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COVER STORY 【STEVEN WILSON : TO THE BONE】INTERVIEW WITH NICK BEGGS & TRACK BY TRACK REVIEW


EXCLUSIVE INTERVIEW WITH NICK BEGGS & TRACK BY TRACK OF STEVEN WILSON’S “TO THE BONE” !!

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Steven Wilson’s New Adventure “To The Bone” Is Inspired By The Hugely Ambitious Progressive Pop Records That He Loved In His Youth !!

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TRACK BY TRACK “TO THE BONE”

「最も大きなチャレンジは、楽曲重視のレコードを作ることだよ。メロディーにフォーカスしたね。」 モダンプログレッシブの唱導者 Steven Wilson はそう語ります。モダン=多様性の申し子である世界最高の音楽マニアが、至大なる野心を秘めて放つ5作目のソロワーク “To The Bone” は、自身が若き日に愛した偉大なるポップロックレコードの瑞々しいメロディー、その恩恵を胸いっぱいに浴びた新たなる傑作に仕上がりました。
Steven は “To The Bone” のインスピレーションを具体的に挙げています。Peter Gabriel “So”, Kate Bush “Hounds of Love”, TALK TALK “Colour of Spring”, TEARS FOR FEARS “Seeds of Love”, そして DEPECHE MODE “Violator”。勿論、全てが TOP40を記録したメインストリーム、知的で洗練されたポップロックの極み。
同時に彼は自身のプログレッシブなルーツも5枚提示しています。TANGERINE DREAM “Zeit”, Kate Bush “Hounds of Love”, THROBBING GRISTLE “The Second Annual Report”, PINK FLOYD “Ummagumma”, ABBA “Complete Studio Albums” (全てのスタジオアルバム)。
非常に多様で様々なジャンルのアーティスト、レコードが彼の血肉となっていることは明らかです。ポップサイドでも、フックに溢れた音楽的な作品を、プログレッシブサイドでも、難解なだけではなくサウンドスケープやメロディーに秀でた作品を撰するセンス。両方に含まれる Kate Bush の “Hounds of Love” はある意味象徴的ですが、すなわち、レコード毎にその作風を変化させるマエストロが今回探求するのは ナチュラルにその二者を融合させた “プログレッシブポップ” の領域だったのです。
実際、2011年からレコーディング、ツアーに参加し続けているロングタイムパートナー、チャップマンスティックの使い手 Nick Beggs はこの稀有なるレコードを “クロスオーバー” でそれこそが SW の探求する領域だと認めています。そしてその “違い” こそが様々な批判、賛美を生んでいることも。
「プログレッシブロックのオーディエンスって、実は最もプログレッシブじゃないように思えるんだ。プログレッシブミュージックは、プログレッシブな考え方であるべきなんだよ。」 盟友の心情を代弁するかのように Nick はシーンのあるべき姿をそう語ります。いとも容易くミッドウイークの UK チャートNo.1を獲得したアルバムは、決して “プログレッシブロックの逆襲” “プログの帰還” などというシンプルな具象ではなく、イノベーターの強い意志、情念なのかもしれませんね。

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TRACK 1 “To The Bone”
タイトルトラックにしてオープナー、”To The Bone” はこの芳醇なるレコードの絶妙にして正確なるステートメント。XTC の Andy Partridge が歌詞を手がけた楽曲は、”骨の髄まで” 現在の状況を突き詰め、核となる真実を探し出すことについて歌っています。
言うまでもなく、これはドナルド・トランプ時代の産物です。先のアメリカ大統領戦で私たちが経験したように、真実は時に異なる物の見方を生み出し、事実をねじ曲げてしまう可能性があるのですから。
コンセプトアルバムの形は取らなかった “To The Bone” ですが、どの楽曲にも共通するテーマは存在します。それは現在の世界を決して素晴らしいものとは思わないという視点。Steven はその要因の一つが基本的なマナーの欠如だと述べています。世界には敬意や思いやりに欠く人間があまりに多すぎると嘆いているのです。
そういった背景を鑑みれば、ダイナミックでパワフルなアルバムオープナーがトラディショナルである意味オーソドックスなブルースロックを基調としたことにも頷けますね。勿論、寛容さに欠く時代の真理を独白するアメリカの教員 Jasmin Walkes のスポークンワードで全ての幕が開けることにも。
確かにパワーコードやハーモニカ、自身のラフなリードギター、Jeremy Stacey のファンクなドラミングと Pete Eckford のハンドパーカッションは Steven のイメージとそぐわないかも知れません。ただし、アウトロのアトモスフェリックでエセリアルな表情はまさに彼の真骨頂。つまり Steven の核となる真実、音楽の探求と融合を実証した楽曲。”プログレ” じゃない? Nick Beggs はこう一言 “So What?”

TRACK 2 “Nowhere Now”
ライティングプロセスで Steven が心掛けたのは、複雑性を捨て去り、よりミュージックオリエンテッドな楽曲を生み出すこと。”Nowhere Now” の気に入っていたパートをマエストロはいとも容易く捨て去りました。楽曲のデモバージョンは現在の彼にとって、複雑で長すぎると感じられたのです。
「僕は楽曲の、感情の、メロディーの “ハート” にフォーカスする必要があるんだ。ただし今でも興味深い楽曲を制作したいという願望はあるよ。」 そう語る Steven の “プログレッシブ” は、幾重にもレイヤーされた美麗なるプロダクションやアレンジメントに主張されています。勿論、以前に比べてエレクトロニカサウンドが増している点もそこに繋がるはずですね。
複雑性やテクニカルを極力廃すというアルバムの方針は、お抱えのギターマイスター Dave Kilminster の出番も無くしました。Steven はより自身の感情を反映するため、自らのプレイをギターの軸に据えたのです。とはいえ、面白いことに Dave のボーカルハーモニーは必要とされ4曲にコーラスを挿入しているのですが。
“地下6フィート(墓穴の深さ)、僕たちは今、後方へと進んでいる” というファーストラインは、人類が退化の真っただ中にあることを諮詢しています。しかし、浮遊感を伴う極限にキャッチーなコーラスでは美しき地球を宇宙から俯瞰で見下ろし、ポジティブで広い視野を得るのです。

TRACK3 “Pariah”
ドリーミーなシンセサイザーのシーケンスに幕を開け、エセリアルなシューゲイザーで幕を閉じるコンテンポラリーなドリームポップチューンは Steven とイスラエルのフィーメイルシンガー Ninet Tayeb の優艶なるデュエット。”Hand. Cannot. Erase.” から続く2人のコラボレーションは円熟の域に達し、あざといほど典型的に、諦めないことを、ポジティブなメッセージを届けるのです。

TRACK4 “The Same Asylum As Before”
Steven は “To The Bone” でテレキャスターと恋に落ちたと語ります。”The Same Asylum As Before” のトレブリーで細く硬質なギターサウンドは、まさにテレキャスターソングの典型だと言えるでしょう。
ドライブやディストーションをあまり加えることなくロック出来るテレキャスター。その真の魅力に気づいたと Steve は語ります。勿論、これが Pete Townshend のサウンドであるとも。
ボーカルの延長としてよりレイドバックし、メロディーやキャッチーさを強調する彼のギターワークは鮮彩に躍動していますね。詩情豊かなファルセットは楽曲に陰影をもたらし、”Kashmir” を想起させるコーラスパートも出色です。

TRACK5 “Refuge”
フランス北部の港町カレー。ヨーロッパ最大規模の難民キャンプは治安も衛生状態も悪化していました。経済的に豊かな英国へ渡ろうと、トラックや列車に飛び移り命を落とす難民も現れたのです。Steven は政治的な楽曲を書くつもりはないと語ります。あくまで人間のストーリーを描きたいとも。Refuge では愛する家族や母国から切り離されることの痛みについて歌っているのです。
ポリフォニックシンセサイザー Prophet-6 のアルペジエーターが、この実験的でアンビエントなエレクトロニカチューンのベースとなっていることは明らかです。ポストプログレッシブなイメージが強調された楽曲には Robert Wyatt が “Rock Bottom” で使用したキーボード、Paul Stacey のギターソロも収録され、独特な世界観の構築に貢献しています。

TRACK6 “Permanating”
「どのレコードでも僕は多様性を創造しようとしているんだ。僕にとってはそれこそが本当に満足出来るアルバムを作る秘訣さ。」 “Diversity”, “Eclectic” というワードがモダンミュージックのベースとなっていることは言うまでもありませんが、Steven Wilson が “Permanating” で提示した眩い音楽はそれにしても驚きだと感じます。
ビッグシングルにしてメインストリームなポップフィールで満たされた楽曲には、彼の70年代ディスコミュージック、ABBA への強い愛情が込められているのです。PINK FLOYD と Donna Summer を等しく愛する Steven は「セルアウトと言われるかも知れないけど、ポップスを愛しているんだから仕方がない。」 と語っています。
人生の大半は喜びでも悲しみでもなく、ただ存在するだけだと話す Steven。故にクリスタルのような輝かしい瞬間を保持して生きるべきだと。”Permanating” はまさにその究極に幸せで楽しい時間を切り取った楽曲なのです。

TRACK7 “Blank Tapes”
“Permanating” での華やかな雰囲気から一変、”Blank Tapes” は悲しみと嘆きのバラードです。男女の別れを描いた楽曲は、Steven が男性の視点で、Ninet が女性の視点でストーリーを紡いでいきます。
Ninet の Rod Stewart を思わせる情感豊かな歌唱は、ギター、ピアノ、メロトロンというシンプルな演奏に良く映えていますね。

TRACK8 “People Who Eat Darkness”
パンキッシュで衝動的な “People Who Eat Darkness” はパリの Bataclan シアターでのテロの後に書かれた楽曲です。テロとその後のメディア報道に Steven は、穏やかな隣人が突然テロリストとなる狂気に戦慄を覚えます。彼はいつも、宗教、政治といったマクロなテーマそれ自体よりも、その中で翻弄される人間に着目するのです。
「階段でよくすれ違っていたんだけど、彼はいつもニコニコと笑顔で挨拶してくれたの。買い物を持ってくれたりしてね。普通の素敵な若い男性だったわ。」 インタビューを受けた隣人の言葉には 、”普通” に見える人間が、怒り、憎しみ、狂気を抱え闇に飲まれている可能性を諮詢しています。分断された現代社会で、果たして誰がそれに気づくことが出来るのでしょうか?

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TRACK9 “Song of I”
スイス人女性シンガー Sophie Hunger とのデュエットは、アルバムで最もエレクトロニカサウンドをセンターに据えた楽曲に仕上がりました。「最近のラップはロックより革新的だよ。」 と嘯いた Steven。”Song of I” には Rihanna をフィーチャーした Kendric Lamar の “Loyality.” を想起させる瞬間が確かに存在します。
ある種淡々とした音像の中で、淡々と伝えられるのは以外にもロマンティックなメッセージ。「タバコも、アルコールも、ギャンブルも、オールだって何だって諦めるけど、あなただけは諦められないよ。」 こういった強迫観念に男女の差異は存在せず、故にデュエットという形がフィットするのかもしれませんね。

TRACK10 “Detonation”
エレクトロビートと Jeremy Stacey のダイナミックなドラムスが目まぐるしく交差するイレギュラーな楽曲は、時にポピュラー音楽史上最も成功した作曲家 Paul McCartney and WINGS の “Live and Let Die” をイメージさせます。”Detonation” には二つの意志が存在するのかも知れません。
楽曲はフロリダの同性愛者クラブで起きたテロリズムに触発されて書かれました。犯人は確かに「アッラーフ・アクバル」 と叫び神に忠誠を誓ったように犯行を行いましたが、実際は自分自身の偏見や憎しみを正当化するためにイスラム教の皮を被っていたようにも思えます。
“Detonation” の最初の一行、「神よ、私はあなたを信じませんが、あなたが望むことはやり遂げます。」 とはすなわち、信じないものの力を借りた自身の正当化です。Steven はこの歪んだ現代社会において、自己に潜む嫌悪感や憎しみを隠すため、宗教へと目を向ける人が存在すると信じているのです。
ともあれ、”Detonation” は Steven の作品でも秀逸なロングピースで、スロバキアのギタリスト David Kollar のマクラフリン風ギターが炸裂するアウトロは実にエキサイティングだと言えますね。

TRACK11 “Song of Unborn”
“Unborn” とはまだ生誕していない命、胎児。Steven はこの感動的なアルバムクローサーで、生まれくる命に子宮の外の危うさを伝えます。ただし、これが彼の典型的なバラード “Routine” や “The Raven that Refused to Sing” と決定的に異なるのは、究極的には希望を宿している点です。”Don’t be afraid to live” 生きることを恐れないでと Steven は歌います。確かに残念な世の中だけど、それでも全ての命はユニークで、時には本当にスペシャルなものへと変わることもあるんだよと。
自分の人生を抱きしめれば、命は深遠に達するという美しいメッセージは、オプティミズムの象徴とも思える美麗なるクワイア、コーラス隊を誘って世界へと降り注ぐのです。

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Steven は、”To The Bone” には以前のレコードにはないエモーション、人々の心を動かす感動が存在すると語ります。ビートルズ、ストーンズ、ゼップ、フロイド、ディラン…彼が崇拝するレコードの大半は、アーティストが20代で制作したもの。しかし、自分は30代から花開き、どんどん良くなっていると Steven は語ります。”To The Bone” が最高傑作だと信じて疑わないことも。「僕は歳を重ねるほど、音楽のコア、真実のエモーションが掴みやすくなるからね。」

参考文献「Steven Wilson :To The Bone: A track-by-track guide 」2017年8月17日

STEVEN WILSON “TO THE BONE” : 10/10

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LOUD PARK 17′ SPECIAL INTERVIEW 【PER NILSSON : MESHUGGAH, SCAR SYMMETRY, KAIPA, NOCTURNAL RITES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PER NILSSON OF MESHUGGAH, NOCTURNAL RITES, KAIPA, AND SCAR SYMMETRY !!

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Now, The Most Notable Guitar Virtuoso In The Scene, Per Nilsson Will Come To Japan With Meshuggah At Loud Park 17′ !! The Busiest Man Talks Everything About His New Adventure !

ABOUT PER NILSSON

スウェーデンが誇る異能のギターマイスター Per Nilsson。現在、彼こそがメタル/プログコミュニティーで最も注目を集める怪物であることに異論を唱える向きはないでしょう。
モダンメタルの父、MESHUGGAH のマスターマインド Fredrik Thordendal が突然の “休暇” を申請したのは6月初頭のことでした。インタビューにもあるように、スタジオの建設とソロキャリア追求のためバンドを離れた求道者の代役として指名されたのが今回の主役、Per だったのです。実際、彼ほどの適任者は存在しないように思えます。
10代後半から MESHUGGAH を聴き漁り、リスペクトを捧げて来たという Per のギタープレイには、例えば彼のホームグラウンド SCAR SYMMETRY を聴けば分かるように、複雑でマスマティカルなリフワークや、レガートで滑らかにアウトするリードプレイなど、モダンメタルの巨人を想起させる場面が確かに存在します。
何より、亡き Allan Holdsworth の遺産を相続するのみならず、独自に進化させるプレイヤーはメタルの領域においてあまりに稀有で、オーディションも行わず Per を指名したバンドの英断には頷くばかりですね。
さらに Per が注目を集める理由。それは彼のフレキシブルな才能が可能とした、多方面での雄渾なる活躍です。多様でエクストリーム、実験性を秘めたモダンメタルを中枢としながらも、Per のセンス、スケール、そしてテクニックは様々な分野のアーティストを惹き付けてきました。
特にここ日本で絶大な人気を誇るメロディックメタルアクト NOCTURNAL RITES もその一つ。10年という長い沈黙を破るバンドの復活作 “Phoenix” で、ソロイストとして白羽の矢を立てたのが Per だったのです。インタビューにもあるように、トラディショナルでメロディーによりフォーカスした Per の新たな冒険は、バンドのマスターピースとして結実したようですね。9月のリリースを待ちましょう。
加えて、9月にはもう1枚 Per の参加したレコードがリリースされます。KAIPA の新作 “Children of the Sounds” です。70年代から活動を続ける、北欧シンフォプログの雄 KAIPA に Per が加入した事実はシーンに大きな驚きを与えました。実際、Per 自身が語るように、Roine Stolt の色彩と気品をメタルシュレッダーが引き継げるのだろうかという懐柔的な見方も多かったようですね。
しかし KAIPA の同僚で天賦のスティックマン Morgan Agren が、「Per は非常に滑らかなタッチと完璧なコントロールを持っているね。彼が演奏するときは、すべてが簡単に聞こえるんだ。素晴らしいプレーヤーだよ。」と語るように、Per のモダンなテクニックはバンドに新たな”血”をもたらし、スピードを備えたクラシカル、フォーキーなパッセージが壮麗なる推進力を生んでいるのは間違いないでしょう。
また、Per にはプロデューサーとしての顔も存在します。今ひとつ伸び悩んでいた自身のメインバンド SCAR SYMMETRY が、遂にそのステージを1歩進めた最新作 “The Singularity (Phase I – Neohumanity” では、Per がコンポジション、プロデュース、ミックス、マスタリング全てを手がけているのです。
非常にメロディックかつプログレッシブな方向へとシフトした作品が、脱退したギタリスト Jonas Kjellgren メインのプロダクションに比べよりクリアーで立体感を有していることは明らかですね。インタビューにもあるように、Per のスタジオも完成しトリロジーの第2章が幕を開ける瞬間も間近です。期待しましょう。
最後に Per がソロアルバム、ETERNITY’S END のプロダクションを手がけたテクニカルデスメタルシーンきってのテクニシャン Christian Muenzner は彼について 「Per Nilssonはこれまでの10年間で最もエキサイティングなギタープレイヤーだよ。美しいフレーズとインテリジェントなノートの選択は、素晴らしい音色を運び完璧なまでに楽器のテクニカルな要求を満たすんだ。僕がギタリストのプレイに探しているものすべてを彼は持っているんだよ。」と語っています。インテリジェンスを感じるのは当然かも知れません。Per の IQ は156を超えるとも言われており、あの高IQクラブ “メンサ” のメンバーなのですから。
型破りな知性が導くフレキシビリティ。今回弊誌では、Per Nilsson にインタビューを行うことが出来ました。遂にあの鬼才が MESHUGGAH として Loud Park にやって来ます!どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IGORRR : SAVAGE SINUSOID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GAUTIER SERRE A.K.A. Igorrr !!

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Mastermind Of Modern Metal Revolution, Igorrr Sets A New Standard Across Styles Of Music, With His New Masterpiece “Savage Sinusoid” !!

DISC REVIEW “SAVAGE SINUSOID”

多様性をランドマークとするモダンメタルシーンの最前線に立ち続ける、フランスの鬼才 Igorrr が待望の最新作 “Savage Sinusoid” をリリースします!!メガレーベル Metal Blade Records と契約を果たし、自身の最高峰を更新する傑作を完成させた Igorrr の世界制覇は目前です。
Igorrr とは誇り高きフランスのコンポーザー/マルチプレイヤー Gautier Serre のソロプロジェクト。ブレイクコア、グリッチホップ、トリップホップ、バロック、クラシカル、ワールドミュージック、サイバーグラインド、デスメタル、ブラックメタルなど百花斉放、極彩色のインスピレーションを濃縮し、時代もジャンルも超越したそのサウンドスケープは即ち規格外のモンスターだと言えるかもしれませんね。そして、インタビューにもあるように Gautier は、その至高の怪物を各ジャンルのスペシャリストを招集することで制御し、自らの意のままに操っているのです。”Savage Sinusoid” のアートワークに描かれた結合のスフィアは、まさにそのシンボルだった訳ですね。
アルバムオープナー、”Viande” は Igorrr の野蛮な “Savage” サイドを象徴する楽曲です。エクストリームメタルの新たなエイリアン、奇妙な咆哮を宿した2分弱のエレクトロブラッケンドデスメタルは、息を呑むほどに野蛮で斬新。邪悪で過重な質量を纏うギターリフと、鋭利なグリッチサウンドが交差し、リズムの主導権を奪い合う様はまさしく圧巻の一言で、同時に呪詛のごときシアトリカルなスクリームは地球上で最も多様な Igorrr 劇場の開幕を告げています。
Igorrr の多様性、 “Sinusoid” サイドを体現する “ieuD”, “Houmous” の流れがシーンに与えるインパクトは絶大でしょう。ハープシコードとエレクトロビート、バロック音楽とエレクトロニカ。400年の時を超えて邂逅した、17世紀と21世紀を象徴するサウンドとジャンルは、4世紀のギャップなど存在しないかのように “ieuD” で魅惑の融合を果たしています。
中盤、荘厳なる美の結晶、狂気すら入り交じる Laure Le Prunenec のオペラティックな歌唱をコアとして、ブラストビートとブレイクビーツが入り乱れる魔展開は確かにカオティックですが、テクニカルで深層まで注意深くデザインされたそのコントラスト、タペストリーサウンドは、奔放、野性味というよりはコントロールされたカオスといった印象を与えていますね。つまり、彼のエクレクティックなチャレンジは、決して客寄せのサーカスではなく、自身の創造性、シネマティックな絵画を完成させるための絵の具や技法であるとも言えるでしょう。
“Houmous” で Igorrr のサウンドはさらにその世界を広げて行きます。”ieuD” で時空を超えた彼の音楽は軽々と地平をも飛び越えて進化を続けます。バルカン半島へとたどり着いた彼のイマジネーションは、バルカン音楽とエレクトロニカ、そしてブラストビートを結びつけ異形のエモーションを創出します。
音楽も多様なら舞台に上がる楽器の種類も実に多様。アコーディオンにサックス、フルート、そして楽曲の後半にはニンテンドーの実機を使用したチップチューン8bitサウンドまで登場するのですから、インタビューで “No Limits, No Boundaries” と断言するのも頷けますね。何より、今回の作品では全ての楽器が、サンプルではなく実際にプレイされており、その繊細かつオーガニックなサウンドはアルバムのリアリティーを飛躍的に高めていると同時に、作品のディレクションさえ以前よりソリッドにフォーカス成し得ていると感じました。アコースティック楽器とエレクトロニカサウンドのシュールなコントラストはアルバムの特筆すべき場面の一つでしょうね。
ムーブメントとしての djent が終焉を迎えシーンに定着した中で、Igorrr の”Savage” と “Sinusoid” を融合させる時代も空間も超越したユーフォリアは EDM や hip-hop が席巻する現在の音楽シーンだからこそ、新たなトレンドとしてモダンメタルをさらに前進させる可能性を多分に孕んでいます。インタビューでも語ってくれた通り、少なくともこのジャンルは未だに進化を続けているのですから。最後に、CATTLE DECAPITATION の Travis Ryan が3曲で無慈悲なグロウルを披露し、作品の “Savage” をより際立たせていることを付け加えておきましょう。
今回弊誌では、Gautier Serre にインタビューを行うことが出来ました。ほとんど多様性とコントラストについてしか言及しない Marunouchi Muzik Magazine ですから当然この作品こそ2017年上半期の最重要アルバムだと断言いたします。どうぞ!!

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Igorrr “SAVAGE SINUSOID” : 10/10

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NEW DISC REVIEW【JASON RICHARDSON : I】INTERVIEW WITH LUKE HOLLAND, JAPAN TOUR SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUKE HOLLAND !!

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Jason Richardson & Luke Holland, One Of The Most Talented Young Guns Will Come To Japan With Game Changing Debut Record “I” !!

DISC REVIEW “I”

24歳と23歳。瑞々しくハイセンスなモダンメタルフロンティアが輩出した俊英2人、Jason Richardson と Luke Holland がタッグを組んだ宿命の別世界 “I” のリリースは、至大のインパクトと共にユニットを遥かなる日いづる国、日本へと導くことになりました。
若干20代前半にして、2人の履歴書はすでに驚くほど充実しています。バークリー入学を蹴って ALL SHALL PERISH でツアーを経験し、BORN OF OSIRIS, CHELSEA GRIN では名作のキーパーソンとなったギタープレイヤー Jason Richardson。最先端の10指が紡ぐ印象的でコズミックなフレーズの数々は、まさに Djent/デスコアミュニティーの発展に欠かすことの出来ないフラッグシップであると言えますね。
一方のドラマー Luke Holland は、インタビューにもあるように、16歳で YouTube チャンネルを開設しセルフプロモートを開始します。今日までに総計で5500万ビューという驚くべき数字を叩き出した彼のプレイスルーカバー集は、Djent, メタルからプログ、エモ、パンク、ポップに EDM までまさに百花繚乱な世界観を独自のアレンジメントと精緻なテクニックで華麗に彩り、今では自らの価値を証明する Luke の貴重な名刺がわりとなっているのです。
実際、動画を見た TEXAS IN JULY から代役を頼まれ、ついには2013年に THE WORD ALIVE の正式メンバーに任命されたのですから、例えば日本の川口千里さんにも言えますが、プレイスルー動画の持つ力、インパクトは音楽シーンのあり方を変えて来ているのかも知れませんね。
“究極的には毎晩ソールドアウトのスタジアムでプレイしたい” と語る Luke が次なるチャレンジとして選んだ “I” は、同時に Jason Richardson がただギターマイスターであるだけでなく、コンポーザーとしても多様かつ至妙であることを証明した一級品に仕上がりました。Luke の言葉からは寧ろ、コンポーザーとしても優れていることが、参加を決意させたようにも読み取れますね。
ダークでシンフォニックな世界観を携え、難解なリズムアプローチと美麗なリードプレイがアトモスフィアの波を掻き分ける “Omni” でアルバムは幕を開けます。不安を煽るようなオーケストレーション、ギターとシンセサイザーの一糸乱れぬ華麗なダンス、そして見事にコントロールされたチャグワークは確かに BORN OF OSIRIS の設計図をイメージさせ、まさに楽曲が Jason Richardson を象徴する”I”であることを宣言していますね。
勿論、現在2人だけでツアーを行っていることからも分かるように Jason と Luke のコンビネーションも抜群。ギターの細かなフレーズまでユニゾンしてしまう Luke の繊細でアイデア豊富なドラムワークはアルバムを確実に一段上の領域へと誘っています。Luke の THE 1975 や THE CHAINSMOKERS をメタルと同列で愛してしまう軽快さこそ彼を際立たせているのです。
粒立ち群を抜いているピッキングの驚異的な正確性、選択する音や音符の意外性、タッピングとオルタネイト、スイープを巧みに使い分けるアルペジオの豊かなバリエーション、そしてストーリーを持った構成美。ソロワークに目を移せば、すでに Jason が世界のトップであると誰もが確信するはずです。メカニカルなシュレッダーのイメージが強いかも知れませんが、”Omni” 中間部の静謐なパートで炸裂するベンド、ビブラートのエモーションは実に扇情的で崇高とさえ表現したくなりますね。全く非の打ち所がありません。
PERIPHERY の Spencer Sotelo がゲストボーカルで参加した “Retrograde” からさらに “I” の世界は広がっていきます。これまでスクリームとのコンビネーションがほとんどだった Jason のギターですが、クリーンボーカルとの相性も決して悪くはありません。Spencer の突き抜けるように爽快でキャッチーなトレードマークは Jason のポップセンスをも見事に開花させ、VEIL OF MAYA の Lukas Magyar, PERIPHERY の Mark Halcomb というオールスターキャストで贈る名曲 “Fragments” にその成果を結実させています。
ポストロックやクラシカル、ブルースにサーフロックの感覚すら包み込んだ “Hos Down” の多様性から生じる魔法はまさに別格です。現代の Guthrie Govan と形容したくなるほどマジカルでエクレクティックな奇跡のコンポジションは、Jason の未来、 “Next Stage” にも多大な期待をいだかせてくれますね。
Nick Johnston, Rick Graham など様々なゲストを迎え、才能が時に融合し、時に火花を散らしたアルバムは、巨匠 Jeff Loomis とのクラシカルな乱舞 “Chapter Ⅱ” でまさに “Ⅱ” の存在を予感させつつ幕を閉じました。
今回弊誌では、7月に来日が決定した Luke Holland にインタビューを行うことが出来ました。POLYPHIA, さらには先日インタビューを掲載した12歳の天才美少女ギタリスト Li-sa-X も出演しますよ。どうぞ!!

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JASON RICHARDSON “I” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NOVA COLLECTIVE : THE FURTHER SIDE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAN BRIGGS OF NOVA COLLECTIVE !!

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The Brilliant Musical Marriage Between The 70’s Fusion And Modern Prog. Definitely, Super Group Of Prog, Nova Collective Has Just Released One Of The Best Instrumental Record Of The Year, Incredible Debut, “The Further Side” !!

DISC REVIEW “THE FURTHER SIDE”

“新たな集合体” の名を冠するインストゥルメンタルスーパーバンド NOVA COLLECTIVE が、超越的でモニュメンタルなデビュー作 “The Further Side” をリリースしました!! 既成観念の “向こう側” へと辿りついた彼らの音風景は、リスナーを永遠の旅路、ミュージカルジャーニーへと誘うことでしょう。
Dan Briggs (BETWEEN THE BURIED AND ME), Richard Henshall (HAKEN), Matt Lynch (TRIOSCAPES, ex-CYNIC), Pete Jones (ex- HAKEN) というまさにモダンプログレッシブを象徴する賢哲が参集した NOVA COLLECTIVE。彼らが宿した清新なる息吹は、音楽が最も革新的で創造的だった70年代の空気を濃密に吸い込み、芸術のあり方を純粋に示しています。
1970年に Miles Davis がリリースした “Bitches Brew” は、音楽史上最も輝かしいロックとジャズの婚姻だったと言えます。”The Further Side” は、”フュージョン” という音楽概念を定義した、多様でイマジネイティブなその”マイルストーン”の精神を、凛として現代へと継承した畢生の作となりました。
アルバムは、ロシアのロマンティックかつダイナミックなバレエを想起させる “Dancing Machine” でその幕を開けます。メカニカルな BTBAM とは趣を異にする、野性的でファットな Dan Briggs のベースラインはオーガニックなボトムで自由を謳歌し、ジャズとロック、そしてメタルを華麗に行き来する Matt Lynch のドラムスと豪壮なインタープレイでアルバムを牽引して行きます。
Richard Hanshall のメロディアスでデリケートなギターワークは作品に浸透し、何より Pete Jones のガラス細工のように美麗で卓越したエレピ、オルガンサウンドは、リスナーに Chick Corea の形影を追わせ、過去と現代をリンクさせる鍵として枢要を占めていますね。
“Dancing Machine” に漂う神秘的でエスニックなムードは、インタビューでも語ってくれた通り、ワールドミュージックからの影響を反映しています。そして確実に John McLaughlin のコンポジションとも強く共鳴しているはずです。
“Bitches Brew” にも参加し、後に”フュージョン”を代表する集団となる THE MAHAVISHNU ORCHESTRA を創立した天賦のギタリストは、ロックとジャズのみならず、フラメンコ、オーケストラ、そしてインド音楽にまでその興味の幅を広げ、クロスオーバーさせた多様性の伝道師だと言えるでしょう。「フュージョン、ワールドミュージック、ジャズ、プログ、クラッシック。アイデアの全てはそこから来ている」 と Dan が語ってくれた通り、”The Further Side” にはあの奇跡のオーケストラと同様の血脈が流れてもいるのです。
実際、”Air” は日本の伝統楽器、琴をイメージして書かれた楽曲だと Dan は語ってくれました。そして、日本の陽春を鮮やかに切り取ったかのような、オリエンタルで麗しきそのサウンドグラフには、NOVA COLLECTIVE がサーカスではなく音楽のために集まった集団である証が克明に刻まれていますね。
確かにメンバーは全員が超絶技巧の持ち主ですが、アルバムにエゴを感じさせる陳腐な曲芸は一切存在しません。存在するのは、楽曲の一部と化したエレガントで流麗なリードパートとアンサンブルのみ。各自が秘める、描かれた設計図をグレードアップさせるようなインテリジェンス、即興の妙こそがまさに一流の証明だと感じました。
勿論、クラッシックなフュージョンサウンドが基幹を成している “The Further Side” ですが、”State of Flux” を聴けばバンドが “新たな集合体” を名乗った意味が伝わるでしょう。MESHUGGAH と同等の緊張感、ヘヴィネス、リズムの錯綜が、エレピを核とするレトロなフュージョンサウンドを伴って再現される Tigran Hamasyan も驚愕のニューフロンティアがここにはあります。70年代には存在し得なかった、正確無比なシュレッド、硬質でDjenty なリズム、そして Jamie King による極上のプロダクションは “フュージョン” の極地、最先端を提示し、彼らの存在意義を強くアピールしていますね。
アルバムは WEATHER REPORT や RETURN TO FOREVER への憧憬と、モダニズムを巧みに融合させたタイトルトラック “The Further Side” で神々しくもドラマティックにその幕を閉じます。
今回弊誌では Dan Briggs にインタビューを行うことが出来ました。彼のホームグラウンド BTBAM の “Colors” 10周年ツアーについても言及しています。どうぞ!!

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NOVA COLLECTIVE “THE FURTHER SIDE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DISPERSE : FOREWORD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JAKUB ZYTECKI OF DispersE !!

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With “Foreword”, Poland Based Progressive Quartet, DispersE Invite You To Set Sails On A Imaginative Musical Journey !!

DISC REVIEW “FOREWORD”

“Heart of Europe”、ポーランドに降臨した、モダンプログシャイニングスター DispersE がジャンルの枷を解き放つ新たなマイルストーン “Foreword” をリリースしました!!”Progressive” というワードの真意について再考を促すような意義深き作品は、鮮やかなポップセンスとミニマルなサウンドを研ぎ澄まし、規格外のアウトラインを提示しています。
2016年に行われた DispersE 初の日本ツアー。DESTRAGE とのカップリングで大成功を収めた彼らのショウでは、新作に対する自信が顕在化していましたね。未だ作品がリリースされていないにもかかわらず、セットリストの大部分は “Foreword” からの楽曲で占められていたのですから。そこで日本のファンは、ギターと同時にサンプラーを駆使して躍動するマイスター Jakub Zytecki の姿に “Foreword” な変化の兆しを見定めることとなりました。
アルバムはイノセントな歌声をサンプリングし、審美的でアンビエンスな空気を多分に抱きしめた秀曲 “Stay” で幕を開けます。Rafal Biernacki の歌唱は傑出していて、FROST* の John Mitchell や TesseracT の Dan Tompkins にも比肩し得るほど、色鮮やかで表情豊かな歌声、旋律、ハーモニーを披露していますね。
「メタルは少々平坦に思えてきた。」 インタビューで Jakub が語る通り、このレコードには獰猛なグロウルも、Chug-Chug とした定常的なギターリフも存在しません。貫かれるのは “Progressive-Pop” とも描写可能なノスタルジックで情味のある、しかし同時に創造的なモダニズムが溢れる崇高な世界観。
多幸感に満ちヒプノティックで、光のサウンドスケープを見事に切り取った “Stay” の核心は、紛れもなくそのアトモスフェリックなサンプリングと Rafal が紡ぐポップなメロディーです。しかし Jakub のプログレッシブなセンスが惹起する、絶妙なバランス、コントラストが楽曲を新天地へと誘っていることを忘れる訳にはいきませんね。
7拍子、ポリリズムが生み出す神秘的な夢幻世界、忽然と急襲するスリリングかつテクニカルなシュレッディング。アルバムオープナーにして作品を象徴する “Stay” の新感覚はまさに革命と呼べるほどにリスナーへ驚嘆をもたらします。
新感覚と言えば、TAME IMPALA にも通じるレトロなムードを持つ”Bubbles” では、Strandberg の極限までダウンチューンしたディストーションサウンドが至高のダイナミズムを提供し、新たな個性を主張していますね。
“Tether” は、「TYCHO にはいつも心酔している」 と語る Jakub の多極化する好奇心が浮き彫りとなった楽曲かも知れませんね。エゴとは無縁の緻密でミニマルな設計図に、穏やかなエレクトロニカサウンドを乗せたドリーミーな極上のポップチューンを聴けば、確かに TYCHO の持つ瑞々しいセンスが宿っていることに気づくでしょう。新加入、達人 Mike Malyan のゴーストノート一音一音が透けて見えるほどに繊細な楽曲は、Rafal の別格でエモーショナルな歌唱を導き、音楽の本質を伝えています。
とは言えインタビューにもあるように、Jakub は決してギターへの探究、野心も捨てることはありません。アルバムで最も Djenty な “Surrender” の躍動美溢れるスリルは華麗ですし、”Sleeping Ivy” で見せるメカニカルなクリーントーンの洪水も一級品。さらに9分を超える壮大な “Does it Matter How Far” の前半部分では、サンプリングと巧みにリンクさせて純粋にチャレンジングなインストゥルメンタルミュージックを奏で、Jakub Zytecki が未だに世界トップのモダンギタリストであることを強烈なまでに証明していますね。
“Foreword” は DispersE、さらにはプログレッシブワールドにとって新たなチャプターの幕開けとなるでしょう。実際、プログレッシブロックとは様式ではなく概念であるべきです。インディーロックとクラブミュージックを巧妙にクロスオーバーさせた Bonobo は、バンドにとって或いは象徴かも知れません。自らのアイデンティティを保持したまま、TYCHO や TAME IMPALA のフレッシュな感性、インパクトを血肉とした DispersE のインテリジェントな手法は全面的に肯定されるべきだと感じました。
今回弊誌では Jakub Zytecki にインタビューを行うことが出来ました。3回目の登場となりますね。どうぞ!!

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DispersE “FOREWORD” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PERSEFONE : AATHMA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARLOS LOZANO OF PERSEFONE !!

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Andorran Prog Metal Titan, Persefone Has Just Released Infinity Technical, Highly Progressive, And Supremacy Spiritual Record “Aathma” !!

DISC REVIEW “AATHMA”

フランスとカタルーニャの狭間に位置する欧州の小国アンドラから示現した、プログメタルの俊傑 PERSEFONE が待望の新作 “Aathma” をリリースしました!!ギターチームの片翼とドラマーを刷新し、音楽性、テーマ、リリック共に陶冶され深みを増したアルバムは、すでに2017年のモダンプログシーンを代表する作品に位置づけられつつあります。
2013年にリリースした前作 “Spiritual Migration” は、技巧とロマンチシズム、幻想とアグレッションを巧妙に対置させた Tech/Prog Death Metal の佳篇であり、バンド史上最良の成功を収めたマスターワークとなりました。奔流となって押し寄せる、過密なまでに濃厚なサウンドの粒子が印象的な作品でしたね。
日本、アジアを含む長期のツアーを経て、4年という熟成期間が宿した結晶 “Aathma” は、”Spiritual Migration” に比べて、よりスピリチュアルで空間的。英俊 Jens Bogren のタクトの下、アートとしての完成度、統一感を精髄まで突き詰めた、ニューフロンティアへと到達しています。
「勇気を持って偽の自己を解放せよ。」 アルバムはスピリチュアルメタルの先駆者、CYNIC の Paul Masvidal が語りかける哲学的なスポークン・ワードで幕を開けます。インタビューにもあるように、”Aathma” とは魂の探求。全てが白か黒に分類される、性急で物質的な現代社会に対するアンチテーゼ。リスナーは Paul の言葉に導かれ、PERSEFONE の深遠なる精神世界へと誘引されて行くのです。
小曲 “One of Many…” でバンドは作品のシンフォニックでメロディアスな世界観を暗示し、ドラマティックな “Prison Skin” へと進行します。ミステリアスで優美なピアノの調べから一転、速急でテクニカルなリフワーク、ダブルギターとキーボードが織り成す濃密なサウンド、複雑で緻密なリズムアプローチ、そして Marc Martins の激烈なガテラルが PERSEFONE の帰還を高らかに告げると、同時に楽曲はバンドの二面性をも明瞭に開示するのです。
今回、キーボーディストでクリーンボーカル、Miguel “Moe” Espinosa のタスク、重要性は確実に過去作を遥かに凌いでいると言えます。ポストロックの影響すら感じさせるアトモスフェリックで幽玄な “Cosmic Walkers” はその象徴でしょう。”Prison Skin” では典型的な PERSEFONE の顔と、Moe が躍動することで生まれる、スペーシーでメロディアスなテリトリーを調和させ、緩急織り交ぜたスリリングなキラーチューンへと昇華しているのです。
再度 Paul Masvidal が登場し、特徴的なボコーダーとリードギターを聴かせる “Living Waves” はアルバムのハイライトだと言えるでしょう。Djenty とも形容出来るモダンで幾何学的なギターリフと、色彩を抑えた淡彩のシンセサウンドが創造するスピリチュアルメタルに、崇高で凛としたメロディーがレイヤーされると、そこには現代社会とは最も離れた場所にある観念的な夢幻世界が広がります。Paul と Moe のボーカルパフォーマンスは傑出していて、リスナーの深層心理に語りかけるような宗教的崇高感すら感じさせますね。
アルバムは4部編成、20分のエピカルなタイトルトラックで幕を閉じます。インタビューにもあるように、レコードの縮図、シネマティックとさえ言える作品を象徴する大曲。作品で最もエクストリーム、デスコア的な質量を纏った “Part III: One With The Light” と女性ボーカルとピアノ、オーケストレーションのみで奏でられる詩情豊かなフィナーレのコントラストはまさにこの傑作の持つ二面性を端的に物語っていると言えるでしょう。
今回弊誌ではギタリスト Carlos Lozano にインタビューを行うことが出来ました。シュラプネル直系の彼独特のシュレッドは、昨今のメタルシーンにおいては逆に強力な武器となっているような気がします。Moe に続いて弊誌2度目の登場。どうぞ!!

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PERSEFONE “AATHMA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + ANATOMY 【ichika : forn】


EXCLUSIVE: ANATOMY OF ichika !!

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This Is The Next Level !! The Most Talented Contemporary Guitar Artist In Japan, ichika Has Just Released Amazing, Astonishing, Awe-inspiring Debut EP “forn” !!

DISC REVIEW “forn”

Toshin Abasi 以来の衝撃!クリスタルのように清廉なサウンドと研ぎ澄まされた感性で ichika は日本のみならず海外からも高い注目を集める新たなギターマエストロです。想像力を掻き立て感情を揺さぶる瑞々しい楽曲の数々は、フレッドボードを駆け巡る独創的で絢爛たる奇跡のテクニックから生み出されます。
Instagam, Twitter など SNS における圧倒的な動画の視聴数、シェア。さらに Tosin Abasi, Jason Richardson といった海外のモダンギターヒーローから注がれる熱い視線を追い風に受けリリースした待望のデビューEP “forn” はまさにインストゥルメンタルシーンに新たな時代の幕開けを告げるエポックメイキングな作品に仕上がりました。
アルバムのフォルムは想像を遥かに超えたものでした。おそらく多くのファンが思い描いた作品は、バンド形態の Instru-metal アルバムだったのではないでしょうか?しかしリスナーの元に届いた “forn” のサウンドは、ギター一本、清澄で無垢なクリーントーンが奏でる水晶彫刻のような崇高な美景、世界観だったのです。
ただ、ichika が今回弊誌に語ってくれた「人生を変えた5枚のアルバム」を念頭に置き、存慮すればこのディレクションは深く頷けるものだと思います。”Waltz for Debby”。彼が志向しデザインしたこの透徹した美意識によるスペクトルは、孤高のジャズピアニスト Bill Evans がかの歴史的傑作で提示したアーティスティックな表現世界と真に深く通じているのです。
実は幼少期に “Waltz for Debby” に感銘を受け、ジャズピアニストを志していたという ichika。静と動のダイナミズムが白眉で、詩情豊かな美しきワルツ “resolution” は “Waltz for Debby” への追憶かも知れません。 残響までをも計算した限りなく繊細で透明な、しかし同時に自身のペルソナ、小宇宙、エモーションを余すことなく描き出す若きマエストロの手法、秀絶な初演には、確かに巨匠の息吹が濃密に感じられますね。
ヴォイシングの妙、独演という観点から見れば、Bill Evans の “Alone” や Joe Pass の “Virtuoso” にも共振する部分はあるでしょう。そして勿論、彼が挙げている Russell Malone にも。ichika のどこか温かみのあるトーン、ベースラインと旋律の巧みな双饗、ハーモニクスやタッピングのナチュラルな浸透には Russell の遺伝子がしっかりと脈打っています。
さらにツーバスでスウィングする不世出のジャズドラマー Kendick Scott。”a bell is not a bell” を聴けば、コンテンポラリージャズを代表するリズムマスターのポリリズム、変拍子、モダンなアプローチをしっかりと消化し、自らの血肉としていることが分かりますね。
とは言え、”forn” はジャズレコードではありません。そしてジャズレコードでないことこそが ichika の ichika たる由縁だと言えるのではないでしょうか。VEIL OF MAYA の “The Common Man’s Collapse”、”the cabs” の “一番はじめの出来事”をジャズの名盤と共にピックアップしていることが表象するように、彼の音楽にはジャズと同様にモダンプログやマスロックといった現代的なアプローチもしっかりと根付いています。
そして日本人らしい叙情性。”戦場のメリークリスマス” にも通じるようなリリシズムを備えた “flowers” はジャズとコンテンポラリーギターの完璧なる融合であり、同時に日本らしい四季や侘び寂びを感じさせる絶佳のサウンドスケープを有した ichika を象徴する一曲だと感じました。
ichika の旅路、音楽的探求は “forn” で遂にその幕を開けました。少なくとも、今まで日本のアーティストに欠けていた世界で戦うに充分なオリジナリティー、インテリジェンス、そしてアピアランスを備えていることは確かです。”have a nice dream”、応援しましょう!!

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ichika “forn” EP: 9.9/10

【FIVE ALBUMS THAT CHANGED ICHIKA’S LIFE】

BILL EVANS “WALTZ FOR DEBBY”

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KENDRICK SCOTT ORACLE “CONVICTION”

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RUSSELL MALONE “RUSSELL MALONE”

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VEIL OF MAYA “THE COMMON MAN’S COLLAPSE”

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the cabs “一番はじめの出来事”

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【MESSAGE FOR JAPAN】

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“forn” EPを聴いていただいてありがとうございます。このEPを皮切りに、次の作品のリリースも予定していて、そこからライブを初めていこうとも思っています。皆さんにお会いできるのを心待ちにしています。

Thanks a lot for listening to “forn” EP. Starting with this EP, I plan to release the next work and I’m thinking of my first live from there. I am looking forward to seeing you all!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SOEN : LYKAIA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARTIN LOPEZ OF SOEN !!

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Swedish Modern Prog Super Group, Soen Has Just Released The Masterpiece, The Prog Standard Of 2017, “Lykaia” !!

DISC REVIEW “LYKAIA”

スウェーデンが誇るモダンプログスーパーグループ SOEN が自らのアイデンティティー確立に挑む3rdアルバム “Lykaia” をリリースしました!!プログレジェンド OPETH のドラマーとして名を馳せた Martin Lopez 率いる腕利き集団は、常に比較され続けてきた自らの出自 OPETH や TOOL の影から離れるのではなく新たな要素を導くことでバンドの進化を鮮やかにに見せつけています。
“Lykaia” とは古代ギリシャ、”狼の山”で行われていた古の祭り、秘密の儀式。 人肉を捧げ食した者は人狼に姿を変えるという、身の毛もよだつような神事に擬した残虐なカニバリズムは、悲しいことに現代社会にも通じます。インタビューで Martin が語ってくれたように、未だにお互いが啀み合い殺し合う人の世の有り様は、実はその頃と何も変わっていないのかもしれませんね。
人類の恥部とも言えるダークで陰鬱なテーマを冠したアルバムは、しかしそのコンセプトに反するが如く極上の知性と美しさを備えます。つまり SOEN は人類が生み出した最も誇り高き遺産、至高のアートで暗い影を語ることにより、人間という天使と悪魔を宿す生き物の姿を克明に描き出しているのです。
両義性と言えば、デビュー作 “Cognitive” と前作 “Tellurian” で明らかな違いが存在した SOEN。”Cognitive” が強く TOOL を意識したオルタナティブかつアトモスフェリックスなアプローチ、精神世界に重点を置いていたのに対し、”Tellurian” は OPETH を想起させるよりプログレッシブで綿密な方向性、哲学世界に接近していたのは明らかでしょう。
“Lykaia” はその2つが自然に溶け合い、さらに新たな色として70年代のオーガニックでサイケデリックなサウンド、暖かみや哀愁のエモーションが加わることでバンドのマイルストーンとして燦然と輝くレコードに仕上がりました。
“Opal” は SOEN の過去と未来がクロスするまさに宝石のような一曲です。OPETH 由来の呪術的でデモニックなギターリフと、TOOL や KARNIVOOL を想起させるマスマティカルで現代的なコンポジションが混ざり合った極上のスープは、Joel Ekelof の叙情味極まるボーカルを得て奇跡のスペシャリテとしてリスナーの元へと届きます。後半にサーブされる、サイケデリックで Martin お特異のパーカッションが映える、70年代へガラリとタイムワープした夕焼け色の美風なデザートがテーブルに加われば、リスナーは “Opal” が SOEN の確固たる進化の証であることに遂に気がつくはずです。
実際、この PINK FLOYD と KING CRIMSON のハイブリッドのような叙情味豊かで有機的なサウンドはアルバムを紐解く重要な鍵となっていますね。オリエンタルなムードをアクセントとした緩やかで壮大な “Jinn” では、そのオーガニックでエモーショナルなサウンドがポストメタルの領域まで拡大したかのようにリズムヘヴィーなドラマ性を高めていますし、”Paragon” に至ってはハモンドまで使用してアグレッシブな “Shine On You Crazy Diamond” とも言えるサイケデリックワルツを完成させているのですから驚きです。さらに “Paragon” で聴けるブルージーで素晴らしく感情を湛えたギルモアライクなリードプレイも作品には要所で登場し、レコードを彩る新機軸として見事に機能しています。
極めつけは KING CRIMSON “Fallen Angel” と同種の悲哀、耽美、プログ性を湛えたイマジネイティブな楽曲 “Lucidity” でしょう。Lake / Wetton / Akerferdt 直系の深みと粋を秘めた情感豊かな Joel の歌唱はここに来て遂に独特のオーラ、威容を誇るようになり、バンド全体に透徹した凛とした美意識も相俟って2017年ベストチューンの可能性すら保持した名曲が生み出されたのです。
同様に70年代を意識していながらも、SOEN は現在の OPETH に比べ鋭く重い呪術リフを多用し、モダンなコンポジションの中でレトロフューチャーなサウンドを構築しています。つまり “Orison” のような現代的な楽曲の中に味わい深いビンテージサウンドを潜ませることで、幅広く多様な世界を実現しているのです。故にインタビューでも語ってくれた通り、”Lucidity” がバンドの探求すべき未来であるならば彼らの更なる躍進は約束されているように感じました。
今回弊誌では再度 Martin にインタビューを行うことが出来ました。決して饒舌なレジェンドではありませんが、いつものように核心をついた話をしていただけました。どうぞ!!

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SOEN “LYKAIA” : 10/10

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