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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DILEMMA : RANDOM ACTS OF LIBERATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH COLLIN LEIJENAAR OF DILEMMA !!

“I Believe That Prog Music Should Not Only Be Clever And Virtuoso, But Also Moves Your Emotions And Your Heart. And It Should Surprise You, Taking You On a Musical Journey.”

DISC REVIEW “RANDOM ACTS OF LIBERATION”

「オランダ人はいつも交易と開拓を掲げてきたよ。この精神は、音楽にも反映されているんだ。なにせオランダのプログシーンは小さいから、成功を収めたいなら手を広げなければならないんだ。だからこそ、オランダのプログロックバンドはよく世界的な注目を集めるんだろうね。」
オランダに根づく交易と開拓の精神は、文化、芸術の歩みをも伴うこととなりました。そしてそのスピリットは、”交易” と “開拓” を音で体現するプログレッシブロックの海原と無謬にシンクロしているのです。
FOCUS, EARTH & FIRE, TRACE, KAYAK, AYREON, TEXTURES, VUUR。潮風の交差点で脈々と重なるダッチプログの渦潮は、DILEMMA を呑み込み、23年の長い間仄暗き水の底へと沈めました。しかし、90年代に素晴らしき “Imbroccata” でプログシーンに深々と爪痕を残した船乗りたちは甦り、遅れて来た大航海時代 “Random Acts Of Liberation” で文字通り自由を謳歌するのです。
ただし、乗組員は船長の鍵盤奏者 Robin Z を除いて大きく変化を遂げています。特筆すべきは、Neal Morse, KAYAK との仕事でも知られる百戦錬磨のドラマー Collin Leijenaar と、ex-FROST*, DARWIN’S RADIO の Dec Bruke を加えたことでしょう。オランダでプログ雑誌のライターも務める Collin の理想と、FROST* の血脈に繋がる Dec の個性は、バンドを一際カラフルでアクセシブルなプログレッシブポップの海域へと誘うこととなりました。
「プログロックはただクレバーでバーチュオーソ的だけであるべきではないと信じているんだ。同時に感情や心を動かすべきだってね。そうしてそこには驚きや音楽的な旅への誘いがあるべきだってね。人は心の底から音楽と繋がる必要があるんだよ。」
実際、Collin のこの言葉は、”Random Acts Of Liberation” が強固に裏付けています。
DREAM THEATER の “Pull Me Under” を彷彿とさせる緊張感とキャッチーなメロディーラインのコントラストが鮮やかなオープナー “The Space Between The Waves” が、より”自由”なプログロックの風波としてアルバムの趨勢を占えば、14曲72分の DILEMMA シアターの幕開けです。
“Amsterdam (This City)” を聴けば、一番の理解者 Mike Portnoy が 「SPOCK’S BEARED, FROST*, FLYING COLORS, HAKEN, Steven Wilson と並ぶとても味わい深いモダンプログ」 と DILEMMA を評した理由が伝わるはずです。デジタルサウンドとストリングスを効果的に抱擁する多様で甘やかなホームタウンのサウンドスケープは、Steven Wilson や FROST* が提示するプログレッシブポップのイメージと確かにシンクロしているのです。
“Aether” では PINK FLOYD と、”All That Matters” では ELO とのチャネリングでさらにプログポップの海域を探求したバンドは、しかし12分のエピック “The Inner Darkness” でスリリング&メタリックなルーツを再び提示し対比の魔術で魅了します。
“Spiral Ⅱ” からのシアトリカルに、コンセプチュアルに畳み掛ける大円団は、まさに Neal Morse と Mike Portnoy の申し子を証明する津波。中でも、”Intervals”, “Play With Sand” の激しく胸を打つ叙情、音景、エモーションはあまりに尊く、リスナーの心を “音楽” へと繋げるはずです。
今回弊誌では、Collin Leijenaar にインタビューを行うことが出来ました。時にトライバル、時にジャズ、時に Portnoy の影響を組み込んだドラミングの妙は、アルバムのデザインを華麗に彩ります。「このアルバムでは、プログロックをよりオープンで直接的な表現とすることに成功したと思うよ。プログをプログたらしめている興味深い要素を失うことなく、ポップな感覚を加えているね。」 どうぞ!!

DILEMMA “RANDOM ACTS OF LIBERATION” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SHOKRAN : ETHEREAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW IVASHCHENKO OF SHOKRAN !!

“Oriental Elements Decreased In This Album. But The Compositions Matured, We’ve Gone More Progressive, Less Djent!”

DISC REVIEW “ETHEREAL”

プログレッシブメタルコアのモーゼ、SHOKRAN はジャンルを約束の土地へと導く預言者なのかも知れません。ロシアから世界を窺う指導者は、文字通り天上の美を体現する最新作 “Ethereal” で海を割ります。
ギタリスト Dmitry Demyanenko のソロプロジェクトとして始まった SHOKRAN は、デビューフル “Supreme Truth” で BORN OF OSIRIS の革新にオリエンタルで壮大なサウンドスケープをもたらし、遅れて来た “Djent スター” として一躍脚光を浴びました。
リリース後にはボーカル、リズムギター、ベーシストの脱退という非常事態に見舞われますが、グレードアップしたメンバー、さらにキーボーディストを加え盤石の体制でセカンドアルバム “Exodus” をドロップします。
そうしてバンドは旧約聖書に記された “出エジプト記” をテーマとしたコンセプト作品で、シンセサイザーの煌びやかな響きと、一際エクレクティックなビジョンを携え自らのオリエンタルドラマティックなサウンドを確立することとなったのです。
最新作 “Ethereal” は、メロディーと多様でプログレッシブな方向性をさらに追求し、バンドのドラマ性を飛躍的に高めたマイルストーンです。
「確かにこのアルバムでオリエンタルな要素は減ったと思うよ。だけどコンポジションはより成熟を遂げているね。つまり、僕たちはよりプログレッシブに、Djent の要素を減らして進化を果たしたんだ!」レジェンド THE HAARP MACHINE にも請われて参加することとなったシーンきってのシンガー Andrew Ivashchenko が語るように、典型的な Djent サウンドやあからさまなオリエンタルフレーズを減退させ、”エセリアル” なムードを研ぎ澄ますことで、アルバムは結果として唯一無二のダイナミズム、エピック世界を得ることとなりました。
実際、冷ややかで透明なリードギターとシンセサイザーの景色、ミステリアスなオリエンタルフレーズ、複雑でメカニカルなグルーヴ、スポークンワード、クリーン、グロウルを自在に行き来する声の表現力、全てで荘厳を体現したオープナー “Unbodied” がバンドの DNA をしっかりと受け継ぐ一方で、”Ascension” のサウンドスケープは完璧なコントラストを創出します。
「”Ascension” はアルバムで最も多様な楽曲さ。まさにドラマさ。緩やかに実にメロディックに始まり、メロディーが躍動し始め、アグレッションが加わり、ハッピーなコーラスが流れ出し、突如ヘヴィネスで期待を激しく裏切るんだ。まさに楽曲で最もドラマティックな瞬間だね。そうしてドラマを繰り返し、感情をもたらす訳さ!」Andrew の言葉通り、多幸感や神秘性を抱きしめた夢見心地の崇高美は、メジャー感を伴って SHOKRAN 劇場の素晴らしきアクセントとなっていますね。
そうして SHOKRAN が描く多次元の自己探求は、DREAM THEATER からハチャトリアンまで Tech-metal の粋を尽くした “Superior”、PERIPHERY や MONUMENTS の最新作にも通じるキャッチーさとヘヴィーグルーヴの対比を封じた “Golden Pendant” と、まさにマルチディメンショナルな世界観を提示していくのです。
幕引きは “Destiny Crucified”。ロシアの血が育んだ絶対零度のメランコリーは、ストリングスやアコースティックの蜃気楼を写しながら夢幻泡影のワルツを踊るのです。
今回弊誌では、Andrew Ivashchenko にインタビューを行うことが出来ました。THE HAARP MACHINE の新作についても語る Tech-metal ファン必読の内容だと思います。「今では大きな感情の変化を音楽で表現出来るんだ。僕たちは成熟を遂げ、集団として働けるようになったのさ。」 どうぞ!!

SHOKRAN “ETHEREAL” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PINEAPPLE EXPRESS : ANTHEM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PINEAPPLE EXPRESS !!

“Bollywood” Just Translates To “Mainstream” For Me. Prog Is a Genre That Is Overlooked By The Mainstream Audience. But We Are Trying To Make It Accessible And Enjoyable For The Regular Listener. “

DISC REVIEW “ANTHEM”

“バーフバリ” やボリウッドの成功が象徴するように、桃源郷のようなインドのエンターテイメントは世界中を席巻しています。そして、モダンプログ/メタルの世界においても、インドはもはや目が離せないニューフロンティアとなっています。
PERIPHERY のキャッチーと TesseracT のアトモスフィアを抱きしめる SKYHARBOR、インドの伝統音楽を複雑怪奇に探求する AMOGH SYMPHONY, Bruce Soord, Steve Kitch の知を導入した PARADIGM SHIFT, ダークでオルタナティヴなピンクフロイド COMA ROSSI, そしてもはやベースワールドのトッププレイヤーとなった Mohini Dei。すでに、インドの活況はプログレッシブユートピアの相を呈していますね。
中でも、PINEAPPLE EXPRESS はそのインドのカラフルで煌びやかな悦楽の園を、見事にモダンメタル/プログの世界へと投影したエルドラドです。
「僕たちの音楽が持つポテンシャルを最大限発揮するためには、より多くの要素が必要だと悟ったんだよ。」バンドの創設者でキーボードプレイヤー YOGEENDRA が語るように、インド音楽シーンのハブ都市バンガロールに端を発する PINEAPPLE EXPRESS は、その壮大かつ多様な音楽性を具現化するために、8人のメンバーを揃えることとなりました。
フルートにヴァイオリン、そしてダブル、時にトリプルボーカルとなる豊かな旋律のアンサンブルは、最新シングル “Anthem” のまさにアンセムたる由縁です。そして、インドの伝統音楽から DREAM THEATER、SKRILLEX まで、通過した全ての音楽を等しく愛すると語る YOGEENDRA の言葉通り、モダンプログ/メタルはもちろん、Nu-metal, EDM, マスロック、ジャズ、エレクトロニカ、ヒップホップと涌き出でるその多様性の泉は、言語的ビッグバンをも伴って、圧倒的なフックと高揚感を孕みながらリスナーのエナジーへと変換されていくのです。
さらに、PVの熱狂的なオーディエンスが物語るように、その音楽とライブパフォーマンスが放つ圧倒的なスペクタクル性は、PINEAPPLE EXPRESS こそプログワールドにおける次世代の旗手である証なのかもしれません。
「僕にとって “ボリウッド” という言葉は “メインストリーム” と同義なんだ。そしてプログというジャンルはメインストリームのリスナーから見落とされていると思うんだ。だからこそ、僕たちはプログをよりアクセシブルに、一般的なリスナーが楽しめるように味付けしようとしているんだよ。」彼らはボリウッド成功の秘訣を理解しています。そしてあのゴージャスな浮世絵巻きを愛するプログの世界へと持ち込み、停滞するシーンに活路を見出そうとしているのかも知れませんね。
ただし、EP “Uplift” の複雑極まるオープナー “Cloud 8.9” を聴けば伝わるように、バンドの創造性、ハイテクニック、コンポジションはすでに名だたるプログロースターにも一切引けを取りません。むしろ従来のプログメソッドでも十分勝負可能なアビリティーを備えながら、メインストリーム、一般リスナーを意識した彼らの舵取りは、それこそが真の意味での “プログレッシブ” を体現しているのかもしれませんね。
今回弊誌では、4人のメンバーにインタビューを行うことが出来ました。公開数日での15万再生突破は伊達ではありません。さらに、旬のサウンドマン ARCH ECHO の Adam Bentley がミキシングを手がけたアンセムをぜひ。どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THRAILKILL : EVERYTHING THAT IS YOU】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH WES THRAILKILL FROM THRAILKILL !!

“Labeling Can Only Get Us In Trouble. Every Band Or Album We Come In Contact With Should Be Viewed As It’s Own Entity, To Be Digested As Art.”

DISC REVIEW “EVERYTHING THAT IS YOU”

ハリウッドに居を構える楽器演奏者の登竜門 Music Institute。その過酷な虎の穴とも言える通称 MI で結成され、Instru-metal 道を追求していた MAMMOTH が THRAILKILL と名を改めリリースした “Everything That Is You” は、バンドの過去と現在、そして未来全ての作品を繋ぎ、与えられたギフトへと感謝を捧げる人間讃歌です。
自らが考案した “Cream Theater” の異名を追い求めた黎明期から、ストイックなトリオは音楽の旅を続けています。実際、MAMMOTH として最後にリリースした “Deviations” は、ANIMALS AS LEADERS を思わせるコンテンポラリーなヴァイブと、LIQUID TENSION EXPERIMENT にも通じる Tech-metal の王道、そして THE ARISTOCRATS のジャズ精神を巧みにミックスし、プログメタルシーンのリスナーを思考させ唸らせた快作でした。
ただ、HAKEN との有意義なツアーの後、同名バンドの乱立により改名を余儀なくされた彼らは、ギタリストで中心人物 Wes Thrailkill のラストネーム THRAILKILL を看板として掲げることに決めたのです。
「同じようなアルバムは2枚と作りたくない」と語る Wes の言葉を裏付けるかのように、”Everything That Is You” は MAMMOTH からのさらなる深化を封じる作品です。
「最新作はよりプログメタルにフォーカスした作品だよ。過去には各ソロイストを強調したジャズ/フュージョン寄りのアルバムも作ってきたけどね。」 と Wes は語りますが、彼の言うジャズ/フュージョンとはより個としてのソロイストを強調した作風、そしてプログメタルとはより全体のビジョンを統一した絵画のような作風と理解するべきでしょう。
そのコンセプトを考慮に入れて作品と向き合えば、THRAILKILL の目指す場所がより鮮やかに伝わって来るはずです。
Djent の季節を過ぎ、近年インストゥルメタル界隈では、ロックとジャズを融合させた難解とも言えるフュージョンというジャンルをより多様に、ポップに、現代的なサウンドでハイクオリティーにディフォルメする動きが高まりを見せています。
出自は Djent である INTERVALS や PLINI, さらに OWANE や ARCH ECHO といった超新星までそのカラフルなサウンドに込められた共通項は、知的でありながらキャッチーの粋を集めたその煌びやかなデザインでしょう。
実際、彼らは全て超一流のソロイストを揃えていますが、決して複雑怪奇なリードプレイ、それに “0000” を延々と奏でることはありません。ミニマルとさえ言える印象的なメロディーやリフを膨らませながら、R&B、ポストロックやエレクトロニカ、時にヒップホップまで飲み込んでリスナーにフックの洪水を投げかけるのです。
彼らと比較すれば存分にメタリックですが、THRAILKILL も確かにその大渦の中にいます。実際、”Consciously” でゲストプレイヤー Ryan Cho が奏でるヴィオラの響きがシネマティックなアルバムの幕開けを告げると、そこには Instru-metal のディズニーランドが広がって行くのです。
Final Fantasy のスリルをイメージさせる “Aware”、ポストロックの多幸感がヘヴィーフュージョンと溶け合った “Before”、デジタルの響きがエモーションを加速させる “Everything’s”、TRIBAL TECH のファンクを受け継ぐ “Gone”、そしてマスロックの洗礼を大いに浴びたタイトルトラックまで、躍動感を持った楽曲群はシームレスに繋がりそのエンターテインメント性を解き放っていきます。
一方で、もはや “Dream Rush” のニックネームこそ適切に思える奇想天外なオッドタイムの荒波で、しっかりと舵を取るリズム隊の貢献に触れない訳にはいかないでしょう。特に日本人である Yas Nomura の溢れるフレーズアイデアと巧妙な指捌き、ジャズの鼓動は、和製 Jaco Pastorius の形容もきっと過称ではないはずです。(余談ですが彼はギタリストとしても素晴らしい腕前で、Allan Holdsworth を彷彿させるプレイを聴かせます)
もちろん、ARCH ECHO の Adam Bentley がミキシングを手がけたことも偶然ではないでしょう。今回弊誌では Wes Thrailkill にインタビューを行うことが出来ました。「Yas は日本から来たんだよ。最初僕たちが会った時、彼が話すことの出来た英語は “Dream Theater….” だけだったくらいさ。」 どうぞ!!

THRAILKILL “EVERYTHING THAT IS YOU” : 10/10

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THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2018 : MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2018 : MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1: GHOST “PREQUELLE”

昨年 “最も印象的だったアルバム” の記事にも記しましたが、近年、MASTODON, VOLBEAT, Steven Wilson, PALLBEARER, Thundercat、さらに今年も GODSMACK, ALICE IN CHAINS, DISTURBED, SHINEDOWN など様々なジャンルの旗手とも呼べるアーティストが “ポップ” に魅せられ、レガシーの再構築を試みる動きが音楽シーン全体の大きなうねりとして存在するように思えます。当然、邪悪とポップを融合させた稀有なるバンド GHOST もまさしくその潮流の中にいます。
「JUDAS PRIEST はポップミュージックを書いていると思う。彼らはとてもポップな感覚を音楽に与えるのが得意だよね。PINK FLOYD も同様にキャッチー。ちょっと楽曲が長すぎるにしてもね。」
と語るように、Tobias のポップに対する解釈は非常に寛容かつ挑戦的。さらにモダン=多様性とするならば、70年代と80年代にフォーカスした “Prequelle” において、その創造性は皮肉なことに実にモダンだと言えるのかもしれません。実際、アルバムにはメタル、ポップを軸として、ダンスからプログ、ニューウェーブまでオカルトのフィルターを通し醸造されたエクレクティックな音景が広がっています。
もちろん、シンセサイザー、オルガン、キーボードの響きが GHOST を基点としてシーンに復活しつつあることは喜ばしい兆候だと言えますね。同時に、サックス、フルート、ハグストロムギターまで取り入れたプログレッシブの胎動は “Prequelle” 核心の一部。Tobias はプログロックの大ファンで、作曲のほとんどはプログレッシブのインスピレーションが原型となっていることを認めています。伝統的なプログロック、プログメタルの世界が停滞を余儀なくされている世界で、しかしプログレッシブなマインドは地平の外側で確かに引き継がれているのです。
ウルトラキャッチーでフックに満ち溢れたカラフルなレコードは、数多のリスナーに “メタル” の素晴らしさを伝え、さらなる “信者” を獲得するはずです。
ただし、匿名性を暴かれた Tobias の野望はここが終着地ではありません。多くのゲストスターを揃えたサイドプロジェクトもその一つ。すでに、JUDAS PRIEST の Rob Halford がコラボレートの計画を明かしていますし、これからもスウェーデンの影を宿したメタルイノベーターから目を離すことは出来ませんね。何より、全ては彼の壮大な計画の一部に過ぎないのですから。

READ ENTIER REVIEW & STORY HERE !!

2: YOB “OUR RAW HEART”

スラッジ、ドゥーム、ストーナーのプログレッシブで多様な進化はもはや無視できないほどにメタルの世界を侵食しています。中でも、オレゴンの悠久からコズミックなヘヴィネスと瞑想を標榜し、ドゥームメタルを革新へと導くイノベーターこそ YOB。バンドのマスターマインド Mike Scheidt は2017年、自らの終焉 “死” と三度対峙し、克服し、人生観や死生観を根底から覆した勝利の凱歌 “Our Raw Heart” と共に誇り高き帰還を遂げました。
「死に近づいたことで僕の人生はとても深みを帯びたと感じるよ。」と Mike は語ります。実際、”楽しむこと”、創作の喜びを改めて悟り享受する Mike と YOB が遂に辿り着いた真言 “Our Raw Heart” で描写したのは、決して仄暗い苦痛の病床ではなく、生残の希望と喜びを携えた無心の賛歌だったのですから。
事実、ミニマルで獰猛な2014年の前作 “Clearing the Path to Ascend” を鑑みれば、全7曲73分の巡礼 “Our Raw Heart” のクリエイティビティー、アトモスフィアに生々流転のメタモルフォーゼが訪れたことは明らかでしょう。
作品のセンターに位置する16分の過重と慈愛の融合 “Beauty in Falling Leaves” はまさに YOB が曝け出す “Raw Heart” の象徴でした。甘くメランコリックなイントロダクションは、仏教のミステリアスな響きを伴って Mike の迫真に満ちた歌声を導きます。それは嵐の前の静けさ。ディストーションの解放はすなわち感情の解放。ベースとドラムスの躍動が重なると、バンドの心臓ギターリフはオーバートーンのワルツを踊り、濃密なビートは重く揺らぐリバーブの海で脈動していくのです。バンド史上最もエモーショナルでドラマティックなエピックは、死生の悲哀と感傷から不変の光明を見出し、蘇った YOB の作品を横断するスロウバーン、全てを薙ぎ倒す重戦車の嗎は決して怒りに根ざしたものではありませんでした。
結果として YOB は THOU や KHEMMIS と共にドゥームに再度新風を吹き込むこととなりました。例えば CATHEDRAL の闇深き森をイメージさせるオープナー “Ablaze” ではジャンルのトレードマークにアップリフティングでドリーミーなテクスチャーを注入しドゥームの持つ感情の幅を拡大しています。
そうしてアルバムは僅かな寂寞とそして希望に満ちた光のドゥーム “Our Raw Heart” でその幕を閉じます。人生と新たな始まりに当てた14分のラブレターは、バンドに降臨した奇跡のマントラにしてサイケデリックジャーニー。開かれたカーテンから差し込むピュアな太陽。ポストメタルの領域にも接近したシネマティックでトランセンドな燦然のドゥームチューンは、彼らとそしてジャンルの息災、進化を祝う饗宴なのかも知れませんね。

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3: SVALBARD “IT’S HARD TO HAVE HOPE”

女性の躍動と、多様性、両極性を旨とする HOLY ROAR RECORDS の台頭は2018年のトピックでした。越流するエモーションをプロテストミュージックへと昇華し、英国ブリストルから咆哮を貫く至宝 SVALBARD はまさにその両者を象徴する存在です。熾烈なメタル/ハードコアにポストロックの叙情と風光、ポストメタルの思索と旅路を織り込みさらなる多様化の波動を導いた新作 “It’s Hard to Have Hope” はシーンの革新であり、同時に閉塞した世界が渇望する変化への希望となりました。
確かに “It’s Hard to Have Hope” は怒れるアルバムで、中絶、性的暴力、リベンジポルノ、インターンシップの無賃雇用など不条理でダークな社会問題をテーマとして扱っています。
さらには、「このアルバムは、ステージに女の子が立つことにネガティブなコメントを寄せる人たちに対する私からの返答よ。”女性をメタルから追い出せ!” と言うような人たち、コンサートで女性にハラスメント行為を行う人たち。これは彼らに対する私からの恐れなき怒りの返答なの。」と語るように、女性フロントマンとして Serena が長年メタルシーンで苦しんできたハラスメント行為の数々も、作品の持つ怒りの温度を “フェミニストのメタルアルバム” の名の下に上昇させていることは明らかです。
とはいえ、この類稀なる感情と表情の結晶が、唯一怒りにのみ根ざすわけではないこともまた事実でしょう。実際、Serena はこの作品の目的が “人々にこういった社会的不公平を伝えるだけではなく、なぜそういった問題が起き続けるのか疑問を投げかけることだった” と語っています。「誰が正しいのか互いに主張し合うのを止めてこう尋ねるの。一緒に前進するために何ができるだろう?より良き変化のためお互い助け合えないだろうか?とね。」とも。
そうして世界のターニングポイントとなるべくして示現した “It’s Hard to Have Hope” に、一筋の光明にも思える尊きアトモスフィア、荘厳なる音の風景がより深く織り込まれていることはむしろ当然の進化だと言えるでしょう。
CULT OF LUNA や MY BLOODY VALENTINE のイメージこそ深化の証。そうしてポストブラックの激しさと光明を背負った彼女は悲痛な叫びを投げかけます。「いったい誰が女性を守ってくれるの?」

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BOSS KELOID : MELTED ON THE INCH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL SWARBRICK OF BOSS KELOID !!

“Marijuana Shouldn’t Be Prohibited Anywhere And Should Be Completely Legalised For Cultivation, Medical And Recreational Use. It Should Be a Normal Thing Like Eating a Potato And Part Of The Recommended 5 a Day.”

DISC REVIEW “MELTED ON THE INCH”

香ばしき霞とファズサウンドは心地良き酩酊を。マスマティカルで複雑怪奇なデザインは遥かな叡智を。英国ウィガンに実る罪なるハーブ BOSS KELOID は、その類稀なる両極性と多様性でオーディエンスの中毒症状を掻き立てます。
前作 “Herb Your Enthusiasm” でスラッジとストーナーの風変わりなキメラとして一躍脚光を浴びた破調の怪異は、ROLO TOMMASI, MOL, SVALBARD といった他の Holy Roar ロースターとシンクロするかのように更なるエクレクティックな進化を遂げています。
特筆すべきは、キーボーディスト Matthew Milne の加入でしょう。「キーボードは完璧にバンドへとフィットしたし、今では僕らのサウンドの本質にさえなっているんだよ。だけど、方向性をシフトした訳じゃないよ。言ってみればそれは自然な進化なんだ。」 とギタリスト Paul Swarbrick が語るように、バンドは新機軸と言うよりも、むしろパズルのラストピースとして迎えたレトロな鍵盤の響きを得て、エニグマティックなプログロックの領域をより大胆に探求することとなったのです。
幻想的でアンセミックな旋律、奇想天外なアイデアの波動、そして複雑繊細な感情の妙。プログ由来の素材と調味料をふんだんに使用し、出自であるスラッジ、ドゥーム、ストーナーの香ばしきバンズで挟み込んだ滑らかに溶け合う両極性のサウンドウィッチ “Melted on the Inch” は、そうして実際リスナーに刺激的な幻覚や研ぎ澄まされた感性をもたらす合法的なドラッグなのかも知れませんね。
事実、BOSS KELOID のダイアゴナルな魔法は、オープナー “Chronosiam” ですぐさまリスナーの時空間を歪ませます。
威風堂々のストーナーファンファーレをエントランスに、ハモンドとスタッカートの静謐な小部屋から、フォーキーにスウィングするダンスホール、シンガロングを誘うキャッチーな大劇場まで、多様な時代と背景をシームレスに行き交う進化を遂げたバンドの姿は、まさにダイナミズムの異世界迷宮。そしてそのエクレクティックな地脈回廊は、アルバム全体へと行き渡り胎動していくのです。
レゲエとラスタの多幸感をスラッジストーナーの重量感へ封じた “Peykruve” の実験も、ハーブマスターならではの奇妙でしかし鮮やかなコントラストでしょう。そして何より、PALLBEARER が PINK FLOYD や ASIA への憧憬を隠そうとしないように、BOSS KELOID も “Lokannok” で CAMEL をドゥームの領域へと誘って、伸張するモダンメタルの新たな潮流に一役買って見せました。
「もっとプログ寄りのファンからは、CAMEL, GENESIS, KING CRIMSON を想起させるなんて言われているしね。」 もしかすると、古の巨人が宿したプログレッシブな魂は、ジャンルの後進よりも BOSS KELOID のようなバンドこそが正しく継いでいるのかも知れませんね。
今回弊誌では、Paul Swarbrick にインタビューを行うことが出来ました。「マリファナの使用は、例えばポテトを食べるのと同じくらい普通のことだし、1日に5回摂取するのを推奨するのが我々の務めだ。」弊誌は別に推奨はしません。どうぞ!!

BOSS KELOID “MELTED ON THE INCH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SARAH LONGFIELD : DISPARITY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SARAH LONGFIELD !!

“I’m Just So Happy To See It Getting Normalized. I Remember Starting Out There Were No Women On YouTube Or The Guitar Community, Which Was Always Disheartening.”

DISC REVIEW “DISPARITY”

Fender が行った調査によると、近年新たにギターを始める人の半数が女性であるそうです。その傾向を裏付けるように、Yvette Young, Nita Strauss, Orianthi Panagaris などテクニカルなロックやメタルの世界においてもギターヒロインの存在感、輝きは増す一方だと言えるでしょう。
Sarah Longfield。仄暗く凍える湖と森を抱くアメリカ中西部の最北、ウィスコンシンから登場した25歳の美姫は、さながらギターシーンのジャンヌダルクなのかも知れませんね。
2016年、Guitar World 誌による “世界最高の7弦、8弦ギタープレイヤー15人” の中に選された革新のハイテクニックビューティーは、驚くべきことにチャンネル登録者数20万を超える人気 YouTuber でもあるのです。(Rob Scallon とのコラボレートの数々は秀逸)
「マルチなプラットフォームを築き、ミュージックコミュニティーの様々な側面で名前が売れることは、素晴らしいプロモーションにもなって来たのよ。」と Sarah が語るように、ソロ活動、バンド THE FINE CONSTANT、そして YouTube と新世代らしく現代的なプラットフォームを意欲的に活用することで、彼女は Season of Mist との契約を手にすることになりました。
インタビューで、「私はまずピアノを8歳の時に始めて、それからヴァイオリンを10歳の時に始めたの。遂にギターを手にしたのは12歳の時だったわね。」と語るようにその音楽的素養は実に深くそして多様。弊誌に何度か登場している Yvette Young が似たようなバックグラウンドを持つことも興味深いシンクロニシティーではないでしょうか。
魔女か英雄か。さらにはチェロ、パーカッションまで嗜む才女のエクレクティックな素養とオープンマインドは、メタルの様式、伝統、アグレッションを地図にない未踏の領域へと導くのです。
「最新作は実際、前作とは全く異なるアルバムになったわね。焦点がよりオーガニックなマテリアルにシフトされ、私の持つ様々な影響を探求することが出来るようになったのよ。」 と語る Sarah。つまり、不均衡や差異を意味するタイトルを冠した最新作 “Disparity” は、遂に彼女本来の魅力を余す事なく伝えるマイルストーンに仕上がったと言えるはずです。
人生で初めて手にしたピアノの響きをイントロダクションに、幽玄荘厳、夢見がちでアトモスフェリックな独特の世界はその幕を開けます。”Embracing Solace”。慰めを抱擁する。プログレッシブなデザインからエレクトロニカの実験にジャズの恍惚まで、全てをシームレスに、壮麗優美に、そして時に幽冥に奏でるサウンドスケープは実にユニークかつ濃密。
Kate Bush を想起させる嫋やかな Sarah 自身のボーカルとエモーションを増したギター捌きの相性も極上。自らの音楽旅行を通して経験した光と影はこうして楽曲、作品へと見事に投影されて行きます。
ANIMALS AS LEADERS のショウを見た翌日に書かれたという、ヘヴィーでマスマティカルなデジタルのルーツを探求する “Cataclysm” が Tech-metal、ギターナードの心を激しく打つ一方で、”Departure” のオリエンタルな情緒や “Citrine” のオーガニックなポストロックの音景、”Miro” のアヴァンギャルドなジャズ精神は、二胡やハープ、サクスフォンの導入も相俟って、リスナーをカラフルで刺激的な非日常の絶景へと誘うのです。
今回弊誌では、Sarah Longfield にインタビューを行うことが出来ました。「私は女の子がギターをプレイすることがいたって普通な世の中になってただ本当に嬉しいのよ。」ウィスコンシンの乙女は果たして高潔か異端か。それは歴史が語るでしょう。どうぞ!!

SARAH LONGFIELD “DISPARITY” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COLD NIGHT FOR ALLIGATORS : FERVOR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKOLAJ SLOTH LAUSZUS OF COLD NIGHT FOR ALLIGATORS !!

“You Can Have The Most Unique Mix Of Influences And Gimmicks In The World, But If You Can’t Write a Catchy Or Captivating Piece Of Music, Nobody’s Going To Care.”

DISC REVIEW “FERVOR”

鋭利な牙鰐には冷たい夜を。無機質なテクニックには色彩豊かな旋律を。瑞々しきプログメタルの都コペンハーゲンに郡居する奔放なアリゲーター、COLD NIGHT FOR ALLIGATORS は甘美なるフックとインテンスを同時に捕食しモダンプログの水面を貪欲に揺らします。
「僕たちの音楽はエモーショナルかつ実験的だと紹介したいね。グルーヴィーで風変わりなメタルを楽しむ人にはピッタリさ。テクニカルな要素もありながら、リスナーを惹きつけるフックとメロディーにもフォーカスしているんだよ。」 Nikolaj が語るように COLD NIGHT FOR ALLIGATORS の音楽は実際、肉食獣の貪欲さに満ちています。
ダウンチューンのチャグリズム、エレクトロニカの華麗なダンス、洗練のハイテクニックにシルクのプロダクションは、VEIL OF MAYA や BORN OF OSIRIS が育んだモダンメタルコアの Djenty なニュアンスを漂わせ、一方で感情の泉に湧き出でるエセリアルなメロディーラインと多様なポストモダニズムはバンドの確固たるオリジナリティーをまざまざと見せつけるのです。最新作のタイトル “Fervor” はまさに情熱と創造性の証。
アルバムのムード、デザインを濃縮した “Violent Design” で光と闇の劇場はその幕を開けます。新世代らしい不協和のグルーヴで始まる Tech-metal の獰猛は、しかし神々しきギターラインとクリーンボーカルでその姿を瞬時に変化させました。
緊張と緩和をシームレスに繋ぐ虹色のメロディーは天国への階段でしょうか? THE CONTORTIONIST にも通じる夢幻の回廊は、いつしかアートロックとポップに祝福を受けながら、アップリフトなコードワークとエモーショナルなコーラスワークでリスナーを至上のカタルシスへと誘うのです。
「リスナーをフックやメロディー、楽曲構成に浸れる機会を作りたいんだよ。その上で、リスナーの注意を引く方法の一つとしてテクニカルな要素を散りばめていると言う訳さ。アルバムを通してテクニックにフォーカスするんじゃなくね。」ポストハードコア、プログレッシブ、そして R&B まで織り込まれたフックの魔境 “Canaille” は、”ノン・メタル” な素材を存分に発揮してその言葉を実証するアルバムのメインディッシュだと言えるでしょう。
実際、ヘンドリックスが憑依するブルースの哀愁がミニマルな電子音、マスマティカルなデザイン、現代的なアグレッションと溶け合う楽曲は、モダンプログレッシブの理念をあまりに的確に、しかしドラマティックに描き出しているのです。
隠し味としてアルバムを彩る R&B のフレイバーは ISSUES に、キャッチーな旋律の煌めきは VOLA にもシンクロし、さらに “Nocturnal” では TesseracT のアトモスフィアを、”Get Rid of the Wall” ではジャズのモーションをもその血肉として消化する雑食の王。そこに “テクニカルであるためのテクニック” は一欠片も存在してはいません。
今回弊誌では、ドラマー Nikolaj Sloth Lauszus にインタビューを行うことが出来ました。Euroblast, Tech-Fest などで鍛え上げた実力は本物。さらにマスタリングは Jens Bogren が手がけます。「世界で最もユニークな要素やギミックをミックスしたとしても、キャッチーで魅力的な音楽を書かなければ誰も注目しないんだよ。」どうぞ!!

COLD NIGHT FOR ALLIGATORS “FERVOR” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOLA : APPLAUSE OF A DISTANT CROWD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM JANZI OF VOLA !!

“I Would Describe The Band As An Adventurous Rockband With Tendencies Towards Metal And Electronica. We’re Very Keen On Experimenting And Not Being Bound To One Label Or Genre.”

DISC REVIEW “APPLAUSE OF A DISTANT CROWD”

モダンプログレッシブのフロントランナー VOLA は、ジャンルのアイデンティティーを保ちながら進化を遂げる荊棘を成し遂げるユトランドの至宝。
Djent 由来の重厚なグルーヴ、シンコペーションの創造性をメロウでヴィンテージなイヤーキャンディーで包み込み、シンセウェーブのフィヨルドへと注ぎ込む彼らのやり方は、まさしくデンマーク発祥のトレンド、”ヒュッゲ” “甘美な時” をリスナーへと運びます。
レトロ&フューチャーが交差する衝撃のデビューフル “Inmazes” から4年。世界一幸福と言われるデンマークに降臨した “時をかけるバンド” が次なるテーマに選んだのは、皮肉にもテクノロジーや SNS が人類にもたらす栄華と暗部、幸せの価値。
「タイトルの “Applause of a Distant Crowd” “遠方の観客から届く拍手喝采” とは、僕たちが SNS を通してコンスタントに賞賛や承認を求めていることを表しているんだよ。だけど、そうやって喝采をくれる人たちは遠く離れていて、そこでの関係性が何か実りをもたらすことなんてないだろうはずなのに。」と新たなドラムマイスター Adam Janzi が語るように、インターネット& SNS の発展は利便性の向上と同時に、承認欲求、嫉妬、欺瞞、憤怒といった人に巣食う闇の部分をこれまで以上に助長させ、世界は生きづらさが増しているようにも思えます。
“We Are Thin Air”、アルバムの幕開けは、そうした息苦しさを “空気が薄い” と表現する究極のメッセージ。THE ALAN PERSONS PROJECT を彷彿とさせる暖和で壮大なメロディーの洪水は、コーラスの魔法と浮遊感を伴って、あたかも水中で暮らしているかのようなイメージを摩訶不思議に演出し描写します。
同時に、80年代の甘くキラキラした、しかしどこか切ないデジタルの波はコンテンポラリーなディストーションサウンドと融け合い、その波動は “Ghost” のエセリアルなセンチメント、感傷の波へと集約していくのです。
レトロとフューチャーを自在に操る時間魔法師の煌きはすなわち “ビタースイート”。そしてよりオーガニックに、オルタナティブの領域へと接近した新たな旅路は、MEW や MUSE のインテリジェントな方法論とも入念にシンクロしていると言えるでしょう。
一方で、「それでも僕たちは、今でもプログやメタルを愛しているよ。それは変わらないね。」と語るように、MESHUGGAH や DECAPITATED の凶暴なポリリズムが一際そのサウンドスケープを拡大させていることは明らかです。
“Smartfriend”, “Alien Shivers” におけるシンコペーションアグレッションはまさしくプログメタルの系譜を引く証ですし、その場所に VOLA 特有のポップセンス、アトモスフィアが流入した響きには、”Post-djent” を導くヒントが隠されているのかも知れませんね。
さらに、”Vertigo”, “Green Screen Mother” で見せるダークでスロウな一面は、バンドと作品の二面性を際立たせ、モダンプログの骨子である多様性とダイナミズムを一際浮かび上がらせることとなりました。そして、当然そこには、Adam が人生を変えたアルバムで挙げている Chelsea Wolfe, Nick Cave からの仄暗く、ノワールな影響が存在するはずです。
今回弊誌では、その Adam Janzi にインタビューを行うことが出来ました。「もしこのバンドを一言で表すなら、アドベンチャーロックバンドかな。メタルとエレクトロニカの要素を持ったね。」 さて、この作品を耳にして Steven Wilson は何をおもうのでしょうか。どうぞ!!

VOLA “APPLAUSE OF A DISTANT CROWD” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NIGHT VERSES : FROM THE GALLERY OF SLEEP】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH REILLY HERRERA OF NIGHT VERSES !!

“Diversity Is Definitely Key For Us, And We Don’t Ever Want To Overdo Or Repeat Anything More Than Necessary. “

DISC REVIEW “FROM THE GALLERY OF SLEEP”

プログメタルのサルバドール・ダリが草創せし夢幻画廊。ファンタジーとリアリティー、テクニックとアトモスフィア、モダンとオーガニックのダイナミズムを、”夢” という自由な空想世界で交差させる無言の詩聖はインストゥルメンタルミュージックのドラスティックな再構築を試みています。
例えば Tilian Pearson を失った TIDES OF MAN が、故に音に語らせる創意工夫を磨き上げポストロックの妙手となったように、詩人の喪失は時に音楽それ自体の革新を誘います。そして急遽リードボーカル Douglas Robinson がバンドを離れることとなった NIGHT VERSES も同様に、彼の遺した “スペース” を埋めるチャレンジの中で一際精華な創造の翼を得ることとなったのです。
RED HOT CHILI PEPPERS, TOOL, RAGE AGAINST THE MACHINE、そして近年では INTRONAUT とある種独創性を追求したアートの都 L.A. で、NIGHT VERSES の資質が育まれたのは必然なのかも知れませんね。
実際、ポストロックのソニカルな音景とハイパーテクニカルな Djent の相反をオーガニックに融解し、ダウンテンポのエレクトロニカを織り込む前人未到のドリームスケープは、超現実的なダリのシュルレアリスムにも通じる倒錯と魅惑のアートです。
フルブラストで幕を開ける夢への廻廊 “Copper Wasp” こそ “From the Gallery of Sleep” への強烈なインビテーション。多彩なリムショットやハイハットの魔術で複雑怪奇なポリリズムを支配する Aric のドラム劇場は、Nick の雄弁なギターワークと Reilly のアグレッシブなベースサウンドの独壇場。
ANIMALS AS LEADERS を想起させるファストでメカニカルな衝動から、RUSSIAN CIRCLES の重厚荘厳なグルーヴ、そして TYCHO の瑞々しいアンビエントまで自在に操る弦楽隊のテクニック、創造性はあまりに気高く孤高。
さらにサンプリングやエレクトロサウンドを加えて完成に導いたエクレクティックモンスターは、”夢” という自由な空間に花開いた崇高のアート、対比とダイナミズムのエキサイティングな奇跡に違いありませんね。
フレーズ、モチーフの巧みなリピートで、奇抜なテーマを鮮やかに印象付ける独特の手法は “Trading Shadows”, “Vice Wave” でより際立ちます。実際、「異なる音楽的な要素、アートをミックスして僕たちが伝えたい感情を具現化することこそ最も重要なことなんだ。歌詞というガイドがなくなったからね。」とインタビューで語るように、言葉を失った詩人は試行錯誤を経て、その感情を以前よりもビビッドに雄弁にリスナーのスピリットへと届けているのです。
バンドはそこからさらに多様性の扉を開き探求していきます。
パーカッシブでトライバルな “Vantablonde”、ポストロックの壮麗なサウンドスケープを掘り下げた “Lira”、hip-hop のグルーブに照らされた鮮烈のシュレッド “No Moon”、静謐な美しきアコースティックのレリーフ “Harmonic Sleep Engine”。
そうしてその全ての多様性、創造性はギターペダルの可能性を極限まで追求したプログレッシブで trip-hop なエピック “Phoenix IV: Levitation” へと集束していくのです。
アルバムは、幽玄なる白昼夢 “Infinite Beach” で TYCHO や BONOBO の理想とも深くシンクロしながら、メランコリックにノスタルジックにその幕を閉じました。
今回弊誌では、ベースプレイヤー Reilly Herrera にインタビューを行うことが出来ました。ちなみにドラマー Aric は絶賛売り出し中 THE FEVER 333 のメンバーでもあります。
Instru-Metal の最新形こそ彼ら。「”多様性” は間違いなく僕たちにとって鍵だと言えるね。これまでも同じことをやり過ぎたり、必要以上に繰り返したりすることを望んだりはしなかったからね。」どうぞ!!

NIGHT VERSES “FROM THE GALLERY OF SLEEP” : 10/10

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