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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MY DYING BRIDE : THE GHOST OF ORION】


COVER STORY : MY DYING BRIDE “THE GHOST OF THE ORION”

“Tired Of Tears Was Exactly How I Felt. They Had Been Flowing Freely From Me For Months And I Was a Shadow Of My Former Self. It Is Sad That This Will Continue For Many Others. Innocent People. So Very Tired Of Tears.”

HOW GOTHIC DOOM LEGEND TURNS DARKNESS INTO LIGHT

PARADISE LOST の “Gothic” こそがゴシックメタルの幕開けを告げたレコードであることに異論の余地はないでしょう。
以来、ミルトンの失楽園に啓示を受けた荘厳耽美の象徴は、”Icon”, “Draconian Times” とメランコリーの金字塔を重ねることとなりました。そうして、90年代というメタルの実験室は多種多様なゴシックの重音楽を創造することになるのです。
ゴシックメタルの総本山 Peaceville Records は、その PARADISE LOST, ANATHEMA, そして MY DYING BRIDE の通称 “Peaceville Three” を世紀末の世界へと送り出しました。さらにデスメタルから分岐した SENTENCED や TIAMAT、しめやかな女声をメインに据えた THEATER OF TRAGEDY, THE GATHERING と漆黒に広がる色彩の中でも、ヴァイオリンとクラシカルに沈む暗海 MY DYING BRIDE のゴシックメタルは飛び抜けてドゥーミーな陰鬱だったと言えるでしょう。

30年のキャリアで12枚の仄暗くしかし豊潤な旅路を歩んできた死にゆく花嫁が、自らの音の葉を超える悲劇に見舞われたのは、”Feel the Misery” リリース後2017年のことでした。中心人物 Aaron Stainthorpe の5歳の娘が癌と診断されたのです。Aaron は愛娘を襲った病を 「神の最も残酷な、愛のない創造物の1つ」 と断じ嘆きました。
「2017年9月、5歳になった美しい娘が癌と診断された。心配と混乱のブラックホールが目の前に広がったよ。この恐ろしい病気を取り巻く恐怖は、現実的で残忍で容赦ないものだった。化学療法と二度の手術をくぐり抜け、幸運にも娘は癌を克服した。それでも彼女は、残りの人生を再発と潜在的合併症の恐怖と戦いながら過ごさなければならない。だから私はただ自分が墓に向かう時、彼女が強く率直な女性として生きていて欲しいとそればかり願っているよ。」
娘の罹患は Aaron の人生観、そして未来を大きく変えました。
「彼女が病気になる前は単純で愚かなことにイライラしていたけど、本当に深刻な何かに対処しているとそれが非常に取るに足らないものに思える。例えば昔ならプリンターが上手く働かなければばらばらに叩き壊しただろう。だけど今の私はただ、新しいのを買おうと言うだけさ。私を苦しめ、ストレスを与えるだろう愚かな些細なことは、もはや存在しない。人生に変化があったんだよ。私は変わった。もっとリラックスして落ち着いた人になったのさ。」

創立メンバーで出戻りの Calvin Robertshaw とドラマー Shaun Taylor-Steels がレコーディングの直前にバンドを離れました。
「もっと重要なこと、娘の治療に気を取られていたから、メンバーの離脱を気にかけている暇はなかったね。だから Andrew が Calvin がまた辞めたと言ってきても正直どうでも良かったんだ。幸運にも早めに出て行ってくれたから “The Ghost of Orion” のための彼の素材はそんなに残っていなかったんだけど、後からお金を請求されても嫌だから Andrew が全て書き直したよ。ギタリストなら自分のリフが全て採用されるほうが幸せってもんだ。前のアルバム “Feel the Misery” も Hamish Glencross がレコーディング前に辞めたから同じ状況だった。あのアルバムのレビューはこれまでよりポジティブだったから、Andrew が素晴らしいソングライターであることはすでに証明されているからね。
Shawn の場合、エンジニアの Mark が ex-PARADISE LOST の Jeff Singer を知っていて、僅か2週間で全てを覚えて素晴らしいドラミングを披露してくれたんだ。
もちろん、過去にメンバーが去った時は少しイラついたかもしれない。だけど今回私は別の次元にいたからね。ある意味 MY DYING BRIDE との繋がり自体、少し希少になっていたから Andrew はストレスが溜まっただろうな。メンバーが去ったと慌てても、私は肩をすくめて知らないよと言うだけだったから。」

レコードで最も荘厳にエモーショナルに織り上げられた “Tired Of Tears” は文字通り娘の罹患に枯れ果てた涙の結晶。
「この楽曲は僕の人生で、最も恐ろしくストレスが溜まった時期を扱っている。唯一の子供が死に近づいたんだから。これまでも落ち込んだことはあったけど、これほどではなかったよ。真の暗闇でどう対処して良いのか全くわからなかった。それでも全力を尽くして戦おうと決めたんだ。涙が枯れ果てたとはまさに私が感じていた気持ちだ。何ヶ月も涙が自然と溢れ続けたんだ。」
結局、MY DYING BRIDE のあまりに長く、思索を誘う悲嘆のセレナーデは現実という葬儀の行進を彩る葬送曲です。Andrew によると、「悲惨な楽曲は現実の生活に対処するための準備でありカモフラージュ」なのですから。
MY DYING BRIDE は Peaceville Records と最も長く契約したバンドでしたが、”The Ghost of Orion” で袂を分かち Nuclear Blast と新たに絆を結びました。
「Peaceville を離れたのは時間が理由だったと思う。彼らは私たちのために出来得る限り全てをしてくれたし、完全なる芸術的自由を与えてくれたね。だけど私たちはもっと多くのものを提供したかったし、コミュニティーにおける存在感もさらに高められると感じていたんだ。Peaceville はその渇望を満たすことが出来なかった。Nuclear Blast ほどの巨大なレーベルなら実現が可能だからね。
新たなレーベルと契約し、新たなメンバーを加えて、私は MY DYING BRIDE が蘇ったように感じているんだ。新鮮な空気を吸い込みセカンドチャンスが与えられたようにね。”The Ghost of Orion” は最高傑作に仕上がったと思うし、再びエネルギーを充填して、より大きく、より素晴らしい音楽を生み出すバンドを目指していくんだよ。」

“The Ghost of Orion” は MY DYING BRIDE 史上最もキャッチーでアクセシブルだとメンバー、リスナー、評論家全てが評しています。その変化は存在感を高めるため?それともレーベルの影響?もしくは娘の回復が理由でしょうか?
「全ては意図的に行われた変化だよ。Peaceville 時代の後期からすでによりレイドバックした “イージーリスニング” なアプローチは検討されていたんだ。過去の私たちがそうであったように、若いころは強い印象を与えようとするからね。私たちも4回リフを繰り返して自然に他のパートへ移行する代わりに、ただ驚かせるためだけに同じリフを7回半ひたすらプレイしたりしていた。技術的に優れていることも証明したかったんだと思う。だけど、それはもう過去にやったことだ。今は何も証明する必要もない。
だからこのアルバムにはギターとボーカルのハーモニーがたっぷり含まれているんだ。ダブル、トリプル、時には4重にも重ねてね。さらにコーラスも存分に取り入れて聖歌隊の雰囲気を与えたよ。
ただ、あくまで MY DYING BRIDE 流のコマーシャルさ。だってシングル曲 “The Old Earth” にしたって10分あるんだからね。一般的なコマーシャルとはかけ離れている。それでも、耳に優しいのは確かなようだ。メタルに詳しくない友人が “Your Broken Shore” を褒めてくれたのは嬉しかったよ。つまり新たなファンを獲得しているってことさ。
もちろん、リッチなコーラスに不満を言うファンはいるだろう。でも私たちは新たなチャレンジを楽しみ、前へと進んでいるんだからね。」

新たな挑戦と言えば、チェロ奏者 Jo Quail と WARDRUNA の女性ボーカル Lindy-Fay Hella がゲスト参加しています。チェロはバンド史上初、女声も “34.788%…Complete” 以来初の試みです。
「アルバムを制作していくうち、特別な作品へ発展していることに気づいたんだ。それで私たちだけで仕上げるよりも、他の質の高いミュージシャンを加えて最高のアルバムに仕上げるべきだと思ったのさ。真に際立った2人の女性が、その才能で素晴らしいパートを加えてくれたんだよ。」
今や様々な分野のアーティストに影響を与える立場となった MY DYING BRIDE。では Aaron Stainthorpe その人はどういった芸術家からインスピレーションを受けているのでしょうか? CANDLEMASS と CELTIC FROST は彼にとっての二大メタルバンドです。
「”Nightfall” の暗闇は私の中で生き続けるだろうね!実に巧みに設計されていて、最初から最後まで過失のないレコードだよ。特にボーカルがね。CELTIC FROST なら “Into The Pandemonium” だよ。このバンドが支配するアンビエンスと真の狂気は私にとって純粋に詩的なんだよ。アートワークも素晴らしいよね。」
同時に DEPECHE MODE と DEAD CAN DANCE も当然彼の一部です。
「DEPECHE MODE を愛するメタルヘッドは決して少なくないよ。だって終わりのない落胆と陰鬱が存在するからね。私はアルバムだけじゃなく、12インチ7インチを出来る限り購入していたね。ファンクラブのメンバーにも入っていたくらいだから。
DEAD CAN DANCE で私が最初に聴いた CD は “The Serpents Egg” で、これは長年にわたって個人的なお気に入りなんだ。新しい歌詞や詩を書きたい時に聴きたくなるね。 モダンで厳格な心持ちから、望んでいる温かく創造的な雰囲気に変化させてくれる。このLPは、そうして “言葉の食欲” が落ち着くまで繰り返されるわけさ。」
さらには SWANS まで。「Michael Gira の心は複雑で、その創造的な成果は特に SWANSに現れている。Michael の提供する複雑なリリックと楽曲は、時に不快だけど喜びで価値があるものだ。何が起こっているのかわからないけど、魅力的で戸惑うほど美しい。」

そうした Aaron の才能はいつか小説や映画を生み出すのかもしれません。
「いつか映画を撮るかもしれないね。大きな映画館じゃ上映されないような作品さ。2020年のベストフィルムは “The Lighthouse” だよ。4K やフルカラーで撮影されなければ映画じゃないように思われているかもしれないけど、実際はそうじゃない。」
今年はバンドにとって3枚目のアルバム、マイルストーン “The Angel and The Dark River” の25周年です。興味深いことに、名曲 “The Cry of Mankind” は僅か2時間半で全てが完成した楽曲です。
「Calvin が適当にギターを触っていて、残りのメンバーは無駄話をしていた。でも彼のフレーズの何かが私たちの耳を捉えたんだ。そこから全員で一気呵成に仕上げていったね。こうやって自然と出てくる曲はそれほど多くはないよ。通常は誰かが「私に3つのリフがある。さあここから他の楽器で装飾し楽曲を作ろう」って感じだから、何もないところから作られて絶対的なリスナーのお気に入りになったのは最高だよ。ファンがその曲を愛しているんだから、すべてのギグで演奏しなければならないと思う。」
Aaron と Andrew は唯一のオリジナルメンバーで、その付き合いは30年を超えています。
「私たちは老夫婦のようなものさ。 両方とも同じものを望んでいる。それに私だけがオリジナルメンバーではないのが嬉しいんだよ。親愛なる人生のために、他の誰かがまだそこに留まっているのは素晴らしいことだからね。 もし Andrew が辞めたら、私もタオルを投げるだろうな。彼も同様のことを言っているがね。なぜなら私たちは自分からは辞めると言いたくないんだよ。だから長く続くかもしれないね!私はまだもう10年は続けられると思う。」

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHELSEA WOLFE : BIRTH OF VIOLENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHELSEA WOLFE !!

“Gender Is Fluid, And There Is So Much Beauty In Making Space For All Kinds Of Voices In Music. It’s Happening, And It’s Amazing!”

DISC REVIEW “BIRTH OF VIOLENCE”

「昨年、私たちは沢山のツアーを行ったわ。8年ずっと続いてきたツアーに加えてね。だから休みを取って、スロウダウンし、自分自身の心、体、精神のケアを学びなさいと何かが語りかけてきたのよ。」
フォーク、ゴス、ポストパンク、インダストリアル、メタル…2010年、デビューアルバム “The Grime and the Glow” を世に放って以来、Chelsea Wolfe はジャンヌダルクの風姿で立ち止まることなく自らの音の葉を拡張し続けてきました。光と闇、激情と静謐の両極を司り進化を続けるカリフォルニアの歌姫は、しかし遂に安息を求めていました。
「私はただ自分の本能に従っているだけなのよ。そうして今の場所に辿り着いたの。」10年続いた旅の後、千里眼を湛えたスピリチュアルな音求者は、本能に従って彼女が “家” と呼ぶアコースティックフォークの領域へと帰り着いたのです。
Chelsea は最新作 “Birth of Violence” を “目覚め始めるレコード” と呼んでいます。
「批判を受けやすく挑戦的な作品だけど、私は成長して開花する時が来たと感じたのよ。」
ダークロックのゴシッククイーンとして確固たる地位を築き上げた Chelsea にとって、アコースティックフォークに深く見初められたアルバムへの回帰は確かに大胆な冒険に違いありません。ただし、批判それ以上に森閑寂然の世界の中に自らの哲学である二面性を刻み込むことこそ、彼女にとって真なる挑戦だったのです。
「私はいつも自分の中に息づく二面性を保持しているのよ。重厚な一面と衷心な一面ね。それで、みんながヘヴィーだとみなしているレコードにおいてでさえ、私は両者を表現しているの。」
逆もまた真なり。”The Mother Road” の暗静アメリカンフォークに醸造された強烈な嵐は、チェルノブイリの蜘蛛の巣をも薙ぎ払いダイナミズムの黒煙をもうもうとあげていきます。
“Little Grave” や “Perface to a Dream Play” のトラディションに蠢めく闇の嘶き。 PJ Harvey とゴスクイーンが手を取り合う “Be All Things”。何よりタイトルトラック “Birth of Violence” の平穏なるプライドに潜む、咽び叫ぶ非業の祈り。そうして作曲パートナー Ben Chisholm のアレンジとエレクトロの魔法が闇と光の二進法を優しく解き放っていくのです。
アルバムに根ざした仄暗く重厚な影の形は、世界を覆う不合理とピッタリ符合します。無垢なる子供の生まで奪い去る銃乱射の不合理、平穏な暮らしを奪い去る環境の牙の不合理、そしてその生い立ちのみで差別を受ける不合理。結局その起因はどこにあるのでしょう。
ただし変革を起こすのもまた人間です。”目覚め始めるレコード” において鍵となるのは女性の力です。
「そろそろ白か黒か以外の考え方を受け入れるべき時よ。”ジェンダー” の概念は流動的なの。そして全ての種類の声を音楽にもたらすことで沢山の美しさが生まれるのよ。今まさにその波が押し寄せているの!素晴らしいわ!」
長い間会員制の “ボーイズクラブ” だったロックの舞台が女性をはじめとした様々な層へと解放され始めている。その事実は、ある種孤高の存在として10年シーンを牽引し続けた女王の魂を喚起しインスピレーションの湖をもたらすこととなったのです。
安息の場所から目覚める新たな時代。今回弊誌では Chelsea Wolfe に2度目のインタビューを行うことが出来ました。「私の古い辞書で “Violence” とはある一つの意味だったわ。”感情の力” という意味ね。私はそれと繋がって、自らの力に目覚める人間を思い描いたの。特に力に目覚める女性をね。」 日本盤は世界に先駆け9/11に Daymare Recordings からリリース!どうぞ!!

CHELSEA WOLFE “BIRTH OF VIOLENCE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DREADNOUGHT : EMERGENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KELLY SCHILLING OF DREADNOUGHT !!

“The Term “Female Fronted” Sensationalizes Women And Turns Us Into a Gimmick. We Are All Human Beings Creating Sound And Gender Shouldn’t Be The Focal Point. “

DISC REVIEW “EMERGENCE”

「近年、音楽はジャンルの表現を超えて日々拡大していっているわ。交配と実験が重ねられているの。だからもしかしたら、ジャンル用語自体、大まかなガイドラインとして受け止められるべきなのかもしれないわね。」
プログメタル、ブラックメタル、フォーク、ドゥーム、ジャズ、チェンバー、クラシカル、ポストメタル。コロラド州デンバーに端を発する男性2人女性2人の前衛的メタルカルテットは、”恐れを抱かず” ジャンルの境界を決壊へと導く気炎にして雄心です。
現在、メタル世界の地図において最も多様で革新的な場所の1つ、ダークなプログレッシブドゥームの領域においても、DREADNOUGHT の描き出す無限の音景は実にユニークかつシームレスだと言えるでしょう。
「メンバーのうち2人が人生の大半を木管楽器をプレイしてきたから、作曲の中に盛り込みたいと考えたのね。私は10代の頃に、フォークメタルムーブメントや民族楽器を使用するメタルバンドからインスピレーションを得ているから、フルートを楽曲に取り入れたいと思うのは自然なことだったわ。」
そのドラマティックでカラフルな音の葉の根源が、演奏者のユーティリティ性にあることは明らかでしょう。インタビューに答えてくれたボーカル/ギター/フルート担当の Kelly を筆頭に、ドラム/サックスの Jordan、キーボード/ボーカルの Lauren、そしてベース/マンドリンの Kevin。典型的なロックの楽器以外をナチュラルに導入することで、バンドは多次元的な深みと自由な翼をその筆へと宿すことになりました。
火、風、水、土。THRICE の “The Alchemy Index” から10年の時を経て、今度は DREADNOUGHT が地球に宿る四元素をそのテーマとして扱います。そうして炎の獰猛と優しさを人生へと投影した最新作 “Emergence” は、バンド史上最も思慮深くアトモスフェリック、一方で最もパワフルかつ記憶に残るアルバムに仕上がったのです。
水をテーマとした前作 “A Wake in Sacred Waves” の冒頭とは対照的に、不穏に荒れ狂う5/4で幕を開けるオープナー”Besieged” は “現在最もプログレッシブなメタルバンド” との評価を確信へと導く野心と野生の炎。デリケートなジャズ/ポストロックの低温と、高温で燃え盛るブラックメタルのインテンスはドゥームの組み木で燃焼しせめぎ合い、ダイナミズムのオーバーフローをもたらします。
兆した悲劇の業火はチェンバードゥームと Kate Bush の嫋やかな融合 “Still” でとめどない哀しみへと飛び火し、その暗澹たる感情の炎は KARNIVOOL のリズムと OPETH の劇場感を追求した “Pestilent” で管楽器の嘶きと共にクライマックスを迎えます。それは過去と現代をシームレスに行き来する、”スペースロック” の時間旅行。
とは言え、”Emergence” は前へと歩き出すレコードです。KRALLICE や SEPTICFLESH の混沌とアナログキーボードの温もり、管楽器とボーカリゼーションの絶妙なハーモニーを抱きしめた “Tempered” で複雑な魂の熱を受け入れた後、アルバムはエセリアルで力強き “The Walking Realm” で文字通り命の先へと歩みを続けるのです。
もはや10分を超えるエピックこそ DREADNOUGHT の自然。それにしてもゴーストノートや奇想天外なフィルインを駆使した Jordan のドラムスは群を抜いていますし、Lauren の鍵盤が映し出すイマジナリーな音像の数々も白眉ですね。
今回弊誌では、美麗極まる歌声に激情のスクリーム、そしてマルチな楽器捌きを聴かせる Kelly Schilling にインタビューを行うことが出来ました。「フィーメールフロンテットって用語は女性を特別で、センセーショナルにする、つまり私たちをギミックに変えるのよ。私たちはみんな音を作り出す人間であって、性別を焦点にすべきではないのよね。」どうぞ!!

DREADNOUGHT “EMERGENCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SPIRIT ADRIFT : DIVIDED BY DARKNESS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NATE GARRETT OF SPIRIT ADRIFT !!

“There Is Nothing New Under The Sun. Pretty Much Everything In Rock Music Has Already Been Done. BUT I’m Providing My Own Interpretation Of The Things That I Love, So In That Way It Is New!”

DISC REVIEW “DIVIDED BY DARKNESS”

「SPIRIT ADRIFT は僕が音楽を書いている。GATECREEPER の音楽を書いているのは Chase と Eric だよ。つまり、僕が SPIRIT ADRIFT を運営し、Chase が GATECREEPER を運営しているんだ。」
2015年から、Nate Garrett は GATECREEPER と SPIRIT ADRIFT、二隻の船に乗船しています。そして、GATECREEPER がデスメタルの新たな地平を目的地とするのに対して、SPIRIT ADRIFT は Nate のカタルシス、すなわち、培った音楽的背景、溢れる感情、現代社会への想い、自らの成長、全てに舵を切っているのです。
「政府やメディアは僕ら全員にくだらないことで互いに争わせようとしているんだ。真の問題や崩壊したシステムから目を逸らさせるためにね。だから僕たちはヘイトや恐れ、分断を与えられている訳さ。”Divided By Darkness” はそういった策謀を、愛、知識、結愛、しかし必要ならば暴力的な革命で克服するストーリーなのさ。」
闇に分断される世界の分水嶺 “Divided By Darkness” に光明というコントラストを与えたのは、Nate 自らの内なる進化でした。現代社会の悪習、悪癖から距離を置き達成された4年間のソブライエティー、しらふ状態は Nate の自信と創造力を活性化し、皮肉にも近年世界を覆う不信感がテーマのレコードに光を注ぐ結果となったのです。
「ドゥームはいつも僕の血管に存在するよ。」総帥 BLACK SABBATH を筆頭に、SAINT VITUS, TROUBLE, PENTAGRAM, そして同郷ニューオリンズの誇り CROWBER まで、禍々しくも鈍重なドゥームの遺伝子は SPIRIT ADRIFT の根幹にして “Divided By Darkness” の文字通りダークサイドを司ります。
一方で、アリーナメタルの高揚感、メロディックメタルの旋律美、そしてプログロックの知性はアルバムの “愛、知識、結愛” を象徴しているのです。
「もはや新たに白日の下に晒されることはないよ。ロック音楽の本当に大部分はもう成されてしまっているからね。だけど僕は、自身の解釈を愛する音楽に加えているからね。だからある意味では新しいと言えるんだ!」
そう、Nate が SPIRIT ADRIFT において追求し、そのミステリアスな音の葉を斬新たらしめるものはクロスオーバーの個性と美学です。沈鬱で陰気な “Abyss” “深淵” に端を発し、Ozzy Osbourn のアリーナメタルや Tony Martin 時代の様式美サバスをイメージさせる “Angel” を呼び込む “Angel & Abyss” のコントラストには、Nate が解釈するロックの光と影が如実に投影されています。
それはロックやメタルに残された仄かな可能性なのかもしれません。賛美歌にも似た “Living Light” の荘厳は人生を照らす煌めき。さらにアルバムを締めくくるエピック “The Way of Return” では、BLACK SABBATH と PINK FLOYD, CROWBER と TANGERINE DREAM, そして MEGADETH と Roky Erickson といった、禁断でしかし魅惑の異種族間の交配が Nate の “パーソナリティーやスタイル” を基盤として行われ、”死んだ” と謳われるロックの先行きを灯台のような暖かい光で照らしているようにも思えるのです。
今回弊誌では、Nate Garrett にインタビューを行うことが出来ました。「僕は、過去に利用されてきた音楽の要素を取り入れ、それらを今までにない個性的な方法で組み合わせることによって、ユニークな何かが出来上がると感じているんだ。」その航路はきっと HAUNT や KHEMMIS とも交わるはずです。どうぞ!!

SPIRIT ADRIFT “DIVIDED BY DARKNESS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CANDLEMASS : THE DOOR TO DOOM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LEIF EDLING OF CANDLEMASS !!

“In The End We Took a Band Desicion To Bring In Johan Again. Go Back To The Ground Zero Of Doom So To Speak.”

DISC REVIEW “THE DOOR TO DOOM”

CANDLEMASS はその30年以上に及ぶ悠遠なキャリアにおいて、幾度ものメンバーチェンジを繰り返しながら氷霧に煙るスカンジナビアの凍原に、絶望とエピックの哀城を築きあげて来ました。
そしてそのドゥームに宿る不吉な影は、シンガーの変遷を因果として先姿万態の表情を得ることとなったのです。
巨漢 Messiah Marcolin がオペラティックなテノールで魅了した80年代のトリロジーは、メランコリーとドラマティシズムが集積したエピックドゥームの耽美な教科書。一方で、Robert Lowe が Dio や Tony Martin を憑依させて躍動した21世紀の3枚は、メタルの様式と伝統をヨーロピアンなロマンへと昇華した至宝。
その他にも、Thomas Vikström, Björn Flodkvist, Mats Levén と多士済々、まさに錚々たる顔ぶれが並ぶ歴代シンガーの中で、”C-Mass” の忠実なる信徒が決して忘れられない名前があります。
Johan Längqvist。それは後にバンドが開拓するテリトリー、”エピックドゥームメタル” をラテン語で表記した記念すべき不朽のデビュー作 “Epicus Doomicus Metallicus” に歌唱を吹き込んだレジェンドの名。
CANDLEMASS は結成35周年を迎えるに当たり、一つの決断を下しました。その Johan の電撃復帰です。
「僕たちは CANDLEMASS の中で、再度火花が飛び散るようなインスピレーションを得るために、何かを行う必要があったんだ。そしてその答えが Johan だったんだよ。」バンドの創始者でグル Leif Edling は、慢性疲労症候群を患い戦いながらバンドを巡るビジネス、論争に身を削り、再度音楽を “楽しむ” ためにドゥームの “ゼロ地点” への回帰を決めたのです。
実に6年半振りとなったフルアルバムは、実際 “グラウンド・ゼロ” を創成したバンドの威厳と崇高に満ちています。ただし、この終焉からの始まりは、決して “Epicus Doomicus Metallicus” の安易なコピーではありません。
「今、まさに僕たちは新たなファンを獲得しているんだよ。ドゥームのテリトリーからだけじゃなくね。」タイトルは “The Door To Doom”。メタルワールドのニューヒーロー GHOST とのツアーで幅広い層のメタルファンから賞賛を得たバンドは、幽寂から激情までドゥームの陰影を須く投影した最新作で文字通り “Doom” への “Door” となります。
封入される幻惑のギターメロディーがリスナーを中世の暗黒へと導く “Splendor Demon Majesty”、静寂と喧騒、妖艶と情動を行き来するエピカルなメタルダイナミズムの権化 “Under the Ocean”、スロウバーンの真髄を提示する “Astorolus-The Great Octopus”、そして叙情と憂鬱を抱きしめたバンド史上初、悪魔のバラード “Bridge of the Blind”。
ドゥームメタルの美学を様々な手法で描き出すアルバムにおいて、Johan Längqvist のワイドで説得力のある歌唱は作品の骨子となっています。名手 Mats Leven が歌った “House of Doom” の再録で Johan が見せる深邃なるアトモスフィアは、まさしくその証明でしょう。
「僕たちはとにかく、”ストレート” なアルバムを作りたかったね。クソみたいな素材なしで、大胆不敵で…生々しくハードでヘヴィー。」事実、アルバムのサウンドは実にフィジカルで、バンドの猛攻が目前に迫ります。
シーン随一のギターチームとベースヒーローが繰り出す、時に幽玄、時に劇的、時に獰猛なアンサンブルは圧倒的。そうしてメタル/ドゥームのゴッドファーザー Tony Iommi のゲスト参加は、ファンにとっても、バンドにとっても何よりの祝祭となりました。
遂に共演を果たしたドゥームマスターの遺伝子は、確かに後続へと引き継がれています。その影響は、PALLBEARER, KHEMMIS, HOTH といったモダンドゥームの綺羅星はもとより、VISIGOTH, GATEKEEPER, HAUNT が志向するトラディショナルメタルのリバイバルまで、色濃く、深々と、多岐に渡って根付いているのです。
今回弊誌では、バンドのマスターマインド Leif Edling にインタビューを行うことが出来ました。「このバンド、もしくはこの体制が後1年、2年続くのかは分からないけど、少なくとも僕たちは残された時間を楽しむよ。」 “Psalms for the Dead” で終焉を宣言した不死鳥が、灰の中から蘇る完璧なレコード。どうぞ!!

CANDLEMASS “THE DOOR TO DOOM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SWALLOW THE SUN : WHEN A SHADOW IS FORCED INTO THE LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATTI HONKONEN OF SWALLOW THE SUN !!

“The Whole Album Is Personal And Very Special For Juha Raivio And For Us Also As a Band. All I Want To Say Is That I Believe There Is Hope Also Involved On The Album. A Light At The End Of The Tunnel. “

DISC REVIEW “WHEN A SHADOW IS FORCED INTO THE LIGHT”

2016年、ギタリストでメインコンポーザー Juha Raivio が長年のパートナーでコラボレーターでもあった Aleah Stanbridge を癌で失って以来、フィンランドの哀哭 SWALLOW THE SUN はまさに涙淵へと深く沈んでいました。
ツアースケジュールの延期に隠遁生活。そうして2年の服喪の後、最終的に Juha が自らの沈鬱と寂寞を吐き出し、Aleah との想い出を追憶する手段に選んだのはやはり音楽でした。
Aleah の闘病中に制作された前作、”Songs From the North I, II and III” はメタル史においても前代未聞、3枚組2時間半の大エピックとしてリリースされました。「僕たちのスローガンを明瞭に示したんだ。憂鬱、美麗、そして絶望。僕たちが音楽に封じている三原則だよ。同時に、Juha Raivio にとってはとてもパーソナルなアルバムにもなったんだ。彼が当時、人生で経験したことを封じているからね。」Matt Honkonen が語るように、Juha の尽き果てる希望を憂鬱、美麗、絶望というバンドの三原則で封じたレコードは、同時にアルバム単位から楽曲単位へと評価の基準が移り行くインスタントミュージックの機運に一石を投じる壮大なアンチテーゼでもあったのです。
「ああいったエピック、トリプルアルバムをリリースした後だったから、僕たちは何か別のとても特別なものを創出したかったんだと思うんだ。」Matt の言葉通り、喪が開けて Aleah への追悼と Juha の深痛を宿す最新作は、”Lumina Aurea” と “When a Shadow is Forced Into the Light”、EP & フルアルバムというイレギュラーなリリースとなったのです。
13分半のタイトルトラックとそのインストバージョンで構成された EP “Lumina Aurea” の音楽は、これまでの SWALLOW THE SUN スタイルとは大きく異なっていました。
ネオフォークの大家 WARDRUNA の Einar Selvik と、イタリアンドゥームの傑物 THE FORESHADOWING の Marcus I の助力を得て完成させた楽曲は、完全にジャンルレス。ネオフォーク、ドゥーム、スポークンワードにオーケストレーションとグレゴリアンスタイルを加味した “Lumina Aurea” は、ただ純粋に Juha の慟哭と闇を音楽の姿に写した鬼哭啾々の異形でした。
一方で、「僕はこのアルバムに関しても希望は存在すると信じているし、トンネルの出口には光が待っているんだ。」 と Matt が語る通り、フルアルバム “When a Shadow is Forced Into the Light” はタイトルにもある “影”、そしてその影を照らす “光” をも垣間見られる感情豊かな作品に仕上がったのです。
デスメタルとドゥーム、そしてゴシックが出会うメランコリーとアトモスフィアに満ちたレコードは、まさにバンドが掲げる三原則、”憂鬱、美麗、絶望” の交差点です。
恍惚のオーケストレーション、アコースティック、ダイナミックなドゥームグルーヴ、胸を抉るボーカルハーモニーにグロウル。リッチなテクスチャーで深々と折り重なる重層のエモーションを創出するタイトルトラックは、SWALLOW THE SUN のレガシーを素晴らしく投影する至高。
“Lumina Aurea” の深海から浮上し、暗闇に光を掲げる “Firelight” のメランコリーはバンドの長い歴史に置いても最もエモーショナルな瞬間でしょう。死は人生よりも強靭ですが、きっと愛はその死をも凌駕するのです。
もちろん、”Clouds On Your Side” を聴けば、ストリングスがバンドのメロウなアンビエンスと痛切なヘヴィネスを繋ぐ触媒であることに気づくでしょう。そうしてアルバムは、ダークでしかし不思議と暖かな “Never Left” でその幕を閉じます。
“When a Shadow is Forced Into the Light” を聴き終え、Juha と Aleah の落胤 TREES OF ETERNITY の作品を想起するファンも多いでしょう。リリースにあたって、全てのインタビューを拒絶した Juha ですが、1つのステートメントを残しています。
「このアルバムは Aleah を失ってからの僕の戦いの記録だ。”影が光に押しやられる時” このタイトルは Aleah の言葉で、まさに僕たちが今必要としていること。2年半森で隠棲して人生全てをこの作品へと注ぎ、影を払おうと努力したんだ。言葉で語るのは難しいよ。全てはアルバムの音楽と歌詞が語ってくれるはずさ。」 バンドに18年在籍する代弁者、ベーシスト Matti Honkonen のインタビューです。どうぞ!!

SWALLOW THE SUN “WHEN A SHADOW IS FORCED INTO THE LIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BOSS KELOID : MELTED ON THE INCH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL SWARBRICK OF BOSS KELOID !!

“Marijuana Shouldn’t Be Prohibited Anywhere And Should Be Completely Legalised For Cultivation, Medical And Recreational Use. It Should Be a Normal Thing Like Eating a Potato And Part Of The Recommended 5 a Day.”

DISC REVIEW “MELTED ON THE INCH”

香ばしき霞とファズサウンドは心地良き酩酊を。マスマティカルで複雑怪奇なデザインは遥かな叡智を。英国ウィガンに実る罪なるハーブ BOSS KELOID は、その類稀なる両極性と多様性でオーディエンスの中毒症状を掻き立てます。
前作 “Herb Your Enthusiasm” でスラッジとストーナーの風変わりなキメラとして一躍脚光を浴びた破調の怪異は、ROLO TOMMASI, MOL, SVALBARD といった他の Holy Roar ロースターとシンクロするかのように更なるエクレクティックな進化を遂げています。
特筆すべきは、キーボーディスト Matthew Milne の加入でしょう。「キーボードは完璧にバンドへとフィットしたし、今では僕らのサウンドの本質にさえなっているんだよ。だけど、方向性をシフトした訳じゃないよ。言ってみればそれは自然な進化なんだ。」 とギタリスト Paul Swarbrick が語るように、バンドは新機軸と言うよりも、むしろパズルのラストピースとして迎えたレトロな鍵盤の響きを得て、エニグマティックなプログロックの領域をより大胆に探求することとなったのです。
幻想的でアンセミックな旋律、奇想天外なアイデアの波動、そして複雑繊細な感情の妙。プログ由来の素材と調味料をふんだんに使用し、出自であるスラッジ、ドゥーム、ストーナーの香ばしきバンズで挟み込んだ滑らかに溶け合う両極性のサウンドウィッチ “Melted on the Inch” は、そうして実際リスナーに刺激的な幻覚や研ぎ澄まされた感性をもたらす合法的なドラッグなのかも知れませんね。
事実、BOSS KELOID のダイアゴナルな魔法は、オープナー “Chronosiam” ですぐさまリスナーの時空間を歪ませます。
威風堂々のストーナーファンファーレをエントランスに、ハモンドとスタッカートの静謐な小部屋から、フォーキーにスウィングするダンスホール、シンガロングを誘うキャッチーな大劇場まで、多様な時代と背景をシームレスに行き交う進化を遂げたバンドの姿は、まさにダイナミズムの異世界迷宮。そしてそのエクレクティックな地脈回廊は、アルバム全体へと行き渡り胎動していくのです。
レゲエとラスタの多幸感をスラッジストーナーの重量感へ封じた “Peykruve” の実験も、ハーブマスターならではの奇妙でしかし鮮やかなコントラストでしょう。そして何より、PALLBEARER が PINK FLOYD や ASIA への憧憬を隠そうとしないように、BOSS KELOID も “Lokannok” で CAMEL をドゥームの領域へと誘って、伸張するモダンメタルの新たな潮流に一役買って見せました。
「もっとプログ寄りのファンからは、CAMEL, GENESIS, KING CRIMSON を想起させるなんて言われているしね。」 もしかすると、古の巨人が宿したプログレッシブな魂は、ジャンルの後進よりも BOSS KELOID のようなバンドこそが正しく継いでいるのかも知れませんね。
今回弊誌では、Paul Swarbrick にインタビューを行うことが出来ました。「マリファナの使用は、例えばポテトを食べるのと同じくらい普通のことだし、1日に5回摂取するのを推奨するのが我々の務めだ。」弊誌は別に推奨はしません。どうぞ!!

BOSS KELOID “MELTED ON THE INCH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BELL WITCH : MIRROR REAPER】2017 X’MAS SPECIALL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DYLAN DESMOND OF BELL WITCH !!

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Seattle Based Doom-duo, Bell Witch Takes You Poetic And Philosophical Deathly Journey With Timless Masterpiece “Mirror Reaper” !!

DISC REVIEW “MIRROR REAPER”

シアトルに居を置くベース/ドラムスのドゥームデュオ BELL WITCH が、1曲83分の暗重なる叙事詩 “Mirror Reaper” をリリースしました!!生と死を投影する難解なるあわせ鏡は、昨年逝去した前ドラマー Adrien Guerra へ捧げるトリビュートとしてその崇高なるメランコリー、哀しみの影を増しています。
紫煙のヘヴィートリオ SLEEP が1曲が一時間にも及ぶスロウでアトモスフェリックな反芻の集合体 “Dopesmoker” をリリースして以来、ドゥーム/スラッジ/ドローンのフィールドはメタルの実験性を最も反映する先端世界の一つとして、創造性のリミットを解除し、定石を覆しながらその歩みを続けて来ていました。
勿論、JESU や BORIS のエピカルな長編も、ジャンルの音楽性とは対極に位置する瑞々しくも天真爛漫なムードを追い風に創造された濃厚なサウンドスケープであったに違いありませんね。それでも、BELL WITCH の新たなチャレンジ、1曲83分の野心は想像を遥かに超えるサプライズでした。
“Mirror Reaper” を形作る要素自体は、前作から大きく変化を遂げてはいません。確かにヘヴィーなレコードですが、ランニングタイムの大半はラウドでもブルータルでもなく非常にオープンでスペーシー。ベース、ドラムス、ボーカルにハモンドB3が生み出すその空間に巣食うは巨大な絶望、悲哀と、全てを掻き集めても片手で掬い取れるほど希少なる希望。
しかし Dylan が 「誰にでも簡単に作れるようなレコードにする必要は全くないと決めたんだよ。楽曲を別々に分けてしまうと、説得力が失われる気がしたんだ。」 と語るように、48分の “As Above” と35分の “So Below” が自然と連続して織り成す構成の進化、常識の破壊は、より妥協のない緻密なコンポジション、Adrian の死に手向けるメランコリックな花束と共に、生と死の安直でステレオタイプな二分法へ疑問を投げかけ、”死のメディテーション” を指標しているのです。
アルバムは、アトモスフィアの波に溺れる6弦ベースの幽玄な調べで幕を開けます。実際、「Michael Hedges のギタープレイは実に参考になったね。」 と語るバンドのマスターマインド Dylan Desmond のベース捌きは驚異的で卓越しています。
左手のみならず、右手を強い感情と共にフレットへと叩きつけ、時に滑らし、時に揺らして生み出すトーンは唯一無二。
ギタリストの不在を感じさせない、むしろそれを不必要と思わせる、独特のウォームでメロディックなマルチディメンショナルサウンドは、新たなベースヒーローの誕生を強くアピールし、同時に崇高な意思と純潔なるムードをアルバムにもたらしていますね。
加えて、地を這うグロウルとミスティックな詠唱のコントラスト、SIGUR ROS を想起させるファルセットのハーモニー、ハモンドオルガンのオーガニックなサステイン、Jesse のセットから流れ出すシンバルの漣。アルバムは、瞑想の荒野、空虚な嵐、美麗なる責め苦を経て、いつしか全てが緩やかな生命と音の大河に注がれドゥームの奇跡、反復の魔術を完璧に創出します。そして挿入される亡き Adrian のボーカルは、”生と死の間に存在する共通要素” “ゴースト” を信じるバンド独特の素晴らしきトリビュートなのでしょう。
NEUROSIS, SWANS などと共闘を続ける鬼才 Billy Anderson のインプットにも触れない訳にはいきませんね。Billy ほど暗闇と混沌、そして壮大なサウンドを巧みに精製するプロデューサーは決して多くはないでしょう。そしてこの作品ほど、型破りで威厳を湛えたアンタッチャブルなメタルレコードも実際ほとんど存在しないはずです。
時間、場所、もしかしたら自分自身さえも忘れてただ広大な闇の迷宮で彷徨うだけの地獄、もしくは天国。コマーシャルと最も遠い場所にあるアートのエリジウム。
そして、詩的で哲学的な “死の旅路” は、作品で最も哀しく最も愛すべきポートレート、バンドのコラボレーター Erik Moggridge の消え入るような歌唱で幕を閉じるのです。
今回弊誌では、Dylan Desmond にインタビューを行うことが出来ました。海外メタル誌では軒並みベストの上位に撰されている傑作。そして弊誌にとっては、最もクリスマスらしい作品です。どうぞ!!

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BELL WITCH “MIRROR REAPER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KHEMMIS : HUNTED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KHEMMIS !!

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Modern But Traditional! Denver Based Four Piece Doomed Rock’n Roll Act, Khemmis Has Just Released One Of The Most Important Doom Record “Hunted” !!

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DISC REVIEW “HUNTED”

US デンバーの Doom Metal カルテット KHEMMIS がリリースした 2ndアルバム “Hunted” はシーンの注目を一身に集めています。アルバムは、老舗メタル誌 Decibel Magazine でアルバムオブザイヤーを獲得した他、様々な音楽誌、ウェブサイトで2016年のベストアルバムに選ばれているのです。
KHEMMIS のデビュー作 “Absolution” は MASTODON と PALLBEARER のちょうど中間に位置するようなモダンな Doom / Sludge 作品で、近年活気を得て来た Doom シーンにまた新たな才能が舞い降りたことを知らしめました。
しかし博士号を持つメンバー2人が牽引する、この知的でメタルに忠誠を誓ったバンドが同じ場所へと留まることはありませんでした。デビューフルから僅か15ヵ月で届けられた KHEMMIS の次章 “Hunted” はそのイメージを明らかに変化させていたのです。
インタビューにもあるように、遂にバンド全員がコンポジションに参加した “Haunted” はよりクラッシックロック、トラディショナルメタルの領域へと接近したレコードとなりました。全5曲、44分の作品は全てがロックの美学に捧げられています。
“Three Gates” はアルバムを象徴する楽曲です。THIN LIZZY や MOTORHEAD をモダンなスラッジサウンドで再現したかのようなリフの暴走に、美麗なツインギターハーモニーが切れ込むとそこはまさしく KHEMMIS の世界。凶暴なグロウルと共に突き進むサウンドの壁が突如として崩壊し、叙情を極めたクリーンボーカルが紡がれる刹那は奇跡的とも言えるほどロックを体現しています。
実際、バンドの要でギター/ボーカル Phil Pendergast と Ben Hutcherson のコンビネーションには目を見張るものがありますね。2人の繊細なまでにレイヤーされたギターハーモニーは WISHBORN ASH を想起させるほど美しく、バンドの顔となっています。加えて、Ben のダーティーなボーカルと Phil のクリスタルのようにナーバスな歌声のコントラストは、インタビューで述べているように”モダンなレンズ”を通した Doomed Rock’n Roll を体現する重要な鍵だと言えるでしょう。
さらに叙情味を加速させた “Beyond The Door” では、JUDAS PRIEST のゴージャスなハーモニーアルペジオ、そして IRON MAIDEN の3連シャッフルが Doom という枠組みの中で効果的に使用されています。故に楽曲はテンポや拍子をプログレッシブと言えるほど頻繁に変えて行きますが、スロウ一辺倒でなく、ダイナミズムを追求するその姿勢には、哀愁に満ちたメロディーとも相俟って北欧の巨人 CANDLEMASS を思い起こさずにはいられませんね。
アルバムを締めくくるタイトルトラック “Hunted” は13分の壮大なエピックです。BARONESS をイメージさせるローチューンドのファズギターで MERCYFUL FATE を再現したとも言えるドラマティックな前半部分に魅了されたリスナーは、後半の荘厳でアトモスフェリックなアコースティックパートからトレモロリフまで導入したモダンで壮大、感動的な大円団に驚愕し喝采を捧げることでしょう。そこには YOB や NEUROSIS をしっかりと通過し咀嚼した、2010年代のバンドだからこそ持つ多様性、強みがありますね。
KHEMMIS は勿論、よりアトモスフェリックスかつサバス、70’s Prog に接近した PALLBEARER、そして煌びやかな 80’s Metal と現代的な Black Metal を融合させた SUMERLANDS などが話題となっているように、確かにレトロリバイバルの波はメタルシーンにも押し寄せています。ただ焼き直すだけではなく、各バンドとも”モダンなレンズを通して音楽を見ていることが重要で、興味深いレトロフューチャーなサウンドはこれからさらに拡がりを見せていくことでしょう。
今回弊誌では KHEMMIS にインタビューを行うことが出来ました。日本人にこそアピールする素晴らしいメロディーを持つバンドです。どうぞ!!

KHEMMIS “HUNTED” : 9.8/10

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