協和音を完成させる際、リズムセクションに対してギターの音量とパワーを競わせることに苦労していたのです。35年前にスウェーデン北部のウメオで結成された MESHUGGAH は、その特異で巨大な “空飛ぶレンガの壁” をバンドとして作り上げました。そうして、1995年の “Destroy Erase Improve” で彼らはメタルの慣習を粉々に “破壊し、消し去り、改善” したのです。
MESHUGGAH は、その非正統的なドラムパターン、テンションが張り巡らされた半音階のギター・メロディー、そして邪心の咆哮で、”冷酷で機械的”な数学的メタルのフロンティアを切り開きました。ドラマーの Tomas Haake が「このバンドは常に、主流であると解釈されるようなメタルから、あるいはそう見えるようなものから離れることを望んでいた」と証言するように。
デビュー・アルバム “Contradictions Collapse” のリリースから31年が経過しましたが、新譜 “Immutable” が物語るようにその決意は “不変” であり、衰えることなく続いています。この30年の間にメタルというジャンルは何度か、かつての伝統に寄りかかり、進歩の潮流を塞きとめたのかもしれません。しかし、そんな中でも MESHUGGAH はその歩みをいささかも止めることなく、巨大で、アンタッチャブルな存在であり続けています。変われないのか、変わらないのか。とにかく、おそらく、地球上で最も重要なメタル・バンドのひとつでしょう。

“Immutable” で MESHUGGAH は、自分たちのサウンドを調整することにしました。”イージーリスニング” とまではいかないまでも、 “よりファット” で “よりストレート” なサウンドに仕上げることを目標に据えたのです。ギターサウンドは、凄まじい高音域が明らかに減退しています。ただし、このバンドに特徴的な音色を与え、何十人、何百人もの模倣者が真似をした、あの際立った中低音は厚みを増しながら残っているのです。そうして彼らのギターの壁は、まるでクトゥルフが深海のケーブルをかき鳴らすかのようにダイレクトに響くこととなりました。
Tomas Haake はメタル世界で最も才能のあるドラマーの一人でしょう。かつて MESHUGGAH はロック王道の4/4拍子、その改革を生き様としていました。彼らは4/4拍子が自分たちの曲の基本であると主張しますが、その周辺に複雑なポリリズムを織り込むようになったのです。Haake のオフタイムのスネアヒット、そしてゴースト・ノートの使用は、彼らのリズムをメタル世界唯一無二のものへと羽ばたかせました。
2016年の “The Violent Sleep of Reason” で Haake は、特に “Clockworks” と “Nostrum” を怪物的な楽曲へと仕立て上げました。双方とも、ドラムソロを延長して音楽に合わせたような印象を与えるもの。バンドのソングライター全員がドラムをプログラムしていますが、この2曲はベーシストの Dick Lövgren との共作から生まれたものでした。
MESHUGGAH の “空飛ぶレンガの壁” は、ある雰囲気に従ってジャムを始め、作曲を “延々と続ける” 傾向があると Haake は語り、”Immutable” の秘密を説明します。
「”Immutable” では、僕と Dick が書いた曲と、ギタリストの Mårten Hagström が書いた曲がほぼ交互に演奏される。Marten の曲は、よりがっしりとして、よりビートの周りをスイングするような傾向がある。俺は、自分と Dick の作曲を頭脳的で “青” であると見ているのに対し、Marten の作曲は “赤”、つまり “木の実と内臓” で構成されている曲だと感じてるんだ」

Haake は、このアルバムが他のどのアルバムよりも、2012年の巨大でグルーヴに満ちた “Koloss” に近いとし、”Immutable” 全体のリズムの固定化をその理由に挙げています。
「”Immutable” は全曲にバックビートがあるはじめてのアルバムなんだ。前作の “The Violent Sleep of Reason” を見ると、”Clockworks” のような曲から始まる。スネアのヒットはすべて、小節線上の変拍子上にあるリフの一部になっているからね。だから、何が起こっているのかを把握するのが少し難しくなっていたんだと思う。一方、このアルバムはバックビートがあることで、ノリノリになれるし、僕らが目指しているものをもっと身近に感じてもらえるような気がするんだ」
ただし、MESHUGGAH が “機械” や “方程式” をないがしろにするようなことはあり得ません。
「実際には、両方の要素があると思うんだ。自分たちが感じたものしか書けないという意味ではオーガニックだし…他の多くのバンドのやり方とは違うと思うのは、僕らがすべてを “コンピューターの世界” で作っているということ。Cube Base に座って、僕がドラムのプログラミングをする。例えば、”The Violent Sleep Of Reason” からの “Clockworks” や、このアルバムからの “Phantoms” のように、リズムの面から来るパートもあるからね。ドラムが曲の基礎になって、それに対してリフを書く…まあ多くの場合は、リフから来るけどね。
だけど、オーガニックな面は確かにあるね。でも、リハーサルでジャムったり、いろいろ試したりすることはないんだ。僕らは作曲を完全にコンピュータの世界でやっているし、ほとんどずっとそうだった。僕がバンドに参加した1989年には、誰もがコンピューターを手に入れ始め、使えるソフトウェアが登場してきた…そういうツールがなかったら、バンドとして同じようなものにはならなかったに違いないんだ。僕らにとっては非常に重要なことで、好ましい方法というだけでなく、今ではすっかり慣れてしまっているからね。
だから、機械やコンピューターに頼っている部分も多いし、オーガニックとマシナリーの両方があると思う。でも、実際のアイデアそのものは、オーガニックでなければならないんだ。それは内面からしか生まれないものだから」

複雑怪奇な音楽を作るという命題も、ある意味 MESHUGGAH にとって “不変” です。
「ある意味、僕たちはとても早くから、僕がバンドに入ったときから、すでにテクニカルでヘヴィな音楽を作る道を歩んでいたと思うんだ…。ただ、僕らが育った音楽や10代後半にハマった音楽も、僕らが求める “融合” に大きな影響を及ぼしている。メタルが好きなのは変わらないけど、それとは違うことをやりたかったんだ。そしてその道を進んできた。基本的に僕たちは皆、大人になってからもこの仕事を続けていて、僕は32年間バンドをやっているんだけど、何がきっかけでこの道に進んだのか、それとも別の道に進んだのかを特定するのは難しいことがあるね。
初期の頃は、ある種の工夫が必要だったかもしれないけど、時間が経つにつれて、自然に出てくるようになった。僕たちは難しい音楽を作ろうとしているわけではないんだよ。ただ、自分たちにとって面白く聞こえるものを書こうとしているだけなんだ。だから、計算したりとか、こんなクレイジーなことをすれば、みんなを熱狂させられるだろうと決めたりするようなことはないんだ。決してそんなことはないんだよ。たぶん、年齢を重ねれば重ねるほど、成熟していくんだろうけど、アルバムごとに何を成し遂げようとしているのか、その感覚も成長していくんだろうね」
自身でも驚きを感じる瞬間は、今でもあるのでしょうか?
「今回のアルバムだと、”Armies of the Preposterous” だね。あの曲はワルツ調で、ハンドワークがすごく遅いのに、フットワークは速いんだ。この曲のサウンドにはとても興味をそそられたし、プログラミングしているときのサウンドもとても気に入ったんだけど、実際に演奏するのは難しいかもしれないと思ったよ。メタルでワルツをやるというのは、あまり一般的ではないしね。でも、リハーサルを始めてみると、アルバムの中でも演奏しやすい曲のひとつだったんだ。そうか、僕は自分のことをよく分かっていないんだと思った瞬間だったね。
もうひとつ、オープニング・トラックの “Broken Cog” だけど、これは3度目の正直。2010年から2011年にかけて書いた曲で、”Koloss” のためにやろうとしたんだけど、結局やらなかった。その後、”Violent Sleep” のためにやってみたんだけど、僕にはとても変な感じだったんだ。ドラマーとして演奏するのは本当に厄介でね。正気の沙汰とは思えないような音になっていたよ。自分が何をやっているのか、まったくわからないんだ。常にタイミングを探っているような感じでで、結局やらなかったんだけど、また戻ってきたんだ。それでも、みんなこの曲が好きだから、もう一度やってみようってね。それでもっとリハーサルをしたら、今度はなぜかずっといい感じだったんだ。結果的にとてもクールなものになったから、ライブでも演奏するつもりだよ。3度目の正直だ。この曲は12年もの間、僕らのドアをノックしていたんだけど、ついにそのかわいそうなやつを中に入れてあげたんだよ」

他のバンドと自分たちの音楽を比較することはあるのでしょうか?
「拍子で 7、9、5とか、そういうのを非常にうまくやるバンドがいるんだ。例えば、TOOL のようなバンドは、フォローするのがとても難しいし、聴いていてとても興味をそそられるんだ。でも、彼らのテクニカルな部分は、僕らのやり方とは全然違う。僕らがやろうとしていることは、テクニカルで難しいバンドが時々欠いてしまう音楽の流れを与えていると思うんだ。僕にとって、ライヴに行って CAR BOMB のようなバンドを聴くと、圧倒される。”ウォー!” って感じ。技術的な面ではとても難しい。まるで戦場にいるような衝撃を受けるんだ。アレは僕らには向いてないよ。一旦それができたら、それを維持しようとする。その点に関しては、あまり磨くつもりはないんだ。それよりも、自分たちの流れを維持しようとすることが大事なんだ」
後続の Djent についてはどのように感じているのでしょうか?Marten が答えます。
「あのシーンから大きくなってきたバンドが現れて、僕らを気に入ってくれているんだ。それはとてもクールなことで、本当に嬉しいことだよ。僕らがインスピレーションの源だと言ってくれる人がいるのは、本当に嬉しいことさ。”あなたたちは Djent” が嫌いで、あれもこれも嫌いなんでしょう?” という質問を受けたことがある。いや、違うよ。そんなことは全然ない。単純な話、僕たちはスウェーデンの年老いた怠け者で、この手の音楽を長いことやってきただけさ。だから、新しいアルバムを作っても、新しい音楽は全く聴かないだけなんだ。
誰であろうと、やりたいことがどんなクリエイティブな側面を持っていようと・・・君が何かにインスパイアされたように、他の人をインスパイアする人間になりたいとは思わないかい?それが最大の褒め言葉なんだ。どんな音であろうとね」
MESHUGGAH を聴いていると、バンド全体が難解なものほど魅力的なものとして捉えているようにも感じられます。しかし、Haake は “Immutable” が “The Violent Sleep of Reason” よりも地に足のついたアルバムで、だからこそ素晴らしいと感じています。たしかに後者では、いくつかの曲が力強く始まり、その後少し奇妙な方向に向かう傾向がありました。
「でも、今回はどの楽曲もそんな感じはしないんだ。演奏も、マテリアルも、曲の一部分さえも、もっとこうしておけばよかったと思うことはないんだよね。そして、それは僕たちにとって珍しいことなんだ。アルバムが完成したときに、こんな気持ちになったのは初めてだよ」

だからといって、いくつかの曲に対して不安がなかったわけではありません。”Kaleidoscope” は、彼と Lövgren が完全に満足していると感じるためには、いつもより “少しロック” な感じがしたことが気がかりでした。しかし、例えバンドが一般リスナーに対して譲歩したと危惧する曲でも、少なくとも98%は MESHUGGAH として識別できるようになっています。そして、”Kaleidoscope” における Jens Kidman の叫びは、バンド全体の気持ちをぐっと高めることにつながりました。
Kidman は、アルバム全曲を自身のホームスタジオでレコーディング。つまり、これまで以上にその歌唱に磨きをかける時間があったのです。通常、バンドがレコーディングで遅くれをだすと、彼のスタジオでの時間は減ってしまう。しかし “Immutable”では、通常の2週間ではなく、8週間を費やすことができました。1曲につき2テイク、時には6テイクまで用意して。そうすることで、彼の異なるヴォーカル・パフォーマンスをミックス全体に反映することができたのです。
Kidman の歌唱はまさに威厳。アルバムを通して、彼は唸り、吠え、叫び、また囁き、威嚇します。”Faultless” では、彼の声はピッチシフトされていますし、シングル “The Abysmal Eye” では、歌詞の一部に登場する古代の神々のような性格を歌に分け与えました。

MESHUGGAH は “Immutable” の制作にこれまでよりも時間をかけました。彼らは昨年10月、3ヶ月遅れでレーベル Atomic Fire にマスターを納品。レコーディングの間、彼らはしばしば自分たちに課せられていた束縛をいくつか解き放ちました。以前は、ライブで再現できないハーモニーやメロディーを重ねることを敬遠していたのですが、その戒めも解きました。Haakeの言葉を借りれば、バンドのソングライターが “メロディーをやり過ぎる” のが好きな場合、これ以上自分を律するのは難しいことだったのです。今回、彼らは音楽に身を任せ、ライブの要素は後で考えることにしました。その結果、よりリッチで動的、そしてシネマティックなサウンドが実現したのです。
「メロディーは、曲を作るときにいつも考えていることなんだ。新しいアルバムを制作するためにデモを聞き返すと、僕たちは常に音楽に対して視覚的な感覚を持っていることがわかる。でももちろん、その上でどんなメロディーを弾いているか、ギターのメロディーにどんな音を使うかによって、視覚的な感覚を強化することができるんだ」

このアルバムで最もシネマティックに仕上がっているのは、Hagstrom が作曲したインストゥルメンタル曲 “They Move Below” でしょう。レイヤーが重ねられたサウンドもさることながら、ギターのスライドと重い足音のキックドラムがストーナー・メタルのようなドロドロとした感触を与えています。Haake は、Hagström が常にストーナー・サウンドに片足を踏み入れており、その種のマテリアルを生み出していることを理解しています。彼はこの曲を “The Violent Sleep of Reason” の中の “Ivory Tower” の6/8フィールと比較しています。つまり、バンドはこういったよりストーナー的な曲を、MESHUGGAH 的に解釈する意図を持って演奏しているのです。
Hagström は、Haake と Lövgren に “Ligature Marks” という曲をスタジオに入るまで聞かせませんでした。
「ああ、この古いやつか、俺はこれがちょっと好きだとヤツに言ったんだ。昔は完成された曲じゃなかったけど、今はずっとちょっとカッコいいと思うとね。このアルバムからこれを遠ざけるなんて、バカげてるって言ったよ」
彼がそう感じたのも無理はありません。”Ligature Marks” は、2008年の “obZen” のタイトルトラックと同じように、無情に踏みつけるように始まります。しかし、それは美しく、超越的なアウトロで終わり、リスナーに悩みのタネを植え付けるのです。
“Immutable” では、創設者のギタリスト Fredrik Thordendal が復帰し、彼独特のジャジーでフリーフォームなソロを4つ披露しています。Thordendal は “The Violent Sleep of Reason” 以来、バンドでのツアーは行っていません。ライブでは SCAR SYMMETRY の Per Nilssen が彼の代役を務めていました。しかし、Thordendal は MESHUGGAH のメンバーであり続けているのです。Haakeは Thordendal(名曲 “Bleed “などを作曲)が近年作曲への貢献度が低いことを気にしていません。
「彼が変に感じたり、僕たちが変に感じたりするようなことではないんだ。実際、作曲の任を解かれて彼の肩の荷が下りたと思うんだ、わかるだろ? 彼はもう少し自分のことができるし、曲作りは僕たちに任せられるから」
Hagstrom も同意します。
「Fredrik の “Immutable” における作曲クレジットは “The Violent Sleep of Reason” とほとんど同じだから…何もないよ。”Koloss” 彼は、『みんな、このアルバムではあまり書かないよ』と言って、実際ほとんど書かなかった。彼は基本的に1曲だけ書いて、あとは僕らと一緒にあちこちで共同作業をしていたんだ。”Violent Sleep” では、彼ははっきりと『この作品では一音も書くつもりはない』と言ったんだ。
Fredrik との約束は、彼が3年半(ソロ作品)を続けて、それがどうなるかを見るというものだった。3年半が過ぎ、僕たちはミーティングをして、彼は『もし戻れるなら、ぜひ戻りたい。あそこは私の居場所であり、私の魂なんだ。3年半やってきて、ソロ作はまだ終わっていない。君たちが望むなら、戻ってもいいな』って。僕たちは『F-k yeah、バンドを再結成してツアーに出ようぜ!』って感じだったんだ。
Fredrik が実際にアルバムで演奏するかどうかということになったとき、僕たちは、”Fredrik Thordendal のリードが必要な曲がたくさんあるんだ”って感じだった。彼のリード・サウンドは不可欠だろう?もし彼がリードを弾かなかったら、真の MESHUGGAH のアルバムにはならないだろう。フレドリックがリードを弾いた4曲については、スタジオ33で彼にステムを送り、そこでレコーディングしたんだ」

Thordendal のソロのひとつは、騒々しい “God He Sees In Mirrors” を見事に飾り立てています。元々この曲には、Haake が “トリッピー” と表現するような歌詞がありました。しかし、この曲の攻撃性に直面し、彼は歌詞を書き直したのです。
「マインド・ファックだよ。この曲を聴いた後は、ほとんど暴力を受けたような気分になる。なぜなら、この曲は聴くものをを打ちのめし、ただ進み続けるから」
クラシックなスラッシュ・メタルに部分的にインスパイアされたアルバムの多くと同様に、この曲の歌詞は社会批判に根ざしています。”The Violent Sleep of Reason” が2016年10月にリリースされて以来、世界中でファシズムやポピュリズムが爆発的に広まりました。トランプ大統領が誕生し、去っていきました。専制君主や独裁者が世界中の国々を掌握しています。
「トランプが大きなインスピレーションを与えたのはまちがいない。ボルソナロなど、偽旗の下で走り出す政治家たち。ついでにプーチンも。トランプが鏡を見るとき、そこに映っているのは100%間違いなく自分以外の何者かだ。神のように純粋で、完璧な人類の標本を見ているのだろう。それが彼の見ているもの。そして、そのすべてが妄想なんだ。トランプだけじゃない。ヨーロッパや極東にもいるだろ?彼らの行動はすべて自己、利益、富のためであり、人々のためではないんだよ」
プーチンのウクライナ侵攻は、”Immutable” の大きなテーマの1つである、暴力的なやり方を変えることのできない人類をある意味証明してしまいました。アーティスト Luminokaya のアートワークのナイフを持った炎のような人型は、新しい現実の脅威を表現しているのです。
「歌詞の中に見られる批判は、今起きている多くのことと密接に関係しているんだ。プーチンがウクライナの人々に仕掛けているデタラメに関しては、今の時代、あるいは実際、人間は変われないと証明しているようなものだ」

人類は変わっていないかもしれませんが、MESHUGGAH は Lövgren を除くメンバー全員が50代になり、年を重ねてきています。アルバムのオープニングを飾る “Broken Cog” は、時間が我々から逃げていくというよりも、死という暗い影を背負った我々を地面に叩きつけるような曲。
「この曲の歌詞は、ここにいる自分たちの時間的性質を考え、残された時間を考え、死と暗い考えを受け入れなければならない人たちが、それを乗り切ろうとすることについて書かれているんだよ」
Hagstrom も加齢とアルバムタイトルの関係性を認めます。
「”不変” って僕らのバンドとしての位置づけにぴったりだ。俺たちは年を取った。ほとんどのメンバーが50代になり、自分たちが何者であるかということに納得している。ずっと実験をしてきたけれど、それは初日から変わらない。物事へのアプローチの仕方や、なぜ今でも新しいアルバムを作るのか、なぜ今でも自分たちの音を出すのか、それは不変のものなんだ。人間性も不変だよ。人類は何度も何度も同じ間違いを犯す。結局僕たちも不変なんだ」
MESHUGGAH には作詞家としての Haake、作曲家演奏家としての Haake、つまり二人の Tomas Haake がいます。
「脳の異なる部分を使っているのは確かだよ。以前は、歌詞は年に1回とか、2年に1回とか、掘り下げて書くようなものだったんだ。でも、ここ2枚のアルバムでは、音楽の雰囲気がわかると、その音楽に合わせて書くことが多くなったかもしれないな。トピックとしては、自分の周りで起こっていることに対する社会的なコメントがほとんどだけど、時には純粋なフィクションで、音楽から感じた雰囲気を強めていこうとすることもある。でも、多くの場合、僕の歌詞は社会的なものだよ」

Haake が現代社会に伝えたいことはたくさんあります。
「ソーシャルメディアがいかに多くの点で馬鹿馬鹿しいツールになっているか、偽情報のツールになっているか、さらには政治的なツールになっているかということだよね。”Light The Shortening Fuse” の歌詞は、まさに “Immutable” のために書かれたもので、より具体的にそのことについて話しているんだ。”Phantoms” のような曲は、人生を歩む上での後悔について歌っている。自分が言ったこと、やったことを後悔して、それがずっと自分の中に残っていてついて回る。幽霊や幻のようなものだよ」
彼の白い手袋は、2年前から手の内側にできてしまった湿疹を治すためのものだといいます。「手の中に湿疹があるんだ。全ての指にテープを貼り手袋をしなければ叩けない。だから1年近くドラムを叩いていないことになる。生活もままならないけど前を向いているし、ツアーではなんとか叩こうと思うよ」
有酸素運動よりも、ソファで Netflix を見るのが好きだという Haake は背中を痛め、右足のコントロールが効かなくなったこともあります。”Bleed” のガトリングガンのようなダブルバスドラムを毎晩ツアーで演奏することを期待されているドラマーにとって、それは理想的なことではないでしょう。Hagström は、バンドのリフを演奏する緊張から、手、前腕、肩に痛みを経験したことがあります。MESHUGGAH の音楽を演奏するための肉体的なピークは、おそらく20代や30代なのでしょう。
「人生も、バンドも、生活のためにやっていることも、永遠に続くものではないことに気づくからこそ、ある種の悲しみがあるんだと思う」
しかし、MESHUGGAH の音楽の背後にある意図は、常に不変です。彼らはいつも通り、不可解で華麗なサウンドを奏でています。”Future Breed Machine” でメタルの未来に警鐘を鳴らした彼らは、今でもメタルの未来を定義する “マシーン” として聳え立っています。それはまだ未完成の仕事。”Nothing” Has Changed.

参考文献: KNOTFEST.COM:THE MORE THINGS CHANGE: MESHUGGAH’S TOMAS HAAKE ON ‘IMMUTABLE’

THE PIT:“We aren’t trying to f*** with you too much…”: Meshuggah Drummer Tomas Haake Talks Immutable, Creating Complex Music, + More

LOUDWIRE: MESHUGGAH ADRESS MISCONCEPTION DJENT

日本盤のご購入はこちら。WARD RECORDS

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WITHOUT WAVES : COMEDIAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZAC LOMBARDI OF WITHOUT WAVES !!

“The Record Often Deals With Themes Such As Duality, Perspective, And Intent And We Feel That This Scene Represents That Perfectly. What Appears To Be An Act Of Violence Is In Fact An Act Of Nourishment.”

DISC REVIEW “COMEDIAN”

「少なくとも僕たちにとっては、まさしくプログとは “なんでもできる” ものなんだ。このバンドを始めたのは、自分たちが正しいと思うことを何でもできるようにするためだったからね。もし本当に良いアイデアであれば、どんな音楽であれ、僕たちはそれを認めるべきなんだ」
シカゴの雑踏で生まれた WITHOUT WAVES は、”Cometian” でその雑多な音の葉にさらなる激しさを加え、すでに圧巻だった音楽に感情的な重みを加えています。ここ数年、彼らはプログ・メタルの領域でゆっくりと、しかし確実にその存在感を増してきました。
前作 “Lunar” で、バンドはプログレッシブな要素とマスコア、オルタナティブ、メタルを組み合わせた幅広い才能を発揮。そして今、3枚目のフルアルバム “Comedian” で彼らは、そんなプログレッシブな調和に波音を立てることなく、それでもアグレッシブな海溝を探索していくのです。
「このレコードは、二元性、視点、意図といったテーマを主に扱っているんだけど、このシーンはそれを完璧に表現していると感じているよ。暴力行為に見えるものが、実は栄養をつけてあげるのための行為 (突いて流血させたのではなく、雛を育てるフラミンゴ・ミルクが流れているだけ) であるんだからね」
誰もが “Comedian” のアートワークには衝撃を受けるはずです。雛に餌を与えているフラミンゴが、他の鳥に突かれて血を流しているように見えるのですから。しかし、一見理不尽な暴力に見えるこの光景は、雛を養うためのフラミンゴ・ミルクを流している一場面でした。つまり、このアートワーク自体が、バンドがアルバムで追求する情報化社会の恐怖、二面性を代弁して、さらには激しいマスコアの暴力と、繊細美麗なプログが共存するレコードの音楽までも暗示しているのです。 アルバムの楽曲には不安の糸が通されていて、情報の選別、恐怖、闇に対する無数の感情的反応がその周辺を包んでいます。
「僕たちは現代社会の闇を純粋にシニカルな意味ではなく、むしろ受け入れるという意味で言っているんだよ。人生にはニュアンスがあって、葛藤の中にも美しさがあるものだ。それを含めて笑い飛ばせることが大切だと思うんだよね。特に自分自身のことは」
このアルバムでは時に難しいトピックが扱われていますが、彼らは悲劇にはしばしばユーモアが住むことを認めており、コメディは難しい真実を和らげ、より簡単に解釈し処理することができると信じています。例えば、アカデミー賞でコメディアンと俳優が起こしたイザコザも、むしろ私たちがコメディアンとなって受け取るだけで随分と空気が変わるのかもしれません。つまり、”Comedian” という作品は本質的に、悩みを和らげるためにユーモアやアートを使うことの重要性を掘り下げているのです。
故に、”Comedian” はカオスと調和の中間に位置する、巧みなバランスを披露します。前半では、印象的なテクニックと精巧なソングライティングを披露し、魅惑のプログ・メタルと無慈悲なマスコアをシームレスに融合。”Good Grief” や “Animal Kingdom” は THE DILLINGER ESCAPE PLAN や MESHUGGAH のような重音の数学を教えつつ、DEFTONES や Devin Townsend の崇高で余韻と息つく間を与えダイナミズムを創成。
後半はメロディックな側面が顕著となるものの、”Do What Scares You” や “Sleight in Shadows” にはダークで攻撃的な瞬間がいくつも組み込まれており、そのスリルと青々とした美しさが絶妙に対比の美学を形作ります。そして、静けさと混沌、浮遊するアンビエンスと威圧が交差する”Worlds Apart” と “Seven” は完璧なクローザー。
そうして彼らは、プログレッシブというラベルを超越的に解釈し、前述のバンド以外にも、GOJIRA, MASTODON, PORCUPINE TREE といった “フォワード・シンキング” なバンドのファンのコレクションに心地よく収まるようなレコードを作り上げました。プログレッシブとヘヴィネスに対する彼らのダイナミックで実験的な試みは、刺激的で示唆に富み、型にはまることはありません。まさに足し算のファンタジスタ。
今回弊誌では、要のギタリスト Zac Lombardi にインタビューを行うことができました。「好きなゲームは “メタルギア・ソリッド”, “ゼルダの伝説 Bless of the Wild”, “天誅 ステルス・アサシン” だね。あとは、MELT BANANA も大好きなんだ」 どうぞ!!

WITHOUT WAVES “COMEDIAN : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MENTAL FRACTURE : DISACCORD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ORI MAZUZ OF MENTAL FRACTURE !!

“For Us, “Prog” Is Mind-Bending Music That Moves You Emotionally And Breaks Your Brain Logically. It Can Incorporate Any Genre.”

DISC REVIEW “DISACCORD”

「僕たちにとって “プログ” とは、感情を動かし、論理的に脳を破壊するような、心を揺さぶる音楽だよ。そして、どんなジャンルでも取り入れることができる音楽だ」
“プログレ” の沼にハマった現代のファンは、PINK FLOYD, YES, GENESIS, ELP, KING CRIMSON といった60年代後半から70年代半ばにかけての全盛期を懐かしむか、もしくは DREAM THEATER や PORCUPINE TREE, OPETH といった90年代に起こったジャンルの混交を “新しい” ものとして “寛容に” 受け入れるかのどちらかがほとんどでしょう。では、本当に新しい “ブログ” の形やアーティストが登場したとしたら、受け入れられる余地はもうこの場所に残されてはいないのでしょうか?
プログレッシブ・ミュージックは常に、あらゆる形のロック、フォーク、ジャズ、クラシック、メタルまで、幅広い音楽の領域を平等に愛おしく抱きしめる世界でした。そして実は、年月の経過と音楽地図の拡大は、そのパレットをさらに奥深く多様化しようとしています。イスラエルからオリエンタルな空気と感情の起伏を運ぶ、喜怒哀楽の交差点 MENTAL FRACTURE はまちがいなく、プログの次世代化を推し進める起爆剤です。
「僕たちは、インスピレーションを与えてくれるあらゆる音楽アーティストから、好きな要素を取り入れているんだよ。そうすることで、僕たちの感情を揺さぶる音楽言語が生まれるんだよね。ショパンのメロディーやラフマニノフのクライマックス、CAMEL や PORCUPINE TREE のメランコリー、OPETH の複雑さと激しさ、そして SNARKY PUPPY や Esperanza Spalding にインスパイアされたジャジーなハーモニーも聴くことができると思うよ」
YES や KING CRIMSON といった “プログレ” を定義したバンドの特徴。その核心に、メロディーとテンポ、そして構造の複雑さ、名人芸が据えられていたのは否定できない事実でしょう。多くの場合、それは “More is Better”、”多ければ多いほど良い” という足し算の原則に基づいていたのかもしれませんね。もちろん、それは極論で、そこだけにスポットが置かれていたわけではありませんが。
後に PORCUPINE TREE のようなアーティストが人気を得たのは、その複雑さがやり過ぎにならないよう、線引きをするタイミングを心得て、マイナスの美学を尊んだおかげであったとも言えるのではないでしょうか。そして、MENTAL FRACTURE は時代や場所を超越しながら、その音楽的な算数の巧みさで明らかに群を抜いています。
「オリエンタルな音楽は、それだけでは万人受けはしないかもしれない。だけど、メタルの中に取り入れると、聴衆の心を激しく揺さぶることができるんだよね。僕たちは、微妙な形ではあるけれど、確実にこのテイストを作曲に使っているんだよ」
“Inception of Fear” や “Clockwork” といった名曲群には、プログの先人に贈るリスペクト、90年代と中近東が混ざり合った濃密なメランコリー、現代ジャズの知的なハーモニーと共に、エスニックなパーカッションやアコースティックな響きが添えられています。それはさながら、地中海、紅海、死海という3つの海に面するイスラエルの多様な音景色。Ori Mazuz のファルセットを活用した情熱的な歌唱と、美しくも不気味でピーキーな鍵盤の響きはさながらモーゼのように、広大な “Disaccord” の海を自由自在に闊歩していくのです。
それにしても、KING CRIMSON が “Red” で達成した憂鬱な夢を前半で印象づけながら、大団円 “Hearts Of Stone” で DREAM THEATER のあの傑作 “Metropolis Pt.2” をリクリエーションするその度量はあまりに広大。決して明からさまなオリエンタル・フレーズを使用しているわけではないにもかかわらず、絶対的に感じる中東の風も白眉。
今回、弊誌では Ori Mazuz にインタビューを行うことができました。「僕たちはほぼ毎年紛争を経験していて、そのたびに、僕たちの現実がいかに愚かなものであるかを思い知らされるんだ。僕たちにできることは、ただひとつ、平和を願うことだけだ。だって僕たちは皆、結局のところ人間であり、他人の政治的野心や神の名のもとに死ぬべきでは決してないのだから。だから…僕たちの心はウクライナの人々とともにあるよ」 ネクタイにベスト、スラックスのプロモ写真、そして倒されたキングのチェス盤と沈みゆく太陽。思索に思索を重ねるような素晴らしいバンドの登場ですね。どうぞ!!

MENTAL FRACTURE “DISACCORD” : 10/10

INTERVIEW WITH ORI MAZUZ

Q1: First of all, you were born in Israel. From jazz, classical music, to metal, recently Israeli artists are leading the music scene. How does your being born and raised in Israel affect your music?

【ORI】: The Israeli music scene is extremely diverse, having a lot of great artists in many genres and styles. This means you are very likely to encounter a show by a great band that does something a bit different than what you usually listen to. Such a scene really complements our style of composition, as we love taking even the tiniest bits of inspiration from music that is sometimes completely unrelated to us stylistically.

Q1: 近年、イスラエルはジャズからメタルまで音楽シーンを牽引する国の一つとなっていますね?そういった環境はあなたたちにどんな影響を与えてきましたか?

【ORI】: イスラエルの音楽シーンは非常に多様で、様々なジャンルやスタイルの素晴らしいアーティストがたくさんいるんだよ。つまり、自分が普段聴いている音楽とはちょっと違う、素晴らしいバンドのライヴに出会える可能性が非常に高いんだよね。
こういったシーンは、僕たちの作曲スタイルにとても合っているんだ。僕たちは、時にはスタイル的に全く関係のない音楽から、ほんのわずかでもインスピレーションを得ることが大好きなんだからね。

Q2: How did Mental Fracture come to be? Where did your band name come from?

【ORI】: In 2010 Ori, Yogev and Hai were performing in a school band in Rishon LeZion. We felt that we have great chemistry. Ori was experimenting at the time with writing original music and arrangements. Inspired by bands like Dream Theater, Opeth and Porcupine Tree, we thought it would be cool to form our on progressive rock band! Philip, who studied at the same high school as Yogev and Hai, joined the band and we started composing “Genesis” and “The Mind’s Desire” together (Which were released on the 2019 EP). Although we have collected material for many years up to this day, life got in the way and we couldn’t be an active band until now, 12 years later, when we have finally released “Disaccord”.

Q2: MENTAL FRACTURE 結成の経緯を教えていただけますか?

【ORI】: 2010年、Ori, Yogev, Hai の3人は、リション・レジオンのスクールバンドで演奏していたんだ。僕たちは、素晴らしいケミストリーを感じていたよ。Ori は当時、オリジナル曲の作曲やアレンジを試行錯誤していたんだ。DREAM THEATER, OPETH, PORCUPINE TREE といったバンドに触発されて、自分たちでプログロック・バンドを結成したらクールだろうと思ったんだ!
そうして、Yogev, Hai と同じ高校で学んだ Philip がバンドに加わり、一緒に “Genesis” と “The Mind’s Desire” の作曲を始めた(これは2019年のEPでリリースされた)。今日まで長年に渡ってマテリアルを集めてきたものの、生活との両立はなかなか難しくてね。なかなかバンドとして活動することができず、12年後の今、ようやく “Disaccord” をリリースすることができたんだよ。

Q3: What is the metal/rock scene like in Israel? What’s the hardest part of being in a metal/rock band in Israel and the Middle East?

【ORI】: Israel has an amazing metal community with a variety of sub-genres. Prog is one of them, with bands like Orphaned Land, Subterranean Masquerade, Scardust and many more. The audience here loves sophisticated music and loves to get wild on live shows! The hardest part, for every musician, is to be noticed and reach this audience.

Q3: 中近東でメタルやロックをやることの難しさは何でしょうか?

【ORI】: イスラエルには、様々なサブジャンルを持つ素晴らしいメタル・コミュニティがある。プログもその一つで、ORPHANED LAND, SUBTERRANEAN MASQUERADE, SCARDUST といった素晴らしいバンドがいるんだ。
イスラエルの観客は洗練された音楽が好きで、ライブで盛り上がるのが大好きなんだよ!
ミュージシャンにとって最も難しいのは、そういった観客の目に留まり、その目に届くようになることなんだよ。

Q4: Your melodies are really attractive and engaging. Regarding the Middle East, I’ve had interviews with bands like Orphaned Land. Riverwood and Myrath. They were very oriental in their music, sometimes incorporating Middle eastern folk instruments. There is a definite oriental flavor to your music as well, would you agree? Why are Middle Eastern melodies so appealing to the world?

【ORI】: The bands mentioned really opened our minds about oriental music, as it may not appeal to everyone on its own, when incorporated in metal music it can really touch the metal audience. We are definitely using this flavor in our composition, although in a subtle way.

Q4: ORPHANED LAND, RIVERWOOD, MYRATH といった中近東のバンドは、オリエンタルなメロディーや楽器を巧みに楽曲に取り入れて人気を博しています。
あなたたちはそこまであからさまではないにしろ、中近東の憂いのようなムードが楽曲を一層素晴らしいものに引き立てていますね?

【ORI】: 君の挙げたバンドは、僕たちがオリエンタル・ミュージックに目覚めるきっかけとなった人たちだよ。
オリエンタルな音楽は、それだけでは万人受けはしないかもしれない。だけど、メタルの中に取り入れると、聴衆の心を激しく揺さぶることができるんだよね。僕たちは、彼らよりは微妙な形ではあるけれど、確実にこのテイストを作曲に使っているんだよ。

Q5: I have interviewed various Israeli artists, Orphaned Land, Scardust, Subterranean Masquerade, Nili Brosh, etc., and most of them mentioned their prayers for peace. Israel is a country where war is right around the corner…could you tell us your stance on the Israeli-Palestinian issue and the recent Russian aggression?

【ORI】: The Israeli-Palestinian issue is really complicated. Too complicated to the point that trying to explain any side of it in such a short format would not do it justice. We are experiencing a conflict nearly every year and each time it happens it enlightens how stupid our reality can be. The only thing we can do is to hope for peace. We are all human beings after all and we do not deserve to die for one’s political ambitions or in the name of god. Our hearts are with the people of Ukraine.

Q5: ORPHANED LAND, SUBTERRANEAN MASQUERADE, SCARDUST といったイスラエルのバンドにインタビューして感じたのは、彼らの平和に対する願いでした。まさに戦争がすぐそばにある国だからこそなんでしょうかね…

【ORI】: イスラエルとパレスチナの問題は本当に複雑なんだよ。あまりに複雑すぎて、こうした短いフォーマットで説明しようとしても、正当な評価は得られないだろうな…。
僕たちはほぼ毎年紛争を経験していて、そのたびに、僕たちの現実がいかに愚かなものであるかを思い知らされるんだ。僕たちにできることは、ただひとつ、平和を願うことだけだ。だって僕たちは皆、結局のところ人間であり、他人の政治的野心や神の名のもとに死ぬべきでは決してないのだから。だから…僕たちの心はウクライナの人々とともにあるよ。

Q6: I asked about the war because “Disaccord” seemed to me to be an album about the division of the world and its horrors. Can you tell us about the artwork Chess and the concept of the piece?

【ORI】: “Disaccord” is an album about the division between a person and themselves. Every song is telling a story about a person dealing with their cognitive dissonances. The artwork shows a chess board with only white pieces, and with the king fallen down, which symbolizes a person check-mating themselves.

Q6: 戦争について尋ねたのは、”Disaccord” “不一致、不調和” というアルバム自体、そしてチェスのアートワークが、世界の分断とその恐怖について描いていると感じたからです。

【ORI】: “Disaccord” は、他人と自分との分裂、分断をテーマにしたアルバムなんだ。すべての曲は、認知的不協和に対処する人についての物語を語っているんだよ。アートワークは白い駒だけのチェス盤で、キングが倒れていて、これはつまり人が自分自身をチェックメイトしているってことを象徴しているんだね。

Q7: Still, “Disaccord” is a really great album! I’ve rarely heard progressive music as emotional as this one! Musically, we can hear influences like Opeth, Camel, Porcupine Tree, Rush, etc. Could you please talk about your musical roots?

【ORI】: Thank you! We take what we like from every musical artist that inspires us. It creates a musical language that really moves us emotionally. Ori was classically trained on the piano, so you can hear influences in the melodies from Chopin and the drama buildup and climax of Rachmaninoff. You can hear the melancholy from Camel and Porcupine Tree and the complexity and fierceness of Opeth, and also jazzy harmonies inspired by Snarky Puppy and Esperanza Spalding. The album was self produced, mixed and mastered by Ori and Yogev, so the sound of the album is the sound of the band.

Q7: それにしても、これほどエモーショナルなプログ・ミュージックはめったにお目にかかれないですよ!
OPETH, CAMEL, PORCUPINE TREE, RUSH といったバンドからの影響に、あなたたち独自の感情的な爆発が加えられて傑出した作品となりましたね?

【ORI】: ありがとう!僕たちは、インスピレーションを与えてくれるあらゆる音楽アーティストから、好きな要素を取り入れているんだよ。そうすることで、僕たちの感情を揺さぶる音楽言語が生まれるんだよね。
Ori はクラシック音楽のピアノ教育を受けてきたから、ショパンのメロディーやラフマニノフのドラマの盛り上がり、クライマックスに影響を受けているのがわかると思う。CAMEL や PORCUPINE TREE のメランコリー、OPETH の複雑さと激しさ、そして SNARKY PUPPY やEsperanza Spalding にインスパイアされたジャジーなハーモニーも聴くことができると思う。
アルバムは Ori と Yogev によるセルフプロデュース、ミキシング、マスタリングだから、このアルバムの音がそのままバンドの音だと捉えてもらっていいと思うな。

Q8: I recently interviewed a British prog band called Azure, and they said “We See ‘Prog’ As a Genre Where Anything Can Happen, Whether It Be The Dramatic Fantasy Storytelling And Guitar Harmonies Of Iron Maiden, Or The Slithering Shred Melodies Of Steve Vai, Or Even The Sugary And Bouncy Energy Of The 1975”. So, What does “prog” mean to you?

【ORI】: For us, “Prog” is mind-bending music that moves you emotionally and breaks your brain logically. It can incorporate any genre.

Q8: 最近、英国の AZURE というバンドにインタビューを行ったのですが、彼らは “プログを何でも起こり得る音楽” と捉えていると話していましたよ。

【ORI】: 僕たちにとって “プログ” とは、感情を動かし、論理的に脳を破壊するような、心を揺さぶる音楽だよ。そして、どんなジャンルでも取り入れることができる音楽だ。

EIGHT ALBUMS THAT CHANGED MENTAL FRACTURE’S LIFE

ORPHANED LAND “MABOOL”

A mediterranean metal masterpiece, where each song has a musical narrative and climax, and shows that metal can make you feel very happy too. This album really opened my mind to oriental and jewish music.

地中海メタルの傑作。音楽的な物語とクライマックスがあり、メタルがとても幸せな気分にさせてくれることを教えてくれる。このアルバムは、僕の心をオリエンタルとジューイッシュ・ミュージックへと導いてくれた。

MAJOR PARKINSON “SONGS FROM A SOLITARY HOME”

I never thought music can be this chaotic and coherent at the same time. They craft melodies and rhythms like no other band I know of and they are my favorite band to this day.

音楽がこれほど混沌とし、同時に首尾一貫したものになるとは思ってもみなかった。他のバンドにはないメロディーとリズムを作り上げていて、今日までで一番好きなバンド。(ORI)

CELTIC FROST “TO MEGA THERION”

I made my very reluctant parents buy this early extreme metal classic when I was just 5 years old. A quarter century of
listening to extreme metal followed, as I really enjoyed it against all odds.

5歳の時、嫌がる親に無理やり買わせた、初期のエクストリーム・メタルの名作。その後、エクストリーム・メタルを聴くきっかけになったね。

DREAM THEATER “SYSTEMATIC CHAOS”

While it isn’t even my favorite album from the band today, it was my first real introduction to prog metal, and it
melted my tiny teenage mind at the time.

僕のお気に入りというわけでもないけど、プログメタルに初めて触れた作品。10代の小さな心を溶かしてくれたね。(PHILIP)

MAGIC PIE “THE SUFFERING JOY”

Similarly to our album Disaccord, this album discusses psychological and emotional issues of humans. Musically, it has an enormous amount of content, heavy riffs, among soft parts. I believe Magic Pie is one of the most underrated bands out there.

僕らのアルバム “Disaccord” と同様に、このアルバムも人間の心理的、感情的な問題を論じている。音楽的には、ソフトな部分の中にヘヴィなリフがあり、膨大な内容になっている。Magic Pieは最も過小評価されているバンドの一つだと思う。

HAKEN “THE MOUNTAIN”

Brilliant compositions that never get boring through the 70 minutes of the album. The sound and production are just wonderful. This album really opened up my ears to what modern prog can sound like.

70分のアルバムを通して、決して飽きさせない見事な構成。サウンドとプロダクションがとにかく素晴らしい。このアルバムでモダンなプログレとはどんなものなのか、理解したよ。(YOGEY)

PORCUPINE TREE “THE INCIDENT”

An incredible album with unique production and sound design, Gavin Harrison plays very dynamically and has a signature
sound.

ユニークなプロダクションを持つ素晴らしいアルバム。Gavin Harrison の非常にダイナミックな演奏と特徴的なサウンドデザインが秀逸。

HADORBANIM “FIRST AFTER THE SECOND”

I was really inspired by the groove of this album. Its compositions and arrangements are top notch.

本当にインスピレーションを受けたよ。このアルバムのグルーブ感、作曲と編曲は一流さ。(HAI)

MESSAGE FOR JAPAN

We love Japan and its culture and we hope to perform live for you one day! Apart from enjoying the most commonly cited cultural exports (such as games/anime/culinary styles etc.) some of us have recently discovered and fallen in love with Japanese Math Rock.

日本とその文化が大好きさ!いつかライブがやれたらいいね。ゲームやアニメ、料理はもちろん、最近は日本のマスロックにハマっているメンバーもいるんだよ。

MENTAL FRACTURE

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【GHOST : IMPERA】


COVER STORY : GHOST “IMPERA”

People Are Really Working Hard To Destroy Progress And Ultimately Create a Time Machine That Will Set Us Back Hundreds Of Years In Terms Of Mental Evolution. Welcome, Then, To The Age Of Impera.”

WELCOME TO THE AGE OF IMPERA

「再建のためには破壊しなければならないが、だからといってすべてを砂利に均してしまう必要はない」
闇。分断。差別。戦争。非道な指導者たちによって、世界はひとつの巨大な “ゴースト” と化しているように見えます。最新作 “Impera” で Tobias Forge は、ヴィクトリア時代に思いを馳せながら、現代とあの時代に類似したものを見出すのです。
ロンドンのセント・パンクラス・ホテルは美しい建物です。1860年代にゴシック・リヴァイヴァリストの建築家ジョージ・ギルバート・スコットによって設計された巨大な赤レンガの建築芸術作品は、首都の優雅なシンボルとして、絢爛に人々を魅了してきました。
20世紀には、鉄道事務所やコテージとして使用されるなど長い間荒廃していましたが、それでもキングス・クロスを見下ろす大聖堂のようなその存在感は、訪れる人々に様々なインスピレーションを与えてきたのです。
80年代には、イギリスのSF作家ダグラス・アダムスが小説 “The Long, Dark Tea-Time Of The Soul” の中で、この荒れ果てた壮大さをヴァルハラとして完璧に表現しています。その後、1995年に映画化されたシェイクスピアの “リチャード三世” では、サー・イアン・マッケレンの城としてその正面玄関が使用され、華やかさを取り戻したその巨大な階段と入り口は、SPICE GIRLS の名曲 “Wannabe” の舞台ともなりました。
Tobias が GHOST の次のステージを考えたのもこの場所でした。それは帝国の崩壊。物事があまりにも強力になりすぎてそれ自体の重さで崩壊し、その崩壊の中で新しい時代の始まりを告げるという “Big Change” をテーマに据えたコンセプト。Papa Emeritus のシニカルな眼差しで、腐敗と狂気を観察して、時に鋭いメスで時代を切り裂いていきます。
「古い石造りの教会。この建物はそんなゴシック様式の要素に、工業用の梁や錆を取り入れたところが気に入っているんだ」

欧州の暗黒時代を舞台にした “Prequelle”。そのネズミ、疫病、罪人に続くのは、大きな変化が進行しているヴィクトリア朝であるべきだという信念もまた、”Impera” の舞台設定を確立していきました。
「あの時代には多くの変化があった。死ぬかもしれない危険な仕事の多くが、機械でできるようになり、生活が少し楽になったんだ。しかし、それから100年の後、私たちはすべての仕事で人間を段階的に減らしている。そして人間は誰も必要とされなくなっていく。ヴィクトリア時代の多くは、工業主義が人間を段階的に減らしていくという意味で、今私たちが経験していることと似ていると思うんだ
私たちは今、歴史は過去のものであり、現在の生活とこれからの生活はすべて永遠であると信じて生きている。だけどそれは真実ではないよ。もしかしたら、私たちはしばらくの間は機能する社会の基盤を持っているかもしれない。だけど残念ながら、歴史を振り返ると、社会が構築され、そして完成され、完成しつくされるという自然のサイクルがあるんだよね。そして、たいていは崩壊してしまう。
独裁的な社会もまた、崩壊する。独裁者がいるところ、体制があるところはどこでも、しばらくするとたいてい崩壊するんだ。なぜなら、人々は常に自分の立っているところに建物を建てようとするから。そして、大きくなりすぎた塔や高くなりすぎた塔は倒れてしまうだろ?その繰り返しなんだよね。だから、ある意味で、再建のためには破壊しなければならない。でも、だからといって、すべてを砂利に帰してしまわなければならないわけではないんだよ」
“Prequelle” から数百年後の時間軸では、Ghost(新しいスチームパンク風の Nameless Ghouls)が、産業革命、変化、そして崩壊した世界で大活躍しています。宗教的な不寛容、不正、腐敗、殺人が跋扈する一方でまた、楽しい時間、希望、ある種の悟りの追求も花開きました。そしてその光景は、実は今を生きる私たちにとっても見覚えのある風景です。
「この2,3年で、私たちは激しく後退している。過去に起きたこと、遠い昔のことを歌っているような歌詞の内容、ほとんどフィクションのように感じていたことの多くが、今では当たり前のように起きている。人々は、なぜか進歩を破壊し、最終的には精神的な進化を何百年も後退させるタイムマシンを作るためにあくせく努力しているんだ。ようこそ、命令と強制の時代、インペラへ」

帝国といえば、時代錯誤な帝国主義をかかげたロシアのプーチンが世界を混乱に陥れています。
「私たちはずっと、物事の循環性やすべての周期性から距離を置いてきたんだよね。だから、戦争や権威主義の脅威、聖書の怒り、パンデミックのような野蛮で古風な事態が、実際に今もやってくることに、ショックを受ける。私が話そうとしてきた循環性は、最終的に倒れるものと今たまたま重なっている。ロシアは倒れるべき帝国で、そうなるよう願っている。
私自身はノスタルジックな人間なんだ。自分の内面に入るときは、インターネットが普及する前の時代の、あらゆる責任から遠く離れたところにいるんだ。ステレオをかけながら VHS の映画を見て、座って絵を描いている。そこが私の安全な場所なんだ。
同じように世界の反対側には、灰色の空と旧ソ連を夢見る男がいて、彼はKGBの将校で、もしかしたら人の腕を折ることにもう目的意識を持ったのかもしれない…彼が何をしたかはわからないけど、たぶんそこが彼の幸せな場所で、全然違うけど、同じように私は93年の夏が僕の幸せな場所の一つだったんだ」
現実の GHOST 帝国は、崩壊とは程遠い状況です。SSEアリーナ、ウェンブリーでヘッドライナーを務め、マーチャンダイズは1時間以上の長蛇の列。4月の英国公演では、さらに大きなアリーナ、The O2に乗り込む予定。そして VOLBEAT との米国共同ヘッドラインツアーを迎えます。コントロール・フリークなどとも揶揄される Tobias は始めたくてしかたがありません。
「私のようなクリエイティブな人間は、何かを完成させたとき、いつも少しふさぎ込んでしまうんだ。レコードを作るときは、とてもいい気分なんだ。だけど突然、もうこのレコードは好きじゃないと思うようになってしまう。何ヶ月も一生懸命作ったのに、もう嫌になっちゃうんだ。だけど、レコードが発売されると、大抵はそれが変わるんだよね。自分の手から離れるからね。ある人にとっては、運命的なものになる。それはとてもいいことだと思う。自分の子供が成功するのを見るようなものだよ」

“Impera” の誕生は予定より遅れました。2020年3月、メキシコシティでの公演を最後に “Prequelle” のツアーが終了すると、トビアスはそのままスタジオに入り、その後3ヶ月ほど集中的に作業を行い、残りの期間を家族と過ごすため長期休暇を取る予定でした。彼はそれを “禁欲の1年” と呼んでいます。パンデミックで物事が止まり始めても、GHOST は軌道に乗っていました。Tobias は自宅のスタジオで作曲を行い、超生産的で、いずれはレコーディングのためにスタジオに入る準備を整えていたのです。しかし、パンデミックから日常への復帰が遠のくにつれ、計画はますます曖昧になっていきました。
「ああ、夏だ。本来なら今レコーディングするはずだったのに…という感じだった。私と家族にとっては素晴らしい年だったよ。一緒に遊べるようになったし、過去10年間よりもずっと多くの時間を一緒に過ごすことができたからね。でも、私個人としては、少し不満があったんだ。クソッ、レコーディングをするべきだ!仕事をするべきだ!ってね。もちろん、本当に苦労した人が多かったから、苦労したとは言いたくないけど、クリエイティブな面でちょっと時間がありすぎると、それは私の趣味じゃないんだよ。私は常に締め切りがあるのが好きなんだ。ある種の終わりがあるのが好きなんだよ」
遂に完成をみた “Impera” は、”Call Me Little Sunshine” や “Hunter’s Moon” で伺えた通り、ロックやメタルの輝かしい栄光すべてを GHOST 流に表現しつくしています。70、80年代AORの巨大で真摯なサウンドを片手に集め、もう片方の手で、砂糖のトッピングを施したダークで不吉な破滅の感覚を扱っているのです。Papa は、ある瞬間、甘くリスナーを魅了し、次の瞬間には唸りながら毒の刃を繰り出します。この二面性こそが GHOST の真髄。ただし、”Impera” がコンセプト・アルバムでありながら、一般的なコンセプト・アルバムとは異なることを、我々は理解しておく必要があるでしょう。
「私のアルバムは決して KING DIAMOND のようなコンセプチュアルなものではないことを理解してもらう必要がある。物語で始まり、物語で終わるようなものでは決してないんだ。ロックオペラではないんだよ。他のアーティストに例えるなら、IRON MAIDEN のコンセプト・アルバム、つまりファラオや時間の概念にゆるやかに触れるようなレコードに近いんだよね。”Powerslave” では、厳密にはファラオについてではない曲もある。あるいは “Somewhere In Time” のように、曲の中に年代的な要素が含まれているものも。”Impera” も同様で、帝国の中の様々なものに光を当てているような感じなんだ。その内側にある亀裂を見せるというのかな」

Tobias は作品の裏テーマを “ダーク・シット” と呼んでいます。例えば、”Respite On The Spital Fields” では、切り裂きジャックにまつわる恐怖を検証することにしました。殺人自体よりも、その後長くロンドンに与えた影響、恐怖について。
「彼は捕まることなく、スピタルフィールズとロンドンの人々に多大な不利益をもたらした。殺人をやめてからもずっとね。つまり、人々は彼が殺人をやめたとしても、再び殺人を犯さないという確信が持てなかったんだ。特に女性の間では、また同じことが起こるかもしれないという恐怖がその後長い間あったんだよね。彼がどこに隠れているのか分からない。何が起こったかわからないんだから……」
GHOST のテーマを導くやり方は、一歩引いたところから、大きな絵として描かれることが多いのです。例えば、”Kaisarion”(実際はヴィクトリア朝ではなく、古代アレクサンドリアが舞台で、多大な犠牲を払って変化を強いるという概念を表象)。FOO FIGHTERS のようなメロディアスでシアトリカルな波に乗って疾駆する Papa Emeritus IV は、古いものの灰から帝国を築きあげていると誇らしげに宣言しています。その言葉は、過去10年間で最も大きな、そして今もなお目覚ましい成長を続けているロックバンドのひとつ GHOST の姿と見事にシンクロしているようにも思えます。そして実際、この曲は古い世界の不寛容と、古いものを力づくで置き換える、あるいは消し去ることについて歌っているのです。
「古代のアレキサンドリアにシーザリウムという建物があった。そこで教師であり哲学者であったヒュパティアがキリスト教徒に殺害された話。異教徒でありながら、科学を信じていた彼女は、建物の中で暴漢に遭い、殺されたんだ。キリスト教の初期の段階で、まだただの狂気じみたカルトだった頃の話。聖書が325年にローマ人によってまとめられ、その宗教を利用するため委任を受ける前のこと。まだテロリストや地下組織のようなもので、賢い女性が説教したり、世界が平らでないことを人々に話したりするのを見るに耐えられなかったのだろう。同時に起こったことではないけれど、アレクサンドリアの大きな図書館も焼き払われた。これは、知識や歴史的な記録という点で、人類にとって莫大な損失だったに違いないよね。腐った大義のために。
これを現代に置き換えれば象徴的だよ。焚書坑儒、石打。平らな地球という固定概念と一致しないものをすべて殺してしまうような、ある種の人々が住んでいる場所は今でもある。あるいは、国会議事堂を襲撃して、人々を吊るし上げようとする場所も。常に賢さや啓蒙、思考をターゲットにする、そういった “反知性” 運動の象徴なんだよ」

二極化、分断も現代が抱える根深い問題の一つ。実際、メタルのファン層も、BLUE OYSTER CULT の血を継ぐポップな GHOST の音楽、そしてその成功に対して二極化する傾向にあります。
「私たちがかつてやっていたことを今、人々が懐かしみ、そして数年後には今やっていることを懐かしむようになる。そんなものだよ。今、世の中には危険や安全に関するさまざまな情報が錯綜していて、一方では自分の身の安全に不安を感じている人たちがいる。だけど、一方では、予防接種を拒否する人たちがいて、彼らは会場に入れないからと、会場の外に立っているんだよね。私はただ、そんな世界で人々がつながって、音楽で体を揺らす手助けがしたいだけなんだ」
絢爛に。ゴージャスに。そのポップなセンスを最大限に開花させたアリーナ用のアルバムで、一層際立つのは達人の美技。
「演奏に関しては、私はちょっとした何でも屋だから少し客観的な視点に近いものを持つことができる。ドラムもベースもギターもできるからね。だけど、名人芸があるわけではないんだよ。だから今回は、別のギタリストに来てもらってすべてをやり直すという大仕事をお願いした。私はずっとギターを弾いてきたけど、売れっ子バンドにいるようなギタリストとは違って、ツアーをしながら弾くんだよ。だから、作曲を再開したり、デモを作ったり、プリプロダクションを作ったりするたびに、覚え直さなきゃならない。
例えば、ツアー中、私はほとんどドラムを叩いているんだ。実は裏のリハーサルルームでウォームアップを兼ねてやっているんだよ。毎日の練習でドラムは1時間叩くんだけど、ギターはつい忘れてしまう。それでちょうど、友人の Fredrik Åkesson(TALISMAN, OPETH)があいていてね。彼は毎日5時間演奏しているような人だよ。とても素晴らしい才能の持ち主さ。見事にやってのけたよ」
GHOST の成功は、時代に逆行したからかもしれません。
「バンドの名前に文章を使ったようななんとか “コア” みたいなバンドはすべてクソだったから、すごく疎外感を感じていたんだ。新しい人、今の人、同年代の人はでも、そのおかげで大量のチャンスを得ていた。羨ましく思った…私はいつも変わった子のように感じていた…だからメインストリームに敢えて寄っていったのかもしれないね」

Tobias は、Nu-metal にもアレルギー反応がありました。
「GHOST が登場した時、オカルト・ロックと関係づけられたのはうれしかったな。あまり言及されないと思うけど、私の好みは NEGATIVE PLANE みたいなバンドなんだ。数年前に少し復活した古いバンド、GORGUTS もね。彼らの “Colored Sands” のレコードは本当にクールだった。つまり、私の趣味はオールドスクールなんだ。94年に Nu-Metal が本格的に登場し始めて以来、アレを示唆するものにはアレルギーがある。残念ながら、94年から今日に至るまで、このジャンルはずっと続いているんだけどね。私が好きなバンドは、たいてい87年のデスメタル・バンドのようなサウンドだよ。残念ながらね。
メタルに関しては、実はかなり保守的なテイストなんだ。新しいものがあまり好きじゃなくて、ここ20年で好きになった新しいデスメタル・バンドもいつもとても後ろ向きで、ある意味伝統的なものばかりだった。あとは、人生を通して、私はいつもポップ・ミュージックをとても受け入れてきたんだ。GHOST のレコードはいつもたくさんの…影響を受けている。自分が聴くものならほとんど何でもね。まあ、それでもネガティブになるのは嫌だから、音楽にかんしてはオープンでいようとはしてるけど」
GHOST の怒りの対象は、トランプ時代のマイク・ペンス元副大統領のような “Grift Wood”(”流木とGreed をかけている)です。正義や善を説きながら、自分たちの地位向上のためなら、どんなに汚くても、どんな犠牲を払っても、目的を達成する人たち。
「この曲は、彼のように、自分のために働いてきたものをすべて汚しても構わないと思っている人たちのことを歌っているんだ。彼らは間違いなく、地獄行き最前列の切符を手に入れる資格がある。それが彼らの信念なのだから、とても皮肉なことだよ。結局彼らは、自分を卑下し、誰かのケツからクソを食って生きている。彼は強い信仰心を持っていると信じているけど、とにかく酷い、酷い人間なんだ。自分は神に仕えている、善良な側の人間だと世間に言いふらそうとしている。しかし、結局のところ、彼が望んでいるのは権力だけなんだよ。でも、それは必ずしも彼だけじゃない。彼のような人は、歴史上、多くの政治家、多くの説教師、聖職者に存在するんだからね」
歴史があれば、現在があり、未来があるはずです。”SLAYER meets Missy Elliott” と言われ、KILLING JOKE が “Eighties” で1980年代の過剰を皮肉ったやり方を踏襲した “Twenties” は、世界恐慌で終わり第二次世界大戦の土壌となった1920年代を注意深く観察しています。その冷酷な楽観主義による乱れ打ちを Tobias は “激励” と同時に “パラドックス” だとも言います。
「あの曲は超攻撃的な歌詞で、とても敵対的なんだ。激励の意味もあるけど、基本的には聴く人を卑下し、公然と憎悪している。ポジティブな空気だけでなく、毒のある空気も約束されているんだよ。しかも、それを “ありがとう” と言うべき贈り物にしてね。この2、3年、私たちが見てきた多くのデタラメと同じだよ」

Tobias の観察と考察はシニカルなものであるかもしれませんが、同時に彼は希望も抱いています。
「私が一人の人間として行いたい重要なことは、光を当てて、物事の流動性を見ることなんだ。どこの国でも何らかの形で、直線的な宗教(一度生きて、死んで、あの世に行く)を信奉している。それは私たちにとって本当に、本当に、本当に悪いことなんだよ。なぜなら、人生はひとつしかなくて、ただ自分の人生を生き、最後には死後の世界に行くと信じさせてしまうから。みんながその価値観で生きてしまう。ある種の現状維持、つまり、物事は変わらないと信じてしまう。だけど、全ては持続可能ではないんだよね」
必要なのは、根こそぎ破壊するのではなく、時代遅れで機能しなくなった現状を脱皮しながら、自然に成長し、進化し、突き進むこと。
「私は、ネガティブなことをたくさん考えるのと同じくらい、実はポジティブなことも考えているよ。自分の希望や信じるものに対して、実はとてもポジティブなんだ。物事はもっと良くなると思っている。つまり、クソみたいな帝国は滅び、良い帝国が台頭してくると信じているんだ。生き残り、愛し合おうという意志は、すべてを破壊しようという意志より実は大きい。そう信じているんだ」

参考文献: KERRANG! :Ghost: “You have to destroy to rebuild, but that doesn’t mean you have to level everything into gravel”

LOUDWIRE: GHOST Tobias Forge allergic to Nu-metal

MIXDOWN:Tobias Forge looks into the bright future of Ghost with measured confidence

BLABBERMOUTH:GHOST’s TOBIAS FORGE On MIKE PENCE’s ‘Pursuit Of Power’: ‘It’s One Of The Most Evil Things I’ve Ever Seen’

日本盤のご購入はこちら。UNIVERSAL MUSIC

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AZURE : OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTOPHER SAMPSON OF AZURE !!

“We See ‘Prog’ As a Genre Where Anything Can Happen, Whether It Be The Dramatic Fantasy Storytelling And Guitar Harmonies Of Iron Maiden, Or The Slithering Shred Melodies Of Steve Vai, Or Even The Sugary And Bouncy Energy Of The 1975.”

DISC REVIEW “OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS”

「IRON MAIDEN と GENESIS を聴いて育ったから、プログレッシブ・ミュージックがすぐに好きになり、ギタリストの Galen Stapley と出会う頃には、キャッチーなコーラスがたくさん入ったクレイジーでハイエナジーなプログを作る準備がお互いに整っていたんだよね」
プログレッシブ・メタルは、興味深い二面性を持っています。その血統からサウンドもテーマもダークであることが要求され、荒々しく、千変万化の野獣を召喚していく一方で、かつてプログの巨人たちが纏っていた光、希望、平和、喜びのファンタジーをも当然しなやかに受け継いでいます。この二面性を今、最も巧みに表現するのが、昨年の英 Prog Magazine 読者投票で最優秀 “未契約” バンドの座を勝ち取った英国の蒼、AZURE です。
「自分たちを “アドベンチャー・ロック”、”アート・ロック”、”ファンタジー・プログ” と呼ぶこともあるし、友人たちからは “フェアリー・プログ” と呼ばれることもある。これらのレッテルは全て良い感じだよ! 僕たちは冒険に行くための音楽を作っていて、そこにはたくさんの魔法が関わっているし、それでも現代的で個人的なものもあるんだよね」
Steve Vai や John Petrucci も真っ青の驚嘆のギター・ワーク、Bruce Dickinson と Claudio Sanchez の中道を行く表情豊かなボーカル、そして大量のポップなメロディーと豊かなシンセが組み合わされ、彼らの冒険的で幻想的なプログ・メタルは完成します。冒険に付き物の闘い、呪い、毒殺など、時に暗い物語、ダークなトーンを扱っているにもかかわらず、彼らの音楽には、ドラマと芝居が重なるブライトで煌めくような個性が宿っています。そして、その二面性は彼らにとって “プログ” の定義である多様性、音の正十二面体によって構成されているのです。
「僕たちは “プログ” を、IRON MAIDEN のドラマチックなファンタジーの物語とギター・ハーモニーであろうと、Steve Vai のそそり立つシュレッドのメロディであろうと、The 1975 の甘く弾けるエネルギーでさえ、何でも起こりうるジャンルとして捉えているんだよね」
“Self-Crucifixion” はその象徴でしょう。CHON を想起させるアップビートな数学的愉悦を前面に押し出しながら、重い十字架を背負う曲名と歌詞は著しくダークなテーマを表現。同時に、モダンな中に80年代の光彩や美技を織り込むのも彼らのやり方。Vai から Yngwie に豹変するような Galen の妙技は、楽曲に歓びを伴うタイム・パラドックスをもたらしています。加えて、時に Kate Bush や Andre Matos さえ思わせる表情豊かな Chris の歌声は、リスナーに中毒性を植え付けながらリピートを加速させるのです。
一方で、鍵盤奏者 Shaz Dudhia は、 “A Sailor Will Learn” や “Outrun God” で 8bit の異世界を創造し、AZURE のプログを大海原へと解き放っていきます。そしてとどまることを知らない 彼らの青い海は “The Jellyfish” で The 1975のようなインディーポップを、”Ameotoko I – The Curse” で敬愛する J-Rock や JRPG までをも飲み込みプログの新たな波を発生させていくのです。押し寄せるは、DREAM THEATER や PAIN OF SALVATION に初めて出会った時を思い出させる圧倒的な陶酔感。
ミキシングとマスタリングは、SLICE THE CAKE の Gareth Mason と Jonas Johansson が担当。何層もの楽器と様々なダイナミクスを一つもかき消すことなく、インパクトのあるプロダクションを実現しています。
今回、弊誌では、シンガー Christopher Sampson にインタビューを行うことができました。「J-Rock バンドや、そのシーンの多くのプロジェクトに大きな愛着を持っているんだよね。
Ichikoro は素晴らしいし、ゲスの極み乙女や Indigo La End など、僕たちが好きな他のバンドともリンクしている。あと、僕たちは日本のメタルやパワーメタル・シーンも大好きで、GALNERYUS、Doll$Boxx、UNLUCKY MORPHEUS といったバンドを定期的に聴いているんだよ」 どうぞ!!

AZURE “OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STAR ONE : REVEL IN TIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ARJEN ANTHONY LUCASSEN OF STAR ONE !!

“I See It As My Role As a Musician To Offer Escapism”

DISC REVIEW “REVEL IN TIME”

「STAR ONE は AYREON とは逆で、ギターリフをベースとしている。そして STAR ONE はもっとストレートな音楽なんだ。クラシカルでもないし、アコースティックもない。ストレス発散の時間だよ!」
自称、長身痩躯のヒッピー。オランダが生んだプログ・メタルの巨匠 Arjen Anthony Lucassen は GENTLE STORM, STREAM OF PASSION, GUILT MACHINE など数多のプロジェクトで、そのつど自身の様々な音楽的宇宙を探求し、知的欲求を満たしてきました。それが可能になるのも、ほとんどが壮大な2枚組で複雑にストーリーが絡み合う、さながらメタル世界の “スターウォーズ”、AYREON という母船が存在しているから。
「Bruce Dickinson は AYREON のアルバム “Universal Migrator” での私たちの共同作業をとても気に入ってくれて、私と一緒にアルバムを書いてレコーディングしたいと言ってくれたんだ。それで曲作りを始めたんだけど、その時、私は素直にこのことをインターネットに書いてしまったんだ。そのニュースはすぐに広がり、Bruce のマネージャーである Rod Smallwood にも伝わってね。彼は、私がそんな早い段階でこのプロジェクトの話をしたことを面白く思わず、プロジェクトをキャンセルしてしまったんだよ」
Bruce Dickinson との蜜月からはじまった “Space Metal” STAR ONE とは、AYREON のハイエナジーなプログ・メタル、その側面にフォーカスし、より掘り下げて表現したプロジェクト。映画を愛する Arjen は、自分の好きな映画、それもSFやファンタジーについての感想や感情を表現する場として STAR ONE に乗り込んでいます。ただし、これまでの “Space Metal” では、”スターゲイツ” や “スターウォーズ” といった遥か彼方の宇宙を探索したのに対して、今回はもう少し地球に寄りそい、”時間旅行” に端を発するディストピアや近未来的な映画をテーマとしているのです。
これまで STAR ONE では、Russell Allen や Floor Jansen のような才能あるメンバーが中心となってハーモニーを奏でてきましたが、今作では “One Song, Two Singers” を掲げた二枚組のアルバムとなり、さらに Arjen の世界中の最高のギタリストと仕事がしたいという野望を叶えるため乗組員の数は大幅に増加。多様な才能と名人芸を味わえる、ボリューム満点の壮大な宇宙メタルがここに完成をみたのです。
オープナー “Fate of Man” は、”Universal Migrator” サーガ第2弾で私たちが愛した要素をそのまま抽出したような、速く、重く、メロディックな幕開け。カナダのメタルバンド UNLEASH THE ARCHERS の Brittney Slayes が STAR ONE の世界に新鮮な声をもたらし、映画 “ターミネーター” の残像を伝えます。同時に、SYMPHONY X の Michiel Romeo は、壮絶なギターリードで T-800 の残忍な道を切り開いていきました。
次のトラック “28 Days” は、同じく SYMPHONY Xの Russell Allen が “ドニー・ダーコ” の複雑な物語を語るために歌詞を提供し、楽曲に説得力を付与します。ジェットエンジン、タイムトンネル、バニースーツのドロドロとしたカオスはドロドロとした楽曲に移行して、ドニーの奇妙な人生の最後の28日間を十分に表現しています。
3曲目の “Prescient” は、AYREON らしい伝統的なシンセと半ケルト的なメロディーで始まった後、映画 “プライマー” の物語となり、2人の主人公、エイブとアーロン を Michael Mills (TOEHIDER) と Ross Jennings (HAKEN) が見事に演じきりました。この曲のデュエットは、かつての “Human Equation” を想起させ、二人のアカペラパートが何層にも重なっていて、リスナーの脳内を駆け巡ります。
次の “Back From The Past” では、Jeff Scott Soto と Ron Thall の SONS OF APOLLO 組が暗躍し、1985年にタイムトラベル。若き日のマクフライの様に、デロリアンが午後10時4分に線を越えなければならないと訴えます。素晴らしいアレンジに素晴らしいミュージシャンシップ。
Steve Vai がメタルを弾く、今となっては珍しいタイトル曲の冒険の後訪れる “The Year of 41” はアルバムのハイライトでしょう。1941年、真珠湾攻撃を阻止するため、米海軍の乗組員がわずかな可能性に賭ける映画 “ファイナル・カウントダウン” にインスピレーションを得た楽曲。Joe Lynn Turner が Jens Johannson と再びタッグを組み、WHITESNAKE の偉大なる Joel Hoekstra を引き連れ軍艦に乗り込みました。AYREON 世界が素晴らしいのは、魔法のようにスペシャルな組み合わせが実現するファンタジー・ワールドであるところ。”41″ のミュージシャンシップは並外れていて、アルバムの中でも本当に傑出しています。特に Joe Lynn Turner の変わらぬ歌声、変わらぬメロディー。Arjen の RAINBOW に対するリスペクトが詰まった楽曲で、70の老兵は老いてますます盛んです。
まさに10年待った甲斐がある傑作。Arjen ならではの完成された作品であり、アグレッション、多様なボーカル、リリックと名人芸のイマジネーションに溢れた、中毒性の高い時間旅行。今回弊誌では、Arjen Anthony Lucassen にインタビューを行うことができました。「何というか、私はひどい反社会的な引きこもりなんだよね。恥ずかしながら、私は砂の中に頭を突っ込んでいるようなものでね。世の中で何が起こっているのか、まったくわからないし、知りたくもないんだよ。人間の言動が腹立たしいからだよ。そして、私は結局、人のひどい行動に対して何もできないんだ…」 それでも我々は、ディストピアをテーマとした彼の真意を汲み、行間を読むべきでしょう。二度目の登場。 どうぞ!!

STAR ONE “REVEL IN TIME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE KOREA : VORRATOKON】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YURI LAMPOCHKIN OF THE KOREA !!

“Right Now, We Are Feeling Like Musicians On Titanic, Who Continued To Play For The People In Their Darkest Hour, But We Want To Let Our Music Speak For Us.”

DISC REVIEW “VORRATOKON”

「僕たちのような音楽が流行りはじめたのは、00年代にローカルなバンドがメタルコアや Nu-metal に影響されたヘヴィな音楽を演奏し始めたのが最初だったと思う。ただ、国境を越えて音楽を届けるには常に問題があったんだけど、ストリーミング産業、特に Spotify や Apple Music といった大手が登場すると、それがずっと簡単になったね」
古くは ARIA や GORKY PARK、長じて EPIDEMIA や ABOMINABLE PUTRIDITY など、ロシアにはメタルの血脈が途切れることなく流れ続けています。ただし、その血管が大動脈となり脈打ちはじめたのは、00年代の後半、メタルコアや djent の影響を受けたテクニカルで現代的なメタルが根付いてからでした。モダン・メタルの多様な創造性は、ギタリスト Yuri Lampochkin 曰く “あらゆる音楽を聴く” ロシアの人たちの心にも感染して、瑞々しい生命力を滾らせていったのです。
仮面のデスコア怪人 SLAUGHTER TO PREVAIL のワールド・ワイドな活躍はもちろん、ギターヒーローとして揺るぎない地位を獲得した Sergey Gorvin、独自のオリエンタル・メタルコアでプログレッシブのモーゼとなった SHOKRAN、複雑怪奇と美麗のマトリョーシカ ABSTRACT DEVIATION など、10年代初頭、我々は芸術的 “おそロシア” の虜となっていきました。THE KOREA もそんな文脈の中で光を放つバンドの1つ。当時、Bandcamp で “Djent” タグを熱心に漁っていた人なら知らない者はいないでしょう。
「音楽で最も感動的なことのひとつは、常に新しい方法を探して、美しいもの、本当にパワフルなものを作り、自分の音や自分の音楽の感じ方を常に進化させることなんだ。僕たちは当時からその感覚を持っていて、今もそれが THE KOREA の原動力になっているんだよ。個人的に影響を受けたのは、これでもだいぶ絞っているんだけど、Jim Root, Jaco Pastorius, Ian Paice, Chester Bennington, Misha Mansoor といったところだね」
THE KOREA が唯一無二なのは、djent と Nu-metal という台風並みの瞬間風速を記録したメタル世界の徒花を、包括的なグルーヴ・メタルと捉え両者の垣根を取り払ったところでしょう。Jaco Pastosius や Ian Paice といったロックやジャズの教科書をしっかりと学びながら、まさにパワフルで美しい “新しい方法” をサンクトペテルブルクで創造しました。
莫大な情報と自由が存在する “西側” の国々でさえ、ハイパーテクニカルな LIMP BIZKIT や 拍子記号に狂った SLIPKNOT、やたらと暴力的な LINKIN PAPK なる “もしも” は考えもしなかったにもかかわらず。そんな “If” の世界を彩るは、雪に政府に閉ざされたロシアの哀しき旋律、それにトリップホップの無垢なる実験。
「僕たちの楽曲 “モノクローム(Монохром)”では、世界における暴力、特に戦争に終止符を打つことについて話している。戦争はもう、僕たちの生活の中にあってはならないことで、世界中の人々がそれに気づき、互いに争うことをやめるべきなんだよね。この曲は1年以上前に書かれたものなんだけど、まさか最近の出来事とこうして結びついていくなんて、僕たちには想像もつかなかったよ」
ロシア語で “耳を傾ける” を意味する最新作 “Vorratokon” はそんな彼らの集大成。戦争を引き起こしたロシアの中にも平和と反戦を願う “優しい” 人たちが存在すること。我々はそんな小さな声にもしっかりと傾聴すべき。奇しくもそんな祈りがタイトルから伝わってくるようです。
「僕たちの国にとって、残酷と不正のトピックは特に重要なんだよ。だけどロシアの社会は、明らかな問題を認識して解決し始めるレベルにもまだ達していないんだ…」
かつて、弊誌のインタビューで同じくロシア出身のチェンバー・デュオ IAMTHEMORNING はこう語ってくれました。もしかしたら、ロシアの中には戦争賛同者が想像以上に多く存在しているのかもしれません。しかし、その一つの意見を切り取ってロシアの総意のように発信するのは明らかに間違いです。
「俺たちは残忍な音楽を演奏しビデオには武器も出る。だけどどんな戦争にも反対だ。ウクライナで起こっていることにとても傷ついている。どうかロシア国民全体を共犯者だと思わないで欲しい。皆の頭上に美しい、平和な空が広がりますように」
SLAUGHTER TO PREVAIL、Alex Terrible の言葉です。こんな考えのロシア人もまた少なくないはずです。政治はともかく、少なくとも音楽の、芸術の世界では Yuri の願い通り私たちは “壁” を作るべきではないでしょう。
今回弊誌では、Yuri Lampochkin にインタビューを行うことができました。「今、僕たちはタイタニック号のミュージシャンのように、最も暗い時にいる人々のために演奏を続けているような気分なんだ…僕たちの音楽が僕たちの心を代弁してくれたらいいんだけどね」こんな時期に、こんな状況で本当によくここまで語ってくれたと思います。どうぞ!!

THE KOREA “VORRATOKON” : 9.9/10

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